(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048088
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ガスバリア性フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022153945
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎野 正孝
(72)【発明者】
【氏名】原 智章
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智博
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA19C
4F100AA20C
4F100AB10C
4F100AH02B
4F100AH02H
4F100AH03B
4F100AH03H
4F100AK25B
4F100AK25G
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4F100AK51G
4F100AT00
4F100BA03
4F100CA02B
4F100CA02G
4F100CA02H
4F100EH662
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4F100EJ052
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4F100EJ05H
4F100GB15
4F100JA03
4F100JD03
4F100JD04
4F100JL16
(57)【要約】
【課題】熱水処理後も高いガスバリア性を有し、とりわけ食品、医療分野において熱水処理を伴う包装用として好適な、環境配慮型フィルムを提供することにある。
【解決手段】ポリエステルフィルムと、無機薄膜とを備えるガスバリア性フィルムであって、前記ポリエステルフィルムが、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有し、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに1.0cc/m2・day・atm以下であり、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m2・day以下である、ガスバリア性フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、無機薄膜とを備えるガスバリア性フィルムであって、
前記ポリエステルフィルムが、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有し、
未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに1.0cc/m2・day・atm以下であり、
未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m2・day以下である、ガスバリア性フィルム。
【請求項2】
未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに0.5cc/m2・day・atm以下である、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
125℃、30分間熱水処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.2%以下である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
前記ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が、ポリエステルフィルム中の全ポリエステルに対して50質量%未満である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムにおいて、全ポリエステル中の全ジカルボン酸成分におけるイソフタル酸の含有量が、0.1~1.2モル%である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムが、表層、中間層、及び表層をこの順に有する3層を含む積層構造であり、前記中間層が、前記ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
前記無機薄膜が、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、又は、これらの酸化物、炭化物、窒化物、あるいは、これらの混合物の群から選択される無機物質から形成される、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
前記無機薄膜が、酸化珪素から形成される、請求項7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
前記無機薄膜の膜厚が、5~50nmである、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
前記ポリエステルフィルムと前記無機薄膜の間に、アンカーコート層を有する、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項11】
前記アンカーコート層が、下記化合物(A)及び(B)を含む樹脂組成物から形成される、請求項10に記載のガスバリア性フィルム。
(A)(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂の群から選択される1種以上
(B)架橋剤
【請求項12】
前記(B)架橋剤が、オキサゾリン化合物を含む、請求項11に記載のガスバリア性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装材料に使用される積層体を構成する基材として、樹脂材料からなる基材フィルムが使用されている。このような基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表されるポリエステルフィルムが汎用的に用いられてきた。
ポリエステルフィルムは、機械的特性、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れる。
【0003】
昨今の環境問題の高まりから、二酸化炭素排出削減等の環境負荷の低減を目的として、化石燃料である石油から生産されているポリエステル(以下、「化石燃料ポリエステル」とも称する)に代えて、使用済みの製品に含まれるポリエステルをリサイクルして得られたリサイクルポリエステルを用いることが行われている。
上記リサイクル方法としては、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルといった手法が知られている。
【0004】
リサイクルポリエステルの出発原料としては、例えばペットボトル等が使用され、ペットボトルに使用されているポリエステルにおいては、ボトル外観を良好にするために、結晶性の制御が行われていることがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、環境負荷を低減でき、衛生性に極めて優れる包装容器の製造を可能にする、蒸着樹脂フィルムが開示され、当該蒸着樹脂フィルムの基材として、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において、ケミカルリサイクルポリエステルは、使用済みの包装容器に含まれるポリエステルをモノマーレベルまで分解し、汚染物質の除去を行った後に、再度重合することにより得られるため、より衛生性に優れると記載されている。
しかしながら、特許文献1のフィルムは、ケミカルリサイクルポリエステルを含むことで、環境負荷を低減でき、衛生性に優れることが示されているものの、熱水処理後の物性を調整することまでは検討されていない。特に、食品や医療分野において、包装材料はレトルト処理や滅菌処理等の熱水処理を要することがあり、熱水処理後におけるガスバリア性の維持が必要である。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、熱水処理後も高いガスバリア性を有し、とりわけ食品、医療分野において熱水処理を伴う包装用として好適な、環境配慮型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の態様を有する。
【0010】
[1]ポリエステルフィルムと、無機薄膜とを備えるガスバリア性フィルムであって、前記ポリエステルフィルムが、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有し、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに1.0cc/m2・day・atm以下であり、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m2・day以下である、ガスバリア性フィルム。
[2]未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに0.5cc/m2・day・atm以下である、上記[1]に記載のガスバリア性フィルム。
[3]125℃、30分間熱水処理したときの収縮率が、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.2%以下である、上記[1]又は[2]に記載のガスバリア性フィルム。
