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特開2024-47287ディップ成形体の製造方法及びディップ成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047287
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ディップ成形体の製造方法及びディップ成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/02 20060101AFI20240329BHJP
   C08L 23/34 20060101ALI20240329BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240329BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C08J5/02 CES
C08L23/34
C08L101/12
A41D19/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152827
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 聖司
【テーマコード(参考)】
3B033
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
3B033BA01
4F071AA14
4F071AA23
4F071AA30
4F071BA05
4F071BB13
4F071BC04
4F071BC06
4F071BC12
4J002AB02X
4J002BB27W
4J002BE04X
4J002BG13X
4J002FD20X
4J002GC00
4J002GD00
4J002GT00
4J002HA07
(57)【要約】
【課題】温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに型を浸漬させて成形型の表面に皮膜を形成させる感熱凝固法において、成形型を温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに対して浸漬を繰り返しても、成形型表面に得られる皮膜にブツ(粗大な凝集物)が発生し難く、また、ラテックスが不安定化してラテックスの沈殿や部分的なゲル化を抑制可能な手段を提供すること。
【解決手段】表面に塩を保持した、表面温度が50℃以下の成形型を、クロロスルホン化ポリオレフィン及び温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に浸漬させることを含む、ディップ成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に塩を保持した、表面温度が50℃以下の成形型を、クロロスルホン化ポリオレフィン及び温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に浸漬させることを含む、ディップ成形体の製造方法。
【請求項2】
塩が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンから選ばれるカチオンと、フッ化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、及び酒石酸イオンから選ばれるアニオンとの組み合わせから構成される塩である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
温度応答性ポリマーが、その1質量%水溶液の下限臨界溶解温度が30~50℃である温度応答性ポリマーである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
温度応答性ポリマーがポリビニルメチルエーテルである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
クロロスルホン化ポリオレフィンがクロロスルホン化エチレンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ラテックス組成物が、ラテックス組成物中のクロロスルホン化ポリオレフィン100質量に対して、温度応答性ポリマーを1~20質量部含む組成物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
クロロスルホン化ポリオレフィン、温度応答性ポリマー、及び塩を含む皮膜からなり、
当該皮膜の厚みが0.1~1mmである、
ディップ成形体。
【請求項8】
塩が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンから選ばれるカチオンと、フッ化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、及び酒石酸イオンから選ばれるアニオンとの組み合わせから構成される塩である、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
温度応答性ポリマーが、その1質量%水溶液の下限臨界溶解温度が30~50℃である温度応答性ポリマーである、請求項7又は8に記載の成形体。
【請求項10】
温度応答性ポリマーがポリビニルメチルエーテルである、請求項7又は8に記載の成形体。
【請求項11】
クロロスルホン化ポリオレフィンがクロロスルホン化エチレンである、請求項7又は8に記載の成形体。
【請求項12】
前記皮膜が、クロロスルホン化ポリオレフィン100質量に対して、温度応答性ポリマーを1~20質量部含む皮膜である、請求項7又は8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ディップ成形体の製造方法、及びディップ成形体等に関する。より詳しくは、本開示は、温度応答性ポリマーを含むゴムラテックスと塩とを用いてディップ成形を行う、ディップ成形体の製造方法及び当該方法により製造され得るディップ成形体等に関する。
【背景技術】
【0002】
