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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047796
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】クレーンおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/22 20060101AFI20240401BHJP
   B66C 19/00 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
B66C13/22 J
B66C19/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153489
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】吉浦 慎一
【テーマコード(参考)】
3F204
【Fターム(参考)】
3F204AA03
3F204BA04
3F204CA01
3F204DA02
3F204DA10
3F204DB02
3F204DC01
3F204DD03
(57)【要約】
【課題】上下方向を中心とするクレーンの姿勢を制御できるクレーンおよびその制御方法を提供する。
【解決手段】クレーン1の位置を検出する位置検出機構13をクレーン1が備えていて、位置検出機構13からクレーン1の位置情報を制御機構が取得する取得ステップと、第一走行装置4aの走行速度に対する第二走行装置4bの走行速度の割合である補正値が走行方向yの位置に応じて予め設定されたマップ情報および位置情報に基づきクレーン1の位置に対応する補正値を制御機構が決定する決定ステップと、補正値に基づいて、第一走行装置4aの走行速度に対する第二走行装置4bの走行速度を制御機構が制御する決定ステップとを備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行方向を直角に横断する横行方向に間隔をあけて対置される第一走行装置および第二走行装置と、前記第一走行装置および前記第二走行装置に支持される構造体と、この構造体の一部を構成して横行方向に延設される水平部材と、この水平部材に沿って横行可能に構成されるトロリと、前記第一走行装置および前記第二走行装置の走行速度を独立して制御する制御機構とを備えるクレーンの制御方法において、
前記クレーンの位置を検出する位置検出機構を前記クレーンが備えていて、
前記位置検出機構から前記クレーンの位置情報を前記制御機構が取得する取得ステップと、
前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度の割合である補正値が走行方向の位置に応じて予め設定されたマップ情報と、前記位置情報とに基づき前記補正値を前記制御機構が決定する決定ステップと、
前記補正値に基づいて、前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度を前記制御機構が制御する実行ステップとを備えることを特徴とするクレーンの制御方法。
【請求項2】
上下方向を中心軸とする前記クレーンの姿勢を測定する姿勢測定機構を前記クレーンが備えていて、
前記姿勢測定機構から前記クレーンの姿勢情報を前記制御機構が取得する第二取得ステップと、
走行方向に沿って予め設定される基準線の座標情報と前記姿勢情報とに基づき前記基準線に対する前記水平部材の傾きを前記制御機構が演算する傾き演算ステップと、
前記傾き演算ステップで得られた傾きが予め設定される範囲内となる状態を目標として、前記決定ステップで決定された前記補正値を修正する修正値が決定される修正ステップとを備えていて、
前記修正値により修正された前記補正値に基づき前記第二走行装置の走行速度を前記制御機構が制御する構成を前記実行ステップが有する請求項1に記載のクレーンの制御方法。
【請求項3】
前記修正ステップで得られる前記修正値に基づき、前記マップ情報の前記補正値を前記制御機構が書き換える書換ステップを備える請求項2に記載のクレーンの制御方法。
【請求項4】
走行方向を直角に横断する横行方向に間隔をあけて対置される第一走行装置および第二走行装置と、前記第一走行装置および前記第二走行装置に支持される構造体と、この構造体の一部を構成して横行方向に延設される水平部材と、この水平部材に沿って横行可能に構成されるトロリと、前記第一走行装置および前記第二走行装置の走行速度を独立して制御する制御機構とを備えるクレーンにおいて、
前記クレーンの位置を検出する位置検出機構を備えていて、
前記制御機構は、前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度の割合である補正値が走行方向の位置に応じて予め設定されるマップ情報と、前記位置検出機構から取得した前記クレーンの位置情報とに基づき前記補正値を決定して、この補正値に基づいて前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度を制御する構成を有することを特徴とするクレーン。
【請求項5】
上下方向を中心軸とする前記クレーンの姿勢を測定する姿勢測定機構を備えていて、
前記制御機構が、走行方向に沿って予め設定される基準線の座標情報と、前記姿勢測定機構から取得した前記クレーンの姿勢情報とに基づき、前記基準線に対する前記水平部材の傾きを演算して、この傾きが予め設定される範囲内となる状態を目標として前記補正値を修正する修正値を決定して、前記修正値により修正された前記補正値に基づき前記第二走行装置の走行速度を制御する構成を有する請求項4に記載のクレーン。
【請求項6】
