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特開2024-47296サーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラム
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  • 特開-サーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047296
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】サーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20240329BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
G01N30/86 V
G01N30/86 G
G01N30/86 D
G01N30/86 B
G01N30/88 K
G01N30/88 J
G01N30/88 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022152841
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】真仁田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】植松 原一
(57)【要約】
【課題】データ収集の効率化を図ると共に、液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報を提供することが可能なサーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラムを提供する。
【解決手段】液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する取得部、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの、試料クロマトグラムと、参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部、解析部による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれとネットワークを介して通信可能なサーバ装置であって、
前記液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する取得部と、
前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、前記正規化処理済みの試料クロマトグラムと、前記正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、
前記解析部による比較処理によって得られた比較結果を前記液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、
を有することを特徴とするサーバ装置。
【請求項2】
前記正規化処理は、前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラム及び前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムにおいて対応する少なくとも1種の成分ピークについて、溶出時間が一致するように時間軸を補正する時間軸補正処理、ピーク高さが一致するように補正を行うピーク高さ正規化処理、又は、ピーク高さを予め定められた上限値に飽和させるピーク高さ飽和処理を含む、請求項1に記載のサーバ装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムの何れかが、予め定められた閾値を超えている場合、前記正規化処理の対象から除外する除外処理を実行する、請求項1に記載のサーバ装置。
【請求項4】
前記解析部は、前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムに含まれるデータの平均値、中央値又は最頻値に基づいて、前記参照クロマトグラムを作成する、請求項1に記載のサーバ装置。
【請求項5】
前記解析部は、前記取得部によって取得された複数のデータに基づいて、前記参照クロマトグラムを作成するために利用する前記複数のデータの管理幅を算出する、請求項4に記載のサーバ装置。
【請求項6】
前記解析部は、前記管理幅を、前記取得部によって取得された複数のデータの平均値、又は、標準偏差に基づいて算出する、請求項5に記載のサーバ装置。
【請求項7】
前記解析部は、前記比較処理として、前記試料クロマトグラム及び前記参照クロマトグラムの成分に対応する溶出時間、前記成分に対応するピークの半値幅、及び、前記成分に対応するピークの理論段数のうちの少なくとも一つを比較する、請求項1に記載のサーバ装置。
【請求項8】
前記解析部は、前記比較処理として、前記試料クロマトグラムと前記参照クロマトグラムとの類似度を算出し、前記類似度を前記比較結果とする、請求項1に記載のサーバ装置。
【請求項9】
前記精度管理試料は、HbA1c、カテコールアミン、又は、リポ蛋白の分析用の精度管理試料である、請求項1~8の何れか一項に記載のサーバ装置。
【請求項10】
複数の検査施設ごとに設置された他の液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する取得部と、
前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、前記正規化処理済みの試料クロマトグラムと、前記正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、
前記解析部による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、
を有することを特徴とする液体クロマトグラフ装置。
【請求項11】
複数の検査施設ごとに設置され、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する複数の液体クロマトグラフ装置と、
ネットワークを介して前記複数の液体クロマトグラフ装置と通信可能なサーバ装置と、を有し、
前記サーバ装置は、
前記複数の液体クロマトグラフ装置それぞれから、前記複数のデータを取得する取得部と、
