IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

特開2024-47827距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047827
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20240401BHJP
   G01B 9/02004 20220101ALI20240401BHJP
【FI】
G01C3/06 120Z
G01B9/02004
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153536
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】針山 達雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正浩
(72)【発明者】
【氏名】丸野 兼治
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘人
(72)【発明者】
【氏名】神藤 英彦
【テーマコード(参考)】
2F064
2F112
【Fターム(参考)】
2F064AA01
2F064DD02
2F064EE01
2F064FF01
2F064FF08
2F064GG02
2F064GG17
2F064GG24
2F064GG31
2F064HH01
2F064JJ04
2F064JJ15
2F112AD10
2F112BA15
2F112CA12
2F112DA15
2F112DA25
2F112FA03
2F112FA07
2F112FA21
2F112FA45
(57)【要約】
【課題】偏光起因で生じる距離誤差を低減することができる距離計測装置および距離計測方法を提供する。
【解決手段】レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、前記参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、前記測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の距離計測方法であって、
前記偏光起因距離誤差低減要素は、レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分を透過させ,それに直交する偏光成分を減衰させる直交偏光成分減衰素子であることを特徴とする距離計測方法。
【請求項3】
請求項1に記載の距離計測方法であって、
前記偏光起因距離誤差低減要素は、レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分と,それに直交する偏光成分間に,光路差を設ける素子を有する偏光成分間光路差生成素子であることを特徴とする距離計測方法。
【請求項4】
請求項3に記載の距離計測方法であって,
レーザ光源で発生した光の特定の直線偏光成分と,それに直交する偏光成分間の前記光路差は,前記測定光路測定ビート信号をフーリエ変換して得られるスペクトルのピークの線幅以上とすることを特徴とする距離計測方法。
【請求項5】
請求項1に記載の距離計測方法であって,
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内にレーザ光源で発生した光の偏光の切替えを行う偏光切替素子と,偏光方向に応じて対象への照射方向切替を行う素子とを設置することを特徴とする距離計測方法。
【請求項6】
請求項1に記載の距離計測方法であって,
前記参照光学系の少なくとも一部を格納ボックスに収納し,前記格納ボックスの温度を測定し,前記温度を用いて,前記参照光学系の温度による光路長変化を補正することを特徴とする距離計測方法。
【請求項7】
レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、前記参照光学系を通過した前記参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,前記測定光学系において前記測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測装置であって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測装置。
【請求項8】
レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、前記参照光学系を通過した前記参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,前記測定光学系において前記測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,前記測定光路測定ビート信号,及び前記参照光路測定ビート信号に基づき、前記測定対象物までの距離を計測する距離計測システムであって、
前記参照光学系及び前記測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置するとともに、
前記測定光学系において測定対象物に照射光を照射するに際し、照射光を1次元,または2次元,または3次元で走査する走査機構を備えることを特徴とする距離計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,光を用いて非接触で対象までの距離を計測する距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いて非接触で対象までの距離を計測する手法について,特許文献1では周囲環境温度変化に対するロバスト性向上のために,参照ファイバ干渉計を断熱された格納ボックス内に入れて,内部の温度をモニタし,参照ファイバの熱による光路長変化を補正することで,正確な距離を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6835919号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1などの、光を用いて非接触で対象までの距離を計測する手法によれば,周囲環境温度が変化し,距離測定部を構成する光ファイバの温度が変わると,光ファイバ内を通過する光の偏光状態が変化し,光干渉信号に距離誤差を生じさせるという課題がある。
【0005】
このことから本発明においては、偏光起因で生じる距離誤差を低減することができる距離計測方法、距離計測装置、並びに距離計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のことから本発明においては、「レーザ光源で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物を経由して得られた測定光から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測方法。」としたものである。
