(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024048939
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用前処理剤及びインクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20240402BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240402BHJP
D06M 15/05 20060101ALI20240402BHJP
D06M 15/21 20060101ALI20240402BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06P5/00 105
D06P5/30
D06M15/05
D06M15/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155121
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】大西 秀明
【テーマコード(参考)】
4H157
4L033
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157AA02
4H157BA08
4H157CA03
4H157CA13
4H157CA30
4H157CA34
4H157CA35
4H157CA37
4H157CB05
4H157CB08
4H157CB13
4H157CB45
4H157CB46
4H157CC01
4H157DA01
4H157DA34
4H157GA06
4L033AB04
4L033AC15
4L033CA03
4L033CA11
(57)【要約】
【課題】前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷を行うことができ、スクリーン捺染機に必要な粘度を有すると共に、得られる印捺物の色滲みを防止でき、風合い及び色味が良好なインクジェット捺染用前処理剤を提供する。
【解決手段】N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー及び糊剤を含み、前記糊剤がセルロース誘導体を含む、インクジェット捺染用前処理剤。このインクジェット捺染用前処理剤で布帛を前処理し、前処理した布帛を乾燥せずに、前処理した布帛の前処理した領域にインクジェット印刷することを含む、インクジェット捺染方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー及び糊剤を含み、
前記糊剤がセルロース誘導体を含む、インクジェット捺染用前処理剤。
【請求項2】
前記セルロース誘導体がメチルセルロースである、請求項1に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項3】
前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーに対する前記糊剤の含有比率(質量比)が1.0以上15.0以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項4】
インクジェット捺染用前処理剤の全質量100質量%中の前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有率が0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項5】
インクジェット捺染用前処理剤の全質量100質量%中の前記セルロース誘導体の含有率が0.5質量%以上5.0質量%以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項6】
前記セルロース誘導体を第1の糊剤として含み、さらに、第2の糊剤として無機化合物を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項7】
前記無機化合物がモンモリロナイトである、請求項6に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項8】
さらに消泡剤を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項9】
前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーが、ポリアミジン及びポリビニルアミンからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用前処理剤で布帛を前処理し、前処理した布帛を乾燥せずに、前処理した布帛の前処理した領域にインクジェット印刷することを含む、インクジェット捺染方法。
【請求項11】
前記インクジェット印刷に用いるインクが分散染料である、請求項10に記載のインクジェット捺染方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用前処理剤及びインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染は、版を用いる従来の方法に比べ、版の洗浄や保管がなく、多品種への適用が容易であり、納期を短縮できる利点がある。しかし、インクジェット捺染は装置やインクが高価であり、前処理工程が必要となる。特許文献1~3には、前処理剤を布帛に塗布した後に乾燥し、インクジェット印刷する技術が開示されている。特許文献4及び特許文献5には、前処理剤を布帛に塗布した後、乾燥せずにインクジェット印刷する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-302987号公報