前記第一走行装置と前記第二走行装置とが、走行方向に沿って延設されるレールと接触可能に構成される複数の車輪を有していて、
前記車輪が前記レールの上面に接触可能に構成される踏面を有していて、前記レールの延在方向と直交する幅方向において前記レールの上面の長さに対して前記踏面が150%以上の長さを有する請求項4または5に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンテナ等を荷役するクレーンおよびその制御方法に関するものであり、詳しくは上下方向を中心とするクレーンの姿勢を制御できるクレーンおよびその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
岸壁に敷設されるレールの上を走行する岸壁クレーンが種々提案されている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載の岸壁クレーンは、岸壁クレーンの走行方向を直角に横断する横行方向に間隔をあけて敷設される一対のレールに沿って走行する。この岸壁クレーンは、海側走行装置と陸側走行装置との走行速度を独立して制御することでブームの振れを抑制できる。
【0003】
地震や地盤沈下等の影響により、岸壁に敷設される一対のレールの横行方向における間隔(以下、スパンということがある)が変化することがあった。また走行方向に沿って敷設されたレールが、横行方向に湾曲することがあった。スパンの変化やレールの湾曲により、上下方向を中心として岸壁クレーン自体が傾く可能性があった。
【0004】
岸壁クレーンが傾くと、コンテナ船に整列しているコンテナの列に対してブームが傾く不具合が発生する。この場合、ブームに沿って横行するトロリは、コンテナの列に対して走行方向にずれて移動してしまう。荷役時のクレーンの位置決めが困難となり、岸壁クレーンの荷役効率が低下する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2020-138869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は上下方向を中心とするクレーンの姿勢を制御できるクレーンおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するためのクレーンの制御方法は、走行方向を直角に横断する横行方向に間隔をあけて対置される第一走行装置および第二走行装置と、前記第一走行装置および前記第二走行装置に支持される構造体と、この構造体の一部を構成して横行方向に延設される水平部材と、この水平部材に沿って横行可能に構成されるトロリと、前記第一走行装置および前記第二走行装置の走行速度を独立して制御する制御機構とを備えるクレーンの制御方法において、前記クレーンの位置を検出する位置検出機構を前記クレーンが備えていて、前記位置検出機構から前記クレーンの位置情報を前記制御機構が取得する取得ステップと、前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度の割合である補正値が走行方向の位置に応じて予め設定されたマップ情報と、前記位置情報とに基づき前記補正値を前記制御機構が決定する決定ステップと、前記補正値に基づいて、前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度を前記制御機構が制御する実行ステップとを備えることを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成するためのクレーンは、走行方向を直角に横断する横行方向に間隔をあけて対置される第一走行装置および第二走行装置と、前記第一走行装置および前記第二走行装置に支持される構造体と、この構造体の一部を構成して横行方向に延設される水平部材と、この水平部材に沿って横行可能に構成されるトロリと、前記第一走行装置および前記第二走行装置の走行速度を独立して制御する制御機構とを備えるクレーンにおいて、前記クレーンの位置を検出する位置検出機構を備えていて、前記制御機構は、前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度の割合である補正値が走行方向の位置に応じて予め設定されるマップ情報と、前記位置検出機構から取得した前記クレーンの位置情報とに基づき前記補正値を決定して、この補正値に基づいて前記第一走行装置の走行速度に対する前記第二走行装置の走行速度を制御する構成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予め設定されるマップ情報とクレーンの位置情報とに基づき、第一走行装置に対する第二走行装置の走行速度を制御できる。これにより上下方向を中心とするクレーンの姿勢を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クレーンの概略を側面視で例示する説明図である。
図2】クレーンの概略を平面視で例示する説明図である。
図3】クレーンの走行装置を側面視で例示する説明図である。
図4】レールと接触する車輪を例示する説明図である。
図5】クレーンにおける制御を例示するフローチャートである。
図6】クレーンの走行する状態を例示する説明図である。
図7】マップ情報を例示する説明図である。
図8図5の変形例を例示する説明図である。
図9】クレーンにおける制御を例示するブロック図である。
図10図6の変形例を例示する説明図である。
図11図6の変形例を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、クレーンおよびその制御方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。図中ではクレーンの走行方向を矢印y、この走行方向yを直角に横断する横行方向を矢印x、上下方向を矢印zで示している。
