(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049079
(43)【公開日】2024-04-09
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20240402BHJP
H10N 50/00 20230101ALI20240402BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155332
(22)【出願日】2022-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】利根川 翔
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AA10
2G017AD55
2G017AD63
2G017AD65
5F092AA01
5F092AB01
5F092AC01
5F092BD04
5F092BD19
5F092BE06
5F092FA08
(57)【要約】
【課題】磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させる。
【解決手段】磁気センサは、軟磁性体を含み、長手方向と短手方向とを有し、長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子と、軟磁性体を含み、感受素子における長手方向の端部から長手方向に突出する突出部と、突出部に対向して設けられ、軟磁性体からなり、突出部に対して磁力線を誘導する誘導部材とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体を含み、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子と、
軟磁性体を含み、前記感受素子における前記長手方向の端部から当該長手方向に突出する突出部と、
前記突出部に対向して設けられ、軟磁性体からなり、当該突出部に対して磁力線を誘導する誘導部材と
を備える磁気センサ。
【請求項2】
前記誘導部材は、前記突出部に重なって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記誘導部材が前記突出部に重なっている領域の前記長手方向の長さは、当該突出部の当該長手方向の長さの10%以上100%以下であることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記誘導部材は、前記長手方向の端部が、前記突出部よりも当該長手方向にはみ出していることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記短手方向に並ぶ複数の前記感受素子と、
それぞれの前記感受素子における前記長手方向の端部から当該長手方向に突出する複数の前記突出部とを備え、
前記誘導部材は、複数の前記突出部に対向して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記誘導部材は、前記感受素子に含まれる軟磁性体よりも透磁率が高い軟磁性体を含むことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一軸異方性を付与された複数個の軟磁性体膜からなる感磁部と、軟磁性体膜からなり磁束を感磁部に誘導するヨーク部とを備えた磁気インピーダンス効果素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気インピーダンス効果によって磁界を感受する感受素子を用いた磁気センサには、磁界の変化に対する感度が高いことが求められる。
本発明は、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記(1)~(6)に係る発明が提供される。
(1)軟磁性体を含み、長手方向と短手方向とを有し、当該長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子(感受素子31)と、
軟磁性体を含み、前記感受素子における前記長手方向の端部から当該長手方向に突出する突出部(突出部40)と、
前記突出部に対向して設けられ、軟磁性体からなり、当該突出部に対して磁力線を誘導する誘導部材(第1誘導部材51、第2誘導部材52)と
を備える磁気センサ。
(2)前記誘導部材は、前記突出部に重なって設けられていることを特徴とする(1)に記載の磁気センサ。
(3)前記誘導部材が前記突出部に重なっている領域の前記長手方向の長さは、当該突出部の当該長手方向の長さの10%以上100%以下であることを特徴とする(2)に記載の磁気センサ。
(4)前記誘導部材は、前記長手方向の端部が、前記突出部よりも当該長手方向にはみ出していることを特徴とする(2)または(3)のいずれかに記載の磁気センサ。
(5)前記短手方向に並ぶ複数の前記感受素子と、
それぞれの前記感受素子における前記長手方向の端部から当該長手方向に突出する複数の前記突出部とを備え、
前記誘導部材は、複数の前記突出部に対向して設けられていることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の磁気センサ。
(6)前記誘導部材は、前記感受素子に含まれる軟磁性体よりも透磁率が高い軟磁性体を含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の磁気センサ。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、磁気インピーダンス効果を用いた磁気センサの感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態が適用される磁気センサの一例を説明する図である。
【
図2】本実施形態が適用される磁気センサの一例を説明する図である。
【
図3】(a)~(b)は、本実施形態が適用されるセンサ部の一例を説明する図である。
【
図4】誘導部の変形例を説明する図であって、磁気センサを上方から見た図である。
【
図5】磁気センサにおける感受素子の長手方向に印加された磁界と感受部のインピーダンスとの関係を示す図である。
