(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048229
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用フィリング
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20240401BHJP
A21D 13/30 20170101ALI20240401BHJP
A23D 9/007 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A21D13/30
A23D9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154152
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安永 あかね
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 陽加
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 紘介
(72)【発明者】
【氏名】冨山 綾
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
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4B032DP30
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4B032DP67
(57)【要約】
【課題】以下の(1)及び(2)を達成することのできる、液状油を用いたフィリングを提供する。
(1)菓子、パン等のベーカリー食品と複合することが可能な、良好な作業性を有する。
(2)液状油の好ましい風味を十分に感じることができる。
【解決手段】20℃で液体である油脂及び油脂ゲル化剤を含む油ゲルを含有するベーカリー食品用フィリングであって、におい識別装置の基準モードで測定したエステル系の臭気寄与を示す数値が5以上であり、有機酸系の臭気寄与を示す数値が15以上である、ベーカリー食品用フィリング。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃で液体である油脂及び油脂ゲル化剤を含む油ゲルを含有するベーカリー食品用フィリングであって、
におい識別装置の基準モードで測定したエステル系の臭気寄与を示す数値が5以上であり、有機酸系の臭気寄与を示す数値が15以上である、
ベーカリー食品用フィリング。
【請求項2】
油脂ゲル化剤が、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノエステル、プロピレングリコールジエステル、ステロール類、及びワックス類からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1記載のベーカリー食品用フィリング。
【請求項3】
測定温度25℃で、加える剪断応力が100Pa以下の時の貯蔵弾性率G’が、400~100000Paである、請求項1又は2記載のベーカリー食品用フィリング。
【請求項4】
油ゲル中の油脂ゲル化剤の含有量が1.5~6.5質量%である、請求項1又は2記載のベーカリー食品用フィリング。
【請求項5】
包餡用、サンド用又はトッピング用である請求項1又は2記載のベーカリー食品用フィリング。
【請求項6】
包餡用、サンド用又はトッピング用である請求項3記載のベーカリー食品用フィリング。
【請求項7】
請求項1又は2記載のベーカリー食品用フィリングを含有する、ベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の製造に用いられるフィリングに関する。
【背景技術】
【0002】
製菓・製パン業界において、ショートニング、マーガリン等の加工油脂又はバターは、その風味を菓子類又はパン類に付与することを目的の一つとして使用される。
他方、室温下(20~25℃)で粘度が低く流動性が高い液状油(20℃で液体である油脂)も飲食品に対してその風味を付与するために、飲食品の製造の際に用いられることがある。液状油の中でも特にオリーブ油、胡麻油、アボカド油等の液状油は、独特の好ましい風味を有しており、飲食品の製造の際に好ましく選択され使用される。
【0003】
ここで、通常、油脂の風味を菓子、パン等のベーカリー食品に付与させる場合には、(i)油脂を生地中に練り込む、(ii)該油脂を用いたフィリングを菓子、パン等のベーカリー食品と複合させる、という2つの手法のいずれか1つ以上がとられる。
【0004】
しかし、常温で流動性を有する液状油を菓子生地、パン生地等のベーカリー食品生地へ練りこむ(i)の手法は、生地表面を液状油が覆うことで生地同士が滑り、十分に混練されず、ベーカリー食品生地の内部に液状油が練りこまれない他、特にパン生地においてはグルテンとの相互作用が得られず、ボリュームに乏しい品質の劣ったパンとなってしまうという問題がある。
また、(ii)の手法を適用しようとしても、液状油の粘度が低く流動性が高いために、そのままでは流れ落ちたり、吸収されたりする等、従前知られた包餡、サンド、トッピング等の手法によっては菓子、パン等のベーカリー食品と複合することができなかった。
【0005】
液状油の独特の好ましい風味付与を狙って、例えばパーム油のような結晶成分を多く含む油脂と液状油とを混合して得られる油相を用いて加工油脂を製造し、これを製菓・製パンへ適用することも検討されてきた。
【0006】
しかし、この手法では、油相中で液状油が希釈され均一に分散する等の理由から、このような加工油脂を用いることによっては、液状油の風味は十分に菓子及びパンに付与されなかった。
【0007】
このため、液状油が有する独特の好ましい風味を菓子、パン等のベーカリー食品に付与する手法が求められている。
【0008】
例えば、液状油の風味を菓子及びパンに付与する手法として、特許文献1には、ゲル化した内油相を有する油中水中油型乳化油脂組成物をスプレッドとして用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の油中水中油型乳化油脂組成物は、二重乳化物であり、その内油相に風味原料、液状油等の原料を用いるが、乳化物を二段階で製造する必要があり製造工程が煩雑であった。また、一定の貯蔵粘弾性を油中水中油型乳化物に付与する観点から、外油相に結晶成分を多く含む油脂を使用する必要があり、結果として喫食する際には内油相に用いた液状油と、外油相に用いた結晶成分を多く含む油脂を同時に喫食するため、液状油が有する優れた風味が希釈されてしまい、十分に感じることができなかった。
【0011】
本発明の課題は、以下の(1)及び(2)を達成することのできる、液状油を用いたフィリングを提供することにある。
(1)菓子、パン等のベーカリー食品と複合することが可能な、良好な作業性を有する。
(2)液状油の好ましい風味を十分に感じることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、使用する油脂を油ゲルとしてからフィリング中に含有させ、且つ、におい識別装置の基準モードで測定した臭気寄与を特定範囲としたフィリングにより上記課題が解決されることを知見した。
【0013】
本発明は、以下の内容を含む。
[1] 20℃で液体である油脂及び油脂ゲル化剤を含む油ゲルを含有するベーカリー食品用フィリングであって、
におい識別装置の基準モードで測定したエステル系の臭気寄与を示す数値が5以上であり、有機酸系の臭気寄与を示す数値が15以上である、
ベーカリー食品用フィリング。
[2] 油脂ゲル化剤が、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノエステル、プロピレングリコールジエステル、ステロール類、及びワックス類からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、[1]記載のベーカリー食品用フィリング。
