(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048472
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】吸着装置、搬送装置および搬送方法
(51)【国際特許分類】
B66C 1/02 20060101AFI20240402BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
B66C1/02 B
B25J15/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154401
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後呂 有哉
【テーマコード(参考)】
3C707
3F004
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707DS02
3C707DS07
3C707FS01
3C707FT02
3C707FT13
3C707FT17
3C707FU01
3C707FU02
3F004FA02
3F004FA03
3F004FA08
3F004HA00
(57)【要約】
【課題】被搬送物の吸着性に優れた吸着装置を提供する。
【解決手段】吸着装置は、フレームと、フレームに固定され、中心軸が鉛直方向に沿った円筒形のブッシュ21と、ブッシュ21に挿入された円柱形のロッド22と、ロッド22の下端に自在継手を介して取り付けられた吸着パッド23と、ブッシュ21とロッド22との間に介在し、鉛直方向の弾性力を生じる弾性部材とを有する。ブッシュ21の長さをL1、内径をD1、ロッド22の外径をD2としたときに、T=(D1-D2)÷L1で表される最大傾き係数Tが0.01~0.03である。ブッシュ21とロッド22との隙間に遊びがあるので、ロッド22に角度の自由度が生まれる。これにより、被搬送物の表面が傾斜していても、吸着パッド23が被搬送物の表面に対して滑ることなく密着するので、吸着力が向上する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
前記フレームに固定され、中心軸が鉛直方向に沿った円筒形のブッシュと、
前記ブッシュに挿入された円柱形のロッドと、
前記ロッドの下端に自在継手を介して取り付けられた吸着パッドと、
前記ブッシュと前記ロッドとの間に介在し、鉛直方向の弾性力を生じる弾性部材と、を備え、
前記ブッシュの長さをL1、内径をD1、前記ロッドの外径をD2としたときに、T=(D1-D2)÷L1で表される最大傾き係数Tが0.01~0.03である
ことを特徴とする吸着装置。
【請求項2】
前記ブッシュの内径D1と前記ロッドの外径D2との差が1~3mmである
ことを特徴とする請求項1記載の吸着装置。
【請求項3】
前記ブッシュの長さL1が80~140mmである
ことを特徴とする請求項1記載の吸着装置。
【請求項4】
前記ロッドおよび前記吸着パッドに自重以外の外力が働いていない状態における、前記ブッシュの下端から前記吸着パッドの吸着面までの長さL2が160~230mmである
ことを特徴とする請求項1記載の吸着装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸着装置と、
前記吸着装置を移動させる移動機構と、
前記吸着パッドの内部空間を減圧する真空ポンプと、を備える
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項5記載の搬送装置を用いて板状の電着物を搬送する