温度変化やpH変化等の外部からの刺激に対して、溶解・析出や親水性・疎水性等の可逆的な変化を引き起こす刺激応答性ポリマーは、様々な分野での応用が検討されている。温度変化により水への溶解性が変化する温度応答性ポリマーは、その変曲点温度を下限臨界溶解温度といい、特にヒトの体温付近に下限臨界溶解温度をもつ温度応答性ポリマーは細胞シート工学分野において活発に利用されている。また、温度応答性ポリマーは析出する際に水溶液中の疎水性物質を吸着する性質があることから、水の浄化や微量成分の抽出・濃縮のために、あるいはまたラテックスの感熱凝固剤等として、利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、N-イソプロピルアクリルアミドを50モル%以上含むビニルポリマーを廃水浄化用の凝集剤として利用することが開示されている。特許文献2、特許文献3には、ゴムラテックスにポリビニルメチルエーテルを添加し、感熱凝固法によりディップ成形をする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4-298203号公報
【特許文献2】特開2011-032590号公報
【特許文献3】特開2015-120996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、ラテックスに温度応答性ポリマーを添加する感熱凝固法について検討する中で、成形型を温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに対して浸漬を繰り返すと、型表面に得られる皮膜にブツ(粗大な凝集物)が出やすくなり、また、ラテックスが不安定化してラテックスの沈殿や部分的なゲル化が起こってしまうことがある、ということを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、さらにブツの原因やラテックスの挙動を検討した。
【0007】
通常、温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに型を浸漬させて型の表面に皮膜を形成させる感熱凝固法においては、まず型を加熱し、この加熱された型を温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに型を浸漬させることで、当該ラテックスに含有される温度応答性ポリマーのうち型の近傍に存在するもののみが型の熱により析出して、結果として型の表面に皮膜が形成される。このため、浸漬させる型が加熱されていることが重要となる。しかし、本発明者らが検討したところ、温度応答性ポリマーが加熱された成形型から熱を与えられて析出すると、温度を下げてもすぐには溶解せず、ブツとしてラテックスに残りやすくなることがわかった。そして、このために、型表面に得られる皮膜にブツが出やすくなり、また、ラテックスが不安定化してラテックスの沈殿や部分的なゲル化が起こってしまうことがわかった。
【0008】
そこで、本発明者らは、さらに当該現象を防止する方策がないかを検討した。温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに浸漬させる際の型の温度を下げることが考えられたが、そうすると温度応答性ポリマーが凝集しづらくなり、型表面に安定した皮膜を得ることが困難になってしまう。種々検討した結果、予め型表面に塩を保持させておくことにより、温度が比較的低い(例えば室温程度)型であっても、これを温度応答性ポリマー含有ゴムラテックスに浸漬させることにより、均一で安定な皮膜を型表面に調製し得ることを見いだし、さらに改良を重ねた。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
表面に塩を保持した、表面温度が50℃以下の成形型を、クロロスルホン化ポリオレフィン及び温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に浸漬させることを含む、ディップ成形体の製造方法。
項2.
塩が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンから選ばれるカチオンと、フッ化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、及び酒石酸イオンから選ばれるアニオンとの組み合わせから構成される塩である、項1に記載の製造方法。
項3.
温度応答性ポリマーが、その1質量%水溶液の下限臨界溶解温度が30~50℃である温度応答性ポリマーである、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
温度応答性ポリマーがポリビニルメチルエーテルである、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項5.
クロロスルホン化ポリオレフィンがクロロスルホン化エチレンである、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6.
前記ラテックス組成物が、ラテックス組成物中のクロロスルホン化ポリオレフィン100質量に対して、温度応答性ポリマーを1~20質量部含む組成物である、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7.
クロロスルホン化ポリオレフィン、温度応答性ポリマー、及び塩を含む皮膜からなり、
当該皮膜の厚みが0.1~1mmである、
ディップ成形体。
項8.
塩が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンから選ばれるカチオンと、フッ化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、及び酒石酸イオンから選ばれるアニオンとの組み合わせから構成される塩である、項7に記載の成形体。
項9.
温度応答性ポリマーが、その1質量%水溶液の下限臨界溶解温度が30~50℃である温度応答性ポリマーである、項7又は8に記載の成形体。
項10.
温度応答性ポリマーがポリビニルメチルエーテルである、項7~9のいずれかに記載の成形体。
項11.
クロロスルホン化ポリオレフィンがクロロスルホン化エチレンである、項7~10のいずれかに記載の成形体。
項12.
