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特開2024-48588塩素含有架橋性樹脂組成物、塩素含有架橋樹脂組成物、キャブタイヤケーブル、及びシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法
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  • 特開-塩素含有架橋性樹脂組成物、塩素含有架橋樹脂組成物、キャブタイヤケーブル、及びシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048588
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】塩素含有架橋性樹脂組成物、塩素含有架橋樹脂組成物、キャブタイヤケーブル、及びシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/28 20060101AFI20240402BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20240402BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20240402BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240402BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240402BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20240402BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240402BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20240402BHJP
   H01B 7/18 20060101ALN20240402BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L27/06
C08L73/00
C08K3/013
C08K5/14
C08K5/5425
C08J5/00 CES
H01B3/44 B
H01B3/44 D
H01B7/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154587
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(72)【発明者】
【氏名】芦川 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】千葉 宏樹
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
5G305
5G313
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA24
4F071AA79
4F071AA81
4F071AB21
4F071AB26
4F071AC08
4F071AC10
4F071AC16
4F071AC19
4F071AE02
4F071AE03
4F071AE04
4F071AE17
4F071AF13
4F071AF15Y
4F071AF20Y
4F071AF21Y
4F071AG05
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB06
4F071BC06
4J002BB24W
4J002BD03X
4J002BG02Z
4J002CF00Z
4J002CJ00Y
4J002DA018
4J002DE078
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4J002DF018
4J002DJ008
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4J002DK008
4J002EH096
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4J002EK037
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4J002FD018
4J002FD026
4J002FD02Z
4J002FD157
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB24
5G305BA25
5G305CA03
5G305CA04
5G305CA51
5G305CB14
5G305CC02
5G305CC03
5G305CC04
5G305CC11
5G305CC12
5G305CC20
5G305CD01
5G305CD05
5G305CD06
5G305CD07
5G305CD09
5G305DA23
5G313AA03
5G313AB09
5G313AC07
5G313AD03
5G313AE02
5G313AE03
(57)【要約】
【課題】優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物及び塩素含有架橋性樹脂組成物、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法並びにキャブタイヤケーブルを提供する。
【解決手段】塩素化ポリエチレン及びポリ塩化ビニルを含む塩素含有樹脂と、エチレン-一酸化炭素共重合体と、可塑剤と、有機過酸化物と、無機フィラーとを特定の割合で含有する塩素含有架橋性樹脂組成物であって、エチレン-一酸化炭素共重合体がエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含み、架橋したときの引張強度が10.0MPa以上であって、引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である塩素含有架橋性樹脂組成物、及び塩素含有架橋樹脂組成物、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法並びにキャブタイヤケーブル。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~60質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~5.0質量部と、無機フィラー0.5~100質量部とを含む塩素含有架橋性樹脂組成物であって、
前記塩素含有樹脂が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含み、
前記エチレン-一酸化炭素共重合体が、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含み、
前記塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋したときの引張強度が10.0MPa以上であって、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である、塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機過酸化物の含有量が0.01~0.5質量部であり、かつ前記塩素含有樹脂100質量部に対して、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下でグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを更に含む、請求項1に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エチレン-一酸化炭素共重合体がエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体である、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項4】
前記塩素含有樹脂が、前記塩素化ポリエチレンと前記ポリ塩化ビニルの合計100質量%のうち、前記塩素化ポリエチレンの含有率が50~90質量%であり、前記ポリ塩化ビニルの含有率が10~50質量%である、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項5】
前記塩素化ポリエチレンが非結晶性の塩素化ポリエチレンを含む、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項6】
前記塩素化ポリエチレン中の前記非結晶性の塩素化ポリエチレンの含有率が80質量%である、請求項5に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項7】
前記塩素化ポリエチレンが、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンを含む、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項8】
前記塩素化ポリエチレンが、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンと、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレンを含む、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項9】
前記塩素含有樹脂が、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレン30~50質量%と、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレン10~30質量%と、ポリ塩化ビニル10~50質量%とを含む、請求項2に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理してなる塩素含有架橋樹脂組成物であって、
引張強度が10.0MPa以上で、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である、塩素含有架橋樹脂組成物。
【請求項11】
請求項10に記載の塩素含有架橋樹脂組成物からなるシースを有するキャブタイヤケーブル。
【請求項12】
下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有し、引張強度が10.0MPa以上で、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00であるシラン架橋塩素含有樹脂成形体を製造する方法であって、
工程(1):塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~6
0質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量
部と、無機フィラー0.5~100質量部と、前記有機過酸化物から発生し
たラジカルの存在下でグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシ
ランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合し
て、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部
位と前記塩素含有樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させ
ることにより、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製する工程
工程(2):前記塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体と水とを接触させて、シラン架橋塩素含有樹脂成形体を得る工程

前記塩素含有樹脂が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含み、
前記エチレン-一酸化炭素共重合体がエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含み、
前記工程(1)において、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法。

工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調
製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記塩素含有樹脂の全部又は一部とエチレン-一酸化炭素
共重合体と可塑剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物
の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記グラフト化反応部位
と前記グラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより
、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記塩素含有樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒
マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスタ
ーバッチとを溶融混合して、前記塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製す
る工程
【請求項13】
前記塩素含有樹脂が、前記塩素化ポリエチレンと前記ポリ塩化ビニルの合計100質量%のうち、前記塩素化ポリエチレンの含有率が50~90質量%であり、前記ポリ塩化ビニルの含有率が10~50質量%である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記塩素化ポリエチレンが非結晶性の塩素化ポリエチレンを80質量%以上含有する、請求項12に記載の製造方法。
