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特開2024-47260マイクロカプセル粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047260
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】マイクロカプセル粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/20 20060101AFI20240329BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/11 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240329BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
B01J13/20
A61K9/50
A61K47/04
A61K47/02
A61K8/11
A61K8/25
A61K8/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152784
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390005728
【氏名又は名称】AGCエスアイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】加茂 博道
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4G005
【Fターム(参考)】
4C076AA62
4C076AA64
4C076AA67
4C076CC03
4C076CC22
4C076CC40
4C076DD09
4C076DD29
4C076EE23
4C076EE49
4C076FF31
4C076GG21
4C076GG31
4C083AB171
4C083AB172
4C083AB211
4C083AB212
4C083AC442
4C083AD052
4C083CC19
4C083EE07
4C083EE17
4C083FF01
4G005AA01
4G005BA15
4G005BB13
4G005BB24
4G005DA05Y
4G005DA05Z
4G005EA01
4G005EA02
4G005EA03
4G005EA05
4G005EA07
(57)【要約】
【課題】シェルが緻密で、媒体中での安定性が高いマイクロカプセル粒子の提供。
【解決手段】機能材コアの外周に無機酸化物を含むシェル層を形成してマイクロカプセル前駆体を得た後、100~800℃で熱処理を行うことにより内部に機能材が保持されたマイクロカプセル粒子を得るマイクロカプセル粒子の製造方法であって、前記マイクロカプセル粒子のシェル層におけるLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mの合計の含有量を10~4000質量ppmとすることを特徴とするマイクロカプセル粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能材コアの外周に無機酸化物を含むシェル層を形成してマイクロカプセル前駆体を得た後、100~800℃で熱処理を行うことにより内部に機能材が保持されたマイクロカプセル粒子を得るマイクロカプセル粒子の製造方法であって、前記マイクロカプセル粒子のシェル層におけるLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mの合計の含有量を10~4000質量ppmとすることを特徴とするマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項2】
前記機能材の水への溶解度が、加重平均で1g/100mL以下であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項3】
前記無機酸化物がシリカを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロカプセル粒子の粒径が、0.1~60μmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロカプセル粒子のメディアン径/シェル厚み比が、0.01~0.5である、請求項1~4のいずれか1項に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロカプセル前駆体に対し、ケイ素源を加えてシェル層を緻密化する封孔処理過程を施した後に熱処理を行うことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
【請求項7】
機能材コアと、前記機能材コアを取り囲む無機酸化物を含むシェル層から構成されるマイクロカプセル粒子であり、前記シェル層がLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを合計で10~4000質量ppm含み、機能材のシクロヘキサン中保持率が35%以上であるマイクロカプセル粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセル粒子は、カプセル内に保持した機能材を、保持したり必要に応じて排出したりすることで、媒体に溶解する機能材をシェルで保護して媒体中に溶出させないようにすることができる粒子である。このような粒子は、PCM(Phase Change Material、相転移材料)を保持した蓄熱材等への応用が期待されている。
【0003】
これらの要求を満たすために、シェルとして無機酸化物を用いた検討が行われており、種々の提案がなされている。例えば特許文献1や非特許文献1では、アルコキシシランを用いたマイクロカプセル粒子の製法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2020/214877号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Thermal Analysis and Calorimetry volume 147,pp7077-7097(2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のマイクロカプセル粒子は、熱処理によるシェル層の硬化プロセスを用いていて、保持する機能材が分解しない温度で硬化させる必要があった。そのため、硬化後のシェル層の緻密さ及び媒体中での耐久性が不十分であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、シェル層に含まれるアルカリ量を調整し、内部の機能材が分解されない温度で熱処理を行うことで、媒体中での耐久性に優れ、内部の機能材を確実に保持可能なマイクロカプセル粒子を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記(1)~(7)に関するものである。
(1) 機能材コアの外周に無機酸化物を含むシェル層を形成してマイクロカプセル前駆体を得た後、100~800℃で熱処理を行うことにより内部に機能材が保持されたマイクロカプセル粒子を得るマイクロカプセル粒子の製造方法であって、前記マイクロカプセル粒子のシェル層におけるLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mの合計の含有量を10~4000質量ppmとすることを特徴とするマイクロカプセル粒子の製造方法。
(2) 前記機能材の水への溶解度が、加重平均で1g/100mL以下であることを特徴とする、前記(1)に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
(3) 前記無機酸化物がシリカを含むことを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
