(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004698
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】光触媒膜被覆体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240110BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20240110BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240110BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240110BHJP
B01J 23/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J37/06
B01J37/08
B01J37/02 301B
B01J23/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104454
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】加藤 隆誠
(72)【発明者】
【氏名】越峠 晴貴
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA14
4G169BA01A
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4G169HF09
4G169HF10
(57)【要約】
【課題】紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体及びその製造方法の提供。
【解決手段】価電子帯と伝導帯のバンドギャップエネルギーが0.1eV~5.5eVである金属酸化物を含む光触媒膜を有する光触媒膜被覆体であって、前記光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が80%以上であり、前記光触媒膜の膜厚が0.5nm~200nmである光触媒膜被覆体及びその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
価電子帯と伝導帯のバンドギャップエネルギーが0.1eV~5.5eVである金属酸化物を含む光触媒膜を有する光触媒膜被覆体であって、
前記光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が80%以上であり、
前記光触媒膜の膜厚が0.5nm~200nmである、光触媒膜被覆体。
【請求項2】
前記金属酸化物が、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄、鉛、銅、タングステン、ニオブ、クロム、ストロンチウム、インジウム、ルテニウム、カドミウム、ガリウム、アンチモン、テルル、セレン及びハフニウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する、請求項1に記載の光触媒膜被覆体。
【請求項3】
前記光触媒膜中の前記金属酸化物の最小粒径をXnmとし、前記光触媒膜の膜厚をYnmとしたときに、下記式(1)及び下記式(2)を満たす、請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体。
0.5≦X≦200 ・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0 ・・・(2)
【請求項4】
前記光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が90%以上である、請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体。
【請求項5】
前記光触媒膜の膜厚が0.5nm~100nmである、請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体。
【請求項6】
JIS R 1703-1:2020に準拠して測定した前記光触媒膜の表面の水接触角が20°以下になるまでに要する時間が48時間以下である、請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体の製造方法であって、
前記金属酸化物の粒子分散液を基材に塗布し、乾燥及びエージングした後、溶剤で洗浄し、0℃~1000℃で焼結する、光触媒膜被覆体の製造方法。
【請求項8】
前記金属酸化物の粒子のモード径が200nm以下である、請求項7に記載の光触媒膜被覆体の製造方法。
【請求項9】
波長10nm~400nmにピークを有するスペクトルの光を照射する光源を更に有する、請求項1又は2に記載の光触媒膜被覆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒膜被覆体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、一般にそのバンドギャップ以上のエネルギーの光を照射すると、伝導帯に電子が励起され、価電子帯に正孔が生じる。励起されて生じた電子は表面酸素を還元してスーパーオキサイドアニオン(・O2
-)を生成すると共に、正孔は表面水酸基を酸化して水酸ラジカル(・OH)を生成し、これらの反応性活性酸素種が強い酸化分解機能を発揮し、光触媒からなる膜の表面に付着している有機物質を高効率で分解する光触媒性を有することが知られている。
【0003】
このような光触媒の光触媒性を応用して、例えば脱臭、防汚、抗菌、殺菌、更には廃水中や廃ガス中の環境汚染上の問題となっている各種物質の分解・除去等が検討されている。
【0004】
また、光触媒のもう1つの機能として、前記光触媒が光励起されると、光触媒膜表面は、水接触角が10°以下となる超親水化を発現することも知られている。このような光触媒の超親水化機能を応用して、例えば、防曇性、防滴性、防汚性、防霜性、滑雪性付与を目的として、高速道路の防音壁、道路反射鏡、各種反射体、街路灯、自動車をはじめとする車両のボディーコートやサイドミラーあるいはウインド用フィルム、窓ガラスを含む建材、道路標識、ロードサイド看板、冷凍・冷蔵用ショーケース、各種レンズ類やセンサー類、光源等に光触媒膜を用いることが検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、光触媒機能を有する酸化チタン薄膜被覆ガラス板の実用性を特定の手法で向上させることが記載されている。具体的には、表面圧縮応力が特定値以下であるガラス基板の表面にチタン元素を含有する薄膜を形成し、薄膜表面を特定の温度で加熱し、特定条件下で冷却することにより、酸化チタン薄膜被覆ガラス板の表面圧縮応力を向上させ、摩擦耐性を向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
透明性が要求されるガラス、プラスチック等の基材表面へ形成される光触媒膜には、光触媒膜自体の透明性も高いレベルで要求される。光触媒はそのバンドギャップ以上のエネルギーの光を吸収することから、高いレベルで透明性を確保するには膜厚を制御し表面に露出していない光触媒部を少なくする必要がある。
しかしながら、特許文献1に記載の酸化チタン薄膜被覆ガラス板においては、光触媒機能を有する酸化チタン膜の膜厚は、使用している酸化チタン粒子の粒径に対して十分に薄いものではなかった。そのため、特許文献1に記載の酸化チタン薄膜被覆ガラス板は、紫外線から可視光領域の広範な領域で高い透明性を有する用途に使用することが難しいものであった。
これまで、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体は知られていない。
【0008】
本発明は、前記の問題を鑑み、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題は、本発明の光触媒膜被覆体及びその製造方法によって解決される。詳しくは、本発明の光触媒膜を膜形成の対象となる基材の表面に形成することによって、上記課題は解決される。
即ち、本発明は、以下の[1]~[9]を要旨とする。
[1]価電子帯と伝導帯のバンドギャップエネルギーが0.1eV~5.5eVである金属酸化物を含む光触媒膜を有する光触媒膜被覆体であって、前記光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が80%以上であり、前記光触媒膜の膜厚が0.5nm~200nmである、光触媒膜被覆体。
[2]前記金属酸化物が、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄、鉛、銅、タングステン、ニオブ、クロム、ストロンチウム、インジウム、ルテニウム、カドミウム、ガリウム、アンチモン、テルル、セレン及びハフニウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する、前記[1]に記載の光触媒膜被覆体。
[3]前記光触媒膜中の前記金属酸化物の最小粒径をXnmとし、前記光触媒膜の膜厚をYnmとしたときに、下記式(1)及び下記式(2)を満たす、前記[1]又は[2]に記載の光触媒膜被覆体。
0.5≦X≦200 ・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0 ・・・(2)
[4]前記光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が90%以上である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の光触媒膜被覆体。
[5]前記光触媒膜の膜厚が0.5nm~100nmである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の光触媒膜被覆体。
[6]JIS R 1703-1:2020に準拠して測定した前記光触媒膜の表面の水接触角が20°以下になるまでに要する時間が48時間以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の光触媒膜被覆体。
[7]前記[1]~[6]のいずれかに記載の光触媒膜被覆体の製造方法であって、前記金属酸化物の粒子分散液を基材に塗布し、乾燥及びエージングした後、溶剤で洗浄し、0℃~1000℃で焼結する、光触媒膜被覆体の製造方法。
[8]前記金属酸化物の粒子のモード径が200nm以下である、前記[7]に記載の光触媒膜被覆体の製造方法。