【特許文献2】特開2003-3385号公報
【特許文献3】特開平9-279487号公報
【特許文献4】特表2017-530269号公報
【特許文献5】特開2016-089288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3のように前処理剤の塗布後に乾燥する方法は、乾燥機を設置するスペースや、乾燥に要するエネルギー及びコストが必要であり、乾燥を行わない方法に比べて生産性が低い。このため、前処理剤塗布後に乾燥無しでインクジェット印刷(捺染)できることが求められている。
しかしながら、特許文献4、5のように前処理剤の塗布後に乾燥しない方法は、インクの毛細管現象によって色が滲みやすく、布帛内部へのインクの浸透性が劣る問題がある。
【0005】
本発明者による検討の結果、特定のカチオンポリマーを前処理剤に用いることで、乾燥無しでの印刷が可能となり、色滲みも防止できることを知見した。しかしながら、カチオンポリマーを前処理剤に用いると、スクリーン捺染機での印刷に必要な粘度が得られず、また粘度を高めるために糊剤を用いると糊剤の種類によっては色滲みや風合い、捺染後の布地の色味が悪くなる場合があることが判明した。
【0006】
本発明は、カチオンポリマーと糊剤を含み、前処理剤塗布後乾燥無しでインクジェット印刷が可能であることから、生産性向上、低コスト化、省エネルギー化及び省スペース化を実現できる前処理剤であって、得られる印捺物の色滲みを防止でき、風合い及び色味が良好なインクジェット捺染用前処理剤及びインクジェット捺染方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、特定のカチオンポリマーと特定の糊剤を組み合わせたインクジェット捺染用前処理剤を布帛に塗布することで、前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷を行うことができ、スクリーン捺染機に必要な粘度を得ると共に、滲み、風合い、色味の問題が解決できることを見出した。
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
【0009】
[1] N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー及び糊剤を含み、前記糊剤がセルロース誘導体を含む、インクジェット捺染用前処理剤。
[2] 前記セルロース誘導体がメチルセルロースである、[1]のインクジェット捺染用前処理剤。
[3] 前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーに対する前記糊剤の含有比率(質量比)が1.0以上15.0以下である、[1]又は[2]のインクジェット捺染用前処理剤。
[4]インクジェット捺染用前処理剤の全質量100質量%中の前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有率が0.1質量%以上5.0質量%以下である、[1]~[3]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤。
[5] インクジェット捺染用前処理剤の全質量100質量%中の前記セルロース誘導体の含有率が0.5質量%以上5.0質量%以下である、[1]~[4]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤。
[6] 前記セルロース誘導体を第1の糊剤として含み、さらに、第2の糊剤として無機化合物を含む、[1]~[5]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤。
[7] 前記無機化合物がモンモリロナイトである、[6]のインクジェット捺染用前処理剤。
[8] さらに消泡剤を含む、[1]~[7]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤。
[9] 前記N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーが、ポリアミジン及びポリビニルアミンからなる群から選ばれる1種以上を含む、[1]~[8]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤。
[10][1]~[9]のいずれかのインクジェット捺染用前処理剤で布帛を前処理し、前処理した布帛を乾燥せずに、前処理した布帛の前処理した領域にインクジェット印刷することを含む、インクジェット捺染方法。
[11]前記インクジェット印刷に用いるインクが分散染料である、[10]のインクジェット捺染方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のインクジェット捺染用前処理剤及びインクジェット捺染方法によれば、布帛のインクジェット捺染において、前処理剤の塗布後に前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷することができ、また、スクリーン捺染機での印刷に必要な粘度も確保した上で、色滲みを防止し、良好な風合い及び色味の印捺物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明のインクジェット捺染用前処理剤(以下、単に「前処理剤」ともいう。)について詳細を説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0012】
