(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047539
(43)【公開日】2024-04-05
(54)【発明の名称】インク、画像形成装置、及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20240329BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240329BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240329BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115079
(22)【出願日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2022152704
(32)【優先日】2022-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉原 真由美
(72)【発明者】
【氏名】南場 通彦
(72)【発明者】
【氏名】玉井 崇詞
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 慎
(72)【発明者】
【氏名】中村 悠太
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 大喜
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056FA02
2C056FA03
2C056FA04
2C056FA07
2C056FA10
2C056FA13
2C056FC01
2C056KC02
2H186AB12
2H186BA08
2H186BA10
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2H186DA18
2H186FB11
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2H186FB55
4J039AE04
4J039BC07
4J039BE12
4J039EA38
4J039EA45
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】吐出安定性に優れ、インク層の耐水及び耐擦傷性、並びに耐ブロッキング性に優れたインクの提供。
【解決手段】水、色材、樹脂、及び有機溶剤を含むインクであって、前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーの極性成分γ
S
Pが、3.5mJ/m
2以上20mJ/m
2以下である。前記インク層の表面自由エネルギーγ
Sに対する前記極性成分γ
S
pの比(γ
S
p/γ
S)が、10%以上40%以下である態様が好ましい。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、色材、樹脂、及び有機溶剤を含むインクであって、
前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーγSの極性成分γS
pが、3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下であることを特徴とするインク。
【請求項2】
前記インク層の表面自由エネルギーγSに対する前記極性成分γS
pの比(γS
p/γS)が、10%以上40%以下である請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記有機溶剤が、下記一般式(1)で表される有機溶剤を含む請求項1に記載のインク。
【化1】
前記一般式(1)中、nは0から3の整数を示す。
【請求項4】
前記樹脂が、ウレタン樹脂を含む請求項1に記載のインク。
【請求項5】
前記樹脂のガラス転移温度が、-20℃以上20℃以下である請求項1に記載のインク。
【請求項6】
前記樹脂の示差走査熱量測定による融点が、40℃以上60℃以下である請求項1に記載のインク。
【請求項7】
前記樹脂の含有量が、3質量%以上10質量%以下である請求項1に記載のインク。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のインクを収容してなる収容容器と、
前記インクを記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する付与手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のインクを、記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する付与工程を含むことを特徴とする画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク、画像形成装置、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物壁面、道路標識、バス、タクシー、トラック等の自動車、電車等の車両表面に広告を掲載したり、デザインを施したりする場合には、文字や画像等が施されたイベント告知などのデザインを印刷したフィルムを貼り付けることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、凹凸が激しいところにも皺が発生しないようにラッピングを施さなければならず、職人的な技術と多大な工数が必要となるため、高額なものとならざるを得なかった。
【0003】
近年、描画対象物として印刷紙だけでなく、様々な凹凸や湾曲面に対してもダイレクトにプリントすることが可能なインクジェット方式が拡大しており、例えば、垂直の対象物である車体に対してノズルヘッドから塗料を噴出して直接印字できるオートボディプリンターが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、吐出安定性及び保存安定性に優れ、インク層の耐水性、耐擦傷性及び耐ブロッキング性に優れたインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段としての本発明のインクは、水、色材、樹脂、及び有機溶剤を含むインクであって、前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーの極性成分γS
pが、3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吐出安定性及び保存安定性に優れ、インク層の耐水性、耐擦傷性及び耐ブロッキング性に優れたインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、インク層に対する液体の接着仕事Waを説明する図である。
【
図2】
図2は、Fowkes-Owensモデルに基づき、インク層(固体)の表面自由エネルギーを求める方法の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る画像形成装置であるインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すインクジェット記録装置の構成を表す概略断面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示すインクジェット記録装置の構成の一部を表す概略上面図である。
【
図6】
図6は、実施例1~14及び比較例1~5における極性成分γ
s
p値とインク層の耐擦傷性のΔOD値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(インク)
本発明のインクは、水、色材、樹脂、及び有機溶剤を含み、界面活性剤を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含む。
前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーの極性成分γS
pが、3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下である。
前記インクは、インクジェット用インクであることが好ましく、また、スプレー塗装用インクであることが好ましい。
【0009】
本発明のインクは、以下に説明する従来技術の問題点を見出したことに基づく発明である。
すなわち、インクジェット用インクには、吐出性、デキャップ時間、乾燥時間、貯蔵寿命など必要な特性が数多くあるが、水性化に伴う問題点として、インク組成物として含有されるバインダ樹脂が水溶性ビヒクル成分と相溶しないという問題や、色材が均一に分散せず凝集を起こすという問題などが挙げられ、いまだ分散安定性や貯蔵安定性が十分ではなく、吐出安定性の担保が困難であるという問題がある。
インクジェット用インクは、地球環境保護の観点から厳しい環境ガイドラインに従って揮発性有機物含有量(VOC)が低いものが要求され続けており、今後は溶剤インクから水性インクへの切り換えがさらに進んでいくものと考えられる。
また、インクジェット用インクの色材が、耐水性や耐候性の観点から染料から顔料へと転換しつつあるなかで、上述した建築物壁面、道路標識、車体への印字においては、絵柄等の鮮明性が低下しないように耐水性、耐衝撃性、密着性等のインク層性能が長期にわたって優れていることが要求される。
本発明は、このような従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、水性インクの分散安定性及び貯蔵安定性に優れることでインクの吐出安定性及び保存安定性に優れ、洗車等によってインクを乾燥してなるインク層に擦傷が発生することのない、インク層の耐水性、耐擦傷性、及び耐ブロッキング性に優れたインクを提供することができる。
【0010】
本発明者らは、前記インクを乾燥してなるインク層の耐水性が表面自由エネルギーの極性成分と相関するという知見を得た。特に、インク層の表面自由エネルギーに対する極性成分の比率を制御することにより撥水性のインク層を形成することができる。さらに、特定の有機溶剤を含有することにより、吐出安定性を有した上で、インクの乾燥性と保存安定性とを両立できる。同時に、インク層の耐水性、耐擦傷性、及び耐ブロッキング性に優れ、仕上り外観に優れたインク層が得られる。
【0011】
[インク層の表面自由エネルギーγS、極性成分γS
p、及び分散成分γS
d]
前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーの極性成分γS
pは、3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下であり、5mJ/m2以上20mJ/m2以下が好ましい。
前記インク層の25℃における表面自由エネルギーの極性成分γS
pを、3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下に調整する方法としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、一般式(1)で表される水溶性有機溶剤と界面活性剤を併用することが、当該規定を満たすインクの調整を行いやすい点で好ましい。
前記インク層の表面自由エネルギーγSに対する前記極性成分γS
pの比(γS
p/γS)としては、10%以上50%以下が好ましく、10%以上40%以下がより好ましい。
【0012】
これまでに、インク層の表面の疎水性、乃至撥水性を議論する場合、多くの公知文献では、インクの液体状態における静的表面張力及び/又は動的表面張力の値や、インク層の表面自由エネルギー:γSの値を指標値としてきた。しかしながら、これらの物性値を制御するだけではインク層の耐水化を改善することは困難であることを本発明者らは見出した。
そこで、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、接着の概念を導入し、新たな設計思想に基づくインク(水性インク組成物)を提案することにより、インク層の耐水性が著しく改善できることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0013】
インク層による疎水性、乃至撥水性表面を得るためには、インクが基材表面を被覆して完全に濡らし、基材に接着している状態を得なければならない。
そこで、本発明では基材に対してインクがどのくらいのエネルギーで接着しているのか、逆に言えば、接着界面を引き離すために必要なエネルギーとして言い換えることができる接着仕事Waを指標に検討を行った。
【0014】
