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特開2024-49078細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法
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  • 特開-細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法 図1
  • 特開-細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049078
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/246 20170101AFI20240402BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240402BHJP
【FI】
G06T7/246
G06T7/00 630
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155331
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】明石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】福田 智一
(72)【発明者】
【氏名】深澤 瑞基
(72)【発明者】
【氏名】ウ― タオ
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA04
5L096DA02
5L096EA02
5L096EA37
5L096EA43
5L096FA02
5L096FA18
5L096FA60
5L096FA69
5L096HA03
5L096HA05
5L096JA11
(57)【要約】
【課題】細胞質に存在する受容体が細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度を時系列に検出する細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法を提供すること。
【解決手段】撮像したフレームに対して、細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップS2、特定される細胞核領域についての重心位置と外接矩形を用いて、第1フレームと第2フレームに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡する細胞核追跡ステップS3、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、第1フレームと第2フレームにおける細胞核領域についてグレースケール変換処理を行うことで細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップS4を行い、シグナル強度の時間変化から細胞質に存在する受容体の核移行を検出する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞条件下で、蛍光によって標識させた細胞核を時系列に撮像した複数のフレームを用い、細胞質に存在する受容体が前記細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する細胞質に存在する受容体の核移行検出方法であって、
コンピュータが、
撮像した前記フレームに対して、それぞれの前記細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップと、
前記細胞核検出ステップで特定される前記細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと前記第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する前記細胞核の位置関係を比較することで前記細胞核を追跡する細胞核追跡ステップと、
前記細胞核追跡ステップで追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、前記第1フレームにおける前記細胞核領域と、前記第2フレームにおける前記細胞核領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの前記細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップと
を行い、
前記シグナル強度取得ステップで取得する前記シグナル強度の前記時間変化から前記細胞質に存在する前記受容体の核移行を検出する
ことを特徴とする細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項2】
前記細胞核追跡ステップでは、
それぞれの前記細胞核に対して、特定された前記細胞核領域から前記重心位置を算出する重心位置算出ステップと、
それぞれの前記細胞核に対して、特定された前記細胞核領域から前記外接矩形を算出する外接矩形算出ステップと、
前記第1フレームに存在する前記細胞核に対して、前記外接矩形算出ステップで算出される前記外接矩形を特定する第1フレーム外接矩形特定ステップと、
前記第2フレームに存在する前記細胞核に対して、前記重心位置算出ステップで算出される前記重心位置を特定する第2フレーム重心位置特定ステップと、
前記第1フレーム外接矩形特定ステップで特定される前記外接矩形の内側に、前記第2フレーム重心位置特定ステップで特定される前記重心位置が存在する前記細胞核を、第1フレーム追跡対象細胞核とする第1探索ステップと、
前記第2フレームに存在する前記細胞核に対して、前記外接矩形算出ステップで算出される前記外接矩形を特定する第2フレーム外接矩形特定ステップと、
前記第1フレームに存在する前記細胞核に対して、前記重心位置算出ステップで算出される前記重心位置を特定する第1フレーム重心位置特定ステップと、
前記第2フレーム外接矩形特定ステップで特定される前記外接矩形の前記内側に、前記第1フレーム重心位置特定ステップで特定される前記重心位置が存在する前記細胞核を、第2フレーム追跡対象細胞核とする第2探索ステップと、
前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在し、前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在すると、前記第2フレーム追跡対象細胞核に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号を割り当てる軌跡対応ステップと
