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特開2024-48577開口器用舌圧子及びこれを具備する開口器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048577
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】開口器用舌圧子及びこれを具備する開口器
(51)【国際特許分類】
   A61B 13/00 20060101AFI20240402BHJP
【FI】
A61B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154571
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】521055976
【氏名又は名称】株式会社シマファインプレス
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】田中 晋
(72)【発明者】
【氏名】十河 基文
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 雅人
(57)【要約】
【課題】舌圧子片を最適位置に位置付けた上で、患者の噛む力に依存することなく舌圧子片を最適位置で移動不能に保持し、治療時の舌の不慮の動きを確実に防止する開口器用舌圧子及びこれを具備する開口器を提供する。
【解決手段】口を開口させた状態で舌を押さえる舌圧子片12を開口器1に取り付け可能とする開口器用舌圧子4において、開口器1に一端を取り付けたアーム部41と、アーム部41の他端に一端を取り付け、他端に舌圧子片12を設けたロッド部42とを備える。ロッド部42の一端をボール部46に対し回転及び進退可能に設けるとともに、ボール部46を周方向に縮径可能に収縮する4つのスリット49を設ける。一方、アーム部41の他端に設けたボール支持部50を緩接状態から圧接状態に変換することでボール部46に対し摺動不能に締め付けかつ各スリット49を収縮させ、ロッド部42の回転及び進退動を規制する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口を開口させた状態で舌を押さえる舌圧子片を開口器に取り付け可能とする開口器用舌圧子であって、
前記開口器に一端が取り付け可能とされたアーム部と、
前記アーム部の他端に一端が取り付けられたロッド部と、
前記ロッド部の他端に設けられた前記舌圧子片と、
を備えており、
前記ロッド部の一端は、外表面が球面状に形成されたボール部の中心を通る内周部に挿通されているとともに、前記ロッド部が前記ボール部に対し軸線方向に進退可能とされ、
前記ボール部には、前記ロッド部の軸線方向一方側の端部又は軸線方向他方側の端部が開口しかつ当該ロッド部の軸線より半径方向外方へ開口するスリットが設けられている一方、前記アーム部の他端には、前記ボール部の外表面に対し摺動可能に緩接触する緩接状態と前記ボール部の外表面に対し摺動不能に締め付ける圧接状態とに変換されるボール支持部が設けられていて、
前記ボール部は、前記ボール支持部が圧接状態に変換された際に前記スリットにより周方向に収縮し、前記ボール部に対する前記ロッド部の進退動が規制されるようにしていることを特徴とする開口器用舌圧子。
【請求項2】
前記ボール支持部は、前記ボール部の外表面を摺動する環状のボール受けと、前記ボール部の外表面を摺動し、前記ボール受けに螺着された状態で当該ボール受けに対し進退移動する環状のダイヤルとを備え、
前記ボール受けと前記ダイヤルとは、前記ボール部を挟んで互いに対峙しており、
前記ダイヤルの進出移動により前記ボール受けに対し近付く方向へ移動して前記ボール支持部を圧接状態に変換するようにしている請求項1に記載の開口器用舌圧子。
【請求項3】
前記ボール支持部は、前記ボール部の外表面を周方向から挟む一対の半円弧状部材を備えており、
前記両半円弧状部材の先端同士は回動自在に連結され、前記両半円弧状部材のうちの一方の半円弧状部材の基端は、前記アーム部の他端に設けられているとともに、他方の半円弧状部材の基端を前記一方の半円弧状部材の基端に固定する固定部を備え、前記固定部による前記両半円弧状部材の基端同士の固定により前記ボール支持部を圧接状態に変換している請求項1に記載の開口器用舌圧子。
【請求項4】
前記ロッド部は、外筒とその内部に設けられた軸部材とを備え、