【請求項15】
前記塩素含有樹脂が、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレン30~50質量%と、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレン10~30質量%と、ポリ塩化ビニル10~50質量%とを含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたシラン架橋塩素含有樹脂成形体からなるシースを有するキャブタイヤケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有架橋性樹脂組成物、塩素含有架橋樹脂組成物、キャブタイヤケーブル、及びシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器分野や産業分野、自動車に使用される絶縁電線、ケーブル、コード、光ファイバ心線、光ファイバコード(光ファイバケーブル)等の配線材には、耐熱性、機械特性(例えば引張特性)等の種々の特性が要求される。例えば、導体とその外周に絶縁層とを有する絶縁電線の外周にシースを設けたキャブタイヤケーブルは、主に建設現場での給電用電線、例えば工作機器の移動部分の電気的接続用電線として使用され、屈曲されたり、敷設後に例えばコンクリート床面上を引き回されたりする。そのため、キャブタイヤケーブルには、優れた柔軟性(屈曲性)と高い強度とが求められる。
このようなキャブタイヤケーブルとして、特許文献1には、特定の絶縁層用シラン架橋性組成物のシラノール縮合硬化物からなる絶縁層と、「含ハロゲン樹脂を含有するベース樹脂(B)100質量部に対し、無機フィラー(Q)1~200質量部と、前記ベース樹脂(B)とグラフト化反応したシランカップリング剤(F)2質量部を越え15.0質量部以下とを含有し、さらにシラノール縮合触媒(Y)を含有するシース用シラン架橋性組成物」のシラノール縮合硬化物からなるシースとを、有するキャブタイヤケーブルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-179689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、配線材は通電状態で使用されるため自己発熱して高温状態(例えば60℃以上)になることがある。特にキャブタイヤケーブルは通電による発熱量が大きく、通電状態で引き回されるため、高温状態においても屈曲され、引き回される際に発生する応力(物理的負荷)に対する耐性として高い強度を維持する高温特性が重要になる。しかし、特許文献1ではこの観点からの検討はされていない。
【0005】
本発明は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物、及びこの塩素含有架橋樹脂組成物を製造可能な塩素含有架橋性樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、塩素含有架橋樹脂組成物を用いたキャブタイヤケーブルを提供することを課題とする。更に、本発明は、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、配線材の絶縁層又はシースを形成する架橋性樹脂組成物について、鋭意検討したところ、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含む塩素含有樹脂に対して、特定のエチレン-一酸化炭素共重合体、可塑剤及び無機フィラーを特定の割合で併用したうえで、この組成を有する塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋処理したときの引張強度を10MPa以上に設定し、かつ引張強度を100%モジュラスで除した値を1.20~5.00に設定することにより、優れた柔軟性を示しながらも高い強度を発現し、しかも高温状態においても高い強度を維持する塩素含有架橋樹脂組成物を製造できることを見出した。また、本発明者らは、塩素含有架橋性樹脂組成物の調製にシラン架橋法を適用することにより、特殊な設備を要せずに簡便かつ高い生産性で、上記の優れた特性を有する塩素含有架橋樹脂組成物の成形体としてシラン架橋塩素含有樹脂成形体を製造できること、更に、上記の優れた特性を有する塩素含有架橋樹脂組成物がキャブタイヤケーブルのシース材として好適であることを見出した。
本発明者らはこの知見に基づき更に検討を重ね、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の課題は以下の手段によって達成された。
<1>塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~60質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~5.0質量部と、無機フィラー0.5~100質量部とを含む塩素含有架橋性樹脂組成物であって、
前記塩素含有樹脂が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含み、
前記エチレン-一酸化炭素共重合体が、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含み、
前記塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋したときの引張強度が10.0MPa以上であって、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である、塩素含有架橋性樹脂組成物。
<2>前記有機過酸化物の含有量が0.01~0.5質量部であり、かつ前記塩素含有樹脂100質量部に対して、前記有機過酸化物から発生したラジカルの存在下でグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを更に含む、<1>に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<3>前記エチレン-一酸化炭素共重合体がエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体である、<1>又は<2>に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<4>前記塩素含有樹脂が、前記塩素化ポリエチレンと前記ポリ塩化ビニルの合計100質量%のうち、前記塩素化ポリエチレンの含有率が50~90質量%であり、前記ポリ塩化ビニルの含有率が10~50質量%である、<1>~<3>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<5>前記塩素化ポリエチレンが、非結晶性の塩素化ポリエチレンを含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<6>前記塩素化ポリエチレン中の前記非結晶性の塩素化ポリエチレンの含有率が80質量%である、<5>に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<7>前記塩素化ポリエチレンが、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンを含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<8>前記塩素化ポリエチレンが、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンと、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレンを含む、<1>~<7>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<9>前記塩素含有樹脂が、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレン30~50質量%と、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレン10~30質量%と、ポリ塩化ビニル10~50質量%とを含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物。
<10>上記<1>~<9>のいずれか1項に記載の塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理してなる塩素含有架橋樹脂組成物であって、
引張強度が10.0MPa以上で、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である、塩素含有架橋樹脂組成物。
<11>上記<10>に記載の塩素含有架橋樹脂組成物からなるシースを有するキャブタイヤケーブル。
【0008】
<12>下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有し、引張強度が10.0MPa以上で、該引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00であるシラン架橋塩素含有樹脂成形体を製造する方法であって、
工程(1):塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~6
0質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量
部と、無機フィラー0.5~100質量部と、前記有機過酸化物から発生し
たラジカルの存在下でグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシ
ランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合し
て、前記有機過酸化物から発生したラジカルによって前記グラフト化反応部
位と前記塩素含有樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させ
ることにより、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製する工程
工程(2):前記塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):前記成形体と水とを接触させて、シラン架橋塩素含有樹脂成形体を得る工程

前記塩素含有樹脂が、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含み、
前記エチレン-一酸化炭素共重合体がエチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含み、
前記工程(1)において、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の全部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有し、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の一部を溶融混合する場合には、前記工程(1)が下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法。

工程(a-1):前記無機フィラー及び前記シランカップリング剤を混合して混合物を調
製する工程
工程(a-2):前記混合物と前記塩素含有樹脂の全部又は一部とエチレン-一酸化炭素
共重合体と可塑剤とを、前記有機過酸化物の存在下で前記有機過酸化物
の分解温度以上の温度において溶融混合して、前記グラフト化反応部位
と前記グラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより
、シランマスターバッチを調製する工程
工程(b):前記塩素含有樹脂の残部及び前記シラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒
マスターバッチを調製する工程
工程(c):前記シランマスターバッチと、前記シラノール縮合触媒又は前記触媒マスタ
ーバッチとを溶融混合して、前記塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製す
る工程
【0009】
<13>前記塩素含有樹脂が、前記塩素化ポリエチレンと前記ポリ塩化ビニルの合計100質量%のうち、前記塩素化ポリエチレンの含有率が50~90質量%であり、前記ポリ塩化ビニルの含有率が10~50質量%である、<12>に記載の製造方法。
<14>
前記塩素化ポリエチレンが非結晶性の塩素化ポリエチレンを80質量%以上含有する、<12>又は<13>に記載の製造方法。
<15>前記塩素含有樹脂が、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレン30~50質量%と、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレン10~30質量%と、ポリ塩化ビニル10~50質量%とを含む、<12>~<14>のいずれか1項に記載の製造方法。
<16>上記<12>~<15>のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたシラン架橋塩素含有樹脂成形体からなるシースを有するキャブタイヤケーブル。
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。なお、本発明において、成分の含有量、物性等について数値範囲を複数設定して説明する場合、数値範囲を形成する上限値及び下限値は、特定の数値範囲として「~」の前後に記載された特定の上限値及び下限値の組み合わせに限定されず、各数値範囲の上限値と下限値とを適宜に組み合わせた数値範囲とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物、及びこの塩素含有架橋樹脂組成物を製造可能な塩素含有架橋性樹脂組成物を提供できる。また、本発明は、塩素含有架橋樹脂組成物を用いたキャブタイヤケーブルを提供できる。更に、本発明は、シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のキャブタイヤケーブルの一態様の構造を表す端面図である。