前記皮膜が、クロロスルホン化ポリオレフィン100質量に対して、温度応答性ポリマーを1~20質量部含む皮膜である、項7~11のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形型を加熱することなくラテックスを凝固させ型表面に皮膜を形成させることができる。また成形型からの伝熱がないため、温度応答性ポリマー含有ラテックスも不安定化しがたい。このため、成形型を繰り返しラテックスへ浸漬しても、得られる皮膜におけるブツ発生が抑制され、ラテックスの不安定化も起こり難く、安定した連続生産が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本開示は、温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に成形型を浸漬させることを含む、ディップ成形体の製造方法や、当該方法により製造され得るディップ成形体等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0012】
本開示に包含されるディップ成形体の製造方法は、表面に塩が付着した、表面温度が50℃以下の成形型を、温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に浸漬させることを含む。当該製造方法を本開示の製造方法ということがある。また、当該ラテックス組成物を本開示のラテックス組成物ということがある。
【0013】
本開示のラテックス組成物は、上記の通り、温度応答性ポリマーを含有する、クロロスルホン化ポリオレフィンのラテックス組成物である。
【0014】
クロロスルホン化ポリオレフィンは、ポリオレフィン主鎖にクロロスルホン基(-SOCl)及び塩素が結合した構造を有するポリマーである。クロロスルホン化ポリオレフィンは、ポリオレフィンをクロロスルホン化及び塩素化して得ることができる。
【0015】
ポリオレフィンは、オレフィンに由来する単量体単位を有するポリマーであり、当該オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられる。
【0016】
ポリオレフィンとしては、少なくともエチレン及び/又はプロピレンを単量体単位として有するポリオレフィンが好ましい。例えば、エチレン又はプロピレンの単独重合体またはエチレン及び/又はプロピレンの共重合体が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-ビニル化合物共重合体等がより好ましい。前記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン等が挙げられる。前記ビニル化合物としては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸メチル、塩化ビニル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルシクロヘキサン、N-イソプロピルアクリルアミド、アクロレイン、ビニレンカーボネート、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0017】
ポリオレフィンは、さらに他の重合可能な成分が共重合されてなるものであってもよい。他の重合可能な成分としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエンのような鎖状ジエン;1,3-シクロヘキサジエン、1,4-シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネンのような環状ジエン等が挙げられる。
【0018】
ポリオレフィンを塩素および亜硫酸ガスと反応させることにより、またはポリオレフィンをアミン存在下、塩化スルフリルと反応させることにより、クロロスルホン化ポリオレフィンを製造することが出来る。
【0019】
クロロスルホン化ポリオレフィン中に含まれる塩素含有量は特に限定されないが、クロロスルホン化ポリオレフィンを乳化する際の溶媒への溶解性及び生産性の観点から、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、20~40質量%が特に好ましい。また、クロロスルホン化ポリオレフィン中に含まれる硫黄含有量は特に限定されないが、0.1~5質量%が好ましく、0.4~3質量%以上がより好ましく、0.6~2質量%が特に好ましい。塩素含有量や硫黄含有量は元素分析法により算出することが出来る。
【0020】
本開示のラテックス組成物において、クロロスルホン化ポリオレフィンは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に限定はされないが、クロロスルホン化ポリオレフィンの中でもクロロスルホン化ポリエチレンが特に好ましく用いられる。
【0021】
クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスの製造方法としては、前記クロロスルホン化ポリオレフィンを溶融させ乳化剤を含む水中に分散させる方法や、前記クロロスルホン化ポリオレフィンを有機溶媒に溶解させ、乳化剤を含む水に分散させ、その後有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスの粒子径を制御しやすいという観点からは、後者の方法が好ましい。
【0022】
有機溶媒を用いて水中に分散させる方法としては、例えば、有機溶媒に溶解したクロロスルホン化ポリオレフィンに水を加えて油中水滴(W/O型)エマルションを形成させ、引き続き水を加えながら水中油滴(O/W型)エマルションに転相させる転相乳化法、有機溶媒に溶解したクロロスルホン化ポリオレフィンを、乳化装置を用い、乳化剤の存在下で水中に機械的に分散させる強制乳化法等が挙げられる。これらの方法は単独でも、組み合わせて用いてもよい。
【0023】
前記有機溶媒としては、クロロスルホン化ポリオレフィンを溶解可能、かつ、水と混和しないものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系炭化水素系溶媒;1-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒等が挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上のものが併用されてもよい。
【0024】
有機溶媒の使用量は、特に限定されないが、クロロスルホン化ポリオレフィンの濃度が3~25質量%になるように設定するのが好ましく、5~20質量%になるよう設定するのがより好ましい。
【0025】
