(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047827
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システム
(51)【国際特許分類】
G01C 3/06 20060101AFI20240401BHJP
G01B 9/02004 20220101ALI20240401BHJP
【FI】
G01C3/06 120Z
G01B9/02004
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153536
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】針山 達雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正浩
(72)【発明者】
【氏名】丸野 兼治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘人
(72)【発明者】
【氏名】神藤 英彦
【テーマコード(参考)】
2F064
2F112
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064DD02
2F064EE01
2F064FF01
2F064FF08
2F064GG02
2F064GG17
2F064GG24
2F064GG31
2F064HH01
2F064JJ04
2F064JJ15
2F112AD10
2F112BA15
2F112CA12
2F112DA15
2F112DA25
2F112FA03
2F112FA07
2F112FA21
2F112FA45
(57)【要約】
【課題】偏光起因で生じる距離誤差を低減することができる距離計測装置および距離計測方法を提供する。
【解決手段】レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、前記参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、前記測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の距離計測方法であって、
前記偏光起因距離誤差低減要素は、レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分を透過させ,それに直交する偏光成分を減衰させる直交偏光成分減衰素子であることを特徴とする距離計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の距離計測方法であって、
前記偏光起因距離誤差低減要素は、レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分と,それに直交する偏光成分間に,光路差を設ける素子を有する偏光成分間光路差生成素子であることを特徴とする距離計測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の距離計測方法であって,
レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分と,それに直交する偏光成分間の前記光路差は,前記測定光路測定ビート信号をフーリエ変換して得られるスペクトルのピークの線幅以上とすることを特徴とする距離計測方法。
【請求項5】
請求項1に記載の距離計測方法であって,
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内にレーザ光源で発生した光の偏光の切替えを行う偏光切替素子と,偏光方向に応じて対象への照射方向切替を行う素子とを設置することを特徴とする距離計測方法。
【請求項6】
請求項1に記載の距離計測方法であって,
前記参照光学系の少なくとも一部を格納ボックスに収納し,前記格納ボックスの温度を測定し,前記温度を用いて,前記参照光学系の温度による光路長変化を補正することを特徴とする距離計測方法。
【請求項7】
レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、前記参照光学系を通過した前記参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,前記測定光学系において前記測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測装置であって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測装置。
【請求項8】
レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、前記参照光学系を通過した前記参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,前記測定光学系において前記測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測システムであって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置するとともに、
前記測定光学系において測定対象物に照射光を照射するに際し、照射光を1次元,または2次元,または3次元で走査する走査機構を備えることを特徴とする距離計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光を用いて非接触で対象までの距離を計測する距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いて非接触で対象までの距離を計測する手法について,特許文献1では周囲環境温度変化に対するロバスト性向上のために,参照ファイバ干渉計を断熱された格納ボックス内に入れて,内部の温度をモニタし,参照ファイバの熱による光路長変化を補正することで,正確な距離を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などの、光を用いて非接触で対象までの距離を計測する手法によれば,周囲環境温度が変化し,距離測定部を構成する光ファイバの温度が変わると,光ファイバ内を通過する光の偏光状態が変化し,光干渉信号に距離誤差を生じさせるという課題がある。
