(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048238
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】発光部品、半導体積層基板、発光装置、および測定装置
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20240401BHJP
H01S 5/42 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01S5/026
H01S5/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154165
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】西崎 早織
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】早川 純一朗
(72)【発明者】
【氏名】井口 大介
(72)【発明者】
【氏名】崎田 智明
(72)【発明者】
【氏名】竹山 慶
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC26
5F173AC35
5F173AC42
5F173AC52
5F173AD04
5F173AD30
5F173AG01
5F173AH22
5F173AP05
5F173AP09
(57)【要約】
【課題】発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくする。
【解決手段】発光部品は、基板と、基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、オン状態になることでそれぞれの発光素子の発光領域を発光させ、または発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタとを備え、発光素子は、複数のサイリスタの間で、サイリスタから出射された光を吸収する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタとを備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
発光部品。
【請求項2】
前記発光素子は、前記サイリスタから出射される光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を有することを特徴とする請求項1に記載の発光部品。
【請求項3】
前記サイリスタは、Alを含む半導体からなるゲート層を含み、
前記発光素子の前記半導体層は、Alを含み且つAlの含有比率が前記ゲート層のAlの含有比率以下であることを特徴とする請求項2に記載の発光部品。
【請求項4】
前記サイリスタの前記ゲート層は、Alの含有比率が30%未満であることを特徴とする請求項3に記載の発光部品。
【請求項5】
前記発光素子の前記半導体層は、λを前記発光領域による発光波長、nを当該半導体層の屈折率とした場合に、厚さが(λ/4n)×0.4以上(λ/4n)×1.2以下であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の発光部品。
【請求項6】
複数の前記サイリスタは、複数の前記発光素子に対して前記基板とは反対側に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の発光部品。
【請求項7】
前記発光素子は、複数の前記サイリスタのうちの一のサイリスタに対応する第1の領域と、当該一のサイリスタと隣接する他のサイリスタに対応する第2の領域とを有し、当該第1の領域と当該第2の領域との少なくとも一部が連続していることを特徴とする請求項6に記載の発光部品。
【請求項8】
前記発光素子は、前記基板上に積層されている下部半導体層と、当該下部半導体層上に積層されている発光層と、当該発光層上に積層されている上部半導体層とを有し、当該上部半導体層と比べて当該下部半導体層のほうが前記サイリスタから出射された光を吸収しやすいことを特徴とする請求項6に記載の発光部品。
【請求項9】
前記発光素子は、発光波長よりも膜厚が厚く、前記サイリスタから出射された光を吸収する吸収層を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光部品。
【請求項10】
基板と、
前記基板上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体と、
前記第1の半導体積層体に積層され、ゲート層を含み、複数のサイリスタに加工される第2の半導体積層体とを備え、
前記第1の半導体積層体は、前記第2の半導体積層体の前記ゲート層と比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含む
半導体積層基板。
【請求項11】
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、
複数の前記サイリスタを個別に駆動してオン状態に移行させる駆動部と
を備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
発光装置。
【請求項12】
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、
複数の前記サイリスタを個別に駆動し、それぞれの前記発光領域を予め定められたタイミングで発光させる駆動部と、
それぞれの前記発光領域からの光が対象物で反射した反射光に基づいて、当該対象物に関する情報を取得する取得部と
を備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光部品、半導体積層基板、発光装置、および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、基板上に設けられた垂直共振器面発光レーザからなる複数の発光素子と、それぞれの発光素子上に積層され、発光素子の駆動に用いられる設定サイリスタとを備える発光部品が開示されている。この発光部品では、設定サイリスタがターンオンすると、設定サイリスタと発光素子との間で電流が流れ、発光素子が発光する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、オン状態になったサイリスタは、光を出射する場合がある。複数のサイリスタを備える発光部品等では、オン状態になった一のサイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播すると、伝播した光によって他のサイリスタがオン状態へ移行する場合がある。この場合、オン状態になった他のサイリスタによって、発光させようとしていない発光素子が発光する場合があり、発光素子の発光を制御することが難しくなる。
本発明は、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、基板と、前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタとを備え、前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する発光部品である。
請求項2に記載の発明は、前記発光素子は、前記サイリスタから出射される光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を有することを特徴とする請求項1に記載の発光部品である。
請求項3に記載の発明は、前記サイリスタは、Alを含む半導体からなるゲート層を含み、前記発光素子の前記半導体層は、Alを含み且つAlの含有比率が前記ゲート層のAlの含有比率以下であることを特徴とする請求項2に記載の発光部品である。
請求項4に記載の発明は、前記サイリスタの前記ゲート層は、Alの含有比率が30%未満であることを特徴とする請求項3に記載の発光部品である。
請求項5に記載の発明は、前記発光素子の前記半導体層は、λを前記発光領域による発光波長、nを当該半導体層の屈折率とした場合に、厚さが(λ/4n)×0.4以上(λ/4n)×1.2以下であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載の発光部品である。
請求項6に記載の発明は、複数の前記サイリスタは、複数の前記発光素子に対して前記基板とは反対側に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の発光部品である。
請求項7に記載の発明は、前記発光素子は、複数の前記サイリスタのうちの一のサイリスタに対応する第1の領域と、当該一のサイリスタと隣接する他のサイリスタに対応する第2の領域とを有し、当該第1の領域と当該第2の領域との少なくとも一部が連続していることを特徴とする請求項6に記載の発光部品である。
請求項8に記載の発明は、前記発光素子は、前記基板上に積層されている下部半導体層と、当該下部半導体層上に積層されている発光層と、当該発光層上に積層されている上部半導体層とを有し、当該上部半導体層と比べて当該下部半導体層のほうが前記サイリスタから出射された光を吸収しやすいことを特徴とする請求項6に記載の発光部品である。
請求項9に記載の発明は、前記発光素子は、発光波長よりも膜厚が厚く、前記サイリスタから出射された光を吸収する吸収層を含むことを特徴とする請求項1に記載の発光部品である。
請求項10に記載の発明は、基板と、前記基板上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体と、前記第1の半導体積層体に積層され、ゲート層を含み、複数のサイリスタに加工される第2の半導体積層体とを備え、前記第1の半導体積層体は、前記第2の半導体積層体の前記ゲート層と比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含む半導体積層基板である。
請求項11に記載の発明は、基板と、前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、複数の前記サイリスタを個別に駆動してオン状態に移行させる駆動部とを備え、前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する発光装置である。
請求項12に記載の発明は、基板と、前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、複数の前記サイリスタを個別に駆動し、それぞれの前記発光領域を予め定められたタイミングで発光させる駆動部と、それぞれの前記発光領域からの光が対象物で反射した反射光に基づいて、当該対象物に関する情報を取得する取得部とを備え、前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する測定装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1、5、6、10~12の発明によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
請求項2の発明によれば、サイリスタから出射される光と比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含まない場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
請求項3の発明によれば、半導体層が、ゲート層よりもAlの含有比率が大きい半導体からなる場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
請求項4の発明によれば、ゲート層におけるAlの含有比率が30%以上である場合と比べて、サイリスタの特性の低下を抑制できる。
請求項7の発明によれば、発光素子がサイリスタから出射された光を吸収しない場合と比べて、第1の領域と第2の領域とが連続している部分を介して、一のサイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播しにくくなる。
請求項8の発明によれば、下部半導体層と比べて上部半導体層が光を吸収しやすい場合と比べて、サイリスタからの光を吸収して生じる熱による発光層への影響を小さくすることができる。
請求項9の発明によれば、発光素子が吸収層を含まない場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態が適用される計測装置の一例を示す図である。
【
図2】本実施形態が適用される光源装置を説明する図である。
【
図3】(a)~(b)は、本実施形態が適用される発光チップの平面レイアウト図および断面図の一例である。
【
図4】VCSELと設定サイリスタとが積層されたアイランドの拡大断面図の一例である。
【
図5】光源装置及び発光チップの動作の一例を説明するタイミングチャートである。
【
図6】設定サイリスタから出射された光をVCSELが吸収しない場合に、設定サイリスタから出射された光の挙動の一例を説明する図である。
【
図7】本実施形態が適用される発光チップにおいて、設定サイリスタから出射された光の挙動の一例を説明する図である。
【
図8】実施形態2が適用される発光チップを説明する図であり、VCSELと設定サイリスタとが積層されたアイランドの拡大断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここでは、発光部品の一例である発光チップ10を含む光源装置1を、一例として、被計測物の三次元形状(以下では、3D形状と表記する。)を計測する計測装置に適用する場合を説明する。
【0009】
[実施形態1]
(計測装置100)
図1は、本実施形態が適用される計測装置100の一例を示す図である。
本実施形態の計測装置100は、被計測物の三次元形状(以下では、3D形状と表記する。)を計測する。計測装置100は、光の飛行時間による、いわゆるToF(Time of Flight)法に基づいて、3D形状を計測する装置である。計測装置100は、発光チップ10と制御部110とを備える発光装置の一例としての光源装置1と、三次元センサ(以下では、3Dセンサと表記する。)5とを備える。ToF法では、光源装置1から光が出射されたタイミングから被計測物で反射して3Dセンサ5が受光するタイミングまでの時間を計測する。そして、3Dセンサ5から取得される時間から、被計測物までの距離が算出され、被計測物の3D形状が特定される。また、3D形状を計測することを、三次元計測、3D計測又は3Dセンシングと表記することがある。
【0010】
光源装置1は、被計測物に向けて光を出射する。3Dセンサ5は、被計測物で反射されて戻ってきた光(反射光)を取得する。3Dセンサ5は、ToF法により計測した、出射されてから反射光を受光するまでの時間に基づいた被計測物までの距離に関する情報(距離情報)を出力する。なお、計測装置100には、計測制御部200を含んでもよい。計測制御部200は、CPU、ROM、RAMなどを含むコンピュータとして構成され、3Dセンサ5から取得した距離情報に基づいて、被計測物の3D形状を特定する。
