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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004688
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アフターシールド治具及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B23K9/16 M
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104440
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勝則
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001DC01
4E001DD02
4E001DD03
4E001DD06
4E001DE01
4E001DE03
(57)【要約】
【課題】簡便な構造を有しつつ、被溶接物の形状に対する位置合わせが容易なアフターシールド治具を提供する。
【解決手段】トーチノズル23からシールドガスを放出しながら、被溶接物S1との間でアークを発生させることにより溶接を行う溶接用トーチ21のトーチノズル23から溶接線方向の後方に向かって、被溶接物S1の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出するアフターシールド治具1であって、トーチノズル23に対して着脱自在に取り付けられるアダプタ2と、アダプタ2に対して着脱自在に取り付けられる2つ以上のシールド用アタッチメント3と、シールド用アタッチメント3の内側からアフターシールドガスを噴射する1つ以上のアフターシールドノズルとを備え、シールド用アタッチメント3は、被溶接物S1の形状に合わせて、トーチノズル23の先端側から溶接線方向の後方側を覆う形状が異なっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーチノズルからシールドガスを放出しながら、被溶接物との間でアークを発生させることにより溶接を行う溶接用トーチの前記トーチノズルから溶接線方向の後方に向かって、前記被溶接物の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出するアフターシールド治具であって、
前記トーチノズルに対して着脱自在に取り付けられるアダプタと、
前記アダプタに対して着脱自在に取り付けられる2つ以上のシールド用アタッチメントと、
前記シールド用アタッチメントの内側からアフターシールドガスを噴射する1つ以上のアフターシールドノズルとを備え、
前記シールド用アタッチメントは、前記被溶接物の形状に合わせて、前記トーチノズルの先端側から溶接線方向の後方側を覆う形状が異なっていることを特徴とするアフターシールド治具。
【請求項2】
前記被溶接物の平面形状に対応した平面シールド用アタッチメントと、前記被溶接物の曲面形状に対応した曲面シールド用アタッチメントとを含むことを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項3】
前記平面シールド用アタッチメント又は前記曲面シールド用アタッチメントに対して着脱自在に取り付けられる延長シールド用アタッチメントを備えることを特徴とする請求項2に記載のアフターシールド治具。
【請求項4】
前記トーチノズルと前記アダプタとの間に配置されて、前記トーチノズルと前記アダプタとの間を電気的に絶縁する絶縁部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項5】
前記アフターシールドノズルは、前記溶接線方向に複数並んで設けられ、且つ、隣り合うもの同士の間で独立した孔部により構成されていることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項6】
前記アフターシールドノズルの先端には、前記アフターシールドガスを拡散して噴射させる拡散部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項7】
前記アダプタに対して着脱自在に取り付けられる撮像用アタッチメントを備え、
前記撮像用アタッチメントには、前記溶接ビードの状態を撮像するカメラユニットが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項8】
前記アダプタには、冷却液の循環により冷却される冷却機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項9】