【0012】
図1および図2に例示するようにクレーン1は、岸壁2に敷設される一対のレール3に沿って走行する岸壁クレーンで構成される。一対のレール3は、走行方向yに沿って延設される。一対のレール3は、海側に配置される第一レール3aと、陸側に配置される第二レール3bとで構成される。第一レール3aと第二レール3bとは、横行方向xに所定の間隔(以下、スパンということがある)をあけて敷設される。
【0013】
クレーン1は、横行方向xに間隔をあけて対置される第一走行装置4aおよび第二走行装置4b(以下、総称して走行装置4ということがある)と、走行装置4に支持される構造体5と、構造体5の一部を構成する水平部材5aと、この水平部材5aに沿って横行可能に構成されるトロリ6と、走行装置4やトロリ6等を制御する制御機構7とを備えている。
【0014】
図2に例示するようにこの実施形態ではクレーン1は、二つの第一走行装置4aと、二つの第二走行装置4bとを備えている。第一走行装置4aは第一レール3aの上を走行して、第二走行装置4bは第二レール3bの上を走行する。クレーン1が備える走行装置4の数は上記に限らず、クレーン1の大きさや種別等に応じて適宜変更できる。
【0015】
構造体5は、走行装置4に支持される複数の脚部材や、脚部材どうしを連結する複数の梁部材や斜材で構成される。構造体5は、横行方向xに延設される水平部材5aを有している。水平部材5aは、この実施形態では脚部材に支持されて横行方向xに延設されるガーダと、ガーダの海側端部から海側に延設されるブームとで構成される。トロリ6は、水平部材5aに沿って横行しながら荷物であるコンテナ8を、岸壁2の上を走行するシャシ10とコンテナ船9との間で荷役する。
【0016】
制御機構7は、図1に破線で例示するようにクレーン1に設置される。制御機構7の設置場所は、図1に例示する位置に限らず、任意の位置に設定できる。制御機構7は、例えばPLC(プログラマブルロジックコントローラ)と、走行装置4やトロリ6等のモータに供給する電気の電圧や電流を制御するインバータとで構成される。制御機構7の構成は上記に限らず、少なくとも第一走行装置4aと第二走行装置4bとの走行速度をそれぞれ独立して制御できる構成を有していればよい。制御機構7は、公知の種々のコンピュータで構成されてもよい。制御機構7は、中央演算処理部(CPU)、主記憶部(メモリ)、補助記憶部(例えばHDD)、入力部(キーボード、マウス)および出力部(ディスプレイ、プリンタ)を有していてもよい。
【0017】
クレーン1は岸壁クレーンに限定されない。クレーン1は走行装置4と水平部材5aとを有していればよく、例えばコンテナターミナルで走行しながらコンテナの荷役を行う門型クレーンで構成される。またクレーン1は、工場等で使用される天井クレーンや、岸壁に配置されて鋼板等の製品を出荷する製品用クレーンや、岸壁に配置されて石炭等のバラ荷を荷役するアンローダで構成されてもよい。
【0018】
図2に例示するように荷役作業を行うクレーン1は、まずレール3に沿って走行して走行方向yにおける位置決めを行う。その後、水平部材5aに沿ってトロリ6が横行して、コンテナ船9に積載されていて荷役の対象となる所定のコンテナ8の真上まで移動する。トロリ6に懸吊される吊具で掴まれたコンテナ8は、岸壁2で待機するシャシ10に搭載される。またクレーン1は、上記と逆の流れで、シャシ10により運び込まれたコンテナ8をコンテナ船9に積載する荷役作業を行うことがある。第一走行装置4aと第二走行装置4bとの走行速度に差をつけると、クレーン1は上下方向zを中心に傾くことができる。
【0019】
図3に例示するように一つの走行装置4は、例えば八つの車輪11と、車輪11に動力を付加する四つのモータ12とを有している。一つの走行装置4が有する車輪11およびモータ12の数は、上記に限らず適宜変更できる。車輪11は、レール3と接触可能に構成されている。
【0020】
図4に例示するように第一走行装置4aの車輪11および第二走行装置4bの車輪11は、レール3の上面と接触可能に構成される踏面11aと、横行方向xと平行となる幅方向において踏面11aの一方の端部に形成されるフランジ11bとを有している。フランジ11bは、レール3の側面と接触することで、車輪11がレール3から外れる脱線を抑制できる。
【0021】
踏面11aの幅方向における長さw1は、レール3の上面の幅方向における長さw2の150%以上の長さに設定されている。踏面11aの長さw1は、w1≧w2*150%を満たす範囲で設定される。
【0022】
踏面11aの長さw1がレール3の上面の長さw2よりも大きいため、車輪11は脱線することなく上下方向zを中心として傾くことが可能となる。図4では車輪11が傾く際の中心軸を説明のため二点鎖線で示している。車輪11をレール3に対して傾動可能とする構成により、上下方向zを中心軸としてクレーン1を傾けることが可能となる。上下方向zを中心とするクレーン1の姿勢を制御できる。
【0023】
上下方向zを中心として車輪11が傾動可能であるため、クレーン1の構造体5に歪みが発生することを抑制できる。従来はレール3の上面の長さw2に対して踏面11aの長さw1がほぼ同一となる大きさに設定されていた。横行方向xにおいてレール3に対する車輪11の位置が固定されていた。そのため車輪11のフランジ11bがレール3と接触して、車輪11の傾動が抑制されることで、構造体5に歪みが発生していた。図4に例示する実施形態では、横行方向xにおいてレール3に対して車輪11が移動可能に構成されている。構造体5に歪みが発生した場合は、レール3に対する車輪11の傾動によりこの歪みが解消される。構造体5により吊り上げられるコンテナ8や、構造体5の一部を構成するブーム等の水平部材5aが振れることを抑制できる。