【0011】
また、計測装置100は、特定された3D形状から被計測物を認識することに適用できる。例えば、計測装置100は、携帯型情報処理装置などに搭載され、アクセスしようとするユーザの顔の認識などに利用される。つまり、アクセスしたユーザの顔の3D形状を取得し、アクセスすることが許可されているか否かを識別し、アクセスが許可されているユーザであると認識された場合にのみ、自装置(携帯型情報処理装置)の使用を許可する。
また、計測装置100は、拡張現実(AR:Augmented Reality)など、継続的に被計測物の3D形状を計測する場合にも適用できる。
【0012】
(光源装置1)
図2は、本実施形態が適用される光源装置1を説明する図である。
図2において、紙面の右方向を+x方向とする。なお、
図2に示す光源装置1において、端子(φ1端子、φ2端子、Vga端子、φI端子)の位置は、必ずしも正確なものではない。
図2に示す光源装置1は、発光チップ10と、制御部110とを備える。
【0013】
(制御部110)
制御部110は、転送信号発生部120と、点灯信号発生部140と、基準電位供給部160と、電源電位供給部170とを備える。
転送信号発生部120は、後述する複数の転送サイリスタTに順にオン状態を転送する転送信号φ1、φ2を発生する。点灯信号発生部140は、後述する複数のVCSELを点灯(発光)させる電流を供給する点灯信号φIを発生する。基準電位供給部160は、基準電位Vsubを供給する。電源電位供給部170は、電源電位Vgaを供給する。
【0014】
(発光チップ10)
発光チップ10は、発光部11と、転送部12とを備える。また、発光チップ10は、φ1端子と、φ2端子と、Vga端子と、φI端子と、Vsub端子とを備える。
発光部11は、垂直共振器面発光レーザVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)を備える。以下では、垂直共振器面発光レーザVCSELをVCSELと表記する。
図2に示す例では、6個のVCSEL1~VCSEL6(区別しない場合は、VCSELと表記する。)を備える。また、発光部11は、6個の設定サイリスタS1~S6(区別しない場合は、設定サイリスタSと表記する。)を備える。そして、VCSELのアノードと設定サイリスタSのカソードとが接続されている。つまり、同じ番号のVCSELと設定サイリスタSとが直列接続されている。付言すると、後述する
図4に示すように、設定サイリスタSは、基板80上に形成されたVCSEL上に積層されている。なお、以下では、設定サイリスタSを、サイリスタと表記する場合がある。
本実施形態では、それぞれのVCSELが、発光素子の一例である。また、それぞれの設定サイリスタSが、サイリスタの一例である。
【0015】
転送部12は、6個の転送サイリスタT1~T6(区別しない場合は、転送サイリスタTと表記する。)、及び6個の下部ダイオードUD1~UD6(区別しない場合は、下部ダイオードUDと表記する。)を備える。そして、転送サイリスタT1~T6及び下部ダイオードUD1~UD6は、同じ番号の転送サイリスタTと下部ダイオードUDとが直列されている。付言すると、後述する
図3(b)に示すように、転送サイリスタTは、基板80上に形成された下部ダイオードUD上に積層されている。
【0016】
また、転送部12は、転送サイリスタT1~T6をそれぞれ番号順に2つをペアにして、それぞれのペアの間に結合ダイオードD1~D5(区別しない場合は、結合ダイオードDと表記する。)を備える。
さらに、転送部12は、電源線抵抗Rg1~Rg6(区別しない場合は、電源線抵抗Rg)を備える。
【0017】
また、転送部12は、1個のスタートダイオードSDを備える。
さらに、転送部12は、後述する第1転送信号φ1が供給される第1転送信号線72と第2転送信号φ2が供給される第2転送信号線73とに過剰な電流が流れるのを防止するために設けられた電流制限抵抗R1、R2を備える。
【0018】
発光部11のVCSEL1~VCSEL6及び設定サイリスタS1~S6、転送部12の転送サイリスタT1~T6、下部ダイオードUD1~UD6、結合ダイオードD1~D5、電源線抵抗Rg1~Rg6は、発光チップ10において、一方側(-x方向側、
図2の左側)から他方側(+x方向側、
図2の右側)に向けて、番号順に配列されている。
【0019】
本実施形態では、発光部11におけるVCSEL、設定サイリスタS、転送部12における転送サイリスタT、下部ダイオードUD、及び電源線抵抗Rgは、それぞれ6個とした。なお、結合ダイオードDの数は、転送サイリスタTの数より1個少ない5個である。VCSEL、設定サイリスタS、転送サイリスタT、下部ダイオードUD、及び電源線抵抗Rg、結合ダイオードDの数は、上記に限らず、予め定められた個数とすればよい。また、転送サイリスタTの数は、VCSELの数より多くてもよい。
【0020】
上記のVCSEL、下部ダイオードUD、結合ダイオードD及びスタートダイオードSDは、アノード端子(アノード)及びカソード端子(カソード)を備える2端子の半導体素子である。また、サイリスタ(設定サイリスタS、転送サイリスタT)は、アノード端子(アノード)、ゲート端子(ゲート)及びカソード端子(カソード)を備える3端子の半導体素子である。なお、以下では、端子を略して( )内で表記する場合がある。
【0021】
本実施形態の発光チップ10では、VCSEL、設定サイリスタS、下部ダイオードUD、転送サイリスタT、結合ダイオードD、電源線抵抗Rg、スタートダイオードSDは、共通の半導体基板(以下では、基板80と表記する。)にエピタキシャル成長された半導体積層体により、集積回路として構成されている。ここでは、半導体積層体は、一例としてGaAs、AlGaAs、AlAsなどのIII-V族化合物半導体により構成されている。
【0022】
次に、発光チップ10における各素子の電気的な接続について説明する。
VCSEL、下部ダイオードUDのそれぞれのアノードは、基板80に接続される(アノードコモン)。
これらのアノードは、基板80の裏面に設けられたVsub端子である裏面電極91を介して基準電位Vsubが供給される。
そして、VCSELのそれぞれのカソードは、設定サイリスタSのアノードに接続されている。また、下部ダイオードUDのそれぞれのカソードは、転送サイリスタTのアノードに接続されている。
なお、この接続は、p型の基板80を用いた場合の構成であり、n型の基板を用いる場合は極性が逆となり、不純物を添加していないイントリンシック(i)型の基板を用いる場合には、基板の発光部11および転送部12が設けられる側に、基準電位Vsubを供給する端子が設けられる。
【0023】
転送サイリスタTの配列に沿って、奇数番号の転送サイリスタT1、T3、T5のカソードは、第1転送信号線72に接続されている。そして、第1転送信号線72は、電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている。このφ1端子には、制御部110の転送信号発生部120から第1転送信号φ1が供給される。
一方、転送サイリスタTの配列に沿って、偶数番号の転送サイリスタT2、T4、T6のカソードは、第2転送信号線73に接続されている。そして、第2転送信号線73は、電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている。このφ2端子には、制御部110の転送信号発生部120から第2転送信号φ2が供給される。
【0024】
設定サイリスタSのそれぞれのカソードは、点灯信号線75に接続されている。点灯信号線75は、φI端子に接続されている。発光チップ10では、φI端子は、発光チップ10の外側に設けられた電流制限抵抗RIを介して、制御部110の点灯信号発生部140から点灯信号φIが供給される。点灯信号φIは、VCSELに点灯のための電流を供給する。
【0025】
転送サイリスタT1~T6のそれぞれのゲートGt1~Gt6(区別しない場合は、ゲートGtと表記する。)は、同じ番号の設定サイリスタS1~S6のゲートGs1~Gs6(区別しない場合は、ゲートGsと表記する。)に、1対1で接続されている。よって、ゲートGt1~Gt6とゲートGs1~Gs6とは、同じ番号のものが電気的に同電位になっている。よって、例えばゲートGt1(ゲートGs1)と表記して、電位が同じであることを示す。
【0026】
転送サイリスタT1~T6のそれぞれのゲートGt1~Gt6を番号順に2個ずつペアとしたゲートGt間に、結合ダイオードD1~D5がそれぞれ接続されている。すなわち、結合ダイオードD1~D5はそれぞれがゲートGt1~Gt6のそれぞれの間に挟まれるように直接接続されている。そして、結合ダイオードD1の向きは、ゲートGt1からゲートGt2に向かって電流が流れる方向に接続されている。他の結合ダイオードD2~D5についても同様である。
【0027】
転送サイリスタのゲートGt(ゲートGs)は、転送サイリスタTのそれぞれに対応して設けられた電源線抵抗Rgを介して、電源線71に接続されている。電源線71はVga端子に接続されている。Vga端子には、制御部110の電源電位供給部170から電源電位Vgaが供給される。
【0028】
そして、転送サイリスタTのゲートGt1は、スタートダイオードSDのカソードに接続されている。一方、スタートダイオードSDのアノードは、第2転送信号線73に接続されている。
【0029】
図3(a)~(b)は、本実施形態が適用される発光チップ10の平面レイアウト図および断面図の一例である。
図3(a)は、発光チップ10の平面レイアウト図の一例であり、
図3(b)は、
図3(a)のIIIB-IIIB線での断面図の一例である。
なお、
図3(a)~(b)では、後述する保護層(後述する
図4の保護層90)および遮光層(後述する
図4の遮光層95)を省略している。また、
図3(b)では、
図3(a)に示した各接続配線を省略している。
【0030】
まず、発光チップ10の断面構造を、
図3(b)により説明する。
発光チップ10は、p型の基板80(基板80)上に、VCSEL及び下部ダイオードUDを構成するp型のアノード層81、発光層82、n型のカソード層83が順に設けられている。詳細については後述するが、本実施形態の発光チップ10では、p型のアノード層81およびn型のカソード層83は、屈折率差を有する半導体層が複数積層された分布ブラッグ反射層(DBR:Distributed Bragg Reflector)(以下では、DBR層と表記する。)により構成されている。したがって、以下では、p型のアノード層81を、pアノード(DBR)層81と表記する。同様に、n型のカソード層83を、nカソード(DBR)層83と表記する。
【0031】
そして、発光チップ10は、nカソード(DBR)層83上に、トンネル接合(トンネルダイオード)層84(トンネル接合層84)が設けられている。
さらに、発光チップ10は、トンネル接合層84上に、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードD、電源線抵抗Rgを構成するp型のアノード層85(pアノード層85)、n型のゲート層86(nゲート層86)、p型のゲート層87(pゲート層87)、n型のカソード層88(nカソード層88)が順に設けられている。
なお、以下では、( )内の表記を用いる。他の場合も同様とする。
【0032】
VCSEL、下部ダイオードUD、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードDなどの素子は、上記の各層の一部がエッチングにより除去されて分離された複数のアイランドから構成されている。なお、アイランドは、メサと表記される場合があり、アイランド(メサ)を形成するエッチングは、メサエッチングと表記される場合がある。
そして、発光チップ10では、これらのアイランドと、電源線71、第1転送信号線72、第2転送信号線73、点灯信号線75などの配線とが、保護層(後述する
図4の保護層90。)に設けられたスルーホール(
図3(a)では〇で示す。)を介して接続されている。以下の説明では、保護層及びスルーホールについての説明を省略する。
【0033】
また、
図3(b)に示すように、基板80の裏面には、Vsub端子となる裏面電極91が設けられている。
【0034】
ここでは、pアノード(DBR)層81、nカソード(DBR)層83の表記は、VCSEL、下部ダイオードUDを構成する場合の機能(働き)に対応させている。すなわち、pアノード(DBR)層81はアノード、nカソード(DBR)層83はカソードとして機能する。
また、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88の表記は、設定サイリスタS及び転送サイリスタTを構成する場合の機能(働き)に対応させている。すなわち、pアノード層85はアノード、nゲート層86及びpゲート層87はゲート、nカソード層88はカソードとして機能する。
なお、上記の各層が結合ダイオードD、電源線抵抗Rgを構成する場合には、後述するように異なる機能を有する。
【0035】
なお、以下に説明するように、発光チップ10が有する複数のアイランドは、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83、トンネル接合層84、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88の内、層の一部を備えていないものを含む。例えば、後述するアイランド301、302は、nカソード層88の一部を備えない。
【0036】
次に、発光チップ10の平面レイアウトの一例を、
図3(a)を用いて説明する。
アイランド301には、VCSEL1及び設定サイリスタS1が設けられている。アイランド302には、下部ダイオードUD1、転送サイリスタT1及び結合ダイオードD1が設けられている。アイランド303には、電源線抵抗Rg1が設けられている。アイランド304には、スタートダイオードSDが設けられている。アイランド305には、電流制限抵抗R1が設けられ、アイランド306には、電流制限抵抗R2が設けられている。
そして、発光チップ10には、アイランド301、302、303と同様なアイランドが、並列して複数形成されている。これらのアイランドには、VCSEL2~VCSEL6、設定サイリスタS2~S6、下部ダイオードUD2~UD6、転送サイリスタT2~T6、結合ダイオードD2~D5等が、アイランド301、302、303と同様に設けられている。
【0037】
ここでは、
図3(a)~(b)により、アイランド301~アイランド306について詳細に説明する。
図3(b)に示すように、アイランド301に設けられたVCSEL1は、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83で構成されている。設定サイリスタSは、VCSEL1のnカソード(DBR)層83上に積層されたトンネル接合層84を介して積層されたpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。
【0038】
