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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048320
(43)【公開日】2024-04-08
(54)【発明の名称】探傷試験システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/06 20060101AFI20240401BHJP
   G01N 22/00 20060101ALI20240401BHJP
   G01N 22/02 20060101ALI20240401BHJP
【FI】
G01N29/06
G01N22/00 S
G01N22/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207641
(22)【出願日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2022154207
(32)【優先日】2022-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】福冨 広幸
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AA10
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC07
2G047CA02
2G047CA04
2G047DB02
2G047GB02
2G047GF06
2G047GF20
2G047GG35
2G047GH06
(57)【要約】
【課題】探傷画像を作成するための信号の合成処理を簡素化し、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の行程短縮、時間短縮を図る。
【解決手段】探傷画像が表示される範囲16において、任意の座標位置P(R、A)で、開口角θaの範囲で、超音波エコーの探触子3での受信を許可した状態にし(画像再構成の計算に使用する状態にし)、探傷画像を作成するための信号数を大幅に減少させ、表示処理の計算のために出力する信号を減らす。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波動素子からの対象物への波動の送受信信号に基づいて探傷画像を作成する探傷試験システムにおいて、
前記波動素子は、
前記対象物に波動を送信する送信用素子と、
前記対象物の反射源からの反射波動を受信する受信用素子とを有し、
前記探傷画像が表示される範囲における波動の送受信のエリア内の任意の位置で、前記受信用素子が受信することになる反射波動の範囲を特定するための開口角を設定し、前記受信用素子が受信する反射波動を前記開口角の範囲で許可する信号処理手段を備えた
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項2】
請求項1に記載の探傷試験システムにおいて、
前記信号処理手段で設定される前記開口角の角度は、
前記送信用素子の指向角をθとした際に、2θ以下の角度に設定されている
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項3】
請求項2に記載の探傷試験システムにおいて、
前記送信用素子、及び、前記受信用素子は、一つの送受信用素子であり、
前記送受信用素子は複数がアレイ状に配され、
前記信号処理手段は、
前記エリア内の任意の位置において、反射波動が受信されることになる前記送受信用素子を選択することで、反射波動を前記開口角の範囲で受信を許可する
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項4】
請求項2に記載の探傷試験システムにおいて、
前記送信用素子、及び、前記受信用素子は、一つの送受信用素子であり、
前記送受信用素子が移動自在に備えられ、
前記信号処理手段は、
前記エリア内の任意の位置において、反射波動が受信されることになる前記送受信用素子の移動位置を選択することで、反射波動を前記開口角の範囲で受信を許可する
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項5】
請求項1に記載の探傷試験システムにおいて、
前記信号処理手段で設定される前記開口角の角度は、
前記探傷画像が表示される範囲における波動の送受信のエリア内で、前記受信用素子の距離方向に対して交差する方向における端の部分で、所望の角度大きく設定されている
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の探傷試験システムにおいて、
前記波動素子は超音波振動子である
ことを特徴とする探傷試験システム。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の探傷試験システムにおいて、
前記波動素子は電磁波アンテナである