[9]波長10nm~400nmにピークを有するスペクトルの光を照射する光源を更に有する、前記[1]~[6]のいずれかに記載の光触媒膜被覆体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1及び比較例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の波長200nm~400nmにおける光線透過率の測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例1及び比較例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の波長400nm~800nmにおける光線透過率の測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2及び比較例2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の波長200nm~400nmにおける光線透過率の測定結果を示すグラフである。
【
図4】実施例2及び比較例2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の波長400nm~900nmにおける光線透過率の測定結果を示すグラフである。
【
図5】実施例1及び比較例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材と、比較例5で得られた薄膜付きの基材における薄膜側の表面の水接触角の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両端の数値を含む。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
以下、本発明の実施形態に係る光触媒膜被覆体について説明する。
【0013】
「光触媒膜被覆体」
本発明の光触媒膜被覆体は、以下に示す光触媒膜を有する。
光触媒膜被覆体は、以下に示す光源を更に有することが好ましい。
光触媒性は最表面で作用する観点から、光触媒膜被覆体は、光触媒膜を最表面に有することが好ましい。
光触媒膜は、例えば後述する基材上に形成される。即ち、光触媒膜被覆体の一実施形態としては、基材と、基材上に形成された光触媒膜とを有することが好ましく、これらに加えて光源を更に有することがより好ましい。
【0014】
<光触媒膜>
光触媒膜は、価電子帯と伝導帯のバンドギャップエネルギーが0.1eV~5.5eVである金属酸化物を含む。
本発明において、光触媒膜とは、金属酸化物を含有する薄膜(以下、「金属酸化物の薄膜」とも記載する。)を意味する。
本発明において、価電子帯とは、絶縁体や半導体において、原子核の周囲に束縛されている電子のうち、最外殻に存在する電子、即ち価電子によって満たされたエネルギーバンドのことを意味する。
本発明において、伝導帯とは、バンドギャップのある系において、バンドギャップの直上にある、空のバンドのことを意味する。
本発明において、バンドギャップエネルギーとは、価電子帯の最高部と伝導帯の最低部とのエネルギー差を意味する。
【0015】
光触媒膜の膜厚は、0.5nm~200nmであり、0.5nm~100nmが好ましく、0.8nm~75nmがより好ましく、1.0nm~18nmが更に好ましい。光触媒膜の膜厚が上記範囲内であれば、高い透明性と機械的強度を維持できる。
本発明において、光触媒膜の膜厚は実施例に記載の方法で測定される。
【0016】
光触媒膜の波長200nm~800nmの光線透過率は80%以上であり、90%以上であることが好ましい。前記波長域の光線透過率が80%以上であれば、様々な用途に適する十分な透明性が得られる。即ち、光触媒膜及び光触媒膜被覆体が透明であることを意味する。
本発明において、「波長Anm~Bnmの光線透過率がC%以上」とは、Anm~Bnmの波長領域の全域において、光線透過率がC%以上であることを意味する。
本発明において、光触媒膜及び光触媒膜被覆体の光線透過率は、石英ガラス基板の分光特性に対する相対値で示した値を意味する。
【0017】
透明性がより向上する観点から、光触媒膜の波長400~800nmにおける光線透過率(1)は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
透明性がより向上する観点から、光触媒膜の波長280~400nmにおける光線透過率(2)は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
透明性がより向上する観点から、光触媒膜の波長200~280nmにおける光線透過率(3)は、80%以上好ましく、90%以上がより好ましい。
光触媒膜は、光線透過率(1)~(3)がいずれも、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0018】
透明性がより向上する観点から、光触媒膜の可視光領域の全域における光線透過率は、80%以上であり、90%以上が好ましい。なお、可視光領域とは、400nm以上780nm以下の波長領域を意味する。
透明性がより向上する観点から、光触媒膜のUV-A領域の全域における光線透過率は、80%以上であり、90%以上が好ましい。なお、UV-A領域とは、315nm以上400nm未満の波長領域を意味する。
透明性がより向上する観点から、光触媒膜のUV-B領域の全域における光線透過率は、80%以上であり、90%以上が好ましい。なお、UV-B領域とは、280nm以上315nm未満の波長領域を意味する。
透明性がより向上する観点から、光触媒膜のUV-C領域の全域における光線透過率は、200nm以上の領域で80%以上であり、90%以上が好ましい。なお、UV-C領域とは、100nm以上280nm未満の波長領域を意味する。
紫外領域の光線透過率を前記の各波長領域で高くすることにより、光触媒膜やそれを被覆した基材、即ち、光触媒膜被覆体を、紫外線照射用装置の保護カバー等の用途にも用いることができる。
【0019】
様々な用途に適する透明性をより確保しやすい観点から、光触媒膜の光線透過率は200nm~800nmの光線透過率が80%以上であり、100nm~900nmの光線透過率が80%以上であることがより好ましい。
なお、光触媒膜のヘイズは、特に限定されない。
【0020】
光触媒膜に高い透明性を付与しやすい、具体的には、波長200nm~800nmの光線透過率を80%以上に容易に制御しやすくなる観点から、光触媒膜中の金属酸化物の最小粒径をXnmとし、金属酸化物薄膜の膜厚をYnmとしたときに、下記式(1)及び下記式(2)を満たすことが好ましい。
0.5≦X≦200 ・・・(1)
1.0≦Y/X≦3.0 ・・・(2)
【0021】
Xについては、後述する。
Y/Xは、十分な機械的物性、耐久性を維持できる観点から、1.0以上であり、1.1以上が好ましく、1.2以上がより好ましい。また、Y/Xは、十分な光線透過率をより良好に維持できる観点から、3.0以下であり、2.5以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。
【0022】
光触媒膜の表面における、大気中での水接触角は特に限定されないが、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時により高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体とすることができる観点から、10°以下が好ましく、9.0°以下がより好ましく、8.5°以下が更に好ましい。
本明細書において、光触媒膜の表面における、大気中での水接触角は実施例に記載のJIS R 1703-1:2020(ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法第1部:水接触角の測定)に準拠した方法で測定される。
【0023】
光触媒膜の表面における、水中での油滴の接触角は特に限定されないが、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時により高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体とすることができる観点から、100°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、115°以上が更に好ましい。
本明細書において、光触媒膜の表面における、水中での油滴の接触角は実施例に記載のJIS R 1703-1:2020(ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法第1部:水接触角の測定)に準拠した方法で測定される。
【0024】
光触媒膜の表面の水接触角が20°以下になるまでに要する時間(以下、「水接触角低下時間」とも記載する。)は72時間以下が好ましく、48時間以下がより好ましい。水接触角低下時間が短いほど、光触媒性に優れる。
本発明において、光触媒膜の表面の水接触角は実施例に記載のJIS R 1703-1:2020(ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法第1部:水接触角の測定)に準拠した方法で測定される。
【0025】
光触媒膜の表面粗さ(Ra)は、光触媒膜の均一性が高まる観点から、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、70nm以下が更に好ましく、50nm以下がより更に好ましく、30nm以下が特に好ましく、15nm以下がより特に好ましく、10nm以下が更に特に好ましく、5nm以下が最も好ましく、3nm以下が特に最も好ましい。また、光触媒膜の表面粗さ(Ra)は、親水性、防曇性が高まる観点から、0.01nm以上が好ましく、0.03nm以上がより好ましく、0.05nm以上が更に好ましく、0.07nm以上が特に好ましく、0.1nm以上が最も好ましい。
【0026】
光触媒膜の表面粗さの最大値(Rmax)は、光触媒膜の均一性が高まる観点から、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましくは、100nm以下がより更に好ましく、50nm以下が特に好ましく、30nm以下がより特に好ましく、20nm以下が更に特に好ましく、15nm以下が最も好ましい。また、光触媒膜の表面粗さの最大値(Rmax)は、親水性、防曇性が高まる観点から、0.05nm以上が好ましく、0.1nm以上がより好ましく、0.5nm以上が更に好ましく、0.7nm以上が特に好ましく、1.0nm以上が最も好ましい。
