(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046898
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】養殖魚用配合飼料
(51)【国際特許分類】
A23K 50/80 20160101AFI20240329BHJP
【FI】
A23K50/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152255
(22)【出願日】2022-09-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年8月22日~24日に開催された日本味と匂学会 第56回大会にて掲示したポスターの内容について発表した。 2022年8月22日~24日に開催された日本味と匂学会 第56回大会に先立ち、2022年8月10日に学会事務局より大会参加者に向けて発送されたの予稿集の(P-67)に記載の内容を公表した。
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(71)【出願人】
【識別番号】515320499
【氏名又は名称】フィード・ワン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深田 陽久
(72)【発明者】
【氏名】泉水 彩花
(72)【発明者】
【氏名】高原 隆
(72)【発明者】
【氏名】岡松 一樹
(72)【発明者】
【氏名】村山 慎哉
【テーマコード(参考)】
2B005
【Fターム(参考)】
2B005GA01
2B005GA04
2B005GA05
2B005LA02
2B005LB06
2B005MA01
2B005MA03
2B005MA05
(57)【要約】
【課題】
魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源原料で置換されている養殖魚用配合飼料において、摂餌量の低減を抑制し、効率的な養殖の維持を可能にする新規配合飼料を提供すること。
【解決手段】
遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを含有し、飼料中の質量比で遊離のプロリンが遊離のアラニンより多い、養殖魚用配合飼料とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源となる原料(以下、タンパク質資源原料という)で置換されている養殖魚用の配合飼料において、プロリンおよびアラニンを含有し、飼料中の質量比で遊離のプロリンが遊離のアラニンより多い、養殖魚用配合飼料。
【請求項2】
飼料中の遊離のプロリンと遊離のアラニンの質量比(Pro:Ala)が、1.2:1~5:1である、請求項1に記載の、養殖魚用配合飼料。
【請求項3】
飼料中の遊離のプロリンと遊離のアラニンの質量比(Pro:Ala)が、1.5:1~3:1である、請求項1に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項4】
飼料中の遊離のアラニンの含有量が300ppm以上である、請求項1に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項5】
飼料中の遊離のアラニンの含有量が400ppm以上であり、遊離のプロリンの含有量が600ppm以上である、請求項4に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項6】
遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを、前記他のタンパク質資源原料100質量部に対して、それぞれ0.02~0.6質量部および0.02~0.3質量部含む、請求項1に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項7】
飼料中の魚粉の含有量が50質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項8】
イノシン酸の含有量が、1,500ppm以下であり、または、遊離のトリプトファンの含有量が、250ppm以下である、請求項7に記載の養殖魚用配合飼料。
【請求項9】
