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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049583
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】生分解性樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/90 20060101AFI20240403BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08G63/90
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155884
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 博道
(72)【発明者】
【氏名】矢次 豊
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AA03
4J029AB07
4J029AE01
4J029BA05
4J029CA04
4J029EA05
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB122
4J029KH05
4J029LB05
4J200AA02
4J200AA07
4J200BA12
4J200EA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生分解性樹脂の液抜出ラインからの流出を抑制し、オリゴマー含有量の少ない生分解性樹脂を連続的に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】接触処理液を貯留する処理槽に、樹脂供給ラインを通じて、生分解性樹脂を供給する樹脂供給工程と、前記樹脂供給工程後に、前記処理槽内で、前記生分解性樹脂と、前記接触処理液とを接触させる接触処理工程と、前記接触処理工程後に、前記処理槽側面から、液抜出ラインを通じて、前記接触処理液の一部を抜き出す液抜出工程と、を有する生分解性樹脂の製造方法であって、前記接触処理液と前記生分解性樹脂との比重差が0.29以上である生分解性樹脂の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底面及び側面を有し接触処理液を貯留する処理槽に、樹脂供給ラインを通じて、生分解性樹脂を供給する樹脂供給工程と、
前記処理槽内で、前記樹脂供給ラインから供給された前記生分解性樹脂と、前記接触処理液とを接触させる接触処理工程と、
前記処理槽側面から、液抜出ラインを通じて、前記接触処理液の一部を抜き出す液抜出工程と、
前記処理槽底面から、樹脂抜出ラインを通じて、前記生分解性樹脂を抜き出す樹脂抜出工程と、
を有する生分解性樹脂の製造方法であって、
前記接触処理液と前記生分解性樹脂との比重差が0.29以上であり、
下記特徴1~特徴3のうち少なくとも1つの特徴を有する、生分解性樹脂の製造方法。
(特徴1)前記樹脂供給ラインの樹脂出口が、前記処理槽内に貯留された前記接触処理液の水面よりも下方に位置する。
(特徴2)前記液抜出ラインが、屈曲部を有する。
(特徴3)前記処理槽と前記液抜出ラインとの接合部が、樹脂流出防止設備を有する。
【請求項2】
前記生分解性樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂及び/又は脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂である、請求項1に記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記生分解性樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂である請求項1に記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記生分解性樹脂の形状がペレット形状である、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記接触処理工程における前記接触処理液の温度が、25℃以上且つ前記生分解性樹脂の融点以下である、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記接触処理液がアルコールを含む、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂抜出ラインから供給された生分解性樹脂の環状二量体含有量が、100質量ppm以上4000質量ppm以下である、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂の製造方法に関する。更に詳しくは、環状二量体(以下、CDと略記することがある)などのオリゴマー含有量の少ない生分解性樹脂を連続的に製造できる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ジオール或いは脂環式ジオールと、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸或いは芳香族ジカルボン酸とを主原料とするポリエステルや、脂肪族オキシカルボン酸を主原料とするポリエステルは、良好な物性及び分解性を有する生分解性樹脂であり、農業資材、土木資材や包装材等の製品に加工され利用されている。
【0003】