まず、
図1により接着仕事Waについて説明する。
液体柱と固体柱を引き離すと液体表面と固体表面が誕生し、表面は必ず表面自由エネルギーを持っているので、引き離した後の系におけるエネルギーは、液体の表面自由エネルギーγ
Lと固体の表面自由エネルギーγ
Sとの和になる。引き離す前の系に存在していたエネルギーは固体と液体の界面が持っていた界面自由エネルギーγ
SLであるため、液体の表面自由エネルギーγ
Lと固体の表面自由エネルギーγ
Sの和から、固体と液体の界面自由エネルギーγ
SLを差し引いた値が剥離に必要な接着仕事Wa(Work of adhesion)となり、この関係は、下記式(1)のDupre式で示される。
ここで、接着仕事Waは、固体表面と液滴の系においては「濡れエネルギー」として扱われる。
【0015】
Wa=γS+γL-γSL ・・・(1)
ここで、前記インクを乾燥してなるインク層と水との濡れエネルギーに相当する接着仕事Waを評価する場合、前記式(1)中、γSはインク層の表面自由エネルギー、γLは水の表面自由エネルギー、γSLはインク層に水を着滴させたときのインク層と水との界面自由エネルギーである。
【0016】
液体の表面自由エネルギーγLは、液体の静的表面張力と同義であり、例えば、自動表面張力計を用いて測定することができる。ただし、固体と液体界面の界面自由エネルギーγSLを測定する方法は未だ確立されていない。
【0017】
一方、物質が固体と液体の場合、液滴が固体表面上で接触角θを保って平衡に達したとすると、下記式(2)で示されるYoung式が成り立つ。
【0018】
γS=γSL+γLcosθ ・・・(2)
【0019】
上記Dupre式(1)と上記Young式(2)とを組み合わせることにより、液体の静的表面張力と、液滴が固体表面上で平衡に達した接触角θからなる、下記式(3)で示されるYoung-Dupre式が得られることから、濡れエネルギーに相当する接着仕事Waを求めることができる。
【0020】
Wa=γL(1+cosθ) ・・・(3)
【0021】
本発明における接着仕事Waは、以下のような方法によって求めることができる。
インクの画像形成には、23℃±0.5℃、50±5%RHの環境条件下で、オートボディプリンター(株式会社リコーデジタルペインティング製)を用いて、縦10cm、横10cmサイズに切り出したアルミ板(飯田金商株式会社製)に、インクの塗布量が1.0g/m2となるように制御し、アルミ板の表面全面にインクを塗布したべた画像を形成し、ヘッドモジュールに付随した温風乾燥機で50℃、30秒間乾燥させてインクを乾燥してなるインク層を得る。
次いで、このインク層上に高純水を着滴させて接触角を測定し、前記式(3)により接着仕事Waの値を算出する。接触角の測定には、DMo―501(協和界面科学株式会社製)を用い、接触角は着滴後1,000msでの値を採用する。
【0022】
また、高純水の静的表面張力γLは、25℃環境下で、自動表面張力計 DY-300(協和界面株式会社)を用いて測定する。
一方、インク層(固体)の表面張力γSは、Fowkes-Owensモデルによる2液法にて間接的に測定できる。
この方法は、分散成分、及び極性成分が既知であるプローブ液体2種を用いて、固体の接触角を測定するものである。2種のプローブ液体としては、極性成分の高い純水と分散成分の高いヨウ化メチレンを用いることができる。
以下、表1に、純水、及びジヨードメタンの表面自由エネルギーの成分を示す。
【0023】
【0024】
ここで、下記式(4)及び式(5)に示す通り、固体の表面自由エネルギーγS、液体の表面自由エネルギーγLについて、それぞれの表面自由エネルギーは、分散力によって発生する分散成分γdと、極性によって発生する極性成分γpとの両成分の和で表すことができる。
【0025】
γS=γS
d+γS
p ・・・(4)
γL=γL
d+γL
p ・・・(5)
【0026】
また、下記式(6)に示す通り、前記式(3)で表される接着仕事Waは、固体、液体間の二乗平均として表すことができる。
【0027】
【0028】
よって、前記式(4)及び式(5)と前記式(6)から、下記式(7)のYoung-Dupreの式が得られる。
【0029】
【0030】
前記式(7)の両辺を2√γLdで割ることにより、下記式(8)のように変形できる。
【0031】
【0032】
前記式(8)を用いれば、インク層の表面自由エネルギーγ
Sを求めることができる。この点について、
図2を参照して説明する。
まず、前記表1に示すプローブ液体である純水、及びジヨードメタン2種をそれぞれ用いて、インク層上の接触角を測定する。接触角は、プローブ液体を滴下した1,000ms後の値とし、5回測定した平均値を採用する。前記式(8)に基づくと、
図2の切片からインク層の表面自由エネルギーの分散成分:γ
S
dが得られ、傾きからインク層の表面自由エネルギーの極性成分γ
S
pが得られる。そして、得られた分散成分:γ
S
dと極性成分γ
S
pの和として、インク層の表面自由エネルギーγ
Sを求めることができる。
【0033】
<色材>
色材としては、特に制限はなく、顔料を使用可能である。
顔料としては、無機顔料又は有機顔料を使用することができる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、顔料として、混晶を使用してもよい。
顔料としては、例えば、ブラック顔料、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、白色顔料、緑色顔料、橙色顔料、金色や銀色等の光沢色顔料やメタリック顔料などを用いることができる。
無機顔料として、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
また、有機顔料としては、アゾ顔料、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、溶剤と親和性のよいものが好ましく用いられる。その他、樹脂中空粒子、無機中空粒子の使用も可能である。
顔料の具体例として、黒色用としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、又は銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)、酸化チタン等の金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
更に、カラー用としては、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、150、153、155、180、185、213、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、207、208、209、213、219、224、254、264、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:2、15:3、15:4(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0034】
前記色材の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インク全量に対して、画像濃度の向上、良好な定着性や吐出安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、2質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
【0035】
顔料を分散してインクを得る方法としては、顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法、顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法、分散剤を用いて分散させる方法などが挙げられる。
顔料に親水性官能基を導入して自己分散性顔料とする方法としては、例えば、顔料(例えば、カーボン)にスルホン基やカルボキシル基等の官能基を付加することで、水中に分散可能とする方法が挙げられる。
顔料の表面を樹脂で被覆して分散させる方法としては、顔料をマイクロカプセルに包含させ、水中に分散可能とする方法が挙げられる。これは、樹脂被覆顔料と言い換えることができる。この場合、インクに配合される顔料はすべて樹脂に被覆されている必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲において、被覆されない顔料や、部分的に被覆された顔料がインク中に分散していてもよい。
分散剤を用いて分散させる方法としては、界面活性剤に代表される、公知の低分子型の分散剤、高分子型の分散剤を用いて分散する方法が挙げられる。
分散剤としては、顔料に応じて例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
分散剤として、竹本油脂株式会社製RT-100(ノニオン系界面活性剤)や、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物も、分散剤として好適に使用できる。
分散剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
-顔料分散体-
顔料に、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを得ることが可能である。また、顔料と、その他水や分散剤などを混合して顔料分散体としたものに、水や有機溶剤などの材料を混合してインクを製造することも可能である。
前記顔料分散体は、水、顔料、顔料分散剤、必要に応じてその他の成分を混合、分散し、粒径を調整して得られる。分散は分散機を用いるとよい。
顔料分散体における顔料の粒径については特に制限はないが、顔料の分散安定性が良好となり、吐出安定性、及び画像濃度などの画像品質も高くなる点から、最大個数換算で最大頻度は20nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上150nm以下がより好ましい。顔料の粒径は、粒度分析装置(ナノトラック Wave-UT151、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定することができる。
前記顔料分散体における顔料の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、良好な吐出安定性が得られ、また、画像濃度を高める点から、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
前記顔料分散体は、必要に応じて、フィルター、遠心分離装置などで粗大粒子をろ過し、脱気することが好ましい。
【0037】
<樹脂>
前記樹脂は、樹脂エマルションとして水に分散した樹脂粒子であり、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有しても構わない。
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、アクリル-シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ウレタン樹脂が好ましい。
前記樹脂としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。また、これらは、1種を単独で用いても、2種以上の樹脂粒子を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、-40℃以上45℃以下が好ましく、-20℃以上20℃以下がより好ましい。前記ガラス転移温度が-40℃以上であることにより力学強度に優れたインク層を形成することができ、45℃以下であることにより乾燥過程における粒子同士、及び粒子と記録媒体との間の接着力を高めることができるために耐水性、耐擦傷性、及び耐ブロッキング性を向上させることができる。
【0039】
前記ウレタン樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、-40℃以上45℃以下が好ましく、-20℃以上20℃以下がより好ましい。Tgが低いと弾性に富むが一般的に粘着が著しく、-20℃以上のウレタン樹脂エマルジョンを用いることにより、印刷面を乾燥した後のベタツキが少なく、印刷物の耐性に優れたものとすることができる。また、ベタツキが少ないことにより、例えば印刷物を重ねた場合に、印刷物の印刷面が他の部材に接着する不具合であるブロッキングの発生を抑制することもできる。Tgが高いと弾性に乏しく経年でインク層にひび割れが発生しやすく、20℃以下のウレタン樹脂エマルジョンを用いることにより長期に渡って良好なインク層の品質を維持できることに加えて、印刷物を乾燥するために高い温度をかけることを回避でき、エネルギーコストを削減することや、記録媒体が熱による損傷を受けないものとすることができる。
