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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004736
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】気管支炎を予防するための栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20240110BHJP
   A61K 31/7008 20060101ALI20240110BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240110BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240110BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240110BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240110BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240110BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K31/7008
A61P11/00
A61K31/702
A61K31/715
A61K47/64
A61K47/54
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
A23L2/38 P
A23C9/152
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104518
(22)【出願日】2022-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502392559
【氏名又は名称】雪印ビーンスターク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】樋口 淳一
(72)【発明者】
【氏名】福留 博文
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
(72)【発明者】
【氏名】辻森 祐太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 朋樹
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B117
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B001AC05
4B001AC09
4B001AC15
4B001BC03
4B001BC04
4B001EC05
4B018LB07
4B018LB08
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD01
4B018MD09
4B018MD14
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD23
4B018MD25
4B018MD29
4B018MD30
4B018MD71
4B018MD72
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LE01
4B117LE08
4B117LG03
4B117LG05
4B117LK08
4B117LK11
4B117LK12
4B117LK14
4B117LK15
4B117LL02
4B117LL09
4C076CC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZA59
(57)【要約】
【課題】本発明は、母乳の成分から気管支炎の罹患を予防するための成分を見出し、新たな栄養組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、N-アセチルノイラミン酸、6’-シアリルラクトース、α2,6ジシアロN結合型糖鎖、特定構造のジシアロN結合型糖鎖を有効成分として含むことを特徴とする、気管支炎の罹患を予防するための栄養組成物に関する。本栄養組成物は、乳児だけでなく気管支炎のリスクが高い高齢者や基礎疾患を有する人にも有効な成分となることから、成人や高齢者向けの食品、栄養組成物に配合して、気管支炎の罹患を予防する栄養組成物としても有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-アセチルノイラミン酸を有効成分として含む気管支炎を予防するための栄養組成物。
【請求項2】
前記N-アセチルノイラミン酸が、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖又は脂質のいずれか1以上に結合されている請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
N-アセチルノイラミン酸の結合様式がα2,6結合である請求項1又は2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖が6’―シアリルラクトースとして存在する請求項3に記載の栄養組成物。
【請求項5】
N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖がN結合型糖鎖として存在する請求項3に記載の栄養組成物。
【請求項6】
N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖が、α2,6ジシアロN結合型糖鎖である請求項5に記載の栄養組成物。
【請求項7】
α2,6ジシアロN結合型糖鎖が以下の(1)又は(2)に示す構造である請求項6に記載の栄養組成物。
(1)Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
(2)Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc
【請求項8】
乳幼児用である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の気管支炎を予防するための栄養組成物を含む、気管支炎予防用飲食品。
【請求項10】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の気管支炎を予防するための栄養組成物を含む、気管支炎予防用医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管支炎を予防するための栄養組成物に関する。特に詳しくは、N-アセチルノイラミン酸を有効成分として含む気管支炎を予防するための栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支炎は、気管が枝分かれする気道(気管支)にウイルスや細菌が感染して炎症を引き起こす病気である。気管支炎の原因の多くは、RSウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルス感染であるが、マイコプラズマや百日咳菌など細菌性の病原体も原因となる。また、これら病原体が最初に感染した後で、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌などの細菌が二次感染を引き起こして、重篤化することもある。
【0003】