(4) 前記マイクロカプセル粒子の粒径が、0.1~60μmであることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれか1つに記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
(5) 前記マイクロカプセル粒子のメディアン径/シェル厚み比が、0.01~0.5である、前記(1)~(4)のいずれか1つに記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
(6) 前記マイクロカプセル前駆体に対し、ケイ素源を加えてシェル層を緻密化する封孔処理過程を施した後に熱処理を行うことを特徴とする、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載のマイクロカプセル粒子の製造方法。
(7) 機能材コアと、前記機能材コアを取り囲む無機酸化物を含むシェル層から構成されるマイクロカプセル粒子であり、前記シェル層がLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを10~4000質量ppm含み、機能材のシクロヘキサン中保持率が35%以上であるマイクロカプセル粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、緻密なシェル層を有したマイクロカプセル粒子を提供できる。本発明のマイクロカプセル粒子は、媒体中で溶媒が浸透し難いので、樹脂組成物中でも内部の機能材を確実に保持できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明するが、以下の説明における例示によって本発明は限定されない。
【0011】
(マイクロカプセル粒子)
本発明により得られるマイクロカプセル粒子は、無機酸化物を含むシェル層を有し、シェル層の内部に機能材コアを有する、コアシェル構造の粒子である。シェル層の内部に機能材コアを有することは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査型電子顕微鏡(SEM)観察により確認できる。SEM観察の場合は、一部が開口した破損粒子を観察することにより、内部に機能材あるいはそれが除去された空洞があることを確認できる。
なお、マイクロカプセル粒子は、カプセル化や乾燥の工程によって一次粒子同士が一部結合することがあり、製造で得られたマイクロカプセル粒子は一次粒子が凝集した二次粒子の集合体となっていることがある。
【0012】
無機酸化物としては、シリカ(SiO)、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化銅、酸化鉄、酸化錫などが挙げられ、シェルの形成の容易さの観点から、シリカを用いるのが好ましい。以下、本明細書では無機酸化物がシリカを含むマイクロカプセル粒子について記載する。
本明細書において、シェル層が「シリカを含む」とは、シリカ(SiO)がシェル層に50質量%以上含まれることを意味する。シェル層の組成は、ICP発光分析法やフレーム原子吸光法などによって測定できる。シェル層が含むシリカは80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。上限は理論的に100質量%である。シェル層が含むシリカは100質量%未満が好ましく、99.99質量%以下がより好ましい。残分としてはアルカリ金属酸化物およびケイ酸塩、アルカリ土類金属酸化物およびケイ酸塩、カーボン等が挙げられる。
また、「コアシェル構造の粒子」とは、1個の一次粒子の断面を観察した際に、1個のコアの周囲をシェル層が囲んでいる構造を意味する。すなわちマイクロカプセル粒子1個は、機能材コア1個とそれを取り囲むシェル層とを有する。
「機能材」とは、蓄熱性材料や香料、薬剤等といった、特定の機能を持つ非水溶性の物質を意味する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の両側の数値をその数値範囲に含む。
【0013】
本発明のマイクロカプセル粒子は、内部に機能材コアを有する粒子である。本発明のマイクロカプセル粒子の用途としては、内部に機能材を保持し続けた状態で利用する用途、内部に保持した機能材を徐放させる用途、摩擦等の刺激でカプセルを壊すことにより必要に応じて機能材を放出する用途等が挙げられる。
内部に保持し続けた状態で用いられる機能材の例としては、色原体及び染料、ワックス、皮膚冷却剤、日焼け止め剤、反応触媒、顔料、紫外線保護剤、日褪せ阻害剤、相変化材料等が挙げられる。
徐放させる用途で用いられる機能材の例としては、香料組成物、エッセンシャルオイル等の香料原材料、ビタミン、酸化防止剤、悪臭軽減剤、臭気制御材料、柔軟剤、蛾駆除剤等の昆虫駆除剤、医薬油等の医薬、乾燥剤、塩素漂白臭気抑制剤、抗アレルギー剤、天然活性物質、肥料、栄養剤、除草剤等が挙げられる。
カプセルを壊すことにより放出させる用途で用いられる機能材としては、香料組成物、エッセンシャルオイル等の香料原材料、潤滑油、シリコーンオイル、柔軟剤、医薬油等の医薬、着色剤、接着剤、増粘剤、ドレープ及びフォーム調整剤、平滑剤、しわ抑制剤、衛生化剤、消毒剤、細菌抑制剤、白カビ抑制剤等のカビ抑制剤、抗ウイルス剤、耐汚染剤、汚れ放出剤、布地リフレッシュ剤及び洗いたて感維持剤、染料固定剤、色保持剤、色復元/再生剤、抗退色剤、布地一体化剤、摩耗防止剤、けば立ち防止剤、抑泡剤、消泡剤、布地快適剤、耐収縮剤、耐伸剤、伸縮回復剤、スキンケア剤、染料等が挙げられる。
これらは単独で、又は、単一相で油相を形成する範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記の用途のうち、内部に保持し続けた状態で用いられる機能材を用いるのがより好ましく、相変化材料を用いるのが特に好ましい。相変化材料を保持させたマイクロカプセル粒子は蓄熱材等として利用できる。
【0014】
マイクロカプセル粒子の真球度は、0.75~1.0であることが好ましい。真球度が低くなると、マイクロカプセル粒子が破損しやすくなり、媒体中での安定性が悪化する。真球度は、走査型電子顕微鏡(SEM)により写真撮影して得られる写真投影図における任意の100個の粒子について、それぞれの最大径(DL)と、これと直交する最小径(DS)とを測定し、最大径(DL)に対する最小径(DS)の比(DS/DL)を算出した平均値で表すことができる。
光散乱性や触感などの観点から、真球度は、0.80以上であることがより好ましく、0.82以上がさらに好ましく、0.83以上がよりさらに好ましく、0.85以上が特に好ましく、0.87以上が殊更に好ましく、0.90以上が最も好ましい。
【0015】
マイクロカプセル粒子の二次粒子の粒径(一次粒子の凝集時の凝集径)はレーザー散乱によって測定できる。SEMによる凝集径の測定では、SEM観察時に真空環境にした際、粒子が割れるため、粒子間の境目が不明瞭で、分散時の粒径を反映しないためである。また、コールターカウンターによる測定では、マイクロカプセル粒子と中実粒子での電場変化が異なり、中実粒子に対して対応した数値を出すことが困難であるためである。
【0016】
一次粒子の大きさの平均値(平均一次粒子径)は0.1~60μmの範囲であることが好ましい。平均一次粒子径が0.1μm以上であると、本発明のマイクロカプセル粒子を含む樹脂組成物とした際に、樹脂の可とう性が低下しにくい。また、平均一次粒子径が60μm以下であると、フィラーとしての取り扱いがしやすい。
平均一次粒子径は、製造再現性の観点から、下限は、100nm以上が好ましく、200nm以上が最も好ましい。また上限は、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましく、15μm以下が特に好ましい。
【0017】
マイクロカプセル粒子の一次粒子の大きさは、SEM観察によりその粒子径(直径)を直接観察することによって求められる。具体的には、SEM画像より100個の粒子の一次粒子の大きさを測定し、それらを集計して得られた一次粒子の大きさの分布を、全体の一次粒子の大きさの分布と推定する。SEM観察により、解凝集が難しい粒子の一次粒子径を直接測定できる。
