(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024047892
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸の合成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/625 20220101AFI20240401BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20240401BHJP
【FI】
C12P7/625
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153653
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】591119370
【氏名又は名称】ヤマモリ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】烏山 将織
(72)【発明者】
【氏名】宮村 かおり
(72)【発明者】
【氏名】山田 美和
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD64
4B064AD83
4B064CA02
4B064CC03
4B064CD23
4B064DA16
4B065AA01X
4B065BB10
4B065CA12
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】しょうゆ油を炭素源とするポリヒドロキシアルカン酸の合成方法を提供すること。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカン酸を産生する微生物を準備する工程と、前記微生物をしょうゆ油を炭素源として含む培地にて培養する工程と、前記微生物の菌体からポリヒドロキシアルカン酸を回収する工程と、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の合成方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸を産生する微生物を準備する工程と、
前記微生物を、しょうゆ油を炭素源として含む培地にて培養する工程と、
前記微生物の菌体からポリヒドロキシアルカン酸を回収する工程と、
を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の合成方法。
【請求項2】
前記微生物が、カプリアビダス属、バークホルデリア属またはコベティア属に属する細菌より選択される、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカン酸の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリヒドロキシアルカン酸の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、微生物が作り出す生分解性プラスチックの一種であり、微生物が貧栄養時に備える炭素やエネルギーの貯蔵物質として知られている。PHAは、生分解性、熱可塑性、生体適合性等の特性を有することから、石油由来のプラスチックの代替として注目されている。
【0003】
これまでに、さまざまな有機物を炭素源としたPHAの微生物による生合成が報告されている。例えば、特許文献1(特開2015-77103号公報)は、リグニン関連物質を炭素源とした、カプリアビダス属、ラルストニア属またはアルカリゲネス属に属する微生物によるPHAの合成方法を、特許文献2(特開2021-108581号公報)は、糖類や植物油を含む油類等を炭素源とした、カプリアビダス属、アエロモナス属等に属する微生物によるPHAの合成方法を、それぞれ開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-77103号公報
【特許文献2】特開2021-108581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の方法によるPHAの合成方法では、PHAの合成量に改善の余地があった。また、トウモロコシ等の食品から抽出される糖類や、食品および油脂飼料として利用される大豆油等の植物油は、食用資源との競合もあるため、未利用資源の活用が期待されている。
【0006】
そこで、本発明者らは、醤油の醸造過程で副産物として産生されるしょうゆ油(あぶら)が通常食品としては使用されておらず、他の分野においても十分に利用されていないことに着目し、しょうゆ油を炭素源としてPHAを合成することを見出した。
【0007】
したがって、本開示の目的は、しょうゆ油を炭素源とするPHAの合成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕ポリヒドロキシアルカン酸を産生する微生物を準備する工程と、
前記微生物を、しょうゆ油を炭素源として含む培地にて培養する工程と、
前記微生物の菌体からポリヒドロキシアルカン酸を回収する工程と、
を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の合成方法。
【0009】
〔2〕前記微生物は、カプリアビダス属、バークホルデリア属またはコベティア属に属する細菌より選択される、〔1〕に記載のポリヒドロキシアルカン酸の合成方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、しょうゆ油を炭素源とするPHAの合成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態が説明される。ただし以下の説明は特許請求の範囲を限定するものではない。
【0012】
本開示のPHAの合成方法は、PHAを産生する微生物を準備する工程(準備工程)と、微生物をしょうゆ油を炭素源として含む培地にて培養する工程(培養工程)と、微生物の菌体からPHAを回収する工程(回収工程)と、を含む。