乳幼児期は、免疫機能が成熟化していないため、気管支炎を罹患するリスクが高い。特に生後3か月くらいまでの乳児は気管支が細いため、痰を排出する力が弱く、炎症が拡大して重症に陥るリスクが高い。
さらに免疫機能が低下しつつある高齢者も、気管支炎のリスクが高い層にあたる。気管支炎は悪化すると肺炎へ移行して、命を脅かす重篤な症状に陥る可能性がある。
【0004】
したがって、乳幼児期から高齢者まで全ての人にとって気管支炎を予防することは、健康な社会生活を営む上で重要なことであり、その治療法や予防法については、様々な検討がなされてきた。気管支炎を罹患した後の治療法に関しては、抗インフルエンザウイルス薬の投与や、各種抗生剤による治療、鎮咳薬(ちんがいやく)や去痰剤による治療などが開発されてきた。特許文献1では、特定のシアル酸誘導体を有効成分とする抗潰瘍剤又はビフィズス菌増殖促進剤について開示され、他にインフルエンザウイルスや、ロタウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスを原因とする感染症についての治療効果も示されているが、気管支炎の予防効果については示されていない。なお、当該特許文献では、ロタウイルスによる下痢症の予防が示されているが、ロタウイルスは気管支炎の原因ウイルスではないため、気管支炎の予防については示されていない。このように、気管支炎の予防法については有効な手立てはなく、一般的な手洗いとうがいの励行がなされるのみである。
【0005】
ところで、母乳には、感染症のリスクを低下せしめる様々な成分が含まれていることが知られている(特許文献2)。特に、母乳に含まれるオリゴ糖を中心とした糖質は、特定のウイルスが宿主細胞に接着する段階を阻害することが報告されている(特許文献3)。本発明者らは、気管支炎の罹患を予防する有効成分を探索するにあたり、母乳に含まれる成分に注目した。しかし、具体的に気管支炎の罹患自体を予防せしめることが可能か否かは不明であり、母乳中のどのような成分が気管支炎の罹患を予防することが可能かを類推することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3930559号公報
【特許文献2】特許第2514375号公報
【特許文献3】特許第3789146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、母乳の成分の中に気管支炎の罹患を予防せしめる成分を見出すことができれば、その成分を乳児用栄養組成物に配合することで、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物を供給することができるのではないかと考えた。また、当該成分は、乳児だけでなく気管支炎のリスクが高い高齢者や基礎疾患を有する人にも有効な成分となることから、成人や高齢者向けの食品、栄養組成物に配合して、気管支炎の罹患を予防する栄養組成物として供給することも可能であると考えた。
本発明の課題は、母乳の成分から気管支炎の罹患を予防するための成分を見出し、新たな栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、母乳中の気管支炎の罹患を予防する成分を探索するため、母乳中の糖質成分の量と乳児の気管支炎罹患歴との関係を統計的に解析し、気管支炎の罹患を予防する新たな成分について鋭意検討した結果、母乳中の、N-アセチルノイラミン酸、6’-シアリルラクトース、α2,6ジシアロN結合型糖鎖、特定構造のジシアロN結合型糖鎖が気管支炎の予防に効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、N-アセチルノイラミン酸、6’-シアリルラクトース、α2,6ジシアロN結合型糖鎖、特定構造のジシアロN結合型糖鎖を有効成分として含むことを特徴とする、気管支炎の罹患を予防するための栄養組成物に関する。
具体的には、本発明は以下の構成を有する。
【0009】
<1>N-アセチルノイラミン酸を有効成分として含む気管支炎を予防するための栄養組成物。
<2>前記N-アセチルノイラミン酸が、タンパク質、ペプチド、オリゴ糖又は脂質のいずれか1以上に結合されている<1>に記載の栄養組成物。
<3>N-アセチルノイラミン酸の結合様式がα2,6結合である<1>又は<2>に記載の栄養組成物。
<4>N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖が6’―シアリルラクトースとして存在する<3>に記載の栄養組成物。
<5>N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖がN結合型糖鎖である<3>に記載の栄養組成物。
<6>N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖が、α2,6ジシアロN結合型糖鎖である<5>に記載の栄養組成物。
<7>α2,6ジシアロN結合型糖鎖が以下の(1)又は(2)に示す構造である<6>に記載の栄養組成物。
(1)Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
(2)Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc
<8>乳幼児用である、<1>から<7>のいずれかに記載の栄養組成物。
<9><1>から<8>のいずれかに記載の気管支炎を予防するための栄養組成物を含む、気管支炎予防用飲食品。
<10><1>から<8>のいずれかに記載の気管支炎を予防するための栄養組成物を含む、気管支炎予防用医薬品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、N-アセチルノイラミン酸を有効成分とする栄養組成物により、気管支炎の罹患を予防することができる。また、当該成分は、乳児だけでなく気管支炎のリスクが高い高齢者や基礎疾患を有する人にも有効な成分となることから、成人や高齢者の気管支炎の罹患をも予防することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】母乳中のN-アセチルノイラミン酸濃度が乳児の気管支炎の罹患に与える影響を示す。
図2】母乳中の6’―SLの濃度が乳児の気管支炎の罹患に与える影響を示す。
図3】母乳中のジシアロN結合型糖鎖Aの濃度が乳児の気管支炎の罹患に与える影響を示す。
図4】母乳中のジシアロN結合型糖鎖Bの濃度が乳児の気管支炎の罹患に与える影響を示す。
図5】母乳中のα2,6ジシアロN結合型糖鎖の濃度が乳児の気管支炎の罹患に与える影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(N-アセチルノイラミン酸)
本発明のN-アセチルノイラミン酸は、遊離した状態であっても、オリゴ糖として他の糖に結合した状態であってもよい。また、N-アセチルノイラミン酸は、ペプチド及び/又はタンパク質や、脂質に結合した状態であっても良い。また、N-アセチルノイラミン酸は、乳由来、卵由来、ツバメの巣由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、N-アセチルノイラミン酸を含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。例えば、牛乳由来のグリコマクロペプチド、グリコマクロペプチドの糖鎖部分を濃縮したシアリル糖ペプチドなどが挙げられる。
本発明において、N-アセチルノイラミン酸の結合様式はα2,6結合であることが望ましい。α2,6結合のN-アセチルノイラミン酸とは、オリゴ糖または糖タンパク質糖鎖のガラクトース残基、又はN-アセチルガラクトサミン残基にα2,6結合で結合したN-アセチルノイラミン酸を指し、Neu5Acα2-6Gal構造、又はNeu5Acα2-6GalNAc構造を有する化合物を指す。