VCSELのnカソード(DBR)層83には、
図3(b)に黒塗りで示すように、電流を狭窄する電流狭窄層(後述する
図4における電流狭窄層83a)が含まれている。電流狭窄層は、メサエッチングにより露出させたnカソード(DBR)層を構成する半導体層の一部が外周から酸化されることで、電流が流れにくい電流阻止部βとなっている。一方、nカソード(DBR)層を構成する半導体層の一部が酸化されなかった中央部は、電流が流れやすい電流通過部αとなっている。
図3(a)のVCSEL1に示すように、破線の内側が電流通過部α、破線の外側が電流阻止部βである。なお、電流阻止部βは、電流の流れを完全に阻止することを要せず、電流通過部αに電流を集中させられれば良い。つまり、電流阻止部βは、電流通過部αより電流が流れにくければよい。
電流阻止部βを設けることで、非発光再結合に消費される電力が抑制される。電流阻止部βを設けることで、低消費電力化及び光取り出し効率の向上が図れる。なお、光取り出し効率とは、電力当たりに取り出すことができる光量である。
【0039】
そして、設定サイリスタS1では、nカソード層88の領域311上に設けられたn型のオーミック電極321(nオーミック電極321)をカソード端子とする。また、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたp型のオーミック電極331(pオーミック電極331)をゲートGs1の端子とする。
【0040】
アイランド302に設けられた下部ダイオードUD1は、VCSELと同様に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83で構成されている。転送サイリスタT1は、設定サイリスタS1と同様に、下部ダイオードUD1のnカソード(DBR)層83上に積層されたトンネル接合層84を介して積層されたpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。
そして、nカソード層88の領域313上に設けられたnオーミック電極323をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極332をゲートGt1の端子とする。
同じく、アイランド302に設けられた結合ダイオードD1は、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。そして、nカソード層88の領域314上に設けられたnオーミック電極324をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極332をアノード端子とする。ここでは、結合ダイオードDのアノード端子は、ゲートGt1と同じである。
【0041】
アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1は、pゲート層87で構成されている。つまり、電源線抵抗Rg1は、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極333とpオーミック電極334との間のpゲート層87を抵抗として設けられている。
【0042】
アイランド304に設けられたスタートダイオードSDは、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。つまり、スタートダイオードSDは、nカソード層88の領域315上に設けられたnオーミック電極325をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極335をアノード端子とする。
アイランド305に設けられた電流制限抵抗R1、アイランド306に設けられた電流制限抵抗R2は、アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1と同様に設けられ、それぞれが2個のpオーミック電極(符号なし)間のpゲート層87を抵抗とする。
【0043】
次に、
図3(a)において、各素子間の接続関係を説明する。
点灯信号線75は、幹部75aと複数の枝部75bとを備える。幹部75aは設定サイリスタS/VCSELの列方向に延びるように設けられている。枝部75bは幹部75aから枝分かれして、アイランド301に設けられた設定サイリスタS1のカソード端子であるnオーミック電極321と接続されている。他の設定サイリスタSのカソード端子も同様である。
点灯信号線75は、設定サイリスタS1/VCSEL1側に設けられたφI端子に接続されている。
【0044】
第1転送信号線72は、アイランド302に設けられた転送サイリスタT1のカソード端子であるnオーミック電極323に接続されている。第1転送信号線72には、アイランド302と同様なアイランドに設けられた、他の奇数番号の転送サイリスタTのカソード端子が接続されている。第1転送信号線72は、アイランド305に設けられた電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている。
一方、第2転送信号線73は、符号を付さないアイランドに設けられた偶数番号の転送サイリスタTのカソード端子であるnオーミック電極(符号なし)に接続されている。第2転送信号線73は、アイランド306に設けられた電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている。
【0045】
電源線71は、アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1の一方の端子であるpオーミック電極334に接続されている。他の電源線抵抗Rgの一方の端子も電源線71に接続されている。電源線71は、Vga端子に接続されている。
【0046】
そして、アイランド301に設けられた設定サイリスタS1のpオーミック電極331(ゲート端子Gs1)は、アイランド302のpオーミック電極332(ゲート端子Gt1)に接続配線76で接続されている。
【0047】
そして、pオーミック電極332(ゲート端子Gt1)は、アイランド303のpオーミック電極333(電源線抵抗Rg1の他方の端子)に接続配線77で接続されている。
アイランド302に設けられたnオーミック電極324(結合ダイオードD1のカソード端子)は、隣接する転送サイリスタT2のゲート端子Gt2であるp型オーミック電極(符号なし)に接続配線79で接続されている。
ここでは説明を省略するが、他のVCSEL、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードD等についても同様である。
【0048】
アイランド302のpオーミック電極332(ゲート端子Gt1)は、アイランド304に設けられたnオーミック電極325(スタートダイオードSDのカソード端子)に接続配線78で接続されている。pオーミック電極335(スタートダイオードSDのアノード端子)は、第2転送信号線73に接続されている。
なお、上記の接続及び構成は、p型の基板80を用いた際のものであり、n型の基板を用いる場合は、極性が逆となる。また、i型の基板を用いる場合は、基板の発光部11および転送部12が設けられる側に、基準電位Vsubを供給する端子が設けられる。そして、接続及び構成は、p型の基板を用いる場合、n型の基板を用いる場合のどちらかと同様になる。
【0049】
(VCSELと設定サイリスタSとの積層構造)
図4は、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランドの拡大断面図の一例である。なお、
図4は、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランドの断面を-y方向から見た図に対応する。また、
図4では、VCSEL1と設定サイリスタS1とが積層されたアイランド301と、VCSEL2と設定サイリスタS2とが積層されたアイランド(符号なし)とを示している。
図4では、VCSEL1とVCSEL2とを区別せずに、VCSELと表記している。同様に、設定サイリスタS1と設定サイリスタS2とを区別せずに、設定サイリスタSと表記している。
前述したように、VCSEL上にトンネル接合層84を介して設定サイリスタSが積層されている。すなわち、VCSELと設定サイリスタSとは直列接続されている。
なお、「VCSEL上」とは、VCSELと直接接触している状態のみを指すのではなく、直接接触せずに上方に位置している状態も含む。また、「基板上」等の類似の表現においても同様である。
【0050】
図4に示すように、VCSELは、p型の基板80上に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83を順にエピタキシャル成長させた半導体積層体で構成されている。
pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とが交互に複数積層されたDBR層である。そして、pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、VCSELの出射する光を反射するように構成されている。なお、pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83については、後段にてより詳細に説明する。
【0051】
また、nカソード(DBR)層83は、電流狭窄層83aを含んで構成されている。この例では、電流狭窄層83aは、nカソード(DBR)層83のうち発光層82に面する側に設けられている。電流狭窄層83aは、電流通過部αと電流阻止部βとで構成されている。
図4に示すように、電流通過部αは、VCSELの中央部に、電流阻止部βは、VCSELの周辺部に設けられている。つまり、電流狭窄層83aの部分が電流阻止部β、電流狭窄層83aが設けられていない部分が電流通過部αとなっている。
なお、電流狭窄層は、pアノード(DBR)層81に設けてもよい。
【0052】
発光層82は、井戸(ウエル)層と障壁(バリア)層とが交互に積層された量子井戸構造である。なお、発光層82は、不純物を添加していないイントリンシック(i)型の層(i層)であってもよい。また、発光層82は、量子井戸構造以外であってもよく、例えば、量子線(量子ワイヤ)や量子箱(量子ドット)であってもよい。
【0053】
トンネル接合層84は、n型の不純物(ドーパント)を高濃度に添加したn++層と、p型の不純物を高濃度に添加したp++層との接合であり、逆バイアスであってもトンネル効果によって電流が流れる。トンネル接合層84は、VCSELのnカソード(DBR)層83と、設定サイリスタSとが、逆バイアスになって電流が流れにくくなることを抑制する。逆バイアスであってもトンネル効果によって電流が流れる。
【0054】
設定サイリスタSは、トンネル接合層84上に積層された、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88から構成されている。すなわち、pnpnの4層構造である。
【0055】
これらの半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)などによって積層され、半導体積層体が形成される。
なお、基板80、VCSELを構成するpアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83、設定サイリスタSを構成するpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88の構成については、後段にてより詳細に説明する。
【0056】
nオーミック電極321は、例えばnカソード層88などn型の半導体層とオーミックコンタクトが取りやすいGeを含むAu(AuGe)等である。
pオーミック電極331(
図3(b)参照)は、例えばpゲート層87などのp型の半導体層とオーミックコンタクトが取りやすいZnを含むAu(AuZn)などである。
裏面電極91は、pオーミック電極331と同様に、例えばAuZnである。
【0057】
なお、上記においては、pゲート層87にオーミック電極331を設けて設定サイリスタSのゲートGsとしたが、nゲート層86にnオーミック電極を設けて設定サイリスタSのゲートGsとしてもよい。
【0058】
また、発光チップ10には、アイランドの表面及び側面を覆うように設けられた透光性の絶縁材料で構成された保護層90が設けられている。保護層90は、例えば、SiO2、SiON、SiNなどからなる。
さらに、発光チップ10には、設定サイリスタSから出射された光等が、アイランドとアイランドとの間から発光チップ10の表面に漏れ出ることを抑制するための遮光層95が設けられている。遮光層95は、上述した配線であってもよい。
【0059】
(隣接する設定サイリスタS同士、VCSEL同士の関係)
上述したように、本実施形態の発光チップ10では、基板80上に積層された半導体層の一部が、メサエッチングにより厚さ方向に除去されることで、それぞれのアイランドが形成されている。例えば、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランド(アイランド301)では、基板80上に積層された半導体層のうち、上方から、nカソード層88、pゲート層87、nゲート層86、pアノード層85、トンネル接合層84、nカソード(DBR)層83、発光層82が除去されるとともに、pアノード(DBR)層81の一部が除去されている。
これにより、それぞれの設定サイリスタSは、隣接する設定サイリスタSとは分断されているpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88により構成される。言い換えると、それぞれの設定サイリスタSを構成するpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88は、隣接する設定サイリスタSとは連続していない。
【0060】
一方、本実施形態のVCSELは、複数のサイリスタSのうち一のサイリスタS(例えばサイリスタS1)に対応するVCSEL(例えばVCSEL1)を構成する半導体層と、隣接する他のサイリスタS(例えばサイリスタS2)に対応するVCSEL(例えばVCSEL2)を構成する半導体層との少なくとも一部が連続している。なお、一のサイリスタSに対応するVCSELを構成する半導体層が、第1の領域の一例であり、他のサイリスタSに対応するVCSELを構成する半導体層が、第2の領域の一例である。
具体的には、本実施形態のVCSELは、隣接するVCSEL同士で、最も下層であるpアノード(DBR)層81の一部が連続している。なお、VCSELでは、pアノード(DBR)層81上に積層される発光層82およびnカソード(DBR)層83は、隣接するVCSELとは連続していない。
さらに付言すると、本実施形態のVCSELは、基板80に積層され隣接するVCSEL1とVCSEL2とに亘って連続している下部半導体層の一例であるpアノード(DBR)層81を含む。さらに、本実施形態のVCSELは、隣接するVCSEL1とVCSEL2との間で分断されている上部半導体層の一例であるnカソード(DBR)層83とを含む。
【0061】
(サイリスタ)