ことを特徴とする搬送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着装置、搬送装置および搬送方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、被搬送物を真空吸着する吸着装置、ならびに被搬送物を搬送する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被搬送物を真空吸着して持ち上げて搬送する搬送設備が開示されている。この搬送設備は吸着装置を有する。吸着装置は、軸部材と、軸部材の下端に取り付けられた吸着部材とを有する。吸着部材を被搬送物の表面に密着させ、真空ポンプで吸着部材の内部空間の空気を吸引すれば、吸着部材が被搬送物を真空吸着する。この状態で、吸着装置を支持するロボットアームにより被搬送物を搬送する。
【0003】
例えば、ニッケルの電解採取では、板状の電着物(電気ニッケル板)を得た後に、所定の大きさに切断することが行われる。この際、電気ニッケル板を切断装置に搬送するのに、この種の搬送設備が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被搬送物の表面が吸着装置に対して傾斜している場合には、吸着部材が被搬送物の表面に密着しにくい。そのため、必要な吸着力が得られず、被搬送物が落下することがある。例えば、電気ニッケル板は曲がりや反りを有することが多い。そのため、電気ニッケル板の表面のうち吸着部材が接触する領域が傾斜していることがある。また、曲がりや反りを有する電気ニッケル板を複数枚積み上げると、一番上の電気ニッケル板が全体として斜めに配置されやすくなる。このような場合に必要な吸着力が得られにくくなる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、被搬送物の吸着性に優れた吸着装置を提供することを目的とする。
または、本発明は、被搬送物の落下を抑制した搬送装置および搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の吸着装置は、フレームと、前記フレームに固定され、中心軸が鉛直方向に沿った円筒形のブッシュと、前記ブッシュに挿入された円柱形のロッドと、前記ロッドの下端に自在継手を介して取り付けられた吸着パッドと、前記ブッシュと前記ロッドとの間に介在し、鉛直方向の弾性力を生じる弾性部材と、を備え、前記ブッシュの長さをL1、内径をD1、前記ロッドの外径をD2としたときに、T=(D1-D2)÷L1で表される最大傾き係数Tが0.01~0.03であることを特徴とする。
第2発明の吸着装置は、第1発明において、前記ブッシュの内径D1と前記ロッドの外径D2との差が1~3mmであることを特徴とする。
第3発明の吸着装置は、第1発明において、前記ブッシュの長さL1が80~140mmであることを特徴とする。
第4発明の吸着装置は、第1発明において、前記ロッドおよび前記吸着パッドに自重以外の外力が働いていない状態における、前記ブッシュの下端から前記吸着パッドの吸着面までの長さL2が160~230mmであることを特徴とする。
第5発明の搬送装置は、第1~第4発明のいずれかの吸着装置と、前記吸着装置を移動させる移動機構と、前記吸着パッドの内部空間を減圧する真空ポンプと、を備えることを特徴とする。
第6発明の搬送方法は、第5発明の搬送装置を用いて板状の電着物を搬送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸着装置によれば、ブッシュとロッドとの隙間に遊びがあるので、ロッドに角度の自由度が生まれる。これにより、被搬送物の表面が傾斜していても、吸着パッドが被搬送物の表面に対して滑ることなく密着するので、吸着力が向上する。
本発明の搬送装置または搬送方法によれば、被搬送物の落下を抑制できるため、搬送効率を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】一実施形態に係る真空吸着器の縦断面図である。
【
図6】図(A)は、ブッシュとロッドとの隙間に遊びがない場合に、吸着パッドを傾斜面に押し付けた際の状態を示す図である。図(B)は、ブッシュとロッドとの隙間に遊びがある場合に、吸着パッドを傾斜面に押し付けた際の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(搬送装置)