【0013】
(6’―シアリルラクトース)
本発明において、N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖は6’―シアリルラクトース(Neu5Acα2-6Galβ1-4Glc)として存在することが望ましい。6’―シアリルラクトース(以下、単に6’-SLということがある)とは、乳由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、6’―シアリルラクトースを含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
【0014】
(N結合型糖鎖)
本発明において、N-アセチルノイラミン酸を含む糖鎖はN結合型糖鎖として存在することが望ましい。本発明のN-アセチルノイラミン酸を含むN結合型糖鎖は、遊離した状態であっても、ペプチド及び/又はタンパク質に結合した状態であってもよい。また、乳由来、卵由来、肉由来、微生物由来、遺伝子組み換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、N結合型糖鎖を含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
【0015】
(α2,6ジシアロN結合型糖鎖)
本発明におけるα2,6ジシアロN結合型糖鎖とは、気管支炎の罹患を低下させるN結合型糖鎖をいう。本発明のα2,6ジシアロN結合型糖鎖は、遊離した状態であっても、ペプチド及び/又はタンパク質に結合した状態であってもよい。また、乳由来、卵由来、肉由来、微生物由来、遺伝子組換え細菌の発酵法由来でもよく、合成品、半合成品、又は天然品のいずれであってもよい。また、天然品を含有する天然の材料をそのまま供給源として、本発明の栄養組成物に配合してもよい。ここで、天然品とは、α2,6ジシアロN結合型糖鎖を含有する天然の材料から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、又はそれらを更に高度に精製したものを意味する。
【0016】
本発明におけるα2,6ジシアロN結合型糖鎖とは、具体的には、Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc(以下、単にジシアロN結合型糖鎖Aということがある)やNeu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc(以下、単にジシアロN結合型糖鎖Bということがある)の他に、例えば、Neu5Acα2-6Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcや、Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc、Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-4)Manα1-3(Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcなどのように、非還元末端に2分子のNeu5Acα2,6結合を有するN結合型糖鎖を指す。
【0017】
本発明の栄養組成物は、気管支炎を予防するための有効量のN-アセチルノイラミン酸を含む必要があり、栄養組成物の固形物100gあたりの必要量の好ましい範囲を以下に示す。
N-アセチルノイラミン酸が170mg/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは189mg/100g固形以上である。なお、栄養組成物が粉ミルクの場合、調乳後の乳には221mg/L以上のN-アセチルノイラミン酸が含まれることが好ましく、さらに好ましくは246mg/L以上である。
また、本発明の栄養組成物は、6’―シアリルラクトースが46.9mg/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは104mg/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に61.0mg/L以上の6’-SLが含まれることが好ましく、さらに好ましくは135mg/L以上である。
また、本発明の栄養組成物は、α2,6ジシアロN結合型糖鎖が0.198μmol/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.338μmol/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に0.257μmol/L以上のα2,6ジシアロN結合型糖鎖が含まれることが好ましく、さらに好ましくは0.440μmol/L以上である。
また、本発明の栄養組成物は、ジシアロN結合型糖鎖Aが0.0728μmol/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.241μmol/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に0.0947μmol/L以上のジシアロN結合型糖鎖Aが含まれることが好ましく、さらに好ましくは0.313μmol/L以上である。
また、本発明の栄養組成物は、ジシアロN結合型糖鎖Bが0.0935μmol/100g固形以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.188μmol/100g固形以上である。なお、調乳後の乳に0.122μmol/L以上のジシアロN結合型糖鎖Bが含まれることが好ましく、さらに好ましくは0.245μmol/L以上である。
【0018】
(栄養組成物、飲食品、医薬品)
本発明のN-アセチルノイラミン酸等を有効成分として含む気管支炎を予防するための栄養組成物は、N-アセチルノイラミン酸等を有効量含む組成物であればよく、有効成分以外にタンパク質、脂肪、糖質、ビタミン類及びミネラル類などを含むことができ、乳幼児用の栄養組成物のほか、成人や高齢者用の栄養組成物として用いられる。
乳幼児用栄養組成物としては、乳児用調製粉乳および調製液状乳、幼児用調製粉乳(フォローアップミルクおよびグローイングアップミルク)、低出生体重児用調製粉乳、牛乳アレルギー疾患用アレルゲン除去食品および乳糖不耐症用乳糖除去食品などが挙げられる。
また、成人や高齢者用の栄養組成物としては、成人用調製粉乳および調製液状乳、牛乳アレルギー疾患用アレルゲン除去食品、乳糖不耐症用乳糖除去食品、サプリメントなどが挙げられる。
また、本発明のN-アセチルノイラミン酸等を含む気管支炎を予防するための飲食品としては、N-アセチルノイラミン酸等を有効量含む飲食品であればどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
本発明の気管支炎を予防するための栄養組成物は、そのまま医薬品の原材料として用いることができ、錠剤、カプセル、粉末、シロップ等の常法により製造すれば良い。
したがって、本発明のN-アセチルノイラミン酸等を有効成分として含む気管支炎予防用の組成物を有効成分として含む医薬品の製剤化に際しては、製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して製剤化するほか、N-アセチルノイラミン酸等を含む組成物をそのまま乾燥して粉末剤、散剤として用いることもできる。また、気管支炎予防効果を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能である。