【0040】
前記樹脂の融点としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、20℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上60℃以下がより好ましい。
前記ウレタン樹脂の融点としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、20℃以上80℃以下が好ましく、40℃以上60℃以下がより好ましい。
融点が20℃以上であることで吐出安定性が向上する。また、融点が80℃以下であることで、加熱乾燥に起因する、樹脂同士の接着及び樹脂と記録媒体との接着を強固にすることができ、定着性を向上させることができる。
【0041】
なお、前記樹脂のガラス転移温度(Tg)、及び融点は、樹脂を構成するモノマーの種類や含有量等によって調整することができる。
前記ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 6900に準拠して、示差走査熱量測定(DSC)によって測定することができる。
前記樹脂が樹脂分散体である場合には、その乾燥物を用いて以下のようにしてTg及び融点を測定することができる。
【0042】
5gの樹脂分散体をテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製シャーレに均一に広がるように容器に入れ、50℃で1週間減圧乾燥させて樹脂分散体の乾燥物を得る。
乾燥させた樹脂分散体について、各々熱特性を示差走査熱量計(DSC)(Q2000、TAインスツルメンツ社製)を用いて以下の測定条件にて測定する。「吸発熱量」と「温度」とのグラフを作成し、第一昇温過程にて観測される特徴的な変曲を、ガラス転移温度(Tg)とする。なお、Tgは、DSC曲線からミッドポイント法によって解析した値を使用する。
融点は、第二昇温過程にて得られる補外融解開始温度とする。
ここで、補外融解開始温度とは、JIS K-7121で規定される、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線の交点の温度であり、いわゆる、融解ピーク温度に至る吸熱が開始される温度をいう。
【0043】
-測定条件-
サンプル容器:アルミニウム製サンプルパン(蓋有り)
サンプル量:5mg
リファレンス:アルミニウム製サンプルパン(空の容器)
雰囲気:窒素(流量50mL/min)
開始温度:-80℃
第一昇温速度:10℃/min
終了温度:130℃
保持時間:1min
降温速度:10℃/min
終了温度:-80℃
保持時間:5min
第二昇温速度:10℃/min
終了温度:130℃
【0044】
前記樹脂の含有量としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、前記インク全量に対して、固形分で、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上10質量%以下がより好ましい。
前記含有量が、0.5質量%以上であると、耐擦傷性が十分に得られ、10質量%以下であると、エマルション粒子の凝集の発生を低減することができ保存安定性に優れる点で有利である。
なお、樹脂エマルション中の樹脂粒子の含有量は一般的には10質量%~70質量%が好ましい。
【0045】
前記樹脂エマルションにおける樹脂粒子の動的光散乱法による累積50%粒子径(D50)としては、10nm以上500nm以下が好ましく、10nm以上200nm以下がより好ましく、10nm以上100nm以下が更に好ましい。前記樹脂エマルションには動的光散乱法による0.5μm(=500nm)以上の粗大粒子が観察されないことが好ましい。
累積50%体積粒子径(D50)が10nm以上500nm以下であると、インク組成物の溶剤と樹脂粒子表面との接触部位が増加し、樹脂粒子の造膜性が高まり、強靭な樹脂の連続被膜が形成されるため、高い強度のインク層(印刷物)を得ることが可能となる。
前記体積累積分布における累積50%径(D50)は、動的光散乱法により得られる粒径分布曲線の体積分布累積量の50%に相当する粒子径である。
具体的には、樹脂エマルションを固形分0.01質量%以上0.1質量%以下に希釈し、「マイクロトラックUPA」(Leeds & Northrup社製)を用いて求めることができる。
【0046】
<有機溶剤>
前記有機溶剤は、特に制限されず目的に応じて、公知の水溶性の有機溶剤を適宜選択することができ、例えば、1価アルコール、多価アルコール類;多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類等のエーテル類;含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
前記1価アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノールなどが挙げられる。
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、エチル-1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ペトリオールなどが挙げられる。
前記エーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類;エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類などが挙げられる。
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミドなどが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノールなどが挙げられる。
その他の有機溶剤としては、例えば、プロピレンカーボネート;炭酸エチレンなどが挙げられる。
【0048】
これらの中でも、下記一般式(1)で表される有機溶剤が好ましい。前記有機溶剤として下記一般式(1)で表される有機溶剤を含むと、インク層の乾燥性が改善されてインクの液だれを抑制し、耐ブロッキング性が向上することに加えて、インク組成物としての吐出安定性に優れる点で好ましい。
【0049】
【化1】
前記一般式(1)中、nは0から3の整数を示す。
前記一般式(1)で表される有機溶剤は、具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール:n=0の場合)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1-エトキシ-2-プロパノール:n=1の場合)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(1-プロポキシ-2-プロパノール:n=2の場合)、及びプロピレングリコール1-モノブチルエーテル(1-ブトキシ-2-プロパノール:n=3の場合)である。
【0050】
また、前記有機溶剤は、前記樹脂エマルションを前記有機溶剤に相溶させることができる点で、エタノールを含有することがより好ましい。これにより良好な吐出安定性とすることができる。
【0051】
前記有機溶剤は、湿潤剤として機能するだけでなく良好な乾燥性を得られることから、沸点が250℃以下の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
前記有機溶剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記インクの乾燥性及び吐出安定性の点から、前記インク全量に対して、3質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0052】
<水>
水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、超純水などが挙げられる。
インクにおける水の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、インクの乾燥性及び吐出安定性の点から、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上75質量%以下がより好ましい。
【0053】
<界面活性剤>
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
-シリコーン系界面活性剤-
前記シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、高pHでも分解しないものが好ましく、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するシリコーン系界面活性剤が、水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。また、前記シリコーン系界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を用いることもでき、例えば、ポリアルキレンオキシド構造をジメチルシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物などが挙げられる。
【0055】
このようなシリコーン系界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学などから入手できる。
【0056】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0057】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、シルフェイスSAG503A(以上、日信化学工業株式会社製)、KF-618、KF-642、KF-643(以上、信越化学工業株式会社製)、EMALEX SS-5602、EMALEX SS-1906EX(以上、日本エマルジョン株式会社製)、DOWSIL FZ-2105、DOWSIL FZ-2118、DOWSIL FZ-2154、DOWSIL FZ-2161、DOWSIL FZ-2162、DOWSIL FZ-2163、DOWSIL FZ-2164(以上、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)、BYK-33、BYK-387(以上、ビックケミー株式会社製)、TSF4440、TSF4452、TSF4453(以上、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)などが挙げられる。
【0058】
本発明の一実施形態では、前記界面活性剤としては、インクヘッドのノズルプレートの撥インク層に濡れ難いインクとなり、インクのノズル付着による吐出不良を防ぎ、吐出安定性が向上することからポリエーテル変性シロキサン化合物を含むことが好ましい。市販品としては、例えば、TEGO WET 270(エボニック デグサ社製)などが挙げられる。
【0059】
-フッ素系界面活性剤-
前記フッ素系界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フッ素置換した炭素数が2~16の化合物が好ましく、フッ素置換した炭素数が4~16の化合物がより好ましい。
【0060】
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩などが挙げられる。
これらフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
【0061】
これらの中でも、前記フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物が、起泡性が小さいため好ましい。