前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、前記正規化処理済みの試料クロマトグラムと、前記正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、
前記解析部による比較処理によって得られた比較結果を前記液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、
を有することを特徴とする精度管理システム。
【請求項12】
出力部を有するコンピュータにより、
複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得し、
前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、前記正規化処理済みの試料クロマトグラムと、前記正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行し、
比較処理によって得られた比較結果を前記液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として前記出力部から出力する、
ことを特徴とする制御方法。
【請求項13】
出力部を有するコンピュータの制御プログラムであって、
複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得し、
前記取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、前記液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、前記正規化処理済みの試料クロマトグラムと、前記正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行し、
比較処理によって得られた比較結果を前記液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として前記出力部から出力する、
ことを前記コンピュータに実行させることを特徴とする制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ装置は、液体クロマトグラフィ法(HPLC)を原理とした装置である。液体クロマトグラフ装置では、例えば、血液検体に対して、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、カテコールアミン又はリポ蛋白等の特定の成分に関する検査が行われている。また、臨床検査の分野では、検査施設における液体クロマトグラフ装置の品質維持のために、複数の検査施設それぞれに設置される液体クロマトグラフ装置を対象として、測定結果が正しいものとなるように管理する精度管理が実施されている。
【0003】
特許文献1は、血液検体の成分の様々な測定を行うために利用される複数の診断分析装置の精度管理方法を開示している。特許文献1の精度管理方法は、測定対象ピークに関わる溶出時間及びピークサイズの数値結果を分析結果として報告している。
【0004】
特許文献2は、グリコヘモグロビンを測定対象とした液体クロマトグラフ装置を開示している。特許文献2には、異常ヘモグロビンを含む種々の標準試料のクロマトグラムと、未知試料のクロマトグラムとの類似度を計算する比較方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-187473号公報
【特許文献2】特開2020-020766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の検査施設それぞれに設置される液体クロマトグラフ装置の精度管理(コントロールサーベイ)は、予め信頼性の高い環境で精度管理試料を測定して得た測定結果と、各検査施設で同じ精度管理試料を測定して得た測定結果とを比較することで精度管理を行ってきた。また、精度管理に参加する全ての検査施設の測定結果を母集団とした統計解析的な指標である平均値、分散、標準偏差等を基に精度管理を行ってきた。
【0007】
一方で、測定結果は基準内であってもクロマトグラムの異常等を自動判定することはできず、装置における異常の兆候を見逃す可能性があった。また、測定者は、精度管理試料を測定した後、試料条件や測定結果等の情報を入力する手間があった。
【0008】
また、精度管理は、電子メールや郵送で測定結果を集計する方法に加えて、インターネットを介して測定結果を集計する方法が広まりつつある。しかしながら、測定データの集計や解析には多くの工数を要するため、異常・正常の判定は、数値結果の乖離のみを指標とするものにとどまっている。このため、分析装置の異常の兆候や施設ごとの乖離傾向を詳細に把握するためにクロマトグラムそのもののデータを統計解析的に評価し、即座に異常を判定する技術が望まれている。
【0009】
本発明は、データ収集の効率化を図ると共に、液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報を提供することが可能なサーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面に係るサーバ装置は、複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれとネットワークを介して通信可能なサーバ装置であって、液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する取得部と、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、解析部による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、正規化処理は、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラム及び液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムにおいて対応する少なくとも1種の成分ピークについて、溶出時間が一致するように時間軸を補正する時間軸補正処理、ピーク高さが一致するように補正を行うピーク高さ正規化処理、又は、ピーク高さを予め定められた上限値に飽和させるピーク高さ飽和処理を含むことが好ましい。
【0012】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムの何れかが、予め定められた閾値を超えている場合、正規化処理の対象から除外する除外処理を実行することが好ましい。