[3] 測定温度25℃で、加える剪断応力が100Pa以下の時の貯蔵弾性率G’が、400~100000Paである、[1]又は[2]記載のベーカリー食品用フィリング。
[4] 油ゲル中の油脂ゲル化剤の含有量が1.5~6.5質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載のベーカリー食品用フィリング。
[5] 包餡用、サンド用又はトッピング用である[1]又は[2]記載のベーカリー食品用フィリング。
[6] 包餡用、サンド用又はトッピング用である[3]又は[4]記載のベーカリー食品用フィリング。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載のベーカリー食品用フィリングを含有する、ベーカリー食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の(1)及び(2)を達成することのできる、液状油を用いたフィリングを提供することができる。
(1)菓子、パン等のベーカリー食品と複合することが可能な、良好な作業性を有する。
(2)液状油が有する風味を十分に感じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例で製造したベーカリー食品用フィリングEx-1-1、Ex-2-1、及びEx-2-2の25℃における貯蔵弾性率に係るプロット図(横軸:加えたせん断応力τ[Pa]、縦軸:貯蔵弾性率G’[Pa])である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要素を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0017】
[ベーカリー食品用フィリング]
本発明のベーカリー食品用フィリングは、20℃で液体である油脂(以下、単に「液状油」とも記載する)及び油脂ゲル化剤を含む油ゲル(以下、単に「本発明の油ゲル」と記載する)を含有し、におい識別装置の基準モードで測定したエステル系の臭気寄与を示す数値が5以上であり、有機酸系の臭気寄与を示す数値が15以上であることを特徴とする。
【0018】
以下、まず、本発明のベーカリー食品用フィリングが含有する油ゲルについて述べた後、本発明のベーカリー食品用フィリングについてさらに詳述する。
【0019】
<<油ゲルについて>>
油ゲルは、油脂と油脂ゲル化剤を少なくとも含有し、ベーカリー食品用フィリングの主成分である。
【0020】
<油ゲルに用いられる油脂>
本発明で用いる油ゲルは油脂を含有する。
【0021】
油ゲルに含有することができる油脂は、食用の油脂であれば特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、胡麻油、アボガド油、カカオ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油、バター、バターオイル等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1つ又は2つ以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。上記の油脂を1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本発明で用いる油ゲルは20℃で液体である油脂を含有する。
【0022】
油ゲルに含有される20℃で液体である油脂としては、例えば、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、胡麻油、アボガド油等の液状油、20℃で固体である油脂の分別軟部油が挙げられる。油ゲルに好ましく用いることができる、20℃で固体である油脂の分別軟部油としては、例えばパーム油、シア脂、カカオ脂、乳脂、豚脂等の油脂の分別軟部油が挙げられ、分別軟部油は一段分別だけでなく、多段分別(例えばいわゆるダブルオレイン)も用いることができる。
なお、食材の風味・香味を20℃で液体である油脂に移行させた、いわゆる風味油を、20℃で液体である油脂として油ゲルに含有させることもできる。
20℃で液体である油脂としては、上記の油脂を1種単独で用いてもよく、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
油脂の風味をベーカリー食品に付与する観点、及び、後述するにおい識別装置の基準モードで測定した際の臭気寄与を好ましく満たす観点から、油ゲルに好ましく用いられる20℃で液体である油脂としては、単独で喫食しても風味が感じられる油脂が好ましい。例えば、液状油であれば米油、ヒマワリ油、オリーブ油、胡麻油、アボガド油を、20℃で固体である油脂の分別軟部油であれば、カカオ脂、乳脂、豚脂の分別軟部油を用いることが好ましいが、より好ましくはオリーブ油、胡麻油、アボガド油、乳脂の分別軟部油、豚脂の分別軟部油が用いられ、さらに好ましくは、オリーブ油が用いられる。
【0024】
本発明で用いる油ゲル中の、20℃で液体である油脂の含有量は、油ゲル中、70質量%以上であることが好ましく、82質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることがさらに好ましい。上限は、通常、98質量%以下である。したがって、一実施形態において、20℃で液体である油脂の含有量は、油ゲル中、70~98質量%であることが好ましく、82~98質量%であることがより好ましく、92~98質量%であることがさらに好ましい。油ゲル中の、20℃で液体である油脂の含有量が上記数値範囲を満たすことにより、得られるベーカリー食品用フィリングは、液状油が有する好ましい風味を十分に発揮することができる。
【0025】
また、20℃で液体である油脂以外の油脂の含有量は、油ゲル中、20質量%以下であることが好ましく、14質量%以下であることがより好ましく、7質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、通常、0質量%以上である。
【0026】
なお、本発明における、「20℃で液体である油脂」とは、以下の条件(1)及び(2)のいずれか1つ以上を満たす油脂を指す。
条件(1)上昇融点が20℃以下である油脂
条件(2)20℃におけるSFC(Solid Fat Contents、固体脂含量)が10%以下である油脂
【0027】
本発明において上昇融点は日本油化学会制定の基準油脂分析試験法に記載の方法により測定することができる。
【0028】
また、SFCは常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。
即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。以下、本発明におけるSFCの測定について同様である。
【0029】
本発明において、20℃で液体である油脂の酸価は特に限定されないが、通常、4.0以下であり、3.5以下であることが好ましく、3.2以下であることがより好ましい。これにより、液状油が有する好ましい風味を十分に発揮することができる。
【0030】
油脂の酸価とは、油脂1g中に存在する遊離脂肪酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)である。油脂の酸価は、例えば、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(2013年版)2.3.1-2013に示された手法により測定することができる。
【0031】
<油ゲルに含有される油脂ゲル化剤>
本発明で用いる油ゲルは油脂ゲル化剤を含有する。
【0032】