[前処理剤]
本発明の前処理剤は、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと特定の糊剤を含む。本発明の前処理剤は、消泡剤や、濃染剤、例えば、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと相溶性を有する濃染剤を更に含んでいてもよい。本発明の前処理剤は、水、有機溶剤等の任意成分を含んでもよい。
【0013】
<凝集剤>
本発明の前処理剤は、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーを含む。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーは、凝集剤としての作用、すなわち、染料を凝集させる作用を有する。
【0014】
本発明の前処理剤は、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー以外の凝集剤を含んでいてもよい。このとき凝集剤としては、染料を凝集させる作用を有するものであれば特に限定されないが、有機酸、多価金属塩、カチオン性低分子化合物、及び、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー以外のカチオンポリマー等が挙げられる。
【0015】
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、酒石酸、クエン酸及び乳酸等が挙げられる。
多価金属塩としては、2価以上の金属イオンとアニオンから構成される化合物を用いることができる。2価以上の金属イオンとしては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ストロンチウム、鉄等のイオンが挙げられる。アニオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン等が挙げられる。
カチオン性低分子化合物としては、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、ベンゾイルコリンクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリメチルアセトヒドラジドアンモニウムクロリド、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムクロリド、3-ヒドロキシ-4-(トリメチルアンモニオ)ブチラート塩酸塩、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、L-カルニチン塩酸塩等が挙げられる。
N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー以外のカチオンポリマーとしては、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアリルアミン又はその誘導体、アミン-エピハロヒドリン共重合体、又は他の第4級アンモニウム塩型カチオンポリマー等が挙げられる。
【0016】
(N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー)
本発明の前処理剤は、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーを含む。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーは、N-ビニルホルムアミドを用いた重合によって得られるカチオンポリマーであり、インクの布帛上への付着性を強める効果がある。インクの付着性を強める効果はカチオン性の高さに関係する。
【0017】
N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリアミジン、ポリビニルアミンを例示できる。前記ポリアミジンは、アクリロニトリルとN-ビニルホルムアミドとの共重合により得ることができる。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーとしては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーとしては、ポリアミジン及びポリビニルアミンからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0018】
N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーとしては、市販品を用いてもよい。ポリアミジンとしては、PVADL(三菱ケミカル社製)、SC-700、SC-700L(以上ハイモ社製)を例示できる。ポリビニルアミンとしては、PVAM0570B、PVAM0595B、KP8040(以上三菱ケミカル社製)を例示できる。
【0019】
<糊剤>
本発明の前処理剤は、糊剤を含む。糊剤を配合することで、前処理剤を適度な粘度に調整できる。