飼料中の遊離アミノ酸総量に占める遊離のアラニンの比率が5.0質量%以下、遊離のプロリンの比率が10質量%以下である、請求項5に記載の養殖魚用配合飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚用配合飼料に関し、特に、魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源となる原料(以下、タンパク質資源原料という)で置換されている養殖魚用配合飼料において、養殖魚の飼料摂取量の低減を抑制し、効率的な養殖の維持を可能にする配合飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖魚用配合飼料の原料としては、魚粉に代表される動物性のタンパク質資源原料が多く使用されているが、昨今のSDGsの流れもあり、魚粉等の天然資源への依存度を低減した配合飼料の開発が求められている。
【0003】
一般的に、飼料中の魚粉含量を低減させると、養殖魚の摂餌量が低下し、生産効率が落ちてしまうことが問題となっており、魚粉含量を低減させた配合飼料の摂餌を改善する方法が検討されている。
【0004】
摂餌を改善させる方法としては、魚が好んで食べる餌料生物を添加したり、当該餌料生物に含まれる摂餌促進物質を添加したりする方法が考えられており、餌料生物またはその合成エキスから摂餌促進物質を同定する多くの試みがなされている(非特許文献1および2にその総説が記載されている)。
【0005】
例えば、竹田らは、ウナギ稚魚に対する摂餌促進物質の同定について報告しており、イソゴカイの合成エキスを、魚粉およびカゼインをタンパク質源として含む基本飼料(魚粉量40%、カゼイン量30%)に添加して給餌すると、ウナギ稚魚の摂餌促進効果が認められ、さらに当該エキスのアミノ酸フラクション、核酸フラクションおよび他の成分のフラクションの中で、アミノ酸フラクションが最も摂餌を促進し、グリシン、アラニン、プロリン、およびヒスチジンからなる混合物が、アミノ酸フラクションと同等の活性を奏することを示している(非特許文献3)
【0006】
また、滝井らは、ウナギ稚魚の摂餌活動および成長に及ぼす摂餌促進物質の飼料への添加による影響について報告しており、魚粉およびカゼインをタンパク質源として含む基礎飼料(魚粉量40%、カゼイン量30%)に、アラニン、グリシン、プロリン、ヒスチジンおよび5’-UMPからなる混合物を添加して給餌すると、シラスウナギの摂餌を促進することを示している(非特許文献4および5)。
【0007】
また、池田らは、ツノナシオキアミ中のマアジに対する摂餌刺激物質の探索について報告しており、ツノナシオキアミの天然エキスまたは合成エキスを、カゼインをタンパク質源として含む基本飼料(カゼイン量69%)に添加して給餌すると、マアジの摂餌行動が誘起促進される一方で、アラニン、グリシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、およびプロリンの混合物、ならびにこれらアミノ酸単独では、摂餌刺激効果を奏しないことを示している(非特許文献6)。
【0008】
また、佐藤は、低水温期のブリの飼育成績およびタンパク質消化性に及ぼす飼料へのオキアミエキスおよびオキアミミールの添加効果について報告しており、オキアミエキスまたはオキアミミールの魚粉を主体とするEP(魚粉量65%)への添加により、ブリの摂餌・成長が改善したことを示している(非特許文献7)。
【0009】
また、細川らは、ツノナシオキアミの合成エキスにおけるハマチ摂食刺激物質の検索について報告しており、無魚粉基本飼料(カゼイン量65%)の乾物100gにツノナシオキアミの合成エキス、そのアミノ酸画分、あるいはプロリン、アラニン、およびメチオニンをオキアミ50g相当量ずつ混合した混合物を添加して給餌するとハマチの摂餌量が増加し、この3種のアミノ酸とイノシン酸を併用するとさらに摂餌量が増加したことが述べられている(非特許文献8)。
【0010】
また、福田らは、ブリ若魚に対するスルメイカ筋肉エキスの摂餌刺激効果について報告しており、スルメイカ筋肉合成エキスのアラニン、アルギニン、グリシン、オクトピン、プロリン、タウリン、およびバリンのアミノ酸混合物を、精製デンプンとカルボキシルメチルセルロースからなるペレットに添加して給餌すると摂餌刺激効果を奏し、5’-ADP-Na、5’-AMP-Na、および5’-ATP-Naの核酸混合物を添加したペレットでは摂餌刺激効果を奏しないが、上記アミノ酸混合物と組み合わせると協働的に摂餌刺激効果を増大することが示されている(非特許文献9)。
【0011】
また、本発明者らは、ブリ等の養殖魚用の低動物性原料飼料において、アラニン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、オルニチン、シトルリンおよびアルギニンのうち少なくとも1つのアミノ酸を含有することで、養殖魚の成長効率および飼料効率の低下を防止できる養殖魚用飼料を提案している(特許文献1)。
