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特開2024-48208無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048208
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/90 20160101AFI20240401BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20240401BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240401BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240401BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20240401BHJP
   B60L 5/00 20060101ALI20240401BHJP
   B60L 53/12 20190101ALI20240401BHJP
   B60L 53/38 20190101ALI20240401BHJP
【FI】
H02J50/90
H02J50/12
H02J50/40
H02J7/00 301D
H02J7/00 P
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/12
B60L53/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154117
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】米田 昇平
(72)【発明者】
【氏名】荒井 凜
【テーマコード(参考)】
5G503
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB02
5G503CA10
5G503DA04
5G503FA06
5G503GB08
5H105AA01
5H105BA09
5H105BB10
5H105CC07
5H105CC19
5H105DD10
5H105EE15
5H105GG03
5H125AA20
5H125AC12
5H125AC25
5H125BE02
5H125DD02
5H125EE61
5H125FF15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成で送電コイルと受電コイルとの位置関係を把握可能な無線電力伝送システム及び給電ステーションを提供する。
【解決手段】給電ステーション10は、電源ユニット11A、11B及びプロセッサ12を有する給電ステーション10と、給電ステーションから無線給電される移動体を備える。各電源ユニットは、複数の送電コイル及びキャパシタを有する送電部111と、直流電力を交流電力に変換する電力変換部112と、を有する。移動体は、受電コイル及びキャパシタを有する。各送電コイルは、クロスカップリングが各送電コイルと受電コイルとの間の結合係数より小さくなるように配置される。プロセッサ12は、電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように電力変換部を制御するスイッチング制御部121と、スイッチング周波数に基づき受電コイルの送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部122と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電源ユニットおよび制御部を有する給電ステーションと、
前記給電ステーションから無線給電される移動体と、を備え、
前記各電源ユニットは、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記移動体は、
受電コイル、および前記受電コイルに接続された共振キャパシタを有する受電部と、
前記受電コイルに誘導された交流電圧を整流する整流器と、
前記整流器の出力に電気的に接続されたバッテリーと、を有し、
前記複数の電源ユニットが有する複数の前記送電コイルは、クロスカップリングが前記各送電コイルと前記受電コイルとの間の結合係数のいずれよりも小さくなるように配置されており、
前記給電ステーションの前記制御部は、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部と、
前記複数の電力変換部のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部と、を有する、無線電力伝送システム。
【請求項2】
前記受電コイル位置把握部は、前記複数の電源ユニットのうち、ある電源ユニットの前記電力変換部のスイッチング周波数が上昇すると、当該電源ユニットの送電コイルと、前記受電コイルとの間の距離が縮まっていると判断し、前記電力変換部のスイッチング周波数が低下すると、当該電源ユニットの送電コイルと、前記受電コイルとの間の距離が広がっていると判断する、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項3】
前記受電コイル位置把握部は、前記複数の電力変換部のスイッチング周波数の変化に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置ずれ方向を把握する、請求項2に記載の無線電力伝送システム。
【請求項4】
前記受電コイル位置把握部は、前記移動体からの情報を用いることなく、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項5】
前記給電ステーションのうち少なくとも、前記複数の電源ユニットの前記送電コイルは水面下に配置される、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項6】
