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特開2024-48240半導体積層基板、発光部品、発光装置、測定装置および半導体積層基板の製造方法
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  • 特開-半導体積層基板、発光部品、発光装置、測定装置および半導体積層基板の製造方法 図1
  • 特開-半導体積層基板、発光部品、発光装置、測定装置および半導体積層基板の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048240
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】半導体積層基板、発光部品、発光装置、測定装置および半導体積層基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20240401BHJP
   G01S 7/481 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
H01S5/026
G01S7/481 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154167
(22)【出願日】2022-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】村田 道昭
(72)【発明者】
【氏名】西崎 早織
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴史
【テーマコード(参考)】
5F173
5J084
【Fターム(参考)】
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC52
5F173AD04
5F173AD30
5F173AG21
5F173AH22
5F173AP05
5F173AP09
5J084AA05
5J084AA13
5J084AD01
5J084BA04
5J084BA07
5J084EA33
(57)【要約】
【課題】発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くした半導体積層基板等を提供する。
【解決手段】半導体積層基板は、基板と、基板の上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体、および、第1の半導体積層体の上に設けられ、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を含む積層構造と、を備え、サイリスタの影響による2つの共振波長が、発光素子の共振波長の両側に位置するように、積層構造の調整が行われたことを特徴とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体、および、当該第1の半導体積層体の上に設けられ、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を含む積層構造と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、半導体積層基板。
【請求項2】
前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体のうち、少なくとも1つの層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項1記載の半導体積層基板。
【請求項3】
前記第2の半導体積層体は、少なくともアノード層と第1ゲート層と第2ゲート層とカソード層とを備え、
前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体の前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項2記載の半導体積層基板。
【請求項4】
前記積層構造の調整は、前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方を前記第1ゲート層および前記第2ゲート層よりも厚くして行われたことを特徴とする、請求項3記載の半導体積層基板。
【請求項5】
前記積層構造は、前記第1の半導体積層体および前記第2の半導体積層体の間に設けられた中間層を含み、
前記積層構造の調整は、前記中間層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項1記載の半導体積層基板。
【請求項6】
前記中間層は、n型半導体により構成されることを特徴とする、請求項5に記載の半導体積層基板。
【請求項7】
前記積層構造の調整は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長の間隔を100%として、前記発光素子の共振波長が当該サイリスタの影響による2つの共振波長の平均から±30%の範囲内に位置するように行われたことを特徴とする、請求項1に記載の半導体積層基板。
【請求項8】
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される、少なくとも1つの発光素子と、
前記第2の半導体積層体により構成され、オン状態となることで前記発光素子を発光または発光量を増大させる、少なくとも1つのサイリスタと、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光部品。
【請求項9】
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、
前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光装置。
【請求項10】
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、
前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、
前記発光部から出射され対象物で反射された光に基づいて、当該対象物に係る測定を行う測定部と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、測定装置。
【請求項11】
基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、
前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、
前記第2の積層体形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように厚さが決定された半導体層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法。
【請求項12】
基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、
前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層形成工程により形成された前記中間層の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、
前記中間層形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように決定された前記中間層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体積層基板、発光部品、発光装置、測定装置および半導体積層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、基板上に設けられ発光素子に加工される第1の半導体積層体と、トンネル接合層または金属的な導電性を有するIII-V族化合物層を介して、第1の半導体積層体上に設けられ、サイリスタを含んで発光素子を駆動する駆動部に加工される第2の半導体積層体と、を備える半導体積層基板について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-006502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発光素子を含む製品の品質の評価等にあたっては、製品の反射プロファイルから把握された発光素子の共振波長が利用される。
ここで、同じ基板の上に発光素子と発光素子の駆動に用いられるサイリスタとを積層した場合、製品の反射プロファイルには、発光素子の共振だけでなくサイリスタの影響による共振の情報が含まれる。このような製品において、発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合、反射プロファイルから発光素子の共振波長を把握することが困難になる。
本発明は、発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くした半導体積層基板等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、基板と、前記基板の上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体、および、当該第1の半導体積層体の上に設けられ、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を含む積層構造と、を備え、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、半導体積層基板である。
請求項2に記載の発明は、前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体のうち、少なくとも1つの層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項1記載の半導体積層基板である。
請求項3に記載の発明は、前記第2の半導体積層体は、少なくともアノード層と第1ゲート層と第2ゲート層とカソード層とを備え、前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体の前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項2記載の半導体積層基板である。
請求項4に記載の発明は、前記積層構造の調整は、前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方を前記第1ゲート層および前記第2ゲート層よりも厚くして行われたことを特徴とする、請求項3記載の半導体積層基板である。
請求項5に記載の発明は、前記積層構造は、前記第1の半導体積層体および前記第2の半導体積層体の間に設けられた中間層を含み、前記積層構造の調整は、前記中間層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、請求項1記載の半導体積層基板である。
請求項6に記載の発明は、前記中間層は、n型半導体により構成されることを特徴とする、請求項5に記載の半導体積層基板である。
請求項7に記載の発明は、前記積層構造の調整は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長の間隔を100%として、前記発光素子の共振波長が当該サイリスタの影響による2つの共振波長の平均から±30%の範囲内に位置するように行われたことを特徴とする、請求項1に記載の半導体積層基板である。
請求項8に記載の発明は、第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、前記第1の半導体積層体により構成される、少なくとも1つの発光素子と、前記第2の半導体積層体により構成され、オン状態となることで前記発光素子を発光または発光量を増大させる、少なくとも1つのサイリスタと、を備え、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光部品である。
請求項9に記載の発明は、第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、を備え、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光装置である。
請求項10に記載の発明は、第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、前記発光部から出射され対象物で反射された光に基づいて、当該対象物に係る測定を行う測定部と、を備え、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、測定装置である。
請求項11に記載の発明は、基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、前記第2の積層体形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように厚さが決定された半導体層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法である。
