(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000484
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ワサビの栽培方法、ワサビ栽培用パネル、及びワサビ栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 31/00 20180101AFI20231225BHJP
A01G 22/25 20180101ALI20231225BHJP
【FI】
A01G31/00 608
A01G22/25 F
A01G31/00 611
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175711
(22)【出願日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2022098802
(32)【優先日】2022-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年11月2日に、「河合真帆」、「林伯諺」、「大石裕美子」、「中村謙治」、「和田光生」、「北宅善昭」が、2021年度 日本生物環境工学会オンライン次世代研究発表会において、「河合真帆」、「林伯諺」、「大石裕美子」、「中村謙治」、「和田光生」、「北宅善昭」によってなされた発明の一態様を公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】594156020
【氏名又は名称】エスペックミック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100137947
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貴文
(72)【発明者】
【氏名】北宅 善昭
(72)【発明者】
【氏名】和田 光生
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙治
(72)【発明者】
【氏名】大石 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】林 伯諺
(72)【発明者】
【氏名】河合 真帆
【テーマコード(参考)】
2B314
【Fターム(参考)】
2B314MA12
2B314MA26
2B314MA33
2B314NB21
2B314NB22
2B314NC06
2B314NC22
2B314ND14
2B314PA11
2B314PB02
2B314PB41
2B314PB44
(57)【要約】
【課題】高い生産効率を有するワサビの栽培方法等を提供する。
【解決手段】本発明のワサビの栽培方法は、栽培用パネルにワサビを植え付ける植付工程と、植付工程から所定期間経過後にワサビを倒す傾倒工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培用パネルにワサビを植え付ける植付工程と、
前記植付工程から所定期間経過後に前記ワサビを倒す傾倒工程と、を含む、
ワサビの栽培方法。
【請求項2】
前記植付工程において、前記栽培用パネルに複数の前記ワサビを格子状に植え付け、
前記傾倒工程において、前記ワサビを、隣接する他の前記ワサビに向かう方向とは異なる方向に向けて倒す、
請求項1に記載のワサビの栽培方法。
【請求項3】
前記傾倒工程において、前記植付工程の6か月後以降18か月後以前に前記ワサビを倒す、
請求項1に記載のワサビの栽培方法。
【請求項4】
前記傾倒工程において、前記栽培用パネルの上面に対して水平に移動しながら前記ワサビに当接することで前記ワサビを倒す傾倒バーによって前記ワサビを倒す、
請求項1に記載のワサビの栽培方法。
【請求項5】
前記栽培用パネルの上面と前記傾倒バーとの距離が、30mm以上100mm以下である、
請求項4に記載のワサビの栽培方法。
【請求項6】
前記傾倒バーは、前記ワサビを、隣接する他の前記ワサビに向かう方向とは異なる方向に倒す、
請求項4に記載のワサビの栽培方法。
【請求項7】
前記傾倒バーは、前記ワサビと、隣接する他の前記ワサビとを結ぶ直線に対して垂直な方向とは異なる方向に延びる、
請求項4に記載のワサビの栽培方法。
【請求項8】
ワサビを植え付けるための栽培用パネルであって、