前記移動体は水中移動体である、請求項5に記載の無線電力伝送システム。
【請求項7】
前記複数の電源ユニットの前記送電コイルは、隣り合うもの同士の一部が重なるように配置されている、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項8】
前記スイッチング制御部は、前記複数の電源ユニットのうち、ある電源ユニットのスイッチング周波数が上昇した場合、他の電源ユニットのスイッチング周波数が前記ある電源ユニットの前記スイッチング周波数に一致するように前記他の電源ユニットの電力変換部を制御する、請求項1に記載の無線電力伝送システム。
【請求項9】
移動体に電力を無線で給電する給電ステーションであって、
複数の電源ユニットと、
制御部と、を備え、
前記各電源ユニットは、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記複数の電源ユニットが有する複数の前記送電コイルは、クロスカップリングが前記各送電コイルと前記移動体の受電コイルとの間の結合係数のいずれよりも小さくなるように配置されており、
前記制御部は、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部と、
前記複数の電力変換部の複数のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部と、を有する、給電ステーション。
【請求項10】
移動体に電力を無線で給電する給電ステーションにおいて実行される無線給電プログラムであって、
前記給電ステーションが有する複数の電源ユニットの各々は、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記無線給電プログラムは、前記給電ステーションのコンピュータを、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部、および
前記複数の電力変換部の複数のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部、として動作させる、無線給電プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラム、より詳しくは、移動体を磁界共鳴方式により無線充電するための無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁誘導方式などにより非接触で電力を伝送するための種々の技術が提案されている(特許文献1~4、非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、隣接する1次側(送電側)コイルの励磁周波数を異ならせることにより、磁界のうなりを形成し、広い範囲で高い出力と安定した電力伝送を実現するための非接触電力伝送装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、全鎖交磁束が打ち消し合って結合度がゼロになる点に設定した一対の平面コイルを用いて、共振周波数を介して体内の局所の圧等の項目を連続監視するための装置が記載されている。
【0005】
特許文献3には、第1受電部および第2受電部におけるそれぞれの共振周波数をクロスカップリングがキャンセルされた状態に実質的に維持することで、第1受電部および第2受電部におけるインダクタンス成分又はキャパシタンス成分を調整する結合調整部を備える無線電力伝送装置が記載されている。
【0006】
特許文献4には、リアルタイムで給電と送受信コイルの位置検出を行うための非接触給電システムが記載されている。このシステムでは、送受信コイルにそれぞれ接続された給電回路をある共振周波数で共振させて給電し、位置検出回路を給電回路の共振周波数とは異なる共振周波数で共振させて両コイルの相互位置を検出する。
【0007】
非特許文献1は本発明者らによる論文であるが、クロスカップリングが低減された2つの受電コイルをベースとする無線電力伝送システムが記載され、当該システムにおける共振周波数特性について議論されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-164293号公報
【特許文献2】特開2018-000901号公報
【特許文献3】特開2015-154543号公報
【特許文献4】特開2015-002641号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shohei Komeda, Rin Arai, “Resonant Frequency Characteristics of a Wireless Power Transfer System based on Dual-Receiver Configuration without Cross Coupling”, IECON 2021 - 47th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、効率的な無線給電を実現するには送電コイルと受電コイルとの位置関係を把握することが重要である。しかし、従来は特許文献4に記載のように位置検出用の共振回路や電源が必要であった。
【0011】
本発明は、上記の技術的認識に基づいてなされたものであり、簡易な構成で送電コイルと受電コイルとの位置関係を把握可能な無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様に係る無線電力伝送システムは、
複数の電源ユニットおよび制御部を有する給電ステーションと、
前記給電ステーションから無線給電される移動体と、を備え、
前記各電源ユニットは、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記移動体は、
受電コイル、および前記受電コイルに接続された共振キャパシタを有する受電部と、
前記受電コイルに誘導された交流電圧を整流する整流器と、
