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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024046978
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240329BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B41J2/015
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152378
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】只木 唯
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EB07
2C056EB30
2C056EB58
2C056EC07
2C056EC37
2C056EC42
2C056ED01
2C056FA04
2C056FA13
2C056FA14
2C057AF23
2C057AL25
2C057AL26
2C057AL27
2C057AL28
2C057AL34
2C057AM17
2C057AM22
2C057AN05
2C057AN06
2C057BA14
2C057CA01
(57)【要約】
【課題】液体吐出装置の記録ヘッドの駆動波形を精度良く制御可能とする。
【解決手段】液体吐出装置300は、記録ヘッド110の駆動による記録ヘッド110の発熱・放熱特性を記録材の滴サイズ別に記憶する記憶部303と、ヘッド近傍温度TT1を測定する第1測定部301と、機内温度TT2を測定する第2測定部302と、ヘッド近傍温度TT1に基づき記憶部303から抽出される滴サイズ別の記録ヘッド110の発熱特性EL、EM、ES及び放熱特性ML、MM、MSと、機内温度TT2とヘッド近傍温度TT1との差分に基づき算出される空冷による放熱特性Hと、を用いて、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定する推定部304と、推定部304により推定された記録ヘッド110の温度変化ΔTに基づき、記録ヘッドの駆動波形を制御する制御部305と、を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ヘッドから液状の記録材を記録媒体に吐出して記録を行う液体吐出装置であって、
前記記録ヘッドの駆動による前記記録ヘッドの発熱・放熱特性を前記記録材の滴サイズ別に記憶するように構成される記憶部と、
前記記録ヘッドの近傍の温度を測定するように構成される第1測定部と、
機内の雰囲気温度である機内温度を測定する第2測定部と、
前記第1測定部により測定されたヘッド近傍温度に基づき、前記記憶部から抽出される前記滴サイズ別の前記記録ヘッドの発熱・放熱特性と、前記第2測定部により測定された前記機内温度と前記ヘッド近傍温度との差分に基づき算出される空冷による放熱特性と、を用いて、前記記録ヘッドの温度変化を推定するように構成される推定部と、
前記推定部により推定された前記記録ヘッドの前記温度変化に基づき、前記記録ヘッドの駆動波形を制御するように構成される制御部と、
を有する、
液体吐出装置。
【請求項2】
前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体に記録する画像データの1ページ印刷ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体への前記記録ヘッドの1スキャン印刷ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体への前記記録ヘッドの1回の吐出ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドから液状の記録材を記録媒体に吐出して記録を行う液体吐出装置において、記録ヘッドは記録材の温度や粘度に応じて吐出特性が変化する。
【0003】
特許文献1には、記録ヘッド近傍の温度を用いて、記録ヘッドの駆動波形を制御する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
記録ヘッドは放熱もするので、記録ヘッド近傍の温度の上昇と下降を予測しないと、正しい駆動波形を形成できない。
【0005】
本発明は、液体吐出装置の記録ヘッドの駆動波形を精度良く制御可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一観点に係る液体吐出装置は、記録ヘッドから液状の記録材を記録媒体に吐出して記録を行う液体吐出装置であって、前記記録ヘッドの駆動による前記記録ヘッドの発熱・放熱特性を前記記録材の滴サイズ別に記憶するように構成される記憶部と、前記記録ヘッドの近傍の温度を測定するように構成される第1測定部と、機内の雰囲気温度である機内温度を測定する第2測定部と、前記第1測定部により測定されたヘッド近傍温度に基づき、前記記憶部から抽出される前記滴サイズ別の前記記録ヘッドの発熱・放熱特性と、前記第2測定部により測定された前記機内温度と前記ヘッド近傍温度との差分に基づき算出される空冷による放熱特性と、を用いて、前記記録ヘッドの温度変化を推定するように構成される推定部と、前記推定部により推定された前記記録ヘッドの前記温度変化に基づき、前記記録ヘッドの駆動波形を制御するように構成される制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
液体吐出装置の記録ヘッドの駆動波形を精度良く制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る画像形成装置の概略構成を示す図
図2図1中の画像形成制御部のハードウェア構成図
図3図2中の画像処理部の構成例を示す機能ブロック図
図4】記録ヘッド制御部、駆動波形生成回路、記録ヘッドドライバの機能ブロック図
図5】共通振動波形のタイミング調整を説明する図