しかしながら、上記ポリエステルの重合時及び溶融成形時には、ポリエステルの一部が環化する反応が不可避に生じて、環状オリゴマーが副生する。更にその結果、ポリエステルを成形体とした際に、成形体表面に環状オリゴマーがブリードアウトして表面外観の低下が起こることや、成形時に汚染された金型の清掃のために生産性が大幅に低下する等の問題が起こることが知られている。
【0004】
上記問題を解決するために、ポリエステルの重合後、ポリエステルと、純水、又は純水及びアルコール、又は純アルコールを特定の温度域にて接触させることにより、ポリエステルの洗浄処理を行い成形品の外観低下を防ぐことが知られている(特許文献1参照)。また、ポリエステルをケトン類、エーテル類及びエステル類からなる群より選択された水可溶性有機溶剤及び水との接触による後処理を施すことも知られている(特許文献2参照)。
【0005】
更に、ポリエステルを特定の割合のイソプロパノール/水混合物や、エタノール/水混合物と接触させることにより、成形体の表面外観の低下や金型洗浄のような生産性の低下を抑制できることが知られている(特許文献3、4参照)。特許文献3、4には、ポリエステルとアルコール/水混合物(接触処理液)とを接触させる方法として、処理槽にペレット化したポリエステルと接触処理液を入れて接触させ、接触処理後にペレットを抜き出す回分式の処理方法や、配管又は処理槽にペレットを連続的に供給しつつ、接触処理液をペレットの流れに対して並流又は向流で接触させ、連続的にペレットを抜き出す連続式の処理方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-316276号公報
【特許文献2】特開2004-107457号公報
【特許文献3】特開2010-195989号公報
【特許文献4】特開2012-092310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3、4には、連続式の処理方法の例として、ペレットを含有する接触処理液を貯留する槽に、ペレットを該槽上部から供給し、該槽側面から接触処理液の一部を抜き出し、且つ該ペレットを含有する接触処理液の一部を該槽の下部から取り出す方法が開示されている。
更に、接触処理後に抜き出した接触処理液は、微粉除去機を経由させた後、循環タンク
へ回収し、該槽へ再度供給してリサイクル使用できることも開示されている。
【0008】
しかし、該槽に供給されたペレットの一部が、該槽側面の液抜出ラインから接触処理液とともに流出し、微粉除去機等の装置を詰まらせることがあった。そのため、微粉除去機等の清掃に時間がかかり、生産性を落とすという問題があった。
本発明は、上記問題を解決するものであり、生分解性樹脂の液抜出ラインからの流出を抑制し、オリゴマー含有量の少ない生分解性樹脂を連続的に製造できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して検討を行った結果、接触処理液と生分解性樹脂との比重差を特定の範囲とし、且つ特定の特徴を有する設備を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。及び
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]底面及び側面を有し接触処理液を貯留する処理槽に、樹脂供給ラインを通じて、生分解性樹脂を供給する樹脂供給工程と、
前記処理槽内で、前記樹脂供給ラインから供給された前記生分解性樹脂と、前記接触処理液とを接触させる接触処理工程と、
前記処理槽側面から、液抜出ラインを通じて、前記接触処理液の一部を抜き出す液抜出工程と、
前記処理槽底面から、樹脂抜出ラインを通じて、前記生分解性樹脂を抜き出す樹脂抜出工程と、
を有する生分解性樹脂の製造方法であって、
前記接触処理液と前記生分解性樹脂との比重差が0.29以上であり、
下記特徴1~特徴3のうち少なくとも1つの特徴を有する、生分解性樹脂の製造方法。
(特徴1)前記樹脂供給ラインの樹脂出口が、前記処理槽内に貯留された前記接触処理液の水面よりも下方に位置する。
(特徴2)前記液抜出ラインが、屈曲部を有する。
(特徴3)前記処理槽と前記液抜出ラインとの接合部が、樹脂流出防止設備を有する。[2]前記生分解性樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂及び/又は脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂である、[1]に記載の生分解性樹脂の製造方法。
[3]前記生分解性樹脂が、脂肪族ポリエステル系樹脂である[1]に記載の生分解性樹脂の製造方法。
[4]前記生分解性樹脂の形状がペレット形状である、[1]~[3]のいずれかに記載の生分解性樹脂の製造方法。
[5]前記接触処理工程における前記接触処理液の温度が、25℃以上且つ前記生分解性樹脂の融点以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の生分解性樹脂の製造方法。
[6]前記接触処理液がアルコールを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の生分解性樹脂の製造方法。
[7]前記樹脂抜出ラインから供給された生分解性樹脂の環状二量体含有量が、100質量ppm以上4000質量ppm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の生分解性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法は、生分解性樹脂の液抜出ラインからの流出を抑制し、環状オリゴマー含有量の少ない生分解性樹脂を連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明で採用する樹脂供給工程、接触処理工程、液抜出工程、及び樹脂抜出工程の一実施形態を示す概略図である。