【0007】
また本発明においては、「レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、参照光学系を通過した参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,測定光学系において測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測装置であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置することを特徴とする距離計測装置」としたものである。
【0008】
また本発明においては、「レーザ光源で発生した光を分岐する光分岐部と、分岐した一方の光を導光され距離の基準となる参照光を得る参照光学系と、分岐した他方の光を導光され測定対象物に照射した後の反射光を測定光として得る測定光学系と、参照光学系を通過した参照光を受光して,参照光路測定ビート信号を検出する第1受光部と,測定光学系において測定対象物で反射した測定光を受光して,測定光路測定ビート信号を検出する第2受光部とを有し,測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測システムであって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因距離誤差低減要素を設置するとともに、測定光学系において測定対象物に照射光を照射するに際し、照射光を1次元,または2次元,または3次元で走査する走査機構を備えることを特徴とする距離計測システム」としたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,距離測定部の周囲環境温度が変化した際にも,偏光起因の距離誤差を抑制することが可能となり,対象までの距離を正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例1に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図2】実施例1のFMCW方式の原理を示す図。
図3a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
図3b】干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す図。
図4a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
図4b】ビート信号をFFTした結果を示す図。
図4c】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
図5】本発明の実施例2に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図6a】受光器で得られる干渉ビート信号を示す図。
図6b】ビート信号をFFTした結果を示す図。
図6c】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
図7】本発明の実施例3に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図8】本発明の実施例4に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図9a】受光器で得られる干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す図。
図9b】光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す図。
図10】本発明の実施例5に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図11】本発明の実施例6に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図12】本発明の実施例7に係る距離計測装置100の構成例を示す図。
図13】実施例7の参照光学系にポラライザを挿入した構成の一例を示す図。
図14】実施例7の参照光学系の干渉計を断熱ボックスで覆い,温度センサを有する構成の一例を示す図。
図15a】本発明の実施例8に係る距離計測システムの構成例を示す図。
図15b】本発明の実施例8に係る距離計測システムの別の構成例を示す図。
図16】本発明の実施例9に係る距離計測システムの構成例を示す図。
図17】本発明の実施例10に係る距離計測システムの構成例を示す図。
図18】本発明の実施例11に係る距離計測システムの構成例を示す図。
図19】実施例11の偏光による照射方向切替原理を示す図。
図20】本発明の実施例12に係る距離計測システムの構成例を示す図。
図21】実施例12の距離計測システムの構成例を示す図。
図22図18の距離計測システムの異なる構成例を示す図。
図23図22の構成で得られる検出ビート信号のFFT結果を示す図。
図24】原点補正の処理フローを示す図。
図25】実施例1のポラライザの別形態を示す図。
図26】実施例1のポラライザの別形態を示す図。
図27】実施例4の偏光ビームスプリッタ/コンバイナの別形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面を用いて本発明の実施例を説明する。ここで実施例は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施することが可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0013】
同一あるいは同様の機能を有する構成要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。また、これらの複数の構成要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
【0014】
実施例において、プログラムを実行して行う処理について説明する場合がある。ここで、計算機は、プロセッサ(例えばCPU、GPU)によりプログラムを実行し、記憶資源(例えばメモリ)やインターフェースデバイス(例えば通信ポート)等を用いながら、プログラムで定められた処理を行う。そのため、プログラムを実行して行う処理の主体を、プロセッサとしてもよい。同様に、プログラムを実行して行う処理の主体が、プロセッサを有するコントローラ、装置、システム、計算機、ノードであってもよい。プログラムを実行して行う処理の主体は、演算部であれば良く、特定の処理を行う専用回路を含んでいてもよい。ここで、専用回路とは、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)等である。