【0027】
<金属酸化物>
金属酸化物は、ジルコニウム、チタン、セリウム、インジウム、スズ、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、鉄、鉛、銅、タングステン、ニオブ、クロム、ストロンチウム、インジウム、ルテニウム、カドミウム、ガリウム、アンチモン、テルル、セレン及びハフニウムからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する金属酸化物であることが好ましい。
透明性がより高まる観点から、金属酸化物は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、スズからなる群より選ばれる1種以上の金属元素を含有する金属酸化物であることがより好ましく、酸化チタンを含有する金属酸化物であることが更に好ましい。
光触媒性の観点から、金属酸化物は、光触媒膜を構成していることが好ましい。
金属酸化物は、粒子状であることが好ましい。以下、粒子状の金属酸化物を「金属酸化物の粒子」とも記載する。
金属酸化物の最小粒径(X)及びモード径については、後述する。
【0028】
<基材>
基材としては特に制限されないが、例えば、ガラス等の無機基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等のポリマーフィルム基材等が挙げられる。
基材には、金属酸化物薄膜の密着性を高めるために表面処理が施されていてもよい。表面処理液としては、例えば、シランカップリング剤、有機金属等が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、トリス(2-メトキシエトキシ)ビニルシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。有機金属としては、例えば、有機チタン、有機アルミニウム、有機ジルコニウム等が挙げられる。シランカップリング剤又は有機金属を有機溶媒、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等で0.1~5質量%の濃度に希釈したものを用いることもできる。この表面処理液をスピナー等で基材上に均一に塗布した後に乾燥することによって表面処理ができる。
【0029】
<光源>
光触媒膜を構成する金属酸化物のバンドギャップエネルギー以上のエネルギーを有する波長の光を照射することで光触媒性を発現できるという観点から、光触媒膜被覆体は、波長10nm~400nmにピークを有するスペクトルの光を照射する光源を有することが好ましい。
透明性がより高まる観点から、光触媒膜被覆体は基材側に光源を有することが好ましい。
光源としては特に限定されないが、例えば、放射熱による白熱電球、ハロゲン電球、放電発行による水銀灯、蛍光灯、電界発光によるエレクトロルミネセンス、発光ダイオード、レーザー発光によるエキシマレーザー等が挙げられる。
【0030】
<作用効果>
本発明の光触媒膜被覆体が本発明の効果を奏する理由は、以下に限られるものではないが、以下の(i)のように推察することができる。
(i)価電子帯と伝導帯のバンドギャップエネルギーが0.1eV~5.5eVである金属酸化物を含む光触媒膜を有する光触媒膜被覆体において、光触媒膜の波長200nm~800nmにおける光線透過率が80%以上であり、光触媒膜の膜厚が0.5nm~200nmであることで、波長200nm~800nmの広範囲で、より好ましくは、波長200nm~900nmの広範囲で光触媒膜被覆体に高い光線透過率を付与できる。即ち、光触媒膜被覆体に優れた透明性を付与できるため、透明性を有する基材に光触媒膜を形成しても、光触媒膜被覆体の透明性が損なわれ難い。
以上の理由により、本発明の光触媒膜被覆体は、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能であると推察される。
【0031】
更に、以下の(ii)により、光触媒膜被覆体は、透明性及び光触媒性に加えて、防曇性及び防汚性に優れるようになるものと推察される。
(ii)光触媒膜の表面粗さ(Ra)が適度に小さい、具体的には200nm以下であれば、ナノオーダーで高さがある程度揃った微細な凹凸が形成され、光触媒膜の親水性を高くすることができる。このため、高湿度下でも曇りにくく、防曇性が高く、水中で有機物が付着しにくく、防汚性が高いという機能を基材に付与することができる。
以上の理由により、光触媒膜の表面粗さ(Ra)を適度に小さくすることで、光触媒膜被覆体は、透明性、防曇性及び防汚性に優れるようになるものと推察される。
【0032】
更に、以下の(iii)、(iv)により、光触媒膜被覆体は、透明性及び光触媒性に加えて、機械的物性と耐久性とを同時に高いレベルで実現可能とし得るものと推察される。
(iii)光触媒膜は概して高い硬度を有するので、基材に光触媒膜を設けることにより、基材を傷付きにくくすることができる。
(iv)光触媒膜は、実質的に金属酸化物のみからなる膜として形成することもできる。したがって、実質的に金属酸化物のみからなる光触媒膜とした場合は、光触媒膜や光触媒膜被覆体の使用中に、光触媒膜から不純物等が溶け出して周囲に悪影響を及ぼす可能性が大きく低減され得る。
以上の理由により、光触媒膜被覆体は、機械的物性と耐久性とを同時に高いレベルで実現可能であると推察される。
【0033】
<用途>
前記(i)~(iv)にて推察した効果を奏することにより、本発明の光触媒膜被覆体は、光学用のガラスや光学用のプラスチックの表面処理、医療用、紫外線照射装置用の金属、ガラス、プラスチック等の表面被覆用膜として極めて有用である。
具体的な例を挙げると、内視鏡レンズの表面に前記光触媒膜を設けた場合、繰り返し使用しても、傷つきにくく、曇りにくく、汚れにくいレンズが得られる。このため、内視鏡による観察や手術の精度を向上させることが可能である。また、実質的に金属酸化物のみからなる光触媒膜とすることにより、使用中に金属酸化物膜から不純物等が溶出してくることが極めて少なくなるため、人体への影響も非常に少なくすることができる。
【0034】
<光触媒膜被覆体の製造方法>
光触媒膜被覆体を製造する方法としては特に限定されないが、例えば、所定の粒径を有する金属酸化物の粒子分散液を基材に塗布し(塗布工程)、得られた塗膜を乾燥及びエージングした後(乾燥及びエージング工程)、塗膜を溶剤で洗浄し(洗浄工程)、洗浄後の塗膜を0℃~1000℃で焼結する(焼結工程)ことで、光触媒膜被覆体を製造することができる。即ち、光触媒膜被覆体の製造方法は、塗布工程と、乾燥及びエージング工程と、洗浄工程と、焼結工程とを有することが好ましい。
金属酸化物の粒子としては、後記の方法により合成した金属酸化物の粒子を用いることが好ましい。
金属酸化物の粒子分散液を基材に均一に塗布できる観点から、金属酸化物の粒子分散液は、金属酸化物粒子を分散剤により有機溶媒中に分散安定化させた分散液であることが好ましい。
【0035】
なお、光触媒膜被覆体の製造方法においては、金属酸化物の粒子と基材表面との間で何らかの相互作用が生じるものと考えられる。そして、このことが一つの要因となって、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体を製造することができる。
【0036】
[金属酸化物の粒子分散液の調製]
金属酸化物の粒子と後述の分散剤とを有機溶媒中に添加することで、また、後述のように金属酸化物の粒子を作製する際の反応液にカルボン酸類等の分散剤を添加しておくことで、金属酸化物の粒子が有機溶媒に分散し、安定した金属酸化物の粒子分散液(以下、単に「分散液」とも記載する。)を調製することができる。金属酸化物の粒子は、金属酸化物に結合又は金属酸化物を修飾している分散剤等の添加剤が有機溶媒によって溶媒和されるため、他の特殊な分散剤を加えたり、特殊な操作を追加したりすることなく、汎用の有機溶媒中に前記粒子を添加することによって、安定した分散液を調製することができる。
【0037】
有機溶媒としては、金属酸化物の粒子を分散させ得るものであればどのようなものでも使用でき、単独又は数種類を組み合わせて使用することもできる。
有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレン等の脂肪族炭化水素系;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセチルアセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、N-メチルピロリドン等のケトン類;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メトキシエタノール、エトキシエタノール等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩化脂肪族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の酢酸エステル類等が挙げられる。金属酸化物の粒子の分散安定性が高まる観点から、有機溶媒としては、ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジエチルエーテル、トルエン、デカヒドロナフタレン、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が好ましい。
【0038】
分散液に用いる有機溶媒の量は特に限定されないが、経済的に安定した分散液を調製できる観点から、金属酸化物粒子と有機溶媒との合計質量に対して、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、99.7質量%以下が好ましく、99.5質量%以下がより好ましく、99質量%以下が更に好ましい。
【0039】
分散剤としては、金属酸化物の粒子を分散させ得る作用を有する化合物であればどのような化合物でも使用でき、例えば、カプリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、チグリン酸、プロピオン酸、メチル酪酸、ヘキサン酸、ノナン酸、o-トルイル酸、p-トルイル酸、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、4-トリフルオロメチル安息香酸、フェニルチオ酢酸、オレイン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等のカルボン酸が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。分散剤としては、カプリル酸、アクリル酸、4-トリフルオロメチル安息香酸が好ましい。