前記整流器の出力に電気的に接続されたバッテリーと、を有し、
前記複数の電源ユニットが有する複数の前記送電コイルは、クロスカップリングが前記各送電コイルと前記受電コイルとの間の結合係数のいずれよりも小さくなるように配置されており、
前記給電ステーションの前記制御部は、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部と、
前記複数の電力変換部のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部とを有する、無線電力伝送システム。
【0013】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記受電コイル位置把握部は、前記複数の電源ユニットのうち、ある電源ユニットの前記電力変換部のスイッチング周波数が上昇すると、当該電源ユニットの送電コイルと、前記受電コイルとの間の距離が縮まっていると判断し、前記電力変換部のスイッチング周波数が低下すると、当該電源ユニットの送電コイルと、前記受電コイルとの間の距離が広がっていると判断するようにしてもよい。
【0014】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記受電コイル位置把握部は、前記複数の電力変換部のスイッチング周波数の変化に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置ずれ方向を把握するようにしてもよい。
【0015】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記受電コイル位置把握部は、前記移動体からの情報を用いることなく、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握するようにしてもよい。
【0016】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記給電ステーションのうち少なくとも、前記複数の電源ユニットの前記送電コイルは水面下に配置されるようにしてもよい。
【0017】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記移動体は水中移動体であってもよい。
【0018】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記複数の電源ユニットの前記送電コイルは、隣り合うもの同士の一部が重なるように配置されていてもよい。
【0019】
また、前記無線電力伝送システムにおいて、
前記スイッチング制御部は、前記複数の電源ユニットのうち、ある電源ユニットのスイッチング周波数が上昇した場合、他の電源ユニットのスイッチング周波数が前記ある電源ユニットの前記スイッチング周波数に一致するように前記他の電源ユニットの電力変換部を制御するようにしてもよい。
【0020】
本発明の一態様に係る給電ステーションは、
移動体に電力を無線で給電する給電ステーションであって、
複数の電源ユニットと、
制御部と、を備え、
前記各電源ユニットは、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記複数の電源ユニットが有する複数の前記送電コイルは、クロスカップリングが前記各送電コイルと前記移動体の受電コイルとの間の結合係数のいずれよりも小さくなるように配置されており、
前記制御部は、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部と、
前記複数の電力変換部の複数のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部とを有する。
【0021】
本発明の一態様に係る無線給電プログラムは、
移動体に電力を無線で給電する給電ステーションにおいて実行される無線給電プログラムであって、
前記給電ステーションが有する複数の電源ユニットの各々は、
送電コイル、および前記送電コイルに接続された共振キャパシタを有する送電部と、
直流電力を交流電力に変換し、前記交流電力を前記送電部に出力する電力変換部と、を有し、
前記無線給電プログラムは、前記給電ステーションのコンピュータを、
前記各電源ユニットに対し、前記電力変換部の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように前記電力変換部のスイッチング周波数を制御するスイッチング制御部、および
前記複数の電力変換部の複数のスイッチング周波数に基づいて、前記受電コイルの前記複数の送電コイルに対する位置を把握する受電コイル位置把握部、として動作させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡易な構成で送電コイルと受電コイルとの位置関係を把握可能な無線電力伝送システム、給電ステーションおよび無線給電プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態に係る無線電力伝送システムの概略的構成を示す図である。
図2】実施形態に係る給電ステーションの機能ブロック図である。
図3】給電ステーション(2つの電源ユニット11A,11B)および移動体(受電部21、整流器22およびバッテリー23)の回路構成例を示す図である。
図4】2つの送電コイルの配置関係の一例を示す図であり、上側は平面図、下側は側面図である。
図5】2つの送電コイルの中心間距離と結合係数との関係(実測値)を示すグラフである。
図6】3つの送電コイルの配置関係の一例を示す平面図である。
図7】実施形態に係る移動体の機能ブロック図である。
図8】2つの送電コイル(送電コイルユニット)と1つの受電コイルとの位置関係を示す側面図である。
図9】2つの送電コイルと1つの受電コイルとの間の距離と、結合係数との関係(実測値)を示すグラフである。
図10】1つの電源ユニットと1つの受電コイルからなる系のT型等価回路を示す図である。