【0018】
マイクロカプセル粒子の二次粒子のメディアン径は、0.20~60μmであることが好ましい。
メディアン径が0.20μm以上であると、本発明のマイクロカプセル粒子を含む樹脂組成物とした際に粘度が上がりにくく、分散性も悪化しにくいため、0.20μm以上であることが好ましく、0.25μm以上がより好ましく、0.30μm以上がさらに好ましい。また、メディアン径が60μm以下であると、樹脂組成物を膜に成型した際、粒立ちが起こりにくいため、60μm以下であることが好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下が特に好ましく、15μm以下が最も好ましい。
【0019】
また、マイクロカプセル粒子のメディアン径/シェル厚み比は、0.01~0.5が好ましい。0.01以上であるとシェル強度が保たれて破損しにくくなり、0.5以下では機能材の保持量が減らず、機能性が落ちることがないためである。
【0020】
ここで、シェル厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)によって個々の粒子のシェル厚さを測定することによって求められる。
【0021】
マイクロカプセル粒子は、BET比表面積が0.1~300m/gであることが好ましい。BET比表面積が0.1m/g以上であると、本発明のマイクロカプセル粒子を含む樹脂組成物とした際に樹脂との密着性が確保でき、300m/g以下であると溶媒中で機能材を確実に保持することができる。
緻密なシェルができるほど比表面積は小さくなることから、BET比表面積は、200m/g以下であることがより好ましく、150m/g以下がさらに好ましく、50m/g以下が特に好ましく、30m/g以下が最も好ましい。また、BET比表面積は、0.5m/g以上であることがより好ましく、1.0m/g以上が最も好ましい。
【0022】
ここで、BET比表面積は、比表面積測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「トライスターII3020」)を用い、前処理としてマイクロカプセル粒子を120℃で50mTorrとなるまで乾燥させた後、液体窒素を用いた多点法で測定できる。
【0023】
マイクロカプセル粒子は、シェル層がLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有する。マイクロカプセル粒子に金属Mが含まれることで、焼成時にフラックスとして働き、比表面積が低下して誘電正接を低くできる。また、金属Mを含有しない場合と比較して低い温度の熱処理であっても、シェル層を緻密にすることが可能となる。
【0024】
金属Mはマイクロカプセル粒子の製造において、反応工程から洗浄工程の間に含有されることが好ましい。例えば、反応工程において、シリカのシェルを形成する際の反応溶液中に前記金属Mの金属塩を添加することや、マイクロカプセル前駆体を焼き締めする前に前記金属Mの金属イオンを含む溶液で洗浄すること、前記金属Mの金属イオンを含むケイ素源を添加して封孔処理を行うことにより、マイクロカプセル粒子に金属Mを含有できる。
【0025】
マイクロカプセル粒子のシェル層に含まれる金属Mの濃度は、合計で10~4000質量ppmである。金属Mの濃度が10質量ppm以上であると焼成時のフラックス効果により焼結が進み、シェルを緻密にすることが出来る。4000質量ppm以下であると、粒子間の焼結が進みすぎず、凝集が起こりにくくなる。金属Mの濃度は、30質量ppm以上がより好ましく、50質量ppm以上がより好ましい。また、1000質量ppm以下が好ましく、800質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下が最も好ましい。
【0026】
金属Mの測定方法は、マイクロカプセル粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し主成分のケイ素を除去したのちにICP発光分析で測定できる。
また、シリカ原料としてアルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合は、シリカ原料としてケイ素アルコキシドを用いる場合に比べて、得られるマイクロカプセル粒子のシェル層に原料由来の炭素(C)成分は少なくなる。
【0027】
マイクロカプセル粒子の表面は、シランカップリング剤によって処理されていてもよい。シランカップリング剤で処理されていることで、樹脂組成物とする際に、樹脂との親和性が向上し、分散性や、樹脂製膜後の強度が向上する。
【0028】
シランカップリング剤の種類としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物等が挙げられる。シランカップリング剤は1種類を単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
シランカップリング剤の付着量としては、マイクロカプセル粒子の粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2質量部以上がさらに好ましく、また10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0030】
マイクロカプセル粒子の表面がシランカップリング剤で処理されていることはIRによるシランカップリング剤の置換基によるピークの検出により確認できる。また、シランカップリング剤の付着量は、炭素量により測定できる。
【0031】
(マイクロカプセル粒子の製造方法)
本発明のマイクロカプセル粒子の製造方法としては、例えば、水相、機能材を含む油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションを用い、エマルション中でマイクロカプセル前駆体を得て、この前駆体からマイクロカプセル粒子を得る方法が挙げられる。この水中油型エマルションは、水中に油相が分散したエマルションである。このエマルションにシリカ原料が添加されると油滴の表面にシリカ原料が付着し、機能材コア-シリカシェル粒子を形成できる。
【0032】
本発明のマイクロカプセル粒子の製造方法は、コアの外周にシリカを含むシェル層を形成してマイクロカプセル前駆体を得て、前記マイクロカプセル前駆体を100~800℃で熱処理することを含む。前記マイクロカプセル前駆体を得る際には、水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションに第1のシリカ原料を添加し、1段目シェルを形成し、1段目シェルが形成されたエマルションに第2のシリカ原料を添加し、2段目シェルを形成し、マイクロカプセル前駆体を得ることが好ましい。
以下、水中油型エマルションを単にエマルションとも記す。また、第1のシリカ原料が添加されて生成しかつ第2のシリカ原料が添加される前の機能材コア-シリカシェル粒子が分散した分散液、及び、第2のシリカ原料が添加された後の機能材コア-シリカシェル粒子が分散した分散液も、エマルションと記すことがある。後者の第2のシリカ原料が添加された後の機能材コア-シリカシェル粒子が分散した分散液はマイクロカプセル前駆体分散液と同等のものであってもよい。
【0033】
<1段目シェルの形成>
まず、水相、油相、及び界面活性剤を含む水中油型エマルションに第1のシリカ原料を添加し、1段目シェルを形成する。
【0034】
エマルションの水相は、主として水を溶媒として含む。水相には、水溶性の有機液体、水溶性樹脂等の添加剤がさらに添加されてもよい。水相における水の割合は50~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましい。
【0035】
エマルションの油相は、水相成分と相溶しない非水溶性の機能材を含む。この機能材がエマルション中で油滴となり、マイクロカプセル前駆体の機能材コア部分を形成する。
【0036】
