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特開2024-47449ダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047449
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】ダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240329BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
H01L29/78 301P
H01L29/78 301Q
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153065
(22)【出願日】2022-09-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 「集会名:Kanazawa Diamond Workshop 2022(オンライン開催)、開催日:令和4年3月16日」 「掲載年月日:令和4年4月8日、掲載アドレス:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169433222008959」 「集会名:The 2022 MRS(Material Resarch Society)Spring Meeting & Exhibit(オンライン開催)、開催日:令和4年5月23日」 「掲載年月日:令和4年6月6日、「New Diamond and Nano Carbon 2022」の講演予稿集」 「集会名:New Diamond and Nano Carbon 2022、開催日:令和4年6月9日」 「掲載年月日:令和4年7月6日、「2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会」のウェブプログラム公開(21p-M206-9)」 「掲載年月日:令和4年7月6日、「2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会」のウェブプログラム公開(22p-A202-19)」 「集会名:金沢大学 新技術説明会(オンライン開催)、開催日:令和4年8月18日」 「掲載年月日:令和4年8月26日、「2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会」の講演予稿集(21p-M206-9)」 「掲載年月日:令和4年8月26日、「2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会」の講演予稿集(22p-A202-19)」 「集会名:2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会(21p-M206-9)、開催日:令和4年9月21日」 「集会名:2022年 第83回 応用物理学会秋季学術講演会(22p-A202-19)、開催日:令和4年9月22日」
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 和樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 翼
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊晴
【テーマコード(参考)】
5F045
5F140
【Fターム(参考)】
5F045AA08
5F045AB07
5F045AC00
5F045AC19
5F045AD15
5F045AE25
5F045AF02
5F045AF13
5F045CA05
5F045DA59
5F045DA67
5F045DB09
5F045EE12
5F045EH20
5F045HA03
5F140AA29
5F140AC01
5F140BA04
5F140BA20
5F140BC13
5F140BH06
5F140BH07
5F140BH27
5F140BK09
5F140BK18
(57)【要約】
【課題】本発明は、n型ダイヤモンド半導体層中の目的の位置にp型ダイヤモンド半導体層が埋設形成されたダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明のダイヤモンド半導体構造物10は、表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層1の前記表面に形成された凹部にp型ダイヤモンド半導体層2(3)が埋設されることを特徴とする。また、本発明のダイヤモンド半導体構造物の製造方法は、表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層の前記表面にエッチングによる凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の側面から前記表面の面内方向に沿うp型ダイヤモンド半導体層前駆体のラテラル成長により前記凹部内にp型ダイヤモンド半導体層を埋設するp型ダイヤモンド半導体層埋設工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層の前記表面に形成された凹部にp型ダイヤモンド半導体層が埋設されることを特徴とするダイヤモンド半導体構造物。
【請求項2】
p型ダイヤモンド半導体層表面が原子的平坦面とされる請求項1に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項3】