図2】本発明で採用する乾燥工程の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~ 」を用いて
その前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、端点である下限及び上限の値を含むものとして用いることとする。
【0013】
本明細書において、“質量%” 、“質量ppm”及び“質量部”と、“重量%”、“
重量ppm”及び“重量部”とは、それぞれ同義である。
【0014】
[生分解性樹脂]
本発明の生分解性樹脂とは、生分解性を有するものであればよく、特に制限はないが、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂及び脂肪族オキシカルボン酸系樹脂等が挙げられる。
【0015】
なお、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂は、それぞれ繰返し単位を有する重合体であるが、それぞれの繰返し単位は、それぞれの繰返し単位の由来となる化合物に対する化合物単位とも呼ぶ。例えば、脂肪族ジオールに由来する繰返し単位を「脂肪族ジオール単位」、脂肪族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を「脂肪族ジカルボン酸単位」、芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位を「芳香族ジカルボン酸単位」とも呼ぶ。
【0016】
また、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂中の「主構成単位」とは、通常、その構成単位が当該ポリエステル系樹脂中に80質量%以上含まれる構成単位のことであり、主構成単位以外の構成単位が全く含まれない場合もある。
【0017】
<脂肪族ポリエステル系樹脂>
本発明で用いる脂肪族ポリエステル系樹脂としては、脂肪族ジオール単位及び脂肪族ジカルボン酸単位を主構成単位として含む脂肪族ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0018】
本発明で用いる脂肪族ポリエステル系樹脂は、全ジカルボン酸単位中のコハク酸単位の割合が5モル%以上100モル%以下であることが好ましい。脂肪族ポリエステル系樹脂は、コハク酸単位の量が異なる脂肪族ポリエステル系樹脂の混合物であってもよく、例えば、コハク酸以外の脂肪族ジカルボン酸単位を含まない(脂肪族ジカルボン酸単位としてコハク酸単位のみを含む)脂肪族ポリエステル系樹脂と、コハク酸以外の脂肪族ジカルボン酸単位を含む脂肪族ポリエステル系樹脂とをブレンドして、脂肪族ポリエステル系樹脂におけるコハク酸単位量を上記好適範囲内に調整して使用することも可能である。
【0019】
より具体的には、脂肪族ポリエステル系樹脂は、下記式(1)で表される脂肪族ジオール単位、及び下記式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を含むポリエステル系樹脂である。
-O-R-O- (1)
-OC-R-CO- (2)
【0020】
上記式(1)中、Rは、2価の脂肪族炭化水素基を表す。また、上記式(2)中、Rは、2価の脂肪族炭化水素基を表す。上記式(1)、(2)で表される脂肪族ジオール単位、脂肪族ジカルボン酸単位は、石油から誘導された化合物由来であっても、植物原料から誘導された化合物由来であってもかまわないが、植物原料から誘導された化合物由来
であることが望ましい。
【0021】
式(1)で表されるジオール単位を与える脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、成形性や機械強度の観点から、炭素数が2以上10以下の脂肪族ジオールが好ましく、炭素数4以上6以下の脂肪族ジオールが特に好ましい。例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4-ブタンジオールが特に好ましい。なお、上記脂肪族ジオールは、2種類以上を用いることもできる。
【0022】
式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を与える脂肪族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、炭素数が2以上40以下の脂肪族ジカルボン酸やそのアルキルエステル等の誘導体が好ましく、炭素数が4以上10以下の脂肪族ジカルボン酸やそのアルキルエステル等の誘導体が特に好ましい。コハク酸以外の炭素数が4以上10以下の脂肪族ジカルボン酸やそのアルキルエステル等の誘導体としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等やそのアルキルエステル等の誘導体が挙げられ、中でもアジピン酸、セバシン酸が好ましく、アジピン酸が特に好ましい。なお、上記脂肪族ジカルボン酸成分は、2種類以上を用いることもでき、この場合、コハク酸とアジピン酸との組み合わせが好ましい。
【0023】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、脂肪族オキシカルボン酸に由来する繰返し単位(脂肪族オキシカルボン酸単位)を有していてもよい。脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分の具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸等、又はこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステル等の誘導体が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体又はラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体又は水溶液のいずれであってもよい。これらの中で特に好ましいものは、乳酸又はグリコール酸或いはその誘導体である。これら脂肪族オキシカルボン酸は単独でも、2種以上の混合物としても使用することもできる。