【
図6】本実施形態が適用される磁気センサおよび従来の磁気センサにおけるインピーダンスと磁界との関係の一例を示した図である。
【
図7】磁気センサの誘導部の構成と異方性磁界との関係を示した図である。
【
図8】磁気センサの誘導部の構成と感度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(磁気センサ1の構成)
図1、
図2は、本実施形態が適用される磁気センサ1の一例を説明する図である。
図1は、磁気センサ1の平面図であり、
図2は、
図1におけるII-II線での断面図である。
【0009】
図1、
図2に示すように、本実施形態が適用される磁気センサ1は、非磁性の基板10と、基板10上に設けられ、磁界を感受する感受部30および感受部30から突出する突出部40とを含むセンサ部20と、センサ部20の突出部40に対向して設けられ磁力線を誘導する誘導部50とを備えている。
【0010】
磁気センサ1は、一例として、長手方向と短手方向とを有する長方形の平面形状を有している。磁気センサ1の平面形状は、数mm角である。例えば、磁気センサ1の長手方向(
図1における左右方向)の長さが5mm~20mm、短手方向(
図1における上下方向)の長さが3mm~5mm程度とすることができる。なお、磁気センサ1の平面形状の大きさは、他の値であってもよい。また、磁気センサ1の平面形状は、長方形以外の形状であってもよい。
【0011】
基板10は、非磁性体からなる基板であって、例えば、ガラス、サファイア等の酸化物基板、シリコン等の半導体基板、あるいは、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板等が挙げられる。なお、基板10の導電性が高い場合には、感受部30が設けられる側の基板10の表面に、基板10と感受部30とを電気的に絶縁する絶縁体層を設けるとよい。このような絶縁体層を構成する絶縁体としては、SiO2、Al2O3、TiO2等の酸化物、又は、Si3N4、AlN等の窒化物等が挙げられる。ここでは、基板10は、ガラスであるとして説明する。このような基板10の厚さは、例えば、0.3mm~2mmである。なお、厚さは他の値であってもよい。
【0012】
(センサ部20の構成)
続いて、磁気センサ1におけるセンサ部20について説明する。
図3(a)~(b)は、本実施形態が適用されるセンサ部20の一例を説明する図である。
図3(a)は、センサ部20の平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の拡大図である。
センサ部20は、磁界を感受する感受部30と、感受部30の後述する感受素子31における長手方向の端部から長手方向に突出する突出部40とを備えている。
【0013】
感受部30は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する長方形状の複数の感受素子31を備えている。
図3における左右方向が、感受素子31の長手方向であり、紙面の上下方向が感受素子31の短手方向である。複数の感受素子31は、長手方向が並列するように、短手方向に間隙を介して配置されている。そして、感受部30は、隣接する感受素子31をつづら折りに直列接続する接続部32と、電流供給のための電線が接続される端子部33とを備えている。
なお、
図3(a)に示す感受部30は、24本の感受素子31を有している。感受部30における感受素子31の数は、1本であってもよく、24以外の複数本であってもよい。
【0014】
感受素子31には、長手方向に交差する方向、例えば長手方向に直交する短手方向(すなわち、感受素子31の幅方向)に、一軸磁気異方性が付与されている。付言すると、感受素子31は、感受素子31を構成する軟磁性体(後述する軟磁性体層101)に、一軸磁気異方性が付与されている。なお、長手方向に交差する方向とは、長手方向に対して45°を超えた角度を有すればよい。
本実施形態の磁気センサ1(
図1参照)では、感受素子31が、磁界又は磁界の変化を感受して磁気インピーダンス効果を生じる。つまり、磁気センサ1では、感受素子31が直列接続された感受部30のインピーダンス変化により磁界又は磁界の変化が計測される。以下では、感受部30のインピーダンスを、磁気センサ1のインピーダンスと表記することがある。
【0015】
接続部32は、隣接する感受素子31の端部間に設けられ、隣接する感受素子31をつづら折りに直列接続する。
端子部33は、接続部32で接続されていない感受素子31の2個の端部にそれぞれ設けられている。端子部33は、電流を供給する電線を接続するパッド部として機能する。端子部33は、電線を接続しうる大きさであればよい。なお、端子部33は、
図1の紙面において、感受部30における右側に設けているが、左側に設けてもよく、左右に分けて設けてもよい。
【0016】
ここで、感受素子31の長手方向の長さを長さL1とする。そして、感受素子31の短手方向の幅をW1とする。また、隣接する感受素子31の間の間隔を間隔G1とする。感受素子31の長さL1は、例えば、1mm~10mm、幅W1は、例えば10μm~150μm、間隔G1は、例えば、10μm~150μmである。なお、それぞれの感受素子31の大きさ(長さL1、幅W1、厚さ等)、感受素子31の数、感受素子31間の間隔G1等は、感受、つまり計測したい磁界の大きさなどによって設定されればよい。
【0017】
また、複数の感受素子31を合わせた短手方向の幅を幅W2とする。付言すると、幅W2は、複数の感受素子31のうち短手方向の一端(
図3(a)における上側)に位置する感受素子31の端部から、短手方向の他端(
図3(a)における下側)に位置する感受素子31の端部までの短手方向に沿った長さである。複数の感受素子31を合わせた短手方向の幅W2は、それぞれの感受素子31の幅W1および感受素子31の間の間隔G1によって異なるが、例えば、0.5mm~10mm程度である。
【0018】
突出部40は、感受部30における感受素子31の長手方向の両端にそれぞれ設けられている。なお、以下では、センサ部20(感受部30、突出部40)における長手方向の一方の端部(