n型ダイヤモンド半導体層表面が原子的平坦面とされる請求項1又は2に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項4】
p型ダイヤモンド半導体層表面とn型ダイヤモンド半導体層表面との間で原子的平坦面が形成される請求項1又は2に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項5】
p型ダイヤモンド半導体層がボロンを含む層である請求項1又は2に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項6】
p型ダイヤモンド半導体層中のボロン濃度が1×1019cm-3以上である請求項5に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項7】
n型ダイヤモンド半導体層の表面に形成された2つの凹部のそれぞれにp型ダイヤモンド半導体層が埋設され、前記p型ダイヤモンド半導体層のp型不純物濃度が1×1019cm-3~1×1021cm-3とされ、かつ、前記n型ダイヤモンド半導体層のn型不純物濃度が1×1014cm-3~1×1018cm-3とされる構造部を有する請求項1又は2に記載のダイヤモンド半導体構造物。
【請求項8】
表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層の前記表面にエッチングによる凹部を形成する凹部形成工程と、
前記凹部の側面から前記表面の面内方向に沿うp型ダイヤモンド半導体層前駆体のラテラル成長により前記凹部内にp型ダイヤモンド半導体層を埋設するp型ダイヤモンド半導体層埋設工程と、
を含むことを特徴とするダイヤモンド半導体構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型ダイヤモンド半導体層にp型ダイヤモンド半導体領域が埋設されたダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、シリコンに対して、ワイドバンドギャップであり、更に融点、熱伝導率、耐絶縁破壊性、キャリア速度限界、硬度・弾性定数、化学的安定性及び耐放射線性が高く、パワーデバイスの形成材料として、極めて高いポテンシャルを有している。
【0003】
しかしながら、ダイヤモンドは、シリコンに対して確立されているイオン注入技術を適用して局所的な不純物ドープを実現することが困難である。
そのため、化学気相成長(CVD)法によりn型ダイヤモンド半導体層上にp型ダイヤモンド半導体層を選択的に堆積し、また、必要に応じてそのp型ダイヤモンド半導体層の形状を加工することで、目的の位置にn型ダイヤモンド半導体層とp型ダイヤモンド半導体層とが配された素子構造を形成する方法が提案されている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
この提案によれば、例えば、図1に示すダイヤモンド半導体装置100による反転型MOSFET動作を実現することができる。なお、図1は、従来例に係るダイヤモンド半導体装置の構成例を示す説明図である。
具体的に、ダイヤモンド半導体装置100は、n型ダイヤモンド半導体層101と、n型ダイヤモンド半導体層101上に積層されたp型ダイヤモンド半導体層で構成されるソース領域102及びドレイン領域103と、ソース領域102とドレイン領域103との間のn型ダイヤモンド半導体層101上の位置にゲート絶縁膜104を介して配されるゲート電極105と、ソース領域102上に配されるソース電極106と、ドレイン領域103上に配されるドレイン電極107と、を有して構成される。
このように構成されるダイヤモンド半導体装置100では、ゲート電極105に対するゲート電圧の制御により、ゲート電極105直下の位置におけるn型ダイヤモンド半導体層101中に形成される反転層チャネル108を介して、ソース領域102-ドレイン領域103間にドレイン電流が流れる反転型MOSFET動作が実現される。
【0005】
しかしながら、ダイヤモンド半導体装置100では、ソース領域102及びドレイン領域103がn型ダイヤモンド半導体層101上に堆積形成されるため、反転層チャネル108とソース領域102及びドレイン領域103とが、図1中の拡大部において黒丸で表示するように、極めて限られた位置でのみで接触し、その結果、目的とするドレイン電流が得られにくい問題がある。
【0006】
ところで、ダイヤモンド層の形成には、前記化学気相成長(CVD)法によるダイヤモンド成長が有効であり、単結晶ダイヤモンドの成長時にその成長条件を調節することにより、層の面内方向にラテラル成長させたダイヤモンド層の形成技術が報告されている(非特許文献2参照)。
この形成技術は、極めて革新的であり、積層欠陥等の前記化学気相成長(CVD)法によるダイヤモンド成長の問題を解決することができる。
【0007】
しかしながら、p型不純物を含むp型ダイヤモンド半導体層をラテラル成長技術により形成することの報告例はなく、未だ明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6717470号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tsubasa. Matsumoto et al. Scientific Reports 6, 31585 (2016).
