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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048616
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】蓋部材の着脱治具
(51)【国際特許分類】
   F04B 53/22 20060101AFI20240402BHJP
   F04B 53/16 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
F04B53/22
F04B53/16 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154631
(22)【出願日】2022-09-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 宏明
【テーマコード(参考)】
3H071
【Fターム(参考)】
3H071AA03
3H071BB01
3H071CC32
3H071DD04
3H071DD82
3H071DD89
(57)【要約】
【課題】安全性及び作業効率を向上させることのできる、蓋部材の着脱治具を提供する。
【解決手段】高耐圧設備1に対して水平方向から取り付けられた鉛直面を覆う蓋部材60の着脱治具50であって、少なくとも、蓋部材60の上端61と下端62とを挟むように上腕部51及び下腕部52が形成された本体部53と、本体部53の上腕部51と蓋部材60の上端61との間を固定し、高さ調整可能な上端固定部54と、本体部53の下腕部52と蓋部材60の下端62との間を固定し、高さ調整可能な下端固定部55と、着脱治具50を持ち運び又は吊下げるために本体部53の上部に設けられた持ち手56を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高耐圧設備に対して水平方向から取り付けられた鉛直面を覆う蓋部材の着脱治具であって、
少なくとも、
前記蓋部材の上端と下端とを挟むように上腕部及び下腕部が形成された本体部と、
前記本体部の上腕部と前記蓋部材の上端との間を固定し、高さ調整可能な上端固定部と、
前記本体部の下腕部と前記蓋部材の下端との間を固定し、高さ調整可能な下端固定部と、
当該着脱治具を持ち運び又は吊下げるために前記本体部の上部に設けられた持ち手
を備えることを特徴する蓋部材の着脱治具。
【請求項2】
着脱対象である前記蓋部材の質量は10kg以上であることを特徴する請求項1に記載の蓋部材の着脱治具。
【請求項3】
前記上端固定部及び/又は前記下端固定部は螺合されたボルトであることを特徴とする請求項1に記載の蓋部材の着脱治具。
【請求項4】
前記上端固定部及び/又は前記下端固定部を複数備えることを特徴する請求項3に記載の蓋部材の着脱治具。
【請求項5】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において用いられる高圧ダイヤフラムポンプのコーンバルブカバーを着脱対象とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の蓋部材の着脱治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋部材の着脱治具に関し、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬におけるダイヤフラムポンプのコーンバルブカバーの着脱に用いる蓋部材の着脱治具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法が注目されている。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルコバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
低品位ニッケル鉱を利用するHPALプラントにおいては、低品位ニッケル酸化鉱石を所定のニッケル品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化したものを篩にかけ、篩下の鉱石のみを使用する。その後、スラリー化した鉱石をオートクレーブに供給して、硫酸溶液中、高温・加圧下で鉱石中のニッケルを浸出させる。浸出液スラリー中の残留遊離酸は予備中和工程にて石灰石を用いて中和し、固液分離工程に送られる。固液分離工程で分離された浸出残渣は最終中和工程にて重金属類を所定の濃度まで除去したのちテーリングダムと呼ばれる貯留ダムへと送液する。
【0004】
貯留ダム(テーリングダム)への送液においては、高圧ダイヤフラムポンプを使用している。この高圧ダイヤフラムポンプの内部部品は消耗部品であることから定期的に取り替えを実施する必要がある。また、各部品は、高圧仕様のポンプであることから強度を持たせるために鉄製や鋼製などで質量が大きいという特徴がある。