板部材と、
前記板部材に格子状に設けられた貫通孔である植付穴と、を備え、
前記植付穴は、隣接する前記植付穴に向かう方向とは異なる方向に向かって延びる長孔である、
ワサビ栽培用パネル。
【請求項9】
複数段に積層されて配置された、請求項8に記載のワサビ栽培用パネルと、
前記栽培用パネルの上方に配置された照明と、を備え、
前記栽培用パネルの上面から前記照明までの距離が20cm以上60cm以下である、
ワサビ栽培装置。
【請求項10】
前記栽培用パネルの上面と前記照明との間の空間を移動可能に設けられた、前記ワサビに当接して前記ワサビを倒す傾倒バーと、
前記傾倒バーを駆動する駆動機構と、を備える、
請求項9に記載のワサビ栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場におけるワサビの栽培方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワサビは日本原産であり、日本食には欠かせない植物であると同時に、食欲増進、抗菌、抗カビ、抗ガン活性などの作用のある香辛料である。しかし、ワサビの生育に適した環境の許容範囲は狭く、自然環境下では栽培適地が限られる。最近では、病虫害や自然災害による影響も加わり、生産量が減少している。
【0003】
一方で近年では、植物工場を利用した様々な植物の栽培が検討されている。例えば、特許文献1及び2には、ワサビの栽培方法及び栽培装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-228603号公報
【特許文献2】特開平5-227831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のワサビの栽培方法または栽培装置では、植物工場で環境を制御しつつ効率的にワサビを栽培し収穫するのには不十分な点があった。そのため、高い生産効率を有するワサビの栽培方法及び栽培装置等が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係るワサビの栽培方法は、栽培用パネルにワサビを植え付ける植付工程と、植付工程から所定期間経過後にワサビを倒す傾倒工程と、を含む。
【0007】
このようなワサビの栽培方法によれば、敢えてワサビを倒して栽培するため、ワサビを立てたまま栽培する場合に比べて、茎と葉とを含むワサビの高さを低くして栽培することができる。そのため、ワサビの葉から、栽培用パネルの上方に設けられる光源までの距離を取りやすくなり、ワサビの葉が光源に接触することを防止することができる。また、ワサビを立てたまま栽培する場合と比べて、ワサビを栽培するために必要な高さを低くすることができるため、複数段に積層して配置するワサビ栽培装置の段数を増やすことができる。これにより、単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させやすくすることができる。
【0008】
さらに、一度ワサビを倒した後は、ワサビの茎が上に向かって延びることがないため、葉を含むワサビの高さが高くなることを抑制することができる。そのため、ワサビの葉と光源との間を一定の距離で安定させることができ、光源からワサビの葉に向かって効率的に光を照射させることができる。これにより、ワサビの栽培に要するエネルギー及びコストを軽減させることができる。
【0009】
上記ワサビの栽培方法では、植付工程において、栽培用パネルに複数のワサビを格子状に植え付け、傾倒工程において、ワサビを、隣接する他のワサビに向かう方向とは異なる方向に向けて倒すことが好ましい。
【0010】
このようなワサビの栽培方法によれば、近くに植え付けたワサビ同士が互いに干渉しづらくしつつ、高い面積効率でワサビを栽培することができる。そのため、単位面積及び単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させやすくすることができる。
【0011】
上記ワサビの栽培方法では、傾倒工程において、植付工程の6か月後以降18か月後以前に前記ワサビを倒すことが好ましい。
【0012】
このようなワサビの栽培方法によれば、植付後、適度に成長したタイミングでワサビを倒し、その後は倒した状態でワサビを栽培することができる。
【0013】