油ゲルに含有される油脂ゲル化剤は、特に限定されず、油脂をゲル化させる能力を有する既存の公知物質を1つ又は2つ以上用いることができる。これらのうち、後述する25℃における貯蔵弾性率を好ましく満たす観点から、レシチン(例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン)、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノエステル、プロピレングリコールジエステル、ステロール類、及びワックス類からなる群から選択されるいずれか1つ以上を用いることが好ましい。なお、これらを含有する市販品(例えば油脂ゲル化剤製剤)を用いることも勿論できる。
【0033】
ここで、油ゲルに含有させる油脂ゲル化剤として、少量で効率よくゲル化させることができる点から、とりわけポリグリセリン脂肪酸エステルを含有させることが好ましい。より好ましくはエステル化度が70%以上、平均重合度が10量体以上、脂肪酸組成における炭素数16~18の脂肪酸の割合が45%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。この条件を好ましく満たす市販品としては、例えば「TAISET AD」(太陽化学社製)が挙げられる。
【0034】
本発明で用いる油ゲルに含有される油脂ゲル化剤の量は、後述するにおい識別装置の基準モードで測定される臭気寄与を示す数値の範囲を満たす範囲で任意に設定することができる。油脂の風味の発現性とフィリングとしての適当な流動性及び固さを適当なものとする観点から、油脂ゲル化剤の量は、油ゲル中、1.5質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、2.5質量%以上であることがさらに好ましく、その上限は、7.3質量%以下又は6.5質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、5.5質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、油脂ゲル化剤の量は、油ゲル中、1.5~7.3質量%又は1.5~6.5質量%であることが好ましく、2.0~6.0質量%であることがより好ましく、2.5~5.5質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
<油ゲルに含有しうるその他成分>
本発明で用いる油ゲルに含有させることができるその他の成分(以下、単に「その他成分」とも記載する)としては、例えば、水、油脂ゲル化剤に該当しない乳化剤、増粘安定剤、糖類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白、大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、デキストリン類、着香料、上記以外の乳又は乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、酵素、有機塩、無機塩、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、食品添加物が挙げられる。
【0036】
上記増粘安定剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、この中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。その含有量は0~0.1質量%とすることが好ましい。これにより、油脂の風味発現の阻害を抑制できる。
【0037】
本発明で用いる油ゲルに含有されるその他成分の量は、油脂の風味を損ねたり、その発現を阻害したり、ゲル強度に影響したりしない範囲で任意であるが、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。下限は、通常、0質量%以上である。すなわち本発明の油ゲルは20℃で液体である油脂と油脂ゲル化剤から実質的になってよく(その成分3質量%以下)、好適には20℃で液体である油脂と油脂ゲル化剤のみからなってもよい。
【0038】
<油ゲルの形態>
本発明で用いる油ゲルは、上記のとおり20℃で液体である油脂及び油脂ゲル化剤を含むものであるが、油脂自体の風味の発現の観点から、水中油型乳化物、油中水型乳化物等の、水相を含む乳化物でないことが好ましい。
【0039】
油ゲルが水相を含む乳化物でないことにより、本発明の課題を好ましく解決することができる理由は現段階では不明であるが、(1)水相の存在により、喫食した際に油脂自体の風味が薄れることがある、(2)乳化物において安定な乳化構造が形成されることにより、風味発現性が低くなることがある、といった2点を解消できるためと考えている。
【0040】
<油ゲルの製造方法>
本発明で用いる油ゲルの製造方法について述べる。
【0041】
本発明で用いる油ゲルは、上記の20℃で液体である油脂を、40℃超に加熱してから、任意の油脂ゲル化剤を添加し、必要に応じてその他成分を添加し、撹拌等により混合して、油脂中に分散又は溶解させ、冷却することにより得られる。
【0042】
油脂の加熱温度は、油脂ゲル化剤の融点等によっても異なるが、50~85℃となるまで加熱することが好ましく、50~80℃となるまで加熱することがより好ましく、50~75℃となるまで加熱することがさらに好ましい。これにより、油脂ゲル化剤を油脂中に均一に分散させることができる。
なお、油脂ゲル化剤は油脂の加熱前に添加してもよく、油脂の加熱途中の任意の時点で添加してもよく、油脂の加熱後に(例えば、油脂が上記の加熱温度に達した後に)添加してもよいが、油脂ゲル化剤を油脂中に均一に分散させる観点から、油脂の加熱後に添加することが好ましい。
【0043】
なお、油脂ゲル化剤を添加した後は、油脂ゲル化剤が油脂全体に行きわたるように、油脂を加熱しながら、任意の手法で撹拌して、分散させることが好ましい。また、油脂の加熱時間については特に限定されず、油脂ゲル化剤を均一に分散させた後は、加熱を止めて、冷却に移行してもよい。
【0044】
油ゲルを得る際の冷却は、徐冷(平均冷却速度が0.5℃/秒以下の冷却速度)であってもよく、急冷(平均冷却速度が0.5℃/秒超)であってもよい。冷却の際、油脂ゲル化剤の偏在が起こらないように撹拌しながら冷却することが好ましい。
油ゲルを冷却する際の最終温度は、特に限定されないが、通常、15~35℃であり、18~32℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。
【0045】
本発明で用いる油ゲルは上記のようにして得ることができる。ゲル化の状態を確認する方法としては、簡便な方法として、例えば油脂と油脂ゲル化剤の混合物をビーカー等の容器にとり、これを50~85℃に加熱し、撹拌混合した後冷却して得られたものを、容器を傾ける等して、その流動性等の物性を目視で確認する方法が挙げられる。
【0046】
また、油ゲルの製造工程において含気させることにより、その比重を低下させてもよい。本発明のベーカリー食品用フィリングは、例えば0.40~0.87となるように比重を低下させた油ゲルを含有してもよい。
【0047】
油ゲルの比重を低下させる手法としては、例えば、(i)空気、窒素、酸素等の食品に使用することのできるガスを、冷却中、あるいは冷却後の油ゲル中に注入若しくは混和、あるいはその両方を行うことで、油ゲル中にガスを分散させて比重を調整する手法、(ii)冷却可塑化した油ゲルを泡立て器等でかき混ぜて空気を含気させ、比重を調整する手法が挙げられる。
【0048】
<油ゲルの含有量及びその他原材料について>
本発明のベーカリー食品用フィリング中における、油ゲルの含有量及びその他原材料について述べる。
【0049】
本発明のベーカリー食品用フィリングは、油脂自体の風味を付与するという観点から、上記の油ゲルを好ましくは80質量%以上含有し、より好ましくは87質量%以上含有し、さらに好ましくは95質量%以上含有する。上限は、通常100質量%以下である。
【0050】