【0013】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムに含まれるデータの平均値、中央値又は最頻値に基づいて、参照クロマトグラムを作成することが好ましい。
【0014】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、取得部によって取得された複数のデータに基づいて、参照クロマトグラムを作成するために利用する複数のデータの管理幅を算出することが好ましい。
【0015】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、管理幅を、取得部によって取得された複数のデータの平均値、又は、標準偏差に基づいて算出することが好ましい。
【0016】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、比較処理として、試料クロマトグラム及び参照クロマトグラムの前記成分に対応する溶出時間、成分に対応するピークの半値幅、及び、成分に対応するピークの理論段数のうちの少なくとも一つを比較することが好ましい。
【0017】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、解析部は、比較処理として、試料クロマトグラムと参照クロマトグラムとの類似度を算出し、類似度を比較結果とすることが好ましい。
【0018】
本発明の一側面に係るサーバ装置において、精度管理試料は、HbA1c、カテコールアミン、又は、リポ蛋白の分析用の精度管理試料であることが好ましい。
【0019】
本発明の一側面に係る液体クロマトグラフ装置は、複数の検査施設ごとに設置された他の液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する取得部と、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、解析部による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の一側面に係る精度管理システムは、複数の検査施設ごとに設置され、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得する複数の液体クロマトグラフ装置と、ネットワークを介して複数の液体クロマトグラフ装置と通信可能なサーバ装置と、を有し、サーバ装置は、複数の液体クロマトグラフ装置それぞれから、複数のデータを取得する取得部と、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行する解析部と、解析部による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力する出力部と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の一側面に係る制御方法は、出力部を有するコンピュータにより、複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得し、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行し、比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力部から出力する、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の一側面に係る制御プログラムは、出力部を有するコンピュータの制御プログラムであって、複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置それぞれから、精度管理試料を測定することで得られた複数のデータを取得し、取得した複数のデータそれぞれに対応する試料クロマトグラムと、液体クロマトグラフ装置の精度管理の基準となる参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化することを含む正規化処理、及び、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較することを含む比較処理を実行し、比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報として出力部から出力することをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るサーバ装置、液体クロマトグラフ装置、精度管理システム、制御方法及び制御プログラムは、データ収集の効率化を図ると共に、液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】精度管理システムの概略構成の一例を示すブロック図である。
図2】液体クロマトグラフ装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】サーバ装置の概略構成を示すブロック図である。
図4】サーバ装置における解析処理の一例を示すフローチャートである。
図5】(a)~(i)は、正規化処理の概要を示す図である。
図6】液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報の具体例を示す図である。
図7】正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの試料クロマトグラムとの比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0026】
図1は、精度管理システム1の概略構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1に示す精度管理システム1は、複数の検査施設H1~Hn(nは、整数)に設置される液体クロマトグラフ装置21~2n(nは、整数)の精度管理を統括して行うシステムである。検査施設H1~Hnは、医療機関、検査センター又は研究所等である。
【0028】
例えば、共通の精度管理試料が各検査施設H1~Hnに配布され、保管される。各検査施設H1~Hnにおける液体クロマトグラフ装置21~2nの操作者は、保管された共通の精度管理試料を液体クロマトグラフ装置21~2nで測定する。精度管理システム1は、液体クロマトグラフ装置21~2nそれぞれによって精度管理試料を測定することで取得したデータを、各検査施設H1~Hnから集計する。精度管理システム1は、集計したデータを解析することによって、客観的に個々の検査施設の精度管理状況を評価する。
【0029】