本発明において、糊剤として少なくともセルロース誘導体を含む。セルロース誘導体はノニオン性であり、ノニオン性の糊剤を含むことで、アニオン性の糊剤に比べて、N-ビニルホルムアミド系ポリマーとコンプレックスを引き起こしにくいため、印捺物の風合いを良好にすることができる。
なお、ノニオン性の化合物で糊剤として使用できるものとしてはタマリンドガムもあるが、タマリンドガムにはクエン酸やコハク酸などのカルボン酸成分が含まれており、これらがアニオン的な働きをするため、得られる印捺物の風合いは悪くなると考えられる。
【0020】
セルロース誘導体としては、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。これらのセルロース誘導体は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらのうち、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと混合した際に安定して適度な粘度が得られることから、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースが好ましく、メチルセルロースがより好ましい。
【0021】
本発明の前処理剤は、セルロース誘導体を第1の糊剤として含み、無機化合物を第2の糊剤として含むものであってもよい。セルロース誘導体に無機化合物を組み合わせて用いることで、布帛に未固着の染料や助剤を洗い落とす際の洗浄性を高めることができる。
第2の糊剤としての無機化合物としては、モンモリロナイト、シリカ等が挙げられる。これらは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
これらのうち、添加量を増やしてもN-ビニルホルムアミド系ポリマーとコンプレックスを引き起こしにくいことから、モンモリロナイトが好ましい。
【0022】
セルロース誘導体の市販品としては、例えば、メチルセルロース(松本油脂製薬社製)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学社製)が挙げられる。無機化合物の市販品としては、モンモリロナイト(クニピアF、クニミネ工業社製)、モンモリロナイト(スメクトン、クニミネ工業社製)が挙げられる。
【0023】
<消泡剤>
本発明の前処理剤は、消泡剤を含んでいてもよい。消泡剤が配合されていることにより、色滲みをより一層確実に防止すると共に、風合いを高めることができる。
消泡剤としては、通常の繊維処理に使用されるものがいずれも使用でき、例えば、アルコール系消泡剤、脂肪酸誘導体系消泡剤、シリコーン系消泡剤が挙げられる。その中でも、布帛に未固着の染料や助剤を洗い落とす際の洗浄性の観点から、アルコール系消泡剤及び脂肪酸誘導体系消泡剤からなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、アルコール系消泡剤を含むことがより好ましい。消泡剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
(アルコール系消泡剤)
アルコール系消泡剤としては、HLB値が15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
アルコール系消泡剤としては、高級アルコールを好ましく用いることができる。前記高級アルコールの炭素数としては、12以上が好ましく、一方、25以下が好ましく、22以下がより好ましい。例えば、12~25が好ましく、12~22がより好ましい。
また、アルコール系消泡剤としては、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれであってもよい。その中でも、第一級アルコール、第二級アルコールが好ましい。
さらに、アルコール系消泡剤としては、一価アルコール、多価アルコールのいずれも用いることができる。アルコール中のヒドロキシ基の数は、2以上が好ましく、一方、4以下が好ましく、3以下がより好ましい。例えば、2~4が好ましく、2~3がより好ましい。
アルコール系消泡剤としては、エーテル基を有するアルコールも好ましく用いることができる。前記エーテル基を有するアルコールとしては、例えば、ポリアルキレングリコール系化合物、高級アルコールにアルキレンオキサイドを付加重合したものが挙げられる。このとき、前記アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを用いることができる。その中でも、ポリアルキレングリコール系化合物が好ましく、さらにその中でも、ポリエチレングリコール系化合物がより好ましい。また、ポリエチレングリコール系化合物はアルキル基を有することがさらに好ましい。すなわち、アルキル-ポリエチレングリコール系化合物がさらに好ましい。
アルコール系消泡剤としては、前述のものの他にも、ジアミルフェノキシエタノール、3-ヘプタノール、2-エチルヘキサノール、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、イソプロピルアルコール、アルキル-ポリエチレングリコール系化合物が例示できる。
以上の中でも、高級アルコール、エーテル基を有するアルコールが好ましく、高級アルコール、ポリアルキレングリコール系化合物がより好ましく、高級アルコール、ポリエチレングリコール系化合物がさらに好ましく、高級アルコール、アルキル-ポリエチレングリコール系化合物が特に好ましい。
アルコール系消泡剤の市販品としては、例えば、アンチフロスF-102、F-103(いずれも第一工業製薬製)、消泡剤(古川化学工業社製)が挙げられる。