【0012】
また、泉水らは、ブリの摂餌量とニューロペプタイドYの発現における旨味物質の作用について報告しており、イノシン酸とGMPが摂餌量とニューロペプタイドYの発現の両方を増加させ、MSGは両方とも増加させず、SAは摂餌量を増加しないもののニューロペプタイドYの発現を増加させることを示している(非特許文献10)
【0013】
また、泉水らは、アミノ酸の嗅覚刺激がブリの摂餌行動およびニューロペプタイドY・c-Fos遺伝子発現量に及ぼす影響について報告しており、嗅覚刺激としてアラニン、味覚刺激としてプロリンを用いて、嗅覚刺激により探餌行動が促進され、味覚刺激で餌の摂取行動が促進されることを示している(非特許文献11)。
【0014】
また、室伏らは、マダイに対する中性アミノ酸の摂餌刺激活性と構造の関係について報告しており、アラニン等のアミノ酸の摂餌刺激活性を確認している(非特許文献12)
【0015】
他方、細川らは、マアジ筋肉エキス中のブリに対する摂餌刺激物質の検索について報告しており、無魚粉基本飼料(カゼイン量65%)に、マアジ筋肉の合成エキスから核酸を除いた画分を添加して給餌すると摂餌刺激活性が失われるが、アミノ酸または有機塩基を除いた画分を添加して給餌すると、摂餌刺激活性を示し、核酸の中ではイノシン酸が摂餌刺激活性に寄与していることを示している(非特許文献13)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【0017】
【非特許文献1】遺伝34巻9号、45-51(1980)
【非特許文献2】水産学シリーズ101 魚介類の摂餌刺激物質、第24~31、41~45、および55~63頁
【非特許文献3】日本水産学会誌50巻4号
【非特許文献4】日本水産学会誌50巻6号、1039-1043(1984)
【非特許文献5】日本水産学会誌50、645-651(1984)
【非特許文献6】水産増殖51巻1号、93-99(2003)
【非特許文献7】日本水産学会誌54巻2号、229-233(1988)
【非特許文献8】昭和52年度日本水産学会春季大会 講演要旨集、608
【非特許文献9】日本水産学会誌55巻5号、791-797(1989)
【非特許文献10】水産増殖68巻2号、159-162(2020)
【非特許文献11】令和2年度日本水産学会秋季大会 講演要旨集、638
【非特許文献12】日本農芸化学会誌 Vol.56,No.4,pp.255~259,1982
【非特許文献13】水産増殖49巻2号、225-229(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源原料で置換されている養殖魚用配合飼料において、摂餌量の低減を抑制し、効率的な養殖の維持を可能にする新規配合飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上述した従来の知見を検証し、新たな摂餌促進方法を探索していたところ、興味深い知見を得た。すなわち、魚粉の一部または全部を他のタンパク質資源原料で置換している配合飼料中に遊離のプロリンの含有量が遊離のアラニンより多くなる特定の割合で両アミノ酸の資源となる原料を配合したところ、イノシン酸等の核酸と組み合わせなくとも、タンパク質資源原料として魚粉のみを含む配合飼料に近似する摂餌促進活性が得られるという驚くべき知見を得た。本発明は、この知見に基づくものであり、以下の配合飼料を提供する。
【0020】
即ち、本発明は、以下の配合飼料を提供するものである。
[1]魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源原料で置換されている養殖魚用の配合飼料において、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを含有し、飼料中の質量比で遊離のプロリンが遊離のアラニンより多い、養殖魚用配合飼料。
[2]飼料中の遊離のプロリンと遊離のアラニンの質量比(Pro:Ala)が、1.2:1~5:1である、[1]に記載の、養殖魚用配合飼料。
[3]飼料中の遊離のプロリンと遊離のアラニンの質量比(Pro:Ala)が、1.5:1~3:1である、[1]に記載の養殖魚用配合飼料。
[4]飼料中の遊離のアラニンの含有量が300ppm以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
[5]飼料中の遊離のアラニンの含有量が400ppm以上であり、遊離のプロリンの含有量が600ppm以上である、[4]に記載の養殖魚用配合飼料。