【実施例0019】
[試験例1]
153検体の母乳試料について各種糖質成分を測定し、乳児の生後1年間の気管支炎の罹患の有無との関係をロジスティック回帰で解析した。以下に、その方法と結果を示す。
【0020】
1.方法
(1)母乳サンプルと乳児の感染履歴の調査
雪印ビーンスターク(株)が2014年から2019年の間に実施した日本人の母乳成分と母子の健康状態との関係を調査するための前向きコホート研究(UMIN ID 000015494)において、1210人の母親から集められた母乳サンプルと母子の健康状態を調査したアンケート結果を本調査に使用した。さらに、1210人の検体からランダムに200検体を選抜した。分析に供する母乳サンプルとして、出産後1から2か月までの間に採取された母乳を使用した。乳児の健康状態を調査したアンケートは、出産後1年の間に2か月おきに計6回を親が記入し、その結果を収集した。そのアンケート結果の中から、乳児が出産後1年間に医師から気管支炎の罹患と診断されたか否かの結果を集計した。診断の有無について記載が不明の場合は、調査から除外した。その結果、1年間計6回のアンケートにおいて、気管支炎の診断の有無を適正に回答されたものは153検体であり、それらを本調査の分析対象とした。153検体のうち、出産後1年間に乳児が気管支炎と診断されたものは、18検体であった。
【0021】
(2)母乳の各種糖質成分の測定
(2-1)全N-アセチルノイラミン酸の測定
分析対象とした153検体の母乳100μLに対して、800μLの超純水および100μLの1N硫酸を添加した後、80℃で45分間加熱した。室温まで放冷し、1mLの0.1N水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、分画分子量10,000の限外ろ過膜処理を行い、透過液をHPLCで分析した。HPLCは、電気化学検出器を接続したDIONEX ICS-5000DPシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、カラムはCarboPac PA1カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用した。移動相には超純水(A液)、200mM水酸化ナトリウム溶液(B液)、および600mM 酢酸ナトリウムを含む100mM 水酸化ナトリウム溶液(C液)の3液を流速1mL/minで通液した。開始から7分間B液45%およびC液10%で通液し、その後10分までにB液を37.5%まで直線的に減少、C液を25%まで直線的に増加させた。10分から20分にかけてはB液37.5%、C液25%で通液し、20.1分から25分はB液45%およびC液10%で通液した。濃度既知のN-アセチルノイラミン酸の標準品を用いて作成した検量線から、各母乳検体中の全N-アセチルノイラミン酸量を算出した。
【0022】
(2-2)オリゴ糖の測定
分析対象とした153検体の母乳20μLに対して、580μLの超純水を添加した後、分画分子量10,000の限外ろ過膜処理を行い、透過液をHPLCで分析した。HPLCは、電気化学検出器を接続したDIONEX ICS-5000DPシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、カラムはCarboPac PA1カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用した。移動相には超純水(A液)、200mM水酸化ナトリウム溶液(B液)、および600mM 酢酸ナトリウムを含む100mM 水酸化ナトリウム溶液(C液)の3液を流速1mL/minで通液した。開始から10分間B液50%で通液し、その後18分までにB液を47.5%まで直線的に減少、C液を5%まで直線的に増加させた。18分から28分にかけてはB液47.5%、C液5%で通液した。28分から32分にかけて、B液を42%まで直線的に減少、C液を16%まで直線的に増加させた。32分から39分にかけてはB液42%、C液16%で通液した後、39分から43分にかけてB液30%、C液40%で通液した。濃度既知の2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、3’-シアリルラクトース(以下、単に3’-SLということがある)、6’-シアリルラクトース(以下、単に6’-SLということがある)、ラクトジフコテトラオース、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-フコペンタオースII,ラクト-N-ジフコヘキサオースI、およびラクト-N-ジフコヘキサオースIIの標準品を用いて作成した検量線から、各母乳検体中の各オリゴ糖含量を算出した。これら11種類のオリゴ糖の合算値を「全オリゴ糖」とした。
【0023】
(2-3)N結合型糖鎖の測定
分析対象とした153検体の母乳20μLに対して、10μLの3M水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加し、室温で30分間静置した。続いて、7.5μLの酢酸を添加し、室温で30分間静置した。15μLの1M炭酸水素アンモニウム水溶液、および7.5μLの超純水を添加した。続けて、5μLの5%のラウリル硫酸ナトリウムを含む400mMジチオスレイトール水溶液を添加し、100℃で10分間加熱してタンパク質変性させた。室温まで放冷し、10μLの123mMヨードアセトアミド水溶液を添加して、室温で1時間静置した。7μLの500mM酢酸ナトリウム水溶液(pH 6.0)、および9μLの10% NP-40溶液を添加後、10μLの500units/μL Peptide-N-glycanase F溶液を添加し、37℃で24時間静置して、N結合型糖鎖を遊離した。109μLの超純水を加えた後、全量を分画分子量10,000のVivaspin 500(ザルトリウス株式会社)へ導入し、15,000×g、25℃で10分間遠心分離処理し、透過液を回収した。50μLの透過液に50μLのアセトニトリルを加え、LC/MS分析に供した。LC/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、MSはQ-Exactive(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いた。カラムはGlycanPac AXH-1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5 kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MSスペクトルは、ポジティブモードでm/z 400-2000の範囲でフルスキャン測定により取得した。取得したMSスペクトルは、Compound Discover 2.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて解析した。既報の乳タンパク質のN結合型糖鎖から構築した糖鎖データベースと照合することで、糖鎖を検出した。また、Compound Discoverにより各糖鎖の分子イオンピークに対応する抽出クロマトグラムを作成し、各母乳検体中の検出した各糖鎖のシグナル面積値を算出した。算出した糖鎖のシグナル面積値を各糖鎖の相対定量値とした。検出したN結合型糖鎖は16種類であり、それらの面積値の合算値を「全N結合型糖鎖」の相対値とした。
【0024】
(2-4)O結合型糖鎖の測定