【0013】
<準備工程>
準備工程では、PHAを産生する微生物を準備する。
【0014】
(微生物)
本開示で使用できる微生物は、PHAを産生することができれば、特に制限はなく、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、ラルストニア(Ralstonia)属、バチルス(Bacillus)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、コベティア(Cobetia)属に属する細菌等が挙げられる。これらの中でも、油脂や脂肪酸を炭素源として良好に生育し、PHAを高蓄積することができる性質を有する、カプリアビダス属またはバークホルデリア属に属する細菌より選択されることが好ましい。カプリアビダス属に属する微生物としては、例えば、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)が、ラルストニア属に属する微生物としては、例えば、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha)が、バチルス属の属する微生物としては、例えば、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)が、バークホルデリア属に属する微生物としては、例えば、バークホルデリア属 AIU M5M02が、コベティア属に属する微生物としては、例えば、コベティア属 IU180733JP01(5-11-6-3)が、それぞれ挙げられる。これらの中でも、PHAの生産性の観点から、カプリアビダス・ネカトールがより好ましい。微生物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を使用してもよい。
【0015】
これらの微生物は、単離微生物、寄託微生物、遺伝子改変微生物等であってもよい。
【0016】
単離微生物は、自然サンプルから分離された微生物である。自然サンプルの例として、海水、海中生物、海藻、汽水域の水、汽水域の生物、岩、土、砂等を挙げることができる。自然サンプルを、任意の培地、例えば、NB培地、ZoBell 2216E海水培地、MS培地、ダイゴIMK培地等で、10~42℃で、24~72時間、pH5~10の条件で培養し、コロニーを分離することができる。ZoBell 2216E海水培地やMS培地等を用いる培養の前に、ろ過海水中で予備培養することができる。単離したコロニーを、Nile Redとしょうゆ油とを含有した寒天平板培地で培養し、しょうゆ油含有培地で増殖性を示し、PHAを合成していると判断されたコロニーを選択することができる。Nile Redは疎水性色素であり、生体内の中性脂質やPHA等の疎水性物質と反応し赤く呈色するので、PHA合成能を有する微生物のスクリーニングに使用することができる。
【0017】
さらに、PHA合成について、PHAを微生物乾燥菌体からクロロホルム等の有機溶媒で抽出し、メタノールやヘキサン等の有機溶媒を加えてPHAを析出させ、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィー、NMR、IR等の分析手法を用いて、スクリーニングすることができる。さらに、場合により、単離されたコロニーの菌株について、16S rDNA配列または菌学的性質をもとに、同定をすることができる。
【0018】
寄託微生物は、微生物の寄託物について、上述の単離微生物について記載したものと同様の手法を用いて、PHA合成能を有する微生物を選抜することによって得ることができる。
【0019】
遺伝子改変微生物は、例えば、PHA合成酵素遺伝子やPHA合成酵素遺伝子に関連する遺伝子が改変された微生物であることができる。
【0020】
<培養工程>
培養工程では、準備工程で準備した微生物を、しょうゆ油を炭素源として含む培地にて培養する。
【0021】
(炭素源)
本開示の炭素源は、しょうゆ油を含む。しょうゆ油とは、醤油の醸造過程で副産物として産生される大豆に由来する油である。具体的には、大豆および小麦を原料として、麹菌を作用させて醤油を製造する過程において、圧搾工程において生成する油脂成分である。醤油の醸造過程において、大豆油由来の遊離脂肪酸はリパーゼの逆反応により、醤油もろみ中に存在するエタノールと縮合してエチルエステルを形成する。その結果、しょうゆ油は、脂肪酸エチルエステルを主成分として含む。また、しょうゆ油は、脂肪酸エチルエステル以外に、遊離脂肪酸、グリセリン、ステロール、中性脂肪等の脂質成分やアミノ酸等を含む。なお、本開示における「主成分」とは、しょうゆ油に含まれる成分のうち、50質量%超を含む成分をいう。
【0022】
本開示で使用されるしょうゆ油の主成分である脂肪酸エチルエステルを形成する脂肪酸としては、特に制限はないが、例えば、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、ステアリン酸等が挙げられる。
【0023】
しょうゆ油の由来となる醤油には、特に制限はない。しょうゆ油の由来となる醤油としては、例えば、濃口醤油、淡口醤油、溜まり醤油、再仕込み醤油、白醤油等が挙げられる。
【0024】
また、しょうゆ油の由来となる醤油の醸造期間にも、特に制限はない。しょうゆ油の由来となる醤油の醸造期間としては、例えば、1ヶ月以上であってもよく、3ヶ月以上であってもよく、6ヶ月以上であってもよく、3年以下であってもよく、1年以下であってもよく、9ヶ月以下であってもよい。
【0025】
しょうゆ油は、灯油や石けん、家畜の飼料等に使用されてきたが、色と臭気から、使用用途が限られていた。このような使用用途の低いしょうゆ油をPHAを合成するための炭素源として使用することは、コストに優れるほか、持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献することができる。
【0026】