[4]前記ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が、ポリエステルフィルム中の全ポリエステルに対して50質量%未満である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[5]前記ポリエステルフィルムにおいて、全ポリエステル中の全ジカルボン酸成分におけるイソフタル酸の含有量が、0.1~1.2モル%である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[6]前記ポリエステルフィルムが、表層、中間層、及び表層をこの順に有する3層を含む積層構造であり、前記中間層が、前記ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[7]前記無機薄膜が、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、又は、これらの酸化物、炭化物、窒化物、あるいは、これらの混合物の群から選択される無機物質から形成される、上記[1]~[6]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[8]前記無機薄膜が、酸化珪素から形成される、上記[7]に記載のガスバリア性フィルム。
[9]記無機薄膜の膜厚が、5~50nmである、上記[1]~[8]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[10]前記ポリエステルフィルムと前記無機薄膜の間に、アンカーコート層を有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載のガスバリア性フィルム。
[11]前記アンカーコート層が、下記化合物(A)及び(B)を含む樹脂組成物から形成される、上記[10]に記載のガスバリア性フィルム。
(A)(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂の群から選択される1種以上
(B)架橋剤
[12]前記(B)架橋剤が、オキサゾリン化合物を含む、上記[11]に記載のガスバリア性フィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱水処理後も高いガスバリア性を有し、とりわけ食品、医療分野において熱水処理を伴う包装用として好適な、環境配慮型フィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガスバリア性フィルムの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<<<ガスバリア性フィルム>>>
本発明のガスバリア性フィルム20(以下、「本ガスバリア性フィルム」とも称する)は(
図1)、ポリエステルフィルム10と、無機薄膜5とを備えるガスバリア性フィルム20であって、前記ポリエステルフィルム10が、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有し、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに1.0cc/m
2・day・atm以下であり、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m
2・day以下である。なお、図示した態様では、ポリエステルフィルム10と無機薄膜5との間に、任意のアンカーコート層4が適用されている。
【0015】
<<ポリエステルフィルム>>
本発明において、ポリエステルフィルム10(以下、「本ポリエステルフィルム」とも称する)は、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有する。
【0016】
本ポリエステルフィルム10は、単層構造であっても積層(多層)構造であってもよい。本ポリエステルフィルムが積層構造の場合、2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよい。積層する層数は、特に限定されないが、10層以下であることが好ましい。10層以下であれば、各層の厚みが十分となるため、製膜時の積層性が十分となり、フローマーク等が発生しにくくなり、フィルムの品質が十分保たれる。
なお、本ポリエステルフィルムが積層構造である場合、2種3層、3種3層が好ましく、2種3層であることがより好ましい。
【0017】
また、本ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0018】
<ケミカルリサイクルポリエステル>
本ポリエステルフィルムは、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有することを要する。
よって、本ポリエステルフィルムが単層の場合は、ポリエステル層(X)のみとなり、本ポリエステルフィルムが積層の場合は、積層構造を構成するポリエステル層の何れかに、ケミカルリサイクルポリエステルを含有する必要がある。
【0019】
本明細書において、「ケミカルリサイクルポリエステル」とは、使用済みのポリエステル製品を回収し、適宜、粉砕、洗浄、異物分別等を行った後にフレーク及び/又はフレークをチップ化し、例えば、それを、エチレングリコールを用いて解重合してビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)まで分解し、BHETを原料として再度ポリエステルを重合したものである。なお、分解方法等についてはこれに限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。
また、使用済みポリエステル製品に含まれるポリエステルについては、特に限定されないが、化石燃料ポリエステル、バイオマスポリエステル、ケミカルリサイクルポリエステル及びメカニカルリサイクルポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種のポリエステルであることが好ましい。
【0020】
このように、ケミカルリサイクルポリエステルは、使用済みのポリエステル製品に含まれるポリエステルをモノマーレベルまで分解し、異物等の除去を行った後に、再度重合することにより得られるため、その他のリサイクル手法により得られたポリエステルに比べて異物が少なくなる傾向にある。
よって、例えば食品、医療分野における包装用途等、異物の混入が問題になるような用途においては、ケミカルリサイクルポリエステルを用いることが好ましい。
【0021】
ケミカルリサイクルポリエステルにおける、ポリエステルとは、主鎖に連続してエステル結合を有する高分子化合物をいい、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。具体的には、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られるポリエステルを挙げることができる。また、ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有するポリエステルを使用することが好ましい。
【0022】
前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸及び4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0023】
前記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート及びスピログリコール等を挙げることができる。
【0024】
中でも、ケミカルリサイクルポリエステルにおける、ポリエステルとしては、透明性及び使用済みのポリエステル製品の回収が容易であるという観点から、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
上記ポリエチレンテレフタレートは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を少なくとも含み、ジオール成分としてエチレングリコールを少なくとも含むものである。
なお、ポリエチレンテレフタレートは、第三成分を含有しないホモポリエチレンテレフタレートであってもよく、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であってもよい。第三成分とは、共重合成分を意味し、より具体的には、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分(すなわち、最も含有量が多い成分)となる化合物と、ジオール成分の主成分となる化合物以外の成分であり、共重合ポリエチレンではテレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分である。
【0025】
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下のジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールとした上で、前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとし、共重合成分とは区別される。
【0026】
また、上記使用済みのポリエステル製品は、ペットボトル等のボトルであっても、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のフィルムであってもよい。すなわち、ケミカルリサイクルポリエステルは、ボトル由来及び/又はフィルム由来であることが好ましく、ボトル由来であることがより好ましい。