【0005】
このことから本発明においては、偏光起因で生じる距離誤差を低減することができる距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のことから本発明においては、「レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。」としたものである。
【0007】
また本発明においては、「レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、参照光学系を通過した参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,測定光学系において測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測装置であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測装置」としたものである。
【0008】
また本発明においては、「レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、参照光学系を通過した参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,測定光学系において測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測システムであって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置するとともに、測定光学系において測定対象物に照射光を照射するに際し、照射光を1次元,または2次元,または3次元で走査する走査機構を備えることを特徴とする距離計測システム」としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,距離測定部の周囲環境温度が変化した際にも,偏光起因の距離誤差を抑制することが可能となり,対象までの距離を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図3a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
【
図3b】干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す図。
【
図4a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
【
図4c】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
【
図5】本発明の実施例2に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図6a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
【
図6c】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
【
図7】本発明の実施例3に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図8】本発明の実施例4に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図9a】受光器で得られる干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す図。
【
図9b】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
【
図10】本発明の実施例5に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図11】本発明の実施例6に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図12】本発明の実施例7に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
【
図13】実施例7の参照光学系にポラライザを挿入した構成の一例を示す図。
【
図14】実施例7の参照光学系の干渉計を断熱ボックスで覆い,温度センサを有する構成の一例を示す図。
【
図15a】本発明の実施例8に係る距離計測システムの構成例を示す図。
【
図15b】本発明の実施例8に係る距離計測システムの別の構成例を示す図。
【
図16】本発明の実施例9に係る距離計測システムの構成例を示す図。
【
図17】本発明の実施例10に係る距離計測システムの構成例を示す図。
【
図18】本発明の実施例11に係る距離計測システムの構成例を示す図。
【
図19】実施例11の偏光による照射方向切替原理を示す図。
【
図20】本発明の実施例12に係る距離計測システムの構成例を示す図。
【
図21】実施例12の距離計測システムの構成例を示す図。
【
図23】
図22の構成で得られる検出ビート信号のFFT結果を示す図。
【
図27】実施例4の偏光ビームスプリッタ/コンバイナの別形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面を用いて本発明の実施例を説明する。ここで実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0014】
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0015】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0016】
以下に示される本発明は、偏光起因で生じる距離誤差を低減する偏光起因距離誤差低減要素を光路内に設けたものであるが、偏光起因距離誤差低減要素の実現手法として直交偏光成分減衰素子を用いる手法と、偏光成分間光路差生成素子を用いる手法がある。前者について、