機能材の例としては、前記の通り、色原体及び染料、香料組成物、エッセンシャルオイル等の香料原材料、潤滑油、シリコーンオイル、ワックス、脂質、ビタミン、日焼け止め剤、酸化防止剤、反応触媒、悪臭軽減剤、臭気制御材料、柔軟剤、蛾駆除剤等の昆虫駆除剤、着色剤、顔料、医薬油等の医薬、接着剤、増粘剤、ドレープ及びフォーム調整剤、平滑剤、しわ抑制剤、衛生化剤、消毒剤、細菌抑制剤、白カビ抑制剤等のカビ抑制剤、抗ウイルス剤、乾燥剤、耐汚染剤、汚れ放出剤、布地リフレッシュ剤及び洗いたて感維持剤、塩素漂白臭気抑制剤、染料固定剤、色保持剤、色復元/再生剤、抗退色剤、布地一体化剤、摩耗防止剤、けば立ち防止剤、抑泡剤、消泡剤、紫外線保護剤、日褪せ阻害剤、抗アレルギー剤、布地快適剤、耐収縮剤、耐伸剤、伸縮回復剤、スキンケア剤、天然活性物質、染料、相変化材料、肥料、栄養剤、及び除草剤等が挙げられる。
【0037】
これらは単独で、又は、単一相で油相を形成する範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記機能材のうち、内部に保持し続けた状態で用いるのが好ましいという観点から、色原体及び染料、ワックス、皮膚冷却剤、日焼け止め剤、反応触媒、顔料、紫外線保護剤、日褪せ阻害剤、相変化材料等を用いるのがより好ましく、相変化材料を用いるのがさらに好ましい。相変化材料の具体例としては、炭化水素(たとえば、直鎖アルカン又はパラフィン炭化水素、分岐鎖アルカン、アルキンやアルケン等の不飽和炭化水素、ハロゲン化炭化水素及び脂環式炭化水素)、脂肪酸(たとえば、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸及びセロチン酸)、脂肪酸エステル(たとえば、カプリル酸メチル、カプリン酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、アラキジン酸メチル、ベヘン酸メチル、リグノセリン酸メチル)、脂肪族アルコール(たとえば、カプリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、アラキジルアルコール、ベヘニルアルコール、リグノセリルアルコール、セリルアルコール、モンタニルアルコール、ミリシルアルコール及びゲジルアルコール(geddyl alcohol))、芳香族化合物、酸無水物(たとえば、ステアリン酸無水物)、糖アルコール(たとえば、エリトリトール、D-マンニトール、ガラクチトール、キシリトール、D-ソルビトール)、ポリマー(たとえば、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンマロネート、ポリネオペンチルグリコールセバケート、ポリペンタングルタレート、ポリミリスチン酸ビニル、ポリステアリン酸ビニル、ポリラウリン酸ビニル、ポリヘキサデシルメタクリレート、ポリオクタデシルメタクリレート、グリコール(又はその誘導体)と二酸(又はその誘導体)との重縮合により生成されるポリエステルのホモポリマーおよびそれらを含むコポリマー)、たとえばポリアクリレート又はポリ(メタ)アクリレートとアルキル炭化水素側鎖と又はポリエチレングリコール側鎖とのコポリマー(たとえばポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレン、ポリプロピレングリコール又はポリテトラメチレングリコールのホモポリマー及びそれらを含むコポリマー)、水に溶けないよう炭化水素等でコーティングされた水和塩(たとえば、塩化カルシウム六水和物、臭化カルシウム六水和物、硝酸マグネシウム六水和物、硝酸リチウム三水和物、塩化カリウム四水和物、アンモニウムミョウバン、塩化マグネシウム六水和物、炭酸ナトリウム十水和物、リン酸二ナトリウム十二水和物、硫酸ナトリウム十水和物、及び酢酸ナトリウム三水和物)、金属及びそれらの混合物が含まれる。また、これらの相変化材料を組み合わせることによっても、同様に相変化材料を得ることができる。
この中でも、有機物の相変化材が好ましく、炭化水素、脂肪酸、脂肪酸エステルがより好ましく、炭化水素が特に好ましい。炭化水素としては、アルカンを用いるのが好ましく、その中でもパラフィン炭化水素を用いるのがより好ましい。相変化材料を保持させたマイクロカプセル粒子は蓄熱材等として利用できる。蓄熱材として用いる場合は、マイクロカプセル粒子を塗膜としたときの蓄熱容量が10J/g以上となるのが好ましい。
【0038】
機能材は、操作性、火気への安全性、マイクロカプセル前駆体と機能材との分離性、マイクロカプセル粒子の形状特性、水への機能材の溶解性などを総合的に考慮して選定される。
【0039】
機能材の引火点としては、20℃以上のものが好ましく、40℃以上のものが好ましい。引火点が20℃以上の機能材を用いる場合、引火点が低すぎず、防火上、作業環境上の対策が必須ではないためである。また、機能材の水への溶解度は、加重平均で1g/100mL以下であることが好ましい。1g/100mL以下であると、エマルションを調整する際に、機能材が水に溶解せずにエマルションを形成できるためである。
【0040】
エマルションは、乳化安定性を高めるために、界面活性剤を含む。界面活性剤は、水溶性又は水分散性が好ましく、水相へ添加して用いることが好ましい。好ましくは、非イオン性界面活性剤である。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、下記の界面活性剤を挙げることができる。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤、
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、
ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル系界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル、
ポリオキシエチレン脂肪族エステル系界面活性剤:ポリオキシエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレングリコールモノオレエート、
グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤:ステアリン酸モノグリセライド、オレイン酸モノグリセライド。
さらに、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系界面活性剤等を用いてもよい。
これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
上記した非イオン性界面活性剤のなかでも、ソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体系界面活性剤を好ましく用いることができる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体は、ポリオキシエチレンブロック(EO)とポリオキシプロピレンブロック(PO)とが結合したブロック共重合体である。ブロック共重合体としては、EO-PO-EOブロックコポリマー、EO-POブロックコポリマー等が挙げられ、好ましくはEO-PO-EOブロックコポリマーである。EO-PO-EOブロックコポリマーのオキシエチレン単位の割合は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体の重量平均分子量は、3,000~27,000が好ましく、6,000~19,000がより好ましい。
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体全体に対して、ポリオキシエチレンブロックの合計量は40~90質量%が好ましく、ポリオキシプロピレンブロックの合計量は10~60質量%が好ましい。
【0042】