図3(a)における左側の端部)を、長手方向の一端と表記する。同様に、センサ部20(感受部30、突出部40)における長手方向の他方の端部(
図3(a)における右側の端部)を、長手方向の他端と表記する。
【0019】
突出部40は、それぞれの感受素子31の長手方向の一端から、感受素子31とは反対側に向けて長手方向に突出した複数の第1突出部41を備えている。本実施形態の突出部40では、第1突出部41の長手方向の他端が、感受素子31の長手方向の一端と連続している。
また、突出部40は、それぞれの感受素子31の長手方向の他端から、感受素子31とは反対側に向けて長手方向に突出した複数の第2突出部42とを備えている。本実施形態の突出部40では、第2突出部42の長手方向の一端が、感受素子31の長手方向の他端と連続している。
付言すると、本実施形態の突出部40では、複数の第1突出部41および複数の第2突出部42が、感受部30から櫛歯状に突出している。
【0020】
第1突出部41と第2突出部42とは、磁気センサ1における長手方向の中央において短手方向に延びる中心軸に対して対称な形状を有している。第1突出部41の長手方向の長さ、および第2突出部42の長手方向の長さを、長さL2とする。それぞれの第1突出部41は、短手方向の幅が、感受素子31の幅と等しい幅W1であり、長手方向の長さが長さL2である長方形状である。また、それぞれの第2突出部42は、短手方向の幅が、感受素子31の幅と等しい幅W1であり、長手方向の長さが長さL2である長方形状である。
さらに、突出部40全体でみると、複数の第1突出部41を合わせた短手方向の幅、および複数の第2突出部42を合わせた短手方向の幅は、感受部30の複数の感受素子31を合わせた短手方向の幅W2と等しくなっている。
【0021】
第1突出部41は、センサ部20に対して外部から磁力線が入力される側に設けられている。第1突出部41は、感受素子31に対し、外部から磁力線を誘導する。
また、第2突出部42は、センサ部20から磁力線が出力される側に設けられている。第2突出部42は、感受素子31を通過した磁力線が外部に向けてそのまま通過する。
つまり、突出部40は、磁力線を誘導するヨークとして機能する。このため、突出部40は、磁力線が透過しやすい軟磁性体(後述する軟磁性体層101)を含んでいる。
【0022】
ここで、突出部40の第1突出部41および第2突出部42は、長手方向に突出している。「長手方向に突出」とは、第1突出部41および第2突出部42が感受素子31に対して突出する方向が、長手方向の成分を含むことを意味する。したがって、第1突出部41および第2突出部42は、短手方向とは異なる方向に突出していれば、長手方向に傾斜して延びていてもよい。なお、感受素子31に対し磁力線を誘導し、または、感受素子31を通過した磁力線を外部へ誘導しやすくする観点からは、
図1、
図3等に示すように、第1突出部41および第2突出部42は、長手方向に沿って延びていることが好ましい。
【0023】
本実施形態の磁気センサ1は、感受素子31における長手方向の端部から長手方向に突出する突出部40を備えることで、磁気センサ1に予め定められた大きさの外部磁界を印加した場合に、それぞれの感受素子31にかかる磁界の大きさが長手方向に亘って均一になる。これにより、突出部40を備えない場合と比べて、感受部30のインピーダンス変化により磁界又は磁界の変化を計測する磁気センサ1の感度が向上する。
【0024】
続いて、
図2により、センサ部20の断面構造について説明する。
センサ部20は、一例として、基板10側から4層の軟磁性体層101a、101b、101c、101dを備えている。また、センサ部20は、軟磁性体層101aと軟磁性体層101bとの間に、軟磁性体層101aと軟磁性体層101bとに還流磁区の発生を抑制する磁区抑制層102aを備えている。さらに、センサ部20は、軟磁性体層101cと軟磁性体層101dとの間に、軟磁性体層101cと軟磁性体層101dとに還流磁区の発生を抑制する磁区抑制層102bを備えている。さらにまた、センサ部20は、軟磁性体層101bと軟磁性体層101cとの間に、感受部30の抵抗(ここでは、電気抵抗をいう)を低減させる導電体層103を備えている。軟磁性体層101a、101b、101c、101dをそれぞれ区別しない場合には、軟磁性体層101と表記する。磁区抑制層102a、102bをそれぞれ区別しない場合には、磁区抑制層102と表記する。
【0025】
軟磁性体層101は、磁気インピーダンス効果を示すアモルファス合金の軟磁性体で構成される。軟磁性体層101を構成する軟磁性体としては、Coを主成分とした合金に高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金を用いるのがよい。このようなCoを主成分とした合金としては、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr、CoFeCrMnSiB等が挙げられる。それぞれの軟磁性体層101の厚さは、例えば、100nm~1μmである。それぞれの軟磁性体層101の厚さは、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。
ここで、軟磁性体とは、外部磁界によって容易に磁化されるが、外部磁界を取り除くと速やかに磁化がないかまたは磁化が小さい状態に戻る、いわゆる保磁力の小さい材料である。
また、本明細書において、アモルファス合金、アモルファス金属とは、結晶のような原子の規則的な配列を有していない構造を有し、スパッタリング法などで形成されるものをいう。
【0026】
磁区抑制層102は、磁区抑制層102を挟む上下の軟磁性体層101に還流磁区の発生を抑制する。
