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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048816
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】二酸化炭素の地中貯留方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20240402BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20240402BHJP
   E21B 27/00 20060101ALI20240402BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20240402BHJP
【FI】
B01J19/00 A
E21B43/00 A
E21B43/00 Z
E21B27/00
C01B32/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022154931
(22)【出願日】2022-09-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和3年10月25日 刊行物 『令和3年度国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発) 「CO▲2▼貯留適地のさらなる範囲拡大を目指した検討」に係る公募要領』国立研究開発法人産業技術総合研究所 発行(Web公開アドレス:URL:https://www.aist.go.jp/pdf/aist_j/business/itaku/20211025-2_1.pdf) <資 料> 委託研究公募要領
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和3年度、経済産業省「令和3年度国内石油天然ガスに係る地質調査・メタンハイドレートの研究開発等事業(メタンハイドレートの研究開発)CO2貯留地のさらなる範囲拡大を目指した検討」委託研究、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000217686
【氏名又は名称】電源開発株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽瀬 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】今岡 知武
(72)【発明者】
【氏名】天満 則夫
(72)【発明者】
【氏名】神 裕介
【テーマコード(参考)】
4G075
4G146
【Fターム(参考)】
4G075AA04
4G075BA10
4G075CA05
4G075CA65
4G075DA02
4G075DA18
4G146JA05
4G146JB04
4G146JC17
4G146JC18
4G146JC19
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素ハイドレートを含む二酸化炭素シール層の下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能な二酸化炭素の地中貯留方法を提供する。
【解決手段】海底面Fから所定の深さの範囲で、且つ、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層Uを特定する工程(1)と、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する工程(2)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合物の状態で、堆積物からなる海底面下の地層中に貯留する方法であって、
海底面から所定の深さの範囲で、且つ、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域を特定する工程(1)と、
前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に前記二酸化炭素を圧入する工程(2)と、を備える、二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項2】
前記工程(2)は、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素貯留層を形成するとともに、該二酸化炭素貯留層に圧入された前記二酸化炭素の少なくとも一部が前記メタンハイドレート生成可能領域側に上昇し、該メタンハイドレート生成可能領域における下層側を通過して、前記メタンハイドレート生成可能領域における上層側の前記二酸化炭素ハイドレート生成可能領域に二酸化炭素ハイドレートが生成されることで二酸化炭素ハイドレート層を形成することにより、前記メタンハイドレート生成可能領域における下層側を一次シール層とするとともに、前記二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層とした二酸化炭素シール層を形成する、請求項1に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項3】
前記工程(2)は、前記メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層のうち、前記メタンハイドレートの非濃集帯である領域を特定し、該メタンハイドレートの非濃集帯における、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素を圧入する、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項4】
前記メタンハイドレートの非濃集帯は、前記地層中に存在するメタン由来のメタンハイドレートを含み、且つ、該メタンハイドレートを用いたメタンガスの生産によってメタンハイドレート飽和率が低下した領域からなる、請求項3に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項5】
前記メタンハイドレートの非濃集帯が、人工的に生成させたメタンハイドレートを含み、且つ、メタンハイドレート飽和率が低い層からなる、請求項3に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項6】
前記工程(2)は、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に前記二酸化炭素を圧入する圧力が6MPa以上である、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項7】
前記工程(2)は、前記二酸化炭素を、液体状態又は超臨界状態で、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に圧入する、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素ハイドレート生成可能領域は、地中温度が10℃以下の領域であり、且つ、水深450m以深の海底面から所定の深さまで存在する、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【請求項9】