【非特許文献2】Norio. Tokuda et al. Diam. Relat. Mater. 17 (7-10) (2008) 1051-1054.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術における前記諸問題を解決し、n型ダイヤモンド半導体層中の目的の位置にp型ダイヤモンド半導体層が埋設形成されたダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層の前記表面に形成された凹部にp型ダイヤモンド半導体層が埋設されることを特徴とするダイヤモンド半導体構造物。
<2> p型ダイヤモンド半導体層表面が原子的平坦面とされる前記<1>に記載のダイヤモンド半導体構造物。
<3> n型ダイヤモンド半導体層表面が原子的平坦面とされる前記<1>又は<2>に記載のダイヤモンド半導体構造物。
<4> p型ダイヤモンド半導体層表面とn型ダイヤモンド半導体層表面との間で原子的平坦面が形成される前記<1>から<3>のいずれかに記載のダイヤモンド半導体構造物。
<5> p型ダイヤモンド半導体層がボロンを含む層である前記<1>から<4>のいずれかに記載のダイヤモンド半導体構造物。
<6> p型ダイヤモンド半導体層中のボロン濃度が1×1019cm-3以上である前記<5>に記載のダイヤモンド半導体構造物。
<7> n型ダイヤモンド半導体層の表面に形成された2つの凹部のそれぞれにp型ダイヤモンド半導体層が埋設され、前記p型ダイヤモンド半導体層のp型不純物濃度が1×1019cm-3~1×1021cm-3とされ、かつ、前記n型ダイヤモンド半導体層のn型不純物濃度が1×1014cm-3~1×1018cm-3とされる構造部を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載のダイヤモンド半導体構造物。
<8> 表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層の前記表面にエッチングによる凹部を形成する凹部形成工程と、前記凹部の側面から前記表面の面内方向に沿うp型ダイヤモンド半導体層前駆体のラテラル成長により前記凹部内にp型ダイヤモンド半導体層を埋設するp型ダイヤモンド半導体層埋設工程と、を含むことを特徴とするダイヤモンド半導体構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、n型ダイヤモンド半導体層中の目的の位置にp型ダイヤモンド半導体層が埋設形成されたダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来例に係るダイヤモンド半導体装置の構成例を示す説明図である。
図2】本発明に係るダイヤモンド半導体構造物が適用されたダイヤモンド半導体装置の構成例を示す説明図である。
図3(a)】ラテラル成長法によるn型ダイヤモンド半導体層の形成工程を説明する説明図(1)である。
図3(b)】ラテラル成長法によるn型ダイヤモンド半導体層の形成工程を説明する説明図(2)である。
図3(c)】ラテラル成長法によるn型ダイヤモンド半導体層の形成工程を説明する説明図(3)である。
図4】凹部形成工程の概要を説明するための説明図である。
図5】p型ダイヤモンド半導体層埋設工程の概要を説明するための説明図である。
図6(a)】p型ダイヤモンド半導体層埋設工程におけるラテラル成長の説明モデルを示す図(1)である。
図6(b)】p型ダイヤモンド半導体層埋設工程におけるラテラル成長の説明モデルを示す図(2)である。
図6(c)】p型ダイヤモンド半導体層埋設工程におけるラテラル成長の説明モデルを示す図(3)である。
図6(d)】p型ダイヤモンド半導体層埋設工程におけるラテラル成長の説明モデルを示す図(4)である。
図7(a)】用意したダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像を示す図である。
図7(b)】凹部形成後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像を示す図である。
図7(c)】1回目のラテラル成長実施後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像を示す図である。
図7(d)】2回目のラテラル成長実施後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像を示す図である
図8図7(c)におけるAFM像に解析結果を加えた図である。
図9図7(d)における四角で囲まれたLM像の領域と相関させた領域のB濃度イメージング結果を示す図である。
図10】ダイナミックSIMS分析により得られた定量的なB濃度分布を示す図である。
図11図7(d‘)におけるAFM像と同じ位置で撮像した表面電位顕微鏡(KFM)像を示す図である。
図12(a)】AFM像の解析対象位置を示す図である。
図12(b)】埋め込み領域と周辺領域との間の高低差の解析結果を示す図である。
図13(a)】Bドープがされていない状態の埋め込み領域を説明する説明図である。
図13(b)】Bドープがされている状態の埋め込み領域を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法)
本発明のダイヤモンド半導体構造物を反転型MOSFET動作のダイヤモンド半導体装置に適用した例について、図2を参照しつつ説明する。図2は、本発明に係るダイヤモンド半導体構造物が適用されたダイヤモンド半導体装置の構成例を示す説明図である。
【0015】
図2に示すようにダイヤモンド半導体装置10は、n型ダイヤモンド半導体層1と、ソース領域を構成するp型ダイヤモンド半導体層2と、ドレイン領域を構成するp型ダイヤモンド半導体層3と、p型ダイヤモンド半導体層(ソース領域)2とp型ダイヤモンド半導体層(ドレイン領域)3との間のn型ダイヤモンド半導体層1上の位置にゲート絶縁膜4を介して配されるゲート電極5と、p型ダイヤモンド半導体層2上に配されるソース電極6と、p型ダイヤモンド半導体層3上に配されるドレイン電極7と、を有する。