【0015】
プログラムは、プログラムソースから計算機にインストールされてもよい。プログラムソースは、例えば、プログラム配布サーバまたは計算機が読み取り可能な記憶メディアであってもよい。プログラムソースがプログラム配布サーバの場合、プログラム配布サーバはプロセッサと配布対象のプログラムを記憶する記憶資源を含み、プログラム配布サーバのプロセッサが配布対象のプログラムを他の計算機に配布してもよい。また、実施例において、2以上のプログラムが1つのプログラムとして実現されてもよいし、1つのプログラムが2以上のプログラムとして実現されてもよい。
【0016】
以下に示される本発明は、偏光起因で生じる距離誤差を低減する偏光起因距離誤差低減要素を光路内に設けたものであるが、偏光起因距離誤差低減要素の実現手法として直交偏光成分減衰素子を用いる手法と、偏光成分間光路差生成素子を用いる手法がある。前者について、図1から図7を用いて実施例1から実施例3により説明し、後者について、図8から図15を用いて実施例4から実施例8により説明する。また形状計測システムとしての構成例について図16から図24を用いて実施例9から実施例13により説明する。
【実施例0017】
実施例1から実施例3では直交偏光成分減衰素子を用いる手法について説明する。まず図1は、本発明の実施例1に係る距離計測装置100の構成例を示している。ここでの光路差を用いる距離計測方式は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式に基づく。
【0018】
FMCW方式の距離計測装置100では、まず距離計測制御部115から,発振器102に対して掃引波形信号を送信する。発振器102は,レーザ光源101に対して三角波電流を注入し,駆動電流を変調する。結果として,レーザ光源101は,一定の変調速度で時間的に周波数掃引されたFM(Frequency Modulated)光を発生する。なお,レーザ光源101を外部共振器付き半導体レーザ装置として構成し,レーザ光源101の共振波長を発振器102からの三角波状の制御信号により変化させてもよい。その結果,レーザ光源101から時間的に周波数掃引されたFM光が発生する。
【0019】
次に、発生したFM光を光ファイバカプラ103で光L1とL2に分割する。なお,光ファイバカプラ103,104,106,109,110はビームスプリッタであってもよい。分割された光の一方L2は参照光学系へと導光され,光ファイバカプラ104にてさらに光L21とL22に分割される。分割された光L21とL22は光ファイバ105にて一定の光路差を設けた後,光ファイバカプラ106にて合波され,受光器107に光L3として受光される。これは,マッハツェンダ干渉計の構成となっており,受光器107では光路差に比例した一定のビート信号L3が発生する。
【0020】
光ファイバカプラ103で分割された光の他方L1は,ポラライザ108(直交偏光成分減衰素子)によって特定の偏光成分が通過し,光ファイバカプラ109によってL11とL12に分割され,一方の光L11は参照光となり,光ファイバカプラ110に導光され,他方の光L12は,サーキュレータ111を通過し,ファイバフォーカサ112から空間に出射し,測定対象物114に照射される。
【0021】
対象物114で反射した光L12Aは,ファイバフォーカサ112を再度通過し,サーキュレータ111の他のポートを通過し,光ファイバカプラ110を通過し,参照光L11と測定光L12Aとの干渉により発生するビート信号L4が受光器113によって検出される。
【0022】
距離計測制御部115は,受光器107で受光された参照ビート信号L3をサンプリングクロックとして,受光器113で受光された測定ビート信号L4をA/D変換する。または参照ビート信号L3と測定ビート信号L4とを一定のサンプリングクロックでサンプリングする。より具体的には,参照ビート信号L3は,ヒルベルト変換を行うことにより,90度位相のずれた信号を作り出すことができる。ヒルベルト変換の前後の参照信号から,信号の局所位相を求めることが可能であるため,この位相を補間することで,参照信号が一定の位相となるタイミングを求めることができる。
【0023】
このタイミングに合わせて,測定ビート信号L4を補間サンプリングすることで,参照信号L3を基準として測定信号L4をリサンプリングすることが可能となる。または,距離計測制御部115の有するAD/DA変換機で参照ビート信号L3をサンプリングクロックとして測定信号L4をサンプリングしてA/D変換しても,同様の効果を奏する。ビート信号からの距離算出方法の詳細は図2図3を使って説明するが,距離計測制御部115で解析された距離測定データは制御PC116に送信され、表示部117に表示される。
【0024】
FMCW方式の原理を示す図2を用いてビート信号の解析について説明する。図2は横軸に時間、縦軸に光周波数をとっている。図1の光ファイバカプラ109で分割され参照光として受光される参照光201(L11)と,対象114で反射して受光される測定光202(L12A)との受光器113への到達時間には差Δtがあるが,この間に光源の周波数が変化しているので,これによる周波数差に等しいビート周波数fのビート信号が検出される。周波数掃引幅をΔνとし,Δνだけ変調するのに要する時間をTとすると,(1)式の関係がある。さらに、測定対象までの距離Lは,Δtの間に光が進む距離の半分なので,大気中の光速度cを用いて,(2)式のように算出できる。
【0025】
【数1】
【0026】
【数2】
【0027】
距離Lとビート周波数は線形な関係にある。よって受光器113で得られた測定信号L4をFFT(First Fourier Transform:高速フーリエ変換)して,ピーク位置と大きさを求めると,対象物の反射位置と反射光量が求まる。図3a,図3bに検出ビート信号と,その信号をFFTして得られる反射強度プロファイルの一例を示す。図3aは受光器で得られる干渉ビート信号を示す。干渉ビート信号の周波数は対象までの距離に比例する。また図3bは干渉ビート信号をFFTして得られた結果を示す。本図の横軸がFFTの周波数軸,縦軸が反射強度とすると,ピーク付近は本図に示すような離散的なデータとなる。ここでピーク幅wは,距離分解能cT/2Δνで計算される。そこで図に示すようにピーク点301付近の3点以上の点を用いて,二次関数またはガウス関数といった関数を当てはめ,当てはめられた関数のピークを用いると,距離分解能以上の精度で測定対象の位置を求めることが可能となる。ビート周波数の解析の一例として,FFTを挙げたが,例えば,最大エントロピー法を用いることで,FFTよりも高分解能にピーク位置を検出しても良い。
【0028】