一般に、軟磁性体層101には、それぞれの磁化の向きが異なる複数の磁区が形成されやすい。この場合、磁化の向きが環状を呈する還流磁区が形成される。外部磁界が大きくなると、磁壁が移動し、磁化の向きが外部磁界の向きと同じ磁区の面積が大きくなり、磁化の向きが外部磁界の向きと逆の磁区の面積が小さくなる。そして、さらに外部磁界が大きくなると、磁化の向きが外部磁界の向きと異なる磁区において、磁化の向きが外部磁界の向きと同じ向きを向くように磁化回転が生じる。そして、ついには隣接する磁区同士の間に存在していた磁壁が消滅し、1つの磁区(単磁区)となる。つまり、還流磁区が形成されていると、外部磁界の変化に伴って、還流磁区を構成する磁壁が階段状に不連続に移動するバルクハウゼン効果が生じる。この磁壁の不連続な移動は、磁気センサ1におけるノイズとなり、磁気センサ1から得られる出力におけるS/Nの低下を生じるおそれがある。磁区抑制層102は、磁区抑制層102の上下に設けられた軟磁性体層101に面積の小さな複数の磁区が形成されるのを抑制する。これにより、還流磁区が形成されることが抑制され、磁壁が不連続に移動することによるノイズの発生を抑制する。なお、磁区抑制層102は、磁区抑制層102を含まない場合に比べて、形成される磁区の数が少なく、つまり磁区の大きさが大きくなる効果が得られればよい。
【0027】
このような磁区抑制層102としては、Ru、SiO2等の非磁性体や、CrTi、AlTi、CrB、CrTa、CoW等の非磁性アモルファス金属が挙げられる。このような磁区抑制層102の厚さは、例えば10nm~100nmである。
【0028】
導電体層103は、感受部30の抵抗を低減する。より詳しくは、導電体層103は、軟磁性体層101より導電性が高く、導電体層103を含まない場合に比べて、感受部30の抵抗を小さくする。磁気センサ1は、磁界又は磁界の変化を、2つの端子部33の間に交流電流を流した際におけるインピーダンス(以下では、インピーダンスZと表記する)の変化(ΔZと表記する)として計測する。この際、交流電流の周波数が高いほど、外部磁界の変化(ここでは、ΔHと表記する)に対するインピーダンスZの変化率ΔZ/ΔH(以下ではインピーダンス変化率ΔZ/ΔHと表記する)が大きくなる。しかし、導電体層103を含まない状態で交流電流の周波数を高くすると、磁気センサ1とした状態における浮遊容量により、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが小さくなってしまう。感受部30の抵抗をR、浮遊容量をCとし、磁気センサ1を抵抗Rと浮遊容量Cとの並列回路とすると、磁気センサ1の緩和周波数f0は、式(1)で表せる。
【0029】
【0030】
式(1)から分かるように、浮遊容量Cが大きいと、緩和周波数f0が小さくなり、緩和周波数f0より交流電流の周波数を高くすると、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが低下する。そこで、導電体層103を設けて、感受部30の抵抗Rを低減させることで、緩和周波数f0を高くしている。
【0031】
このような導電体層103としては、導電性が高い金属または合金を用いることが好ましく、導電性が高く且つ非磁性の金属または合金を用いることがより好ましい。このような導電体層103としては、Al、Cu、Ag、Au等の金属が挙げられる。導電体層103の厚さは、例えば、10nm~1μmである。導電体層103は、導電体層103を含まない場合に比べて、感受部30の抵抗が低減されるものであればよい。
【0032】
磁区抑制層102を挟む上下の軟磁性体層101、及び導電体層103を挟む上下の軟磁性体層101は、互いに反強磁性結合(AFC:Antiferromagnetically Coupled)している。上下の軟磁性体層101が反強磁性結合することで、反磁界が抑制され、磁気センサ1の感度が向上する。
【0033】
なお、本実施形態では、センサ部20が、軟磁性体層101、磁区抑制層102、導電体層103を備えているが、センサ部20の構成はこれに限られない。センサ部20は、少なくとも軟磁性体層101を有していれば、必ずしも磁区抑制層102または導電体層103を有していなくてもよい。
【0034】
(誘導部50の構成)
続いて、磁気センサ1の誘導部50について説明する。
上述したように、誘導部50は、センサ部20の突出部40に対向して設けられている。本実施形態では、誘導部50は、センサ部20の突出部40上に重なって設けられており、突出部40の上面に対向している。具体的には、誘導部50は、突出部40の第1突出部41上に重なって設けられている第1誘導部材51と、突出部40の第2突出部42上に重なって設けられている第2誘導部材52とを備えている。なお、誘導部50の第1誘導部材51および第2誘導部材52は、センサ部20の感受部30には重なっていない。
詳細については後述するが、第1誘導部材51は、外部から磁力線を誘導し第1突出部41に磁力線を集束する。また、第2誘導部材52は、感受素子31および第2突出部42を通過した磁力線を誘導し外部に発散する。本実施形態では、誘導部50の第1誘導部材51または第2誘導部材52が、誘導部材の一例である。
【0035】
第1誘導部材51と第2誘導部材52とは、同じ形状を有している。この例では、第1誘導部材51および第2誘導部材52は、磁気センサ1を上方(
図2の上側)から見た場合に、長手方向および短手方向に延びる辺を有する長方形の板状の形状を有している。また、第1誘導部材51と第2誘導部材52とは、磁気センサ1を上方から見た場合に、磁気センサ1における長手方向の中央において短手方向に延びる中心軸に対して対称に配置されている。
以下では、第1誘導部材51および第2誘導部材52の長手方向の長さを、長さL3とする。また、第1誘導部材51および第2誘導部材52の短手方向の幅を、幅W3とする。さらに、第1誘導部材51および第2誘導部材52の厚さ(上下方向の厚さ)を、厚さD1とする。
【0036】
第1誘導部材51は、磁気センサ1を上方から見た場合に、突出部40の複数の第1突出部41に重なっている。また、第1誘導部材51は、感受部30上、および感受部30のそれぞれの感受素子31と突出部40のそれぞれの第1突出部41との境界の上には設けられていない。
本実施形態では、第1誘導部材51は、第1突出部41に対し、長手方向における一端側の一部の領域に重なっている。そして、第1誘導部材51は、第1突出部41のうち、長手方向における他端側の領域には設けられていない。付言すると、第1突出部41のうち、長手方向における他端側の領域は、第1誘導部材51に被覆されずに露出している。
【0037】