図11】1つの送電コイルと1つの受電コイル間の結合係数と、共振周波数追従制御におけるスイッチング周波数との関係を示すグラフである。
図12】各電源ユニットおよび受電部における電圧および電流波形の測定結果の一例を示す図である。
図13】各電源ユニットおよび受電部における電圧および電流波形の測定結果の一例を示す図である。
図14】2つの送電コイルと1つの受電コイルとの間の距離と、共振周波数との関係(実測値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図においては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。
【0025】
<無線電力伝送システム1>
まず、図1を参照して実施形態に係る無線電力伝送システム(Wireless Power Transfer:WPT)1の概略的な構成について説明する。なお、図1では、給電ステーション10の送電コイルは模式的に4つのみ図示しているが、より多くの送電コイルが設けられてもよい。たとえば、給電ステーション10上面における所定の充電エリアをカバーするように多数の送電コイルが配置されてもよい。本実施形態では、2つの送電コイルが1つの送電コイルユニットとして機能する。充電エリアにわたって複数の送電コイルユニットが配置されてもよい。
【0026】
本実施形態に係る無線電力伝送システム1は、移動体20を無線給電するためのシステムである。以下に説明する実施形態において、無線電力伝送システム1は、自律型無人潜水機(Autonomous Underwater Vehicle:AUV)等の水中にある移動体を無線給電するように構成されている。なお、これに限られず、移動体20は、自動車、二輪車等の陸上移動体や、ドローン、無人飛行機等の空中移動体であってもよい。
【0027】
無線電力伝送システム1は、図1に示すように、複数の送電コイルL1,L2を有する給電ステーション10と、受電コイルL3を有する移動体20とを備えている。移動体20は、受電コイルL3に誘導された交流電圧により充電される。
【0028】
本実施形態に係る無線電力伝送システム1は、詳しくは後述するが、送電コイルL1を含む電源ユニット11Aのスイッチング周波数と、送電コイルL2を含む電源ユニット11Bのスイッチング周波数に基づいて、給電ステーション10に対する移動体20の位置を把握するように構成されている。より正確に言えば、電源ユニット11A,11Bのスイッチング周波数に基づいて、送電コイルL1および送電コイルL2からなる送電コイルユニットに対する受電コイルL3の位置を把握するように構成されている。把握された受電コイルL3の位置に基づき、給電ステーション10から移動体20への無線給電が行われる。
【0029】
<給電ステーション10>
次に、図2図5を参照して、給電ステーション10の詳細について説明する。
【0030】
給電ステーション10は、送電コイルL1を含む電源ユニット11Aと、送電コイルL2を含む電源ユニット11Bと、電源ユニット11A,11Bを制御するプロセッサ(制御部)12とを有している。本実施形態では、給電ステーション10は水中移動体に無線給電を行うため、給電ステーション10の構成要素のうち少なくとも送電コイルL1,L2は水面下に配置される。
【0031】
本実施形態では、電源ユニット11Aおよび電源ユニット11Bは同じ構成を有する。すなわち、各電源ユニット11A,11Bは、LC共振回路を含む送電部111と、直流電力を交流電力に変換する電力変換部112とを有する。図3は、送電部111および電力変換部112の構成例を示している。
【0032】
図3に示すように、電源ユニット11Aの送電部111は、送電コイルL1、および送電コイルL1に直列接続されたキャパシタC1を有する。これにより、LC共振回路が構成される。同様に、電源ユニット11Bの送電部111は、送電コイルL2、および送電コイルL2に直列接続されたキャパシタC2を有する。キャパシタC1,C2は送電コイルL1,L2とともに共振回路を構成する共振キャパシタである。なお、キャパシタC1は送電コイルL1に並列接続されてもよい。同様に、キャパシタC2は送電コイルL2に並列接続されてもよい。
【0033】
本実施形態において、送電コイルL1のインダクタンスと送電コイルL2のインダクタンスの値は同じであり、キャパシタC1のキャパシタンスとキャパシタC2のキャパシタンスも同じである。また、送電コイルL1と送電コイルL2は環状であり、大きさ(直径)はほぼ等しい。
【0034】
電力変換部112は、直流電源Vdcから供給される直流電力を交流電力に変換し、当該交流電力を送電部111に出力する。図3の構成例では、電力変換部112は、4つの半導体スイッチQ1~Q4から構成されるインバータである。ここでは、半導体スイッチとしてIGBTを用いているが、MOS-FET等の他の素子でもよい。
【0035】
なお、電力変換部112の構成は図3に示すものに限られない。たとえば、電力変換部112は、半導体スイッチQ1~Q4からなるインバータ回路の前段に、AC/DCコンバータまたはDC/DCコンバータを備えるものであってもよいし、AC/DCコンバータおよびDC/DCコンバータを備えるものであってもよい。
【0036】
また、直流電源Vdcは、バッテリーに限らず、商用の交流を入力し直流に変換するコンバータ等により構成されるものであってもよい。
【0037】
プロセッサ12は、給電ステーション10を制御する制御部として機能する。プロセッサ12は、電力変換部12の半導体スイッチQ1~Q4を制御するスイッチング制御部121と、受電コイルL3の位置を把握する受電コイル位置把握部122とを有する。プロセッサ12は、マイコン、CPU、FPGA、ASIC等により構成される。
【0038】
本実施形態において、スイッチング制御部121および受電コイル位置把握部122は、プロセッサ12によって実行可能なソフトウェア(プログラム)により実現される。なお、これに限らず、スイッチング制御部121および受電コイル位置把握部122の少なくとも一部がハードウェアにより実現されてもよい。