前記シールド用アタッチメントには、冷却液の循環により冷却される冷却機構が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のアフターシールド治具。
【請求項10】
トーチノズルからシールドガスを放出しながら、被溶接物との間でアークを発生させることにより溶接を行う溶接用トーチと、
前記トーチノズルから溶接線方向の後方に向かって、前記被溶接物の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出するアフターシールド治具とを備え、
前記アフターシールド治具として、請求項1~9の何れか一項に記載のアフターシールド治具を用いることを特徴とする溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アフターシールド治具及び溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物(被溶接物)の溶接には、従来よりTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)又はプラズマアーク溶接等のGTAW(Gas Tungsten Arc welding)と呼ばれる非消耗電極式のガスシールドアーク溶接が用いられている。
【0003】
また、MIG溶接(Metal Inert Gas welding)、MAG溶接(Metal Active Gas welding)又は炭酸ガスアーク溶接等のGMAW(Gas Metal Arc welding)と呼ばれる消耗電極式のガスシールドアーク溶接が用いられている。なお、消耗電極式のガスシールドアーク溶接は、消耗電極となる溶接ワイヤーの送給を自動で行いながら、溶接を手動で行うため、半自動アーク溶接とも呼ばれている。
【0004】
これらの溶接方法では、一般に溶接用トーチを使用し、電極と被溶接物との間でアークを発生させて、このアークの熱により被溶接物を溶かして溶融池(プール)を形成しながら、溶接が行われる。また、溶接中は電極の周囲を囲むトーチノズルからシールドガスを放出し、このシールドガスで大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。
【0005】
ところで、トーチノズルから放出されるシールドガスだけでは溶接直後に形成される溶接ビートの酸化を抑えきれない場合がある。その場合、トーチノズルから溶接線方向の後方に向かって溶接ビードの周囲を囲むアフターシールド治具を設けて、このアフターシールド治具から放出されるアフターシールドガスによって、溶接直後に形成される溶接ビートを大気(空気)から遮断しながら、溶接することが行われている(例えば、特許文献1,2を参照。)。特に、チタン溶接では、チタンの酸化によって溶接部分の強度が低下する傾向が大きいことから、アフターシールドガスを用いた溶接方法が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-100650号公報
【特許文献2】特開2006-175475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献1には、溶接用トーチの後方に配置されるフロントユニットと、フロントユニットの後部に連結される少なくとも一つの延長ユニットと、延長ユニットの後部に連結されるリヤユニットとからなり、延長ユニットに対して溶接部分の周囲にシールドガスを供給するアフターシールド装置が開示されている。
【0008】
しかしながら、このアフターシールド装置では、溶接部分が平面状である場合に対応可能であるが、溶接部分が曲面状である場合には、この溶接部分に対する追従性が悪くなるため、対応が困難となってしまう。
【0009】
一方、上記特許文献2には、トレーラーを薄肉金属片にて底面開放の半割筒体形状に形成して変形可能となし、トレーラー内に、薄肉金属片にて筒体形状に形成して変形可能となした不活性ガス放射パイプを可動可能に配設した溶接用アフターシールド治具が開示されている。
【0010】
しかしながら、この溶接用アフターシールド治具では、トレーラー内に筒体形状の不活性ガス放射パイプが配設されているため、配管などの曲面に対する溶接において、対応可能な配管の径に制限がある。特に、小径の配管の溶接には、対応が困難である。
【0011】
上述した配管や容器などの被溶接物の曲面に対してアフターシールドを行う場合には、安価で簡便な構造が求められる。また、被溶接物の曲面とアフターシールド治具との隙間をできるだけ狭くする必要がある。このため、従来のアフターシールド治具では、被溶接物に対する位置合わせが大変である。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、簡便な構造を有しつつ、被溶接物の形状に対する位置合わせが容易なアフターシールド治具、並びにそのようなアフターシールド治具を備えた溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 トーチノズルからシールドガスを放出しながら、被溶接物との間でアークを発生させることにより溶接を行う溶接用トーチの前記トーチノズルから溶接線方向の後方に向かって、前記被溶接物の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出するアフターシールド治具であって、