ペットボトルに使用されているポリエステルには、ボトル外観を良好にするために、結晶性の制御が行われており、その結果、10モル%以下のイソフタル酸を含むポリエステルを用いることがある。したがって、ケミカルリサイクルポリエステルが、ボトル由来である場合には、イソフタル酸を含むポリエステルを使用することになる。かかる場合のケミカルリサイクルポリエステルとしては、当該ポリエステルの全ジカルボン酸成分中、10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下のイソフタル酸を含むポリエステルを用いることが好ましい。なお、この場合のポリエステルとしても、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0027】
本発明において、前記ケミカルリサイクルポリエステルの含有量は、本ポリエステルフィルム中の全ポリエステルに対して50質量%未満であることが好ましく、5~45質量%であることが好ましく、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%、特に好ましくは20~30質量%である。
当該ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が、5質量%以上であれば、環境負荷低減に貢献することができる。一方、当該ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が50質量%未満であれば、ケミカルリサイクルポリエステルに含まれるイソフタル酸の影響による本ポリエステルフィルムの基本物性(例えば、寸法安定性や機械物性等)の低下を抑制しやすく、結果として本ガスバリア性フィルムの熱水処理後のガスバリア性、特に水蒸気バリア性を維持しやすくなる。
【0028】
<ポリエステル>
本ポリエステルフィルムには、上記ケミカルリサイクルポリエステル以外のポリエステルをさらに含むことができる。
なお、ここでいう「ケミカルリサイクルポリエステル以外のポリエステル」とは、ポリエステル層(X)に含有させるものと、ポリエステル層(X)以外の層に含有させるものの両方を意味する。
【0029】
上記ポリエステルに特に制限はないが、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られるポリエステルが好ましく、ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有するポリエステルを使用することがより好ましい。
【0030】
前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸及び4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0031】
前記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート及びスピログリコール等を挙げることができる。
【0032】
上記ポリエステルがホモポリエステルである場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等を例示することができ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0033】
一方、共重合ポリエステルは、例えばジカルボン酸成分と脂肪族ジオールの重縮合ポリマーであることが好ましい。ジカルボン酸成分としては、好ましくはイソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸(例えば、p-オキシ安息香酸等)等の1種又は2種以上が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含み、脂肪族ジオールとしてエチレングリコールを含むことが好ましい。
【0034】
上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。第三成分とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分(すなわち、最も含有量が多い成分)となる化合物と、ジオール成分の主成分となる化合物以外の成分であり、例えば共重合ポリエチレンテレフタレートではテレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分である。
【0035】
また、共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位を含んでもよい。ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位は、ポリエステルを構成する全構成単位の総モルに対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。二官能性化合物としては、各種のヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0036】
中でも、本ガスバリア性フィルム20の基材として用いる本ポリエステルフィルム10(
図1)の基本物性(例えば、寸法安定性や機械物性等)を損なうことがない観点から、ケミカルリサイクルポリエステル以外のポリエステルとしては、ホモポリエチレンテレフタレートを用いることが特に好ましい。ホモポリエチレンテレフタレートを用いることで、高い結晶性を維持することができるため、機械物性や耐熱性といった基本物性を十分なものとしやすい。また、ケミカルリサイクルポリエステルとして特に好ましいケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートとの相溶性の観点からも好ましい。
【0037】
なお、通常、エチレングリコールを原料の1つとしてポリエステルを製造(重縮合)する場合、エチレングリコールからジエチレングリコールが副生する。本明細書においては、このジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールと称する。エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生量は、重縮合の様式等によっても異なるが、エチレングリコールのうち5モル%以下程度である。本発明においては、5モル%以下のジエチレングリコールを副生ジエチレングリコールとした上で、前記副生ジエチレングリコールもエチレングリコールに包含されるものとし、共重合成分とは区別される。一方、ジエチレングリコールの含有量によっては、より具体的にはジエチレングリコールが5モル%を超えて含有されている場合には、ジエチレングリコールは副生ジエチレングリコールとしてではなく、共重合成分として扱う。
【0038】
<好ましい態様>
本ポリエステルフィルム10の好ましい形態は、表層2、中間層1、及び表層3をこの順に有する3層を含む積層構造である(
図1)。
上記の3層を含む積層構造としたうえで、前記表層2,3の各層が、化石燃料ポリエステルを主たる構成成分として含むことが好ましく、前記化石燃料ポリエステルがホモポリエチレンテレフタレートであることがより好ましい。また、中間層1が、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)であることが好ましい。かかる構成とすることで、本ポリエステルフィルムの基本物性(例えば、寸法安定性や機械物性等)を良好なものとでき、結果として本ガスバリア性フィルムの熱水処理後のガスバリア性、特に水蒸気バリア性を維持しやすくなる。また、無機薄膜を設けた際に、密着性やバリア性へ影響を与えやすい、表層中の異物を減らすことができるため、異物の影響による密着性やバリア性の低下を最大限抑制させることもできる。
なお、中間層1におけるケミカルポリエステルの含有量は、上述の本ポリエステルフィルム10中の全ポリエステルに対するケミカルリサイクルポリエステルの含有量を満たすようにすればよく、より具体的には、10~74質量%であることが好ましく、より好ましくは15~70質量%、さらに好ましくは20~60質量%、特に好ましくは25~50質量%である。
【0039】
また、前記表層2,3の各層の厚みは、前記中間層1の厚みの10~30%であることが好ましく、より好ましくは15~28%、さらに好ましくは20~25%である。
当該表層2,3の各層の厚みを、10%以上とすることで、本ポリエステルフィルム10の基本物性(例えば、寸法安定性や機械物性等)を良好なものとできる他、無機薄膜5を設けた際に、密着性やバリア性へ影響を与えやすい、表層2,3中の異物を減らすことができるため、異物の影響による密着性やバリア性の低下を最大限抑制させることができる。一方、当該表層2,3の各層の厚みを、30%以下とすることで、中間層1の厚みを確保できるため、中間層1に含有させるケミカルリサイクルポリエステルの含有量を増やしやすくなり、環境負荷低減効果を高めることができる。また、表層2,3に粒子を含有させた場合に、取り扱い性を付与しつつ、透明性を良好に保つことができる。
なお、本ポリエステルフィルム10の層構成及び各層厚みは、例えばウルトラミクロトームにて冷凍破断した断面を、透過型電子顕微鏡を用いて3000~200000倍に拡大観察し、断面写真を撮影することで求められる。
【0040】
本ポリエステルフィルム10において、全ポリエステル中の全ジカルボン酸成分におけるイソフタル酸の含有量は、0.1~1.2モル%であることが好ましく、より好ましくは0.2~1.0モル%、さらに好ましくは0.3~0.8モル%、特に好ましくは0.4~0.7モル%、とりわけ好ましくは0.5~0.6モル%である。
当該イソフタル酸の含有量が、0.1モル%以上であれば、熱水処理、すなわち水分が介在することにより、本ポリエステルフィルムの結晶化が厚み方向を中心に進行するため、厚み方向には収縮するものの、面積方向にはやや伸びて収縮緩和が起こると推定している。なお、面積方向の収縮を緩和させることで、ガスバリア性が向上するという利点を有する。一方、当該イソフタル酸の含有量が、1.2モル%以下であれば、本ポリエステルフィルムの結晶化が面積方向でも顕著に進行することを抑制することができるため、ガスバリア性の悪化に繋がる面積方向の収縮を抑えることができる。