前記工程(2)は、海面から600m以深における地中温度が20℃以上であるとき、前記二酸化炭素を当該深さに圧入する、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の地中貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料を用いて発電しながら二酸化炭素(CO)排出量を抑制できる革新的技術として、二酸化炭素の回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage:以下、単に「CCS」という)が注目されている。また、CCSの技術を用いて二酸化炭素を地中貯留する方法に関しては、実証試験及び貯留適地調査が積極的に進められている。
【0003】
一般的に、二酸化炭素は、圧力及び温度の条件に応じて、気(Gas)・液(Liquid)・固(Solid)・超臨界(Supercritical)の4相のいずれかの状態で存在する。また、二酸化炭素は、常圧で温度194K(-79.15℃)以下の条件で固体のドライアイスになるが、水と混合すると、上記と異なる温度と圧力の条件でハイドレート(固体)化することが知られている。なお、二酸化炭素ハイドレート(CO hydrate)は、液体の二酸化炭素が水と混合し、温度10℃以下で、且つ、圧力4.5MPa以上の条件で生成され、液体の二酸化炭素の領域(液相の領域)の一部と重なる。
【0004】
上記のような二酸化炭素ハイドレートは、メタンハイドレートと同様の結晶構造を有する固体であり、水分子が構成する立体格子内にガス分子がトラップされた構造とされている。このような二酸化炭素ハイドレートは、一般にガスハイドレートとも呼ばれ、最初の研究報告として、天然ガスの移送ラインにおいて二酸化炭素がハイドレート化して目詰まりを起こすことが確認されている。また、二酸化炭素ハイドレートは、油ガス処理を行うプラント配管における閉塞物質としても確認されているとともに、地球惑星に係る科学分野でも研究が進んでいる。
【0005】
二酸化炭素の密度は、圧力が上昇すると気液相変化によって変化するが、温度31℃以上で、且つ、圧力7.4MPa以上で超臨界状態となるため、それ以上の圧力上昇による密度変化は比較的緩慢である。そして、液体若しくは超臨界状態における二酸化炭素の密度は海水に比べて小さいため、例えば、海底面下の地層に二酸化炭素を貯留しようとする場合には、密度差によって浮力が生じ、浮上する二酸化炭素を封じ込めるために何らかの遮蔽機能が必要となる。
【0006】
ここで、上記のような二酸化炭素ハイドレートからなるシール層(遮蔽層)を利用した方法として、メタンガスを生産する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1には、メタン生成細菌がメタンガスを生成する温度・圧力条件下の地層の間隙に微生物群を添加してメタンガス生産層を形成する工程と、メタンガス生産層よりも浅部で、二酸化炭素がハイドレートとなる温度・圧力条件下の地層に、液体二酸化炭素の微粒子が分散したエマルジョンを注入して二酸化炭素ハイドレートのシール層を形成する工程と、メタンガス生産層とシール層との間の地層にメタンガス生成原料である液体二酸化炭素を注入する工程と、を備える方法が記載されている。
【0007】
また、メタンハイドレートを採掘するにあたり、まず、二酸化炭素がハイドレートとなる温度・圧力条件下の地層に二酸化炭素ハイドレートを生成させて固定化するために、液体二酸化炭素を地層の間隙よりも小さな微粒子として分散させたエマルジョンを抗井内で製造して地層に注入する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
また、二酸化炭素低排出発電方法及びシステムとして、メタンガスを燃料として発電を行うステップと、発電によって生じた二酸化炭素が吸着した加熱海水を取得するステップと、取得した加熱海水を海底のメタンハイドレート層内に注入し、加熱海水中の二酸化炭素をメタンハイドレート層内に隔離固定するステップと、加熱海水が有する熱をメタンハイドレート層内のメタンハイドレートに伝達させて、この熱を受けてメタンハイドレートから解離したメタンガスを回収するステップと、回収したメタンガスを発電のための設備に供給するステップと、を備えた方法及びシステムが提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0009】
また、海底下の地層中に二酸化炭素を貯留する方法として、海底面から所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす二酸化炭素ハイドレート生成可能領域よりも下方に二酸化炭素を圧入して二酸化炭素貯留層を形成する方法並びに装置が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4に記載の方法並びに装置によれば、二酸化炭素を地中に貯留する際の目詰まりを防止し、効率良く大量の二酸化炭素を貯留できる効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-239962号公報
【特許文献2】特開2010-284605号公報
【特許文献3】特開2010-209591号公報
【特許文献4】特開2019-126787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、二酸化炭素ハイドレートの生成条件は、温度10℃以下で、且つ、圧力4.5MPa以上というものであるが、日本の周辺海域においては広い範囲で当該条件が満たされている。一方、海底面下の地層において、二酸化炭素ハイドレートを生成させるための地質条件が適合する場所の特定は、大量の二酸化炭素の効率的な地中貯留を実現するうえで、今後の課題となっている。
【0012】
ここで、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層は、二酸化炭素ハイドレートを生成させて二酸化炭素を地中貯留するための適地としても適合することが知られている。上記のような未固結堆積層のうち、メタンハイドレートが高密度で存在し、メタンガスの生産のための開発対象となるような高いポテンシャルを有する領域である、メタンハイドレートの濃集帯においては、工業生産上、並びに、資源の有効活用上の観点から、メタンガスの生産が実施される。しかしながら、未固結堆積層を有する場所において、メタンハイドレートが存在する密度が元々低い領域であるか、あるいは、メタンハイドレートが既にメタンガスの生産に供された領域である、メタンハイドレートの非濃集層を含むメタンハイドレート非濃集帯は、メタンガスの生産性が低いことから、生産対象地から除外されており、地層中のメタンハイドレートが有効活用されていないのが実情である。
【0013】
一方、上記の特許文献1~3は、何れも、主としてメタンハイドレートの生産増進を図ることを目的とするものであり、上記の特許文献4は、二酸化炭素のハイドレート化によって地層孔隙が閉塞して目詰まりを生じるのを防止することを目的とするものである。即ち、特許文献1~4の何れも、効率良く大量の二酸化炭素を貯留するための重要な条件とも言える、遮蔽層の低浸透性を顕著に向上させるものではない。