【0040】
分散液に用いる分散剤の量としては特に限定されないが、経済的に安定した分散液を調製できる観点から、金属酸化物の粒子100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上が更に好ましい。また、70質量部以下が好ましく、65質量部以下がより好ましく、60質量部以下が更に好ましい。
【0041】
金属酸化物の粒子分散液は、カルボン酸以外の低分子分散剤、バインダー樹脂等の高分子分散剤、増粘剤、界面活性剤、消泡剤、紫外線吸収剤、乳化剤等を更に含有していてもよい。
【0042】
[塗布工程]
金属酸化物の粒子分散液の基材への塗布方法は、基材の材質や形状により、自由に選択される。例えば、基材が直径又は長辺が300mm以下の平板状のものであれば、スピンコートが可能である。基材が広幅のフィルム状であれば、グラビアロール、リップロール、リバースロール等を用いてロールtoロールで連続的に塗布することも可能である。また、表面が立体的で複雑な形状の場合は、ディップコートやスプレーコートで塗布することも可能である。
基材としては、上述したものが挙げられる。また、表面処理が施された基材を用いてもよい。
本明細書において、基材へ塗布された金属酸化物の粒子分散液を「塗膜」とも記載する。
【0043】
[乾燥及びエージング工程]
塗膜の乾燥(乾燥工程)は、塗膜中の有機溶媒を一定量以下にするために行われる。そのため、乾燥の温度と時間は、塗膜に要求される残存有機溶媒量とその有機溶媒の種類によって決定される。塗布後の乾燥条件は任意である。
また、乾燥雰囲気についても空気中、窒素雰囲気中、減圧下等、特に制限されない。具体的には、塗膜を乾燥するための温度は、20℃~300℃が好ましく、25℃~200℃がより好ましい。塗膜を乾燥するための時間は、1秒間~1800秒間が好ましく、2秒間~1200秒間がより好ましい。塗膜を乾燥することにより、塗膜中の有機溶媒の量を、塗布した分散液の質量に対し50質量%以下にすることができる。
【0044】
塗膜のエージング(エージング工程)は、後述の洗浄工程及び焼結工程を経て得られる金属酸化物の薄膜の欠陥を減少させ、金属酸化物の薄膜の機械的強度を向上させるために行う。塗膜のエージングにより、金属酸化物の粒子の凝集及び基材との間で非共有結合等の結合が起きていると考えられ、これにより上記目的を達成できると考えられる。その目的を達成するために、塗膜のエージングの条件は任意に設定される。具体的には、塗膜をエージングするための温度は、5℃~300℃が好ましく、10℃~200℃がより好ましい。塗膜をエージングするための時間は、0.01分間~180分間が好ましく、0.02分間~60分間がより好ましい。
なお、エージング工程は、乾燥工程の後に行ってもよいし、乾燥工程と合わせて行ってもよい。即ち、エージング工程は乾燥工程を兼ねていてもよい。
【0045】
[洗浄工程]
乾燥及びエージング工程後の塗膜の洗浄は、塗膜中の金属酸化物の粒子の量を、基材に塗布した金属酸化物の粒子の質量に対し50質量%以下にするために行われる。乾燥及びエージング工程後の塗膜の洗浄に使用される溶剤(以下、「洗浄溶媒」とも記載する。)は、分散液の製造に使用した前記有機溶媒を使用することができる。また、エステル系溶媒を洗浄溶媒として用いてもよい。エステル系溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等のモノカルボン酸エステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等の多価アルコールの部分エーテルカルボキシレート系溶媒、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒を用いることができる。
【0046】
塗膜の洗浄方法は、基材の種類や形状により任意に選択される。洗浄の条件を最適化することにより、所望の厚さの塗膜を得ることが可能となる観点から、塗膜を洗浄するための洗浄溶媒の温度は、0℃~80℃が好ましく、5℃~60℃がより好ましい。使用する洗浄溶媒の量は、所望の厚さの塗膜を得ることが可能となれば特に限定されない。
【0047】
乾燥工程と洗浄工程を両方備えることで、例えば、乾燥工程で十分に除去できない高沸点溶媒等を洗浄工程で十分に除去することができる。
乾燥工程及びエージング工程後に洗浄工程を備えることで、金属酸化物の粒子の凝集、基材との結合生成により塗膜の機械的強度を向上させ、かつ過剰な金属酸化物の粒子を除去することにより透過率も同時に向上させることができる。
【0048】
洗浄工後の塗膜の膜厚は特に限定されないが、紫外線から可視光領域の広範な領域で透明性及び光触媒性を同時により高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体とすることができる観点から、0.5nm~600nmが好ましく、0.5nm~300nmがより好ましく、1.0nm~150nmが更に好ましく、1.0nm~100nmがより更に好ましく、1.5nm~50nmが特に好ましく、1.5nm~25nmがより特に好ましく、2.0nm~15nmが更に特に好ましく、2.0nm~10nmが最も好ましい。
【0049】
[焼結工程]
洗浄工後の塗膜の焼結工程は、得られる金属酸化物の薄膜の機械的強度を向上させるために必要な工程であるが、その温度と時間は、使用する金属酸化物の粒子分散液の種類によって決定される。焼結工程によって金属酸化物の粒子が強固に結着し、所望の機械的強度を発現する。焼結工程の条件は、基材の耐熱性も考慮して決定すればよい。
洗浄工程と焼結工程の最適化により、得られる金属酸化物の薄膜の厚さが決定され、かつ、光触媒膜の表面に金属酸化物の粒子の大きさに由来するナノレベルの微細な凹凸構造が形成される。
【0050】
上述した塗布工程、乾燥及びエージング工程、洗浄工程及び焼結工程を経ることで、金属酸化物の薄膜である光触媒膜が基材の表面に設けられ、基材の表面を光触媒膜が覆うことにより、金属酸化物の薄膜被覆体である光触媒膜被覆体が得られる。
【0051】
<金属酸化物の粒子>
前記金属酸化物の粒子としては、例えば、上述した金属酸化物と同じ金属酸化物の粒子が挙げられる。金属酸化物の粒子の具体例としては、例えば、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ハフニウム、酸化亜鉛等の粒子が挙げられる。これらの中でも、透明な分散液が得られる観点から、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化亜鉛、酸化スズのうちの1種以上の金属酸化物の粒子が好ましく、酸化チタンの粒子がより好ましい。
但し、金属酸化物の粒子を構成する金属酸化物は、ここに例示したものに限定されない。金属酸化物は、1種が単独で金属酸化物の粒子を構成していてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で金属酸化物の粒子を構成していてもよい。
【0052】
光触媒膜の耐擦傷性等が高まる観点から、金属酸化物の粒子は、金属酸化物のナノ粒子が好ましく、結晶性金属酸化物のナノ粒子がより好ましい。
本明細書においては、ナノサイズより大きい粒子径を有する金属酸化物の粒子や結晶性金属酸化物の粒子、金属酸化物のナノ粒子、結晶性金属酸化物のナノ粒子をまとめて「金属酸化物の粒子」と称することがある。
【0053】
金属酸化物の粒子の最小粒径(X)は任意であるが、金属酸化物の最小粒径(X)を規定することは、例えば、金属酸化物の粒子を目的に応じた分散媒体に透明分散させるためには重要である。
金属酸化物の最小粒径(X)、換言すれば、金属酸化物薄膜被覆体に含まれる金属酸化物の最小粒径(X)は、0.5nm以上が好ましく、1.0nm以上がより好ましい。また、金属酸化物の最小粒径(X)は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましく、10nm以下が特に好ましい。金属酸化物の最小粒径(X)が前記下限値以上であれば、薄膜を形成したときに適度な微細な凹凸構造が形成されやすく、親水性を発現させやすくなる。金属酸化物の最小粒径(X)が前記上限値以下であれば、金属酸化物の粒子を透明に分散させやすくなり、また、薄膜を形成したときの表面凹凸構造が粗くなることが回避され、上述した範囲の表面粗さ(Ra)を持つ微細な凹凸構造を有する薄膜が形成されやすくなり、親水性を発現させやすくなる。
なお、金属酸化物の最小粒径(X)は、原子間力顕微鏡(AFM)により測定することができる。本明細書においては、実施例に記載の手順で、複数の粒子の一次粒子の粒子径を測定し、それらの粒子径のうち最小の値を最小粒径(X)としている。
【0054】
また、金属酸化物の最小粒径(X)は、X線回折測定の2θ=30°付近の(111)面のピーク半価幅より下記のScherrer式(式(3))を用いて計算することができる。
〔Scherrer式〕
結晶子サイズ(D)=K・λ/(β・cosθ) ・・・(3)
ここで、KはScherrer定数でK=0.9であり、X線(CuKα1)波長(λ)=1.54056Å(1Å=1×10-10m)である。また、CuKα線由来のブラッグ角(θ)及び半価幅(βo)はプロファイルフィッティング法(Peason-XII関数又はPseud-Voigt関数)により算出される。更に、計算に用いた半価幅βは予め標準Siにより求めておいた装置由来の半価幅(βi)から下記式(4)を用いて補正される。
β=(βo2-βi2)1/2 ・・・(4)
【0055】
金属酸化物のモード径、換言すれば、金属酸化物薄膜被覆体に含まれる金属酸化物のモード径は特に限定されないが、均一微細な凹凸構造を形成させ表面粗さ(Ra)を所定の範囲とすることができる観点から、0.1nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましく、1.0nm以上が更に好ましい。また、金属酸化物のモード径は、表面粗さ(Ra)を所定の範囲とすることができる観点から、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が更に好ましく、150nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。特に、上述した範囲の表面粗さ(Ra)を持つ微細な凹凸構造を有する薄膜が形成されやすくなる観点から、金属酸化物の粒子のモード径は200nm以下であることが好ましい。
なお、金属酸化物のモード径は、動的光散乱法によって測定される粒度分布の最頻粒子径である。本明細書においては、実施例に記載の手順で、複数の粒子の一次粒子の体積基準の粒度分布を測定することによりモード径を求めている。
