(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004709
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法、並びに、木質成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27K 3/02 20060101AFI20240110BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240110BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20240110BHJP
B27K 3/15 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B27K3/02 A
B29C45/00
B29C45/14
B27K3/15 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104467
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴章
(72)【発明者】
【氏名】奥村 省吾
(72)【発明者】
【氏名】家田 真次
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
【テーマコード(参考)】
2B230
4F206
【Fターム(参考)】
2B230AA27
2B230BA01
2B230CB01
2B230CB06
2B230CB10
2B230EB01
2B230EB04
2B230EB05
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2B230EB24
2B230EB29
2B230EB38
4F206AA11
4F206AA23
4F206AA24
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4F206AA32
4F206AA34
4F206AD06
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】木質成形体としたときの金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる流動成形用木質系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させて、木質系材料中に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含み、得られる組成物は、板、繊維、柱、及び球からなる群より選ばれる1種以上の形状であり、組成物の最大長さは、1~30mmであり、組成物の総質量に対して、木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含み、
得られる前記流動成形用木質系樹脂組成物は、板、繊維、柱、及び球からなる群より選ばれる1種以上の形状であり、
前記流動成形用木質系樹脂組成物の最大長さは、1mm以上30mm以下であり、
前記流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、前記木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、前記熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する、製造方法。
【請求項2】
前記含浸工程の前に、前記木質系材料のリグニン量を調整する調整工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記含浸工程の前であって、前記調整工程の後に、前記木質系材料を水に接触させる含水工程を更に含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記含浸工程において、溶剤存在下で、前記熱可塑性樹脂を前記木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、非晶性ポリアミドを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる流動成形用木質系樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱し、可塑化させる加熱工程と、
可塑化させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を加圧することにより直径0.5mm以上3mm以下の管を流動通過させる加圧流動工程と、
流動通過させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を、所定の形状のキャビティー内に充填した後、冷却する冷却工程と、
をこの順に含む、木質成形体の製造方法。
【請求項9】
前記木質系材料が、繊維径Dが3mm以下であり、且つ、前記繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが3以上の繊維状である、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミドを含む、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂が、非晶性ポリアミドを含む、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項13】
前記流動成形用木質系樹脂組成物は、該流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、10質量%以下の水分を更に含む、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項14】
前記流動成形用木質系樹脂組成物において、前記木質系材料の木質細胞壁内に前記熱可塑性樹脂が存在する、請求項8に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項15】
木質系材料を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状のキャビティー内に充填する第一の充填工程と、
熱可塑性樹脂を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状の前記キャビティー内に充填する第二の充填工程と、
前記熱可塑性樹脂が充填された前記キャビティーを冷却する冷却工程と、
をこの順に含み、
木質成形体の総質量に対して、前記木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、前記熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する、木質成形体の製造方法。
【請求項16】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、請求項15に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項17】
前記第一の充填工程の前に、前記木質系材料のリグニン量を調整する調整工程を更に含む、請求項15又は16に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項18】
前記木質系材料は、該木質系材料100質量部に対して、1質量部以上の水分を含む、請求項15又は16に記載の木質成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法、並びに、木質成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地下資源枯渇問題を背景に、木材等のバイオマス資源を高度に利活用するための技術開発が盛んに行われている。特に、持続的に利用できるバイオマス資源を原料に、金属やプラスチック製品と同等以上の性能を持つ部素材の創出は、世界的にも重要且つ喫緊の課題となっている。
【0003】
木材や木材を多く含む部素材の利用は、森林吸収源対策として有望視されており、今後、建築物だけでなくより幅広い用途、特に工業材料として利用できるように木材を処理する技術や加工する技術が望まれている。
【0004】
発明者らは、木材等のバイオマス素材の基礎物性研究を進める中で、特定の温度・圧力条件では木材が固体のままで流動して変形し得ることを見出し、その現象を利用した木質流動成形の技術を開発している(例えば、特許文献1等参照)。木質流動成形は、塊状の木質系材料を、任意の金型内に収容し、圧力を作用させて型内に流動充填させ成形する技術であり、圧縮加工のように木質細胞の内腔の閉塞によって緻密化させて形状変化を与える方法と比べて、木質細胞間のすべり現象による位置変化によって変形を与えるため、その変形量をより大きくすることができる。また、流動成形では、従来、圧縮加工のみでは不可能であった任意形状の木質系材料の塑性加工を実現でき、繊維状の木質細胞の損傷が抑えられるため、得られる木質成形体に補強効果が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、塊状の木質系材料は、流動性が低いため、成形時の金型への充填が不十分で、金型転写性が悪いことが課題となっている。また、表面外観として木質感を有する成形体は得られるが、その質感はまだ充分ではなく、表面硬度の観点から更なる改良の余地がある。更に、金属やプラスチックを原料として成形されるフィルム等の薄膜状の成形体に木質原料を適用することについては未だ具体的な検討がなされていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、木質成形体としたときの金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法、並びに、前記流動成形用木質系樹脂組成物を用いた木質成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法であって、
熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含み、
得られる前記流動成形用木質系樹脂組成物は、板、繊維、柱、及び球からなる群より選ばれる1種以上の形状であり、
前記流動成形用木質系樹脂組成物の最大長さは、1mm以上30mm以下であり、
前記流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、前記木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、前記熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する、製造方法。
