(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047458
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】微粒子分散体製造プロセスの設計方法、情報処理装置、及び設計プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/10 20190101AFI20240329BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20240329BHJP
【FI】
G16C20/10
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153088
(22)【出願日】2022-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(72)【発明者】
【氏名】三木 翔
(72)【発明者】
【氏名】平林 憲一
(72)【発明者】
【氏名】神山 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鑓水 清隆
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA10
5B146AA17
5B146DC01
5B146DE12
(57)【要約】
【課題】所望の特性を有する微粒子分散体の製造プロセスの設計技術を改善する。
【解決手段】情報処理装置10が実行する微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成するステップと、予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体を探索するステップと、を含み、実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置が実行する微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成するステップと、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索するステップと、
を含み、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む、微粒子分散体製造プロセスの設計方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子分散体は、カーボン粒子分散体を含む、微粒子分散体製造プロセスの設計方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子の物性値は、微粒子のフタル酸ジブチル吸油量を含む、微粒子分散体製造プロセスの設計方法。
【請求項4】
請求項3に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子の物性値は、分散剤との濡れ性、及び特定のシェアをかけた際の粒子状態の少なくともいずれかを含む、微粒子分散体製造プロセスの設計方法。
【請求項5】
請求項4に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記生産条件は、分散時間、分散減圧値、分散速度、分散時液温、混練時水分量、及び真空度の少なくともいずれかを含む。微粒子分散体製造プロセスの設計方法。
【請求項6】
制御部を備え、微粒子分散体製造プロセスを設計する情報処理装置であって、
前記制御部は、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成し、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索し、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む、情報処理装置。
【請求項7】
コンピュータに、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成することと、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索することと、を実行させ、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む、微粒子分散体製造プロセスの設計プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微粒子分散体製造プロセスの設計方法、情報処理装置、及び設計プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、樹脂着色剤、印刷インキ、及び塗料等の用途で、カーボンブラックの水分散体等の微粒子分散体が利用されている。微粒子分散体の製造方法に関して、かかる微粒子分散体の物性を制御するための手法が提案されている(例えば特許文献1、及び非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6358487号
【非特許文献1】Douglas J. Kohls, “Particle Synthesis, Characterization, and Properties of Filled Polymer Systems”, 2006/4/8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び非特許文献1に記載の製造方法は、カーボンブラックに焦点を当てており、カーボンブラックの凝集特性(粘度)を制御するためにフタル酸ジブチル吸油量(以下、DBP吸油量ともいう。)に着目した手法である。しかしながら、カーボンブラック等の微粒子分散体の粘度は、微粒子のDBP吸油量だけで定まるものではなく、微粒子分散体に係る各種因子、及び生産条件が複雑に関係している。換言すると、従来技術においては、粘度等の所定の物性に影響を与える因子及び生産条件について十分に考慮されているとはいえず、所定の物性を有する微粒子分散体を得るための製造プロセスを設計する技術には改善の余地があった。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、所望の特性を有する微粒子分散体の製造プロセスの設計技術を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法は、
情報処理装置が実行する微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成するステップと、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索するステップと、
を含み、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む。
【0007】