【0056】
また、後述する金属酸化物の粒子の製造方法において、反応液原料の添加剤としてカルボン酸類を使用した場合、あるいは添加剤としてカルボン酸を添加せず、金属酸化物の粒子を回収後にカルボン酸類を使用した場合には、各粒子の表面にはカルボン酸類が吸着する。この場合、有機溶媒に対する各粒子の分散性は、より一層向上する。各粒子に吸着したカルボン酸類の量は任意であり、その用途に応じて所望の量を吸着させるようにすればよい。なお、前記金属酸化物粒子にカルボン酸類が吸着していることは赤外吸収分光法(IR)により確認できる。
【0057】
<金属酸化物の粒子の製造方法>
結晶性金属酸化物のナノ粒子に代表される金属酸化物の粒子は、例えば、金属酸化物の前駆体をアミン類の存在下、分子内に酸素原子を有する有機溶媒を用いたソルボサーマル法により合成する。
【0058】
[ソルボサーマル法]
ソルボサーマル法とは、所定の溶媒の存在下、密閉容器中で高温の環境下で粒子を製造する方法であり、使用する溶媒ならびに合成温度に応じた圧力下で行う。
通常、金属酸化物の前駆体と、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒と、必要に応じて、所定量のアミン類とを共存させることにより、反応液を調製する。なお、反応液には、その他の成分が含有されていてもよい。例えば、反応液には、必要に応じて、アミン類以外の添加剤(以下、「その他の添加剤」とも記載する。)を含有させてもよい。これにより、この反応液は、分子内に酸素原子を有する有機溶媒中又は水溶媒に、金属酸化物の前駆体と、必要に応じてアミン類及びその他の添加剤の1つ以上が溶解又は分散した組成物として調製される。
【0059】
[金属酸化物の前駆体]
金属酸化物の前駆体としては、所望の金属酸化物の粒子が得られる限り任意の物質を使用することができる。したがって、合成しようとする結晶性金属酸化物のナノ粒子等の金属酸化物の粒子に含有される金属元素を含有する金属単体や金属化合物から適切なものを任意に選択して使用することができる。
金属酸化物の前駆体としては、例えば、金属塩化物、金属アセテート、金属アルコキシド、金属水酸化物が挙げられる。これらの中でも、副生する不純物(例えば、塩化物等)の発生を抑制できる観点から、金属アルコキシド、金属アセテート、金属水酸化物が好ましい。
【0060】
金属酸化物の前駆体としては、例えば、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウム-ジ-n-ブトキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタニウム-ジイソプロポキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、チタニウム-ジイソプロポキシド(ビスエチルアセトアセテート)、チタニウム-2-ヘキソキサイド、チタニウム-n-ブトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムメトキシプロポキシド、チタニウム-n-ノニロキシド、チタニウムオキシド(ビステトラメチルペンタンジオネート)、チタニウム-n-プロポキシド、チタニウムステアリルオキシド、チタニウムトリイソステアリルイソプロポキシド、チタニウムトリメチルシロキシド、ジルコニウム-n-ブトキシド、ジルコニウム-t-ブトキシド、ジルコニウム-ジ-n-ブトキシド(ビス-2,4-ペンタンジオネート)、ジルコニウム-ジイソプロポキシド(ビス-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウム-2-エチルヘキサノエート、ジルコニウム-2-エチルヘキソキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウム-2-メチル-2-ブトキシド、ジルコニウム-2,4-ペンタンジオネート、ジルコニウム-n-プロポキシド、ジルコニウム-2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート、ジルコニウムトリメチルシロキシド、ジルコニルプロピオネート、ハフニウム-n-ブトキシド、ハフニウム-t-ブトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウム-2,4-ペンタンジオネート、ハフニウムテトラメチルヘプタンジオネート、セリウム(III)アセテート水和物、セリウム-t-ブトキシド、セリウム-2-エチルヘキサノエート、セリウムイソプロポキシド、セリウムメトキシエトキシド、セリウム-2,4-ペンタンジオネート水和物、セリウム-2,2,6,6-テトラメチルヘプタンジオネート、水酸化セリウム、塩化スズ(IV)五水和物等が挙げられる。
【0061】
金属酸化物の前駆体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
金属酸化物の前駆体は、反応液中においてどのような状態で存在していてもよい。但し、通常は、金属酸化物の前駆体は分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒中に溶解した状態で存在することが好ましい。
【0062】
[分子内に酸素原子を有する有機溶媒]
分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、金属酸化物の前駆体が結晶性金属酸化物のナノ粒子等の金属酸化物の粒子へと変化する反応の反応溶媒として機能すると共に、金属酸化物の前駆体に酸素を供給する酸素供給源としても機能する。この分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、酸素を含有する有機溶媒であれば他に制限は無く任意のものを使用することができる。分子内に酸素原子を有する有機溶媒の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、前記反応の反応性及び酸素供給性能が高まる観点から、1以上30以下が好ましく、20以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。
分子内に酸素原子を有する有機溶媒の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、前記反応の反応性及び酸素供給性能が高まる観点から、32以上が好ましく、50以上がより好ましく、70以上が更に好ましい。また、分子内に酸素原子を有する有機溶媒の分子量は、500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下が更に好ましい。
分子内に酸素原子を有する有機溶媒の沸点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、溶媒の揮発性の観点から、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、100℃以上が更に好ましく、150℃以上が特に好ましい。また、分子内に酸素原子を有する有機溶媒の沸点は、300℃以下が好ましく、270℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。
【0063】
分子内に酸素原子を有する有機溶媒としては、例えば、アルコール類、ケトン類、アルデヒド類、エーテル類、エステル類、シロキサン類が挙げられる。また、これらの分子内に酸素原子を有する有機溶媒の1分子中に含まれる酸素原子の個数は、1個以上であれば特に限定されない。
分子内に酸素原子を有する有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、1-オクタノール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、アセトン、ベンズアルデヒド、シクロヘキサノン、アセトフェノン、ジフェニルエーテル、ヘキサメチルジシロキサンが挙げられる。これらの中でも、酸素供給性能に優れる観点から、ベンジルアルコール、メトキシエタノールが好ましい。
なお、分子内に酸素原子を有する有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0064】
分子内に酸素原子を有する有機溶媒の使用量に制限はないが、分子内に酸素原子を有する有機溶媒中の金属酸化物の前駆体の濃度は、0.1mol/L以上が好ましく、0.3mol/L以上がより好ましく、0.5mol/L以上が更に好ましい。また、分子内に酸素原子を有する有機溶媒中の金属酸化物の前駆体の濃度は、1.0mol/L以下が好ましく、0.8mol/L以下がより好ましく、0.6mol/L以下が更に好ましい。分子内に酸素原子を有する有機溶媒の使用量が前記範囲内であれば、ゲル化が生じにくく、また、金属酸化物の粒子の収量が低くなりにくい。
【0065】
[水溶媒]
水溶媒の使用量に制限はないが、水溶媒中の金属酸化物の前駆体の濃度は、0.1mol/L以上が好ましく、0.3mol/L以上がより好ましく、0.5mol/L以上が更に好ましい。また、水溶媒中の金属酸化物の前駆体の濃度は、1.0mol/L以下が好ましく、0.8mol/L以下がより好ましく、0.6mol/L以下が更に好ましい。水溶媒の使用量が前記範囲内であれば、ゲル化が生じにくく、また、金属酸化物粒子の収量が低くなりにくい。
【0066】
[アミン類]
アミン類は、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれを用いてもよい。但し、3級アミン類を用いると、金属酸化物の粒子の製造方法においてアミン類を使用した効果が小さくなる場合があるため、1級アミン類及び2級アミン類のうちの1種以上を用いることが好ましい。中でも、酸化劣化による着色が少ないという観点から、1級アミン類が好ましい。
また、アミン類としては、合成の際の粒子安定剤としての作用が高いという観点から、脂肪族アミン類が好ましい。特に、粒子成長の促進剤あるいは抑制剤としての効果が高いという観点から、1級及び2級のうちの1種以上の脂肪族アミン類を使用することが好ましい。
アミン類の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、8以上が好ましく、14以上がより好ましく、16以上が更に好ましい。また、アミン類の炭素数は、24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。アミン類の炭素数が前記範囲内にあれば、高温下で変性したアミンを除去しやすく、また、合成の際の粒子の安定剤としての効果を確保しやすい。