[6]遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを、前記他のタンパク質資源原料100質量部に対して、それぞれ0.02~0.6質量部および0.02~0.3質量部含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
[7]飼料中の魚粉の含有量が50質量%以下である[1]~[6]のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
[8]イノシン酸の含有量が、1,500ppm以下であり、好ましくは1,200ppm以下であり、または遊離のトリプトファンの含有量が250ppm以下である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
[9]飼料中の遊離アミノ酸総量に占める遊離のアラニンの比率が6.5質量%以下、好ましくは5.0質量%以下、遊離のプロリンの比率が10質量%以下である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の養殖魚用配合飼料。
【0021】
本発明の配合飼料に依れば、魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源原料で置換されることによる養殖魚の摂餌量の低減を抑制して、置換前の配合飼料に近似する摂餌量を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願の[実施例]に記載する各飼料のブリ稚魚による総摂餌量を評価する試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定して理解されるべきものではない。
【0024】
本発明の養殖魚用配合飼料は、魚粉の一部または全部が他のタンパク質資源原料で代替されている養殖魚用配合飼料において、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを特定の割合で含有することを特徴とする、養殖魚用配合飼料である。
【0025】
本発明の配合飼料では、魚粉を含む場合に魚粉の種類について特に制限はなく、例えば、ニシン目ニシン科、ニシン目カタクチイワシ科、スズキ目アジ科およびスズキ目サバ科から選択される1種以上の魚類の魚粉を用いることができる。これら科目に属する魚類としては、例えば、マイワシ、カタクチイワシおよびアンチョビーなどのイワシ類、マサバおよびゴマサバなどのサバ類、マアジおよびマルアジのアジ類並びに大西洋ニシンなどニシン類を挙げることができる。
また、魚粉は、タンパク質の分解処理をしない通常の魚粉でもよいが、ペプチダーゼ、プロテアーゼまたはプロテイナーゼ等の酵素で処理した酵素処理魚粉でもよい。
【0026】
本願明細書において、他のタンパク質資源原料は、養殖魚用配合飼料に含有させた際にタンパク質資源となりうる魚粉以外の原料であり、動物質性原料、植物質性原料およびそれ以外のタンパク質資源原料がある。動物質性原料としては、例えば、オキアミ、エビ、イカ等を乾燥、粉末化等の加工したもの(例えば、オキアミミール、エビミール、イカミールなど)、チキンミール、フェザーミール、フィッシュソルブル等の原料などが挙げられる。植物質性原料としては、例えば、大豆等のマメ科植物、またはとうもろこし等を加工して得られる原料が挙げられ、そのような原料としては、大豆粕、コーングルテンミール、濃縮大豆タンパク質などがあり、濃縮大豆タンパク質が好ましい。動物質性および植物質性以外のタンパク質資源としては、試験管内で合成したタンパク質、微生物由来のタンパク質(例えば、飼料用酵母)、昆虫由来の原料などがある。
【0027】
他のタンパク質資源原料による代替の程度は、後述する遊離のプロリンおよび遊離のアラニンによる摂餌促進効果と他のタンパク質資源原料での代替による摂餌低減との関係を考慮して、魚粉を無置換の配合飼料に近似する摂餌効果が得られる程度にすることが好ましい。また、魚種により、あるいは給餌対象が成魚であるか稚魚であるかによって、求められる魚粉の含有量が異なり得る。