前記トーチノズルに対して着脱自在に取り付けられるアダプタと、
前記アダプタに対して着脱自在に取り付けられる2つ以上のシールド用アタッチメントと、
前記シールド用アタッチメントの内側からアフターシールドガスを噴射する1つ以上のアフターシールドノズルとを備え、
前記シールド用アタッチメントは、前記被溶接物の形状に合わせて、前記トーチノズルの先端側から溶接線方向の後方側を覆う形状が異なっていることを特徴とするアフターシールド治具。
〔2〕 前記被溶接物の平面形状に対応した平面シールド用アタッチメントと、前記被溶接物の曲面形状に対応した曲面シールド用アタッチメントとを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔3〕 前記平面シールド用アタッチメント又は前記曲面シールド用アタッチメントに対して着脱自在に取り付けられる延長シールド用アタッチメントを備えることを特徴とする前記〔2〕に記載のアフターシールド治具。
〔4〕 前記トーチノズルと前記アダプタとの間に配置されて、前記トーチノズルと前記アダプタとの間を電気的に絶縁する絶縁部材を備えることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔5〕 前記アフターシールドノズルは、前記溶接線方向に複数並んで設けられ、且つ、隣り合うもの同士の間で独立した孔部により構成されていることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔6〕 前記アフターシールドノズルの先端には、前記アフターシールドガスを拡散して噴射させる拡散部材が取り付けられていることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔7〕 前記アダプタに対して着脱自在に取り付けられる撮像用アタッチメントを備え、
前記撮像用アタッチメントには、前記溶接ビードの状態を撮像するカメラユニットが取り付けられていることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔8〕 前記アダプタには、冷却液の循環により冷却される冷却機構が設けられていることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔9〕 前記シールド用アタッチメントには、冷却液の循環により冷却される冷却機構が設けられていることを特徴とする前記〔1〕に記載のアフターシールド治具。
〔10〕 トーチノズルからシールドガスを放出しながら、被溶接物との間でアークを発生させることにより溶接を行う溶接用トーチと、
前記トーチノズルから溶接線方向の後方に向かって、前記被溶接物の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出するアフターシールド治具とを備え、
前記アフターシールド治具として、前記〔1〕~〔9〕の何れか一項に記載のアフターシールド治具を用いることを特徴とする溶接装置。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、簡便な構造を有しつつ、被溶接物の形状に対する位置合わせが容易なアフターシールド治具、並びにそのようなアフターシールド治具を備えた溶接装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るアフターシールド治具を備えた溶接装置の構成を示す模式図である。
図2】第1の使用形態として示すアフターシールド治具において、アダプタに平面シールド用アタッチメント及び撮像用アタッチメントを取り付けて、平板状の被溶接物に対して溶接を行う状態を示す側面図である。
図3図2に示すアフターシールド治具の構成を示す分解側面図である。
図4】アダプタを上側から見た斜視図である。
図5】アダプタを下側から見た斜視図である。
図6】第2の使用形態として示すアフターシールド治具において、アダプタに平面シールド用アタッチメント及び延長シールド用アタッチメントを取り付けた状態を示す斜視図である。
図7図6に示すアフターシールド治具を下側から見た斜視図である。
図8】第3の使用形態として示すアフターシールド治具において、アダプタに曲面シールド用アタッチメント及び撮像用アタッチメントを取り付けて、円筒状の被溶接物に対して溶接を行う状態を示す側面図である。
図9図8に示すアフターシールド治具の構成を示す分解側面図である。