図2】本発明のキャブタイヤケーブルの別の一態様の構造を表す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[塩素含有架橋性樹脂組成物]
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物は、塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含む塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~60質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~5.0質量部と、無機フィラー0.5~100質量部とを含んでいる。この組成を有する塩素含有架橋性樹脂組成物は、架橋反応処理したときの引張強度が10.0MPa以上であって、引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00となる(引張強度が10.0MPa以上であって、引張強度を100%モジュラスで除した値が1.20~5.00である塩素含有架橋樹脂組成物を製造できる)。
【0014】
塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋させる架橋反応(架橋法)は、特に制限されず、公知の樹脂架橋法を適用できる。例えば、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法が挙げられる。特殊な設備を要せずに簡便かつ高い生産性で架橋反応処理が可能となる点で、シラン架橋法が好ましい。
本発明において、有機過酸化物架橋法とは、化学架橋法の1つであり、熱を加えることにより有機過酸化物等を分解させて生じるラジカルによって塩素含有樹脂同士を直接架橋反応させる方法(有機過酸化物架橋法)をいう。また、シラン架橋法とは、有機過酸化物架橋法とは別の化学架橋法であり、架橋触媒として有機過酸化物を含有する塩素含有架橋性組成物において、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して有機過酸化物から生じるラジカルによって架橋剤としてのシランカップリング剤を塩素含有樹脂にグラフト化反応させてシラングラフト樹脂を得た後に、所望により成形し、次いで、好ましくはシラノール縮合触媒の存在下でシラングラフト樹脂を水分と接触させることにより、シランカップリング剤をシラノール縮合反応させる方法をいう。なお、エチレン-一酸化炭素共重合体も、有機過酸化物架橋法において架橋反応することがあり、またシラン架橋法においてグラフト化反応することがある。
【0015】
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物は、後述する架橋反応処理により、少なくとも塩素含有樹脂が架橋しうる組成物であればよく、適用する架橋法に応じて必須の又は好適な成分、例えば、架橋剤、架橋助剤、架橋触媒、架橋促進剤を更に含有していることが好ましい。具体的には、本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物をシラン架橋法で架橋反応させる場合には、上記成分に加えて、シランカップリング剤及びシラノール縮合触媒を更に含有する。
【0016】
本発明において、有機過酸化物架橋法又はシラン架橋法に好適に適用可能な塩素含有架橋性樹脂組成物を、それぞれ、有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物、シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物ということがある。
【0017】
(シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物)
シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物は、上述の成分を含有する組成物であるが、好ましくは、上記塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~60質量部と、可塑剤5~40質量部と、無機フィラー0.5~100質量部と、シランカップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを含有する架橋性組成物であって、有機過酸化物の分解反応により生じたラジカルによってシランカップリング剤が上記塩素含有樹脂又はエチレン-一酸化炭素共重合体にグラフト化反応している塩素含有シラン架橋性樹脂組成物である。この塩素含有シラン架橋性樹脂組成物は、適宜の方法で調製できるが、好ましくは、後述する本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法における工程(1)により調製できる。この塩素含有シラン架橋性樹脂組成物において、シランカップリング剤は無機フィラーと結合若しくは解離していてもよい。
シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物、特に塩素含有シラン架橋性樹脂組成物は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物の製造、特に本発明の塩素含有架橋樹脂成形体の製造方法に好適に用いられる。
【0018】
[塩素含有架橋樹脂組成物]
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理してなる塩素含有架橋樹脂組成物であって、本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物の架橋硬化物ともいう。
この塩素含有架橋樹脂組成物は、塩素含有樹脂、通常塩素化ポリエチレン、更にエチレン-一酸化炭素共重合体が架橋した架橋構造を有しており、後述するように、架橋構造に無機フィラーが組み込まれていてもよい。架橋構造は、塩素含有架橋性樹脂組成物に適用する架橋反応に応じて決定される。例えば、有機過酸化物架橋法を適用する場合、通常、樹脂同士が直接架橋した構造を有している。一方、シラン架橋法を適用する場合、シランカップリング剤又はそのシラノール縮合物を介した架橋構造を有しており、その架橋構造の一部に無機フィラーが組み込まれている構造が好ましい。
本発明において、シラン架橋性塩素含有樹脂組成物をシラン架橋法(シランカップリング剤のグラフト化反応及びシラノール縮合反応)によって架橋して得られる塩素含有架橋樹脂組成物(シラノール縮合硬化物)をシラン架橋塩素含有樹脂組成物という。
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、所定の形状及び寸法に成形された成形体を含み、成形された塩素含有架橋樹脂組成物を塩素含有架橋樹脂成形体といい、成形されたシラン架橋塩素含有樹脂組成物をシラン架橋塩素含有樹脂成形体という。
【0019】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れている。その理由は定かではないが以下のように考えられる。塩素化ポリエチレンとポリ塩化ビニルとを含む塩素含有樹脂に対して、特定のエチレン-一酸化炭素共重合体、可塑剤及び無機フィラーを特定の割合で含有することにより、架橋反応処理して強度を高めても各成分が協働して、柔軟性の低下が抑制できると考えられる。しかも、塩素含有架橋樹脂組成物は、その強度、及び引張強度を100%モジュラスで除した値を特定の範囲に設定されているから、優れた柔軟性を維持しながら高温状態においても強度の大幅な低下を抑制できると考えられる。
【0020】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、実施例で説明する管状試験片において、日本産業規格(JIS) C 3005に基づいて、標線間20mm及び引張速度200mm/分の条件で測定したときの引張強度が10.0MPa以上である。この引張強度が10.0MPa以上であると、塩素含有架橋樹脂組成物が優れた強度を発現する。塩素含有架橋樹脂組成物の引張強度は、12.0MPa以上であることが好ましく、13.0MPa以上であることがより好ましい。引張強度の上限は、特に制限されず、実際的には25.0MPa以下とすることができるが、柔軟性との兼ね合いを考慮すると、15.0MPa以下とすることが好ましい。
本発明において、塩素含有架橋樹脂組成物の引張強度は、塩素含有架橋性樹脂組成物の組成(各成分の種類及び含有量)、架橋法の選択によって、調整できる。例えば、可塑剤の含有量を多くすると引張強度は小さくなる傾向がある。また、ポリ塩化ビニルの含有率や無機フィラーの含有量も引張強度に影響を与える傾向がある。
【0021】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、実施例で説明する管状試験片において、JIS C 3005に基づいて、標線間20mm及び引張速度200mm/分の条件で測定したときの、引張強度を100%モジュラスで除した値(以下、「強度モジュラス比」ということがある。)が1.20~5.00である。強度モジュラス比がこの範囲内にあると、優れた柔軟性と高い強度を両立しながらも高温特性にも優れる。すなわち、強度モジュラス比が1.20以下であると、塩素含有架橋性樹脂組成物の組成(各成分の種類及び含有量)が後述する範囲内にあっても、強度が高くなりすぎて高硬度となる。一方、強度モジュラス比が5.00を超えると、塩素含有架橋性樹脂組成物の組成が後述する範囲内にあっても、柔軟になりすぎる。いずれにおいても、優れた柔軟性と高い強度を両立できなくなり、高温特性にも劣るものとなる。塩素含有架橋樹脂組成物の強度モジュラス比は、優れた柔軟性と高い強度バランスよく両立しながら、優れた高温特性を示す点で、1.50~4.00であることが好ましく、1.50~3.30であることがより好ましく、1.80~3.30であることが更に好ましい。
本発明において、塩素含有架橋樹脂組成物の強度モジュラス比は、塩素含有架橋性樹脂組成物の強度及び100%モジュラスを調整することにより、調整できる。
【0022】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物における上記100%モジュラスは、上述の強度モジュラス比を満たす限り特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、100%モジュラスは、塩素含有架橋樹脂組成物に優れた柔軟性を発現できる点で、11.0MPa以下であることが好ましく、9.0MPa以下であることがより好ましく、7.0MPa以下であることが更に好ましい。100%モジュラスの下限は、特に制限されず、実際的には2.0MPa以上とすることができ、強度との兼ね合いを考慮すると、3.0MPa以上とすることが好ましい。
本発明において、塩素含有架橋樹脂組成物の100%モジュラスは、塩素含有架橋性樹脂組成物の組成(各成分の種類及び含有量)、架橋法の選択によって、調整できる。例えば、可塑剤の含有量を多くすると100%モジュラスは小さくなる傾向がある。また、ポリ塩化ビニルの含有率や無機フィラーの含有量も100%モジュラスに影響を与える傾向がある。
【0023】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、高い強度と優れた柔軟性を示しながらも高温特性に優れており、特にキャブタイヤケーブルのシース材として好適に用いられる。本発明の塩素含有架橋樹脂組成物が示す高温特性は、配線材の自己発熱等によって高温状態(例えば60℃以上)になっても、高い強度を維持する(強度の大幅な低下を抑える)ことができる特性であって、後述する実施例における「高温圧壊試験」での「最大負荷力」が18N以上であることをいう。
【0024】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物、及び後述する本発明の成形体製造方法で製造されるシラン架橋塩素含有樹脂成形体は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れており、各種製品(半製品、部品、部材も含む。)に好適に用いることができる。具体的には、配線材の絶縁層若しくはシース、モールド材、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート、パッキン、ガスケット、クッション材、防震材等が挙げられる。特に、自動車若しくは電車等の車両用絶縁電線の絶縁層、キャブタイヤケーブルのシースとして、好適に用いられる。
【0025】
以下に、本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物及び塩素含有架橋樹脂組成物(以下、両者を併せて本発明の樹脂組成物ということがある。)を構成する各成分、更に本発明の成形体製造方法に用いる各成分について、説明する。
各成分は、それぞれ、1種又は2種以上を用いることができる。
【0026】
<塩素含有樹脂>
本発明においては、本発明の樹脂組成物を構成するベース樹脂として、塩素含有樹脂を用いる。
本発明においては、塩素含有樹脂として、ポリ塩化ビニルと塩素化ポリエチレンとを組み合わせて用いる。ポリ塩化ビニルと塩素化ポリエチレンとをベース樹脂として用いることにより、柔軟性と強度、更には高温特性を改善できる。なお、塩素含有樹脂は、ポリ塩化ビニル以外で、かつ塩素化ポリエチレン以外の塩素含有樹脂(その他の塩素含有樹脂ということがある。)、例えば、ポリ塩化ビニリデン、クロロプレンゴムを含有していてもよい。
【0027】
(塩素化ポリエチレン)