上記ワサビの栽培方法では、傾倒工程において、栽培用パネルの上面に対して水平に移動しながらワサビに当接することでワサビを倒す傾倒バーによってワサビを倒すようにすることが好ましい。
【0014】
このようなワサビの栽培方法によれば、傾倒バーによって自動的にワサビを倒すことができるため、人の手による作業を減少させることができる。
【0015】
上記ワサビの栽培方法では、栽培用パネルの上面と傾倒バーとの距離が、30mm以上100mm以下とすることが好ましい。
【0016】
このようなワサビの栽培方法によれば、傾倒バーによってワサビを適切な状態に倒しやすくすることができる。
【0017】
上記ワサビの栽培方法では、傾倒バーは、ワサビを、隣接する他のワサビに向かう方向とは異なる方向に倒すようにすることが好ましい。
【0018】
このようなワサビの栽培方法によれば、倒したワサビが、近くに植え付けたワサビに干渉しづらくなるため、高い面積効率でワサビを栽培しやすくすることができる。
【0019】
上記ワサビの栽培方法では、傾倒バーは、ワサビと、隣接する他のワサビとを結ぶ直線に対して垂直な方向とは異なる方向に延びるものとすることが好ましい。
【0020】
このようなワサビの栽培方法によれば、傾倒バーによって倒されたワサビが、隣接する他のワサビに向かう方向とは異なる方向に倒れやすくなる。
【0021】
本発明の一実施形態に係るワサビ栽培用パネルは、ワサビを植え付けるための栽培用パネルであって、板部材と、板部材に格子状に設けられた貫通孔である植付穴と、を備え、植付穴は、隣接する植付穴に向かう方向とは異なる方向に向かって延びる長孔である構成とする。
【0022】
このようなワサビ栽培用パネルを用いると、上記のようにワサビを倒して栽培する栽培方法を採用するとき、ワサビが隣接する他のワサビとは異なる方向に倒れやすくすることができる。そのため、高い面積効率でワサビを栽培しやすくすることができる。また、単位面積及び単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させやすくすることができる。
【0023】
本発明の一実施形態に係るワサビ栽培装置は、複数段に積層されて配置された、上記のワサビ栽培用パネルと、栽培用パネルの上方に配置された照明と、を備え、栽培用パネルの上面から照明までの距離が20cm以上60cm以下である構成とする。
【0024】
このようなワサビ栽培装置によれば、上記のようにワサビを倒して栽培する栽培方法を採用するとき、単位体積当たりで栽培可能なワサビを増加させることができ、単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させることができる。
【0025】
上記ワサビ栽培装置では、栽培用パネルの上面と照明との間の空間を移動可能に設けられた、ワサビに当接してワサビを倒す傾倒バーと、傾倒バーを駆動する駆動機構と、を備える構成とする。
【0026】
このようなワサビ栽培装置によれば、傾倒バーによって自動的にワサビを倒すことができるため、人の手による作業を減少させることができる。これにより、ワサビの栽培による生産効率をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一形態のワサビの栽培方法によれば、ワサビの栽培による生産効率を高めることなどが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係るワサビ栽培装置の概念図である。
【
図2】実施形態に係るワサビ栽培装置における栽培用パネルを示す図である。
【
図3】実施形態に係るワサビ栽培装置における栽培用パネル及び傾倒バーの一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係るワサビ栽培装置における栽培用パネル及び照明の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、あくまで、本発明を実施するための具体的な一例を挙げるものであって、本発明を限定的に解釈させるものではない。また、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。
【0030】
[ワサビ栽培装置の構成]
本実施形態のワサビ栽培装置は、植物工場において、人工光下でワサビを栽培及び生産するための装置である。本実施形態では、ある程度成長させたのちにワサビを倒し、倒れた状態のままワサビを栽培する点をひとつの特徴とする。
