(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048410
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】液卵代替組成物及び加熱凝固物
(51)【国際特許分類】
A23J 3/00 20060101AFI20240402BHJP
A23L 15/00 20160101ALI20240402BHJP
A23J 1/14 20060101ALI20240402BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240402BHJP
【FI】
A23J3/00 508
A23L15/00 Z
A23J1/14
A23L5/00 M
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154292
(22)【出願日】2022-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 敦士
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和宏
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG15
4B035LG27
4B035LG31
4B035LG33
4B035LG34
4B042AD30
4B042AD40
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK11
4B042AK12
4B042AK13
4B042AK16
4B042AP04
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、タンパク質の供給源として機能しつつ、高い熱凝固性と、加熱後の卵らしい食感及び滑らかな舌触りとを兼ね備えた液卵代替組成物及びその加熱凝固物を提供することにある。
【解決手段】植物性タンパク質及び熱凝固性ゲル化剤を含有する液卵代替組成物であって、総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下であり、前記液卵代替組成物を8,000×gの遠心力で15分間遠心分離したときの上清に含まれるタンパク質を上清タンパク質としたときに、前記総タンパク質含有量に対する、前記上清タンパク質の含有量の割合が、6%以上21%以下である、液卵代替組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性タンパク質及び熱凝固性ゲル化剤を含有する液卵代替組成物であって、
総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下であり、
前記液卵代替組成物を8,000×gの遠心力で15分間遠心分離したときの上清に含まれるタンパク質を上清タンパク質としたときに、
前記総タンパク質含有量に対する、前記上清タンパク質の含有量の割合が、6%以上21%以下である
液卵代替組成物。
【請求項2】
前記熱凝固性ゲル化剤の含有量に対する前記上清タンパク質の含有量の割合が、10%以上80%以下である
請求項1に記載の液卵代替組成物。
【請求項3】
前記上清タンパク質の含有量が、0.1質量%以上2.5質量%以下である
請求項1に記載の液卵代替組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の液卵代替組成物の加熱凝固物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液卵の代替物として用いることが可能な液卵代替組成物及びその加熱凝固物に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵を加熱凝固させたスクランブルエッグ等の卵調理品は、卵独特のコク深い風味、及び鮮やかな色彩等から、好んで食されてきた。一方で、近年は、健康への配慮や、植物性食品への嗜好の高まり等から、卵を使用せずに植物性タンパク質を使用した様々な液卵代替組成物が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、白色系のインゲンマメ種又はケツルアズキ種の豆の抽出タンパク質を6質量%以上17質量%以下含有する液卵代替組成物が記載されている。
また、特許文献2には、アーモンドの抽出タンパク質およびカードランを含有する液卵代替組成物であって、アーモンドの抽出タンパク質の含有量が1質量%以上15質量%以下である液卵代替組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許7045507号