【0039】
スイッチング制御部121は、半導体スイッチQ1~Q4のオンオフ制御を行う。半導体スイッチQ1~Q4は数十kHz程度の高周波数でオンオフ制御される。これにより、直流電源Vdcから電力変換部112に入力された直流電力が交流電力に変換される。図3に示す回路の場合、半導体スイッチQ1およびQ4をオンにし且つ半導体スイッチQ2およびQ3をオフにする第1状態と、半導体スイッチQ1およびQ4をオフにし且つ半導体スイッチQ2およびQ3をオンにする第2状態とを繰り返すことで電力変換を行う。
【0040】
スイッチング制御部121は、電力変換部112に対して共振周波数追従制御を行う。すなわち、スイッチング制御部121は、電力変換部112の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように電力変換部112を制御する。詳しくは、スイッチング制御部121は、電源ユニット11Aの電力変換部112の出力電圧Vinv1と出力電流Iinv1の位相差が0になるように当該電力変換部112の半導体スイッチQ1~Q4に対するスイッチング周波数(fsw)を制御する。同様に、スイッチング制御部121は、電源ユニット11Bの電力変換部112の出力電圧Vinv2と出力電流Iinv2の位相差が0になるように当該電力変換部112の半導体スイッチQ1~Q4に対するスイッチング周波数を制御する。
【0041】
このように、スイッチング制御部121は、電源ユニット11A,11Bの各々に対し、電力変換部112の出力電圧と出力電流の位相差が0になるように当該電力変換部のスイッチング周波数を制御する。
【0042】
なお、プロセッサ12は、一つのマイコン等のチップから構成される場合に限られない。たとえば、プロセッサ12は、各電源ユニットを制御する複数の個別のチップ(サブ制御部)と、それらサブ制御部を統括するチップ(メイン制御部)とを含むものとして構成されてもよい。
【0043】
受電コイル位置把握部122は、各電源ユニット11A,11Bのスイッチング周波数に基づいて受電コイルL3の送電コイルL1,L2に対する位置を把握する。受電コイル位置把握部122は、複数の電源ユニット11A,11Bのうち、ある電源ユニットの電力変換部112のスイッチング周波数が上昇すると、当該電源ユニットの送電コイルと、受電コイルL3との間の距離が縮まっていると判断する。反対に、電力変換部112のスイッチング周波数が低下すると、受電コイル位置把握部122は、当該電源ユニットの送電コイルと、受電コイルL3との間の距離が広がっていると判断する。
【0044】
受電コイル位置把握部122は、複数の電力変換部112のスイッチング周波数の変化に基づいて、受電コイルL3の複数の送電コイルL1,L2に対する位置ずれ方向を把握する。たとえば、電源ユニット11Aのスイッチング周波数が上昇し、電源ユニット11Bのスイッチング周波数が低下した場合は、受電コイルL3は送電コイルL2から送電コイルL1の方向に位置ずれしていると判断する。
【0045】
受電コイル位置把握部122は、共振周波数追従制御下における複数の電力変換部112の各スイッチング周波数をモニタすることで、送電コイルユニットと受電コイルとの位置関係を把握することができる。なお、受電コイル位置把握部122は、3つ以上の電源ユニットの共振周波数に基づいて、3つ以上の送電コイルからなる送電コイルユニットに対する受電コイルの位置を把握してもよい。
【0046】
次に、図4を参照して、電源ユニット11Aの送電コイルL1と電源ユニット11Bの送電コイルL2の配置について説明する。本実施形態において、送電コイルL1と送電コイルL2は、送電コイルL1と送電コイルL2間の結合係数(クロスカップリング)が極小値になるように配置される。図4に示すように、送電コイルL1と送電コイルL2は各々の一部が互いに重なるように配置されている。具体的には、環状の送電コイルL1,L2の直径が230mmのとき中心間距離d(送電コイルL1の中心Oと送電コイルL2の中心O間の距離)が140mmとなるように、送電コイルL1と送電コイルL2は配置されている。この配置のとき、図5に示すクロスカップリングの実測値のグラフからわかるように、送電コイルL1と送電コイルL2間の結合係数は極小値をとる。送電コイル間の結合係数をできるだけ小さくすることで、受電コイルの位置を正確に把握できるようになる。このように本実施形態では、送電コイルユニットは、互いに一部が重なるように配置された送電コイルL1および送電コイルL2からなる。
【0047】
なお、送電コイルL1と送電コイルL2は、クロスカップリングが所定のレベル未満であれば、他の配置であってもよい。すなわち、送電コイルL1と送電コイルL2間の結合係数が、送電コイルL1と受電コイルL3間の結合係数より小さく、かつ送電コイルL2と受電コイルL3間の結合係数より小さくなる配置であればよい。たとえば、送電コイルL1と送電コイルL2の中心間距離dが140mmより大きい配置としてもよい。また、送電コイルL1およびL2を互いの側面が接するように配置してもよい。
【0048】
また、送電コイルの数(電源ユニットの数)は2つに限らず、3つ以上であってもよい。図6は、送電コイルユニットが3つの送電コイルL1,L2,L4で構成される場合の一例を示している。この例では、各送電コイルの中心O,O,Oが正三角形を形成するように配置されている。このような送電コイルユニットを用いることで、受電コイルの送電コイルユニットに対する平面位置および距離を把握することができる。図6に示すように送電コイルユニットが3つの送電コイルからなる場合、受電コイルが中心O,O,Oを頂点とする正三角形の中心(重心)の真上に位置することが高い充電効率を実現する上で望ましい。
【0049】
また、送電コイル間のクロスカップリングが各送電コイルと受電コイル間の係数よりも小さいならば、送電コイルユニットを構成する送電コイルの大きさは互いに異なっていてもよい。
【0050】
<移動体20>