ことを特徴とする探傷試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、構造物を非破壊で検査する際の探傷試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の内部の状況を非破壊で検査する探傷試験システムとして、超音波探傷による非破壊検査の手法が従来から種々知られている(例えば、特許文献1)。超音波探傷による探傷試験では、超音波探傷機器から超音波を対象物に送信し、対象物における超音波の反射状況(反射信号)を合成して探傷画像を作成している。そして、探傷画像に基づいて構造物の内部の傷などの有無を判断している。
【0003】
従来から知られている探傷試験システムでは、超音波の反射信号を受信手段で受信し、受信した信号を合成して傷などが表示される探傷画像を作成している。受信手段で受信される反射信号には、実際に反射した部分に対応するメインローブの他にも多くの信号が含まれている。例えば、合成したい波形より大きい角度で拡散したサイドローブおよびグレイティングローブと呼ばれる信号が含まれている。
【0004】
受信手段で受信される反射信号にメインローブ以外の多くの信号が含まれているため、探傷画像を作成する際には、受信信号の合成の過程で、メインローブの信号を抽出して実際の傷などが正確に反映された状態の探傷画像を得るようにしている。このため、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)を抑制した探傷画像を作成する際に、メインローブの信号だけを抽出する処理が不可欠となっているのが実情であった。
【0005】
従って、超音波の反射信号を合成して傷などが表示される探傷画像を作成するには、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)を抑制するために、多数の信号を適宜に繰り返して合成する処理が不可欠であり、合成処理には多くの処理工程と処理時間が費やされているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-42029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することができる探傷試験システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の探傷試験システムは、波動素子からの対象物への波動の送受信信号に基づいて探傷画像を作成する探傷試験システムにおいて、前記波動素子は、前記対象物に波動を送信する送信用素子と、前記対象物の反射源からの反射波動を受信する受信用素子とを有し、前記探傷画像が表示される範囲における波動の送受信のエリア内の任意の位置で、前記受信用素子が受信することになる反射波動の範囲を特定するための開口角を設定し、前記受信用素子が受信する反射波動を前記開口角の範囲で許可する信号処理手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る本発明では、探傷画像が表示される範囲(断面画像の表示範囲を再構成するエリア)内の任意の位置で、受信用素子が受信することができる反射波動の入力信号の範囲を開口角(θa)として特定し、受信用素子が受信する入力信号(計算に用いるための信号)の範囲を開口角(θa)の範囲で許可する(画像再構成の計算で開口角(θa)の範囲の受信信号だけを用いる)。計算に用いるための入力信号の範囲を開口角(θa)の範囲で許可することで(画像再構成の計算で開口角(θa)の範囲から外れた入力信号を用いないようにすることで)、探傷画像を作成するための信号数を大幅に減少させることができ、探傷画像を作成するために全ての入力信号を用いて合成処理を行う必要がなく
なる。
【0010】
つまり、請求項1にかかる本発明では、受信用素子が受信した信号のうち、開口角(θa)の範囲での受信用素子の入力信号だけを画像再構成の計算に用いている。そして、開口角(θa)の範囲から外れた受信用素子の入力信号は、画像再構成の計算に用いていない(制限している)。
【0011】
このため、探傷画像を作成するための信号の合成処理を簡素化することができ、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の行程短縮、時間短縮を図ることができ、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0012】
断面画像の表示範囲を再構成するエリア内の任意の位置からの受信用素子までの距離に係わらず、開口角θaを同じにすることで(開口角θaを一種類とすることで)、遠いところでは多くの(多数点での)受信用素子の受信信号が計算に用いられることになり、距離が遠くなって信号強度が弱くなった場合でも、信頼性を高く維持することができる。
【0013】