前記フッ素系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、サーフロン(登録商標)S-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(以上、AGCセイミケミカル株式会社製);フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(以上、住友スリーエム株式会社製);メガファックF-470、F-1405、F-474(以上、DIC株式会社製);ゾニール(Zonyl)(登録商標)TBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR、キャプストーンFS-30、FS-31、FS-3100、FS-34、FS-35(以上、Chemours社製);フタージェント(FT)-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(以上、株式会社ネオス製)、ポリフォックス(PF)-136A、PF-156A、PF-151N、PF-154、PF-159(以上、オムノバ社製)、ユニダインDSN-403N(ダイキン工業株式会社製)などが挙げられる。これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する浸透性、濡れ性、均染性が著しく向上する点から、Chemours社製のFS-3100、FS-34、FS-300、株式会社ネオス製のFT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW、オムノバ社製のPF-151N、及びダイキン工業株式会社製のユニダインDSN-403Nが特に好ましい。
【0062】
-両性界面活性剤-
前記両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。
【0063】
-ノニオン系界面活性剤-
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
前記ノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、例えば、TRITON(登録商標) HW-1000(ダウ・コーポレーション社製)、サーフィノール104E、サーフィノール420、サーフィノール440、サーフィノールSE-F、サーフィノール465、サーフィノール2502、エンバイロジェムAD01(日信化学工業株式会社製)、レオドールMO-60、エマゾールL-10V、レオドールAO-15V、エマルゲン102KG(花王株式会社製)などが挙げられる。
【0064】
-アニオン系界面活性剤-
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0065】
[界面活性剤の親水性/疎水性バランス値(HLB値)]
界面活性剤の親水性/疎水性バランス値(HLB値)としては、インク層の表面自由エネルギーとインクの溶解性との観点から、3以上20以下が好ましく、5以上15以下がより好ましい。
HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値は、界面活性剤の親水性及び疎水性を表す指標であり、小さいほど界面活性剤の疎水性が高く、大きいほど界面活性剤の親水性が高い。
前記インクにおける前記界面活性剤の配合を調整することにより、インクを乾燥してなるインク層の表面自由エネルギーγSの極性成分γS
pを3.5mJ/m2以上20mJ/m2以下の範囲に適切に制御できる。
【0066】
前記HLB値は、グリフィン法による下記式(9)に基づいて、対象とする界面活性剤の親水性部分の式量の総和、及び界面活性剤の分子量より算出することができる。
HLB値=
20×(親水性部分の式量の総和)÷(分子量) ・・・(9)
【0067】
前記界面活性剤の中でも、シリコーン系界面活性剤が好ましく、界面活性剤としての機能や、水溶性有機溶剤に対する溶解特性を調整するため、各種有機基が導入された変性シロキサン系界面活性剤が好ましい。これらの中でも、有機基としてポリエーテル基を用いたポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤は、ポリエーテル基を構成する、エチレンオキシド基やプロピレンオキシド基の数を調整することで、界面活性剤のHLB値を任意に制御できるとともに、インク中に相溶化し、経時で分離することなく安定に存在できることから保存安定性や吐出安定性が維持できる点で好ましい。
【0068】
前記界面活性剤の含有量としては、前記インク全量に対して、0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。
前記含有量が、0.001質量%以上5質量%以下であると、インクヘッドのノズルプレートの撥インク層に濡れ難いインクとなり、インクのノズル付着による吐出不良を防ぎ、吐出安定性が向上するという効果が得られる。
【0069】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、抑泡剤(消泡剤)、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤などが挙げられる。
【0070】
-抑泡剤(消泡剤)-
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばシリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、脂肪酸エステル系消泡剤、脂肪族アルコール系消泡剤などが好適に挙げられる。脂肪酸アルコール系消泡剤としては、脂肪族ジアルコール系消泡剤(脂肪族ジアルコール系界面活性剤)が好適に挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
前記抑泡剤の含有量は、インク全量に対して、0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がより好ましい。前記抑泡剤の含有量が、0.01質量%以上であると、泡を抑える効果が得られる。一方、前記抑泡剤の含有量が、10質量%以下であると、良好な抑泡性が得られ、粘度、粒径等のインク物性が適正となる。
【0072】
-pH調整剤-
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずにpHを7~11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩などが挙げられる。前記pHが7未満及び11を超えると、インクジェットのヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きくなり、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
前記アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。
前記インク中の前記pH調整剤の含有量としては、所望のpHに調整することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0073】
-防腐防黴剤-
前記防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
【0074】
-防錆剤-
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0075】
-酸化防止剤-
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0076】
[インク物性]
インクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力、pH等が以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、印字濃度や文字品位が向上し、また、良好な吐出性が得られる点から、5mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以上25mPa・s以下がより好ましい。ここで、粘度は、例えば、回転式粘度計(東機産業株式会社製、RE-80L)を使用することができる。測定条件としては、25℃で、標準コーンローター(1°34’×R24)、サンプル液量1.2mL、回転数50rpm、3分間で測定可能である。
インクの表面張力としては、記録媒体上で好適にインクがレベリングされ、インクの乾燥時間が短縮される点から、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。
インクのpHとしては、接液する金属部材の腐食防止の観点から、7~12が好ましく、8~11がより好ましい。
【0077】
[インクの製造方法]
前記インクは、前記水、前記色材、前記樹脂、及び前記有機溶剤、更に必要に応じて、前記界面活性剤、及び前記その他の成分を水中に分散又は溶解し、攪拌混合して製造する。
前記攪拌混合は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機、攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0078】
前記インクは、インクジェット記録用及びスプレー塗装用のいずれかに好適に用いられる。
前記インクジェット記録用としてのインクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2-51734号公報参照)、又は、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61-59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで,インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6-71882号公報参照)などのいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
【0079】
(インクセット)
本発明のインクは、少なくとも1種の顔料インクとしての上記した本発明のインクと、他の顔料インク乃至クリアインクとを組み合わせて有するインクセットとして用いることができる。
顔料インクは、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックなどの各インクから1種又は2種以上を選択することができる。また、インクセットを構成する顔料インクとして、上記のインクと互いに同じ色相を有し、顔料の含有量がそれぞれ異なる複数のインクを用いてもよい。このような複数のインクの組み合わせとしては、ブラック、淡ブラック、グレー、及び淡グレーなどのブラックの色相を有するインクが挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0080】
(収容容器)
本実施形態の収容容器(「インクカートリッジ」、「インク収容部」とも称する)は、上記した本発明のインクと、容器とを有し、前記インクを前記容器中に収容してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材等を有する。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができる。
【0081】
(画像形成装置、及び画像形成方法)
本発明の画像形成装置は、上記した本発明のインクを収容してなる前記収容容器と、付与手段を有し、更に必要に応じて、加熱工程、前処理工程、後処理工程、記録媒体の給送工程、記録媒体の搬送工程、記録媒体の排出工程等のその他の工程を含む。
本発明の画像形成方法は、付与工程を有し、更に必要に応じて、加熱工程、前処理工程、後処理工程、記録媒体の給送工程、記録媒体の搬送工程、記録媒体の排出工程等のその他の工程を含む。
一実施形態として、前記インクがインクジェット用インクであり、前記画像形成装置がインクジェット印刷装置であることが好ましい。また、別の実施形態として、前記インクがスプレー塗装用インクであり、前記画像形成装置がスプレー塗装装置であることが好ましい。
【0082】
<付与手段、及び付与工程>
前記付与手段は、上記した本発明のインクを、記録媒体上に付与する手段であり、記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する手段であることが好ましい。
前記付与工程は、上記した本発明のインクを、記録媒体上に付与する工程であり、記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する工程であることが好ましい。前記付与工程は、前記付与手段により好適に実施できる。
ここで、「記録媒体の記録面に対して略垂直」とは、前記記録面の法線に対して、-10°から10°の範囲を意味し、-5°から5°の範囲が好ましい。
前記記録媒体が凹凸形状を有する場合には、例えば、記録媒体における長辺の1%未満の高さを有する凹凸を考慮せずに、平坦化乃至平滑化した記録面を設定し、当該記録面の法線に対して略垂直であればよい。
【0083】
-記録媒体-