【特許文献2】特許6963707号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液卵代替組成物は、本物の卵に近い栄養学的な機能を提供するため、タンパク質の供給源として十分な量のタンパク質を含有していることが好ましい。これに加えて、高い熱凝固性、加熱後の卵らしい食感及び滑らかな舌触りを兼ね備えた、従来の技術よりもさらに本物の卵に近い液卵代替組成物が望まれている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、タンパク質の供給源として機能しつつ、高い熱凝固性と、加熱後の卵らしい食感及び滑らかな舌触りとを兼ね備えた液卵代替組成物及びその加熱凝固物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、植物性タンパク質を含有しつつ、本物の液卵と同等又は近い量のタンパク質を含有する液卵代替組成物について鋭意研究を重ねた。本発明者らは、水溶性タンパク質と不溶性タンパク質のバランスが、熱凝固性、加熱後の食感及び舌触りに大きく影響を及ぼすことを見出した。さらに、本発明者らは、水溶性タンパク質の指標として、所定の条件で遠心分離したときの上清に含まれる上清タンパク質を用い、総タンパク質含有量に対する当該上清タンパク質の含有量の最適な割合を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)植物性タンパク質及び熱凝固性ゲル化剤を含有する液卵代替組成物であって、
総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下であり、
前記液卵代替組成物を8,000×gの遠心力で15分間遠心分離したときの上清に含まれるタンパク質を上清タンパク質としたときに、
前記総タンパク質含有量に対する、前記上清タンパク質の含有量の割合が、6%以上21%以下である
液卵代替組成物、
(2)前記熱凝固性ゲル化剤の含有量に対する前記上清タンパク質の含有量の割合が、10%以上80%以下である
(1)に記載の液卵代替組成物、
(3)前記上清タンパク質の含有量が、0.1質量%以上2.5質量%以下である
(1)に記載の液卵代替組成物、
(4)(1)から(3)のいずれか一項に記載の液卵代替組成物の加熱凝固物、
である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、タンパク質の供給源として機能しつつ、高い熱凝固性と、加熱後の卵らしい食感及び滑らかな舌触りとを兼ね備えた液卵代替組成物及びその加熱凝固物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<液卵代替組成物>
本発明は、卵を含有しない又は卵を少量含有し、かつ、植物性タンパク質及び熱凝固性ゲル化剤を含有する液卵代替組成物に関する。本発明の液卵代替組成物は、総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下であり、総タンパク質含有量に対する、所定の方法で得られた上清タンパク質の含有量の割合が、6%以上21%以下であることを特徴とする。本発明の液卵代替組成物は、液卵同様に加熱することで、本物のスクランブルエッグや炒り卵等の加熱凝固卵に近い食感及び舌触りを有する加熱凝固物を調製することができる。
「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、上記鳥類の卵由来の原料を、液卵代替組成物中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
【0012】
<液卵>
本発明において、液卵とは、一般に食用に供される鳥類の卵を割卵して得られた液卵白と液卵黄を均一に混合した未加熱の液卵をいう。
液卵は、加熱凝固性を有するため、加熱凝固卵として喫食されることが多い。そのため、液卵の代替物としては、液卵と同等の加熱凝固性を有し、かつ加熱凝固物の食感が加熱凝固卵に近いことが求められる。また、調理に用いやすいことから、液卵の代替物は液卵と同等の流動性を有することがより好ましい。
【0013】
<加熱凝固卵>
本発明において、加熱凝固卵とは、液卵の加熱凝固物を意味する。加熱凝固卵としては、例えば、スクランブルエッグ、オムレツ、卵焼き、炒り卵、薄焼き卵、錦糸卵、及びこれらを含む調理品等が挙げられる。
【0014】
<加熱凝固物>