前記ロッド部の他端となる前記外筒の他端には、球体が回転自在に収容され、前記球体は、前記外筒の下端より切欠を介して前記舌圧子片の基端に連結されており、
前記外筒と前記軸部材との間には、前記球体に対する前記軸部材の先端の押圧により前記球体の回転を規制する回転規制手段が設けられている請求項1~請求項3のいずれか1つに記載の開口器用舌圧子。
【請求項5】
前記請求項1~請求項4のいずれか1つに記載の開口器用舌圧子を具備することを特徴とする開口器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科や口腔外科の分野において患者の口を強制的に開口させる開口器に取り付けられた状態で舌の動きを規制する開口器用舌圧子及びこれを具備する開口器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯科や口腔外科の分野において歯部や口腔部などの診断、治療あるいは処置をする際に、患者が口を開口させた状態で舌が邪魔とならないように口腔内での動きを規制しておくようにした開口器用舌圧子は知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このような開口器用舌圧子は、患者自身の上顎及び下顎の歯で上下から噛んだ際に口を開口させた状態に保つ開口器のソケットに嵌入されるボール部が先端寄りに設けられ、開口器により口を開口させた状態で舌を押さえる舌圧子片を先端に有するロッド部を備えている。この場合、ロッド部には、当該ロッド部をボール部に対して進退移動させるハンドルが設けられている。
【0004】
開口器のソケットは、外表面が球面状に形成されたボール部の嵌入位置を手前奥方向へ2段階に変更可能とし、いずれか一方の嵌入位置に嵌入されたボール部を回転させてロッド部の角度及び進出位置を調整することで、舌圧子片を最適な位置に位置付けるようにしている。この状態で、患者自身の上顎及び下顎の歯によって開口器を上下から噛むことで、口を開口させた状態に保ちつつ、ソケット内でボール部を回転不能に押圧してロッド部の角度及び進出位置を固定し、ロッド部の角度及び進出位置が調整された位置で舌圧子片を移動不能に固定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US5588836A明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来の開口器用舌圧子では、ロッド部が角度調整された位置での舌圧子片の固定を患者の噛む力に依存しているため、治療時に噛む力が緩むと、ソケット内でのボール部の押圧力が低下してロッド部の角度が変更され、舌圧子片が移動して舌が不慮に動くおそれがある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、舌圧子片を最適位置に位置付けることができ、患者の噛む力に依存することなく舌圧子片を最適位置に保持して治療時の舌の不慮の動きを確実に防止することができる開口器用舌圧子及びこれを具備する開口器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、口を開口させた状態で舌を押さえる舌圧子片を開口器に取り付け可能とする開口器用舌圧子を前提とする。また、前記開口器に一端が取り付け可能とされたアーム部と、前記アーム部の他端に一端が取り付けられたロッド部と、前記ロッド部の他端に設けられた前記舌圧子片とを備える。更に、前記ロッド部の一端を、外表面が球面状に形成されたボール部の中心を通る内周部に挿通するとともに、前記ロッド部を前記ボール部に対し軸線方向に進退可能とする。また、前記ボール部に、前記ロッド部の軸線方向一方側の端部又は軸線方向他方側の端部が開口しかつ当該ロッド部の軸線より半径方向外方へ開口するスリットを設ける。一方、前記アーム部の他端に、前記ボール部の外表面に対し摺動可能に緩接触する緩接状態と前記ボール部の外表面に対し摺動不能に締め付ける圧接状態とに変換されるボール支持部を設ける。そして、前記ボール部を、前記ボール支持部が圧接状態に変換された際に前記スリットにより周方向に収縮させ、前記ボール部に対する前記ロッド部の進退動を規制するようにしている。
【0009】
また、前記ボール支持部に、前記ボール部の外表面を摺動する環状のボール受けと、前記ボール部の外表面を摺動し、前記ボール受けに螺着された状態で当該ボール受けに対し進退移動する環状のダイヤルとを設ける。更に、前記ボール受けと前記ダイヤルとを、前記ボール部を挟んで互いに対峙させている。そして、前記ダイヤルの進出移動により前記ボール受けに対し近付く方向へ移動して前記ボール支持部を圧接状態に変換するようにしていてもよい。