このため、遮蔽性能に優れたハイドレートからなる遮蔽層を用い、大量の二酸化炭素を効率的に地中に貯留できる方法が切に求められている。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素ハイドレートを含む二酸化炭素シール層の下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能な二酸化炭素の地中貯留方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討を重ねた。この結果、まず、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域を特定し、このメタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素を圧入することで、二酸化炭素の一部が、メタンハイドレート生成可能領域における下層側を通過して、メタンハイドレート生成可能領域における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域に二酸化炭素ハイドレートが生成されることを知見した。このように、メタンハイドレート生成可能領域における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域に二酸化炭素ハイドレートからなる層が形成され、メタンハイドレート生成可能領域における下層側と上層側とで2段階のマルチシール機能を有する二酸化炭素シール層を構成することにより、二酸化炭素シール層における二酸化炭素ハイドレートの遮蔽性能がより優れたものとなり、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
即ち、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 二酸化炭素を単独あるいは該二酸化炭素を主成分とする混合物の状態で、堆積物からなる海底面下の地層中に貯留する方法であって、海底面から所定の深さの範囲で、且つ、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域を特定する工程(1)と、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に前記二酸化炭素を圧入する工程(2)と、を備える、二酸化炭素の地中貯留方法。
[2] 前記工程(2)は、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素貯留層を形成するとともに、該二酸化炭素貯留層に圧入された前記二酸化炭素の少なくとも一部が前記メタンハイドレート生成可能領域側に上昇し、該メタンハイドレート生成可能領域における下層側を通過して、前記メタンハイドレート生成可能領域における上層側の前記二酸化炭素ハイドレート生成可能領域に二酸化炭素ハイドレートが生成されることで二酸化炭素ハイドレート層を形成することにより、前記メタンハイドレート生成可能領域における下層側を一次シール層とするとともに、前記二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層とした二酸化炭素シール層を形成する、上記[1]に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[3] 前記工程(2)は、前記メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層のうち、前記メタンハイドレートの非濃集帯である領域を特定し、該メタンハイドレートの非濃集帯における、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素を圧入する、上記[1]又は[2]に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[4] 前記メタンハイドレートの非濃集帯は、前記地層中に存在するメタン由来のメタンハイドレートを含み、且つ、該メタンハイドレートを用いたメタンガスの生産によってメタンハイドレート飽和率が低下した領域からなる、上記[3]に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[5] 前記メタンハイドレートの非濃集帯が、人工的に生成させたメタンハイドレートを含み、且つ、メタンハイドレート飽和率が低い層からなる、上記[3]に記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[6] 前記工程(2)は、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に前記二酸化炭素を圧入する圧力が6MPa以上である、上記[1]~[5]の何れかに記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[7] 前記工程(2)は、前記二酸化炭素を、液体状態又は超臨界状態で、前記メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に圧入する、上記[1]~[6]の何れかに記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[8] 前記二酸化炭素ハイドレート生成可能領域は、地中温度が10℃以下の領域であり、且つ、水深450m以深の海底面から所定の深さまで存在する、上記[1]~[7]の何れかに記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
[9] 前記工程(2)は、海面から600m以深における地中温度が20℃以上であるとき、前記二酸化炭素を当該深さに圧入する、上記[1]~[8]の何れかに記載の二酸化炭素の地中貯留方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二酸化炭素の地中貯留方法によれば、上記のように、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域を特定する工程(1)と、メタンハイドレート生成可能領域よりも下方の未固結堆積層に二酸化炭素を圧入する工程(2)と、を備えた方法を採用している。
このように、メタンハイドレート生成可能領域よりも下方に二酸化炭素を圧入することで、二酸化炭素の一部がメタンハイドレート生成可能領域側に上昇し、メタンハイドレート生成可能領域における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域に二酸化炭素ハイドレートが生成されることによって二酸化炭素ハイドレート層を形成する。これにより、二酸化炭素シール層が、メタンハイドレート生成可能領域における下層側を一次シール層とするとともに、前記二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層とした2段階のマルチシール機能を有するので、下方に貯留した二酸化炭素に対する二酸化炭素シール層の遮蔽性能が高められる。