【0016】
従来例に係るダイヤモンド半導体装置100(図1参照)との対比において、ゲート絶縁膜4、ゲート電極5、ソース電極6及びドレイン電極7は、ゲート絶縁膜104、ゲート電極105、ソース電極106及びドレイン電極107と同様に構成され、従来公知の方法により形成される。
【0017】
一方、n型ダイヤモンド半導体層1、p型ダイヤモンド半導体層(ソース領域)2及びp型ダイヤモンド半導体層(ドレイン領域)3で構成される構造部は、n型ダイヤモンド半導体層1上に積層される2つのp型ダイヤモンド半導体層で構成されるソース領域102及びドレイン領域103と異なる構成とされる。
即ち、前記構造部は、n型ダイヤモンド半導体層1の表面に形成された2つの凹部にp型ダイヤモンド半導体層(ソース領域)2及びp型ダイヤモンド半導体層(ドレイン領域)3が埋設されて構成される。
【0018】
このように構成されるダイヤモンド半導体装置10では、従来例に係るダイヤモンド半導体装置100と同様、ゲート電極5に対するゲート電圧の制御により、ゲート電極5直下の位置におけるn型ダイヤモンド半導体層1中に形成される反転層チャネル8を介してドレイン電流が流れる反転型MOSFET動作が実現される。
【0019】
しかしながら、前記構造部を有するダイヤモンド半導体装置10では、従来例に係るダイヤモンド半導体装置100と異なり、n型ダイヤモンド半導体層1に対するp型ダイヤモンド半導体層2,3の埋設効果により、これらの埋設層の側面が反転層チャネル8と界面において面接触するように構成される(図2中の拡大部参照)。
そのため、ダイヤモンド半導体装置10では、反転層チャネル108とソース領域102及びドレイン領域103とが極めて限られた位置でのみで接触する従来の問題(図1中の拡大部参照)を解消することができ、安定化されたドレイン電流に基づき、理論上の設計に適合したデバイス性能を得ることができる。
【0020】
問題は、シリコンに対して確立されているイオン注入技術を適用できないn型ダイヤモンド半導体層1に対し、目的の位置を選択してp型ダイヤモンド半導体層2(3)を埋設形成できるかにあるが、この問題は、次のダイヤモンド半導体構造物の製造方法により解決される。
【0021】
先ず、表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層1を用意する。
n型ダイヤモンド半導体層1としては、以下に例示される2つの形成方法により、反転型MOSFET動作に好適なn型不純物濃度が1×1014cm-3~1×1018cm-3のn型ダイヤモンド半導体層として形成可能とされる。
【0022】
n型ダイヤモンド半導体層1の第一形成方法としては、メタン及びn型導電材料(リンや窒素)を含む原料ガスを用いたプラズマ気相堆積法により、表面が{111}面とされるオフ角を備えた公知のダイヤモンド基板上に形成材料を一様に堆積させることで、前記ダイヤモンド基板の表面性状に倣って表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層を形成する方法が挙げられる。
【0023】
また、n型ダイヤモンド半導体層1の第二形成方法としては、非特許文献2に記載のラテラル成長法が挙げられる。ラテラル成長法によれば、表面が原子的平坦面とされるn型ダイヤモンド半導体層1を得ることができる。
なお、本明細書において「原子的平坦面」とは、ダイヤモンドの{111}面における単一2原子層(Single Bi-Layer;BL)のステップ高さを要素として、粗くとも1~3ステップ高さ以下の凹凸を有する面であることを指標し、任意に選択された500nm×500nmの面領域において、原子間力顕微鏡(例えば、Shimadzu社製 SPM-9700 原子間力顕微鏡システム)で測定される表面粗さRMSが、0.3nm以下であることを意味する。また、前記表面粗さRMSは、0.2nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが特に好ましい。
【0024】
ラテラル成長法によるn型ダイヤモンド半導体層1の形成工程を図3(a)~(c)を参照しつつ説明する。
先ず、メサ加工等により所定のサイズに加工され、表面が{111}面とされるオフ角(θ:1°~5°程度)を備えた公知のダイヤモンド基板を用意する(図3(a)参照)。
次に、メタン及びn型導電材料(リンや窒素)を含む原料ガスを用いたプラズマ気相堆積法により、前駆体1’を成長させる。成長の際、低いメタン濃度で成長条件を調節すると、前駆体1’が前記ダイヤモンド基板のステップ端(図3(a)中、下向き矢印で示す)からラテラル方向(テラスの延在方向)にのみ選択的に成長する(図3(b)参照)。
最終的に、前駆体1’が元の前記ダイヤモンド基板の表面を覆いつくすようにラテラル成長することで、ステップフリーで、表面が原子的平坦面とされるn型ダイヤモンド半導体層1が形成される(図3(c))。
なお、本明細書において、「ラテラル成長」とは、成長方向が表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド層の面内方向に沿う方向での結晶成長であることを意味する。
【0025】
次に、n型ダイヤモンド半導体層1の前記表面に対し、図4に示すエッチングによる凹部Hを形成する(凹部形成工程、図4参照)。なお、図4は、凹部形成工程の概要を説明するための説明図である。
エッチング方法としては、特に制限はなく、例えば、公知の誘導結合プラズマ(ICP)エッチング法が挙げられる。