【0024】
<脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂>
脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂としては、上述の脂肪族ポリエステル系樹脂の繰り返し単位の少なくとも一部が、芳香族化合物単位に置き換えられたもの、好ましくは、上述の脂肪族ポリエステル系樹脂の脂肪族ジカルボン酸単位の一部が芳香族ジカルボン酸単位に置き換えられた、脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位と芳香族ジカルボン酸単位とを主構成単位として含むポリエステル系樹脂が例示される。
【0025】
芳香族化合物単位としては、例えば、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有する芳香族ジオール単位、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有する芳香族ジカルボン酸単位、置換基を有していてもよい芳香族複素環基を有する芳香族ジカルボン酸単位、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を有する芳香族オキシカルボン酸単位等が挙げられる。芳香族炭化水素基、芳香族複素環基は、単環でもよいし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでもよい。芳香族炭化水素基の具体例としては、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、ジナフチレン基、ジフェニレン基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては2,5-フランジイル基等が挙げられる。
【0026】
芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分の具体例としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸等が挙げられる。中でも、テレフタル酸が好ましい。
【0027】
芳香族ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸化合物の誘導体でもよい。例えば、上記に例示した芳香族ジカルボン酸成分の誘導体が好ましく、中でも、炭素数1以上4以下である低級アルキルエステルや、酸無水物等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸化合物の誘導体の具体例としては、上記例示した芳香族ジカルボン酸成分のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等の低級アルキルエステル;無水コハク酸等の上記例示した芳香族ジカルボン酸成分の環状酸無水物;等が挙げられる。中でも、ジメチルテレフタレートが好ましい。
【0028】
芳香族ジオール単位を与える芳香族ジオール成分の具体例としては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4’-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-β-ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等が挙げられる。芳香族ジオール成分としては、芳香族ジオール化合物の誘導体でもよい。また、複数の脂肪族ジオール化合物及び/又は芳香族ジオール化合物が互いに脱水縮合した構造を有する化合物であってもよい。
【0029】
芳香族オキシカルボン酸単位を与える芳香族オキシカルボン酸成分の具体例としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等が挙げられる。芳香族オキシカルボン酸成分としては、芳香族オキシカルボン酸化合物の誘導体でもよい。また、複数の脂肪族オキシカルボン酸化合物及び/又は芳香族オキシカルボン酸化合物が互いに脱水縮合した構造を有する化合物(オリゴマー)であってもよい。即ち、原料物質としてオリゴマーを用いてもよい。
【0030】
これら芳香族化合物単位を与える芳香族化合物成分に光学異性体が存在する場合には、D体、L体、及びラセミ体のいずれを用いてもよい。また、芳香族化合物成分としては、芳香族化合物単位を与えることができれば、上記の例に限定されるものではない。更に、芳香族化合物成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ、及び比率で併用してもよい。
【0031】
脂肪族ポリエステル系樹脂及び脂肪族-芳香族ポリエステル系樹脂の製造方法は、ポリエステルの製造に関する公知の方法が採用できる。また、ポリエステル製造の際の重縮合反応は、従来から採用されている適切な条件を設定することができ、特に制限されない。通常、エステル化反応を進行させた後、減圧操作を行うことによって更に重合度を高める方法が採用される。更に、後述の接触処理工程によって、ポリエステル系樹脂中の環状オリゴマー含有量を低減できる。
【0032】
<脂肪族オキシカルボン酸系樹脂>