従って、魚粉の含有量は、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンの含有量およびその比ならびに給餌対象によって変動し得るが、通常、配合飼料中0~85質量%とすることができ、魚粉等の天然資源への依存度を低減した配合飼料を訴求するという観点からは、0~50質量%とすることが好ましく、0~20質量%とすることが好ましく、0~10質量%とすることが特に好ましい。また、他のタンパク質資源原料の含有量は、通常、配合飼料中10~70質量%とすることができ、30~70質量%含有することがより好ましく、50~70質量%含有することがより好ましい。また、魚粉と他のタンパク質資源原料との質量比は、通常、9:1~0:10(魚粉:他のタンパク質資源原料)とすることができ、5:5~0:10(魚粉:他のタンパク質資源原料)が好ましく、2:8~0:10(魚粉:他のタンパク質資源原料)がより好ましい。
【0028】
魚粉を低減した配合飼料では、養殖魚の摂餌量が低下し、生産効率が落ちてしまうことが問題となっているが、本発明では、この摂餌の低下を飼料中に遊離のアラニンと遊離のプロリンを特定の割合で含有させることで抑制し、魚粉を他のタンパク質資源原料で置換する前の配合飼料に近似する摂餌量を達成する。
より具体的には、後述の実施例で実証する通り、遊離のアラニンと遊離のプロリンの両方を含有させると共に、遊離のプロリンの含有量が遊離のアラニン含有量に対してより多くなる特定の比とすることで、ほぼ遊離のアラニンまたは遊離のプロリンのみを含む場合、遊離のアラニンと遊離のプロリンを同程度で含む場合、あるいは遊離のアラニンの含有量が遊離のプロリン含有量に対して非常に多い場合に比べ、顕著に高い摂餌量の改善を達成する。
具体的には、飼料中の遊離のプロリンと遊離のアラニンの質量比(Pro:Ala)は、1.2:1~5:1が好ましく、1.3:1~3:1がより好ましく、1.5:1~2.5:1が特に好ましい。
【0029】
また、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンの飼料中の含有量は、魚粉を置換することによる摂餌量の低下に的確に対応するという観点から、他のタンパク質資源原料の含有量に応じて決めることが好ましい。具体的には、通常、他のタンパク質資源原料100質量部に対して、それぞれ0.02~0.6質量部および0.02~0.3質量部含有することができるが、他のタンパク質資源原料100質量部に対して、それぞれ0.08~0.4質量部および0.05~0.2質量部含有することが好ましく、0.15~0.3質量部および0.09~0.15質量部含有することがより好ましい。
【0030】
また、養殖魚の摂餌量の促進効果を十分に発揮させる点で、飼料中の遊離のアラニンの含有量は100ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることがより好ましく、300ppm以上であることがさらに好ましく、400ppm以上であることが特に好ましい。他方、飼料中の遊離のアラニンの含有量は、2,000ppm以下であることが好ましく、1,500ppm以下であることがより好ましく、1,000ppm以下であることが更に好ましい。
飼料中の遊離のプロリンの含有量も、同様の観点から、150ppm以上であることが好ましく、300ppm以上であることがより好ましく、450ppm以上であることが更に好ましく、600ppm以上であることがより更に好ましく、800ppm以上であることが特に好ましい。他方、飼料中の遊離のプロリンの含有量は4,000ppm以下であることが好ましく、3,000ppm以下であることがより好ましく、2,000ppm以下であることが更に好ましい。
なお、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンは、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の無機酸または有機酸との塩、あるいはナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属類との塩などの塩であってもよい。本願明細書中で「プロリン」および「アラニン」という時は、特に言及がない限り、この様な塩も含むものとする。
【0031】
ここで、飼料中の遊離のプロリンおよび遊離のアラニンの含有量を上述の範囲とする際には、以下にその一例を示す通り、魚粉が、遊離のプロリンおよび遊離のアラニンを含むと共に、遊離のプロリンに対して遊離のアラニンの含有量が多いという点に留意する必要がある。
【表1】
【0032】
遊離のプロリンを多く含む原料として、結晶品、オキアミ、菌類、昆虫等があり、遊離のアラニンを多く含む原料として、結晶品、魚粉、フィッシュソリュブル、オキアミ、菌類、昆虫、チキンミール等あり、遊離のプロリンの含有量がアラニンの含有量より多い原料として、結晶品、オキアミ、菌類、昆虫などが挙げられる。従って、飼料中の魚粉およびその他の遊離のアラニンを多く含む原料の含有量に応じて、遊離のプロリンを多く含む原料を適宜適当な量配合して、上述した遊離のプロリンおよび遊離のアラニンの含有量とする必要がある。