【0041】
なお、上述のとおり、ケミカルリサイクルポリエステルとして、10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下のイソフタル酸を含むポリエステルを用いて、本ポリエステルフィルムにおいて、全ポリエステル中の全ジカルボン酸成分におけるイソフタル酸の含有量をかかる範囲とすることが好ましい。
なお、原料であるポリエステル及び本ポリエステルフィルムを構成するポリエステル中に含まれるテレフタル酸及びイソフタル酸に由来するエステル構成単位の含有量は、サンプルを重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶液(体積比9/1)に溶解させて試料溶液を調製し、プロトンのNMRを測定した後、所定のプロトンのピーク強度を算出して、エステル構成単位100モル%中のテレフタル酸由来のエステル構成単位及びイソフタル酸由来のエステル構成単位の含有量(モル%)を算出することで求めることができる。
【0042】
<重縮合触媒>
上記ポリエステルを重縮合する際の重縮合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
なお、ケミカルリサイクルポリエステルには、上記以外に、コバルト化合物等が使用される場合もある。
【0043】
<固有粘度>
本ポリエステルフィルムの固有粘度(IV)は、製膜性や生産性の観点から、0.5~0.8dL/gであることが好ましく、より好ましくは0.5~0.7dL/g、さらに好ましくは0.6~0.7dL/gである。
【0044】
<粒子>
本ポリエステルフィルム中には、粒子を含有させることも可能である。ポリエステルフィルムは、粒子を含有することで、易滑性が付与され、かつ各工程での傷発生を防止して、取扱い性が良好となる。
本ポリエステルフィルム中に含有させる粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子の他、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子、シュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。これらの中でも、透明性等の観点から、シリカを用いることが好ましい。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0045】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0046】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.5~4μm、より好ましくは1.0~3μm、さらに好ましくは2~2.8μmの範囲である。平均粒径がかかる範囲であれば、本ポリエステルフィルムの取り扱い性と透明性を両立させることができる。
なお、粒子の平均粒径は、粒子が粉体の場合には、遠心沈降式粒度分布測定装置(例えば株式会社島津製作所製、「SA-CP3型」)を用いて粉体を測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径(d50)を平均粒径とすることができる。フィルム、層又は樹脂中の粒子の平均粒径については、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0047】
本ポリエステルフィルムに粒子を含有させる場合、例えば、表層2,3と中間層1を設けて、表層2,3に粒子を含有させることが好ましい。また、3種3層構造などにより表裏異設計とする場合は、表層2,3のうち少なくとも一方のみに粒子を含有させることも可能である。したがって、前記表層2,3のうち少なくとも一方に粒子を含有させることが好ましく、取り扱い性の観点からは両表層2,3に粒子を含有させることがより好ましい。
粒子の含有量は、平均粒径にも依存するが、粒子を含有する層において、質量基準で、5000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは4000ppm以下、さらに好ましくは3000ppm以下である。かかる範囲であれば、本ポリエステルフィルムの透明性を良好なものとすることができる。粒子を含有しない場合、あるいは粒子の含有量が少ない場合、滑り性が不十分となる場合があるため、当該含有量は50ppm以上であることが好ましく、より好ましくは100ppm以上である。
【0048】
本ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、積層構造のポリエステルフィルムであれば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0049】
<その他>
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、本ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、本ポリエステルフィルムの表層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
また、ポリエステルは、エステル化又はエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0050】
なお、本ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0051】
本ポリエステルフィルム10の総厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、ガスバリア性フィルム20(
図1)の基材として好適に使用する観点から、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは18μm以下、特に好ましくは15μm以下である。一方、機械的強度、ハンドリング性及び生産性などの観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上である。
本ポリエステルフィルム10の総厚みは、例えば一辺40mmの略正方形の試料片を切り出し、目量1/1000mmのダイヤルゲージにて、フィルム面内の任意の5箇所で厚みを測定し、その平均値を求めることで得られる。
本ポリエステルフィルム10において、表層2,3の厚みは0.5μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.5μm以上であることがさらに好ましい。上限としては、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
中間層1の厚みは、5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましく、8μm以上であることがさらに好ましい。上限としては、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。
【0052】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
次に、本ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
例えば二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べたポリエステル原料(再生原料を含む)の乾燥したペレットを、押出機などの溶融押出装置を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムなどの冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。ここで、冷却は、例えばポリマーのガラス転移点以下の温度となるように行い、実質的に非晶状態の未配向シート(未延伸シート)を得るとよい。また、シートの平面性を向上させるためシートと冷却ロールとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0053】
次に、得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは2.8~6.0倍である。
【0054】
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7.0倍、好ましくは3.5~6.0倍、より好ましくは4.0~5.0倍である。
【0055】
そして、引き続き、通常180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。この熱処理は、熱固定工程とも呼ばれる。熱処理は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
また、熱処理の後に冷却ゾーンにて冷却を行ってもよい。冷却温度は、フィルムを構成するポリエステルのガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、より具体的には、100~160℃の範囲であることが好ましい。この冷却は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0056】
また、本ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で好ましくは4~50倍、より好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、通常180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0057】
なお、フィルムの長手方向(MD)とは、フィルムの製造工程でフィルムが進行する方向、すなわちフィルムロールの巻き方向をいい、機械方向や縦方向とも称する。