図3a,図3bはある特定の偏光成分のみによって距離測定した場合に得られる理想的な結果を示した。現実には,ある特定の偏光成分に偏光方向が直交する漏れ光が光ファイバ中では発生する。漏れ光は,例えば,光ファイバの光学素子の消光比が低いために発生する。あるいは,光ファイバコネクタを用いた場合に,コネクタ間の勘合具合によって消光比が低下して発生する。
【0029】
図4a,図4b、図4cに漏れ光が発生した場合に得られる検出ビート信号波形を示す。図4aは受光器で得られる干渉ビート信号を示す。401は本来測定したい偏光成分によって得られるビート信号を示す。402はそれとは直交する漏れ光成分によって得られるビート信号を示す。401と402のビート信号の振幅比は消光比と同程度となる。また本来測定したい偏光成分が光ファイバのslow軸を通過し,それと直交する漏れ光成分が光ファイバのfast軸を通過する場合は,401のビート信号と402のビート信号はそれぞれ,光ファイバのslow軸とfast軸を通過する分の距離差が生じる。例えば,図1において,ファイバフォーカサ112と測定対象114の間にFMCW法の干渉原点が存在するとする。ここで,干渉原点とは,図2で示した参照光201と測定光202の距離差が等しい位置をさす。例えば,光ファイバフォーカサから干渉原点までの距離が200mmとする。その場合,その長さと等しくなるための参照光路の光ファイバ長は200mm×2(往復光路)÷1.5(光ファイバ屈折率)=300mmとなる。ここで,測定光の波長を1.55μmとし,光ファイバのビート長(fast軸とslow軸を通過する光の波長が1周期分ずれる距離)を5mmとすると,fast軸とslow軸を通るそれぞれの光の光路差は300mm÷5mm×1.55μm=93μm生じることになる。
【0030】
図4aで示したビート信号をFFTした結果を図4bに示す。403は401のビート信号成分(光ファイバのslow軸を通過)をFFTした結果得られるピーク強度を示し,404は402のビート信号成分(光ファイバのfast軸を透過)をFFTした結果得られるピーク強度を示す。405は403と404が合成されて得られる成分を示す。ここで光ファイバに熱が加わった際に光ファイバに応力が作用し,slow軸に対するfast軸の成分の位相が変化するため,403に対する404の位相が変化する。このときに光周波数掃引幅で決まるピーク幅(図3bで示したw)が,93μm(光ファイバのslow軸とfast軸の光路差)よりも広い場合は,403と404の裾野が重なり合うため,合成成分405のピーク検出位置が変化する。そのため,距離誤差が生じる。
【0031】
図4cに光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す。横軸が真の距離,縦軸が測定距離を示す。Fast軸への漏れ光がない理想的な場合に得られる測定距離を406とする。ここでファイバに温度変化が加わった場合に距離のオフセット変動が生じる。slow軸に対するfast軸の位相状態によって,オフセット変動量は異なるが,例えば,ある位相の時には,407に示すように真の距離に対して,測定距離が大きくなり,またある位相の時には,408に示すように真の距離に対して,測定距離が小さくなる。
【0032】
そこで本発明の実施例1では、図1に示すように光L1側の光路にポラライザ108(直交偏光成分減衰素子)を挿入し,特定の直線偏光成分,例えば,slow軸のみを透過させ,fast軸の漏れ光を減少させることで,光ファイバの温度による測定誤差を低減することが可能となる。なお図1では,ポラライザ108の挿入位置として,カプラ103とカプラ109間としたが,カプラ109の後や,サーキュレータ111の後でも良い。さらにはカプラ109とカプラ110間、サーキュレータ111とカプラ110間、あるいはカプラ110と受光機113の間であってもよい。
【0033】
なお、光ファイバ素子間を接続するためにコネクタを用いた場合,その勘合具合により,消光比が落ちる可能性があるため,光ファイバ素子間の接続は融着が望ましい。またポラライザを挿入する代わりに,消光比の高いカプラ103,109を用いてもよい。その場合は,レーザ101とカプラ103間も融着が望ましい。しかし,レーザは消耗部品のため定期的な交換が必要である。定期交換のためには,コネクタ接続が望ましい。その場合は,カプラ103の前にポラライザ108を設置し,カプラ103とポラライザ108を融着する。そうすることで,レーザとポラライザ間はコネクタを用いて消光比が落ちたとしてもポラライザにて漏れ光成分は減衰させることができるため,高い消光比を保つことが可能となる。またカプラは103や109として,fast軸をブロックするタイプを用いてもでもよい。
【0034】
以上、図1では距離計測装置100の構成例を示しているが、実施例1の装置構成の考え方は、要するに「レーザ光源101で発生した光を参照光学系と測定光学系に分岐し、参照光学系を通過した参照光L3から参照光路測定ビート信号を検出し、測定光学系において測定対象物114を経由して得られた測定光L4から測定光路測定ビート信号を検出して、測定光路測定ビート信号,及び参照光路測定ビート信号に基づき、測定対象物までの距離を計測する距離計測方法であって、参照光学系及び測定光学系のいずれか一方、または双方の光学系内に偏光起因で生じる距離誤差を低減する偏光起因距離誤差低減要素(108または801と802」を設置することを特徴とする距離計測方法」を採用したものであり、この処理方法を示す具体的な実現手法が図1に例示されたものである。なお、以下の実施例は主として、装置構成で説明するが、この構成による手法はそのまま方法による手法と置き換えることができる。
【実施例0035】
実施例2では直交偏光成分減衰素子を用いる手法について説明する。図5に本発明の実施例2に係る距離計測装置100の構成例を示している。図1では偏光起因の測定誤差を抑制するために測定光学系(光L1側)にポラライザ(直交偏光成分減衰素子)を挿入したが,同様の偏光起因の測定誤差は参照光学系(光L2側)でも生じうる。そこで,図5では光ファイバカプラ104の手前にポラライザ108(直交偏光成分減衰素子)を挿入することで,ある特定の偏光成分のみを通過させる構成とする。
【0036】
図6a,図6b、図6cに漏れ光が発生した場合に得られる検出ビート信号波形を示す。図6aは受光器で得られる干渉ビート信号を示す。601は本来測定したい偏光成分によって得られるビート信号を示す。602はそれとは直交する偏光の漏れ光成分によって得られるビート信号を示す。601と602のビート信号の振幅比は消光比と同程度となる。また本来測定したい偏光成分が光ファイバのslow軸を通過し,それと直交する漏れ光成分が光ファイバのfast軸を通過する場合は,601のビート信号と602のビート信号はそれぞれ,光ファイバのslow軸とfast軸を通過する分の距離差が生じる。例えば,図5のファイバ106の長さが300mmあったとする。ここで,測定光の波長を1.55μmとし,光ファイバのビート長(fast軸とslow軸を通過する光の波長が1周期分ずれる距離)を5mmとすると,fast軸とslow軸を通るそれぞれの光の光路差は300mm÷5mm×1.55μm=93μm生じることになる。