【0025】
(脂肪酸誘導体系消泡剤)
脂肪酸誘導体系消泡剤としては、HLB値が15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
脂肪酸誘導体系消泡剤としては、例えば、鉱油、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルを挙げることができる。その中でも、即効性に優れている鉱油が好ましい。また、前記鉱油としては、長鎖アルキル系のものが好ましい。
脂肪酸誘導体系消泡剤の脂肪酸誘導体の原料に用いられる脂肪酸の炭素数としては、16以上が好ましく、18以上がより好ましい。一方、24以下が好ましく、22以下がより好ましい。上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、16以上24以下が好ましく、18以上22以下がより好ましい。
脂肪酸誘導体系消泡剤の脂肪酸誘導体の原料に用いられる脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸、ベヘニン酸が挙げられる。その中でも、ステアリン酸が好ましい。
脂肪酸誘導体系消泡剤の市販品としては、例えば、S-39H、S-49H(第一工業製薬社製)、NK-2(大阪ケミカル社製)が挙げられる。
【0026】
(シリコーン系消泡剤)
シリコーン系消泡剤としては、特に限定されない。例えば、水系、非水系いずれも用いることができ、シリコーンオイルで構成されるオイル型、シリコーンオイルに分散剤を添加したオイルコンパウンド型、シリコーンオイルをエマルジョンにしたエマルジョン型でも、自己乳化型でもよい。その中でも、水への分散性を補う観点から、エマルジョン型が好ましい。前記エマルジョン型の中でも、O/W型がより好ましい。
シリコーン系消泡剤としては、具体的には、ポリジメチルシロキサン、ジメチルシリコーン、フロロシリコーンが例示できる。その中でも、ポリジメチルシロキサンが好ましい。
シリコーン系消泡剤の市販品としては、例えば、TSA730、TSA732、TSA770、TSA772、TSA7341、YMA6509、TSA780(いずれもGE東芝シリコーン社製)M-6500、M-700(いずれも一方社製)、アンチホームSS、アンチホームS-8(いずれも日成化成社製)、KM-70、KM-71、KM-73、KM-73A、KM-90、KM-89、KM-83A、KM-75、KS-502、KS-537、KM-98、KM-7750、X-50-1041(いずれも信越化学社製)が挙げられる。
【0027】
<濃染剤>
本発明の前処理剤は、濃染剤を含んでもよい。濃染剤が配合されていることで布帛へのインクの浸透性をさらに向上させることができる。
濃染剤としては、通常の繊維処理に使用される濃染剤のうち、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと相溶性を有するものが好ましい。「濃染剤がN-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと相溶性を有する」とは、1質量%N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー水溶液と1質量%濃染剤水溶液を250gずつ混合し、25℃で24時間放置後に80メッシュの篩にて濾過したときの篩残渣が10g未満であることを意味する。
【0028】
N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと相溶性を有する濃染剤としては、特に限定されず、例えば、アミド類、グリコールエーテル類、ポリエーテル類を例示できる。その中でも、アミド類が好ましく、さらにその中でも、N-アルキロールアミドがより好ましい。濃染剤としては、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0029】
濃染剤の市販品としては、例えば、サンフローレンSN(N-アルキロールアミド、日華化学社製)、ハイオール420(高級アルコールのグリコールエーテル系、林化学社製)、セロポールPA-19S(三洋化成社製)が挙げられる。
【0030】
<任意成分>
本発明の前処理剤には、任意成分として、例えば、水、有機溶剤、多価金属塩、有機酸、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、還元防止剤、防腐剤、界面活性剤を、効果を阻害しない範囲で添加してもよい。有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、プロピレングリコールを例示できる。
【0031】
<組成>
以下に本発明の前処理剤の組成について説明する。
以下の組成の説明において、「含有率」は、「その剤に含まれる有効成分の、前処理剤中の含有量の割合」を意味し、「配合率」は、「その剤そのもの、即ち有効成分だけではなく水などの溶媒を含む場合は当該溶媒も含んだものの、前処理剤中の配合量(添加量)の割合」を意味する。
【0032】