図10図8に示すアフターシールド治具の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0017】
〔溶接システム及び溶接装置〕
先ず、本発明の一実施形態として、例えば図1に示す溶接システム100について説明する。なお、図1は、溶接システム100の構成を示す模式図である。
【0018】
本実施形態の溶接システム100は、図1に示すように、溶接装置20と、ワイヤー送給装置30と、溶接用電源装置40と、アフターシールドガス供給装置50と、制御装置60とを備えている。
【0019】
溶接装置20は、従来より一般に使用されている非消耗式の溶接用トーチ(TIG溶接用トーチ)21と、溶接用トーチ21に対して着脱自在に取り付けられるアフターシールド治具1とを備えている。
【0020】
溶接用トーチ21は、被溶接物(母材)Sとの間でアークを発生させる非消耗電極22と、アークによって生じた被溶接物Sの溶融池(プール)に向かってシールドガスを放出するトーチノズル23とを有し、トーチノズル23からシールドガスを放出しながら、被溶接物Sとの間でアークを発生させることにより溶接を行う。
【0021】
アフターシールド治具1は、溶接用トーチ21のトーチノズル23から溶接線方向の後方に向かって、被溶接物Sの溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出する。これにより、溶接ビートを大気(空気)から遮断し、溶接ビートの酸化を抑えることが可能である。
【0022】
ワイヤー送給装置30は、溶接用トーチ21に取り付けられたフィラーガイド31を有し、フィラーガイド31の先端から被溶接物Sの溶融池に向かってフィラーワイヤーWを送給する。また、ワイヤー送給装置30は、制御ケーブル32を介して制御装置60と電気的に接続されている。
【0023】
溶接用電源装置40は、従来より一般に使用されている直流式及び/又は交流式のTIG溶接用電源装置であり、溶接用トーチ21と溶接ケーブル41を介して接続されて、溶接用トーチ21への電力並びにシールドガスの供給を行う。また、溶接用電源装置40は、制御ケーブル42を介して制御装置60と電気的に接続されている。
【0024】
なお、溶接用トーチ21の冷却方式については、水冷式と空冷式の何れであってもよい。水冷式の場合は、冷却装置(チラー)を設けて、冷却水(冷却液)の循環により溶接用トーチ21を冷却することができる。
【0025】
溶接用電源装置40では、マイナス(-)端子側に溶接ケーブル41を介して非消耗電極22が電気的に接続され、且つ、プラス(+)端子側に母材側ケーブル43を介して被溶接物Sが電気的に接続されている。
【0026】
アフターシールドガス供給装置50は、ガスホース51を介してアフターシールド治具1に対してアフターシールドガスを供給する。また、アフターシールドガス供給装置50は、制御ケーブル52を介して制御装置60と電気的に接続されている。なお、アフターシールドガス供給装置50としては、アフターシールドガスが供給可能なものであればよく、例えば、ガスボンベや、工場内ガス供給設備、ガス発生装置(例えば、PSAガス発生装置)、ガス混合器など、何れも利用することが可能である。
【0027】
制御装置60は、ワイヤー送給装置30、溶接用電源装置40及びアフターシールドガス供給装置50を制御するものであり、溶接電流やフィラーワイヤーWの送給速度、シールドガス及びアフターシールドガスの流速(流量)などを溶接条件に合わせて制御する。
【0028】
以上のような構成を有する溶接システム100では、溶接用トーチ21を用いて、被溶接物Sと非消耗電極22との間でアークを発生させながら、このアークの熱により被溶接物Sを溶かして溶融池(プール)を形成しながら溶接が行われる。
【0029】
溶接中は、非消耗電極22の周囲を囲むトーチノズル23からシールドガスを放出し、このシールドガスで大気(空気)を遮断しながら溶接が行われる。また、溶接中は、被溶接物Sの溶融池に向かってフィラーワイヤーWを自動で送給し、アーク中でフィラーワイヤーWを溶融させながら溶接が行われる。さらに、アフターシールド治具1から放出されるアフターシールドガスによって、溶接直後に形成される溶接ビートを大気(空気)から遮断しながら溶接が行われる。
【0030】
シールドガス及びアフターシールドガスとしては、被溶接物Sの材質に合わせて適宜選択して使用すればよく、例えばアルゴンやヘリウムといった不活性ガスを単体若しくは複数の不活性ガスを混合して用いることができる。さらに、これらのシールドガスに水素や窒素等を添加することも可能である。
【0031】