第1誘導部材51のうち、第1突出部41に重なっている部分の長手方向の長さを、長さX1とする。この例では、第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さX1は、第1突出部41の長さL2の約2/3の長さとなっている。第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さX1は、第1突出部41の長さL2の10%以上100以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることがより好ましく、30%以上70%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
また、第1誘導部材51は、長手方向の長さL3が、第1突出部41の長手方向の長さL2よりも長い(L3>L2)。そして、第1誘導部材51は、長手方向の一端が、第1突出部41における長手方向の一端よりも外側にはみ出している。付言すると、第1誘導部材51のうち長手方向の一端は、第1突出部41には重なっていない。
第1誘導部材51のうち第1突出部41の外側にはみ出している部分の長手方向の長さを、長さX2とする。本実施形態では、第1誘導部材51のうち第1突出部41の外側にはみ出している長さX2が、第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さX1よりも長くなっている(X2>X1)。これにより、第1誘導部材51のうち第1突出部41の外側にはみ出している長さX2が、第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さX1より短い場合と比べて、第1誘導部材51により、外部からの磁力線を第1突出部41に集束しやすくなる。
【0039】
また、本実施形態の第1誘導部材51は、短手方向の幅W3が、複数の第1突出部41を合わせた短手方向の幅(すなわち、複数の感受素子31を合わせた短手方向の幅W2)よりも大きい。これにより、第1誘導部材51は、短手方向に並ぶ全ての第1突出部41上に跨って設けられている。
【0040】
第2誘導部材52は、第1誘導部材51と同様に、磁気センサ1を上方から見た場合に、突出部40の第2突出部42に重なっている。また、第2誘導部材52は、感受部30上、および感受部30のそれぞれの感受素子31と突出部40のそれぞれの第2突出部42との境界の上には設けられていない。
本実施形態では、第2誘導部材52は、第2突出部42に対し、長手方向における他端側の一部の領域に重なっている。そして、第2誘導部材52は、第2突出部42のうち、長手方向における一端側の領域には設けられていない。付言すると、第2突出部42のうち、長手方向における一端側の領域は、第2誘導部材52に被覆されずに露出している。
【0041】
第2誘導部材52のうち、第2突出部42に重なっている部分の長手方向の長さは、第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さと等しい長さX1である。この例では、第2誘導部材52と第2突出部42とが重なっている長さX1は、第2突出部42の長さL2の約2/3の長さとなっている。第2誘導部材52と第2突出部42とが重なっている長さX1は、第1誘導部材51と同様に、第2突出部42の長さL2の10%以上100%以下であることが好ましく、20%以上80%以下であることがより好ましく、30%以上70%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
また、第2誘導部材52は、第1誘導部材51と同様に、長手方向の長さL3が、第2突出部42の長手方向の長さL2よりも長い(L3>L2)。そして、第2誘導部材52は、長手方向の他端が、第2突出部42における長手方向の他端よりも外側にはみ出している。付言すると、第2誘導部材52のうち長手方向の他端は、第2突出部42には重なっていない。
第2誘導部材52のうち第2突出部42の外側にはみ出している部分の長さは、第1誘導部材51のうち第1突出部41の外側にはみ出している部分の長さと同じ長さX2である。そして、第2誘導部材52のうち第2突出部42の外側にはみ出している長さX2は、第2誘導部材52と第2突出部42とが重なっている長さX1よりも長くなっている(X2>X1)。これにより、第2誘導部材52のうち第2突出部42の外側にはみ出している長さX2が、第2誘導部材52と第2突出部42とが重なっている長さX1より短い場合と比べて、第2誘導部材52により、第2突出部42を通過した磁力線を外部へ発散しやすくなる。
なお、以下の説明において、第1誘導部材51と第1突出部41とが重なっている長さX1、および第2誘導部材52と第2突出部42とが重なっている長さX1を、まとめて、「誘導部50が突出部40と重なっている長さX1」等と表記する場合がある。
【0043】
また、本実施形態の第2誘導部材52は、第1誘導部材51と同様に、短手方向の幅W3が、複数の第2突出部42を合わせた短手方向の幅(すなわち、複数の感受素子31を合わせた短手方向の幅W2)よりも大きい(W3>W2)。これにより、第2誘導部材52は、短手方向に並ぶ全ての第2突出部42上に跨って設けられている。
【0044】
第1誘導部材51および第2誘導部材52の長手方向の長さL3、短手方向の幅W3および厚さD1は、長いほど、外部から磁力線を集めやすく、また外部へ磁力線を発散しやすいため好ましい一方で、磁気センサ1が大型化しやすい。第1誘導部材51および第2誘導部材52の長手方向の長さL3および短手方向の幅W3は、感受部30や突出部40の大きさや第1誘導部材51および第2誘導部材52として用いる軟磁性体の種類等によっても異なるが、例えば、1mm~30mm程度とすることができる。
また、第1誘導部材51および第2誘導部材52の厚さD1は、例えば、0.1mm~10mm程度とすることができる。
【0045】
誘導部50の第1誘導部材51および第2誘導部材52は、軟磁性体で構成されている。第1誘導部材51および第2誘導部材52は、上述したセンサ部20の軟磁性体層101を構成する軟磁性体と比べて、透磁率が高い軟磁性体で構成されていることが好ましい。