本発明の前処理剤中のN-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有率は、処理対象の布帛の種類、前処理剤の塗布量等に応じて異なるが、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有率が前記下限値以上であれば、布帛へのインクの付着性を向上させやすい。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有率の上限は、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましい。N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーの含有量が前記上限値以下であれば、布帛に未固着の染料、助剤を洗い落とす際の洗浄性が向上し、風合いも向上する。
上述の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.2質量%以上3.0質量%以下がより好ましい。
【0033】
本発明の前処理剤中のセルロース誘導体の含有率は、前処理剤の塗布方法に必要な粘度に応じて異なるが、前処理剤の粘度を上げやすい点から、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上がさらに好ましい。一方で、布帛に未固着の染料、助剤を洗い落とす際の洗浄性に優れる点から、セルロース誘導体の含有率は、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.7質量%以上4.5質量%以下がより好ましく、0.8質量%以上4.0質量%以下が更に好ましい。
【0034】
本発明の前処理剤が、糊剤としてセルロース誘導体とそれ以外の糊剤とを含有する場合、本発明の前処理剤中の全糊剤の含有率は、前処理剤の塗布方法に必要な粘度に応じて異なるが、前処理剤の粘度を上げやすい点から、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましい。一方で、布帛に未固着の染料、助剤を洗い落とす際の洗浄性に優れる点から、糊剤の含有率は、前処理剤の全質量100質量%に対する固形分量として、5.0質量%以下が好ましく、4.5質量%以下がより好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、1.0質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上4.5質量%以下がより好ましい。
【0035】
本発明の前処理剤が、糊剤としてセルロース誘導体とモンモリロナイト等の無機化合物を含有する場合、セルロース誘導体を含むことによる粘度の向上効果と、無機化合物を含むことによる布帛に未固着の染料や助剤を洗い落とす際の洗浄性の効果とをバランスよく得る観点から、セルロース誘導体と無機化合物の合計100質量%中のセルロース誘導体の含有率は20質量%以上90質量%以下が好ましく、30質量%以上80質量%以下がより好ましい。
【0036】
また、本発明の前処理剤中のN-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーに対する糊剤の含有比率(質量比)は、糊剤の配合効果を有効に得る観点から、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。一方、風合いの観点から、前記含有比率の上限は、15.0以下が好ましく、12.0以下がより好ましく、10.0以下がさらに好ましく、6.0以下が特に好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、1.0以上15.0以下が好ましく、1.2以上12.0以下がより好ましく、2.0以上10.0以下がさらに好ましく、2.0以上6.0以下が特に好ましい。
【0037】
本発明の前処理剤に消泡剤が含まれる場合、前処理剤中の消泡剤の配合率は、風合い、洗浄性の観点から、前処理剤の全質量100質量%に対して、0.02質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましい。一方、滲み防止の観点から、消泡剤の配合率は、前処理剤の全質量100質量%に対して、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、0.02質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上4.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以上4.0質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
本発明の前処理剤に濃染剤が含まれる場合、前処理剤中の濃染剤の配合率は、布帛へのインクの浸透性に優れる点から、前処理剤の全質量100質量%に対して、1.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上がさらに好ましい。一方、インクが滲みにくくなる点から、濃染剤の配合率は、前処理剤の全質量100質量%に対して、20.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましく、8.0質量%以下が特に好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、1.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、4.0質量%以上8.0質量%以下が特に好ましい。
【0039】
