(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049398
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】エネルギー源高密度供給用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240403BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20240403BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20240403BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/175
A23L33/125
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021009067
(22)【出願日】2021-01-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】津田 悠一
(72)【発明者】
【氏名】山口 真
(72)【発明者】
【氏名】三本木 千秋
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
【Fターム(参考)】
4B018MD09
4B018MD19
4B018MD27
4B018MD28
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK08
4B117LK11
4B117LK12
4B117LK14
(57)【要約】
【課題】運動時などにおける、乳酸等の、実用的かつ効果的な摂取方法を提供する。
【解決手段】糖質、及び供給上有効量の乳酸等を含む、エネルギー源高密度供給用食品組成物を提供する。好ましくは、糖質を3%以上含み、乳酸等を乳酸として0.3%以上5.0%未満含む飲料、又は溶解してその飲料を調製するための固形物を提供する。乳酸等の含有量は、好ましくは乳酸として0.3%以上3.0%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、及びアミノ酸、並びに食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるエネルギー源のいずれかを含む、エネルギー源高密度供給用食品組成物。
【請求項2】
該エネルギー源が、乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、並びに食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかであり、グルコースとともに該エネルギー源を供給するためのものである、請求項1に記載の食品組成物。
【請求項3】
糖質を3%以上含み、乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかを乳酸として0.3%以上5.0%未満含む飲料、又は溶解してその飲料を調製するための固形物である、食品組成物。
【請求項4】
乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかの含有量が、乳酸として0.3%以上3.0%以下である、請求項3に記載の食品組成物。
【請求項5】
1回量あたり、糖質を5.0~140g含み、乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかを乳酸として3.0~30g含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項6】
100~2000mLの飲料、又は溶解してその飲料を調製するための固形物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の食品組成物。
【請求項7】
運動の前又は運動中に摂取させるための、請求項1~6のいずれか1項に記載の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー源を供給するための食品組成物に関する。本発明は、食品の開発・製造、スポーツ栄養、健康増進等の分野で有用である。
【背景技術】
【0002】
乳酸は、糖質が解糖系(嫌気的代謝)で代謝・分解されてできる生成物であり、身体の中では筋肉でエネルギーを作るとき、糖やグリコーゲンが分解されて産生される。運動開始時や強度が高い運動時には解糖系によるエネルギー供給が盛んになり、主に骨格筋で産生された乳酸は、強度の低い運動時や休息時に血液を介して遅筋繊維や心筋に運ばれ、エネルギー源となる。
【0003】
乳酸摂取が運動パフォーマンスに与える影響についての研究がある。例えば、運動30分前に乳酸(2.5mg/g体重)をマウスに経口投与し,60分間のトレッドミル走行(20m/分)を行わせた結果、乳酸摂取マウスでは,通常60分間の運動後にみられる血中グルコース濃度の低下(体内のエネルギー源の枯渇)が抑制されたとの報告がある(非特許文献1)。また、マウスに運動30分前に乳酸(50mg/kg体重)を腹腔内投与したところ、乳酸投与群がコントロール群に比較し、疲労困憊になるまでの水泳の持続時間が約30%増加したとの報告がある(非特許文献2)。さらに飲料中の乳酸、フルクトース、及びグルコースの酸化プロファイルと運動パフォーマンスへのそれらの影響に関する報告がある。ここではヒトにおいて乳酸ポリマー(lactate-polymer)が含まれた飲料の運動前と運動中の摂取が、乳酸が含まれていない飲料の摂取に比較して高強度運動のパフォーマンスを向上させた。この研究では、運動中、乳酸摂取による血中乳酸濃度の増加はみられていない(非特許文献3)。
【0004】
運動をする前や運動の途中で効果的にエネルギー源を補給することが重視され、そのための飲食品として、乳酸や乳酸ポリマーを含んだものが開発されている。例えば特許文献1は、運動選手用の補助食品として有用であり、筋肉内におけるグリコーゲンの蓄積量を増大することができるものとして、特定の縮合度を有するポリ乳酸混合物を有効成分として含む体力増進剤を提案する。また特許文献2は、共役リノール酸を有効成分とする、血中乳酸濃度低下又は血中への筋肉内酵素逸脱抑制に基づく運動能力改善もしくは血液性状改善剤を提案する。さらに特許文献3は、運動能力向上スポーツ飲料として、約1.0重量%~約10.0重量%の量の炭水化物源;約5.0mM/L~約40.0mM/Lの量のアセテート源;及びナトリウムを含む、約30mM/L~約180mM/Lの量の1種又は複数種の電解質の水溶液を含むスポーツ飲料を提案する。ここでは炭水化物源としては、高果糖コーンシロップ、スクロース、果糖、マルトデキストリン、グルコース、果汁、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、アセテート源としては、酢酸、アセテート、食酢、無水アセテート、酢酸カルシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、トリアセチン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることが記載されている。
【0005】
また、グルコースとフルクトースに関しては、中程度にグルコースを供給した場合と(1.2g/分)、高程度にグルコースを供給した場合(1.8g/分)では、酸化速度は変わらないが、フルクトース(0.6g/分)とともに中程度のグルコース (1.2g/分) を供給した場合は、合計の酸化速度が上昇するとの報告がある(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2001/021182
【特許文献2】特開2006-8532号公報(特許第4772295号)
【特許文献3】国際公開WO2012/068431(特表2013-544255号公報)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】加藤麻衣ら:乳酸を摂取したら, どのような効果があるだろうか. 八田秀雄編著, 乳酸をどう活かすか. 杏林書院, pp187-197, 2008.