前記凹部(エッチング穴)Hの開口幅W(最大径)としては、特に制限はないが、加工精度の観点から100nm~1mm程度であることが好ましい。
また、前記凹部(エッチング穴)Hの深さDとしては、特に制限はないが、チャネルとの接触抵抗の観点から5nm~100nm程度であることが好ましい。
【0026】
次に、図5に示すように、凹部Hの側面から前記表面の面内方向に沿うp型ダイヤモンド半導体層前駆体(単に前駆体ともいう)のラテラル成長により凹部H内にp型ダイヤモンド半導体層2,3を埋設する(p型ダイヤモンド半導体層埋設工程)。なお、図5は、p型ダイヤモンド半導体層埋設工程の概要を説明するための説明図である。
【0027】
前記前駆体のラテラル成長によるp型ダイヤモンド半導体層2,3の形成方法としては、メタン及びp型導電材料(ボロン)を含む原料ガスを用いたプラズマ気相堆積法が挙げられる。つまり、p型不純物を含む場合でも、成長条件を調節することでラテラル成長が適用可能とされる。
凹部Hにおけるp型ダイヤモンド半導体層2,3の典型的なラテラル成長条件としては、温度:1,160℃、プラズマ投入電力:1,050W、水素ガス流量:500sccm、メタンガス流量:0.97sccm、トリメチルボランガス流量:1.52sccm、ガス中のメタン濃度(CH/H):0.2体積%、ガス相におけるボロン/カーボン(B/C)比:15,000ppm、圧力:30kPaとすることが挙げられる。
このようなラテラル成長条件に基づく前記プラズマ気相堆積法により、埋設された状態で表面(露出面)が原子的平坦面とされるp型ダイヤモンド半導体層2,3を形成することができる。
また、p型ダイヤモンド半導体層2,3は、前記ソース領域及び前記ドレイン領域の構成層として、反転型MOSFET動作に好適なp型不純物濃度が1×1019cm-3~1×1021cm-3のp型ダイヤモンド半導体層として形成可能とされる。
これらの知見が本発明における技術の核をなす。
【0028】
凹部Hにおけるp型ダイヤモンド半導体層2,3のラテラル成長の様子を図6(a)~(d)を参照しつつ具体的に説明する。なお、図6(a)~(d)は、前記p型ダイヤモンド半導体層埋設工程におけるラテラル成長の説明モデルを示す図である。
先ず、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の前駆体2’(3’)は、前記エッチング穴における底面側から成長を開始する。成長は、前記エッチング穴の側面を起点としたラテラル成長とされる(図6(a)参照)。
次に、最も底面側で前駆体2’(3’)の一の層が形成されると、前記一の層上に他の層が同じくラテラル成長する(図6(b)参照)。
前駆体2’(3’)のラテラル成長が進むと、前記一の層と前記他の層との積層構造が順次、開口端側に向けて形成されていく。このようなモデルでラテラル成長が進行する場合、前記エッチング穴の形成領域には、断面視で略逆三角形状の窪みが確認されることとなる(図6(c)参照)。
最後に、最も開口端側の層が積層されると、前記エッチング穴が完全に埋まり、p型ダイヤモンド半導体層2,3の埋設が完了する(図6(d)参照)。
同時に、前記最も開口端側の層上の位置には、ラテラル成長の起点となる前記エッチング穴の側面が存在しない状況であるため、p型ダイヤモンド半導体層2,3の成長も停止する。つまり、前記プラズマ気相堆積装置の制御によらず、余剰の成長が前記エッチング穴の形状(側面の高さ)に律せられて自動的に停止する。
【0029】
再び、図5を参照して、本発明に係るダイヤモンド半導体構造物の特徴を説明する。
図5に示すように、前記ダイヤモンド半導体構造物は、表面が{111}面とされるn型ダイヤモンド半導体層1の表面に形成された凹部Hにp型ダイヤモンド半導体層2(3)が埋設される。
これにより、n型ダイヤモンド半導体層1の目的の位置にp型ダイヤモンド半導体層2(3)を形成することができ、これら埋設層によるドレイン電流の安定化が実現可能となる(図2中の拡大部参照)。
【0030】
また、埋設されたp型ダイヤモンド半導体層2(3)は、ラテラル成長により形成されるため、表面(露出面)が原子的平坦面とされる。
このことは、ソース電極6及びドレイン電極7との良好なコンタクトを実現可能とする。
【0031】
また、n型ダイヤモンド半導体層1の表面を前記第二形成方法により、前記ステップフリーで、原子的平坦面とする場合、その平坦性は、前記p型ダイヤモンド半導体層埋設工程を経た後も維持される。p型ダイヤモンド半導体層2,3の成長が前記エッチング穴の形状(側面の高さ)に律せられ、自身の余剰な成長に加え、n型ダイヤモンド半導体層1上の不要な位置での堆積成長が抑制されるためである。つまり、p型ダイヤモンド半導体層2(3)が埋設された状態で、n型ダイヤモンド半導体層1表面を原子的平坦面とすることができる。
【0032】
ところで、従来のダイヤモンド半導体装置100(図1参照)においては、下記参考文献1で報告されるようにn型ダイヤモンド半導体層101の表面ラフネスが大きく、表面にバンチングステップと呼ばれる波状のうねりを持つ。このバンチングステップは、表面ラフネス散乱の発生や表面のOH終端化を妨げる要因となり、この表面上に形成されるゲート絶縁膜104との間に欠陥準位である界面準位を発生させる。
その結果、キャリアのチャネル移動度が著しく低下し、ダイヤモンド半導体装置100のデバイス性能が理論上の設計を大きく下回ることとなる。
したがって、n型ダイヤモンド半導体層1表面が原子的平坦面とされることは、チャネル移動度の低下を抑制し、ダイヤモンド半導体装置10(図2参照)のデバイス性能を向上させるうえで極めて重要な意義を持つ。
参考文献1:T. Matsumoto et al. Appl. Phys. Lett. 114, 242101 (2019).