(2)本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法は、(1)に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子分散体は、カーボン粒子分散体を含む。
【0008】
(3)本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法は、(1)又は(2)に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子の物性値は、微粒子のフタル酸ジブチル吸油量を含む。
【0009】
(4)本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法は、(1)から(3)のいずれか一項に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記微粒子の物性値は、分散剤との濡れ性、及び特定のシェアをかけた際の粒子状態の少なくともいずれかを含む。
【0010】
(5)本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法は、(1)から(4)のいずれか一項に記載の微粒子分散体製造プロセスの設計方法であって、
前記生産条件は、分散時間、分散減圧値、分散速度、分散時液温、混練時水分量、及び真空度の少なくともいずれかを含む。
【0011】
(6)本開示の一実施形態に係る情報処理装置は、
制御部を備え、微粒子分散体製造プロセスを設計する情報処理装置であって、
前記制御部は、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成し、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索し、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む。
【0012】
(7)本開示の一実施形態に係る設計プログラムは、
コンピュータに、
微粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成することと、
前記予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスを探索することと、を実行させ、
前記実績データは、微粒子分散体製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含み、
前記目的変数は、微粒子分散体の粘度を含む。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計方法、情報処理装置、及び設計プログラムによれば、所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスの設計技術を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計をする情報処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本開示の一実施形態に係る微粒子分散体製造プロセスの設計をする情報処理装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態に係る微粒子分散体の製造プロセスの設計方法ついて、図面を参照して説明する。以下、本実施形態に係る微粒子分散体がカーボン粒子分散体であるものとして説明するが、微粒子分散体はこれに限られない。本実施形態に係る製造プロセスの設計方法の対象は、任意の微粒子分散体であってよい。
【0016】
各図中、同一又は相当する部分には、同一符号を付している。本実施形態の説明において、同一又は相当する部分については、説明を適宜省略又は簡略化する。
【0017】
図1を参照して、本実施形態に係るカーボン粒子分散体の製造プロセスの設計方法の概要を説明する。
【0018】
まず、本実施形態の概要について説明する。本実施形態に係るカーボン粒子分散体の製造プロセスの設計方法では、カーボン粒子分散体に係る実績データを用いて、目的変数に対応した予測モデルを生成する(以下、「予測モデルを訓練する」ともいう)。実績データは、微粒子分散体の製造に係る生産条件と、微粒子の物性値とを含む。すなわち本実施の形態では実績データは、カーボン粒子分散体の製造に係る生産条件と、カーボン粒子(以下、カーボンブラックともいう)の物性値とを含む。予測モデルの目的変数は、カーボン粒子分散体の粘度を含む。そして本実施形態に係るカーボン粒子分散体の製造プロセスの設計方法では、かかる予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有するカーボン粒子分散体の製造プロセスを探索する。
【0019】
このように本実施形態によれば、カーボン粒子分散体に係る実績データに基づき予測モデルが訓練される。また実績データは、カーボン粒子分散体の製造に係る生産条件と、カーボン粒子の物性値とを含む。そして、かかる予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有するカーボン粒子分散体の製造プロセスが探索される。このため、本実施形態によれば所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスの設計技術を改善することができる。
【0020】
(情報処理装置の構成)
次に、情報処理装置10の各構成について詳細に説明する。情報処理装置10は、ユーザによって使用される任意の装置である。例えばパーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、汎用の電子機器、又は専用の電子機器が、情報処理装置10として採用可能である。
【0021】
図1に示されるように、情報処理装置10は、制御部11と、記憶部12と、入力部13と、出力部14とを備える。
【0022】
制御部11には、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つの専用回路、又はこれらの組み合わせが含まれる。プロセッサは、CPU(central processing unit)若しくはGPU(graphics processing unit)などの汎用プロセッサ、又は特定の処理に特化した専用プロセッサである。専用回路は、例えば、FPGA(field-programmable gate array)又はASIC(application specific integrated circuit)である。制御部11は、情報処理装置10の各部を制御しながら、情報処理装置10の動作に関わる処理を実行する。
【0023】