(2) 前記含浸工程の前に、前記木質系材料のリグニン量を調整する調整工程を更に含む、(1)に記載の製造方法。
(3) 前記含浸工程の前であって、前記調整工程の後に、前記木質系材料を水に接触させる含水工程を更に含む、(2)に記載の製造方法。
(4) 前記含浸工程において、溶剤存在下で、前記熱可塑性樹脂を前記木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる、(1)~(3)のいずれか一つに記載の製造方法。
(5) 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、(1)~(4)のいずれか一つに記載の製造方法。
(6) 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミドを含む、(1)~(5)のいずれか一つに記載の製造方法。
(7) 前記熱可塑性樹脂が、非晶性ポリアミドを含む、(1)~(6)のいずれか一つに記載の製造方法。
(8) (1)~(4)のいずれか一つに記載の製造方法により得られる流動成形用木質系樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱し、可塑化させる加熱工程と、
可塑化させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を加圧することにより直径0.5mm以上3mm以下の管を流動通過させる加圧流動工程と、
流動通過させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を、所定の形状のキャビティー内に充填した後、冷却する冷却工程と、
をこの順に含む、木質成形体の製造方法。
(9) 前記木質系材料が、繊維径Dが3mm以下であり、且つ、前記繊維径Dに対する繊維長Lの比L/Dが3以上の繊維状である、(8)に記載の木質成形体の製造方法。
(10) 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、(8)又は(9)に記載の木質成形体の製造方法。
(11) 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミドを含む、(8)~(10)のいずれか一つに記載の木質成形体の製造方法。
(12) 前記熱可塑性樹脂が、非晶性ポリアミドを含む、(8)~(11)のいずれか一つに記載の木質成形体の製造方法。
(13) 前記流動成形用木質系樹脂組成物は、該流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、10質量%以下の水分を更に含む、(8)~(12)のいずれか一つに記載の木質成形体の製造方法。
(14) 前記流動成形用木質系樹脂組成物において、前記木質系材料の木質細胞壁内に前記熱可塑性樹脂が存在する、(8)~(13)のいずれか一つに記載の木質成形体の製造方法。
(15) 木質系材料を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状のキャビティー内に充填する第一の充填工程と、
熱可塑性樹脂を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状の前記キャビティー内に充填する第二の充填工程と、
前記熱可塑性樹脂が充填された前記キャビティーを冷却する冷却工程と、
をこの順に含み、
木質成形体の総質量に対して、前記木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、前記熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する、木質成形体の製造方法。
(16)前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、及びポリアリーレンスルフィドからなる群より選ばれる1種以上の樹脂である、(15)に記載の木質成形体の製造方法。
(17) 前記第一の充填工程の前に、前記木質系材料のリグニン量を調整する調整工程を更に含む、(15)又は(16)に記載の木質成形体の製造方法。
(18) 前記木質系材料は、該木質系材料100質量部に対して、1質量部以上の水分を含む、(15)~(17)のいずれか一つに記載の木質成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記態様の流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法によれば、木質成形体としたときの金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。上記態様の木質成形体の製造方法は、前記流動成形用木質系樹脂組成物を用いる方法であり金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる木質成形体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】実施例1における顕微ラマン分光装置で撮影された射出用原料の断面像(左)及びラマンマッピング(右)である。
【
図1B】実施例1におけるラマンスペクトルである。
【
図2】実施例1における成形片の外観を示す画像である。
【
図3】比較例1における成形片の外観を示す画像である。
【
図4】比較例2における成形片の外観を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
≪流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法≫
本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法は、
熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる含浸工程を含む。
【0013】
本実施形態の製造方法で得られる流動成形用木質系樹脂組成物は、板、繊維、柱、及び球からなる群より選ばれる1種以上の形状である。
【0014】
本実施形態の製造方法で得られる流動成形用木質系樹脂組成物の最大長さは、1mm以上30mm以下であり、2mm以上25mm以下が好ましく、3mm以上10mm以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態の製造方法で得られる流動成形用木質系樹脂組成物において、該流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、50質量%以上90質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。
木質系材料の含有量が上記範囲内であることで、バイオ由来成分比を高め、環境貢献できるだけでなく、従来の組成物のように、組成物が樹脂の流動性によって流動するのではなく、木質材自体の熱等により流動性向上効果で流動することが可能となり、得られる成形体に高い木質外観を付与することができる。
【0016】
流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、10質量%以上50質量%以下が好ましく、20質量%以上50質量%以下がより好ましい。
熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内であることで、組成物の流動性に対する熱可塑性樹脂の寄与を少なくでき、得られる成形体に高い木質外観を付与することができる。
【0017】
熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する。
【0018】
本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法は、上記構成を有することで、木質成形体としたときの金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる流動成形用木質系樹脂組成物が得られる。
【0019】
なお、本明細書における「金型転写性」とは、細かな構造を有する成形体を成形し、金型の構造を成形体が反映した形状を保持する性質を意味する。
【0020】
また、本明細書における「フィルム成形性」とは、具体的には、厚さ500μm以下の狭いすき間に樹脂だけでなく、木質成分も含めた組成物全体が流動し、流入固化できる性質を意味する。
【0021】
また、本明細書における「表面硬度」とは、成形体を硬い物質と接触した際に、耐傷性に優れる性質を意味する。表面硬度とは、ISO 15184:1996に準拠した引っかき硬度(鉛筆法)を測定することで評価することができる。
【0022】
次いで、本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0023】
<含浸工程>
含浸工程では、熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させて、前記木質系材料中に前記熱可塑性樹脂を含浸させる。
【0024】
含浸方法としては、熱可塑性樹脂のみを木質系材料に接触させる方法、溶剤存在下で熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させる方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
熱可塑性樹脂のみを木質系材料に接触させる方法では、加熱加圧環境で接触させることで、熱可塑性樹脂を木質系材料に含浸させることができる。
【0026】
加熱温度としては、樹脂の溶融温度以上とすることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、その融点以上とすることができ、好ましくは融点よりも10℃以上高い温度、より好ましくは20℃以上高い温度である。熱可塑性樹脂が、非結晶性樹脂の場合、そのガラス転移温度以上とすることができ、好ましくはガラス転移温度よりも30℃以上高い温度、より好ましくは50℃以上高い温度である。また、加熱温度の上限は、木材の分解が顕著になることから、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0027】
なお、熱可塑性樹脂の融点は、ISO 11357-1~6:2016に準じて測定することができる。また、熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置によって測定することができる。この時の測定条件としては、印加歪は線形領域内の歪量であって、測定周波数は10Hz、昇温速度は、2℃/分が例として挙げられる。
【0028】