【非特許文献2】Zhang G et al.: L-lactic acid1s improvement of swimming endurance in mice. Int J Sport Nutr Exerc Metab, 19: 673 -684, 2009.
【非特許文献3】Azevedo JL et al.: Lactate, :fructose and glucose oxidation profiles in sports drinks and the effect on exercise performance. PLoS One, 2: e927, 2007.
【非特許文献4】Roy L. P. G. Jentjens et al.: Oxidation of combined ingestion of glucose and fructose during exercise. J. Appl. Physiol., 96: 1277-84, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エネルギー源の吸収・利用には上限があると考えられる。運動を持続して行う際にエネルギー源が不足すると、パフォーマンスが低下してしまうこととなり得る。より多くのエネルギー源が利用可能となるような効率的な供給ができれば望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
グルコースの消化管からの吸収を担うトランスポーターは、Na/グルコース共輸送体(sodium-dependent glucose transporter 1、又はsodium/glucose cotransporter 1、SGLT1)である。乳酸はグルコースとは異なるトランスポーターを介した吸収機構を有するため、グルコースと併用することで、それぞれのトランスポーターが活用され、エネルギー源の利用効率が高まると考えられる。同様のことが、乳酸以外のトランスポーターが異なるエネルギー源を供給する場合にも期待できる。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1] 乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、及びアミノ酸、並びに食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるエネルギー源 のいずれかを含む、エネルギー源高密度供給用食品組成物。
[2] 該エネルギー源が、乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、及びプロピオン酸、並びに食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかであり、グルコースとともに該エネルギー源を供給するためのものである、1に記載の食品組成物。
[3] 糖質を3%以上含み、乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかを乳酸として0.3%以上5.0%未満含む飲料、又は溶解してその飲料を調製するための固形物である、食品組成物。
[4] 乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかの含有量が、乳酸として0.3%以上3.0%以下である、3に記載の食品組成物。
[5] 1回量あたり、糖質を5.0~140g含み、乳酸、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかを乳酸として3.0~30g含有する、1~4のいずれか1項に記載の食品組成物。
[6] 100~2000mLの飲料、又は溶解してその飲料を調製するための固形物である、1~5のいずれか1項に記載の食品組成物。
[7] 運動の前又は運動中に摂取させるための、1~7のいずれか1項に記載の食品組成物。
【0011】
本発明はまた以下を提供する。
[8] 対象におけるエネルギー源の利用速度(Exogenous CHO oxidation, mg/分)を向上する方法であって、対象に複数のエネルギー源を供給するが、このとき複数のエネルギー源が、一のエネルギー源と、それとはトランスポーターが異なる他のエネルギー源を含む、方法。
[9] 他のエネルギー源を含む、8を実施するための食品組成物。
[10] 他のエネルギー源が、乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸、酢酸、プロピオン酸、及びアミノ酸、並びに食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかである、9に記載の食品組成物。
[11] 糖質を含む、10に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の食品組成物を摂取させることにより、エネルギー源の吸収・利用が高まる。
本発明に基づき充分な量の糖質に加えて糖質以外のエネルギー源を供給することで、対象者に糖質のみを摂取させるよりも多くのエネルギー源を利用させることができる。