アミン類としては、例えば、1級アミンのうち、脂肪族アミンとしては、オレイルアミン、オクチルアミン等が挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、アニリン等が挙げられる。2級アミンのうち、脂肪族アミンとしては、例えば、ジオクチルアミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。
アミン類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0067】
アミン類の使用量は、金属酸化物の前駆体の全モル数に対して、0.5倍モル以上が好ましく、1.0倍モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上が更に好ましい。また、アミン類の使用量は、金属酸化物の前駆体の全モル数に対して、10倍モル以下が好ましく、6.0倍モル以下がより好ましく、4.0倍モル以下が更に好ましい。アミン類の使用量が前記下限値以上であれば、アミン類を使用した効果を確保しやすくなり、得られる金属酸化物粒子の粒子サイズが大きくなりにくく、得られる金属酸化物粒子の結晶性を良好にしやすくなる。また、アミン類の使用量が前記上限値以下であれば、前記製造方法において不純物の発生が抑制され、得られる金属酸化物の粒子の品質を良好にしやすくなる。
【0068】
なお、アミン類は、結晶成長促進剤、及び結晶成長抑制剤として作用することができる。
例えば、金属酸化物の粒子として酸化ジルコニウムを合成する場合、アミン類の使用により結晶成長が促進される。したがって、このようなアミン類を含む合成方法を用いることで、金属酸化物の粒子を従来よりも低温かつ短時間で合成しやすくなる。すなわち、金属酸化物の前駆体に対するアミン類の添加、合成温度、合成時間、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒等を適宜調節することで金属酸化物の粒子の結晶性、粒子のモード径等を制御することができる。
【0069】
[その他の添加剤]
反応液には、金属酸化物の前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒、アミン類の他に、その他の添加剤を共存させてもよい。
その他の添加剤としては、例えば、カルボン酸類、分子内に酸素原子を有する有機溶媒以外の溶媒(以下、「その他の溶媒」とも記載する。)、ホスフィン類等が挙げられる。
【0070】
(カルボン酸類)
カルボン酸類は、得られる結晶性金属酸化物のナノ粒子等の金属酸化物の粒子をカルボン酸類で修飾するための化合物である。分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒中にカルボン酸類を共存させることにより、表面にカルボン酸類を有する金属酸化物の粒子を得られるようになる。そのため、金属酸化物の粒子の有機溶媒又は水溶媒に対する分散性を向上させることが可能となる。分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒中にカルボン酸類を共存させて金属酸化物の粒子を合成してもよいし、カルボン酸類を共存させずに金属酸化物の粒子を合成した後にカルボン酸類を金属酸化物の粒子に作用させてもよい。合成中の副反応や不純物の混入を防止する観点から、金属酸化物の粒子を作製した後にカルボン酸類を作用させることが好ましい。分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒中にカルボン酸類を共存させる方法であれば、金属酸化物の粒子の合成後にカルボン酸類や分散剤を添加する工程を省略することができる。
【0071】
カルボン酸類の具体的種類に制限は無く、金属酸化物の粒子に結合できる限り任意の化合物を用いることができる。着色が少ないという観点から、カルボン酸類としては脂肪族カルボン酸類が好ましい。
また、カルボン酸類の炭素数は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、カルボン酸類の炭素数は、24以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下が更に好ましい。カルボン酸類の炭素数を前記範囲内にすることで、高温下で変性したカルボン酸を除去しやすく、また、修飾剤としての効果を確保しやすくなる。
カルボン酸類としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、チグリン酸、プロピオン酸、カプリル酸、メチル酪酸、ヘキサン酸、ノナン酸、o-トルイル酸、p-トルイル酸、安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、フェニルチオ酢酸、オレイン酸、ベヘン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等が挙げられる。
カルボン酸類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0072】
カルボン酸類の使用量に制限はないが、金属酸化物の前駆体の全モル数に対して、0.1倍モル以上が好ましく、0.75倍モル以上がより好ましく、1.0倍モル以上が更に好ましい。また、カルボン酸類の使用量は、金属酸化物の前駆体の全モル数に対して、5.0倍モル以下が好ましく、3.0倍モル以下がより好ましく、2.0倍モル以下が更に好ましく、1.5倍モル以下が特に好ましい。カルボン酸類の使用量を前記上限値以下とすることで、カルボン酸類を使用した効果を得やすくなる。また、カルボン酸類の使用量を前記下限値以上とすることで、金属酸化物粒子の製造方法においてゲルの発生が抑制され、得られる金属酸化物粒子の品質を良好にしやすくなる。
また、アミン類とカルボン酸類とを併用する場合には、ゲルの発生を抑制できる観点から、カルボン酸類の使用量は、アミン類の全モル数に対して、通常0.5倍モル以下が好ましく、0.25倍モル以下がより好ましい。
【0073】
なお、金属酸化物の粒子を製造する際の添加剤としてカルボン酸類を用いた場合、カルボン酸類も上述したアミン類と同様に金属酸化物の粒子の表面に吸着し、金属酸化物の粒子と有機溶媒との親和性を向上させる。これにより、金属酸化物の粒子同士が強く引き合うことが抑制されるため、カルボン酸類を使用した場合には、金属酸化物の粒子同士の凝集はより一層に抑制される。
【0074】
(その他の溶媒)
反応液には、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒以外のその他の溶媒を含有させてもよい。その他の溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
その他の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、デカヒドロナフタレンなどの脂肪族炭化水素系、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどの塩化脂肪族炭化水素類等が挙げられる。
その他の溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0075】
[反応液の調製方法]
結晶性金属酸化物のナノ粒子等の金属酸化物の粒子を製造するための反応液の調製方法は、特に限定されず任意である。また、金属酸化物の前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒、及び、必要に応じて用いられるアミン類及びその他の添加剤を混合する順序も特に限定されず任意である。但し、金属酸化物の前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多い。そのため、水分を含まない窒素雰囲気等の不活性ガス中で混合することが好ましい。例えば、分子内に酸素原子を有する有機溶媒を所定時間窒素バブリングした後、金属酸化物の前駆体を所定量混合、攪拌し、その後、必要に応じてアミン類及び添加剤を所定量混合する方法が挙げられる。
【0076】
[反応工程]
反応液を所定の反応条件に保持し、反応を進行させ、反応液内において金属酸化物の粒子を得る。
反応条件を以下に示す。
【0077】
(反応温度)
反応温度(ここでは、反応液の温度を意味する。)は特に限定されず、結晶性金属酸化物のナノ粒子等の所望の金属酸化物の粒子が得られる限り任意である。但し、比較的低い温度で金属酸化物の粒子を得られることが利点の一つであり、反応温度は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましい。また、反応温度は、240℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、200℃以下が更に好ましい。反応温度が前記範囲内であれば、結晶性を有する金属酸化物のナノ粒子が得られやすく、有機物の分解による副生物の量が多くなりにくく、結晶性金属酸化物のナノ粒子の品質が良好となる。なお、反応温度は一定でも変動していてもよい。また、反応液の温度が、前記反応温度の範囲内に継続的に収まっていてもよく、断続的に収まっていてもよい。更に、反応液内の温度は均一でも不均一でもよい。したがって、金属酸化物の粒子が得られる限り、例えば反応液内の一部が前記反応温度の範囲外となっていても構わない。
【0078】
(反応圧力)
反応を進行させる際の圧力条件は特に限定されず、結晶性金属酸化物のナノ粒子等の所望の金属酸化物の粒子が得られる限り任意である。但し、通常は、圧力条件は自圧以下である。なお、ここで自圧とは、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒の前記温度における蒸気圧を指す。
【0079】
(反応時間)
反応時間は特に限定されず、結晶性金属酸化物のナノ粒子等の所望の金属酸化物の粒子を得ることができる限り任意である。但し、金属酸化物の粒子の製造方法においては、金属酸化物の前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒、及び、必要に応じてアミン類を反応系に共存させることにより、従来よりも短時間で、金属酸化物の粒子を得ることができることが利点の一つである。このため、反応時間は48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、18時間以下が更に好ましい。また、反応時間は1時間以上が好ましく、4時間以上がより好ましく、8時間以上が更に好ましい。