次に、図7を参照して、給電ステーション10から無線給電される移動体20について詳しく説明する。本実施形態の移動体20は、AUVや遠隔操作無人探査機(Remotely Operated Vehicle:ROV)等の水中探査機である。
【0051】
移動体20は、LC共振回路を含む受電部21と、受電コイルL3に誘導された交流電圧を整流する整流器22と、整流された直流電圧により充電されるバッテリー23と、1つまたは複数のセンサ24と、移動体20を駆動するための駆動部25と、駆動部25等を制御するプロセッサ26とを備えている。
【0052】
受電部21は、図3の回路図に示すように、受電コイルL3、および受電コイルL3に直列接続されたキャパシタC3を有する。キャパシタC3は受電コイルL3とともに共振回路を構成するキャパシタである。キャパシタC3は受電コイルL3に並列接続されてもよい。
【0053】
本実施形態では、受電コイルL3のインダクタンスは、送電コイルL1および送電コイルL2のインダクタンスの値と同じであり(L3=L1=L2)、キャパシタC3のキャパシタンスは、送電部111のキャパシタC1とキャパシタC2のキャパシタンスと同じである(C3=C1=C2)。また、環状の受電コイルL3の大きさ(直径)は、送電コイルL1(送電コイルL2)の大きさとほぼ等しい。
【0054】
整流器22は、受電部21に入力が接続され、受電コイルL3に誘導された交流電圧を整流するように構成されている。本実施形態では、整流器22は、図3に示すように、4つのダイオードD1,D2,D3,D4から構成されるブリッジダイオードと、その出力端に接続された平滑キャパシタCとを有する。
【0055】
なお、整流器22は、ブリッジダイオードの後段に電圧調整用のDC/DCコンバータをさらに有してもよい。また、整流器22は、ブリッジダイオードに代えてAC/DCコンバータを有してもよい。あるいは、整流器22は、ブリッジダイオードの前段にAC/DCコンバータを有してもよい。
【0056】
バッテリー23は、整流器22の出力端に接続されており、整流器22により整流された直流電圧により充電される。バッテリー23は、例えば、二次電池(リチウムイオン電池等)である。バッテリー23が供給する電力により、センサ24、駆動部25およびプロセッサ26などが動作する。なお、バッテリー23は、当該バッテリーを管理するためのバッテリー管理ユニット(Battery Management Unit:BMU)を有してもよい。
【0057】
センサ24は、水中を探査するために設けられたセンサであり、観測目的や観測対象に応じた各種のセンサないし測定装置である。センサ24は、たとえば、ドップラ式速度計(Doppler Velocity Log:DVL)、ジャイロコンパス、深度計である。なお、ジャイロコンパスの代わりに、姿勢方位センサまたは慣性航法装置が設けられてもよい。また、移動体20の本体の先頭部分に、マルチビームソーナー(Multi-beam sonar)が設けられてもよい。
【0058】
駆動部25は、移動体20を移動ないし推進させるように構成されている。本実施形態において駆動部25は、図示しないが、本体の船尾に設けられたプロペラと、プロペラを回転駆動するモータとを有する。なお、駆動部25は、移動体20内部に設けられたインペラの回転により加圧された水を外部に向けて噴射するウォータジェット推進装置であってもよい。
【0059】
プロセッサ26は、バッテリー23や駆動部25等を制御する。プロセッサ26は、たとえば、CPU、マイコン、FPGA、ASIC等により構成される。
【0060】
なお、上記構成の他、移動体20は、音波通信トランスデューサや、GPS信号を受信することが可能な無線通信アンテナといった通信装置を備えてもよい。
【0061】
<コイル間の位置関係と結合係数>
次に、図8および図9を参照して、送電コイルユニット(送電コイルL1,L2)と受電コイルとの位置関係と、各コイル間の結合係数との間の関係について説明する。
【0062】
図8の上段に示す位置関係Iにおいて、受電コイルL3は送電コイルユニットの中心の真上に位置する。このとき、受電コイルL3の中心と、送電コイルユニットの中心との間の水平方向の距離は0mmである。このとき、図9のグラフからわかるように、送電コイルL1と受電コイルL3間の結合係数k13と、送電コイルL2と受電コイルL3間の結合係数k23とはほぼ等しい。送電コイルL1と送電コイルL2間の結合係数k12は、前述のように配置を工夫することで結合係数k13,結合係数k23に比べて小さい値になっている。なお、無線給電の際は、位置関係Iのように受電コイルL3が送電コイルユニットの真上に位置することが充電効率を高める上で望ましい。
【0063】
図8の中段に示す位置関係IIにおいて、受電コイルL3は送電コイルL1の真上に位置する。このとき、受電コイルL3の中心と送電コイルユニットの中心との間の水平方向の距離dは70mmである。このとき、図9のグラフからわかるように、送電コイルL1と受電コイルL3間の結合係数k13は位置関係Iのときよりも大きくなり極大値をとる。他方、結合係数k23は位置関係Iの場合よりも小さい値である。
【0064】
図8の下段に示す位置関係IIIにおいて、受電コイルL3はその中心が送電コイルL1の中心よりも左側に位置する。このとき、受電コイルL3の中心と送電コイルユニットの中心との間の水平方向の距離dは120mmである。このとき、図9のグラフからわかるように、送電コイルL1と受電コイルL3間の結合係数k13は、位置関係IIのときよりも小さくなる。他方、結合係数k23は位置関係IIの場合とほぼ同じ値である。
【0065】
図9から分かるように、受電コイルと送電コイルユニットとの位置関係によらず、送電コイルL1と送電コイルL2間の結合係数k12は、結合係数k13および結合係数k23のいずれよりも小さい。このように送電コイルユニットにおいては、クロスカップリング(結合係数k12)が各送電コイルと受電コイルとの間の結合係数(k13、k23)のいずれよりも小さくなるように送電コイルL1および送電コイルL2が配置されている。これにより、結合係数k13および結合係数k23に基づいて(すなわち、電源ユニット11A,11Bの各スイッチング周波数に基づいて)、受電コイルL3の送電コイルユニットに対する位置関係を正確に把握することが可能となる。