図1から
図7を用いて実施例1から実施例3により説明し、後者について、
図8から
図15を用いて実施例4から実施例8により説明する。また形状計測システムとしての構成例について
図16から
図24を用いて実施例9から実施例13により説明する。
【実施例0017】
実施例1から実施例3では直交偏光成分減衰素子を用いる手法について説明する。まず
図1は、本発明の実施例1に係る距離計測装置100の構成例を示している。ここでの光路差を用いる距離計測方式は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式に基づく。
【0018】
FMCW方式の距離計測装置100では、まず距離計測制御部115から,発振器102に対して掃引波形信号を送信する。発振器102は,レーザ光源101に対して三角波電流を注入し,駆動電流を変調する。結果として,レーザ光源101は,一定の変調速度で時間的に周波数掃引されたFM(Frequency Modulated)光を発生する。なお,レーザ光源101を外部共振器付き半導体レーザ装置として構成し,レーザ光源101の共振波長を発振器102からの三角波状の制御信号により変化させてもよい。その結果,レーザ光源101から時間的に周波数掃引されたFM光が発生する。
【0019】
次に、発生したFM光を光ファイバカプラ103で光L1とL2に分割する。なお,光ファイバカプラ103,104,106,109,110はビームスプリッタであってもよい。分割された光の一方L2は参照光学系へと導光され,光ファイバカプラ104にてさらに光L21とL22に分割される。分割された光L21とL22は光ファイバ105にて一定の光路差を設けた後,光ファイバカプラ106にて合波され,受光器107に光L3として受光される。これは,マッハツェンダ干渉計の構成となっており,受光器107では光路差に比例した一定のビート信号L3が発生する。
【0020】
光ファイバカプラ103で分割された光の他方L1は,ポラライザ108(直交偏光成分減衰素子)によって特定の偏光成分が通過し,光ファイバカプラ109によってL11とL12に分割され,一方の光L11は参照光となり,光ファイバカプラ110に導光され,他方の光L12は,サーキュレータ111を通過し,ファイバフォーカサ112から空間に出射し,測定対象物114に照射される。
【0021】
対象物114で反射した光L12Aは,ファイバフォーカサ112を再度通過し,サーキュレータ111の他のポートを通過し,光ファイバカプラ110を通過し,参照光L11と測定光L12Aとの干渉により発生するビート信号L4が受光器113によって検出される。
【0022】
距離計測制御部115は,受光器107で受光された参照ビート信号L3をサンプリングクロックとして,受光器113で受光された測定ビート信号L4をA/D変換する。または参照ビート信号L3と測定ビート信号L4とを一定のサンプリングクロックでサンプリングする。より具体的には,参照ビート信号L3は,ヒルベルト変換を行うことにより,90度位相のずれた信号を作り出すことができる。ヒルベルト変換の前後の参照信号から,信号の局所位相を求めることが可能であるため,この位相を補間することで,参照信号が一定の位相となるタイミングを求めることができる。
【0023】
このタイミングに合わせて,測定ビート信号L4を補間サンプリングすることで,参照信号L3を基準として測定信号L4をリサンプリングすることが可能となる。または,距離計測制御部115の有するAD/DA変換機で参照ビート信号L3をサンプリングクロックとして測定信号L4をサンプリングしてA/D変換しても,同様の効果を奏する。ビート信号からの距離算出方法の詳細は
図2,
図3を使って説明するが,距離計測制御部115で解析された距離測定データは制御PC116に送信され、表示部117に表示される。
【0024】
FMCW方式の原理を示す
図2を用いてビート信号の解析について説明する。
図2は横軸に時間、縦軸に光周波数をとっている。
図1の光ファイバカプラ109で分割され参照光として受光される参照光201(L11)と,対象114で反射して受光される測定光202(L12A)との受光器113への到達時間には差Δtがあるが,この間に光源の周波数が変化しているので,これによる周波数差に等しいビート周波数f
bのビート信号が検出される。周波数掃引幅をΔνとし,Δνだけ変調するのに要する時間をTとすると,(1)式の関係がある。さらに、測定対象までの距離Lは,Δtの間に光が進む距離の半分なので,大気中の光速度cを用いて,(2)式のように算出できる。
【0025】
【0026】
【0027】
距離Lとビート周波数は線形な関係にある。よって受光器113で得られた測定信号L4をFFT(First Fourier Transform:高速フーリエ変換)して,ピーク位置と大きさを求めると,対象物の反射位置と反射光量が求まる。
図3a,
図3bに検出ビート信号と,その信号をFFTして得られる反射強度プロファイルの一例を示す。
図3aは受光器で得られる干渉ビート信号を示す。干渉ビート信号の周波数は対象までの距離に比例する。また
図3bは干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す。本図の横軸がFFTの周波数軸,縦軸が反射強度とすると,ピーク付近は本図に示すような離散的なデータとなる。ここでピーク幅wは,距離分解能cT/2Δνで計算される。そこで図に示すようにピーク点301付近の3点以上の点を用いて,二次関数またはガウス関数といった関数を当てはめ,当てはめられた関数のピークを用いると,距離分解能以上の精度で測定対象の位置を求めることが可能となる。ビート周波数の解析の一例として,FFTを挙げたが,例えば,最大エントロピー法を用いることで,FFTよりも高分解能にピーク位置を検出しても良い。
【0028】
図3a,
図3bはある特定の偏光成分のみによって距離測定した場合に得られる理想的な結果を示した。現実には,ある特定の偏光成分に偏光方向が直交する漏れ光が光ファイバ中では発生する。漏れ光は,例えば,光ファイバの光学素子の消光比が低いために発生する。あるいは,光ファイバコネクタを用いた場合に,コネクタ間の勘合具合によって消光比が低下して発生する。