従って、二酸化炭素シール層の下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができるので、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、二酸化炭素貯留層、及び、メタンハイドレート層からなる一次シール層と、二酸化炭素ハイドレート層からなる二次シール層とからなる二酸化炭素シール層における、それぞれの境界を示すとともに、本発明において使用可能な地中貯留装置の一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、メタンハイドレート及び二酸化炭素ハイドレートが生成する温度条件並びに圧力条件を示すグラフである。
図3図3は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、メタンハイドレート生成可能領域と、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域の、それぞれの境界を示すとともに、海底面からの深度と温度との関係を示す模式図である。
図4図4は、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法について説明する図であり、メタンハイドレート層からなる一次シール層のハイドレート飽和率と浸透率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法の構成について、本発明で用いることが可能な二酸化炭素の地中貯留装置の例と併せて、図1図4を適宜参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
図1は、二酸化炭素貯留層(二酸化炭素が液体で存在する領域)G、及び、メタンハイドレート層からなる一次シール層C1と、二酸化炭素ハイドレート層からなる二次シール層C2とからなる二酸化炭素シール層Cにおける、それぞれの境界を示す模式図である。なお、図1中には、本発明において使用可能な装置の一例として、地中貯留装置1を示している。また、図1中においては、地層における海底面Fからの各深度の温度を表すグラフも示しており、X軸に温度(℃)、Y軸に深度(m)を配置し、地温勾配を3℃/100℃と仮定した場合の関係を示している。
図2は、メタンハイドレート及び二酸化炭素ハイドレートが生成する温度条件並びに圧力条件を示すグラフであり、X軸に温度(Temperature(℃))を、Y軸に圧力(Pressure(MPa))を配置している。なお、図2に示すグラフは、下記参考文献1における図3より引用したものである(参考文献1:鳥羽瀬孝臣,尾留川剛,池川洋二郎,木村治夫,「第45回岩盤力学に関するシンポジウム講演集;ハイドレートを利用したCO地中貯留の提案」,公益社団法人土木学会,2018年1月,講演番号41)。
図3は、メタンハイドレート生成可能領域S1と、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2の、それぞれの境界を示すとともに、海底面からの深度と温度との関係を示す模式図である。なお、図3中においても、図1と同様、地層における海底面Fからの各深度の温度を表すグラフを示しており、X軸に温度(℃)、Y軸に深度(m)を配置し、地温勾配を3℃/100℃と仮定した場合の関係を示している。
図4は、メタンハイドレート層からなる一次シール層C1のハイドレート飽和率と浸透率との関係を表すグラフであり、X軸に飽和率(Saturation(%))を、Y軸に浸透率(Permeability(md))を配置している。なお、図4に示すグラフは、下記参考文献2のFigure 5より引用したものである(参考文献2:Yoshihiro Konno, Jun Yoneda, Kosuke Egawa, Takuma Ito, Yusuke Jin, Masato Kida, Kiyofumi Suzuki, Tetsuya Fujii, Jiro Nagao, “Permeability of sediment cores from methane hydrate deposit in the Eastern Nankai Trough”, Marine and Petroleum Geology, Volume 66, Part 2, September 2015, Pages 487-495)。
【0021】
本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法(以下、単に「貯留方法」と略称することがある)は、二酸化炭素を単独、あるいは、二酸化炭素を主成分とする混合物の状態で、堆積物からなる海底面F下の地層中に貯留する方法である。即ち、本実施形態の貯留方法においては、海底面Fから所定の深さの範囲で、且つ、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層Uからなるメタンハイドレート生成可能領域S1を特定する工程(1)を備える。さらに、本実施形態の貯留方法は、上記のメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する工程(2)を備える。
【0022】
また、本実施形態で説明する例の貯留方法は、上記の工程(2)が、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素貯留層Gを形成するとともに、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部がメタンハイドレート生成可能領域S1側に上昇し、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を通過する。これにより、メタンハイドレート生成可能領域S1における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2に二酸化炭素ハイドレートが生成されることで二次シール層(二酸化炭素ハイドレート層)C2を形成することで、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を一次シール層C1とするとともに、二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層C2とした二酸化炭素シール層Cを形成する。
【0023】
なお、本実施形態で説明する二酸化炭素とは、純粋な二酸化炭素(CO)単独のみならず、上記のような、二酸化炭素を主成分とする混合ガスの状態も含むものである。即ち、本実施形態の貯留対象である二酸化炭素は、既存の対策技術を併用することで水が含まれていてもよい。さらに、本実施形態の貯留対象である二酸化炭素としては、この二酸化炭素自体に加え、二酸化炭素以外の他成分として、例えば、一酸化炭素(CO)、水素(H)、メタン(CH)、水(HO)、硫化水素(HS)等も含むものも挙げられる。
【0024】
以下に、図1中に示した地層中における各層の定義について説明する。
まず、本実施形態において説明する未固結堆積層Uとは、海底下地層のうち、比較的浅い領域に存在する固結度の低い堆積層のことをいう。
また、メタンハイドレート生成可能領域S1とは、メタンハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層のことをいう。但し、本実施形態においては、実際に、メタンハイドレート生成可能領域S1においてメタンハイドレートが生成されているか否かは問わない。