【0037】
図6aで示したビート信号をFFTした結果を図6bに示す。603は601のビート信号成分(光ファイバのslow軸を通過)をFFTした結果得られるピーク強度を示し,604は602のビート信号成分(光ファイバのfast軸を透過)をFFTした結果得られるピーク強度を示す。605は603と604が合成されて得られる成分を示す。ここで光ファイバに熱が加わった際に光ファイバに応力が作用し,slow軸に対するfast軸の成分の位相が変化するため,603に対する604の位相が変化する。このときに光周波数掃引幅で決まるピーク幅(図3bで示したw)が,93μm(光ファイバのslow軸とfast軸の光路差)よりも広い場合は,603と604の裾野が重なり合うため,合成成分605のピーク検出位置が変化する。そのため,距離誤差が生じる。
【0038】
図6cに光ファイバに熱が加わった場合に生じる距離誤差を示す。横軸が真の距離,縦軸が測定距離を示す。Fast軸への漏れ光がない理想的な場合に得られる測定距離を606とする。ここでファイバに温度変化が加わった場合に参照ビート信号601に602の影響が加わり,リサンプリングのタイミングがずれて,距離のゲイン変動が生じる。slow軸に対するfast軸の位相状態によって,ゲイン変動量は異なるが,例えば,ある位相の時には,607に示すようにゲインが大きくなり,ある位相の時には,608に示すようにゲインが小さくなる。またここで着目すべきは,測定光学系で漏れ光が発生した場合は,図4a,図4b、図4cに示したように距離のオフセット誤差を生じたが,参照光学系で漏れ光が発生した場合は,図6a,図6b、図6cに示すように距離のゲイン誤差が生じ,誤差の出方が異なることである。
【0039】
距離のゲイン変動を抑制するために,図5に示すようにポラライザ108を挿入し,slow軸のみを透過させ,fast軸の漏れ光を減少させることで,光ファイバの温度による測定誤差を低減することが可能となる。
【0040】
なお光ファイバ素子間を接続するためにコネクタを用いた場合,その勘合具合により,消光比が落ちる可能性があるため,融着が望ましい。またポラライザを挿入する代わりに,消光比の高いカプラ103,109を用いてもよい。その場合は,レーザ101とカプラ103間も融着が望ましい。しかし,レーザは消耗部品のため定期的な交換が必要である。定期交換のためには,コネクタ接続が望ましい。その場合は,カプラ103の前にポラライザ108を設置し,カプラ103とポラライザ108を融着する。そうすることで,レーザとポラライザ間はコネクタを用いて消光比が落ちたとしてもポラライザにて漏れ光はカットすることができるため,高い消光比を保つことが可能となる。またカプラは103や105として,fast軸をブロックするタイプを用いてもでもよい。
【実施例0041】
実施例3では直交偏光成分減衰素子を用いる手法について説明する。図7に本発明の実施例3に係る距離計測装置100の構成例を示す。図7は測定光学系(光L1側)と参照光学系(光L2側)の両方にポラライザを挿入する構成である。実施例1で述べたように測定光学系(光L1側)にポラライザ108Bを挿入することで,偏光起因で生じる距離のオフセット変動を抑制することができる。ポラライザ挿入位置として,カプラ109の後や,サーキュレータ111の後でも良い。さらにはカプラ109とカプラ110間、サーキュレータ111とカプラ110間、あるいはカプラ110と受光機113の間であってもよい。
【0042】
また実施例2で述べたように参照光学系(光L2側)にポラライザ108Aを挿入することで,偏光起因で生じる距離のゲイン変動を抑制することができる。ポラライザ108Aの挿入位置として,カプラ103の前でも良い。その場合は,測定光学系に挿入したポラライザ108Bと同様の効果を生むため,ポラライザ108Bは無くても良い。ただし,カプラ103がポラライザと同等の消光比を保持することが前提である。また光ファイバ素子間は高い消光比を維持するために融着が望ましい。
【実施例0043】
実施例4以降では、偏光成分間光路差生成素子を用いる手法について説明する。図8に本発明の実施例4に係る距離計測装置100の構成例を示す。実施例1から実施例3では測定光学系あるいは参照光学系に、偏光起因距離誤差低減要素として直交偏光成分減衰素子(ポラライザ108)を挿入することで,特定の偏光成分のみを通過させる構成とした。
【0044】
これに対し、以下においては偏光起因距離誤差低減要素の実現手法として偏光成分間光路差生成素子を用いる手法について説明する。但し、図8の実施例4の距離計測装置100における測定光学系あるいは参照光学系の構成は基本的に図1と同じであるので、ここでの説明は割愛する。唯一相違する点は、光ファイバのslow軸とfast軸成分に距離差を設けることで,偏光起因の測定誤差を低減する構成を採用した点であるので、この点を主体に以下の説明を行うものとする。
【0045】
具体的には図8において、サーキュレータ111の後に,偏光ビームスプリッタ801を備えて,光L12を偏光が直交する2成分(slow軸とfast軸)に分離する。分割した2成分間の光ファイバ長さを変えることで光路差を設けた後に偏光ビームコンバイナ802によって,再度光を合波する。合波した光を光ファイバフォーカサ112に導光して対象に照射する。
【0046】
なお図8ではサーキュレータ111の後に偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802を挿入したが,サーキュレータ111の前でも良い。さらには光ファイバカプラ109と110の間、サーキュレータ111と光ファイバカプラ110の間でもよい、要するに図8は測定光学系側に偏光起因距離誤差低減要素の実現手法として偏光成分間光路差生成素子(偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802)を設置したものである。なお光ファイバ素子間は高い消光比を維持するために融着することが望ましい。
【0047】
図9aに受光器113で得られるビート信号をFFTした結果を示す。901はslow軸を透過するビート成分によって得られるFFTスペクトルのピーク強度を示し,902はfast軸を透過するビート成分によって得られるFFTスペクトルのピーク強度を示す。偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802によって光路差をつけたため,光周波数掃引幅で決まるピーク幅(図3bのw)以上にピーク位置を離すことができる。この場合,漏れ光の位相が変動し,902のピーク強度の位相が変化しても901のピーク強度には影響しないため,距離誤差が生じない。