本発明の加熱凝固物とは、本発明の液卵代替組成物の加熱凝固物をいう。当該加熱凝固物は、上記液卵代替組成物をフライパン、湯煎、その他の適当な方法で加熱して、凝固(ゲル化)させたものである。本発明の加熱凝固物は、卵らしい食感及び舌触りを有するため、加熱凝固卵の代替物として用いることができる。
なお、本発明において、「卵らしい食感」とは、卵らしいふんわりとした柔らかい食感をいう。また、本発明において、「卵らしい舌触り」とは、ざらつきを感じない滑らかな舌触りをいう。
【0015】
<植物性タンパク質>
本発明の液卵代替組成物は、植物性タンパク質を含有する。植物性タンパク質とは、豆類、種実類(ナッツ)、穀類、いも類、その他の植物性素材に含まれるタンパク質をいう。豆類とは、マメ科植物の種子をいい、例えば、大豆、緑豆、インゲン豆、小豆、ササゲ、ソラ豆、エンドウ豆等が挙げられる。種実類としては、例えば、アブラナの種子である菜種、アーモンド、マカデミアナッツ、クルミ、カシューナッツ等が挙げられる。穀類としては、例えば、小麦、米、トウモロコシ、大麦、オートミール(燕麦)、ライ麦、アワ、ヒエ、キビ、モロコシ、ソバ等が挙げられる。いも類としては、さつまいも、じゃがいも、さといも、こんにゃくいも、ながいも等が挙げられる。その他の植物性素材としては、例えば、上記以外の野菜、果実等が挙げられる。
本発明の液卵代替組成物は、1種類の植物性タンパク質を含有してもよいが、後述する上清タンパク質の最適な割合を実現するために、複数種の植物性タンパク質を含有するとよい。
【0016】
<総タンパク質含有量>
本発明において、総タンパク質含有量とは、液卵代替組成物に含まれる全てのタンパク質の含有量をいう。本発明の液卵代替組成物では、総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下である。これにより、総タンパク質含有量を、鶏の液卵のタンパク質含有量(約12質量%)と同等又は近い範囲に調整することができ、液卵代替組成物をタンパク質の供給源として機能させることができる。
また、本物の卵らしさを演出しつつ十分な量のタンパク質を含有させるため、総タンパク質含有量は、8質量%以上12質量%以下であるとよく、10質量%以上12質量%以下であるとよりよい。
総タンパク質含有量は、窒素定量換算法により測定することができる。具体的には、液卵代替組成物のサンプル中の全窒素量を定量し、その窒素量に一定の窒素・タンパク質換算係数を乗じてタンパク質量を算出することができる。窒素量は、例えば、燃焼法(改良デュマ法)やケルダール法により定量することができる。
なお、本発明の液卵代替組成物は、タンパク質として動物性タンパク質を含有していてもよいが、主に植物性タンパク質を含有するとよい。例えば、総タンパク質含有量に対する植物性タンパク質の含有量の割合は、95%以上であるとよく、100%であるとよりよい。
【0017】
<上清タンパク質>
本発明において、上清タンパク質とは、液卵代替組成物を8,000×gの遠心力で15分間遠心分離したときの上清に含まれるタンパク質をいう。
ここで、液卵代替組成物に含まれるタンパク質は、水溶性タンパク質と不溶性タンパク質とに分類される。水溶性タンパク質とは、水に溶ける性質を有するタンパク質をいう。これに対し、不溶性タンパク質とは、水に溶けにくい性質を有するタンパク質をいう。
液卵代替組成物を8,000×gの遠心力で15分間遠心分離すると、ほぼ全ての不溶性タンパク質は沈降する。このため、上清に含まれる上清タンパク質は、主に水溶性タンパク質となる。本発明では、この上清タンパク質の量を水溶性タンパク質の量の指標として用いる。
本発明者らは、以下のような知見から、水溶性タンパク質と不溶性タンパク質とのバランスが液卵代替組成物の卵らしさに大きく関与することを見出した。まず、水溶性タンパク質の割合が高いタンパク質源を用いると、十分な加熱凝固性が得られにくい。また、不溶性タンパク質の割合が高いタンパク質源を用いると、加熱凝固物がざらついた舌触りになりやすい。さらに、水溶性タンパク質又は不溶性タンパク質の一方の割合が高いタンパク質源を用いると、加熱凝固物が柔らかくなったりゲル状に硬くなったりして安定した食感が得られにくい。
これらの知見に基づいて、本発明では、総タンパク質含有量に対する、水溶性タンパク質の指標である上清タンパク質の含有量の割合を後述する範囲に調整することで、水溶性タンパク質と不溶性タンパク質のバランスを最適化でき、加熱凝固性と加熱後の卵らしさとを兼ね備えた液卵代替組成物を得ることができる。
【0018】
<総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合>