【0010】
また、前記ボール支持部に、前記ボール部の外表面を周方向から挟む一対の半円弧状部材を設ける。更に、前記両半円弧状部材の先端同士を回動自在に連結し、前記両半円弧状部材のうちの一方の半円弧状部材の基端を、前記アーム部の他端に設けるとともに、他方の半円弧状部材の基端を前記一方の半円弧状部材の基端に固定する固定部を設ける。そして、前記固定部による前記両半円弧状部材の基端同士の固定により前記ボール支持部を圧接状態に変換していてもよい。
【0011】
また、前記ロッド部に、外筒とその内部に設けられた軸部材とを設ける。更に、前記ロッド部の他端となる前記外筒の他端に、球体を回転自在に収容し、前記球体を、前記外筒の他端より切欠を介して前記舌圧子片の基端に連結する。そして、前記外筒と前記軸部材との間に、前記球体に対する前記軸部材の先端の押圧により前記球体の回転を規制する回転規制手段を設けていてもよい。
【0012】
更に、開口器用舌圧子を開口器に具備することがこのましい。
【発明の効果】
【0013】
以上、球面状のボール部の外表面を摺動する緩接状態のボール支持部によってアーム部の他端に対するロッド部の角度調整及びアーム部に対する回転を可能とする上、ボール部に対するロッド部の進退動によって長さ調整も可能となり、舌圧子片を最適位置に位置付けることができる。このとき、ボール支持部を圧接状態に変換すれば、アーム部の他端に対するロッド部の角度調整及びアーム部に対する回転、並びにボール部の周方向への収縮によるアーム部の他端に対するロッド部の長さ調整を禁止している。
【0014】
これにより、緩接状態で最適位置に位置付けた舌圧子片をボール支持部の圧接状態への変換によって患者の噛む力に依存することなく最適位置に保持でき、治療時の舌の不慮の動きを確実に防止することができる。
【0015】
また、ボール受けの周面に螺着したダイヤルの進出移動によりボール受けに対し近付く方向へ移動してボール支持部を圧接状態に変換することで、ダイヤルを回転操作するだけでボール支持部を簡単に圧接状態に変換することができる。
【0016】
これに対し、アーム部の他端に一体に連結した一方の半円弧状部材の基端に対し他方の半円弧状部材の基端を固定する固定部によりボール支持部を圧接状態に変換させることで、固定部によって両半円弧状部材を締め付けるだけでボール支持部を簡単に圧接状態に変換することができる。
【0017】
また、外筒の他端に回転可能に収容した球体に舌圧子片の基端を連結することで、ロッド部の他端に対する舌圧子片の角度調整も可能となり、アーム部の他端に対するロッド部の角度調整及びアーム部に対する回転、並びにロッド部の長さ調整に加え、舌圧子片をより一層最適位置に位置付けることができる。このとき、球体に対する軸部材の先端の押圧によって球体の回転を規制することで、舌圧子片を効果的に保持することができ、治療時の舌の不慮の動きをより確実に防止することができる。
【0018】
更に、開口器用舌圧子を開口器に具備することで、患者の口を強制的に開口させる開口器に開口器用舌圧子を取り付けた状態で舌の動きを非常に効率よく規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る開口器用舌圧子片を取り付けた状態の開口器を、アーム部の他端側を手前にしてラック側から見た斜視図である。
図2図1の開口器を、舌圧子のアーム部の一端側を手前にして反ラック側から見た斜視図である。
図3図1の開口器の正面図である。
図4図1の開口器の背面図である。
図5図1の開口器の右側面図である。
図6図4のA-A線断面図である。
図7図1の開口器用舌圧子のボール部を示し、(a)はボール部の正面図、(b)はボール部の底面図、(c)はボール部をロッド部の他側から見た斜視図、(d)はボール部をロッド部の一側から見た斜視図をそれぞれ示している。
図8】本発明の第2の実施の形態に係る開口器用舌圧子のボール部へのボール支持部の圧接状態をロッド部の軸線方向一方側から見た斜視図である。
図9図8のボール部へのボール支持部の圧接状態をロッド部の軸線と略直交する方向から見た斜視図である。
図10図8のボール支持部の両半円弧状部材を分解した状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る開口器用舌圧子により舌圧子片を取り付けた状態の開口器を、アーム部の他端側を手前にしてラック側から見た斜視図、図2図1の開口器を、舌圧子片のアーム部の一端側を手前にして反ラック側から見た斜視図をそれぞれ示している。