精度管理試料は、生体試料検体、検体成分由来の凍結試料、冷蔵試料又は凍結乾燥試料である。精度管理試料は、製造元が提供するコントロール試料であってもよい。精度管理試料は、過去の臨床検査において、実際に液体クロマトグラフ装置21~2nで測定された試料であってもよい。測定する精度管理試料の数は、1つ又は複数であってもよい。精度管理試料は、対象成分の既定の測定値(基準値)が付随されてもよい。また、配布時には基準値が付随されずに、精度管理実施後にその情報を提供してもよい。
【0030】
図1に示すように、精度管理システム1は、液体クロマトグラフ装置21~2n及びサーバ装置3等を含んで構成される。液体クロマトグラフ装置21~2n及びサーバ装置3は、ネットワーク4を介して相互に通信可能に接続される。一般に、臨床検査における液体クロマトグラフ装置21~2nは、患者の識別情報及び臨床検査結果情報を保存するため、個人情報の取り扱いやサイバーセキュリティの観点からインターネット等のオープンネットワークに接続することは望ましくない。そのため、液体クロマトグラフ装置21~2nは、バックボーン回線等のクローズドネットワークを使用した仮想専用通信網(VPN)接続で、サーバ装置3に接続されることが望ましい。液体クロマトグラフ装置21~2nは、後述する情報読取部6、試料ラック8及びサンプリング機構53等を含んで構成される。
【0031】
図2は、液体クロマトグラフ装置21~2nの概略構成を示すブロック図である。液体クロマトグラフ装置21~2nの構成は同一であることとし、説明の便宜上、液体クロマトグラフ装置21のみについて説明する。
【0032】
液体クロマトグラフ装置21は、液体クロマトグラフィ法(HPLC)を原理とした分析装置であり、例えば、血液検体に対して、HbA1c、カテコールアミン又はリポ蛋白等の特定の成分を測定する。以降の実施形態では、精度管理試料としての血液検体に含まれるヘモグロビンA1c(HbA1c)及びヘモグロビンA0(HbA0)に関するヘモグロビン分画検査を行う液体クロマトグラフ装置21を想定して説明する。液体クロマトグラフ装置21は、測定部5、情報読取部6及びデータ処理部7等を含んで構成される。
【0033】
測定部5は、第1ポンプ52及びサンプリング機構53を含む試料導入部51、カラム54、検出器55、第2ポンプ56及び一以上の溶離液容器57等を含んで構成される。溶離液容器57に格納される溶離液は、精度管理試料102から特定の成分を分離するための溶媒である。溶離液は、第2ポンプ56の動作によって、カラム54に導入される。サンプリング機構53は、第1ポンプ52の動作によって、試料ラック8に載置された試料容器100に格納される精度管理試料102を吸引する。サンプリング機構53によって吸引された精度管理試料102は、溶離液が流れる第2ポンプ56とカラム54との間の流路に注入される。これにより、流路に注入された精度管理試料102は、溶離液と共に、カラム54に導入される。
【0034】
カラム54は、導入された精度管理試料102を分離する。検出器55は、カラム54で分離された精度管理試料102の成分(例えば、HbA1c及びHbA0)を検出する。検出器55は、検出した精度管理試料102の成分に関するデータをデータ処理部7へ送信する。精度管理試料102の成分に関するデータは、検出器55によって一定の時間間隔で検出された複数のプロットデータの集合である。
【0035】
情報読取部6は、精度管理試料102を格納する試料容器100に貼付された情報保有体101から、精度管理試料102の識別情報を読み取る。情報読取部6は、読み取った情報をデータ処理部7へ送信する。情報保有体101は、バーコード又は二次元以上のコードである。精度管理試料102の識別情報は、例えば、精度管理試料102に紐付けられた固有の識別番号又は文字列である。情報保有体101を貼付する容器は、例えば、試料容器100の他に、採血管又はこれらの容器を液体クロマトグラフ装置21に保持するためのアダプタ又はラックであってもよい。
【0036】
データ処理部7は、コンピュータやマイコンの一例であり、記憶部71、通信部72、表示部73、操作部74及び制御部75等を含んで構成される。記憶部71、通信部72、表示部73、操作部74及び制御部75は、バス76を介して電気的に相互に接続される。
【0037】
記憶部71は、プログラム又はデータを記憶する。例えば、記憶部71は、検査施設H1の識別情報及び精度管理試料102に関する情報を記憶する。検査施設H1の識別情報は、例えば、検査施設H1に紐付けられた固有の識別番号及び検査施設H1における液体クロマトグラフ装置21の保守管理情報である。精度管理試料102に関する情報は、例えば、精度管理試料102の識別情報と紐付けられた、精度管理試料102に含まれる成分に関する成分情報及び成分の含有量情報である。記憶部71は、例えば、半導体メモリ装置を備える。記憶部71は、制御部75による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等のコンピュータ読み取り可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部71にインストールされる。
【0038】
通信部72は、制御部75を他の装置と通信可能にする。通信部72は、通信インタフェース回路を備える。通信部72が備える通信インタフェース回路は、有線LAN(Local Area Network)又は無線LAN等の通信インタフェース回路である。通信部72は、データを他の装置から受信して制御部75に供給すると共に、制御部75から供給されたデータを他の装置に送信する。例えば、通信部72は、精度管理試料102の成分に関するデータ、検査施設H1の識別情報、精度管理試料102の識別情報及び精度管理試料102に関する情報を紐付けて、サーバ装置3に送信する。通信部72は、精度管理試料102の成分に関するデータとして、収集点数を間引いたデータ又は特定の領域のデータのみをサーバ装置3に送信してもよい。通信部72は、セキュリティを考慮し、複数回に分けてデータ及び情報を送信してもよく、データを暗号化してもよい。通信部72は、VPN接続に準拠した機器を備える。
【0039】
表示部73は、画像を表示する。表示部73は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイを備える。表示部73は、制御部75から供給された表示データに基づいて画像を表示する。
【0040】
操作部74は、液体クロマトグラフ装置21に対する操作者の入力操作を受け付ける。操作部74は、例えば、キーパッド、キーボード又はマウスを備える。操作部74は、表示部73と一体化されたタッチパネルを備えてもよい。操作部74は、操作者の入力操作に応じた信号を生成して制御部75に供給する。