界面活性剤の使用量は、界面活性剤の種類、界面活性剤の親水性あるいは疎水性の程度を表す指標であるHLB(Hydrophile-lipophile balance)、目的とするシリカ粒子の粒子径等の条件により異なるが、水相中の含有量が500~20,000質量ppmが好ましく、1,000~10,000質量ppmがより好ましい。500質量ppm以上で、エマルションをより安定化できる。また、20,000質量ppm以下で、マイクロカプセル粒子に残留する界面活性剤の量を少なくできる。
【0043】
水相と油相とは、質量比で、200:1~5:1で配合してよく、好ましくは100:1~9:1である。
【0044】
水中油型エマルションの作製方法は、以下に限定されない。事前に水相及び油相をそれぞれ調製しておき、水相に油相を添加して、十分に混合ないし撹拌させることで作製できる。さらに物理的に強いせん断力を与える超音波乳化、撹拌式乳化、高圧乳化などの方法を適用できる。また、微細孔を持つ膜を通して微細にした油相を水相中に分散させる膜乳化法や、界面活性剤を油相に溶解させた後に水相を加えて乳化を行う転相乳化法、界面活性剤が曇点付近の温度を境に水溶性から油溶性に変化することを利用した転相温度乳化法などの方法がある。これらの乳化方法は、目的とする粒子径、粒度分布等の特定により適宜選択できる。
【0045】
得られるマイクロカプセル粒子を小粒子径化し、粒度分布を狭めるために、水相中に油相が十分に分散し乳化されることが好ましい。例えば、混合液は、10bar以上、好ましくは20bar以上の圧力で高圧ホモジナイザーを用いて乳化できる。
【0046】
また、得られた水中油型エマルションをエージングする工程を設けることができる。エージングする工程を設けることで、微小なエマルションが優先的に成長し、得られるマイクロカプセル粒子の1次粒径分布が狭くなる。エージングの時間は、0.5~240hが好ましく、0.5~96hがより好ましく、0.5~48hが最も好ましい。また、エージングの温度は、5~80℃が好ましく、20~70℃がより好ましく、20~55℃が最も好ましい。
【0047】
1段目シェルの形成工程では、水中油型エマルションに、第1のシリカ原料を添加する。
第1のシリカ原料としては、例えば、水溶性シリカが溶解した水溶液、固体シリカが分散した水性分散液、これらの混合物、ならびに、アルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上またはそれらの水溶液または水分散液が挙げられる。これらのうちアルカリ金属ケイ酸塩、活性ケイ酸及びケイ素アルコキシドからなる群から選ばれる1種以上またはそれらの水溶液または水分散液が、入手容易性が高い点で好ましい。
【0048】
固体シリカとしては、例えば、有機ケイ素化合物を加水分解して得られたシリカゾル、市販のシリカゾルが挙げられる。
アルカリ金属ケイ酸塩のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム等が挙げられ、中でも入手の容易さ、経済的理由によりナトリウムが好ましい。すなわちアルカリ金属ケイ酸塩としては、ケイ酸ソーダが好ましい。ケイ酸ソーダは、NaO・nSiO・mHOで表される組成を有する。ナトリウムとケイ酸の割合は、NaO/SiOのモル比nで1.0~4.0が好ましく、さらには2.0~3.5が好ましい。
【0049】
活性ケイ酸はアルカリ金属ケイ酸塩を陽イオン交換処理によりアルカリ金属を水素に置換して得られるものであり、この活性ケイ酸の水溶液は弱酸性を示す。陽イオン交換には、水素型陽イオン交換樹脂を用いることができる。
アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸は、水に溶解ないし分散させてから、エマルションに添加することが好ましい。アルカリ金属ケイ酸塩及び活性ケイ酸水溶液の濃度は、SiO濃度として3~30質量%が好ましく、さらには5~25質量%が好ましい。
【0050】
ケイ素アルコキシドとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルキルシラン類を好ましく用いることができる。
また、シリカ原料とともに、他の金属酸化物等を混合することで、複合粒子を得ることも可能である。他の金属酸化物としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化銅、酸化鉄、酸化錫等が挙げられる。
【0051】
第1のシリカ原料としては、上記したシリカ原料を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第1のシリカ原料として、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液、特にケイ酸ソーダ水溶液を用いることが好ましい。
【0052】
第1のシリカ原料の水中油型エマルションへの添加は、酸性条件下で行うことが好ましい。酸性環境下でシリカ原料を添加することで、シリカ微粒子を発生させネットワークをつくることで1段目の被膜が形成される。反応温度は80℃以下であることがエマルションの安定性維持のために好ましく、70℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましく、50℃以下が特に好ましく、40℃以下が最も好ましい。また、被膜の厚みを均一にするためにシリカ微粒子のネットワーク形成速度を制御する観点から、4℃以上であることが好ましく、10℃以上がより好ましく、15℃以上がさらに好ましく、20℃以上が特に好ましく、25℃以上が最も好ましい。
【0053】
水中油型エマルションのpHは、被膜の厚さをより均一にし、得られるマイクロカプセル粒子のシリカシェル層をより緻密にするという観点から、3未満とすることがより好ましく、2.5以下がさらに好ましく、また、1以上であることが特に好ましい。
【0054】
水中油型エマルションのpHを酸性にするには、酸を添加することが挙げられる。
酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、過塩素酸、臭化水素酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0055】
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料の添加量は、エマルション中に含まれる油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOが1~50質量部となるようにすることが好ましく、3~30質量部がより好ましい。
【0056】
第1のシリカ原料の添加では、第1のシリカ原料を添加後、エマルションのpHを酸性に維持した状態で、1分以上保持することが好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上がさらに好ましい。
【0057】
次に、第1のシリカ原料が添加されたエマルションのpHを3以上7以下(弱酸性から中性)で保持することが好ましい。これによって、第1のシリカ原料を油滴の表面に固定化できる。
例えば、第1のシリカ原料を添加したエマルションに塩基を添加することで、エマルションのpHを3以上とする方法がある。
【0058】
塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、アミン類等が挙げられる。
あるいは陰イオン交換処理によりハロゲンイオン等の陰イオンを水酸化物イオンに交換する方法を用いてもよい。
【0059】
塩基を添加する際は、第1のシリカ原料が添加されたエマルションを撹拌しながら塩基を徐々に添加して、エマルションのpHを徐々に上昇させることが好ましい。撹拌が弱かったり、多量の塩基を一度に投入したりすると、エマルションのpHが不均一になり、1層目の被膜の厚みが不均一になることがある。
【0060】
エマルションは、撹拌しながら保持することが好ましい。この保持時間は、10分以上であってよく、1時間以上が好ましく、4時間以上であってもよい。この保持温度は100℃以下であることがエマルションの安定性維持のために好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましい。また、熟成を促進させるためには保持温度は、35℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上が特に好ましい。