図6】実施形態に係る液体吐出装置の機能ブロック図
図7】本実施形態の液体吐出装置による制御のフローチャート
図8】大滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図
図9】中滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図
図10】小滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
[画像形成装置の基本構成]
図1図5を参照して、本実施形態に係る液体吐出装置300が適用される画像形成装置の基本構成について説明する。図1は、実施形態に係る画像形成装置の一例であるインクジェットプリンタ1000の概略構成を示す図である。
【0011】
インクジェットプリンタ1000は、例えば、オンデマンド方式のライン走査型を採用した画像形成装置である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1000は、画像形成部210と、給紙部220と、レジスト調整部230と、乾燥部240と、記録媒体反転部250と、排紙部290と、を備えている。次に、当該構成を備えるインクジェットプリンタ1000における画像形成出力動作(印刷動作)の流れの一例を説明する。なお、画像形成部210は、液体吐出装置300の実施形態に相当する。
【0012】
まず給紙部220の給紙スタック221に積載された記録媒体Pが、エアー分離部222によって一枚ずつピックアップされ、画像形成部210の方向に搬送される。給紙部220から搬送された記録媒体Pは、レジスト調整部230に達すると、レジスト調整部230の内部に設けられたレジストローラ対231によって、搬送方向に対する記録媒体Pの傾きが補正される。
【0013】
レジストローラ対231における補正(レジスト調整)がなされた記録媒体Pは、画像形成部210に送られる。そして、円筒形状のドラム211の表面に設けた記録媒体グリッパ212によって記録媒体Pの先端が挟まれて、ドラム211の回転によってヘッドアレイ100K~100Pに対向する位置へと、記録媒体Pが搬送される。画像形成部210では、円筒形状のドラム211表面に沿って、インクジェット方式によりインクを吐出するヘッドアレイ100K~100Pが、所定のインク色を充填した状態で放射状に角度をもって配置されている。
【0014】
複数のヘッドアレイ100K~100Pによって、液体吐出部である液体吐出モジュール(ヘッドモジュール100)が構成されていて、この液体吐出モジュールからドラム211の表面に保持された記録媒体Pの外周面にインク(液体)を吐出することで、記録媒体Pに画像が形成される。ドラム211の外周面には、空吐出受け213が設けられており、ヘッドモジュール100が記録媒体Pにインクを吐出していないときに空吐出されたインクを受け取るようになっている。画像が形成されると記録媒体Pは、乾燥部240に搬送される。
【0015】
ヘッドモジュール100を構成する個々のヘッドアレイ100K~100Pは、液状の記録材を記録媒体に吐出して記録媒体Pに記録を行う記録ヘッド110(図2参照)を有する。記録ヘッド110は、例えば底面に複数の印字ノズルが設けられ、この複数の印字ノズルによってノズル面が形成されている。ノズル面に配置される各印字ノズルからは、圧電素子の伸縮によって液滴が吐出される。
【0016】
乾燥部240には乾燥ユニット241が設けられていて、この乾燥ユニット241の下方を記録媒体Pが通過することによって、記録媒体Pの水分が蒸発するようになっている。また、乾燥部240には、記録媒体反転機構251を含む記録媒体反転部250が設けられている。両面印刷時には、記録媒体反転部250で記録媒体Pを反転し反転搬送部252により再度画像形成部210の方向へ搬送する。なお、ドラム211に達する前に画像形成部210内部に設けられたレジストローラ253によって記録媒体Pの傾きが補正される。乾燥部240による乾燥を終えた記録媒体Pは排紙部290に搬送されて、記録媒体Pの端部が整合された状態で積載される。
【0017】
画像形成部210における液滴吐出動作の制御の一部は、画像形成部210が備える画像形成制御部201において行われるものとする。なお、画像形成制御部201は、インクジェットプリンタ1000の全体の動作を制御してもよい。また、給紙部220、レジスト調整部230、乾燥部240、のそれぞれにおいて個別に制御部を備え、画像形成制御部201と連携することでインクジェットプリンタ1000の全体の動作を制御するように構成してもよい。
【0018】
図2は、図1中の画像形成制御部201のハードウェア構成例を示すブロック図である。 画像形成制御部201は、メイン制御基板10と、ヘッド中継基板20と、画像処理基板30とを備える。
【0019】
メイン制御基板10には、CPU(Central Processing Unit)11、FPGA(Field-Programmable Gate Array)12、RAM(Random Access Memory)13、ROM(Read Only Memory)14、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)15、モータドライバ16、駆動波形生成回路17などが実装されている。
【0020】
CPU11は、画像形成部210の全体の制御を司る。例えば、CPU11は、RAM13を作業領域として利用して、ROM14に格納された各種の制御プログラムを実行し、画像形成部210における各種動作を制御するための制御指令を出力する。 この際CPU11は、FPGA12と通信しながら、FPGA12と協働して画像形成部210における各種の動作制御を行う。
【0021】
FPGA12には、CPU制御部121、メモリ制御部122、I2C制御部123、センサ処理部124、モータ制御部125、および記録ヘッド制御部126が設けられている。
【0022】
CPU制御部121は、CPU11と通信を行う機能を持つ。メモリ制御部122は、RAM13やROM14にアクセスする機能を持つ。I2C制御部123は、NVRAM15と通信を行う機能を持つ。