また、乳化剤を用いる場合、乳化剤としては、特に限定されないが、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好ましく、アニオン系乳化剤が特に好ましい。
【0026】
前記アニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ロジン酸塩および脂肪酸塩等が挙げられる。
【0027】
乳化剤に脂肪酸塩を用いる場合、前記の有機溶媒にクロロスルホン化ポリオレフィンを溶解させた溶液に脂肪酸を併せて溶解しておき、この有機溶媒溶液と、中和剤を溶解した水溶液を混合して分散してもよい。脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸等が挙げられ、中和剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等が挙げられる。
【0028】
前記ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシルエチレン誘導体、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンアルキルエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、プロピレングリコールエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0029】
前記乳化剤は単独で使用してもよいし、2種以上のものを混合して使用してもよい。
乳化剤の添加量は特に限定されないが、クロロスルホン化ポリオレフィン100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.5~12質量部がさらに好ましく、1~10質量部が特に好ましい。
【0030】
乳化装置としては公知の物を使用でき、例えば、パドルミキサー、プラネタリーミキサ―、ホモミキサー、ホモジナイザー、ディスパーミキサー等を使用できる。乳化装置はバッチ式であっても、連続式であってもよいが、生産性の観点から、連続式の乳化装置が好ましい。
【0031】
乳化時の温度は特に限定されないが、通常は5~70℃程度である。
【0032】
前記の方法で得られた乳化液から有機溶媒を除去するには、常圧、減圧又は加圧下で蒸留して除去すればよい。この時、必要に応じて同時に水を除去してラテックスの濃度を調整することができる。有機溶媒の除去後、さらに濃度を調整するために水を除去する場合は、蒸留、遠心分離、膜分離、ろ過などの操作により除去することができる。
【0033】
ラテックス組成物に含まれるクロロスルホン化ポリオレフィンの粒子径は、特に限定されないが、レーザー回折式粒度分布計で測定される中位粒子径が0.1~10μmが好ましく、0.3~5μmがより好ましく、0.5~2.0μmが特に好ましい。粒子径がこの範囲であると、安定性のより高いラテックスが得られる。当該粒子径は、前記有機溶媒、乳化剤の種類や量、水の使用量や、乳化装置の運転条件により調整することが出来る。
【0034】
本開示のラテックス組成物は、上述の通り、前記クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスにさらに温度応答性ポリマーを含む。本開示のラテックス組成物は、例えばクロロスルホン化ポリオレフィンラテックスに温度応答性ポリマーを添加して調製することができる。
【0035】
温度応答性ポリマーとしては、例えば、ポリ-N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系ポリマー、ポリ-N-ビニルアセトアミド等のビニルアミド系ポリマー、ポリ-2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート系ポリマー、ポリ-2-イソプロピル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン系ポリマー、ポリビニルメチルエーテル等のビニルエーテル系ポリマー、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリプロピレンオキシド等のエーテル系ポリマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルキトサン等の多糖系ポリマー、プロピル化ポリ-γ-グルタミン酸等のアミノ酸系ポリマー、ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」等の表記は、「メタクリル及びアクリル」を総称した表記である。
【0036】
なかでも下限臨界溶解温度が30~50℃である温度応答性ポリマーが好ましい。下限臨界溶解温度がこの範囲の温度応答性ポリマーを用いることで、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスに添加した際に容易に溶解することが出来、また後述する浸漬工程後にクロロスルホン化ポリオレフィンラテックスが不安定化しにくくなる。なお、本明細書における下限臨界溶解温度は、温度応答性ポリマーを1重量%含有する水溶液を5℃から1℃/分で昇温して測定した値(目視で観察し、水溶液が濁った温度を下限臨界溶解温度とした)である。
【0037】
そのような温度応答性ポリマーとしては、例えば、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(32℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(35℃)、ポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(32℃)、ポリ-N-ビニルブチルアミド(32℃)、ポリ-N-ビニルイソブチルアミド(39℃)、ポリ-2-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(32℃)、ポリ-2-イソプロピル-2-オキサゾリン(38℃)、ポリビニルメチルエーテル(32℃)、ポリ-4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(40℃)、ポリエトキシエチルグリシジルエーテル(40℃)、ヒドロキシプロピルセルロース(46℃)等が挙げられる。なお括弧内の数値は下限臨界溶解温度を表す。なかでも、溶解しやすく、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスに影響を与え得る官能基を持たないという観点から、ポリビニルメチルエーテルが好ましい。