また、シールドガス及びアフターシールドガスとして同じガスを用いる場合は、アフターシールドガス供給装置50を省略し、溶接用電源装置40から溶接用トーチ21及びアフターシールド治具1へのシールドガス及びアフターシールドガスの供給を行ってもよい。また、溶接用電源装置40から溶接用トーチ21へとシールドガスを供給するシールドガス供給配管の途中から分岐してアフターシールド治具1へとアフターシールドガスを供給するアフターシールドガス供給配管を設けてもよい。
【0032】
〔アフターシールド治具〕
次に、本発明の一実施形態として、例えば図2図10に示すアフターシールド治具1について説明する。
【0033】
なお、図2は、第1の使用形態として示すアフターシールド治具1において、アダプタ2に平面シールド用アタッチメント3及び撮像用アタッチメント5を取り付けて、平板状の被溶接物S1に対して溶接を行う状態を示す側面図である。図3は、図2に示すアフターシールド治具1の構成を示す分解側面図である。図4は、アダプタ2を上側から見た斜視図である。図5は、アダプタ2を下側から見た斜視図である。図6は、第2の使用形態として示すアフターシールド治具1において、アダプタ2に平面シールド用アタッチメント3及び延長シールド用アタッチメント6を取り付けた状態を示す斜視図である。図7は、図6に示すアフターシールド治具1を下側から見た斜視図である。図8は、第3の使用形態として示すアフターシールド治具1において、アダプタ2に曲面シールド用アタッチメント4及び撮像用アタッチメント5を取り付けて、円筒状の被溶接物S2に対して溶接を行う状態を示す側面図である。図9は、図8に示すアフターシールド治具1の構成を示す分解側面図である。図10は、図8に示すアフターシールド治具1の構成を示す斜視図である。
【0034】
本実施形態のアフターシールド治具1は、トーチノズル23に対して着脱自在に取り付けられるアダプタ2と、アダプタ2に対して着脱自在に取り付けられる2つ以上(本実施形態では2つ)のシールド用アタッチメント3,4、撮像用アタッチメント5及び延長シールド用アタッチメント6とを備えている。
【0035】
本実施形態のアフターシールド治具1は、アダプタ2に取り付けられるアタッチメント3,4,5,6を交換することで、以下に示す第1~第3の使用形態を選択的に実施することが可能である。
【0036】
(第1の使用形態)
本実施形態のアフターシールド治具1は、第1の使用形態として、図2及び図3に示すように、アダプタ2に平面シールド用アタッチメント3及び撮像用アタッチメント5を取り付けて、平板状の被溶接物S1に対して溶接を行うことが可能である。
【0037】
具体的に、この第1の使用形態において、アダプタ2は、トーチノズル23の先端側から溶接線方向の後方側を覆うアダプタ本体7と、トーチノズル23とアダプタ本体7との間に介在される円筒状の絶縁部材8と、アダプタ本体7の内側からアフターシールドガスを噴射するアフターシールドノズル9とを有している。
【0038】
アダプタ本体7は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの非鉄金属又は金属、若しくは耐熱性及び難燃性を有した樹脂などからなる。アダプタ本体7は、トーチノズル23及び絶縁部材8を内側に挿入するリング部7aと、リング部7aから溶接線方向の後方側に向かって延在するブロック部7bとを有して、トーチノズル23の外周部に対してリング部7aがネジ止め等により着脱自在に取り付けられている。
【0039】
アダプタ本体7には、冷却水(冷却液)の循環により冷却される冷却機構10が設けられている。冷却機構10は、冷却水が循環される液流路(図示せず。)と、液流路に冷却水を供給する入側の接続部10aと、液流路から冷却水を排出する出側の接続部10bとを有している。液流路は、ブロック部7b(アダプタ本体7)の内部に位置して設けられている。入側及び出側の接続部10a,10bは、ブロック部7b(アダプタ本体7)の上面に位置して設けられている。
【0040】
冷却機構10では、これらの接続部10a,10bに冷却装置(チラー)が接続されることによって、液流路内の冷却水が循環されることで、アダプタ本体7を冷却することが可能となっている。
【0041】
絶縁部材8は、耐熱性及び難燃性を有した絶縁樹脂からなり、軸線方向に貫通する貫通孔8aを有して、略円筒状に形成されている。絶縁部材8は、トーチノズル23とアダプタ本体7との間に配置されて、トーチノズル23とアダプタ本体7との間を電気的に絶縁している。
【0042】
アダプタ本体7の下面には、アフターシールドノズル9を形成する孔部9aと、孔部9aの先端(下端)から溶接線方向に延在する溝部9bとが設けられている。また、ブロック部7b(アダプタ本体7)の上面には、バックシールドガスを孔部9a(アフターシールドノズル9)に導入するための接続部9cが設けられている。
【0043】
アフターシールドノズル9の先端には、アフターシールドガスを拡散して噴射させる拡散部材11が取り付けられている。拡散部材11は、サイレンサーと呼ばれる金属製の多孔質体からなり、ブロック部7bの下面側から孔部9aの内側に螺合により取り付けられている。