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る搬送装置AAは、吸着装置1、移動機構2、および真空ポンプ3を有する。吸着装置1は被搬送物Wを吸着する装置である。吸着装置1は少なくとも真空吸着器20を有する。真空ポンプ3は真空吸着器20に接続されており、真空吸着器20が真空吸着力を発生するのに用いられる。移動機構2は吸着装置1を支持し、移動させる装置である。移動機構2は、被搬送物Wを吸着した吸着装置1を移動させることで、被搬送物Wを搬送する。移動機構2としてロボットアーム、リニアガイド、ブーム式クレーンなどを用いることができる。
【0011】
被搬送物Wは、特に限定されず、板状の物体でもよいし、ブロック状の物体でもよい。ただし、吸着装置1の吸着に適した平坦面を有するものが好ましい。この平坦面は厳密に平坦である必要はなく、湾曲や凹凸があってもよい。被搬送物Wとして、電解採取で得られる板状の電着物が挙げられる。電解採取の目的金属がニッケルである場合、電着物は電気ニッケル板と称される。電解採取の目的金属はニッケルに限定されず、コバルトなどでもよい。この種の電着物は曲がりや反りを有することが多い。
【0012】
(搬送方法)
図3は、被搬送物Wとして板状の電着物を例に、被搬送物Wを第1位置P1から第2位置P2に搬送する過程を示したものである。なお、
図3中の(1)~(3)は、以下の説明における(1)~(3)に対応する。
【0013】
(1)第1位置P1には複数枚の被搬送物Wが積み上げられている。被搬送物Wに曲がりや反りが生じていると、被搬送物Wの表面が局所的に斜めになる。また、曲がりや反りを有する被搬送物Wを積み上げると、一番上の被搬送物Wが全体として斜めに配置されやすくなる。
【0014】
一番上の被搬送物Wに対して吸着装置1を上から押し付ける。そして、真空ポンプ3が作動し、真空吸着器20に真空吸着力が発生する。これにより、一番上の被搬送物Wのみが吸着装置1に吸着される。
【0015】
(2)移動機構2は、被搬送物Wを吸着した吸着装置1を上昇させ、被搬送物Wを吊り下げた状態にする。また、移動機構2は、被搬送物Wを吸着した吸着装置1を第2位置P2に向かって移動させる。
【0016】
(3)被搬送物Wが第2位置P2に到達すると、真空ポンプ3が停止し、吸着装置1の吸着を解除する。そうすると、被搬送物Wを第2位置P2に配置できる。
【0017】
以上の手順で、搬送装置AAを用いて被搬送物Wを搬送できる。
【0018】
(吸着装置)
つぎに、吸着装置1を説明する。
図1および
図2に示すように、吸着装置1はフレーム10を有する。フレーム10は移動機構2に連結されている。フレーム10は平板状の部材である。フレーム10は複数の梁を格子状に組み合わせたものでもよい。使用状態において、フレーム10の主面は水平に維持される。換言すれば、移動機構2はフレーム10を水平に維持しつつ、上下動および水平移動させる。なお、ここでいう「水平」とは厳密な意味で水平である必要はなく、フレーム10は多少傾いてもよい。
【0019】
フレーム10には一または複数の真空吸着器20が設けられている。
図4に示すように、真空吸着器20は円筒形のブッシュ21を有する。ブッシュ21の上部にはフランジ21fが形成されている。ブッシュ21はフレーム10に形成された孔に上から挿入されており、フランジ21fがフレーム10の上面に係止している。また、フランジ21fはボルトなどでフレーム10に固定されている。これにより、ブッシュ21はフレーム10に固定されている。ブッシュ21の中心軸はフレーム10の主面に対して垂直である。したがって、使用状態において、ブッシュ21はその中心軸が鉛直方向に沿って配置される。なお、ここでいう「鉛直」とは厳密な意味で鉛直である必要はなく、ブッシュ21は多少傾いてもよい。
【0020】