本発明のベーカリー食品用フィリングは、油ゲルの他、本発明の効果を損ねない範囲で任意のその他原材料を選択して含有することができる。その他原材料としては、例えば、食用油脂、水、油脂ゲル化剤に該当しない乳化剤、糖類、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳、蛋白質濃縮ホエイ等の乳又は乳製品、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白・大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、増粘多糖類、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、食品添加物が挙げられる。
【0051】
その他原材料である食用油脂としては、特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、胡麻油、カカオ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油、バター、バターオイル等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1つ又は2つ以上の処理を施した加工油脂等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0052】
本発明のベーカリー食品用フィリングにおける油脂の含有量は、油ゲル中の油脂も考慮して、70質量%であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、92質量%以上であることがさらに好ましく、上限は98質量%である。
【0053】
なお、その他原材料としての食用油脂の含有量は、本発明のベーカリー食品用フィリング中、10質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、通常、0質量%以上である。
【0054】
また、後述するとおり、本発明のベーカリー食品用フィリングは乳化物でないことが好ましいため、その他原材料として水又は水を含有する原材料の含有量は少ないほうが好ましい。具体的には、本発明のベーカリー食品用フィリング中の水の含有量は、水を含有する原材料中の水分も考慮して、7質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、通常、0質量%以上である。
【0055】
本発明のベーカリー食品用フィリング中のその他原材料の含有量は、本発明の効果を損ねない範囲で任意であるが、20質量%以下であることが好ましく、12質量%以下又は10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下又は1質量%以下であることがさらに好ましい。下限は、通常、0質量%以上である。
【0056】
したがって、好適な一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングは、油ゲルから実質的になり(その他原材料5質量%以下)、より好適には油ゲルのみからなる。
【0057】
<本発明のベーカリー食品用フィリングの形態>
本発明のベーカリー食品用フィリングの形態は、乳化物とすることもでき、水分を実質的に含まない油相のみからなる(すなわち乳化物ではない)こともできる。乳化物である場合には、連続相が油相であることが好ましい。
【0058】
本発明のベーカリー食品用フィリングは、水分を実質的に含まない油相のみからなるか、連続相が油相である乳化物であることが好ましく、水分を実質的に含まない油相のみからなることがより好ましい。なお、本発明において「水分を実質的に含まない」とは、本発明のベーカリー食品用フィリング中の水分が1質量%以下であることを指す。
【0059】
本発明のベーカリー食品用フィリングが水分を実質的に含まない油相のみからなることにより、本発明の課題をとりわけ好ましく解決することができる理由は現段階では不明であるが、水相の存在による、喫食した際に油脂自体の風味が感じられにくくなる、薄れる等の風味への影響を抑制できるためであると考えている。
【0060】
<本発明のベーカリー食品用フィリングの臭気寄与について>
次に、本発明のベーカリー食品用フィリングの臭気寄与について述べる。
【0061】
本発明のベーカリー食品用フィリングは、におい識別装置の基準モードで測定したエステル系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「エステル系の臭気寄与」と記載する)が5以上であり、有機酸系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「有機酸系の臭気寄与」と記載する)が15以上である。
【0062】
本発明に用いられるにおい識別装置とは、測定するにおい成分を直接センサーで検出若しくは一度捕集管内の捕集剤に吸着捕集した後、あらためて捕集管を加熱し、吸着捕集された捕集成分を脱離させ、同一又は複数の動作原理の単数又は複数のセンサーを内蔵したセンサーユニットによってにおい成分を検出し、主成分分析(PCA)等の分析によってにおいの質とにおいの強さを判定できる機器である。斯かる装置としては、例えば、島津製作所製のにおい識別装置FF-2A、FF-2020S等の装置が挙げられる。なお、におい識別装置の基準モードで測定した臭気寄与とは、におい識別装置にあらかじめ設定されている各系統の臭いの強さを臭気指数相当値で示した値である。例えば、上記におい識別装置FF-2020Sでは、エステル系、有機酸系のほか、硫黄系、硫化水素、アンモニア、アミン系、アルデヒド系、芳香族系、炭化水素系を合わせた9系統があらかじめ設定されている。
【0063】
油脂自体の風味が強く感じられるフィリングを得る観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際のエステル系の臭気寄与は、通常、5以上であり、好ましくは8以上であり、より好ましくは11以上であり、さらに好ましくは13以上、又は14以上であり、その上限は30以下であることが好ましく、28以下であることが好ましく、25以下、または19以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングのエステル系の臭気寄与は、好ましくは5~30、又は8~30であり、より好ましくは11~28であり、さらに好ましくは13~25、又は13~19である。
【0064】
また、本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際の有機酸系の臭気寄与は、通常、15以上であり、好ましくは18以上であり、より好ましくは21以上であり、さらに好ましくは24以上であり、その上限は42以下であることが好ましく、39以下であることがより好ましく、36以下、又は30以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングの有機酸系の臭気寄与は、好ましくは15~42、又は18~42であり、より好ましくは21~39であり、さらに好ましくは24~36、又は24~30である。
【0065】
同様の観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際の硫黄系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「硫黄系の臭気寄与」と記載する)は好ましくは5以上、又は8以上であり、より好ましくは11以上であり、さらに好ましくは14以上、又は15以上であり、その上限は30以下であることが好ましく、28以下であることがより好ましく、25以下、又は20以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングの硫黄系の臭気寄与は、好ましくは5~30、又は8~28であり、より好ましくは11~25であり、さらに好ましくは14~25、又は15~20である。