本発明において、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合は、6%以上21%以下である。当該割合を6%以上とすることで、液卵代替組成物中の不溶性タンパク質の割合を抑制でき、滑らかな舌触りを実現できる。また、当該割合を21%以下とすることで、液卵代替組成物中の水溶性タンパク質の割合を抑制でき、加熱凝固性を高め、そぼろ状やスクランブルエッグ状の加熱凝固物を得ることができる。さらに、当該割合を6%以上21%以下とすることで、水溶性タンパク質と不溶性タンパク質とのバランスを調整でき、ふんわりとした柔らかさと適度な硬さとを備えた卵らしい食感に調整することができる。
さらに、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合は、より確実に滑らかな舌触りを得るため、7%以上であるとよい。また、当該割合は、より好ましい食感を得るため、19%以下であるとよく、さらに、より高い加熱凝固性を得るため、16%以下であるとよりよい。
なお、上清タンパク質の含有量は、総タンパク質含有量と同様に、窒素定量換算法により測定することができる。
【0019】
<上清タンパク質の含有量>
本発明において、上清タンパク質の含有量は、0.1質量%以上2.5質量%以下であるとよい。上清タンパク質の含有量を0.1質量%以上とすることで、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合を6%以上に調整しやすくなる。この結果、卵らしい柔らかい食感と滑らかな舌触りとを有する加熱凝固物を実現することができる。また、上清タンパク質の含有量を2.5質量%以下にすることで、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合を21%以下に調整しやすくなる。この結果、加熱によって十分に凝固した、そぼろ状やスクランブルエッグ状の加熱凝固物が得られやすくなる。
さらに、上記作用効果をより効果的に得る観点から、上清タンパク質の含有量は、0.4質量%以上1.7質量%以下であるとよりよい。
【0020】
<熱凝固性ゲル化剤>
本発明の熱凝固性ゲル化剤とは、加熱によって凝固するゲル化剤をいう。熱凝固性ゲル化剤としては、例えばカードラン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。本発明において、熱凝固性ゲル化剤を用いることで、加熱凝固性を有する液卵と同様の加熱調理が可能となる。
本発明の熱凝固性ゲル化剤は、カードランを含むとよい。カードランは、β-1,3グルコシド結合を主体とした加熱凝固性多糖類の総称であり、例えば、Alcaligenes faecalis var.myxogenes菌類によって生産される多糖類が挙げられる。カードランとしては、市販品を用いることができる。
熱凝固性ゲル化剤の含有量は、特に限定されないが、高い加熱凝固性と卵らしいふんわりとした食感とを得るため、1質量%以上6質量%以下とすることができ、さらに2質量%以上5質量%以下であるとよい。
【0021】
<熱凝固性ゲル化剤の含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合>
熱凝固性ゲル化剤の含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合は、10%以上80%以下であるとよい。これにより、主に水溶性タンパク質で構成される上清タンパク質が熱凝固性ゲル化剤に適度に作用し、熱凝固性は有しつつも、硬すぎないゲルを形成させることができる。また、このような作用効果をより効果的に得るため、熱凝固性ゲル化剤の含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合は、15%以上70%以下であるとよりよく、さらに、20%以上60%以下であるとより一層よい。
【0022】
<その他の原料>
本発明の液卵代替組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、調味料類(醤油、食塩、胡椒、アミノ酸等)、糖類(グラニュ糖、上白糖、三温糖、果糖ぶどう糖液糖、澱粉類、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖エタノール等)、食用油脂、静菌剤(グリシン、酢酸ナトリウム等)、pH調整剤(有機酸、有機酸塩等)、保存料、酸化防止剤、香料等が挙げられる。
【0023】
<液卵代替組成物の製造方法>
本発明の液卵代替組成物の製造方法は、例えば、総タンパク質含有量が8質量%以上15質量%以下で、かつ、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合が6%以上21%以下となるように、液卵代替組成物を調製する工程を含む。