記憶部12には、少なくとも1つの半導体メモリ、少なくとも1つの磁気メモリ、少なくとも1つの光メモリ、又はこれらのうち少なくとも2種類の組み合わせが含まれる。半導体メモリは、例えば、RAM(random access memory)又はROM(read only memory)である。RAMは、例えば、SRAM(static random access memory)又はDRAM(dynamic random access memory)である。ROMは、例えば、EEPROM(electrically erasable programmable read only memory)である。記憶部12は、例えば、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部12には、情報処理装置10の動作に用いられるデータと、情報処理装置10の動作によって得られたデータとが記憶される。
【0024】
入力部13には、少なくとも1つの入力用インタフェースが含まれる。入力用インタフェースは、例えば、物理キー、静電容量キー、ポインティングデバイス、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーンである。また入力用インタフェースは、例えば、音声入力を受け付けるマイクロフォン、又はジェスチャー入力を受け付けるカメラ等であってもよい。入力部13は、情報処理装置10の動作に用いられるデータを入力する操作を受け付ける。入力部13は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の入力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB(Universal Serial Bus)、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0025】
出力部14には、少なくとも1つの出力用インタフェースが含まれる。出力用インタフェースは、例えば、情報を映像で出力するディスプレイ等である。ディスプレイは、例えば、LCD(liquid crystal display)又は有機EL(electro luminescence)ディスプレイである。出力部14は、情報処理装置10の動作によって得られるデータを表示出力する。出力部14は、情報処理装置10に備えられる代わりに、外部の出力機器として情報処理装置10に接続されてもよい。接続方式としては、例えば、USB、HDMI(登録商標)、又はBluetooth(登録商標)などの任意の方式を用いることができる。
【0026】
情報処理装置10の機能は、本実施形態に係るプログラムを、情報処理装置10に相当するプロセッサで実行することにより実現される。すなわち、情報処理装置10の機能は、ソフトウェアにより実現される。プログラムは、情報処理装置10の動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを情報処理装置10として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って情報処理装置10の動作を実行することにより情報処理装置10として機能する。
【0027】
本実施形態においてプログラムは、コンピュータで読取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読取り可能な記録媒体は、非一時的なコンピュータ読取可能な媒体を含み、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又は半導体メモリである。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記録したDVD(digital versatile disc)又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型記録媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。またプログラムの流通は、プログラムを外部サーバのストレージに格納しておき、外部サーバから他のコンピュータにプログラムを送信することにより行ってもよい。またプログラムはプログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0028】
情報処理装置10の一部又は全ての機能が、制御部11に相当する専用回路により実現されてもよい。すなわち、情報処理装置10の一部又は全ての機能が、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0029】
本実施形態において記憶部12は、例えば実績データ及び予測モデルを記憶する。なお実績データ及び予測モデルは、情報処理装置10とは別の外部装置に記憶されていてもよい。その場合、情報処理装置10は、外部通信用インタフェースを備えていてもよい。通信用インタフェースは、有線通信又は無線通信のいずれのインタフェースであってよい。有線通信の場合、通信用インタフェースは例えばLANインタフェース、USBである。無線通信の場合、通信用インタフェースは例えば、LTE、4G、若しくは5Gなどの移動通信規格に対応したインタフェース、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェースである。通信用インタフェースは、情報処理装置10の動作に用いられるデータを受信し、また情報処理装置10の動作によって得られるデータを送信可能である。
【0030】
(情報処理装置の動作)
図2を参照して、本実施形態に係る情報処理装置10の動作について説明する。
【0031】
ステップS101:情報処理装置10の制御部11は、実績データを用いて目的変数に対応した予測モデルを生成する。上述したように目的変数は、カーボン粒子分散体の粘度を含む。説明変数は、カーボンブラックの物性値、及びカーボン粒子分散体の生産条件を含む。カーボンブラックの物性値は、水分量、粗粒分量、嵩密度、ヨウ素吸着量、及びフタル酸ジブチル吸油量(DBP吸油量)を含む。またカーボン粒子分散体の生産条件は、分散時間、分散減圧値、分散速度、分散時液温、及び混練時水分量(混練時添加水分量)を含む。
【0032】
ここで塗液粘度(カーボン粒子分散体の粘度)は分散時液温によって変化する。分散時間、分散減圧値、分散速度、混練時水分量が同一条件であったとしても、分散時液温に応じて最終的なカーボン粒子分散体の粘度に差が出てくる。
また、微粒子分散体が界面活性剤を含有する場合、適切な分散時液温は、界面活性剤の種類によっても相違する。非イオン性界面活性剤は水と分離する曇点温度がある。分散時液温は、かかる曇点温度を考慮して決定されることが望ましい。そこで生産条件は、分散時液温を含むことが好ましい。また上述のように適切な分散時液温が界面活性剤の種類よって相違するため、生産条件は、界面活性剤の種類や量を含んでもよい。
【0033】
混練時水分量は、混練時に添加する水の量である。水の量が少ないほど混練時の塗液粘度は高くなり分散強度が強くなる。例えば混練時水分量以外の生産条件が同一の場合において、混練時水分量が少ない場合、分散強度が比較的強くなり、カーボン粒子分散体の粘度は低くなる傾向がある。他方で混練時水分量が多い場合、分散強度が比較的弱くなり、カーボン粒子分散体の粘度は高くなる傾向がある。
【0034】
実績データには、上述の説明変数及び目的変数が含まれる。換言すると制御部11は、実績データに含まれるこれらの説明変数及び目的変数を教師データとして、予測モデルを訓練する。