【0041】
制御部75は、液体クロマトグラフ装置21に含まれる各構成の動作を統括的に制御するデバイスであり、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。制御部75は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を備える。制御部75は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。制御部75は、記憶部71に記憶されているプログラム並びに通信部72及び操作部74からの入力に基づいて液体クロマトグラフ装置21の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御すると共に、各種の処理を実行する。
【0042】
図3は、サーバ装置3の概略構成を示すブロック図である。
【0043】
サーバ装置3は、WEBサーバ、FTPサーバ、データベースサーバ又はアプリケーションサーバ等の各種サーバによって構築される。サーバ装置3は、複数の検査施設ごとに設置された液体クロマトグラフ装置21~2nそれぞれとネットワーク4を介して通信可能である。サーバ装置3は、液体クロマトグラフ装置21~2nそれぞれによって精度管理試料102を測定することで取得したデータを、各検査施設H1~Hnから集計する。サーバ装置3は、集計したデータを解析することによって、客観的に個々の検査施設の精度管理状況を評価する。サーバ装置3は、運用に合わせて構成を変更可能である。例えば、サーバ装置3の台数は、通信容量や運用に合わせて変更可能である。サーバ装置3の機能は、ネットワーク4上に設けられ、外部事業者によって管理された汎用又は専用のサーバ装置によって実現することも可能である。
【0044】
図3に示すように、サーバ装置3は、記憶部31、通信部32、表示部33、操作部34及び処理部35等を含んで構成される。記憶部31、通信部32、表示部33、操作部34及び処理部35は、バス36を介して電気的に相互に接続される。
【0045】
記憶部31は、プログラム又はデータを記憶する。例えば、記憶部31は、各液体クロマトグラフ装置21~2nから送信されたデータ及び情報を紐付けて記憶する。記憶部31は、精度管理試料102の識別情報及び精度管理試料102に関する情報に基づいて、データ及び情報を精度管理試料102ごとに集計して記憶する。記憶部31は、過去に測定信頼性の高い液体クロマトグラフ装置21~2nで測定されたデータに対応する試料クロマトグラムを、液体クロマトグラフ装置21~2nの精度管理の基準となる参照クロマトグラムとして記憶する。記憶部31は、例えば、半導体メモリ装置を備える。記憶部31は、処理部35による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部31にインストールされる。
【0046】
通信部32は、出力部の一例である。通信部32は、処理部35を他の装置と通信可能にする。通信部32は、通信インタフェース回路を備える。通信部32が備える通信インタフェース回路は、有線LAN又は無線LAN等の通信インタフェース回路である。通信部32は、データを他の装置から受信して処理部35に供給すると共に、処理部35から供給されたデータを他の装置に送信する。通信部32は、VPN接続に準拠した機器を備える。
【0047】
表示部33は、出力部の一例である。表示部33は、画像を表示する。表示部33は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイを備える。表示部33は、処理部35から供給された表示データに基づいて画像を表示する。
【0048】
操作部34は、サーバ装置3に対する操作者の入力操作を受け付ける。操作部34は、例えば、キーパッド、キーボード又はマウスを備える。操作部34は、表示部33と一体化されたタッチパネルを備えてもよい。操作部34は、操作者の入力操作に応じた信号を生成して処理部35に供給する。
【0049】
処理部35は、サーバ装置3に含まれる各構成の動作を統括的に制御するデバイスであり、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を備える。処理部35は、例えば、CPUを備える。処理部35は、GPU、DSP、LSI、ASIC、FPGA等を備えてもよい。処理部35は、記憶部31に記憶されているプログラム並びに通信部32及び操作部34からの入力に基づいてサーバ装置3の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御すると共に、各種の処理を実行する。
【0050】
処理部35は、取得部351、解析部352及び出力制御部353を機能ブロックとして備える。これらの各部は、処理部35によって実行されるプログラムによって実現される機能モジュールである。これらの各部は、ファームウェアとしてサーバ装置3に実装されてもよい。
【0051】
図4は、サーバ装置3における解析処理の一例を示すフローチャートである。解析処理は、予め記憶部31に記憶されているプログラムに基づき主に処理部35によりサーバ装置3の各要素と協働して実行される。
【0052】
まず、取得部351は、液体クロマトグラフ装置21~2nそれぞれから、精度管理試料102を測定することで得られた複数のデータを取得する(ステップS101)。データは、液体クロマトグラフ装置21~2nそれぞれからサーバ装置3に送信された後、記憶部31に記憶される。
【0053】
次に、解析部352は、ステップS101で取得した複数のデータの内の1つのデータを選択し(ステップS102)、選択された1つのデータが除外対象か否かの判定(除外処理)を実行する(ステップS103)。除外処理は、選択した1つのデータに対応する試料クロマトグラムが、予め定められた閾値を超えている場合、正規化処理の対象から除外する処理である。除外処理によって、全体の処理の効率化を図ることが可能となる。除外処理の詳細は後述する。
【0054】
次に、解析部352は、除外処理の結果、選択された1つのデータが除外対象となったか否かを判定する(ステップS104)。選択された1つのデータが除外対象となった場合(ステップS104のYes)、解析部352は、選択された1つのデータについては以後の処理を行わず、除外対象である旨の異常判定を行う(ステップS109)。
【0055】
選択された1つのデータが除外対象とならなかった場合(ステップS104のNo)、解析部352は、正規化処理を実行する(ステップS105)。正規化処理は、選択された1つのデータに対応する試料クロマトグラムと、参照クロマトグラムとを所定の規則に沿って正規化する処理である。正規化処理の詳細は後述する。