本発明で用いる脂肪族オキシカルボン酸系樹脂は、脂肪族オキシカルボン酸単位を主構成単位とするものであり、その脂肪族オキシカルボン酸単位は、下記式(3)で表されることが好ましい。
-O-R-CO- (3)
(上記式(3)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基又は2価の脂環式炭化水素基を表す。)
【0033】
式(3)の脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分の具体例としては、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、或いはこれらの混合物等が挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体のいずれでもよい。これらの中で好ましいものは、乳酸又は
グリコール酸である。これら脂肪族オキシカルボン酸成分は、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0034】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂としては、特にポリ乳酸(PLA)が好ましい。また、生分解性に影響を与えない範囲で、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂にはウレタン結合、アミド結合、カーボネート結合、エーテル結合等を導入することができる。
【0035】
脂肪族オキシカルボン酸系樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、オキシカルボン酸の直接重合法、或いは環状体の開環重合法等公知の方法で製造することができる。更に、後述の接触処理工程によって、脂肪族オキシカルボン酸系樹脂中の環状オリゴマー含有量を低減できる。
【0036】
<生分解性樹脂の物性>
本発明において、接触処理液と接触させる生分解性樹脂の固有粘度(IV、dL/g)、及び接触処理液と接触処理させた後の生分解性樹脂の固有粘度は、下限が1.4dL/gであることが好ましく、特に好ましくは、1.6dL/gである。上限は2.8dL/gが好ましく、更に好ましくは2.5であり特に好ましくは2.3dL/gである。固有粘度が下限未満であると、成形品にしたとき十分な機械強度が得にくい。固有粘度が上限超過であると、成形時に溶融粘度が高く成形しにくい。
【0037】
[生分解性樹脂の製造方法]
本発明の生分解性樹脂の製造方法は、樹脂供給工程と、接触処理工程と、液抜出工程と、樹脂抜出工程と、を有し、接触処理液と生分解性樹脂との比重差が0.29以上であり、後述する特徴1~特徴3のうち少なくとも1つの特徴を有する。
【0038】
接触処理工程において生分解性樹脂を接触処理液に接触させる処理(以下、接触処理と言うことがある。)を行い、生分解性樹脂中に含有される環状オリゴマーを接触処理液に抽出することにより、生分解性樹脂中の環状オリゴマー含有量を低減できる。更に接触処理液と生分解性樹脂との比重差が0.29以上であることと、後述する特徴1~特徴3のうち少なくとも1つの特徴に起因して、生分解性樹脂の液抜出ラインからの流出を抑制し、生分解性樹脂を連続的に製造できる。
以下、各工程について説明する。
【0039】
[樹脂供給工程]
樹脂供給工程では、底面及び側面を有し接触処理液を貯留する処理槽に、樹脂供給ラインを通じて、生分解性樹脂を供給する。樹脂供給工程で供給する生分解性樹脂は、前述の通り公知の方法によって製造できる。
【0040】
<樹脂形状>
樹脂供給工程で供給する生分解性樹脂の形状としては、例えばペレット形状が挙げられ、球状、円柱状、楕円柱状、長円柱状、角柱状、繭玉状など、及びこれらが扁平になったものなどがある。ペレットの大きさは特に制限はないが、接触処理による環状オリゴマーの抽出効率や乾燥工程の乾燥効率、ペレット移送操作性等の観点からペレット一粒当たりの重量は1から50mg、好ましくは3から40mg、更に好ましくは5から30mgである。また質量当たりのペレット表面積が大きいほうが接触処理工程における抽出効率の点から好ましい。
【0041】
<接触処理液>
(液組成)
接触処理液としては、通常はメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール
などのアルコール類と水の混合物であり、この中でも特に、取扱い易さ、価格、抽出効率、安全性などの面から水/エタノール混合液が好ましい。
ケトン類、エーテル類及びエステル類からなる群より選択された水可溶性有機溶剤を接触処理液として用いる方法もあるが、生分解性樹脂の食品包装材用途の観点からアルコールが好ましい。
【0042】
(混合比率)
生分解性樹脂と接触させる及び接触処理液全体に対する水の割合は、通常10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。また、通常99質量%以下であり、好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、特に好ましくは85質量%以下である。
【0043】
水の混合割合を少なく(アルコールの割合を増加)すると、アルコール分解による分子量低下により、生分解性樹脂の品質が低下する傾向がある。また、アルコール使用割合を多くすると、使用時の液及び当該液から発生するガスの爆発危険性が高くなるなど、安全性の観点から取り扱いに注意を要する。一方、水の割合が上限を超えると、環状オリゴマー除去が十分でなく、望ましい品質の生分解性樹脂が得られない場合がある。
【0044】
(生分解性樹脂と接触処理液との比重差)