【0038】
本開示のラテックス組成物中の温度応答性ポリマーの含有量は、当該ラテックス組成物中の固形分(すなわちクロロスルホン化ポリオレフィン)100質量部に対して、1~20質量部が好ましく、2~18質量部がより好ましく、5~15質量部が特に好ましい。含有量がこの範囲であると、十分な膜厚を好ましく得ることが出来る。
【0039】
温度応答性ポリマーの添加方法は、特に限定はされず、例えば、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスに温度応答性ポリマーをそのまま添加してもよいし、溶液(例えば水溶液やメタノール溶液)の形で添加してもよい。また、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスを製造する際にあらかじめ加えていてもよい。プロセスの容易さの観点から、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックスに水溶液の形で添加することが好ましい。
【0040】
本開示のラテックス組成物は、効果を損なわない範囲で、レオロジー調整剤、老化防止剤、消泡剤、pH調整剤、キレート剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、受酸剤、成膜助剤、可塑剤、充填剤、顔料等、公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0041】
レオロジー調整剤としては、セルロース、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、キトサン、ゼラチン、ペクチン、グアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、タマリンドガム、アラビアガム、サクラン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等の多糖類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、架橋ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン等の水溶性ビニルポリマー類、モンモリロナイト、ノントロナイト、サポナイト、バイデライト、ヘクトライト等の粘土鉱物が挙げられる。
【0042】
老化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,5-ジ-tert-ブチルハイドロキノン等のフェノール系老化防止剤、N-フェニル-1-ナフチルアミン、ジ(4-オクチルフェニル)アミン等のアミン系老化防止剤、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等のリン系老化防止剤、チオジプロピオン酸ジラウリル、2-メルカプトベンズイミダゾール、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル等の硫黄系老化防止剤、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0043】
消泡剤としては、油脂系消泡剤、ミネラルオイル系消泡剤、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤などが挙げられる。
【0044】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、塩酸、硫酸、リン酸、クエン酸、酢酸等が挙げられる。
【0045】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸 、ニトリロ三酢酸、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ビス(アミノエチル)グリコールエーテル-N,N,N’,N’-四酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N’-三酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等が挙げられる。
【0046】
加硫剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄等の硫黄、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等の有機過酸化物、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド等のマレイミド化合物、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム等のキノイド化合物、酸化マグネシウム、酸化鉛等の金属化合物、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、トリメチロールプロパン等の多価アルコール化合物が挙げられる。
【0047】
加硫促進剤としては、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジフェニルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、2-(4'-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、トリメチルチオ尿素、N,N'-ジエチルチオ尿素、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛等が挙げられる。
【0048】
加硫促進助剤としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0049】
受酸剤としては、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、ハイドロタルサイト等の粘土鉱物、フェニルグリシジルエーテル、エポキシ化大豆油、エポキシ化ヒマシ油、エポキシ化ポリブタジエン、ポリグリシジルメタクリレート等のエポキシ化合物等が挙げられる。