【0048】
図9bに生じる距離誤差を示す。横軸が真の距離,縦軸が測定距離を示す。Fast軸への漏れ光がない場合に得られる測定距離を903とする。図4a,図4b、図4cでは漏れ光の位相が変化した場合にオフセット誤差が生じたが,図9a,図9bでは漏れ光の位相が変化しても距離のオフセット誤差は生じない。
【実施例0049】
図10に本発明の実施例5に係る距離計測装置100の構成例を示す。実施例4では測定光学系に偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802を挿入することで直交する偏光成分間に距離差を設けたが,実施例5では同様の方式を参照光学系に用いている。光ファイバカプラ103で光L1とL2に分岐し,参照光学系に導光される光L1を偏光ビームスプリッタ801によって,光を偏光が直交する2成分(slow軸とfast軸)に分離する。2成分間に光路差を設けた後に偏光ビームコンバイナ802によって,再度光を合波し,光カプラ104に導光する。ここで偏光間の距離差を光周波数掃引幅で決まるピーク幅(図3bのw)以上に離すことによって,偏光起因のゲイン変動を抑制することが可能となる。
【実施例0050】
図11に本発明の実施例6に係る距離計測装置100の構成例を示す。図11は測定光学系と参照光学系の両方に偏光ビームスプリッタと偏光ビームコンバイナを挿入する構成である。
【0051】
実施例4で述べたように測定光学系に偏光ビームスプリッタ801Bと偏光ビームコンバイナ802Bを挿入することで,偏光起因で生じる距離のオフセット変動を抑制することができる。さらに実施例5で述べたように参照光学系に偏光ビームスプリッタ801Aと偏光ビームコンバイナ802Aを挿入することで,偏光起因で生じる距離のゲイン変動を抑制することができる。
【実施例0052】
図12に本発明の実施例7に係る距離計測装置100の構成例を示す。本構成では実施例4の図8の構成に対して,測定方向の切替えを行うために,偏光切替器1201および偏光ビームスプリッタ1202を追加した構成である。レーザ101から射出する光は,偏光切替器1201によって,透過する光の偏光を切り替えることができる。ファイバカプラ109,サーキュレータ111,偏光ビームスプリッタ801,偏光ビームコンバイナ802を通過した光は,ファイバフォーカサ112から空間に照射される。偏光ビームスプリッタ1202に照射された光は,その偏光状態によって,照射方向を切り替えることが可能となる。例えば,偏光ビームスプリッタ1202の入射面に平行に振動する光は透過するため,測定対象114を照射し,入射面に垂直な方向に振動する光は反射するため,測定対象1141を照射する。
【0053】
この時,偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802を用いることで,両方の偏光成分を透過させることが可能となるため,偏光切替器を用いた測定方向の切替えに対応することが可能となる。
【0054】
これに対し、実施例1の図1で説明したポラライザ108を用いた場合は,一方方向の偏光しか通過しないため,測定方向の切替えを行うことはできない。偏光ビームスプリッタ801と偏光ビームコンバイナ802を用いることで,偏光起因で生じる距離のオフセットを抑制しつつ,両方の偏光を通すことができるというメリットがある。
【0055】
図13図12に対して,偏光起因で生じる距離のゲイン変動を抑制するために,参照光学系にポラライザ108を挿入した構成を示す。参照光学系は偏光切替を行わないため,ポラライザ108を挿入して一方の偏光のみを通過させる構成で良い。ただし,図10で説明した偏光ビームスプリッタ1001と偏光ビームコンバイナ1002を用いた構成でも良い。
【0056】
図14図13に対して,距離の基準となる参照ファイバ干渉計部分(光カプラ104,106、光ファイバ105)を断熱ボックス1401で覆い,断熱ボックス内の温度を温度センサ1402で測定し,測定値130を距離計測装置115に送ることで,光ファイバの熱による光路長変化を補正する構成である。本構成によって,距離の基準となる参照光学系の光路長差を精度よく求めることができ,高精度な距離計測が可能となる。
【実施例0057】
図15aに本発明の実施例8に係る距離計測装置100の構成例を示す。図12では測定方向の切替えを行うために偏光切替器1201を用いたが,その代わりに光スイッチ1501を用いる。レーザ光源101から照射され,光カプラ103を通過した光L1を光スイッチ1501によって光路を2分岐する。一方の光路中にポラライザ801Aを挿入する。その後,偏光ビームコンバイナ802に導光する。もう一方の光路にもポラライザ801Bを挿入する。ポラライザ801Bを通過した光に対して,光ファイバのFast軸とslow軸を反転させて,偏光ビームコンバイナ802と融着する。そうすることで,光スイッチ1501で2分岐した光に対して,それぞれ偏光の異なる成分に分離することが可能となる。光スイッチ1501はメカニカルに光路切替えを行うため,偏光の漏れ光が生じない特徴を有する。そのため偏光ビームコンバイナを用いた構成に対して高い消光比を維持することができる。
【0058】
図15bは図15aに対して,光スイッチの挿入位置を変えた構成である。図15bではサーキュレータの後に光スイッチ1501を配置することで,カプラ109やサーキュレータ111の消光比に依存せずに,ポラライザ108Aと108Bと偏光ビームコンバイナ802で決まる消光比で測定対象に照射することができる。また本構成では,光スイッチ1501までは一方の偏光しか通さないため,ポラライザ108Cと108Dを干渉計内に挿入することで,漏れ光の影響を低減することができる。
【実施例0059】
次に、形状計測装置としての構成例について図16から図24を用いて実施例9から実施例13により説明する。
【0060】
まず図16は、本発明の実施例9に係る距離計測システムの構成例を示す図である。距離計測装置100から射出する光を光ファイバで導光し,光ファイバフォーカサ1600から空間に射出する。ビーム走査機構1601および1602を用いてビームを走査し,対象114に2次元的に走査する。ビーム走査機構として,ガルバノミラーを用いて,ビームを走査しても良い。ガルバノミラーを1つ用いることで,1次元的に走査することが可能であり,2つ用いることで,2次元的に走査することが可能である。また走査機構としてMEMSミラーやポリゴンミラーなどのように光を偏向し,走査可能な他の機構を用いて走査しても良い。
【実施例0061】
図17は本発明の実施例10に係る距離計測システムの構成例を示す図である。距離計測装置100から射出する光を光ファイバ1701で計測ヘッド1700に導光する。計測ヘッド1700内に導光された光は,光ファイバフォーカサ1702から空間に射出する。回転モータ1703にはプローブシャフト1704が取り付けられており,プローブシャフト先端にはプリズム1705が取り付けられている。1705で反射した光は測定対象1706に照射され,反射した光が再びプリズム1705で反射し,光ファイバフォーカサ1702によって集光される。回転モータ1703が回転することで先端のプリズム1705が回転し,対象1706の断面形状を測定することが可能となる。