請求項12に記載の発明は、基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層形成工程により形成された前記中間層の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、前記中間層形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように決定された前記中間層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1,8,9,10,11,12に記載の発明によれば、発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くした半導体積層基板等が提供される。
請求項2に記載の発明によれば、第1の半導体積層体の層の厚さを調整する場合と比較して、発光素子の特性への影響を抑制する。
請求項3に記載の発明によれば、第1ゲート層および第2ゲート層の厚さを調整する場合と比較して、駆動部の特性への影響を抑制する。
請求項4に記載の発明によれば、第1ゲート層および第2ゲート層をアノード層およびカソード層よりも厚くする場合と比較して、駆動部の特性への影響を抑制する。
請求項5に記載の発明によれば、第1の半導体積層体の層の厚さのみを調整する場合と比較して、発光素子の特性への影響を抑制する。
請求項6に記載の発明によれば、中間層がp型半導体により構成される場合と比較して、駆動電圧が小さくなる。
請求項7に記載の発明によれば、発光素子の共振波長が範囲外に位置する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態が適用される測定装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態が適用される発光装置の構成例を説明する図である。
図3】第1の実施の形態が適用される発光チップの平面レイアウト図および断面図の一例である。図3(a)は、発光チップの平面レイアウト図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIB-IIIB線での断面図である。
図4】第1の実施の形態が適用される発光チップにおいて、VCSELと設定サイリスタとが積層されたアイランドの拡大断面図である。
図5】発光装置および発光チップの動作の一例を説明するタイミングチャートである。
図6】第1の実施の形態が適用される半導体積層基板の製造工程を説明する図であり、図6(a)はVCSELに加工される半導体積層体を形成する工程、図6(b)はトンネル接合層を形成する工程、図6(c)はサイリスタに加工される半導体積層体を形成する工程である。
図7】反射率スペクトルに対応する図であり、図7(a)は基板の上に半導体積層体のみを形成した場合の反射率スペクトル、図7(b)は積層構造を形成した場合の反射率スペクトルである。
図8】比較例の半導体積層基板における反射率スペクトルについて説明する図である。
図9】半導体積層基板から発光チップへの加工工程を説明する図である。図9(a)はnオーミック電極等を形成する工程、図9(b)はアイランドへ分離する工程、図9(c)はpゲート層を露出させる工程である。
図10】半導体積層基板から発光チップへの加工工程を説明する図である。図10(d)はpオーミック電極等を形成する工程、図10(e)は保護層を形成する工程、図10(f)は各種配線および裏面電極を形成する工程である。
図11】第2の実施の形態が適用される発光チップおよび半導体積層基板について説明する図であり、図11(a)は第2の実施の形態が適用される発光チップにおいて、VCSELと設定サイリスタとが積層されたアイランドの拡大断面図、図11(b)は第2の実施の形態が適用される半導体積層基板の積層構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態として、第1の実施の形態および第2の実施の形態について詳細に説明する。なお、いずれの実施の形態においても、本発明の実施の形態が適用される半導体積層基板が、発光部品の一例である発光チップに加工され、対象物の三次元形状を測定する測定装置に適用される場合を例にして説明する。
【0009】
<第1の実施の形態>
(測定装置1000)
まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態が適用される測定装置1000の概略構成の一例を示す図である。
測定装置1000は、光の飛行時間による、いわゆるToF(Time of Flight)法に基づいて、対象物の三次元形状を計測する装置であり、対象物に係る測定を行う測定装置の一例である。図示するように、測定装置1000は、測定のための光を出射する発光装置1と、対象物で反射された光を受光する三次元センサ20と、測定装置1000をシステムとして制御するシステム制御部30とを備える。
【0010】
発光装置1は、対象物に向け、測定のための光を出射する。より詳しくは、発光装置1は、発光素子の一例である垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)(図2を用いて後述)を備える発光チップ10と、発光チップ10の発光を制御する発光制御部110とを備える。
発光装置1については、図2~5を用いて詳細を後述する。
【0011】
三次元センサ20は、対象物で反射されて戻ってきた光(反射光)を取得する。そして、ToF法により、光の出射から反射光の受光までの時間に基づいて、対象物までの距離に関する情報(距離情報)を出力する。三次元センサ20は、対象物で反射されて戻ってきた光を受光する受光部の一例である。
【0012】
システム制御部30は、発光装置1および三次元センサ20を制御して、測定装置1000全体をシステムとして制御する。また、システム制御部30は、三次元センサ20から出力された距離情報に基づいて対象物の三次元形状を特定する形状特定部30Aを含む。システム制御部30は例えば、CPU,ROM,RAM等を含むコンピュータであり、ROMには、不揮発性の書き換え可能なメモリ、例えばフラッシュメモリが含まれる。そして、ROMに蓄積されたプログラムがRAMに展開され、CPUがプログラムを実行することによって、形状特定部30Aが構成される。
【0013】
本発明の実施の形態が適用される測定装置1000では、発光装置1が光を出射したタイミングから対象物で反射して三次元センサ20が受光するタイミングまでの時間(光の飛行時間)が計測され、この時間に基づいて距離情報が出力される。そして、三次元センサ20から出力された距離情報に基づいて、形状特定部30Aが対象物の三次元形状を特定する。
このようにして、測定装置1000におけるToF法に基づく三次元形状の測定が行われる。なお、形状特定部30Aは、対象物に係る測定を行う測定部の一例である。
【0014】
(発光装置1)
図2は、本発明の実施の形態が適用される発光装置1の構成例を説明する図であり、発光装置1の等価回路図に相当する。図1を用いて述べたように、発光装置1は、発光チップ10と発光制御部110とを備える。
【0015】
(発光制御部110)
発光制御部110は、転送信号発生部120と、点灯信号発生部140と、基準電位供給部160と、電源電位供給部170とを備え、発光チップ10の発光を制御する。
転送信号発生部120は、複数の転送サイリスタT(後述)に順にオン状態を転送する転送信号φ1,φ2を発生する。点灯信号発生部140は、後述する複数のVCSELを点灯(発光)させる電流を供給する点灯信号φIを発生する。基準電位供給部160は、基準電位Vsubを供給する。電源電位供給部170は、電源電位Vgaを供給する。
【0016】
(発光チップ10)
発光チップ10は、発光部11と、駆動部12と、転送部13とを備える。また、発光チップ10は、信号入力を受け付ける端子として、φ1端子と、φ2端子と、Vga端子と、φI端子と、Vsub端子とを備える。
発光部11は、垂直共振器型面発光レーザVCSELを備える。以下では、垂直共振器型面発光レーザVCSELを単に「VCSEL」と表記する。図2に示す例では、128個のVCSEL1~VCSEL4,…,VCSEL127,VCSEL128(区別しない場合はVCSELと表記する。)を備える。発光チップ10(または発光装置1)は、このVCSELを発光させることで、対象物への光を出射する。
【0017】
駆動部12は、発光部11のVCSEL1~VCSEL4,…,VCSEL127,VCSEL128に対応する128個の設定サイリスタS1~S4,…,S127,S128(区別しない場合は設定サイリスタSと表記する。)を備える。そして、同じ番号のVCSELのアノードと設定サイリスタSのカソードとが接続されることで、同じ番号のVCSELと設定サイリスタSとが直列接続されている。詳細は図3(b)を用いて後述するが、設定サイリスタSは、基板80上に形成されたVCSEL上に積層されている。設定サイリスタSは、オン状態となることでVCSELを発光または発光量を増大させる、サイリスタの一例である。
なお、「VCSEL上」または「VCSELの上」とは、VCSELと直接接触している状態のみを指すのではなく、直接接触せずに上方に位置している状態も含む。「基板上」や「基板の上」等の類似の表現においても同様である。また、「VCSELの下」等の表現も同様に、直接接触せずに下方に位置している状態を含む。
【0018】
転送部13は、128個の転送サイリスタT1~T4,…,T127,T128(区別しない場合は転送サイリスタTと表記する。)、および128個の下部ダイオードUD1~UD4,…,UD127,UD128(区別しない場合は、下部ダイオードUDと表記する。)を備える。そして、転送サイリスタT1~T128および下部ダイオードUD1~UD128について、同じ番号の転送サイリスタTと下部ダイオードUDとが直列されている。詳細は図3(b)を用いて後述するが、転送サイリスタTは、基板80上に形成された下部ダイオードUD上に積層されている。
【0019】
また、転送部13は、転送サイリスタT1~T128をそれぞれ番号順に2つをペアにして、それぞれのペアの間に結合ダイオードD1~D4,…,D126,D127(区別しない場合は結合ダイオードDと表記する。)を備える。例えば、転送サイリスタT1,T2をペアにして、このペアの間に結合ダイオードD1を備えている。
【0020】
転送部13は他に、1個のスタートダイオードSDを備える。
また、転送部13は、電源線抵抗Rg1~Rg4,…,Rg127,Rg128(区別しない場合は、電源線抵抗Rg)、後述する第1転送信号φ1が供給される第1転送信号線72と第2転送信号φ2が供給される第2転送信号線73とに過剰な電流が流れるのを防止するために設けられた電流制限抵抗R1,R2を備える。
【0021】
発光部11のVCSEL1~VCSEL128、駆動部12の設定サイリスタS1~S128、転送部13の転送サイリスタT1~T128、下部ダイオードUD1~UD128、結合ダイオードD1~D127、電源線抵抗Rg1~Rg128は、発光チップ10において、一方側(図2における左側)から他方側(図2における右側)に向けて、番号順に配列されている。
【0022】
図2の例では、発光部11におけるVCSEL、駆動部12における設定サイリスタS、転送部13における転送サイリスタT、下部ダイオードUD、および電源線抵抗Rgは、それぞれ128個としている。なお、結合ダイオードDの数は、転送サイリスタTの数より1個少ない127個である。VCSEL、設定サイリスタS、転送サイリスタT、下部ダイオードUD、および電源線抵抗Rg、結合ダイオードDの数は、上記に限らず、予め定められた個数とすればよい。また、転送サイリスタTの数は、VCSELの数より多くても良い。
【0023】
上記のVCSEL、下部ダイオードUD、結合ダイオードDおよびスタートダイオードSDは、アノード端子(アノード)およびカソード端子(カソード)を備える2端子の半導体素子である。また、サイリスタ(設定サイリスタS、転送サイリスタT)は、アノード端子(アノード)、ゲート端子(ゲート)およびカソード端子(カソード)を備える3端子の半導体素子である。なお、以下では、端子を略して( )内で表記する場合がある。
【0024】
第1の実施の形態が適用される発光チップ10、および後述の第2の実施の形態が適用される発光チップ10-2では、VCSEL、設定サイリスタS、下部ダイオードUD、転送サイリスタT、結合ダイオードD、電源線抵抗Rg、スタートダイオードSDは、共通の半導体基板(以下では、基板80と表記する。)にエピタキシャル成長された半導体積層体により、いわゆる集積回路として構成されている。ここでは、半導体積層体は、一例としてGaAs,AlGaAs,AlAs等のIII-V族化合物半導体により構成されている。
以下では、基板80におけるVCSEL等が形成された面、つまり半導体積層体が形成された面を「表面」、反対側の面を「裏面」と呼ぶ場合がある。
【0025】
次に、発光チップ10における各素子の電気的な接続について説明する。
VCSEL、下部ダイオードUDのそれぞれのアノードは、基板80に接続され、いわゆるアノードコモンで構成される。これらのアノードには、基板80の裏面に設けられたVsub端子である裏面電極91を介して基準電位Vsubが供給される。そして、VCSELのそれぞれのカソードは、設定サイリスタSのアノードに接続されている。また、下部ダイオードUDのそれぞれのカソードは、転送サイリスタTのアノードに接続されている。
なお、この接続は、p型の基板80を用いた場合の構成例である。n型の基板を用いる場合は極性が逆となり、不純物を添加していないイントリンシック(i)型の基板を用いる場合には、基板の表面に、基準電位Vsubを供給する端子が設けられる。