【0022】
図1及び図2に示すように、開口器用舌圧子4は、歯科や口腔外科の分野において患者の歯部や口腔部などの診断、治療あるいは処置をする際に用いられる。また、開口器用舌圧子4は、患者の口を強制的に開口させる開口器1に取り付け可能に具備されている。更に、開口器用舌圧子4は、開口器1により口を開口させた状態で舌を押さえる舌圧子片12を備えている。
【0023】
開口器1は、基端同士が枢着部21を介して揺動自在とされ、かつ先端近くをU字状に屈曲した最先端に歯受け部22をそれぞれ有する2本の腕杆23,24を備えている。両腕杆23,24のうちの一方の腕杆23(図1では上側)は、その基部側において長手方向へ延びるスリット25を備えている。
【0024】
枢着部21は、両腕杆23,24の基端同士に挿通される螺着部材としての蝶ボルト26を備えている。この蝶ボルト26の軸261(図4に表れる)は、一方の腕杆23の一側(図1及び図2では手前側)から回転自在に挿通されるとともに、他方の腕杆24の基端にも回転自在に挿通され、その他方の腕杆24の基端より他側に突出する先端が一方の腕杆23の他側(図1及び図2では奥側)に対し螺着されている。
【0025】
また、開口器1は、他方の腕杆24より一方の腕杆23のスリット25に向かって突設され、かつ枢着部21を中心として同心円状とするラック27と、一方の腕杆23のスリット25内の先端側に回転自在に設けられたピニオン28とを備えている。このピニオン28は、スリット25の先端側を貫通する摘み29の軸(図示せず)に回転一体に取り付けられ、ラック27に噛み合っている。このラック27は、スリット25の先端側端を経てそれよりも外方(反他方の腕杆24側)へ突出している。
【0026】
そして、双方の腕杆23,24は、摘み29の正回転時(時計回りの回転)にラック27に噛み合うピニオン28により拡げられ、一方の腕杆23に設けたストッパ30をピニオン28に係脱自在に係合させることで、歯受け部22,22により患者の口を強制的に開口させた状態に保持するようにしている。ストッパ30は、その先端をピニオン28に対し係合する向きに付勢する板バネ31を裏面側に備え、基端側を板バネ31の付勢力に抗する方向へ押圧することによってピニオン28に対する先端の係合が解除されるようになっている。
【0027】
図3図1の開口器1の正面図、図4図1の開口器1の背面図、図5図1の開口器1の右側面図をそれぞれ示している。図3図5にも示すように、開口器用舌圧子4は、開口器1に対し蝶ボルト26の軸261を介して一端側(図3では左端側)が取り付けられたアーム部41と、アーム部41の他端(図3では右端)に一端(図5では左端)が取り付けられたロッド部42と、ロッド部42の他端(図5では右端)に設けられた舌圧子片12とを備えている。
【0028】
アーム部41は、その一端側を当該アーム部41に沿って長手方向へ延びる長孔43を備え、この長孔43内に蝶ボルト26の基端側(一方の腕杆23の一側よりも基端側)が挿通されている。そして、アーム部41は、蝶ボルト26を緩めることで長孔43に沿って移動し、開口器1の蝶ボルト26に対する長さ及び角度が変更するようになっている。また、長孔43は、アーム部41の一端において長孔43と略直交する向き(図3及び図4では上方)に開口し、開口器1に対し長孔43を介してアーム部41が離脱可能となっている。
【0029】
図6図4のA-A線断面図を示している。また、図7図1の開口器用舌圧子4のボール部を示し、(a)はボール部の正面図、(b)はボール部の底面図、(c)はボール部46をロッド部42の他側から見た斜視図、(d)はボール部をロッド部42の一側から見た斜視図をそれぞれ示している。
【0030】
図6に示すように、ロッド部42は、円筒状の外筒44とその内部に設けられた軸部材45とを備えている。ロッド部42の一端(図6では下端)となる外筒44の一端には、外表面が球面状に形成されたボール部46が設けられている。
【0031】
図7に示すように、ボール部46には、その中心を通りかつ外筒44の外周面に対し摺動自在な内周部47が設けられている。また、ボール部46の内周部47の軸線方向他方側(図6では上側)には、円筒状の環状部48が設けられている。ボール部46は、ロッド部42の軸線方向一方側の端部が開口し、かつ内周部47(ロッド部42の軸芯)より半径方向外方へ開口する4つのスリット49,49,…を有している。ロッド部42の外筒44の外周面がボール部46の内周部47に対し回転及び進退可能となっている。