【0023】
センサ処理部124は、各種センサ120のセンサ信号の処理を行う。各種センサ120は、画像形成部210(または画像形成装置の全体)における各種の状態を検知するセンサの総称である。各種センサ120には、エンコーダセンサや、記録媒体Pの通過を検知する用紙センサ、インクジェットプリンタ1000の筐体のカバー部材の開放を検知するカバーセンサ、環境温度や湿度を検知する温湿度センサ、記録媒体Pを固定するレバーの動作状態を検知する用紙固定レバー用センサ、インク残量を検知する残量検知センサなどが含まれる。 なお、温湿度センサなどから出力されるアナログのセンサ信号は、例えばメイン制御基板10などに実装されるADコンバータによりデジタル信号に変換されてFPGA12に入力される。
【0024】
モータ制御部125は、各種モータ130の制御を行う。 各種モータ130は、画像形成部210(または画像形成装置の全体)が備えるモータの総称である。 各種モータ130には、キャリッジを動作させるための主走査モータ、記録媒体Pを副走査方向に搬送するための副走査モータ、記録媒体Pを給紙するための給紙モータ、維持機構を動作させるための維持モータなどが含まれる。
【0025】
ここで、主走査モータの動作制御を例に挙げて、CPU11とFPGA12のモータ制御部125との連携による制御の具体例を説明する。まず、CPU11がモータ制御部125に対して、主走査モータの動作開始指示とともに、キャリッジ5の移動速度および移動距離を通知する。この指示を受けたモータ制御部125は、CPU11から通知された移動速度および移動指示の情報をもとに駆動プロファイルを生成し、センサ処理部124から供給されるエンコーダ値(エンコーダセンサのセンサ信号を処理して得られた値)との比較を行いながら、PWM指令値を算出してモータドライバ16に出力する。モータ制御部125は、所定の動作を終了するとCPU11に対して動作終了を通知する。なお、ここではモータ制御部125が駆動プロファイルを生成する例を説明したが、CPU11が駆動プロファイルを生成してモータ制御部125に指示する構成であってもよい。CPU11は、印字枚数のカウントや主走査モータのスキャン数のカウントなども行っている。
【0026】
記録ヘッド制御部126は、ROM14に格納されたヘッド駆動データ、吐出同期信号LINE、吐出タイミング信号CHANGEを駆動波形生成回路17に渡して、駆動波形生成回路17に共通駆動波形信号Vcomを生成させる。駆動波形生成回路17が生成した共通駆動波形信号Vcomは、ヘッド中継基板20に実装された後述の記録ヘッドドライバ21に入力される。
【0027】
図3は、図2中の画像処理部31の構成例を示す機能ブロック図である。
【0028】
画像処理部31は、受付けた画像データについて、階調処理、画像変換処理などを行い、記録ヘッド制御部126で処理可能な形式の画像データに変換する。そして、画像処理部31は、変換後の画像データを、記録ヘッド制御部126へ出力する。
【0029】
詳細には、画像処理部31は、インターフェイス41と、階調処理部42と、画像変換部43と、画像処理部RAM44と、を有する。
【0030】
インターフェイス41は、画像データの入力部であり、CPU11、およびFPGA12との通信インターフェイスである。階調処理部42は、受付けた多値の画像データに階調処理を行い、小値の画像データへ変換する。小値の画像データは、記録ヘッド110が吐出する液滴の種類(大滴、中滴、小滴)に等しい階調数の画像データである。そして、階調処理部42は、変換した画像データを、画像処理部RAM44上に1バンド分以上保持する。
【0031】
1バンド分の画像データとは、記録ヘッド110が1度の主走査方向Xの走査で記録可能な最大の副走査方向の幅に相当する画像データを指す。
【0032】
画像変換部43は、画像処理部RAM44上の1バンド分の画像データについて、主走査方向Xへの1度の走査(1スキャン)で出力する画像単位で、画像データを変換する。この変換は、インターフェイス41を介してCPU11から受付けた、印字順序、および印字幅(=1スキャンあたりの画像記録の副走査幅)の情報に従い、記録ヘッド110の構成に合わせて変換する。
【0033】
印字順序、印字幅は記録媒体に対して1回の主走査で画像を形成する1パス印字でも良く、記録媒体の同一領域に対して同一のノズル群あるいは異なるノズル群によって複数回の主走査で画像を形成するマルチパス印字を用いても良い。また、主走査方向にヘッドを並べて、同一領域を異なるノズルで打ち分けても良い。これらの記録方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0034】
印字幅とは、記録ヘッド110の1度の主走査方向Xへの走査(1スキャン)で記録する画像の、副走査方向Yの幅を示す。本実施形態では、印字幅は、CPU11が設定する。
【0035】
画像変換部43は、変換した画像データSD´を、インターフェイス41を介して画像記録部(FPGA12の記録ヘッド制御部126(図4参照))へ出力する。
【0036】
画像処理部31の機能は、FPGAやASIC等のハードウェア機能として実行されても良いし、画像処理部31内部の記憶装置に記憶された画像処理プログラムによって実施されるものであっても良い。
【0037】
また、画像処理部31の機能は画像形成装置の内部ではなく、コンピュータにインストールされたソフトウェアで行っても良い。
【0038】
図4は、記録ヘッド制御部126、駆動波形生成回路17、記録ヘッドドライバ21の構成例を示すブロック図である。
【0039】
記録ヘッド制御部126は、吐出のタイミングのトリガーとなるトリガー信号Trigを受信すると、駆動波形の生成のトリガーとなる吐出同期信号LINEを駆動波形生成回路17へ出力する。さらに、吐出同期信号LINEからの遅延量に当たる吐出タイミング信号CHANGEを駆動波形生成回路17へ出力する。駆動波形生成回路17は、吐出同期信号LINEと、吐出タイミング信号CHANGEに基づいたタイミングで共通駆動波形Vcomを生成する。