続いて、サイリスタ(転送サイリスタT、設定サイリスタS)の基本的な動作を説明する。サイリスタは、前述したように、アノード端子(アノード)、カソード端子(カソード)、ゲート端子(ゲート)の3端子を有する半導体素子であって、例えば、GaAs、AlGaAs、AlAsなどによるp型の半導体層(pアノード層85、pゲート層87)、n型の半導体層(nゲート層86、nカソード層88)を基板80上に積層して構成されている。つまり、サイリスタは、pnpn構造を有している。ここでは、p型の半導体層とn型の半導体層とで構成されるpn接合の順方向電位(拡散電位)Vdを一例として1.5Vとして説明する。
【0062】
以下では、一例として、Vsub端子である裏面電極91(
図3(b)、
図4参照)に供給される基準電位Vsubをハイレベルの電位(以下では「H」と表記する。)として0V、Vga端子に供給される電源電位Vgaをローレベルの電位(以下では「L」と表記する。)として-5Vとして説明する。よって、「H」(0V)、「L」(-5V)と表記することがある。
【0063】
まず、サイリスタ単体の動作を説明する。ここでは、サイリスタのアノードは0Vであるとする。
アノードとカソードとの間に電流が流れていないオフ状態のサイリスタは、しきい電圧より低い電位(絶対値が大きい負の電位)がカソードに印加されるとオン状態に移行(ターンオン)する。ここで、サイリスタのしきい電圧は、ゲートの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値である。
オン状態になると、サイリスタのゲートは、アノード端子の電位に近い電位になる。ここでは、アノードは0Vであるので、ゲートは、0Vになるとする。また、オン状態のサイリスタのカソードは、アノードの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた電位に近い電位となる。ここでは、アノードは0Vであるので、オン状態のサイリスタのカソードは、-1.5Vに近い電位(絶対値が1.5Vより大きい負の電位)となる。なお、カソードの電位は、オン状態のサイリスタに電流を供給する電源との関係で設定される。
【0064】
オン状態のサイリスタは、カソードが、オン状態を維持するために必要な電位(上記の-1.5Vに近い電位)より高い電位(絶対値が小さい負の電位、0V又は正の電位)になると、オフ状態に移行(ターンオフ)する。
一方、オン状態のサイリスタのカソードに、オン状態を維持するために必要な電位より低い電位(絶対値が大きい負の電位)が継続的に印加され、オン状態を維持しうる電流(維持電流)が供給されると、サイリスタはオン状態を維持する。
【0065】
次に、VCSELと設定サイリスタSとが積層された状態での動作を説明する。
設定サイリスタSは、VCSELと積層され、直列接続されている。よって、点灯信号φIの電位が、VCSELと設定サイリスタSとに分圧される。ここでは、VCSELに印加される電圧を、仮に-1.7Vであるとして説明する。すると、設定サイリスタSがオフ状態の場合、設定サイリスタSに-3.3Vが印加される。
上述したように、オフ状態にある設定サイリスタSのしきい電圧が-3.3より絶対値において大きい場合には、設定サイリスタSのカソードに印加される電位がしきい電圧より低いため、設定サイリスタSがターンオンする。すると、直列接続されたVCSELと設定サイリスタSとに電流が流れて、VCSELが発光する。一方、設定サイリスタSのしきい電圧が-3.3Vよりも絶対値において小さい場合には、設定サイリスタSはターンオンせず、オフ状態を維持する。
なお、設定サイリスタSがターンオンすると、電流制限抵抗RI(
図2参照)により、直列接続されたVCSELと設定サイリスタSとに印加される電圧が絶対値において低下する。しかし、設定サイリスタSに印加される電圧が、設定サイリスタSのオン状態を維持する電圧であれば、設定サイリスタSはオン状態を維持する。これにより、VCSELも発光を継続する。
【0066】
なお、上記に示した電圧は一例であって、VCSELの発光波長や光量によって変えることになる。その際は、点灯信号φIの電位(「L」)を調整すればよい。
【0067】
(光源装置1の動作)
続いて、光源装置1の動作について説明する。
<タイミングチャート>
図5は、光源装置1及び発光チップ10の動作の一例を説明するタイミングチャートである。
図5は、発光チップ10のVCSEL1~VCSEL4の4個のVCSELの点灯(発光)/非点灯(非発光)を制御する部分のタイミングチャートである。なお、
図5では、VCSEL1、VCSEL2、VCSEL3を発光させ、VCSEL4を非発光としている。
【0068】
図5において、時刻aから時刻kへとアルファベット順に時刻が経過するとする。VCSEL1は、期間T(1)において、VCSEL2は、期間T(2)において、VCSEL3は、期間T(3)において、VCSEL4は、期間T(4)において点灯又は非点灯の制御(点灯制御と表記する。)がされる。
ここでは、期間T(1)、T(2)、T(3)、…は同じ長さの期間とし、それぞれを区別しないときは期間Tと表記する。
【0069】
φ1端子(
図2、
図3参照)に送信される第1転送信号φ1及びφ2端子(
図2、
図3参照)に送信される第2転送信号φ2は、「H」(0V)と「L」(-5V)との2つの電位を有する信号である。そして、第1転送信号φ1及び第2転送信号φ2は、連続する2つの期間T(例えば、期間T(1)と期間T(2))を単位として波形が繰り返される。
以下では、「H」(0V)及び「L」(-5V)を、「H」及び「L」と省略する場合がある。
【0070】
第1転送信号φ1は、期間T(1)の開始時刻bで「H」(0V)から「L」(-5V)に移行し、時刻fで「L」から「H」に移行する。そして、期間T(2)の終了時刻iにおいて、「H」から「L」に移行する。
第2転送信号φ2は、期間T(1)の開始時刻bにおいて「H」(0V)であって、時刻eで「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。そして、期間T(2)の終了時刻iにおいて「L」から「H」に移行する。
第1転送信号φ1と第2転送信号φ2とを比較すると、第2転送信号φ2は、第1転送信号φ1を時間軸上で期間T後ろにずらしたものに当たる。一方、第2転送信号φ2は、期間T(1)において、破線で示す波形及び期間T(2)での波形が、期間T(3)以降において繰り返す。第2転送信号φ2の期間T(1)の波形が期間T(3)以降と異なるのは、期間T(1)は光源装置1が動作を開始する期間であるためである。
【0071】
第1転送信号φ1と第2転送信号φ2との一組の転送信号は、後述するように、転送サイリスタTのオン状態を番号順に伝播させることにより、オン状態の転送サイリスタTと同じ番号のVCSELを、点灯または非点灯(点灯制御)の対象として指定する。
【0072】
次に、φI端子(
図2、
図3参照)に供給される点灯信号φIについて説明する。点灯信号φIは、「H」(0V)と「L」(-5V)との2つの電位を有する信号である。
ここでは、VCSEL1に対する点灯制御の期間T(1)において、点灯信号φIを説明する。点灯信号φIは、期間T(1)の開始時刻bにおいて「H」(0V)であって、時刻cで「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。そして、時刻dで「L」から「H」に移行し、時刻eにおいて「H」を維持する。
【0073】
図2を参照しつつ、
図5に示したタイミングチャートにしたがって、光源装置1及び発光チップ10の動作を説明する。なお、以下では、VCSEL1、VCSEL2を点灯制御する期間T(1)、T(2)について説明する。
【0074】
(1)時刻a
時刻aにおいて、光源装置1の制御部110の基準電位供給部160は、基準電位Vsubを「H」(0V)に設定する。制御部110の電源電位供給部170は、電源電位Vgaを「L」(-5V)に設定する。制御部110の転送信号発生部120は、第1転送信号φ1、第2転送信号φ2をそれぞれ「H」(0V)に設定する。これにより、発光チップ10のφ1端子及びφ2端子が「H」となる。電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている第1転送信号線72の電位も「H」になり、電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている第2転送信号線73も「H」になる(
図2参照)。
【0075】
そして、制御部110の点灯信号発生部140は、点灯信号φIを「H」(0V)に設定する。これにより、発光チップ10のφI端子が、電流制限抵抗RIを介して「H」になり、φI端子に接続された点灯信号線75も「H」(0V)となる。
【0076】
設定サイリスタSのアノード(pアノード層85)は、トンネル接合層84を介して、VCSELのカソード(nカソード(DBR)層83)に接続され、VCSELのアノード(pアノード(DBR)層81)は、「H」に設定されたVsub端子に接続されている。
転送サイリスタTのアノード(pアノード層85)は、トンネル接合層84を介して、下部ダイオードUDのカソード(nカソード(DBR)層83)に接続され、下部ダイオードUDのアノード(pアノード(DBR)層81)は、「H」に設定されたVsub端子に接続されている。
【0077】
奇数番号の転送サイリスタT1、T3、T5のそれぞれのカソードは、第1転送信号線72に接続され、「H」(0V)に設定されている。偶数番号の転送サイリスタT2、T4、T6のそれぞれのカソードは、第2転送信号線73に接続され、「H」に設定されている。よって、転送サイリスタTは、アノード及びカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。また、下部ダイオードUDも、アノード及びカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。
【0078】
設定サイリスタSのカソード端子は、「H」(0V)の点灯信号線75に接続されている。よって、設定サイリスタSは、アノード及びカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。また、VCSELも、アノード及びカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。
【0079】
ゲートGt1は、前述したように、スタートダイオードSDのカソードに接続されている。ゲートGt1は、電源線抵抗Rg1を介して、電源電位Vga(「L」(-5V))の電源線71に接続されている。そして、スタートダイオードSDのアノード端子は第2転送信号線73に接続され、電流制限抵抗R2を介して、「H」(0V)のφ2端子に接続されている。よって、スタートダイオードSDは順バイアスであり、スタートダイオードSDのカソード(ゲートGt1)は、スタートダイオードSDのアノードの電位(「H」(0V))からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値(-1.5V)になる。また、ゲートGt1が-1.5Vになると、結合ダイオードD1は、アノード(ゲートGt1)が-1.5Vで、カソードが電源線抵抗Rg2を介して電源線71(「L」(-5V))に接続されているので、順バイアスになる。よって、ゲートGt2の電位は、ゲートGt1の電位(-1.5V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-3Vになる。さらに、結合ダイオードD2は、アノード(ゲートGt1)が-3Vで、カソードが電源線抵抗Rg2を介して電源線71(「L」(-5V))に接続されているので、順バイアスになる。よって、ゲートGt3の電位は、ゲートGt2の電位(-3V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-4.5Vになる。しかし、4以上の番号のゲートGtには、スタートダイオードSDのアノードが「H」(0V)であることの影響は及ばず、これらのゲートGtの電位は、電源線71の電位である「L」(-5V)になっている。
【0080】
なお、ゲートGtはゲートGsであるので、ゲートGsの電位は、ゲートGtの電位と同じである。よって、転送サイリスタT、設定サイリスタSのしきい電圧は、ゲートGt、Gsの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値となる。すなわち、転送サイリスタT1、設定サイリスタS1のしきい電圧は-3V、転送サイリスタT2、設定サイリスタS2のしきい電圧は-4.5V、転送サイリスタT3、設定サイリスタS3のしきい電圧は-6V、番号が4以上の転送サイリスタT、設定サイリスタSのしきい電圧は-6.5Vとなっている。
【0081】
(2)時刻b
図5に示す時刻bにおいて、第1転送信号φ1が、「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。これにより光源装置1は、動作を開始する。
第1転送信号φ1が「H」から「L」に移行すると、φ1端子及び電流制限抵抗R1を介して、第1転送信号線72の電位が、「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。すると、転送サイリスタT1に印加されている電圧は-3.3Vであるので、しきい電圧が-3Vである転送サイリスタT1がターンオンする。このとき、下部ダイオードUD1に電流が流れてオフ状態からオン状態に移行する。転送サイリスタT1がターンオンすることで、第1転送信号線72の電位は、転送サイリスタT1のアノードの電位(下部ダイオードUD1に印加された電位である-1.7V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-3.2Vに近い電位(絶対値が3.2Vより大きい負の電位)になる。
なお、転送サイリスタT3はしきい電圧が-6Vであり、転送サイリスタT5はしきい電圧が-6.5Vである。転送サイリスタT3及び転送サイリスタT5に印加される電圧は、VCSELに印加される電圧1.7Vを-3.2Vに足した-1.5Vになるので、転送サイリスタT3及び転送サイリスタT5はターンオンしない。
一方、偶数番号の転送サイリスタTは、第2転送信号φ2が「H」(0V)であって、第2転送信号線73が「H」(0V)であるのでターンオンできない。
【0082】
転送サイリスタT1がターンオンすると、ゲートGt1/Gs1の電位は、転送サイリスタT1のアノードの電位である「H」(0V)になる。そして、ゲートGt2(ゲートGs2)の電位が-1.5V、ゲートGt3(ゲートGs3)の電位が-3V、ゲートGt4(ゲートGs4)の電位が-4.5V、番号が5以上のゲートGt(ゲートGl)の電位が「L」になる。
これにより、設定サイリスタS1のしきい電圧が-1.5V、転送サイリスタT2、設定サイリスタS2のしきい電圧が-3V、転送サイリスタT3、設定サイリスタS3のしきい電圧が-4.5V、転送サイリスタT4、設定サイリスタS4のしきい電圧が-6V、転送サイリスタT5、T6、設定サイリスタS5、S6のしきい電圧が-6.5Vになる。