【0044】
平面シールド用アタッチメント3は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの非鉄金属又は金属、若しくは耐熱性及び難燃性を有した樹脂などからなり、アダプタ本体7(アダプタ2)の下面に対してネジ止め等により着脱自在に取り付けられている。
【0045】
平面シールド用アタッチメント3の下面は、被溶接物S1の平面形状に対応して、トーチノズル23の先端側から溶接線方向の後方側を覆う平坦な形状となっている。また、平面シールド用アタッチメント3には、アダプタ本体7(アダプタ2)の溝部9bと連続した溝部3aと、溝部3aの下面側を溶接線方向に切り欠くスリット3bとが設けられている(図7を参照。)。
【0046】
これにより、アフターシールドノズル9は、平面シールド用アタッチメント3の内側からアフターシールドガスを被溶接物S1の平面形状に沿って噴射することが可能となっている。
【0047】
撮像用アタッチメント5は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの非鉄金属又は金属、若しくは耐熱性及び難燃性を有した樹脂などからなり、アダプタ本体7(アダプタ2)の後面に対してネジ止め等により着脱自在に取り付けられている。
【0048】
撮像用アタッチメント5には、溶接ビードの状態を撮像するカメラユニット12が絶縁筒13を介して取り付けられている。撮像用アタッチメント5には、絶縁筒13と連続した貫通孔(図示せず。)が設けられている。一方、アダプタ本体7には、この撮像用アタッチメント5の貫通孔と連続するように、下面と後面との間で貫通した貫通孔7cが設けられている(図5を参照。)。
【0049】
カメラユニット12は、CCDやCMOSセンサなどの撮像素子が受像した光を光電変換して電気信号として出力するカメラ本体12aと、カメラ本体12aの前方に取り付けられたレンズ鏡筒を内側に収容するレンズカバー12bと、冷却ガス供給機構(図示せず。)と接続されることによって、レンズカバー12bの内側に冷却ガスを導入する冷却ガス導入部12cと、絶縁筒13と接続される接続筒12dと、接続筒12dとレンズカバー12bとの間に介在されるスペーサ12eとを有している。
【0050】
絶縁筒13は、耐熱性及び難燃性を有した絶縁樹脂からなり、略円筒状に形成されている。絶縁筒13は、撮像用アタッチメント5と接続筒12d(カメラユニット12)との間に配置されることによって、撮像用アタッチメント5とカメラユニット12との間を電気的に絶縁している。
【0051】
また、撮像用アタッチメント5には、冷却液の循環により冷却される冷却機構14とが設けられている。冷却機構14は、冷却水が循環される液流路(図示せず。)と、液流路に冷却水を供給する入側の接続部14aと、液流路から冷却水を排出する出側の接続部14bとを有している。液流路は、撮像用アタッチメント5の内部に位置して設けられている。入側及び出側の接続部14a,14bは、撮像用アタッチメント5の上面に位置して設けられている。
【0052】
冷却機構14では、これらの接続部14a,14bに冷却装置(チラー)が接続されることによって、液流路内の冷却水が循環されることで、撮像用アタッチメント5を冷却することが可能となっている。
【0053】
以上のような構成を有する第1の使用形態のアフターシールド治具1を用いて、図2に示す平板状の被溶接物S1に対して溶接を行う場合には、アフターシールドノズル9から被溶接物S1の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出する。
【0054】
これにより、第1の使用形態では、平板状の被溶接物S1の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを適切に放出することができ、この溶接ビートを大気(空気)から遮断し、溶接ビートの酸化を抑えることが可能である。
【0055】
(第2の使用形態)
本実施形態のアフターシールド治具1は、第2の使用形態として、図6及び図7に示すように、アダプタ2に平面シールド用アタッチメント3及び延長シールド用アタッチメント6を取り付けて、平板状の被溶接物S1に対して溶接を行うことが可能である。
【0056】
具体的に、この第2の使用形態において、延長シールド用アタッチメント6は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの非鉄金属又は金属、若しくは耐熱性及び難燃性を有した樹脂などからなり、アダプタ本体7(アダプタ2)の後面に対してネジ止め等により着脱自在に取り付けられている。すなわち、この第2の使用形態は、上記撮像用アタッチメント5の代わりに、アダプタ2に延長シールド用アタッチメント6を取り付けた構成である。
【0057】