【0033】
加えて、凹部Hに対するp型ダイヤモンド半導体層2,3の成長が前記エッチング穴の形状(側面の高さ)に律せられることは、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の表面とn型ダイヤモンド半導体層1の表面との間の面直方向における高低差の発生を抑制し、p型ダイヤモンド半導体層2,3の表面とn型ダイヤモンド半導体層1の表面との間で原子的平坦面が形成可能とされ、これらの表面全体に亘る原子的平坦面を与える。
このことは、前記ダイヤモンド半導体構造物上に形成される各種デバイス構造の作製を容易ならしめる。
【0034】
本発明の前記ダイヤモンド半導体構造物及びその製造方法は、シリコンに対するイオン注入技術の代替技術をなすものであるが、前記ダイヤモンド半導体構造物に対しイオン注入痕等のない理想的な表面を与え、奇しくもイオン注入技術では実現できない理想的なダイヤモンド半導体デバイスの提供を可能ならしめる。
以下では、本発明の実施例を説明するが、本発明の技術的思想は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例0035】
実施例に係るダイヤモンド半導体構造物を以下のように製造した。なお、ここでは、図5に示す構造に準じたダイヤモンド半導体構造物を製造することとし、符号は、図4,5に付されたものに準じる。
【0036】
先ず、2.5°の微傾斜オフ角でオフされ、表面が{111}面とされるダイヤモンド基板(タイプIb基板)1を用意した。
ダイヤモンド基板1は、メサ加工を経た後、窒素雰囲気下でのステップフロー成長(図3(a)~(c)参照)により前記表面が原子的に平坦な面とされ、また、SIMS分析(2次イオン質量分析)装置(CAMECA社製、IMS-7f)により測定される基板中の窒素濃度が1×1018cm-3のn型基板であり、n型ダイヤモンド半導体層の符号1を付して説明を続ける。
【0037】
次に、フォトリソグラフィ装置(ミカサ社製、MA-20)を用いて、ダイヤモンド基板1の前記表面に対し、凹部H(図4参照)を形成する位置以外を覆うようにAu/Ti製のマスクを形成した。
次に、ダイヤモンド基板1に対し、誘導結合プラズマエッチング装置(ICP装置、ULVAC社製、CE-300I)を用いて、前記表面の面内方向と直交する方向での異方性エッチングを行い、ダイヤモンド基板1にエッチング穴による凹部Hを形成した(図4参照)。凹部Hの形成条件は、エッチングガス:O2;95sccm及びCF4;2sccm、RFパワー:500W、バイアス:50W、圧力:2Paとした。凹部Hの開口形状は10μm×10μmの正方形状であり、エッチング深さは0.085μmである。
【0038】
次に、洗浄液(H2SO4,H2O2)による洗浄処理を120℃の温度条件下で実施し、ダイヤモンド基板1上の前記マスクを除去した。
【0039】
次に、ダイヤモンド基板1をマイクロ波プラズマ支援化学気相堆積(MPCVD)システム(Arios Inc., Tokyo Japan社製)に搭載して水素プラズマ処理を行い、ICPエッチングにより生じたダイヤモンド基板1上の欠陥を除去した。前記水素プラズマ処理の条件は、電力:650W、圧力:30kPa、処理時間:3分間とした。
【0040】
次に、前記マイクロ波プラズマ支援化学気相堆積システムを用いて、凹部H内にホウ素ドープ層としてのp型ダイヤモンド半導体層2(3)を形成した(図5参照)。
p型ダイヤモンド半導体層2(3)の形成には、ラテラル成長モード(図6(a)~(d)参照)が適用され、成長条件は、基板温度:1,160℃、プラズマ投入電力:1,050W、水素ガス流量:500sccm、メタンガス流量:0.97sccm、ホウ酸トリメチルガス流量:1.52sccm、ガス中のメタン濃度(CH/H):0.2体積%、ガス相におけるボロン/カーボン(B/C)比:15,000ppm、圧力:30kPaとした。
p型ダイヤモンド半導体層2(3)のラテラル成長は、前記成長条件下で時間的に2回に分けて実施され、1回目を5分間超、2回目を8分間超として実施した。2回に分けて実施した理由は、1回目終了時点における成長途中の前駆体2’(3’)(図6(a)~(c)参照)の様子を確認するためである。
以上により、実施例に係るダイヤモンド半導体構造物を製造した。
【0041】
実施例に係るダイヤモンド半導体構造物に関し、各製造段階におけるダイヤモンド基板1上の表面形態を図7(a)~(d)を参照しつつ説明する。図7(a)は、用意したダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像であり、図7(b)は、凹部形成後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像であり、図7(c)は、1回目のラテラル成長実施後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像であり、図7(d)は、2回目のラテラル成長実施後のダイヤモンド基板1表面の顕微鏡像である。いずれの図においても上側の顕微鏡像(x)がLM像を示し、下側の顕微鏡像(x’)がLM像において四角で囲まれた領域と相関させた領域のAFM像を示している。