加圧力としては、例えば、大気圧以上とすることができ、好ましくは0.2MPa以上、より好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは0.8MPa以上である。また、加圧力の上限は、好ましくは5.0MPa以下、より好ましくは3.0MPa以下、さらに好ましくは2.0MPa以下である。
【0029】
加熱加圧時間としては、樹脂が充分に木質系材料中に浸透すれば充分であるが、例えば、20分間以上とすることができ、好ましくは30分間以上、より好ましくは40分間以上である。また、加熱加圧時間の上限は、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0030】
溶剤存在下で熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させる方法では、溶剤としては、熱可塑性樹脂を溶解又は分散し得る溶剤を用いることが好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂を溶解する溶剤としては、少なくとも0.5質量%、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、更により好ましくは5質量%以上の濃度で、熱可塑性樹脂を溶解可能な溶剤を選択可能である。具体的には、例えば、熱可塑性樹脂がポリアミドの場合は、ギ酸、硫酸、ヘキサフルオロイソプロパノール、塩化カルシウム水溶液等が挙げられる。或いは、例えば、熱可塑性樹脂がポリオキシメチレンの場合は、ギ酸等が挙げられる。或いは、例えば、熱可塑性樹脂がポリプロピレンの場合は、キシレン、トルエン等の芳香族系有機溶剤等が挙げられる。或いは、例えば、熱可塑性樹脂がポリフェニレンエーテルの場合は、クロロホルム、塩化メチレン等の含ハロゲン系溶剤や、キシレン、トルエン等の芳香族系有機溶剤等が挙げられる。或いは、例えば、熱可塑性樹脂がポリアリーレンスルフィドの場合は、良好な溶剤がないため、熱可塑性樹脂のみを木質系材料に接触させる方法が好ましい。
【0032】
また、溶剤存在下で熱可塑性樹脂を木質系材料に接触させる方法の場合には、国際公開第2022/004796号に記載の溶液置換法又は乾燥・含浸法により、熱可塑性樹脂を木質系材料に含浸させることができる。
【0033】
溶液置換法では、具体的には、水で膨潤状態である木質系材料を、熱可塑性樹脂及び溶剤を含有する含浸液に、20℃以上40℃以下、好ましくは30℃以上40℃以下、の温度、大気圧下、加圧下又は減圧下の圧力条件下において、浸漬する。浸漬時間は、木質系材料の形状、サイズ、又は質量に依存して適宜設定することができ、例えば、乾燥状態の木質系材料10gあたり、1時間以上200時間以下とすることができる。
【0034】
乾燥・含浸法では、具体的には、水で膨潤状態である木質系材料を、送風乾燥、減圧乾燥、高温乾燥により脱水した後、20℃以上40℃以下(好ましくは30℃以上40℃以下)の温度、大気圧下、加圧下又は減圧下の圧力条件下において、浸漬する。浸漬時間は、木質系材料の形状、サイズ、又は質量に依存して適宜設定することができ、例えば、乾燥状態の木質系材料10gあたり、1分間以上24時間以下とすることができる。
【0035】
<その他工程>
本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法は、上記含浸工程に加えて、含浸工程の前に、調整工程、含水工程等のその他の工程を含んでもよい。
【0036】
[調整工程]
調整工程では、含浸工程の前に、木質系材料のリグニン量を調整する。
【0037】
木質系材料におけるリグニン量の調整方法としては、公知のKlaudiz法、Wize法、クラフトパルプ化法、ソーダ法、フェノールパルプ化法、有機酸パルプ化法、オルガノソルブパルプ化法、ASAM法、漂白処理等のリグニン処理法が挙げられるが、これらの中では、調整方法としては、Klaudiz法が好ましい。
【0038】
木質系材料におけるリグニン含有率及びその測定方法の詳細については、以下の「木質系材料」において後述する。
【0039】
[含水工程]
含水工程では、含浸工程の前であって、調整工程の後に、木質系材料を水に接触させる。
【0040】
木質系材料に水を含ませることで、木質系材料を構成する主成分のセルロースやヘミセルロースの水素結合間に水分子が入り込みことができ、上記含浸工程において、樹脂との置換を容易に行うことができる。また、木質系材料中の水分が可塑剤として働くため、得られる流動成形用木質系樹脂組成物を成形する際の流動性をより向上させることができる。
【0041】
含水方法としては、飽和水蒸気を木質系材料に接触させる方法、一定の相対湿度環境下で木質系材料を調湿する方法、木質系材料を水に浸漬させる方法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
<原料>
次に、本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法で用いられる原料について以下に詳細を説明する。
【0043】
[木質系材料]
木質系材料は、木材(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹)、竹、麻類(ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等)、草本類等の、細胞壁を有する植物体に由来するものであって、植物体そのもの(挽板、単板、突板等)若しくはその廃材又はこれらの化学処理物のいずれでもよい。
【0044】
木質系材料の形状及びサイズは、特に限定されないが、流動成形は、通常、金型の中に流動成形用木質系樹脂組成物を収容した状態で成形体の製造を行う成形方法であるため、木質系材料を流動成形用木質系樹脂組成物の原料の一つとして用い、形状安定性に優れた木質成形体を得ようとする場合には、長さが少なくとも5mm以上の繊維を含むチップ状であることが好ましい。木質系材料の形状は、特に限定されず、板、繊維、柱、球等の定形及び不定形のいずれでもよい。
【0045】
木質系材料としては、上述した調整工程により、リグニン量が調整されたものであることが好ましい。リグニン含有率は、低くても良いわけではなく、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上である。なお、このリグニン含有率は、20質量%以上であってもよい。リグニン含有率が20質量%以上である場合は、得られる木質成形体の機械的特性は未処理の木質系材料と同等であるが、木質系材料の流動性に優れるため、未処理の木質系材料よりも大きな変形を加えることができ、木質成形体の生産性に優れた流動成形用木質系樹脂組成物とすることができる。また、リグニン含有率が3質量%以上15質量%以下である場合は、未処理の木質系材料に比べて得られる木質成形体の機械的特性が大きく向上し、かつ、木質成形体の生産性に優れた成形材料とすることができる。リグニン含有率の上限は、得られる木質成形体の力学特性の観点から、好ましくは15質量%であるが、力学特性が未処理の木質系材料と同等であってよい場合には、15質量%を超えてもよく、通常、脱リグニン処理前の木質系材料そのものの含有率となる。なお、木質系材料の種類や生育環境、同じ個体内でも部位の違い等で、変化するため、一律の上限値を具体的な数値で示すことはできない。
【0046】
リグニン含有率は、アセチルブロマイド法により測定することができる。アセチルブロマイド法とは、粉末化した木質系材料をアセチルブロマイドの酢酸溶液で分解し、溶け出したリグニン量を紫外線吸光度で換算する手法である(K. Iiyama et al. "An improved acetyl bromide procedure for determining lignin in woods and wood pulps"、Wood Science and Technology、1988,22:pp.271-280参照)。
【0047】
木質系材料を、上述したリグニン量の調整処理に供すると、リグニンの縮合度が低下し、細胞壁内に弛緩状態を形成することができる。従って、このようにして得られた木質系材料は、例えば、特開2006-247974号公報に記載された方法のように、非晶性高分子であるヘミセルロース及びリグニンにおける高分子鎖間の結合を弛緩させて流動性を発現させるために、未処理の植物体に水を添加する方法や、未処理の植物体にひずみを加える方法により得られたものに比べて、流動成形の際に木質系材料における木質細胞間のすべりを更に向上させることができる。そして、木質成形体の生産性により優れた流動成形用木質系樹脂組成物を提供することができる。
【0048】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂は、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する。
【0049】
このような熱可塑性樹脂として具体的には、例えば、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリフェニレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、ポリアミドが好ましく、非晶性ポリアミドがより好ましい。ポリアミドは、耐熱性、機械的強度、そして分子構造内に水素結合を有するため、木質系材料との親和性が高いという特長を有する。また結晶層を有しない非晶性ポリアミドとすることにより、木材の細胞壁内のより微細な領域にまで樹脂を浸透させることができるため、より高い含有率で木質成分を含ませることが可能となる。
【0050】
なお、本明細書において「ポリアミド」とは主鎖中にアミド(-NHCO-)基を有する重合体を意味する。
【0051】
また、「非晶性ポリアミド」とは、示差走査熱量計によって20℃/minで測定した場合の結晶化エンタルピーΔHが15J/g以下のポリアミドを指す。(B)非晶性ポリアミドの結晶化エンタルピーは10J/g以下が好ましく、5J/g以下がより好ましく、0J/gであることがさらに好ましい。
【0052】
一方、「結晶性ポリアミド」とは、示差走査熱量計によって20℃/minで測定した場合の結晶の融解熱が4J/g以上であるポリアミドである。
【0053】
なお、結晶化エンタルピーΔH及び結晶の融解熱は、例えば、JIS-K7121に準じて、PERKIN-ELMER社製のDiamond-DSC等の測定装置を用いて、測定することができる。
【0054】
(非晶性ポリアミド)
非晶性ポリアミドとしては、結晶化エンタルピーΔHが上記上限値以下のポリアミドであれば特に限定されないが、半芳香族ポリアミドであってよい。
【0055】
非晶性ポリアミドが半芳香族ポリアミドである場合には、ジアミン単位とジカルボン酸単位とを含有するポリアミドであることが好ましい。
【0056】
非晶性ポリアミドは、イソフタル酸単位を少なくとも50モル%含むジカルボン酸単位と、炭素数4以上10以下のジアミン単位を少なくとも50モル%含むジアミン単位とを含有するポリアミドであることが好ましい。