【0050】
成膜助剤としては、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0051】
可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0052】
充填剤としては、炭素繊維、セルロース繊維、カーボンブラック、シリカ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0053】
顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化クロム、紺青、アンバー、ニッケルチタンイエロー、ビリジアン、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、モリブデンオレンジ、クロムイエロー、アントラキノン、キナクドリン等が挙げられる。
【0054】
本開示のラテックス組成物に含まれる添加剤の量としては特に限定はされないが、ラテックス組成物中の固形分(すなわちクロロスルホン化ポリオレフィン)100質量部に対し、5~30質量部が好ましい。
【0055】
また、本開示のラテックス組成物は、効果を損なわない範囲で、クロロスルホン化ポリオレフィンラテックス以外のラテックスを含んでいてもよい。他のラテックスとしては、例えば、天然ゴムラテックス、イソプレンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、ブチルゴムラテックス、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、アクリルゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンゴムラテックス、シリコーンゴムラテックス、フッ素ゴムラテックス、エピクロロヒドリンゴムラテックス、オレフィンゴムラテックス等が挙げられる。但し、これらの各種ゴムの本開示のラテックス組成物における含有量は、クロロスルホン化ポリオレフィンの含有量よりも少ないことが好ましく、例えばクロロスルホン化ポリオレフィンの含有量100質量部に対して50質量部以下、40質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、若しくは5質量部以下であることが好ましい。
【0056】
本開示のラテックス組成物の粘度は、25℃において50mPa・s以上1500mPa以下が好ましい。75mPa・s以上1000mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以上750mPa・s以下がさらに好ましい。ラテックス組成物の粘度がこの範囲であると、浸漬したときにより適度な流動性をもち、複雑な形状であっても追随し、均一なディップ成形品を好ましく得ることが出来る。
【0057】
なお、本明細書において、組成物の粘度は以下の条件で測定した粘度である。以下の条件において、測定スピンドルは、LV-1またはLV-2を粘度に応じて適宜選択してよい。また、測定回転数については、粘度測定可能範囲外の場合、回転数は適宜設定してもよい。
【0058】
[粘度測定条件]
測定装置:ブルックフィールド型粘度計(DV-II+、BROOKFIELD製)
測定スピンドル:LV-1またはLV-2
測定温度:25℃
測定回転数:60rpm
ディップ成形に用いられる型(成形型)は、セラミックや金属、ガラス、プラスチック等で一体に形成した、所望する立体形状に対応した型を使用できる。型の表面は、ディップ成形品の目的に応じて、梨地面に仕上げたり、繊維や別種のゴム皮膜等、別の素材を備えたりしていてもよい。
【0059】
成形型を浸漬する際の本開示のラテックス組成物の温度は、温度応答性ポリマーが溶解している温度であれば特に制限されず、上記の下限臨界溶解温度より低い温度が好ましい。例えば、5~25℃程度が好ましい。
【0060】
浸漬する成形型の表面には、塩を保持(例えば付着)されている。塩としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン、及び4級アンモニウムイオンから選ばれるカチオンと、フッ化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、クエン酸イオン、及び酒石酸イオンから選ばれるアニオンから構成される塩が好ましく、より具体的には、例えば塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酒石酸カリウムナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムアセテート等がより好ましく挙げられる。また、塩としては、25℃の水100gに対し20g以上溶解可能な塩が好ましい。なお、塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
本開示の製造方法は、上記の通り、表面に塩が付着した、表面温度が50℃以下の成形型を、温度応答性ポリマーを含有するクロロスルホン化ポリオレフィンラテックス組成物に浸漬させることを含むところ、これより前に、成形型の表面に塩を保持させる塩保持工程を備えてもよい。成形型の表面に塩を保持させる好ましい態様の一例として、成形型の表面に塩を付着させることが挙げられる。
【0062】
塩を型に付着させる方法としては、特に限定されないが、溶媒を付着させた型を塩に浸漬する方法、溶媒を付着させた型に塩を噴霧する方法、塩を溶媒に溶解させた溶液(以下、凝固液ともいう)に型を浸漬する方法、凝固液を型に塗布する方法、凝固液を型に噴霧する方法等が挙げられる。なかでも、均一に付着させる観点から、凝固液に型を浸漬する方法が好ましい。
【0063】
塩の付着に用いられる溶媒としては、塩および型に対して適度な濡れ性を有していれば特に制限されず、例えば、水、アルコール(例えばエタノール)等が挙げられる。
【0064】
凝固液に用いられる溶媒としては、塩を均一に溶解、または分散可能であれば特に制限されず、例えば、水、アルコール等が挙げられる。溶解しやすさの観点から水を用いることが好ましい。
【0065】
凝固液の塩の濃度としては、特に限定はされないが、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましく、15~35質量%が特に好ましい。