なお、LM像の撮像には、Olympus社製 LEXT OLS4100 レーザー顕微鏡システムを用い、AFM像の撮像には、Shimadzu社製 SPM-9700 原子間力顕微鏡システムを用いた。
【0042】
図7(a)の下側AFM像から解析されるダイヤモンド基板1表面の二乗平均平方根(RMS)の表面粗さは、0.05nmであった。この値は、用いた原子間力顕微鏡のノイズレベルに相当し、ダイヤモンド基板1表面が原子的に平坦な面であることを示している。
また、図7(b)の顕微鏡像から解析されるように、ダイヤモンド基板1表面には、サイズが10μm×10μm×0.085μm(85nm)の凹部Hが形成されている。
また、図7(c)の顕微鏡像から解析されるように、1回目のラテラル成長実施時点では、p型ダイヤモンド半導体層2(3)が成長途中であり、最深部で深さ82nmの穴形状が維持されている。
一方、図7(d)の顕微鏡像から解析されるように、2回目のラテラル成長実施時点では、穴が消え、p型ダイヤモンド半導体層2(3)で完全に埋められている。また、驚くべきことに、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の表面である埋め込み領域と、その周辺領域(ダイヤモンド基板1表面)とにおけるRMS表面粗さは、いずれも0.04±0.01nmであり、ダイヤモンド基板1表面が原子的平坦面とされたまま、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の表面も原子的平坦面とされている。
【0043】
ここで、図7(c)におけるAFM像に解析結果を加えた図8を参照しつつ、p型ダイヤモンド半導体層2(3)のラテラル成長の様子を検討する。
図8の上側に示すように、前駆体2’(3’)の成長は、3方向で確認され、いずれの方向も〈112〉の結晶方向に対応している。つまり、前駆体2’(3’)は、凹部Hの側面を起点に凹部Hの中央方向に向けてラテラル成長する。
また、図8の下側に示す断面構造から明らかであるように、前駆体2’(3’)のラテラル成長による部分的な埋め戻しを受けて、凹部Hの形状が当初の矩形形状から略逆三角形状の窪みに変化している。
これらの結果から、先ず、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の埋め戻しは、凹部Hの底面から上方に向けた縦方向の堆積成長によらずに進行することを確認することができる。次に、前駆体2’(3’)のラテラル成長は、凹部Hの底面側から始まり、凹部Hの側面からラテラル成長した一の前駆体2’(3’)の層上に他の前駆体2’(3’)の層が同じくラテラル成長する形で進行することを確認することができる。
これらは、図6(a)~(d)を参照して説明したp型ダイヤモンド半導体層2(3)の埋め戻しプロセスの成立を強く裏付け、前駆体2’(3’)のラテラル成長層が底面側から開口面側に向けて順次積層されることで、最終的に凹部H全体にp型ダイヤモンド半導体層2(3)の埋め戻し層(図7(d)参照)が形成されることを明確に示唆する。
【0044】
次に、実施例に係るダイヤモンド半導体構造物におけるBのドープ状況について図9を参照しつつ説明する。図9は、図7(d)における四角で囲まれたLM像の領域と相関させた領域のB濃度イメージング結果を示す図である。B濃度イメージングは、前記SIMS分析装置によるダイナミックSIMS分析結果をイメージングしたものであり、図中、XY平面(中央上側)、XZ断面(中央下側)及びYZ断面(右側)における埋め込み領域及びその周辺領域のB濃度が濃度に応じた彩色によりイメージングされている。
【0045】
図9におけるXY平面(中央上側)のイメージング結果から、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の埋め込み領域では、周辺領域よりも高い濃度でBがドープされていることが確認される。また、XZ断面(中央下側)及びYZ断面(右側)のイメージング結果は、このBドープ領域が凹部Hの深さ(85nm)位置にまで達していることから、ダイヤモンド基板1における目的の領域、つまり、凹部Hの形成領域のみに対し、Bドープ構造を選択的に形成することができることを示している。
なお、図9におけるXY平面(中央上側)、XZ断面(中央下側)及びYZ断面(右側)の各イメージング結果において、白みがかった彩色表示がBドープを示しており、Bドープ領域の中央付近には、濃色の彩色表示(strong側)により、より高濃度でのBドープも確認される。
【0046】
次に、ダイナミックSIMS分析により得られた定量的なB濃度分布を図10に示す。
図10に示すように、埋め込み領域には、約2×1020atoms/cmの濃度でBがドープされていることが確認される。この値は、反転型MOSFET動作を得るうえで十分な値であり、また、Bの原料ガス濃度に応じて変更することもできる。