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項3】
前記細胞核に対する前記蛍光とは異なる蛍光によって前記細胞質が標識されており、
前記シグナル強度取得ステップでは、
前記外接矩形から対応する前記細胞質を特定し、
特定された前記細胞質について、前記細胞核領域をマスク画像として、前記マスク画像の外周を細胞質領域として特定し、
前記細胞核追跡ステップで同一の前記ユニーク番号が付与されている、前記第1フレームにおける前記細胞質領域と、前記第2フレームにおける前記細胞質領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの前記細胞質領域の前記平均画素値を比較することで前記シグナル強度の前記時間変化を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項4】
前記細胞核検出ステップでは、
前記フレームに対してグレースケール変換処理を行い、
前記グレースケール変換処理の後に2値化処理を行い、
前記2値化処理の後に、オープニング処理とクロージング処理とを行うことで、
それぞれの前記細胞核の前記細胞核領域を特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項5】
前記軌跡対応ステップでは、
前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在しない場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わない
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項6】
前記軌跡対応ステップでは、
前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の内側に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在しない場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わない
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項7】
前記軌跡対応ステップでは、
前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置と、前記第1フレーム追跡対象細胞核以外の前記細胞核の前記重心位置とが存在する場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わない
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法。
【請求項8】
生細胞条件下で、異なるスペクトルの蛍光によって標識された細胞核及び細胞質を時系列に撮像した複数のフレームを用い、前記細胞核及び前記細胞質のシグナル強度を時系列に検出する細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法であって、
コンピュータが、
撮像した前記フレームに対して、それぞれの前記細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップと、
前記細胞核検出ステップで特定される前記細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと前記第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する前記細胞核の位置関係を比較することで前記細胞核を追跡する細胞核追跡ステップと、
前記細胞核追跡ステップで追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、前記第1フレームにおける前記細胞核領域及び前記細胞質領域と、前記第2フレームにおける前記細胞核領域及び前記細胞質領域とについて、それぞれの前記細胞核領域及び前記細胞質領域の平均画素値を比較することで前記シグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップとを行う
ことを特徴とする細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞質に存在する受容体が細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度を時系列に検出する細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞における増殖因子、ホルモンなどのシグナルは細胞に受容体が存在し、その抗原(リガンド)を受け取った抗原-受容体複合体が核内へ移動することでシグナルが活性化する。このように細胞質内に存在する受容体が核内へ移動することでシグナルの量が調節される分子として、男性ホルモン受容体、女性ホルモン受容体、核内転写因子など様々な経路が判明している。この細胞質から核内へ移動する現象は核移行と呼ばれている。現在まで核移行は研究者の画像の主観的な判断で行われており、定量的かつ連続的に検出するための方法の開発が必要であった。我々は核内と細胞質の両方に存在する蛍光標識された分子の量を画像から測定することで、核移行を定量的に画像から判定できると考えた。本技術により、核移行という生命現象を生きた細胞状態で連続的なデータの取得を可能にする。
特許文献1は、細胞核が染色された組織切片の明視野画像と、特定の生体物質が蛍光染色試薬で染色された組織切片の蛍光画像とを入力し、細胞核画像から細胞核を抽出し、蛍光画像から蛍光輝点を抽出し、細胞核と蛍光輝点との距離に基づき、蛍光輝点が帰属すべき細胞核を特定して蛍光輝点を当該細胞核に帰属させる装置を提案しており、細胞核と蛍光輝点との現実の距離に基づき、蛍光輝点が帰属すべき細胞核を特定するため、蛍光輝点を真の細胞に正確に帰属させることができる。
特許文献2は、細胞核を構成する1種類又は複数種類の構造体と細胞核内の核酸とをそれぞれ標識し、標識された細胞の核酸の標識画像を取得し、標識された細胞の構造体の標識画像を、標識された構造体の種類ごとに別個に取得し、取得された核酸の標識画像に基づいて細胞核領域を決定し、取得された構造体の標識画像中の、決定された細胞核領域中の各画素の輝度値を測定し、1画素当たりの輝度値が閾値以上である1つ又は複数の領域を決定し、当該領域中の各画素の輝度値の統計値、総面積、総周囲長からなる群より選択される1つ以上を測定し、測定された統計値に基づき、構造体の細胞内における存在量、局在、及び形態からなる群より選択される少なくとも1種を解析する、細胞核を構成する構造体の解析方法を提案している。