分析対象とした153検体の母乳に対して、O結合型糖鎖解析キットEZGlyco Prep kit(住友ベークライト株式会社)に付属の糖鎖遊離試薬を添加し、50℃で20分間加熱した。超純水で希釈した後、分画分子量10,000のVivaspin 500へ導入し、15,000×g、25℃で15分間遠心分離処理し、透過液を回収した。50μLの透過液に50μLのアセトニトリルを加え、LC/MS分析に供した。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MSスペクトルは、ポジティブモードでm/z 300-2000の範囲でフルスキャン測定により取得した。取得したMSスペクトルは、Compound Discover 2.1(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて解析した。O結合型糖鎖データベースと照合することで、糖鎖を検出した。また、Compound Discoverにより各糖鎖の分子イオンピークに対応する抽出クロマトグラムを作成し、各母乳検体中の検出した各糖鎖のシグナル面積値を算出した。算出した糖鎖のシグナル面積値を各糖鎖の相対定量値とした。検出したO結合型糖鎖は12種類であり、それらの面積値の合算値を「全O結合型糖鎖」の相対値とした。
【0025】
(3)ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの構造決定
(3-1)構造解析
上記「N結合型糖鎖の測定」において調製した153検体の試料のうちの1検体について、LC/MS/MS測定を行い、ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの構造解析を行った。LC/MS/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MS/MSスペクトルは、ポジティブモードで、データ依存的にTop10モードで取得した。取得したMS/MSスペクトルは、SimGlycan Software(PREMIER Biosoft International)を使用して解析し、ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの構造を解析した。
【0026】
(3-2)結合様式の決定
また、ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖BのN-アセチルノイラミン酸の結合様式を決定するため、α2,3結合を特異的に分解するシアリダーゼ、またはα2,3とα2,6結合の両方を分解するシアリダーゼ、のいずれかで処理した後にLC/MSで解析した。上記(3-1)と同一の1検体について、5μLのN結合型糖鎖溶液に、37μLの超純水と5μLの酵素に付属の緩衝液を添加した。酵素付属緩衝液で10倍に希釈したα2,3-SialidaseまたはNeuraminidaseを3μL添加して37℃で15分間インキュベートした。沸騰水中で5分間加熱して酵素を失活させた後、50μLのアセトニトリルを添加してLC/MS分析に供した。LC/MS分析は以下のように行った。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調整した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。取得したMSスペクトルは、Xcaliburソフトウェア(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を使用して解析した。
【0027】
(4)ジシアロN結合型糖鎖AおよびBの絶対定量
気管支炎の罹患と関連性が認められたジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bについて、母乳中の絶対量を測定した。母乳中のジシアロN結合型糖鎖Aの含有量は、ジシアロN結合型糖ペプチドの標準物質を使用した標準添加法により測定した。ジシアロN結合型糖鎖Bの母乳中の絶対量は、ジシアロN結合型糖鎖Aの絶対量に、LC/MSの結果から得られたジシアロN結合型糖鎖Aの面積値に対するジシアロN結合型糖鎖Bの面積値の相対比を乗じることで算出した。
【0028】
標準添加法によるジシアロN結合型糖鎖Aの測定法を以下に記す。分析対象とした153検体の母乳から無作為に選択した1検体の母乳20μLに対して、10μLの3M水素化ホウ素ナトリウム水溶液を添加し、室温で30分間静置した。続いて、7.5μLの酢酸を添加し、室温で30分間静置した。15μLの1M炭酸水素アンモニウム水溶液を加えた後、7.5、5.5、3.5または1.5μLの超純水を添加した。さらに、ジシアロN結合型糖鎖Aが結合した糖ペプチドの標準物質として使用するシアリルグリコペプチド(東京化成工業)を20μg/mLに調製した水溶液を、0、2、4、または6μL添加した。続いて、5μLの120mMのジチオスレイトール水溶液を加え、60℃で30分間加熱した後、10μLの123mMのヨードアセトアミド水溶液を添加し、室温で1時間静置した。40units/μLのトリプシン水溶液を20μL添加して、37℃で1時間インキュベートした。100℃で5分間加熱してトリプシンを失活させた後、500units/μL Peptide-N-glycanase F溶液を添加し、37℃で18時間静置して、N結合型糖鎖を遊離した。遊離したN結合型糖鎖は、N結合型糖鎖調製キットBlotGlyco(住友ベークライト)を使用して、2-アミノベンズアミド標識および精製を行った後、LC/MS分析に供した。HPLCはUltiMate 3000、MSはQ-Exactiveを用いた。カラムはGlycanPac AXH-1を使用し、カラム温度は40℃に設定した。移動相はアセトニトリル(A液)、およびpHを4.4に調製した50mMギ酸アンモニウム水溶液(B液)を使用し、流速は0.4mL/分で通液した。試料導入後、55分までにB液の割合を10%から35%まで直線的に増加させた後、55分から65分までB液35%で通液した。ESIプローブのスプレー電圧は3.5kV、キャピラリー温度は275℃、Sheath gas、auxiliary gas、およびcollision gasには窒素ガスを用いた。S-Lens RF Levelは90に設定した。MS測定は、ポジティブモードでm/z 1172.43の選択イオンモニタリング測定を行った。取得したMSクロマトグラムはXcaliburソフトウェアを使用して解析した。MSクロマトグラムの面積値を、添加したシアリルグリコペプチド量に対してプロットすることで、母乳中のジシアリルN結合型糖鎖Aの量を標準添加法で絶対定量した。この絶対定量値と、上記「N結合型糖鎖の測定」により取得済みの153検体の母乳の相対定量値を使用して、153検体のそれぞれの母乳中のジシアロN結合型糖鎖Aの絶対定量値を得た。また、各母乳検体について、ジシアロN結合型糖鎖Aに対するジシアロN結合型糖鎖BのMSクロマトグラムの面積値の比から、ジシアロN結合型糖鎖Bの絶対定量値を得た。
【0029】
(5)母乳中の各種糖質成分の含有量と気管支炎との関連性の解析
153検体の母乳について、N-アセチルノイラミン酸、オリゴ糖、N結合型糖鎖、O結合型糖鎖、ジシアロN結合型糖鎖A、およびジシアロN結合型糖鎖Bの濃度と、乳児の気管支炎の罹患との関係をロジスティック回帰で分析した。調整因子として、乳児の性別、兄姉の有無、出産方法(自然分娩、帝王切開)、出生体重を用いた。
【0030】
2.結果
(1)母乳の各種糖質成分の含有量と乳児の気管支炎罹患との関係