前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、壁紙、床材、タイル等の建築材;建築物壁面;道路標識;バス、タクシー、トラック等の自動車、電車等の車両などが挙げられる。また、前記記録媒体としては、記録面が平坦なものに限られず、3次元の曲面である基材や、前記記録面に凹凸形状を有するような記録媒体も用いることができる。
なお、本発明において、「記録媒体」と「基材」とは同義として用いられる。
【0084】
前記記録媒体の材質としては、特に制限はなく、普通紙、光沢紙、特殊紙等の紙;布などを用いることもできるが、非浸透性基材を用いても良好な画像形成が可能である。また、紙や布に撥水処理を施した基材、無機質の材料を高温で焼成した、いわゆるセラミックス材料からなる基材であってもよい。
前記非浸透性基材とは、水透過性、吸収性が低い表面を有する基材であり、内部に多数の空洞があっても外部に開口していない材質も含まれ、より定量的には、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である基材をいう。
前記非浸透性基材の具体例としては、塩化ビニル樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルム;黄銅、鉄、アルミニウム、SUS、銅等の金属、非金属の基材に蒸着等の手法により金属コーティング処理をしたものなどが挙げられる。
前記金属は、その表面(印刷面)が表面処理されたものであってもよい。表面処理としては、例えば、プライマー塗工などが挙げられる。
【0085】
前記インクは、インクジェット記録方式による各種記録装置、例えば、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、ファックス、コピア複合機、立体造形装置などに好適に使用することができる。
前記インクの用途としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、印刷物、塗料、コーティング材、下地用などに応用することが可能である。また、2次元の文字、画像を形成するだけでなく、3次元の立体像(立体造形物)を形成するための立体造形用材料としても用いることができる。更に、前記インクは乾燥性に優れているため、前記記録媒体の記録面が重力方向に対して略水平方向となるように設置され、前記インクジェット記録用インクの吐出方向が前記記録媒体の記録面に対して垂直方向である場合の印刷も可能であり、且つ耐水性、耐衝撃性、密着性等のインク層の性能が長期にわたって維持できるため、例えば、洗車等によってインク層への擦傷が懸念される車両の側面への印刷に特に好適に用いられる。
なお、本発明において、「記録」と「印刷」と「印字」とは同義として用いられる。
【0086】
<その他の手段、及びその他の工程>
<<加熱手段、及び加熱工程>>
前記加熱手段は、前記記録媒体の記録面やその裏面を加熱する手段である。
前記加熱工程は、前記記録媒体の記録面やその裏面を加熱する工程であり、前記加熱手段により好適に行うことができる。前記加熱工程は、印刷前、印刷中、印刷後などに行うことができる。
加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、温風ヒーター、赤外線ヒーターを用いることができる。
前記加熱工程及び前記加熱手段によって、前記記録媒体に印刷された前記インクが乾燥される。
【0087】
<<前処理手段、及び前処理工程>>
前記前処理手段は、前記記録媒体に前処理液を吐出する手段である。
前記前処理工程は、前記記録媒体に前処理液を吐出する工程であり、前記前処理手段により好適に行うことができる。
前記前処理手段は、前記前処理液を収容する前処理液収容部と、前処理液体吐出ヘッドとを有することが好ましい。
前記前処理液を吐出する方法としては、インクジェット記録方式が好ましいが、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法であってもよい。
【0088】
-前処理液-
前記前処理液は、インクが付与される前に記録媒体に対して付与される。
前記前処理液は、多価金属塩を含み、必要に応じて水、有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤等を含む。水、有機溶剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤はインクに用いる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の処理液に用いられる材料を使用できる。
【0089】
-多価金属塩-
前記多価金属塩は、インク中の色材との電荷的な作用によって会合し、色材の凝集体を形成させ、色材を液相から分離させて記録媒体に対する定着を促進させる。また、前処理液中に多価金属塩を含有させることで、インク吸収性の低い記録媒体を用いたとしてもビーディングを抑制でき、高画質な画像を形成できる。
前記多価金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適切に選択することができ、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
多価金属塩は、2価以上の特定の多価金属イオンと、これら多価金属イオンに結合する陰イオンから構成される。
前記多価金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、ニッケル塩、アルミニウム塩、ホウ素塩、亜鉛塩等が挙げられる。これらの中でも、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましい。
また、カルシウム塩、マグネシウム塩としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0090】
前記前処理液は、上記の他にも有機酸金属塩を含んでいてもよい。
前記有機酸金属塩としては、例えば、パントテン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸のカルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
【0091】
前記多価金属塩の含有量としては、前記前処理液全量に対し、10質量%以上40質量%以下が好ましい。含有量が10質量%以上であると、固形分の凝集効果が得られるようになり、カラーブリードやビーディングの抑制効果が向上する。含有量40質量%以下であると、水分蒸発時に多価金属塩が析出することを抑えることができる。
【0092】
<後処理手段、及び後処理工程>
前記後処理手段は、記録媒体に後処理液を吐出する手段である。
前記後処理工程は、記録媒体に後処理液を吐出する工程であり、前記後処理手段により好適に行うことができる。
前記後処理手段は、前記後処理液を収容する後処理液収容部と、後処理液体吐出ヘッドとを有することが好ましい。
前記後処理液を吐出する方法としては、インクジェット記録方式が好ましいが、インクジェット記録方式以外の、例えば、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法であってもよい。
【0093】
-後処理液-
前記後処理液としては、透明な層を形成することが可能であれば、特に制限はなく、例えば、有機溶剤、水、樹脂、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防腐防黴剤、防錆剤などの中から必要に応じて適宜選択し、混合して得たものであることが好ましい。
前記後処理液における前記有機溶剤、前記水、前記樹脂、前記界面活性剤、前記消泡剤、前記pH調整剤、前記防腐防黴剤、及び前記防錆剤は、前述のインクジェット記録用インクに用いられる材料と同様の材料を使用でき、その他、公知の後処理液に用いられる材料も使用できる。
前記後処理液は、前記記録媒体に形成された印刷領域の全域に塗布してもよいし、前記インクジェット記録用インクによるインク像が形成された領域のみに塗布してもよい。
【0094】
[インクジェット印刷装置]
以下に、一実施形態であるインクジェット印刷装置について説明する。
前記インクジェット印刷装置は、前記インクジェット記録用インクを収容するインク収容部と、付与手段としての前記インクジェット記録用インクを吐出する吐出ヘッドとを有し、更に必要に応じて、加熱手段、加圧室、前処理手段、後処理手段、基材の給送、搬送、又は排紙に係わる手段等のその他の手段を有する。
前記インクジェット印刷装置には、特に限定しない限り、吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、吐出ヘッドを移動させないライン型装置のいずれも含まれる。
更に、前記インクジェット印刷装置には、卓上型だけでなく、A0サイズの記録媒体への印刷も可能とするような広幅の記録装置、例えば、ロール状に巻き取られた連続用紙を基材として用いることが可能な連帳プリンタも含まれる。
また、前記インクジェット記録装置は、前記インクジェット記録用インクによって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、幾何学模様などのパターン等を形成するもの、3次元像を造形するものも含まれる。
【0095】
<インク収容部>
前記インク収容部は、前記インクジェット記録用インクを収容してなる。
前記インク収容部としては、前記インクジェット記録用インクを収容できる部材であれば、特に制限はなく、例えば、インク収容容器、インクタンクなどが挙げられる。
前記インク収容容器としては、前記インクを容器中に収容してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の部材などを有してなる。
前記容器としては、特に制限はなく、目的に応じて、その形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを少なくとも有するものなどが挙げられる。
前記インクタンクとしては、例えば、メインタンク、サブタンクなどが挙げられる。
【0096】
<吐出ヘッド及び吐出工程>
前記吐出ヘッドは、ノズル面に形成されたノズルから本発明のインクジェット記録用インクを吐出する手段であり、ノズルプレートを有し、更に必要に応じて刺激発生部材等のその他の部材を有する。
前記吐出工程は、前記インクジェット記録用インクを吐出する工程である。
前記吐出工程は、前記基材の印刷面が重力方向に対して略水平方向となるように設置され、前記インクジェット記録用インクの吐出方向が、前記基材の印刷面に対して垂直方向であることが好ましい。
【0097】
-ノズルプレート-
前記ノズルプレートは、ノズル基板と、前記ノズル基板上に撥インク膜とを有する。
前記ノズル基板は、ノズル孔を有しておりその数、形状、大きさ、材質、構造などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ノズル基板は、前記ノズル孔から前記インクジェット記録用インクが吐出されるインク吐出側の面と、前記インク吐出側の面とは反対側に位置する液室接合面とを有する。
前記撥インク膜は、前記ノズル基板の前記インク吐出側の面であり、前記基材に対向する面に形成されている。
【0098】
前記ノズル基板の平面形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、長方形、正方形、菱形、円形、楕円形などが挙げられる。
また、前記ノズル基板の断面形状としては、例えば、平板状、プレート状などが挙げられる。
前記ノズル基板の大きさとしては、特に制限はなく、前記ノズルプレートの大きさに応じて適宜選択することができる。
前記ノズル基板の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ステンレス鋼、Al、Bi、Cr、InSn、ITO、Nb、Nb2O5、NiCr、Si、SiO2、Sn、Ta2O5、Ti、W、ZAO(ZnO+Al2O3)、Znなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記ノズル基板の材質は、防錆性の点から、ステンレス鋼が好ましい。
前記ステンレス鋼としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
前記ノズル基板の少なくとも前記インク吐出側の面は、前記撥インク膜と前記ノズル基板との密着性を向上させる点から、酸素プラズマ処理を行って水酸基を導入してもよい。