【0024】
<調製工程>
本工程では、植物性タンパク質と、熱凝固性ゲル化剤と、水と、その他の原料と、を攪拌して混合し、液卵代替組成物を調製する。
植物性タンパク質は、市販品を用いてもよく、あるいは、常法に従って植物性素材からタンパク質を抽出してもよい。
液卵代替組成物中の総タンパク質含有量は、8質量%以上15質量%以下となるように調製される。また、総タンパク質含有量に対する、液卵代替組成物中の上清タンパク質の含有量の割合は、6%以上21%以下となるように調製される。当該割合の調製方法としては、例えば、水溶性タンパク質の多い原料と、不溶性タンパク質の多い原料と、を混合して、上記割合に調製する方法が挙げられる。
なお、調製工程後、必要に応じて、加熱殺菌工程を行うこともできる。
以上により、本発明の液卵代替組成物が製造される。
【実施例0025】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されない。
【0026】
<試験例1:タンパク質についての検討>
[液卵代替組成物の調製]
表1及び表2に記載の配合で、液卵代替組成物を調製した。具体的には、熱凝固性ゲル化剤をあらかじめ水に混合し、ヒスコトロンで5分撹拌して分散させた。その後植物性タンパク質と調味料を加え、ヒストコロンで1分間攪拌し、液卵代替組成物を調製した。熱凝固性ゲル化剤としては、カードランを用いた。
表1に示す実施例1~4、11~13及び比較例1~4では、市販の大豆タンパク質抽出物及び市販のコメタンパク質抽出物を用いた。表2に示す実施例5~8及び比較例5~6では、市販のコメタンパク質抽出物及び市販の菜種タンパク質抽出物を用いた。表2に示す実施例9及び10は、市販の大豆タンパク質抽出物及び市販のエンドウ豆タンパク質抽出物を用いた。表2に示す比較例7では、市販のアーモンドタンパク質抽出物を用いた。
大豆タンパク質抽出物(「プロリーナHD101R」、不二製油株式会社製)は、大豆タンパク質を83%含んでいた。コメタンパク質抽出物(「Prodiem Rice 5020」、KERRY GROUP P.L.C.製)は、コメタンパク質を87%含んでいた。菜種タンパク質抽出物(「Puratein HS」、Merit Functional Foods製)は、菜種タンパク質を93%含んでいた。アーモンドタンパク質抽出物(「Almond Protein Powder」、Blue Diamond Growers製)は、アーモンドタンパク質を44%含んでいた。エンドウ豆タンパク質抽出物(「エンドウたん白 PP-CS」、オルガノフードテック株式会社製)は、エンドウ豆タンパク質を75%含んでいた。
【0027】
【0028】
【0029】
以下の表3及び4に示すように、各液卵代替組成物の総タンパク質含有量は、8%、10%又は12%に調製された。
実施例1~10では、各タンパク質抽出物の配合量を調整することで、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合を6%以上21%以下に調整した。一方、比較例1~7では、各タンパク質抽出物の配合量を調整することで、当該割合を6%未満又は21%より大きくなるように調整した。
上清タンパク質の含有量は、以下のように測定した。まず、液卵代替組成物の一部を50mLのチューブに添加し、遠心分離機(製品名「小型高速冷却遠心機M201-IVD」、株式会社佐久間製作所製)を用いて8,000×gの遠心力で15分間遠心した。その後、遠心分離後の上清に含まれる窒素量を燃焼法(改良デュマ法)によって定量した。定量された窒素量に対し、窒素・タンパク質換算係数である6.25を乗じて、上清タンパク質の含有量を測定した。
【0030】
【0031】
【0032】
[加熱凝固物の調製]
続いて、調製した80gの液卵代替組成物を約170℃に加熱したフライパンで約1分間加熱し、攪拌しながらそぼろ状の加熱凝固物を調製した。なお、実施例1~10及び比較例1~6の液卵代替組成物は、フライパンに流し入れた際に、液卵と同様に十分広がった。これに対し、アーモンドタンパク質を含む比較例7の液卵代替組成物は、粘度がやや高く、フライパンに流し入れた際にやや広がりにくかった。
焼成後の加熱凝固物について、加熱凝固性、食感(柔らかさと硬さ)及び舌触りを以下の基準で評価した。結果を、表3及び4に示す。
【0033】
[加熱凝固性の評価基準]
A:液卵と同様のそぼろ状に焼成できた
B:若干結着しやすいが、粒の大きいそぼろ状に焼成できた
C:表面が凝固せず、塊状となりそぼろ状に焼成できなかった
【0034】
[食感(柔らかさと硬さ)の評価基準]
A:加熱凝固卵と同様のふんわりした好ましい食感であった
B1:やや硬いが卵らしい食感であった