【0056】
次に、解析部352は、正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとを比較する比較処理を実行する(ステップS106)。比較処理は、選択された1つのデータに対応する液体クロマトグラフ装置21~2nが正常か否かを、試料クロマトグラムと参照クロマトグラムとを比較することによって判定する処理である。比較処理の詳細については後述する。
【0057】
次に、解析部352は、比較処理の結果、正規化処理済みの試料クロマトグラムと正規化処理済みの参照クロマトグラムとが類似しているか否かを判定する(ステップS107)。正規化処理済みの試料クロマトグラムと正規化処理済みの参照クロマトグラムとが類似している場合(ステップS107のYes)、解析部352は、選択された1つのデータは正常であるとの判定を行う(ステップS108のYes)。また、比較処理の結果、正規化処理済みの試料クロマトグラムと正規化処理済みの参照クロマトグラムとが類似していない場合(ステップS107のNo)、解析部352は、選択された1つのデータは異常であるとの判定を行う(ステップS108のYes)。
【0058】
次に、解析部352は、ステップS102で選択したデータが最後のデータであるか否かを判定する(ステップS110)。ステップS102で選択したデータが最後のデータではない場合(ステップS110のNo)、解析部352は、ステップS102に戻って、他のデータを1つ選択して、上述した除外処理、正規化処理、及び、比較処理等を繰り返す。解析部352は、ステップS102で選択したデータが最後のデータである場合(ステップS110のYes)、今までの処理結果に関する情報を出力して(ステップS111)、一連の処理を終了する。
【0059】
ステップS111における情報出力は、例えば、解析部352による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置21~2nの精度管理に資する情報として表示部33に表示することによって実行される。なお、出力制御部353は、通信部32を介して、解析部352による比較処理によって得られた比較結果を液体クロマトグラフ装置21~2nの精度管理に資する情報として外部の情報処理装置に送信してもよい。液体クロマトグラフ装置21~2nの精度管理に資する情報の具体例については、後述する。
【0060】
図4に示す処理を実行することによって、ステップS101で取得した複数のデータに対応する液体クロマトグラフ装置21~2nが正常か否かの判定を効率良く行うことが可能となった。図4の処理では、予め全てのデータを液体クロマトグラフ装置21~2nから取得した上で、1つずつ順番に除外処理、正規化処理、比較処理等を実行した。しかしながら、1つの液体クロマトグラフ装置21~2nからデータを受信する毎に、除外処理、正規化処理、比較処理等を実行するようにしてもよい。
【0061】
(除外処理)
ステップS103の除外処理は、選択した1つのデータに対応する試料クロマトグラムが、予め定められた閾値を超えている場合、正規化処理の対象から除外する処理である。
【0062】
例えば、解析部352は、選択された1つのデータに基づいて対応する液体クロマトグラフ装置21~2nの試料クロマトグラムを生成する。試料クロマトグラムは、精度管理試料102中の成分に由来する検出信号の強度の経時的変化を示す。解析部352は、生成した試料クロマトグラムと、記憶部31に記憶された参照クロマトグラムとを比較して、試料クロマトグラムが参照クロマトグラムから大きく乖離している場合、選択された1つのデータを除外する。
【0063】
例えば、精度管理試料102としての血液検体に含まれるHbA1c及びHbA0に関するヘモグロビン分画検査を行う場合、解析部352は、HbA1c基準値(例として5.1%)の±0.2%である4.9~5.3%を逸脱したデータ、HbA1cの溶出時間が参照クロマトグラムと0.02分以上乖離したデータ、及び、試料クロマトグラムの総面積が参照クロマトグラムの総面積と50%以上乖離したデータを除外する。なお、特定のピークで溶出時間の差が顕著である場合、液体クロマトグラフ装置のポンプの送液機能の低下、配管の詰まりカラムの劣化等の異常である可能性がある。また、ピーク総面積の差が顕著である場合、液体クロマトグラフ装置のサンプリング機構の問題や希釈の誤差等の異常である可能性がある。
【0064】
(正規化処理)
ステップS105における正規化処理について、図5を用いて説明する。図5(a)~図5(i)は、正規化処理の概要を示す図である。
【0065】
図5(a)~図5(d)は記憶部31に記憶された参照クロマトグラムに対して、図5(e)~図5(i)は液体クロマトグラフ装置21において取得されたデータに対応する試料クロマトグラムに対して、それぞれ正規化処理を実行する工程を示す。図5(a)~図5(i)の横軸は時間を示し、縦軸は精度管理試料102中の成分に由来する検出信号の強度を示す。
【0066】
図5(a)~図5(i)は、精度管理試料102としての血液検体に含まれるHbA1c及びHbA0に関するヘモグロビン分画検査を行う場合を例にしたグラフである。図5(a)~図5(i)に示す試料クロマトグラム及び参照クロマトグラムにおいて、A1cピークはHbA1cに対応し、A0ピークはHbA0に対応する。HbA1cは糖化しているヘモグロビンを指し、HbA0は糖化していないヘモグロビンを指す。
【0067】
図4のS105の正規化処理では、図5(a)及び図5(b)に示す参照クロマトグラムに対して、液体クロマトグラフ装置21において取得されたデータに対応する試料クロマトグラムの処理を行う。解析部352による正規化処理には、時間軸を補正する時間軸補正処理、ピーク高さを一致させるピーク高さ正規化処理、及び、ピーク高さを所定の値を上限として飽和させるピーク高さ飽和処理を含む。
【0068】
(時間軸補正処理)
図5(a)及び図5(b)は記憶部31に記憶された参照クロマトグラムを示し、図5(e)及び図5(f)は液体クロマトグラフ装置21において取得されたデータに対応する試料クロマトグラムを示す。時間軸補正処理では、最初に、図5(b)に示す参照クロマトグラムのA1cピークの溶出時間ta1に対して、図5(f)に示す試料クロマトグラムのA1cピークの溶出時間ta2の時間軸が合致するように処理を行う。次に、図5(b)に示す参照クロマトグラムのA0ピークの溶出時間tb1に対して、図5(f)に示す試料クロマトグラムのA0ピークの溶出時間tb2の時間軸が合致するように処理を行う。
【0069】