特許文献3は、生細胞の顕微鏡画像を取得中に、細胞を特定し、特定した細胞の種類を認識可能な細胞画像解析システムを提案している。
特許文献4は、タイムラプス画像のフレーム毎に候補領域が細胞領域であるか否かを、細胞核の画像データを含む辞書を用いて判別する検出ステップと、各々の細胞を、予測位置から一定の距離内にある最近傍の細胞の位置を観測データとする状態空間モデルを用いて追跡する追跡ステップとを含む細胞の挙動解析方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2015/145644号
【特許文献2】特開2011-75278号公報
【特許文献3】特開2012-163538号公報
【特許文献4】国際公開2019/244917号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2は、生細胞条件下での細胞核の変化を追跡するものではない。
特許文献3は、生細胞の顕微鏡画像を取得する際に、細胞を特定し、特定した細胞の種類を認識するが、特許文献1及び特許文献2と同様に、生細胞条件下での細胞核の変化を追跡するものではない。
特許文献4は、複数の細胞の位置を検出するが、細胞質に存在する受容体が細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出するものではなく、細胞核及び細胞質のシグナル強度を時系列に検出するものではない。
【0005】
本発明は、細胞質に存在する受容体が細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び細胞核及び細胞質のシグナル強度を時系列に検出する細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法は、生細胞条件下で、蛍光によって標識させた細胞核を時系列に撮像した複数のフレームを用い、細胞質に存在する受容体が前記細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する細胞質に存在する受容体の核移行検出方法であって、コンピュータが、撮像した前記フレームに対して、それぞれの前記細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップS2と、前記細胞核検出ステップS2で特定される前記細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと前記第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する前記細胞核の位置関係を比較することで前記細胞核を追跡する細胞核追跡ステップS3と、前記細胞核追跡ステップS3で追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、前記第1フレームにおける前記細胞核領域と、前記第2フレームにおける前記細胞核領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの前記細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップS4とを行い、前記シグナル強度取得ステップS4で取得する前記シグナル強度の前記時間変化から前記細胞質に存在する前記受容体の核移行を検出することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記細胞核追跡ステップS3では、それぞれの前記細胞核に対して、特定された前記細胞核領域から前記重心位置を算出する重心位置算出ステップと、それぞれの前記細胞核に対して、特定された前記細胞核領域から前記外接矩形を算出する外接矩形算出ステップと、前記第1フレームに存在する前記細胞核に対して、前記外接矩形算出ステップで算出される前記外接矩形を特定する第1フレーム外接矩形特定ステップと、前記第2フレームに存在する前記細胞核に対して、前記重心位置算出ステップで算出される前記重心位置を特定する第2フレーム重心位置特定ステップと、前記第1フレーム外接矩形特定ステップで特定される前記外接矩形の内側に、前記第2フレーム重心位置特定ステップで特定される前記重心位置が存在する前記細胞核を、第1フレーム追跡対象細胞核とする第1探索ステップと、前記第2フレームに存在する前記細胞核に対して、前記外接矩形算出ステップで算出される前記外接矩形を特定する第2フレーム外接矩形特定ステップと、前記第1フレームに存在する前記細胞核に対して、前記重心位置算出ステップで算出される前記重心位置を特定する第1フレーム重心位置特定ステップと、前記第2フレーム外接矩形特定ステップで特定される前記外接矩形の前記内側に、前記第1フレーム重心位置特定ステップで特定される前記重心位置が存在する前記細胞核を、第2フレーム追跡対象細胞核とする第2探索ステップと、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在し、前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在すると、前記第2フレーム追跡対象細胞核に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号を割り当てる軌跡対応ステップとを有することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記細胞核に対する前記蛍光とは異なる蛍光によって前記細胞質が標識されており、前記シグナル強度取得ステップS4では、前記外接矩形から対応する前記細胞質を特定し、特定された前記細胞質について、前記細胞核領域をマスク画像として、前記マスク画像の外周を細胞質領域として特定し、前記細胞核追跡ステップS3で同一の前記ユニーク番号が付与されている、前記第1フレームにおける前記細胞質領域と、前記第2フレームにおける前記細胞質領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの前記細胞質領域の前記平均画素値を比較することで前記シグナル強度の前記時間変化を取得することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記細胞核検出ステップS2では、前記フレームに対してグレースケール変換処理を行い、前記グレースケール変換処理の後に2値化処理を行い、前記2値化処理の後に、オープニング処理とクロージング処理とを行うことで、それぞれの前記細胞核の前記細胞核領域を特定することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記軌跡対応ステップでは、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在しない場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わないことを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記軌跡対応ステップでは、前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の内側に前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置が存在しない場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わないことを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項2に記載の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、前記軌跡対応ステップでは、前記第2フレーム追跡対象細胞核の前記外接矩形の前記内側に、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記重心位置と、前記第1フレーム追跡対象細胞核以外の前記細胞核の前記重心位置とが存在する場合には、前記第1フレーム追跡対象細胞核の前記ユニーク番号の割り当てを行わないことを特徴とする。
請求項8記載の本発明の細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法において、生細胞条件下で、異なるスペクトルの蛍光によって標識された細胞核及び細胞質を時系列に撮像した複数のフレームを用い、前記細胞核及び前記細胞質のシグナル強度を時系列に検出する細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法であって、コンピュータが、撮像した前記フレームに対して、それぞれの前記細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップS2と、前記細胞核検出ステップS2で特定される前記細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと前記第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する前記細胞核の位置関係を比較することで前記細胞核を追跡する細胞核追跡ステップS3と、前記細胞核追跡ステップS3で追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、前記第1フレームにおける前記細胞核領域及び前記細胞質領域と、前記第2フレームにおける前記細胞核領域及び前記細胞質領域とについて、それぞれの前記細胞核領域及び前記細胞質領域の平均画素値を比較することで前記シグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップS4とを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の細胞質に存在する受容体の核移行検出方法によれば、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得することで、細胞質に存在する受容体の核移行を検出するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
また、本発明の細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法によれば、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域及び細胞質領域についてそれぞれの平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び本実施例による細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法を示すフローチャート
図2図1に示す細胞核検出ステップ(S2)を示す写真
図3図1に示す細胞核追跡ステップ(S3)を示す説明図
図4図1に示すシグナル強度取得ステップ(S4)を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法は、コンピュータが、撮像したフレームに対して、それぞれの細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップと、細胞核検出ステップで特定される細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡する細胞核追跡ステップと、細胞核追跡ステップで追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、第1フレームにおける細胞核領域と、第2フレームにおける細胞核領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップとを行い、シグナル強度取得ステップで取得するシグナル強度の時間変化から細胞質に存在する受容体の核移行を検出するものである。本実施の形態によれば、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得することで、細胞質に存在する受容体の核移行を検出するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、細胞核追跡ステップでは、それぞれの細胞核に対して、特定された細胞核領域から重心位置を算出する重心位置算出ステップと、それぞれの細胞核に対して、特定された細胞核領域から外接矩形を算出する外接矩形算出ステップと、第1フレームに存在する細胞核に対して、外接矩形算出ステップで算出される外接矩形を特定する第1フレーム外接矩形特定ステップと、第2フレームに存在する細胞核に対して、重心位置算出ステップで算出される重心位置を特定する第2フレーム重心位置特定ステップと、第1フレーム外接矩形特定ステップで特定される外接矩形の内側に、第2フレーム重心位置特定ステップで特定される重心位置が存在する細胞核を、第1フレーム追跡対象細胞核とする第1探索ステップと、第2フレームに存在する細胞核に対して、外接矩形算出ステップで算出される外接矩形を特定する第2フレーム外接矩形特定ステップと、第1フレームに存在する細胞核に対して、重心位置算出ステップで算出される重心位置を特定する第1フレーム重心位置特定ステップと、第2フレーム外接矩形特定ステップで特定される外接矩形の内側に、第1フレーム重心位置特定ステップで特定される重心位置が存在する細胞核を、第2フレーム追跡対象細胞核とする第2探索ステップと、第1フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第2フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在し、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在すると、第2フレーム追跡対象細胞核に第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号を割り当てる軌跡対応ステップとを有するものである。