C1:硬すぎて卵とは異なる食感であった
B2:やや柔らかいが卵らしい食感であった
C2:柔らかすぎて卵とは異なる食感であった
【0035】
[舌触りの評価基準]
A:ざらつきを感じる
C:ざらつきを感じない
【0036】
[加熱凝固性の評価結果]
表3及び4に示すように、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合が21%以下である実施例1~10、比較例1,2,4,6,7では、そぼろ状の加熱凝固物が得られ、加熱凝固性がA評価又はB評価となった。このうち、上記割合が16%以下である実施例2,4,5,7,8,9,10、比較例1,2,4,6,7では、よりそぼろ状の卵に近い加熱凝固物が得られ、加熱凝固性がA評価となった。
一方で、上記割合が21%よりも大きい比較例3,5では、表面が凝固せず、加熱凝固性がC評価となった。
【0037】
[食感(柔らかさと硬さ)の評価結果]
表3及び4に示すように、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合が5%以上19%以下である実施例1~5,7~10、比較例6の加熱凝固物は、柔らかすぎず硬すぎない、卵らしい食感であり、A評価であった。
当該割合が4%であり、コメタンパク質を多く含む比較例1の加熱凝固物は、やや硬いが卵らしい食感であり、B1評価であった。
タンパク質としてコメタンパク質のみを含み、当該割合がそれぞれ0.3%、0.4%である比較例2,4の加熱凝固物は、硬すぎて卵らしくない食感であり、C1評価であった。
大豆タンパク質を多く含み、当該割合がそれぞれ21%、24%である実施例6、比較例5の加熱凝固物は、やや柔らかいが卵らしい食感であり、B2評価であった。
タンパク質として大豆タンパク質のみを含み、当該割合が27%である比較例3の加熱凝固物は、柔らかすぎて卵らしくない食感であり、C2評価であった。
タンパク質としてアーモンドタンパク質のみを含み、当該割合が5%である比較例7の加熱凝固物は、凝固はしているものの柔らかすぎる食感であり、C2評価であった。
【0038】
[舌触りの評価結果]
表3及び4に示すように、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合が6%以上である実施例1~10、比較例3,5の加熱凝固物は、ざらつきを感じず良好な舌触りであり、A評価であった。一方、当該割合が5%以下である比較例1,2,4,6,7の加熱凝固物は、ざらつきを感じ、C評価であった。
【0039】
<試験例2:熱凝固性ゲル化剤についての検討>
[液卵代替組成物及び加熱凝固物の調製]
表5に示すように、熱凝固性ゲル化剤の含有量及び/又は種類を変更したこと以外は、実施例4と同様に実施例11~13の液卵代替組成物を製した。実施例11,12では、熱凝固性ゲル化剤としてカードランを用いた。実施例13では、熱凝固性ゲル化剤として、カードランとメトローズ(登録商標、信越化学工業株式会社製)を用いた。そして、実施例4と同様に、調製された液卵代替組成物を用いて、そぼろ状の加熱凝固物を調製した。なお、実施例11,13の液卵代替組成物は、フライパンに流し入れた際に、液卵と同様に十分広がった。これに対し、6.0質量%のカードランを含む実施例12の液卵代替組成物は、粘度がやや高く、フライパンに流し入れた際にやや広がりにくかった。
【0040】
【0041】
[加熱凝固物の評価]
試験例1と同一の評価基準を用いて、実施例11~13の加熱凝固物の加熱凝固性、食感(柔らかさと硬さ)、及び舌触りを評価した。この結果を、表6に示す。
実施例11~13では、加熱凝固性がいずれもA評価又はB評価であった。そのうち、6.0質量%のカードランを含む実施例12では、よりそぼろ状の卵に近い加熱凝固物が得られ、加熱凝固性がA評価となった。
食感(柔らかさと硬さ)について、6.0質量%のカードランを含む実施例12の加熱凝固物、及び2,0質量%のカードランと1.0質量%のメトローズを含む実施例13の加熱凝固物は、柔らかすぎず硬すぎない、卵らしい食感であり、A評価であった。1.0質量%のカードランを含む実施例11の加熱凝固物は、やや柔らかいが卵らしい食感を有し、B2評価であった。
舌触りについては、実施例11~13の加熱凝固物のいずれもざらつきを感じず良好な舌触りであり、A評価であった。
【0042】
【0043】
<総括>
以上より、総タンパク質含有量を8質量%以上15質量%以下で、かつ、総タンパク質含有量に対する上清タンパク質の含有量の割合を6%以上21%以下とすることで、高い加熱凝固性、加熱後の卵らしい食感及び滑らかな舌触りのいずれも兼ね備えた、本物の卵に近い液卵代替組成物を製することができた。