【0024】
横行方向xにおける第一レール3aと第二レール3bとの間の長さであるスパンが変化してもクレーン1は走行できる。岸壁2の沈下や変形にともないレール3が湾曲したり、スパンが変化したりしても、クレーン1を走行させることが可能となる。具体的には例えば一対のレール3a、3bのスパンが広がっても、車輪11の踏面11aの長さw1が比較的大きく設定されているため、脱線することなく、クレーン1は走行できる。またフランジ11bがレール3の側面にきつく押し付けられて、クレーン1の走行に悪影響がでることもない。
【0025】
車輪11の構成は上記に限らない。車輪11が、踏面11aの両側に形成されるフランジ11bを有していてもよく、フランジ11bを有さず踏面11aのみで構成されてもよい。フランジ11bが、踏面11aの両側に形成されるよりも一方にのみ形成される構成の方が、フランジ11bがレール3に接触し難くなる。上下方向zを中心にクレーン1が傾く範囲を大きくするには有利である。
【0026】
図5に例示するフローチャートを参照しながらクレーン1の制御方法について説明する。クレーン1の制御機構7が制御を開始すると(スタート)、まず取得ステップS1で位置検出機構13からクレーン1の位置情報P1を制御機構7が取得する。図6に例示するように位置検出機構13は、例えばクレーン1に設置される全球測位衛星システム(GNSS)のアンテナで構成される。この場合、制御機構7はクレーン1の経度および緯度を位置情報P1として取得する。
【0027】
次の決定ステップS2では、第一走行装置4aの走行速度に対する第二走行装置4bの走行速度の割合である補正値P2が走行方向yの位置に応じて予め設定されたマップ情報P3と、位置情報P1とに基づきクレーン1の位置に対応する補正値P2を制御機構7が決定する。
【0028】
図7に例示するようにマップ情報P3は、走行方向yに沿って予め設定される複数の区間Fと、複数の区間Fごとに予め設定される補正値P2とで構成される。この実施形態では補正値P2は、第一走行装置4aの走行速度を基準として、第二走行装置4bの走行速度を決定するための値として設定されている。補正値P2はこの構成に限らず、第一走行装置4aの走行速度と第二走行装置4bの走行速度との速度の差を規定する構成を有していればよい。
【0029】
区間Fは、例えば経度および緯度などの座標(x,y)の範囲で設定される。区間Fは岸壁2において予め設定される座標系の座標で設定されてもよい。図6に例示するようにレール3の湾曲やスパンの変化に応じて区間F1-5が設定されてもよい。図6では説明のため区間F1-5の境界線を一点鎖線で示している。複数の区間Fは走行方向yに沿って等間隔に設定されてもよい。
【0030】
決定ステップS2では、クレーン1が位置する区間Fに対応する補正値P2が制御機構7で決定される。そのため位置検出機構13は、クレーン1がいずれの区間Fに位置しているかを検出できる構成を有していればよい。例えばトランスポンダや、レールに設置されるセンサで位置検出機構13が構成されてもよい。
【0031】
マップ情報P3は、外部の機器に記憶されていて、この機器から制御機構7に読み込まれる構成を有している。マップ情報P3は、制御機構7が備える補助記憶部に記憶されていてもよい。
【0032】
図5に例示する実行ステップS3では、決定ステップS2で決定された補正値P2に基づいて、第一走行装置4aの走行速度に対する第二走行装置4bの走行速度が制御機構7により制御される。具体的には制御機構7が、走行装置4に供給される電気の電圧や電流をインバータにより調整する。
【0033】
クレーン1の走行に応じて取得ステップS1から実行ステップS3までの処理が繰り返される(リターン)。取得ステップS1から実行ステップS3までの処理を1周期として、この周期は所定の時間間隔で繰り返される。周期は例えば10secや20secなど所定の時間間隔で繰り返し実行される。周期が繰り返される時間間隔は上記に限らず、クレーン1の走行速度や走行方向yにおける区間Fの大きさに応じて適宜設定される。
【0034】
図6に例示するクレーン1を右方に向かって走行させる場合を例に、クレーン1の制御方法の具体例を説明する。オペレータのマスコンの操作によりクレーン1の走行方向(図6右方または左方)および走行速度が決定される。クレーン1はオペレータによる有人クレーンの他、自動で制御される無人クレーンで構成されてもよい。
【0035】
制御機構7は、取得ステップS1でクレーン1の位置が区間F1であることを位置情報P1として取得する。制御機構7は、決定ステップS2で区間F1に対応する補正値P2として±0%を決定する。
【0036】
クレーン1はマスコンを倒す角度に比例して走行速度が決定される。以下、マスコンのフルスロットルのときの走行速度を指数100、ハーフスロットルのときの走行速度を指数50とする。クレーン1のマスコンからフルスロットルが入力されたとき、区間F1では第一走行装置4aおよび第二走行装置4bはいずれも指数100の走行速度で走行する。区間F1に対応する補正値P2は±0%であるため、第一走行装置4aおよび第二走行装置4bは同じ走行速度で走行する。
【0037】
クレーン1が区間F1を走行している間、図5に例示する取得ステップS1から実行ステップS3までの周期が繰り返し実行される。決定ステップS2で決定される補正値P2が変更されない限り、実行ステップS3で制御される第一走行装置4aと第二走行装置4bとの速度差は変化しない状態となる。
【0038】