【0061】
<2段目シェルの形成>
次に、アルカリ金属イオン存在下、エマルションに第2のシリカ原料を添加する。これによって、マイクロカプセル前駆体分散液が得られる。ここで、マイクロカプセル前駆体は、機能材コア-シリカシェル粒子となっている。
【0062】
第2のシリカ原料のエマルションへの添加は、アルカリ性条件下で行うことが好ましい。
第1のシリカ原料の添加では、油滴表面への第1のシリカ原料の付着をより均一にするために、エマルションを一旦酸性とした後にpHを3以上7以下(弱酸性から中性)にする方法を用いている。この方法によって得られる1層目のシリカ層は多孔質であり、緻密性が不十分なため強度が低くなってしまう。第2のシリカ原料の添加において、エマルションをアルカリ性とすることで、先に得られた1層目のシリカ層上に、高密度な2層目のシリカ層を形成できる。
【0063】
第2のシリカ原料を添加する際のエマルションのpHは、新しい微粒子の発生を抑えるために、8以上であることが好ましく、8.5以上がより好ましく、8.7以上がさらに好ましく、8.9以上が特に好ましく、9以上が最も好ましい。また、シリカの溶解度が大きくなりすぎるのを抑えるため、13以下であることが好ましく、12.5以下がよりに好ましく、12以下がさらに好ましく、11.5以下が特に好ましく、11以下が最も好ましい。
【0064】
水中油型エマルションのpHをアルカリ性にするには、塩基を添加することが挙げられる。塩基としては、上記したものと同様の化合物が用いられる。
【0065】
第2のシリカ原料としては、上記した第1のシリカ原料と同様のものを単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。なかでも、第2のシリカ原料の添加では、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液の少なくとも一方を好ましく用いることができる。
エマルションをアルカリ性条件下で第2のシリカ原料を添加する際には、第2のシリカ原料と同時にアルカリ金属水酸化物を添加する方法を用いてもよい。また、第2のシリカ原料にアルカリ金属ケイ酸塩としてケイ酸ソーダを用いる方法でもよい。この場合、第1のシリカ原料の添加後にpHを5以上とした弱酸性のエマルションに、アルカリ成分であるケイ酸ソーダ成分を添加するため、第2のシリカ原料を添加しながらエマルションのpHをアルカリ性に保持できる。また、アルカリ金属イオンがエマルション中に存在するようになる。
【0066】
なお、第2のシリカ原料にケイ酸ソーダ水溶液を用いる場合などで、pHが上がりすぎてしまう場合は、pHを調整するために酸を加えてもよい。ここで用いる酸には、第1のシリカ原料を添加する時と同じ酸を用いてもよい。
【0067】
第2のシリカ原料の添加はアルカリ金属イオンの存在下で行うことが好ましい。このアルカリ金属イオンは、第1のシリカ原料由来、第2のシリカ原料由来、pH調整のために加えた塩基由来であってよく、エマルションへの添加剤の添加等によっても配合が可能である。例えば、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の少なくとも一方に、アルカリ金属ケイ酸塩を用いる場合である。また、エマルションの添加剤に、アルカリ金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、脂肪酸塩等を用いる場合である。
【0068】
第2のシリカ原料の添加は、例えば、第1のシリカ原料の添加後のエマルションに、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液のうち一方を添加してもよく、両方を添加してもよい。両方を添加する場合は、ケイ酸ソーダ水溶液及び活性ケイ酸水溶液を一括して添加してもよいし、順番に添加してもよい。
【0069】
例えば、第2のシリカ原料の添加は、pH調整をしながら、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、ケイ酸ソーダ水溶液を添加する工程と、活性ケイ酸水溶液を添加する工程とを、1回行う又は2回以上繰り返すことができる。
【0070】
第2のシリカ原料は、1層目のシリカ層上へのシリカ原料の付着を促進するために、加熱されたエマルションに添加することが好ましい。加熱温度は、新しい微粒子の発生を抑えるため、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましく、45℃以上が特に好ましく、50℃以上が最も好ましい。また、シリカの溶解度が高くなりすぎるのを抑えるため、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましく、85℃以下が特に好ましく、80℃以下が最も好ましい。加熱されたエマルションを用いた場合、第2のシリカ原料の添加後は、生成したエマルションを室温(約23℃)まで徐冷することが好ましい。
【0071】
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料の添加量は、油相100質量部に対して、第2のシリカ原料中のSiOが20~500質量部となるように調整されるのが好ましく、40~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
第2のシリカ原料の添加では、第2のシリカ原料を添加後にエマルションのpHをアルカリ性に維持した状態で、10分以上保持することが好ましい。
【0072】
第1のシリカ原料の添加及び第2のシリカ原料の添加を通して、第1のシリカ原料及び第2のシリカ原料の添加量の合計量は、油相100質量部に対して、第1のシリカ原料中のSiOと第2のシリカ原料中のSiOの合計が30~500質量部となるように調整されるのが好ましく、50~300質量部となるように調整されるのがより好ましい。
【0073】
本発明のシリカシェル層は主としてシリカより構成されるが、屈折率調整など、必要に応じてTiやZrなどの他の金属成分を含有させてもよい。他の金属成分を含有させる方法は特に限定されないが、例えばシリカ原料を添加する工程で金属ゾル液や金属塩水溶液を同時に添加するなどの方法が用いられる。
【0074】
上記のようにしてマイクロカプセル前駆体分散液が得られる。
【0075】
マイクロカプセル前駆体分散液からマイクロカプセル前駆体を得る方法としては、例えば、分散液をろ過する方法、加熱して水相を除去する方法、沈降分離もしくは遠心分離により前駆体を分離する方法等がある。
一例としては、0.1~5μm程度のフィルターを用いて分散液をろ過し、ろ別されたマイクロカプセル前駆体を乾燥する方法がある。
【0076】
また必要に応じて、得られたマイクロカプセル前駆体を、水や酸、アルカリ、有機溶剤等で洗浄してもよい。
【0077】
また必要に応じて、得られたマイクロカプセル前駆体に封孔処理を施してもよい。封孔処理とは、ケイ素源を加えて、シェルを緻密化する処理のことである。具体的には、ケイ素源として、各種アルコキシシラン、ケイ酸ナトリウム、シリカゾル、活性ケイ酸等を用いることが出来る。また、反応制御のため、pHを一定にするようpH調整材として酸や塩基を加えてもよい。ケイ素源の添加量は、マイクロカプセル粒子の粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、500質量部以下が好ましい。
【0078】
また、本発明のマイクロカプセル粒子の製造方法には、シェル層にLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される1種以上の金属Mを含有させる過程を含む。マイクロカプセル粒子に金属Mを含有することで、焼成時にフラックスとして働き、比表面積が低下して誘電正接を低くできる。また、金属Mを含有しない場合と比較して低い温度の熱処理であっても、シェル層を緻密にすることが可能となる。