本実施の形態によれば、特定された細胞核領域からそれぞれの細胞核についての重心位置と外接矩形とを算出し、これらの重心位置と外接矩形とを用いて前後のフレーム間でのそれぞれの細胞核の位置関係を比較して追跡することで、正確な追跡を行うことができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、細胞核に対する蛍光とは異なる蛍光によって細胞質が標識されており、シグナル強度取得ステップでは、外接矩形から対応する細胞質を特定し、特定された細胞質について、細胞核領域をマスク画像として、マスク画像の外周を細胞質領域として特定し、細胞核追跡ステップで同一のユニーク番号が付与されている、第1フレームにおける細胞質領域と、第2フレームにおける細胞質領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの細胞質領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するものである。本実施の形態によれば、細胞核領域だけではなく細胞質領域についても平均画素値を比較することでシグナル強度の時間変化を取得するため、更に正確なデータを取得することができる。更に、細胞質は細胞核に対して変形量が大きく外郭を特定し難いが、細胞質については、細胞核領域をマスク画像として、マスク画像の外周を細胞質領域として特定することで、正確な細胞質領域の平均画素値を得ることができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、細胞核検出ステップでは、フレームに対してグレースケール変換処理を行い、グレースケール変換処理の後に2値化処理を行い、2値化処理の後に、オープニング処理とクロージング処理とを行うことで、それぞれの細胞核の細胞核領域を特定するものである。本実施の形態によれば、細胞核領域を正確に特定することができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第2の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、軌跡対応ステップでは、第1フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第2フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在しない場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わないものである。本実施の形態によれば、確実に追跡できる細胞核だけを対象とすることで、正確なデータを取得することができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第2の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、軌跡対応ステップでは、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在しない場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わないものである。本実施の形態によれば、確実に追跡できる細胞核だけを対象とすることで、正確なデータを取得することができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第2の実施の形態による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法において、軌跡対応ステップでは、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に、第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置と、第1フレーム追跡対象細胞核以外の細胞核の重心位置とが存在する場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わないものである。本実施の形態によれば、例えば細胞分裂のように、細胞核が複数に分離する現象については追跡対象から除外することで、正確なデータを取得することができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態による細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法は、コンピュータが、撮像したフレームに対して、それぞれの細胞核の細胞核領域を特定する細胞核検出ステップと、細胞核検出ステップで特定される細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡する細胞核追跡ステップと、細胞核追跡ステップで追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、第1フレームにおける細胞核領域及び細胞質領域と、第2フレームにおける細胞核領域及び細胞質領域とについて、それぞれの細胞核領域及び細胞質領域の平均画素値を比較することでシグナル強度の時間変化を取得するシグナル強度取得ステップとを行うものである。本実施の形態によれば、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域及び細胞質領域についてそれぞれの平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
【実施例0017】
以下本発明の一実施例について図面とともに説明する。
図1は本実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法、及び本実施例による細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法を示すフローチャートである。
本実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法は、生細胞条件下で、蛍光によって標識させた細胞核を時系列に撮像した複数のフレームを用い、細胞質に存在する受容体が細胞核内に移動することで活性化するシグナル強度を検出する。