第1誘導部材51および第2誘導部材52を構成する軟磁性体としては、透磁率の高いセラミックスや合金を用いることができる。このような軟磁性体としては、フェライト(ソフトフェライト)、パーマロイ、センダスト等が挙げられ、フェライトまたはパーマロイを用いることが好ましく、フェライトを用いることがより好ましい。フェライトとしては、例えば、材質がMnZnフェライトで、初透磁率が2500±25%、飽和磁束密度Bsが420mTのものが挙げられる。
【0046】
また、第1誘導部材51または第2誘導部材52として、導電性の高い軟磁性体を用いる場合、第1誘導部材51または第2誘導部材52の表面に絶縁層を設けたり、第1誘導部材51と第1突出部41との間、または、第2誘導部材52と第2突出部42との間に絶縁性の部材を挟んだりすることが好ましい。これにより、第1誘導部材51または第2誘導部材52を介して、複数の第1突出部41または複数の第2突出部42が導通することが抑制される。
第1誘導部材51または第2誘導部材52の表面に設ける絶縁層や、第1誘導部材51と第1突出部41との間、または、第2誘導部材52と第2突出部42との間に挟む絶縁性の部材は、透磁率の高い軟磁性体からなることが好ましい。
【0047】
(磁気センサ1の製造)
図1~
図3に示した磁気センサ1は、例えば、次のようにして製造される。
まず、基板10上に、基板10の表面において、センサ部20(感受部30、突出部40)の平面形状を除いた部分を覆うフォトレジストのパターンを、公知のフォトリソグラフィ技術により形成する。次いで、基板10上に、軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dを順に、例えばスパッタリング法により堆積する。そして、フォトレジスト上に堆積された軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dを、フォトレジストとともに除去する。すると、基板10上に、感受部30および突出部40の平面形状に加工された、軟磁性体層101a、磁区抑制層102a、軟磁性体層101b、導電体層103、軟磁性体層101c、磁区抑制層102b、軟磁性体層101dからなる積層体が残る。このようにして、
図2に示すセンサ部20の積層構造が形成される。
【0048】
軟磁性体層101は、長手方向と交差する方向、例えば短手方向に一軸磁気異方性が付与されている。一軸磁気異方性は、基板10上に形成された感受素子31を、例えば3kG(0.3T)の回転磁界中における400℃での熱処理(回転磁界中熱処理)と、それに引き続く3kH(0.3T)の静磁界中における400℃での熱処理(静磁界中熱処理)とを行うことで付与できる。一軸磁気異方性の付与を、回転磁界中熱処理および静磁界中熱処理で行う代わりに、感受素子31を構成する軟磁性体層101の堆積時にマグネトロンスパッタリング法を用いて行ってもよい。つまり、マグネトロンスパッタリング法に用いられる磁石(マグネット)が形成する磁界により、軟磁性体層101の堆積と同時に、軟磁性体層101に一軸磁気異方性が付与される。
【0049】
次いで、基板10上に形成されたセンサ部20における突出部40の第1突出部41および第2突出部42上に、誘導部50を構成する第1誘導部材51および第2誘導部材52を、それぞれ重ねて積載する。
以上により、基板10上に設けられた感受部30と突出部40とを含むセンサ部20と、センサ部20の突出部40に上に設けられた誘導部50とを備える磁気センサ1が得られる。
【0050】
以上に説明した製造方法では、感受部30の接続部32および端子部33と、突出部40とは、感受部30の感受素子31と一体として形成される。
接続部32、端子部33は、感受素子31とは別に、導電性のAl、Cu、Ag、Au等の金属で形成してもよい。また、感受素子31と一体として形成された接続部32、端子部33上に、導電性のAl、Cu、Ag、Au等の金属を積層してもよい。
さらに、突出部40は、感受素子31とは異なる種類の軟磁性体により構成されてもよい。
【0051】
(誘導部50の変形例)
続いて、誘導部50の変形例について説明する。
図4は、誘導部50の変形例を説明する図であって、磁気センサ1を上方から見た図である。なお、
図1~
図3に示した磁気センサ1と同様の構成については、同じ符号を用い、ここでは詳細な説明は省略する。
図1~
図3に示した例では、誘導部50は、センサ部20の突出部40上に重なって設けられている。これに対し、
図4に示す例では、誘導部50は、センサ部20の突出部40に対し長手方向に隣接して設けられており、突出部40の長手方向の端部に対して長手方向に対向している。
【0052】
具体的には、
図4に示す誘導部50では、第1誘導部材51および第2誘導部材52は、基板10上に設けられている。そして、第1誘導部材51は、第1突出部41に対して長手方向に隣接して設けられ、第1突出部41の長手方向の一端に対向している。付言すると、第1誘導部材51は、第1突出部41の長手方向の一端に接触している。また、第2誘導部材52は、第2突出部42に対して長手方向に隣接して設けられ、第2突出部42の長手方向の他端に対向している。付言すると、第2誘導部材52は、第2突出部42の長手方向の他端に接触している。
【0053】
図4に示す誘導部50では、
図1、
図2に示した例と同様に、第1誘導部材51が、外部から磁力線を誘導し第1突出部41に磁力線を集束する。また、第2誘導部材52が、感受素子31および第2突出部42を通過した磁力線を誘導し外部に発散する。
【0054】
(感受部30の作用)
続いて、磁気センサ1における感受部30の作用について説明する。
図5は、磁気センサ1における感受素子31の長手方向に印加された磁界と感受部30のインピーダンスとの関係を示す図である。
図5において、横軸が磁界H、縦軸がインピーダンスZである。
【0055】
図5に示すように、感受部30のインピーダンスZは、感受素子31の長手方向に印加される磁界Hが0のときに値Z0をとる。インピーダンスZは、磁界Hが大きくなるに従い大きくなり、磁界Hが異方性磁界Hkとなったとき最大値Zkとなる。そして、インピーダンスZは、磁界Hが異方性磁界Hkより大きくなると小さくなる。なお、インピーダンスZ0からインピーダンスZの最大値ZkへのインピーダンスZの変化量Zk-Z0を、インピーダンス変化量ΔZmaxと表記する。