【0035】
予測モデルは、例えばサポートベクターマシン、線形モデル、非線形モデル等の予測モデルであるがこれに限られない。例えば予測モデルは、入力層、隠れ層、及び出力層からなる多層パーセプトロンに基づき訓練されるモデルであってもよい。あるいは予測モデルは、Convolutional Neural Network(CNN)、Recurrent Neural Network(RNN)、その他のディープラーニング等の機械学習アルゴリズムに基づき訓練されるモデルであってもよい。
【0036】
実績データの取得には、任意の手法が採用可能である。例えば制御部11は、記憶部12から実績データを取得する。また制御部11は、ユーザからの実績データの入力を入力部13により受け付けることで、実績データを取得してもよい。あるいは制御部11は、実績データを記憶した外部装置から通信用インタフェースを介して、かかる実績データを取得してもよい。
【0037】
教師データに基づき訓練された予測モデルは、既知データに基づき精度検証が行われる。かかる検証の結果、精度が実用範囲内である場合には、当該予測モデルを用いたカーボン粒子分散体の製造プロセスの探索処理が行われる。
【0038】
ステップS102:制御部11は、所望の特性を有するカーボン粒子分散体に係る物性(以下、目標特性という)を取得し、予測モデルに入力する。例えば制御部11は、ユーザからの目標特性の入力を入力部13により受け付けることで、目標特性を取得してもよい。かかる目標特性は、カーボン粒子分散体の粘度の目標値を含む。
【0039】
ステップS103:制御部11は、ステップS102にて取得した目標特性を得られる微粒子分散体の製造プロセスを予測モデルにより予測する。
【0040】
ステップS104:制御部11は、ステップS103により得られた予測結果に対して、最適化処理を実行し、探索結果(以下、候補レシピともいう)を出力部14により出力する。例えば制御部11は、探索結果として、カーボンブラックの物性値、及びカーボン粒子分散体の生産条件を出力部14により出力する。上述したようにカーボンブラックの物性値は、水分量、粗粒分量、嵩密度、ヨウ素吸着量、及びDBP吸油量を含む。またカーボン粒子分散体の生産条件は、分散時間、分散減圧値、分散速度、分散時液温、及び混練時水分量を含む。
【0041】
ここで最適化処理は、再急降下法、ベイズ最適化、ガウシアン過程最適化、その機構を利用したGPyOpt、Optuna、HyperOptなどのPythonライブラリ、遺伝的アルゴリズム等による評価関数の最大化あるいは最小化を採用することができる。最適化手法はこれらの手法に限定されるものではなく、対象に適した最適化処理を一つ乃至は複数選択することができる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、カーボン粒子分散体に係る実績データに基づき予測モデルが訓練される。また実績データは、カーボン粒子分散体の製造に係る生産条件と、カーボン粒子の物性値とを含む。そしてかかる予測モデルを用いた逆解析により、所望の物性を有するカーボン粒子分散体の製造プロセスが探索される。このため、本実施形態によれば所望の物性を有する微粒子分散体の製造プロセスの設計技術を改善することができる。
【0043】
なお、予測モデルにおける説明変数であるカーボンブラックの物性値、及びカーボン粒子分散体の生産条件として用いられるものは上記に限られず、各種の因子を含んでよい。例えばカーボンブラックの物性値は、分散剤との濡れ性及び特定のシェアをかけた際の粒子状態の少なくともいずれか一方を含んでよい。
【0044】
例えば分散剤との濡れ性に関して、分散剤は、微粒子と溶媒が長期間分離せず安定化するものが選択されることが望ましく、複数の分散剤を併用してもよい。分散剤を使用する場合、適切な分散剤を選定することにより、微粒子と溶媒の分離、または微粒子再凝集による粘度上昇を抑制可能となる。そこでカーボンブラックの物性値は、分散剤との濡れ性を含んでもよい。
【0045】
また、例えばカーボンブラックの粒子状態に関して、分散前の微粒子同士は凝集していることがある。カーボン粒子分散体の粘度はカーボン粒子の凝集状態に影響を受けうるため、分散により微粒子の凝集構造がほぐれると粘度が下がっていく。また特定の分散強度をかけていくと分散の進行が緩やかになり徐々に粘度が低下するため、粘度を制御しやすい。そこでカーボンブラックの物性値は、特定のシェアをかけた際の粒子状態を含んでもよい。
【0046】
また生産条件は、例えば真空度を含んでよい。真空度は、塗液中の気泡に影響を与えることから、カーボン粒子分散体の粘度及び分散強度が変化しうる。そこでカーボン粒子分散体の生産条件は、真空度を含んでもよい。
【0047】
以下に、本実施形態に係る予測モデルを用いてカーボン粒子分散体の製造プロセス(候補レシピ)を探索し、カーボン粒子分散体の粘度を測定した実施例を示す。各実施例の条件、及び粘度の測定条件は以下の通りである。
【0048】
(実施例1)
本実施形態にかかる予測モデルIを使用し、カーボンブラックとしてカーボンAを選択し、E型粘度6.6 Pa・sをターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例1に示す。
【0049】
(実施例2)
ターゲットをE型粘度4.2Pa・sとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例2に示す。
【0050】
(実施例3)
カーボンブラックとしてカーボンBを選択し、E型粘度4.3Pa・sをターゲットとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例3に示す。
【0051】
(実施例4)
カーボンブラックとしてカーボンCを選択し、E型粘度4.5Pa・sをターゲットとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例4に示す。
【0052】
(実施例5)
カーボンブラックとしてカーボンDを選択し、E型粘度6.6Pa・sをターゲットとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例5に示す。
【0053】
(実施例6)
カーボンブラックとしてカーボンEを選択し、E型粘度1.9Pa・sをターゲットとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例6に示す。
【0054】
(実施例7)
本実施形態にかかる予測モデルIIを使用し、カーボンブラックとしてカーボンBを選択し、E型粘度4.8Pa・sをターゲットとした以外は実施例1と同様の操作を行い、候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を調製例7に示す。
【0055】
(比較例1)
汎用予測モデルIIIを使用し、カーボンブラックとしてカーボンAを選択し、E型粘度4.9Pa・sをターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を比較調製例1に示す。