本発明の前処理剤に濃染剤が含まれる場合、布帛へのインクの浸透性に優れる点から、前処理剤中の濃染剤の配合量は、N-ビニルホルムアミド系ポリマーの合計質量100質量部に対して、400質量部以上が好ましく、450質量部以上がより好ましい。インクが滲みにくくなる点から、濃染剤の配合量の上限は、N-ビニルホルムアミド系ポリマーの合計質量に対して、2000質量部以下が好ましく、1500質量部以下がより好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。例えば、400質量部以上2000質量部以下が好ましく、450質量部以上1500質量部以下がより好ましい。
【0040】
また、本発明の前処理剤中の濃染剤の配合量は、糊剤の合計質量100質量部に対して、染料が発色工程で浸透する観点から、200質量部以上が好ましく、300質量部以上がより好ましい。一方、滲みの観点から、濃染剤の配合量の上限は、糊剤の合計質量100質量部に対して、2500質量以下が好ましく、2000質量部以下がより好ましい。
【0041】
[前処理剤の製造方法]
本発明のインクジェット捺染用前処理剤の製造方法には特に制限はないが、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと糊剤を配合して攪拌する方法が挙げられる。攪拌にあたっては、公知の撹拌機を用いることができる。
【0042】
[インクジェット捺染方法]
本発明のインクジェット捺染方法は、本発明のインクジェット捺染用前処理剤で布帛を前処理する工程と、前処理した布帛を乾燥せずに、前記布帛の前記前処理を行った領域にインクジェット印刷する工程と、を含む。
【0043】
<前処理剤塗布工程>
前処理する布帛の材質は、インクジェット捺染に通常用いられる布帛であれば特に限定されず、例えばポリエステルが挙げられる。
布帛の前処理は、例えば、布帛に本発明の前処理剤を塗布して行うことができる。本発明の前処理剤を塗布する方法としては、例えば、前処理剤中に布帛を浸漬させる方法、前処理剤をロールコーターで塗布する方法、前処理剤をスキージで塗布する方法、前処理剤をスプレー装置で噴射する方法を例示できる。前処理剤をスキージで塗布する方法は、インクジェットインクを塗布しようとする箇所のみに塗布することができ、かつ簡便な装置で運用できるためより好ましい。
【0044】
<インクジェット印刷工程>
本発明のインクジェット捺染方法では、本発明の前処理剤で前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷する。ただし、「前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷する」とは、布帛上の前処理剤が液体状態である間に、前処理剤を塗布した領域にインクジェット印刷を行うことを意味する。
インクジェット印刷に用いるインクとしては、分散染料を例示できる。本発明の前処理剤はポリエステルの布帛に分散染料でインクジェット捺染を行う場合に特に好適に用いられる。
【0045】
本発明のインクジェット捺染方法は、本発明のインクジェット捺染用前処理剤を用い、前処理した布帛を乾燥せずにインクジェット印刷する以外は、公知の方法を採用できる。例えば、インクジェット印刷後には、乾熱処理(オーブン)や蒸熱処理(スチーミング)によってインクを布帛内部へと浸透させ、洗浄処理によって布帛に未固着の染料、助剤を洗い落とす。洗浄処理としては、公知の洗浄方法を採用できるが、還元洗浄が好ましく、アルカリ還元処理がより好ましい。
【0046】
以上説明したように、本発明では、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマーと、少なくともセルロース誘導体を含む糊剤とを含む本発明の前処理剤を用いる。本発明の前処理剤を用いることで、スクリーン捺染機での印刷に必要な粘度を得ると共に、前処理剤の塗布後に乾燥せずにインクジェット印刷しても、色滲みを防止し、風合い、色味に優れた印捺物を得ることができる。そして、前処理剤の塗布後に乾燥を行わないことで、生産性が向上し、低コスト化、省エネルギー化及び省スペース化を実現できる。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0048】
[材料]
実施例及び比較例で用いた材料を以下に示す。
<N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー>
PVADL:ポリアミジン(商品名「PVADL」、三菱ケミカル社製、ポリマー濃度26%水溶液)
<糊剤>
メチルセルロース(製品名「マーポローズM4000」、松本油脂製薬社製)
ヒドロキシエチルセルロース(製品名:「SANHEC
M」、三晶社製)
ポリビニルアルコール(製品名「デンカポバール K-17E」、デンカ社製)
変性グアーガム(製品名「メイプロガムNP」、三晶社製)
澱粉(製品名「SolvitoseC5」、Avebe社製)
タマリンドガム
モンモリロナイト1(製品名「クニピアF」、クニミネ工業社製)
モンモリロナイト2(製品名「スメクトン」、クニミネ工業社製)
<消泡剤>
アルコール系(商品名「消泡剤」、古川化学工業社製、含有成分:高級アルコール)
【0049】
[実施例1~9及び比較例1~6]
<前処理剤の調製>
表1に示した組成に従って前処理剤を調製した。具体的には、各成分を容器に入れ、撹拌機を用いて2時間撹拌を行った後、一昼夜静置熟成した。