【0026】
転送サイリスタTの配列に沿って、奇数番号の転送サイリスタT1,T3,T5,…,T125,T127のカソードは、第1転送信号線72に接続されている。そして、第1転送信号線72は、電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている。このφ1端子には、発光制御部110の転送信号発生部120から第1転送信号φ1が供給される。
また、転送サイリスタTの配列に沿って、偶数番号の転送サイリスタT2,T4,T6,…T126,T128のカソードは、第2転送信号線73に接続されている。そして、第2転送信号線73は、電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている。このφ2端子には、発光制御部110の転送信号発生部120から第2転送信号φ2が供給される。
【0027】
設定サイリスタSのそれぞれのカソードは、点灯信号線75に接続されている。点灯信号線75は、φI端子に接続されている。発光チップ10において、φI端子には、発光チップ10の外側に設けられた電流制限抵抗RIを介して、発光制御部110の点灯信号発生部140から点灯信号φIが供給される。点灯信号φIは、VCSELの点灯(発光)のための電流を供給する。
【0028】
転送サイリスタT1~T128のそれぞれのゲートGt1~Gt128(区別しない場合は、ゲートGtと表記する。)は、同じ番号の設定サイリスタS1~S128のゲートGs1~Gs128(区別しない場合は、ゲートGsと表記する。)に、1対1で接続されている。よって、ゲートGt1~Gt128とゲートGs1~Gs128とは、同じ番号のものが電気的に同電位になっている。よって、例えばゲートGt1(ゲートGs1)と表記して、電位が同じであることを示す。
【0029】
転送サイリスタT1~T128のそれぞれのゲートGt1~Gt128を番号順に2個ずつペアとしたゲートGt間に、結合ダイオードD1~D127がそれぞれ接続されている。すなわち、結合ダイオードD1~D127はそれぞれがゲートGt1~Gt128のそれぞれの間に挟まれるように直接接続されている。そして、結合ダイオードD1の向きは、ゲートGt1からゲートGt2に向かって電流が流れる方向に接続されている。他の結合ダイオードD2~D127についても同様である。
【0030】
転送サイリスタのゲートGt(ゲートGs)は、転送サイリスタTのそれぞれに対応して設けられた電源線抵抗Rgを介して、電源線71に接続されている。電源線71はVga端子に接続されている。Vga端子には、発光制御部110の電源電位供給部170から電源電位Vgaが供給される。
そして、転送サイリスタTのゲートGt1は、スタートダイオードSDのカソードに接続されている。一方、スタートダイオードSDのアノードは、第2転送信号線73に接続されている。
【0031】
図3は、第1の実施の形態が適用される発光チップ10の平面レイアウト図および断面図の一例である。図3(a)は、発光チップ10の平面レイアウト図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIB-IIIB線での断面図である。図3(a)における右側を+x方向、上側を+y方向とし、図3(b)における上側を+y方向とする。なお、図3(a)では、後述する保護層90を省略している。
【0032】
図3(a)では、VCSEL1~VCSEL4、設定サイリスタS1~S4、転送サイリスタT1~T4、下部ダイオードUD1~UD4を中心とした部分を示している。なお、便宜上、VCSELが一列(図3(a)におけるx方向)に配列された例を示しているが、VCSELの配列は限定されるものではなく、例えばx方向およびy方向に亘って二次元状に配列されていても良い。
また、基板80の裏面に設けられたVsub端子(裏面電極91)は、基板80の外に引き出して示している。
【0033】
図3(a)のIIIB-IIIB線での断面図である図3(b)では、図中下側(-y方向)より設定サイリスタS1/VCSEL1、転送サイリスタT1/下部ダイオードUD1、結合ダイオードD1、電源線抵抗Rg1が示されている。なお、設定サイリスタS1とVCSEL1とは積層されている。同様に、転送サイリスタT1と下部ダイオードUD1とは積層されている。
【0034】
まず、発光チップ10の断面構造を、図3(b)により説明する。
発光チップ10は、p型の基板80(基板80)上に、VCSELおよび下部ダイオードUDを構成するp型のアノード層81、発光層82、n型のカソード層83が順に設けられている。詳細については後述するが、発光チップ10では、p型のアノード層81およびn型のカソード層83は、屈折率差を有する半導体層が複数積層された分布ブラッグ反射層(DBR:Distributed Bragg Reflector)(以下では、DBR層と表記する。)により構成されている。したがって、以下では、p型のアノード層81をpアノード(DBR)層81と表記し、n型のカソード層83をnカソード(DBR)層83と表記する。
【0035】
また、nカソード(DBR)層83上には、トンネル接合(トンネルダイオード)層84(トンネル接合層84)が設けられている。
さらに、トンネル接合層84上には、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードD、電源線抵抗Rgを構成するp型のアノード層85(pアノード層85)、n型のゲート層86(nゲート層86)、p型のゲート層87(pゲート層87)、n型のカソード層88(nカソード層88)が順に設けられている。
なお、以下では、( )内の表記を用いる。他の場合も同様とする。
【0036】
そして、図3(b)に示すように、発光チップ10は、各アイランドの表面および側面を覆うようにして、絶縁材料により構成された保護層90を有している。また、保護層90において、VCSELに対し基板80とは反対側の面には、VCSELの発光による光を出射するための光出射口90Aが設けられている。言い換えると、図3(b)の例において、設定サイリスタSのnカソード層88の一部は保護層90に覆われていない。
【0037】
VCSEL、下部ダイオードUD、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードD等の素子は、上記の各層の一部がエッチングにより除去されて分離された複数のアイランド(島)301,302,303から構成されている。なお、アイランドは、メサと表記される場合があり、アイランド(メサ)を形成するエッチングは、メサエッチングと表記される場合がある。
そして、発光チップ10では、これらのアイランド301,302,303と、電源線71、第1転送信号線72、第2転送信号線73、点灯信号線75等の配線とが、保護層90に設けられたスルーホール(図3(a)に〇で示す。)を介して接続されている。以下の説明では、保護層90およびスルーホールについての説明を省略する。
【0038】
また、図3(b)に示すように、基板80の裏面には、Vsub端子となる裏面電極91が設けられている。
【0039】
ここでは、pアノード(DBR)層81、nカソード(DBR)層83の表記は、VCSEL、下部ダイオードUDを構成する場合の機能(働き)に対応させている。すなわち、pアノード(DBR)層81はアノード、nカソード(DBR)層83はカソードとして機能する。また、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88の表記は、設定サイリスタSおよび転送サイリスタTを構成する場合の機能(働き)に対応させている。すなわち、pアノード層85はアノード、nゲート層86およびpゲート層87はゲート、nカソード層88はカソードとして機能する。
その他、上記の各層が結合ダイオードD、電源線抵抗Rgを構成する場合には、後述するように異なる機能を有する。
【0040】
なお、発光チップ10が有する複数のアイランドは、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83、トンネル接合層84、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88のうち、層の一部を備えていないものを含む。例えば、アイランド301は、nカソード層88の一部を備えない。
【0041】
次に、発光チップ10の平面レイアウトの一例について説明する。
図3(a)に示すように、アイランド301には、VCSEL1および設定サイリスタS1が設けられている。アイランド302には、下部ダイオードUD1、転送サイリスタT1および結合ダイオードD1が設けられている。アイランド303には、電源線抵抗Rg1が設けられている。アイランド304には、スタートダイオードSDが設けられている。また、アイランド305には電流制限抵抗R1が設けられ、アイランド306には電流制限抵抗R2が設けられている。
【0042】
そして、発光チップ10には、アイランド301,302,303と同様なアイランドが、並列して複数形成されている。これらのアイランドには、VCSEL2~VCSEL128、設定サイリスタS2~S128、下部ダイオードUD2~UD128、転送サイリスタT2~T128、結合ダイオードD2~D127等が、アイランド301,302,303と同様に設けられている。
【0043】
ここで、図3(a),(b)により、アイランド301~306について詳細に説明する。
図3(b)に示すように、アイランド301に設けられたVCSEL1は、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83で構成されている。また、設定サイリスタSは、VCSEL1のnカソード(DBR)層83上に積層されたトンネル接合層84を介して積層されたpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。
【0044】
そして、アイランド301において、nカソード層88(領域311)上に設けられたn型のオーミック電極321(nオーミック電極321)をカソード電極とする。また、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたp型のオーミック電極331(pオーミック電極331)をゲートGs1の電極(ゲート端子Gs1と表記することがある。)とする。
なお、nオーミック電極321は、VCSEL1から出射された光を遮らないように設けられており、例えば、保護層90と同様の光出射口(符号なし)を備えていて良い。図3(b)の例においては、保護層90の光出射口90Aと設定サイリスタSの光出射口とが対応する部分に設けられ、nカソード層88の一部は保護層90およびnオーミック電極321に覆われておらず、露出した状態となっている。
【0045】
ここで、VCSELのpアノード(DBR)層81には、電流を狭窄する電流狭窄層が含まれていて良い。電流狭窄層は、メサエッチングにより露出させたpアノード(DBR)層を構成する半導体層の一部が外周から酸化されることで、電流が流れにくい電流阻止部とされることによって形成される。pアノード(DBR)層を構成する半導体層が酸化されなかった中央部は、電流阻止部に対して電流が流れやすい電流通過部となる。なお、電流阻止部は、電流通過部に電流を集中させ得るものであれば良いため、完全に電流を阻止する必要はなく、電流通過部より電流が流れにくくなれば良い。
このような電流阻止部を設けることで、低消費電力化および光取り出し効率の向上が図れる。なお、光取り出し効率とは、電力当たりに取り出すことができる光量のことを指す。
【0046】
アイランド302に設けられた下部ダイオードUD1は、VCSELと同様に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83で構成されている。転送サイリスタT1は、設定サイリスタS1と同様に、下部ダイオードUD1のnカソード(DBR)層83上に積層されたトンネル接合層84を介して積層されたpアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。そして、nカソード層88の領域313上に設けられたnオーミック電極323をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極332をゲートGt1の端子とする。
同じく、アイランド302に設けられた結合ダイオードD1は、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。そして、nカソード層88の領域314上に設けられたnオーミック電極324をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極332をアノード端子とする。ここでは、結合ダイオードDのアノード端子は、ゲートGt1と同じである。
【0047】
アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1は、pゲート層87で構成されている。つまり、電源線抵抗Rg1は、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極333とpオーミック電極334との間のpゲート層87を抵抗として設けられている。
【0048】
アイランド304に設けられたスタートダイオードSDは、pゲート層87、nカソード層88で構成されている。つまり、スタートダイオードSDは、nカソード層88の領域315上に設けられたnオーミック電極325をカソード端子とする。さらに、nカソード層88を除去して露出させたpゲート層87上に設けられたpオーミック電極335をアノード端子とする。