【0032】
一方、アーム部41の他端には、ボール部46の外表面に対し摺動するボール支持部50が設けられている。ボール支持部50は、ボール部46の外表面を摺動する環状のボール受け51と、ボール部46の外表面を摺動し、ボール受け51の周面に螺着された状態で当該ボール受け51に対し進退移動する環状のダイヤル52とを備えている。
【0033】
ボール受け51とダイヤル52とは、ボール部46を挟んで互いに対峙している。そして、ダイヤル52は、その進出移動によりボール受け51に対し近付く方向へ移動してボール支持部50を圧接状態に変換するようにしている。
【0034】
そして、ボール受け51は、アーム部41の他端に設けられたリング部55に固定されている。一方、ダイヤル52は、その内周面がボール受け51の外周面に対し螺着され、ボール受け51に対して進退移動する。そして、ボール支持部50は、ダイヤル52を正回転させた際の進出移動によりボール受け51に対し近付く方向へ移動させることで、ボール部46の外表面に対し摺動不能に締め付ける圧接状態に変換される。また、ボール部46は、ボール支持部50が圧接状態に変換された際に各スリット部49の周方向への縮径により当該各スリット49の開口端がロッド部42(外筒44)に対しほぼ均等に圧接し、ボール部46に対するロッド部42の回転及び進退動が規制される。
【0035】
一方、ボール支持部50は、ダイヤル52を逆回転させた際の後退移動によりボール受け51に対し遠ざかる方向へ移動させることで、ボール部46の外表面に対し摺動可能に緩接触する緩接状態に変換される。また、ロッド部42(外筒44)は、ボール部46に対しボール支持部50が緩接状態に変換された際に各スリット部49の周方向への拡径により各スリット49の開口端が離間すると、ボール部46に対する回転及び進退動が許容される。これにより、ロッド部42がボール部46の内周部47に対し回転及び進退移動可能となり、ロッド部42の一端側をボール部46の内周部47から抜き去ることが可能となる。
【0036】
ロッド部42の他端となる外筒44の他端には、キャップ53が固着されている。このキャップ53内には球体54が回転自在に収容されている。キャップ53の周面の周方向1か所には切欠53aが設けられている。キャップ53内の球体54には、開口器用舌圧子4の舌圧子片12の基端に連結された連結片56が切欠53aを介して連結されている。そして、外筒44と軸部材45との間には、キャップ53内での球体54の回転を規制する回転規制手段6が設けられている。この場合、球体54は、切欠53aの途中に設けられた孔(図示せず)から出し入れ可能とされ、その孔からキャップ53内に入れられ、キャップ53の底部にずらされた状態で軸部材45により位置決めされている。
【0037】
回転規制手段6は、外筒44の他端部に設けられた雌ねじ部61と、軸部材45の他端部に設けられ、雌ねじ部61に噛合する雄ねじ部62とを備えている。軸部材45の一端部(図6では下端部)は、外筒44よりも突出し、その突出部に軸部材45を回転させる操作部63を備えている。この操作部63は、軸部材45の回転操作が円滑に行われるように拡径している。そして、回転規制手段6は、球体54の回転により舌圧子片12を最適位置に位置付けた状態で操作部63を正回転させると、球体54に対して軸部材45の先端が押圧され、この軸部材45の押圧により球体54の回転を規制している。
【0038】
したがって、本実施の形態では、球面状のボール部46の外表面を摺動する緩接状態のボール支持部50によってアーム部41の他端に対するロッド部42の角度調整を可能とする上、ロッド部42がボール部46に対して回転及び進退動することによってアーム部41の他端に対するロッド部42の回転及び長さ調整も可能となり、舌圧子片12を最適位置に位置付けることができる。このとき、ボール支持部50を圧接状態に変換すれば、アーム部41の他端に対するロッド部42の角度調整、及びボール部46の周方向への収縮によってアーム部41の他端に対するロッド部42の回転及び長さ調整を禁止している。
【0039】
これにより、ボール支持部50の緩接状態で最適位置に位置付けた舌圧子片12をボール支持部50の圧接状態への変換によって患者の噛む力に依存することなく最適位置に保持でき、治療時の舌の不慮の動きを確実に防止することができる。
【0040】