【0040】
さらに、記録ヘッド制御部126は、画像処理基板30に設けられた画像処理部31から画像処理後の画像データSD´を受け取り、この画像データSD´をもとに、記録ヘッド110の各ノズルから吐出させるインク滴の大きさに応じて共通駆動波形信号Vcomの所定波形を選択するためのマスク制御信号MNを生成する。 マスク制御信号MNは吐出タイミング信号CHANGEに同期したタイミングの信号である。そして、記録ヘッド制御部126は、画像データSD´と、同期クロック信号SCKと、画像データのラッチを命令するラッチ信号LTと、生成したマスク制御信号MNとを、記録ヘッドドライバ21に転送する。
【0041】
記録ヘッドドライバ21は、図4に示すように、シフトレジスタ22、ラッチ回路23、階調デコーダ24、レベルシフタ25、およびアナログスイッチ26を備える。
【0042】
シフトレジスタ22は、記録ヘッド制御部126から転送される画像データSD´および同期クロック信号SCKを入力する。ラッチ回路23は、シフトレジスタ22の各レジスト値を、記録ヘッド制御部126から転送されるラッチ信号LTによってラッチする。
【0043】
階調デコーダ24は、ラッチ回路23でラッチした値(画像データSD')とマスク制御信号MNとをデコードして結果を出力する。レベルシフタ25は、階調デコーダ24のロジックレベル電圧信号をアナログスイッチ26が動作可能なレベルへとレベル変換する。
【0044】
アナログスイッチ26は、レベルシフタ25を介して与えられる階調デコーダ24の出力でオン/オフするスイッチである。 このアナログスイッチ26は、記録ヘッド110が備えるノズルごとに設けられ、各ノズルに対応する圧電素子の個別電極に接続されている。 また、アナログスイッチ26には、駆動波形生成回路17からの共通駆動波形信号Vcomが入力されている。 また、上述したようにマスク制御信号MNのタイミングが共通駆動波形Vcomのタイミングと同期している。したがって、レベルシフタ25を介して与えられる階調デコーダ24の出力に応じて適切なタイミングでアナログスイッチ26のオン/オフが切り替えられることにより、共通駆動波形信号Vcomを構成する駆動波形の中から各ノズルに対応する圧電素子に印加される波形が選択される。その結果、ノズルから吐出されるインク滴の大きさが制御される。
【0045】
図5は、共通振動波形のタイミング調整を説明する図である。吐出タイミング信号CHANGEの値がデフォルト値の場合は、共通駆動波形は、基準信号であるLINE信号からデフォルト値分、遅れたタイミングとなる。吐出タイミング信号CHANGEの値がデフォルト値の場合の遅延のタイミングを、図5(a)に示す基準のタイミングとする。
【0046】
例えば、図5(a)に示すように遅延量のデフォルト値を7とすると、図5(b)のように吐出タイミング信号CHANGEの値を7より大きく(例えば、8~13)しておくことで、吐出タイミングを遅くする。
【0047】
反対に、図5(c)に示すように、吐出タイミング信号CHANGEの値を7未満(例えば、1~6)にしておくことで、吐出タイミングを早くする。これにより、1ドット以下の微小な吐出タイミング調整が可能となる。
【0048】
[液体吐出装置の構成]
次に図6図10を参照して、上述の画像形成装置に適用される、実施形態に係る液体吐出装置300について説明する。図6は、実施形態に係る液体吐出装置300の機能ブロック図である。上述のように、液体吐出装置300は、物理的には、画像形成装置の一例としてのインクジェットプリンタ1000の画像形成部210の一部として実装される。液体吐出装置300は、記録ヘッド110から液状の記録材(例えば上述のインク)を記録媒体Pに吐出して記録を行う。
【0049】
ここで、記録ヘッド110は、インク温度(またはインク粘度)に応じて吐出特性が変化する。従来の吐出制御手法では、記録ヘッド110の近傍に設置されるサーミスタ(温度センサ)の検知温度に基づき、インク温度に適した記録ヘッド110の駆動波形を選択しているのが一般的である。しかし、サーミスタ検知温度は、記録ヘッド110の近傍の雰囲気温度に準じており、実際にインクを吐出する記録ヘッド110の液室内のインク温度は、記録ヘッド110の連続駆動により上昇し、サーミスタ検知温度と乖離が生じることが、これまでの知見から分かっている。このため、従来手法のように、サーミスタ検知温度に基づき記録ヘッド110の駆動波形を選択すると、液室内のインク温度に対しミスマッチが生じ、吐出不良、過吐出等が起こり得る。
【0050】
本実施形態の液体吐出装置300は、このような問題を解消すべく、記録ヘッド110(ピエゾ(上述の圧電素子に相当))の駆動による発熱と、インクの吐出の水冷効果による放熱とを考慮し、液室内のインク温度を推定する。これにより、記録ヘッド110の最適な駆動波形の選択および吐出安定性を獲得することができる。
【0051】
図6に示すように、液体吐出装置300は、これらの機能に関して、第1測定部301と、第2測定部302と、記憶部303と、推定部304と、制御部305と、を備える。
【0052】
第1測定部301は、記録ヘッド110の温度を測定する。例えば図2に示した各種センサ120のうち環境温度を計測する温度センサを記録ヘッド110の近傍に設置し、第1測定部301は温度センサから記録ヘッド110の温度の情報を取得する。ここで、第1測定部301が計測する「記録ヘッド110の温度」とは、必ずしも記録ヘッド110自体の温度に限られず、記録ヘッド110の近傍に設置される温度センサ等によって測定される温度であり、記録ヘッド110の近傍の雰囲気温度に準ずるものも含まれる。第1測定部301により測定される温度を「ヘッド近傍温度TT1」とも表記する場合がある。
【0053】
第2測定部302は、インクジェットプリンタ1000の機内の雰囲気温度を測定する。例えば図2に示した各種センサ120のうち環境温度を計測する温度センサを、インクジェットプリンタ1000の機内の任意の箇所(例えば乾燥部240や排紙部290など)の近傍に設置し、第2測定部302は温度センサから雰囲気温度の情報を取得する。第2測定部302により測定される温度を「機内温度TT2」とも表記する場合がある。