フィルムの幅方向(TD)とは、フィルム面に平行かつ長手方向と直交する方向をいい、すなわち、フィルムロール状としたときロールの中心軸と平行な方向をいい、横方向とも称する。
【0058】
<<無機薄膜>>
本ガスバリア性フィルム20は、ポリエステルフィルム10と無機薄膜5とを備える。
前記無機薄膜を構成する無機物質としては、珪素、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、又は、これらの酸化物、炭化物、窒化物、あるいは、これらの混合物の群から選択される無機物質から形成されることが好ましい。中でも、ポリエステルフィルムとの相互作用及び密着性との観点から、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化炭化珪素、酸化アルミニウム、ダイアモンドライクカーボンであることが好ましい。特に、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、酸化炭化珪素、酸化窒化炭化珪素、及び酸化アルミニウムは、高いガスバリア性が安定に維持できる点で好ましい。とりわけ、酸化珪素は、熱水処理後もガスバリア性が安定に維持できる点で最も好ましい。
【0059】
無機薄膜を形成する方法としては、蒸着法、コーティング法等の方法がいずれも使用できるが、ガスバリア性の高い均一な無機薄膜を得る観点から、蒸着法が好ましい。蒸着法には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等のPVD(物理的気相蒸着)、又は、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等のCVD(化学的気相蒸着)等の方法が含まれる。
【0060】
無機薄膜の厚みは、一般に0.1~500nm程度であるが、好ましくは1~150nm、より好ましくは5~70nm、さらに好ましくは5~50nmである。上記範囲内であれば、十分なガスバリア性が得られ、また、無機薄膜に亀裂や剥離を発生させることなく、透明性にも優れる。
無機薄膜の厚みは、例えば、蛍光X線を用いて測定することができる。具体的には、フィルム上に既知の2種の厚みの膜を形成し、それぞれについて放射される特定の蛍光X線強度を測定し、この情報より検量線を作成する。次いで、測定試料について同様に蛍光X線強度を測定し、検量線からその厚みを算出する。
なお、無機薄膜は単層からなるもの、2層以上からなるもののいずれであってもよい。また、無機薄膜が2層以上からなる場合は、同一の層でも異なる層でもよい。
【0061】
<<アンカーコート層>>
本ガスバリア性フィルム20は、前記ポリエステルフィルム10と前記無機薄膜5の間に、アンカーコート層4を有することが好ましい(
図1参照)。
すなわち、本ガスバリア性フィルム20は、基材であるポリエステルフィルム10の少なくとも一方の表面に、アンカーコート層4と無機薄膜5とをこの順に備えることが好ましい。
アンカーコート層4を有することで、ポリエステルフィルム10と無機薄膜5との密着性を向上させることができる。
なお、本ポリエステルフィルム10とアンカーコート層4との間、アンカーコート層4と無機薄膜5との間には、その他の層を有していてもよい。
【0062】
前記アンカーコート層は、樹脂組成物(以下、「本組成物」とも称する)から形成されることが好ましい。
また、本組成物は、無機薄膜との密着性の観点から、バインダー樹脂及び架橋剤を含むことが好ましい。
【0063】
<バインダー樹脂>
前記バインダー樹脂としては、特に制限はなく、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニル樹脂(ポリビニルアルコール、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等、従来公知のバインダー樹脂を使用することができる。バインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0064】
<架橋剤>
前記架橋剤としては、特に制限はなく、従来公知の架橋剤を使用することができる。例えばオキサゾリン化合物、メラミン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、シランカップリング化合物等を挙げることができる。架橋剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
<好ましい態様>
中でも、本組成物は、バインダー樹脂として下記化合物(A)を含むことが好ましい。すなわち、アンカーコート層は、下記化合物(A)及び(B)を含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。
(A)(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂の群から選択される1種以上
(B)架橋剤
特に、前記(B)架橋剤として、オキサゾリン化合物を含むことが最も好ましい。
【0066】
((メタ)アクリル樹脂)
(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル系、メタクリル系のモノマーを含む重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体、さらにはアクリル系、メタクリル系のモノマー以外の重合性モノマーとの共重合体のいずれでもよい。
また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えばブロック共重合体、グラフト共重合体である。すなわち、(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル変性ポリエステル樹脂や、(メタ)アクリル変性ポリウレタン樹脂であってもよい。
その他にも、ポリエステル溶液又はポリエステル分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液又は分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。
また、(メタ)アクリル樹脂は、本ポリエステルフィルムに対する密着性をより向上させるために、ヒドロキシ基、アミノ基を含有することも可能である。
【0067】
上記炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシ基含有モノマー類、及びそれらの塩;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキシフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種のアルキル(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、又は(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有化合物;N-メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有の窒素含有化合物;スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体;プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビニリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類が挙げられる。
【0068】
上記した中では、アクリル系、メタクリル系のモノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体が好ましく、重合性モノマーがアルキル(メタ)アクリル酸エステル類を含むことがより好ましい。
また、塗布液を水系とした場合に、バインダー樹脂を溶解又は分散しやすくする観点から、重合性モノマーは、水酸基やカルボキシ基等の親水性基を有することが好ましい。したがって、(メタ)アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリル酸エステル類と、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー等の親水性基含有モノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体も好ましい。
また、(メタ)アクリル樹脂は、例えば界面活性剤の存在下に重合性モノマーを重合した乳化重合体でもよい。
【0069】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂とは、主な構成成分として、例えば下記のような多価カルボン酸及び多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。
すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸及び、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩及びそれらのエステル形成性誘導体等を用いることができる。
多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウム等を用いることができる。これらの多価カルボン酸と多価ヒドロキシ化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
【0070】
また、水分散性又は水溶性を付与させるために、上記多価カルボン酸の一部としてスルホイソフタル酸を共重合成分として用いて、ポリエステル骨格にスルホン酸基を導入し、塩基性化合物で中和してポリエステル樹脂を親水化する手法も好ましく用いられる。共重合する量は、多価カルボン酸全体に対し通常1~10モル%、好ましくは2~8モル%である。スルホン酸基を適量導入することでさらに水分散安定性を向上させることができる。