【0066】
塩又は凝固液への浸漬時間としては、特に限定されないが、通常5~300秒が好ましく、10~100秒がより好ましい。
【0067】
凝固液に成形型を浸漬して表面に凝固液を付着させた後、凝固液の溶媒を乾燥により除去してもよい。乾燥温度としては、使用する溶媒や塩の種類に応じて適宜設定することができ、60~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。また、乾燥時間は特に限定されないが、1~600秒が好ましく、5~300秒がより好ましい。成形型の表面の凝固液を乾燥させることにより、成形型表面に均一に塩が付着した状態を作りやすくなる。
【0068】
本開示のラテックス組成物に浸漬する際の成形型の温度は50℃以下である。45℃以下がより好ましく、40℃以下が特に好ましい。成形型の温度が50℃以下であると、連続的にラテックス組成物に浸漬した際に、成形型からの熱伝導によりラテックス組成物の温度が上昇して不安定化するのを抑制することが出来る。ここでの成形型の温度は、浸漬する直前の表面温度を表しており、放射温度計で測定される。より具体的には、A&D社製赤外線放射温度計AD-5611Aを用いて、放射率を0.95に設定し、成形型の表面から20cm離れた位置から測定することができる。測定から浸漬までの時間は3秒以内とする。
【0069】
成形型の温度は、熱風加熱装置、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波加熱装置等を用いて調整することが出来る。加熱温度は浸漬するまでの放冷を考慮して設定することが好ましい。また、冷風冷却装置等を用いて型を冷却してもよい。
【0070】
塩を表面に保持(例えば付着)させた成形型を本開示のラテックス組成物に浸漬すると、塩が成形型の界面近傍でラテックス組成物に溶解し、その結果、温度応答性ポリマーの下限臨界溶解温度が低下し、加熱をしなくとも温度応答性ポリマーの析出・ゲル化が起こり、皮膜(ゴム皮膜)が形成されると考えられる。そして、これは温度応答性ポリマーが塩の存在により水中での水和構造が変化するためであると考えられる。また、下限臨界溶解温度の低下の程度は、温度応答性ポリマーや塩の種類、濃度により異なると考えられる。
【0071】
なお、下限臨界溶解温度は上述のようにして測定される。すなわち、温度応答性ポリマーを1質量%含み、且つ塩が規定の濃度になるよう、5℃程度で調整した水溶液を、温度を徐々に上げながら目視で観察し、水溶液が濁った温度を下限臨界溶解温度とする。この温度を、塩が含まれていない温度応答性ポリマー1質量%水溶液を用いて同様に測定した下限臨界溶解温度と比べることで、塩による下限臨界溶解温度の低下が測定できる。なお、本発明者らが温度応答性ポリマーや塩の種類、濃度によりどの程度下限臨界溶解温度が低下するかを検討したところ、塩の種類と下限臨界溶解温度の低下の程度は、ホフマイスター系列として知られるイオンの順列と相関が見られた。
【0072】
本開示のラテックス組成物は温度応答性ポリマーを含有していることから、ここに表面に塩を保持した成形型を浸漬させると、当該塩により温度応答性ポリマーの下限臨界溶解温度が低下する。このために、成形型界面のラテックス組成物のみが温度応答性ポリマーの析出に伴い凝固し、成形型表面に皮膜を形成することができると考えられる。また、理論に拘束されることを望むものではないが、温度応答性ポリマーの析出に伴って本開示のラテックス組成物が凝固するメカニズムとしては、温度応答性ポリマーが析出する際にゴム粒子を安定化させている乳化剤を吸着することでゴム粒子を不安定化し凝集させる効果と、ゴム粒子そのものを吸着して析出する効果によるものと推察される。
【0073】
成形型を本開示のラテックス組成物に浸漬する時間は、所望する厚みにより適宜設定すればよいが、5~300秒が好ましく、10~120秒がより好ましい。
【0074】
皮膜を形成させた後に、乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、50~160℃が好ましく、60~140℃がより好ましく、70~120℃が特に好ましい。また、乾燥時間は、特に限定されないが、1~120分が好ましく、10~100分がより好ましく、20~60分が特に好ましい。
【0075】
本開示のラテックス組成物として、加硫のための添加剤を含有するものを用いる場合には、ラテックス組成物として、予め熟成(前加硫ともいう)させたものを用いてもよい。
【0076】
熟成温度は、特に限定されないが、10~70℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。また、熟成時間は、特に限定されないが、4~120時間が好ましく、10~72時間がより好ましく、24~48時間が特に好ましい。
【0077】
熟成を行う場合は、熟成時のラテックスの凝集を防ぐ観点から、温度応答性ポリマーは熟成後に添加することが好ましい。
【0078】
また、本開示のラテックス組成物として、加硫のための添加剤を含有するものを用いる場合には、皮膜を形成させた後、加熱することにより、ラテックス組成物に含まれるゴム成分を加硫させることが好ましい。加硫は、前述の皮膜を形成させた後の乾燥と同時に行ってもよい。
【0079】
加硫のための加熱温度は、60~200℃が好ましく、80~180℃がより好ましく、100~160℃が特に好ましい。加熱温度をこの範囲にすることにより、適度な加硫速度とするとともに、過剰な加熱によるゴム成分の劣化を抑制することが出来る。加硫のための加熱時間は、加熱温度に応じて適宜選択すればよく、通常、5~120分である。
【0080】
必要に応じて、成形型表面に形成される皮膜を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、20~80℃の温水に0.5~60分程度浸漬することにより、皮膜から水溶性不純物(乳化剤、温度応答性ポリマー、塩など)を除去することができる。本開示のラテックス組成物として、加硫のための添加剤を含有するものを用いる場合には、このような洗浄処理は、皮膜を加硫させる前に行ってもよく、皮膜を加硫させた後に行なってもよい。加硫の前後でそれぞれ行ってもよい。
【0081】
洗浄した後に、さらに乾燥を行ってもよい。この際における乾燥温度、乾燥時間は、特に限定されないが、前述した、皮膜形成工程後の乾燥工程における乾燥温度、乾燥時間と同様とすることができる。