塩素化ポリエチレンとしては、ポリエチレン主鎖に結合する水素原子が塩素原子で置換されているポリエチレンであれば特に限定されず、例えば、エチレン(共)重合体を塩素化して得られるもの等が挙げられる。塩素化ポリエチレンは、通常、有機過酸化物によって、架橋反応する部位、又はシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位(例えば、炭素鎖の不飽和結合部位や、水素原子を有する炭素原子)を、主鎖中又はその末端に有している。塩素化ポリエチレンの質量平均分子量は、特に制限されず、特性や用途等に応じて適宜に設定できる。
【0028】
塩素化ポリエチレンの結晶性は、非結晶性、半結晶性及び結晶性のいずれでもよいが、柔軟でありながらも架橋処理によって高い強度を発現して、柔軟性と強度とを両立しながら高温特性も改善された塩素含有架橋樹脂組成物を製造できる点で、非結晶性の塩素化ポリエチレンが好ましい。本発明において、塩素化ポリエチレンの結晶性は、実施例で説明する示差走査熱量計にて測定される融解熱量(J/g)によって、決定される。
【0029】
塩素化ポリエチレンは、塩素含有量が20質量%以上のものが好ましく、25質量%以上のものがより好ましく、30質量%以上のものが更に好ましい。塩素含有量が多くなると、強度を維持しながらも優れた柔軟性を発揮するようになる。塩素含有量の上限は、塩素化する前のポリエチレンが有する、塩素原子で置換可能な水素原子のすべてを塩素原子で置換した場合の質量割合となり、塩素化する前のポリエチレンの分子量、塩素原子で置換可能な水素原子の数等により、一義的に決定できない。例えば、75質量%程度である。塩素含有量は、塩素化ポリエチレン全量に対する塩素原子の質量割合をいい、JIS K 7229に記載の電位差滴定法により、定量できる。
本発明に用いる塩素化ポリエチレンは、強度と柔軟性のバランス、更には架橋反応の進み易さの点で、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンを含むことが好ましく、柔軟性と強度とを高い水準でバランスよく両立できる点で、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンと塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレンとを含むことがより好ましい。
【0030】
(ポリ塩化ビニル)
ポリ塩化ビニルとしては、ポリ塩化ビニルの重合体(単独重合体又は共重合体)であれば、特に限定されない。ポリ塩化ビニルは、通常、有機過酸化物によって、架橋反応を起こしにくく、またシランカップリング剤がグラフト化反応しにくい。塩化ビニルの共重合体としては、塩化ビニルと他のビニルモノマー(エチレン性不飽和結合を有する化合物)との共重合体が挙げられる。他のビニルモノマーとしては、特に制限されず、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルマレイン酸、アクリロニトリル、フマル酸、アクリロニトリル、アルキルビニルエーテル等が挙げられる。
ポリ塩化ビニルの平均重合度としては、好ましくは400~3000、より好ましくは700~2600、更に好ましくは700~1500である。
【0031】
(各樹脂の含有量)
塩素含有樹脂は、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル及びその他の塩素含有樹脂の合計含有量が100質量%となるように、各樹脂(成分)の含有量を下記範囲から適宜に設定される。
塩素化ポリエチレンの、塩素含有樹脂中の含有率(総含有率)は、特に制限されないが、架橋密度が高くなる点、また柔軟性と強度とを両立しながらも高温特性にも優れる点で、50~90質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることが更に好ましい。一方、ポリ塩化ビニルの、塩素含有樹脂中の含有率は、特に制限されないが、架橋密度が高くなる点、また柔軟性と強度とを両立しながらも高温特性にも優れる点で、10~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることが更に好ましい。上記その他の塩素含有樹脂の、塩素含有樹脂中の含有率は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に決定され、例えば15質量%以下とすることができる。
【0032】
塩素化ポリエチレン中における非結晶性の塩素化ポリエチレンの含有率は、上記塩素化ポリエチレンの総含有率を考慮して適宜に設定することができる。例えば、柔軟性と強度とをバランスよく両立できる点で、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。半結晶性若しくは結晶性の塩素化ポリエチレンを含有する場合、塩素化ポリエチレン中における各含有率は、特に制限されないが、優れた柔軟性と強度の低下を抑制できる点で、20質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることがより好ましい。
塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレン及び塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレンの含有量は、それぞれ、上記塩素化ポリエチレンの総含有率を考慮して適宜に設定することができる。例えば、塩素含有量が30%以上38%未満の塩素化ポリエチレンの含有量は、柔軟性と強度とを高い水準でバランスよく両立でき、更に高温特性にも優れる点で、塩素含有樹脂100質量%中において、30~70質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましく、35~45質量%であることが更に好ましい。一方、塩素含有量が38%以上42%未満の塩素化ポリエチレンの含有量は、柔軟性と強度とを高い水準でバランスよく両立でき、更に高温特性にも優れる点で、塩素含有樹脂100質量%中において、10~40質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることが更に好ましい。
【0033】
<エチレン-一酸化炭素共重合体>
本発明においては、本発明の樹脂組成物を構成するベース樹脂として、上記塩素含有樹脂に対してエチレン-一酸化炭素共重合体を併用する。エチレン-一酸化炭素共重合体は、有機過酸化物によって、架橋反応する部位、又はシランカップリング剤のグラフト化反応部位とグラフト化反応可能な部位を、主鎖中又はその末端に有している。このエチレン-一酸化炭素共重合体は、エチレンと一酸化炭素との共重合体であるが、塩素含有樹脂との相溶性に優れ、柔軟性と強度を両立し、特に高温特性を改善できる点で、酸共重合成分との3元共重合体を用いる。3元共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種が挙げられ、柔軟性と強度とを両立しながらも、特に高温特性を高い水準に改善できる点で、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体が好ましい。
エチレン-一酸化炭素共重合体は、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体の少なくとも1種を含んでいればよく、1種又は2種を含んでいてもよく、1種であることが好ましい。
【0034】
(エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体)
エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体は、エチレンと酢酸ビニルと一酸化炭素の共重合体であればよく、公知の各種共重合体を特に制限されることなく用いることができる。エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体において、各成分の含有量は特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、エチレンの含有量は40~80質量%、酢酸ビニルの含有量は5~50質量%、一酸化炭素の含有量は3~30質量%であることが好ましく、必要に応じて更に他の単量体を共重合させることも可能である。エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体としては、例えば、エルバロイ(商品名、デュポン社製)等が挙げられる。
【0035】
(エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体)
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体は、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルと一酸化炭素との共重合体であればよく、公知の各種共重合体を特に制限されることなく用いることができる。(メタ)アクリル酸エステルは、アルキルエステルでもアリールエステルでもよいが、アルキルエステルが好ましい。アルキルエステルを形成するアルキル基は、直鎖又は分岐鎖が好ましく、その炭素数は1~18であることが好ましく、1~6であることがより好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ヘキシル基、オクチル、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体としては、具体的には、エチレン-(メタ)アクリル酸ブチル-一酸化炭素共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-一酸化炭素共重合体、エチレン-アクリル酸メチル-一酸化炭素共重合体等が挙げられ、市販品としては、例えばエルバロイ(商品名、デュポン社製)等が挙げられる。
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-一酸化炭素共重合体において、各成分の含有量は特に制限されず、適宜に設定できる。例えば、エチレンの含有量は40~80質量%、(メタ)アクリル酸エステルの含有量は15~60質量%、一酸化炭素の含有量は5~30質量%であることが好ましく、必要に応じて更に他の単量体を共重合させることも可能である。
【0036】
<可塑剤>
可塑剤は、特に限定されず、塩素含有樹脂に通常用いられる各種可塑剤を特に限定されることなく、用いることができる。本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物に可塑剤を含有させることにより、強度及び高温特性の低下を抑えながらも柔軟性を高めることができる。可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤(好ましくは、トリメリット酸トリアルキル(アルキル基の炭素数8~10))、ポリエステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤等の低分子可塑剤、ポリエステル系可塑剤、酢酸ビニル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の高分子可塑剤等が挙げられる。中でも、低分子可塑剤が好ましく、可塑効果の点から、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤等がより好ましく、フタル酸エステル系可塑剤が更に好ましい。各エステルを構成する炭化水素基は、特に制限されず、アルキル基、アリール基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。この炭化水素基の炭素数は、特に制限されず、例えば、1~12であることが好ましく、8~11であることがより好ましい。各エステルにおいて1分子中に炭化水素基を複数有する場合、互いに異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0037】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、少なくとも熱分解によりラジカルを発生して、触媒として、有機過酸化物架橋法ではベース樹脂同士の架橋反応、シラン架橋法ではシランカップリング剤のベース樹脂へのラジカル反応によるグラフト化反応(シランカップリング剤のグラフト化反応部位とベース樹脂のグラフト化反応可能な部位との共有結合形成反応であって、(ラジカル)付加反応ともいう。)を生起させる働きをする。特にシランカップリング剤がグラフト化反応部位としてエチレン性不飽和基を含む場合、エチレン性不飽和基と塩素含有樹脂等とのラジカル反応(塩素含有樹脂等からの水素ラジカルの引き抜き反応を含む)によるグラフト化反応を生起させる働きをする。
有機過酸化物としては、ラジカルを発生させるものであれば、特に制限はなく、例えば、一般式:R-OO-R、R-OO-C(=O)R、RC(=O)-OO(C=O)Rで表される化合物が好ましい。ここで、R~Rは各々独立にアルキル基、アリール基又はアシル基を表す。各化合物のR~Rのうち、いずれもアルキル基であるもの、又は、いずれかがアルキル基で残りがアシル基であるものが好ましい。
【0038】
このような有機過酸化物としては、国際公開第2015/046478号の段落[0037]に記載の有機過酸化物が挙げられ、その記載はここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が好ましい。
【0039】
有機過酸化物の分解温度は、120~195℃であるのが好ましく、125~180℃であるのが特に好ましい。有機過酸化物の分解温度は、架橋反応の反応条件以下であることが好ましく、例えば、シラン架橋法においては後述する工程(a-2)における溶融混合温度以下であることが好ましい。
本発明において、有機過酸化物の分解温度とは、常圧(約0.1MPa)環境下において、単一組成の有機過酸化物を加熱したとき、ある一定の温度又は温度域でそれ自身が2種類以上の化合物に分解反応を起こす温度を意味する。具体的には、DSC法等の熱分析により、窒素ガス雰囲気(常圧)下で5℃/分の昇温速度で、室温から加熱したとき、吸熱又は発熱を開始する温度をいう。
【0040】
<無機フィラー>