なお、しょうゆ油を炭素源として使用する前に、脱色、脱臭等の処理を行ってもよい。色味や臭気が強いしょうゆ油を使用する場合、合成されたPHAに当該色味や臭気が残存するおそれがあるためである。脱色、脱臭の処理方法としては、例えば、活性炭による処理等が挙げられる。
【0027】
(培地)
本工程で使用する培地は、上記炭素源を含んでいればよい。培地の炭素源の濃度は、炭素源の種類や微生物の種類等により適宜設定すればよく、例えば、0.5~20w/v%であってもよく、1.0~10w/v%であってもよい。なお、本開示において、「w/v%」とは、「g/100mL」を意味する。
【0028】
培地には、無機塩培地(貧栄養培地)を使用してもよい。培地は、上記炭素源のほかに、無機窒素源を含んでいてもよい。無機窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等が挙げられる。また、培地は、さらに無機塩類や微量金属塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、鉄、カルシウム、コバルト、銅、亜鉛、リン、硫黄、ニッケル等の塩を含んでいてもよい。無機塩培地としては、例えば、MS培地が挙げられる。
【0029】
培地の温度は、例えば、20~40℃の範囲であってもよい。培地のpHは、例えば、5~10の範囲であってもよい。培地の温度およびpHは、培養する微生物に合わせて、適宜調整すればよい。
【0030】
(培養)
本工程の培養は、好気的条件で行い、通気撹拌可能な培養槽を使用してもよい。培養槽のサイズは、培養規模に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
培養は、上述の培地の炭素源の濃度、温度およびpHのほか、通気量、撹拌速度、培養日数等の条件を制御しながら行うことができる。通気量は、例えば、1~3L/分であってもよい。撹拌速度は、例えば、100~700rpmであってもよい。培養日数は、1~7日以下であってもよい。
【0032】
<回収工程>
回収工程では、培養工程で培養した微生物の菌体からPHAを回収する。
【0033】
微生物菌体に蓄積されたPHAは、公知の方法によって回収することができる。例えば、培養液から遠心分離機等の分離手段を用いて菌体を分離し、その菌体を蒸留水、メタノール等により洗浄し、乾燥させる。この乾燥菌体から、クロロホルム等の有機溶剤を用いてPHAを抽出する。このPHAを含んだ有機溶剤溶液から、濾過等によって菌体成分を除去し、その濾液にメタノール、ヘキサン等の貧溶媒を加えてPHAを沈殿させる。さらに、濾過や遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHAを回収することができる。
【0034】
(PHA)
本開示により合成されるPHAは、1種のモノマーからなるホモ重合体であってもよく、少なくとも2種以上のモノマーからなるヘテロ重合体であってもよい。構成するモノマーとしては、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等の3-ヒドロキシアルカン酸、4-ヒドロキシブタン酸等の4-ヒドロキシアルカン酸、乳酸や2-ヒドロキシブタン酸等の2-ヒドロキシアルカン酸が挙げられる。合成されるPHAは、3-ヒドロキシブタン酸を構成単位とすることが好ましい。合成されるPHAとしては、例えば、3-ヒドロキシブタン酸モノマーのモノ重合体であるポリ(3-ヒドロキシブタン酸)(P(3HB))等が挙げられる。合成されるPHAは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【実施例0035】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、特許請求の範囲を限定するものではない。
【0036】
≪試験例1≫
<実施例1>
(準備工程)
微生物として、以下に示すカプリアビダス・ネカトールを用いた。
寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NITE-NPMD)
菌株番号:NBRC 102504
【0037】
(培養工程)
上述のカプリアビダス・ネカトールを、10mLの試験管に分注したNB培地(Difco社製)で、培養温度30℃、培養時間18時間の条件で培養させた。
【0038】
上述の条件で培養させたカプリアビダス・ネカトールを含む培養液を2mL準備し、200mLスケールで以下に示す条件で培養した。炭素源として、脱脂加工大豆を原料とする濃口醤油由来のしょうゆ油を、培地として、表1および2に記載のMS培地を用いた。なお、表1に記載の微量元素100μLは、表2に記載の微量元素100mLから100μLを使用したことを意味する。
[培養条件]
炭素源の濃度:1.5w/v%
培地の温度 :30℃
培地のpH :7
撹拌速度 :120rpm
培養時間 :72時間
【0039】
【0040】
【0041】
(回収工程)
培養終了後、RO水による2回の懸濁および3回の遠心によって菌体を回収した。遠心は8490×gまたは7670×gによって行った。回収した菌体は、-30℃で予備凍結を行った。その後、菌体の入ったチューブをパラフィルムによって蓋をし、そこへ穴を開け、凍結乾燥機によって48時間凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後、乾燥菌体重量を測定し、細かく砕いた後、菌体をねじ口試験管に移した。
【0042】
<実施例2>
炭素源として丸大豆および脱脂加工大豆を原料とする濃口醤油由来のしょうゆ油を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件とした。
【0043】
<比較例1>
炭素源として大豆油を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件とした。
【0044】
<評価>
(ガスクロマトグラフィーによる分析)