【0066】
本発明のベーカリー食品用フィリングのエステル系の臭気寄与が5以上であり、有機酸系の臭気寄与が15以上であること、好ましくはさらに硫黄系の臭気寄与が5以上であることで、菓子、パン等のベーカリー食品と複合した際にも、油脂自体の風味を十分感じることができるベーカリー食品用フィリングとなる。
【0067】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際の硫化水素の臭気寄与を示す数値(以下、単に「硫化水素の臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。上限は、好ましくは30以下、より好ましくは27以下、さらに好ましくは25以下、20以下又は18以下である。
【0068】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際のアンモニアの臭気寄与を示す数値(以下、単に「アンモニアの臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下、又は3以下である。下限は、好ましくは-5以上、より好ましくは-4以上、さらに好ましくは-3以上である。
【0069】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際のアミン系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「アミン系の臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上、又は14以上である。上限は、好ましくは25以下、より好ましくは22以下、さらに好ましくは20以下、又は18以下である。
【0070】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際のアルデヒド系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「アルデヒド系の臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上である。上限は、好ましくは30以下、より好ましくは27以下、さらに好ましくは25以下、又は21以下である。
【0071】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際の芳香族系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「芳香族系の臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは-5以上、より好ましくは0以上、さらに好ましくは10以上である。上限は、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下である。
【0072】
本発明のベーカリー食品用フィリングをにおい識別装置の基準モードで測定した際の炭化水素系の臭気寄与を示す数値(以下、単に「炭化水素系の臭気寄与」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは-3以上、より好ましくは0以上、さらに好ましくは5以上である。上限は、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下、又は10以下である。
【0073】
なお、本発明のベーカリー食品用フィリングのにおい識別装置の基準モードでの臭気寄与の測定値は、本発明に用いられる20℃で液体である油脂のにおい識別装置の基準モードでの臭気寄与の測定値をそのまま用いる。
【0074】
いっそう顕著に本発明の効果を得る観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングは、におい識別装置の基準モードで測定した硫化水素、硫黄系、アンモニア、アミン系、有機酸系、アルデヒド系、エステル系、芳香族系、及び炭化水素系の臭気寄与を示す各数値が、以下の範囲であると、さらにより好ましい。
硫化水素:12~25、中でも12~18
硫黄系:15~23
アンモニア:5以下、中でも3以下
アミン系:14~18
有機酸系:24~36、中でも24~30
アルデヒド系:15~25、中でも15~21
エステル系:13~25、中でも13~19
芳香族系:10~15
炭化水素系:5~15、中でも5~10
【0075】
なお、エステル系の臭気寄与が5以上であり、有機酸系の臭気寄与が15以上であり、好ましくはさらにその他の臭気寄与が上記範囲を満たすようなベーカリー食品用フィリングとするためには、油ゲルを製造する際に、例えば、(1)エステル系の臭気寄与が5以上であり、有機酸系の臭気寄与が15以上である油脂(具体的には20℃で液体である油脂を含む油脂混合物)を用いる方法、(2)加熱等により酸価を3以上とした酸化油脂、又は、加水分解により酸価を3以上とした油脂分解物を、油ゲルを製造する際に用いる油脂に添加して上記範囲内とする方法を採用してよいが、簡便である(1)がより優位に採用される。
【0076】
<本発明のベーカリー食品用フィリングのにおいの質(類似度)について>
次に、本発明のベーカリー食品用フィリングのにおいの質(類似度)について述べる。
【0077】
においの質は、におい識別装置による分析による類似度により評価される。9種類(硫化水素、硫黄系(ジメチルジスルフィド)、アンモニア、アミン系(トリメチルアミン)、有機酸系(プロピオン酸)、アルデヒド系(ブチルアルデヒド)、エステル系(酢酸ブチル)、芳香族系(トルエン)、炭化水素系(ヘプタン))の基準ガスのにおいの質との類似性を「%」で表示したものである。
【0078】
油脂自体の風味が強く感じられるフィリングを得る観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングは、におい識別装置の基準モードで測定したアンモニア臭気との類似度(以下、単に「アンモニア臭気との類似度」と記載する)が好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。下限は、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。
【0079】
また、同様の観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングの有機酸系臭気との類似度(以下、単に「有機酸系臭気との類似度」と記載する)が好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは65%以上である。上限は、好ましくは90%以下であり、より好ましくは88%以下であり、さらに好ましくは86%以下である。
【0080】
なお、本発明のベーカリー食品用フィリングのにおい識別装置の基準モードでの類似度は、本発明に用いられる20℃で液体である油脂のにおい識別装置の基準モードでの類似度の測定値をそのまま用いる。
【0081】
アンモニア臭気との類似度や有機酸系臭気との類似度がそれぞれ上記範囲を満たすことで、良好な味質のベーカリー食品用フィリングを得ることができる。
【0082】
上記のアンモニア臭気との類似度に係る要件と有機酸系臭気との類似度に係る要件は、好ましくはいずれか一方を満たし、より好ましくはアンモニア臭気との類似度に係る要件を満たし、さらに好ましくはアンモニア臭気との類似度と有機酸系臭気との類似度に係る要件の双方を満たす。
【0083】
本発明のベーカリー食品用フィリングは、におい識別装置の基準モードで測定した硫化水素臭気との類似度(以下、単に「硫化水素臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以下、より好ましくは45%、さらに好ましくは40%以下である。下限は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは8%以上である。