本発明において、無機フィラーは、通常、配線材の製造に用いられるものを特に制限なく使用することができる。無機フィラーは、その表面に、塩素含有樹脂と吸着、結合又は相互作用(例えば、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷若しくは双極子間での相互作用等による))して密着可能な部位を有しているものが好ましく、特に後述するシラン架橋法に用いる場合、シランカップリング剤のシラノール基等の反応部位と水素結合等が形成できる部位若しくは共有結合による化学結合しうる部位を有するものであれば特に制限なく用いることができる。この無機フィラーにおける、シランカップリング剤の反応部位と化学結合しうる部位としては、OH基(水酸基、含水もしくは結晶水の水分子、カルボキシ基等のOH基)、アミノ基、SH基等が挙げられる。
【0041】
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物に無機フィラーを含有させることにより、柔軟性の低下を抑えながらも強度及び高温特性を高めることができる。
無機フィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミニウムウイスカ、水和ケイ酸アルミニウム、水和ケイ酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等の水酸基若しくは結晶水を有する化合物のような金属水和物、更に、窒化ほう素、シリカ(結晶質シリカ、非晶質シリカ等)、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン、硼酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛を使用することができる。無機フィラーは、これらの中でも、金属水和物(より好ましくは水酸化マグネシウム)、炭酸カルシウム、ハイドロタルサイト、タルク、クレー、シリカ、若しくはカーボン、又はこれらの混合物が好ましい。
【0042】
無機フィラーは、粒子であることが好ましく、その平均粒径は、0.2~10μmが好ましく、0.3~8μmがより好ましく、0.4~5μmが更に好ましく、0.4~3μmが特に好ましい。平均粒径は、無機フィラーをアルコールや水で分散させて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置等の光学式粒径測定器によって求められる。
【0043】
無機フィラーは、シランカップリング剤等で表面処理した無機フィラーを使用することができる。例えば、シランカップリング剤表面処理金属水和物として、キスマ5L、キスマ5P(いずれも商品名、水酸化マグネシウム、協和化学社製等)等が挙げられる。シランカップリング剤による無機フィラーの表面処理量は、特に限定されないが、例えば、3質量%以下である。
【0044】
(他の成分)
塩素含有架橋性樹脂組成物及び塩素含有架橋樹脂組成物は、更に必要に応じて以下の成分を含んでいてもよい。
【0045】
- シランカップリング剤 -
シランカップリング剤としては、有機過酸化物の分解により生じたラジカルの存在下で、塩素含有樹脂等のグラフト化反応可能な部位にグラフト化反応しうるグラフト化反応部位(基又は原子)を有している。また、無機フィラーの化学結合しうる部位と反応し、シラノール縮合可能な反応部位として加水分解性シリル基を有している。このようなシランカップリング剤であれば特に限定されることなく用いることができる。このようなシランカップリング剤としては、従来のシラン架橋法に使用されているシランカップリング剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、不飽和基を有するシランカップリング剤が挙げられ、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルジメトキシエトキシシラン、ビニルジメトキシブトキシシラン、ビニルジエトキシブトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のビニルアルコキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシアルコキシシラン等が挙げられる。中でも、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリエトキシシランが特に好ましい。
シランカップリング剤は、そのままの形態で用いてもよいし、溶剤で希釈した形態で用いてもよい。
【0046】
- シラノール縮合触媒 -
シラノール縮合触媒は、シラン架橋法において、塩素含有樹脂等にグラフトされたシランカップリング剤の加水分解性シリル基を水分の存在下で縮合反応(促進)させる働きがある。このシラノール縮合触媒の働きに基づき、シランカップリング剤を介して塩素含有樹脂等が架橋される。
このようなシラノール縮合触媒としては、特に制限されず、例えば、有機スズ化合物、金属石けん、白金化合物等が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチエート、ジブチルスズジアセテート等の有機スズ化合物が挙げられる。
【0047】
- その他の重合体 -
本発明においては、塩素含有樹脂以外で、かつエチレン-一酸化炭素共重合体以外の重合体(樹脂、エラストマー、ゴムを含む。)を用いることもできる。例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、フッ素ゴム、各種エラストマー等が挙げられる。
【0048】
- 添加剤 -
本発明においては、樹脂組成物に一般的に使用される各種の添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有していてもよい。このような添加剤としては、例えば、架橋助剤、酸化防止剤、滑剤、金属不活性剤、難燃(助)剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アミン酸化防止剤、フェノール酸化防止剤又はイオウ酸化防止剤等が挙げられる。
架橋助剤としては、通常用いられるものを特に制限されることなく用いることができ、通常、多官能性化合物を用いることができる。多官能性化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等の(メタ)アタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物が挙げられる。
【0049】
(各成分の含有量)
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物において、エチレン-一酸化炭素共重合体の含有量(配合量)は、塩素含有樹脂100質量部に対して、5~60質量部である。エチレン-一酸化炭素共重合体の含有量が上記範囲内にあると、柔軟性と強度とを両立しながらも高温特性にも優れる。エチレン-一酸化炭素共重合体の含有量は、柔軟性と強度とをバランスよく両立しながらも高温特性にも優れる点で、塩素含有樹脂100質量部に対して、5~40質量部であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましい。
【0050】
可塑剤の含有量は、塩素含有樹脂100質量部に対して、5~40質量部である。可塑剤の含有量が上記範囲内にあると、柔軟性と強度とを両立しながらも高温特性にも優れる。可塑剤の含有量は、柔軟性と強度とをバランスよく両立しながらも高温特性にも優れる点で、塩素含有樹脂100質量部に対して、10~30質量部であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。
【0051】
有機過酸化物の含有量は、塩素含有樹脂100質量部に対して、0.01~5.0質量部である。有機過酸化物の含有量は、架橋法によって好適な含有量が異なる。例えば、有機過酸化物架橋法における有機過酸化物の含有量は、0.05~3.0質量部であることが好ましく、0.05~2.0質量部であることがより好ましい。一方、シラン架橋法における有機過酸化物の含有量は、0.01~0.5質量部が好ましく、0.05~0.2質量部がより好ましく、0.05~0.12質量部が更に好ましい。
【0052】
無機フィラーの含有量は、塩素含有樹脂100質量部に対して、柔軟性と強度とを両立できる点で、0.5~100質量部であり、柔軟性と強度とをバランスよく両立でき、しかも高温特性を更に改善できる点で、3~60質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましく、10~30質量部が更に好ましい。
【0053】
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物において、その他の重合体及び添加剤の含有量は、特に制限されず、適宜に決定される。例えば、その他の重合体及び添加剤の含有量は、それぞれ、塩素含有樹脂100質量部に対して、20質量%以下及び10質量%以下とすることができる。
【0054】
本発明のシラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物(塩素含有シラン架橋性樹脂組成物)において、シランカップリング剤の含有量は、塩素含有樹脂100質量部に対して1~15質量部である。シランカップリング剤の含有量がこの範囲内にあると、架橋反応を適度に進行させて、優れた柔軟性を損なうことなく、高い強度及び高温特性を両立できる。また、無機フィラーの表面にシランカップリング剤が吸着して、シランカップリング剤が混練中に揮発するのを抑制できるため、経済的である。更に、吸着しないシランカップリング剤が縮合して、成形体にゲルブツや荒れが生じて外観が悪化することを抑制することができる。シランカップリング剤の含有量は、柔軟性と強度とをバランスよく両立でき、しかも高温特性を更に改善できる点で、2~8質量部であることが好ましく、2~6質量部であることがより好ましい。
【0055】
本発明のシラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物(塩素含有シラン架橋性樹脂組成物)において、シラノール縮合触媒の含有量は、特に限定されず適宜に設定される。例えば、塩素含有樹脂100質量部に対して、0.03~0.5質量部であることが好ましく、0.03~0.2質量部であることがより好ましく、0.05~0.15質量部であることが更に好ましい。シラノール縮合触媒の含有量を0.03~0.5質量部に設定すると、架橋反応を適度に進行させて、優れた柔軟性を損なうことなく、高い強度及び高温特性を両立できる。また、成形時にゲルブツの発生を抑制できる。
【0056】
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物における各成分の含有量は、塩素含有架橋性樹脂組成物における各成分の含有量と基本的に同じである。ただし、有機過酸化物及びシラノール縮合触媒は通常分解して存在していない。なお、シランカップリング剤は塩素含有樹脂等にグラフト化して架橋構造を形成している。
【0057】
<塩素含有架橋性樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物は、上記各成分を有機過酸化物の分解温度未満の温度で混合することにより、調製できる。各成分を混合する条件は、特に限定されないが、通常、有機過酸化物の分解温度未満の温度に設定される。また、各成分は、一度に混合してもよく、順次混合してもよい。特に、塩素含有架橋性樹脂組成物(シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物)の好ましい形態である塩素含有シラン架橋性樹脂組成物においては、後述する本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法における工程(1)で調製することが好ましい。
【0058】
<塩素含有架橋樹脂組成物の調製方法>
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物は、本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理して調製できる。架橋反応処理の方法は、特に制限されず、上述のように、有機過酸化物架橋法、シラン架橋法を適用でき、シラン架橋法が好ましい。
有機過酸化物架橋法を適用する場合、架橋反応処理条件としては、有機過酸化物の分解温度以上の温度で加熱処理する。加熱方法は、特に制限されず、適宜の加熱装置、例えば加硫釜、加熱管等が挙げられる。加熱温度は、後述する工程(a-2)における加熱温度が挙げられる。なお、加熱時間は特に限定されない。一方、シラン架橋法を適用する場合、塩素含有架橋性樹脂組成物の好ましい形態である塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を最終的に架橋反応処理する条件としては、後述する工程(3)における条件が挙げられる。
本発明の塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理することにより、引張強度が10.0MPa以上で、強度モジュラス比が1.20~5.00である塩素含有架橋樹脂組成物を製造できる。
なお、塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理する前に所望の形状及び寸法に成形することもできる。成形方法及び条件については、特に制限されず、後述する工程(2)における成形方法及び条件が挙げられる。
【0059】
(シラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法)
本発明の塩素含有架橋樹脂組成物の好適な態様であるシラン架橋塩素含有樹脂成形体は、上記調製方法により製造することもできるが、以下の下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を有する製造方法により製造することが好ましい。
以下、本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法(本発明の成形体製造方法ということがある。)を具体的に説明する。
本発明の成形体製造方法は、引張強度が10.0MPa以上で、強度モジュラス比が1.20~5.00であるシラン架橋塩素含有樹脂成形体を製造する方法であって、下記工程(1)、工程(2)、及び工程(3)を有する。