特に限定されないが、ブッシュ21はインナー21aとアウター21bとで構成されてもよい。インナー21aおよびアウター21bは、それぞれ、円筒形の部材である。アウター21bの内部にインナー21aが挿入される。インナー21aによって、アウター21bとロッド22を保護することができる。また、インナー21aは摩耗しやすい部分なので、摩耗が進行すればインナー21aのみを交換すれば良い。インナー21aとアウター21bとをそれぞれ別の適した素材で形成してもよい。例えば、インナー21aの素材を砲金とし、アウター21bの素材を高炭素クロム軸受鋼鋼材とすればよい。
【0021】
ブッシュ21にはロッド22が挿入されている。ロッド22は中空の円柱形、すなわち丸パイプ状である。使用状態において、ブッシュ21は鉛直方向に沿って配置されることから、ロッド22も鉛直方向に沿って配置される。ロッド22はブッシュ21よりも長く、上端および下端がブッシュ21の外部に配置されている。また、ロッド22はブッシュ21に対して上下動可能である。
【0022】
ロッド22の下端には吸着パッド23が設けられている。吸着パッド23は略円盤形の基部23aと、基部23aの下面に嵌め込まれたリング状の接触部23bとからなる。基部23aはステンレス鋼などの剛性を有する素材で形成されている。一方、接触部23bはゴムなどの柔軟性を有する素材で形成されている。接触部23bは被搬送物Wの表面に接触する部材である。接触部23bが柔軟性を有することから、被搬送物Wの表面に凹凸があったとしても、その形状に添って変形し、隙間なく密着させることができる。なお、接触部23bの下端で構成される面を「吸着面」と称する。
【0023】
吸着パッド23は下方に開口した内部空間を有する。また、ロッド22の中空部は吸着パッド23の内部空間と連接している。ロッド22の上端は配管を介して真空ポンプ3に接続されている(
図1参照)。真空ポンプ3により吸着パッド23の内部空間の空気を吸引し、減圧する。そうすると、吸着パッド23に真空吸着力が発生し、被搬送物Wを吸着できる。
【0024】
なお、吸着パッド23と真空ポンプ3とを接続するにあたり、ロッド22を介する必要はない。ロッド22を介さずに、吸着パッド23と真空ポンプ3とを直接柔軟性を有する配管で接続してもよい。
【0025】
吸着パッド23は自在継手を介してロッド22に取り付けられている。したがって、吸着パッド23は水平面に対する角度が自由に変化する。自在継手として種々の継手を採用できる。例えば、ロッド22の下端に形成された球状部22aを基部23aに形成された球面凹部23hに嵌め込んで、球面継手とすればよい。カルダンジョイントなど、その他の自在継手を採用してもよい。吸着パッド23の可動範囲は、特に限定されないが、水平面に対して±20°程度でよい。
【0026】
ロッド22の上端部は雄ネジが形成されており、ナット24がねじ込まれている。ナット24の下端とブッシュ21の上端との間に第1コイルバネ25Aが配置されている。また、ブッシュ21の下端と吸着パッド23(基部23a)の上面との間に第2コイルバネ25Bが配置されている。第1、第2コイルバネ25A、25Bの内部にロッド22が挿入されている。必要に応じて、ナット24と第1コイルバネ25Aとの間、第1コイルバネ25Aとブッシュ21との間、ブッシュ21と第2コイルバネ25Bとの間、および第2コイルバネ25Bと吸着パッド23との間にはワッシャーが設けられる。
【0027】
第1、第2コイルバネ25A、25Bは、鉛直方向の弾性力を生じる。具体的には、第1コイルバネ25Aはナット24とブッシュ21とを引き離す方向に弾性力が生じる。第2コイルバネ25Bは吸着パッド23とブッシュ21とを引き離す方向に弾性力が生じる。したがって、第1、第2コイルバネ25A、25Bに弾性力により、ロッド22はその略中央にブッシュ21が位置するように支持されている。
【0028】
被搬送物Wに対して吸着装置1を上から押し付けると(
図3(1)参照)、吸着パッド23が被搬送物Wに押し付けられることになる。そうすると、被搬送物Wから受ける反力によりロッド22がブッシュ21に対して上昇し、第2コイルバネ25Bが圧縮される。換言すれば、第2コイルバネ25Bの圧縮により生じた弾性力が吸着パッド23を被搬送物Wに押し付ける力となる。
【0029】