【0084】
本発明のベーカリー食品用フィリングのにおい識別装置の基準モードで測定した硫黄系臭気との類似度(以下、単に「硫黄系臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下である。下限は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。
【0085】
本発明のベーカリー食品用フィリングのにおい識別装置の基準モードで測定したアミン系臭気との類似度(以下、単に「アミン系臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは20%以下である。下限は、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは7%以上である。
【0086】
本発明のベーカリー食品用フィリングのにおい識別装置の基準モードで測定したアルデヒド系臭気との類似度(以下、単に「アルデヒド系臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、さらに好ましくは70%以下である。下限は、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは55%以上である。
【0087】
本発明のベーカリー食品用フィリングのエステル系臭気との類似度(以下、単に「エステル系臭気との類似度」と記載する)は、好ましくは75%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは65%以下である。下限は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0088】
本発明のベーカリー食品用フィリングの芳香族系臭気との類似度(以下、単に「芳香族系臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは60%以下、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは52%以下である。下限は、好ましくは20%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは28%以上である。
【0089】
本発明のベーカリー食品用フィリングの炭化水素系臭気との類似度(以下、単に「炭化水素系臭気との類似度」と記載する)は、特に限定されるものではないが、好ましくは50%以下、より好ましくは45%以下、さらに好ましくは40%以下である。下限は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上である。
【0090】
ベーカリー食品用フィリングの、各種臭気との類似度を調整する方法としては、例えば、(1)各種臭気との類似度を満たす油脂(又は油脂混合物)を用いる方法、(2)加熱等により酸価を3以上とした酸化油脂、又は、加水分解により酸価を3以上とした油脂分解物を、油ゲルを製造する際に用いる油脂に添加して上記範囲内とする方法が挙げられるが、簡便である(1)がより優位に採用される。
【0091】
<本発明のベーカリー食品用フィリングの貯蔵弾性率について>
次に、本発明のベーカリー食品用フィリングの貯蔵弾性率について述べる。
【0092】
本発明のベーカリー食品用フィリングに含有される油ゲルの調製に用いる油脂の種類、又は、油脂ゲル化剤の種類によっても異なるが、本発明のベーカリー食品用フィリングの貯蔵弾性率は、測定温度25℃で、加える剪断応力が100Pa以下の時の貯蔵弾性率(G’)(以下、単に「25℃における貯蔵弾性率」と記載する)が400~100000Paであることが好ましい。
【0093】
よりベーカリー食品との複合のしやすさ、及び取扱いのしやすさを高めたり、より風味発現性を高めたりする観点から、本発明のベーカリー食品用フィリングの25℃における貯蔵弾性率は400Pa以上又は500Pa以上であることが好ましく、1000Pa以上又は1500Pa以上であることがより好ましく、10000Pa以上であることがさらに好ましく、30000Pa以上であることがさらにより好ましい。上限は、120000Pa以下であってよく、100000Pa以下であることが好ましく、80000Pa以下であることがより好ましく、70000Pa以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングの25℃における貯蔵弾性率は400~100000Pa、500~100000Pa又は1500Pa~100000Paであることがより好ましく、10000~80000Paであることがさらに好ましく、30000~70000Paであることがさらにより好ましい。
【0094】
本発明のベーカリー食品用フィリングの、25℃における貯蔵弾性率が上記の範囲内であることにより、本発明のベーカリー食品用フィリングの硬さが、後述するベーカリー食品の製造における包餡、注入、又はトッピングを行う際に適度なものとなりやすく、ベーカリー食品との複合、及び、取扱いが向上しやすい。また、本発明のベーカリー食品用フィリングを喫食した際の、油脂自体の風味の発現性が向上しやすい。
【0095】
また、さらに剪断応力を加えて25℃における貯蔵弾性率が0.1Pa以下に達するまで測定を継続し、測定終了後、そのまま10分放置し、同じサンプルに対して、再度測定された25℃における貯蔵弾性率(以下、単に「再測された25℃における貯蔵弾性率」と記載する)は、1000Pa以上であることが好ましく、13000Pa以上又は16000Pa以上であることがより好ましく、19000Pa以上、19500Pa以上又は20000Pa以上であることがさらに好ましく、その上限は、100000Pa以下であることが好ましく、40000Pa以下であることがより好ましく、30000Pa以下であることがさらに好ましい。一実施形態において、本発明のベーカリー食品用フィリングの再測された25℃における貯蔵弾性率は、1000~100000Paであることが好ましく、13000~40000Pa又は16000~30000Paであることがより好ましく、19000~30000Pa又は20000~30000Paであることがさらに好ましい。
【0096】
本発明のベーカリー食品用フィリングの、再測された25℃における貯蔵弾性率が上記範囲内であることにより、後述するベーカリー食品の製造における包餡(本発明においては注入を含む)、又はトッピングを行った後に、本発明のベーカリー食品用フィリングが流れ出たり、ベーカリー生地に染み込んだりするのを防ぐことができ、従来困難であった、液状油の風味を活かしたベーカリー食品の製造が容易になる。また、包餡を行った際に、ベーカリー生地のホイロの時点で溶出しにくくなる。
【0097】
本発明のベーカリー食品用フィリングの25℃における貯蔵弾性率の値は、例えばThermoScientific社製の粘度・粘弾性測定装置「HAAKE MARS」によって、半径17.5mmの円盤型プランジャーを使用し、ギャップ1mm、サンプル量1mL、測定温度25℃の測定条件で、測定することにより得ることができる。
【0098】
<本発明のベーカリー食品用フィリングの製造方法について>
本発明のベーカリー食品用フィリングの製造方法について述べる。
【0099】
本発明のベーカリー食品用フィリングが乳化物でない場合には、事前に調製した油ゲルに、必要に応じて上記のその他原材料を含有させて混合することにより製造できる。
【0100】
本発明のベーカリー食品用フィリングが乳化物である場合には、事前に調製した油ゲルに対して、必要に応じて上記のその他原材料のうち食用油脂又は油溶性の原材料をさらに加えたものを油相とし、水相を混合し、乳化することにより製造できる。水相は、別途水又は水を多く含有する原材料(例えば乳、植物乳)に対して、必要に応じて水溶性の原材料をさらに加えて調製できる。本発明のベーカリー食品用フィリングが水中油型乳化物である場合には水中油型に、本発明のベーカリー食品用フィリングが油中水型乳化物である場合には油中水型に乳化させればよい。