延長シールド用アタッチメント6の下面は、被溶接物S1の平面形状に対応して、平面シールド用アタッチメント3の後端側から溶接線方向の後方側を覆う平坦な形状となっている。また、延長シールド用アタッチメント6の下面は、平面シールド用アタッチメント3の下面と連続するように設けられている。
【0058】
延長シールド用アタッチメント6には、アフターシールドガスを噴射するアフターシールドノズル15が設けられている。このため、延長シールド用アタッチメント6の下面には、アフターシールドノズル15を形成する孔部15aと、孔部15aの先端下面(下端)から溶接線方向に延在する溝部15bと、溝部15bの下面側を溶接線方向に切り欠くスリット15cとが設けられている。また、延長シールド用アタッチメント6のスリット15cは、平面シールド用アタッチメント3のスリット3bと連続するように設けられている。
【0059】
アフターシールドノズル15の先端には、アフターシールドガスを拡散して噴射させる拡散部材11が取り付けられている。すなわち、この拡散部材11は、延長シールド用アタッチメント6の下面側から孔部15aの内側に螺合により取り付けられている。
【0060】
また、延長シールド用アタッチメント6の上面には、バックシールドガスを孔部15a(アフターシールドノズル15)に導入するための接続部15dが設けられている。
【0061】
これにより、アフターシールドノズル15は、延長シールド用アタッチメント6の内側からアフターシールドガスを被溶接物S1の平面形状に沿って噴射することが可能となっている。
【0062】
また、アフターシールドノズル9とアフターシールドノズル15とは、溶接線方向に複数並んで設けられ、且つ、隣り合うもの同士の間で独立した孔部59a,15aにより構成されている。これにより、各孔部9a,15a(アフターシールドノズル9,15)から噴射されるアフターシールドガスを干渉させることなく、被溶接物S1に向けて適切に噴射させることが可能である。
【0063】
延長シールド用アタッチメント6には、冷却液の循環により冷却される冷却機構16が設けられている。冷却機構16は、冷却水が循環される液流路(図示せず。)と、液流路に冷却水を供給する入側の接続部16aと、液流路から冷却水を排出する出側の接続部16bとを有している。液流路は、延長シールド用アタッチメント6の内部に位置して設けられている。入側及び出側の接続部16a,16bは、延長シールド用アタッチメント6の上面に位置して設けられている。
【0064】
冷却機構16では、これらの接続部16a,16bに冷却装置(チラー)が接続されることによって、液流路内の冷却水が循環されることで、延長シールド用アタッチメント6を冷却することが可能となっている。
【0065】
以上のような構成を有する第2の使用形態のアフターシールド治具1を用いて、平板状の被溶接物S1に対して溶接を行う場合には、アフターシールドノズル9,15から被溶接物S1の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出する。
【0066】
これにより、第2の使用形態では、平板状の被溶接物S1の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを適切に放出することができ、この溶接ビートを大気(空気)から遮断し、溶接ビートの酸化を抑えることが可能である。
【0067】
また、第2の使用形態では、上述した延長シールド用アタッチメント6を用いることで、溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出する範囲(長さ)を広げることが可能である。
【0068】
(第3の使用形態)
本実施形態のアフターシールド治具1は、第3の使用形態として、図8図9及び図10に示すように、アダプタ2に曲面シールド用アタッチメント4及び撮像用アタッチメント5を取り付けて、円筒状の被溶接物S2に対して溶接を行うことが可能である。
【0069】
具体的に、この第3の使用形態において、曲面シールド用アタッチメント4は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの非鉄金属又は金属、若しくは耐熱性及び難燃性を有した樹脂などからなり、アダプタ本体7(アダプタ2)の下面に対してネジ止め等により着脱自在に取り付けられている。すなわち、この第3の使用形態は、上記平面シールド用アタッチメント3の代わりに、アダプタ2に曲面シールド用アタッチメント4を取り付けた構成である。
【0070】
曲面シールド用アタッチメント4の下面は、被溶接物S2の曲面形状に対応して、トーチノズル23の先端側から溶接線方向の後方側を覆う湾曲形状となっている。また、曲面シールド用アタッチメント4には、アダプタ本体7(アダプタ2)の溝部9bと連続した溝部4aと、溝部4aの下面側を溶接線方向に切り欠くスリット4bとが設けられている。