本発明に基づきエネルギー源を供給することで、対象者におけるグリコーゲン枯渇や血糖低下を抑制できる。そのため、対象者における運動パフォーマンス向上が期待できる。
本発明の食品組成物を摂取させることにより、対象者の運動パフォーマンスの向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、糖質、及び乳酸源を含む食品組成物に関する。本発明に関し、割合(%、部、等)を数値で示すときは、特に記載した場合を除き、質量に基づく値である。
【0015】
[高密度エネルギー源供給のための成分]
本発明は、複数のエネルギー源を供給することに関する。より詳細には、本発明は、糖質が供給される対象に、それとは体内におけるトランスポーターが異なるエネルギー源を供給することにより、合計の利用速度(Exogenous CHO oxidation, mg/分)を、糖質のみを供給した場合よりも上昇させることに関する。
【0016】
本発明の食品組成物は、特定のエネルギー源、より詳細には糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源を含む。なお糖質の典型的な例は、グルコースであり、グルコースの消化管からの吸収を担うトランスポーターは、Na/グルコース共輸送体(sodium-dependent glucose transporter 1、又はsodium/glucose cotransporter 1、SGLT1)である。
【0017】
本発明に関して利用される、糖質とは異なるトランスポーターには、Na/モノカルボン酸共輸送体(sodium-dependent monocarboxylate transporter、SMCT)、Na/ジカルボン酸共輸送体(Na+/dicarboxylate co-transporter、NaDC)、アミノ酸の吸収に関与するアミノ酸トランスポーター、脂質や脂溶性ビタミンの吸収に関与するスカベンジャーレセプタークラスB、コレステロールの吸収に関与するABCタンパク質G8及びABCタンパク質G5等が含まれる。アミノ酸トランスポーターには、SLC6 Sodium- and chloride-dependent neutral and basic amino acid transporter familyに属するトランスポーター、SLC7 Cationic amino acid transporter/glycoprotein-associated familyに属するトランスポーター、SLC43 Na+-independent, system-L-like amino acid transporter familyに属するトランスポーターが挙げられる。これらのより具体的な例としては、グリシンを基質とするSLC6A9、中性及びカチオン性アミノ酸を基質とするSLC6A14(別名ATB0,+ beta-alanine carrier system)、中性アミノ酸を基質とするSLC6A19、プロリンを基質とするSLC6A20、中性及び/又はカチオン性アミノ酸を基質とするSLC7A6、SLC7A7、SLC7A8、SLC7A9、SLC7A10、分岐鎖アミノ酸を基質とするSLC43A2(LAT4)が挙げられる。
【0018】
したがって、本発明の食品組成物に用いられる、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源の具体例として、下記のもの、及び食品として許容されるそれらの塩、溶媒和物、及びポリマーからなる群より選択されるいずれかが挙げられる。
SMCTにより輸送可能なもの、例えば、乳酸、ピルビン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸。好ましい例は、乳酸である。
NaDCにより輸送可能なもの、例えば、クエン酸、イソクエン酸、α-ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキザロ酢酸。好ましい例は、クエン酸である。
アミノ酸、例えば、バリン、ロイシン、イソロイシン、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、アラニン、プロリン、システイン、リシン、トレオニン、フェニルアラニン、セリン、メチオニン、グリシン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シトルリン、オルニチン、β-アラニン。好ましい例は、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)である。他の好ましい例は、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、リシン、ヒスチジンである。他の好ましい例は、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、システイン、メチオニン、チロシン、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、シトルリン、オルニチン、β-アラニンである。
なお異性体が存在するものについては、動物が利用可能である限り、本発明にはいずれを用いてもよい。