【0080】
(反応の際の雰囲気)
反応の際の雰囲気は特に限定されず、結晶性金属酸化物のナノ粒子等の所望の金属酸化物の粒子を得ることができる限り任意である。但し、反応は不活性雰囲気下で行なうことが好ましい。金属酸化物の前駆体は、空気中の水分と速やかに反応するものが多いためである。なお、ここで不活性雰囲気とは、金属酸化物の前駆体、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒、及び、アミン類のいずれもが雰囲気と反応しないことを意味する。
不活性雰囲気を構成する雰囲気ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムが挙げられる。なお、不活性雰囲気には、単独の不活性ガスを用いてもよく、2種以上の不活性ガスを用いてもよい。
前記の反応条件を満たすためには、例えば、反応液を密閉容器内において前記の所定の反応温度に保持するようにすればよい。例えば、反応液を不活性雰囲気下でオートクレーブ容器等の密閉容器に封入し、密閉容器内で加熱して前記の所定の反応温度に保持するようにすればよい。
【0081】
(反応の際の工程)
反応液の調製と反応の進行とは、一連の工程として行なうことも可能である。例えば、予め所定の反応条件を整えておいた環境で、金属酸化物の前駆体と、分子内に酸素原子を有する有機溶媒又は水溶媒と、必要に応じてアミン類及び添加剤の1つ以上とを混合すれば、反応液の調整と反応の進行とを、互いに区別しない一連の工程として行なうことが可能となる。
このような合成方法により結晶性金属酸化物のナノ粒子等の所望の金属酸化物の粒子を得ることができるが、金属酸化物の粒子は、一次粒子(金属酸化物の結晶の粒子が他の粒子と接していない単独の粒子を意味する。)の状態もしくは弱い凝集状態のスラリーとして得られる。
【0082】
[その他の工程]
金属酸化物の粒子の製造方法は、必要に応じて、上述した反応工程以外のその他の工程を実施してもよい。
例えば、反応工程の後、回収工程を行なってもよい。回収工程では、反応工程で得られた結晶性金属酸化物のナノ粒子等の金属酸化物の粒子を単離し、回収する。回収の際の手法は任意であるが、例えば、金属酸化物の粒子を含む組成物(反応液)と貧溶媒とを混合することにより、容易に沈殿が生じ、金属酸化物の粒子を沈殿物として回収することができる。ここで、貧溶媒とはアミン類及びカルボン酸類のうちの1種以上が吸着した金属酸化物の粒子に対する溶媒を意味する。貧溶媒としては、例えば、アルコール類が挙げられる。なお、貧溶媒の使用により、金属酸化物の粒子を洗浄することも可能となる。
また、沈殿した金属酸化物の粒子の回収は、遠心分離、フィルターろ過、その他の通常の回収方法が適用できる。
【実施例0083】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0084】
[製造例1:金属酸化物の粒子1の作製]
45.90mLの1-オクタノール(分子内に酸素原子を有する有機溶媒)を200mLのビーカーに入れ、オレイン酸22.78g、チタニウムテトライソプロポキシド1.5mL(モル数=5mmol)を加え、30分間攪拌しながら窒素バブリングして反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、140℃で7時間加熱した。反応終了後、得られた反応液に大過剰のアセトンを添加して沈殿物を生成させ、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をエタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化チタン(金属酸化物のナノ結晶)0.24gを得た。これを金属酸化物の粒子1とした。
金属酸化物の粒子1について、動的光散乱法に基づき、粒径測定システム(大塚電子株式会社製、「ELSZ-2000」)で測定した粒度分布のモード径(最頻径)を確認したところ、8nmであった。
【0085】
[製造例2:金属酸化物の粒子2の作製]
37.32mLのベンジルアルコール(分子内に酸素原子を有する有機溶媒)を200mLのビーカーに入れ、塩化スズ(IV)五水和物1.75g(モル数=5mmol)を加え、30分間攪拌しながら窒素バブリングして反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、130℃で3時間加熱した。反応終了後、得られた反応液に大過剰のアセトンを添加して沈殿物を生成させ、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をエタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化スズ(金属酸化物のナノ結晶)0.4gを得た。これを金属酸化物の粒子2とした。
金属酸化物の粒子2について、動的散乱法に基づき、粒径測定システム(大塚電子株式会社製、「ELSZ-2000」)で測定した粒度分布のモード径(最頻径)を確認したところ、8nmであった。
【0086】
[製造例3:金属酸化物の粒子3の作製]
500mLのベンジルアルコール(分子内に酸素原子を有する有機溶媒)を1Lの3つ口フラスコに入れ、30分窒素バブリングした。窒素バブリングしたまま、金属酸化物の前駆体として70質量%のジルコニウムイソプロポキシドの1-プロパノール溶液116.7g(ジルコニウムイソプロポキシドのモル数=0.25mol)を加え、30分攪拌し、ここにオレイルアミン100.3g(アミン類=0.375mol)を添加して更に30分攪拌して反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、200℃で48時間加熱した。反応終了後、得られた乳白色スラリー状の反応液に大過剰のエタノールを添加して沈殿物を生成させ、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をエタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化ジルコニウム(金属酸化物のナノ結晶)20gを得た。これを金属酸化物の粒子3とした。
金属酸化物の粒子3について、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JEM-ARM200F」)を用いて200万倍(加速電圧200kV)で観察された画像をもとに、粒子100個の大きさ(一次粒子径)を計測し、算術平均して平均粒子径を求めたところ、5nmであった。
【0087】
[製造例4:金属酸化物の粒子4の作製]
135gの純水を300mLビーカーに入れ、セリウム(III)アセテート水和物3.52g(モル数=10.50mmol)を加え、攪拌しながら5mol/LのNaOH水溶液を15mL滴下し、そのまま1時間攪拌した。その後、遠心分離してゲルを回収し純水で6回洗浄して75gの純水を入れて前駆体溶液を得た。次に、39.84mmol/Lのオレイン酸Na水溶液35gを100mLビーカーに入れ、攪拌しながら15gの前駆体溶液を添加して反応液を調製した。この反応液をステンレス製密閉容器に封入し、180℃で6時間加熱した。反応終了後、得られた反応液に大過剰の純水を添加し、遠心分離して沈殿物を回収した。沈殿物をメタノールで3回洗浄後、回収、乾燥して、結晶性酸化セリウム(金属酸化物のナノ結晶)0.38gを得た。これを金属酸化物の粒子4とした。
金属酸化物の粒子4について、動的散乱法に基づき、粒径測定システム(大塚電子株式会社製、「ELSZ-2000」)で測定した粒度分布のモード径(最頻径)を確認したところ、8nmであった。
【0088】
[製造例5:金属酸化物の粒子分散液3の調製]
製造例3で得られた結晶性酸化ジルコニウム(金属酸化物の粒子3)0.3gを、有機溶媒である酢酸ブチル28.5gに添加し、沈殿している結晶性酸化ジルコニウムをほぐしながら、超音波洗浄機にて60min分散させた。その後、分散剤としてカプリル酸0.09gとアクリル酸0.06gを加え(分散剤は結晶性酸化ジルコニウムに対して合計50質量%)、更に、超音波洗浄機にて60分、分散させ、透明な金属酸化物の粒子分散液3を調製した。
【0089】
[製造例6:金属酸化物の粒子分散液1の調製]
金属酸化物の粒子3の代わりに、製造例1で得られた結晶性酸化チタン(金属酸化物の粒子1)を用い、分散剤を4-トリフルオロメチル安息香酸60質量%とアクリル酸40質量%(分散剤は結晶性酸化ジルコニウムに対して合計100質量%)に代えた以外は製造例5と同じ手順で、透明な金属酸化物の粒子分散液1を調製した。
【0090】
[製造例7:金属酸化物の粒子分散液2の調製]
金属酸化物の粒子3の代わりに、製造例2で得られた結晶性酸化スズ(金属酸化物の粒子2)を用い、更に有機溶媒をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAとも記す)に代え、分散剤をカプリル酸のみ(分散剤は結晶性酸化スズに対して合計100質量%)に代えた以外は製造例5と同じ手順で、透明な金属酸化物の粒子分散液2を調製した。
【0091】
[製造例8:金属酸化物の粒子分散液4の調製]
金属酸化物の粒子3の代わりに、製造例4で得られた結晶性酸化セリウム(金属酸化物の粒子4)を用い、更に有機溶媒をPGMEAに代え、分散剤を4-トリフルオロメチル安息香酸のみ(分散剤は結晶性酸化セリウムに対して合計100質量%)に代えた以外は製造例5と同じ手順で、透明な金属酸化物の粒子分散液4を調製した。
【0092】
[実施例1:光触媒膜1の形成]
基材として直径25mmの石英ガラス基板(厚さ1mm)上に、金属酸化物の粒子分散液1を1mLスポイトで滴下し、3000rpmの速度で20秒間回転させて基材上に塗布した(塗布工程)。その後、ホットプレートを用いて80℃で60秒間プレベークして、基材上に塗膜を形成した(乾燥及びエージング工程)。
次に、塗膜が形成された基材を、洗浄溶媒として酢酸ブチルに1分間浸漬することにより、塗布面を洗浄した(洗浄工程)。
洗浄工程後の塗膜付き基材を、4時間かけて室温から800℃まで昇温して、800℃で30分間保持し、その後、放冷することより塗膜を焼結し(焼結工程)、基材上に金属酸化物の薄膜からなる光触媒膜1を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材(光触媒膜被覆体)を得た。
【0093】
[実施例2:光触媒膜2の形成]
金属酸化物の粒子分散液1を金属酸化物の粒子分散液2に代えて、更に洗浄溶媒として酢酸ブチルに代えてPGMEAを用いること以外は実施例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜からなる光触媒膜2を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材(光触媒膜被覆体)を得た。