153検体の母乳について、各種糖質成分(全N-アセチルノイラミン酸、全オリゴ糖、全N結合型糖鎖、全O結合型糖鎖)の含有量と、乳児の気管支炎の罹患との関係をロジスティック回帰で分析した。その結果、全N-アセチルノイラミン酸濃度と気管支炎の罹患との間に統計的に有意な関係が認められた(表1)。一方、全オリゴ糖、全N結合型糖鎖、全O結合型糖鎖では、そのような関係性は認められなかった。全N-アセチルノイラミン酸濃度と気管支炎の罹患との間には、オッズ比が0.098、回帰係数が-2.32であったことから、全N-アセチルノイラミン酸濃度が高い母乳を飲んだ乳児では、気管支炎の罹患リスクが低下することが示された。
【0031】
【表1】
【0032】
乳児の気管支炎の罹患の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳の全N-アセチルノイラミン酸濃度を比較した結果、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、罹患した乳児が飲んだ母乳よりも全N-アセチルノイラミン酸濃度が有意に高いレベルであった(図1)。このことは、乳児用栄養組成物において気管支炎の罹患リスクを下げるには、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのN-アセチルノイラミン酸を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の全N-アセチルノイラミン酸濃度の分布範囲は181~977mg/Lであり、中央値は395mg/Lであった(表2)。全N-アセチルノイラミン酸濃度の分布は、正規分布とは異なり濃度の高い方に裾の広がりを示す分布であった。このような分布は、乳幼児の身長や体重の分布でも認められており、乳幼児の発育曲線を作成する際には、全体の分布の3から97パーセンタイルの間を基準としている(平成12年乳幼児身体発育調査報告書)。これを参考にして、母乳における全N-アセチルノイラミン酸濃度の範囲として、3から97パーセンタイルを基準とした。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の全N-アセチルノイラミン酸濃度としては、分布で3パーセンタイルに相当する221mg/Lが最低値であった。また、母乳中の全N-アセチルノイラミン酸含量を246mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、気管支炎の罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定に供した結果、p<0.05以下となり、母乳中の全N-アセチルノイラミン酸含量が246mg/L以上では、気管支炎の罹患リスクが低くなることが示された。
したがって、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に221mg/L以上のN-アセチルノイラミン酸が含まれることが必要であり、好ましくは246mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で170mg以上のN-アセチルノイラミン酸を配合することが必要であり、好ましくは189mg以上のN-アセチルノイラミン酸を配合することが望まれる。
また、気管支炎の罹患の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、気管支炎のリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じN-アセチルノイラミン酸含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0033】
【表2】
【0034】
(2)乳児の気管支炎の罹患を予防するN-アセチルノイラミン酸化合物の探索
上記の結果から、全N-アセチルノイラミン酸含量の高い母乳を飲んだ乳児では、気管支炎の罹患リスクが低下することが明らかとなった。母乳中のN-アセチルノイラミン酸の多くは、オリゴ糖や糖タンパク質の糖鎖として存在しているため、どのような分子形態のN-アセチルノイラミン酸が、気管支炎の罹患予防に関係するのかを探索した。
【0035】
母乳から検出されるN-アセチルノイラミン酸が結合したオリゴ糖(2種類)、N-アセチルノイラミン酸が結合したN結合型糖鎖(6種類)、N-アセチルノイラミン酸が結合したO結合型糖鎖(5種類)について、母乳中でのそれぞれの濃度と乳児の気管支炎の罹患との関連性をロジスティック回帰で解析した。解析結果の一部を表3に示した。
解析の結果、6’-SL(p=0.035)、ジシアロN結合型糖鎖A(p=0.038)、およびジシアロN結合型糖鎖B(p=0.046)と、気管支炎の罹患との間に統計的に有意な関連性が認められた。一方、3’-SLの含量との間では、そのような関連性は認められなかった。
6’-SL、ジシアロN結合型糖鎖A、およびジシアロN結合型糖鎖Bと、気管支炎の罹患との間では、回帰係数はマイナス値であり、オッズ比は1未満であったことから、6’-SL、ジシアロN結合型糖鎖A、およびジシアロN結合型糖鎖Bの含量が高い母乳を飲んだ乳児では、気管支炎の罹患リスクが低下することが示された。
【0036】
【表3】
【0037】
(3)6’-SLについての乳児の気管支炎罹患予防効果の確認
乳児の気管支炎の罹患の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳の6’-SL濃度を比較した結果、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、罹患した乳児が飲んだ母乳よりも6’-SL量が有意に高いレベルであった(図2)。このことは、乳児用栄養組成物において気管支炎の罹患リスクを下げるには、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルの6’-SL濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳における6’-SL濃度の分布の範囲は25.7~701mg/Lであり、中央値は203mg/Lであった(表4)。N-アセチルノイラミン酸の分布と同様に、母乳の6’-SL濃度の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳の6’―SLの濃度範囲とした。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の6’-SL濃度は、3パーセンタイル以上に相当する61.0mg/L以上と考えられる。また、母乳中の6’-SL濃度が135mg/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、気管支炎の罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中の6’-SL濃度が135mg/L以上では、気管支炎の罹患リスクが低くなることが示された。
【0038】
【表4】
【0039】
したがって、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に61.0mg/L以上の6’-SLが含まれることが必要であり、好ましくは135mg/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で46.9mg以上の6’-SLを配合することが必要であり、好ましくは104mg以上の6’-SLを配合することが望まれる。気管支炎の罹患の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、気管支炎のリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じ6’-SL含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0040】