【0005】
上記高圧ダイヤフラムポンプにはコーンバルブ(逆止弁)が設けられている。例えば、特許文献1には、コーンバルブの弁座を含む第1筒部を柔軟性素材で形成することにより、弁体と弁座との間にスラリーに含まれる固体粒子が噛み込んでも、柔軟性素材で形成された弁座が変形することで、弁体と弁座とが密着し、その結果、逆止弁の閉じ遅れを抑制できて、ダイヤフラムポンプの油圧室内の油圧が異常に高くなるピーク油圧の発生を抑制でき、ダイヤフラムの破損を抑制できることが記載されている。
【0006】
上記高圧ダイヤフラムポンプのコーンバルブには内部の点検や補修に備えてコーンバルブカバー(蓋部材)が設けられている。このコーンバルブカバーは約30kgと質量が大きく、コーンバルブ本体への取り付けは、弁体の往復運動を妨げないよう水平方向から4箇所のボルトにて取りけられている。このコーンバルブカバーを取り外すと、そのあとコーンバルブの内部部品を点検・交換・補修することができるが、当該カバーの取り外しを行う際は、ボルトに引っかからないように二人がかりで少し持ち上げた後、ボルトに沿って真横へ引き出しながら取り外す必要がある。
【0007】
コーンバルブカバー(蓋部材)の荷重は、ボルトの上にあっては手で支えたりボルトに預けたりできる一方、ボルトから完全に引き出した後は、手で支え続ける必要があり取り落とす恐れがある。危険が比較的大きい局面として、ボルトから完全に引き出す直前はボルトにコーンバルブカバーの片側しか乗らずに落下したり、コーンバルブカバーを取り外し終えて下ろすときに運び手1人の手指に荷重が集中したり等があり、手足を挟む危険性が生じる。カバーの下方に台車などを準備する場合も、手で持ち上げる動作を要するため危険が比較的大きい局面は同様であり、慎重に作業しなければならず作業効率が悪くなるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-197509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、安全性及び作業効率を向上させることのできる蓋部材の着脱治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、高耐圧設備に対して水平方向から取り付けられた鉛直面を覆う蓋部材の着脱治具であって、少なくとも、蓋部材の上端と下端とを挟むように上腕部及び下腕部が形成された本体部と、本体部の上腕部と蓋部材の上端との間を固定し、高さ調整可能な上端固定部と、本体部の下腕部と蓋部材の下端との間を固定し、高さ調整可能な下端固定部と、着脱治具を持ち運び又は吊下げるために本体部の上部に設けられた持ち手を備える。
【0011】
本発明の一態様によれば、着脱治具の上腕部と下腕部の間に蓋部材を固定し、持ち手を介して移動させることで、従来のように作業者が質量の大きな蓋部材を直接抱えて持ち運ぶ必要が無いため、安全性及び作業効率を向上させることができる。
【0012】
このとき、本発明の一態様は、着脱対象である蓋部材の質量は10kg以上であるとしてもよい。
【0013】
本発明の一態様では、このように作業者が直接運搬するのに困難が生じる質量の大きな蓋部材の着脱に好ましく適用することができる。
【0014】
また、本発明の一態様では、上端固定部及び/又は下端固定部は螺合されたボルトであるとしてもよい。
【0015】
このようにすることで、簡易な構成で、着脱治具の上腕部及び下腕部と、蓋部材とを高さ調整をしながら容易かつ確実に固定することができる。
【0016】
また、本発明の一態様では、上端固定部及び/又は下端固定部を複数備えるとしてもよい。
【0017】
複数箇所で固定することで、着脱治具の上腕部及び下腕部と、蓋部材とをより強固に固定することができるため、着脱途中の蓋部材の脱落を確実に防止することができる。
【0018】
また、本発明の一態様では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において用いられる高圧ダイヤフラムポンプのコーンバルブカバーを着脱対象とすることができる。
【0019】
上記コーンバルブカバーは約30kgと質量が大きい場合であっても、本発明の一態様に係る着脱部材を好ましく適用することができる。
【発明の効果】
【0020】
このように本発明によれば、安全性及び作業効率を向上させることのできる蓋部材の着脱治具を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法のプロセスを示す工程図である。
図2】ダイヤフラムポンプの概要を説明するための縦断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具を示した斜視図である。