また実施例による細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法は、生細胞条件下で、異なるスペクトルの蛍光によって標識された細胞核及び細胞質を時系列に撮像した複数のフレームを用い、細胞核及び細胞質のシグナル強度を時系列に検出する。
本実施例の方法では、あらかじめ、生細胞条件下で、異なるスペクトルの蛍光によって標識された細胞核及び細胞質を時系列に撮像した複数のフレームを用いて、以下の処理を行う。
細胞核を赤色に蛍光させ、細胞質を緑色に蛍光させた場合について以下に説明する。
【0018】
本実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法では、コンピュータは、赤色蛍光動画像から対象フレームを取り出し(S1)、取り出した対象フレームについて細胞核を検出し(S2)、検出した細胞核を追跡し(S3)、追跡した細胞核のシグナル強度を取得し(S4)、細胞核のシグナル強度の時間変化から細胞質に存在する受容体の核移行を検出する。赤色蛍光動画像は、細胞核を時系列に撮像した複数の静止画像であってもよい。
細胞核検出ステップ(S2)では、取り出した対象フレームに対して、それぞれの細胞核の細胞核領域を特定する。
細胞核追跡ステップ(S3)では、細胞核検出ステップ(S2)で特定される細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて、第1フレームと第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡する。
【0019】
なお、時系列的に最初のフレームを基準フレームとすると、基準フレームについて特定される細胞核領域にはユニーク番号を割り当てる。
基準フレームを第1フレームとすると、第1フレームと第1フレームより後に撮像された第2フレームとに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡し、追跡対象とされた第2フレームに存在する細胞核には、第1フレーム(基準フレーム)で割り当てられたユニーク番号が付与される。
第2フレームと第2フレームより後に撮像された第3フレームとの間では、第2フレームと第3フレームとに存在する細胞核の位置関係を比較することで細胞核を追跡し、追跡対象とされた第3フレームに存在する細胞核には、第2フレームで付与されたユニーク番号が付与される。
【0020】
シグナル強度取得ステップ(S4)では、第1フレームにおける細胞核領域と、第2フレームにおける細胞核領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得する。
このように、本実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法によれば、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得することで、細胞質に存在する受容体の核移行を検出するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
【0021】
細胞核検出ステップ(S2)では、フレームに対してグレースケール変換処理を行い、グレースケール変換処理の後に2値化処理を行い、2値化処理の後に、オープニング処理とクロージング処理とを行うことで、それぞれの細胞核の細胞核領域を特定する。従って、細胞核領域を正確に特定することができる。
【0022】
細胞核追跡ステップ(S3)は、更に詳細には、重心位置算出ステップと、外接矩形算出ステップと、第1フレーム外接矩形特定ステップと、第2フレーム重心位置特定ステップと、第1探索ステップと、第2フレーム外接矩形特定ステップと、第1フレーム重心位置特定ステップと、第2探索ステップと、軌跡対応ステップとを有する。
重心位置算出ステップでは、それぞれの細胞核に対して、特定された細胞核領域から重心位置を算出する。
外接矩形算出ステップでは、それぞれの細胞核に対して、特定された細胞核領域から外接矩形を算出する。
第1フレーム外接矩形特定ステップでは、第1フレームに存在する細胞核に対して、外接矩形算出ステップで算出される外接矩形を特定する。
第2フレーム重心位置特定ステップでは、第2フレームに存在する細胞核に対して、重心位置算出ステップで算出される重心位置を特定する。
第1探索ステップでは、第1フレーム外接矩形特定ステップで特定される外接矩形の内側に、第2フレーム重心位置特定ステップで特定される重心位置が存在する細胞核を、第1フレーム追跡対象細胞核とする。
第2フレーム外接矩形特定ステップでは、第2フレームに存在する細胞核に対して、外接矩形算出ステップで算出される外接矩形を特定する。
第1フレーム重心位置特定ステップでは、第1フレームに存在する細胞核に対して、重心位置算出ステップで算出される重心位置を特定する。
第2探索ステップでは、第2フレーム外接矩形特定ステップで特定される外接矩形の内側に、第1フレーム重心位置特定ステップで特定される重心位置が存在する細胞核を、第2フレーム追跡対象細胞核とする。
軌跡対応ステップでは、第1フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第2フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在し、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在すると、第2フレーム追跡対象細胞核に第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号を割り当てる。
【0023】
このように、特定された細胞核領域からそれぞれの細胞核についての重心位置と外接矩形とを算出し、これらの重心位置と外接矩形とを用いて前後のフレーム間でのそれぞれの細胞核の位置関係を比較して追跡することで、正確な追跡を行うことができる。
なお、軌跡対応ステップでは、第1フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第2フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在しない場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わない。このように、確実に追跡できる細胞核だけを対象とすることで、正確なデータを取得することができる。
また、軌跡対応ステップでは、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置が存在しない場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わない。このように、確実に追跡できる細胞核だけを対象とすることで、正確なデータを取得することができる。