そして、請求項2に係る本発明の探傷試験システムは、請求項1に記載の探傷試験システムにおいて、前記信号処理手段で設定される前記開口角の角度は、前記送信用素子の指向角をθとした際に、2θ以下の角度に設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る本発明では、信号処理手段で設定される開口角(θa)が、送信用素子の指向角θ(中心軸上の最大波動圧に対して波動圧が零になる広がり角度)の2倍の角度以下に設定されるため、反射源で反射して受信用素子で受信する画像再構成の計算に用いる信号(画像再構成の計算で使用される信号)は、中心軸を挟んで両側の指向角の範囲(2θの範囲)で許可される。このため、メインローブだけの信号が画像再構成の計算で使用するために受信されることになり、サイドローブおよびグレイティングローブの影響を排除して信号の強度を合成することができる。
【0015】
従って、メインローブだけの信号を抽出して探傷画像を作成するために、サイドローブおよびグレイティングローブの影響を排除するための信号処理(演算処理)が不要となり、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の時間を大幅に短縮することができる。そして、受信用素子で受信する画像再構成の計算で使用される信号はメインローブだけの信号なので、探傷画像に表示される表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)を抑制することができる。
【0016】
また、請求項3に係る本発明の探傷試験システムは、請求項2に記載の探傷試験システムにおいて、前記送信用素子、及び、前記受信用素子は、一つの送受信用素子であり、前記送受信用素子は複数がアレイ状に配され、前記信号処理手段は、前記エリア内の任意の位置において、反射波動が受信されることになる前記送受信用素子を選択することで、反射波動を前記開口角の範囲で受信を許可する(画像再構成の計算で使用される反射波動とする)ことを特徴とする。
【0017】
請求項3に係る本発明では、送信用素子と受信用素子が一つの送受信用素子であり、送受信用素子がアレイ状に配され、設定された開口角(θa)の範囲の反射波動(画像再構成の計算で使用される反射波動)が受信される送受信用素子を選択し、選択された送受信用素子の信号だけを合成して探傷画像を作成する。
【0018】
波動のエネルギーを送信する送受信用素子と波動のエネルギーを受信する送受信用素子の組み合わせは任意であり、波動のエネルギーを送信する送受信用素子と波動のエネルギーを受信する送受信用素子が同じ場合の組み合わせ、波動のエネルギーを送信する送受信用素子と波動のエネルギーを受信する送受信用素子が異なる場合の組み合わせ、波動のエネルギーを送信する複数の送受信用素子から一つの送受信用祖師で波動のエネルギーを受信する場合の組み合わせなど、任意の組み合わせを適用することができる。
【0019】
また、請求項4に係る本発明の探傷試験システムは、請求項2に記載の探傷試験システムにおいて、前記送信用素子、及び、前記受信用素子は、一つの送受信用素子であり、前記送受信用素子が移動自在に備えられ、前記信号処理手段は、前記エリア内の任意の位置において、反射波動が受信されることになる前記送受信用素子の移動位置を選択することで、反射波動を前記開口角の範囲で受信を許可する(画像再構成の計算で使用される反射波動とする)ことを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る本発明では、送信用素子と受信用素子が一つの送受信用素子であり、送受信用素子が移動自在に備えられ、設定された開口角(θa)の範囲で、反射波動が受信される送受信用素子の移動位置を選択し、選択された位置の送受信用素子の信号だけを合成して探傷画像を作成する。
【0021】
また、請求項5に係る本発明の探傷試験システムは、請求項1に記載の探傷試験システムにおいて、前記信号処理手段で設定される前記開口角の角度は、前記探傷画像が表示される範囲における波動の送受信のエリア内で、前記受信用素子の距離方向に対して交差する方向における端の部分で、所望の角度大きく設定されていることを特徴とする。
【0022】
請求項5に係る本発明では、受信用素子までの距離に対して交差する方向(受信用素子の幅方向)において、探傷画像が表示される範囲の端の部分で、開口角が所望の角度大きく設定されているので、探傷画像が表示される範囲の端の部分であっても、端以外の部分と同じ範囲で波動の送受が許可されるようになる。
【0023】
また、請求項6に係る本発明の探傷試験システムは、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の探傷試験システムにおいて、前記波動素子は超音波振動子であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に係る本発明では、超音波探傷の分野において、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0025】
また、請求項7に係る本発明の探傷試験システムは、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の探傷試験システムにおいて、前記波動素子は電磁波アンテナであることを特徴とする。