また、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2とは、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層のことをいう。但し、本実施形態においては、実際に、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2において二酸化炭素ハイドレートが生成されているか否かは問わない。
【0025】
なお、海面Mからの深さと海中の温度との関係、及び、海底面Fからの深さと地中の温度との関係等を考慮すると、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2よりも深い地層では、二酸化炭素はハイドレート化しないと考えられる。また、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも深い地層では、メタンはハイドレート化しないと考えられる。そして、図1に示すように、メタンハイドレート生成可能領域S1の下限は、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2の下限よりも深い。
【0026】
また、一次シール層(メタンハイドレート層)C1は、メタンハイドレートが実際に生成され、下方の二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素に対する遮蔽(シール)作用を有する層である。
二次シール層(二酸化炭素ハイドレート層)C2は、二酸化炭素ハイドレートが実際に生成され、下方の二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素に対する遮蔽(シール)作用を有する層である。
【0027】
<二酸化炭素の地中貯留装置>
先ず、本発明を適用した一実施形態である二酸化炭素の地中貯留方法に用いることが可能な地中貯留装置の一例について、図1を参照しながら説明する(以下、単に「貯留装置」と略称することがある)。
【0028】
図1に示すように、本実施形態の貯留方法で用いることが可能な貯留装置1は、二酸化炭素(CO)を地層中の二酸化炭素貯留層(二酸化炭素貯留領域)Gに貯留する装置である。貯留装置1は、海底面(海底)Fから所定の深さまで存在する、詳細を後述する二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含むメタンハイドレート生成可能領域S1を貫通して該メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の二酸化炭素貯留層Gまで延在された圧入井4と、二酸化炭素(CO)を生成する二酸化炭素供給源2と、該二酸化炭素供給源2で生成された二酸化炭素(CO)を圧入井4に圧送する圧送設備3と、を備えて概略構成される。
【0029】
図1の模式図において、海水Wの下方に位置する海底面F下の地層(未固結堆積層U)は、通常、海面Mから海底面Fまでの深さ、及び、海底面Fから地層の任意の深さによって圧力が変化する。本実施形態の貯留装置1は、海底面Fから所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の二酸化炭素貯留層Gに、二酸化炭素(CO)を単独、あるいは、二酸化炭素を主成分とする混合物の状態で圧入して貯留するものである。
【0030】
二酸化炭素供給源2は、上記のように、未固結堆積層U中の二酸化炭素貯留層Gに貯留する二酸化炭素(CO)を供給するものである。このような二酸化炭素供給源2としては、特に限定されず、例えば、石油やガスを採掘する海上プラント等の各種施設において、化石燃料を用いた発電設備等から排出される石炭や石油等に由来の二酸化炭素を回収する装置や、これらの装置によって回収された二酸化炭素を輸送する船舶やパイプラインから一時的に受け入れて貯蔵する装置等が挙げられる。
【0031】
また、貯留装置1において、二酸化炭素供給源2は、その装置特性にも依るが、海面Mよりも上に露出していることが、燃料や二酸化炭素等の材料の供給性やメンテナンス性、装置寿命等の観点から好ましい。このように、二酸化炭素供給源2を海面Mよりも上に露出させる方法としては、例えば、海底から石油やガス等の資源を採掘するために設置されるものと同様の海上プラットフォームを構築し、その上に二酸化炭素供給源2を設置する方法が挙げられる。
海上プラットフォームとしては、例えば、固定式又は浮遊式等のものが挙げられる。
固定式の海上プラットフォームとしては、例えば、高強度の鋼材等から組み立てられた構造物を、海底面Fに直接固定して構築されたもの等が挙げられる。
また、浮遊式の海上プラットフォームとしては、例えば、半潜水式の船舶等からなるものが挙げられる。
図1に示す例の貯留装置1においては、海水W(海面M)上に船舶5が浮かべられ、この船舶5上に二酸化炭素供給源2が設置されている。
【0032】
なお、二酸化炭素供給源2は、船舶5のような海上プラットフォーム上に設置された構成のものには限定されない。例えば、図示を省略するが、陸上に設置された二酸化炭素供給源2で生成された二酸化炭素を、後述の圧送設備3及び配管(パイプライン)を介して圧入井4まで輸送する構成を採用してもよい。
【0033】
圧送設備3は、二酸化炭素(CO)を圧入井4に圧送するものであり、図1に示す例においては、船舶5からなる海上プラットフォーム上に設置されている。
また、図示例においては、船舶5上に設置された圧送設備3から、供給ラインLを介して、海底面Fを起点に設けられた圧入井4に二酸化炭素(CO)が供給されるように構成されている。
【0034】
圧送設備3としては、この分野で従来から用いられている、液圧送用のポンプ等を何ら制限無く採用することができる。
また、圧送設備3と圧入井4とを接続する供給ラインLとしては、例えば、海水中で使用可能な金属又は樹脂材料からなる配管部材を何ら制限無く採用することができる。
なお、圧送設備3としては、上記のような、船舶5等の海上プラットフォーム上に設置されたものには限定されず、例えば、陸上や海底面Fに圧送設備を設置することも可能である。
【0035】
圧入井4は、上記のように、海底面Fから所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含むメタンハイドレート生成可能領域S1を貫通するとともに、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の二酸化炭素貯留層Gまで延在し、二酸化炭素貯留層Gに二酸化炭素(CO)を圧入する。
圧入井4は、例えば、ボーリング等によって掘削された孔井からなる、二酸化炭素(CO)の注入・圧入孔である。
【0036】
図示例の圧入井4は、垂直井として設けられているが、必要に応じて傾斜井とするか、あるいは、垂直井と水平井との組み合わせ(例:断面L字状)や、垂直井、水平井及び傾斜井を適宜組み合わせた構造とすることも可能である。また、陸上から直接、傾斜井として設置することも可能であり、この場合、二酸化炭素供給源2及び圧送設備3は陸上に設置されることになる。
【0037】
なお、本実施形態の貯留装置1においては、上記各構成に加え、さらに、二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素(CO)の状態、あるいは、詳細を後述する一次シール層C1及び二次シール層C2からなる二酸化炭素シール層Cを含むメタンハイドレート生成可能領域S1全体の状態等を検出するための、各種モニタリング装置が備えられていてもよい。