(4)ジシアロN結合型糖鎖Aについての乳児の気管支炎罹患予防効果の確認
乳児の気管支炎の罹患の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のジシアロN結合型糖鎖Aの濃度を比較した結果、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、罹患した乳児が飲んだ母乳よりもジシアロN結合型糖鎖A量が有意に高いレベルであった(図3)。このことは、乳児用栄養組成物において気管支炎の罹患リスクを下げるには、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのジシアロN結合型糖鎖Aの濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳におけるジシアロN結合型糖鎖A濃度の分布の範囲は0.0740~2.88μmol/Lであり、中央値は0.302μmol/Lであった(表4)。N-アセチルノイラミン酸の分布と同様に、母乳のジシアロN結合型糖鎖Aの濃度分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のジシアロN結合型糖鎖Aの濃度範囲とした。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳のジシアロN結合型糖鎖A濃度は、3パーセンタイル以上に相当する0.0947μmol/L以上と考えられる。また、母乳中のジシアロN結合型糖鎖A濃度が0.313μmol/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、気管支炎の罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中のジシアロN結合型糖鎖Aの濃度が0.313μmol/L以上では、気管支炎の罹患リスクが低くなることが示された。
【0041】
したがって、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に0.0947μmol/L以上のジシアロN結合型糖鎖Aが含まれることが必要であり、好ましくは0.313μmol/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で0.0728μmol以上のジシアロN結合型糖鎖Aを配合することが必要であり、好ましくは0.241μmol以上のジシアロN結合型糖鎖Aを配合することが望まれる。気管支炎の罹患の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、気管支炎のリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じジシアロN結合型糖鎖A含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0042】
(5)ジシアロN結合型糖鎖Bについての乳児の気管支炎罹患予防効果の確認
乳児の気管支炎の罹患の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のジシアロN結合型糖鎖Bの濃度を比較した結果、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、罹患した乳児が飲んだ母乳よりもジシアロN結合型糖鎖B量が有意に高いレベルであった(図4)。このことは、乳児用栄養組成物において気管支炎の罹患リスクを下げるには、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのジシアロN結合型糖鎖Bの濃度を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳におけるジシアロN結合型糖鎖B濃度の分布の範囲は0.0853~5.06μmol/Lであり、中央値は0.599μmol/Lであった(表4)。N-アセチルノイラミン酸の分布と同様に、母乳のジシアロN結合型糖鎖B濃度の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のジシアロN結合型糖鎖Bの濃度範囲とした。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳のジシアロN結合型糖鎖B濃度は、3パーセンタイル以上に相当する0.122μmol/L以上と考えられる。また、母乳中のジシアロN結合型糖鎖Bの濃度が0.245μmol/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、気管支炎の罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05以下となり、母乳中のジシアロN結合型糖鎖Bの濃度が0.245μmol/L以上では、気管支炎の罹患リスクが低くなることが示された。
【0043】
したがって、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に0.122μmol/L以上のジシアロN結合型糖鎖Bが含まれることが必要であり、好ましくは0.245μmol/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で0.0935μmol以上のジシアロN結合型糖鎖Bを配合することが必要であり、好ましくは0.188μmol以上のジシアロN結合型糖鎖Bを配合することが望まれる。気管支炎の罹患の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、気管支炎のリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じジシアロN結合型糖鎖B含量を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0044】
(6)ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの構造の決定
乳児の気管支炎の罹患との関係性が認められた母乳中のジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの構造を調べるため、α2,3またはα2,6結合ジシアロN結合型糖鎖標準品とLC/MSクロマトグラムの保持時間を比較したところ、ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bの保持時間は、両者ともα2,6ジシアロN結合型糖鎖標準品と一致した。
また、ジシアロN結合型糖鎖AおよびジシアロN結合型糖鎖Bを、非特異的シアリダーゼで処理した場合では糖鎖の分解が認められたのに対して、α2,3結合N-アセチルノイラミン酸を特異的に切断するシアリダーゼで処理した場合、糖鎖は分解しなかったことから、ジシアロN結合型糖鎖AおよびBは、下記の構造で表されるα2,6ジシアロN結合型糖鎖であることが示された。
【0045】
<ジシアロN結合型糖鎖A>
Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAc
<ジシアロN結合型糖鎖B>
Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-3(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAcβ1-2Manα1-6)Manβ1-4GlcNAcβ1-4(Fucα1-6)GlcNAc