【0019】
食品として許容可能な塩の例として、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;鉄塩;ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩;ギ酸、酢酸、プロパン酸等のモノカルボン酸との塩;シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸等の飽和ジカルボン酸との塩;マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸との塩;クエン酸等のトリカルボン酸との塩;α-ケトグルタル酸等のケト酸との塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンとの塩;モルホリン、ピペリジン等の複素環式アミンとの塩;グリシン、アラニン等の脂肪族アミノ酸との塩;フェニルアラニン等の芳香族アミノ酸との塩;リシン等の塩基性アミノ酸との塩;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との塩;ピログルタミン酸等のラクタムを形成したアミノ酸との塩;アンモニウム塩等が挙げられる。食品として許容可能な溶媒和物の例として、水和物が挙げられる。
【0020】
乳酸の本発明の食品組成物には、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源として、上記のうちの複数を用いることができる。
【0021】
本発明の食品組成物は、好ましい態様の一つにおいては、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源として、乳酸、食品として許容可能なその塩、水和物、ポリマーからなる群より選択されるいずれか(以下、「乳酸等」ということがある。)を含む。食品として許容可能な乳酸塩の例として、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸鉄が挙げられる。食品として許容可能な乳酸ポリマーの例として、非特許文献1記載の縮合度3~20の環状及び/又は鎖状のポリ乳酸混合物(特許文献1)、非特許文献3記載のlactate-polymerが挙げられる。なお以下では、本発明、その実施態様、及び実施例を、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源が乳酸等である場合を例に説明することがあるが、その説明は、当業者であれば、乳酸等以外のエネルギー源が利用される場合にも当てはめて理解することができる。
【0022】
本発明の食品組成物の摂取により、複数のエネルギー源が供給された対象者は、糖質を充分に吸収しつつ、糖質とは異なるトランスポーターの活用によりさらにエネルギー源を吸収しうる。
【0023】
[用途]
本発明の食品組成物は、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源を含むため、糖質が充分に供給されている対象にさらに糖質以外のエネルギー源を供給し、合計の利用速度(Exogenous CHO oxidation, mg/分)を、糖質のみを供給限界量で供給した場合よりも上昇させるのに適している。すなわち本発明の食品組成物は、エネルギー源高密度供給用のものである。本発明に関し、糖質は、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源と共に同じ食品組成物に含有され、供給されてもよく、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源が含まれる本発明の食品組成物とは別の食品等に含有され、供給されてもよい。
【0024】
供給限界量とは、一般に、それより多く対象に供給したとしても、対象において利用速度(Exogenous CHO oxidation, mg/分)が上昇しない量をいう。本発明の好ましい態様の一つにおいて、糖質はグルコースであるが、本発明に関し、グルコースの供給限界量とは、特に記載した場合を除き、1.2g/分をいう。なお以下では、本発明、その実施態様、及び実施例を、糖質がグルコースである場合を例に説明することがあるが、当業者であれば、その説明を、グルコース以外の糖質が利用される場合にも当てはめて理解することができる。
【0025】
[組成物]
(エネルギー源の量)
本発明の食品組成物は、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源を、供給上有効量で含む。供給上有効量とは、一のエネルギー源との合計の利用速度(Exogenous CHO oxidation, mg/分)を、一のエネルギー源を供給限界量で供給した場合よりも上昇させるのに有効な量をいう。例えば、一のエネルギー源がグルコースである場合、供給上有効量とは、グルコースとの合計の利用速度を、グルコースを供給限界量(1.2g/分)で供給した場合よりも上昇させるのに有効な量をいう。
【0026】
糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源の量は、好ましくは糖質の吸収を妨げない量である。運動パフォーマンスの向上には糖質吸収も重要なファクターだからである(K. Currell et al.; Superior endurance performance with ingestion of multiple transportable carbohydrates. Med Sci Sports Exerc 40(2): 275-81, 2008)。また糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源の量は、そのエネルギー源の供給限界量以下であることが好ましい。それ以上供給しても利用速度は上昇しないからである。
【0027】
具体的には、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源が乳酸等である場合、本発明の食品組成物における含有量は、摂取する対象者の運動強度等に応じて適宜とすることができるが、運動耐容能の一指標である最高酸素摂取量(peakVO2)あるいは最大運動負荷(Wmax)に基づく中程度の強度の運動を行う場合には、0.02g/分以上、好ましくは0.05g/分以上、より好ましくは0.08g/分以上、さらに好ましくは0.11g/分以上の供給速度で乳酸等を供給可能なように設計することが好ましい。乳酸等以外の糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源を用いる場合は、乳酸等について説明した量と等モル量とするとよい。
【0028】
「乳酸として」とは、乳酸以外の乳酸の塩、溶媒和物、ポリマーである場合は、乳酸に換算することをいう。例えば、乳酸2.4g、乳酸ナトリウム6.0g、乳酸カルシウム3.4gを用いる場合は、乳酸としては10gに換算できる。
【0029】
より具体的には、本発明の食品組成物が飲料の形態である場合、乳酸等の濃度(複数種類が用いられる場合はそれらの総濃度)は、0.20%(22mM)以上とすることができ、好ましくは0.30%(33mM)以上であり、より好ましくは0.60%(66mM)以上であり、さらに好ましくは0.8%(88mM)以上である。
【0030】
本発明者らの検討によると、グルコース、フルクトースとともに2.5%の乳酸を含む飲料(乳酸量として5g)を摂取した場合と、グルコース、フルクトースとともに5.0%の乳酸を含む飲料(乳酸として10g)を摂取した場合とでは血中の乳酸濃度の上昇の程度が同じであった。また、この5.0%の乳酸を含む飲料を摂取した場合には含まれる血糖値の上昇が抑制された。この理由として、溶液の浸透圧が高いため吸収されにくいことが影響している可能性が考えられた。このような観点からは、本発明の食品組成物が飲料の形態である場合、乳酸等の濃度は、乳酸として、5.0%(550mM)未満とすることができ、好ましくは4.5%(495mM)以下であり、より好ましくは4.0(440mM)%以下であり、さらに好ましくは3.0%(330mM)以下である。
【0031】
好ましい態様の一つにおいては、本発明の食品組成物は、数時間の一連の運動の際に摂取するのに適した量(1回量)を備える。本発明の食品組成物の1回量あたりの乳酸の量(複数種類が用いられる場合はそれらの総量)は、乳酸として1.0g以上とすることができ、好ましくは2.0g以上であり、より好ましくは3.0g以上であり、さらに好ましくは4.0g以上である。また本発明の本発明の食品組成物の1回量あたりの乳酸の量は、乳酸量として、40g未満とすることができ、好ましくは30g以下であり、より好ましくは20g以下であり、さらに好ましくは10g以下である。
【0032】
本発明の食品組成物が、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源としてアミノ酸を含んでもよい。本発明の食品組成物が飲料の形態である場合、アミノ酸の濃度(複数種類を用いる場合はそれらの総濃度)は、他の成分の存在や量に関わらず、0.20%以上とすることができ、0.50%以上、1.0%以上、2.0%としてもよい。またアミノ酸濃度は、5.0%以下とすることができ、4.0%以下、2.5%以下、2.0%以下としてもよい。
【0033】
また、本発明の食品組成物の1回量あたりのアミノ酸の量(複数種類を用いる場合はそれらの総量)は、他の成分の存在や量に関わらず、0.20g以上とすることができ、0.50g以上、1.0g以上、2.0g以上としてもよい。また1回量あたりのアミノ酸量は、5。0g以下とすることができ、4.0g以下、3.0g以下、2.5g以下としてもよい。
【0034】
(糖質)
本発明の食品組成物は、糖質を含んでいてもよい。糖質と、糖質とは異なるトランスポーターにより輸送されるエネルギー源との双方を含むことにより、複数のエネルギー源の供給が容易となり、またエネルギー源の利用を容易に高めることができる。
【0035】
好ましい態様の一つにおいて、本発明の食品組成物は乳酸及び糖質を含む。乳酸が比較的多く含まれる食品組成物の風味は、摂取上の課題があるが、糖質と組み合わせることにより、摂取しやすい食品組成物とすることができる。
【0036】