【0066】
<結合係数と共振周波数との関係>
図10および図11を参照して、コイル間の結合係数と、共振周波数追従制御におけるスイッチング周波数(共振周波数)との間の関係について説明する。ここでは、1つの電源ユニットと受電コイルとからなる系を考える。
【0067】
図10は、1つの送電部と1つの受電部からなる系のT型等価回路を示している。本実施形態のように送電コイルおよび受電コイルのそれぞれに共振キャパシタを直列に接続した直列-直列補償(SS)方式の場合、スイッチング周波数(共振周波数)は式(1)および式(2)で与えられる。ここでは、送受電間でインダクタンスおよびキャパシタンスが等しいとし、巻線抵抗や鉄損抵抗は存在しないと仮定している。また、簡略化のため、入力交流電源は、インバータの方形波の基本波成分のみを考慮した正弦波電圧源vinv-fとした。
【数1】
【0068】
ここで、Lは送電コイルおよび受電コイルのインダクタンス、Cは共振キャパシタのキャパシタンス、RacSは交流等価抵抗、kは送電コイルと受電コイル間の結合係数である。
【0069】
交流等価抵抗RacSは、負荷抵抗Rを用いて、式(3)で与えられる。
【数2】
【0070】
図11は、式(1)および式(2)によるスイッチング周波数の計算値(実線)と実測値(黒丸)を示している。また、図11では、受信コイルに誘導された電圧の計算値(実線)と実測値(白丸)も示している。スイッチング周波数の計算では、L=135μH、C=1.76μF、R=3Ωの値を用いた。
【0071】
図11からわかるように、送電コイルと受電コイル間の結合係数kが約0.3未満の領域においてスイッチング周波数は一定値となる。他方、結合係数kが約0.3以上の領域では、結合係数kが大きくなるにつれてスイッチング周波数fSWは大きくなる。換言すれば、結合係数が約0.3以上の場合、スイッチング周波数は送電コイルと受電コイル間の結合係数が大きくなるにつれて高くなる。送電コイルと受電コイルとの位置関係は結合係数に関係する。したがって、スイッチング周波数(共振周波数)をモニタすることで、送電コイルに対する受電コイルの位置を把握することができる。
【0072】
なお、送電部111においてキャパシタC1,C2が送電コイルL1,L2に並列に接続されて共振回路が構成される場合についても、スイッチング周波数は送電コイルと受電コイル間の結合係数が大きくなるにつれて高くなることから、スイッチング周波数(共振周波数)をモニタすることで送電コイルに対する受電コイルの位置を把握することができる。
【0073】
なお、図11に示すように、受電コイルに発生する電圧Vrecは、結合係数が約0.3以上の領域において、ほぼ一定である。このことは、移動体のバッテリーを充電するのに有利な特性である。すなわち、一般的な非接触電力伝送システムでは、受電側の電圧の値を送電側にフィードバックして送電側のスイッチング周波数を調整するが、本実施形態において電圧Vrecはほぼ一定であるため、このようなフィードバックを行う必要がない。
【0074】
<電圧・電流の時間波形>
次に、図12および図13を参照して、図3の回路構成において実測された送電コイルおよび受電コイルにおける電圧波形および電流波形について説明する。なお、ここではコイル間の位置関係の変化による位相差の変化を見るために共振周波数追従制御は行っていない。図12および図13において、一目盛りは10μSecである。
【0075】
図12は、位置関係I(図8の上段)における、電源ユニット11Aの電圧Vinv1および電流Iinv1と、電源ユニット11Bの電圧Vinv2および電流Iinv2と、受電部21の電圧Vrecおよび電流Irecの時間波形を示している。この図からわかるように、電圧Vinv1と電流Iinv1および電圧Vinv2と電流Iinv2は、それぞれ、ほぼ同位相(位相差が約0)である。
【0076】
図13は、位置関係Iにおいて受電コイルL3が送電コイルL1側に水平移動した場合(位置関係Iと位置関係IIの間)における、電源ユニット11Aの電圧Vinv1および電流Iinv1と、電源ユニット11Bの電圧Vinv2および電流Iinv2と、受電部21の電圧Vrecおよび電流Irecの時間波形を示している。
【0077】
共振周波数追従制御は行われていないため、図13からわかるように、電源ユニット11Aの電流は電圧に比べて位相が進んでいる。これは受電コイルL3が電源ユニット11Aの送電コイルL1に近づき、結合係数k13が大きくなったことに対応する。他方、電源ユニット11Bの電流は電圧に比べて位相が遅れている。これは受電コイルL3が電源ユニット11Bの送電コイルL2から遠ざかり、結合係数k23が小さくなったことに対応する。共振周波数追従制御を行う場合は、位相差が0になるように電力変換部112が制御されるため、電源ユニット11Aのスイッチング周波数は位相の進みに応じて上昇し、電源ユニット11Bのスイッチング周波数は位相の遅れに応じて低下する。
【0078】
したがって、共振周波数追従制御下にある電源ユニット11A,11Bのスイッチング周波数(すなわち、共振周波数)をモニタすることで、受電コイルL3と送電コイルユニットとの位置関係を把握することができる。
【0079】
次に、共振周波数追従制御下におけるスイッチング周波数の変化の実測値について説明する。図14は、送電コイルL1,L2からなる送電コイルユニットと、1つの受電コイルL3との間の距離(水平距離、位置ずれ量)と、送電コイルL1を有する電源ユニット11Aの共振周波数との関係を示すグラフである。共振周波数は実測値である。このグラフから分かるように、共振周波数は、送電コイルL1と受電コイルL3との間の結合係数が最も大きくなる距離70mmの場合(位置関係II、図8の中段)において最大値をとる。なお、図示しないが、電源ユニット11Bの共振周波数は、受電コイルL3が送電コイルL2から離れるため、単調に低下する。