アイランド305に設けられた電流制限抵抗R1、アイランド306に設けられた電流制限抵抗R2は、アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1と同様に設けられ、それぞれが2個のpオーミック電極(符号なし)間のpゲート層87を抵抗とする。
【0049】
次に、図3(a)において、各素子間の接続関係を説明する。
点灯信号線75は、幹部75aと複数の枝部75bとを備える。幹部75aは設定サイリスタS/VCSELの列方向に延びるように設けられている。枝部75bは幹部75aから枝分かれして、アイランド301に設けられた設定サイリスタS1のカソード端子であるnオーミック電極321と接続されている。他の設定サイリスタSのカソード端子も同様である。点灯信号線75は、設定サイリスタS1/VCSEL1側に設けられたφI端子に接続されている。
【0050】
第1転送信号線72は、アイランド302に設けられた転送サイリスタT1のカソード端子であるnオーミック電極323に接続されている。第1転送信号線72には、アイランド302と同様なアイランドに設けられた、他の奇数番号の転送サイリスタTのカソード端子が接続されている。第1転送信号線72は、アイランド305に設けられた電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている。
また、第2転送信号線73は、偶数番号の転送サイリスタTのカソード端子であるnオーミック電極(符号なし)に接続されている。第2転送信号線73は、アイランド306に設けられた電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている。
【0051】
電源線71は、アイランド303に設けられた電源線抵抗Rg1の一方の端子であるpオーミック電極334に接続されている。他の電源線抵抗Rgの一方の端子も電源線71に接続されている。電源線71は、Vga端子に接続されている。
【0052】
アイランド301に設けられた設定サイリスタS1のpオーミック電極331(ゲート端子Gs1)は、アイランド302のpオーミック電極332(ゲート端子Gt1)に接続配線76で接続されている。
また、pオーミック電極332(ゲート端子Gt1)は、アイランド303のpオーミック電極333(電源線抵抗Rg1の他方の端子)に接続配線77で接続されている。
さらに、アイランド302に設けられたnオーミック電極324(結合ダイオードD1のカソード端子)は、隣接する転送サイリスタT2のゲート端子Gt2であるp型オーミック電極(符号なし)に接続配線79で接続されている。
ここでは説明を省略するが、他のVCSEL、設定サイリスタS、転送サイリスタT、結合ダイオードD等についても同様である。
【0053】
アイランド302のpオーミック電極332(ゲート端子Gt1)は、アイランド304に設けられたnオーミック電極325(スタートダイオードSDのカソード端子)に接続配線78で接続されている。pオーミック電極335(スタートダイオードSDのアノード端子)は、第2転送信号線73に接続されている。
なお、上記の接続および構成は、p型の基板80を用いた際のものであり、n型の基板を用いる場合は、極性が逆となる。また、i型の基板を用いる場合は、基板の表面に、基準電位Vsubを供給する端子が設けられる。そして、接続および構成は、p型の基板を用いる場合、n型の基板を用いる場合のどちらかと同様になる。
【0054】
(積層構造L1)
図4は、第1の実施の形態が適用される発光チップ10において、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランド301の拡大断面図であり、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランドの断面を-y方向から見た図に対応する。この状態ではpオーミック電極331が見えなくなるため、pオーミック電極331の部分は、図3(a)の-x方向から見た図とした。なお、保護層90を省略している。
【0055】
前述したように、発光チップ10のアイランド301では、VCSEL上にトンネル接合層84を介して設定サイリスタSが積層されている。言い換えると、基板80の上に、VCSELを構成する半導体積層体Lvと、トンネル接合層84と、設定サイリスタSを構成する半導体積層体Lsとを含む積層構造L1が形成されている。
ここで、発光チップ10において、半導体積層体Lvは発光素子を構成する第1の半導体積層体の一例であり、半導体積層体Lsはサイリスタを構成する第2の半導体の一例である。そして、積層構造L1は、第1の半導体積層体と第2の半導体積層体とを含む積層構造の一例である。
【0056】
(VCSEL/半導体積層体Lv)
図4に示すように、VCSELは、p型の基板80上に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83を順にエピタキシャル成長させた半導体積層体Lvで構成されている。
pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とが交互に複数積層されたDBR層である。そして、pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、VCSELの出射する光を反射するように構成されている。先述したように、pアノード(DBR)層81には、電流を狭窄する電流狭窄層が含まれていて良い。
【0057】
発光層82は、井戸(ウエル)層と障壁(バリア)層とが交互に積層された量子井戸構造である。なお、発光層82は、不純物を添加していないイントリンシック(i)型の層(i層)であってもよい。また、発光層82は、量子井戸構造以外であってもよく、例えば、量子線(量子ワイヤ)や量子箱(量子ドット)であってもよい。
VCSELでは、発光層82を挟む2つのDBR層(pアノード(DBR)層81とnカソード(DBR)層83)により、光を共振波長λvで共振させてレーザ発振を実現する。そして、この光は、設定サイリスタSを透過して、光出射口90A(図3参照)から出射される。
【0058】
トンネル接合層84は、n型の不純物(ドーパント)を高濃度に添加したn++層と、p型の不純物を高濃度に添加したp++層との接合であり、逆バイアスであってもトンネル効果によって電流が流れる。トンネル接合層84は、VCSELのnカソード(DBR)層83と、設定サイリスタSとが、逆バイアスになって電流が流れにくくなることを抑制する。逆バイアスであってもトンネル効果によって電流が流れる。
【0059】
(設定サイリスタS/半導体積層体Ls)
設定サイリスタSは、トンネル接合層84上に積層された、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88を順にエピタキシャル成長させた半導体積層体Lsで構成されている。すなわち、pnpnの4層構造である。
ここで、第1の実施の形態が適用される発光チップ10では、図6,7を用いて後述する積層構造L1の調整に伴い、nカソード層88がnゲート層86およびpゲート層87よりも厚くなっている。また、pアノード層85がnカソード層88よりも厚くなっている。つまり、設定サイリスタSを構成する半導体積層体Lsにおける各層の厚さを、それぞれの半導体層の符号iを用いてt(i)と表記すると、t(86),t(87)<t(88)<t(85)となっている。
【0060】
なお、上記においては、pゲート層87にオーミック電極331を設けて設定サイリスタSのゲートGsとしたが、nゲート層86にnオーミック電極を設けて設定サイリスタSのゲートGsとしてもよい。
【0061】
続いて、図2~4を参照して、サイリスタ(転送サイリスタT、設定サイリスタS)の基本的な動作を説明する。
サイリスタは、前述したように、アノード端子(アノード)、カソード端子(カソード)、ゲート端子(ゲート)の3端子を有する半導体素子であって、p型の半導体層(pアノード層85、pゲート層87)、n型の半導体層(nゲート層86、nカソード層88)を基板80上に積層して構成された、pnpn構造を有している。ここでは、p型の半導体層とn型の半導体層とで構成されるpn接合の順方向電位(拡散電位)Vdが、一例として、1.5Vであるとする。
また、一例として、Vsub端子である裏面電極91に供給される基準電位Vsubをハイレベルの電位(以下では「H」と表記する。)として0V、Vga端子に供給される電源電位Vgaをローレベルの電位(以下では「L」と表記する。)として-5Vとして説明する。よって、「H」(0V),「L」(-5V)と表記することがある。
【0062】
まず、サイリスタ単体の動作を説明する。ここでは、サイリスタのアノードは0Vであるとする。アノードとカソードとの間に電流が流れていないオフ状態のサイリスタは、しきい電圧より低い電位(絶対値が大きい負の電位)がカソードに印加されるとオン状態に移行(ターンオン)する。ここで、サイリスタのしきい電圧は、ゲートの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値である。
オン状態になると、サイリスタのゲートは、アノード端子の電位に近い電位になる。ここでは、アノードは0Vであるので、ゲートは、0Vになるとする。また、オン状態のサイリスタのカソードは、アノードの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた電位に近い電位となる。ここでは、アノードは0Vであるので、オン状態のサイリスタのカソードは、-1.5Vに近い電位(絶対値が1.5Vより大きい負の電位)となる。なお、カソードの電位は、オン状態のサイリスタに電流を供給する電源との関係で設定される。
【0063】
オン状態のサイリスタは、カソードが、オン状態を維持するために必要な電位(上記の-1.5Vに近い電位)より高い電位(絶対値が小さい負の電位、0Vまたは正の電位)になると、オフ状態に移行(ターンオフ)する。
一方、オン状態のサイリスタのカソードに、オン状態を維持するために必要な電位より低い電位(絶対値が大きい負の電位)が継続的に印加され、オン状態を維持しうる電流(維持電流)が供給されると、サイリスタはオン状態を維持する。
【0064】
次に、VCSELと設定サイリスタSとが積層された状態での動作を説明する。
設定サイリスタSは、VCSELと積層され、直列接続されている。よって、点灯信号φIの電位が、VCSELと設定サイリスタSとに分圧される。ここでは、分圧の結果としてVCSELに印加される電圧を、仮に-1.7Vであるとして説明する。すると、設定サイリスタSがオフ状態の場合、設定サイリスタSに-3.3Vが印加される。
【0065】
上述したように、オフ状態にある設定サイリスタSのしきい電圧が-3.3Vより絶対値において大きい場合には、設定サイリスタSのカソードに印加される電位がしきい電圧より低いため、設定サイリスタSがターンオンする。すると、直列接続されたVCSELと設定サイリスタSとに電流が流れて、VCSELが発光する。一方、設定サイリスタSのしきい電圧が-3.3Vよりも絶対値において小さい場合には、設定サイリスタSはターンオンせず、オフ状態を維持する。
なお、設定サイリスタSがターンオンすると、電流制限抵抗RIにより、直列接続されたVCSELと設定サイリスタSとに印加される電圧が絶対値において低下する。しかし、設定サイリスタSに印加される電圧が、設定サイリスタSのオン状態を維持する電圧であれば、設定サイリスタSはオン状態を維持する。これにより、VCSELも発光を継続する。
【0066】
(発光装置1の動作)
続いて、図1~5を参照して、発光装置1の動作について説明する。
図5は、発光装置1および発光チップ10の動作の一例を説明するタイミングチャートである。図5は、発光チップ10のVCSEL1~VCSEL5の5個のVCSELの点灯(発光)/非点灯(非発光)を制御する部分のタイミングチャートである。なお、図5では、VCSEL1,VCSEL2,VCSEL3を点灯(発光)させ、VCSEL4を非点灯(非発光)としている。
【0067】
図5において、時刻aから時刻kへとアルファベット順に時刻が経過するとする。このとき、VCSEL1は期間T(1)において、VCSEL2は期間T(2)において、VCSEL3は期間T(3)において、VCSEL4は期間T(4)において点灯または非点灯の制御(点灯制御と表記する。)がされる。なお、期間T(1),T(2),T(3),…は同じ長さの期間とし、それぞれを区別しないときは期間Tと表記する。
以下では、「H」(0V)および「L」(-5V)を、「H」および「L」と省略する場合がある。
【0068】
φ1端子に送信される第1転送信号φ1およびφ2端子に送信される第2転送信号φ2は、「H」と「L」との2つの電位を有する信号である。そして、第1転送信号φ1および第2転送信号φ2は、連続する2つの期間T(例えば、期間T(1)と期間T(2))を単位として波形が繰り返される。
【0069】
第1転送信号φ1は、期間T(1)の開始時刻bで「H」から「L」に移行し、時刻fで「L」から「H」に移行する。そして、期間T(2)の終了時刻iにおいて、「H」から「L」に移行する。
第2転送信号φ2は、期間T(1)の開始時刻bにおいて「H」(0V)であって、時刻eで「H」から「L」に移行する。そして、期間T(2)の終了時刻iにおいて「L」から「H」に移行する。