【0057】
上記イソフタル酸単位及び炭素数4以上10以下のジアミン単位の合計量は、非晶性ポリアミドの全構成単位の総量に対して、75モル%以上100モル%以下が好ましく、90モル%以上100モル%以下がより好ましく、100モル%がさらに好ましい。
【0058】
なお、本発明において非晶性ポリアミドを構成する所定の単量体単位の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)等により測定することができる。
【0059】
ジカルボン酸単位において、ジカルボン酸単位の総モル量に対する、イソフタル酸単位の含有量は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上100モル%以下が特に好ましく、90モル%以上100モル%以下がさらに好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0060】
ジカルボン酸全モル数に対する、イソフタル酸単位の含有量が上記下限値以上であることにより、機械的性質、成形性、表面外観等により満足する、ポリアミドを得ることができる。
【0061】
ジカルボン酸単位は、イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位、脂環族ジカルボン酸単位を含有してもよい。
【0062】
イソフタル酸単位以外の芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でも置換基を有していてもよい。
【0063】
この置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数6以上10以下のアリール基、炭素数7以上10以下のアリールアルキル基、クロロ基及びブロモ基等のハロゲン基、炭素数1以上6以下のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0064】
具体的には、以下に限定されるものではないが、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、テレフタル酸が好ましい。
【0065】
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等の炭素数3以上20以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0067】
脂環族ジカルボン酸単位(以下、「脂環式ジカルボン酸単位」ともいう)を構成する脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂環構造の炭素数が3以上10以下の脂環族ジカルボン酸が挙げられ、脂環構造の炭素数が5以上10以下の脂環族ジカルボン酸が好ましい。
【0068】
このような脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
【0069】
なお、脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
脂環族ジカルボン酸の脂環族基は、無置換でも置換基を有していてもよい。置換基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1以上4以下のアルキル基等が挙げられる。
【0071】
イソフタル酸単位以外のジカルボン酸単位としては、芳香族ジカルボン酸単位を含むことが好ましく、炭素数が6以上12以下である芳香族ジカルボン酸を含むことがより好ましい。
【0072】
このようなジカルボン酸を用いることにより、ポリアミドの機械的性質、流動性、表面外観等がより優れる傾向にある。
【0073】
非晶性ポリアミドにおいて、ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、上記ジカルボン酸として記載の化合物に限定されるものではなく、上記ジカルボン酸と等価な化合物であってもよい。
【0074】
ここで「ジカルボン酸と等価な化合物」とは、上記ジカルボン酸に由来するジカルボン酸構造と同様のジカルボン酸構造となり得る化合物をいう。このような化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸の無水物及びハロゲン化物等が挙げられる。
【0075】
また、非晶性ポリアミドは、必要に応じて、トリメリット酸、トリメシン酸、及びピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
【0076】
前記3価以上の多価カルボン酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
非晶性ポリアミドを構成するジアミン単位は、炭素数4以上10以下のジアミン単位を少なくとも50モル%含むことが好ましい。以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族ジアミン単位、脂環式ジアミン単位、芳香族ジアミン単位等が挙げられる。
【0078】
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等の炭素数2以上20以下の直鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0079】
脂環族ジアミン単位を構成する脂環族ジアミン(以下、「脂環式ジアミン」ともいう)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0080】
芳香族ジアミン単位を構成する芳香族ジアミンとしては、芳香族を含有するジアミンであれば以下に限定されるものではないが、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0081】
中でも、脂肪族ジアミン単位が好ましく、炭素数4以上10以下の直鎖状飽和脂肪族基を有するジアミン単位がより好ましく、炭素数6以上10以下の直鎖状飽和脂肪族基を有するジアミン単位がさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミン単位が特に好ましい。
【0082】
このようなジアミンを用いることにより、機械的性質、流動性、表面外観等により優れるポリアミドとなる傾向にある。
【0083】
なお、前記ジアミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
非晶性ポリアミドとしては、ポリアミド6I、6I/6T、9I、又は10Iが好ましく、6I、又は6I/6Tがより好ましく、6Iが最も好ましい。
【0085】
なお、非晶性ポリアミドは、必要に応じて、ビスペンタメチレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン等の3価以上の多価脂肪族アミンをさらに含んでもよい。
【0086】
前記3価以上の多価脂肪族アミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
非晶性ポリアミドは、ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単位を更に含有することができる。このような単位を含むことにより、靭性により優れるポリアミドが得られる傾向にある。なお、ここでラクタム単位及びアミノカルボン酸単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸とは、重(縮)合可能なラクタム及びアミノカルボン酸をいう。
【0088】
ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数4以上14以下のラクタム及びアミノカルボン酸が好ましく、炭素数6以上12以下のラクタム及びアミノカルボン酸がより好ましい。
【0089】
ラクタム単位を構成するラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε-カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。
中でも、ラクタムとしては、ε-カプロラクタム又はラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このようなラクタムを含むことにより、機械的性質により優れるポリアミドとなる傾向にある。
【0090】
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムが開環した化合物であるω-アミノカルボン酸やα,ω-アミノ酸等が挙げられる。
【0091】
アミノカルボン酸としては、ω位がアミノ基で置換された炭素数4以上14以下の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。このようなアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。
【0092】
前記ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位の合計割合(モル%)は、ポリアミド全体に対して、0モル%以上20モル%以下が好ましく、0モル%以上10モル%以下がより好ましく、0モル%以上5モル%以下がさらに好ましい。
【0094】
ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位の合計割合が上記範囲であることにより、流動性の向上等の効果が得られる傾向にある。
【0095】
非晶性ポリアミドは、末端封止剤によって末端が封止されていてもよい。末端封止剤は、上述したジカルボン酸とジアミンと、必要に応じて用いられる、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物とから、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0096】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。
【0097】
酸無水物としては、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、無水フタル酸等が挙げられる。
【0098】
中でも、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましい。ポリアミドの末端が末端封止剤で封鎖されていることにより、熱安定性により優れるポリアミドとなる傾向にある。
【0099】
前記末端封止剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0100】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸として具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