【0079】
金属Mはマイクロカプセル粒子の製造において、反応工程から洗浄工程の間に含有させることが好ましい。例えば、反応工程において、シリカのシェルを形成する際の反応溶液中に前記金属Mの金属塩を添加することや、マイクロカプセル前駆体を焼き締めする前に前記金属Mの金属イオンを含む溶液で洗浄すること、前記金属Mの金属イオンを含むケイ素源を添加して封孔処理を行うことにより、マイクロカプセル粒子に金属Mを含有できる。
【0080】
マイクロカプセル粒子に含まれる金属Mの合計の含有量、すなわち濃度は、10~4000質量ppmとする。金属Mの濃度が10質量ppm以上であると焼成時のフラックス効果により焼結が進み、シェルを緻密にすることが出来る。4000質量ppm以下であると、粒子間の焼結が進みすぎず、凝集が起こりにくくなる。金属Mの濃度は、30質量ppm以上がより好ましく、50質量ppm以上がより好ましい。また、1000質量ppm以下が好ましく、800質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下が最も好ましい。
【0081】
<マイクロカプセル前駆体の熱処理>
そして、マイクロカプセル前駆体を熱処理して緻密化する。
【0082】
マイクロカプセル前駆体を熱処理することにより緻密化する方法では、熱処理の温度は100~800℃である。熱処理温度の下限は、150℃以上がより好ましく、200℃以上が最も好ましい。油相に含まれる機能材が抜けたり分解してしまうのを防ぐため、熱処理温度の上限は、800℃未満が好ましく、500℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、300℃以下が最も好ましい。必要に応じて熱処理温度を2段階としてもよい。
【0083】
<マイクロカプセル粒子の表面処理>
その後、前記工程で得られたマイクロカプセル粒子をシランカップリング剤で表面処理してもよい。この工程により、マイクロカプセル粒子の表面が疎水化して樹脂に対する親和性が改善するため、樹脂に対する分散性が向上する。
【0084】
表面処理の条件には特に制限はなく、一般的な表面処理条件でよく、湿式処理法や乾式処理法が用いられる。均一な処理を行う観点から、湿式処理法が好ましい。
【0085】
表面処理に用いるシランカップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物等が挙げられる。これらは1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
具体的に表面処理剤としては、アミノプロピルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン系カップリング剤;グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシジルブチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤;メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤;メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン等のシラン系カップリング剤;CF(CFCHCHSi(OCH、CF(CFCHCHSiCl、CF(CFCHCHSi(CH)(OCH、CF(CFCHCHSi(CH)C1、CF(CFCHCHSiCl、CF(CFCHCHSi(OCH、CFCHCHSiCl、CFCHCHSi(OCH、C17SON(C)CHCHCHSi(OCH、C15CONHCHCHCHSi(OCH、C17COCHCHCHSi(OCH、C17-O-CF(CF)CF-O-CSiCl、C-O-(CF(CF)CF-O)-CF(CF)CONH-(CHSi(OCH等のフッ素含有シランカップリング剤;ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン化合物等が挙げられる。
【0087】
シランカップリング剤の処理量としては、マイクロカプセル粒子の粒子100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上がより好ましい。また10質量部以下であることが好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0088】
シランカップリング剤で処理する方法としては、例えば、マイクロカプセル粒子にシランカップリング剤をスプレーする乾式法や、マイクロカプセル粒子を溶剤に分散させてからシランカップリング剤を加えて反応させる湿式法等が挙げられる。
【0089】
上記工程により得られたマイクロカプセル粒子は、乾燥や焼成の工程により凝集していることがあるため、取り扱いやすい凝集径にするために解砕してもよい。解砕の方法としては、例えば、乳鉢を使う方法、乾式あるいは湿式のボールミルを使う方法、振とう式篩を使う方法、ピンミル、カッターミル、ハンマーミル、ナイフミル、ローラーミル、ジェットミルなどの解砕機を使う方法等がある。
【0090】
本発明のマイクロカプセル粒子は、金属Mの量を調整することにより緻密化されたシェル層を有するので、メチルエチルケトンやN-メチルピロリドン等の有機溶媒に添加した際の各種溶媒の浸透性が低い。よって各種溶媒における分散性が良好であり、また、溶媒中においても油相の機能材が溶出しにくい。本発明のマイクロカプセル粒子は、機能材のシクロヘキサン中保持率が35%以上である。シクロヘキサン中での機能材の保持率が高いと内部の機能材を確実に保持できるため、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、85%以上が特に好ましい。
【0091】
シクロヘキサン中保持率測定の例としては、マイクロカプセル粒子を、シクロヘキサンに加えて保持し、その後、あらかじめ目開き0.5μmのメンブレンフィルターの質量Aを測定し、そのフィルターを用いて吸引固液分離し、得られたろ紙を120℃で2時間真空乾燥し、得られたマイクロカプセル粒子を保持したメンブレンフィルターの質量Bを測定し、その後、(A-B)/1をシクロヘキサン中保持率とする方法が挙げられる。
【0092】
また、本発明のマイクロカプセル粒子は無機酸化物のシェルからなっており、樹脂のシェルを用いたものと比べて耐候性に優れ、かつ近年のマイクロプラスチック規制にも対応可能である。
【0093】
また、本発明のマイクロカプセル粒子は適度な金属Mを含むため、アルコキシシラン等で作成されたマイクロカプセル粒子と比較し、低温での熱処理でシェルが緻密となる。そのため、内部の機能材を確実に保持することが可能となる。
【実施例0094】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の説明において、共通する成分は同じものを用いている。また、特に説明のない限り、「%」、「部」はそれぞれ「質量%」、「質量部」を表す。
また、例1~9は実施例であり、例10~11は比較例である。
【0095】
<試験例1>
(例1)
「エマルションの作製」
40℃の純水1250gにEO-PO-EOブロックコポリマー(ADEKA社製プルロニックF68)を4g添加し溶解するまで撹拌した。この水溶液にソルビタン酸モノオレート(三洋化成社製イオネットS-80)4gを溶解したRubitherm RT31 42gを加え、IKA社製ホモジナイザーを使って液全体が均一になるまで撹拌し、粗エマルションを作製した。
この粗エマルションを、高圧乳化機(エスエムテー社製LAB1000)を使い、圧力50barで乳化を行い、エマルション径が3μmの微細エマルションを作製した。
【0096】
「1段目シェル形成」
得られた微細エマルション1300gに、pHが2となるよう、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4%、NaO濃度3.6%)23gと2M塩酸を加え、30℃で保持しながら良く撹拌した。