【0054】
記憶部303は、記録ヘッド110の駆動による記録ヘッド110の発熱・放熱特性を記録材の滴サイズ別に記憶する。
【0055】
推定部304は、第1測定部301により測定された記録ヘッド110の温度(ヘッド近傍温度TT1)と、第2測定部302により測定された機内温度TT2と、記憶部303に記憶される滴サイズ別の発熱・放熱特性とを用いて、記録ヘッド110の温度変化を推定する。特に本実施形態では、推定部304は、ヘッド近傍温度TT1に基づき記憶部303から抽出される滴サイズ別の記録ヘッド110の発熱特性EL、EM、ES及び放熱特性ML、MM、MSと、機内温度TT2とヘッド近傍温度TT1との差分に基づき算出される空冷による放熱特性Hと、を用いて、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定する。
【0056】
制御部305は、推定部304により推定された記録ヘッド110の温度変化ΔTに基づき、記録ヘッドの駆動波形を制御する。
【0057】
[発熱量、放熱量、インク温度変化分の求め方]
ここで、発熱量、放熱量、インク温度変化分の求め方について説明する。
【0058】
<発熱量について>
発熱量は、記録ヘッド110のピエゾで消費されるエネルギに比例する。これから、発熱量(温度上昇分)を求めるにあたり、以下の(1)式ように定義する。
E=ΣRCV^2/Δt ・・・(1)
【0059】
ここで、上記(1)式中のEはピエゾで消費されるエネルギ、Rはピエゾの電気抵抗[Ω]=[V/A]、Cはピエゾの静電容量[F]=[C/V]である。
【0060】
<放熱量について>
吐出による水冷効果(放熱量)は、流量に依存する。すなわち、滴量で決まる。これから、放熱量(温度低下分)を求めるにあたり、以下の(2)式のように定義する。
M=(VL・NL+VM・NM+VS・NS) ・・・(2)
【0061】
ここで、上記(2)式中のMは流量、VLは大滴の滴量、VMは中滴の滴量、VSは小滴の滴量、NLは大滴の吐出回数、NMは中滴の吐出回数、NSは小滴の吐出回数である。
【0062】
<空冷による放熱について>
記録ヘッド110のノズル面の面積A[mm]、温度D[℃]、表面の放射率Bとしたときに、雰囲気温度(大気中の温度)E[℃]中にある場合、熱平衡に伴う熱損失をF[W]、放射による熱損失をG[W]とする。このとき、熱平衡、すなわち空冷に伴う損失Hは、以下の(3)~(5)式のように定義される。
F=(D-E)×A×J ・・・(3)
G=((D+273.15)-(E+273.15))×A×B×σ ・・・(4)
H=F+G ・・・(5)
【0063】
ここで、Jは、(3)式において熱平衡に伴う熱損失Fの導出に用いられる所定の係数である。σは、(4)式において放射による熱損失Gの導出に用いられる所定の係数である。
【0064】
また、上記の(3)式、(4)式における温度Dとは、本実施形態では第1測定部301により測定される記録ヘッド110の温度(ヘッド近傍温度TT1)に相当する。上記の(3)式、(4)式における雰囲気温度Eとは、第2測定部302により測定される機内温度TT2に相当する。(3)式、(4)式のD、E以外のパラメータA、B、σ、Jは、インクジェットプリンタ1000の構造などによって決まる値であり、事前に導出可能な値である。このため、本実施形態では、ヘッド近傍温度TT1と機内温度TT2の測定値を(3)~(5)式に代入することによって、空冷に伴う損失H、すなわち「空冷による放熱特性H」を算出することができる。
【0065】
<インク温度変化分について>
温度上昇は発熱量に比例し、温度低下は放熱量に比例するため、インクの温度変化は以下の(6)式のように表すことができる。
ΔT=αE ― βM― γH ・・・(6)
【0066】
ここで、上記(6)式中のΔTは温度変化分、αはピエゾでの消費エネルギEを温度上昇分に変換する係数、βは流量Mを温度低下分に変換する係数、γは熱平衡に伴う熱損失分Hを変換する係数である。
【0067】
サーミスタの検知温度をTTとすると、液室内のインク温度TIは、(6)式の温度変化分を考慮して、以下の(7)式のように推定できる。
TI=TT+ΔT ・・・(7)
【0068】
なお、上記の「サーミスタ温度TT」は、本実施形態では第1測定部301により取得されるヘッド近傍温度TT1に相当し、インク温度の推定値TI(推定温度)の初期値である。
【0069】
<係数α、β、γの求め方>
上記(6)式中の係数α、β、γを求めるために、ある駆動条件でのインク温度上昇値を、滴速度Vjの変化から推定する。推定方法は以下であり、一度実験を行うことで求めることができる。
【0070】
ある波形(例えば大滴)に対してのインク温度と滴速度Vjの関係を把握する。このときの滴速度Vjは、吐出前、すなわち、サーミスタ実温Tと、液室内のインク温度とが等しい時点での滴速度である。
【0071】
次に、大滴をN回連続で打ち続けると(例えば10万滴)、記録ヘッド110のピエゾの発熱と、滴吐出による放熱とにより、滴速度Vjが変化する。
【0072】
インク温度とVjの関係式を用い、Vjの変化分から、インク温度変化分(ΔT)を以下の(8)式で導くことができる。
ΔT=(αEL―βML)×N-γH ・・・(8)
【0073】
ここで、上記(8)式中のNは滴数(駆動ノズル数)である。添え字Lは大滴(large)を表す。ELは大滴の波形によるピエゾの消費エネルギ、MLは大滴の波形による流量、Hは空冷に伴う損失である。
【0074】
上記の(8)式について、中滴や小滴でも同様の流れで行うと、方程式となり、係数αとβとγが求められる。係数αとβとγは、一度実験を行えば、求めることができる。
【0075】
対象となる駆動波形が変われば、ピエゾでの消費エネルギ(E)および、流量(M)や、空冷に伴う損失(H)は変わるが、係数αとβとγについては、一度実験により求めれば駆動波形や滴量が変わっても、係数であるため変わらない。よって、上記(1)式から(5)式と、係数α、β、γがあれば、駆動波形、電圧、滴量の条件が変わっても、インク温度変化分ΔTを予測できる。