【0046】
(7)α2,6ジシアロN結合型糖鎖についての乳児の気管支炎罹患予防効果の確認
ジシアロN結合型糖鎖AとジシアロN結合型糖鎖Bの糖鎖構造は、フコースが1分子結合するか否かの違いのみである。両者ともに、非還元末端に、2分子のN-アセチルノイラミン酸がガラクトースにα2,6結合していることを共通とする。したがって、このα2,6ジシアロ結合を有するN結合型糖鎖が、乳児の気管支炎の罹患と関係している可能性が考えられた。そこで、ジシアロN結合型糖鎖AとジシアロN結合型糖鎖Bの母乳中の物質量(モル濃度)の合算値であるα2,6ジシアロN結合型糖鎖の母乳中での物質量(モル濃度)と気管支炎との関連性をロジスティック回帰で解析した。その結果、p=0.034であり、α2,6ジシアロN結合型糖鎖の母乳中での物質量(モル濃度)と気管支炎の罹患との間には、統計的に有意な関連性があることが判明した(表3)。これらの関連性は、回帰係数がマイナス値であり、オッズ比が1未満であることから、母乳中のα2,6ジシアロN結合型糖鎖の物質量(モル濃度)が高い母乳を飲んだ乳児では、気管支炎の罹患リスクが低下することが示された。
【0047】
乳児の気管支炎の罹患の有無で母乳サンプルを2群に分け、母乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖の物質量(モル濃度)を比較した結果、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳の方が、罹患した乳児が飲んだ母乳よりもα2,6ジシアロN結合型糖鎖の物質量(モル濃度)が有意に高いレベルであった(図5)。このことは、乳児用栄養組成物において気管支炎の罹患リスクを下げるには、気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳と同等レベルのα2,6ジシアロN結合型糖鎖を含有する乳児用栄養組成物が有効であることを示している。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳におけるα2,6ジシアロN結合型糖鎖の物質量の分布の範囲は0.179~6.76μmol/Lであり、中央値は0.933μmol/Lであった(表4)。N-アセチルノイラミン酸の分布と同様に、母乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖の分布も正規分布では無く、濃度の高い方に裾が広がる分布であったため、3~97パーセンタイルを母乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖の濃度範囲とした。気管支炎の罹患が無かった乳児が飲んだ母乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖は、3パーセンタイル以上に相当する0.257μmol/L以上と考えられる。また、母乳中のα2,6ジシアロN結合型糖鎖が0.440μmol/L以上の検体と以下の検体の2群に分け、気管支炎の罹患の有無との関係をFisherの正確確率検定で評価した結果、p<0.05となり、母乳中のα2,6ジシアロN結合型糖鎖が0.440μmol/L以上では、気管支炎の罹患リスクが低くなることが示された。
【0048】
したがって、気管支炎の罹患を予防する乳児用栄養組成物としては、調乳後の乳に0.257μmol/L以上のα2,6ジシアロN結合型糖鎖が含まれることが必要であり、好ましくは0.440μmol/L以上が望まれる。調乳濃度を13%とすると、乳児用栄養組成物の固形100gあたり最低で0.198μmol以上のα2,6ジシアロN結合型糖鎖を配合することが必要であり、好ましくは0.338μmol以上のα2,6ジシアロN結合型糖鎖を配合することが望まれる。気管支炎の罹患の機序は、乳児と成人で同じであることから、この乳児用栄養組成物の配合は、気管支炎のリスクが高い成人や高齢者にも有効であると考えられる。したがって、上記と同じα2,6ジシアロN結合型糖鎖を配合した成人向けの栄養組成物としても有効である。
【0049】
〔実施例1〕N-アセチルノイラミン酸配合調製粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、およびN-アセチルノイラミン酸28gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳のN-アセチルノイラミン酸量は、221mg/100g固形であった。
【0050】
〔実施例2〕6’-シアリルラクトース配合調製粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、および6’-シアリルラクトース50gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを粉混合し、最終的に粉乳100kgを得た。得られた粉乳の6’-シアリルラクトース量は、50mg/100g固形であった。
【0051】
〔実施例3〕糖ペプチド配合粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、およびシアリルグリコペプチド567mgを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを混合し、最終的に調製粉乳100kgを得た。得られた粉乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖は0.198μmol/100g固形であった。
【0052】
〔実施例4〕糖ペプチド配合粉乳の調製
ホエイ粉52.7kg、脱脂乳239kg、および卵黄粉末421gを水500kgに溶解し、この溶液に植物油23.9kgを混合し、均質化した。得られた溶液を殺菌し、定法により濃縮、乾燥して粉乳99kgを得た。粉乳とビタミンとミネラル成分1kgを混合し、最終的に調製粉乳100kgを得た。得られた粉乳のα2,6ジシアロN結合型糖鎖は0.198μmol/100g固形であった。
【0053】
〔実施例5〕サプリメントの製造
N-アセチルノイラミン酸粉末1gに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明の気管支炎の予防用サプリメントを製造した。
【0054】
〔実施例6〕サプリメントの製造
α2,6ジシアロN結合型糖鎖10mgに、ビタミンCとクエン酸の等量混合物40g、グラニュー糖100g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60gを加えて混合した。混合物をスティック状袋に詰め、本発明の気管支炎の予防用サプリメントを製造した。
【0055】
〔実施例7〕飲料の製造
表5に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の気管支炎の予防用飲料を製造した。
【0056】
【表5】
【0057】
〔実施例8〕飲料の製造
表6に示した配合により原料を混合し、容器に充填した後、加熱殺菌して、本発明の気管支炎の予防用飲料を製造した。
【0058】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、N-アセチルノイラミン酸を有効成分とする栄養組成物により、気管支炎の罹患を予防することができる。また、当該成分は、乳児だけでなく気管支炎のリスクが高い高齢者や基礎疾患を有する人にも有効な成分となることから、成人や高齢者の気管支炎の罹患をも予防することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5