【実施例0062】
図18は本発明の実施例11に係る距離計測システムの構成例を示す図である。距離計測装置100から射出する光を光ファイバ1701で計測ヘッド1700に導光し,光ファイバフォーカサ1702から空間に射出する。距離計測装置100から導光される直線偏光の光はλ/4板1707で円偏光に変換された後,回転モータ1703に取り付けられたλ/4板1708を通過することで,再び直線偏光になる。プローブ1704先端に取り付けられた偏光ビームスプリッタ1705によって,偏光方向に応じて反射あるいは透過し,測定対象114,1141に照射する。このとき,図4の距離計測装置100に搭載された偏光切替器1201で偏光を切り替えることで,側面測定と奥行き測定の方向切替を行うことが可能となる。
【0063】
図19にプローブ先端にて偏光を用いた測定方向の切替原理を説明する。プローブの先端部の偏光ビームスプリッタ1705は,入射面に平行に振動する光(P偏光)を透過させ,入射面に垂直な方向に振動する光(S偏光)を反射させる性質を持つ。そのため,偏光切替器1201で測距レーザの偏光をP偏光,S偏光に電気的に切り替え制御することで,測距レーザ照射方向を側面方向と奥行方向に切り替えることができる。
【0064】
計測ビームを側面方向に向けたまま回転させるには,偏光ビームスプリッタの回転に応じて入射光1901の偏光方向を回転させ,偏光ビームスプリッタに対して相対的な偏光状態を一定に保つ必要がある。
【0065】
そのため,2枚のλ/4板1707,1708を用いる。入射光1901の偏光方向に対して,1枚目のλ/4板1707の軸を45度に配置することで,直線偏光を円偏光に変換する。2枚目のλ/4板1708と偏光ビームスプリッタ1705は回転モータに取り付けられており,モータとともに回転する。円偏光の光は2枚目のλ/4板1708を通過することで,再び直線偏光に変換され,モータの回転とともに偏光ビームスプリッタ1705に対して常に一定の偏光入射方向を維持し,側面方向に向けたビームを回転させることができる。
【実施例0066】
図20は本発明の実施例12に係る距離計測システムの構成例を示す図である。図20は距離計測ヘッド1700を走査する走査機構を含む構成の一例を示す。距離計測ヘッド1700をZ軸ステージ2006に搭載することで計測ヘッド1700の上下への移動が可能となる。また測定対象114はX軸ステージ2004とY軸ステージ2005上に搭載されており,測定対象114を水平方向に移動することが可能となる。計測ヘッド1700に対して計測対象114の水平方向の位置決めを行ったうえで,計測ヘッド1700を上下方向に移動させることで,計測対象114の3次元形状を測定することが可能となる。
【0067】
またこれら移動ステージは、配線2007を介してステージコントローラ2008によって駆動される。ステージコントローラ2008は制御PC116によって制御される。
【0068】
走査機構の一例として,3軸加工機において工具の代わりに本発明の計測ヘッド1700を把持させることで、加工機上オンマシン測定を実現することが可能となる。また多自由度ロボットで,本発明の計測ヘッド1700を保持・移動し,測定対象114の形状を測定する立体形状測定装置も実現することが可能である。また測定対象範囲が狭く,Z軸方向に対する移動のみで形状が計測できる場合は,測定対象114の位置が一意に定まるように冶具で位置決めし,Z軸ステージのみを移動させて,測定しても良い。
【0069】
図21図20で示した形状計測装置のシステム構成例を示す。計測ヘッド1700は距離計測装置100によって制御され,測定対象までの距離が測定される。距離計測装置100によって計測された距離は制御PC116内の距離演算部2101に入力され,距離計測値と回転ステージエンコーダ信号との紐づけなどが実行される。
【0070】
またステージ機構2103は図20のXYZ軸ステージを含み,ステージコントローラ2108によって位置制御される。ステージコントローラ2108で取得されたステージ座標と距離演算部2101で得られた距離測定結果を形状算出器2102で処理することで,対象の3次元形状を測定することが可能となる。測定結果は表示部117に表示される。
【実施例0071】
図22図18の異なる実施形態を示す。FMCW距離計測では図12で説明したように距離計測装置100内のカプラ109で分離した光は,測定対象114からの反射光とカプラ110で合波するまでの距離差を測定する。ここで、カプラ109で分離後に測定対象114までの光路は途中,熱の影響などで光ファイバ素子などの光路長が変化するため測定誤差となる。そこで測定精度向上を目的に距離原点の補正を行うことが考えられる。
【0072】
距離原点補正の一実施例として,偏光ビームスプリッタ1705の入射面に距離原点生成用の反射コーティング2200を行う。偏光ビームスプリッタの材質は一般的にはガラスであるため,コーティングしない場合,表面反射率は4%程度となる。用いる受光器の感度にもよるが,反射率が強すぎて,受光器が飽和する場合は,表面コーティングによって反射率を4%以下に調整する必要がある。また偏光ビームスプリッタ出射面2201および2202での反射はノイズの要因となるため,極力抑える必要がある。そこで,反射防止膜を設ける。一般的な反射防止膜は反射率が0.1%以下である。
【0073】
図23図22の構成で得られる検出ビート信号のFFT結果を示す。距離原点として用いる偏光ビームスプリッタ1705の入射面の測定ピークを2301とする。一方偏光ビームスプリッタを透過して測定対象114からの測定ピークを2302とする。2302のピーク距離から2301のピーク距離を差し引くことで,距離原点補正を行うことが可能となる。
【0074】
図24に原点補正の処理フローを示す。処理ステップS2400で側面測定か深さ測定かを判断する。側面測定の場合,処理ステップS2401にてビート信号を取得する。またビート信号と取得タイミングが同期した回転モータのエンコーダ信号を取得する。処理ステップS2402にて測定対象までの距離と原点までの距離を算出する。処理ステップS2403にて測定対象距離から原点距離を引くことで原点補正後の測定対象距離を算出する。さらに処理ステップS2404で原点補正後のターゲット距離とそれに同期した回転モータのエンコーダ信号から対象の直径を算出する。また直径のみならず真円度も算出することが可能である。また図20で説明した計測ヘッド走査座標と組み合わせることで,3次元形状を算出することも可能となる。
【0075】