クレーン1が区間F2に到達すると、補正値P2が-2%となる。第一走行装置4aが指数100の走行速度の場合、第二走行装置4bは100*(100%―2%)=98となり、指数98の走行速度で走行する。陸側に配置されている第二走行装置4bが海側に配置されている第一走行装置4aよりも遅くなるため、クレーン1の水平部材5aの海側端部が前方側(図6右方)に傾く。
【0039】
マスコンから入力される速度が指数50の場合は、第一走行装置4aが指数50の走行速度となり、第二走行装置4bは50*(100%―2%)=49となり、指数49の走行速度で走行する。
【0040】
図2に例示するように区間F2ではレール3が湾曲しているため、第一走行装置4aおよび第二走行装置4bを同じ速度で走行させると、破線で示すように水平部材5aの海側端部が後方側(図2左方)に傾いてしまう。これに対して補正値P2を利用した制御を行うと、図6において破線で示すようにクレーン1のこの傾きを抑制できる。
【0041】
取得ステップS1と決定ステップS2と実行ステップS3とからなる周期が、フィードフォワード制御として構成されることが望ましい。この場合、決定ステップS2において補正値P2を決定する際に、次の周期を実行する際に到達すると予測される区間Fに基づき補正値P2が決定される。
【0042】
具体的には、次の周期で取得される位置情報P1は区間F2となることが予測される場合に、現在の周期において区間F2に対応する補正値P2が決定ステップS2で決定される。つまりクレーン1が区間F1から区間F2に侵入する直前またはほぼ同時となるタイミングで、区間F2に対応する補正値P2に基づき走行装置4の走行速度が制御される。
【0043】
制御機構7はクレーン1の走行速度を制御しているため、この走行速度と取得ステップS1で取得された位置情報P1からクレーン1の位置を予測することは容易である。例えば区間F1に侵入した時刻とクレーン1の現在の走行速度とから、クレーン1が区間F2に侵入するタイミングは予測できる。
【0044】
クレーン1が区間F2に侵入する前に区間F2に対応する制御を実行できるため、図5に例示する制御はフィードフォワード制御となる。レール3の湾曲等の影響でクレーン1が姿勢を崩す前に、走行装置4の走行速度を制御してクレーン1の姿勢を制御できる。クレーン1の走行速度が比較的大きい場合や、レール3の湾曲等の影響が比較的大きい場合であっても、クレーン1の姿勢を制御しやすくなる。
【0045】
取得ステップS1と決定ステップS2と実行ステップS3とからなる周期が、フィードバック制御として構成されてもよい。この場合、現在の周期においてクレーン1が位置する区間Fに対応する補正値P2が決定ステップS2で決定される。クレーン1の走行速度が比較的小さい場合や、レール3の湾曲等の影響が比較的小さい場合は、クレーン1の姿勢を十分に制御できる。
【0046】
図5に例示する制御がフィードフォワード制御またはフィードバック制御のいずれの場合であっても、制御機構7はマップ情報P3と位置情報P1とに基づき補正値P2を決定する構成となる。
【0047】
クレーン1が区間F3に到達すると、補正値P2が±0%となる。第一走行装置4aおよび第二走行装置4bのいずれも指数100の走行速度で走行する。
【0048】
クレーン1が区間F4に到達すると、補正値P2が+2%となる。第一走行装置4aが指数100の走行速度の場合、第二走行装置4bは100*(100%+2%)=102となり、指数102の走行速度で走行する。クレーン1の水平部材5aの海側端部が後方側(図6左方)に傾く。
【0049】
図2に例示するように区間F4ではレール3が湾曲しているため、第一走行装置4aおよび第二走行装置4bを同じ速度で走行させると、水平部材5aの海側端部が前方側(図2右方)に傾いてしまう。これに対して補正値P2を利用した制御を行うと、図6において破線で示すようにクレーン1のこの傾きを抑制できる。
【0050】
クレーン1が区間F5に到達すると、補正値P2が-1%となる。第一走行装置4aが指数100の走行速度の場合、第二走行装置4bは指数99の走行速度で走行する。図2に例示するように区間F5ではスパンが広がる方向に第一レール3aが傾斜しているため、第一走行装置4aおよび第二走行装置4bを同じ速度で走行させると、水平部材5aの海側端部が後方側(図2左方)に傾いてしまう。これに対して補正値P2を利用した制御を行なうと、図6において破線で示すようにクレーン1のこの傾きを抑制できる。
【0051】
クレーン1は、位置情報P1とマップ情報P3とに基づき、第一走行装置4aに対する第二走行装置4bの走行速度を制御できる。クレーン1の上下方向zを中心とする姿勢を制御できるため、所定の区間Fにおけるクレーン1の姿勢を予め設定した姿勢にできる。例えば図6に例示する岸壁2の縁部2aの直線に対して、水平部材5aが直交する状態を維持したままクレーン1は走行することが可能となる。クレーン1の姿勢をフィードフォワード制御で制御する場合は、縁部2aの直線に対して水平部材5aが直交する状態を乱すことなく維持し続けることも可能となる。
【0052】
コンテナ船9に並べられているコンテナ8に対して、コンテナ8の長手方向と直交する状態で水平部材5aを移動させることが可能となる。コンテナ船9のコンテナ8は、長手方向が走行方向yと平行となり、短手方向が横行方向xと平行となる状態で載置されている。レール3が湾曲している場合であっても、コンテナ8の長手方向に対するクレーン1の姿勢を一定に維持したままクレーン1は走行できる。コンテナ8に対するクレーン1の位置合わせが容易となる。
【0053】
図2において破線で示すようにコンテナ8の長手方向に対して、クレーン1の水平部材5aが傾いている状態だと、コンテナ船9の中で横行方向xに沿って並ぶ一列のコンテナ8を荷役する際に、途中でクレーン1を走行させないと荷役できない状態となる。このような荷役効率が著しく低下する状態を、クレーン1は図6に例示するように回避できる。