【0060】
工程(1):塩素含有樹脂100質量部に対して、エチレン-一酸化炭素共重合体5~6
0質量部と、可塑剤5~40質量部と、有機過酸化物0.01~0.5質量
部と、無機フィラー0.5~100質量部と、有機過酸化物から発生したラ
ジカルの存在下でグラフト化反応しうるグラフト化反応部位を有するシラン
カップリング剤1~15質量部と、シラノール縮合触媒とを溶融混合して、
有機過酸化物から発生したラジカルによってグラフト化反応部位と塩素含有
樹脂のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、塩
素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製する工程
工程(2):得られた塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程
工程(3):得られた成形体と水とを接触させて、シラン架橋塩素含有樹脂成形体を得る
工程
【0061】
上記工程(1)は、塩素含有樹脂の使用態様に応じて、以下の工程を有する。
すなわち、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の全部を溶融混合する場合、工程(1)は下記工程(a-1)、工程(a-2)及び工程(c)を有する。一方、下記工程(a-2)で塩素含有樹脂の一部を溶融混合する場合、工程(1)は下記工程(a-1)、工程(a-2)、工程(b)及び工程(c)を有する。

工程(a-1):無機フィラー及びシランカップリング剤を混合して混合物を調製する工

工程(a-2):得られた混合物と塩素含有樹脂の全部又は一部とエチレン-一酸化炭素
共重合体と可塑剤とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温
度以上の温度において溶融混合して、グラフト化反応部位とグラフト化
反応可能な部位とをグラフト化反応させることにより、シランマスター
バッチを調製する工程
工程(b):塩素含有樹脂の残部及びシラノール縮合触媒を溶融混合して、触媒マスター
バッチを調製する工程
工程(c):シランマスターバッチと、シラノール縮合触媒又は触媒マスターバッチとを
溶融混合して、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製する工程
【0062】
上記工程(b)において、シラノール縮合触媒と混合する樹脂をキャリア樹脂ということがある。
また、工程(a-1)及び工程(a-2)の両工程を併せて工程(a)ということがある。
【0063】
上述のように、本発明の成形体製造方法においては、塩素含有樹脂を工程(a-2)に加えて工程(b)で用いる態様を含む。この場合、工程(1)における塩素含有樹脂の配合量100質量部は工程(a-2)及び工程(b)で混合される塩素含有樹脂の合計量となる。
ここで、工程(a-2)及び工程(b)に用いる塩素含有樹脂は、特に制限されず、塩素化ポリエチレンでもポリ塩化ビニルでも、またこれらの混合物でもよい。例えば、工程(a-2)においてグラフト化反応する塩素化ポリエチレンを少なくとも用い、グラフト化反応しにくいポリ塩化ビニルを工程(b)でキャリア樹脂として用いることができる。また、エチレン-一酸化炭素共重合体は、工程(a-2)及び工程(b)のいずれで混合されてもよく、グラフト化反応しやすいため工程(a-2)で混合されることが好ましいが、工程(b)のキャリア樹脂としてエチレン-一酸化炭素共重合体の一部を混合することができる。
工程(b)で塩素含有樹脂の残部を配合する場合、塩素含有樹脂は、工程(a-2)において、好ましくは70~95質量%、より好ましくは85~92質量%が配合され、工程(b)において、好ましくは5~30質量%、より好ましくは8~15質量%が配合される。なお、工程(b)でエチレン-一酸化炭素共重合体の一部を配合する場合、工程(b)で配合する塩素含有樹脂とエチレン-一酸化炭素共重合体との合計配合量は、工程(b)における塩素含有樹脂の上記配合量と同じ範囲とすることができる。
【0064】
工程(1)において、混合する各成分及びその混合量(配合量)は、上述の塩素含有架橋性樹脂組成物における各成分及びその含有量と同じであり、混合量を設定する理由も同じである。
特に、有機過酸化物の配合量を上記含有量の範囲に設定すると、上記理由に加えて、塩素含有樹脂等にシランカップリング剤を効果的にグラフト化反応させることができ、未反応のシランカップリング剤同士の縮合反応及び未反応のシランカップリング剤の揮発を抑制できる。また、塩素含有樹脂同士の架橋反応を抑制することもできる。その結果、塩素含有架橋樹脂に優れた高温特性を付与しながらも、ブツの発生を抑えて外観に優れたシラン架橋塩素含有樹脂成形体を製造できる。
なお、可塑剤を工程(b)で混合する場合、その混合量は上述の含有量の一部とされ、例えば、3~20質量部であることが好ましく、5~15質量部であることがより好ましい。
【0065】
工程(1)を行うに際して、工程(a-1)及び工程(a-2)を順次行う。すなわち、まず、無機フィラー及びシランカップリング剤を混合し、次いで、得られた混合物と、塩素含有樹脂の全部又は一部と、エチレン-一酸化炭素共重合体と、可塑剤と、無機フィラーとを、上記混合量で、有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら溶融混練することにより、上記グラフト化反応を生起させて、シランマスターバッチ(シランMB)を調製する。
本発明において、「混合物と、塩素含有樹脂の全部又は一部、エチレン-一酸化炭素共重合体と、可塑剤とを溶融混合する」際の混合順は、特に限定されるものではなく、どのような順で各成分を混合してもよいことを意味する。すなわち、工程(a-2)における混合順は特に限定されない。例えば、混合物と塩素含有樹脂とエチレン-一酸化炭素共重合体と可塑剤と残余の成分とを一度に溶融混合することもでき、また、予め塩素含有樹脂と可塑剤とを後述する工程(a-1)の乾式処理混合と同様にして混合(好ましくは粉体同士のドライブレンド)してから上記混合物等と混合してもよく、更には、混合物と塩素含有樹脂と可塑剤とを乾式処理混合(好ましくは粉体同士のドライブレンド)し、次いで得られた混合物と、残余の成分、例えばエチレン-一酸化炭素共重合、その他の成分等とを溶融混合することもできる。また、塩素含有樹脂の混合方法も特に限定されない。例えば、予め混合調製された塩素含有樹脂を用いてもよく、各成分それぞれを別々に混合してもよい。
【0066】
工程(1)においては、まず、無機フィラーとシランカップリング剤とを適宜の混合装置を用いて混合して混合物を調製する(工程(a-1))。前混合されたシランカップリング剤は、無機フィラーの表面を取り囲むように存在し、その一部又は全部が無機フィラーに吸着又は結合すると考えられる。これにより、無機フィラーに弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤と、無機フィラーに強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤とをバランスよく形成することができる。ここで、シランカップリング剤について、無機フィラーとの弱い結合としては、水素結合による相互作用、イオン、部分電荷もしくは双極子間での相互作用、吸着による作用等が挙げられる。また、無機フィラーとの強い結合としては、無機フィラー表面の化学結合しうる部位との化学結合等が挙げられる。また、上記工程(a-1)により、後の溶融混合の際にシランカップリング剤の揮発を低減でき、更に、無機フィラーに吸着又は結合しないシランカップリング剤が縮合して溶融混練が困難になることも防止できる。
【0067】
無機フィラーとシランカップリング剤とを前混合する方法としては、特に限定されないが、湿式処理、乾式処理等の混合方法が挙げられる。具体的には、好ましくは、有機過酸化物の分解温度未満の温度、好ましくは10~60℃、より好ましくは室温近傍(20~25℃)で無機フィラーとシランカップリング剤を、数分~数時間程度、乾式又は湿式により、混合する方法が挙げられ、無機フィラー、好ましくは乾燥させた無機フィラー中にシランカップリング剤を加熱又は非加熱で加えて混合する乾式処理がより好ましい。工程(a-1)においては、上記分解温度未満の温度が保持されている限り、塩素含有樹脂、エチレン-一酸化炭素共重合体を混合していてもよい。
【0068】
本発明の成形体製造方法においては、次いで、工程(a-1)で得られた、無機フィラーとシランカップリング剤との混合物と、塩素含有樹脂の全部又は一部と、適宜に工程(a-1)で混合されていない残余の成分とを、有機過酸化物の存在下で有機過酸化物の分解温度以上の温度に加熱しながら溶融混合する(工程(a-2))。工程(a-2)により、塩素含有樹脂同士及びエチレン-一酸化炭素共重合体同士の過剰な架橋反応を防止することができ、外観に優れた架橋成形体が得られる。
工程(a-2)における溶融混合により、有機過酸化物から発生したラジカルによって、シランカップリング剤のグラフト化反応部位と塩素含有樹脂等のグラフト化反応可能な部位とをグラフト化反応させる。その結果、シランカップリング剤が塩素含有樹脂等に共有結合で結合したシラングラフト樹脂が合成され、このシラングラフト樹脂を含むシランMBが調製される。工程(a-2)において、シランカップリング剤が塩素含有樹脂等にグラフト化反応する態様としては、少なくとも次のものが挙げられる。すなわち、無機フィラーと弱い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーから脱離して塩素含有樹脂等にグラフト化反応する態様である。この態様で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込まず、通常、シランカップリング剤同士のシラノール縮合物を介する架橋構造となる。また、無機フィラーと強い結合で結合又は吸着したシランカップリング剤が無機フィラーとの結合を保持した状態で塩素含有樹脂等にグラフト化反応する態様である。この態様で形成される架橋構造は無機フィラーを組み込んでおり、無機フィラーを起点としてそれに結合したシランカップリング剤を介する架橋構造となる。この工程においては、エチレン-一酸化炭素共重合体に対してもシランカップリング剤が無機フィラーとの結合又は吸着状態を維持しつつグラフト化反応することがある。
【0069】
工程(a-2)において、上記成分を溶融混合(溶融混練、混練りともいう。)する温度は、有機過酸化物の分解温度以上、好ましくは有機過酸化物の分解温度+(25~110)℃の温度で、より好ましくは150~230℃である。上記混合温度であれば、上記成分が溶融し、有機過酸化物が分解、作用して必要なシラングラフト化反応が工程(a-2)において十分に進行する。ここで、溶融混合温度の基準とする有機過酸化物の分解温度は常圧(約0.1MPa)環境下の温度である。その他の条件は適宜設定することができる。例えば混合時間は3~40分の範囲で適宜に設定される。有機過酸化物の分解温度は塩素含有樹脂が溶融する温度以上であることが好ましい。
混合方法としては、ゴム、プラスチック等で通常用いられる方法であれば、特に限定されない。混練装置として、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等が用いられる。塩素含有樹脂等の分散性、及び架橋反応の安定性の面で、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等の密閉型ミキサーが好ましい。
【0070】
有機過酸化物及びエチレン-一酸化炭素共重合体は、それぞれ、上記工程(a-2)の溶融混合時、すなわち工程(a-1)で得られた混合物と塩素含有樹脂とを溶融混合する際に、存在していればよい。これら各成分は、例えば、工程(a-1)において混合されてもよく、工程(a-2)において混合されてもよく、更に工程(b)においてキャリア樹脂として混合されてもよい。有機過酸化物は、工程(a-1)において混合されることが好ましく、エチレン-一酸化炭素共重合体は工程(a-2)において混合されることが好ましい。
可塑剤は、その一部が上記工程(a-2)の溶融混合時に存在していればよく、工程(a-1)において混合されても工程(a-2)において混合されてもよい。可塑剤は工程(a-2)において混合されることが好ましいが、残部を後述する工程(b)で混合することもできる。
【0071】
工程(a-1)及び工程(a-2)、特に工程(a-2)においては、シラノール縮合触媒を実質的に混合せずに上述の各成分を溶融混合することが好ましい。これにより、シランカップリング剤の縮合反応を抑えることがでる。ここで、「実質的に混合せず」とは、不可避的に存在するシラノール縮合触媒をも排除するものではなく、シランカップリング剤のシラノール縮合による上述の問題が生じない程度に存在していてもよいことを意味する。例えば、工程(a-2)において、シラノール縮合触媒は、塩素含有樹脂100質量部に対して0.01質量部以下であれば、存在していてもよい。
【0072】
このようにして、工程(a-1)及び工程(a-2)からなる工程(a)を行い、シランカップリング剤と塩素含有樹脂、更には適宜にエチレン-一酸化炭素共重合体とをグラフト化反応させて、シランMBを調製する。シランMBは、後述の工程(2)により成形可能な程度にシランカップリング剤が塩素含有樹脂等にグラフト化反応したシラングラフト樹脂を含有する混合物である。
【0073】
本発明の成形体製造方法において、次いで、工程(a-2)で塩素含有樹脂の一部を溶融混合する場合には、塩素含有樹脂の残部とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチ(触媒MB)を調製する工程(b)を行う。したがって、工程(a-2)で塩素含有樹脂の全部を溶融混合する場合は、工程(b)を行わなくてもよい。
【0074】
キャリア樹脂としての塩素含有樹脂の残部とシラノール縮合触媒との混合割合は、特に限定されないが、好ましくは、工程(1)における上記配合量を満たすように、設定される。