第1転送信号φ1と第2転送信号φ2とを比較すると、第2転送信号φ2は、第1転送信号φ1を時間軸上で期間T後ろにずらしたものに当たる。一方、第2転送信号φ2は、期間T(1)において、破線で示す波形および期間T(2)での波形が、期間T(3)以降において繰り返す。第2転送信号φ2の期間T(1)の波形が期間T(3)以降と異なるのは、期間T(1)は発光装置1が動作を開始する期間であるためである。
【0070】
第1転送信号φ1と第2転送信号φ2との一組の転送信号は、後述するように、転送サイリスタTのオン状態を番号順に伝播させることにより、オン状態の転送サイリスタTと同じ番号のVCSELを、点灯または非点灯(点灯制御)の対象として指定する。
【0071】
次に、φI端子に供給される点灯信号φIについて説明する。点灯信号φIは、「H」と「L」との2つの電位を有する信号である。
ここでは、VCSEL1に対する点灯制御の期間T(1)において、点灯信号φIを説明する。点灯信号φIは、期間T(1)の開始時刻bにおいて「H」であって、時刻cで「H」から「L」に移行する。そして、時刻dで「L」から「H」に移行し、時刻eにおいて「H」を維持する。
【0072】
(1)時刻a
時刻aにおいて、発光装置1の発光制御部110の基準電位供給部160は、基準電位Vsubを「H」に設定する。発光制御部110の電源電位供給部170は、電源電位Vgaを「L」に設定する。発光制御部110の転送信号発生部120は、第1転送信号φ1、第2転送信号φ2をそれぞれ「H」に設定する。これにより、発光チップ10のφ1端子およびφ2端子が「H」となる。電流制限抵抗R1を介してφ1端子に接続されている第1転送信号線72の電位も「H」になり、電流制限抵抗R2を介してφ2端子に接続されている第2転送信号線73も「H」になる。
そして、発光制御部110の点灯信号発生部140は、点灯信号φIを「H」に設定する。これにより、発光チップ10のφI端子が、電流制限抵抗RIを介して「H」になり、φI端子に接続された点灯信号線75も「H」となる。
【0073】
設定サイリスタSのアノード(pアノード層85)は、トンネル接合層84を介して、VCSELのカソード(nカソード(DBR)層83)に接続され、VCSELのアノード(pアノード(DBR)層81)は、「H」に設定されたVsub端子に接続されている。
転送サイリスタTのアノード(pアノード層85)は、トンネル接合層84を介して、下部ダイオードUDのカソード(nカソード(DBR)層83)に接続され、下部ダイオードUDのアノード(pアノード(DBR)層81)は、「H」に設定されたVsub端子に接続されている。
【0074】
奇数番号の転送サイリスタT1,T3,T5のそれぞれのカソードは、第1転送信号線72に接続され、「H」に設定されている。偶数番号の転送サイリスタT2,T4,T6のそれぞれのカソードは、第2転送信号線73に接続され、「H」に設定されている。よって、転送サイリスタTは、アノードおよびカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。また、下部ダイオードUDも、アノードおよびカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。
【0075】
設定サイリスタSのカソード端子は、「H」(0V)の点灯信号線75に接続されている。よって、設定サイリスタSは、アノードおよびカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。また、VCSELも、アノードおよびカソードがともに「H」となり、オフ状態にある。
【0076】
ゲートGt1は、前述したように、スタートダイオードSDのカソードに接続されている。ゲートGt1は、電源線抵抗Rg1を介して、電源電位Vga(「L」)の電源線71に接続されている。そして、スタートダイオードSDのアノード端子は第2転送信号線73に接続され、電流制限抵抗R2を介して、「H」のφ2端子に接続されている。よって、スタートダイオードSDは順バイアスであり、スタートダイオードSDのカソード(ゲートGt1)は、スタートダイオードSDのアノードの電位(「H」)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値(-1.5V)になる。また、ゲートGt1が-1.5Vになると、結合ダイオードD1は、アノード(ゲートGt1)が-1.5Vで、カソードが電源線抵抗Rg2を介して電源線71(「L」)に接続されているので、順バイアスになる。よって、ゲートGt2の電位は、ゲートGt1の電位(-1.5V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-3Vになる。さらに、結合ダイオードD2は、アノード(ゲートGt1)が-3Vで、カソードが電源線抵抗Rg2を介して電源線71(「L」)に接続されているので、順バイアスになる。よって、ゲートGt3の電位は、ゲートGt2の電位(-3V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-4.5Vになる。しかし、4以上の番号のゲートGtには、スタートダイオードSDのアノードが「H」であることの影響は及ばず、これらのゲートGtの電位は、電源線71の電位である「L」になっている。
【0077】
なお、ゲートGtはゲートGsであるので、ゲートGsの電位は、ゲートGtの電位と同じである。よって、転送サイリスタT、設定サイリスタSのしきい電圧は、ゲートGt、Gsの電位からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた値となる。すなわち、転送サイリスタT1、設定サイリスタS1のしきい電圧は-3V、転送サイリスタT2、設定サイリスタS2のしきい電圧は-4.5V、転送サイリスタT3、設定サイリスタS3のしきい電圧は-6V、番号が4以上の転送サイリスタT、設定サイリスタSのしきい電圧は-6.5Vとなっている。
【0078】
(2)時刻b
図5に示す時刻bにおいて、第1転送信号φ1が、「H」から「L」に移行する。これにより発光装置1は、動作を開始する。
第1転送信号φ1が「H」から「L」に移行すると、φ1端子および電流制限抵抗R1を介して、第1転送信号線72の電位が、「H」から「L」に移行する。すると、転送サイリスタT1に印加されている電圧は-3.3Vであるので、しきい電圧が-3Vである転送サイリスタT1がターンオンする。このとき、下部ダイオードUD1に電流が流れてオフ状態からオン状態に移行する。転送サイリスタT1がターンオンすることで、第1転送信号線72の電位は、転送サイリスタT1のアノードの電位(下部ダイオードUD1に印加された電位である-1.7V)からpn接合の順方向電位Vd(1.5V)を引いた-3.2Vに近い電位(絶対値が3.2Vより大きい負の電位)になる。
なお、転送サイリスタT3はしきい電圧が-6Vであり、転送サイリスタT5はしきい電圧が-6.5Vである。転送サイリスタT3および転送サイリスタT5に印加される電圧は、VCSELに印加される電圧1.7Vを-3.2Vに足した-1.5Vになるので、転送サイリスタT3および転送サイリスタT5はターンオンしない。
一方、偶数番号の転送サイリスタTは、第2転送信号φ2が「H」、かつ、第2転送信号線73が「H」であるのでターンオンできない。
【0079】
転送サイリスタT1がターンオンすると、ゲートGt1/Gs1の電位は、転送サイリスタT1のアノードの電位である「H」になる。そして、ゲートGt2(ゲートGs2)の電位が-1.5V、ゲートGt3(ゲートGs3)の電位が-3V、ゲートGt4(ゲートGs4)の電位が-4.5V、番号が5以上のゲートGt(ゲートGl)の電位が「L」になる。
これにより、設定サイリスタS1のしきい電圧が-1.5V、転送サイリスタT2、設定サイリスタS2のしきい電圧が-3V、転送サイリスタT3、設定サイリスタS3のしきい電圧が-4.5V、転送サイリスタT4、設定サイリスタS4のしきい電圧が-6V、転送サイリスタT5,T6、設定サイリスタS5,S6のしきい電圧が-6.5Vになる。
しかし、第1転送信号線72は、オン状態の転送サイリスタT1により-1.5Vになっているので、オフ状態の奇数番号の転送サイリスタTはターンオンしない。第2転送信号線73は「H」であるので、偶数番号の転送サイリスタTはターンオンしない。また、点灯信号線75は「H」であるので、いずれのVCSELも点灯しない。
【0080】
時刻bの直後(ここでは、時刻bにおける信号の電位の変化によってサイリスタ等の変化が生じた後、定常状態になったときをいう。)において、転送サイリスタT1、下部ダイオードUD1がオン状態にあって、他の転送サイリスタT、下部ダイオードUD、設定サイリスタS、VCSELはオフ状態にある。
【0081】
(3)時刻c
時刻cにおいて、点灯信号φIが「H」から「L」に移行する。
点灯信号φIが「H」から「L」に移行すると、電流制限抵抗RIおよびφI端子を介して、点灯信号線75が「H」から「L」に移行する。すると、VCSELに印加される電圧1.7Vを足した-3.3Vが設定サイリスタS1に印加され、しきい電圧が-1.5Vである設定サイリスタS1がターンオンして、VCSEL1が点灯(発光)する。これにより、点灯信号線75の電位が-3.2Vに近い電位になる。なお、設定サイリスタS2はしきい電圧が-3Vであるが、設定サイリスタS2に印加される電圧は、VCSELに印加される電圧1.7Vを-3.2Vに足した-1.5Vになるので、設定サイリスタS2はターンオンしない。
時刻cの直後において、転送サイリスタT1、下部ダイオードUD1、設定サイリスタS1がオン状態にあって、VCSEL1が点灯(発光)している。
【0082】
(4)時刻d
時刻dにおいて、点灯信号φIが「L」から「H」に移行する。
点灯信号φIが「L」から「H」に移行すると、電流制限抵抗RIおよびφI端子を介して、点灯信号線75の電位が-3.2Vから「H」に移行する。すると、設定サイリスタS1のカソードおよびVCSEL1のアノードがともに「H」になるので設定サイリスタS1がターンオフするとともに、VCSEL1が消灯する(非点灯になる)。VCSEL1の点灯期間は、点灯信号φIが「H」から「L」に移行した時刻cから、点灯信号φIが「L」から「H」に移行する時刻dまでの、点灯信号φIが「L」である期間となる。
時刻dの直後において、転送サイリスタT1がオン状態にある。
【0083】
(5)時刻e
時刻eにおいて、第2転送信号φ2が「H」から「L」に移行する。ここで、VCSEL1を点灯制御する期間T(1)が終了し、VCSEL2を点灯制御する期間T(2)が開始する。
第2転送信号φ2が「H」から「L」に移行すると、φ2端子を介して第2転送信号線73の電位が「H」から「L」に移行する。前述したように、転送サイリスタT2は、しきい電圧が-3Vになっているので、ターンオンする。このとき、下部ダイオードUD2にも電流が流れてオフ状態からオン状態に移行する。
これにより、ゲート端子Gt2(ゲート端子Gs2)の電位が「H」(0V)、ゲートGt3(ゲートGs3)の電位が-1.5V、ゲートGt4(ゲートGs4)の電位が-3V、ゲートGt5(ゲートGs5)の電位が-4.5V、ゲートGt6(ゲートGs6)の電位が-5Vになる。
時刻eの直後において、転送サイリスタT1,T2、下部ダイオードUD1,UD2がオン状態にある。
【0084】
(6)時刻f
時刻fにおいて、第1転送信号φ1が「L」から「H」に移行する。
第1転送信号φ1が「L」から「H」に移行すると、φ1端子を介して第1転送信号線72の電位が「L」から「H」に移行する。すると、オン状態の転送サイリスタT1は、アノードおよびカソードがともに「H」になって、ターンオフする。このとき、下部ダイオードUD1のアノードおよびカソードもともに「H」になって、オン状態からオフ状態に移行する。
すると、ゲートGt1(ゲートGs1)の電位は、電源線抵抗Rg1を介して、電源線71の電源電位Vga(「L」)に向かって変化する。これにより、結合ダイオードD1が電流の流れない方向に電位が加えられた状態(逆バイアス)になる。よって、ゲートGt2(ゲートGs2)が「H」である影響は、ゲートGt1(ゲートGs1)には及ばなくなる。すなわち、逆バイアスの結合ダイオードDで接続されたゲートGtを有する転送サイリスタTは、しきい電圧が-6.5Vになって、第1転送信号φ1または第2転送信号φ2が「L」になっても、ターンオンしなくなる。
時刻fの直後において、転送サイリスタT2、下部ダイオードUD2がオン状態にある。
【0085】
(7)その他
時刻gにおいて、点灯信号φIが「H」から「L」に移行すると、時刻cでのVCSEL1および設定サイリスタS1と同様に、設定サイリスタS2がターンオンして、VCSEL2が点灯(発光)する。
そして、時刻hにおいて、点灯信号φIが「L」から「H」に移行すると、時刻dでのVCSEL1および設定サイリスタS1と同様に、設定サイリスタS2がターンオフして、VCSEL2が消灯する。
さらに、時刻iにおいて、第1転送信号φ1が「H」から「L」に移行すると、時刻bでの転送サイリスタT1または時刻eでの転送サイリスタT2と同様に、しきい電圧が-3Vの転送サイリスタT3がターンオンする。時刻iで、VCSEL2を点灯制御する期間T(2)が終了し、VCSEL3を点灯制御する期間T(3)が開始する。
以降は、これまで説明したことの繰り返しとなる。
【0086】
なお、VCSELを点灯(発光)させないで、消灯(非点灯)のままとするときは、図5のVCSEL4を点灯制御する期間T(4)における時刻jから時刻kに示す点灯信号φIのように、点灯信号φIを「H」のままとすればよい。このようにすることで、設定サイリスタS4のしきい電圧が-1.5Vであっても、設定サイリスタS4はターンオンせず、VCSELは消灯(非点灯)のままとなる。