しかし、第1転送信号線72は、オン状態の転送サイリスタT1により-1.5Vになっているので、オフ状態の奇数番号の転送サイリスタTはターンオンしない。第2転送信号線73は、「H」(0V)であるので、偶数番号の転送サイリスタTはターンオンしない。点灯信号線75は「H」(0V)であるので、いずれのVCSELも点灯しない。
【0083】
時刻bの直後(ここでは、時刻bにおける信号の電位の変化によってサイリスタなどの変化が生じた後、定常状態になったときをいう。)において、転送サイリスタT1、下部ダイオードUD1がオン状態にあって、他の転送サイリスタT、下部ダイオードUD、設定サイリスタS、VCSELはオフ状態にある。
【0084】
(3)時刻c
時刻cにおいて、点灯信号φIが「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。
点灯信号φIが「H」から「L」に移行すると、電流制限抵抗RI及びφI端子を介して、点灯信号線75が「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。すると、VCSELに印加される電圧1.7Vを足した-3.3Vが設定サイリスタS1に印加され、しきい電圧が-1.5Vである設定サイリスタS1がターンオンして、VCSEL1が点灯(発光)する。これにより、点灯信号線75の電位が-3.2Vに近い電位になる。なお、設定サイリスタS2はしきい電圧が-3Vであるが、設定サイリスタS2に印加される電圧は、VCSELに印加される電圧1.7Vを-3.2Vに足した-1.5Vになるので、設定サイリスタS2はターンオンしない。
時刻cの直後において、転送サイリスタT1、下部ダイオードUD1、設定サイリスタS1がオン状態にあって、VCSEL1が点灯(発光)している。
【0085】
(4)時刻d
時刻dにおいて、点灯信号φIが「L」(-5V)から「H」(0V)に移行する。
点灯信号φIが「L」から「H」に移行すると、電流制限抵抗RI及びφI端子を介して、点灯信号線75の電位が-3.2Vから「H」(0V)に移行する。すると、設定サイリスタS1のカソード及びVCSEL1のアノードがともに「H」になるので設定サイリスタS1がターンオフするとともに、VCSEL1が消灯する(非点灯になる)。VCSEL1の点灯期間は、点灯信号φIが「H」から「L」に移行した時刻cから、点灯信号φIが「L」から「H」に移行する時刻dまでの、点灯信号φIが「L」である期間となる。
時刻dの直後において、転送サイリスタT1がオン状態にある。
【0086】
(5)時刻e
時刻eにおいて、第2転送信号φ2が「H」(0V)から「L」(-5V)に移行する。ここで、VCSEL1を点灯制御する期間T(1)が終了し、VCSEL2を点灯制御する期間T(2)が開始する。
第2転送信号φ2が「H」から「L」に移行すると、φ2端子を介して第2転送信号線73の電位が「H」から「L」に移行する。前述したように、転送サイリスタT2は、しきい電圧が-3Vになっているので、ターンオンする。このとき、下部ダイオードUD2にも電流が流れてオフ状態からオン状態に移行する。
これにより、ゲート端子Gt2(ゲート端子Gs2)の電位が「H」(0V)、ゲートGt3(ゲートGs3)の電位が-1.5V、ゲートGt4(ゲートGs4)の電位が-3V、ゲートGt5(ゲートGs5)の電位が-4.5V、ゲートGt6(ゲートGs6)の電位が-5Vになる。
時刻eの直後において、転送サイリスタT1、T2、下部ダイオードUD1、UD2がオン状態にある。
【0087】
(6)時刻f
時刻fにおいて、第1転送信号φ1が「L」(-5V)から「H」(0V)に移行する。
第1転送信号φ1が「L」から「H」に移行すると、φ1端子を介して第1転送信号線72の電位が「L」から「H」に移行する。すると、オン状態の転送サイリスタT1は、アノード及びカソードがともに「H」になって、ターンオフする。このとき、下部ダイオードUD1のアノード及びカソードもともに「H」になって、オン状態からオフ状態に移行する。
すると、ゲートGt1(ゲートGs1)の電位は、電源線抵抗Rg1を介して、電源線71の電源電位Vga(「L」(-5V))に向かって変化する。これにより、結合ダイオードD1が電流の流れない方向に電位が加えられた状態(逆バイアス)になる。よって、ゲートGt2(ゲートGs2)が「H」(0V)である影響は、ゲートGt1(ゲートGs1)には及ばなくなる。すなわち、逆バイアスの結合ダイオードDで接続されたゲートGtを有する転送サイリスタTは、しきい電圧が-6.5Vになって、第1転送信号φ1又は第2転送信号φ2が「L」(-5V)になっても、ターンオンしなくなる。
時刻fの直後において、転送サイリスタT2、下部ダイオードUD2がオン状態にある。
【0088】
(7)その他
時刻gにおいて、点灯信号φIが「H」(0V)から「L」(-5V)に移行すると、時刻cでのVCSEL1及び設定サイリスタS1と同様に、設定サイリスタS2がターンオンして、VCSEL2が点灯(発光)する。
そして、時刻hにおいて、点灯信号φIが「L」(-5V)から「H」(0V)に移行すると、時刻dでのVCSEL1及び設定サイリスタS1と同様に、設定サイリスタS2がターンオフして、VCSEL2が消灯する。
さらに、時刻iにおいて、第1転送信号φ1が「H」(0V)から「L」(-5V)に移行すると、時刻bでの転送サイリスタT1又は時刻eでの転送サイリスタT2と同様に、しきい電圧が-3Vの転送サイリスタT3がターンオンする。時刻iで、VCSEL2を点灯制御する期間T(2)が終了し、VCSEL3を点灯制御する期間T(3)が開始する。
以降は、これまで説明したことの繰り返しとなる。
【0089】
なお、VCSELを点灯(発光)させないで、消灯(非点灯)のままとするときは、
図5のVCSEL4を点灯制御する期間T(4)における時刻jから時刻kに示す点灯信号φIのように、点灯信号φIを「H」(0V)のままとすればよい。このようにすることで、設定サイリスタS4のしきい電圧が-1.5Vであっても、設定サイリスタS4はターンオンせず、VCSELは消灯(非点灯)のままとなる。
【0090】
以上説明したように、転送サイリスタTのゲート端子Gtは結合ダイオードDによって相互に接続されている。よって、ゲートGtの電位が変化すると、電位が変化したゲートGtに、順バイアスの結合ダイオードDを介して接続されたゲートGsの電位が変化する。そして、電位が変化したゲートを有する転送サイリスタTのしきい電圧が変化する。転送サイリスタTは、しきい電圧が-3.3Vより高い(絶対値が小さい負の値)と、第1転送信号φ1又は第2転送信号φ2が「H」(0V)から「L」(-5V)に移行するタイミングにおいてターンオンする。
そして、オン状態の転送サイリスタTのゲートGtにゲートGsが接続された設定サイリスタSは、しきい電圧が-1.5Vであるので、点灯信号φIが「H」(0V)から「L」(-5V)に移行するとターンオンし、設定サイリスタSに直列接続されたVCSELが点灯(発光)する。
【0091】
すなわち、転送サイリスタTはオン状態になることで、点灯制御の対象であるVCSELを指定し、「L」(-5V)の点灯信号φIは、点灯制御の対象であるVCSELに直列接続された設定サイリスタSをターンオンするとともに、VCSELを点灯させる。つまり、発光チップ10では、転送サイリスタTのオン状態が転送されることで、VCSELは順次点灯する。
なお、「H」(0V)の点灯信号φIは、設定サイリスタSをオフ状態に維持するとともに、VCSELを非点灯に維持する。すなわち、点灯信号φIは、VCSELの点灯/非点灯を設定する。
【0092】
このように、本実施形態の光源装置1では、複数の素子(転送サイリスタT1~T6、設定サイリスタS1~S6、VCSEL1~VCSEL6等)があって、複数の素子のうちオン状態となる素子が次々に移行していく。これにより、本実施形態の光源装置1では、制御部110による点灯制御によって、発光チップ10の転送部12における複数の転送サイリスタT1~T6が個別にオン状態になる。そして、転送サイリスタT1~T6がオン状態になることで、点灯制御の対象であるVCSELが指定され、発光部11における複数の設定サイリスタS1~S6が個別にオン状態となる。そして、それぞれの設定サイリスタSがオン状態になることで、その設定サイリスタSに対応するVCSELが個別に発光する。付言すると、本実施形態の光源装置1では、制御部110および発光チップ10の転送部12が、複数の設定サイリスタSを個別に駆動してオン状態に移行させる駆動部の一例である。
また、本実施形態の発光チップ10では、それぞれのVCSELが有する発光層82のうち、電流の供給により実際に発光する部分が、それぞれのVCSELの発光領域である。
【0093】
上述したように、本実施形態の発光チップ10では、設定サイリスタSがオン状態になることで、対応するVCSELに電流が供給可能な状態となる。そして、その後、VCSELに対して、VCSELの発光に必要な大きさの電流が実際に供給されると、VCSELが発光する。
ところで、発光チップ10の構成や制御部110による制御によっては、設定サイリスタSがオン状態になり、対応するVCSELに電流が供給可能な状態となった後、VCSELが発光する前に、電流を供給することでVCSELが発光可能な状態が維持されたまま、設定サイリスタSへのオン信号が停止される場合がある。このような場合であっても、設定サイリスタSがオフ状態となった後、VCSELの発光に必要な大きさの電流をVCSELに供給することで、VCSELを発光させることができる。付言すると、この場合には、設定サイリスタSは、VCSELを発光するためにオン状態となった後、実際にVCSELが発光した時点では、オフ状態となっている。
本実施形態において、「サイリスタ(設定サイリスタS)が、オン状態になることで発光素子(VCSEL)を発光させる」とは、設定サイリスタSがオン状態になることで、対応するVCSELを、電流の供給により発光することが可能な状態にすることを意味する。付言すると、設定サイリスタSは、VCSELを電流の供給により発光することが可能な状態にした後、VCSELに電流が供給されて実際にVCSELが発光している時点では、オン状態を維持していてもよいし、オフ状態となっていてもよい。
【0094】
(設定サイリスタSから出射される光について)
ところで、設定サイリスタSは、上述したように化合物半導体で構成されているので、オン状態になると、nゲート層86とpゲート層87との間から光を出射することがある。付言すると、設定サイリスタSは、pアノード層85とnカソード層88との間に流れる電流値が大きくなると、nゲート層86とpゲート層87との間から光を出射する場合がある。
【0095】
同一の基板80上にVCSELおよび設定サイリスタSが複数形成された光源装置1(発光チップ10)において、複数のVCSELから選択された1つのVCSEL(例えばVCSEL1)を点灯させ、他のVCSEL(例えばVCSEL2~VCSEL6)は非点灯となるように、VCSELの点灯制御を行う場合を考える。この場合、制御部110によって、発光させるVCSEL1に接続された設定サイリスタS1がオン状態になり、それに伴ってVCSEL1が点灯する。一方、設定サイリスタS1がオン状態になった時点では、点灯させない他のVCSEL2~VCSEL6に接続された他の設定サイリスタS2~S6は、オフ状態のままである。
【0096】
そして、設定サイリスタS1がオン状態になると、設定サイリスタS1に供給された電流によって設定サイリスタS1から光が出射される場合がある。
図6は、設定サイリスタSから出射された光をVCSELが吸収しない場合に、設定サイリスタSから出射された光の挙動の一例を説明する図である。
図6は、上述した
図4と同様に、VCSEL1と設定サイリスタS1とが積層されたアイランド301と、VCSEL2と設定サイリスタS2とが積層されたアイランド(符号なし)とを示している。
設定サイリスタS1から出射された光は、VCSEL1を構成する各半導体層や基板80の内部を介して、設定サイリスタS1の周囲に伝播する。これにより、設定サイリスタS1から出射された光は、設定サイリスタS1に隣接する他の設定サイリスタS(例えば設定サイリスタS2)に到達する場合がある。特に、上述したように、VCSELを構成する半導体層の一部が隣接するVCSEL同士で連続している場合、設定サイリスタS1から出射された光は、この半導体層を介して隣接する設定サイリスタS2に伝播しやすい。この例では、
図6にて矢印Xで示すように、主にVCSEL1とVCSEL2とで連続しているpアノード(DBR)層81を介して、設定サイリスタS1から出射された光が、隣接する設定サイリスタS2に伝播しやすい。
【0097】
上述したように、この例では、設定サイリスタS2は、設定サイリスタS2に対応するVCSEL2を非点灯とするため、オフ状態となっている。しかしながら、設定サイリスタS1から出射された光が設定サイリスタS2に伝播し、設定サイリスタS2のゲート層(nゲート層86、pゲート層87)で吸収されて起電力が生じると、設定サイリスタS2がオン状態となる。すると、設定サイリスタS2がオン状態となるのに伴って、本来非点灯であるはずのVCSEL2が発光してしまう。
このように、設定サイリスタSから出射された光が他の設定サイリスタSに吸収されると、複数のVCSELのうち点灯制御の対象となっていない非点灯のVCSELが誤って点灯する場合がある。この場合、光源装置1において複数のVCSELを正確に点灯制御することが難しくなる。
【0098】
これに対し、本実施形態が適用される光源装置1の発光チップ10では、VCSELが、複数の設定サイリスタSの間で、設定サイリスタSから出射された光を吸収する。これにより、VCSELが設定サイリスタSから出射された光を吸収しない場合と比べて、設定サイリスタSから出射された光が他の設定サイリスタSに伝播されにくい。
【0099】
(設定サイリスタS、VCSELを構成する各層の詳細)
続いて、本実施形態が適用される発光チップ10の設定サイリスタSおよびVCSELを構成する各層について、
図4等も参照してより詳細に説明する。
本実施形態のVCSELは、設定サイリスタSから出射された光を吸収可能な半導体層を含む。ここで、一般に、化合物半導体は、自身のバンドギャップエネルギに相当する波長よりも短波長の(すなわちバンドギャップエネルギが大きい)光を吸収する。そして、化合物半導体は、光を吸収すると、自身のバンドギャップエネルギに相当する光を出射する。したがって、設定サイリスタSから出射された光は、設定サイリスタSから出射される光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体で吸収することができる。本実施形態のVCSELは、設定サイリスタSから出射される光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体からなる半導体層を含んでいる。
【0100】
<設定サイリスタSの層構成>
上述したように、設定サイリスタSは、トンネル接合層84上に積層されたpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88により構成される。上述したように、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88は、III-V族化合物半導体により構成されている。