【0101】
脂肪族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。
【0102】
脂環族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
【0103】
芳香族モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
【0104】
これらモノカルボン酸は、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシ基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとして具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。
【0106】
脂肪族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
【0107】
脂環族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0108】
芳香族アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
【0109】
これらモノアミンは、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
末端封止剤により末端封止されたポリアミドは、流動性、低吸水性、成形性、及び表面外観により優れる傾向にある。
【0111】
非晶性ポリアミド等のポリアミドを得る際に、ジカルボン酸の添加量とジアミンの添加量とは、同モル量付近であることが好ましい。重合反応中のジアミンの反応系外への逃散分もモル比においては考慮して、ジカルボン酸全体のモル量1に対して、ジアミン全体のモル量は、0.9以上1.2以下が好ましく、0.95以上1.1以下がより好ましく、0.98以上1.05以下がさらに好ましい。
【0112】
ポリアミドの製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
(1)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
(2)ラクタム単位を構成するラクタム、及び、アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0113】
また、ポリアミドの製造方法としては、前記重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程を、更に含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0114】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示する種々の方法が挙げられる。
1)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」と称する場合がある)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」と称する場合がある)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、ラクタム、及び、アミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」と称する場合がある)
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」と称する場合がある)。
【0115】
中でも、ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで、溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、ポリアミドに適した重合条件で製造することが必要となる。重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14kg/cm2以上25kg/cm2以下(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分以上かけながら降圧する。
【0116】
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
【0117】
ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0118】
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されない。
【0119】
まず、ポリアミドの原料成分であるジカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を、約40質量%以上60質量%以下含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110℃以上180℃以下の温度、及び、約0.035MPa以上0.6MPa以下(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽において水分を徐々に抜くことにより、約65質量%以上90質量%以下に濃縮された濃縮溶液を得る。
【0120】
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
【0121】
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれか1種の成分を抜きながら圧力を約1.2MPa以上2.2MPa以下(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が約220℃以上260℃以下に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は、0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
【0122】
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押し出す。押し出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
【0123】
上述した製造方法で得られたポリアミドのポリマー末端としては、特に限定されないが、以下の1)~4)に分類され、定義することができる。
すなわち、1)アミノ末端、2)カルボキシ末端、3)封止剤による末端、4)その他の末端である。
1)アミノ末端は、アミノ基(-NH2基)を有するポリマー末端であり、ジアミン単位に由来する。
2)カルボキシ末端は、カルボキシ基(-COOH基)を有するポリマー末端であり、ジカルボン酸に由来する。
3)封止剤による末端は、重合時に封止剤を添加した場合に形成される末端である。封止剤としては、上述した末端封止剤が挙げられる。
4)その他の末端は、上述した1)~3)に分類されないポリマー末端である。その他の末端として具体的には、アミノ末端が脱アンモニア反応して生成した末端、カルボキシ末端から脱炭酸反応して生成した末端等が挙げられる。
【0124】
また、ポリアミドの数平均分子量としては、数平均分子量で、好ましくは40000以下であり、より好ましくは30000以下であり、さらに好ましくは20000以下であり、特に好ましくは15000以下である。数平均分子量が上記上限値以下であることで、木質系材料への浸透性がより高まる傾向にある。一方、ポリアミドの数平均分子量は3000以上が好ましく、5000以上がより好ましい。数平均分子量が下限値以上であることで、得られる成形体の強度をより維持しやすくなる。
【0125】
ポリアミドの分子量分布Mw/Mnは、分子量に関わらず、2.0以上2.5以下の範囲が好ましい。
【0126】
なお、ポリアミドの数平均分子量及び重量平均分子量は、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いて、PMMA(ポリメチルメタクリレート)標準サンプル(ポリマーラボラトリー社製)換算で予めゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した数平均分子量により作成した検量線に基づいて、算出することができる。
【0127】
[その他原料]
本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法において、木質系材料及び熱可塑性樹脂に加えて、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤、潤滑剤、離型剤等の添加剤を原料として更に用いてもよい。これら添加剤は予め上記熱可塑性樹脂と混合して用いることができる。
【0128】
本実施形態の製造方法で得られる流動成形用木質系樹脂組成物は、該流動成形用木質系樹脂組成物の総質量に対して、1質量%以上の水分を更に含むことが好ましい。水分を上記下限値以上含むことで、水分が可塑剤として働き、木質系材料の流動性をより向上させることができる。一方、水分の上限については特に限定されないが、例えば、30質量%以下とすることができる。
【0129】
また、本実施形態の製造方法で得られる流動成形用木質系樹脂組成物は、木質系材料の木質細胞壁内に前記熱可塑性樹脂が存在することが好ましい。これにより、木質成形体としたときの吸湿及び乾燥時の形状保持性をより向上させることができる。
【0130】
木質系材料の木質細胞壁内に前記熱可塑性樹脂が存在することは、例えば、ラマン分光法を用いて確認することができる。具体的には、流動成形用木質系樹脂組成物又は成形体の木質系材料の断面に対し、顕微ラマン分光装置((株)堀場製作所社製HR-800MX)を用いて、50倍の対物レンズを使用して細胞壁内が観察可能な撮影視野で、約40μm2の面積を対象に0.3μm間隔でマッピング測定を実施(レーザー波長514nmのアルゴンレーザーを露光時間0.3秒で照射し、ピンホール径300μm、スリット幅100μmに設定し、積算回数を3回)し、スペクトルを取得する。その後、樹脂に特徴的な吸収ピークの強度、例えばPA6Iでは978~1030nmの範囲の吸収強度を元にマッピングを取得し、細胞壁内部への樹脂成分の存在有無を確認することができる。
【0131】
≪木質成形体の製造方法≫
木質成形体は、例えば、以下に示す方法を用いて製造することができる。
【0132】
<第一実施形態>
本実施形態の木質成形体の製造方法は、上述した製造方法により得られる流動成形用木質系樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱し、可塑化させる加熱工程と、