【0033】
本発明の配合飼料においては、他の遊離のアミノ酸を含有してもよく、例えば、グリシン、バリン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、グルタミン酸、グルタミン、プロリン、オルニチン、シトルリン、アルギニン、オクトピン、アスパラギン酸、タウリンなどの遊離のアミノ酸を含んでよく、これら遊離のアミノ酸は、塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩等の無機酸または有機酸との塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属類との塩等の塩であってもよい。
もっとも、本発明の配合飼料においては、上述した遊離のプロリンおよび遊離のアラニンの含有量とすることで、摂餌促進効果を増大しており、遊離のプロリンおよび遊離のアラニン以外の遊離のアミノ酸は必須では無く、上記遊離のアミノ酸の一部を含まない組成とすることもできる。
【0034】
他方、本発明者は、養殖魚の摂餌量の促進効果を発揮させる上で、総遊離アミノ酸量に対する遊離のアラニンおよび遊離のプロリンの含有量は比較的低くすることができることを見出している。具体的には、飼料中の遊離のアラニンの含有量は総遊離アミノ酸量に対して6.5質量%以下とすることができ、1~5.0質量%が好ましく、1~4質量%であることがより好ましく、2~3質量%であることが特に好ましい。
飼料中の遊離のプロリンの含有量も、同様に、10質量以下%とすることができ、2~8質量%であることが好ましく、3~6質量%であることが特に好ましい。
また、本発明の配合飼料において、遊離アミノ酸総量は、10,000ppm以上であることが好ましく、10,000ppm~50,000ppmであることがより好ましい。
【0035】
本発明の配合飼料では、イノシン酸等の各種核酸を含んでもよい。もっとも、本発明の配合飼料においては、上述した遊離のプロリンおよびアラニンの含有量とすることで、摂餌促進効果を増大することができ、イノシン酸等の核酸は必須成分ではない。このため、本発明では、イノシン酸等の各種核酸成分を従来の配合飼料より低減することが可能であり、例えば、イノシン酸の含有量が1,500ppm以下、好ましくは1,200ppm以下、より好ましくは300~1,000ppmとすることができる。
【0036】
本発明の養殖魚用配合飼料には、上記の他にも、小麦粉、α化澱粉若しくはセルロース等の植物性炭水化物資源原料、魚油、イカ肝油若しくはチキンオイル等の動物性油脂、パーム油、大豆油若しくは菜種油等の植物性油脂、ビタミン類、ミネラル類、抗酸化剤、カルボキシメチルセルロースまたはグアガム等の結合剤などを含有させてもよい。
【0037】
本発明の養殖魚用配合飼料は、上述した原料を用いて、一般的な方法で製造することができ、ペレット状、クランブル状、顆粒状、粉末状、モイストペレット状、ペースト状等の形態が挙げられる。また、本発明の養殖魚用配合飼料は、一般的な養殖魚用飼料の原料を用いて調製した後、プロリンおよびアラニンを多く含む原料(例えばプロリンまたはアラニンの水溶液)を展着させて製造してもよい。
【0038】
本発明の配合飼料は、従来の養殖魚用配合飼料と同様に、養殖魚に給餌すればよい。
プロリンおよびアラニンによる摂餌促進効果は、広範囲の魚種に期待されており(例えば、非特許文献7、1および2)、これらを特定の割合で飼料中に含有させる本発明による効果も広範囲の魚種で発揮されることが期待される。本発明の配合飼料を給餌する養殖魚としては、例えば、カンパチ、ブリ、マアジ、シマアジ等のアジ科に属する魚類、ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、オオウナギ、ニューギニアウナギ等のウナギ科に属する魚類、クロダイ、マダイ、チダイ等のタイ科に属する魚類、イシダイ等のイシダイ科に属する魚類、クロマグロ、タイヘイヨウクロマグロ、タイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロ、マサバ、ゴマサバ等のサバ科に属する魚類が好ましく、アジ科に属する魚類がより好ましい。
飼料の給餌時期に特に限定はないが、稚魚期または幼魚期での給餌に用いることが好ましい。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定的に理解されるものではない。