【0101】
本実施形態では、nゲート層86およびpゲート層87は、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されていることが好ましい。nゲート層86およびpゲート層87を構成するAlを含むIII-V族化合物半導体としては、例えば、AlGaAs、AlGaN、AlAs等が挙げられ、AlGaAsを用いることが好ましい。
nゲート層86およびpゲート層87としてAlを含むIII-V族化合物半導体、例えばAlGaAsを用いることで、nゲート層86およびpゲート層87としてAlを含まないIII-V族化合物半導体、例えばGaAsを用いる場合と比べて、nゲート層86、pゲート層87から出射される光に相当するバンドギャップエネルギを大きくすることができる。これにより、nゲート層86、pゲート層87から出射された光がVCSELで吸収されやすくなる。また、nゲート層86、pゲート層87から出射された光がVCSELや基板80で吸収されることにより、VCSELや基板80から再び出射される光(再発光)が、隣接する設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87で吸収されにくくなる。これにより、VCSELや基板80からの再発光によって隣接する設定サイリスタSがオン状態となることが抑制される。
【0102】
nゲート層86およびpゲート層87がAlを含むIII-V族化合物半導体により構成されている場合、nゲート層86およびpゲート層87は、Alの含有比率が1%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがより好ましい。nゲート層86およびpゲート層87におけるAlの含有比率が1%未満である場合、nゲート層86とpゲート層87との間から出射された光がVCSELで吸収されにくくなり、隣接する設定サイリスタSに光が伝播されやすくなる場合がある。
【0103】
また、nゲート層86およびpゲート層87は、Alの含有比率が30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましい。
発光チップ10の製造工程においては、nゲート層86、pゲート層87が空気に曝露される工程が含まれる場合がある。この際、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が30%以上であると、空気によってnゲート層86、pゲート層87の表面が酸化されやすくなる。この場合、nゲート層86、pゲート層87と、これらの層上に設ける電極との接続(例えばpゲート層87とpオーミック電極331との接続)が不良となる場合がある。
また、一般に、設定サイリスタSを構成する半導体層のうち、nゲート層86、pゲート層87は、pアノード層85、nカソード層88と比べてAlの含有比率が低い。そして、設定サイリスタSの駆動電圧は、設定サイリスタSを構成する半導体層のうちAlの含有比率が低い半導体層であるnゲート層86、pゲート層87により定まる。付言すると、設定サイリスタSの駆動電圧は、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が低いほど低く、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が高いほど高い。したがって、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が30%以上であると、設定サイリスタSの駆動電圧が高くなり過ぎるため、好ましくない。
【0104】
nゲート層86およびpゲート層87のAlの含有比率は、後述するように、VCSELに設けられるnゲート層86、pゲート層87から出射された光を吸収する半導体層、より具体的には、VCSELのpアノード(DBR)層81、nカソード(DBR)層83との関係で定められる。
なお、本実施形態の説明において、Alを含むIII-V族化合物半導体におけるAlの含有比率とは、III-V族化合物半導体に含まれるIII族元素の原子数の和に対するAlの原子数の比率を意味する。例えば、AlGaAsにおけるAlの含有比率とは、AlGaAsに含まれるAlとGaとの原子数の和に対するAlの原子数の比率を意味する。
【0105】
以上のような設定サイリスタSのpアノード層85としては、例えば、不純物濃度1×1018/cm3のp型のAlGaAsを用いることができる。pアノード層85におけるAlの含有比率は、0%~100%の間で変更してもよい。
nゲート層86としては、例えば、不純物濃度1×1017/cm3のn型のAlGaAsを用いることができる。nゲート層86におけるAlの含有比率は、後述するVCSELのpアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83との関係で定めればよい。
pゲート層87としては、例えば、不純物濃度1×1017/cm3のp型のAlGaAsを用いることができる。nゲート層86におけるAlの含有比率は、後述するVCSELのpアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83との関係で定めればよい。
nカソード層88としては、例えば、不純物濃度1×1018/cm3のn型のAlGaAsを用いることができる。pアノード層85におけるAlの含有比率は、0%~100%の間で変更してもよい。
【0106】
<VCSELの層構成>
VCSELは、基板80上に積層されたpアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83により構成される。そして、VCSELは、pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83に挟まれた発光層82において、光を共振させてレーザ発振させる。VCSELは、pアノード(DBR)層81、nカソード(DBR)層83による光の反射率が、例えば99%以上となるとレーザ発振する。
【0107】
本実施形態のVCSELは、複数の設定サイリスタSの間で、設定サイリスタSから出射された光を吸収する。ここで、「複数の設定サイリスタSの間」とは、複数の設定サイリスタSのうちの一の設定サイリスタSから出射された光が、他の設定サイリスタSに到達するまでの経路を意味する。したがって、「複数の設定サイリスタSの間」には、隣接する設定サイリスタS同士の境界に位置するVCSELの半導体層だけでなく、設定サイリスタSから出射された光が伝播しうる、設定サイリスタSの直下に位置するVCSELの半導体層等も含む。
【0108】
本実施形態のVCSELは、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87から出射された光を吸収する半導体層を含む。付言すると、本実施形態のVCSELは、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87から出射された光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含む。
【0109】
pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、上述したように、屈折率差を有する半導体層が複数積層されたDBR層である。
付言すると、pアノード(DBR)層81は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とを交互に積層した構成を有している。なお、高屈折率層が「相対的に屈折率が高い」とは、低屈折率層と比べて屈折率が高いことを意味する。同様に、低屈折率層が「相対的に屈折率が低い」とは、高屈折率層と比べて屈折率が低いことを意味する。
また、nカソード(DBR)層83は、pアノード(DBR)層81と同様に、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とを交互に積層した構成を有している。
【0110】
本実施形態のVCSELでは、pアノード(DBR)層81の高屈折率層およびnカソード(DBR)層83の高屈折率層の少なくとも一方を、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87から出射された光を吸収する半導体層とすることができる。この場合、VCSELは、pアノード(DBR)層81の高屈折率層およびnカソード(DBR)層83の高屈折率層の少なくとも一方のバンドギャップエネルギが、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87から出射された光に相当するバンドギャップエネルギと比べて小さい。
【0111】
本実施形態では、pアノード(DBR)層81の高屈折率層は、p型の不純物がドーピングされた、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されていることが好ましい。同様に、nカソード(DBR)層83の高屈折率層は、n型の不純物がドーピングされた、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されていることが好ましい。
pアノード(DBR)層81の高屈折率層、およびnカソード(DBR)層83の高屈折率層を構成するIII-V族化合物半導体としては、設定サイリスタSのnゲート層86およびpゲート層87と同様に、例えば、AlGaAs、AlGaN、AlAs等が挙げられ、AlGaAsを用いることが好ましい。
【0112】
pアノード(DBR)層81の高屈折率層、およびnカソード(DBR)層83の高屈折率層が、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されている場合、pアノード(DBR)層81の高屈折率層、およびnカソード(DBR)層83の高屈折率層の少なくとも一方は、Alの含有比率が、設定サイリスタSのnゲート層86およびpゲート層87におけるAlの含有比率以下となっている。
Alを含むIII-V族化合物半導体は、Alの含有比率が高いほどバンドギャップエネルギが大きく、Alの含有比率が低いほどバンドギャップエネルギが小さい傾向がある。したがって、pアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層におけるAlの含有比率をnゲート層86およびpゲート層87よりも小さくすることで、pアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層のバンドギャップエネルギが、nゲート層86およびpゲート層87から出射される光に相当するバンドギャップエネルギよりも小さくなる。これにより、設定サイリスタSから出射された光が、VCSELにおけるpアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層にて吸収される。
【0113】
ここで、pアノード(DBR)層81の高屈折率層および低屈折率層には、電気抵抗を低くし、電流を流れやすくする観点から、p型の不純物がドーピングされている。同様の観点から、nカソード(DBR)層83の高屈折率層および低屈折率層には、n型の不純物がドーピングされている。そして、pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83における不純物濃度は、設定サイリスタSにおけるnゲート層86およびpゲート層における不純物濃度と比べて高い。
一般に、化合物半導体では、不純物濃度が高くなると、半導体内において自由に移動できる電子及び正孔(自由キャリア)が増加し、自由キャリア吸収によって光を吸収しやすくなる。したがって、本実施形態では、不純物濃度が高いpアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層が、nゲート層86およびpゲート層87から出射される光を吸収することが可能であれば、pアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層におけるAlの含有比率が、nゲート層86およびpゲート層87におけるAlの含有比率と比べてわずかに大きくてもよく、これらが等しくてもよい。
なお、nゲート層86およびpゲート層87から出射された光を吸収しやすくする観点からは、pアノード(DBR)層81の高屈折率層、nカソード(DBR)層83の高屈折率層におけるAlの含有比率は、nゲート層86およびpゲート層87におけるAlの含有比率以下であることが好ましく、nゲート層86およびpゲート層87におけるAlの含有比率未満であることが好ましい。
【0114】
本実施形態のVCSELでは、pアノード(DBR)層81の低屈折率層は、高屈折率層と比べて屈折率が低く、高屈折率層に対して積層可能な化合物半導体であれば特に限定されないが、p型の不純物がドーピングされた、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されていることが好ましい。同様に、nカソード(DBR)層83の高屈折率層は、高屈折率層と比べて屈折率が低く、高屈折率層に対して積層可能な化合物半導体であれば特に限定されないが、n型の不純物がドーピングされた、Alを含むIII-V族化合物半導体により構成されていることが好ましい。
pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83の低屈折率層が、Alを含むIII-V族化合物半導体からなる場合、Alの含有比率は、高屈折率層よりも高く、且つ、30%以下とすることが好ましい。
【0115】
pアノード(DBR)層81のそれぞれの高屈折率層の膜厚は、(λ/4np1)×0.4以上(λ/4np1)×1.2以下の範囲であり、λ/4np1とすることが好ましい。ここで、λは、VCSELの発光層82から出射される光の波長であり、np1は、pアノード(DBR)層81の高屈折率層の屈折率である。
同様に、nカソード(DBR)層83のそれぞれの高屈折率層の膜厚は、(λ/4nn1)×0.4以上(λ/4nn1)×1.2以下の範囲であり、λ/4nn1とすることが好ましい。ここで、nn1は、nカソード(DBR)層83の高屈折率層の屈折率である。
【0116】
なお、pアノード(DBR)層81のそれぞれの高屈折率層の膜厚は、pアノード(DBR)層81のそれぞれの高屈折率層とそれぞれの低屈折率層とを合わせた膜厚がλ/2となるようにすることが好ましい。したがって、例えばpアノード(DBR)層81の高屈折率層の膜厚がλ/4np1より薄い場合、pアノード(DBR)層81の低屈折率層の膜厚をλ/4np2(np2は、pアノード(DBR)層81の低屈折率層の屈折率)より厚くすればよい。