被搬送物Wを吸着した吸着装置1を上昇させると(
図3(2)参照)、吸着パッド23が被搬送物Wを吊り下げることになる。そうすると、被搬送物Wの重量によりロッド22がブッシュ21に対して下降し、第1コイルバネ25Aが圧縮される。第1コイルバネ25Aの弾性により被搬送物Wを吊り下げたときの衝撃(ブッシュ21とナット24との衝突)が緩和される。
【0030】
なお、第1、第2コイルバネ25A、25Bは、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「弾性部材」に相当する。弾性部材はブッシュ21とロッド22との間に介在し、上記機能を有するものであればよく、コイルバネに限定されない。
【0031】
図5は、真空吸着器20の各部の寸法を説明するために一部を誇張して示した図である。
図5に示すように、ブッシュ21の長さをL1、内径をD1とする。また、ロッド22の外径をD2とする。そして、式(1)で表されるTを最大傾き係数とする。本実施形態では、最大傾き係数Tが0.01~0.03となるように、L1、D1およびD2が設定されている。
T=(D1-D2)÷L1 ・・・(1)
【0032】
最大傾き係数Tが0.01~0.03の範囲内である限りにおいて、ブッシュ21の内径D1は25~29mmが好ましく、ロッド22の外径D2は23~27mmが好ましい。ブッシュ21の内径D1とロッド22の外径D2との差(D1-D2)は1~3mmが好ましい。また、ブッシュ21の長さL1は80~140mmが好ましい。
【0033】
通常、直線運動軸受であるブッシュ21は、ロッド22のガタツキを抑制するため、ロッド22が滑動可能な範囲でロッド22の外周面との隙間をできる限り小さくする。具体的には、ブッシュ21の内径D1とロッド22の外径D2との差(D1-D2)は0~20μmが通常である。これに対し、本実施形態ではブッシュ21の内周面とロッド22の外周面との隙間(D1-D2)が通常よりも大きく設定されている。これにより、
図5に一点鎖線で示すとおり、ロッド22がブッシュ21に対して傾斜可能となっている。すなわち、ブッシュ21とロッド22との隙間に遊びがあるので、ロッド22に角度の自由度が生まれる。ロッド22が傾斜可能な範囲の最大値を示すのが最大傾き係数Tである。
【0034】
ロッド22および吸着パッド23に自重以外の外力が働いていない状態(吸着パッド23が被搬送物Wに押し付けられておらず、被搬送物Wを吊り下げてもいない状態)における、ブッシュ21の下端から吸着パッド23の吸着面までの長さをL2とする。長さL2は160~230mmが好ましい。
【0035】
ロッド22がブッシュ21に対して傾斜すると、吸着パッド23が水平移動する。吸着パッド23の水平方向の最大移動量Mは、概ね式(2)で得られる。例えば、T=0.02、L1=110mm、L2=180mmと仮定すると、最大移動量Mは5.8mmとなる。
M=T×(L1+L2) ・・・(2)
【0036】
図6(A)は、ブッシュ21とロッド22との隙間に遊びがない場合に、吸着パッド23を傾斜面Sに押し付けた際の状態を示す。吸着パッド23が上から傾斜面Sに接近すると、最初に接触部23bの角部E1が傾斜面Sに接触する(
図6(A)における実線)。吸着パッド23は自在継手を介してロッド22に取り付けられていることから、吸着パッド23がさらに下降すると、傾斜面Sの傾きに沿って吸着パッド23が傾斜する(
図6(A)における一点鎖線)。
【0037】
吸着パッド23の角度変化に伴い、最初に傾斜面Sと接触した角部E1の位置にズレが生じる(
図6(A)における矢印)。すなわち、接触部23bの角部E1は傾斜面Sに沿って滑る。しかし、接触部23bはゴムなど摩擦係数が大きい素材で形成されているため、傾斜面Sに対して滑りにくい。特に、電気ニッケル板などの電着物の表面には凹凸が存在するため、接触部23bが滑りにくい。そのため、角部E1が引っ掛かって、吸着パッド23が傾斜面Sの傾きと一致するまで傾斜しないことがある。そうすると、接触部23b、特に、最初に傾斜面Sと接触した角部E1とは反対側の角部E2と、傾斜面Sとの間に小さな隙間が生じる。この隙間から外気が流入するため、吸着パッド23の内部空間を十分に減圧できず、必要な吸着力が得られなくなる。