生分解性樹脂と接触処理液との比重差は、下限が0.29、好ましくは0.30、特に好ましくは0.31である。比重差が下限未満であると、生分解性樹脂が接触処理液の表面に浮遊し、槽側面から接触処理液の一部とともに流出し、微粉除去機を詰まらせる場合があり、生分解性樹脂のハンドリング面及び生産性の面で不利である。
生分解性樹脂と接触処理液との比重差の上限は、特に限定されないが、通常0.50以下である。
【0045】
<樹脂供給ライン>
樹脂供給ラインの樹脂出口は、処理槽内に貯留された接触処理液の水面よりも下方に位置することが好ましい(特徴1)。
樹脂供給ラインの出口を、接触処理液の水面よりも下方に設置することにより、生分解性樹脂が接触処理液の水面よりも下方から供給され、生分解性樹脂の浮遊を抑制し、液抜出ラインからの生分解性樹脂の流出を抑制できる。
【0046】
接触処理液の水面から樹脂供給ラインの樹脂出口までの距離は、下限が通常0.1m、好ましくは0.3m、より好ましくは0.5mである。距離が下限未満であると、生分解性樹脂が浮遊し、液抜出ラインから流出しやすくなる。一方、上限に制限は無いが、通常2.0mである。
樹脂供給ラインは、通常接触処理液の水面に対して垂直に設けるが、角度を設けても構わない。
【0047】
[接触処理工程]
接触処理工程では、処理槽内で、樹脂供給ラインから供給された生分解性樹脂と接触処理液とを接触させる。
【0048】
(接触温度)
生分解性樹脂と接触処理液とを接触させる際の接触処理液の温度は、下限が好ましくは25℃であり、より好ましくは30℃、更に好ましくは35℃、特に好ましくは40℃である。上限は通常生分解性樹脂の融点であり、好ましくは95℃、更に好ましくは90℃、特に好ましくは85℃である。接触させる温度を下限未満にすると、処理時間に長時間を必要とし、経済的に不利となるばかりでなく、オリゴマー除去効果の低下により、望ま
しい品質の生分解性樹脂が得られない場合がある。一方、接触させる温度が上限を超えると、加水分解、アルコール分解により粘度低下が大きくなり、品質を損なうばかりでなく、生分解性樹脂間の融着や生分解性樹脂の抜き出し不良を引き起こすなど運転面にも困難を伴う。
【0049】
(接触時間)
生分解性樹脂と接触処理液を接触させる時間は、下限が通常0.1時間、好ましくは1時間、更に好ましくは3時間である。上限は通常24時間であり、好ましくは18時間、更に好ましくは10時間である。接触させる時間が下限未満であると、オリゴマー除去が十分でなく、望ましい品質の生分解性樹脂が得られない場合がある。一方、接触させる時間が上限を超えると、加水分解、アルコール分解により粘度低下が大きくなり、品質を損なう場合がある。
【0050】
(生分解性樹脂と接触処理液との質量比)
接触させる生分解性樹脂と接触処理液との比(処理液/樹脂比)は、質量比にして下限が通常1.0以上、好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上である。上限は通常50以下であり、好ましくは30以下、更に好ましくは20以下である。接触させる樹脂と液の質量比が下限未満であると、処理中の処理液中の環状オリゴマー濃度増加により環状オリゴマー除去効果が低下し、望ましい品質の生分解性樹脂が得られない場合がある。一方、接触させる樹脂と液の質量比が上限を超えると、使用する接触処理液量が多いことによる設備の大型化、接触処理液のコスト増加などプロセス面、コスト面で不利である。
【0051】
(接触方法)
生分解性樹脂と接触処理液とを接触させる態様としては、回分式と連続式があり、いずれの態様も採用することができる。
本発明における回分式の態様としては、処理槽に生分解性樹脂と接触処理液を入れて所定温度で、所定時間接触処理させた後、抜き出す方法が挙げられる。生分解性樹脂と接触処理液との接触処理は、接触処理液の循環下で行うこともできるし、非循環下で行うこともできる。
本発明における連続式の態様としては、配管、又は処理槽に生分解性樹脂を連続的に供給しつつ、所定温度の接触処理液を生分解性樹脂の流れに対して並流、又は向流で接触させ所定の接触時間を保持しつつ連続的に生分解性樹脂を抜き出す方法などがある。
【0052】
[液抜出工程]
液抜出工程では、処理槽側面から液抜出ラインを通じて接触処理液の一部を抜き出す。
【0053】
<液抜出ライン>
液抜出ラインは、屈曲部を有することが好ましい(特徴2)。液抜出ラインに屈曲部を設けることにより、生分解性樹脂の液抜出ラインからの流出を抑制する。屈曲部を有する場合は、通常1か所であるが、それ以上有していても構わない。
【0054】
(液抜出ラインの配管径)
液抜出ラインの配管の口径は、下限が通常10A、好ましくは20A、特に好ましくは40Aである。上限は通常200A、好ましくは150A、特に好ましくは100Aである。配管径を下限未満にすると、生分解性樹脂の流出が少なくなるが、接触処理液の抜出に時間がかかり、生産性が低下する。一方、配管径が上限を超えると、生分解性樹脂の流出量が増加するなど運転面に困難を伴うことがある。
【0055】
(屈曲部の角度θ)
液抜出ラインが屈曲部を有する場合、屈曲部の角度θは、下限が通常1°、好ましくは5°、特に好ましくは10°である。角度θが下限未満であると、生分解性樹脂の流出抑制効果が得られない。一方、上限に制限はないが、工業的に合理的な構造としては通常90°である。なお、屈曲部の角度θとは、図1においてθで表される部分の角度である。
【0056】
(処理槽から屈曲部までの距離)
液抜出ラインが屈曲部を有する場合、処理槽から屈曲部までの距離は、上限が通常20m、好ましくは10m、特に好ましくは5mである。距離が上限を超えると、設備間の距離増大により経済的に不利である。一方、下限に制限はないが、工業的に合理的な構造としては通常0.1mである。
【0057】