前記ノズル孔の数、配列、間隔、開口形状、開口の大きさ、開口の断面形状などについては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記ノズル孔の配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、複数の前記ノズル孔が、前記ノズル基板の長さ方向に沿って等間隔に並んで配列されている態様などが挙げられる。
前記ノズル孔の配列は、吐出するインクの種類に応じて適宜選定することができるが、1列~複数列が好ましく、1列~4列がより好ましい。
前記1列当たりの前記ノズル孔の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、10個以上10,000個以下が好ましく、50個以上500個以下がより好ましい。
隣接する前記ノズル孔の中心間の最短距離である間隔(ピッチ)Pとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、21μm以上169μm以下が好ましい。
前記ノズル孔の開口形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円形、楕円形、四角形などが挙げられる。これらの中でも、前記ノズル孔の開口形状は、前記インクジェット記録用インクの液滴を吐出する点から、円形が好ましい。
【0100】
-撥インク膜-
前記撥インク膜としては、撥インク性の点から、シリコーン樹脂、又はフッ素樹脂を含有することが好ましい。
前記撥インク膜は、撥インク材料含有膜、ポリマー含有膜、シリコーン樹脂含有膜、フッ素樹脂含有膜などと称することもある。
【0101】
--シリコーン樹脂--
前記シリコーン樹脂は、SiとOからできたシロキサン結合を基本骨格とした樹脂であり、オイル、レジン、エラストマー等の種々の形態で市販されており、撥インク性以外にも耐熱性、離型性、消泡性、粘着性等種々の特性を備えている。前記シリコーン樹脂は常温硬化、加熱硬化、紫外線硬化型等があり、作製方法、使用用途に応じて選択できる。
前記シリコーン樹脂を含有する撥インク膜をノズル面(前記インク吐出側)上に形成する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液状のシリコーン樹脂材料を真空蒸着する方法、シリコーンオイルをプラズマ重合することにより形成する方法、スピンコート、ディッピング、スプレーコート等の塗布により形成する方法、電着法などが挙げられる。前記撥インク層を形成する際には、電着法以外ではノズル孔及びノズルプレートの前記インク吐出側の面とは反対側の面をフォトレジスト、水溶性樹脂等でマスキングし、撥インク層形成後、レジストを剥離除去すればノズルプレートの吐出側の面のみに、シリコーン樹脂を含有する撥インク層を形成することができる。この場合、アルカリ性の強い剥離液を使用すると撥インク層へダメージを与えるので、注意が必要である。
前記シリコーン樹脂を含む撥インク膜の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm以上5.0μm以下が好ましく、0.1μm以上1.0μm以下がより好ましい。
【0102】
--フッ素樹脂--
前記フッ素樹脂としては、特に制限はないが、含フッ素アクリレートエステル重合体、又は主鎖に含フッ素ヘテロ環状構造を有する重合体が好ましい。
前記撥インク膜が、前記含フッ素アクリレートエステル重合体、又は主鎖に含フッ素ヘテロ環状構造を有する重合体を含むことにより、表面自由エネルギーが非常に小さくなり、本発明で用いる表面張力の低いインクであっても濡れ難い状態を維持できるので好ましい。
前記含フッ素アクリレートエステル重合体におけるフッ素の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、撥インク(接触角)の点から、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。
前記含フッ素アクリレートエステル重合体としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記市販品としては、例えば、krytox(登録商標)FSL、krytox(登録商標)FSH(以上、デュポン社製)、FomblinZ、FLUOROLINKS10(以上、ソルベイソレクシス社製)、オプツールDSX(ダイキン工業株式会社製)、モレスコホスファロールA20H、モレスコホスファロールADOH、モレスコホスファロールDDOH(以上、株式会社MORESCO製)、フロロサーフFG5010、フロロサーフFG5020、フロロサーフFG5060、フロロサーフFG5070(以上、株式会社フロロテクノロジー製)、サイトップCTX-105、サイトップCTX-805(以上、AGC株式会社製)、テフロン(登録商標)AF1600、テフロン(登録商標)AF2400(デュポン社製)などが挙げられる。
【0103】
前記撥インク膜は、前記含フッ素アクリレートエステル重合体骨格を分子中に含む化合物膜で構成されている。前記ノズルプレートと前記撥インク膜の間には、含フッ素アクリレートエステル重合体骨格を分子中に含む化合物との結合点となる水酸基を多く存在させて密着性を向上させるために、無機酸化物層を設けることもできる。
前記無機酸化物層の材料としては、例えば、SiO2、TiO2などが挙げられる。
前記無機酸化物層の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001μm以上0.2μm以下が好ましく、0.01μm以上0.1μm以下がより好ましい。
前記含フッ素アクリレートエステル重合体骨格を分子中に含む化合物による撥インク膜の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フッ素系溶剤を用いたスピンコート、ロールコート、ディッピング等の塗布、印刷、真空蒸着等の方法が挙げられる。
前記フッ素系溶剤としては、例えば、ノベック(スリーエムジャパン株式会社製)、バートレル(デュポン社製)、ガルデン(ソルベイソレクシス社製)、アフルード(登録商標)(AGC旭硝子株式会社製のフッ素系溶剤)、フロリナートFC-75(スリーエムジャパン株式会社製のパーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)を含んだ液体)などが挙げられる。
【0104】
-刺激発生部材-
前記吐出ヘッドから前記インクジェット記録用インクを吐出させる方法としては、特に制限はないが、前記刺激発生部材から前記インクジェット記録用インクに印加する刺激を発生させて、該インクジェット記録用インクを吐出させる方法などが挙げられる。
前記刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱(温度)、圧力、振動、光などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記刺激は、熱、圧力が好適に挙げられる。
【0105】
前記刺激発生部材としては、例えば、加熱部材、加圧部材、圧電素子、振動発生部材、超音波発振器、ライトなどが挙げられる。前記刺激発生部材の具体的としては、圧電素子等の圧電アクチュエータ、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いて前記インクジェット記録用インクの膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
前記刺激が「熱」の場合、前記吐出ヘッド内の前記インクジェット記録用インクに対し、記録信号に対応した熱エネルギーを、例えば、サーマルヘッド等を用いて付与する。
前記熱エネルギーにより前記インクジェット記録用インクに気泡を発生させ、前記気泡の圧力により、前記ノズルプレートの前記ノズル孔から前記インクジェット記録用インクを液滴として吐出させる方法などが挙げられる。
【0107】
前記刺激が「圧力」の場合、例えば、前記インク吐出ヘッド内のインク流路内にある前記圧力室と呼ばれる位置に接着された前記圧電素子に電圧を印加することにより、前記圧電素子が撓む。
圧電素子が撓むことにより、前記圧力室の容積が収縮して、前記吐出ヘッドの前記ノズル孔から前記インクジェット記録用インクを液滴として吐出させる方法などが挙げられる。
これらの中でも、前記刺激が「圧力」の場合には、ピエゾ素子に電圧を印加して前記インクジェット記録用インクを飛翔させるピエゾ方式が好ましい。
【0108】
-加圧室-
前記加圧室は、前記ノズルプレートに設けられた複数の前記ノズル孔に個別に対応して配置される。前記加圧室は、前記ノズル孔と連通する複数の個別流路であり、インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室などと称することもある。
【0109】
ここで、本実施形態の画像形成装置の一態様について、シリアル型のインクジェット記録装置の図面を参照しながら説明する。
図3に示すインクジェット記録装置は、装置本体(101)と、装置本体(101)に用紙を装填するための給紙トレイ(102)と、装置本体(101)に装填され画像が形成(記録)された用紙をストックするための排紙トレイ(103)と、インクカートリッジ装填部(104)とを有する。インクカートリッジ装填部(104)の上面には、操作キーや表示器などの操作部(105)が配置されている。インクカートリッジ装填部(104)は、インクカートリッジ(201)の脱着を行うための開閉可能な前カバー(115)を有している。
【0110】
装置本体(101)内には、
図3及び
図4に示すように、図示を省略している左右の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド(131)とステー(132)とでキャリッジ(133)を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータ(不図示)によって
図5で矢示方向に移動走査する。
キャリッジ(133)には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)クリア(CL)の各色のインクジェット用インク滴を吐出する5個のインクジェット記録用ヘッドからなる記録ヘッド(134)を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
記録ヘッド(134)を構成するインクジェット記録用ヘッドとしては、圧電素子などの圧電アクチュエータ、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いて液体の膜沸騰による相変化を利用するサーマルアクチュエータ、温度変化による金属相変化を用いる形状記憶合金アクチュエータ、静電力を用いる静電アクチュエータなどインクを吐出するためのエネルギー発生手段として備えたものなどを使用できる。
また、キャリッジ(133)には、記録ヘッド(134)に各色のインクを供給するための各色のサブタンク(135)を搭載している。サブタンク(135)には、図示しないインクジェット用インク供給チューブを介して、インクカートリッジ装填部(104)に装填されたインクカートリッジ(201)からインクジェット用インクが供給されて補充される。
【0111】
一方、給紙トレイ(102)の用紙積載部(圧板)(141)上に積載した用紙(142)を給紙するための給紙部として、用紙積載部(141)から用紙(142)を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ(143))、及び給紙コロ(143)に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド(144)を備え、この分離パッド(144)は給紙コロ(143)側に付勢されている。
この給紙部から給紙された用紙(142)を記録ヘッド(134)の下方側で搬送するための搬送部として、用紙(142)を静電吸着して搬送するための搬送ベルト(151)と、給紙部からガイド(145)を介して送られる用紙(142)を搬送ベルト(151)との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ(152)と、略鉛直上方に送られる用紙(142)を略90°方向転換させて搬送ベルト(151)上に倣わせるための搬送ガイド(153)と、押さえ部材(154)で搬送ベルト(151)側に付勢された先端加圧コロ(155)が備えられる。また、搬送ベルト(151)表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ(156)が備えられている。
【0112】