【0031】
図1は、本実施形態のワサビ栽培装置1の構成を示す概念図である。
図1に示されるように、ワサビ栽培装置1は、ワサビ栽培棚10、栽培用パネル21を含む栽培ユニット20、傾倒バー30、及び照明40を含んで構成される。ワサビ栽培装置1には、ワサビ2が複数段に積層されて植え付けられて栽培される。ワサビ栽培装置1の各構成は、図示しないコンピュータなどの制御部により、それぞれの動作が制御される。
【0032】
ワサビ栽培棚10は、植物工場の栽培室に複数台または1台配置される。ワサビ栽培棚10には、栽培ユニット20が複数段に積層されて配置される。
【0033】
栽培ユニット20は、上面が栽培用パネル21になっており、栽培用パネル21の下側には液体肥料と水とを含む溶液を保持する溶液槽を有する。栽培ユニット20は、ワサビ栽培棚10の長手方向に延びる形状である。栽培ユニット20の溶液槽には、溶液供給機構から溶液が供給され、溶液排出機構から溶液が適宜排出される。溶液槽への溶液の供給及び排出は、制御部により制御される。
【0034】
栽培用パネル21は板状の部材であって、板部材と、この板部材に格子状に複数設けられた植付穴22を有する。
【0035】
図2は、栽培用パネル21の平面図の一例である。
図2では、栽培用パネル21を上側から見た平面視で示している。この栽培用パネル21は、樹脂で形成され、7つの植付穴22a~22gを有する。なお、植付穴22a~22gを総称して植付穴22という。栽培用パネル21は、長手方向の長さL1が約60cm、長手方向に垂直な幅方向の長さL2が約30cmである。栽培用パネル21の厚さは、約25mmである。栽培ユニット20には、長手方向に沿って栽培用パネル21が複数配置される。なお、栽培用パネル21のサイズはこれに限定されるものではない。
【0036】
栽培用パネル21には、7つの植付穴22a~22gが格子状に形成されている。植付穴22a~22dの列と、植付穴22e~22gとの列とでは、植付穴22が互い違いに設けられる。植付穴22同士の距離は、15cmまたは16cmとしている。具体的には、長手方向に沿った植付穴22の列における植付穴22同士の距離は15cmであり、異なる植付穴22の最短距離は16cmである。
図2に示した例でみると、隣接する植付穴22a~22d同士の距離、及び隣接する植付穴22e~22g同士の距離が15cmである。植付穴22aと植付穴22eとの距離L3が16cmである。なお、植付穴22の距離は、植付穴22の中心同士の距離により決定される。
【0037】
栽培用パネル21において、平面視したとき、植付穴22は、隣接する植付穴22に向かう方向とは異なる方向に延びた長孔としている。
図2に示した例でみると、植付穴22bには植付穴22a、22c、22e及び22fが隣接している。植付穴22bの延びる方向Eは、植付穴22bの中心C2から、植付穴22a、22c、22e及び22fのそれぞれの中心C1、C3、C4及びC5に向かう方向とは異なる。実施形態の栽培用パネル21では、植付穴22bの中心C2から植付穴22cの中心C3を繋ぐ直線Dと、植付穴22bの延びる方向Eとのなす角は、30°~45°である。
【0038】
傾倒バー30は、
図1に示すように栽培用パネル21の上面と照明40との間の空間を、栽培用パネル21の上面に水平な方向に移動可能に設けられる。傾倒バー30は、樹脂等で形成されるが、接触するワサビを傷つけないよう、柔軟性を有する材料で形成することが好ましい。傾倒バー30は、例えば樹脂または金属で形成された芯の周囲に、軟性樹脂
または軟性部材を設けた構成としてもよい。
【0039】
傾倒バー30は、栽培用パネル21の上面と傾倒バー30の下端部との距離が30mm以上100mm以下となるよう設けられる。傾倒バー30は、図示しないモータなどのアクチュエータにより駆動される。傾倒バー30は、典型的には、複数段に積層されて設置された栽培ユニット20ごとに設けられるが、ワサビ栽培装置1に1つ設けられてもよい。ワサビ栽培装置1に設けられた傾倒バー30が1つの場合には、傾倒バー30を所定の栽培ユニット20の段に移動させる駆動機構をさらに設ける構成とするのが好ましい。
【0040】
本実施形態のワサビ栽培装置1では、ワサビの植え付けから所定期間経過後にワサビを倒すよう動作するが、傾倒バー30が動作するタイミングは制御部により制御される。
【0041】
図3は、傾倒バー30の構成例を説明する図である。