図4】本発明の他の実施形態に係る蓋部材の着脱治具を示した斜視図である。
図5】(A)~(C)は、本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具を用いてコーンバルブカバーを外す過程を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る蓋部材の着脱治具について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.ダイヤフラムポンプ
3.蓋部材の着脱治具
【0023】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、蓋部材の着脱治具のより具体的な説明に先立ち、本発明に係る着脱治具が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。なお、本発明の一実施形態にかかる蓋部材の着脱治具は、後述するように主にニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において用いられる高圧ダイヤフラムポンプのコーンバルブカバーを着脱対象としているが、必ずしもこの場合のみに限定されるわけではなく、例えば、一定以上の強度が必要とされる高耐圧設備に対して水平方向から取り付けられた鉛直面を覆う蓋部材等の着脱に適用することが可能である。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0024】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、それらを水と混合してスラリー化し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを使用する。
【0025】
浸出工程S2では、スラリー調製工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0026】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれていて、そのpHは非常に低い。
【0027】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高めて所定の範囲に調整する。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0028】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0029】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0030】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加する硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
【0031】
その後、硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。
【0032】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0033】
<2.ダイヤフラムポンプ>
これまで、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法のフローを一通り説明してきたが、ダイヤフラムポンプは、浸出工程S2においてスラリーをオートクレーブに移送する場面や、最終中和工程S8において、廃棄スラリーをテーリングダムに送液する場面において使用されている。したがって、本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具は、このような場面で、ダイヤフラムポンプに設けられたコーンバルブの補修や点検の際に、質量の大きな蓋部材(コーンバルブカバー)を着脱するのに用いられる。ここでは、ダイヤフラムポンプの構成について簡単に説明する。
【0034】
図2は、ダイヤフラムポンプの概要を説明するための縦断面図である。図2に示すように、ダイヤフラムポンプ1はポンプ本体10を備え、ポンプ本体10の前面(図2における左側)にはポンプカバー20が締結されている。ポンプ本体10とポンプカバー20との間には円板形で柔軟性を有する膜からなるダイヤフラム30の外周縁部が締め込まれている。
【0035】
ポンプ本体10の内部には作動油が充填された油圧室11が形成されている。油圧室11はダイヤフラム作動室11aと、ピストン作動室11bと、2つの作動室11a,11bを接続する流路11cとからなる。ポンプカバー20の内部には移送対象の流体であるスラリーが吸引、送出される吸送室21が形成されている。油圧室11(ダイヤフラム作動室11a)と吸送室21とはダイヤフラム30で分離されている。