搬送ベルト(151)は、無端状ベルトであり、搬送ローラ(157)とテンションローラ(158)との間に張架されて、ベルト搬送方向に周回可能である。この搬送ベルト(151)は、例えば、抵抗制御を行っていない厚み40μm程度の樹脂材、例えば、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)で形成した用紙吸着面となる表層と、この表層と同材質でカーボンによる抵抗制御を行った裏層(中抵抗層、アース層)とを有している。搬送ベルト(151)の裏側には、記録ヘッド(134)による印刷領域に対応してガイド部材(161)が配置されている。なお、記録ヘッド(134)で記録された用紙(142)を排紙するための排紙部として、搬送ベルト(151)から用紙(142)を分離するための分離爪(171)と、排紙ローラ(172)及び排紙コロ(173)とが備えられており、排紙ローラ(172)の下方に排紙トレイ(103)が配されている。
装置本体(101)の背面部には、両面給紙ユニット(181)が着脱自在に装着されている。両面給紙ユニット(181)は、搬送ベルト(151)の逆方向回転で戻される用紙(142)を取り込んで反転させて再度カウンタローラ(152)と搬送ベルト(151)との間に給紙する。なお、両面給紙ユニット(181)の上面には手差し給紙部(182)が設けられている。
【0113】
このインクジェット記録装置においては、給紙部から用紙(142)が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された用紙(142)は、ガイド(145)で案内され、搬送ベルト(151)とカウンタローラ(152)との間に挟まれて搬送される。 更に先端を搬送ガイド(153)で案内されて先端加圧コロ(155)で搬送ベルト(151)に押し付けられ、略90°搬送方向を転換される。
このとき、帯電ローラ(156)によって搬送ベルト(151)が帯電されており、用紙(142)は、搬送ベルト(151)に静電吸着されて搬送される。そこで、キャリッジ(133)を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド(134)を駆動することにより、停止している用紙(142)にインク滴を吐出して1行分を記録し、用紙(142)を所定量搬送後、次行の記録を行う。記録終了信号又は用紙(142)の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、用紙(142)を排紙トレイ(103)に排紙する。
そして、サブタンク(135)内のインクジェット用インクの残量ニヤエンドが検知されると、インクカートリッジ(201)から所要量のインクジェット用インクがサブタンク(135)に補給される。
【0114】
なお、キャリッジが走査するシリアル型(シャトル型)インクジェット記録装置に適用した例で説明したが、ライン型ヘッドを備えたライン型インクジェット記録装置にも同様に適用することができる。
【実施例0115】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0116】
<樹脂被覆型シアン顔料分散液の調製>
<<ポリマー溶液Aの調製>>
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管、及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g、及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。
次に、スチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g、及びメチルエチルケトン18gの混合液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50質量%のポリマー溶液Aを800g得た。
【0117】
<<樹脂被覆型シアン顔料分散液の調製>>
ポリマー溶液A 28g、フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)42g、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液13.6g、メチルエチルケトン20g、及びイオン交換水13.6gを十分に攪拌した後、ロールミルを用いて混練した。得られたペーストを純水200gに投入し、充分に攪拌した後、エバポレーターを用いてメチルエチルケトン及び水を留去し、更に粗大粒子を除くために、この分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、顔料を15質量%含有し、固形分濃度20質量%の樹脂被覆型シアン顔料分散液を得た。
得られた樹脂被覆型シアン顔料分散液における樹脂微粒子の体積基準の平均粒子径(D50)を測定したところ、95nmであった。なお、体積基準の粒子径(D50)の測定は、粒度分布測定装置(日機装株式会社製、ナノトラックUPA-EX150)を用いた。
【0118】
<樹脂分散体1の製造>
ジオールとしてのTEGOMER D3403(Evonik Industries AG社製)50部、ポリエーテルジオールとしてのPTMG2000(三菱化学株式会社製)120部、ポリカーボネートジオールとしてのデュラノール G4672(旭化成株式会社製)240部、側鎖にカルボキシル基を有するジオールとしての2,2-ジメチロールプロピオン酸35部、低分子ポリオールとしての1,4-ブタンジオール115部、ポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート435部及び反応用有機溶剤としてのメチルエチルケトン540部を仕込み、80℃で12時間攪拌しウレタン化反応を行い、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(P1)のメチルエチルケトン溶液を製造した。
【0119】
次いで、得られたウレタンプレポリマー(P1)のメチルエチルケトン溶液に中和剤としてのトリエチルアミン25.0部を加えて均一化した後、200rpmで攪拌しながら水性媒体としてのイオン交換水2,300部を加え、ポリウレタンプレポリマーを水に分散させた。
得られた分散体を50℃に加熱して4時間攪拌して水による伸長反応を行い、更に減圧下60℃に加熱してメチルエチルケトンを留去した。その後、水を加えて固形分濃度を30重量%に調製することでウレタン樹脂分散体である樹脂分散体1を得た。
得られた樹脂分散体1のガラス転移温度は8.0℃、融点は53.3℃であった。
【0120】
<樹脂分散体2の製造>
攪拌機、温度計、窒素シール管及び冷却器の付いた容量2Lの反応容器に、メチルエチルケトンを100質量部、ポリエステルポリオール(1)(iPA/AA=6/4(モル比)とEG/NPG=1/9(モル比)から得られたポリエステルポリオール、数平均分子量:2,000、平均官能基数:2、iPA:イソフタル酸、AA:アジピン酸、EG:エチレングリコール、及びNPG:ネオペンチルグリコール)345質量部、及び2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)9.92質量部を仕込み、60℃にて均一に混合した。
その後、トリエチレングリコールジイソシアネート(TEGDI)40.5質量部、及びジオクチルチンジラウレート(DOTDL)0.08質量部を仕込み、72℃で3時間反応させて、ポリウレタン溶液を得た。
【0121】
このポリウレタン溶液に、イソプロパノール(IPA)80質量部、メチルエチルケトン(MEK)220質量部、トリエタノールアミン(TEA)3.74質量部、及び水596質量部を仕込んで転相させた後、ロータリーエバポレーターにてMEK及びIPAを除去して、ポリエステル系ウレタン樹脂分散体である樹脂分散体2を得た。
得られた樹脂分散体2を常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化ナトリウム水溶液を添加して固形分濃度30質量%に調整した。
得られた樹脂分散体2のガラス転移温度は-4.0℃、融点は45.6℃であった。
【0122】
<樹脂分散体3の製造>
攪拌機、還流冷却管、及び温度計を挿入した反応容器に、ポリカーボネートジオール(1,6-ヘキサンジオールとジメチルカーボネートとの反応生成物(数平均分子量(Mn)1,000)1,500質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸(以下、「DMPA」とも称することがある)220質量部、及びN-メチルピロリドン(以下、「NMP」とも称することがある)1,347質量部を窒素気流下で仕込み、60℃に加熱してDMPAを溶解させた。
次に、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート1,615質量部、及びジブチルスズジラウリレート(触媒)2.6質量部を加えて90℃まで加熱し、5時間かけてウレタン化反応を行い、イソシアネート末端ウレタンプレポリマーを得た。
【0123】
この反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン194質量部を添加し、混合したものの中から4,340質量部を抜き出して、強攪拌下、水5,400質量部、及びトリエチルアミン15質量部の混合溶液の中に加えた。
次に、氷1,500質量部を投入し、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液783質量部を加えて鎖延長反応を行い、固形分濃度が30質量%となるように溶剤を留去し、ポリカーボネートウレタン樹脂分散体である樹脂分散体3を得た。
得られた樹脂分散体3のガラス転移温度は50.0℃、融点は57.6℃であった。
【0124】
<樹脂分散体4の製造>
<<ポリエステルポリオールの合成>>
0.5Lのセパラブルフラスコに、窒素を導入しながら、プロピレングリコール177g、テレフタル酸ジメチル129g、アジピン酸ジメチル174gを仕込み、130℃で溶融した。これらが溶融したところで、チタンテトライソプロポキシド0.14gを加え、攪拌しながら230℃まで3~4時間かけて昇温し、230℃でさらに2~3時間反応させた。その後、チタンテトライソプロポキシド0.07gを追加して2時間保持した後、窒素導入を止め、15kPa減圧下でさらに2時間反応させることで、ポリエステルポリオールを得た。
【0125】
<<樹脂分散体4の製造>>
攪拌翼、温度計、及び還流管を備えた0.5Lのセパラブルフラスコに、窒素を導入しながら、前記ポリエステルポリオールを100g、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸6.2g、トリエチルアミン3.3g、アセトン81gを仕込み、40℃に加熱して原材料を溶解させた。 次いで、イソホロンジイソシアネート41g、2-エチルヘキサン酸スズ(II)を1滴加え、80℃に昇温し、4時間反応させた。その後、40℃まで降温し、水278gを加えて微粒子化し、さらにジエチレントリアミン2.3gを加え、4時間反応させた。 最後に、アセトンを除去することにより、固形分濃度31質量%のポリエステル系ウレタン樹脂分散体である樹脂分散体4を得た。
得られた樹脂分散体4のガラス転移温度は19.8℃、融点は58.9℃であった。
【0126】
<樹脂分散体5の製造>
-ウレタン樹脂エマルジョンの調製-
攪拌機、及びジャケットを備えたオートクレーブ反応装置にMn500の非晶性ポリカーボネートジオール(デュラノールT5651、旭化成株式会社製)500g、ジメチロールプロピオン酸45.8g、イソホロンジイソシアネート(IPDI)358g、トリエチルアミン29.4g、及びアセトン650gを、窒素を導入しながら仕込んだ。その後、80℃に加熱し5時間かけてウレタン化反応を行い、プレポリマーを製造した。
系を40℃に戻した後、該温度に保った。系中に存在するNCO%を確認した後、水をゆっくり加え、30分間加熱攪拌した後、伸長剤としてイソホロンジアミン(IPDA)を加え、3~6時間加熱攪拌した。最後に有機溶剤を除去することで、固形分濃度31質量%のポリカーボネートウレタン樹脂分散体である樹脂分散体5を得た。
得られた樹脂分散体5のガラス転移温度は-22.0℃、融点は41.6℃であった。
【0127】
<樹脂分散体のガラス転移温度、及び融点の測定方法>
樹脂分散体1~5のガラス転移温度、及び融点は、以下のようにして測定した。
5gの樹脂分散体をテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)製シャーレに均一に広がるように容器に入れ、50℃で1週間減圧乾燥させて樹脂分散体の乾燥物を得た。