この液を良く撹拌しながら、1M水酸化ナトリウム水溶液をpHが6となるようゆっくり滴下し、機能材コア-シリカシェル粒子分散液を得た。得られた機能材コア-シリカシェル粒子分散液を保持し、熟成させた。
【0097】
「2段目シェル形成」
1段目シェル形成で得られた機能材コア-シリカシェル粒子分散液全量を70℃に加熱し、撹拌しながら1M NaOHをゆっくり添加し、pHを9とした。
次に、希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4%、NaO濃度3.6%)330gを、pH9になるように0.5M塩酸とともに徐々に添加した。
この懸濁液を80℃で1日間保持した後、室温まで冷却し、マイクロカプセル前駆体分散液を得た。
【0098】
「ろ過、洗浄」
マイクロカプセル前駆体分散液全量を、2M塩酸でpH2まで中和後、定量ろ紙5Cを用いてろ過を行い、マイクロカプセルケーキを得た。
【0099】
「封孔処理」
得られたマイクロカプセルケーキ全量を、イオン交換水1Lに加え、撹拌して分散させた。
ここに3号ケイ酸をイオン交換樹脂DIAION(三菱化学社製)でイオン交換して作製した、pH=2.5の活性ケイ酸330g(シリカ濃度10%)と、28%アンモニア水溶液をpH=9となるように保ちながら滴下した。得られたマイクロカプセルケーキを、定量ろ紙5Cを用いてろ過を行った。その後、80℃のイオン交換水1Lを加えて再度加圧濾過し、マイクロカプセルケーキを洗浄した。
【0100】
「焼成」
ろ過後のケーキを、窒素雰囲気下で、100℃で1時間、続けて200℃で2時間乾燥し(昇温時間10℃/min)、マイクロカプセル粒子を得た。
【0101】
「表面処理」
200mlガラスビーカーに、前記マイクロカプセル粒子10g、イソプロパノール150ml、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン0.1gを添加し、100℃で1時間還流した。その後、疎水性PTFEメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、イソプロパノール20mlで洗浄後、150℃に温度調整した真空乾燥機で2時間真空乾燥し、表面処理されたマイクロカプセル粒子を得た。
【0102】
「評価」
【0103】
1.メディアン径
得られたマイクロカプセル粒子をマイクロトラック・ベル社製の回折散乱式粒子分布測定装置(MT3300)によって測定し、粒子分布(直径)の中央値を2回測定した平均値を求めた。メディアン径は3μmであった。
【0104】
2.シェル厚み
シェル厚みは透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、求めた。得られたシェル厚みを用いて、シェル厚み/メディアン径比を求めた。
【0105】
3.金属M(M=Li,Na,K,Rb,Cs,Mg,Ca,Sr,Ba)の濃度
マイクロカプセル粒子に過塩素酸とフッ酸を加えて強熱し、主成分のケイ素を除去したのちにICPE-9000(島津製作所社製)を用いてICP-AES(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定した。前記測定により、金属MとしてNa、K、Mg、Caが検出された。金属Mの総量を表1に示す。
【0106】
4.シクロヘキサン中保持率
得られたマイクロカプセル粒子1gを、シクロヘキサン10gに加えた後、60℃で24h保持した。その後、あらかじめ目開き0.5μmのメンブレンフィルターの質量Aを測定し、そのフィルターを用いて吸引固液分離した。その後、得られたろ紙を120℃で2時間真空乾燥し、得られたマイクロカプセル粒子を保持したメンブレンフィルターの質量Bを測定した。その後、(A-B)/1(%)をシクロヘキサン中保持率とした。
【0107】
(例2)
封孔処理に用いる活性ケイ酸を希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4%、NaO濃度3.6%)330gとし、0.25M硫酸をpH=9となるように保ちながら滴下した以外は、例1と同様の操作を行った。
【0108】
(例3)
封孔処理を実施しなかった以外は例1と同じ条件で実施した。
【0109】
(例4)
2段目シェル形成に用いる希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4%、NaO濃度3.6%)を、6600gに変更した以外は例1と同じ条件で実施した。
【0110】
(例5)
2段目シェル形成に用いる希釈したケイ酸ソーダ水溶液(SiO濃度10.4%、NaO濃度3.6%)を、110gに変更した以外は例1と同じ条件で実施した。
【0111】
(例6)
EO-PO-EOブロックコポリマー(ADEKA社製プルロニックF68)を15gにしたこと、ソルビタン酸モノオレート(三洋化成社製イオネットS-80)を使用しなかったこと、圧力100barで乳化を行ったこと以外は例1と同じ条件で実施した。
【0112】
(例7)
粗エマルションを、高圧乳化を行わずそのまま用いた以外は例1と同じ条件で実施した。
【0113】
(例8)
イオン交換水の代わりに水道水350mlを加えて再度加圧濾過した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0114】
(例9)
イオン交換水の代わりに、0.1mol/L酢酸(関東化学社製)500mlを加えて再度加圧濾過した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0115】
(例10)
イオン交換水の代わりに水道水3500mlを加えて再度加圧濾過した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0116】
(例11)
イオン交換水の代わりに、1mol/L硫酸(2N)(関東化学社製)500mlを加えて再度加圧濾過した以外は、例1と同じ条件で実施した。
【0117】
上記の結果を表1にまとめて示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に示したように、シェル層の金属Mが10~4000質量ppmである例1~9は、機能材のシクロヘキサン中保持率が85%以上であり、内部に機能材を確実に保持できることが示された。これに対し、例10では金属Mが多すぎるため粒子間の焼結が進んで粒子として扱えなくなった。例11では金属Mが少なすぎるためシェル層が緻密にならず、シクロヘキサン中保持率が30%と大幅に減少した。
【0120】
次に、得られたマイクロカプセル粒子を用いて塗膜を形成し、蓄熱性能を比較した。
具体的には、アクリル樹脂(0403KA、固形分40%、大成ファインケミカル社製)200部に、例1と例11で作製したマイクロカプセル粒子100部、メチルエチルケトン50部を混合し、自転公転ミキサー(シンキー社製、泡取り練太郎ARE―310)で2000rpm、3分混合し、アクリルワニスを得た。次に、離型処理された透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製「PET5011 550」、厚み50μm)を用意した。このPETフィルムの離型処理面に、アプリケーターを用いて、得られたアクリルワニスを乾燥後の厚みが100μmとなるように塗工し、100℃のギアオーブン内で2時間乾燥した。その後、得られた塗膜をPETフィルムから離型し、砕いてDSC用のパンに入れ、DSC(示差走査熱量測定装置)で30~40℃での蓄熱容量を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示したように、シクロヘキサン中保持率が良好な例1のマイクロカプセル粒子を用いて作製した塗膜は蓄熱容量に優れることが分かった。一方、シクロヘキサン中保持率が低い例11のマイクロカプセル粒子を用いた場合は、蓄熱容量が劣る結果となった。これは溶剤中での耐久性が十分でないため、塗膜作製後の乾燥工程で内部の機能材が流失し、樹脂と相溶して融点が変化したためと考えられる。