【0076】
[制御の流れ]
図7を参照して、本実施形態の液体吐出装置300による温度予測と駆動波形の制御手順について説明する。図7は、本実施形態の液体吐出装置300による制御のフローチャートである。
【0077】
図7の例では、記録ヘッド110の駆動波形の切り替えを画像データの1ページごとに行っている。従来は、サーミスタ温度をインク温度とみなして、次回の駆動波形を決定していたが、本実施形態では、サーミスタ温度TTに温度変化分ΔTを加えたインク温度の推定値TIにより、次回の駆動波形を決定する。
【0078】
ステップS01では、液体吐出装置300の制御部305に画像データが入力される。
【0079】
ステップS02では、制御部305により、入力された画像データの分量がnページであることが確認される。
【0080】
ステップS03では、制御部305により、パラメータNに1がセットされ(N=1)、画像データの1ページ目の処理が開始される。
【0081】
ステップS04では、制御部305により、Nページ目(ここでは1ページ目)の画像データが取得される。
【0082】
ステップS05では、推定部304により、Nページ目の印刷完了後のインク温度が予測される。
【0083】
ステップS05の処理は、具体的には下記の手順(i)~(v)で行われる。
【0084】
(i)最初に(吐出開始時)、液室内インク温度を以下の(9)式のようにセットする。
液室内インク温度TI=サーミスタ温度TT ・・・(9)
サーミスタ温度TTは、第1測定部301により取得されるヘッド近傍温度TT1に相当する。サーミスタ温度TTは、本制御フローの温度予測処理において算出されるインク温度の推定値TI(推定温度)の初期値である。
【0085】
(ii)1ページ分吐出完了
(iii)1ページ分の滴構成から、1ページ分の各滴種(大・中・小・微駆動・空吐出)の滴量(上記(2)式のVL、VM、VSに対応)と、駆動回数(上記(2)式のNL、NM、NSに対応)が求まる。
【0086】
(iv)各滴種の駆動波形(エネルギ:E、M)と滴量、駆動回数、及び空冷による放熱特性Hから、温度変化分ΔTを以下の(10)式で求める。
ΔT=(αEL―βML)×NL+(αEM―βMM)×NM
+(αES―βMS)×NS+αET×NT
+(αEK―βMK)×NK
-γH ・・・(10)
【0087】
ここで、上記(10)式中のET、NTは、微駆動(tickle)による発熱量と駆動回数を表す。EK、MK、NKは、空吐出による発熱量、放熱量、駆動回数を表す。EL、ML、は、大滴による発熱量と放熱量、EM、MMは、中滴による発熱量と放熱量、ES、MSは、小滴による発熱量と放熱量、Hは空冷に伴う放熱量、を表す。ここで、係数α、β、γは、上述のように予め実験を行って算出されて、記憶部303に記憶されている。各滴種(大・中・小・空吐出)の放熱量ML、MM、MS、MK、及び各滴種(大・中・小・微駆動・空吐出)の発熱量EL、EM、ES、ET、EKは、全て駆動波形や駆動時間、駆動電圧などで変化する変数である。各滴種(大・中・小・空吐出)の放熱量ML、MM、MS、MKは、例えば、上記(iii)で求められた滴量と駆動回数を用いて、(2)式に基づき算出できる。各滴種(大・中・小・微駆動・空吐出)の発熱量EL、EM、ES、ET、EKは、例えば、対象の記録ヘッド110の構造に応じて(1)式により算出できる。空冷による放熱量Hは、第1測定部301により測定されたヘッド近傍温度TT1と、第2測定部302により測定された機内温度TT2との差分に基づき、(3)~(5)式により算出できる。
【0088】
(v)液室内インク温度TIをΔT分補正する(TI=TT+ΔT)。
【0089】
なお、ステップS05の手順(v)は、推定部304の代わりに制御部305が行ってもよい。この場合、推定部304は、手順(iv)で算出した温度変化分ΔTの情報を制御部305に出力し、制御部305は推定部304から入力された情報を用いて推定温度TIを算出すればよい。
【0090】
ステップS06では、制御部305により、ステップS05にて予測されたインク温度、すなわち上記の手順(v)にて補正された液室内インク温度TIに従い、次回のNページ目(ここでは2ページ目)用の駆動波形のデータが生成される。
【0091】
駆動波形のデータは、例えば記憶部303に予め記憶されており、制御部305が液室内インク温度TIに基づき適宜選択する。記憶部303には、複数の温度範囲ごとに、大滴、中滴、小滴を吐出させるための駆動波形が記憶されている。制御部305は、例えば、液室内インク温度TIに適合する大適用、中滴用、小滴用の駆動波形を、それぞれ記憶部303に記憶されている複数の波形から選択する。すなわち、ステップS05にて予測された液室内インク温度の推定値TI(推定温度)は、ステップS06にて駆動波形データを選択するために用いられる「駆動波形選択温度」である。
【0092】
制御部305は、選択した駆動波形に基づき記録ヘッド110の動作を制御する。例えば、選択した駆動波形に基づき、タイミング制御信号によって制御される吐出動作を一周期にて印加される駆動電圧波形となるように生成して、記録ヘッドドライバ21に渡す。
【0093】
ステップS07では、パラメータNがステップS02で求めた画像データのページ数nに到達したか(N=n)か否かが判定される。まだnページに到達していない場合(S07のNO)には、ステップS08にてパラメータNに1増分され(N=N+1)、ステップS04に戻り、nページ分の印刷が完了するまで次ページのステップS04~S06までの処理が繰り返し実施される。
【0094】
パラメータNがページ数nに到達した場合(S07のYES)には、画像データの全ページの印刷が完了したので印刷を終了する。
【0095】
このような制御を行うことで、温度補正分ΔTは1ジョブが終わるまで積算される。例えば1ジョブが100ページ分の画像データの印刷の場合、インク温度の予測値TI(n)(nはページ数)は、以下の(11)式のように温度補正分が積算されて更新される。
TI(0)=TT(0)
TI(1)=TI(0)+ΔT(1)
TI(2)=TI(1)+ΔT(2)