解析部352は、A1cピークとA0ピークの谷間である時間tvを基準にして、試料注入開始(t=0)から時間tvまでを第1補正係数を用いて、試料クロマトグラムの時間軸を補正する。また、解析部352は、時間tvから測定終了までを第2補正係数を用いて、試料クロマトグラムの時間軸を補正する。第1補正係数はta1/ta2であり、第2補正係数はtb1/tb2である。
【0070】
第1補正係数及び第2補正係数を用いて、試料クロマトグラムの時間軸を補正した結果を図5(g)に示す。図5(g)において、時間軸を補正された試料クロマトグラムのA1cピークの溶出時間はta2’であり、時間軸を補正された試料クロマトグラムのA0ピークの溶出時間はtb2’である。なお、解析部352は、参照クロマトグラムの時間軸を試料クロマトグラムに合わせて補正してもよい。また、前述した時間軸補正処理では、2種の成分ピーク(A1cピーク及びA0ピーク)について溶出時間が一致するように時間軸の補正を行ったが、何れか1種の成分ピークについてのみ時間軸の補正を行うようにしてもよい。
【0071】
時間軸補正処理は、各施設から集めたクロマトグラムから溶出時間の決定に関わるパラメータである送液流速、カラムの保持力、溶離液の溶出力等をオフセットした上で、定量性に係るピーク高さやカラム劣化等に係る波形類似度の比較の正確性を高めることができる。
【0072】
(ピーク高さ正規化処理)
次に、解析部352は、図5(b)におけるA1cピークのピーク高さh1と、図5(g)におけるA1cピークのピーク高さh2を一致するように、各プロットデータの値を変更する。すなわち、解析部352は、図5(b)に示す参照クロマトグラムの各プロットデータに対して第3補正係数hs/h1を乗算し、図5(g)に示す試料クロマトグラムの各プロットデータに対して第4補正係数hs/h2を乗算する。hsは正規化する値である。
【0073】
第3補正係数を用いて参照クロマトグラムを正規化した結果を図5(c)に示し、第4補正係数を用いて試料クロマトグラムを正規化した結果を図5(h)に示す。これによって、図5(c)におけるA1cピークのピーク高さと、図5(h)におけるA1cピークのピーク高さとが共にhsに正規化される。なお、解析部352は、参照クロマトグラム又は試料クロマトグラムの一方のA1cピークのピーク高さを他方のA1cピークのピーク高さに合わせて補正してもよい。
【0074】
ピーク高さ正規化処理は、他の成分ピークとの相対的な大小関係を正確に評価することに資する。ピーク高さの正規化処理は、特定のピークに対し、ベース点とピークトップの検出値との差分(ピーク高さ)を一定にすることである。
【0075】
(ピーク高さ飽和処理)
最後に、解析部352は、A0ピークのピーク高さを予め定めた上限値h0に飽和させるピーク高さ飽和処理を行う。HbA1cの成分パーセントは健常人で5%程度、糖尿病患者でも7~10%程度である。一方で、A0ピークは90%以上を示す大きなピークであるが、臨床上の関心項目ではない。このため、クロマトグラム形状の比較をする際には、A0ピークにおけるわずかなサイズ変化が、A1cピークの変化と比較して、全体の比較結果に大きな影響を及ぼす場合がある。このような場合は、A0ピークの高さについて一定の値を上限として飽和処理することで、類似度に関わるA0の重み付けを低下させることができ、有用である。
【0076】
参照クロマトグラムにおいてA0ピークのピーク高さの飽和処理を行った結果を図5(d)に示し、試料クロマトグラムにおいてA0ピークのピーク高さの飽和処理を行った結果を図5(i)に示す。解析部352は、値hs及び上限値h0を任意の値に決定することができる。例えば、解析部352は、hsをh0の50%と設定してもよい。
【0077】
ピーク高さ飽和処理は、他の成分に対応するピークの大きさが関心成分ピークの大きさよりも圧倒的に大きい場合、波形類似度等の比較評価における大きい成分ビークの影響力を抑制することで、関心成分ピークに重み付けを加味した比較評価手段を提供することができる
【0078】
上述したように、図4のS105の正規化処理では、時間軸補正処理、ピーク高さ正規化処理、及び、ピーク高さ飽和処理を全て実行した。しかしながら、正規化処理では、前述した3つの処理を全て実施しなくてもよく、例えばその内の1つの処理だけでも、又は、3つの処理の内の任意の2つの処理だけでもよい。
【0079】
(比較処理)
ステップS106における比較処理において、解析部352は、正規化処理済の試料クロマトグラムと正規化処理済の参照クロマトグラムとの類似度を算出し、類似度が所定の閾値以上の場合は類似する、所定の閾値未満の場合は類似しないと判定する。例えば、解析部352は、相関係数に基づく下記式(1)を用いて類似度を算出する。
【0080】
【数1】
【0081】
x:参照クロマトグラム(出力)、y:試料クロマトグラム(出力)
また、式(1)に入力するデータの一覧は、下記表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1において、「No.」は、1つのデータに含まれる各プロットデータの管理番号であり、時間は、サーバ装置3による各プロットデータの取得時間である。「Σx」は、正規化処理済の参照クロマトグラムに含まれる全てのプロットデータの値x1~xnを加算した値である。「Σy」は、正規化処理済の試料クロマトグラムに含まれる全てのプロットデータの値y1~ynを加算した値である。「Σx2」、「Σy2」及び「Σx×y」についても同様である。なお、各データは、各検査施設H1~Hnの識別番号及び液体クロマトグラフ装置21~2nの識別番号と紐付けられて、記憶部31に記憶される。
【0084】
上記では、ステップS106における比較処理において、上記の式(1)に基づく類似度を算出するものと説明した。しかしながら、比較処理では、正規化処理済の試料クロマトグラムと参照クロマトグラムとの類似性が判定できればよいので、他の定義に基づく類似度(又は相関度)を算出するようにしてもよい。
【0085】
図6は、液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報の具体例を示す図である。
【0086】
図4のステップS111で示した液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報の一例は、図6に示すように、複数の液体クロマトグラフ装置の識別番号(#1~#121)と、対応する類似度が記載された一覧表形式の出力である。前述した式(1)に基づく類似度は1000点満点で計算され、1000点に近いほど、試料クロマトグラムが参照クロマトグラムに類似することを示す。なお、本データには除外処理(ステップS103)で除外されたデータは省略している。
【0087】