【0036】
ダイヤフラム30はその中央部が一対のディスク31、32によって挟持されている。油圧室11側のディスク32にはガイドロッド33が接続され、ガイドロッド33は軸孔34に通されて、ダイヤフラム30の表裏方向(図2における左右方向)に摺動可能となっている。
【0037】
ポンプ本体10の内部にはピストン40が設けられている。ピストン40は円柱形のピストンヘッド41と、ピストンヘッド41に接続されたピストンロッド42とからなる。ピストンヘッド41はピストン作動室11bの側壁の一部を構成する円筒形のシリンダ部12に挿入されており、シリンダ部12の軸方向に沿って摺動可能となっている。ピストンヘッド41の側面とシリンダ部12の内壁とは液密にシールされている。
【0038】
ピストン40は図示しない駆動部の駆動により往復動する。例えば、駆動部は電動モータと、電動モータの駆動により回転するクランクシャフトと、クランクシャフトに接続されたコネクティングロッドとからなる。コネクティングロッドはピストンロッド42に接続している。
【0039】
ピストン40が往復動することにより油圧室11内の油圧が昇降する。より詳細には、ピストン40が往動(図2における左側に移動)すると、ピストンヘッド41が油圧室11の内部に向かって移動し、油圧室11内の油圧が上昇する。逆に、ピストン40が復動(図2における右側に移動)すると、ピストンヘッド41が油圧室11の外部に向かって移動し、油圧室11内の油圧が下降する。
【0040】
油圧室11内の油圧が昇降することにより、ダイヤフラム30が往復動する。より詳細には、油圧室11内の油圧が上昇すると、ダイヤフラム30が往動(吸送室21側に移動)する。逆に、油圧室11内の油圧が下降すると、ダイヤフラム30が復動(油圧室11側に移動)する。このように、ピストン40の往復動によりダイヤフラム30が往復動する。
【0041】
吸送室21の吸込側は吸込流路22を介して吸込側逆止弁(吸込側コーンバルブ)2の二次側が接続されている。吸込側逆止弁(吸込側コーンバルブ)2の一次側には吸引口を有する吸引口部材23が接続されている。吸込側逆止弁(吸込側コーンバルブ)2は吸引口から吸送室21に向かう流体の流れを許容し、その逆の流れを防止する。
【0042】
吸送室21の吐出側は吐出流路24を介して吐出側逆止弁(吐出側コーンバルブ)3の一次側が接続されている。吐出側逆止弁(吐出側コーンバルブ)3の二次側には吐出口を有する吐出口部材25が接続されている。吐出側逆止弁(吐出側コーンバルブ)3は吸送室21から吐出口に向かう流体の流れを許容し、その逆の流れを防止する。
【0043】
ダイヤフラム30が復動すると吸送室21の容積が増加し、吸引口から吸送室21に移送対象の流体が吸引される。このとき、吸込側逆止弁(吸込側コーンバルブ)2が開いて流体の流れを許容する。一方、吐出側逆止弁(吐出側コーンバルブ)3は閉じている。
【0044】
ダイヤフラム30が往動すると吸送室21の容積が減少し、吸送室21内の流体が吐出口から送出される。このとき、吐出側逆止弁3が開いて流体の流れを許容する。一方、吸込側逆止弁2は閉じている。
【0045】
このように、ダイヤフラム30が往復動することにより吸送室21の容積が増減し、これにより移送対象の流体が吸送室21に吸引され、送出される。その結果、移送対象の流体がダイヤフラムポンプ1の吸引口(一次側)から吐出口(二次側)に向かって移送される。
【0046】
<3.蓋部材の着脱治具>
上述した説明や図2に示されているように、ダイヤフラムポンプには吸込側と吐出側にそれぞれコーンバルブ(逆止弁)が設けられている。コーンバルブカバーは、一例としてダイヤフラムポンプ装置の吸込側コーンバルブがある付近に、ダイヤフラムポンプ装置に対して水平方向から装置の鉛直面を覆うように取り付けられている。コーンバルブカバーは、コーンバルブ内の部品(例えば、スラリーで摩耗しやすい弁体や弁座)の交換やメンテナンスを行うために設置され、一例として、一辺が数十cmの金属製で質量が約30kgあり、隅の4箇所のボルトによってコーンバルブ本体に固定されている。本発明に係る蓋部材の着脱治具は、このようなコーンバルブカバーを安全かつ効率的に着脱するための治具である。
【0047】
図3は、本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具を示した斜視図である。本発明の一態様は、高耐圧設備1に対して水平方向から取り付けられた鉛直面を覆う蓋部材60の着脱治具50であって、少なくとも、蓋部材60の上端61と下端62とを挟むように上腕部51及び下腕部52が形成された本体部53と、本体部53の上腕部51と蓋部材60の上端61との間を固定し、高さ調整可能な上端固定部54と、本体部53の下腕部52と蓋部材60の下端62との間を固定し、高さ調整可能な下端固定部55と、着脱治具50を持ち運び又は吊下げるために本体部53の上部に設けられた持ち手56を備える。