【0038】
一方、
図6(B)は、ブッシュ21とロッド22との隙間に遊びがある場合に、吸着パッド23を傾斜面Sに押し付けた際の状態を示す。吸着パッド23が上から傾斜面Sに接近すると、最初に接触部23bの角部E1が傾斜面Sに接触する(
図6(B)における実線)。吸着パッド23がさらに下降すると、傾斜面Sの傾きに沿って吸着パッド23が傾斜する(
図6(B)における一点鎖線)。
【0039】
ここで、吸着パッド23は角部E1を中心に旋回して角度が変化する。すなわち、接触部23bの角部E1は傾斜面Sに対して滑らない。これは、ロッド22に角度の自由度があり、吸着パッド23の回転中心(自在継手の回転中心)が水平移動可能であるからである。傾斜面Sに対する接触部23bの無理な滑りが生じないので、吸着パッド23が傾斜面Sの傾きと一致するまで傾斜する。そのため、接触部23bと傾斜面Sとが隙間なく密着し、必要な吸着力が得られる。
【0040】
このように、本実施形態の真空吸着器20は、ロッド22に角度の自由度があるので、被搬送物Wの表面が傾斜していても、吸着パッド23が被搬送物Wの表面に対して滑ることなく密着する。そのため、吸着力が向上する。また、被搬送物Wの吸着力が高いため、被搬送物Wの落下を抑制でき、搬送効率を高くできる。
【0041】
図1に示すように、被搬送物Wがニッケル、コバルトなどの磁性体によって形成された物体(磁石に吸着される物体)の場合、吸着装置1は一または複数の磁力吸着器30を有してもよい。
【0042】
磁力吸着器30は、基本的に、真空吸着器20の吸着パッド23を磁石に代えた構成である。すなわち、磁力吸着器30は、フレーム10に固定されたブッシュと、ブッシュに挿入されたロッドと、ロッドの下端に設けられた磁石とを有する。磁石は永久磁石でもよいし、電磁石でもよい。磁力吸着器30に設けられた磁石の磁力により、被搬送物Wを補助的に磁着できる。
【0043】
被搬送物Wが板状の物体の場合、吸着装置1は被搬送物Wの角部を保護する保護器40を有してもよい。保護器40は、フレーム10にピンで連結されたアーム41と、アーム41の先端部に設けられたカバー42とを有する。また、保護器40は、アーム41を上下に旋回する駆動部(図示せず)を有する。駆動部はシリンダ、リンク機構などからなる。
【0044】
アーム41を下方に旋回すると、真空吸着器20に吸着された被搬送物Wの角部がカバー42で覆われる。アーム41を上方に旋回すると、被搬送物Wの角部からカバー42が外れる。
【0045】
図3に示すように、(1)被搬送物Wの吸着時、および(3)被搬送物Wの離脱時は、カバー42が上方に退避しており、被搬送物Wの吸着、離脱の邪魔にならない。(2)被搬送物Wを吊り下げている間、カバー42が被搬送物Wの角部を覆う。そのため、移動機構2が吸着装置1を高速旋回させた時などに、被搬送物Wの角部が周辺設備に接触して、損傷することを防止できる。
【0046】
図2に示すように、被搬送物Wが板状の物体など大面積の被吸着面を有する場合、吸着装置1は複数の真空吸着器20を有することが好ましい。真空吸着器20の数は特に限定されない。真空吸着器20の配置は、特に限定されないが、格子状でよい。
【0047】
吸着装置1は複数の磁力吸着器30を有してもよい。磁力吸着器30の数は特に限定されない。磁力吸着器30は隣接する真空吸着器20の間に配置すればよい。
【0048】
被搬送物Wが矩形の板状の物体の場合、被搬送物Wの四隅を保護できるよう、4つの保護器40を吸着装置1に設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0049】
AA 搬送装置
1 吸着装置
2 移動機構
3 真空ポンプ
10 フレーム
20 真空吸着器
21 ブッシュ
22 ロッド
23 吸着パッド
24 ナット
25A 第1コイルバネ
25B 第2コイルバネ
30 磁力吸着器
40 保護器