可塑化させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を加圧することにより直径0.5mm以上3mm以下の管を流動通過させる加圧流動工程と、
流動通過させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を、所定の形状のキャビティー内に充填した後、冷却する冷却工程と、
をこの順に含む。
【0133】
本実施形態の木質成形体の製造方法は、上記構成を有することで、吸湿及び乾燥時の形状保持性、フィルム成形性及び表面外観に優れる木質成形体が得られる。
【0134】
次いで、本実施形態の木質成形体の製造方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0135】
[加熱工程]
加熱工程では、上述した製造方法により得られる流動成形用木質系樹脂組成物を、熱可塑性樹脂の融点又はガラス転移温度以上に加熱し、可塑化させる。
【0136】
加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて、適宜設定することができるが、例えば、熱可塑性樹脂の流動開始温度以上とすることができ、好ましくは流動開始温度よりも10℃以上高い温度、より好ましくは20℃以上高い温度である。流動開始温度とは、熱可塑性樹脂が、結晶樹脂の場合、その融点であり、非結晶性樹脂の場合、そのガラス転移温度である。また、加熱温度の上限は、木材の分解を抑制する観点から、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0137】
加熱時間としては、例えば、60分間以下とすることができ、好ましくは30分間以下、より好ましくは20分間以下、さらに好ましくは15分間以下、特に好ましくは10分間以下とすることができる。一方、加熱時間は、例えば、1分間以上とすることができ、好ましくは2分間以上である。
【0138】
[加圧流動工程]
加圧流動工程では、可塑化させた流動成形用木質系樹脂組成物を加圧することにより直径0.5mm以上3mm以下の管を流動通過させる。
【0139】
加圧力としては、例えば、流動に必要な圧力をかけられれば特に問題はなく、低いほどかかるエネルギーが小さくなり好ましいが、例えば一般的な射出成形機等では、250MPa程度の射出圧力が上限であることが多く、250MPa以下であることが好ましい。
【0140】
[冷却工程]
冷却工程では、流動通過させた前記流動成形用木質系樹脂組成物を、所定の形状のキャビティー内に充填した後、冷却する。
【0141】
キャビティーとは、金型樹脂が流入して固化するための空洞部を意味し、所望の形状のものを適宜選択して用いることができる。
【0142】
冷却方法としては、例えば、金型自体を空冷又は液体冷却する等、一般的な冷却法が使用可能である。好ましくは、金型を水やオイルで温度を制御し、流動成形用木質系樹脂組成物の熱を奪う方法である。
【0143】
冷却時間としては、その装置の種類によるが、例えば、4時間以下から適宜選択することができる。一般的な射出成形であれば、冷却時間が概ね1分間以下である。
【0144】
本実施形態の木質成形体の製造方法に用いられる成形装置としては、例えば、フィルム成形機や、シート成形機に代表される押出成形機、インフレーション成形機、ブロー成形機、射出成形機等が挙げられる。
【0145】
<第二実施形態>
本実施形態の木質成形体の製造方法は、木質系材料を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状のキャビティー内に充填する第一の充填工程と、
熱可塑性樹脂を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状の前記キャビティー内に充填する第二の充填工程と、
前記熱可塑性樹脂が充填された前記キャビティーを冷却する冷却工程と、
をこの順に含む。
【0146】
本実施形態の製造方法で得られる木質成形体の総質量に対して、木質系材料の含有量が50質量%以上95質量%未満であり、50質量%以上90質量%以下が好ましく、50質量%以上80質量%以下がより好ましい。
木質系材料の含有量が上記範囲内であることで、バイオ由来成分比を高め、環境貢献できるだけでなく、従来の組成物のように、組成物が樹脂の流動性によって流動するのではなく、木質材自体の熱などにより流動性向上効果で流動することが可能となり、得られる成形体に高い木質外観を付与することができる。
【0147】
木質成形体の総質量に対して、熱可塑性樹脂の含有量が5質量%超50質量%以下であり、10質量%以上40質量%以下が好ましく、20質量%以上30質量%以下がより好ましい。
熱可塑性樹脂の含有量が上記範囲内であることで、組成物の流動性に対する熱可塑性樹脂の寄与を少なくでき、得られる成形体に高い木質外観を付与することができる。
【0148】
熱可塑性樹脂が、繰り返し単位の主鎖骨格中に、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、及びチオエーテル結合からなる群より選ばれる1種以上結合を有するか、又は、カルボニル基、酸無水物基、アミド基、及び水酸基からなる群より選ばれる1種以上の末端基を有する。このような熱可塑性樹脂として具体的には、上記「流動成形用木質系樹脂組成物」において例示されたものと同じものが挙げられる。
【0149】
本実施形態の木質成形体の製造方法は、上記構成を有することで、吸湿及び乾燥時の形状保持性、フィルム成形性及び表面外観に優れる木質成形体が得られる。
【0150】
次いで、本実施形態の木質成形体の製造方法の各工程について以下に詳細を説明する。
【0151】
[第一の充填工程]
第一の充填工程では、木質系材料を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状のキャビティー内に充填する。
【0152】
加熱温度としては、例えば、50℃以上とすることができ、好ましくは70℃以上であり、より好ましくは90℃であり、さらに好ましくは100℃である。一方、加熱温度としては、例えば、200℃未満とすることができ、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは160℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下である。加熱温度を上記下限値以上とすることで、木質系材料の流動性をより高めることができ、一方で、上記上限値以下とすることで、変色をより抑制できる。
【0153】
加圧力としては、例えば、200MPa以下とすることができ、好ましくは180MPa以下であり、より好ましくは160MPa以下であり、さらに好ましくは150MPa以下である。加圧力を上記上限値以下とすることで、成形時の木質系材料へのせん断発熱がより抑制され、変色をより抑制できる。一方、加圧力の好ましい下限値は特にないが、概ね20MPa以上である。
【0154】
加熱加圧時間としては、例えば、5分間以下とすることができ、好ましくは3分間以下であり、より好ましくは1分間以下、さらに好ましくは30秒間以下である。加熱加圧時間が上記上限値以下であることで、成形時の木質系材料への過剰な加熱がより抑制され、変色をより抑制できる。一方、加熱加圧時間の好ましい下限値は特にないが、概ね5秒間である。
【0155】
[第二の充填工程]
第二の充填工程では、熱可塑性樹脂を加熱加圧により可塑化させた後、所定の形状の前記キャビティー内に充填する。
【0156】
加熱温度としては、樹脂の溶融温度以上とすることが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、その融点以上とすることができ、好ましくは融点よりも10℃以上高い温度、より好ましくは20℃以上高い温度である。熱可塑性樹脂が、非結晶性樹脂の場合、そのガラス転移温度以上とすることができ、好ましくはガラス転移温度よりも30℃以上高い温度、より好ましくは50℃以上高い温度である。また、加熱温度の上限は、木材の分解が抑制する観点から、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。
【0157】
加圧力としては、一般的な樹脂の射出成形等で用いられる圧力であればよく、例えば、200MPa以下とすることができ、好ましくは180MPa以下であり、より好ましくは160MPa以下であり、さらに好ましくは150MPa以下である。加圧力が上記上限値以下であることにより、より低エネルギーで成形することが可能となる。加圧力の好ましい下限は特にないが、概ね20MPa以上である。
【0158】
加熱加圧時間としては、一般的な樹脂の射出成形等で用いられる時間であればよく、例えば、1分間以下とすることができ、好ましくは30秒間以下であり、より好ましくは20秒間以下であり、さらに好ましくは15秒間以下である。加熱加圧時間が上記上限値以下であることで、生産性をより高めることが可能となる。加熱加圧時間の好ましい下限は特にないが、1秒間以上とすることができる。
【0159】
[冷却工程]
冷却工程では、熱可塑性樹脂が充填されたキャビティーを冷却する。
【0160】
キャビティーとしては、所望の形状のものを適宜選択して用いることができる。
【0161】
冷却方法としては、例えば、金型自体を空冷又は液体冷却する等、一般的な冷却法が使用可能である。好ましくは、金型を水やオイルで温度を制御し、流動成形用木質系樹脂組成物の熱を奪う方法である。
【0162】
冷却時間としては、例えば、10秒間以上1分間以下とすることができる。冷却により、樹脂が形状維持可能な温度まで成形体の表面温度が低下した後に、キャビティーから木質成形体を取り出す。
【0163】
[調整工程]
本実施形態の木質成形体の製造方法は、第一の充填工程の前に、木質系材料のリグニン量を調整する調整工程を更に含むことができる。
調整工程としては、上記「流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法」における調整工程と同様に実施することができる。
【0164】
本実施形態の木質成形体の製造方法に用いられる成形装置としては、例えば、フィルム成形機や、シート成形機に代表される押出成形機、インフレーション成形機、ブロー成形機、射出成形機等が挙げられる。
【0165】
本実施形態の木質成形体の製造方法で用いられる木質系材料及び熱可塑性樹脂としては、上記「流動成形用木質系樹脂組成物の製造方法」において例示されたものと同様のものを用いることができる。
【0166】