糖質とは、炭水化物から食物繊維(難消化性の多糖類)を除いたものをいう。糖質の例として、少糖類(単糖類、二糖類、オリゴ糖類)、澱粉、加工澱粉(マルトデキストリン、デキストリン、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、及び澱粉エーテル等)が挙げられる。本発明の食品組成物には糖質として、これらのうちの複数を用いることができる。
【0037】
好ましい態様の一つにおいて、本発明の食品組成物は、単糖類、二糖類、マルトデキストリン、及びデキストリンからなる群から選択されるいずれかを含む。単糖類の例として、グルコース、フルクトース、ガラクトースが挙げられる。二糖類の例として、スクロース、マルトース、ラクトースが挙げられる。澱粉を化学的又は酵素的な方法で低分子化したもののうち、デキストリンは、デキストロース当量(DE)が10以下のものであり、マルトデキストリンは、10<DE<20のものである。
【0038】
本発明の食品組成物が糖質を含む場合、その含有量は、摂取する対象者の運動強度等に応じて適宜とすることができるが、運動耐容能の一指標である最高酸素摂取量(peakVO2)あるいは最大運動負荷(Wmax)に基づく中程度の強度の運動を行う場合には、0.60g/分以上、好ましくは0.80g/分以上、より好ましくは1.0g/分以上、さらに好ましくは1.1g/分以上の供給速度で糖質を供給可能なように設計するとよい。一方で、グルコースの供給限界量が1.2g/分であり、これを超えて供給しても吸収されないことを考慮すると、1.6g/分以下、好ましくは1.5g/分以下、より好ましくは1.4g/分以下、さらに好ましくは1.3g/分以下でグルコースが供給されるように、設計するとよい。
【0039】
より具体的には、本発明の食品組成物が飲料の形態である場合、糖質の濃度(複数種類が用いられる場合はそれらの総濃度)は、他の成分の存在や量に関わらず、1.0%以上とすることができ、好ましくは3.0%以上であり、より好ましくは5.0%以上であり、さらに好ましくは7.0%以上である。また14%以下とすることができ、好ましくは13%以下であり、より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは11%以下である。
【0040】
また、本発明の食品組成物の1回量あたりの糖質の量(複数種類が用いられる場合はそれらの総量)は、他の成分の存在や量に関わらず、5.0g以上とすることができ、好ましくは10g以上であり、より好ましくは15g以上であり、さらに好ましくは20g以上である。また140g未満とすることができ、好ましくは130g以下であり、より好ましくは120g以下であり、さらに好ましくは110g以下である。
【0041】
本発明の食品組成物は、フルクトースを含んでいてもよい。本発明の食品組成物が飲料の形態である場合、フルクトースの濃度は、他の成分の存在や量に関わらず、0.30%以上とすることができ、0.50%以上、1.0%以上、2.0%以上としてもよい。また5.0%以下とすることができ、4.5%以下、4.0%以下、3.5%以下としてもよい。
【0042】
また、本発明の食品組成物の1回量あたりのフルクトースの量は、他の成分の存在や量に関わらず、1.0g以上とすることができ、2.0g以上、6.0g以上、4.0g以上としてもよい。また40g未満とすることができ、30g以下、20g以下、10g以下としてもよい。
【0043】
(他の成分、添加剤)
本発明の食品組成物は、食品として許容可能な他の栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸及びニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、天然物(例えば、はちみつ、果汁、野菜汁、茶抽出物)食物繊維、タンパク質、脂質等である。
【0044】
また本発明の食品組成物は、食品として許容可能な添加物を含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(液体や固体の担体)、甘味料、香料、酸味料、pH調整剤、酸化防止剤、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、溶解補助剤、乳化剤、安定剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、天然物である。
【0045】
(形態)
本発明の食品組成物は、液体、固体、乳化液、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の形態に調製することができ、また、サプリメント、菓子、乳製品、飲料、ドリンク剤、加工食品、スープ等の任意の形態にすることができる。
【0046】
好ましい態様の一つにおいては、本発明の食品組成物の形態は、飲料(例えば、スポーツドリンク、アイソトニック飲料、ニアウオーター、等)、又は水に溶解して飲料を調製するための固形物である。飲料にはゲル状飲料も含まれる。
【0047】
飲料の形態であるとき、容器に充填された製品とすることができ、その内容量は特に限定されないが、例えば100mL以上とすることができ、300mL以上、500mL以上、750mL以上、1000mL以上、又は1500mL以上としてもよい。内容量の上限は特に限定されないが、運搬しやすさを考慮し、例えば5000mL以下とすることができ、4000mL以下、3000mL以下、又は2000mL以下としてもよい。