また、ボール部46の周方向等間隔置きに4つのスリット49,49,…が設けられているので、ボール支持部50を圧接状態に変換した際にボール部46が各スリット49によりほぼ均等に周方向へ収縮し、ロッド部42に対しボール部46が周方向でほぼ均等に圧接する。これにより、ボール部46の周方向への収縮によるアーム部41の他端に対するロッド部42の回転及び長さ調整を効果的に禁止して舌圧子片12の最適位置での保持を確実に行え、治療時の舌の不慮の動きを防止する上で非常に有利なものとなる。
【0041】
また、ボール受け51の外周面に内周面が螺着するダイヤル52の進出移動によりボール受け51に対し近付く方向へ移動してボール支持部50が圧接状態に変換されるので、ダイヤル52を回転操作するだけでボール支持部50を簡単に圧接状態に変換することができる。
【0042】
更に、外筒44他端のキャップ53内での球体54の回転により舌圧子片12が最適位置に位置付けられるので、ロッド部42の他端に対する舌圧子片12の角度調整も可能となり、アーム部41の他端に対するロッド部42の角度調整、回転及び長さ調整に加え、舌圧子片12をより一層最適位置に位置付けることができる。このとき、球体54に対する軸部材45の先端の押圧によって球体54の回転が規制されるので、舌圧子片12を効果的に保持することができ、治療時の舌の不慮の動きをより一層確実に防止することができる。
【0043】
しかも、蝶ボルト26を緩めることで開口器1から長孔43を介してアーム部41が分離可能とされている上、ボール支持部50を緩接状態に変換することでボール支持部50、ボール部46、及びボール部46の内周部47からロッド部42の一端側を抜き去ることも可能とされている。加えて、キャップ53底部の球体54が切欠53a途中の孔から出し入れ可能とされ、球体54と共に外筒44の他端からの舌圧子片12の離脱も可能とされている。このため、開口器1、ボール支持部50、アーム部41、ロッド部42、舌圧子片12をそれぞれ離脱させて、個々に適宜洗浄することが可能となり、衛生上非常に優れたものとなる。
【0044】
更に、開口器用舌圧子4が開口器1に備えられていることにより、患者の口を強制的に開口させる開口器1に開口器用舌圧子4を取り付けた状態で舌の動きを非常に効率よく規制することができる。
【0045】
次に、本発明の第2の実施の形態を図8図10に基づいて説明する。
【0046】
この実施の形態では、ボール支持部の構成を変更している。なお、ボール支持部を除くその他の構成は前記第1の実施の形態の場合と同じであり、同一部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0047】
図8は本発明の第2の実施の形態に係る開口器用舌圧子のボール部へのボール支持部の圧接状態をロッド部42の軸線方向一方側から見た斜視図を示している。また、図9図8のボール部へのボール支持部の圧接状態をロッド部42の軸線と略直交する方向から見た斜視図、図10図8のボール支持部の両半円弧状部材を分解した状態の斜視図をそれぞれ示している。
【0048】
すなわち、本実施の形態では、図8及び図9に示すように、ロッド部42の一端となる外筒44の一端には、外表面が球面状に形成されたボール部71が設けられ、ボール部71にはその中心を通りかつ外筒44の外周面に対し摺動自在な内周部72が設けられている。本実施の形態では、ロッド部42の軸線方向他方側の端部が開口しかつ内周部72より半径方向外方へ開口する8つのスリット74,74,…を備えているとともに、ロッド部42上における各スリット74よりも軸線方向一方側に環状部73を備えている。
【0049】
アーム部41の他端には、ボール部71の外表面に対し摺動するボール支持部75が設けられている。ボール支持部75は、ボール部71の外表面に対しその中心軸方向中央部分を周方向から挟む一対の半円弧状部材76,77を備えている。両半円弧状部材76,77の先端同士は、突起78回りに回動自在に支持されている。一方、両半円弧状部材76,77の基端には、それぞれアーム部41の他端側へ延びる連結部76a,77aの一端(図8及び図9では左端)が一体的に設けられている。この場合、図10に示すように、両半円弧状部材76,77は、突起78の係脱により分離可能とされている。
【0050】