【0038】
<二酸化炭素の地中貯留方法>
以下、本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法について、図1図4を適宜参照しながら詳細に説明する。
【0039】
本実施形態の貯留方法は、上述したように、二酸化炭素(CO)を、海底面F下の地層中に貯留する方法である。この貯留方法は、海底面Fから所定の深さまで存在する、二酸化炭素ハイドレートを生成可能な圧力条件及び温度条件を満たす地層からなる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方に、二酸化炭素(CO)を圧入することで二酸化炭素貯留層Gを形成する方法である。
【0040】
即ち、本実施形態の貯留方法は、上述したように、まず、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層Uからなるメタンハイドレート生成可能領域S1を特定する工程(1)を有する。さらに、本実施形態の貯留方法は、上記のメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する工程(2)を備える。
【0041】
上述したように、本実施形態で説明する例の貯留方法では、工程(2)において、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素貯留層Gを形成する。さらに、二酸化炭素貯留層Gに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部がメタンハイドレート生成可能領域S1側に上昇し、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を通過する。そして、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を通過した二酸化炭素により、メタンハイドレート生成可能領域S1における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2に二酸化炭素ハイドレートが生成されることで二次シール層(二酸化炭素ハイドレート層)C2を形成する。これにより、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を一次シール層C1とするとともに、二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層C2とした二酸化炭素シール層Cを形成する。図1中に例示する二酸化炭素シール層Cは、メタンハイドレート生成可能領域S1において、海底面Fよりも若干深めの深度の位置が上端側となるように形成されている。
【0042】
さらに、本実施形態の貯留方法においては、工程(2)において、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層Uのうち、メタンハイドレートの非濃集帯である領域を特定し、このメタンハイドレートの非濃集帯における、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する方法を採用できる。
【0043】
本実施形態の貯留方法においては、図1中に例示した貯留装置1を用いて、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含むメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方に二酸化炭素(CO)を圧入することで、海底面F下の地層中における二酸化炭素貯留層Gに二酸化炭素(CO)を貯留することができる。
【0044】
上述したように、二酸化炭素(CO)は、所定の温度及び圧力の範囲において、気体、液体、固体あるいは超臨界の4相の何れかの状態で存在する。また、二酸化炭素(CO)は、常圧下で温度194K(-79.15℃)以下の条件で固体(ドライアイス)になるが、水と混じった場合には、異なる温度と圧力の条件でハイドレート(固体)化する。図2に示すように、例えば、二酸化炭素の状態を温度-圧力勾配曲線からなるグラフで表すと、温度-圧力勾配曲線を境界として、グラフ上の領域が、二酸化炭素ハイドレートの安定領域(CO hydrate Stable zone)と、二酸化炭素が液体(Liquid zone)状態で存在する領域とに分けられる。上記の安定領域は、二酸化炭素(CO)が水と混じってハイドレート化した状態で安定して存在する、温度及び圧力の範囲である。また、二酸化炭素ハイドレートの安定領域は、液体の二酸化炭素の領域(液相の領域)の一部と重なる。
【0045】
また、二酸化炭素(CO)は、温度が31℃以上で、且つ、圧力が7.4MPa以上の場合に超臨界状態となり、密度変化は比較的緩慢になる。また、二酸化炭素(CO)は、温度が35℃以下、圧力が20MPa以下のときは、密度が海水よりも小さく、温度0℃付近で圧力が14MPa以上である場合を除き、水の密度よりも小さい。即ち、二酸化炭素(CO)は、液体又は超臨界状態においては、その密度は海水に比べて小さいことから、海底面F下の地層中に二酸化炭素(CO)を貯留するためには、上記の密度差によって浮上する二酸化炭素を封じ込めるためのシール機能が必要となる。
【0046】
ところで、天然ガスは、一般に、在来型天然ガス、シェール・ガス、又はメタンハイドレート等の状態で地層中に存在している。
在来型天然ガスは、気密性が高い泥岩等のキャップロックがシール層として機能することで、地層中に貯まっている。
シェール・ガスは、そのDNAの分析から、石油根源岩とされる頁岩(shale)から石油(shale oil)と同時に生産されることが明らかになっている。
これに対し、メタンハイドレートは、大陸縁辺の海底面下の地層や、永久凍土層で固体として存在することが確認されており、上記のようなキャップロックは存在しないものの、ハイドレート化する温度と圧力との条件により、所謂シール機能を果たすシール層が形成される。
【0047】
上記のような、自然状態で天然ガスが存在することを、二酸化炭素貯留のナチュラルアナログ(自然類似現象)として捉えることができる。即ち、在来型天然ガス、及び、一般的な二酸化炭素の地中への貯留は、上記のキャップロックがシール層として機能する。また、メタンハイドレート、及び、二酸化炭素ハイドレートは、ハイドレート化する温度と圧力の条件を設定することにより、二酸化炭素を貯留するためのシール層として利用可能である。
また、シェール・ガスは、頁岩あるいは石炭層にメタンが吸着することで存在し、二酸化炭素も吸着することが知られている。
上記のように、自然に存在する天然ガスは、それぞれ異なるシール機能で地層内に封じ込められている。このようなシール機能、即ち、自然の条件を利用することで、二酸化炭素についても地中貯留が可能となる。
【0048】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、上述したように、まず、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域S1を特定したうえで、このメタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する方法を採用した。これにより、以下に詳述するように、地層中に自然に存在するメタン由来のメタンハイドレート層を一次シール層C1とし、さらに、その上に、二酸化炭素ハイドレートからなる二次シール層C2を形成することで、二酸化炭素シール層Cを2段階のマルチシール構造とすることを見出した。即ち、低浸透性を有するメタンハイドレートからなる一次シール層C1と、二酸化炭素貯留層Gに圧入した二酸化炭素の少なくとも一部が上昇して一次シール層C1上に形成された二次シール層C2とで、従来に無い非常に強固な遮蔽性能が得られることを突き止めた。
【0049】
図2のグラフ中に示すように、二酸化炭素ハイドレートとメタンハイドレートとでは、生成する温度条件や圧力条件がやや異なる。一方、二酸化炭素ハイドレート及びメタンハイドレートは、生成する地質条件は同様と考えられ、メタンハイドレートが賦存する地質条件(未固結堆積層)は、二酸化炭素ハイドレートの生成にも適合する。上述した未固結堆積層の浸透率は、一般に1000(md)程度であるが、図4のグラフに示すように、メタンハイドレートからなる層(一次シール層C1)の浸透率は、メタンハイドレートの飽和率に関わらず、1~100md程度であり、優れた低浸透性を有している。
【0050】
なお、図4のグラフの意味するところは以下のとおりである。
元々の地層の浸透率が大きい場所は、地層の空隙が大きくハイドレートを生成しやすい場所であり、ハイドレート飽和率が高く、且つ、浸透率の低下率が大きい。一方、元々の地層の浸透率が小さい場所は、地層の空隙が小さくハイドレートを生成し難い場所であり、ハイドレート飽和率が低く、且つ、浸透率の低下率が小さい。従って、ハイドレート飽和率に関わらず、浸透率は一定の範囲に収まる。
また、浸透率が1md以下の領域で、ハイドレート飽和率が0%付近になっているのは、元々の地層の空隙が極めて小さいため、ハイドレートを生成できないことを示している。
【0051】
上記の知見により、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層は、二酸化炭素ハイドレートを生成させて二酸化炭素を地中貯留するための適地として適合している。
そして、本発明者等がさらに検討を進めた結果、図4のグラフに示すように、詳細を後述するメタンハイドレートの非濃集帯は顕著な低浸透率を有していると考えられることを明らかにした。そして、図1中に示すような、地層中の未固結堆積層Uで自然に存在するメタンハイドレート層からなる一次シール層C1と、地層中の未固結堆積層Uに圧入された二酸化炭素の少なくとも一部がハイドレート化してなる二次シール層C2とによる、2段階のシールメカニズムが期待できることを見出した。このような、一次シール層C1と二次シール層C2とからなる2段階のマルチシール構造は、二酸化炭素ハイドレートからなるシール層のみの単一シール構造に比べて、下方に貯留された二酸化炭素に対するより強固な遮蔽性能が期待できる。
【0052】
なお、メタンハイドレートの濃集帯とは、例えば、経済性の観点から、原始資源量(存在するメタンの総量)100億m以上の規模を有し、一坑井あたり日産50000m以上のガス生産が可能な領域のことをいう(参考文献3:山本晃司,天満則夫,「メタンハイドレート開発-商業生産に向けての課題と現在の研究開発」,日本マリンエンジニアリング学会誌,第56巻,第2号(2021))。一方、本明細書において説明する「メタンハイドレートの非濃集帯」とは、上記のメタンガスの生産条件を満たさない領域である。図4のグラフに示すとおり、ハイドレートの飽和率に関わらず、メタンハイドレート層の浸透率は1~100mdの範囲にあり、メタンハイドレートの濃集帯及び非濃集帯は、何れも一次シール層としての機能を有している。
【0053】
ここで、本実施形態におけるメタンハイドレートの非濃集帯としては、例えば、地層中に自然に存在するメタン由来のメタンハイドレートを含み、且つ、このメタンハイドレートを用いたメタンガスの生産によってメタンハイドレート飽和率が低下した層が挙げられる。また、メタンハイドレートの非濃集帯としては、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層Uのうち、メタンハイドレートの存在密度が元々低い領域の層が挙げられる。
【0054】
また、メタンハイドレートの非濃集帯は、上述したように、メタンガスの生産性が低いことために生産対象地から除外されていることから、メタンハイドレートを生産する側に対する不都合は生じない。また、メタンハイドレートの非濃集帯を二酸化炭素の地中貯留に利用することで、メタンハイドレートの生産に適さない場所の有効活用にも繋がる。
【0055】
上記のような本実施形態の貯留方法によれば、まず、一次シール層C1として、地層中におけるメタンハイドレートを生産した後の残留メタンハイドレート、又は、メタンハイドレートの非濃集帯を、低浸透性ゾーンとして有効活用している。そのうえで、一次シール層C1上に二酸化炭素ハイドレートが生成されることに伴い、孔隙が目詰まりしてなる二次シール層C2を形成させ、その遮蔽効果を利用することで、これら一次シール層C1及び二次シール層C2からなる二酸化炭素シール層Cの遮蔽性能が強化される。これにより、二酸化炭素シール層Cの下方に液体の二酸化炭素を効率よく貯留することができる。
【0056】
ここで、詳細な図示は省略するが、海面Mからの深さと海中の温度との関係、及び、海底面Fからの深さと地中の温度との関係をグラフ化すると、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含むメタンハイドレート生成可能領域S1よりも深い地層では、二酸化炭素はハイドレート化しないことがわかる。このため、二酸化炭素(CO)を、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方に圧入することで、目詰まりさせることなく、この圧入領域を二酸化炭素貯留層(Liquid CO injection/storage layer)として扱うことが可能になる。また、例えば、二酸化炭素(CO)を液体又は超臨界状態で地中に圧入する場合には、二酸化炭素(CO)の溶解水を生成するための装置等が不要になるので、上述したような貯留装置1を簡便な構成にすることが可能になる。
【0057】
そして、二酸化炭素貯留層Gに圧入・貯留された液体又は超臨界状態の二酸化炭素(CO)は、海水Wとの密度差による浮力で上昇するが、メタンハイドレート生成可能領域S1の下層側(下端側)に存在する一次シール層C1に到達し、さらに、この一次シール層C1を透過したところで、二酸化炭素(CO)が自己ハイドレート化して安定する。これにより、一次シール層C1の上に、二酸化炭素ハイドレートからなる二次シール層C2が形成され、これら一次シール層C1及び二次シール層C2からなる二酸化炭素シール層Cの遮蔽作用によって、二酸化炭素(CO)が海水W中に漏洩するのを確実に防止できる。
【0058】
本実施形態の貯留方法においては、二酸化炭素(CO)を、液体状態又は超臨界状態の何れかで、二酸化炭素貯留層Gに向けて圧入することが好ましい。ここで、例えば、二酸化炭素(CO)を気体状態で供給した場合でも、二酸化炭素貯留層Gにおける圧力及び温度の条件下では、二酸化炭素(CO)は液体又は超臨界状態となる。一方、圧入井4を介して二酸化炭素貯留層Gに二酸化炭素(CO)を圧入するにあたっては、気体状態よりも、液体又は超臨界状態で供給する方が、輸送効率に優れるというメリットがある。