同様に、nカソード(DBR)層83のそれぞれの高屈折率層の膜厚は、nカソード(DBR)層83のそれぞれの高屈折率層とそれぞれの低屈折率層とを合わせた膜厚がλ/2となるようにする。したがって、例えばnカソード(DBR)層83の高屈折率層の膜厚がλ/4nn1より薄い場合、nカソード(DBR)層83の低屈折率層の膜厚をλ/4nn2(nn2は、nカソード(DBR)層83の低屈折率層の屈折率)より厚くすればよい。
【0117】
ここで、本実施形態のVCSELでは、nカソード(DBR)層83と比べて、基板80に近いpアノード(DBR)層81のほうが、設定サイリスタSから出射された光を吸収しやすいことが好ましい。付言すると、VCSELでは、pアノード(DBR)層81とnカソード(DBR)層とのうち、少なくともpアノード(DBR)層81の高屈折率層が、VCSELから出射された光を吸収する半導体層であることが好ましい。
ここで、半導体層が光を吸収すると、それに伴って発熱する場合がある。本実施形態では、基板80上に積層されるpアノード(DBR)層81にて設定サイリスタSから出射された光を吸収することで、光の吸収に伴って生じた熱が基板80を介して発光チップ10の外部へ放出されやすくなる。これにより、設定サイリスタSから出射された光を吸収することにより生じた熱による発光層82への影響を小さくすることができる。
【0118】
また、本実施形態のVCSELでは、電流狭窄層83aが設けられているnカソード(DBR)層83と比べて、電流狭窄層を有していないpアノード(DBR)層81のほうが、設定サイリスタSから出射された光を吸収しやすいことが好ましい。付言すると、VCSELでは、pアノード(DBR)層81とnカソード(DBR)層とのうち、少なくともpアノード(DBR)層81の高屈折率層が、VCSELから出射された光を吸収する半導体層であることが好ましい。
電流狭窄層83aは、上述したように、電流が流れにくい電流阻止部βと、電流が流れやすい電流通過部αとが形成されている。そして、VCSELでは、電流通過部αに電流が集中するため、電流通過部αの近くで発光層82が発光する。
本実施形態では、電流狭窄層を有しておらず、電流通過部αから離れたpアノード(DBR)層81にて設定サイリスタSから出射された光を吸収することで、設定サイリスタSから出射された光を吸収することにより生じた熱による発光層82への影響を小さくすることができる。
なお、電流狭窄層から離れた位置で設定サイリスタSから出射された光を吸収するという観点からは、pアノード(DBR)層81が電流狭窄層を有する場合には、pアノード(DBR)層81と比べてnカソード(DBR)層の方が、設定サイリスタSから出射された光を吸収しやすくしてもよい。
【0119】
以上のようなVCSELのpアノード(DBR)層81は、例えば、p型の不純物がドーピングされたAlGaAsからなる低屈折率層と、p型の不純物がドーピングされ、低屈折率層と比べてAlの含有比率が低いAlGaAsからなる高屈折率層とが交互に40周期積層された半導体層とすることができる。なお、pアノード(DBR)層81の低屈折率層を構成するAlGaAsにおけるAlの含有率、および高屈折率層を構成するAlGaAsにおけるAlの含有率は、上述した条件を満たすように定めればよい。
また、nカソード(DBR)層83は、例えば、n型の不純物がドーピングされたAlGaAsからなる低屈折率層と、n型の不純物がドーピングされ、低屈折率層と比べてAlの含有比率が低いAlGaAsからなる高屈折率層とが交互に19周期積層された半導体層とすることができる。同様に、nカソード(DBR)層83の低屈折率層を構成するAlGaAsにおけるAlの含有率、および高屈折率層を構成するAlGaAsにおけるAlの含有率は、上述した条件を満たすように定めればよい。
また、発光層82は、例えば、GaN、InGaN、AlGaNなどからなる井戸(ウエル)層と、AlGaN、GaNなどからなる障壁(バリア)層とが交互に積層された半導体層とすることができる。
【0120】
<基板80の構成>
本実施形態の基板80は、上述したように、p型の基板80である。基板80は、例えば、VCSELを構成するpアノード(DBR)層81、発光層82およびnカソード(DBR)層83等の半導体層をエピタキシャル成長させることができるIII-V族化合物半導体からなる基板を用いることができる。
本実施形態では、基板80は、設定サイリスタSから出射される光に相当するバンドギャップエネルギよりもバンドギャップエネルギが小さい半導体からなることが好ましい。より具体的には、基板80は、設定サイリスタSから出射された光を吸収する半導体層であるpアノード(DBR)層81またはnカソード(DBR)層83の高屈折率層と比べてAlの含有比率が小さいIII-V族化合物半導体からなる基板を用いることが好ましく、Alを含まないGaAs基板を用いることがより好ましい。
【0121】
VCSELでは、設定サイリスタSから出射され、pアノード(DBR)層81またはnカソード(DBR)層83の高屈折率層で吸収されなかった一部の光が、基板80まで到達する場合がある。基板80がGaAs基板からなる場合、設定サイリスタSから出射された光が基板80で吸収され、基板80からGaAsのバンドギャップエネルギに相当する波長の光が出射される。付言すると、基板80から出射される光(再発光)は、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87のバンドギャップエネルギに相当する波長よりも長波長となる。
したがって、本実施形態では、基板80がGaAs基板からなることで、基板80から出射された再発光が、サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87に吸収されない。これにより、基板80からの再発光によって隣接する設定サイリスタSがオン状態となることが抑制される。
【0122】
(設定サイリスタSから出射された光の挙動)
続いて、設定サイリスタSから出射された光の挙動について説明する。
図7は、本実施形態が適用される発光チップ10において、設定サイリスタSから出射された光の挙動の一例を説明する図である。
図7は、上述した
図4と同様に、VCSEL1と設定サイリスタS1とが積層されたアイランド301と、VCSEL2と設定サイリスタS2とが積層されたアイランド(符号なし)とを示している。
ここでは、
図6に示した例と同様に、設定サイリスタS1がオン状態になり、設定サイリスタS1から光が出射された場合を例に挙げて説明する。
【0123】
上述したように、本実施形態の発光チップ10では、VCSELが、設定サイリスタS1から出射された光を吸収する。
具体的に説明すると、設定サイリスタS1のnゲート層86とpゲート層87との間から出射された光の一部は、
図7にて矢印Aで示すように、設定サイリスタS1の下方に位置するVCSEL1側へ伝播する。そして、設定サイリスタS1から出射された光は、VCSEL1のnカソード(DBR)層83に到達すると、nカソード(DBR)層83の高屈折率層により、その一部が吸収される。また、VCSEL1のnカソード(DBR)層83に吸収されずに通過した光は、VCSEL1のpアノード(DBR)層81に到達すると、pアノード(DBR)層81の高屈折率層により、その一部が吸収される。
【0124】
また、本実施形態の発光チップ10では、隣接するVCSEL1とVCSEL2との間で、pアノード(DBR)層81の一部が連続している。そして、設定サイリスタS1から出射された光は、VCSEL1とVCSEL2との境界部分や、VCSEL2のpアノード(DBR)層81に到達すると、pアノード(DBR)層81の高屈折率層により、その一部が吸収される。
さらに、設定サイリスタS1から出射された光は、VCSEL2のnカソード(DBR)層83に到達すると、nカソード(DBR)層83の高屈折率層により、その一部が吸収される。
【0125】
なお、設定サイリスタS1から出射された光の一部は、
図7にて矢印Bで示すように、nカソード(DBR)層83およびpアノード(DBR)層81により吸収されずに、基板80にまで到達する場合がある。上述したように、基板80は、GaAs等の設定サイリスタS1から出射される光に相当するバンドギャップエネルギよりもバンドギャップエネルギが小さい。したがって、設定サイリスタS1から出射され基板80に到達した光は、基板80に吸収される。そして、
図7にて矢印Cで示すように、基板80のバンドギャップエネルギに相当する長波長の光(再発光)が基板80から出射される。
基板80から出射された再発光は、nゲート層86、pゲート層87のバンドギャップエネルギよりも小さいため、設定サイリスタS2に到達した場合であっても、設定サイリスタS2に吸収されない。
【0126】
以上説明したように、本実施形態の発光チップ10では、VCSELが、複数の設定サイリスタSの間で設定サイリスタSから出射された光を吸収することで、VCSELが設定サイリスタSから出射された光を吸収しない場合と比べて、設定サイリスタSから出射された光が、他の設定サイリスタSに伝播されにくくなる。
これにより、他の設定サイリスタがオン状態へ移行することを抑制でき、発光させようとしていないVCSELが誤って点灯することが抑制される。
【0127】
なお、本実施形態では、サイリスタとして設定サイリスタSから光が出射された場合に、VCSELにてこの光を吸収する場合を例に挙げて説明した。ここで、上述したように、本実施形態の発光チップ10では、転送サイリスタTも設定サイリスタSと同様の層構成を有しており、転送サイリスタTがオン状態となった場合に、転送サイリスタTのnゲート層86とpゲート層87との間から光が出射される場合がある。本実施形態の発光チップ10では、上述した例と同様に、VCSELが、転送サイリスタTから出射された光を吸収することができる。これにより、発光チップ10では、転送サイリスタTから出射された光が、他の転送サイリスタTや設定サイリスタSに伝播することが抑制され、点灯させようとしていないVCSELが誤って点灯することが抑制される。
【0128】
(設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率の違いによる隣接する設定サイリスタSでの受光量の違い)
続いて、本実施形態の発光チップ10において、設定サイリスタS(例えば設定サイリスタS1)から出射され、隣接する設定サイリスタS(例えば設定サイリスタS2)に到達し受光される光量について説明する。ここでは、設定サイリスタSのnゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率を変えた場合に、設定サイリスタSで受光される光量(受光量)の違いを説明する。
【0129】
表1に、設定サイリスタS1をオン状態にして設定サイリスタS1を発光させた場合に、設定サイリスタS1に隣接する設定サイリスタS2での、設定サイリスタS1から出射された光の受光量を示す。付言すると、表1には、nゲート層86、pゲート層87としてAlGaAsを用い、Alの含有比率を異ならせた場合の設定サイリスタS2での受光量の違いを示している。なお、表1では、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が0%の場合(構成例1)における設定サイリスタS2での受光量を1として、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が7%(構成例2)、10%(構成例3)、15%(構成例4)の場合の設定サイリスタS2での受光量を示している。また、構成例1~4の発光チップ10は、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率以外の設定サイリスタSおよびVCSELの構成は互いに等しい。
なお、表1の受光量は、コンピュータ装置によるシミュレーションにより得られたものである。
【0130】
【0131】
表1に示すように、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が0%から15%の範囲では、Alの含有比率が高いほど、設定サイリスタS2での受光量が低くなることが確認された。
これは、以下の理由によると推測される。すなわち、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が高いほど、nゲート層86、pゲート層87のバンドギャップエネルギが大きくなる。このため、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が高いほど、設定サイリスタS1のnゲート層86とpゲート層87との間から出射された光に相当するバンドギャップエネルギに対し、VCSELにおけるpアノード(DBR)層81またはnカソード(DBR)層83の高屈折率層のバンドギャップエネルギが相対的に小さくなる。これにより、nゲート層86、pゲート層87におけるAlの含有比率が高いほど、設定サイリスタS1から出射された光が、VCSELにおけるpアノード(DBR)層81またはnカソード(DBR)層83の高屈折率層により吸収されやすくなる。この結果、設定サイリスタS2での受光量が低くなったものと推測される。
【0132】
(発光チップ10の製造方法)
続いて、本実施形態が適用される発光チップ10の製造方法の一例について説明する。
発光チップ10は、半導体積層体形成工程、nオーミック電極(nオーミック電極321、323、324など)形成工程、半導体積層体分離工程、電流阻止部β形成工程、エッチング工程、保護層90形成工程、配線、電極形成工程により形成される。
【0133】
半導体積層体形成工程では、基板80上に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83、トンネル接合層84、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88を順にエピタキシャル成長させて、半導体積層体を形成する。これらの半導体層は、例えば有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)などによって積層され、半導体積層体が形成される。
ここで、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83は、発光素子に加工される第1の半導体積層体の一例である。また、トンネル接合層84に設けられた、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88は、複数のサイリスタ(設定サイリスタS、転送サイリスタT)に加工される第2の半導体積層体の一例である。なお、基板80と、基板80上にエピタキシャル成長させた半導体積層体とが、半導体積層基板の一例である。
【0134】
続いて、nオーミック電極形成工程では、まず、nカソード層88上に、nオーミック電極321、323、324などが形成される。
nオーミック電極(nオーミック電極321、323、324など)は、例えばnカソード層88などのn型の半導体層とオーミックコンタクトが取りやすいGeを含むAu(AuGe)などである。
そして、nオーミック電極(nオーミック電極321、323、324など)は、例えばリフトオフ法などにより形成される。
【0135】