本発明において、液抜出ラインから抜き出した接触処理液は蒸留で回収しリサイクル使用できる。また、接触処理工程において生分解性樹脂から抽出された環状二量体を含んだオリゴマー類は、冷却などにより接触処理液と分離された後、又は濃縮された後に、生分解性樹脂の原料として使用することができる。
液抜出ラインから抜き出した接触処理液は、そのまま循環再利用することもできるし、抜き出した接触処理液の一部を廃棄し、廃棄した量だけ新たに接触処理液を追加することもできる。
接触処理後、蒸留濃縮及び又は冷却などにより接触処理液と分離されたオリゴマー類は、一旦溶融状態或いは原料に加熱溶解させた溶液とした後、生分解性樹脂の原料として回収することができる。
【0058】
<処理槽と液抜出ラインとの接合部>
処理槽と液抜出ラインとの接合部に、樹脂流出防止設備を設けることが好ましい(特徴3)。樹脂流出防止設備は、特に限定されないが、生分解性樹脂のサイズ以下の網目を有する格子や、処理槽から液抜出ラインへの流れを阻害する邪魔板等が挙げられる。
【0059】
[樹脂抜出工程]
樹脂抜出工程では、処理槽底面から、樹脂抜出ラインを通じて、生分解性樹脂を抜き出す。
樹脂抜出ラインから供給された生分解性樹脂の環状二量体含有量は、下限は好ましくは1質量ppm以上であり、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは500質量ppm以上、特に好ましくは1000質量ppm以上である。上限が通常6,000質量ppm以下であり、好ましくは5000質量ppm以下、更に好ましくは4,000質量ppm以下、特に好ましくは3,500質量ppm以下である。環状二量体量が下限未満であると、品質的に良好であるが、オリゴマー除去に要する時間の長期化による設備大型化のため経済的に不利である。上限を超えると、生分解性樹脂成形後一定期間放置すると、その表面に曇り(ブリードアウト、白化現象と同義。)が生じて表面光沢が消失するなどの不具合を生ずる。
【0060】
なお、本発明において環状二量体及び環状オリゴマーとは、脂肪族ジオール或いは脂環式ジオールと、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸或いは芳香族ジカルボン酸とを主原料として得られるポリエステルの一部が環化して副生する化合物であり、それぞれ脂肪族ジオール或いは脂環式ジオールと、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸或いは芳香族ジカルボン酸からなる環状二量体及び環状オリゴマーである。生分解性樹脂中の該化合物の含有量を低減することで、生分解性樹脂の表面外観の低下や、成形時の生産性の低下を抑制できる。
本発明において環状二量体は、例えば以下の一般式(A)で表すことができる。
【0061】
【化1】
式(A)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、炭素数が1~40の脂肪族炭化水素基、炭素数が3~40の脂環式炭化水素基又は炭素数が6~40の芳香族炭化水素基を表す。脂肪族炭化水素基の場合は、直鎖状脂肪族炭化水素基であってもよく、分岐鎖状脂肪族炭化水素基であってもよい。脂環式炭化水素基の場合は、単環でもよいし、複数の環が互いに結合、又は縮合したものでもよい。
【0062】
一般式(A)で表される環状二量体としては、例えば、R及びRが炭素数4の直鎖状脂肪族炭化水素基であり、R及びRが炭素数2の直鎖状脂肪族炭化水素基である環状二量体や、R及びRが炭素数4の直鎖状脂肪族炭化水素基であり、Rが炭素数2の直鎖状脂肪族炭化水素基であり、Rが炭素数4の直鎖状脂肪族炭化水素基である環状二量体等が挙げられる。
【0063】
[乾燥工程]
(乾燥方法)
接触処理された生分解性樹脂はエタノール、水などの接触処理液を含んでいるのでこれらを除くために乾燥工程において乾燥することが好ましい。
乾燥工程で用いる乾燥機には、乾燥ガスとして加熱空気或いは加熱窒素等の不活性ガスを流通させる、棚段式の乾燥機、バンド乾燥機、横型円筒回転乾燥機、回転翼付き横型乾燥機、回転翼付き縦型乾燥機(いわゆるホッパードライヤー型乾燥機)、移動床式縦型乾燥機、流動床式乾燥機などがある。また、上記のガス流通方式と異なる乾燥機としてはダブルコーン型回転真空乾燥機、タンブラー型回転真空乾燥機、マイクロ波乾燥機などがある。
【0064】
これらは回分式、半回分式、連続式で行うことができるが大量生産には生産効率の観点から連続式が好ましい。また、設備が複雑にならないことより、移動床式縦型乾燥機、或いはこれを複数段連続したものは好ましく使用できる。
【0065】
(乾燥温度)
乾燥温度はガス温度として下限は通常25℃であり、好ましくは30℃、更に好ましくは35℃、特に好ましくは40℃である。上限は通常生分解性樹脂の融点であり、好ましくは生分解性樹脂の融点マイナス5℃、更に好ましくは生分解性樹脂の融点マイナス8℃、特に好ましくは生分解性樹脂の融点マイナス10℃である。温度を下限未満にすると、乾燥時間に長時間を必要とし、経済的に不利となる。一方、温度が上限を超えると、生分解性樹脂同士の融着や生分解性樹脂を乾燥機から抜き出す際の抜出し不良を引き起こすなど運転面に困難を伴うことがある。乾燥機を通過した乾燥ガスは水、エタノールなどの接触処理液成分を含んでおり、乾燥ガスの冷却、吸着などにより接触処理液成分を減少させ、乾燥ガスとして再利用することができる。
【0066】
(乾燥時間)
乾燥時間は、通常0.1~100時間、好ましくは1~80時間、より好ましくは5~50時間である。乾燥ガスの流速は移動床式の場合、通常0.05~1.0m/秒(空塔速度)である。乾燥後の生分解性樹脂はアルコール含有量の上限が、通常1000質量ppm、好ましくは800質量ppm、より好ましくは500質量ppmである。含有アル