【0047】
次に、図7(d)におけるAFM像と同じ位置で撮像した表面電位顕微鏡(KFM)像を図11に示す。なお、KFM像の撮像は、前記原子間力顕微鏡システムを用いて行った。
【0048】
図11に示すように、埋め込み領域と周辺領域との間に約0.02±0.004Vの表面電位差が検出された。なお、誤差分の値である±0.004Vは、ガウスフィッティングを用いた統計処理により算出した。
0.02±0.004Vの表面電位差は、一般的なBドープ膜と窒素ドープ膜との間の電位差よりも小さいが、これは、撮像環境上の問題に起因すると考えられる。図11の測定結果は、埋め込み領域と周辺領域との間で異なる電位を示していることから、n型ダイヤモンド基板1における凹部H内に、p型ダイヤモンド半導体層2(3)の埋め戻し層(図7(d)参照)が形成されたことを示していると考えられる。
【0049】
ところで、図7(d)に関するAFM像の解析では、埋め込み領域の表面高さ位置が周辺領域の表面高さ位置よりもわずかに高いことが確認されている。この点について、図12(a),(b)を参照しつつ説明する。なお、図12(a)は、AFM像の解析対象位置を示す図であり、図12(b)は、埋め込み領域と周辺領域との間の高低差の解析結果を示す図である。高低差の解析は、図12(a)下側の黒線で囲まれた方形領域を解析対象とし、図中x方向における横方向位置を関数として、埋め込み領域と周辺領域との間で測定された表面高さ位置を一定間隔で平均化して算出することで行った。
【0050】
図12(b)に示すように、埋め込み領域の表面高さ位置は、周辺領域の表面高さ位置よりも約0.04±0.01nm高い位置に存在する。なお、誤差分の値である±0.001nmは、ガウスフィッティングを用いた統計処理により算出した。
この高低差は、ダイヤモンド基板の{111}面における単一2原子層(Single Bi-Layer;BL)が持つ一般的なステップ高さ(約0.21nm)よりもはるかに小さい。
よって、この高低差は、Bの大量ドープによって生じる格子定数の変動に起因すると考えられる。ダイヤモンドの格子定数(3.5670Å)は、Bドープ濃度の増加とともに増加することが知られており、格子定数の増加率は、0.176×10-23Å/cmであることが知られている。したがって、2×1020原子/cmのBドープ濃度の場合、格子定数の増加分は、0.000352Åであり、Bドープ濃度に増加率を乗じることによって得られる。単位格子の3次元膨張を考慮すると、単位体積あたりの膨張率は、次式(1)のように計算できる。
【0051】
【数1】
【0052】
上記計算から、体積変化率は、0.000296と推定される。ここで、凹部Hのサイズは、10μm×10μm×85nmであり、開口面の縦10μm×横10μmの方向の体積膨張は、ダイヤモンド基板1のボディにより阻まれることを想定すると、体積膨張は、開口された高さ85nmの方向にのみ影響を与えると推測できる。
よって、格子定数の増加と、それに続くBドープによる体積膨張との観点から、埋め込み領域における表面高さのおおよその値は、凹部Hの高さ85nmに0.000296の体積変化率を乗じて0.02516nmと計算できる。Bの大量ドープによって埋め込み領域が体積膨張することについての計算モデルを図13(a),13(b)に示す。なお、図13(a)は、Bドープがされていない状態の埋め込み領域を説明する説明図であり、図13(b)は、Bドープがされている状態の埋め込み領域を説明する説明図である。
【0053】
計算により得られた0.02516nmの値は、0.04±0.01nmの測定結果と比較的近しい値であり、前記高低差は、Bの大量ドープによって生じた格子定数の変動に起因すると結論付けられる。
換言すると、埋め込み領域の表面高さ位置が周辺領域の表面高さ位置よりもわずかに高くなる結果は、埋め込み領域に対するBの高濃度ドープを裏付ける証左ともなる。
加えて、この高低差は、ダイヤモンド基板の{111}面における単一2原子層(Single Bi-Layer;BL)が持つ一般的なステップ高さ(約0.21nm)よりもはるかに小さく、埋め込み領域とその周辺領域との間を亘って、これらの表面が原子的平坦面とされる。
【符号の説明】
【0054】
1 n型ダイヤモンド半導体層(ダイヤモンド基板)
1’,2’,3’ 前駆体
2,3 p型ダイヤモンド半導体層
4,104 ゲート絶縁膜
5,105 ゲート電極
6,106 ソース電極
7,107 ドレイン電極
8,108 反転チャネル層
10,100 ダイヤモンド半導体装置
101 n型ダイヤモンド半導体層
102 ソース領域
103 ドレイン領域

図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図4
図5
図6(a)】
図6(b)】
図6(c)】
図6(d)】
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】
図8
図9
図10
図11
図12(a)】
図12(b)】
図13(a)】
図13(b)】