【0080】
このように電源ユニット11Aと電源ユニット11Bの共振周波数をそれぞれモニタすることで、プロセッサ12の受電コイル位置把握部122は、受電コイルL3(移動体20)が送電コイルユニットに対してどちらの方向に位置ずれしたのか(送電コイルL1側にずれたのか送電コイルL2側にずれたのか)を検出することができる。すなわち、受電コイル位置把握部122は、電源ユニット11A,11Bのスイッチング周波数に基づいて受電コイルL3の送電コイルL1,L2に対する位置を把握する。
【0081】
また、電源ユニット11A,11Bの両方のスイッチング周波数の変化をモニタすることで受電コイルL3の移動方向を把握することができる。これに対して、電源ユニット11Aおよび電源ユニット11Bの一方のスイッチング周波数のみをモニタする場合は、受電コイルL3の移動方向を把握できない。たとえば、電源ユニット11Aのスイッチング周波数のみをモニタする場合、受電コイルL3が送電コイルL1に近づいている(または遠のいている)ことは把握できるが、受電コイルL3が送電コイルL1のどちらの方向から近づいているのか(またはどちらの方向に遠のいているのか)を把握できない。すなわち、受電コイルL3が送電コイルL2側から近づいているのか、送電コイルL2の反対側から近づいているのかを把握することができない。本実施形態では、電源ユニット11Aと電源ユニット11Bの両方のスイッチング周波数をモニタすることで、上記のように受電コイルL3の移動方向を把握することができる。
【0082】
なお、図8の上段に示す位置関係Iにおいて無線給電が行われている状況において、海流等の影響により移動体20の位置がずれた場合、電源ユニット11Aと電源ユニット11Bのスイッチング周波数が互いに異なるようになる。たとえば、位置ずれにより受電コイルL3が送電コイルL1に近づいた場合、電源ユニット11Aのスイッチング周波数は上昇し、電源ユニット11Bのスイッチング周波数は低下する。その結果、受電コイルL3に誘導される電圧の周波数成分が複数となり、バッテリー23の充電効率が低下する。これを避けるために、スイッチング制御部121は、電源ユニット11A,11Bのスイッチング周波数を高い方に合わせる制御を行ってもよい。たとえば、電源ユニット11Aのスイッチング周波数が上昇した場合、電源ユニット11Bのスイッチング周波数が電源ユニット11Aのスイッチング周波数に一致するように電源ユニット11Bの電力変換部を制御する。たとえば、周波数差が所定値以上になった場合に、電源ユニット11Aのスイッチング周波数が上昇したと判定してもよい。このような協調制御を行うことで、充電効率の低下を抑制することができる。
【0083】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態において、給電ステーション10の受電コイル位置把握部122は、複数の電源ユニットの共振周波数に基づいて受電コイルと送電コイルユニットとの位置関係を把握するため、移動体20の情報を給電ステーション10にフィードバックするための回路等が不要である。したがって、たとえば、電源ユニット11A,11Bの電力変換部12を制御するマイコンのソフトウェアにより、スイッチング制御部121および受電コイル位置把握部122を実現することができ、追加的なハードウェアは不要である。よって、本実施形態によれば、簡易な構成で送電コイルと受電コイルの位置関係を把握することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、上記位置関係の把握は、送電コイルと受電コイル間の電力伝送しながら行うことができる。このため、受電コイルの位置把握のために電力伝送を停止する必要がなく、効率的な無線充電を実現することができる。
【0085】
また、本実施形態によれば、給電ステーション10は、移動体20からの情報(受電コイルL3に発生した電圧等)を用いることなく、送電コイルユニットに対する受電コイルの位置を把握することができる。よって、水中での無線給電など、電波の減衰により送受信間で情報通信することが困難な状況であっても、本実施形態は適用可能である。
【0086】
水中では、海流などの影響により移動体20の位置が変動的である。また、水が粘性流体であるため、移動体20の細かな位置制御を行うことが困難である。このような状況であっても、本実施形態によれば、把握された位置関係に基づいて、給電に用いる送電コイルユニットを選択することができ、効率的な無線給電を行うことができる。このように水中で効率的な無線給電を行えるため、AUV等の水中移動体を母船等に引き上げなくても充電を行うことが可能となる。
【0087】
また、本実施形態によれば、共振周波数追従制御された複数の電力変換部のスイッチング周波数の変化に基づいて、送電コイルユニットに対する受電コイルの位置ずれ方向を把握することができる。
【0088】
また、本実施形態では、複数の送電コイルを1つの送電コイルユニットとして機能させるので、一つの電源ユニットが故障しても、他方の電源ユニットにより無線充電を継続することができる。その結果、無線電力伝送システムの信頼性を向上させることができる。
【0089】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 無線電力伝送システム
10 給電ステーション
11A,11B 電源ユニット
111 送電部
112 電力変換部
12 プロセッサ
121 スイッチング制御部
122 受電コイル位置把握部
20 移動体
21 受電部
22 整流器
23 バッテリー
24 センサ
25 駆動部
26 プロセッサ
C1,C2,C3 キャパシタ
D1,D2,D3,D4 ダイオード
L1,L2 送電コイル
L3 受電コイル
Q1,Q2,Q3,Q4 半導体スイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14