【0048】
本発明の食品組成物は、1回量を摂取しやすい少量に分割した形態とすることもできる。
【0049】
(その他)
本発明に関し、食品というときは、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、及びスープを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
【0050】
本発明の食品組成物を、容器に充填された飲料製品として提供する場合、用いられる容器の材料は特に限定されるものではなく、例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ガラス、アルミニウム、スチール等が挙げられる。
【0051】
(製造方法)
本発明の食品組成物は、当業者にはよく知られた従来の方法で製造できる。糖質、及び乳酸源の配合の段階は、それらを配合する目的を損なわない限り、適宜とすることができる。本発明の食品組成物の製造方法として、当業者は、特開2000-72669号公報や、WO2017/142052を参照することができる。
【0052】
[用法]
本発明の食品組成物を対象に摂取させる時は、特に限定されない。日常のエネルギー源供給の目的や楽しみのために摂取させてもよく、運動やスポーツの試合(以下、運動等という。)に関連して摂取させてもよい。
【0053】
本発明の食品組成物を摂取させる対象には、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、子ども、乳幼児、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。
【0054】
本発明の食品組成物は、特に、競技時間が比較的長く、パフォーマンスを長く続けるため持久力が重要なスポーツの際に摂取させるのに適している。このようなスポーツの例は、マラソン、長距離走、競歩、水泳、トライアスロン、自転車、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボール、バレーボール、テニス、バスケットボール、バドミントン、卓球、ダンス、柔道、剣道、レスリング等が挙げられる。
【0055】
運動等に際して摂取させる場合は、その前、その途中、その後のいずれの段階でも摂取させることができる。
【0056】
本発明の食品組成物を運動等の前に対象に摂取させることにより、効果的にエネルギー源の供給ができ、対象者は、前もってエネルギー源を充満させた状態で運動等に臨むことができる。
【0057】
本発明の食品組成物を運動等の途中に対象に摂取させることにより、対象者において乳酸を利用しやすい身体(筋肉)づくりに役立つ可能性がある。また、対象者の運動等のパフォーマンスが向上する可能性がある。
【0058】
本発明の食品組成物を運動等の後に対象に摂取させることにより、対象者におけるグリコーゲンの回復に役立つ可能性がある。
【0059】
本発明の食品組成物の摂取に関し、運動等の「前」というときは、運動等を開始する前の、例えば、90分以内であってもよく、60分以内であってもよく、45分以内であってもよく、30分以内であってもよく、10分以内であってもよく、5分以内であってもよい。
【0060】
本発明の食品組成物の摂取に関し、運動等の「途中」というとき、その例として、継続する運動等をしながら(例えば、走りながら、自転車走行しながら、)、運動等において運動強度が比較的低いとき、試合のハーフタイム中、休息中等が挙げられる。
【0061】
本発明の食品組成物の摂取に関し、運動等の「後」というときは、運動等が終了した後の、例えば、90分以内であってもよく、60分以内であってもよく、45分以内であってもよく、30分以内であってもよく、10分以内であってもよく、5分以内であってもよい。
【0062】
本発明者らの検討に拠ると、本発明の食品組成物は、単回の摂取で速やかに目的の効果が期待できるものであるが、複数回に分けて摂取させることもできる。特に、比較的大量に摂取させたい場合は、数回に分けて、時間を空けつつ(例えば5~30分ごとに)摂取させることが好ましい。また大量に摂取させたい場合は、ゆっくり摂取させてもよい。
【0063】
本発明の食品組成物によるエネルギー源の供給により、運動能力、特に持久力が向上しうる。したがって、本発明の食品組成物は、運動能力の向上に適しており、持久能力向上に適している。
【0064】
[その他]
本発明の食品組成物には、特定の目的(例えば、エネルギー源供給のため、栄養補給のため、パフォーマンス向上のため、疲労回復のため、等)に摂取できる旨を表示することができ、また特定の対象(例えば、アスリート、選手、練習生、部活生、等)に対して、あるいは特定の場面において(例えば、スポーツの前、途中、後に、等)、摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的に又は間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、商談資料、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所又は手段による、広告・宣伝活動を含む。