【0048】
上述したように、本発明の一態様に係る着脱治具50は、主に質量の大きな蓋部材の着脱に用いられる。質量の大きな蓋部材は、例えば、10kg以上の質量を有する。本発明は、作業者が直接運搬するのに困難が生じる質量の大きな蓋部材を安全かつ効率的に着脱することを目的の一つとしているため、質量の大きな蓋部材を主な対象としているが、もちろん軽い蓋部材の着脱に用いることも可能である。
【0049】
本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具50を構成する各部材の材料は特に限定はされないが、一例として、形鋼を利用することができる。例えば、図3に示すように、溝形鋼を板状又は箱状の部材の上端側面と下端側面に溶接することで上腕部51及び下腕部52を形成することができる。このようにすることで、一般的によく用いられる部材を低コストで利用することができ、また、ねじやボルトを通すための穴開け加工も容易に行うことができる。このようにして加工した着脱治具の質量は約5kg程度である。
【0050】
本体部53には、蓋部材60の上端61と下端62とを挟むように上腕部51及び下腕部52が形成されている。後述する図5に示すように、本発明の一態様に係る着脱治具50は、蓋部材60の上下から挟み込むように挿入するために、着脱治具50の上腕部51と下腕部52との間隔は、蓋部材60の上端61から下端62までの長さよりは広く形成しておく必要がある。その他に、本体部53は、上腕部51と下腕部52のそれぞれの腕方向の長さや、上腕部51と下腕部52との間隔を調整できるような機構を備えていてもよい。
【0051】
上端固定部54は、本体部53の上腕部51と蓋部材60の上端61との間を高さ調整しながら固定し、下端固定部55は、本体部53の下腕部52と蓋部材60の下端62との間を高さ調整しながら固定する。上端固定部54及び/又は下端固定部55としては、例えば、螺合されたボルトを用いることができる。螺合されたボルトであれば、上腕部51及び/又は下腕部52にネジ穴を設け、ボルトとナットを通すことによって簡易に設置することができ、ボルト又はナットを回すことで高さ調整しながら、着脱治具50と蓋部材60とを固定することができる。その他には、バネで付勢するような構成としてもよいし、ジャッキ機構で高さを調整しながら固定するという構成としてもよい。上端固定部54及び/又は下端固定部55の端部には緩衝部材や滑り止め部材などが適宜設けられていてもよい。
【0052】
また、本発明の一態様では、上端固定部54及び/又は下端固定部55を複数備える構成としてもよい。複数箇所で固定することで、着脱治具50の上腕部51及び下腕部52と、蓋部材60とをより強固に固定することができるため、着脱する際の蓋部材60の脱落を確実に防止することができる。
【0053】
持ち手56は、着脱治具50を持ち運び又は吊下げるために本体部53の上部に設けられている。持ち手56としては、例えば、アイボルトが採用される。アイボルトも、着脱治具50の本体部53にネジ穴を設けることで簡単に設置することができる。また、着脱治具50の本体部53に持ち手56を設けることにより、例えば、簡易クレーンのフックを持ち手56にかけることで、容易に着脱治具50を移動させることができるようになる。
【0054】
本発明の一態様に係る着脱治具50では、本体部53の上部に設けられた上記持ち手56の他に、作業者が人力で運搬する際の持ち手が本体部53の上部又は側面に別途備えられていてもよい。例えば、図4に示すように上腕部51に切り欠き57を設けて持ち手とすることができる。このようにすれば、作業者が着脱治具50の切り欠き57を抱えて持ち運ぶことができ、その際に作業者の手にかかる荷重を低減することができる。切り欠き57には緩衝材等を設けてもよい。その他、本体部53の下部に着脱治具50を運搬するための車輪が備わっていてもよい。着脱治具50は、蓋部材60よりも大きな底面積となるように構成することができる。
【0055】
次に、本発明の一態様に係る着脱治具50用いたダイヤフラムポンプ1(高耐圧設備)に備えられたコーンバルブカバー60(蓋部材)の着脱方法について説明する。図5(A)~(C)は、本発明の一実施形態に係る蓋部材の着脱治具を用いてコーンバルブカバーを外す過程を示した概略図である。
【0056】
上述した通り、コーンバルブカバー60はダイヤフラムポンプ1に対して水平方向からダイヤフラムポンプ装置(特に、コーンバルブの本体部分)の鉛直面を覆うように取り付けられている(図5(A)参照)。
【0057】
コーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1から外す際には、まず、本発明の一態様に係る着脱治具50を、上腕部51と下腕部52の間にコーンバルブカバー60が配置されるように挿入する(図5(A))。着脱治具50を移動させる際には作業者が持ち手56などを持ちながら押し込んでもよいし、ジャッキや台車等を用いて高さを調整しながら押し入れるようにしてもよい。