図3に示すように、栽培用パネル21の植付穴22には、それぞれワサビ2が植え付けられる。傾倒バー30は、栽培用パネル21の上方に位置する。傾倒バー30は、上側から見た平面視で、栽培用パネル21の延びる方向に対して垂直ではなく、所定の角度を有するよう延びる。具体的には、傾倒バー30は、植え付けたワサビ2を倒したい方向Gに対して垂直な方向に延びた形状とする。
【0042】
傾倒バー30は、例えば栽培用パネル21の延びる方向Fに沿って移動する。傾倒バー30が方向Fに向かって移動すると、傾倒バー30は立った状態で植え付けられたワサビ2の茎に接触する。傾倒バー30はワサビ2の茎を押しながら方向Fへの移動を継続し、このとき、ワサビ2が方向Gに向かって傾倒させられる。
【0043】
図3に示した傾倒バー30は、植付穴22a~22dの列に植え付けらえたワサビを倒すための構成であり、植付穴22e~22gの列に植え付けられたワサビを倒すための傾倒バー30は別途設けられる。植付穴22e~22gのワサビを倒すための傾倒バー30は、例えば
図3に示す傾倒バー30と同様に栽培用パネル21の延びる方向に対して角度を有するよう延びる。
【0044】
なお、傾倒バー30は、
図3に示すように植付穴22a~22dの上方を移動してワサビ2を倒したのち、植付穴22e~22gの列の上方に移動し、植付穴22g~22eの上方を移動するような構成としてもよい。
【0045】
このような構成の傾倒バー30を設けることで、傾倒バー30によって自動的にワサビを倒すことができるため、人の手による作業を減少させることができる。また、傾倒バー30が栽培用パネル21の延びる方向に対して所定の角度を有するよう延びた構成としているため、傾倒バー30によってワサビを所望の方向に向かって倒しやすくすることができる。すなわち、隣接するワサビと干渉しない方向にワサビを倒しやすくできるため、高い面積効率でワサビを栽培しやすくすることができる。
【0046】
なお、ワサビは、接触する傾倒バー30の法線方向に向かって倒れやすくなるため、傾倒バー30を上記のような構成にすることが好ましい。傾倒バー30は、自動ではなく手動で動かされてもよい。
【0047】
照明40は、
図1示すように栽培用パネル21の上方に配置される。照明40は、例えば、栽培ユニット20の下面に設けられる。照明40は、栽培用パネル21の上面からの
距離Aが20cm以上60cm以下となるよう配置することが好ましい。より好ましくは、照明40は、栽培用パネル21の上面からの距離Aが30cm以上50cm以下となる位置に設けられる。照明40は、本発明の「光源」の一例である。
【0048】
照明40は、例えば複数のLED素子をアレイ状に配置されて構成される。照明40は、図示しない電源回路から所定の電力を供給されることで発光する。照明40は、所定の時間点灯した後、所定の時間消灯するサイクルを繰り返すよう、制御部により制御される。すなわち、照明40は、所定時間の明期と暗期とを繰り返す。本実施形態のワサビ栽培装置1では、照明40の明期が16時間、暗期が8時間としており、照明40は24時間周期で点灯と消灯とを繰り返す。
【0049】
照明40は、栽培するワサビの葉に必要十分に光を照射する構成とすることが好ましいが、一方で栽培コストを考慮して効率的に光を照射することが求められる。本実施形態のワサビ栽培装置1では、植え付けから所定期間経過後にワサビを倒して栽培するが、ワサビを倒し前と後とでワサビの葉の位置、すなわち高さが変化する。
【0050】
具体的には、ワサビの葉は茎から延び、茎の先端近傍以外の葉は適宜収穫される。そのため、ワサビの葉は茎の先端近傍から延びたものが中心となる。ワサビが立った状態では、ワサビの茎は、鉛直方向である栽培用パネル21の植付穴22の上側に向かって延びるため、この位置にあるワサビの茎の先端を中心に葉が放射状に延びる。一方でワサビが倒れた状態では、ワサビの茎の先端は、概ね、ワサビが植え付けられた植付穴22の列と、隣の植付穴22の列との間に位置する。ワサビの葉は、このワサビの茎の先端から、鉛直方向である上側に向かって放射状に延びる。
【0051】
図4は、照明40の構成例を説明する図である。
図4に示すように、倒されたワサビは植付穴22a~22dの列と、植付穴22e~22gの列との間に位置することとなる。そのため、倒れた状態のワサビに適切に照明40からの光を照射するためには、植付穴22の真上に照明40を位置するよりも、