【0082】
このようにして皮膜を形成した後、成形型から脱着することによって、ディップ成形体を得ることができる。脱着方法としては、手で剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法が挙げられる。
【0083】
皮膜を成形型から脱着する前、または脱着した後に、さらに加熱処理、洗浄処理を行ってもよい。また、皮膜を型から脱着した後に、ディップ成形体の内側や外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などの表面処理を行ってもよい。
【0084】
このようにして得られるディップ成形体の膜厚は、0.1~1mmが好ましく、0.12~0.7mmがより好ましく、0.15~0.5mmが特に好ましい。
【0085】
本開示の製造方法によれば、浸漬を繰り返してディップ成形品を調製してもブツの発生が抑制され、また、ラテックス組成物の不安定化も抑制されている。
【0086】
なお、本開示の製造方法により調製され得るディップ成形体についても、本開示は好ましく包含する。特に、クロロスルホン化ポリオレフィン、温度応答性ポリマー、及び塩を含む皮膜からなり、当該皮膜の厚みが0.1~1mmである、ディップ成形体を好ましく包含する。当該ディップ成形体を本開示のディップ成形体と呼ぶことがある。本開示のディップ成形体についての説明は、本開示の製造方法や本開示のラテックス組成物について行った説明が、そのまま当てはまる。
【0087】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0088】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0089】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断らない限り、質量部はラテックス組成物中の固形分(すなわちクロロスルホン化ポリオレフィン)100質量部に対する量を表す。
【0090】
温度応答性ポリマーの下限臨界溶解温度の検討
各温度応答性ポリマーを1質量%含み、且つ塩が規定の濃度(表1参照)になるように5℃程度で調整した水溶液を、1℃/分の昇温速度で、温度を上げながら目視で観察し、水溶液が濁った温度を下限臨界溶解温度とした。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
塩の種類と下限臨界溶解温度の低下の程度は、ホフマイスター系列として知られるイオンの順列と相関が見られた。すなわち、低濃度でも下限臨界溶解温度の低下の程度が大きいイオン(例えば硫酸イオンや炭酸イオン)と、下限臨界溶解温度の低下程度が小さいイオン(例えば塩化物イオン)からなる塩では、低下の程度が大きいイオンの方がホフマイスター系列においてより水和の強いイオンとして序列されている。
【0093】
ディップ成形体の製造
(実施例1)
<ラテックス組成物の調製>
クロロスルホン化ポリエチレンラテックス(住友精化社製、商品名「セポレックスCSM」、固形分(すなわちクロロスルホン化エチレン)濃度40質量%)に、固形分換算で1質量部の30質量%ポリビニルメチルエーテル水溶液(東京化成工業社製、試薬)を加え、完全に溶解するまで攪拌しラテックス組成物を得た。ラテックス組成液の粘度は120mP・sであった。
【0094】
<ディップ成形>
複数のセラミック成形型(20cm×8cmの板状)を20質量%炭酸ナトリウム水溶液に浸漬後、100℃の乾燥機で30分乾燥させ、表面に炭酸ナトリウムが付着した型を準備した。この型を表面温度が30℃になるまで放冷後、調製したラテックス組成物に30秒浸漬し、引き上げた。この操作を、型を変えながら10回繰り返し、ゴムラテックスが付着した型を10個得た。なお、1枚目の型を引き上げたあと、次の型を浸漬するまでの間隔は5秒とした。その後、100℃の乾燥機で1時間乾燥し、皮膜を型から剥離して、20枚のゴム皮膜を得た(型の表裏で1枚ずつ)。
【0095】
なお、型の表面温度は、A&D社製赤外線放射温度計AD-5611Aを用いて、放射率を0.95に設定し、成形型の表面から20cm離れた位置から測定した。また、測定から浸漬までの時間は3秒以内とした。
【0096】
<評価>
1枚の皮膜について長手方向に3カ所測定し、20枚全体の平均値を皮膜の厚みとした。
【0097】
皮膜におけるブツ(粗大な凝集物)の発生の評価は次のようにして行った。すなわち、浸漬を繰り返した際に得られた皮膜にブツが見られ始めた浸漬回数を記録し、10回目の浸漬までブツが見られなかった場合、なしと判定した。また、ラテックスの凝集についての評価は次の様にして行った。すなわち、浸漬を繰り返した際に、ラテックス組成物に凝集、沈降等が見られた浸漬回数を記録し、10回目の浸漬までラテックス組成物に変化がなかった場合、なしと判定した。
【0098】
(実施例2~7)
ラテックス組成物の配合、塩の種類、型の温度を表2に記載のように変え、実施例1と同様の操作を行った。
【0099】
(比較例1)
ポリビニルメチルエーテルを添加しない以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0100】
(比較例2)
塩を用いない以外は、実施例1と同様に操作を行った。
【0101】
(比較例3)
塩を用いず、型の表面温度を65℃に変えて、実施例1と同様に操作を行った。その結果、5回目の浸漬で得られた皮膜にブツが見られた。また、8回目の浸漬が終わった後のラテックス組成物に凝集が見られた。
【0102】
(比較例4)
型の表面温度を55℃に変えた以外は、実施例4と同様に操作を行った。その結果、7回目の浸漬で得られた皮膜にブツが見られた。また、7回目の浸漬が終わった後のラテックス組成物に凝集が見られた。
【0103】
以上の結果を表2にまとめて示す。
【0104】
【表2】
【0105】
温度応答性ポリマー(ポリビニルメチルエーテル)を添加したラテックス組成物に、塩を保持(付着)した成形型を50℃以下の温度で浸漬した場合、10回の浸漬を行った後も、皮膜にブツの発生は見られず、また、ラテックス組成物の凝集も見られなかった。一方、型の温度を50℃よりも高くした場合、浸漬を繰り返すと皮膜にブツが見られたり、ラテックス組成物の凝集が起こったりした。また、ポリビニルメチルエーテルを添加しなかった場合は、十分に厚い皮膜を得ることが出来なかった。