混合は、均一に混合できる方法であればよく、塩素含有樹脂の溶融下で行う混合(溶融混合)が挙げられる。溶融混合は上記工程(a-2)の溶融混合と同様に行うことができる。例えば、混合温度は、塩素含有樹脂成分の溶融温度以上で適宜設定でき、好ましくは120~200℃、より好ましくは140~180℃で行うことができる。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
【0075】
工程(b)において、塩素含有樹脂の残部に代えて、又は加えて、適宜の配合量で他の樹脂をキャリア樹脂として用いることができる。すなわち、工程(b)は、工程(a-2)で塩素含有樹脂の一部を溶融混合する場合の塩素含有樹脂の残部、又は、工程(a-2)で用いた塩素含有樹脂以外の樹脂とシラノール縮合触媒とを溶融混合して、触媒マスターバッチを調製してもよい。
また、工程(b)において、無機フィラー又は可塑剤を混合することもできる。
工程(b)において、塩素含有樹脂及び可塑剤を用いる場合、好ましくは、まず塩素含有樹脂及び可塑剤を上記工程(a-1)の乾式処理混合条件で前混合し、次いで、得られた前混合物とシラノール縮合触媒と適宜に残余の成分とを溶融混合することが好ましい。
このようにして調製される触媒MBは、シラノール縮合触媒及びキャリア樹脂、所望により添加されるフィラー又は可塑剤の(溶融)混合物である。
【0076】
本発明の成形体製造方法において、次いで、シランMBと、シラノール縮合触媒又は触媒MBとを溶融混合して、塩素含有架橋性樹脂組成物を調製する工程(c)を行う。
混合方法は、どのような混合方法でもよく、工程(a-2)の溶融混合と基本的に同様である。少なくとも塩素含有樹脂が溶融する温度で混合する。溶融混合温度は、塩素含有樹脂又はキャリア樹脂の溶融温度に応じて適宜に選択され、例えば、好ましくは80~250℃、より好ましくは100~240℃、さらに好ましくは120~200℃である。その他の条件、例えば混合時間は適宜設定することができる。
工程(c)においては、シラノール縮合反応を避けるため、シランMBとシラノール縮合触媒が混合された状態で高温状態に長時間保持されないことが好ましい。
この工程(c)を行うに際して、シランマスターバッチとシラノール縮合触媒又は触媒MBとをドライブレンドした後に溶融混合することもできる。ドライブレンドの条件は、特に制限されないが、例えば、上記工程(a-1)の乾式混合条件が挙げられる。
【0077】
このようにして、工程(a)~(c)(工程(1))を行い、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物が調製される。この塩素含有シラン架橋性樹脂組成物は、上記シラングラフト樹脂、塩素含有樹脂、エチレン-一酸化炭素共重合体、可塑剤、無機フィラー、シラノール縮合触媒等を含有している。
この塩素含有シラン架橋性樹脂組成物は、架橋方法の異なるシラングラフト樹脂を含有する。このシラングラフト樹脂において、シランカップリング剤の、シラノール縮合可能な反応部位は、無機フィラーと結合又は吸着していてもよいが、後述するようにシラノール縮合していない。したがって、シラングラフト樹脂は、無機フィラーと結合又は吸着したシランカップリング剤が塩素含有樹脂等にグラフト化したシラングラフト樹脂と、無機フィラーと結合又は吸着していないシランカップリング剤が塩素含有樹脂等にグラフト化したシラングラフト樹脂とを少なくとも含む。
上記のように、シラングラフト樹脂は、シランカップリング剤がシラノール縮合していない未架橋体である。実際的には、工程(c)で溶融混合されると、一部架橋(部分架橋)は避けられないが、得られる塩素含有シラン架橋性樹脂組成物について、少なくとも工程(2)での射出成形における射出成形性が保持されたものとする。
【0078】
工程(1)において、工程(a)~(c)は、同時又は連続して行うことができる。
【0079】
工程(1)において、上記添加剤、特に酸化防止剤は、いずれの工程で混合されてもよいが、触媒MBに混合されるのがよい。
【0080】
本発明の成形体製造方法においては、次いで、工程(1)で得られた塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形して成形体を得る工程(2)を行う。工程(2)で得られる成形体は、シランカップリング剤がシラノール縮合反応をしていない未架橋成形体である。
この成形工程(2)は、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形できればよく、例えば、押出機を用いた押出成形、射出成形機を用いた押出成形、その他の成形機を用いた成形が挙げられる。押出成形は、本発明の耐熱性製品が配線材である場合に、生産性、更には導体と共押出できる点等で、好ましい。押出成形は、汎用の押出成形機を用いて、行うことができる。成形温度は、樹脂の種類、成形速度(引取り速度)の諸条件に応じて適宜に設定され、例えば、好ましくは150~200℃に設定することが好ましい。
工程(2)の成形は、工程(c)の混合と同時に又は連続して、行うことができる。すなわち、溶融成形の際、例えば押出成形の際に、又はその直前に、成形原料として工程(a-2)で得られたシランマスターバッチ(溶融混合物)とシラノール縮合触媒又は工程(b)で得られた触媒マスターバッチ(混合物)を溶融混合する態様が挙げられる。例えば、工程(a-2)で得られたシランマスターバッチとシラノール縮合触媒等との混合物を被覆装置内で溶融混合し、次いで、導体等の外周面に押出被覆して、所望の形状に成形する一連の工程を採用できる。
【0081】
このようにして、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物の成形体が得られる。この成形体は塩素含有シラン架橋性樹脂組成物と同様に、一部架橋は避けられないが、工程(2)で成形可能な成形性を保持する未架橋若しくは部分架橋状態にある。したがって、この成形体は、工程(3)を実施することによって、架橋又は最終架橋されたシラン架橋塩素含有樹脂成形体となる。
【0082】
本発明の成形体製造方法においては、次いで、工程(2)で得られた成形体と水とを接触させる工程(3)を行う。これにより、シランカップリング剤のシラノール縮合可能な反応部位(加水分解性シリル基)加水分解されてシラノール基となり、次いで別のシラノール基(水酸基同士)と縮合して、架橋反応が起こる。こうして、シランカップリング剤がシラノール縮合して架橋したシラン架橋塩素含有樹脂成形体を得ることができる。
この工程(3)の処理自体は、通常の方法によって行うことができる。シランカップリング剤同士の縮合反応は常温、例えば20~25℃程度の温度環境下で放置するだけで進行する。したがって、工程(3)において、成形体と水とを積極的に接触させる必要はない。この架橋反応を促進させるために、成形体と水分とを積極的に接触させることもできる。例えば、高湿度雰囲気への暴露、温水への浸水、湿熱槽への投入、高温の水蒸気への暴露等の積極的に水と接触させる方法を採用できる。また、その際に水分を内部に浸透させるために圧力をかけてもよい。
【0083】
このようにして、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物からシラン架橋塩素含有樹脂成形体が製造される。このシラン架橋塩素含有樹脂成形体は、塩素含有樹脂、更にはエチレン-一酸化炭素共重合体がシロキサン結合を介して縮合したシラン架橋樹脂を含んでいる。また、シラン架橋塩素含有樹脂成形体は無機フィラーを含有しており、この無機フィラーはシラン架橋樹脂のシランカップリング剤に結合していてもよい。したがって、このシラン架橋樹脂は、複数の塩素含有樹脂等がシランカップリング剤により無機フィラーに結合又は吸着して、無機フィラー及びシランカップリング剤を介して結合(架橋)したシラン架橋樹脂と、上記塩素含有樹脂等のシランカップリング剤の反応部位が加水分解して互いにシラノール縮合反応することにより、シランカップリング剤を介して架橋したシラン架橋樹脂とを少なくとも含んでいる。
【0084】
本発明の成形体製造方法は、上述のように、一連の上記工程(1)~(3)を有するシラン架橋法において、シラン架橋法に必須の各成分に対して、上述の、塩素含有樹脂、エチレン-一酸化炭素共重合体、可塑剤及び無機フィラーを併用する。そのため、一連の工程、特に工程(1)において、上述の、塩素含有樹脂、エチレン-一酸化炭素共重合体及び可塑剤、更には無機フィラーが上述の作用を示しつつ、所定のグラフト化反応が進行して、塩素含有シラン架橋性樹脂組成物が調製される。そして、この塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を成形後にシラノール縮合反応させて、シロキサン結合を介したシラン架橋構造を形成することにより、各成分の特性若しくは作用が効果的に発現して、優れた柔軟性を示しながらも高い強度を発現し、しかも高温状態においても高い強度を維持するシラン架橋塩素含有樹脂成形体(塩素含有架橋樹脂組成物の成形体)を製造できる。
このように、本発明の成形体製造方法は、優れた柔軟性を示しながらも高い強度を発現し、しかも高温状態においても高い強度を維持するシラン架橋塩素含有樹脂成形体を、(非加熱でも架橋可能となる)簡便なシラン架橋法、すなわち従来の架橋工程が不要で省エネかつ高い生産性で、製造することができる。
【0085】
<キャブタイヤケーブル>
本発明のキャブタイヤケーブルは、導体と、導体の外周を被覆する絶縁層と、絶縁層の外周を被覆するシースを有しており、シースが塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理してなる塩素含有架橋樹脂組成物で形成されており、後述する引張試験における引張強度が10.0MPa以上で、強度モジュラス比が1.20~5.00となる。シースは、本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法によって製造されたシラン架橋塩素含有樹脂成形体で形成されていることが好ましい。
本発明において、外周を被覆するとは、外周を直接被覆する態様と、外周を他の層又は部材を介して間接被覆する態様との両態様を包含する。外周を直接被覆するとは、導体の外周面に接した状態に所定の層を設けることを意味し、換言すると、外周面と所定の層との間に他の層や構造物が介在していないことを意味する。
キャブタイヤケーブルにおいて、シースで被覆される導体及び絶縁層としては、例えば、絶縁電線又は光ファイバが挙げられる。キャブタイヤケーブル、絶縁電線及び光ファイバの構成は、シースが塩素含有架橋樹脂組成物で形成されていること以外は、特に限定されず、通常のキャブタイヤケーブル、絶縁電線及び光ファイバの構成と同じにすることができる。
【0086】
導体は、1本でもよく、複数本でもよい。複数本である場合には、撚り合わされ、若しくは並べられて、集合体を形成していることが好ましい。導体の外径は用途等に応じて適宜に設定することができる。絶縁電線を構成する導体としては、絶縁電線に通常用いられるものを特に制限されずに用いることができ、軟銅の単線又は撚り線等を用いることができる。また、導体としては銅、銅合金、アルミ、アルミ合金などの裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆を有するものを用いることもできる。光ファイバを構成する導体(ファイバ素線)としては、光ファイバに通常用いられるものを特に制限されずに用いることができ、ガラス、石英、プラスチック等が挙げられる。
【0087】
絶縁層は導体の外周を被覆している。絶縁層が導体の外周を被覆する態様は、複数本の導体の集合体を用いる場合には、一体となった集合体の外周を被覆していればよく、集合体を形成する各導体の外周を覆っている必要はない。また、絶縁層は、導体との間に、一部空間を有するように配されていてもよい。
絶縁層は、通常、キャブタイヤケーブル(絶縁電線、光ファイバ)に使用するものを使用することができる。例えば、絶縁層を形成する材料としては、特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸アルキル共重合体等のポリオレフィン樹脂、又はその架橋硬化物が挙げられる。絶縁層は単層でも複層でもよい。絶縁層の厚さは、用途等に応じて適宜に決定することができ、例えば、0.4~6.0mmとすることができる。
キャブタイヤケーブルにおいて、シース内に配置される絶縁電線又は光ファイバは、1本でもよく、複数本でもよい。複数本配置する場合には、複数本の絶縁電線又は光ファイバは撚り合わされていてもよく、並べられていてもよい(1本の絶縁電線若しくは光ファイバ、又は複数本の絶縁電線若しくは光ファイバの集合体を、ケーブルコアと呼ぶことがある。)。
【0088】
シースは絶縁層の外周を被覆する。シースが絶縁層の外周を被覆する態様は、複数本の絶縁電線又は光ファイバの集合体を用いる場合には、一体となった集合体の外周を被覆していればよく、集合体を形成する各絶縁電線又は各光ファイバの絶縁層を覆っている必要はない。シースは単層でも複層でもよい。また、シースは、絶縁層との間に、一部空間を有するように配されていてもよい。シースの厚さは、用途等に応じて適宜に決定することができ、例えば、0.4~9.0mmとすることができる。
絶縁層とシースの間には、タルク等を含有する離型剤層を有していてもよい。
【0089】
本発明のキャブタイヤケーブルは、上述のように、本発明の塩素含有架橋樹脂組成物で形成されたシースを有しているため、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも、優れた高温特性を示す。
キャブタイヤケーブルは、定格電圧に基づいて、キャブタイヤケーブルとキャブタイヤコードとに区別される場合があるが、本発明のキャブタイヤケーブルはこれらのいずれをも包含する。本発明のキャブタイヤケーブルは、上記区分におけるキャブタイヤケーブルであることが好ましい。
【0090】
本発明のキャブタイヤケーブルについて、好ましい実施形態を、図を参照して、説明する。
図1に端面図を示した本発明のキャブタイヤケーブルの一実施態様は、1本の導体1Aと、導体1Aの外周を直接被覆する絶縁層2Aとからなる1本の絶縁電線と、絶縁層2Aを直接被覆するシース3Aを有するキャブタイヤケーブル10Aである。
図2に端面図を示した本発明のキャブタイヤケーブルの別の実施態様は、ケーブルコアとして、1本の導体1Bと導体1Bの外周を直接被覆する絶縁層2Bとからなる絶縁電線を3本有していること以外は、図1に示すキャブタイヤケーブルと同様である。