【0071】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性又は水溶性のものが好ましい。
ポリウレタン樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を併用しても良い。
【0072】
水分散性又は水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記親水性基の中でも、易接着性向上の観点からカルボキシ基又はスルホン酸基が特に好ましい。
【0073】
ポリウレタン樹脂を作製する方法の一つに、水酸基含有化合物とイソシアネート化合物との反応によるものがある。原料として用いられる水酸基含有化合物としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いても良い。
【0074】
ポリエーテルポリオール類としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0075】
ポリエステルポリオール類としては、例えば多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)又はそれらの酸無水物と、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)との反応から得られるものが挙げられる。
【0076】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0077】
ポリウレタン樹脂を得るために使用される上述の水酸基含有化合物の中でも、ポリエステルポリオール類が好ましい。
【0078】
ポリウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0079】
ポリウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基又はアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0080】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0081】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えばトリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0082】
また、水分散性又は水溶性を付与させるために、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を用いて、ウレタン骨格にカルボキシ基を導入し、後に塩基性化合物で中和してウレタン樹脂を親水化する手法も好ましく用いられる。
【0083】
(オキサゾリン化合物)
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独又は他のモノマーとの重合によって作製できる。
付加重合性オキサゾリン基含有モノマーとしては、例えば2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限はなく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上のモノマーを使用することができる。
また、オキサゾリン化合物は、ポリエチレンオキシド鎖等のポリアルキレンオキシド鎖を有してもよく、例えば、ポリアルキレンオキシド鎖を有する(メタ)アクリレートなどを他のモノマーとして使用してもよい。
【0084】
本組成物中の化合物(A)の含有量は、本組成物の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは20~85質量%、さらに好ましくは30~80質量%である。
本組成物中の化合物(B)の含有量は、本組成物の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは10~90質量%、より好ましくは15~80質量%、さらに好ましくは20~70質量%である。
かかる範囲であれば、無機薄膜との密着性を十分向上させることができ、結果として良好なバリア性を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0085】
<その他>
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、上記化合物以外にも、架橋触媒、消泡剤、塗布性改良剤、界面活性剤、増粘剤、有機系潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤をさらに適宜配合してもよい。
【0086】
<溶媒>
本組成物は、溶媒で希釈して塗布液としてもよい。すなわち、本組成物は、液状の塗布液として、例えば本ポリエステルフィルムに塗布し、必要に応じて乾燥、かつ、硬化させてアンカーコート層を形成させるとよい。
なお、本組成物を構成する各成分(バインダー樹脂及び架橋剤、その他成分等)は、溶媒に溶解させてもよいし、溶媒中に分散させてもよい。
塗布液とした場合、塗布液中における本組成物の全不揮発成分の濃度は、0.1~50質量%であることが好ましい。0.1質量%以上であれば、効率的に所望の厚みのアンカーコート層を形成することができる。一方、50質量%以下であれば、塗工時の粘度を抑えることでアンカーコート層の外観を向上させることができ、また、塗布液中の安定性を高めることができる。
【0087】
前記溶媒としては、特に制限はなく、水及び有機溶剤のいずれも使用することができる。環境保護及び人体への影響の観点から、水を主溶媒(全溶媒の50質量%以上)として水性塗布液とすることが好ましい。水の含有量に関して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であるのがよい。水性塗布液には、少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤の具体的な量は、質量基準で水の量以下とするとよく、例えば、溶媒中の50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下とするのがよい。
水と併用する有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエタノールアミン等のアミン類等を例示することができる。これらは単独、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。水性塗布液に、必要に応じてこれらの有機溶剤を適宜選択し、含有させることで、塗布液の安定性、塗工性を良好にできる場合がある。
【0088】
また、上記溶媒として有機溶剤のみを使用する場合、かかる有機溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン類;エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類などを挙げることができる。これらは、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0089】
アンカーコート層中には、本組成物を構成する各成分(バインダー樹脂及び架橋剤、その他成分等)の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
なお、アンカーコート層中の各成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等によって行うことができる。
【0090】
<アンカーコート層の形成方法>
次に、本ガスバリア性フィルムを構成するアンカーコート層の形成方法について説明する。
アンカーコート層の形成方法は、特に限定されず、例えばリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
また、アンカーコート層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがある。塗布した樹脂組成物を熱処理する方法は、特に限定されるわけではなく、例えばオフラインコーティングによりアンカーコート層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのがよい。一方、インラインコーティングによりアンカーコート層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
【0091】
本発明では、アンカーコート層は、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後、熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムのいずれかにコーティングする。
【0092】
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に幅方向(横方向)に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜とアンカーコート層形成を同時に行うことができるため、製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、アンカーコート層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングフィルムに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
【0093】