【0054】
前述の実施形態では、マスコンから入力された速度指令に基づき第一走行装置4aの走行速度が決定されて、この第一走行装置4aの走行速度と補正値P2とに基づき第二走行装置4bの走行速度が決定される。本発明はこの構成に限定されない。マスコンから入力された速度指令と補正値P2とに基づき、第一走行装置4aおよび第二走行装置4bの走行速度がそれぞれ決定される構成でもよい。例えば補正値P2が+2%であり、マスコンから入力される速度指令が指数100のとき、第二走行装置4bの走行速度を指数100として、第一走行装置4aの走行速度を100/(100%+2%)=98.04としてもよい。
【0055】
前述の実施形態では、第一走行装置4aが海側に配置されて、第二走行装置4bが陸側に配置されている。本発明はこの構成に限定されない。第一走行装置4aが陸側に配置されて、第二走行装置4bが海側に配置されてもよい。
【0056】
マップ情報P3の区間Fを設定する際に、予めレール3の測量を行い、レール3が岸壁2の縁部2aに対して平行である部分と、その他の例えばレール3が湾曲している部分とを区別する状態で区間Fを設定してもよい。このとき区間Fは走行方向yに沿って等間隔にならないことがある。
【0057】
マップ情報P3の補正値P2は、例えば岸壁2の縁部2aに対するレール3の傾きから予め設定できる。縁部2aに対するレール3の傾きが大きいほど、上下方向zを中心にクレーン1は大きく傾く。このレール3の傾き大きさに応じて補正値P2を設定することで、岸壁2の縁部2aに対して、見かけ上クレーン1は平行となる状態で走行することができる。
【0058】
また例えば第一走行装置4aと第二走行装置4bとを同一の走行速度で走行させた際の縁部2aに対する水平部材5aの傾きから、補正値P2が予め設定されてもよい。この水平部材5aの傾きを解消するために必要な走行装置4の速度差を補正値P2として設定できる。また水平部材5aの傾きとスパンの大きさから補正値P2を設定してもよい。
【0059】
図8に例示するフローチャートおよび図9に例示するブロック図を参照しながらクレーン1の制御方法の変形例について説明する。まず取得ステップS1と決定ステップS2と実行ステップS3とからなる周期を繰り返して、フィードフォワード制御15によりクレーン1の姿勢を制御する。このフィードフォワード制御15の内容は図5に例示する実施形態と同様である。この実施形態ではフィードフォワード制御15にフィードバック制御16が組み合わされている。図8に例示するようにフィードバック制御16は、第二取得ステップS4および傾き演算ステップS5および修正ステップS6を有している。図8では説明のためフィードフォワード制御15およびフィードバック制御16の範囲を破線で囲って示している。
【0060】
第二取得ステップS4では、姿勢測定機構14からクレーン1の姿勢情報P4を制御機構7が取得する。図10に例示するように姿勢測定機構14は、例えばクレーン1の水平部材5aに横行方向xに間隔をあけて設置される二つのGNSS用のアンテナで構成される。この場合、制御機構7は、二つのアンテナからそれぞれの経度および緯度を取得する。二つのアンテナの座標を結ぶ直線が、水平部材5aの延在方向を示す姿勢情報P4として、制御機構7により取得される。姿勢測定機構14は、上下方向zを中心とするクレーン1の傾きが取得できる構成を有していればよい。姿勢測定機構14がGNSS用のアンテナで構成される場合は、このアンテナを位置検出機構13として共用してもよい。つまりクレーン1に設置されるGNSS用のアンテナ等の機器を、位置検出機構13および姿勢測定機構14として利用してもよい。
【0061】
次の傾き演算ステップS5では、走行方向yに沿って予め設定される基準線Lの座標情報P5と姿勢情報P4とに基づき、基準線Lに対する水平部材5aの傾きθを制御機構7が演算する。
【0062】
図10に例示するように基準線Lは、走行方向yに平行な一本の直線で構成される。基準線Lは、例えばレール3の延在方向や、岸壁2の縁部2aの延在方向や、コンテナ船9の船首から船尾を結ぶ中心線の延在方向に基づき予め設定される。レール3の延在方向に基づき基準線Lが設定される場合、走行方向yに例えば300mとなる範囲で第一レール3aまたは第二レール3bを切り出して、この第一レール3aまたは第二レール3bを走行方向yに延びる一本の直線で近似したときのこの直線が基準線Lとして設定される。岸壁2の縁部2aの延在方向に基づき基準線Lが設定される場合、上記レール3の場合と同様に所定の範囲で切り出される縁部2aを一本の直線で近似したときのこの直線が基準線Lとして設定される。
【0063】
コンテナ船9の中心線の延在方向に基づき基準線Lが設定される場合、コンテナ船9が岸壁2に接岸した際に、このコンテナ船9の位置を測定してこの測定結果に基づき基準線Lが設定される。コンテナ船9が接岸する度に、基準線Lが設定される。図10では説明のためコンテナ船9に基づき設定される基準線Lを二点鎖線で示している。図10に例示するように平面視において、直線状に設定される基準線Lと水平部材5aのなす角が傾きθとなる。
【0064】
コンテナ船9の位置の測定は、測量等により行われてもよく、岸壁クレーンに設置されるカメラやレーザスキャナ等により行われてもよい。基準線Lがコンテナ船9の中心線に基づいて設定される場合は、岸壁2の縁部2aに対してコンテナ船9の中心線が傾いている場合であっても、クレーン1は荷役作業を効率よく行うことが可能となる。
【0065】
コンテナ8の荷役効率を上げるためには、最終的にはコンテナ8の長手方向に対してブーム等の水平部材5aが直交している必要がある。そのため載置されているコンテナ8の長手方向に基づいて基準線Lが設定されてもよい。
【0066】