乾燥させた樹脂分散体について、各々熱特性を示差走査熱量計(DSC)(Q2000、TAインスツルメンツ社製)を用いて以下の測定条件にて測定した。「吸発熱量」と「温度」とのグラフを作成し、第一昇温過程にて観測される特徴的な変曲を、ガラス転移温度(Tg)とした。なお、Tgは、DSC曲線からミッドポイント法によって解析した値を使用した。
融点は、第二昇温過程にて得られる補外融解開始温度とした。
ここで、補外融解開始温度とは、JIS K-7121で規定される、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大となる点で引いた接線の交点の温度であり、いわゆる、融解ピーク温度に至る吸熱が開始される温度をいう。
【0128】
-測定条件-
サンプル容器:アルミニウム製サンプルパン(蓋有り)
サンプル量:5mg
リファレンス:アルミニウム製サンプルパン(空の容器)
雰囲気:窒素(流量50mL/min)
開始温度:-80℃
第一昇温速度:10℃/min
終了温度:130℃
保持時間:1min
降温速度:10℃/min
終了温度:-80℃
保持時間:5min
第二昇温速度:10℃/min
終了温度:130℃
【0129】
(実施例1)
<インクジェット記録用インクの作製>
下記の表2に示す組成、及び含有量で、攪拌機を備えた容器に、色材としての樹脂被覆型シアン顔料分散液、樹脂、有機溶剤、界面活性剤、浸透剤、消泡剤、及び防腐剤を入れ、15分間攪拌して均一に混合した。次いで、pH調整剤を加え、pHが9.0となるように調整し、全体が100質量部となる量の高純水を加え、20分間混合攪拌した。この混合液を平均孔径0.5μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子を除去してインクジェット記録用インクであるインク1を作製した。
なお、表2中の各数値は、質量部である。
【0130】
(実施例2~14、及び比較例1~6)
実施例1において、表2に示す通り、組成、及び含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~14のインク2~14、及び比較例1~6のインクa~fを作製した。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
上記表2-1~表2-3に記載の各成分の詳細は、下記の通りである。
-界面活性剤-
・ポリエーテル変性シリコーン化合物:シルフェイスSAG503A(日信化学工業株式会社製、HLB値=11)
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル:TRITON(登録商標) HW-1000(ダウ・ケミカル社製、HLB値=10)
・ポリエーテル変性シロキサン化合物:TEGO WET-270(エボニック社製、HLB値=8.6)
-浸透剤-
・EHO:3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(UBE株式会社製)
-消泡剤-
・脂肪族ジアルコール系界面活性剤:サーフィノール AD01(日信化学工業株式会社製)
-防腐剤-
・ベンゾイソチアゾリン系防腐剤:Proxcel LV(アーチ・ケミカルズ・ジャパン製)
【0135】
実施例1~14のインク1~14、及び比較例1~6のインクa~fについて、以下のようにして、インク層の表面自由エネルギーのパラメータとして、表面自由エネルギーの極性成分γS
P、及び分散成分γS
dをそれぞれ算出し、極性成分γS
P、及び分散成分γS
dの和である表面自由エネルギーγS、及び比(γS
P/γS)を求めた。結果を下記表3-1に示す。
また、各インクについて、吐出安定性、耐水性、及び耐ブロッキング性を評価した。また、各評価における外観を観察した。結果を下記表3-2に示す。
【0136】
<インク層の表面自由エネルギーのパラメータ測定>
<<インク層の作製>>
23℃±0.5℃、50±5%RHの環境条件下で、オートボディプリンター(株式会社リコーデジタルペインティング製)を用いて、各インクの塗布量が1.0g/m2となるように制御し、アルミ板(飯田金商株式会社製)の表面全面にインクを塗布したべた画像を形成し、ヘッドモジュールに付随した温風乾燥機で50℃、30秒間乾燥させてインクを乾燥してなるインク層を得、その後、縦10cm、横10cmサイズに切り出し、インク層の表面自由エネルギー測定用サンプルとした。
【0137】
<<インク層の表面自由エネルギーのパラメータ測定>>
得られたインク層上に高純水を着滴させて接触角を測定し、下記式(3)で示されるYoung-Dupre式によって、接着仕事Waを算出した。接触角の測定には、DMo-501(協和界面科学株式会社製)を用いた。接触角は着滴後1,000msでの値とし、5回測定した平均値を採用した。
Wa=γL(1+cosθ) ・・・(3)
【0138】
また、高純水の静的表面張力:γ
Lは、25℃環境下で、自動表面張力計(DY-300、協和界面株式会社)を用いて測定した。
一方、インク層(固体)の表面張力:γ
Sは、Fowkes-Owensモデルによる2液法にて間接的に測定した。
具体的には、分散成分、及び極性成分が既知であるプローブ液体2種(純水、及びジヨードメタン)を用いてインク層上の接触角を測定し、下記式(8)より、その切片からインク層の表面自由エネルギーの分散成分γ
S
dを求め、その傾きからインク層の表面自由エネルギーの極性成分γ
S
Pを求めた。
求めた極性成分γ
S
P、及び分散成分γ
S
dより、それらの和である表面自由エネルギーγ
S、及び比(γ
S
P/γ
S)を求めた。
【数4】
【0139】
<インクの吐出安定性>
インクジェットプリンタ(IPSiO GXe5500、株式会社リコー製)を用い、インクの吐出量が均しくなるようにピエゾ素子の駆動電圧を変動させ、MicrosoftWord2016にて作成した一色当りA4サイズ用紙の面積5%をベタ画像にて塗りつぶすチャートを1枚、マイペーパー(株式会社NBSリコー製)に打ち出して吐出乱れがないことを確認した。その後、プリンタの維持キャップをノズルから離してノズルを開放状態にした後、40℃10%RH環境に3時間放置した。その後、初期と同じチャートを印字して各ノズルの吐出乱れを以下の基準で評価した。印字モードはプリンタ添付のドライバで普通紙のユーザー設定より「普通―標準速い」モードを「色補正なし」と改変したモードを使用した。
下記評価基準に基づいて分類し、インクの吐出安定性を評価した。「△」以上が実用範囲である。
[評価基準]
○:全ノズル吐出する
△:吐出しないノズルが10個未満である
×:吐出しないノズルが10個以上である
【0140】
<インクの保存安定性>
各インクをインクカートリッジに充填して60℃で3週間保存し、インクの増粘及び凝集の状態を目視で観察し、下記評価基準によりインクの保存安定性を評価した。「○」以上が実用範囲である。
[評価基準]
◎:インクの増粘及び凝集は全く見られない
○:インクの凝集がわずかに見られる
△:インクの明らかな増粘及び凝集が見られる
×:インクの著しい増粘及び凝集が見られる
【0141】
<インク層の耐水性>
前記「インク層の表面自由エネルギー測定用サンプル」と同様の方法により調製した、アルミ板上にシアンインクのベタ画像を形成したインク層サンプルを、25℃の水に1分間浸漬して処理前後の画像濃度の変化を反射型カラー分光測色濃度計(X-Rite社製)で測定し、下記式により耐水性(退色率%)を求めた。以下の評価基準でインク層の耐水性を評価した。「△」以上が実用範囲である。
(式)
退色率(%)=[1-(処理後の画像濃度/処理前の画像濃度)]×100
[評価基準]
〇:退色率が、10%未満である
△:退色率が、10%以上30%未満である
×:退色率が、30%以上である
【0142】
<インク層の耐擦傷性>
前記「インク層の表面自由エネルギー測定用サンプル」と同様の方法により調製した、アルミ板上にシアンインクのベタ画像を形成したインク層サンプルを自動摩擦摩耗解析装置(TSf-303、協和界面科学株式会社製)にセットし、水を染み込ませたラッピングフィルムで表面を摺擦し、試験前後の濃度差をΔODとした。このときの荷重は80gとし、ラッピングフィルムとして、3MTMラッピングフィルムシート砥粒(酸化アルミニウム粒度:9μm、3M社製)を用いた。以下の評価基準でインク層の耐擦傷性を評価した。「△」以上が実用範囲である。
[評価基準]
○:ΔODが、0.5未満である
△:ΔODが、0.5以上0.8未満である
×:ΔODが、0.8以上である、又はインク層剥がれ乃至インク層のひび割れがある
【0143】
<インク層の耐ブロッキング性>
日本紙パルプ技術協会が発行するTAPPI T477試験方法を参考として、アルミ板上に作成した3cm四方のベタ画像部と、インクを付与していない同じアルミ板を重ね合わせ、10cm四方のガラス板を載せて、荷重1kg/m2を印加し、23℃、50%RHの環境下に24時間放置した後、重ね合わせた2枚のアルミ板を剥がした。このときのアルミ板同士の剥がれ易さ、及び剥がした後の接着状態及び粘着状態を目視で観察して、以下の評価基準でインク層の耐ブロッキング性を評価した。「ランク4」以上が実用範囲である。
[評価基準]
ランク5:アルミ板同士が粘着又は接着しない
ランク4:アルミ板同士が僅かに粘着する
ランク3:アルミ板同士が一部粘着しているが、引き離すことはできる
ランク2:アルミ板同士が完全に密着融合しており、引き離そうとすればインク層が剥がれる
【0144】
<インク層の外観>
各評価後のインク層について外観を目視により観察した。
【0145】
【0146】
【0147】
表3-1及び表3-2の結果より、実施例1~14及び比較例1~5における極性成分γ
s
p値と、インク層の耐擦傷性のΔOD値とをプロットし、両者の相関を検討した(
図6)。その結果、相関係数が0.913であり、インク層の表面自由エネルギーを構成する極性成分γ
s
pと、耐水性との間に相関があることが分かった。
また、インク層の表面自由エネルギーγ
Sに対する極性成分γ
S
Pの比(γ
S
P/γ
S)を10%以上50%以下、好ましくは10%以上40%以下に制御することによりインク層の耐水性を改善できることが分かった。
加えて、前記一般式(1)で表される有機溶剤を採用することにより貯蔵安定が高く、吐出安定性の高い水性インク組成物を得ることができることが分かった。
さらに、ガラス転移温度が-20℃~20℃である樹脂分散体を採用することによりインク層のベタツキが少なく、ひび割れが発生することのない印刷物を得ることができることが分かった。
【0148】
本発明の態様としては、例えば、以下の通りである。
<1> 水、色材、樹脂、及び有機溶剤を含むインクであって、
前記インクを乾燥してなるインク層の25℃における表面自由エネルギーγ
Sの極性成分γ
S
pが、3.5mJ/m
2以上20mJ/m
2以下であることを特徴とするインクである。
<2> 前記インク層の表面自由エネルギーγ
Sに対する前記極性成分γ
S
pの比(γ
S
p/γ
S)が、10%以上40%以下である前記<1>に記載のインクである。
<3> 前記有機溶剤が、下記一般式(1)で表される有機溶剤を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載のインクである。
【化2】
前記一般式(1)中、nは0から3の整数を示す。
<4> 前記樹脂が、ウレタン樹脂を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載のインクである。
<5> 前記樹脂のガラス転移温度が、-20℃以上20℃以下である前記<1>から<4>のいずれかに記載のインクである。
<6> 前記樹脂の示差走査熱量測定による融点が、40℃以上60℃以下である前記<1>から<5>のいずれかに記載のインクである。
<7> 前記樹脂の含有量が、3質量%以上10質量%以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載のインクである。
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のインクを収容してなる収容容器と、
前記インクを記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する付与手段と、を有することを特徴とする画像形成装置である。
<9> 前記<1>から<7>のいずれかに記載のインクを、記録媒体の記録面に対して略垂直に付与する付与工程を含むことを特徴とする画像形成方法である。
【0149】
前記<1>から<7>のいずれかに記載のインク、前記<8>に記載の画像形成装置、前記<9>に記載の画像形成方法は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。