【0026】
請求項7に係る本発明では、電磁波レーダーの分野において、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の探傷試験システムは、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施例に係る探傷試験システムの全体の概略構成図である。
図2】本発明の一実施例に係る探傷試験システムの信号処理手段のブロック構成図である。
図3】本発明の一実施例に係る探傷試験システムの断面像の表示範囲を説明する概念図である。
図4】指向角を説明する概念図である。
図5】断面像の一例を説明する概念図である。
図6】本発明の他の実施例に係る探傷試験システムの断面像の表示範囲を説明する概念図である。
図7】本発明の他の実施例に係る探傷試験システムの断面像の表示範囲を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1から図5に基づいて本発明の探傷試験システムの実施例を説明する。
【0030】
図1には本発明の一実施例に係る探傷試験システムの全体の構成を説明するための概略状況、図2には本発明の一実施例に係る探傷試験システムにおける信号処理手段のブロック構成、図3には本発明の一実施例に係る探傷試験システムにおける再構成された断面像の概念状況、図4には指向角を説明するための概念状況を示してある。
【0031】
また、図5にはダミーで傷を付けた構造物の断面像の一例を説明する概念状況を示してあり、図5(a)は表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された状態の探傷画像の概念図、図5(b)は表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された状態の探傷画像の概念図である。
【0032】
図1に示すように、探傷試験システム1は、対象物としての構造物2に超音波(波動)を発信すると共に、構造物2の内部の反射源(例えば、傷)で反射した超音波(波動)を受信する波動素子としての探触子3(一つの送受信用素子:送信用素子、受信用素子)を備えている。探触子3は複数(例えば、10個)がアレイ状に配されて送受信手段4とされ、送受信手段4の探触子3は、構造物2に対して垂直方向に超音波を発信すると共に、垂直方向に反射した超音波を受信する構成となっている(一つの探触子3毎に超音波の送受信が行われる)。
【0033】
尚、アレイ状に配された探触子3において、超音波(波動)を送信する探触子3の組み合わせ(送受信用素子と波動エネルギーを受信する送受信用素子の組み合わせ)は任意であり、上述した実施例のように、超音波を送信する探触子3と超音波を受信する探触子3が同じ場合の組み合わせ、構造物2に対して任意の傾斜角度をもって超音波を発信し、異なる探触子3で超音波を受信する構成の組み合わせ、全ての探触子3から超音波を送信し(角度は任意)、一つの探触子3で超音波を受信する場合の組み合わせなど、任意の組み合わせを適用することができる。
【0034】
また、波動素子として、超音波(音)を送受信する構成の例を挙げて説明しているが、電磁波アンテナを適用し、電磁波(電磁波レーダー)を使用することも可能である。構造物として、例えば、コンクリートに適用し、空洞や鉄筋の配置などを検査することができる。
【0035】
送受信手段4の情報は信号処理手段5に入力され、信号処理手段5では入力情報に基づいて探傷画像を作成するための信号(画像再構成の計算に用いるための信号:許可信号)が設定され、設定された信号は、信号を合成して探傷画像を作成し表示する作成表示手段6に送られる。
【0036】
信号処理手段5では、探傷画像が表示される範囲における超音波の送受信のエリア内の任意の位置で、探触子3が受信することになる(画像再構成の計算で使用されることになる)超音波エコー(傷などに反射した超音波:反射波動)の範囲を特定するための開口角を設定する(具体的には後述する)。そして、探触子3が受信する超音波エコー(画像再構成の計算で使用されることになる信号)を開口角の範囲で許可するようになっている。
【0037】
このため、探傷画像が表示される範囲(断面画像の表示範囲を再構成するエリア)内の任意の位置で、画像再構成の計算に用いる信号として探触子3が受信する超音波エコーの入力範囲を開口角として特定し、探触子3が受信する入力信号(画像再構成の計算で使用されることになる信号)の範囲を画像再構成の計算に用いる信号として許可することができる。画像再構成の計算で使用されることになる信号を開口角の範囲で許可することで、探傷画像を作成するための信号数を大幅に減少させることができ、探傷画像を作成するために全ての入力信号を用いて合成処理を行う必要がなくなる。
【0038】
つまり、探触子3が受信した信号のうち、開口角の範囲での探触子3の入力信号だけを画像再構成の計算に用いて、開口角の範囲から外れた探触子3の入力信号は、画像再構成の計算に用いない(制限する)。
【0039】