【0059】
上述したように、二酸化炭素がハイドレート化する温度は10℃以下であり、且つ、圧力は4.5MPa以上である。このため、本実施形態の貯留方法では、二次シール層C2を形成させる二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2が、地中温度が10℃以下の領域であって、且つ、水深450m以深の海底面Fから所定の深さまで存在するように、二酸化炭素(CO)を圧入する深さを調整することが好ましい。例えば、図3の模式図に示すように、太平洋の日本近海において、水深が1000mで、その海底面F付近の水温が5℃であると仮定すると、海底面F下の地層内の地中温度は深くなるにつれて上昇するため、地中温度が10℃以下の範囲で二酸化炭素がハイドレート化し、安定した二酸化炭素ハイドレートからなる二次シール層C2が確保される。
【0060】
さらに、本実施形態の貯留方法では、海面Mから600m以深における地中温度が20℃以上であるとき、二酸化炭素(CO)を、当該深さに圧入することが好ましい。このように、二酸化炭素(CO)を、海面Mから600m以深の深さで地層中におけるメタンハイドレート生成可能領域S1の下方に圧入すること、つまり、圧入位置の温度及び圧力の条件が、二酸化炭素が液相状態となるような条件の深さで二酸化炭素(CO)を圧入することで、二酸化炭素がハイドレート化することがなく、圧入井4の出口が目詰まりするのを防止できる効果が得られる。
【0061】
上記の工程(2)における、二酸化炭素シール層C(一次シール層C1)の下方への二酸化炭素(CO)の圧入条件としては、特に限定されないが、例えば、地中の温度が20℃のときには、二酸化炭素貯留層Gにおける圧力が6MPa以上となるように、二酸化炭素(CO)を注入・圧入することが好ましい。
【0062】
また、二酸化炭素(CO)の圧入に関して、地中の温度に基づいて二酸化炭素(CO)を圧入する深さを調整することで、二酸化炭素(CO)を、例えば、液体又は超臨界状態で安定させた状態で圧入することが可能になる。
【0063】
なお、本実施形態においては、一次シール層C1及び二次シール層C2からなる二酸化炭素シール層Cを含むメタンハイドレート生成可能領域S1の全地層厚については特に限定されない。しかしながら、二酸化炭素シール層Cを含むメタンハイドレート生成可能領域S1全体のシール性を向上させるため、即ち、二酸化炭素貯留層Gに貯留された二酸化炭素(CO)が海水W中に漏洩するのを確実に防止するため、メタンハイドレート生成可能領域S1を、少なくとも100m以上で確保することが好ましい。このように、メタンハイドレート生成可能領域S1の地層厚を所望の厚さで確保する方法としては、例えば、事前調査により、海底面F下の地層中の温度と圧力の状況や、メタンハイドレートの位置等を十分に把握した上で、圧入井4による二酸化炭素(CO)の圧入深さ(圧入深さ)を最適化すること等が挙げられる。
【0064】
なお、二酸化炭素ハイドレートからなる二次シール層C2を形成する二酸化炭素は、上記のように、二酸化炭素貯留層Gに圧入された後に上昇して一次シール層C1を透過した二酸化炭素である。一方、二次シール層C2は、例えば、一次シール層C1に注入された二酸化炭素により、一次シール層C1を構成するメタンハイドレートの一部が二酸化炭素ハイドレートに置換されたものに由来する層であってもよい。
【0065】
また、本実施形態の貯留方法においては、一次シール層C1は、基本的には、地層中に存在するメタン由来のメタンハイドレートからなる層であり、元々、地層中に存在するメタンハイドレートを利用するものであるが、これに限定されるものではない。例えば、メタンハイドレートからなる一次シール層C1が、人工的に生成させたメタンハイドレートを含み、且つ、メタンハイドレート飽和率が低い層であってもよい。即ち、二次シール層C2を構成する二酸化炭素ハイドレートと同様の低浸透性を有する、人工的に生成させたハイドレート、具体的には、人工のメタンハイドレートや窒素ハイドレート、あるいは、人工のTBAB(テトラブチルアンモニウムブロミド)系セミクラスレートハイドレート等、各種の様々な人工ハイドレートを一次シール層C1に利用することも可能である。
【0066】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の二酸化炭素の地中貯留方法によれば、上記のように、二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2を含み、且つ、メタンハイドレートが賦存する未固結堆積層からなるメタンハイドレート生成可能領域S1を特定する工程(1)と、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方の未固結堆積層Uに二酸化炭素を圧入する工程(2)と、を備えた方法を採用している。
このように、メタンハイドレート生成可能領域S1よりも下方に二酸化炭素を圧入することで、二酸化炭素の一部がメタンハイドレート生成可能領域S1側に上昇しても、メタンハイドレート生成可能領域S1は浸透率が低いので、一次シール層C1として機能して二酸化炭素を閉じ込める。上記の一次シール層C1は低浸透率ではあるものの、わずかな割合での浸透は生じるため、二酸化炭素の一部が一次シール層C1を通過してしまう可能性がある。一方、一次シール層C1を通過した二酸化炭素は、メタンハイドレート生成可能領域S1における上層側の二酸化炭素ハイドレート生成可能領域S2に到達すると、二酸化炭素ハイドレートが生成されることによって二酸化炭素ハイドレート層を形成する。これにより、二酸化炭素シール層Cが、メタンハイドレート生成可能領域S1における下層側を一次シール層C1とするとともに、二酸化炭素ハイドレート層を二次シール層C2とした2段階のマルチシール機能を有するものとなるので、下方に貯留した二酸化炭素に対する二酸化炭素シール層の遮蔽性能が高められる。
従って、二酸化炭素シール層Cの下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができるので、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能となる。
【0067】
<その他の形態>
なお、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の二酸化炭素の地中貯留方法は、二酸化炭素ハイドレートを含む二酸化炭素シール層の下方に注入した二酸化炭素を確実に封じ込めることができ、大量の二酸化炭素を効率良く貯留することが可能なものである。従って、本発明の地中貯留方法は、例えば、各種プラントにおいて、化石燃料を用いて発電しながら二酸化炭素を回収し、この二酸化炭素を地中に貯留することで排出量を削減する用途等において非常に好適である。
【符号の説明】
【0069】
1…地中貯留装置(貯留装置)
2…二酸化炭素供給源
3…圧送設備
4…圧入井
5…船舶
L…供給ライン
W…海水
M…海面
F…海底面(海底)
U…未固結堆積層
S1…メタンハイドレート生成可能領域
S2…二酸化炭素ハイドレート生成可能領域
C…二酸化炭素シール層
C1…一次シール層(メタンハイドレート層)
C2…二次シール層(二酸化炭素ハイドレート層)
G…二酸化炭素貯留層
図1
図2
図3
図4