【0101】
本発明のベーカリー食品用フィリングが乳化物であってもなくても、必要により、バルブ式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル等の均質化装置により、圧力0~100MPaの範囲で均質化してもよい。また、必要によりインジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、或いはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・低温殺菌、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌又は加熱殺菌処理を施してもよく、或いは直火等の加熱調理により加熱してもよい。また、加熱後に必要に応じて再度均質化してもよい。また、必要により急速冷却、徐冷却等の冷却操作を施してもよい。
【0102】
本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、より好ましくは-5℃/分以上である。冷却に用いる機器としては、例えば、密閉型連続式チューブ冷却機、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機又はプレート型熱交換機が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせが挙げられる。冷却による到達温度は特に限定されないが、好ましくは0~40℃、より好ましくは2~35℃、更に好ましくは3~30℃まで冷却される。
【0103】
<本発明のベーカリー食品用フィリングの用途>
本発明のベーカリー食品用フィリングの用途としては、例えば、包餡用、サンド用、トッピング用、コーティング用等が挙げられるが、従前検討されてきた液状油を多く含むフィリングによっては特に達成することが難しかった包餡用、サンド用、又はトッピング用として好ましく用いられる。なお、従前困難であった「液状油の風味を菓子、パン等のベーカリー食品に付与する」という観点からは、包餡用、サンド用としてより好ましく用いられ、包餡用として更に好ましく用いられる。
【0104】
本発明のベーカリー食品用フィリングを適用することができるベーカリー食品としては、特に限定されず、例えば、食パン、菓子パン、バターロール、バラエティブレッド、フランスパン、デニッシュ等のパン類、パイ、ペストリー、パウンドケーキ、スポンジケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャクッキー、ビスケット等のクッキー、ワッフル、スコーン等の菓子類を挙げることができる。
【0105】
また、上記用途における本発明のベーカリー食品用フィリングの使用量は、各用途、又はベーカリー食品の種類により異なり、特に制限されるものではないが、例えばベーカリー食品100質量部に対して、本発明のベーカリー食品用フィリングを5~200質量部使用してよい。
【実施例0106】
以下、本発明を、実施例に基づきさらに詳述する。
【0107】
<臭気寄与、類似度、25℃における貯蔵弾性率、再測された25℃における貯蔵弾性率の測定条件について>
臭気寄与、類似度、25℃における貯蔵弾性率、再測された25℃における貯蔵弾性率の測定条件は、以下に示す機器や測定条件により測定を行った。
【0108】
(臭気寄与、類似度について)
臭気寄与、類似度の測定には、島津製作所製のにおい識別装置「FF-2020Sシステム」を使用した。測定条件は基準モードとし、香気収集の条件はサンプルバッグ容量が2L、サンプル量が各5g、収集時保管温度を25℃、収集時保管時間を3時間とした。
また、測定に用いた基準ガスは以下の通りである。
・硫化水素:硫化水素
・硫黄系:ジメチルジスルフィド
・アンモニア:アンモニア
・アミン系:トリメチルアミン
・有機酸系:プロピオン酸
・アルデヒド系:ブチルアルデヒド
・エステル系:酢酸ブチル
・芳香族系:トルエン
・炭化水素系:ヘプタン
【0109】
(25℃における貯蔵弾性率、及び再測された25℃における貯蔵弾性率について)
各サンプル(調製後、常温で24時間放置したもの)の25℃における貯蔵弾性率を測定した。測定は、貯蔵弾性率が0.1Pa以下となるまで行った。測定終了後、10分放置した後、同じサンプルに対し、25℃における貯蔵弾性率を再度測定した。
25℃における貯蔵弾性率、及び再測された25℃における貯蔵弾性率の測定には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のHAAKE MARS IIIを使用し、半径17.5mmの円盤型プランジャーを使用し、ギャップ1mm、サンプル量1mL、測定温度25℃の測定条件で、測定した。なお、温度デバイスはMTMC(MARS III)(MARS Temperature Module Controller)であり、センサーはP35 Ti L/TMP35を使用した。
【0110】
測定はいずれもOSC(応力/歪依存)測定を行い、25℃における貯蔵弾性率の測定条件は以下のとおりである。
τ : 10.00 Pa ~ 1.000×104 Pa
f : 1.000 Hz
t : ≧96 s
T : 25.00 ℃
【0111】
また、再測された25℃における貯蔵弾性率の測定条件は以下のとおりである。
τ : 10.00 Pa ~ 1.000×104 Pa
f : 1.000 Hz
t : ≧96 s
T : 25.00 ℃
【0112】
なお、25℃における貯蔵弾性率を測定した後、再測された25℃における貯蔵弾性率を測定するまでの間の設定条件は以下のとおりである。
τ : 0.000 Pa
t : 600 s
T : 25.00℃
ノーマルフォースコントロール:1.000 N
【0113】
<使用した油脂について>
以下の検討で使用した油脂の詳細は以下のとおりである。
ショートニング:パーム分別軟部油(ヨウ素価53、上昇融点39℃)100質量部を溶解して、急冷可塑化して製造されたもの。(酸価0.5)
バター:スイートバター(フォンテラ社製、酸価0.5)
オリーブ油:「トラディショナルエキストラバージンオイル」(OLEIVA社製、酸価1.0)
菜種油:「精製菜種油」(ADEKA社製、酸価0.2)
胡麻油:「純正ごま油」(かどや製油社製、酸価3)
【0114】
なお、オリーブ油、菜種油、及び胡麻油は、20℃におけるSFCが10%以下、上昇融点が20℃以下であり、20℃で液体である油脂に該当する。バター及びショートニングは、20℃におけるSFCが10%超、上昇融点が20℃超であり、20℃で液体である油脂に該当しない。また、検討で用いた油脂について、上記条件で測定した臭気寄与の値及び類似度については、表1に示すとおりである。
【0115】
<使用した油脂ゲル化剤について>
以下の検討では、油脂ゲル化剤として「TAISET AD」(太陽化学社製)を使用した。
【0116】
【0117】
<検討1:臭気寄与及び使用する油脂について>
検討1では、ベーカリー食品用フィリングの風味に対する臭気寄与の影響、及び使用する油脂の種類について検討を行った。
【0118】
(実施例1-1)
60℃まで加熱して溶解させたオリーブ油97質量部に、油脂ゲル化剤を3質量部加えて撹拌混合し、均一に分散したところで加熱を止め、撹拌混合しながら放冷し、品温が25℃となるまで冷却して、油ゲルを調整し、これをそのまま実施例のベーカリー食品用フィリングであるEx-1-1(以下、単に「Ex-1-1」と記載する。以下の比較例及び実施例も同様)として得た。
【0119】
(実施例1-2)
オリーブ油の代わりに胡麻油を用いた他は、実施例1-1と同様に製造し、実施例のベーカリー食品用フィリングであるEx-1-2を得た。