また、軌跡対応ステップでは、第2フレーム追跡対象細胞核の外接矩形の内側に、第1フレーム追跡対象細胞核の重心位置と、第1フレーム追跡対象細胞核以外の細胞核の重心位置とが存在する場合には、第1フレーム追跡対象細胞核のユニーク番号の割り当てを行わない。従って、例えば細胞分裂のように、細胞核が複数に分離する現象については追跡対象から除外することで、正確なデータを取得することができる。
【0024】
本実施例による細胞質に存在する受容体の核移行検出方法では、細胞核のシグナル強度とともに細胞質領域のシグナル強度を取得することが好ましい。
細胞質領域のシグナル強度を取得するには、コンピュータは、S1において、取り出す対象フレームとして、赤色蛍光動画像に対応する緑色蛍光動画像を取り出し、シグナル強度取得ステップ(S4)では、細胞核の外接矩形から対応する細胞質を特定し、特定された細胞質について、細胞核領域をマスク画像として、マスク画像の外周を細胞質領域として特定し、細胞核追跡ステップ(S3)で同一のユニーク番号が付与されている、第1フレームにおける細胞質領域と、第2フレームにおける細胞質領域とについてグレースケール変換処理を行うことでそれぞれの細胞質領域の平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得する。
このように、細胞核領域だけではなく細胞質領域についても平均画素値を比較することでシグナル強度の時間変化を取得するため、更に正確なデータを取得することができる。更に、細胞質は細胞核に対して変形量が大きく外郭を特定し難いが、細胞質については、細胞核領域をマスク画像として、マスク画像の外周を細胞質領域として特定することで、正確な細胞質領域の平均画素値を得ることができる。
【0025】
本実施例による細胞核及び細胞質のシグナル強度検出方法では、赤色蛍光動画像及び緑色蛍光動画像から対象フレームを取り出し(S1)、取り出した対象フレームについて細胞核を検出し(S2)、検出した細胞核を追跡し(S3)、追跡した細胞核のシグナル強度を取得する(S4)。
シグナル強度取得ステップ(S4)では、細胞核追跡ステップ(S3)で追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与される、第1フレームにおける細胞核領域及び細胞質領域と、第2フレームにおける細胞核領域及び細胞質領域とについて、それぞれの細胞核領域及び細胞質領域の平均画素値を比較することでシグナル強度の時間変化を取得する。
このように、細胞核領域を特定し、細胞核領域についての重心位置と外接矩形とを用いて細胞核を追跡し、追跡対象とされて同一のユニーク番号が付与されるそれぞれの細胞核領域及び細胞質領域についてそれぞれの平均画素値を比較してシグナル強度の時間変化を取得するため、核移行という生命現象について、生きた細胞状態で定量的に連続的なデータを取得することができる。
シグナル強度取得ステップ(S4)の後に、新たなフレームを対象フレームとして取り出し、(S1)、取り出した対象フレームについて細胞核を検出し(S2)、検出した細胞核を追跡し(S3)、追跡した細胞核のシグナル強度を取得する(S4)。
例えば、第2フレームに存在する細胞核に、第1フレームで割り当てられたユニーク番号が付与された後には、新たなフレームとして第2フレームより後に撮像された第3フレームが取り出される。
第3フレームに存在する細胞核にユニーク番号が付与された後には、新たなフレームとして第3フレームより後に撮像された第4フレームが取り出される。
【0026】
図2図1に示す細胞核検出ステップ(S2)を示す写真である。図2(a)はS1で取り出した赤色蛍光動画像からの対象フレーム(元フレーム)を示し、図2(b)は元フレームに対してグレースケール変換処理を行った後を示し、図2(c)は、グレースケール変換処理の後に2値化処理とノイズ処理(オープニング処理とクロージング処理)とを行った後を示し、図2(d)は特定される細胞核領域にユニーク番号を割り当てた状態を示している。
細胞核検出ステップでは、図2(a)に示すように、予め取得しておいた赤色に蛍光させた細胞核の動画像の1つのフレームに対して処理を適用していく。
まず取得しておいたフレームに対し、グレースケール変換処理を適用する(図2(b))。そして、2値化処理を施し、2値化処理したフレームに対し、オープニング処理及びクロージング処理を適用することでノイズを除去する(図2(c))。最後にラベリング処理によってそれぞれの細胞核領域にユニーク番号を割り当てる(図2(d))。このように、重心位置や外接矩形などの情報を得ることで細胞核を検出する。
2値化処理に用いる閾値は、そのフレームに最適な値を動的に決定する。閾値をグレースケール画像が取り得る最大の画素値から最小の画素値まで変化させながら各値において2値化を適用していく。2値化した結果について、前の閾値の結果と比較してノイズが初めて急増した閾値と、細胞核領域が最も多く検出された閾値の平均を求め、それを最適な閾値として利用する。この際ノイズとして計上する領域は、オープニング処理及びクロージング処理によって除去されるものである.また、細胞核領域として計上する領域は、オープニング処理及びクロージング処理の後に残った領域である.
【0027】
図3図1に示す細胞核追跡ステップ(S3)を示す説明図である。図3(a)は前フレーム(第1フレーム)における細胞核の外接矩形を示し、図3(b)は現フレーム(第2フレーム)における細胞核の重心位置を示し、図3(c)は図3(a)の外接矩形と図3(b)の重心位置との比較を示している。また、図3(d)は前フレーム(第1フレーム)における細胞核の重心位置を示し、図3(e)は現フレーム(第2フレーム)における細胞核の外接矩形を示し、図3(f)は図3(d)の重心位置と図3(e)の外接矩形との比較を示している。
細胞核追跡ステップでは、細胞核の検出の際に得られた各細胞核領域の情報をもとに、フレーム毎に細胞核の動きを追跡していく。
現フレーム中のある細胞核領域について、図3(a)から図3(c)のように、重心位置を内側に含む外接矩形を持つ前フレーム中の追跡中の細胞核領域を探索する。
次に、現フレーム中の同じ細胞核領域について、図3(d)から図3(f)のように、外接矩形の内側に存在する重心を持つ前フレーム中の追跡中の細胞核領域を探索する。
以上の探索で得られた前フレームの細胞核領域がただひとつ存在した場合、その細胞核領域と現フレーム中の対象の細胞核領域を軌跡として対応付ける。探索結果が複数あった場合やひとつも存在しなかった場合には対応付けを行わない。以上の処理を現フレームの全細胞に対して行う.
このような細胞核の検出と追跡処理は、遺伝的アルゴリズムによって精度を向上させることが可能である.