図6の例では、閾値T=900点に設定される。解析部352は、類似度が900点以上であれば、対応する液体クロマトグラフ装置は正常であると判定する。図6に示すように、識別番号#13の液体クロマトグラフ装置の類似度は、824.8点であり、異常があると判定されることとなる。
【0088】
図6に示す具体例は、液体クロマトグラフ装置の精度管理に資する情報の一例であって、他の形式の情報出力を行うようにしてもよい。情報出力を得た管理者は、情報出力に基づいて、液体クロマトグラフ装置の、検査、調整、修理等を行うようにすればよい。また、類似度の数値に応じて、異常個所等を推測することが可能な場合には、精度管理システム1は、類似度が低い液体クロマトグラフ装置21~2nに対して、消耗品の交換や装置メンテナンスを推奨するメッセージ等を送信するようにしてもよい。
【0089】
図7は、図6の識別番号#13に対応する正規化処理済みの試料クロマトグラムと、正規化処理済みの参照クロマトグラムとの比較図である。
【0090】
図7に示すように、識別番号#13のクロマトグラムと参照クロマトグラムとを重ねて描くと、A0ピークのテーリングに大きな差異がみられた。すなわち、解析部352は、識別番号#13のデータが大きな異常のあるクロマトグラム結果であると判定することができる。
【0091】
以上詳述したように、精度管理システム1は、クロマトグラムのプロットデータと、参照クロマトグラムのプロットデータとを予め指定した比較方法で比較することが可能であり、単なる測定結果の比較では得られなかった情報を取得することができる。精度管理システム1は、装置のメンテナンス不良を迅速かつ簡便に予測することが可能となる。精度管理システム1は、精度管理に関わる操作者の工数を減らすことが可能となる。精度管理システム1は、液体クロマトグラフ装置21~2nと直接やり取りできるサーバ装置3を含むネットワーク4を構築することで、データ収集の効率化を図ることができる。
【0092】
以下、変形例について説明する。
【0093】
上述した例では、予め定められている参照クロマトグラムを利用して、正規化処理及び比較処理を実施した。しかしながら、解析部352は、取得部351によって取得した複数のデータから、参照クロマトグラムを生成してもよい。例えば、解析部352は、取得部351によって取得した複数のデータの平均値、中央値又は最頻値を算出する。解析部352は、算出した平均値、中央値又は最頻値に基づく参照クロマトグラムを生成する。これにより、精度管理システム1は、精度管理に参加する全ての検査施設の測定結果を母集団とした統計解析的な参照クロマトグラムによって、試料クロマトグラムを評価することができる。
【0094】
解析部352は、参照クロマトグラムを生成する際に、取得部351によって取得した全てのデータを利用せずに、所定の管理幅に含まれるデータのみを利用するようにしてもよい。管理幅は、データのばらつきの範囲のことであり、例えば、取得部351によって取得された複数のデータの平均値、又は、標準偏差に基づいて算出してもよい。具体的には、解析部352は、複数のデータの平均値±3×標準偏差を管理幅としてもよい。これにより、精度管理システム1は、管理幅に含まれないデータを除外して、参照クロマトグラムの作成において使用するデータの信ぴょう性を向上させることができる。また、精度管理システム1は、管理幅に含まれないデータを除外することで、処理対象となるデータの数を減らすことができるため、処理を高速化することができる。
【0095】
解析部352は、比較処理として、試料クロマトグラム及び参照クロマトグラムの成分に対応する溶出時間、成分に対応するピークの半値幅、及び、成分に対応するピークの理論段数のうちの少なくとも一つを比較してもよい。これにより、精度管理システム1は、試料クロマトグラムと参照クロマトグラムとの比較の精度を向上させることができる。
【0096】
精度管理システム1は、データ処理部7の制御部75で、プロットデータから試料クロマトグラムを復元してもよい。通信部72は、精度管理試料102の成分に関するデータの代わりに、プロットデータに対応する試料クロマトグラムをサーバ装置3に送信してもよい。
【0097】
液体クロマトグラフ装置21~2nの表示部73で、液体クロマトグラフ装置21~2nの精度管理に資する情報を表示できるようにしてもよい。
【0098】
精度管理システム1は、ネットワーク4を介してサーバ装置3と通信可能な、パーソナルコンピュータ、タブレット又はスマートフォン等の情報端末装置を含んで構成されてもよい。操作者は、情報端末装置のアプリケーションで、受信された精度管理試料102の測定結果、又は異常の判定結果を確認してもよい。サーバ装置3と、情報端末装置との接続もVPN接続であることが望ましい。情報端末装置に表示されるユーザインターフェイスは、多施設の測定結果に関して、測定項目ごとに一覧で結果を表示する画面、その測定項目の結果に対する統計処理情報である分布、平均、標準偏差、最大値、最小値等を表示する統計解析画面、また一つの施設の測定結果からクロマトグラムを表示する画面等を表示でき、異常の判定通知を受け取ることができるようにしてもよい。
【0099】
精度管理システム1は、サーバ装置3の処理部35の機能を液体クロマトグラフ装置21~2nの制御部75によって実現してもよい。すなわち、各液体クロマトグラフ装置21~2nにおいて、参照クロマトグラフとの類似度を算出し、類似度のみをサーバ装置3へ送信するようにしてもよい。
【0100】
液体クロマトグラフ装置21~2nとして、自動グリコヘモグロビン分析計(東ソー株式会社)を使用することが可能である。自動グリコヘモグロビン分析計は、全血検体を使用し測定項目としてHbA1cの値を求めることができる。また、自動グリコヘモグロビン分析計に、LTEゲートウェイ端末MMLink-GWL(株式会社YEデジタル)を接続すれば、ネットワーク通信が可能となる。また、精度管理試料102として、HbA1cコントロールセット(東ソー株式会社)のコントロールLv.1(HbA1cの基準値:5.1%)が使用可能である。
【0101】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した各部の処理は、本発明の範囲において、適宜に異なる順序で実行されてもよい。また、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 精度管理システム
3 サーバ装置
21~2n 液体クロマトグラフ装置
35 処理部
75 制御部
351 取得部
352 解析部
353 出力制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7