磁界Hが異方性磁界Hkよりも小さい範囲において、磁界Hの変化量ΔHに対してインピーダンスZの変化量ΔZが大きい部分、つまりインピーダンスの変化率ΔZ/ΔHが大きい部分を用いると、磁界Hの微弱な変化ΔHをインピーダンスZの変化量ΔZとして取り出すことができる。
図5では、インピーダンスの変化率ΔZ/ΔHが大きい磁界Hの中心を磁界Hbとして示している。つまり、磁界Hbの近傍(
図5でΔHの矢印で示す範囲)における磁界Hの変化量ΔHが高精度に計測できる。
【0056】
ここで、インピーダンス変化率ΔZ/ΔHが最も大きい部分、つまり磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを、磁界HbでのインピーダンスZbで割ったもの(Zmax/Zb)が感度である。感度Zmax/Zbが高いほど、磁気インピーダンス効果が大きく、磁界又は磁界の変化を計測しやすい。換言すれば、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻なほど感度Zmax/Zbが高くなる。これには、異方性磁界Hkが小さいほどよい。また、インピーダンスZの変化量ΔZmaxが大きいほどよい。
本実施形態の磁気センサ1の使用時には、感受部30における感受素子31の長手方向に磁束が透過するように、例えばコイルに電流を流すことで発生した磁界Hbを、バイアス磁界として外部から印加する。なお、以下の説明において、感度Zmax/Zbを感度Smaxと記載する。
【0057】
(誘導部50による効果)
続いて、本実施形態の磁気センサ1における誘導部50による効果について、誘導部50を有していない従来の磁気センサ(以下、従来の磁気センサと表記する)と比較しながら説明する。従来の磁気センサは、誘導部50を有していない以外は、本実施形態の磁気センサ1と同様の構成を有するものとする。従来の磁気センサについても、本実施形態の磁気センサ1と同様の構成については、同様の符号を用いて説明する。
図6は、本実施形態が適用される磁気センサ1および従来の磁気センサにおけるインピーダンスZと磁界Hとの関係の一例を示した図である。
図6において、横軸が磁界H(Oe)、縦軸がインピーダンスZ(Ω)である。
図6は、磁界Hが±10Oeの範囲におけるインピーダンスZを示している。なお、
図6において、「誘導部あり」で示すグラフが誘導部50を備える本実施形態の磁気センサ1に対応し、「誘導部なし」で示すグラフが誘導部50を有していない従来の磁気センサに対応する。
【0058】
図6は、本実施形態の磁気センサ1および従来の磁気センサにおいて、2つの端子部33の間に50MHzの高周波電流を流して測定したものである。
また、本実施形態の磁気センサ1および従来の磁気センサについて、感受部30および突出部40の形状は、
図3に示したものと同様とした。具体的には、感受部30における感受素子31の本数を24本とし、感受素子31の長手方向の長さL1を4.3mm、感受素子31の短手方向の幅W1を0.1mm、隣接する感受素子31同士の短手方向の間隔を0.05mmとした。また、突出部40(第1突出部41、第2突出部42)の長手方向の長さL2を3.0mmとした。
さらに、本実施形態の磁気センサ1において、誘導部50の第1誘導部材51および第2誘導部材52として、長手方向の長さL3が18mm、短手方向の幅W3が10mm、厚さD1が2mmのフェライトを用いた。そして、磁気センサ1において、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1を、それぞれ2.0mmとした。
【0059】
図6に示すように、誘導部50を備える本実施形態の磁気センサ1では、誘導部50を有していない従来の磁気センサと比べて、異方性磁界Hkが小さくなり、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻となっている。
【0060】
ここで、誘導部50を有していない従来の磁気センサでは、予め定められた大きさの外部磁界を印加した場合に、感受部30において、短手方向の両端に位置する感受素子31と、短手方向の中央に位置する感受素子31とで、感受素子31を長手方向に通過する磁力線の密度(以下、磁束密度と表記する)に差が生じる場合がある。この結果、従来の磁気センサでは、感受部30において、短手方向の両端に位置する感受素子31と、短手方向の中央に位置する感受素子31とで、インピーダンスZが最大となる磁界である異方性磁界Hkの大きさに差が生じる場合がある。例えば、従来の磁気センサでは、短手方向の中央に位置する感受素子31の異方性磁界Hkと比べて、短手方向の両端に位置する感受素子31の異方性磁界Hkが高くなる場合がある。この場合、従来の磁気センサ全体では、磁界Hに対するインピーダンスZの変化がなだらかとなり、磁界または磁界の変化を計測する感度が低下するおそれがある。
【0061】
これに対し、本実施形態の磁気センサ1では、誘導部50により磁力線が誘導されることで、短手方向の両端に位置する感受素子31と、短手方向の中央に位置する感受素子31とで、磁束密度に差が生じにくくなる。
具体的には、本実施形態の磁気センサ1では、誘導部50の第1誘導部材51により、外部の広い範囲からの磁力線が集められる。そして、第1誘導部材51により集められた磁力線が、第1誘導部材51と対向する第1突出部41を通ってそれぞれの感受素子31に誘導される。
また、本実施形態の磁気センサ1では、それぞれの感受素子31を通過した磁力線が、そのまま第2突出部42を通過する。そして、第2突出部42を通過した磁力線が、第2突出部42と対向する誘導部50の第2誘導部材52により、外部へ発散されやすくなる。
【0062】
これにより、本実施形態の磁気センサ1では、それぞれの感受素子31を磁力線が長手方向に平行に透過しやすくなり、それぞれの感受素子31の磁束密度が高くなる。この結果、本実施形態の磁気センサ1では、短手方向の両端に位置する感受素子31と、短手方向の中央に位置する感受素子31とで、磁束密度に差が生じにくくなる。さらに、本実施形態の磁気センサ1では、それぞれの感受素子31の磁束密度が高くなることで、それぞれの感受素子31の異方性磁界Hkが低くなり、磁気センサ1全体では、