これにより、作成表示手段6における探傷画像を作成するための信号の合成処理を簡素化することができ、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の行程短縮、時間短縮を図ることができる。従って、作成表示手段6における受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0040】
図2図3図4に基づいて信号処理手段5における処理の状況を具体的に説明する。
【0041】
図2に示すように、信号処理手段5は、開口角θa設定機能11を有している。開口角θa設定機能11では、画像再構成の計算に用いる信号として探触子3(図1参照)が受信することになる(画像再構成の計算で使用されることになる)超音波エコーの範囲を特定するための開口角θaが設定される。開口角θa設定機能11で設定される開口角(θa)の角度は、探触子3(図1参照)の指向角をθとした際に、2θの角度(θa=2θ)の角度に設定されている(2θ以下の角度に設定されている)。
【0042】
尚、2θを下回る角度に開口角θaを設定することも可能である。この場合、後述する、サイドローブおよびグレイティングローブの影響をより確実に排除することができる。
【0043】
図4に示すように、超音波発信源21(探触子3に相当)から送信される超音波の広がる性質が指向性とよばれ、中心軸21a上の最大音圧に対して音圧がゼロになる広がり角度θを指向角とされている。音圧がゼロになる広がりの内側の領域(指向角θの内側)の超音波がメインローブ22とされ、音圧がゼロになる広がりの外側(指向角θの外側)にはサイドローブ23およびグレイティングローブ24が存在している。
【0044】
図3に示すように、探傷画像が表示される範囲16における超音波の送受信のエリア(断面画像の表示範囲を再構成するエリア)が設定され、範囲16の任意の座標位置において、開口角θaが設定されている。つまり、開口角θa設定機能11で設定される開口角θaは、探傷画像が表示される範囲16の任意の座標位置P(Z、X)において、探触子3(図1)に直角に向かう中心線(図中上方に向かう)を挟んで左右に広がる角度とされている。そして、開口角θaは、指向角θの2倍である2θ(θa=2θ)の角度に設定されている。
【0045】
尚、座標位置Pにおいて、図中上下に向かう方向をZ、図中左右に向かう方向をXと表示してある。
【0046】
図1及び図2に示すように、信号処理手段5は、探触子3(図3参照)が受信することになる(画像再構成の計算で使用されることになる)超音波エコーの範囲を開口角θaの範囲で特定する受信範囲特定機能12、及び、受信範囲が特定された状態で超音波エコーを受信する探触子(図3)を許可する受信許可機能13を有している。そして、画像再構成の計算に用いる信号として受信許可機能13で受信が許可された探触子3(画像再構成の計算に用いる信号が受信される探触子3)からの受信信号(画像再構成の計算で使用されることになる受信信号)だけを、表示処理の計算のために出力する許可信号出力機能14を有している。
【0047】
図3に基づいて、受信範囲特定機能12、及び、受信許可機能13の具体的な動作を説明する。
【0048】
図に示すように、探傷画像が表示される範囲16において座標位置P1(Z1、X1)では、開口角θaの範囲で、探触子3b、3cの2つが受信する超音波エコーを、画像再構成の計算に用いる信号として受信する。このため、座標位置P1(Z1、X1)では、画像再構成の計算に用いる信号として、探触子3b、3cだけの受信信号が許可される(探触子3b、3cだけの受信信号が画像再構成の計算で使用される)。
【0049】
また、座標位置P2(Z2、X3)では、開口角θaの範囲で、探触子3h、3i、3jの3つが受信する超音波エコーを、画像再構成の計算に用いる信号として受信する。このため、座標位置P2(Z2、X3)では、画像再構成の計算に用いる信号として、探触子3h、3i、3jだけの受信が許可される(探触子3h、3i、3jだけの受信信号が画像再構成の計算で使用される)。
【0050】
更に、座標位置P3(Z3、X2)では、開口角θaの範囲で、探触子3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの8つが受信する超音波エコーを、画像再構成の計算に用いる信号として受信する。このため、座標位置P3(Z3、X2)では、画像再構成の計算に用いる信号として、探触子3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hだけの受信が許可される(探触子3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hだけの受信信号が画像再構成の計算で使用される)。
【0051】
これにより、探傷画像が表示される範囲16の任意の位置で、画像再構成の計算に用いる信号として探触子3が受信する(画像再構成の計算で使用されることになる)超音波エコーの入力信号の範囲が開口角(θa)として特定され、探触子3が受信する(画像再構成の計算で使用される)超音波エコーの範囲が特定され(画像再構成の計算に用いる信号として選択され)、探触子3が受信する信号(画像再構成の計算で使用される信号)が座標ごとに許可される。