抽出物にクロロホルム1mLを添加後、加熱によって溶解させた。そこに99.5%エタノールを3.4mLとHCl(原液)400μLとを加え、1分間ボルテックスにより撹拌し、100℃で4時間ヒートブロックを使用して加熱した(エタノリシス処理)。なお、加熱時は30分毎に1分間、ボルテックスした。氷中で一旦冷却し、0.65M NaOHおよび0.9M NaClの混合液を4mLと、0.25M Na2HPO4を2mLとを添加後、1分間ボルテックスし、pH試験紙でクロロホルム層が中性であることを確認した。次いで、この溶液を800×gで5分間遠心し、クロロホルム層を下層に集めた。パスツールピペットにガラスウールおよびNa2SO4を詰めて作製したカラムにクロロホルム層を通し、予め180℃で2時間乾熱したMolecular sievesを入れたねじ口試験管にクロロホルム層を移すことで脱水した。これをサンプルとし、分析まで-30℃で保存した。
【0045】
合成されたPHA量を測定するため、最もメジャーなPHAの1つであるP(3HB)をエタノリシス処理し、3HBエチルの標準物質として検量線を作成した。検量線の作成には、P(3HB)をクロロホルムで希釈して、濃度が10、50、100、500、1000μg/mLのものを用意し、それぞれエタノリシス処理した試料を用いた。
【0046】
ガスクロマトグラフィー(GC)装置は、島津製作所社製の「GC-2014」を、カラムはAgilent Technologies社製の「HP-5」(長さ:30m、膜厚:0.25μm、内径:0.25mm)を、用いた。また、GCによる分析条件は、以下の通りである。
[分析条件]
カラム温度 :45℃(1min)→80℃(3min)→250℃(15min)
注入量口温度:250℃
気化室温度 :250℃
キャリアガス:N2(カラム流量:2.2mL/min)
注入量 :1.0μL
スプリット比:10
【0047】
P(3HB)の合成量は3HBエチルを標準物質として用いた検量線から求めた。P(3HB)の蓄積率は、P(3HB)の合成量を乾燥菌体重量で割ることで求めた。結果を表3に示す。また、上述の回収工程で回収した乾燥菌体の重量も表3に示す。なお、表3の数値は、n=3の平均値を示す。
【0048】
【0049】
<結果>
表3の結果より、炭素源としてしょうゆ油を用いた実施例1および2では、炭素源としてしょうゆ油を用いなかった比較例1と比較して、乾燥菌体の重量、P(3HB)の合成量およびP(3HB)の蓄積率において、高い値を示した。
【0050】
≪試験例2≫
<実施例3>
微生物として、バークホルデリア属 AIU M5M02を用いた。該微生物は、海洋中より単離されたものであることが報告されている(M. Yamada et al., Fisheries Science, 84(2), 405-412, (2018))。該微生物を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件とした。
【0051】
<比較例2>
微生物として実施例3と同一の微生物を用いた点、炭素源としてマンニトール(1.0v/v%)を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件とした。
【0052】
<比較例3>
微生物として実施例3と同一の微生物を用いた点、炭素源としてマンニトール(3.0v/v%)を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件とした。
【0053】
<評価>
試験例1と同一の分析方法および分析条件で評価を行った。その結果を表4に示す。
【0054】
【0055】
<結果>
表4の結果より、炭素源としてしょうゆ油を用いた実施例3では、炭素源としてしょうゆ油を用いなかった比較例2および3と比較して、乾燥菌体の重量、P(3HB)の合成量およびP(3HB)の蓄積率において、高い値を示した。また、実施例3と比較例3とでは、実施例3の方が炭素源の濃度が低いにも関わらず、全ての評価項目で比較例3よりも高い結果が得られた。さらに、マンニトールは食品としても使用される原料である一方、食品としては使用されないしょうゆ油が、PHAの合成の観点からは有効に利用できることも示された。
【0056】
≪試験例3≫
<実施例4>
微生物として、以下に示すコベティア属の菌株を用いた。
寄託機関:NITE-NPMD
受託番号:NITE P-02758(コベティア属 IU180733JP01(5-11-6-3))
【0057】
10g/Lのトリプトンおよび5g/Lの酵母エキスを含むLuria-Bertani(LP)培地に、濃度が2.0w/v%となるように食塩(NaCl)を添加した。該LP培地を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件で上述のコベティア属の菌株を、培養させた。
【0058】
表1に記載のMS培地に、濃度が6.0w/v%となるようにNaClを添加した。該MS培地を用いた点を除いては、実施例1と同一の条件で培養させた。その後、実施例1と同一の方法で菌体を回収した。
【0059】
<評価>
試験例1と同一の分析方法および分析条件で評価を行った。その結果を表5に示す。
【0060】
【0061】
<結果>
表5の結果より、炭素源としてしょうゆ油を用いることで、コベティア属の菌株からP(3HB)を合成できることが確認された。
【0062】
また、カプリアビダス属は水素細菌、バークホルデリア属は土壌細菌、コベティア属は海洋細菌である。したがって、試験例1~3の結果より、異なる由来の微生物を用いた場合であっても、しょうゆ油を炭素源としてPHAを合成することが確認された。
【0063】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本開示によれば、通常食品としては使用されておらず、他の分野においても十分に利用されていない、醤油の醸造過程で副産物として産生されるしょうゆ油を、PHAの合成に有効に利用することができる。