図8に例示する修正ステップS6では、基準線Lに対する水平部材5aの傾きθが予め設定される範囲内となる状態を目標として、決定ステップS2で決定された補正値P2を修正するための修正値P6を制御機構7が決定する。つまり修正ステップS6では、補正値P2を修正するための修正値P6が決定される。この修正値P6は、傾きθが予め設定される範囲内となるように補正値P2を修正するための値である。傾きθの範囲は、例えば90°±0.1°に設定される。クレーン1が例えば第一走行装置4aと第二走行装置4bとの間の長さであるスパンが30mであり、第一走行装置4aから水平部材5aの海側端部までの長さであるアウトリーチが70mである場合、上下方向zを中心とする水平部材5aの海側端部の旋回半径は70m+30m/2=85mとなる。傾きθの範囲を90°±0.1°とすると、水平部材5aの海側端部は走行方向yに±150mmの範囲に収まる。±150mmの範囲であればトロリ6がコンテナ8を掴む際に許容できる範囲となる。
【0067】
傾きθの範囲は上記に限定されない。クレーン1の大きさや種別や荷物の種別に応じて、荷役に影響のない範囲で適宜設定できる。
【0068】
図8に例示するようにクレーン1の走行に応じてフィードフォワード制御15が繰り返し実行されている最中に、第二取得ステップS4と傾き演算ステップS5と修正ステップS6とからなる周期が繰り返し実行される。第二取得ステップS4から修正ステップS6の周期は、クレーン1の走行に伴い変化する傾きθに応じて補正値P2を修正するためフィードバック制御16となる。第二取得ステップS4から修正ステップS6に至る周期は、例えば5secや10secなど所定の時間間隔で繰り返し実行される。フィードフォワード制御15とフィードバック制御16とは並列状態でそれぞれ実行されている。フィードフォワード制御15の周期に対してフィードバック制御16の周期を合わせる必要はない。例えばフィードフォワード制御15が10secの時間間隔で実行されて、フィードバック制御16が5secの時間間隔で実行されてもよい。フィードバック制御16の周期が繰り返される時間間隔は上記に限らず適宜設定できる。フィードバック制御16が実行される時間間隔が小さいほど、クレーン1を所定の姿勢に維持しやすくなる。
【0069】
図9に例示するようにフィードフォワード制御15において決定される補正値P2が、フィードバック制御16により決定される修正値P6により修正される。修正値P6により修正された修正後の補正値P2‘に基づき、第二走行装置4bの走行速度は制御機構7により制御される。
【0070】
図10に例示するクレーン1を右方に向かって走行させる場合を例に、クレーン1の制御方法の具体例を説明する。クレーン1がフィードフォワード制御15を行いながら走行する。その際に姿勢測定機構14は姿勢情報P4を所定の時間間隔で取得する。制御機構7は取得される姿勢情報P4に基づき、基準線Lに対する水平部材5aの傾きθを演算する。この傾きθが例えば90°±0.1°など所定の範囲となる状態を目標として補正値P2の修正を行う修正値P6を決定する。修正ステップS6では、傾きθが所定の範囲より大きい場合、つまり水平部材5aの海側端部が前方側(図10右方)に傾くとき、例えば+1%などの修正値P6が決定される。決定ステップS2で決定された補正値P2が+2%のときは+2%+1%=+3%に修正される。実行ステップS3では修正後の補正値P2’である+3%に基づき、走行装置4の走行速度が制御される。同様に補正値P2が例えば-2%のときは-2%+1%=+1%に修正される。実行ステップS3では修正後の補正値P2’の+1%に基づき、走行装置4の走行速度が制御される。傾きθが所定の範囲より小さい場合は、例えば-1%などの修正値P6が決定される。
【0071】
実行ステップS3では、決定ステップS2で決定された補正値P2と、修正ステップS6で決定された修正値P6とを合算した値に基づき、走行装置4の走行速度が制御される。傾き演算ステップS5で得られる傾きθの値と予め設定される範囲との差が大きいほど、修正ステップS6で決定される修正値P6の絶対値を大きく設定することが望ましい。傾きθを目標となる範囲に短時間で近づけることが可能となる。
【0072】
クレーン1の姿勢情報P4に基づき修正値P6を決定するフィードバック制御16を行うことで、クレーン1の姿勢を精度良く制御できる。フィードフォワード制御15を実行していれば、例えば岸壁2の縁部2aに対して水平部材5aが直交する状態は基本的には維持される。車輪11の滑りや、強風によってクレーン1が上下方向zを中心に傾くことがある。この傾きが図8に例示するフィードバック制御16により解消できる。フィードバック制御16により、クレーン1は車輪11の滑り等の外乱があったとしても予め設定される姿勢を維持できるようになる。また経年変化によりレール3の湾曲等が変化した場合に、この変化に対応する状態でクレーン1の姿勢を制御できる。
【0073】
なお取得ステップS1から実行ステップS3に至る周期が、フィードバック制御によりクレーン1の姿勢を制御する構成であってもよい。取得ステップS1から実行ステップS3に至る周期のフィードバック制御と、図8に例示するフィードバック制御16と組み合わせることができる。二つのフィードバック制御を組み合わせる場合であっても、上記と同程度の効果を得ることができる。
【0074】
制御機構7が書換ステップを行う構成を有していてもよい。書換ステップでは、修正ステップS6で得られる修正値P6に基づき、マップ情報P3の補正値P2を制御機構7が書き換える。マップ情報P3の補正値P2は修正後の補正値P2‘に書き換えられる。例えば修正値P6を修正ステップS6から取得する度に、マップ情報P3に格納されている補正値P2を修正後の補正値P2’に書き換える構成を制御機構7が有していてもよい。