【0052】
画像再構成の計算に用いる信号として受信する探触子3の入力信号を許可することで、探傷画像を作成するための信号数を大幅に減少させることができ、探傷画像を作成するために全ての入力信号を用いて合成処理を行う必要がなくなる。
【0053】
このため、前述した通り、表示処理の計算のために出力する信号を減らすことができ、探傷画像を作成するための信号の合成処理を簡素化することができる。そして、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の行程短縮、時間短縮を図ることができ、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0054】
探傷画像が表示される範囲16の任意の全ての位置からの探触子3までの距離に係わらず、開口角θaを同じにしているので(開口角θaを一種類としているので)、遠いところ(例えば、座標位置P3)では多くの(多数点での)探触子3の受信信号が用いられることになり、距離が遠くなって信号強度が弱くなった場合でも、信頼性を高く維持することができる。
【0055】
信号処理手段5で設定される開口角θaが、超音波発信源21(図4参照)から送信される超音波の指向角θの2倍の角度2θ(2倍の角度以下)に設定されるため、反射源で反射して探触子3で受信する(画像再構成の計算で使用される)超音波エコーの信号は、中心軸を挟んで両側の指向角の範囲(2θの範囲)で受信が許可される。
【0056】
このため、画像再構成の計算に用いる信号としてメインローブ22だけの信号を受信することになり(メインローブ22だけの信号を画像再構成の計算で使用することになり)、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の信号が画像再構成の計算で使用されることがなくなり、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の影響を排除してメインローブ22の信号の強度を合成することができる。
【0057】
つまり、図5にダミーで傷を付けた構造物の断面像の一例を示したように、探触子3の受信信号を画像再構成の計算で使用すると、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の信号を合成することになり、図5(b)に示すように、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)の部分26が表示される。
【0058】
サイドローブ23およびグレイティングローブ24の影響を排除するための多くの計算処理を行うことにより、図5(a)に示すように、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の影響を排除した傷25だけがはっきりと表示される。
【0059】
本実施例では、信号処理手段5で開口角θaを設定し、開口角θaを指向角θの2倍の角度2θとしたので、画像再構成の計算に用いる信号として、探触子3で受信する超音波エコーの信号が開口角θaの範囲で選択されて(画像再構成の計算で使用される信号が許可されて)、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の信号が画像再構成の計算で使用されることがなくなる。
【0060】
これにより、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の影響を排除する処理を行うことなく、図5(a)に示すように、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の影響を排除した傷25だけがはっきりと表示された探傷画像(断面画像)を得ることができる。
【0061】
従って、メインローブ22だけの信号を抽出して探傷画像を作成するために、サイドローブ23およびグレイティングローブ24(図4参照)の影響を排除するための信号処理(演算処理)が不要となり、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の時間を大幅に短縮することができる。そして、探触子3で受信する超音波エコーの信号(画像再構成の計算で使用される信号)はメインローブだけの信号なので、探傷画像に表示される表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)を抑制することができる。
【0062】
従って、上述した探傷試験システム1は、超音波エコーの受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0063】
図6に基づいて本発明の他の実施例を説明する。図6には他の実施例に係る探傷試験システムの断面像の表示範囲を説明する概念を示してある。
【0064】