また、延伸前にフィルム上にアンカーコート層を設けることにより、アンカーコート層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それによりアンカーコート層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。
【0094】
さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、その後の熱処理(熱固定工程)において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、アンカーコート層の造膜性が向上し、アンカーコート層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができる。さらには、強固なアンカーコート層とすることができ、アンカーコート層上に形成され得る各種の機能層への耐移行性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0095】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングにかかわらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本ガスバリア性フィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0096】
アンカーコート層の厚みは、最終的に得られるガスバリア性フィルムにおけるアンカーコート層の厚みとして、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.007μm以上、さらに好ましくは0.01μm以上である。また、当該アンカーコート層の厚みは、1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下である。当該アンカーコート層の厚みがかかる範囲であれば、無機薄膜との密着性を十分向上させることができる。
なお、当該アンカーコート層の厚みは、実施例に記載の方法で測定できる。
【0097】
<<ガスバリア性フィルムの物性>>
本ガスバリア性フィルムの未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)はともに1.0cc/m2・day・atm以下である。未処理の酸素透過度(OTR)が、1.0cc/m2・day・atmを超えると、酸素バリア性が不十分である。また、125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)が、1.0cc/m2・day・atmを超えると、熱水処理後における酸素バリア性の維持が困難といえる。かかる場合、食品や医療分野において、包装材料はレトルト処理や滅菌処理等の熱水処理を要する用途への適用が難しい。なお、酸素透過度(OTR)の下限は、通常0.01cc/m2・day・atm程度である。
かかる観点から、未処理の酸素透過度(OTR)は、1.0cc/m2・day・atm以下であり、好ましくは0.8cc/m2・day・atm以下、より好ましくは0.5cc/m2・day・atm以下である。
また、同様の観点から、125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)は、1.0cc/m2・day・atm以下であり、好ましくは0.8cc/m2・day・atm以下、より好ましくは0.5cc/m2・day・atm以下である。
なお、酸素透過度(OTR)は、無機薄膜を形成する無機物質の種類や膜厚、及び、本ポリエステルフィルムに使用するポリエステルの種類や含有量、製膜条件等によって調整することができる。
【0098】
本ガスバリア性フィルムの未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m2・day以下である。未処理の水蒸気透過度(WVTR)が、1.0g/m2・dayを超えると、水蒸気バリア性が不十分である。また、125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)が、1.0g/m2・dayを超えると、熱水処理後における水蒸気バリア性の維持が困難といえる。かかる場合、食品や医療分野において、包装材料はレトルト処理や滅菌処理等の熱水処理を要する用途への適用が難しい。なお、水蒸気透過度(WVTR)の下限は、通常0.05g/m2・day程度である。
かかる観点から、未処理の水蒸気透過度(WVTR)は、1.0g/m2・day以下であり、好ましくは0.8g/m2・day以下、より好ましくは0.5g/m2・day以下である。
また、同様の観点から、125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)は、1.0g/m2・day以下であり、好ましくは0.9g/m2・day以下、より好ましくは0.8g/m2・day以下である。
なお、酸素透過度(OTR)は、無機薄膜を形成する無機物質の種類や膜厚、及び、本ポリエステルフィルムに使用するポリエステルの種類や含有量、製膜条件等によって調整することができる。
【0099】
本ガスバリア性フィルムの125℃、30分間熱水処理したときの収縮率は、長手方向(MD)及び幅方向(TD)ともに1.2%以下であることが好ましく、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.8%以下である。
当該収縮率が1.2%以下であれば、ポリエステルフィルムの収縮(変形)による無機薄膜の疎な構造への変化、あるいは微小クラックの発生によるガスバリア性の低下を抑制できるという利点を有する。当該収縮率の下限値は特に制限されず、0.01%程度である。
なお、熱水処理後の収縮率は、無機薄膜を形成する無機物質の種類や膜厚、及び、本ポリエステルフィルムに使用するポリエステルの種類や含有量、製膜条件等によって調整することができる。
【0100】
<<使用形態>>
前記無機薄膜の上には、これと積層するプラスチックフィルムとの接着性を向上させるため、トップコート層を形成してもよい。このトップコート剤としては、溶剤性又は水溶性のポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコーン樹脂、アルキルチタネート等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上併せて使用することができる。
【0101】
本ガスバリア性フィルム20は、通常、無機薄膜5の上にプラスチックフィルム6を設けたガスバリア性積層体100として各種用途に使用される(
図1参照)。
プラスチックフィルム6の厚みは、機械強度、可撓性、透明性など、用途に応じ、通常5~500μm、好ましくは10~200μmの範囲から選択される。また、フィルムの幅や長さは、特に制限はなく、適宜用途に応じて選択することができる。
【0102】
上記のプラスチックフィルム6としては、例えば、熱水処理ができて、ヒートシールが可能なフィルム又はシートとしては、ポリオレフィン系フィルムが好ましい。また、機械的強度の優れたフィルムとしては、二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ナイロンフィルムが好ましい。
【0103】
なお、プラスチックフィルム6の積層方法には、公知のドライラミネート法、押出ラミネート法が採用される。この場合には、ウレタン系、ポリエステル系、アクリル系などの従来公知の接着剤を使用することができる。
【0104】
<<用途>>
本ガスバリア性フィルム20は、熱水処理後も高いガスバリア性を有することから、とりわけ食品、医療分野において熱水処理(レトルト処理や滅菌処理等)を伴う内容物の包装用として特に好適である。
また、本ガスバリア性フィルム20を構成する本ポリエステルフィルム10は、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有することから、昨今の環境問題にも適用可能な環境配慮型フィルムであり、本発明においてはケミカルリサイクルポリエステルを含むことによる特性の低下等は見られないどころか、ケミカルリサイクルポリエステルの使いこなしによって、ガスバリア性や熱水処理後の収縮率を向上させることができため、実用上問題なく使用することができる。
【0105】
<<語句の説明>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0106】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
<評価方法>
(1)固有粘度(IV)
ポリエステル原料の固有粘度を測定する場合は、ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
ポリエステルフィルムの固有粘度を測定する場合は、試料フィルム0.30gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒30mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
【0108】
(2)平均粒径
ポリエステルに含有される粒子の平均粒径については、株式会社島津製作所製の遠心沈降式粒度分布測定装置(SA-CP3型)を用いて測定した等価球形分布における積算体積分率50%の粒径を平均粒径d50とした。
【0109】
(3)引張破断強度及び引張破断伸度
ポリエステルフィルムの所定の場所から、幅15mm、長さ150mmのサイズの試料片を採取し、株式会社島津製作所製のオートグラフAGX-Vを用いて引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。各試験片の中央部に50mm間隔の標点をつけ、引張試験機を用い試験片のつかみ間隔50mm、引張速度200mm/minにて引張試験を行い、切断時の荷重及び伸びを測定し、引張破断強度及び引張破断伸度を求めた。