【0040】
1.試験飼料の調製
本発明による配合飼料を評価するために、以下の表2に示す組成の各飼料を調製した。
【表2】
【0041】
各飼料の遊離アミノ酸組成は以下の通りである。
【表3-1】
【表3-2】
【0042】
FM区は、対照飼料として調製されたタンパク質源として魚粉を含み、他のタンパク質源原料を含まない飼料である。また、遊離のアラニンおよび遊離のプロリンの添加による効果をより明確にするために、本試験では、タンパク質源として魚粉を含まずカゼインのみを含む飼料を基本飼料(カゼイン区)とした。この基本飼料に、アラニンおよびプロリンの結晶品をそれぞれ単独または一緒に添加した飼料を試験飼料として調製した。ALA区、およびPRO区は、それぞれ単独で添加した飼料を試験飼料とした。A=P区は、飼料中の遊離のアラニンと遊離のプロリンの濃度が同じ試料であり、A>P区は、飼料中の遊離のアラニンの濃度が遊離のプロリンの濃度より優位に高い試料(P/A比=0.52/1)であり、A<P区は、飼料中の遊離のプロリンの濃度が遊離のアラニンの濃度より優位に高い試料(P/A比=2.09/1)である。
アラニンおよびプロリンの結晶品は飼料作製時に用いた精製水に溶解し、得られた溶液を表中に記載された飼料原料に添加した。次いで、飼料原料1kgに対し精製水400mLを添加し、ミキサーでよく混合した後、小型ペレッター(N022VR-1500DX、αローヤル、神戸)を用いてシングルモイストペレット(直径2mm)に成型した。得られたペレットは-20℃で冷凍保存し、給餌の際に必要量を解凍して使用した。
【0043】
飼料中の成分分析は下記の様に行った。
・粗タンパク質含量:セミミクロケルダール法(N×6.25)で測定した。
・粗脂質含量:Folchらの方法(Folch et al.,1957)を一部改良し、飼料をクロロホルム:メタノール混液(2:1v/v)によって抽出し、Folchらの方法に従って測定した。
・水分含量:飼料を110℃で10時間乾燥させて、乾燥前後の質量差から測定した。
・灰分含量:550℃で5時間燃焼させた後に測定した。
・遊離アミノ酸:飼料を純水で抽出し除タンパク処理後、脂質除去処理を行い、JLC-500/V2全自動アミノ酸分析機(日本電子株式会社)を用い、機器分析の仕様はポストカラム誘導体化法/ニンヒドリン比色法、測定波長(440nm、570nm、690nm)にて測定した。
なお、表中の各成分の濃度は、成型後のペレット中の値を乾物換算した値である。
【0044】
2.飼育試験
上記の通り調製した各飼料を用いて、養殖魚による摂餌量を測定し、アラニンおよびプロリンの添加による摂餌効果を評価した。
供試魚は2022年1月にフィード・ワン株式会社から譲渡された人工種苗ブリの稚魚を用いた。試験開始まで市販のEP飼料(フィード・ワン株式会社、神奈川)で予備飼育した。その中から無作為に選抜したブリを通気および換水を施した0.6トン容FRP製水槽に8匹ずつ収容し、1試験区当たり3水槽計18水槽を設けた。飼育に用いたブリの開始時平均体重は48.7gであった。試験期間は2022年3月21日から3月28日の8日間とし、その間1日1回、試験飼料を飽食(魚が餌に興味を示さなくなるか、一度食べて吐き出す様になるまで)になるまで与えた。飼育期間中、水温は16.4~17.1度であった。飼育試験はすべて香南市水産振興施設(高知)で行った。
【0045】
給餌量は、毎回の給餌前後に飼料の入った容器の重量を計測し、その差し引きによって算出し、算出された給餌量を摂餌量とみなした。
図1には、各水槽の8日間(すなわち8回)の給餌量の合計の平均値を示した(3水槽の平均±標準誤差)。
【0046】
得られた値はすべて、one-way ANOVAの後にTukey-Kramerの多重比較検定を行い、危険率5%における有意差を判定した。統計処理にはGraphPad Prism ver.9.0(GraphPad Software, Inc.)を用いた。
【0047】
3.試験結果
図1に示す通り、A<P区のブリは、FM区のブリと近似した摂餌量を達成した。
Ala区、Pro区、A=P区、およびA>P区のブリでは、遊離のアラニンおよび遊離のプロリンを含まない基本飼料を給餌したカゼイン区のブリよりは、摂餌量が増大したものの、A<P区のブリは、ALA区、PRO区、A=P区、およびA>P区のブリに対して、顕著に摂餌量が増加した。これにより、アラニンおよび/またはプロリンを添加するのみならず、プロリンの濃度がアラニンの濃度より優位に高い比(P/A比=2.10/1)とすることが、摂餌を促進する上で非常に重要であることが判明した。