中でも、木質系材料は、該木質系材料100質量部に対して、1質量部以上の水分を含むことが好ましい。水分を上記下限値以上含むことで、木質材を構成する主成分のセルロースやヘミセルロースの水素結合間に水分子が入り込みことができ、上記含浸工程において、樹脂との置換を容易に行うことができる。また、木質系材料中の水分が可塑剤として働くためき、得られる流動成形用木質系樹脂組成物を成形する際の流動性をより向上させることができる。一方、水分の上限については特に限定されないが、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6質量部以下、更により好ましくは5質量部以下とすることができる。
【実施例0167】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0168】
<原材料>
以下、実施例及び比較例に用いた原材料について説明する。
【0169】
[熱可塑性樹脂]
(ポリアミド6(PA6))
宇部興産株式会社製 UBEナイロン SF1013A(数平均分子量:14000、融点:220℃)
【0170】
(ポリアミド6I(PA6I))
以下の方法を用いて、ポリアミド6Iを合成した。
イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの等モル塩1500g、及び全等モル塩成分に対して1.5モル%過剰のアジピン酸、0.5モル%の酢酸を蒸留水1500gに溶解させ、原料モノマーの等モル50質量%均一水溶液を作製した。110~150℃の温度下で撹拌しながら、溶液濃度70質量%まで水蒸気を徐々に抜いて濃縮した。その後、内部温度を220℃に昇温した。このとき、オートクレーブは1.8MPaまで昇圧した。そのまま1時間、内部温度が245℃になるまで、水蒸気を徐々に抜いて圧力を1.8MPaに保ちながら1時間反応させた。
次に、30分かけて圧力を降圧し、その後、オートクレーブ内を真空装置で0.087MPaの減圧下に10分維持した。このとき、重合の最終内部温度は265℃であった。
その後、窒素で加圧し下部紡口(ノズル)からストランド状にし、水冷、カッティングを行いペレット状で排出して、100℃、窒素雰囲気下で12時間乾燥し、ポリアミド6Iを得た。得られたPA6Iは、数平均分子量が12000、重量平均分子量が24000、ガラス転移温度が158℃であった。
【0171】
なお、数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー株式会社製、HLC-8020)、及びヘキサフルオロイソプロパノール溶媒を用いて、PMMA(ポリメチルメタクリレート)標準サンプル(ポリマーラボラトリー社製)換算で予め測定した数平均分子量により作成した検量線に基づいて、算出した。なお、GPCカラムはTSK-GEL GMHHR-MとG1000HHRを使用した。
【0172】
また、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置によって測定した。具体的には、例えば、23℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加歪は線形領域内の歪量とし、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度をガラス転移温度Tgとした。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も高温側のピークのピークトップ温度をガラス転移温度Tgとした。この際の測定頻度は、測定精度を高めるため、少なくとも20秒に1回以上の測定とした。
【0173】
(ポリエチレングリコール(PEG))
富士フィルム和光純薬株式会社製 PEG-20000 平均分子量:20,000±5,000
【0174】
(アクリル樹脂(アクリル))
東亞合成株式会社製 アクリル樹脂エマルジョン(アロンT-50、ポリアクリル酸ナトリウム、数平均分子量:6000、アクリル含有量(固形分濃度):43質量%)
【0175】
[木質材]
(ヒノキ単板)
ヒノキ丸太から厚さ4mm(半径方向:R)でかつら剥きされたロータリー単板から、内径26mmのホールソーを用いて約25mm径の円盤状に切り出し、板目面(LT面)が直径約25mm、厚み(R)4mmの多数のヒノキ単板を得た。
【0176】
(ヒノキ小片板)
ヒノキ丸太から厚さ5mm(半径方向:R)でかつら剥きされたロータリー単板から、カットソーを用いて、長さ5mm、幅5mmに切断し、5mm立方体の小片を得た。
【0177】
(スギ木粉)
スギ木部から採取した木粉 178μmパス品、 300μmオン品
【0178】
[リグニン調整方法]
ヒノキ単板を、Klaudiz法(参考文献1:“坂口隆英他:「木材の化学」、文永堂出版、1985、第69~70頁”)に準拠した方法でリグニン量の調整を実施した。詳細には、温度を45℃に設定した亜塩素酸ナトリウムの4質量%水溶液中に乾燥したヒノキ単板を浸漬し、6時間浸漬処理し、リグニン量を調整したヒノキ単板を得た。処理後は、複数回水に浸漬して洗浄を行い飽水状態とした。なお、ヒノキ単板内部に処理液が速やかに浸透、反応するよう、予め加熱しておいた処理液を減圧注入した。脱リグニン処理木材は、次の樹脂含浸まで飽水状態で保管した。得られた処理後ヒノキ単板の一部を乾燥して処理前の乾燥ヒノキ単板からの重量減少率を測定したところ、6.8質量%であった。
【0179】
<物性の測定方法>
[木質細胞壁内への熱可塑性樹脂の存在有無]
得られた樹脂含浸原料のヒノキ単板の木口断面又は木粉部分に対し、顕微ラマン分光装置((株)堀場製作所社製HR-800MX)を用いて、50倍の対物レンズを使用して細胞壁内が観察可能な撮影視野で、約40μm2の面積を対象にマッピング測定を実施した。測定は、レーザー波長514nmのアルゴンレーザーを露光時間0.3秒で照射し、ピンホール径300μm、スリット幅100μmに設定し、積算回数を3回としてスペクトルを取得した。978~1030nmの範囲のラマン吸収強度のマッピングを取得した。
その後、樹脂に特徴的な吸収ピークの強度を元に、細胞壁内部への樹脂成分の存在有無を確認した。詳細にはポリアミド6Iを含浸した原料では1000cm-1付近に特徴的な吸収ピークが存在したため、978~1030nmの範囲の吸収強度でマッピングを行った。
【0180】
[成形前水分量]
吸水状態にある原料の質量(Wwet)と、当該原料を100℃条件で24時間真空乾燥を実施した後の質量(Wdry)をそれぞれ測定し、成形前水分量(質量%)を下式より算出した。
【0181】
成形前水分量(質量%)=(Wwet-Wdry)×100/Wdry
【0182】
<評価方法>
[色調]
得られたギア成形体の色調を目視で確認した。熱安定性の良いものほど、着色が抑制され、明るい色調となる傾向にある。
【0183】
[金型転写性]
得られたギア成形体の金型転写性を以下の5段階で評価した。
【0184】
(評価基準)
5:ギアの歯の形状が金型と同等の直角を成しており、成形片全面に光沢がある。
4:ギアの歯の形状が金型と同等の直角を成しているが、成形片の一部に光沢がない。
3:ギアの歯の形状が金型と同等の直角を成しているが、成形片に全く光沢がない。
2:ギアの歯の形状が金型形状を反映しておらず、成形片に全く光沢がない。
1:充分に充填されていない
【0185】
[表面硬度]
成形片の表面硬度を、ISO 15184:1996に準拠した引っかき硬度(鉛筆法)で測定した。
【0186】
[フィルム成形性]
射出成形時のピストンとシリンダー間のバリ状のクリアランス(100~200μm)に流れ込む原料の量と靭性から以下の3段階で評価した。
【0187】
(評価基準)
3:木質細胞を含む樹脂含浸原料の流れ込み長が5mm以上で、バリが靭性を有し、崩れにくい。
2:木質細胞を含む樹脂含浸原料の流れ込み長が5mm未満、或いは、バリが脆く、崩れやすい。
1:木質細胞を含む樹脂含浸原料の流れ込みがほとんどない、或いは、形状を維持できないほど脆い。
【0188】
[リサイクル性]
成形体のリサイクル性評価には、コンテナの内側の形状が50×52mm、上下に同寸法の平面のパンチとダイスを有する金型を用いた。金型表面温度を150℃とした後、コンテナ内に成形体及びパンチとダイスを設置し、上下方向に成形荷重8トン(成形面圧:約30MPa)を負荷して板状成形体を作製した。成形体と接触する金型表面はいずれも鏡面仕上げとした。リサイクル性は以下の3段階で評価した。
【0189】
(評価基準)
3:コンテナと同寸法及び形状の板状成形体であり、金型転写性も良好であるため成形体表面に光沢がある。
2:コンテナと同寸法及び形状の板状成形体であるが、成形体表面に光沢がない。
1:十分に充填されていない、あるいは、成形体が脆く崩れやすい(或いは、崩れている)。
【0190】
[耐水性]
得られた成形片を、80℃に設定した水中に浸漬し、10時間後の外観変化を確認し、以下の4段階で評価した。
【0191】
(評価基準)
4:外観上、変化がないもの
3:成形体が水分吸収により、若干の変形があるもの
2:成形体が水分吸収により、成形体の一部が崩壊しているもの
1:成形体の原形をとどめていないもの
【0192】
<木質成形体の製造>
[実施例1]
(射出用原料(流動成形用木質系樹脂組成物)の調製)
ポリアミド6Iをヘキサフルオロイロプロピルアルコール(HFIP)中に10質量%の濃度で溶解させた含浸液を作製し、この含浸液中に、リグニン量を調整したヒノキ単板を35℃で7日間浸漬し、ヒノキ内部の液をポリアミド6IのHFIP溶液に置換した。含浸液より取り出した樹脂含浸ヒノキ単板を18時間、室温乾燥後、60℃で2日間熱風乾燥し、更に80℃で5日間減圧乾燥を実施した。
【0193】
この時得られた射出用原料である樹脂含浸ヒノキ単板中の木質材含有率を、得られた原料の重量と、脱リグニン処理による木質材の重量減少率(6.8質量%)から換算した乾燥状態の脱リグニン処理木質材の重量(推定値)から算出したところ、70質量%(樹脂含有率30質量%)であった。
形態は、もともとのヒノキ単板と同一形状で、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸した構造を呈していた。また、得られた樹脂含浸原料について、木質細胞壁内への熱可塑性樹脂の存在有無を測定した。実施例1については、理解を助けるため、代表的な例としてそのマッピング結果を
図1A(ラマンマッピング及びラマンスペクトルの測定位置)並びに
図1B(ラマンスペクトル)に示した。
【0194】
(射出成形)
プレス成型機の加熱プレート間に、29.7mm外径のピストンと30.0mm内径のシリンダーを有する金型の先端に、直径3mm、長さ10mmのキャピラリー孔が設けられた縦型射出ユニットと、射出ユニットの下部にギア形状のキャビティーを有するギア金型を設置した。加熱プレートからの伝熱によりシリンダーの表面温度が150℃になるまで金型を加熱した後、シリンダー中に複数枚の樹脂含浸ヒノキ単板(約10g)を載置し、ゆっくりと圧密しながら樹脂含浸ヒノキ単板を5分間かけて予熱し、その後、プレート降下速度10mm/分で降下させてシリンダー内の樹脂含浸ヒノキ単板に圧力をかけて流動化させ、キャピラリーを通過させ、金型キャビティーに移動させた。その後、加熱をやめ、金型温度が100℃以下になったことを確認して内部の成形体(