図6に示すように、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻となる。
以上により、本実施形態の磁気センサ1は、突出部40に対向して設けられる誘導部50を有することにより、磁界または磁界の変化を計測する感度が向上する。
【0063】
続いて、磁気センサ1の誘導部50の構成の違い、より具体的には、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1の違いによる磁気センサ1の特性の差について説明する。
図7は、磁気センサ1の誘導部50の構成と異方性磁界Hkとの関係を示した図である。
図8は、磁気センサ1の誘導部50の構成と感度Smaxとの関係を示した図である。なお、
図7、
図8には、併せて従来の磁気センサの異方性磁界Hk、感度Smaxも示している。
【0064】
図7、
図8は、本実施形態の磁気センサ1および従来の磁気センサにおいて、2つの端子部33の間に50MHzの高周波電流を流して測定したものである。
また、本実施形態の磁気センサ1および従来の磁気センサについて、感受部30および突出部40の形状は、
図6にインピーダンスZと磁界Hとの関係を示したものと同じ形状とした。
さらに、本実施形態の磁気センサ1において、誘導部50の第1誘導部材51および第2誘導部材52として、長手方向の長さL3が18mm、短手方向の幅W3が10mm、厚さD1が2mmのフェライト、および、長手方向の長さL3が10mm、短手方向の幅W3が6mm、厚さD1が0.5mmのパーマロイを用いた。フェライトとしては、材質がMnZnフェライトで、初透磁率が2500、飽和磁束密度Bsが420mTのものを用いた。また、パーマロイとしては、Niを78%含み、初透磁率が60000、飽和磁束密度Bsが720mTのものを用いた。
【0065】
そして、誘導部50としてフェライトを用いた磁気センサ1とパーマロイを用いた磁気センサ1とのそれぞれにおいて、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1を、0mm、1mm、2mm、3mmとした。なお、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1が0mmである磁気センサ1では、
図4に示した変形例のように、第1誘導部材51および第2誘導部材52がセンサ部20の突出部40に対し長手方向に隣接して設けられている。また、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1が3mmである磁気センサ1では、突出部40の全体に誘導部50が重なっている。なお、いずれの例においても、感受部30上には、誘導部50は設けられていない。
【0066】
図7に示すように、誘導部50を有する本実施形態の磁気センサ1は、第1誘導部材51および第2誘導部材52としてフェライトおよびパーマロイを用いたいずれの例においても、誘導部50を有しない従来の磁気センサと比べて、異方性磁界Hkが低下している。
そして、誘導部50を有する磁気センサ1同士を比較すると、第1誘導部材51および第2誘導部材52としてフェライトおよびパーマロイを用いたいずれの例においても、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1が長いほど、異方性磁界Hkが低下している。
【0067】
また、
図8に示すように、誘導部50を有する本実施形態の磁気センサ1は、第1誘導部材51および第2誘導部材52としてフェライトおよびパーマロイを用いたいずれの例においても、誘導部を有しない従来の磁気センサと比べて、感度Smaxが向上している。
そして、誘導部50を有する磁気センサ1同士を比較すると、第1誘導部材51及び第2誘導部材52としてフェライトおよびパーマロイを用いたいずれの例においても、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1が0mm、3mmの磁気センサ1と比べて、1mm、2mmの磁気センサ1のほうが、感度Smaxが向上している。
これにより、誘導部50が突出部40と重なっている長さX1が、突出部40の長さL2の30%以上70%以下であると、磁気センサ1の感度Smaxがより向上することが確認された。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形を行ってもよい。
上述した磁気センサ1では、誘導部50の第1誘導部材51および第2誘導部材52とで、形状(長さL3、幅W3、厚さD1)、突出部40と重なっている長さX1、および材質を互いに等しいものとしたが、これらが互いに異なっていてもよい。また、第1誘導部材51および第2誘導部材52の形状は、長方形の板状に限られるものではなく、変更して構わない。
【0069】
また、上述した磁気センサ1では、誘導部50が、外部から磁力線を誘導し第1突出部41に磁力線を集束する第1誘導部材51と、感受素子31および第2突出部42を通過した磁力線を誘導し外部に発散する第2誘導部材52との双方を備えているが、これに限られない。磁気センサ1において予め定められた感度を得られれば、第1誘導部材51または第2誘導部材52の少なくとも一方を備えていればよい。なお、磁気センサ1の感度をより向上させる観点からは、誘導部50が第1誘導部材51と第2誘導部材52との双方を備えていることが好ましい。
【0070】
さらにまた、上述した磁気センサ1では、突出部40が第1突出部41および第2突出部42の双方を備えているが、これに限られない。磁気センサ1において予め定められた感度を得られれば、第1突出部41および第2突出部42の少なくとも一方を備えていればよい。例えば、突出部40が第1突出部41のみを備える場合、この第1突出部41に対向するように、誘導部50(第1誘導部材51)を設ければよい。
【符号の説明】
【0071】
1…磁気センサ、10…基板、20…センサ部、30…感受部、31…感受素子、32…接続部、33…端子部、40…突出部、41…第1突出部、42…第2突出部、50…誘導部、51…第1誘導部材、52…第2誘導部材、101…軟磁性体層、102…磁区抑制層、103…導電体層