【0094】
[実施例3:光触媒膜3の形成]
焼結工程において、800℃での高温焼結に代えて、室温25℃でのXeエキシマランプによる光焼結を行ったこと以外は実施例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜からなる光触媒膜3を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材(光触媒膜被覆体)を得た。
【0095】
[比較例1:金属酸化物の薄膜C1の形成]
基材として直径25mmの石英ガラス基板(厚さ1mm)上に、金属酸化物の粒子分散液1を1mLスポイトで滴下し、1000rpmの速度で20秒間回転させて基材上に塗布した(塗布工程)。その後、ホットプレートを用いて80℃で60秒間プレベークして、基材上に塗膜を形成した(乾燥及びエージング工程)。
乾燥及びエージング工程後の塗膜付き基材を、4時間かけて室温から800℃まで昇温して、800℃で30分間保持し、その後、放冷することより塗膜を焼結し(焼結工程)、基材上に金属酸化物の薄膜C1を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材を得た。
【0096】
[比較例2:金属酸化物の薄膜C2の形成]
金属酸化物の粒子分散液1の代わりに、金属酸化物の粒子分散液2を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜C2を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材を得た。
【0097】
[比較例3:金属酸化物の薄膜C3の形成]
金属酸化物の粒子分散液1の代わりに、金属酸化物の粒子分散液3を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜C3を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材を得た。
【0098】
[比較例4:金属酸化物の薄膜C4の形成]
金属酸化物の粒子分散液1の代わりに、金属酸化物の粒子分散液4を用いること以外は比較例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜C4を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材を得た。
【0099】
[比較例5:薄膜C5の形成]
金属酸化物の粒子分散液1を塗布しないこと以外は実施例1と同様の操作を行うことで、基材上に薄膜C5を形成し、薄膜付きの基材を得た。
【0100】
[比較例6:金属酸化物の薄膜C6の形成]
焼結工程において、800℃での高温焼結に代えて、室温25℃でのXeエキシマランプによる光焼結を行ったこと以外は比較例1と同様の操作を行うことで、基材上に金属酸化物の薄膜C6を形成し、金属酸化物の薄膜付きの基材を得た。
【0101】
各実施例及び比較例で得られた薄膜の物性値の測定と評価は以下の手順で行った。
【0102】
[金属酸化物の薄膜の物性値の測定]
(金属酸化物の粒子のAFM表面観察での一次粒子径(最小粒径(X))の測定)
金属酸化物の粒子の最小粒径(X)の測定は、原子間力顕微鏡(AFM)であるブルカー・エイエックスエス社製の「NanoScope V / Dimension Icon」を用いて行った。AFM測定条件は、測定モードをタッピングモードとし、測定範囲を1μm×1μm、測定点数512×512とした。観察された表面上の金属酸化物の粒子のうち最小粒径のものを一次粒子径の測定値(最小粒径(X))とした。結果を表1に示す。
【0103】
(金属酸化物の薄膜の膜厚の測定)
焼結後の金属酸化物の薄膜について、ジェー・エー・ウーラム・ジャパン株式会社製の「分光エリプソメータRC2」を用いて厚さをそれぞれ測定し、それらを金属酸化物の薄膜の膜厚(膜厚(Y))とした。結果を表1に示す。
【0104】
(水接触角の測定及び親水性の評価)
実施例1、2及び比較例1~4で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材と、比較例5で得られた薄膜付きの基材について、親水性を評価するために、JIS R 1703-1:2020(ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法第1部:水接触角の測定)に準拠して以下の手順で、薄膜側の表面における水接触角を測定した。
大気中で、薄膜側の表面にピペットで1μLの純水を滴下し、0.1秒経過後に側面から撮影し、撮影画像に基づいて接触角を測定することにより評価した。具体的には、水接触角が10°以下であれば親水性が十分高いものと評価し、水接触角が10°を超える場合は親水性が不足しているものと評価した。結果を表1に示す。
【0105】
(光線透過率の測定及び透明性の評価)
実施例1~3及び比較例1~4、6で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材と、比較例5で得られた薄膜付きの基材について、オーシャンオプティクス社製の「分光光度計USB-4000」を用いて、薄膜側の表面における200nmから800nmの波長領域の光線透過率の測定を行った。全波長領域において80%以上の光線透過率を示す場合、十分透明であると判断して「A」と評価し、いずれかの波長領域で光線透過率が70%以上80%未満である場合を「B」と評価し、いずれかの波長領域で光線透過率が70%未満である場合を「C」と評価した。結果を表1に示す。
また、実施例1及び比較例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の光線透過率のグラフを
図1、2に示し、実施例2及び比較例2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の光線透過率のグラフを
図3、4に示す。実線が実施例1及び実施例2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の光線透過率の測定結果であり、破線が比較例1及び比較例2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材の光線透過率の測定結果である。なお、
図1~4に示す光線透過率の測定結果は、同様の手順で測定した単独の石英ガラス基板の光線透過率性に対する相対値で示したものであり、光線透過率100%の場合、石英ガラス基板の光線透過率と等しいことを意味する。
【0106】
[光触媒性の評価]
実施例1~3及び比較例1~4、6で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材と、比較例5で得られた薄膜付きの基材について、薄膜側の表面に2.5μg/mLの濃度のメチレンブルー水溶液5mLを滴下し、紫外線照度170mW/cm2のハンディータイプUVランプ(HLR100T-2)により紫外線を5分間照射して、メチレンブルー水溶液の退色状態を目視にて評価した。メチレンブルー水溶液が目視にて色を判別できない程度に、無色に退色している場合、十分な光触媒性を発現できたと判断して「A」と評価し、メチレンブルー水溶液が殆ど退色していないか、全く退色しておらず、目視にてメチレンブルー水溶液の色を明確に判別できた場合を「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0107】
[セルフクリーニング性の評価]
実施例1及び比較例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材と、比較例5で得られた薄膜付きの基材について、JIS R 1703-1:2020(ファインセラミックス-光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法第1部:水接触角の測定)に準拠して、薄膜側の表面に紫外線を照射しながら、水接触角を測定した。具体的には、紫外線を照射する前と、紫外線の照射開始から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、24時間後、28時間後、48時間後における薄膜側の表面の水接触角を測定した。水接触角が20°以下になるまでに要した時間を表1に示す。なお、48時間経過後も水接触角が20°以下とならない場合を「×」と評価した。また、紫外線を照射する前と各経過時間における水接触角の測定結果を
図5に示す。
【0108】
【0109】
表1及び
図1~4の結果から明らかなように、実施例1、2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材は、200nm~800nmの全波長領域において、単独の石英ガラス基板と同等の高い透明性を示し、透過率が低下しにくく、十分に透明であった。
一方、比較例1、2で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材は、200nm~800nmの波長領域において、透過率が80%以下となる波長領域が存在していた。
【0110】
また、表1の結果から明らかなように、実施例1~3で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材は、薄膜側の表面に紫外領域の光を吸収するバンドギャップエネルギーを有する金属酸化物のナノ構造体を有することにより、透明性及び光触媒性に優れていた。また、実施例1で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材は、セルフクリーニング性にも優れていた。
一方、塗膜を溶媒洗浄せずに焼結した比較例1~4及び比較例6で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材では、金属酸化物の最小粒径(X)に対して薄膜の膜厚(Y)が十分に薄くなく、透明性が悪い波長領域が存在した。特に、比較例4で得られた金属酸化物の薄膜付きの基材は、光触媒性にも劣っていた。
比較例5で得られた薄膜付きの基材では、薄膜が金属酸化物を含んでおらず、光触媒性及びセルフクリーニング性に劣っていた。
本発明によれば、透明性及び光触媒性を同時に高いレベルで実現可能な光触媒膜被覆体とその製造方法を提供することができ、本発明の光触媒膜被覆体は光学材料、医療用材料、紫外線照射用装置等の幅広い分野において好適に使用することができることから、産業上、極めて重要である。