図4に示すように、植付穴22a~22dの列と、植付穴22e~22gとの列との間に設けることが好ましい。そのため、本実施形態のワサビ栽培装置1では、ワサビを倒す前の状態と、ワサビを倒した後の状態とで、照明40の位置を変化させることが好ましい。具体的には、ワサビを倒す前の状態では、植付穴22の真上に位置するよう照明40を配置し、ワサビ倒した後の状態では、複数列に設けられた植付穴22の列の間に位置するよう照明40を配置する構成とすることが好ましい。この場合、植付穴22の真上の位置から、複数列に設けられた植付穴22の列の間の位置に照明40が自動する構成としてもよい。
【0052】
[ワサビ栽培装置1を用いたワサビの栽培方法]
次に、ワサビ栽培装置1を用いてワサビを栽培する方法について説明する。
【0053】
人工光下のたん液水耕栽培で栽培するとき、定植したワサビの苗は、約10カ月で茎長が平均5cm程度に成長する。このとき、栽培室では、室温を16~20℃、湿度を60~90%程度に維持して栽培する。一方、ワサビの栽培中には、茎とともに食用として出荷可能な葉を、適度に生育したタイミングで収穫する。しかし、定植後1年を経過したころから、葉が適度に生育したタイミングでは、ワサビの葉柄が30cm以上に達する。このとき、ワサビの栽培用パネルと光源との間を30~40cm以上確保していない場合には、ワサビの葉が光源に接触し、商品としての葉が傷んでしまう場合がある。そのため、ワサビの葉を傷めずにワサビを栽培しようとすると光源の位置を高くする必要がある。しかしながら、単純に光源の位置を高くすると、ワサビの葉と光源との距離が長くなってしまうなど、ワサビと光源との距離の調整が困難となり、栽培におけるエネルギー効率が悪化する。また、ワサビの栽培における空間効率が低下する。
【0054】
そのため、本実施形態では、ワサビ栽培装置1を用いて、光源から葉に照射される光の利用効率を最大化し、かつ空調空間の利用効率を最大化しつつ、ワサビを栽培する。
【0055】
用いるワサビの苗は任意のものを使用可能であるが、例えば、茎長0.5cm、葉数5枚、草丈15cm程度のものを用いることができる。これらのワサビの苗は、例えば温室でメリクロン培養されたものを用いることができる。
【0056】
(植付工程)
まず、上記の複数のワサビの苗を、栽培用パネル21の各植付穴22に格子状に植え付ける。ワサビは植付穴22に向かって垂直に植え付けておく。照明40は植付穴22の真上に位置するため、このように植え付けることでワサビの葉に十分に光が照射される。植え付けたワサビには液体肥料と水とを含む溶液が供給される。ワサビ植付後は、適宜ワサビの葉および葉柄が完全無農薬の生食・加工用として収穫される。
【0057】
(傾倒工程)
次に、ワサビを植え付けて所定期間経過後に、傾倒バー30を作動させてワサビを倒す。傾倒バー30は、栽培用パネル21の上面に対して水平に移動しながらワサビに当接することでワサビを順次倒していく。これにより、ワサビは、互いの茎及び葉ができるだけ重なり合わないよう、隣接する他のワサビに向かう方向とは異なる方向に向けて倒される。なお、ワサビは手動で倒してもよい。
【0058】
ワサビを倒すタイミングは、例えば植え付けから6カ月以降18カ月以前とすることが好ましい。ワサビを倒すタイミングは、好ましくは植え付けから10カ月以降14カ月以前とする。または、ワサビの茎長が4cm程度となったタイミングでワサビを倒してもよい。例えば、ワサビを倒すタイミングを、好ましくは植え付けたワサビの平均茎長が3cm以上7cm以下となったタイミングとし、より好ましくはワサビの平均茎長が4cm以上6cm以下となったタイミングとする。
【0059】
栽培用パネル21の上面と傾倒バー30の下端部との距離は、30mm以上100mm以下とすることが好ましい。ワサビの茎径は、植え付け時点の苗の状態と、生育した状態とで概ね20mm程度であり、大きくは変化しない。すなわち、倒すタイミングでのワサビは、茎径20mm、茎長50mm程度となっている。そのため、茎だけの状態としてワサビを倒す場合には、栽培用パネル21の上面と傾倒バー30の下端部との距離を30mm以上50mm以下とすることが好ましい。また、ワサビに葉を残した状態でワサビを倒す場合には、栽培用パネル21の上面と傾倒バー30の下端部との距離を30mm以上100mm以下とすることが好ましい。
【0060】