【0058】
次に、着脱治具50の上端固定部54をコーンバルブカバー60の上端61に固定し、下端固定部55をコーンバルブカバー60の下端62にそれぞれ固定する(図5(B))。上端固定部54及び/又は下端固定部55が螺合されたボルトであれば、ボルト又はナット部分を回すことによりボルト部分の高さを調整することができるため、ボルト部分の端部がコーンバルブカバー60に当接するまで高さを調整する。当接した状態でボルトを締め込み、着脱治具50の移動時にコーンバルブカバー60がずれないようにしっかりと固定しておく。
【0059】
その後、一例として、着脱治具50に設けられた持ち手56に簡易クレーンなどの吊り具70(フック)をかけて、コーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1に固定していた固定金具(4隅のボルト)を外し、コーンバルブカバー60を吊り具70で引き上げながら着脱治具50ごと移動させることでコーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1から外す(図5(C))。このようにすることで、作業者が複数でかがんで持ち上げるといった作業を行うことなく、安全かつ効率的にコーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1から外すことができる。なお、吊り具70は、図5(A)の着脱治具50をコーンバルブカバー60に挿入する段階で取り付けておいてもよい。
【0060】
点検などが終了しコーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1に取り付ける際には、上記手順とは逆に図5(C)、(B)、(A)の手順で行えばよい。すなわち、コーンバルブカバー60を着脱治具50に固定した状態で、吊り具70によりダイヤフラムポンプ1のコーンバルブカバー60着脱部分まで移動させ、固定金具(4隅のボルト)でコーンバルブカバー60をダイヤフラムポンプ1に固定したのち、着脱治具50の上端固定部54及び下端固定部55をゆるめて、着脱治具50からコーンバルブカバー60を外せばよい。
【0061】
以上説明したように、本発明によれば、安全性及び作業効率を向上させることのできる蓋部材の着脱治具を提供できる。
【実施例0062】
以下、本発明について、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
従来のコーンバルブカバーの着脱方法(比較例)と、本発明の一態様に係る蓋部材の着脱治具を使用してコーンバルブカバーを外したとき(実施例)の効果を比較した。なお、従来、コーンバルブカバーを外す際には二人がかりで声を掛け合いながら、コーンバルブカバーがボルトに引っ掛からないように少し持ち上げた後、ゆっくりと引き出すという手法で行っていた。
【0064】
本発明の一態様に係る蓋部材の着脱治具を使用することで以下の効果を確認することができた。
(1)カバーを引き抜く際に、持ち手を使用し上部へ引き上げ、荷重を受けることで突然落下することを防ぐことができ、安全に取り外せるようになった。
(2)従来よりも容易に引き抜くことが出来るようになったため、作業時間を約1時間短縮することができるようになった。
(3)二人がかりで取り外す必要があった作業工程で、一人で取り外すことが可能となった。
【0065】
以上より、本発明の一態様に係る蓋部材の着脱治具を適用することにより、安全性及び作業効率を向上できることが実証された。
【0066】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0067】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、蓋部材の着脱治具の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 ダイヤフラムポンプ(高耐圧設備)、2 吸込側逆止弁(吸込側コーンバルブ)、3 吐出側逆止弁(吐出側コーンバルブ)、10 ポンプ本体、11油圧室、12 シリンダ部、20 ポンプカバー、21 吸送室、22 吸込流路、23 吸引口部材、24 吐出流路、25 吐出口部材、30 ダイヤフラム、31,32 ディスク、33 ガイドロッド、34 軸孔、40 ピストン、41 ピストンヘッド、42 ピストンロッド、50 着脱治具、51 上腕部、52 下腕部、53 本体部、54 上端固定部、55 下端固定部、56 持ち手、57 切り欠き(持ち手)、60 コーンバルブカバー(蓋部材)、61 蓋部材の上端、62 蓋部材の下端、70 吊り具
図1
図2
図3
図4
図5