【0120】
(比較例1-1)
オリーブ油の代わりに菜種油を用いた他は、実施例1-1と同様に製造し、比較例のベーカリー食品用フィリングであるCEx-1-1を得た。
【0121】
[評価]
得られたEx-1-1、Ex-1-2、CEx-1-1について、ショートニング、及びバターを対照品として、以下のとおり製パン試験を行い、その包餡適性、包餡後の生地の状況、及び得られたパンの風味について確認した。
なお、ショートニング及びバターについては、事前に25℃となるまで調温したしたものを用いた。評価の結果は、表3に示す。
【0122】
<パンの製法>
表2記載の配合に基づいて以下のとおり、ベーカリー食品であるパンを製造した。
中種生地配合の全原料を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングし、中種生地(捏ね上げ温度26℃)を得た。得られた中種生地は、28℃、相対湿度80%にて2時間の中種発酵を取った。
得られた中種生地並びに本捏生地配合の強力粉、上白糖、食塩、脱脂粉乳、水を、縦型ミキサーにて低速で3分、中速で3分ミキシングした後、本捏生地配合のマーガリンを投入し、更に低速で3分、中速で5分ミキシングし、本捏生地(捏ね上げ温度27℃)を得た。
【0123】
得られた本捏生地は、25分フロアタイムをとり、生地を40gごとに分割した後、30分ベンチタイムを取った。ベンチタイム後、20gずつ上記のEx-1-1、Ex-1-2、CEx-1-1、ショートニング、バターを包餡し、これを天板に乗せ、38℃、相対湿度80%、50分のホイロを行った。
【0124】
なお、上記のEx-1-1、Ex-1-2、CEx-1-1、ショートニング、バターを包餡する際には、丸穴の口金を装着した絞り袋を用いた。
ホイロ後、上火195℃、下火205℃のオーブンで11分焼成して、パンEx-1-1、パンEx-1-2、パンCEx-1-1、Cont.(ショートニング)、Cont.(バター)を得た。
【0125】
なお、製造したパンの附番と、パンの製造に用いたフィリングの附番とは対応するものである。
【0126】
【0127】
<パン生地の評価>
(包餡適性)
各フィリングを、絞り袋を用いて包餡する際の包餡適性について、以下の評価基準に基づいて評価を行った。
++:キレがよく、包餡適性が良い。
+ :包餡適性が良い。
± :やや糸引きがあるが、包餡可能である。
- :糸引きが強く、あるいは緩い物性であり、包餡適性が悪い。
--:物性が固く、あるいは過度に緩く、包餡することが困難である。
【0128】
(包餡後の生地の状況)
ホイロ後のパン生地の様子を目視で観察した。観察した結果を、以下の評価基準に基づいて評価した。
++:油脂の染み出し、及び生地下部の軟化のいずれも確認されない。
+ :わずかに油脂の染み出し、及び生地下部の軟化のいずれかが確認されるが許容範囲内である。
± :わずかに油脂の染み出し、及び生地下部の軟化のいずれもが確認されるが許容範囲内である。
- :油脂の染み出し、及び生地下部の軟化のいずれかが顕著に確認される。
--:油脂の染み出し、及び生地下部の軟化のいずれもが顕著に確認される。
【0129】
<得られたパンの官能評価>
得られたパンEx-1-1、パンEx-1-2、パンCEx-1-1、Cont.(ショートニング)、Cont.(バター)を10人の専門パネラーにより、風味発現性ならびに風味の質について、それぞれ下記評価基準に従って官能評価した。なお、評価に参加したパネラーは、本評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。また風味発現性および風味の質の評価については、10人のパネラーの合計点を評価点数として、結果を下記のようにして表3に示した。
++:42点以上
+ :36~41点
± :30~35点
- :24~29点
--:23点以下
【0130】
(風味発現性)
5点…油脂の風味の発現が良好である。
3点…油脂の風味の発現がやや良好である。
1点…油脂の風味の発現がやや悪い。
0点…油脂の風味の発現が悪い。
【0131】
(風味の質)
5点:味質が、非常に良好である。
3点:味質が、良好である。
1点:僅かに異味・えぐ味が感じられる。
0点:異味・えぐ味が感じられる。
【0132】
【0133】
検討1の結果からは以下の事実及び示唆が得られた。
まず、その種類に拠らず、20℃で液体である油脂を用いて、ベーカリー食品の製造に耐えうるベーカリー食品用フィリングの製造が可能であることが確認された。
また、従前ベーカリー食品用フィリングの製造に用いられてきたショートニング及びバターと比較しても、包餡適性及び包餡後の生地の状況において遜色なく、むしろ包餡しやすいベーカリー食品用フィリングとなっていた。
【0134】
風味の評価をみると、ベーカリー食品用フィリングの製造に用いた、20℃で液体である油脂の種類によっては良好な味質とならないことが知見され、各ベーカリー食品用フィリングの味質と、臭気寄与及び類似度との関係が示唆された。加えて、ベーカリー食品用フィリングに用いた、20℃で液体である油脂自体の風味が弱い場合には、ベーカリー食品用フィリングとした場合にも風味発現性が弱いことが伺われた。
【0135】
これらの結果から、勿論使用する油種によって風味傾向が異なるものの、20℃で液体である油脂を用いた場合であっても、従来ベーカリー食品用フィリングの製造に用いられてきたショートニング及びバターと同等以上の包餡適性等及び風味評価を有するベーカリー食品用フィリングを製造することが可能であることが知見された。
【0136】
<検討2:ベーカリー食品用フィリングの製造に用いられる油脂ゲル化剤の量について>
検討2では、ベーカリー食品用フィリングを製造する際の油脂ゲル化剤の量について検討を行った。
【0137】
(実施例2-1)
オリーブ油の量を97質量部から95質量部とし、油脂ゲル化剤の量を3質量部から5質量部とした他は、実施例1-1と同様に製造し、実施例のベーカリー食品用フィリングであるEx-2-1を得た。
【0138】
(実施例2-2)
オリーブ油の量を97質量部から93質量部とし、油脂ゲル化剤の量を3質量部から7質量部とした他は、実施例1-1と同様に製造し、実施例のベーカリー食品用フィリングであるEx-2-2を得た。
得られたEx-2-1、Ex-2-2について、検討1と同じ手法で評価を行った結果を表4に示す。また、得られたEx-2-1、Ex-2-2、及び上述のEx-1-1について、測定された貯蔵弾性率の値を表5に示すと共に、そのプロット図を
図1に示す。
【0139】
【0140】
【0141】
検討2の結果からは以下の事実及び示唆が得られた。
まず、ベーカリー食品用フィリングの製造に使用される油脂ゲル化剤の量は、包餡適性等の製パン作業性に影響を与えることが知見された。ベーカリー食品用フィリングを製造する際の油脂ゲル化剤の量が7質量部であるEx-2-2を、油脂ゲル化剤の量が5質量部であるEx-2-1と比較すると、25℃における貯蔵弾性率が高いことが見てとれ、このことが包餡適性を低下させる原因になったものと考えられる。
また、Ex-2-2の包餡後の生地の状況が他のベーカリー食品用フィリングを用いた場合と比較して、評価が不良であった。これは、他のベーカリー食品用フィリングと比較して、Ex-2-2の再測された25℃における貯蔵弾性率の値が小さいことに起因するものと考えられる。
これらの結果から、以下のことが推察された。すなわち、本発明のベーカリー食品用フィリングは油脂ゲル化剤の量を適正化することにより、口金又は吐出ノズルを用いてベーカリー食品に対し注入、トッピング等の方法で適用する際には貯蔵弾性率が低下し適当な流動性が得られるために、包餡適性が向上するものと推察された。また、包餡後の静置中に、貯蔵弾性率が戻り、注入、トッピング等の方法で適用により低下したフィリングの「硬さ」が復活するため、油脂の染み出し、及びパン生地への染み込みが抑制され、包餡後の生地の状況の評価が向上するものと推察された。