【実施例0065】
実施例1.供給限界量のグルコースに加えて乳酸を摂取した際の酸化速度の検討
[方法]
(研究デザイン)
クロスオーバー
【0066】
(被験者)
健常成人 男性 3名
【0067】
(運動負荷試験)
被験者は一晩絶食条件で午前中に試験を実施した。まず、ベースラインとして安静状態で30分間呼気を採取した。運動直前に試験飲料を500mL摂取し、50%Wmaxの運動強度で90分間自転車運動を実施した。運動中には15分おきに試験飲料を200mL摂取し、運動前の500mLと合わせて計1.5Lを摂取した。運動中、経時的に呼気を採取した。安定同位体比分析装置ARCO-2000(アルコシステム)を用い、採取した呼気から15分ごとのグルコース及び乳酸の酸化速度を算出した。
【0068】
(試験食品)
乳酸含有糖質飲料又は糖質飲料を用いた。乳酸含有糖質飲料は、乳酸10.8g(乳酸乳酸約4.1g、乳酸ナトリウム約6.8g、乳酸カルシウム約1.6gを用いて、乳酸として10.8g)、グルコース108gを溶解した飲料1.5Lとし、乳酸の酸化速度を測定する際には13C Sodium Lactate(Cambridge Isotope Laboratories, Inc.より入手) 100mgを、グルコースの酸化速度を測定する際には13C Glucose(Cambridge Isotope Laboratories, Inc.より入手) 180mgを、それぞれ添加した。この飲料を摂取すると、1.2g/分のグルコース及び0.12g/分の乳酸を供給することになる。糖質飲料は、グルコース118.8gを溶解した飲料1.5Lとし、グルコースの酸化速度を測定するために13C Glucose 198mgを添加した。この飲料を摂取すると、1.32g/分のグルコースを供給することになる(非特許文献4)。
【0069】
[結果]
グルコース及び乳酸の酸化速度の推移を
図1に示す。まず、糖質飲料のグルコース酸化速度(グルコース1.32g/分)と乳酸含有糖質飲料のグルコース酸化速度(グルコース1.2g/分)は、ほぼ同等に推移していた。この結果から、グルコースは1.2g/分で供給限界に達していることが示された。また、乳酸含有糖質飲料の乳酸及びグルコースの酸化速度の合計(グルコース1.2g/分+乳酸0.12g/分)は、糖質飲料のグルコース酸化速度(グルコース1.32g/分)と比較して高値を示した。この結果から、供給限界量のグルコースに加えて乳酸を摂取することで、グルコースのみを摂取するよりも合計の酸化速度が上昇することが示された。
【0070】
これらのことから、糖質に加えて乳酸を摂取することで効果的にエネルギー供給でき、グリコーゲン枯渇や血糖低下を抑制して運動パフォーマンス向上に寄与することが期待できる。
【0071】
実施例2.乳酸含有糖質飲料摂取が安静時の血中乳酸及び血糖値に与える影響の検討
[方法]
(研究デザイン)
クロスオーバー
【0072】
(被験者)
健常成人 男性1名、女性1名
【0073】
(血中乳酸及び血糖値の測定)
被験者は試験当日の昼食摂取から3時間以上経過後に試験を実施した。まず、ベースラインとして血中乳酸及び血糖値を測定した。試験飲料を摂取し、摂取から60分後まで経時的に血中乳酸及び血糖値を測定した。試験中、被験者は安静待機し、血中乳酸の測定には迅速乳酸測定器ラクテートプロ2(アークレイ)、血糖値の測定には迅速血糖測定器ブリーズ2(バイエル薬品)を用いた。
【0074】
(試験食品)
乳酸高含有糖質飲料、乳酸低含有糖質飲料、又は糖質飲料を用いた。乳酸高含有糖質飲料は、乳酸10g(乳酸約2.4g、乳酸ナトリウム約6.0g、乳酸カルシウム約3.4gを用いて、乳酸として10g)、グルコース10.8g、フルクトース5.4gを溶解した飲料200mL、乳酸低含有糖質飲料は、乳酸5g(乳酸約1.2g、乳酸ナトリウム約3.0g、乳酸カルシウム約1.7gを用いて、乳酸として5g)、グルコース10.8g、フルクトース5.4gを溶解した飲料200mL、糖質飲料は、グルコース10.8g、フルクトース5.4gを溶解した飲料200mLとした。
【0075】
[結果]
血中乳酸及び血糖値の推移を
図2、
図3に示す。乳酸高含有糖質飲料及び乳酸低含有糖質飲料では、糖質飲料と比較して血中乳酸が同程度上昇した。この結果から、5g程度の乳酸摂取で消化管における乳酸吸収の上限に達している可能性が考えられた。一方、血糖値においては、乳酸低含有糖質飲料と糖質飲料では同程度の上昇が見られたものの、乳酸高含有糖質飲料では糖質飲料と比較して血糖値の上昇が抑制された。この結果から、5g程度の乳酸摂取であれば、糖質の吸収に大きな影響を及ぼさないことが示唆された。
【0076】
糖質摂取が運動パフォーマンスを向上させることは数多く報告されているため、運動パフォーマンスの向上には糖質の吸収も重要なファクターとなる。本結果から、200mL中に5g程度の乳酸であれば、糖質の吸収に影響を及ぼさずに血中乳酸を上昇させることができるため、糖質の吸収を抑制してしまう乳酸10g/200mLよりもパフォーマンス向上に寄与する可能性がある。