【0029】
図4a,
図4b、
図4cに漏れ光が発生した場合に得られる検出ビート信号波形を示す。
図4aは受光器で得られる干渉ビート信号を示す。401は本来測定したい偏光成分によって得られるビート信号を示す。402はそれとは直交する漏れ光成分によって得られるビート信号を示す。401と402のビート信号の振幅比は消光比と同程度となる。また本来測定したい偏光成分が光ファイバのslow軸を通過し,それと直交する漏れ光成分が光ファイバのfast軸を通過する場合は,401のビート信号と402のビート信号はそれぞれ,光ファイバのslow軸とfast軸を通過する分の距離差が生じる。例えば,
図1において,ファイバフォーカサ112と測定対象114の間にFMCW法の干渉原点が存在するとする。ここで,干渉原点とは,
図2で示した参照光201と測定光202の距離差が等しい位置をさす。例えば,光ファイバフォーカサから干渉原点までの距離が200mmとする。その場合,その長さと等しくなるための参照光路の光ファイバ長は200mm×2(往復光路)÷1.5(光ファイバ屈折率)=300mmとなる。ここで,測定光の波長を1.55μmとし,光ファイバのビート長(fast軸とslow軸を通過する光の波長が1周期分ずれる距離)を5mmとすると,fast軸とslow軸を通るそれぞれの光の光路差は300mm÷5mm×1.55μm=93μm生じることになる。
【0030】
図4aで示したビート信号をFFTした結果を
図4bに示す。403は401のビート信号成分(光ファイバのslow軸を通過)をFFTした結果得られるピーク強度を示し,404は402のビート信号成分(光ファイバのfast軸を透過)をFFTした結果得られるピーク強度を示す。405は403と404が合成されて得られる成分を示す。ここで光ファイバに熱が加わった際に光ファイバに応力が作用し,slow軸に対するfast軸の成分の位相が変化するため,403に対する404の位相が変化する。このときに光周波数掃引幅で決まるピーク幅(
図3bで示したw)が,93μm(光ファイバのslow軸とfast軸の光路差)よりも広い場合は,403と404の裾野が重なり合うため,合成成分405のピーク検出位置が変化する。そのため,距離誤差が生じる。
【0031】
図4cに光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す。横軸が真の距離,縦軸が測定距離を示す。Fast軸への漏れ光がない理想的な場合に得られる測定距離を406とする。ここでファイバに温度変化が加わった場合に距離のオフセット変動が生じる。slow軸に対するfast軸の位相状態によって,オフセット変動量は異なるが,例えば,ある位相の時には,407に示すように真の距離に対して,測定距離が大きくなり,またある位相の時には,408に示すように真の距離に対して,測定距離が小さくなる。
【0032】
そこで本発明の実施例1では、
図1に示すように光L1側の光路にポラライザ108(直交偏光成分減衰素子)を挿入し,特定の直線偏光成分,例えば,slow軸のみを透過させ,fast軸の漏れ光を減少させることで,光ファイバの温度による測定誤差を低減することが可能となる。なお
図1では,ポラライザ108の挿入位置として,カプラ103とカプラ109間としたが,カプラ109の後や,サーキュレータ111の後でも良い。さらにはカプラ109とカプラ110間、サーキュレータ111とカプラ110間、あるいはカプラ110と受光機113の間であってもよい。
【0033】
なお、光ファイバ素子間を接続するためにコネクタを用いた場合,その勘合具合により,消光比が落ちる可能性があるため,光ファイバ素子間の接続は融着が望ましい。またポラライザを挿入する代わりに,消光比の高いカプラ103,109を用いてもよい。その場合は,レーザ101とカプラ103間も融着が望ましい。しかし,レーザは消耗部品のため定期的な交換が必要である。定期交換のためには,コネクタ接続が望ましい。その場合は,カプラ103の前にポラライザ108を設置し,カプラ103とポラライザ108を融着する。そうすることで,レーザとポラライザ間はコネクタを用いて消光比が落ちたとしてもポラライザにて漏れ光成分は減衰させることができるため,高い消光比を保つことが可能となる。またカプラは103や109として,fast軸をブロックするタイプを用いてもでもよい。
【0034】
以上、
図1では距離計測装置100の構成例を示しているが、実施例1の装置構成の考え方は、要するに「レーザ光源101で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光L3から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物114を経由して得られた測定光L4から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因で生じる距離誤差を低減する偏光起因距離誤差低減要素(108または801と802」を設置することを特徴とする距離計測方法」を採用したものであり、この処理方法を示す具体的な実現手法が
図1に例示されたものである。なお、以下の実施例は主として、装置構成で説明するが、この構成による手法はそのまま方法による手法と置き換えることができる。
なお光ファイバ素子間を接続するためにコネクタを用いた場合,その勘合具合により,消光比が落ちる可能性があるため,融着が望ましい。またポラライザを挿入する代わりに,消光比の高いカプラ103,109を用いてもよい。その場合は,レーザ101とカプラ103間も融着が望ましい。しかし,レーザは消耗部品のため定期的な交換が必要である。定期交換のためには,コネクタ接続が望ましい。その場合は,カプラ103の前にポラライザ108を設置し,カプラ103とポラライザ108を融着する。そうすることで,レーザとポラライザ間はコネクタを用いて消光比が落ちたとしてもポラライザにて漏れ光はカットすることができるため,高い消光比を保つことが可能となる。またカプラは103や105として,fast軸をブロックするタイプを用いてもでもよい。