上述した実施例は、アレイ状に配された探触子3を備えた送受信手段4を例に挙げて説明したが、図6に示したように、一つの探触子が移動自在に備えられた送受信用素子を適用することも可能である。
【0065】
図に示すように、探傷画像が表示される範囲16における波動の送受信のエリア(断面画像の表示範囲を再構成するエリア)が設定され、送受信用素子である探触子31が移動自在(図中左右方向:X方向)に備えられている。つまり、探触子31は、図中上下方向のZ方向に対して直行する方向であるX方向に移動自在(図中左右方向:X方向)に備えられている。
【0066】
図3に示した実施例と同様に、傷画像が表示される範囲16の任意の座標位置において、開口角θaが設定されている。つまり、開口角θaは、探傷画像が表示される範囲16の任意の座標位置P(Z、X)において、探触子31の移動方向(図中左右方向)に対して直角に向かう中心線(図中上方に向かう)を挟んで左右に広がる角度とされている。そして、開口角θaは、指向角θの2倍である2θ(θa=2θ)の角度に設定されている。
【0067】
そして、探傷画像が表示される範囲16において座標位置P1(Z1、X1)では、開口角θaの範囲で、移動位置M1の範囲にある探触子31が受信する超音波エコーを画像再構成の計算で使用する信号として受信する(画像再構成の計算で使用する信号とする)。また、座標位置P2(Z2、X3)では、開口角θaの範囲で、移動位置M2の範囲にある探触子31が受信する超音波エコーを画像再構成の計算で使用する信号として受信し(画像再構成の計算で使用する信号とし)、座標位置P3(Z3、X2)では、開口角θaの範囲で、移動位置M3の範囲にある探触子31が受信する超音波エコーを画像再構成の計算で使用する信号として受信する(画像再構成の計算で使用する信号とする)。
【0068】
これにより、設定された開口角θaの範囲で、超音波エコーを受信する(画像再構成の計算で使用する信号を受信する)移動位置Mを選択し、選択された移動位置Mの受信信号だけを合成して(画像再構成の計算で使用して)探傷画像を作成することができる。
【0069】
このため、前述の実施例と同様に、表示処理の計算のために出力する信号を減らすことができ、探傷画像を作成するための信号の合成処理を簡素化することができる。そして、入力信号を用いた合成処理(演算処理)の行程短縮、時間短縮を図ることができ、受信信号の合成処理の工数、時間を削減して、表示データの虚像(実際には反射源がないところに生じる指示模様)が抑制された探傷画像を作成することが可能になる。
【0070】
尚、図7に示すように、探傷画像が表示される範囲16の端の部分、即ち、波動の送受信のエリア内で、送受信手段4の距離方向に対して交差する方向(X方向)における端の部分では、開口角は、所望の角度α大きく設定されている。つまり、例えば、X方向の端の部分である座標位置P0(Z3、X0)では、開口角は(θa+α)に設定されている。
【0071】
X方向の端の部分である座標位置P0(Z3、X0)で開口角が(θa+α)に設定されているので、座標位置P3(Z3、X2)と同じように、探触子3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの受信が許可されるようになる(探触子3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3hの受信信号が画像再構成の計算で使用される)。因みに、開口角がθaのままであると、座標位置P0(Z3、X0)では探触子3a、3b、3cしか許可されないことになる。
【0072】
このため、X方向の端の部分である座標位置P0(Z3、X0)であっても、開口角が(θa+α)に設定されているので、端以外の部分(例えば、座標位置P3)と同じ範囲で超音波の受信が許可されるようになる。
【0073】
尚、開口角が大きく設定される位置は、X方向の両側で、予め決められた端の部分のX方向の任意の位置に設定することができる。また、開口角を一定の値であるθaとし、X方向の位置に応じて、画像再構成の計算結果を補正し、座標位置P3の許可信号の場合と同じ結果になるようにすることも可能である。
【0074】
本発明は、パルス波を用いた計測技術(超音波であれば、フェーズドアレイ超音波計測法、レーザー超音波計測法、電磁超音波法、空気超音波法、魚群探知機などの超音波ソナーなど)に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば、構造物を非破壊で検査する際の探傷試験システムの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 探傷試験システム
2 構造物
3、31 探触子
4 送受信手段
5 信号処理手段
6 作成表示手段
11 開口角θa設定機能
12 受信範囲特定機能
13 受信許可機能
14 許可信号出力機能
21 超音波発信源
22 メインローブ
23 サイドローブ
24 グレイティングローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7