【0087】
先述したように、転送サイリスタTのゲート端子Gtは結合ダイオードDによって相互に接続されている。よって、ゲートGtの電位が変化すると、電位が変化したゲートGtに、順バイアスの結合ダイオードDを介して接続されたゲートGsの電位が変化する。そして、電位が変化したゲートを有する転送サイリスタTのしきい電圧が変化する。転送サイリスタTは、しきい電圧が-3.3Vより高い(絶対値が小さい負の値)と、第1転送信号φ1または第2転送信号φ2が「H」から「L」に移行するタイミングにおいてターンオンする。
そして、オン状態の転送サイリスタTのゲートGtにゲートGsが接続された設定サイリスタSは、しきい電圧が-1.5Vであるので、点灯信号φIが「H」から「L」に移行するとターンオンし、設定サイリスタSに直列接続されたVCSELが点灯(発光)する。
【0088】
すなわち、転送サイリスタTはオン状態になることで、点灯制御の対象であるVCSELを指定し、「L」の点灯信号φIは、点灯制御の対象であるVCSELに直列接続された設定サイリスタSをターンオンするとともに、VCSELを点灯させる。つまり、発光チップ10では、転送サイリスタTのオン状態が転送されることで、VCSELは順次点灯する。
なお、「H」の点灯信号φIは、設定サイリスタSをオフ状態に維持するとともに、VCSELを非点灯に維持する。すなわち、点灯信号φIは、VCSELの点灯/非点灯を設定する。
【0089】
なお、説明に用いた電圧は一例であって、VCSELの発光波長や光量によって変えることになる。その際は、点灯信号φIの電位(「L」)を調整すればよい。
【0090】
このように、発光装置1では、複数の素子(転送サイリスタT1~T128、設定サイリスタS1~S128、VCSEL1~VCSEL128等)があって、複数の素子のうちオン状態となる素子が次々に移行していく。これにより、発光装置1では、発光制御部110による点灯制御によって、複数の設定サイリスタSが個別にオン状態となる。そして、それぞれの設定サイリスタSがオン状態になることで、その設定サイリスタSに対応するVCSELが個別に発光する。
測定装置1000においてはさらに、システム制御部30が発光制御部110における信号の出力を制御することで、測定のための光の出射が行われる。
【0091】
(発光チップ10の製造)
続いて、第1の実施の形態が適用される発光チップ10の製造について説明する。
発光チップ10を製造する工程は、主に、(1)基板上に半導体層を積層して半導体積層基板を製造する工程(以下、「(1)半導体積層基板の製造工程」と呼ぶ。)と、(2)半導体積層基板を発光チップに加工する工程(以下、「(2)発光チップへの加工工程」と呼ぶ。)と、に分けることができる。
【0092】
まず、図6を用いて、(1)半導体積層基板の製造工程について説明する。なお、以下で説明する半導体積層基板100は、図4を用いて説明した発光チップ10のアイランド301と同様の半導体層を有するので、各層の名称および符号は図4と同じものを用いる。また、半導体積層体および積層構造についても、名称および符号は図4と同じものを用いる。
図6は、第1の実施の形態が適用される半導体積層基板100の製造工程を説明する図であり、図6(a)はVCSELに加工される半導体積層体Lvを形成する工程、図6(b)はトンネル接合層84を形成する工程、図6(c)はサイリスタに加工される半導体積層体Lsを形成する工程である。
【0093】
(1-1)半導体積層体Lvを形成する工程
まず、図6(a)に示すように、p型の基板80上に、pアノード(DBR)層81、発光層82、nカソード(DBR)層83をこの順にエピタキシャル成長させて、半導体積層体Lvを形成する。各半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)等によって積層される。
半導体積層体Lvは、発光チップ10のVCSELに加工される半導体積層体であり、発光素子に加工される第1の半導体積層体の一例である。また、(1-1)半導体積層体Lvを形成する工程は、基板の上に、第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程の一例である。
【0094】
本発明の実施の形態において、基板80は、p型のGaAsを例として説明するが、n型のGaAs、不純物を添加していないイントリンシック(i)のGaAsでもよい。また、InP,GaN,InAs,その他III-V族、II-VI材料からなる半導体基板、サファイア、SiやGe等でもよい。基板を変更した場合、基板上にモノリシックに積層される材料は、基板の格子定数に略整合(歪構造、歪緩和層、メタモルフィック成長を含む)する材料を用いる。一例として、InAs基板上には、InAs,InAsSb,GaInAsSb等を使用し、InP基板上にはInP,InGaAsPなどを使用し、GaN基板上又はサファイア基板上には、GaN,AlGaN,InGaNを使用し、Si基板上にはSi,SiGe,GaP等を使用する。ただし、結晶成長後に他の支持基板に貼りつける場合は、支持基板に対して半導体材料が略格子整合している必要はない。
【0095】
pアノード(DBR)層81は、屈折率差を設けた半導体層を複数積層して形成される。より詳しくは、pアノード(DBR)層81は、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とを交互に積層して形成される。なお、高屈折率層が「相対的に屈折率が高い」とは、低屈折率層と比べて屈折率が高いことを意味する。同様に、低屈折率層が「相対的に屈折率が低い」とは、高屈折率層と比べて屈折率が低いことを意味する。また、nカソード(DBR)層83は、pアノード(DBR)層81と同様に、相対的に屈折率が高い高屈折率層と、相対的に屈折率が低い低屈折率層とを交互に積層して形成される。
pアノード(DBR)層81およびnカソード(DBR)層83は、一例として、Al0.2Ga0.8Asの低Al組成による高屈折率層と、Al0.9Ga0.1Asの高Al組成による低屈折率層との組み合わせで形成される。
【0096】
発光層82は、先述したように、井戸層と障壁層とが交互に積層された量子井戸構造であり、井戸層は例えば、GaAs,AlGaAs,InGaAs,GaAsP,AlGaInP,GaInAsP,GaInP等により形成される。また、障壁層は例えば、AlGaAs,GaAs,GaInP,GaInAsP等により形成される。
【0097】
(1-2)トンネル接合層84を形成する工程
次に、図6(b)に示すように、半導体積層体Lvの上に、トンネル接合層84を形成する。より詳しくは、第1の実施の形態におけるトンネル接合層84は、半導体積層体Lvを構成する半導体層のうち最も上の層であるnカソード(DBR)層83の上に、エピタキシャル成長により形成される。
トンネル接合層84は、n型の不純物を高濃度に添加したn++層とn型の不純物を高濃度に添加したp++層との接合で構成されている。n++層84aおよびp++層は、例えば不純物濃度1×1020/cmであり、通常の接合の不純物濃度1017/cm~1018/cmに対して高濃度である。n++層とp++層との組み合わせ(以下では、n++層/p++層で表記する。)は、例えば、n++GaInP/p++GaAs,n++GaInP/p++AlGaAs,n++GaAs/p++GaAs,n++AlGaAs/p++AlGaAs,n++InGaAs/p++InGaAs,n++GaInAsP/p++GaInAsP,n++GaAsSb/p++GaAsSbである。なお、組み合わせを相互に変更したものでもよい。
【0098】
(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程
次に、図6(c)に示すように、トンネル接合層84の上に、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88をこの順にエピタキシャル成長させて、半導体積層体Lsを形成する。
半導体積層体Lsは、発光チップ10の設定サイリスタSに加工される半導体積層体であり、サイリスタに加工される第2の半導体積層体の一例である。また、(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程は、基板の上に、第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程の一例である。
【0099】
pアノード層85は、例えば不純物濃度1×1018/cmのp型のAl0.9GaAsにより形成される。また、nゲート層86は、例えば不純物濃度1×1017/cmのn型のAl0.9GaAsである。さらに、pゲート層87は、例えば不純物濃度1×1017/cmのp型のAl0.9GaAsである。nカソード層88は、例えば不純物濃度1×1018/cmのn型のAl0.9GaAsである。
なお、pアノード層85、nゲート層86、pゲート層87、nカソード層88のAl組成は、0~1の範囲で変更しても良い。また、Al0.9GaAsに代えて、GaInP等の他の組成を適用しても良い。
【0100】
以上記載した(1-1)半導体積層体Lvを形成する工程、(1-2)トンネル接合層84を形成する工程、(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程により、基板80の上に半導体積層体Lvとトンネル接合層84と半導体積層体Lsとを含む積層構造L1が形成され、半導体積層基板100が製造される。
【0101】
(積層構造L1の調整)
ところで、発光素子を含む製品の品質の評価等にあたっては、製品の反射プロファイルから把握された発光素子の共振波長が利用される。例えば、VCSELに加工される半導体積層体を含む半導体積層基板の品質の評価には、VCSELの共振波長が利用される。しかしながら、同じ基板の上に発光素子と発光素子の駆動に用いられるサイリスタとを積層した場合、製品の反射プロファイルには、発光素子の共振だけでなくサイリスタの影響による共振の情報が含まれる。このような製品において、発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合、反射プロファイルから発光素子の共振波長を把握することが困難になる。
【0102】
そこで、半導体積層基板100では、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するように、積層構造L1の調整が行われる。より具体的には、第1の実施の形態が適用される半導体積層基板100では、(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程において形成する半導体層の厚さを調整することで、積層構造L1の調整が行われる。
なお、「2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置する」とは、2つの共振波長λs1,λs2について、一方の共振波長λs1が共振波長λvよりも小さく(短波長であり)、他方の共振波長λs2が共振波長λvよりも大きい(長波長である)ことを指す。
【0103】
ここで、反射プロファイルの一例としての反射率スペクトルを用いて、積層構造L1を調整する手順の例を説明する。
図7は、反射率スペクトルに対応する図であり、図7(a)は基板80の上に半導体積層体Lvのみを形成した場合の反射率スペクトル、図7(b)は積層構造L1を形成した場合の反射率スペクトルである。つまり、図7(b)は、半導体積層基板の反射率スペクトルに対応する。なお、図7(a),(b)において、横軸が波長[nm]、縦軸が反射率(reflectance)[-]である。
図8は、比較例の半導体積層基板100′における反射率スペクトルについて説明する図である。なお、比較例の半導体積層基板100′は、積層構造L1の調整が行われていないことの他は、半導体積層基板100と同じである。
【0104】
まず、(1-1)半導体積層体Lvを形成する工程の後、基板80の上に半導体積層体Lvのみを形成した場合の反射率スペクトルが測定される。測定には例えば、公知の反射率測定装置を用いて良く、半導体積層体Lvに対し基板80とは反対側(nカソード(DBR)層83が形成された側)から光を照射して、反射により戻ってきた光を計測することで行なわれる。
これにより、例えば図7(a)に示す反射率スペクトルが得られる。そして、図7(a)に示す反射率スペクトルにおいて、半導体積層体Lv、すなわちVCSELに対応する共振波長λvが観測される。なお、白抜きの矢印で示すように、VCSELの共振は反射率の落込み(谷)として観測され、幅を有するが、反射率の落込みが最も大きい部分(谷底)の波長が共振波長λvとして特定される。後述する設定サイリスタSの影響による共振波長λs1,λs2についても同様である。
【0105】
次に、(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程の後、得られた半導体積層基板の反射率スペクトルが測定される。測定された反射率スペクトルにおいては、図7(b)に示すように、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が新たに観測される。