【0056】
(比較例2)
比較例1と同様の汎用予測モデルIIIを使用し、微粒子カーボンとしてカーボンEを選択し、E型粘度1.5Pa・sをターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を比較調製例2に示す。
【0057】
(比較例3)
汎用予測モデルIVを使用し、微粒子カーボンとしてカーボンAを選択し、E型粘度5.4Pa・sをターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を比較調製例3に示す。
【0058】
(比較例4)
比較例3と同様の汎用予測モデルIVを使用し、微粒子カーボンとしてカーボンCを選択し、E型粘度4.0Pa・sをターゲットとして候補レシピを探索した。当該候補レシピに基づく調製方法を比較調製例4に示す。
【0059】
(調製例1)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンA16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空下で、100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-1)を得た。
【0060】
(調製例2)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水49.0重量部、分散剤9.0重量部、カーボンA16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水26.0重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-2)を得た。
【0061】
(調製例3)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンB16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-3)を得た。
【0062】
(調製例4)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水63.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンC16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で30分間、70rpmにて混練した。その後、水11.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-4)を得た。
【0063】
(調製例5)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンD16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-5)を得た。
【0064】
(調製例6)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤12.0重量部、カーボンE10.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水9.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-6)を得た。
【0065】
(調製例7)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンB16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(A-7)を得た。
【0066】
(比較調製例1)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンA16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で、100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(B-1)を得た。
【0067】
(比較調製例2)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤12.0重量部、カーボンE10.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で30分間、70rpmにて混練した。その後、水9.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(B-2)を得た。
【0068】
(比較調製例3)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンA16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(B-3)を得た。
【0069】
(比較調製例4)
加熱・冷却機能と真空減圧機能を備えた攪拌機を用いて、水68.5重量部、分散剤9.0重量部、カーボンC16.0重量部を攪拌槽に仕込み、23℃下で真空脱泡した後、真空度-98.0kPa(ゲージ圧)で100分間、100rpmにて混練した。その後、水6.5重量部を加え、真空下で15分間攪拌しカーボン粒子分散体(B-4)を得た。
【0070】
(粘度測定)
ブルックフィールド社製コーンプレート型RST-CPSを用いて、直径25mm、傾き2°のコーンプレートでせん断速度50(1/s)の条件で測定した時の数値を読み取り、塗液の粘度とした。
【0071】
(判定基準及び評価)
調製例1~6、比較調製例1~4で得たカーボン粒子分散体の評価基準及び評価は以下の通りとした。
評価基準:粘度の実測値がターゲット値の±15%未満に入っていること
評価:±10%未満で評価基準を満たす:A
±10%以上、±15%未満で評価基準を満たす:B
±15%以上で評価基準を満たさない:C
【0072】
表1に、実施例1~6のターゲット粘度、実測値、及び判定結果を、表2に、比較例1~4のターゲット粘度、実測値、及び判定結果を示す。表3にカーボンA~Eの物性値を示す。表4に各予測モデル生成に使用した目的変数を示す。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表1に示すように、本実施形態に係る予測モデルを用いた逆解析により、所望の粘度特性を有するカーボン粒子分散体の製造プロセス(候補レシピ)を得ることができている。
【0078】
本開示を諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段又は各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段又はステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0079】
10 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部