深さ測定の場合,処理ステップS2405にてビート信号を取得する。処理ステップS2406にて測定対象までの距離と原点までの距離を算出する。処理ステップS2407にて測定対象距離から原点距離を引くことで原点補正後の測定対象距離を算出する。また図20で説明した計測ヘッド走査座標と組み合わせることで,3次元形状を算出することも可能となる。
【実施例0076】
実施例1の構成では,ポラライザを用いて特定の偏光成分のみを透過させていたが,ポラライザ以外を用いた構成の実施例を図25に示す。光ファイバ2501aから射出する光をレンズ2502aによって平行光にし,偏光ビームスプリッタ2503に照射する。偏光ビームスプリッタ2503では,偏光方向によって光が分離され,一方の偏光を透過し,もう一方の偏光を反射する。反射した光を吸収材2506によって吸収し,透過する光をレンズ2502bによって,光ファイバに2501aに導光することで,ポラライザ同等の効果を有することが可能となる。
【0077】
また偏光方向によって光を分離する素子として,複屈折率を有する素子を用いても良い。複屈折率を有する素子を用いた実施例を図26に示す。光ファイバ2501aから射出する光をレンズ2502aによって平行光にし,複屈折率を有する素子2601に照射する。2601を通過する光は偏光によって屈折率が異なるため,進行角度に差異が生じる。よって,一方の偏光を吸収材2506によって吸収し,もう一方の偏光をレンズ2502bによって,光ファイバに2501bに導光することで,ポラライザ同等の効果を有することが可能となる。
【実施例0078】
実施例4の構成では,偏光ビームスプリッタ/偏光ビームコンバイナを用いて偏光を分離/合波して偏光成分間の光路差を設けたが,複屈折率を有する素子を用いて偏光方向によって光を分離/合波する構成でも良い。複屈折率を有する素子を用いた場合の実施例を図27に示す。光ファイバ2501aから射出する光をレンズ2502aによって平行光にし,複屈折率を有する素子2601aに照射する。2601aを通過する光は偏光によって屈折率が異なるため,進行角度に差異が生じる。よって,一方の偏光をレンズ2502bによって,光ファイバに2501bに導光し,もう一方の偏光をレンズ2502cによって,光ファイバ2501cに導光する。ここで,光ファイバ2501bと2501cは長さが異なる。光ファイバ2501bから射出する光をレンズ2502dによって平行光にし,複屈折率を有する素子2601bに照射する。また光ファイバ2501cから射出する光をレンズ2502eによって平行光にし,複屈折率を有する素子2601bに照射する。両者の光は複屈折率を有する素子2601bによって,再び同一光路に合波され,レンズ2502fによって,光ファイバ2501dに導光する。本構成によって偏光ビームスプリッタ/偏光ビームコンバイナ同等の機能を有する。
【実施例0079】
実施例1から8では,一実施例として,光ファイバを用いた構成例を示したが,例えば,空間中で光を分岐,合波する光学素子を用いて,空間内で干渉計を構成するシステムであってもよい。
【0080】
またフォトニック集積回路を用いて,基板上に導波路,カプラ,サーキュレータ,偏光素子(ポラライザ,偏光ビームスプリッタ),ディテクタを形成し,実施例1から8で説明した実施例を実現する上で光学的に必要な素子や機能の一部ないし全部が基板上に形成されたフォトニック集積回路を用いたシステムであってもよい。
【符号の説明】
【0081】
100:距離計測装置,101:半導体レーザ,102:発振器,103、104,106,109,110:光ファイバカプラ,105:光ファイバ,107:受光器,108:ポラライザ,111:サーキュレータ,112:光ファイバフォーカサ,113:受光器,114、1141:測定対象,115:距離計測装置制御部,116:制御装置,117:表示部,201:参照光,202:測定光,301:FFTピーク波形,401:主成分の偏光成分によって得られるビート信号,402:漏れ光の偏光成分によって得られるビート信号,403:主成分の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,404:漏れ光の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,405:主成分と漏れ光の偏光成分を合波して得られるFFT強度プロファイル,406:熱変動が生じない場合に得られる距離測定値,407:熱変動が生じた場合に得られる距離測定値,408:熱変動が生じた場合に得られる距離測定値,601:主成分の偏光成分によって得られるビート信号,602:漏れ光の偏光成分によって得られるビート信号,603:主成分の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,604:漏れ光の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,605:主成分と漏れ光の偏光成分を合波して得られるFFT強度プロファイル,606:熱変動が生じない場合に得られる距離測定値,607:熱変動が生じた場合に得られる距離測定値,608:熱変動が生じた場合に得られる距離測定値,801:偏光ビームスプリッタ,802:偏光ビームコンバイナ,901:主成分の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,902:漏れ光の偏光成分によって得られるFFT強度プロファイル,903:熱変動が生じない場合に得られる距離測定値,1201:偏光切替器,1202:偏光切ビームスプリッタ,1401:断熱ボックス,1402:温度センサ,1501:光スイッチ,1600:光ファイバフォーカサ,1601:ビームスキャナ,1602:ビームスキャナ,1700:計測ヘッド,1701:光ファイバ,1702:光ファイバフォーカサ,1703:回転モータ,1704:シャフト,1705:偏光ビームスプリッタ,1707:λ/4板,1708:λ/4板,1901:レーザ光,2004:X軸ステージ,2005:Y軸ステージ,2006:Z軸ステージ,2007:配線ケーブル,2008:ステージコントローラ,2101:距離演算部,2102:形状算出部,2103:ステージ機構,2200:反射コート,2201:反射防止コート,2202:反射防止コート,2301:距離原点検出ピーク,2302:対象検出ピーク,2501:光ファイバ,2502:レンズ,2503:偏光ビームスプリッタ,2506:吸収材,2601:複屈折率を有する素子
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図5
図6a
図6b
図6c
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12
図13
図14
図15a
図15b
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27