第1の実施の形態では、この共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するように、積層構造L1を調整する。より具体的には、図7(b)に示すように、共振波長λs1,λs2が、共振波長λvの両側に位置するような反射率スペクトルが得られるまで、形成するpアノード層85およびnカソード層88の厚さt(85),t(88)を変化させた半導体積層基板のサンプルの製造と反射率スペクトルの測定を繰り返す。
【0106】
そして、共振波長λs1,λs2が、共振波長λvの両側に位置するような反射率スペクトルが得られた場合に、そのサンプルにおける厚さt(85),t(88)を、最終的な半導体積層基板100におけるpアノード層85およびnカソード層88の厚さとして決定する。以降、半導体積層基板100の製造工程としては、pアノード層85およびnカソード層88がこの厚さで形成される。
このようにして、第1の実施の形態に係る積層構造L1の調整が行われる。かかる製造工程で製造される半導体積層基板100の反射率スペクトルでは、図7(b)と同様に、共振波長λs1,λs2が、共振波長λvの両側に位置することとなる。したがって、製造された半導体積層基板100の評価等に際し、共振波長λs1,λs2の何れか一方が共振波長λvと等しい場合に比べ、VCSELの共振波長λvが把握し易くなっている。
【0107】
第1の実施の形態が適用される半導体積層基板100では、pアノード層85およびnカソード層88の少なくとも一方の厚さの調整によって、積層構造L1の調整が行われる。一般に、サイリスタにおいて、ゲート層の厚さが変化すると、アノード層やカソード層の厚さが変化した場合に比べ、サイリスタの特性への影響が大きくなる。したがって、半導体積層基板100では、pアノード層85およびnカソード層88の少なくとも一方の厚さを調整することによって、nゲート層86およびpゲート層87のみを変化させる場合と比較して、設定サイリスタSの特性への影響を抑制している。
他の実施の形態においては、nゲート層86やpゲート層87の厚さを変化させても良く、pアノード層85およびnカソード層88の厚さを変化させないこととしても良い。
【0108】
付言すると、図4を用いて説明したように、第1の実施の形態が適用される発光チップ10では、pアノード層85およびnカソード層88は、nゲート層86およびpゲート層87よりも厚くなっている。つまり、半導体積層基板100において、pアノード層85およびnカソード層88をnゲート層86およびpゲート層87よりも厚くすることで、積層構造L1が調整されている。このように、pアノード層85およびnカソード層88による調整代を大きくすることで、nゲート層86およびpゲート層87をpアノード層85およびnカソード層88よりも厚くする場合に比べ、設定サイリスタSの特性への影響を抑制している。
【0109】
また、図7(b)に示すように、第1の実施の形態における積層構造L1の調整は、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2の間隔を100%として、VCSELの共振波長λvが、共振波長λs1,λs2の平均Mから±30%の範囲内に位置するように行われる。これにより、共振波長λvが範囲外に位置する場合と比較して、設定サイリスタSの共振に対応する反射率の落込み(谷)とVCSELの共振に対応する反射率の落込み(谷)とが重なることが抑制され、VCSELの共振波長λvを把握し易くなる。
【0110】
ここで、積層構造の調整を行わない比較例の半導体積層基板100′(不図示)では、設定サイリスタSの影響による共振波長λs1,λs2の何れか一方と、VCSELの共振波長λvとが、同じ波長となる場合がある。この場合、図8に示すように、反射率スペクトルにおいて設定サイリスタSの共振に対応する反射率の落込み(谷)とVCSELの共振に対応する落込み(谷)とが重なってしまい、反射率スペクトルからVCSELの共振波長λvを把握することが困難になる。
【0111】
付言すると、半導体積層基板100′において共振波長λs1,λs2の何れか一方と、VCSELの共振波長λvとが同じ波長である場合、波長λvにおける反射率が大きく低下することになり、VCSELのレーザ発振に必要な反射率が確保できない。これに対し、本発明の実施の形態が適用される半導体積層基板100では、波長λvにおける反射率の低下が抑制され、レーザ発振に必要な反射率が確保される。
【0112】
なお、上記では、半導体積層体Lvおよび半導体積層基板のサンプルの反射率スペクトルを実際に測定し、積層構造L1を調整する手順を例にして説明した。反射率を実際に測定することに代えて、形成する半導体層の厚さをパラメータとして、特性マトリックス法等の計算手法を用いて、波長毎の反射プロファイルを計算することとしても良く、計算結果に基づいて積層構造L1の調整を行っても良い。
【0113】
以上説明した(1)半導体積層基板の製造工程は、基板80の上に、VCSELに加工される半導体積層体Lvを形成する第1の積層体形成工程(1-1)と、半導体積層体Lvの上に、設定サイリスタSに加工される半導体積層体Lsを形成する第2の積層体形成工程(1-3)と、を備え、第2の積層体形成工程(1-3)は、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するように厚さが決定された半導体層85~88を形成することを特徴とする、半導体積層基板100の製造方法としても理解される。
【0114】
次に、図9,10を用いて、(2)発光チップへの加工工程について説明する。
図9,10は半導体積層基板100から発光チップ10への加工工程を説明する図である。図9(a)はnオーミック電極321,323,324等を形成する工程、図9(b)はアイランド301,302へ分離する工程、図9(c)はpゲート層87を露出させる工程である。また、図10(d)はpオーミック電極331,332等を形成する工程、図10(e)は保護層90を形成する工程、図10(f)は各種配線(電源線71、第1転送信号線72、第2転送信号線73、点灯信号線75等)および裏面電極91を形成する工程である。
【0115】
(2-1)nオーミック電極321,323,324等を形成する工程
まず、図9(a)に示すように、半導体積層基板100において最も上に形成されたnカソード層88の上に、nオーミック電極321,323,324等が形成される。nオーミック電極321,323,324は、例えばnカソード層88等のn型の半導体層とオーミックコンタクトが取り易い、Geを含むAu(AuGe)である。
nオーミック電極321,323,324等は、例えばリフトオフ法によって形成される。
【0116】
(2-2)アイランド301,302へ分離する工程
次に、図9(b)に示すように、nカソード層88、pゲート層87、nゲート層86、pアノード層85、トンネル接合層84、nカソード(DBR)層83、発光層82、pアノード(DBR)層81を順にエッチングし、アイランド301,302等のアイランドに分離する。言い換えると、基板80の上に形成された積層構造L1を、各アイランドに分離する。
エッチングは、硫酸系のエッチング液(重量比において硫酸:過酸化水素水:水=1:10:300)等を用いたウェットエッチングで行っても良く、塩化ホウ素等を用いた異方性ドライエッチング(RIE)で行っても良い。この工程におけるエッチングは、メサエッチングまたはポストエッチングと呼ばれることがある。
【0117】
なお、pアノード(DBR)層81において電流狭窄層を設ける場合には、例えば(2-2)アイランド301,302へ分離する工程の後に、半導体層を側面(エッチングにより露出した側面)から酸化して、電流阻止部を形成して良い。この酸化は、300~400℃での水蒸気酸化により、Alを酸化させることで行う。このとき、露出した側面から酸化が進行し、アイランド301,302等のアイランドの周囲にAlの酸化物であるAlによる電流阻止部が形成され、酸化されなかった部分が電流通過部となる。
【0118】
(2-3)pゲート層87を露出させる工程
次に、図9(c)に示すように、nカソード層88の一部をエッチングして、pゲート層87を露出させる。これにより、アイランド301において、pゲート層87が露出した領域311を設ける。また、アイランド302において、pゲート層87が露出した領域313,314を設ける。
なお、エッチングは、(2-2)アイランド301,302へ分離する工程と同様に、硫酸系のエッチング液(重量比において硫酸:過酸化水素水:水=1:10:300)を用いたウェットエッチング、塩化ホウ素を用いた異方性ドライエッチング等で行ってもよい。
【0119】
(2-4)pオーミック電極331,332等を形成する工程
次に、図10(d)に示すように、露出させたpゲート層87の上に、pオーミック電極331,332等を形成する。図10(d)の例では、pゲート層87が露出した領域311に、pオーミック電極331を形成する。また、pゲート層87が露出した領域313に、pオーミック電極332を形成する。pオーミック電極331,332は例えば、pゲート層87等p型の半導体層とオーミックコンタクトが取り易いZnを含むAu(AuZn)等であり、リフトオフ法等によって形成される。
【0120】
(2-5)保護層90を形成する工程
次に、図10(e)に示すように、アイランド301,302等の表面を覆うようにして、保護層90を形成する。このとき、発光チップ10の有する光出射口90A(図3(b)参照)や、スルーホール(図3(a)参照)が合わせて形成される。保護層90は例えば、SiO,SiON,SiN等の絶縁性材料による。
【0121】
(2-6)各種配線および裏面電極91を形成する工程
最後に、図10(f)に示すように、各種配線(電源線71、第1転送信号線72、第2転送信号線73、点灯信号線75等)および裏面電極91を形成する。この工程では、保護層90に設けられたスルーホールを介して、nオーミック電極321,323,324およびpオーミック電極331,332等を接続する配線が形成される。これらの配線は例えば、Al,Au等の金属材料による。
【0122】
このように、本発明の実施の形態においては、(2-1)~(2-6)の工程により、積層構造L1を有する半導体積層基板100が発光チップ10へ加工される。
先述したように、積層構造L1は、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するように調整されている(図7参照)。したがって、第1の実施の形態が適用される発光チップ10は、サイリスタの影響による2つの共振波長が、発光素子の共振波長の両側に位置するように、積層構造の調整が行われた発光部品の一例である。また、発光チップ10を用いた発光装置1および測定装置1000は、それぞれ、サイリスタの影響による2つの共振波長が、発光素子の共振波長の両側に位置するように、積層構造の調整が行われた発光装置および測定装置の一例である。
【0123】
製品としての発光チップ10、発光装置1または測定装置1000を評価する場合には、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)等によって、発光チップ10のアイランド301を構成する半導体層の厚さを測定し、各層の厚さに基づいて特性マトリックス法による計算を行えば良い。計算結果としての反射プロファイルには、VCSELの共振だけでなく設定サイリスタSの影響による共振の情報が含まれるが、先述したように積層構造L1が調整されているため、VCSELの共振波長λvが把握し易い。
【0124】
このように、第1の実施の形態が適用される半導体積層基板100、発光チップ10、発光装置1、測定装置1000、および半導体積層基板100の製造方法によれば、VCSELの共振と設定サイリスタSの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、VCSELの共振波長λvを把握し易くなる。
【0125】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態は、積層構造L2が半導体積層体Lvと半導体積層体Lsとの間に設けられた中間層89を含み、この中間層89の厚さの調整により積層構造L2の調整が行われる点で、第1の実施の形態とは異なっている。
図11は、第2の実施の形態が適用される発光チップ10-2および半導体積層基板100-2について説明する図であり、図11(a)は第2の実施の形態が適用される発光チップ10-2において、VCSELと設定サイリスタSとが積層されたアイランドの拡大断面図、図11(b)は第2の実施の形態が適用される半導体積層基板100-2の積層構造L2を示す図である。図11(a),(b)において、図4および図6(c)と同様の部分には、同じ符号を付して説明を省略する。
なお、図11(a)は、図4に示した第1の実施の形態が適用される発光チップ10と同様に、pオーミック電極331が見えるように、かつ、保護層90を省略して記載している。
【0126】
図11(a)に示すように、発光チップ10-2は、VCSELを構成する半導体積層体Lvと、トンネル接合層84と、中間層89と、設定サイリスタSを構成する半導体積層体Lsとを含む、積層構造L2を有している。
【0127】
中間層89は、VCSELと設定サイリスタSとの電気的な接続を維持し得るものであれば限定されない。GaInPやGaAs,AlGaAs等を用いて良く、電気的な接続を維持し得るものとして、例えば、不純物濃度が1017/cm~1020/cm程度の材料が用いられる。ただし、通常、n型半導体はp型半導体よりも小さな抵抗率を有するので、中間層89をn型半導体によって構成することで、p型半導体により構成した場合と比較して、VCSELの駆動電圧を小さくすることができる。