・・・・・・・TI(100)=TI(99)+ΔT(100) ・・・(11)
【0096】
また、1ジョブが終了したときには、温度補正分ΔTの積算をやめ、インク温度の推定値TIは初期値のサーミスタ温度TTにリセットされる。
【0097】
このように、吐出前はサーミスタ温度(ヘッド近傍温度TT1)=液室内インク温度であるため、インク実温に適した駆動波形になるが、印字していくと、サーミスタ温度と液室内インク温度は乖離していく。このため従来のようにサーミスタ温度に基づき記録ヘッド110の駆動波形を決定すると、実際のインク温度に適さない記録ヘッド110の動作となる虞がある。これに対して本実施形態では、上述のように記録ヘッド110の動作に応じたインク温度の変化分ΔTを考慮して液室内インク温度TIを推定することで、駆動波形の制御に用いる温度情報(すなわち液室内インク温度の推定値TI)と、実際の液室内インク温度との乖離を軽減でき、これにより、実際のインク温度に適した記録ヘッド110の駆動波形を決定することが可能となる。
【0098】
図8図10を参照して、ステップS06において制御部305により選択される駆動波形のデータ例を説明する。
【0099】
図8は、大滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図である。図8(A)はインク温度が0~5℃の場合の大滴の駆動波形、図8(B)はインク温度が20~25℃の場合の大滴の駆動波形、図8(C)はインク温度が35℃以上の場合の大滴の駆動波形の一例が示されている。図8の各図の縦軸は記録ヘッド110に印加する駆動電圧を示し、横軸は時間を示す。図8(A)~(C)に示すように、インク温度の違いによって駆動波形も異なることがわかる。本実施形態では、記録ヘッド110の動作に応じたインク温度の変化分ΔTを考慮してインク温度TIを精度良く推定できるので、図8に例示する大滴の駆動波形において、より実際のインク温度に近く、より適切な駆動波形を選択することができる。
【0100】
図9は、中滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図である。図9の(A)~(C)は、図8と同様のインク温度に応じた駆動波形の一例が示されている。図9(A)~(C)に示すように、中滴の場合でも、インク温度の違いによって駆動波形も異なることがわかる。本実施形態では、記録ヘッド110の動作に応じたインク温度の変化分ΔTを考慮してインク温度TIを精度良く推定できるので、図9に例示する中滴の駆動波形においても、より実際のインク温度に近く、より適切な駆動波形を選択することができる。
【0101】
図10は、小滴の場合のインク温度に応じた駆動波形の違いの一例を示す図である。図10の(A)~(C)は、図8図9と同様のインク温度に応じた駆動波形の一例が示されている。図10(A)~(C)に示すように、小滴の場合でも、インク温度の違いによって駆動波形も異なることがわかる。本実施形態では、記録ヘッド110の動作に応じたインク温度の変化分ΔTを考慮してインク温度TIを精度良く推定できるので、図10に例示する小滴の駆動波形においても、より実際のインク温度に近く、より適切な駆動波形を選択することができる。
【0102】
以上に説明したように、本実施形態に係る液体吐出装置300は、記録ヘッド110から液状の記録材を記録媒体Pに吐出して記録を行う液体吐出装置である。液体吐出装置300は、記憶部303を備える。記憶部303は、記録ヘッド110の駆動による記録ヘッド110の発熱特性(上記(7)式を参照して説明した発熱量EL、EM、ES、ET、EKなど)及び放熱特性(上記(10)式を参照して説明した放熱量ML、MM、MS、MKを算出するための適量((2)式のVL、VM、VS)などのパラメータ)を記録材の滴サイズ別に記憶するように構成される。また、液体吐出装置300は、記録ヘッド110の近傍の温度(ヘッド近傍温度TT1)を測定するように構成される第1測定部301と、機内の雰囲気温度である機内温度TT2を測定する第2測定部302と、第1測定部301により測定されたヘッド近傍温度TT1と、第2測定部302により測定された機内温度TT2と、記憶部303に記憶される滴サイズ別の記録ヘッド110の発熱特性EL、EM、ES及び放熱特性ML、MM、MSと、空冷による放熱特性Hと、を用いて、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定するように構成される推定部304と、推定部304により推定された記録ヘッド110の温度変化ΔTに基づき、記録ヘッドの駆動波形(例えば図8図10に例示する波形)を制御するように構成される制御部305と、を有する。より詳細には、推定部304は、第1測定部301により測定されたヘッド近傍温度TT1に基づき記憶部303から抽出される滴サイズ別の記録ヘッド110の発熱特性EL、EM、ES及び放熱特性ML、MM、MSと、第2測定部302により測定された機内温度と、第1測定部301により測定されたヘッド近傍温度との差分に基づき算出される空冷による放熱特性Hと、を用いて、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定する。
【0103】
この構成により、記録ヘッド110の駆動による記録ヘッド110の発熱特性と放熱特性と、空冷による放熱特性と、を考慮して、印刷中の記録ヘッド110の温度変化分ΔTを推定して、この推定した温度変化分ΔTに基づき実際の記録ヘッド110の温度TIを予測できる。このため、印刷する画像の内容や、滴種の配分などの印刷条件に応じて記録ヘッド110の実際の温度を精度良く推定でき、この推定温度に基づいて、適切な駆動波形を選択することができる。この結果、本実施形態の液体吐出装置300は、記録ヘッド110の駆動波形を精度良く制御できる。
【0104】