続いて、半導体積層体分離工程では、nカソード層88、pゲート層87、nゲート層86、pアノード層85、トンネル接合層84、nカソード(DBR)層83、発光層82、pアノード(DBR)層81を順にエッチングし、アイランド301、302などのアイランドに分離する。このエッチングは、硫酸系のエッチング液(重量比において硫酸:過酸化水素水:水=1:10:300)などを用いたウェットエッチングで行ってもよく、例えば塩化ホウ素などを用いた異方性ドライエッチング(RIE)で行ってもよい。この半導体積層体分離工程におけるエッチングは、メサエッチング又はポストエッチングと呼ばれることがある。
【0136】
続いて、電流阻止部形成工程では、半導体積層体分離工程により、側面が露出した電流狭窄層83bを側面から酸化して、電流を阻止する電流阻止部βを形成する。酸化されないで残った部分が電流通過部αとなる。
電流狭窄層83bの酸化は、例えば、300~400℃での水蒸気酸化により、AlGaAsなどである電流狭窄層83bのAlを酸化させることで行う。このとき、露出した側面から酸化が進行し、アイランド301、302などのアイランドの周囲にAlの酸化物であるAl2O3による電流阻止部βが形成される。電流狭窄層83bの酸化されなかった部分が、電流通過部αとなる。
【0137】
pゲート層出しエッチング工程では、nカソード層88をエッチングして、pゲート層87を露出させる。
このエッチングは、硫酸系のエッチング液(重量比において硫酸:過酸化水素水:水=1:10:300)を用いたウェットエッチングで行ってもよく、例えば塩化ホウ素を用いた異方性ドライエッチングで行ってもよい。
【0138】
pオーミック電極形成工程では、pゲート層87上に、pオーミック電極331、332などが形成される。
pオーミック電極(pオーミック電極331、332など)は、例えばpゲート層87などのp型の半導体層とオーミックコンタクトが取りやすいZnを含むAu(AuZn)などである。
そして、pオーミック電極(pオーミック電極331、332など)は、例えばリフトオフ法などにより形成される。
【0139】
保護層形成工程では、例えばSiO2、SiON、SiNなどの絶縁性材料によりアイランド301、302などの表面を覆うように、保護層90が形成される。
そして、nオーミック電極(nオーミック電極321、323、324など)及びpオーミック電極(pオーミック電極331、332など)の上の保護層90にスルーホール(開口)が設けられる。
【0140】
配線等形成工程では、保護層90に設けられたスルーホールを介して、nオーミック電極(nオーミック電極321、323、324など)及びpオーミック電極(pオーミック電極331、332など)を接続する配線(電源線71、第1転送信号線72、第2転送信号線73、点灯信号線75など)、裏面電極91、遮光層95が形成される。
配線、裏面電極91、遮光層95は、Au、Alなどである。
【0141】
以上の工程により、本実施形態の発光チップ10が得られる。
なお、本実施形態の発光チップ10は、VCSELと設定サイリスタSとを積層させている。これにより、発光チップ10は、転送サイリスタTと設定サイリスタSとにより、VCSELを個別に点灯させる自己走査型となる。これにより、発光チップ10に設けられる端子の数が少なくなり、発光チップ10及び光源装置1が小型になる。
【0142】
[実施形態2]
実施形態1の発光チップ10では、VCSELがpアノード(DBR)層81、発光層82およびnカソード(DBR)層83を備え、pアノード(DBR)層81またはnカソード(DBR)層83により吸収する例を説明した。実施形態2の発光チップ10では、VCSELが、pアノード(DBR)層81、発光層82およびnカソード(DBR)層83に加えて、設定サイリスタSから出射された光を吸収可能な吸収層89を備えている点で、実施形態1とは異なっている。
図8は、実施形態2が適用される発光チップ10を説明する図であり、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランドの拡大断面図の一例である。
図8では、上述した
図4と同様に、VCSEL1と設定サイリスタS1とが積層されたアイランド301と、VCSEL2と設定サイリスタS2とが積層されたアイランド(符号なし)とを示している。なお、
図8において、
図4等に示した実施形態1の発光チップ10と同様の構成については同じ符号を用い、ここでは、詳細な説明は省略する。
【0143】
図8に示すように、実施形態2の発光チップ10は、VCSELが、pアノード(DBR)層81と、発光層82との間に、設定サイリスタSから出射された光を吸収可能な吸収層89を備えている。
実施形態2のVCSELでは、吸収層89の一部が、pアノード(DBR)層81と同様に、隣接するVCSELとの間で連続している。
【0144】
吸収層89は、基板80に格子整合し、且つ設定サイリスタSから出射された光を吸収可能であれば、その材料は特に限定されない。
また、吸収層89による設定サイリスタSから出射された光の吸収は、設定サイリスタSから出射された光と吸収層89とのバンドギャップエネルギの差によるバンド端吸収であってもよく、吸収層89に含まれる不純物等による自由キャリア吸収であってもよい。
【0145】
吸収層89としては、例えば、III-V族化合部半導体を用いることができる。吸収層89としては、pアノード(DBR)層81やnカソード(DBR)層83等と同様に、AlGaAs、AlGaN、AlAs等のAlを含むIII-V族化合物半導体を用いることができる。また、吸収層89としては、GaInP、GaInAs、GaInNAs等のようにAlを含まないIII-V族化合物半導体を用いてもよい。
また、吸収層89には、設定サイリスタSから出射された光を吸収しやすくするために、不純物がドーピングされていてもよい。
また、吸収層89は、一種の化合物半導体からなる単一の層から構成されていてもよく、異なる化合物半導体からなる複数の層から構成されていてもよい。
【0146】
本実施形態の吸収層89の膜厚は、設定サイリスタSから出射される光の波長よりも厚いことが好ましい。吸収層89の膜厚が設定サイリスタSから出射される光の波長よりも厚いことで、自由キャリア吸収により設定サイリスタSから出射された光を吸収しやすくなる。
【0147】
なお、
図8に示した発光チップ10では、吸収層89を、VCSELのpアノード(DBR)層81と発光層82との間に設けているが、これに限られない。例えば、吸収層89を、VCSELの発光層82とnカソード(DBR)層83との間に設けてもよく、pアノード(DBR)層81と発光層82との間と、発光層82とnカソード(DBR)層83との間との双方に設けてもよい。
【0148】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態には限定されない。
例えば、上述した実施形態の光源装置1では、制御部110と発光チップ10の転送部12を、設定サイリスタSを個別に駆動してオン状態に移行させる駆動部とする例を説明したが、制御部110から直に設定サイリスタSに信号を送って設定サイリスタS2を個別に駆動してもよい。
【0149】
その他、本発明の技術思想の範囲から逸脱しない様々な変更や構成の代替は、本発明に含まれる。
【0150】
(付記)
(((1)))
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタとを備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
発光部品。
(((2)))
前記発光素子は、前記サイリスタから出射される光に相当するバンドギャップエネルギと比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を有することを特徴とする(((1)))に記載の発光部品。
(((3)))
前記サイリスタは、Alを含む半導体からなるゲート層を含み、
前記発光素子の前記半導体層は、Alを含み且つAlの含有比率が前記ゲート層のAlの含有比率以下であることを特徴とする(((2)))に記載の発光部品。
(((4)))
前記サイリスタの前記ゲート層は、Alの含有比率が30%未満であることを特徴とする(((3)))に記載の発光部品。
(((5)))
前記発光素子の前記半導体層は、λを前記発光領域による発光波長、nを当該半導体層の屈折率とした場合に、厚さが(λ/4n)×0.4以上(λ/4n)×1.2以下であることを特徴とする(((2)))乃至(((4)))のいずれか1つに記載の発光部品。
(((6)))
複数の前記サイリスタは、複数の前記発光素子に対して前記基板とは反対側に積層されていることを特徴とする(((1)))乃至(((5)))のいずれか1つに記載の発光部品。
(((7)))
前記発光素子は、複数の前記サイリスタのうちの一のサイリスタに対応する第1の領域と、当該一のサイリスタと隣接する他のサイリスタに対応する第2の領域とを有し、当該第1の領域と当該第2の領域との少なくとも一部が連続していることを特徴とする(((6)))に記載の発光部品。
(((8)))
前記発光素子は、前記基板に積層され前記第1の領域と前記第2の領域とに亘って連続している下部半導体層と、当該下部半導体層に積層され当該第1の領域と当該第2の領域との間で分割されている上部半導体層とを含むことを特徴とする(((7)))に記載の発光部品。
(((9)))
前記発光素子は、前記基板上に積層されている下部半導体層と、当該下部半導体層上に積層されている発光層と、当該発光層上に積層されている上部半導体層とを有し、当該上部半導体層と比べて当該下部半導体層のほうが前記サイリスタから出射された光を吸収しやすいことを特徴とする(((6)))に記載の発光部品。
(((10)))
前記発光素子は、発光波長よりも膜厚が厚く、前記サイリスタから出射された光を吸収する吸収層を含むことを特徴とする(((1)))乃至(((9)))のいずれか1つに記載の発光部品。
(((11)))
前記発光素子は、前記基板に積層されている下部半導体層と、当該下部半導体層上に積層されている発光層と、当該発光層上に積層されている上部半導体層とを含み、前記吸収層は、当該下部半導体層と当該上部半導体層との間に設けられていることを特徴とする(((10)))に記載の発光部品。
(((12)))
基板と、
前記基板上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体と、
前記第1の半導体積層体に積層され、ゲート層を含み、複数のサイリスタに加工される第2の半導体積層体とを備え、
前記第1の半導体積層体は、前記第2の半導体積層体の前記ゲート層と比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含む
半導体積層基板。
(((13)))
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、
複数の前記サイリスタを個別に駆動してオン状態に移行させる駆動部と
を備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
発光装置。
(((14)))
基板と、
前記基板上に設けられ、それぞれが発光領域を有する複数の発光素子と、
オン状態になることでそれぞれの前記発光素子の前記発光領域を発光させ、または当該発光領域の発光量を増加させる複数のサイリスタと、
複数の前記サイリスタを個別に駆動し、それぞれの前記発光領域を予め定められたタイミングで発光させる駆動部と、
それぞれの前記発光領域からの光が対象物で反射した反射光に基づいて、当該対象物に関する情報を取得する取得部と
を備え、
前記発光素子は、複数の前記サイリスタの間で、当該サイリスタから出射された光を吸収する
測定装置。
【0151】
(((1)))に係る発光部品によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
(((2)))に係る発光部品によれば、サイリスタから出射される光と比べてバンドギャップエネルギが小さい半導体層を含まない場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
(((3)))に係る発光部品によれば、半導体層が、ゲート層よりもAlの含有比率が大きい半導体からなる場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
(((4)))に係る発光部品によれば、ゲート層におけるAlの含有比率が30%以上である場合と比べて、サイリスタの特性の低下を抑制できる。
(((5)))に係る発光部品によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
(((6)))に係る発光部品によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
(((7)))に係る発光部品によれば、発光素子がサイリスタから出射された光を吸収しない場合と比べて、第1の領域と第2の領域とが連続している部分を介して、一のサイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播しにくくなる。
(((8)))に係る発光部品によれば、発光素子がサイリスタから出射された光を吸収しない場合と比べて、下部半導体層を介して、一のサイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播しにくくなる。
(((9)))に係る発光部品によれば、発光素子がサイリスタから出射された光を吸収しない場合と比べて、下部半導体層を介して、一のサイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播しにくくなる。
(((10)))に係る発光部品によれば、発光素子が吸収層を含まない場合と比べて、サイリスタから出射された光を発光素子で吸収しやすくなる。
(((11)))に係る発光部品によれば、吸収層が下部半導体層と上部半導体層との間にない場合と比べて、サイリスタからの光が、下部半導体層に到達するまでに吸収されやすくなり、下部半導体層を介して他のサイリスタに伝播されにくくなる。
(((12)))に係る半導体積層基板によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
(((13)))に係る発光装置によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
(((14)))に係る測定装置によれば、発光素子または発光素子に加工される半導体積層体がサイリスタから出射される光を吸収しない場合と比べて、サイリスタから出射された光が他のサイリスタに伝播されにくくすることができる。
【符号の説明】
【0152】
1…光源装置、5…3Dセンサ、10…発光チップ、11…発光部、12…転送部、110…制御部、81…pアノード(DBR)層、82…発光層、83…nカソード(DBR)層、84…トンネル接合層、85…pアノード層、86…nゲート層、87…pゲート層、88…nカソード層、80…基板、100…計測装置、200…計測制御部、S…設定サイリスタ、T…転送サイリスタ、VCSEL…垂直共振器面発光レーザ