【0110】
(4)収縮率(熱水処理)
10cm×10cmの枠線を記載した試料フィルムをオートクレーブ中、125℃、30分間熱水処理(含水、加圧)し、試料フィルムに付着した水分を室温で半日以上自然乾燥し、その前後の試料フィルムの長さを測定して下記式にて算出した。なお、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)のそれぞれについて測定した。
収縮率(%)={(熱水処理前のサンプル長)-(熱水処理後のサンプル長)}÷(熱水処理前のサンプル長)×100
【0111】
(5)アンカーコート層の厚み
アンカーコート層の表面をRuO4で染色し、エポキシ樹脂中に包埋した。その後、超薄切片法により作成した切片をRuO4で染色し、アンカーコート層断面を透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテク製、H-7650、加速電圧100kV)を用いて測定した。
【0112】
(6)酸素透過度(OTR)
次の3手順で評価した。
(i)厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(東洋紡(株)製パイレンP1146)と厚み15μmの二軸延伸ナイロン(ONY)フィルム(三菱ケミカル(株)製サントニールSNR-W)のラミネート品のナイロン層側に、ウレタン系接着剤(東洋モートン(株)製AD900とCAT-RT85)を、AD900:CAT-RT85=10:1.5(質量比)の割合で配合したものを塗布、乾燥して厚み約3μmの接着剤層を形成した。
(ii)この接着剤層上にガスバリア性フィルムの無機薄膜側が接着剤層と隣接するようにドライラミネートし、60℃で一晩乾燥して酸素透過度評価用の試料フィルムを得た。
(iii)酸素透過度測定装置(モコン社製「OX-TRAN100型酸素透過度測定装置」)により、温度25℃、湿度80%RHの条件下で酸素透過度(cc/m2/24hr/MPa)を測定した。
【0113】
(7)水蒸気透過度(WVTR)
JIS Z0222「防湿包装容器の透湿度試験方法」、JIS Z0208「防湿包装材量の透湿度試験方法(カップ法)」の諸条件に準じ、次の3手順で評価した。
(i)厚み60μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム(東洋紡(株)製パイレンP1146)と厚み15μmの二軸延伸ナイロン(ONY)フィルム(三菱ケミカル(株)製サントニールSNR-W)のラミネート品のナイロン層側に、ウレタン系接着剤(東洋モートン(株)製AD900とCAT-RT85)を、AD900:CAT-RT85=10:1.5(質量比)の割合で配合したものを塗布、乾燥して厚み約3μmの接着剤層を形成した。
(ii)この接着剤層上にガスバリア性フィルムの無機薄膜側が接着剤層と隣接するようにドライラミネートし、60℃で一晩乾燥して水蒸気透過度評価用の試料フィルムを得た。
(iii)透湿面積10cm×10cm角の試料フィルムを2枚用い、吸湿剤として無水塩化カルシウム約20gを入れ四辺を封じた袋を作製し、その袋を温度40℃相対湿度90%RHの恒温恒湿装置に入れ、48時間以上間隔で質量増加がほぼ一定になる目安として16日間まで、質量測定(0.1mg単位)し、水蒸気透過度を下記式から算出した。
水蒸気透過度(g/m2/day)=(m/s)/t
m;試験期間最後2回の秤量間隔の増加質量(g)
s;透湿面積(m2)
t;試験期間最後2回の秤量間隔の時間(h)/24(h)
【0114】
<使用した材料>
[ポリエステル原料]
原料A:ホモポリエチレンテレフタレート(固有粘度=0.64dL/g)
原料B:ホモポリエチレンテレフタレートに、平均粒径2.7μmのシリカ粒子を0.6質量%配合したマスターバッチ(固有粘度=0.61dL/g)
原料C:ケミカルリサイクルポリエステル(固有粘度=0.62dL/g)
【0115】
なお、原料Cは、ジカルボン酸成分:テレフタル酸/イソフタル酸=98.2/1.8(モル%)、ジオール成分:エチレングリコール=100(モル%)のポリエチレンテレフタレートであり、ボトル由来のものを用いた。
また、原料A及び原料Bは、化石燃料ポリエステル(バージン原料)である。
【0116】
[アンカーコート層]
アンカーコート層を形成するための樹脂組成物としては、下記を用いた。
(A1):ポリウレタン樹脂
(A2):(メタ)アクリル樹脂
(A3):ポリエステル樹脂
(B1):オキサゾリン化合物であるエポクロス(株式会社日本触媒製)
【0117】
なお、実施例及び比較例で用いた塗布液は、上記化合物を撹拌混合して得られる樹脂組成物を水で希釈して調製したものである。
【0118】
(実施例1)
原料A及び原料Bをそれぞれ75質量%、25質量%の割合で混合した混合原料を両表層2,3の原料とし、原料A及び原料Cをそれぞれ55質量%、45質量%の割合で混合した混合原料を中間層1の原料とした。両表層2,3及び中間層1の原料の各々を2台の押出機に供給し、各々280℃で溶融した後、25℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層2/中間層1/表層3=1/4/1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。
次いで、得られた未延伸シートをロール延伸機で長手方向(MD)に85℃で2.95倍に延伸した。さらに、テンター内にて85℃で予熱した後、幅方向(TD)に110℃で4.60倍に延伸した。最後に250℃で熱処理を施し、厚み12μm(各表層:2μm、中間層:8μm)の二軸延伸ポリエステルフィルム10を得た。
【0119】
上記ポリエステルフィルム10の製膜において、長手方向(MD)延伸後、幅方向(TD)延伸前に、一軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、膜厚(乾燥後)が0.03~0.04μmになるように上記したアンカーコート層4を形成する樹脂組成物の塗布液を両面に塗布した後、上記したとおりの条件で幅方向の延伸及び熱処理を行うことにより、アンカーコート層4を備えるポリエステルフィルム10を得た。
次に、真空蒸着装置を使用して酸化珪素(SiO)を高周波加熱方式で蒸着させ、アンカーコート層4表面に厚み35nmのSiOxの無機薄膜5を有するガスバリア性フィルム20(無機薄膜5/アンカーコート層4/ポリエステルフィルム10)を得た。評価結果を表2に示す。
【0120】
(比較例1)
ポリエステルフィルム10の製膜において、下記表1に記載の組成及び製膜条件で行った以外は、実施例1と同様に行い、ガスバリア性フィルム20(無機薄膜5/アンカーコート層4/ポリエステルフィルム10)を得た。評価結果を表2に示す。
【0121】
(比較例2)
ポリエステルフィルム10の製膜において、下記表1に記載の組成及び製膜条件で行った以外は、実施例1と同様に行い、ガスバリア性フィルム20(無機薄膜5/アンカーコート層4/ポリエステルフィルム10)を得た。評価結果を表2に示す。
【0122】
【0123】
【0124】
以上の実施例に示すように、本発明のガスバリア性フィルム20は、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の酸素透過度(OTR)がともに1.0cc/m2・day・atm以下であり、未処理及び125℃、30分間熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)がともに1.0g/m2・day以下である環境配慮型フィルムである。
【0125】
実施例1と比較例1のフィルムを比較すると、ガスバリア性フィルム20を構成するポリエステルフィルム10が、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)(中間層1)を有することで、未処理及び熱水処理後の酸素透過度(OTR)が低く、酸素バリア性が向上していることがわかる。
これは、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)を有することにより、ガスバリア性フィルムの寸法安定性(収縮率)が良好で、熱水処理後まで無機薄膜の緻密な構造を維持できたり、微小クラックの発生を抑制できたりしたためと推察している。
【0126】
また、実施例1と比較例2のフィルムを比較すると、ガスバリア性フィルム20を構成するポリエステルフィルム10中のケミカルリサイクルポリエステルの含有量やイソフタル酸の含有量を調整することによって、熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)の悪化を抑制できており、熱水処理後も高い水蒸気バリア性を維持できることがわかる。
これは、ケミカルリサイクルポリエステルを含むポリエステル層(X)(中間層1)を有することにより、前記のとおり、ガスバリア性フィルムの寸法安定性(収縮率)は良好であるが、一方で、その含有量が増加するに連れて、特にポリエステルフィルム自体の幅方向(TD)の引張破断強度及び引張破断伸度が顕著に低下するため、熱水処理時に受ける外力(例えば、含水・加圧によるフィルムの折れ、曲げ等)に対する耐性が低下し、熱水処理後の水蒸気透過度(WVTR)が悪化したと推察している。したがって、上述のとおり、ケミカルリサイクルポリエステルの含有量やイソフタル酸の含有量を調整することによって、熱水処理時に受ける外力に対する耐性の低下を抑制することができ、結果として熱水処理後も高い水蒸気バリア性を維持できると考えている。
【0127】
したがって、実施例のガスバリア性フィルム20は、熱水処理後のガスバリア性や寸法安定性にも優れていることがわかる。よって、本発明のガスバリア性フィルム20は、食品、医療分野において熱水処理(レトルト処理や滅菌処理等)を伴う内容物の包装用基材としても好適に使用することができるため、その適用範囲は広いといえる。