また、本実施形態では、推定部304は、温度変化の推定処理の実施前であって記録ヘッド110の推定温度TIを取得していない場合には、第1測定部301により測定されたヘッド近傍温度TT1を記録ヘッド110の推定温度TIの初期値TTと設定し、一方、温度変化の推定処理を過去に実施済であって、記録ヘッド110の過去の推定温度TIを取得している場合には、過去の推定温度TIを初期値TTと設定する構成でもよい。この場合、推定部304は、記録ヘッド110の温度変化を推定して、推定した温度変化を上述のように設定した初期値TTに累積加算して推定温度を補正する。制御部305は、推定部304により補正された推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、記録ヘッド110の駆動波形を選択する。
【0105】
この構成では、図7のフローチャートにて1ジョブが終了したとき(ステップS07のYES)には、この時点で温度補正分ΔTが積算された推定温度TIが、「過去の推定温度」として記憶部303などに保存される。そして、次回の制御実施時に、図7のフローチャートのステップS5の手順(i)にて初期値TTを設定する際には、記憶部303に記憶されている過去の推定温度TIを、初期値TTと設定することができる。
【0106】
この構成により、温度変化の推定処理の過去の実施の有無に応じて推定温度の初期値TTの設定内容を変更でき、特に温度変化の推定処理を過去に実施済の場合にはそのときに補正した過去の推定温度TIを初期値TTとして利用できるので、推定温度の補正をより印刷条件に適した高精度なものにできる。
【0107】
なお、本実施形態では、液体吐出装置300の推定部304は、第1測定部301により測定された温度を記録ヘッド110の推定温度TIの初期値TTと設定し、記録媒体Pに記録する画像データの1ページ印刷ごとに、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定して、推定した温度変化ΔTを初期値TTに累積加算して推定温度TIを補正する構成を例示したが、推定温度TIを補正するタイミングは他のタイミングでもよい。例えば、記録媒体Pへの記録ヘッド110の1スキャン印刷ごとに、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定して、推定温度TIを補正する構成でもよい。または、記録媒体Pへの記録ヘッド110の1回の吐出ごと(画素ごと)に、記録ヘッド110の温度変化ΔTを推定して、推定温度TIを補正する構成でもよい。また、これらの補正タイミングを組み合わせてもよい。
【0108】
これらの構成により、液室内インク温度の推定温度のTIの更新を行い、更新された推定温度TIに基づき駆動波形データを選択するタイミングを、さまざまな印刷条件に応じた適切なタイミングに設定することができるので、推定温度TIの補正をより印刷条件に適した高精度なものにできる。これにより、記録ヘッド110の駆動波形の選択を印刷条件に適した高精度なものにできる。
【0109】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0110】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 記録ヘッドから液状の記録材を記録媒体に吐出して記録を行う液体吐出装置であって、
前記記録ヘッドの駆動による前記記録ヘッドの発熱・放熱特性を前記記録材の滴サイズ別に記憶するように構成される記憶部と、
前記記録ヘッドの近傍の温度を測定するように構成される第1測定部と、
機内の雰囲気温度である機内温度を測定する第2測定部と、
前記第1測定部により測定されたヘッド近傍温度に基づき、前記記憶部から抽出される前記滴サイズ別の前記記録ヘッドの発熱・放熱特性と、前記第2測定部により測定された前記機内温度と前記ヘッド近傍温度との差分に基づき算出される空冷による放熱特性と、を用いて、前記記録ヘッドの温度変化を推定するように構成される推定部と、
前記推定部により推定された前記記録ヘッドの前記温度変化に基づき、前記記録ヘッドの駆動波形を制御するように構成される制御部と、
を有する、
液体吐出装置。
<2> 前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体に記録する画像データの1ページ印刷ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
前記<1>に記載の液体吐出装置。
<3> 前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体への前記記録ヘッドの1スキャン印刷ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
前記<1>または<2>に記載の液体吐出装置。
<4> 前記推定部は、
前記温度変化の推定処理の実施前であって前記記録ヘッドの推定温度を取得していない場合には、前記第1測定部により測定された前記ヘッド近傍温度を前記記録ヘッドの推定温度の初期値と設定し、
前記温度変化の推定処理を過去に実施済であって、前記記録ヘッドの過去の推定温度を取得している場合には、前記過去の推定温度を前記初期値と設定し、
前記記録媒体への前記記録ヘッドの1回の吐出ごとに、前記記録ヘッドの温度変化を推定して、前記推定した温度変化を前記初期値に累積加算して前記推定温度を補正し、
前記制御部は、前記推定部により補正された前記推定温度である駆動波形選択温度に基づいて、前記記録ヘッドの駆動波形を選択する、
前記<1>~<3>のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【符号の説明】
【0111】
110 記録ヘッド
300 液体吐出装置
301 第1測定部
302 第2測定部
303 記憶部
304 推定部
305 制御部
TI 推定温度
TT1 ヘッド近傍温度
TT2 機内温度
ΔT 温度変化分
P 記録媒体
EL、EM、ES 滴サイズ別の記録ヘッドの発熱特性
ML、MM、MS 滴サイズ別の記録ヘッドの放熱特性
H 空冷による放熱特性
【先行技術文献】
【特許文献】
【0112】
【特許文献1】特開2020-146956号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10