図2参照)を取り出した。この際のピストン圧力及び型締め圧力は、212MPaであった。この成形時、シリンダー内の原料が流出時の圧力として、ピストン位置が先端より4mmの位置でのピストンに係った圧力を流動時圧力として記録した。
【0195】
[実施例2]
(射出用原料(流動成形用木質系樹脂組成物)の調製)
ポリアミド6Iを80℃の水中に、100時間浸漬し、含水率4質量%の飽水ポリアミド6Iを得た。オートクレーブに、飽水状態としたリグニン量を調整したヒノキ単板を仕込み、その上部に飽水ポリアミドを積層するように配し、オートクレーブ内を窒素置換して密封した。この時のヒノキ単板/ポリアミド6Iは乾燥重量比で70/30となるよう調整した。
【0196】
次いで、オートクレーブを加熱し、200℃に昇温した。このとき圧力は1.6MPaまで昇圧した。そのまま1時間維持した後、水蒸気を徐々に抜いて30分かけて圧力を大気圧まで降圧し、樹脂含浸ヒノキ単板を取り出した。
【0197】
得られた原料の形態は、もともとのヒノキ単板とほぼ同一形状であり、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸された構造を呈していた。また、実施例1と同様に、顕微ラマン装置を用いて木質細胞壁内への熱可塑性樹脂の存在有無を確認した。その結果、細胞壁内へのポリアミド6Iの存在が確認された。
【0198】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。
【0199】
[比較例1]
(射出用原料の調製)
東亞合成株式会社製 アクリル樹脂エマルジョン(アロンT-50、組成:ポリアクリル酸ナトリウム、数平均分子量:6000、アクリル含有量(固形分濃度):43質量%)を固形分濃度20質量%に希釈した水溶液中に、乾燥状態(含水率:約0%)のリグニン量を調整したヒノキ単板を浸漬し、約20℃で1時間減圧後、18時間加圧し、ヒノキ内部にアクリル樹脂エマルジョンを注入した。含浸液より取り出した樹脂含浸ヒノキ単板を約48時間、室温乾燥後、更に35℃で48間送風乾燥し、最後に48時間減圧乾燥した。
この時得られた射出用原料である樹脂含浸ヒノキ単板中の木質材含有率を、算出したところ70質量%(樹脂含有率30質量%)であった。
形態は、もともとのヒノキ単板と同一形状で、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸された構造を呈していた。
【0200】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。この際、シリンダー温度は170℃に設定した。得られた成形片の外観を
図3に示す。
【0201】
[比較例2]
(射出用原料の調製)
富士フィルム和光純薬株式会社製 PEG-20000の25%水溶液中に、リグニン量を調整したヒノキ単板を室温で1週間浸漬し、ヒノキ内部の液をPEG水溶液に置換した。含浸液より取り出した樹脂含浸ヒノキ単板を20℃、湿度60%RHの環境下で調湿乾燥した。
この時得られた射出用原料である樹脂含浸ヒノキ単板中の木質材含有率を、算出したところ60質量%であった。
【0202】
形態は、もともとのヒノキ単板と同一形状で、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸された構造を呈していた。
【0203】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。この際、シリンダー温度は150℃に設定した。得られた成形片の外観を
図4に示す。
【0204】
[実施例3]
(射出用原料(流動成形用木質系樹脂組成物)の調製)
ポリアミド6をHFIP中に17質量%の濃度で溶解させた含浸液を作製し、この含浸液中に、リグニン量を調整したヒノキ単板を35℃で7日間浸漬、室温乾燥後、60℃で2日間熱風乾燥し、更に80℃で5日間減圧乾燥を実施した。
【0205】
この時得られた射出用原料である樹脂含浸ヒノキ単板中の木質材含有率を、得られた原料の重量と、脱リグニン処理による木質材の重量減少率(6.8質量%)から換算した乾燥状態の脱リグニン処理木質材の重量(推定値)から算出したところ50質量%(樹脂含有率50質量%)であった。
【0206】
形態は、もともとのヒノキ単板と同一形状で、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸された構造を呈していた。また、実施例1と同様に、顕微ラマン装置を用いて木質細胞壁内への熱可塑性樹脂の存在有無を確認した。その結果、細胞壁内へのポリアミド6の存在が確認された。
【0207】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。
【0208】
[実施例4]
(射出用原料(流動成形用木質系樹脂組成物)の調製及び射出成形)
実施例1の射出用原料の調製段階で使用したリグニン量を調整したヒノキ単板を、リグニン量を調整していないヒノキ単板に変えた以外は、すべて、実施例1と同様に実施した。
【0209】
[実施例5]
(射出用原料(流動成形用木質系樹脂組成物)の調製及び射出成形)
実施例2の射出用原料の調製段階で使用したリグニン量を調整したヒノキ単板を、リグニン量を調整していないヒノキ単板に変えた以外は、すべて、実施例2と同様に実施した。
【0210】
[比較例3]
(射出用原料の調製)
105℃に設定した真空乾燥機で、24時間予備乾燥したスギ木粉を50質量部、ポリアミド6を50質量部、相溶化剤として株式会社ユーメックス社製CA60を0.5質量部ドライブレンドし、DSM社製のXplore小型混錬機を用いて、250℃条件で溶融混練を実施し、短冊状の成形体を得た後、これを粉砕して原料とした。得られた原料の形態は、樹脂中に木質材成分が分散した構造を呈していた。
【0211】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。
【0212】
[比較例4]
(射出用原料の調製)
比較例3の各成分量を予備乾燥したスギ木粉を70質量部、ポリアミド6を30質量部、相溶化剤として株式会社ユーメックス社製CA60を0.3質量部とした以外は、すべて比較例3と同様に実施した。しかしながら、木質成分の熱分解が激しく、まともな溶融状態を呈することはなく、製造することができず、評価に至らなかった。
【0213】
[比較例5]
(射出用原料の調製)
比較例4のポリアミド6をポリアミド6Iに変更した以外は、すべて比較例4と同様に実施した。しかしながら、比較例4と同様に、木質成分の熱分解が激しく、まともな溶融状態を呈することはなく、製造することができず、評価に至らなかった。
【0214】
[実施例6]
(射出用原料の調製)
ヒノキ単板をヒノキ小片に変更した以外はすべて実施例1と、同様に実施した。
この時得られた射出用原料である樹脂含浸ヒノキ単板中の木質材含有率を、算出したところ80質量%(樹脂含有率20質量%)であった。
形態は、もともとのヒノキ小片と同一形状で、木質の板状を維持しており、木質材構造内に樹脂が含浸した構造を呈していた。
【0215】
(射出成形)
実施例1と同様に、射出成形を実施した。
【0216】
[実施例7]
(木質系材料の調製)
ヒノキ小片を、Klaudiz法に準拠した方法でリグニン量の調整を実施した。詳細には、温度を45℃に設定した亜塩素酸ナトリウムの4質量%水溶液中に乾燥したヒノキ小片を浸漬し、6時間浸漬処理し、リグニン量を調整したヒノキ小片を得た。処理後は、複数回水に浸漬して洗浄を行い飽水状態とした。処理後ヒノキ小片の一部を乾燥して重量減少率から含水率を測定したところ、300質量%であった。
【0217】
(二色成形)
プレス成型機の加熱プレート間に、29.7mm外径のピストンと30.0mm内径のシリンダーを有する金型の先端に、直径3mm、長さ10mmのキャピラリー孔が設けられた縦型射出ユニットと、射出ユニットの下部にギア形状のキャビティーを有するギア金型を設置した。
【0218】
加熱プレートからの伝熱によりシリンダーの表面温度が120℃になるまで金型を加熱した後、シリンダー中に複数個の処理後ヒノキ小片(約8g)を載置し、ゆっくりと圧密しながら5分間かけて予熱し、その後、プレート降下速度5mm/分で降下させてシリンダー内の処理後ヒノキ小片に圧力をかけて流動化させ、キャピラリーを通過させ、金型キャビティーに移動させた。このとき、射出時の圧力として、ピストン位置が先端より4mmの位置でのピストンに係った圧力を流動時圧力として記録した。
【0219】
その後、150℃に加熱したシリンダーにPA6Iを8g充填し、ゆっくりと圧縮しながら5分間かけて予熱し、その後、プレート降下速度5mm/分で降下させてシリンダー内のPA6Iに圧力をかけて流動化させ、キャピラリーを通過させ、金型キャビティーに流入させた。この時、金型キャビティーが完全充満したため、樹脂はすべてを充填することはできなかった。この時、同様に、射出時の圧力として、ピストン位置が先端より4mmの位置でのピストンに係った圧力を流動時圧力として記録しようとしたが、4mm位置に到達しなかったため、金型充満により圧力が最大値に上がる直前の圧力を流動時圧力とした。
【0220】
実施例1~7及び比較例1~3において、成形時の挙動からフィルム成形性、得られた成形体について、色調、金型転写性、表面硬度、フィルム成形性、リサイクル成形性及び耐水性を評価した。結果を以下の表に示す。
【0221】
【0222】
【0223】
表1及び表2に示すように、特定の熱可塑性樹脂を木質系材料に含浸させた射出用原料、又は、特定の熱可塑性樹脂と木質系材料を組み合わせて用いて、成形体を製造した実施例1~7では、薄茶色~茶色の色調を呈しており、金型転写性、表面硬度、フィルム成形性、リサイクル成形性及び耐水性の全てが良好であった。
【0224】
一方、PMMA又はPEGを含浸させた射出用原料を用いて成形体を製造した比較例1~2では、色調が茶色又は茶色~褐色とやや薄暗く、金型転写性、表面硬度、フィルム成形性、リサイクル成形性及び耐水性の全てが実施例1~7よりも劣っていた。
また、スギ木粉と樹脂を溶融混錬し、押出により製造した射出用原料を用いて成形体を製造した比較例3では、溶融混錬時の加熱により木質材の色調が黒褐色と著しく劣化しており、金型転写性、表面硬度、フィルム成形性、リサイクル成形性及び耐水性の全てが実施例1~7よりも劣っていた。さらに、スギ木粉の配合量を増加してスギ木粉と樹脂を溶融混錬した比較例4~5では、上述したように、木質成分の熱分解が著しく、射出用原料を製造することができなかった。
本実施形態の流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法によれば、木質成形体としたときの金型転写性、表面硬度、及びフィルム成形性に優れる流動成形用木質系樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。