【0075】
クレーン1の走行にともないマップ情報P3の補正値P2が修正後の補正値P2’に書き換えられる。レール3の微細な変化にも対応できる状態に補正値P2が更新され続けるため、フィードフォワード制御の精度を向上するには有利である。基準線Lがコンテナ船9に基づき設定される場合は、マップ情報P3はこのコンテナ船9に対応した補正値P2’に書き換えられる。そのためクレーン1は、適切な補正値P2に基づいてフィードフォワード制御15を実行できる。
【0076】
制御機構7が、修正値P6を区間Fごとに蓄積して、所定の区間Fに対応する複数の修正値P6に基づき、マップ情報P3の補正値P2を書き換える構成を有していてもよい。修正値P6を区間Fごとに蓄積して、所定数の修正値P6が集まったとき、例えばこの修正値P6の平均値に基づき制御機構7がマップ情報P3の補正値P2を書き換える。
【0077】
クレーン1を走行させると、修正ステップS6により修正値P6が区間Fごとに取得される。この修正値P6は例えば制御機構7の補助記憶部に記憶される。所定の区間Fで繰り返し補正値P2が修正される場合は、マップ情報P3に設定されている補正値P2が適切でない可能性がある。
【0078】
例えば区間F2で修正値P6が+1%、-1%、±0%、-1%、-1%となる場合、修正値P6の平均値は-0.4%となる。この場合、書換ステップにおいて区間F2の補正値P2を-2%から-2.4%に書き換える。
【0079】
レール3の湾曲やスパンの変化など、経年変化があった場合であっても、これに対応したマップ情報P3を得ることができる。クレーン1の走行に応じてマップ情報P3の補正値P2は精度の高い値に書き換えられる。クレーン1が荷役作業に伴い走行するほど、精度の高いフィードフォワード制御15を行えるようになる。
【0080】
風雨の影響で車輪11が意図せず滑る等の影響で修正値P6が、大きな値となる場合がある。例えば修正値P6が+4%や-8%となる場合がある。このような値を排除するために、例えば修正値P6が±2%を超えるなど、所定の範囲を超える場合は書換ステップを行わない構成としてもよい。以下、この制御をフィルター制御ということがある。
【0081】
フィルター制御を行う構成により、レール3の湾曲や地盤の変化に基づく要因が修正後の補正値P2’に反映されて、台風や地震等の突発的な事象に基づく要因が修正後の補正値P2’に反映され難い状態となる。精度の高いフィードフォワード制御15を行うためのマップ情報P3を取得するには有利である。
【0082】
書換ステップを利用して、マップ情報P3を作成してもよい。例えば初期のマップ情報P3の補正値P2をすべて±0%とする状態で、クレーン1の走行を繰り返す。修正ステップS6において修正値P6が得られる。書換ステップにおいて、修正値P6に基づき初期のマップ情報P3の補正値P2を書き換えることでマップ情報P3が作成される。以後は、書換ステップを利用してマップ情報P3を適宜更新していけばよい。
【0083】
書換ステップを利用してマップ情報P3を作成する構成により、マップ情報P3を作成するための測量等の事前作業が不要となる。
【0084】
岸壁2には複数のクレーン1が配置されることが多い。同一のレール3の上を走行する複数のクレーン1が、マップ情報P3を共有する構成を有していてもよい。また書換ステップにより更新されたマップ情報P3を複数のクレーン1で共有してもよい。クレーン1は書換ステップにより更新されたマップ情報P3を、同一のレール3の上を走行する他のクレーン1に送信する構成を有していてもよい。
【0085】
図11に例示するようにコンテナ船9が岸壁2の縁部2aに対して、傾いた状態で係留されている場合であっても、クレーン1は効率よく荷役を行うことができる。傾いたコンテナ船9に対応するマップ情報P3が予め設定されている場合、クレーン1の水平部材5aがコンテナ8の長手方向と直交する状態を維持したまま、クレーン1はレール3に沿って走行できる。または傾いたコンテナ船9の中心線に対応する基準線Lを設定して、フィードバック制御16および書換ステップを実行して、マップ情報P3を更新してもよい。マップ情報P3が更新された後は、コンテナ8に合う状態の姿勢を維持しながらクレーン1は走行できる。図11では説明のため各区間Fにおけるクレーン1の姿勢を破線で示している。
【0086】
クレーン1は、荷役対象の荷物に対して任意の姿勢を維持したまま走行できる。クレーン1の荷役効率を向上するには有利である。
【0087】
本発明のクレーンおよびその制御方法は、レール3の上を走行するクレーンに限らず、タイヤ式のクレーンにも適用できる。タイヤが接触する走行面の傾斜や凹凸に対応して、クレーンの姿勢を制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0088】
1 クレーン
2 岸壁
3 レール
3a 第一レール
3b 第二レール
4 走行装置
4a 第一走行装置
4b 第二走行装置
5 構造体
5a 水平部材
6 トロリ
7 制御機構
8 コンテナ
9 コンテナ船
10 シャシ
11 車輪
11a 踏面
11b フランジ
12 モータ
13 位置検出機構
14 姿勢測定機構
15 フィードフォワード制御
16 フィードバック制御
w1 (踏面の)長さ
w2 (レールの)長さ
P1 位置情報
P2 補正値
P2‘ 修正後の補正値
P3 マップ情報
P4 姿勢情報
P5 座標情報
P6 修正値
F1-5 区間
S1 取得ステップ
S2 決定ステップ
S3 実行ステップ
S4 第二取得ステップ
S5 傾き演算ステップ
S6 修正ステップ
L 基準線
x 横行方向
y 走行方向
z 上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11