【0028】
図4図1に示すシグナル強度取得ステップ(S4)を示す写真である。図4(a)は緑色に蛍光させた細胞の動画像の1フレームを示し、図4(b)は対象となる細胞核についての細胞核領域を示し、図4(c)は図4(b)の細胞核についての細胞質を示している。図4(d)はマスク画像を示し、左写真は細胞質領域、右写真は細胞核領域である。図4(e)はマスク画像の外周を細胞質領域として特定した状態を示し、左写真は細胞質領域、右写真は細胞核領域である。
シグナル強度取得ステップ(S4)では、予め取得しておいた緑色に蛍光させた細胞の動画像の1フレームに対し、細胞核の検出で得られた情報を用いてデータを取得していく。
まず、ある細胞について外接矩形をもとに緑色蛍光フレームから対応する細胞の領域を取得する。次に検出の際に得られた細胞核領域の情報からマスク画像を作成する。
また、このマスク画像を膨張処理や領域拡張処理などの手法で広げたものから元のマスク画像の領域を除いて、細胞質領域のマスク画像を用意する。これらマスク画像を用い、取得しておいた細胞の領域から細胞核領域と細胞質領域を取り出し、それぞれシグナル強度を求める。シグナル強度はそれぞれの領域をグレースケール変換したものの画素値の平均とする。
【0029】
以上のように、本発明は、各細胞のトレースを行いライブイメージングしてリアルタイムに定量化することができ、細胞内の受容体とその抗体との反応を画像的に可視化し、細胞内の核移行を定量的に検出できる。
細胞の核内受容体は、リガンド依存性転写調節で重要な役割を果たしており、アンドロゲン受容体(AR)は、前立腺がん及びアンドロゲン性脱毛症(AGA)を含む様々な疾患に関連する核内受容体であることが知られている。本発明によれば、生画像化と、不安定な不死化真皮乳頭細胞(DPC:dermal papilla cell)を用いてリガンド刺激後のARの核転位動態を定量的に検出することができる。
細胞の核内と細胞質の両方に存在する蛍光標識された分子の量を画像から測定することで、核移行の状態を定量的に画像から判定できることから、核移行という生命現象を生きた細胞状態で連続的かつ定量的なデータの取得を可能にする。
本発明は、蛍光タンパク質で蛍光させた細胞の動画像2種(蛍光染色細胞の動画、それを二値化処理した動画)を用意することで、コンピュータを用いて定量的な観察結果の出力まで自動で行える。
【0030】
本発明における細胞核の検出では、2値化手法を用いて細胞核の輪郭を抽出しているが、各フレームにおいて適切な2値化閾値を探索することで検出精度を向上させている。
また本発明における細胞核の追跡では、タイムラプス撮影画像から、細胞核の検出で得られた各細胞核領域の重心や外接矩形といった情報をもとに、前後フレームで各細胞核の位置関係を比較し追跡している。
また本発明におけるシグナル強度の取得では、細胞核の検出で得られた細胞核領域の情報をもとに、細胞核内外のライブイメージングにより色情報を取得しシグナル強度を得ており、得られたシグナル強度のデータと細胞核の追跡結果を組み合わせることにより、シグナル強度の時間変化を得ることができる。
また、本発明における細胞核検出では、2値化した結果について前の閾値の結果と比較してノイズが初めて急増した閾値と、細胞核領域が最も多く検出された閾値の平均を求め、それを最適な閾値として利用する。この際ノイズとして計上する領域はオープニング処理及びクロージング処理によって除去される。
また、本発明における細胞核の追跡では、細胞核の検出の際に得られた各細胞核領域の情報をもとにフレーム毎に細胞核の動きを追跡していく。この細胞核の検出、追跡処理は遺伝的アルゴリズムによって精度を向上させることが可能である。
また、本発明におけるシグナル強度の取得では、予め取得しておいた緑色に蛍光させた細胞の動画像の1つのフレームに対し細胞核の検出で得られた情報を用いてデータを取得していく。最初に、任意の細胞についての外接矩形をもとに緑色蛍光フレームから対応する細胞の領域を取得し、次に検出の際に得られた細胞核領域からマスク画像を作成し、このマスク画像を膨張処理や領域拡張処理などの手法で広げたものから元のマスク画像の領域を除き、細胞質領域のマスク画像を用意する。そして、これらマスク画像を用いて、取得しておいた細胞の領域から細胞核領域と細胞質領域を取り出し、それぞれシグナル強度を求める。これらのシグナル強度はそれぞれの領域をグレースケール変換したものの画素値の平均とする。以上の操作によってそれぞれの細胞核毎にシグナル強度を求めることで、蛍光標識された発現分子の量を定量的に画像処理結果から求められる。
本発明は、蛍光タンパク質で蛍光させた細胞の動画像2種を用意することで、コンピュータを用いて処理できるため、他の細胞観察技術と比べてコストを抑えることができる.また、本発明では動画像2種類を入力することで、定量的な観察結果の出力まで自動で行え、利用者による操作が不要であり、利用者の負担を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、大量の低分子化合物ライブラリーを用いて、特定の分子の核移行を阻害する化合物の開発が可能になる。また、核移行のスピードを算出し、核移行が遅延もしくは阻害されていることを定量的に検出することが可能になる。
【符号の説明】
【0032】
S1 対象フレーム取り出しステップ
S2 細胞核検出ステップ
S3 細胞核追跡ステップ
S4 シグナル強度取得ステップ
図1
図2
図3
図4