両半円弧状部材76,77のうちの一方の半円弧状部材76の連結部76aの他端(図8及び図9では右端)は、アーム部41の他端に一体に連結されているとともに、他方の半円弧状部材77(図8及び図9では上側)の連結部77aの他端を締め付ける固定部79が設けられている。固定部79は、一方の半円弧状部材76の連結部76aの他端に設けられた挿通孔76bに挿通される蝶ボルト80と、他方の半円弧状部材77の連結部77aの他端に設けられ、蝶ボルト80が螺着するねじ孔81とを備えている。
【0051】
そして、蝶ボルト80をねじ孔81へ螺着する固定部79による両半円弧状部材76,77の連結部76a,77aの他端での締め付けにより、ボール支持部75を圧接状態に変換している。この場合、蝶ボルト80によるねじ孔81への螺着を緩めることで、ボール部71の外表面に対してボール支持部75が摺動可能に緩接触する緩接状態に変換される。
【0052】
したがって、本実施の形態では、一方の半円弧状部材76の連結部76aに対し他方の半円弧状部材77の連結部77aを締め付ける固定部79を緩めてボール支持部75を緩接状態とし、ロッド部42一端のボール部71の外表面に対しアーム部41の他端の両半円弧状部材76,77を摺動させて、アーム部41の他端に対するロッド部42の角度調整が可能となる。その上、ボール部71に対するロッド部42の回転及び進退動によってアーム部41の他端に対するロッド部42の回転及び長さ調整も可能となり、舌圧子片12を最適位置に位置付けることができる。このとき、ボール支持部75を圧接状態に変換すれば、アーム部41の他端に対するロッド部42の角度調整、及びボール部71の周方向への収縮によってアーム部41の他端に対するロッド部42の回転及び長さ調整を禁止している。
【0053】
これにより、ボール支持部75の緩接状態で最適位置に位置付けた舌圧子片12をボール支持部75の圧接状態への変換によって患者の噛む力に依存することなく最適位置に保持でき、治療時の舌の不慮の動きを確実に防止することができる。しかも、一方の半円弧状部材76の連結部76aの挿通孔76bに挿通した蝶ボルト80を他方の半円弧状部材77の連結部77aのねじ孔81に螺着する固定部79によって、両半円弧状部材76,77を締め付けるだけでボール支持部75を簡単に圧接状態に変換させることができる。
【0054】
なお、前記各実施の形態では、ボール部46,71に、内周部47,72より半径方向外方へ開口しかつロッド部42の軸線方向一方側の端部又は軸線方向他方側の端部が開口する4つ又は8つのスリット49,74を設けたが、スリットの数はこれらに限らず、1~3つ又は5~7つ、もしくは9つ以上のスリットが設けられていてもよい。
【0055】
また、前記各実施の形態では、ロッド部42の他端に固着したキャップ53内に球体54を回転自在に収容し、キャップ53の周面の切欠53aを介してキャップ53内の球体54と舌圧子片12とを連結片56で連結したが、ロッド部の他端に舌圧子片の基端が直に固定、たとえば挿し込むなどしてロックされるロック機構により固定されていてもよい。
【0056】
また、前記各実施の形態では、ロッド部42をボール部46,71に対して回転可能にかつ進退移動可能に構成したが、ロッド部がボール部に対して回転不能で進退移動のみが可能に構成されていてもよい。
【0057】
また、前記各実施の形態では、ロッド部42の他端にキャップ53を固着したが、ロッド部の他端がキャップに相当する構造、たとえば閉塞された構造に構成されていてもよい。
【0058】
また、前記第2の実施の形態では、蝶ボルト80のねじ孔81への螺着により両半円弧状部材76,77の連結部76a,77aの他端を締め付ける固定部79を構成したが、一方の半円弧状部材の連結部の他端に他方の半円弧状部材77の連結部の他端が梃子の原理を用いたレバーの操作によって圧接される圧接状態とレバー操作の解除により緩接状態とに切り替えられる固定部であってもよい。
【0059】
更に、前記各実施の形態では、開口器用舌圧子4を開口器1に具備した場合について述べたが、開口器用舌圧子のみ交換又は洗浄を要求された際などにおいても開口器に対し取り付け可能である。
【符号の説明】
【0060】
1開口器
12 舌圧子片
26 蝶ボルト
261 軸
4 開口器用舌圧子
41 アーム部
42 ロッド部
44 外筒
45 軸部材
46 ボール部
47 内周部
49 スリット
50 ボール支持部
51 ボール受け
52 ダイヤル
53 キャップ
54 球体
6 回転規制手段
71 ボール部
72 内周部
74 スリット
75 ボール支持部
76 一方の半円弧状部材
77 他方の半円弧状部材
79 固定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10