【0091】
<キャブタイヤケーブルの製造方法>
本発明のキャブタイヤケーブルは、通常の方法で製造することができ、例えばケーブルコアを本発明の塩素含有架橋樹脂組成物で被覆して製造することができ、本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法を利用して製造することが好ましい。具体的には、本発明のシラン架橋塩素含有樹脂成形体の製造方法において、工程(2)においてケーブルコアの外周面上に工程(1)で得た塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を管状に成形し、次いで工程(3)を行うことにより、製造できる。工程(2)の成形は、押出被覆成形が好ましく、通常、ケーブルコアと塩素含有シラン架橋性樹脂組成物とを共押出する成形法が採用される。
なお、上記キャブタイヤケーブルの製造方法において、ケーブルコアとしての絶縁電線又は光ファイバに代えて導体(ファイバ素線)を用いることにより、シラン架橋塩素含有樹脂成形体からなる絶縁層を有する絶縁電線又は光ファイバ等の各種配線材を製造することができる。
【実施例0092】
以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
表2-1~表2-4(併せて表2という。)において、各例の配合量(含有量)に関する数値は特に断らない限り質量部を表す。また、各成分について空欄は対応する成分の配合量が0質量部であることを意味する。
表2の「架橋性組成物」欄には、各塩素含有架橋性樹脂組成物の特定の成分における含有量を示す。
【0093】
実施例及び比較例に用いた各化合物の詳細を表1及び以下に示す。
<塩素含有樹脂>
【0094】
【表1】
【0095】
(塩素含有量の測定)
各塩素化ポリエチレンの塩素含有量は、JIS K 7229に準拠して測定した。塩素イオンの定量には電位差滴定法を用いた。

(塩素化ポリエチレンの結晶性の判断)
各塩素化ポリエチレンについて、DSC(示差走査熱量計)(DSC-60 Plus(商品名)、島津製作所製)にて、10℃/分の速度で昇温して、DSC曲線を得た。その際に観測された融点において、融解熱量(J/g)を測定し、5J/g未満のものを非結晶性、5J/g以上50J/g未満のものを半結晶性、50J/g以上のものを結晶性と判定した。なお、DSC曲線における融点は、吸熱反応が始まった時点の温度とし、融解熱量は吸熱反応が発生した際に、DSC曲線のベースラインから変化した部分の面積から算出した。
【0096】
<エチレン-一酸化炭素共重合体>
エチレン-アクリル酸ブチル-一酸化炭素共重合体:エルバロイ HP662(商品名)、デュポン社製
エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体:エルバロイ 742(商品名)、デュポン社製
<エチレン-酢酸ビニル共重合体>
エチレン-酢酸ビニル共重合体:エバフレックス EV150(商品名)、エチレン含有量67質量%、酢酸ビニル含有量33質量%、三井・ダウポリケミカル社製
<可塑剤>
フタル酸ジイソノニル:DINP、ジェイ・プラス社製
<無機フィラー>
フュームドシリカ:KONASIL K-200D(商品名)、OCI社製
炭酸カルシウム:ソフトン1200(商品名)、備北粉化工業社製
ハイドロタルサイト:DHT-4A-2(商品名)、備北粉化工業社製
<シランカップリング剤>
KBM-1003:商品名、ビニルトリメトキシシラン、信越化学工業社製
<有機過酸化物>
パーヘキサ 25B:商品名、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、分解温度149℃、日油社製
パークミルD40:商品名、ジクミルパーオキサイド、分解温度145℃、日油社製
<架橋助剤>
TAIC:トリアリルイソシアヌレート、三菱ケミカル社製
<酸化防止剤>
イルガノックス1076:商品名、3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸オクタデシル、BASF社製
<シラノール縮合触媒>
アデカスタブOT-1:商品名、ジオクチルスズジラウレート、ADEKA社製
【0097】
(実施例1及び比較例1~2)
本実施例及び比較例においては、塩素含有架橋性樹脂組成物として有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物を調製し、これを導体の外周面上に押出成形した後に有機過酸化物架橋法により架橋反応処理して形成した被覆層を有する絶縁電線を製造した。
まず、表2-1及び表2-3の「コンパウンド」欄に示す各成分を、各表に示した割合(質量部)で東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で10分間混合して、混合物を得た。次いで、得られた混合物を、日本ロール製2Lバンバリーミキサーを用いて溶融混合(混練温度120℃、混練時間10分)した後、ペレット化して、有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物をそれぞれ得た。
得られた有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径30mmのスクリューを備えた押出機(圧縮部スクリュー温度110℃、ヘッド温度120℃)に導入した。この押出機内で有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物を溶融混合しながら、1/0.8TA導体の外周面上に肉厚0.8mmで押出被覆し、外径2.4mmの被覆導体を得た。
次いで、この被覆導体を140℃、6MPaの加硫釜に2時間投入した。このようにして、導体の外周面に配置した有機過酸化物架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物を架橋反応処理して、導体の外周面に塩素含有架橋樹脂組成物の管状成形体からなる絶縁層を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0098】
(実施例2~20及び比較例3~13)
本実施例及び比較例においては、塩素含有架橋性樹脂組成物(シラン架橋用塩素含有架橋性樹脂組成物)として好適態様の塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製し、これを導体の外周面上に押出成形した後にシラノール縮合反応により架橋反応処理して形成した被覆層を有する絶縁電線を製造した。
なお、実施例2~20及び比較例3~13において、塩素含有樹脂のうちポリ塩化ビニル又は塩素化ポリエチレン1の一部(具体的には表2の「工程(b)触媒MB」欄に示す質量割合)を触媒MBのキャリア樹脂として用いた。
まず、表2の「シランMB」欄に示す各成分のうち無機フィラー、有機過酸化物及びシランカップリング剤を、表2の「シランMB」欄に示した質量比で、東洋精機製10Lヘンシェルミキサーに投入し、室温(25℃)で10分混合して、粉体混合物を得た(工程(a-1))。
次いで、このようにして得られた粉体混合物と、表2の「シランMB」欄に示す塩素含有樹脂、エチレン-一酸化炭素共重合体、可塑剤及び酸化防止剤を、表2の「シランMB」欄に示す質量比で、日本ロール製2Lバンバリーミキサー内に投入し、有機過酸化物の分解温度以上の温度、具体的には190℃において10分混練り後、材料排出温度200℃で排出し、シランMBを得た(工程(a-2))。
【0099】
一方、表2の「触媒MB」欄に示す、キャリア樹脂としての塩素含有樹脂とシラノール縮合触媒と可塑剤と酸化防止剤とを、表2の「触媒MB」欄に示す質量比で、180~190℃でバンバリーミキサーにて溶融混合し、材料排出温度180~190℃で排出して、触媒MBを得た(工程(b))。
【0100】
こうして得られたシランMBと触媒MBとを密閉型のリボンブレンダーに投入し、室温(25℃)で5分間ドライブレンドして、ドライブレンド物を得た。このとき、シランMBと触媒MBとの混合比は、表2の「工程(a)シランMB」欄及び「工程(b)触媒MB」欄に示す質量比とし、表2の「架橋性組成物」欄に示す質量比となる。例えば、実施例2においては、シランMBの塩素含有樹脂の混合量が90質量部で、触媒MBの塩素含有樹脂の混合量が10質量部となる割合とした。
【0101】
次いで、得られたドライブレンド物を、L/D(スクリュー有効長Lと直径Dとの比)=24、スクリュー直径30mmのスクリューを備えた押出機(圧縮部スクリュー温度160℃、ヘッド温度180℃)に導入した。この押出機内でドライブレンド物を溶融混合して塩素含有シラン架橋性樹脂組成物を調製し(工程(c))、1/0.8TA導体の外周面上に肉厚0.8mmで押出被覆し、外径2.4mmの被覆導体を得た(工程(2))。
この被覆導体(塩素含有シラン架橋性樹脂組成物の成形体)を温度40℃、湿度95%の雰囲気に24時間放置した(工程(3))。
このようにして、導体の外周面に配置した塩素含有シラン架橋性樹脂組成物の成形体をシラノール縮合反応させて、導体の外周面上に管状のシラン架橋塩素含有樹脂成形体からなる絶縁層を有する絶縁電線をそれぞれ製造した。
【0102】
製造した各絶縁電線について、下記試験方法を行い、特性を評価した。
<試験1:引張試験>
各絶縁電線から導体を抜き取って作製した管状試験片(内径0.8mm、外径2.4mm)を用いて、JIS C 3005に基づき、標線間20mm、引張速度200mm/分の条件で、引張強度(MPa)、100%モジュラス(MPa)及び引張伸び(%)を測定した。こうして得られた引張強度を100%モジュラスで除して、強度モジュラス比を算出した。
引張強度は、塩素含有架橋樹脂組成物(シラン架橋塩素含有樹脂成形体)の強度を評価する特性の1つであって、本試験においては、10.0MPa以上が合格であり、12.0MPa以上が好ましい。
100%モジュラスは、塩素含有架橋樹脂組成物(シラン架橋塩素含有樹脂成形体)の柔軟性を評価する特性の1つであって、本試験においては、2.0MPa以上が実際的であり、3.0MPa以上11.0MPa以下が好ましい。
引張伸びは、参考試験であり、150%以上が好ましい。
強度モジュラス比は、1.20~5.00が合格である。
【0103】
<試験2:巻付け試験>
製造した各絶縁電線を、25℃の環境下で直径2.4mmのマンドレルに巻き付けて、曲げ(巻き付き状態)の可否及び電線の潰れ具合を、それぞれ、評価した。

(曲げの可否)
絶縁電線を300mmの長さに切断して、両端に250gのおもりを付けた試験用電線を、水平に設置したマンドレルに、巻き付け(試験用電線の長さ方向の中央をマンドレル上にマンドレルと垂直になるように置いて吊り下げ)、5分間静置した。その後、両端のおもりを500gに増やして、更に5分間静置した。
曲げの可否試験は、塩素含有架橋樹脂組成物(シラン架橋塩素含有樹脂成形体)の柔軟性を評価する特性の1つであって、マンドレルに吊り下げた試験用電線の端部の状態を以下の評価基準に当てはめて、評価した。なお、本試験の合格レベルは評価「B」以上である。

A:おもりが250gの時点で試験用電線がマンドレルに巻付いて、その両端が重力によって下がり、試験用電線がマンドレルを中心に逆U字状に折れ曲がって、両端が平行になったもの(優れているもの)
B:おもりが500gの時点で試験用電線の両端が平行になったもの(良好なもの)
E:おもりを500gにしても試験用電線の両端が平行にならなかったもの(不合格)

(電線の潰れ具合)
300mmの長さに切った絶縁電線の中心部(長さ方向の中央)の外径を、マンドレルに接触させる方向について予め測定し、その後上記の[曲げの可否]の試験を実施した。500gのおもりをつけて5分間静置した後、中心部の外径を再度測定し、巻付け前後の外径の変化率(巻付け前の外径に対する巻付け後の外径の割合)を算出した。
電線の潰れ具合試験は、塩素含有架橋樹脂組成物(シラン架橋塩素含有樹脂成形体)の強度を評価する特性の1つであって、外径の変化率を以下の評価基準に当てはめて、評価した。なお、本試験の合格レベルは評価「B」以上である。

A:97.0%以上であるもの(優れているもの)
B:95.0%以上97.0%未満であるもの(良好なもの)
E:95.0%未満のもの(不合格)
【0104】
<試験3:高温圧壊試験>
製造した各絶縁電線を、導体を残したまま、恒温槽付引張試験装置(恒温槽:TCR2L形、引張試験機:AGS-5kNX、島津製作所社製)の恒温槽に投入し、75℃で30分保管した。その後、75℃の環境下で、ブレードをセットしたオートグラフで絶縁電線を圧縮していき、ブレードが絶縁電線の絶縁層を貫通して導体に達するまでにかけた力(単位:ニュートン[N])の最大値を測定した。ブレードは刃の先端が直径500μmのものを使用し、圧縮速度は2mm/分とした。
高温圧壊試験は、塩素含有架橋樹脂組成物(シラン架橋塩素含有樹脂成形体)の高温特性を評価する特性であって、測定した最大の力を以下の評価基準に当てはめて、評価した。なお、本試験の合格レベルは評価「D」以上である。

A:40N以上(極めて優れているもの)
B:30N以上40N未満(優れているもの)
C:22N以上30N未満(良好なもの)
D:18N以上22N未満(使用可能なもの)
E:18N未満(不合格)
【0105】
【表2-1】
【0106】
【表2-2】
【0107】
【表2-3】
【0108】
【表2-4】
【0109】
本発明で規定する成分含有量を満たさない比較例1~11の塩素含有架橋性樹脂組成物は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物を形成できない。また、本発明で規定する成分含有量を満たしていても、架橋したときの引張強度又は強度モジュラス比を満たさない比較例12及び13の塩素含有架橋性樹脂組成物は、優れた柔軟性と高い強度の両立ができず、又は高温特性に劣る。
これに対して、本発明で規定する成分含有量を満たし、かつ架橋したときの引張強度又は強度モジュラス比も満たす実施例1~20の塩素含有架橋性樹脂組成物は、優れた柔軟性と高い強度とを併せ持ちながらも高温特性にも優れた塩素含有架橋樹脂組成物を形成できる。
【符号の説明】
【0110】
10A、10B キャブタイヤケーブル
1A、1B 導体
2A、2B 絶縁層
3A、3B シース
図1
図2