また、中間層89を設ける位置は、半導体積層体Lvと半導体積層体Lsとの間であれば良く、トンネル接合層84の上であっても下であっても良い。
【0128】
図11(a)では、一例として、1層のn型半導体からなる中間層89を、トンネル接合層84の下に設けた例を示している。なお、中間層89の厚さは、設定サイリスタSのnゲート層86およびpゲート層87よりも厚くなっている。また、pアノード層85およびnカソード層88よりも厚くなっている。つまり、設定サイリスタSを構成する半導体積層体Lsにおける各層の厚さを、それぞれの半導体層の符号iを用いてt(i)と表記すると、t(86),t(87)<t(85),t(88)<t(89)となっている。各層の厚さの大小関係は、図11(b)に示す半導体積層基板100-2でも同様である。
【0129】
発光チップ10-2は、図11(b)に示す半導体積層基板100-2を加工して製造される。図の例では、半導体積層基板100-2は、中間層89を有する点のみ、半導体積層基板100とは異なっている。したがって、半導体積層基板100-2を製造するには、図6を用いて説明した(1)半導体積層基板の製造工程において、(1-1)半導体積層体Lvを形成する工程の後、かつ、(1-3)半導体積層体Lsを形成する工程の前に、中間層89を形成する工程を設ければ良い。
また、半導体積層基板100-2から発光チップ10-2への加工は、図9,10を用いて説明した(2)発光チップへの加工工程と同様に行えば良い。
【0130】
ここで、第2の実施の形態が適用される半導体積層基板100-2では、中間層89の厚さの調整を行うことで、積層構造L2が調整され、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するようになっている。付言すると、図11(a),(b)に示す例では、中間層89の厚さと、pアノード層85およびnカソード層88の厚さとの両方が調整されることで、積層構造L2が調整されている。なお、積層構造L2の調整は、第1の実施の形態と同様の手順を用いて、中間層89等の厚さを調整して行えば良い。
このように、中間層89の厚さを調整して積層構造L2を調整することで、半導体積層体Lsを構成する半導体層の厚さのみを調整する場合と比較して、設定サイリスタSの特性への影響が抑制される。
【0131】
なお、先述したように、図11(a),(b)に示す例では、中間層89をnゲート層86およびpゲート層87よりも厚く、さらにpアノード層85およびnカソード層88よりも厚くしている。このように、積層構造L2の調整に際しては、中間層89による調整代を大きくすることで、設定サイリスタSの特性への影響がさらに抑制される。
また、pアノード層85およびnカソード層88の厚さを調整せずに、中間層89の厚さのみを調整することとしても良い。この場合も、設定サイリスタSの特性への影響が抑制される。
さらに、nゲート層86およびpゲート層87の厚さを調整することとしても良い。
【0132】
第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、VCSELの共振波長λvが、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2の平均Mから±30%の範囲内に位置するように、積層構造L2を調整すると良い(図7(b)参照)。
【0133】
第2の実施の形態が適用される半導体積層基板100-2、発光チップ10-2、および半導体積層基板100の製造方法においても、第1の実施の形態と同様に、VCSELの共振と設定サイリスタSの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、VCSELの共振波長λvを把握し易くなる。また、発光チップ10に代えて発光チップ10-2を適用した発光装置1および測定装置1000においても、同様の効果を奏する。
【0134】
上記した第1の実施の形態が適用される半導体積層基板100および第2の実施の形態が適用される半導体積層基板100-2は、基板80と、基板80の上に設けられ、VCSELに加工される半導体積層体Lv、および、半導体積層体Lvの上に設けられ、設定サイリスタSに加工される半導体積層体Lsを含む積層構造L1,L2と、を備え、設定サイリスタSの影響による2つの共振波長λs1,λs2が、VCSELの共振波長λvの両側に位置するように、積層構造L1,L2の調整が行われた半導体積層基板としても理解される。
【0135】
<変形例等>
上記した第1の実施の形態および第2の実施の形態では、半導体積層体Lvおよび半導体積層体Lsの間に、トンネル接合層84を有することとした。トンネル接合層84は必須の構成ではなく、例えばトンネル接合層84に代えて、金属的な導電性を有するIII-V族化合物の層を設けても良い。
また、本発明の実施の形態が適用される半導体積層基板等の積層構造は、上記したものに限定されない。矛盾の無い範囲で、他の層を追加する他、一部の層を除いても良い。
【0136】
また、第1の実施の形態および第2の実施の形態では、保護層90に光出射口90Aを設け、この光出射口90Aを通ってVCSELによる光が出射されることとした。トンネル接合層84および設定サイリスタSを構成する半導体層の組成等によっては、VCSELからの光の一部がトンネル接合層84および設定サイリスタSに反射または吸収され、光取り出し効率が低下する場合がある。
そこで、第1の実施の形態および第2の実施の形態において、光出射口90Aの下部において設定サイリスタSを構成する半導体層およびトンネル接合層84、中間層89をエッチングで除去して、VCSELを露出させても良い。なお、図11の例のように、中間層89をVCSELのすぐ上に設ける場合には、中間層89にGaInP等を用いて、中間層89をいわゆるエッチングストップ層として用いても良い。
【0137】
測定装置1000は、対象物の三次元形状を測定することや、対象物までの距離を測定することの他、特定された三次元形状から対象物を認識することに適用できる。例えば、測定装置1000は、携帯型の情報処理装置等に搭載され、アクセスしようとするユーザの顔の認識等に利用される。つまり、アクセスしたユーザの顔の三次元形状を取得し、アクセスすることが許可されているか否かを識別し、アクセスが許可されているユーザであると認識された場合にのみ、自装置(情報処理装置)の使用を許可する。測定装置1000は、拡張現実(AR:Augmented Reality)技術等、継続的に対象物の三次元形状を計測する場合にも適用できる。
また、発光装置1の適用範囲は、測定装置に限定されるものではなく、光源として様々な用途に適用し得る。
【0138】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記の実施の形態を組み合わせたものや、上記の実施の形態に種々の変更または改良を加えたものも、本発明の技術的範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0139】
<付記>
(((1)))
基板と、
前記基板の上に設けられ、発光素子に加工される第1の半導体積層体、および、当該第1の半導体積層体の上に設けられ、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を含む積層構造と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、半導体積層基板。
(((2)))
前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体のうち、少なくとも1つの層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、(((1)))記載の半導体積層基板。
(((3)))
前記第2の半導体積層体は、少なくともアノード層と第1ゲート層と第2ゲート層とカソード層とを備え、
前記積層構造の調整は、前記第2の半導体積層体の前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方の厚さの調整により行われたことを特徴とする、(((2)))記載の半導体積層基板。
(((4)))
前記積層構造の調整は、前記アノード層および前記カソード層の少なくとも一方を前記第1ゲート層および前記第2ゲート層よりも厚くして行われたことを特徴とする、(((3)))記載の半導体積層基板。
(((5)))
前記積層構造は、前記第1の半導体積層体および前記第2の半導体積層体の間に設けられた中間層を含み、
前記積層構造の調整は、前記中間層の厚さの調整により行われたことを特徴とする、(((1)))乃至(((4)))記載の半導体積層基板。
(((6)))
前記中間層は、n型半導体により構成されることを特徴とする、(((5)))に記載の半導体積層基板。
(((7)))
前記積層構造の調整は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長の間隔を100%として、前記発光素子の共振波長が当該サイリスタの影響による2つの共振波長の平均から±30%の範囲内に位置するように行われたことを特徴とする、(((1)))乃至(((6)))に記載の半導体積層基板。
(((8)))
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される、少なくとも1つの発光素子と、
前記第2の半導体積層体により構成され、オン状態となることで前記発光素子を発光または発光量を増大させる、少なくとも1つのサイリスタと、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光部品。
(((9)))
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、
前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、発光装置。
(((10)))
第1の半導体積層体と、当該第1の半導体積層体の上に重なる第2の半導体積層体と、を含む積層構造が形成された基板と、
前記第1の半導体積層体により構成される少なくとも1つの発光素子を有する発光部と、
前記第2の半導体積層体により構成される少なくとも1つのサイリスタを含み、前記発光素子を駆動する駆動部と、
前記発光部から出射され対象物で反射された光に基づいて、当該対象物に係る測定を行う測定部と、を備え、
前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように、前記積層構造の調整が行われたことを特徴とする、測定装置。
(((11)))
基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、
前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、
前記第2の積層体形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように厚さが決定された半導体層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法。
(((12)))
基板の上に、少なくとも1つの発光素子に加工される第1の半導体積層体を形成する第1の積層体形成工程と、
前記第1の積層体形成工程により形成された前記第1の半導体積層体の上に、中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層形成工程により形成された前記中間層の上に、少なくとも1つのサイリスタに加工される第2の半導体積層体を形成する第2の積層体形成工程と、を備え、
前記中間層形成工程は、前記サイリスタの影響による2つの共振波長が、前記発光素子の共振波長の両側に位置するように決定された前記中間層を形成することを特徴とする、半導体積層基板の製造方法。
【0140】
(((1))),(((8)))~(((12)))に記載の半導体積層基板等によれば、発光素子の共振とサイリスタの影響による共振とが同じ共振波長を有する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くした半導体積層基板等が提供される。
(((2)))に記載の半導体積層基板によれば、第1の半導体積層体の層の厚さを調整する場合と比較して、発光素子の特性への影響を抑制する。
(((3)))に記載の半導体積層基板によれば、第1ゲート層および第2ゲート層の厚さを調整する場合と比較して、駆動部の特性への影響を抑制する。
(((4)))に記載の半導体積層基板によれば、第1ゲート層および第2ゲート層をアノード層およびカソード層よりも厚くする場合と比較して、駆動部の特性への影響を抑制する。
(((5)))に記載の半導体積層基板によれば、第1の半導体積層体の層の厚さのみを調整する場合と比較して、発光素子の特性への影響を抑制する。
(((6)))に記載の半導体積層基板によれば、中間層がp型半導体により構成される場合と比較して、駆動電圧が小さくなる。
(((7)))に記載の半導体積層基板によれば、発光素子の共振波長が範囲外に位置する場合と比較して、発光素子の共振波長を把握し易くなる。
【符号の説明】
【0141】
1…発光装置、10,10-2…発光チップ、100,100-2…半導体積層基板、1000…測定装置、L1,L2…積層構造、Lv,Ls…半導体積層体、S…設定サイリスタ、VCSEL…垂直共振器型面発光レーザ
図1
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