ワサビを倒した後も引き続き、適宜葉が収穫される。ワサビの葉は、茎から上側、すなわち照明40が位置する上側(鉛直方向)に向かって延びるが、本実施形態ではワサビが倒された状態となることで、ワサビの茎から照明40までの距離を、ある程度の範囲で安定させることができる。そのため、照明40からワサビの葉に向かって効率的に光を照射させることができる。これにより、ワサビの栽培に要するエネルギー及びコストを軽減させることができる。
【0061】
(収穫工程)
ワサビが十分に成長したら、ワサビが収穫される。ワサビは、植え付けから2年以上4年以下の期間経過後に収穫され、このときの茎長は10cm以上20cm以下となる。
【0062】
このように、本実施形態のワサビの栽培方法では、ワサビを植え付ける植付工程から所定期間経過後にワサビを倒して栽培を継続しているため、ワサビを立てたまま栽培する場合に比べて、茎と葉とを含むワサビの高さを低くして栽培することができる。そのため、ワサビの葉から、栽培用パネル21の上方に設けられる照明40までの距離を取りやすくなり、ワサビの葉が照明40に接触することを防止することができる。また、ワサビを立てたまま栽培する場合と比べて、ワサビを栽培するために必要な高さを低くすることができるため、複数段に積層して配置するワサビ栽培装置1の段数を増やすことができる。これにより、単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させやすくすることができる。
【0063】
また、ワサビ栽培装置1では、上記のようなワサビの栽培方法に適した構成を採用している。このようなワサビ栽培装置1を用いて、上記のようにワサビを倒して栽培する栽培方法を採用するとき、単位体積当たりで栽培可能なワサビを増加させることができ、単位体積当たりのワサビの収穫量を増加させることができる。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。本発明は、当業者が実施形態に対して適宜設計変更を加えたものも発明の範囲に含むものである。実施形態において説明した具体例が備える各要素は、例示したものに限定されるわけではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。
【0065】
(変形例)
本実施形態のワサビの栽培方法及びワサビ栽培装置1は、以下のような変形例を採用してもよい。
【0066】
栽培用パネル21に設けられる植付穴22は、互い違いではない規則的な格子状としてもよく、ワサビが互いに干渉しないように倒せる構成であれば任意に構成可能である。例えば、ワサビを第1列と第2列とに格子状に配列し、第1列のワサビが、第2列の隣接する2つのワサビの間に向かうよう、ワサビを倒していく構成としてもよい。
【0067】
照明40を植付穴22の真上に位置するようにし、倒したワサビの茎の先端が、このワサビを植え付けた植付穴22の列の隣の列の植付穴22の列の真下に位置するような構成としてもよい。このような構成では、照明40を移動させることなく、ワサビを立てた状態でも倒した状態でも、ワサビの葉に適切に光が照射されるような構成となる。
【0068】
ワサビ栽培装置では、傾倒バー30が栽培用パネル21の延びる方向に対して垂直ではなく、所定の角度を有するよう延びた構成としていたが、このような構成に限定されるものではない。傾倒バー30は、例えば、栽培用パネル21の延びる方向に対して平行に延びていてもよいし、栽培用パネル21の延びる方向に対して垂直に延びていてもよい。傾倒バー30は、栽培用パネル21の延びる方向に沿って移動するのではなく、栽培用パネル21の延びる方向に対して垂直か、またはその他の方向に移動する構成としてもよい。
【0069】
実施形態のワサビ栽培装置1を用い、傾倒バー30または人力でワサビを倒さずに、自然にワサビが倒れる構成としてもよい。この場合、ワサビ栽培装置1は傾倒バー30を必要とせず、植え付けの際に、ワサビを例えば5°以上45°以下傾けた状態とする。この場合でも、栽培用パネル21の植付穴22はワサビを倒したい方向に延びた長孔にしているため、ワサビが自重で、植付穴22の延びる方向に倒れやすい構成となる。このような構成では、ワサビを倒すための工程を設ける必要がない。
【符号の説明】
【0070】
1…ワサビ栽培装置
10…ワサビ栽培棚
20…栽培ユニット
21…栽培用パネル
22、22a~22g…植付穴
30…傾倒バー
40…照明