【0071】
また、曲面シールド用アタッチメント4には、アフターシールドガスを噴射する複数のアフターシールドノズル17が設けられている。このため、曲面シールド用アタッチメント4の下面には、各アフターシールドノズル17を形成する複数の孔部17aが設けられている。
【0072】
各アフターシールドノズル17の先端には、アフターシールドガスを拡散して噴射させる拡散部材11が取り付けられている。すなわち、この拡散部材11は、曲面シールド用アタッチメント4の下面側から各孔部17aの内側に螺合により取り付けられている。
【0073】
また、曲面シールド用アタッチメント4の後面には、バックシールドガスを各孔部17a(アフターシールドノズル17)に導入するための複数の接続部17bが設けられている。
【0074】
これにより、各アフターシールドノズル17は、曲面シールド用アタッチメント4の内側からアフターシールドガスを被溶接物S2の曲面形状に沿って噴射することが可能となっている。
【0075】
また、複数のアフターシールドノズル17は、溶接線方向に複数並んで設けられ、且つ、隣り合うもの同士の間で独立した孔部17aにより構成されている。これにより、各孔部17a(アフターシールドノズル17)から噴射されるアフターシールドガスを干渉させることなく、被溶接物S2に向けて適切に噴射させることが可能である。
【0076】
撮像用アタッチメント5には、溶接ビードの状態を撮像するカメラユニット12が絶縁筒13を介して取り付けられている。一方、カメラユニット12は、スペーサ12eを省略し、接続筒12dと絶縁筒13とが直接接続された構成となっている。この場合、カメラユニット12側から絶縁筒13を介して撮像用アタッチメント5側に空気が流れ込まないように、絶縁筒13の何れか一方の端部に透明カバー(図示せず。)を設けて、空気の流れ込みを遮断することが好ましい。
【0077】
以上のような構成を有する第3の使用形態のアフターシールド治具1を用いて、図8に示す円筒状の被溶接物S2に対して溶接を行う場合には、アフターシールドノズル17から被溶接物S2の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを放出する。
【0078】
これにより、第3の使用形態では、円筒状の被溶接物S2の溶接直後に形成される溶接ビードに対してアフターシールドガスを適切に放出することができ、この溶接ビートを大気(空気)から遮断し、溶接ビートの酸化を抑えることが可能である。
【0079】
以上のように、本実施形態のアフターシールド治具1を用いて、上述した形状の異なる被溶接物S1,S2に対して溶接を行う場合には、被溶接物S1,S2の形状の違いに合わせて、トーチノズル23の先端側から溶接線方向の後方側を覆う形状が異なるシールド用アタッチメント3,4を切替(交換)自在に用いること可能である。
【0080】
これにより、簡便な構造を有しつつ、被溶接物S1,S2の形状に対する位置合わせが容易なアフターシールド治具1を用いて、形状の異なる被溶接物S1,S2に対してアフターシールドガスを適切に放出し、溶接ビートの酸化を抑えることが可能である。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記シールド用アタッチメント3,4,6については、被溶接物S1,S2の形状やサイズ(長さや径)に合わせて、各アタッチメント3,4,6の形状やサイズ(長さや径)、アフターシールドノズル9,15,17の数などを適宜変更することが可能である。
【0082】
また、上記溶接用トーチ21については、上述した非消耗式の溶接用トーチ(TIG溶接用トーチ)を用いた場合に限らず、被溶接物に対してプラズマアークを放出するプラズマアーク溶接用トーチや、MIG溶接用トーチなどの消耗式の溶接用トーチなどを用いることが可能である。溶接用電源装置40についても、使用する溶接用トーチ21に合わせたものを使用すればよい。
【符号の説明】
【0083】
1…アフターシールド治具 2…アダプタ 3…平面シールド用アタッチメント 4…曲面シールド用アタッチメント 5…撮像用アタッチメント 6…延長シールド用アタッチメント 7…アダプタ本体 8…絶縁部材 9…アフターシールドノズル 10…冷却機構 11…拡散部材 12…カメラユニット 13…絶縁筒 14…冷却機構 15…アフターシールドノズル 16…冷却機構 17…アフターシールドノズル 20…溶接装置 21…溶接用トーチ 22…非消耗電極 23…トーチノズル 30…ワイヤー送給装置 31…フィラーガイド 40…溶接用電源装置 50…アフターシールドガス供給装置 60…制御装置 100…溶接システム S…被溶接物 S1…平板状の被溶接物 S2…円筒状の被溶接物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10