表1中の各成分の含有率又は配合率を表す数値の単位は質量%であり、N-ビニルホルムアミド系カチオンポリマー及び糊剤は前処理剤の全質量100質量%に対する有効成分(固形分)の含有率で表記した。消泡剤の配合率は前処理剤の全質量100質量%に対する配合率である。また、後述の前処理工程においてスクリーン捺染機による塗布を行うことができるようにするため、前処理剤の液体粘度が2000mPa・s以上になるように糊剤の含有量を調整した。水は、前処理剤の総量が100質量%となるように調整して添加した。なお、表1において数値の記載がない欄は、その成分を含有していないことを意味する。
【0050】
<前処理>
スクリーン捺染機(辻井染機工業(株)SP300ARD)を用い、120メッシュのスクリーンの下に、地張り剤を用いて塩化ビニル板に貼り付けた布帛を設置し、スクリーンの上の布帛のない箇所に前処理剤を溜め、金属製ロールを電磁石で動かして布帛に前処理剤を斑なく塗布した。前処理剤の塗布量は、前処理剤組成の粘度、電磁力、布帛の坪量にも影響するが1.0~1.5g/cm2であった。
【0051】
<インクジェット印刷>
実施例1~9及び比較例1~6の布帛について、前処理剤の塗布から5秒以内、すなわち塗布した前処理剤が乾燥しないうちに布帛をインクジェット装置(クラスターテクノロジー(株)製インクジェットラボ)へ移し、前処理剤が塗布された領域にインクを塗布した。
インクとしては東伸工業社製のブラック分散インクを使用した。布帛としてはポリエステルデシン(密度タテ221本/インチ、密度ヨコ108本/インチ、目付91g/m2)(色染社製)を用いた。
印刷画像パターンとしては、格子状のパターンを用いた。前記パターンにおいて、格子の大きさは2mm四方であり、線の太さは0.2mmであった。
【0052】
<蒸熱処理>
インクを塗布した布帛に対し、辻井染機工業(株)HT-3-550型HTスチーマを用いて、170℃で10分間蒸熱処理を行った。
【0053】
<洗浄処理>
蒸熱処理後の布帛を1秒間に2回ほどこすり合わせて10分間水洗を行った。80℃の温水に界面活性剤(アミラジンD)を2g/L、ハイドロサルファイトナトリウムを2g/L、NaOH(粒)を2g/Lとなるように投入して溶解した後、水洗した布帛を投入して10分間還元洗浄を行い、布帛に付着している前処理剤と余剰インクを洗い流した。還元洗浄後、再び水洗し、布帛に付着している還元洗浄薬剤を洗い落とした。
【0054】
[参考例1]
参考例1は、カチオンポリマーを含まない前処理剤を調製し、前処理剤の塗布後にドライヤーで10分間乾燥してからインクジェット印刷を行った。参考例1の前処理剤の組成を下記に示す。
<糊剤> アルギン酸ソーダ粉末(田中直染料店製):4.2質量%
<濃染剤> N-アルキロールアミド(商品名「サンフローレンSN」、日華化学社製):4.5質量%
<消泡剤> アルコール系(商品名「消泡剤」、古川化学工業社製、含有成分:高級アルコール):2.5質量%
<防腐剤> 商品名「ネオガード」(古川化学工業社製):0.5質量%
グリセリン(富士フイルム和光純薬社製):0.5質量%
水:残部
また、インクとしては東伸工業社製のブラック分散インクを使用した。
印刷後の蒸熱処理及び洗浄処理は実施例1~9及び比較例1~6と同様に行った。
【0055】
[評価試験]
各例の前処理後にインクジェット捺染した評価用布帛について以下の評価を実施した。それぞれの結果を表1に示す。
【0056】
<滲み>
インクの滲みにくさについては以下のようにして評価した。
インクジェット印刷後かつ蒸熱処理前に1回と、洗浄処理後に1回の合計2回にわたって滲みを確認した。1回目、2回目ともに、布帛から30cm離れた位置から前記印刷画像パターンを目視したときの格子の交差部分の見え方で滲みにくさを評価した。評価基準を下記に示す。
○:1回目も2回目も、格子の交差部分の見え方が参考例1と同等に鮮明に見えた場合
×:1回目は格子の交差部分の見え方が参考例1と同等に鮮明に見えたが、2回目は参考例1と比べると劣り、交差部分が確認できなかった場合
××:1回目も2回目も、格子の交差部分の見え方が参考例1と比べると劣り、交差部分が確認できず実用上問題がある場合
【0057】
<風合い>
布帛を手で折り曲げた時の折り曲がり方を10回確認し、以下の基準で風合いを評価した。
○:折り目ができたのが3回以内だった場合
△:折り目ができたのが4~7回だった場合
×:折り目ができたのが8回以上だった場合
【0058】
<色味(黄変の有無)>
洗浄処理後に、前処理剤を塗布しているがインクを塗布していない箇所を観察し、黄色味を帯びたかどうかを確認した。2回の実験を行い、下記の基準で色味を評価した。
○:2回実験を行っても、2回とも黄変は見られない
△:2回実験を行うと、いずれかの回で黄変が見られる
×:2回実験を行うと、2回とも黄変が見られる
【0059】
【0060】
表1に示すように、実施例1~9では、前処理後に未乾燥のままインクジェット印刷しても、前処理後に乾燥してからインクジェット印刷した参考例1と同等の滲みにくさが得られ、風合いと色味も良好であった。一方、糊剤がセルロース誘導体を含まない比較例1~6では、乾燥なしでインクジェット印刷すると滲み、風合い、色味のいずれかが悪くなった。
また、上述の通り、本実施例及び比較例では前処理剤の液体粘度が2000mPa・s以上になるように糊剤の含有量を調整したが、各比較例で使用した糊剤について実施例1と同じ含有量(2.0質量%)とした場合、前処理剤の液体粘度が2000mPa・sよりも大きく下がり、スクリーン捺染機での前処理自体が行えなくなると考えられる。
本発明によれば、染料インクを用いた布帛のインクジェット捺染において、前処理剤を塗布後に乾燥せずにインク塗布して、滲み、風合い、色味を損ねることなく、生産性向上、低コスト化、省エネルギー及び省スペース化を実現できる。