コールが多いと生分解性樹脂を溶融成形時に溶融粘度の低下が著しく成形性不良となる傾向がある。下限は少ないほど良好であるが、工業的に合理的に得る濃度としては通常50質量ppmである。通常乾燥後の生分解性樹脂の水分含有量はアルコール含有量より少なくなる。生分解性樹脂の水分含有量は1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは250質量ppm以下である。水分が多いと生分解性樹脂を溶融成形時に加水分解によるIVの低下が著しく成形性不良となり成形品物性の低下する傾向がある。
【0067】
<製造プロセス例>
以下に例として、接触処理に用いる液体としてエタノールと水を含有する混合液、生分解性樹脂としてポリエステルペレットを用いた生分解性樹脂の製造方法の好ましい実施態様を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
以下、添付図面に基づき、生分解性樹脂の製造方法の好ましい実施態様を説明する。図1は、本発明で採用する樹脂供給工程、接触処理工程、液抜出工程、及び樹脂抜出工程の一例の説明図である。接触処理液としてのエタノール/水は循環タンク(I)からポンプ(IX)により熱交換器(II)を経由し温度コントロールされ、接触処理液供給ライン(101)より処理槽(III)へ供給される。処理槽内でペレットと向流接触させた後、抜出ライン(102)より抜き出し、微粉除去機(IV)を経由して、循環タンク(I)へ回収する。
【0069】
接触処理に供するペレットはペレット供給ライン(103)より連続的に供給され、所定時間エタノール/水と接触処理された後、ロータリーバルブ(V)で抜き出し量を調整しながら抜出ライン(104)より連続的に抜き出す。ペレットに同伴して抜き出された接触処理液は、予備固液分離機(VI)で分離され、回収タンク(VII)を経由後、ポンプ(X)により供給ライン(105)を通じて、回収ライン(106)へ戻す。循環タンク(I)からは抜出ライン(107)より、接触処理液の抜き出しを連続的に行う。供給ライン(108)からは抜き出された接触処理液相当量のエタノール/水を供給する。連続的に抜き出されたペレットは予備固液分離機で同伴された接触処理液と分離された後、固液分離機(VIII)を経由し、乾燥工程へ連続的に供給される。
【0070】
図2は、本発明で採用する乾燥工程の一例の説明図である。図示したのは乾燥塔を二基(I)、(K)備えた例である。
接触処理工程を終えたポリエステルペレットはペレット供給ライン(201)を経て第一乾燥塔(I)に連続的に供給される。第一乾燥塔には加熱乾燥窒素ガスを供給ライン(208)から連続的に導入し、ガス回収ライン(207)より排出する。排出されたガスはコンデンサー(L)を経て熱交換器(N)で加熱され供給ライン(208)を経て第一乾燥塔へ循環使用される。コンデンサー(L)、熱交換器(M)で凝縮された接触処理液は抜出しライン(210)から抜出す。新乾燥ガス供給ライン(209)からは新たな乾燥窒素ガスを供給する。ペレットは第一乾燥塔からロータリーバルブ(O)を経て冷却塔(J)へ連続的に送られる。冷却塔へは冷却ガス供給ライン(212)から乾燥空気が導入され冷却ガス抜出ライン(211)から放出される。
【0071】
第一乾燥塔の乾燥温度より低温側に冷却されたペレットはペレット抜出ライン(204)、ロータリーバルブ(P)、ペレット供給ライン(205)を経て、第二乾燥塔(K)へ供給される。第二乾燥塔へは乾燥ガス(通常空気)を熱交換器(S)、乾燥ガス供給ライン(214)を経て供給し、抜出ライン(213)より排出する。
第二乾燥塔へ供給する空気温度は通常第一乾燥塔へ供給する窒素ガス温度より低く例えば窒素ガス温度80℃、空気温度50℃である。
【0072】
乾燥後のポリエステルペレットはロータリーバルブ(Q)ペレット抜き出しライン(206)を経て連続的に又は間歇的に抜き出され、貯蔵タンク、微粉除去機、包装機などを経て、製品となる。貯蔵タンクは第二乾燥塔と兼用させることもできる。本図では貯蔵タンク以降は図示していない。
【0073】
本発明で得られる生分解性樹脂の環状二量体含有量は、下限は好ましくは1質量ppm以上であり、より好ましくは100質量ppm以上、更に好ましくは500質量ppm以上、特に好ましくは1000質量ppm以上である。上限が通常6,000質量ppm以下であり、好ましくは5000質量ppm以下、更に好ましくは4,000質量ppm以下、特に好ましくは3,500質量ppm以下である。環状二量体量が下限未満であると、品質的に良好であるが、オリゴマー除去に要する時間の長期化による設備大型化のため経済的に不利である。上限を超えると、生分解性樹脂成形後一定期間放置すると、その表面に曇り(ブリードアウト、白化現象と同義。)が生じて表面光沢が消失するなどの不具合を生ずる。
【実施例0074】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例で採用した物性及び評価項目の測定方法は次の通りである。
【0075】
<固有粘度(IV)dL/g>
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度0.5g/dLのポリマー溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(1)より求めた。
IV=((1+4Kηsp0.5-1)/(2KC)・・・(1)
ただし、式(1)において、ηSP=η/η-1であり、ηは試料溶液落下秒数、ηは溶媒の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
【0076】
<ペレットの環状二量体含有量の定量質量 ppm>
試料0.5gを精秤量し、クロロホルム10mLを加え、室温で溶解後、エタノール/水混合液(容量比4/1)30mLを攪拌下ゆっくりと滴下し、ポリマー成分を沈殿させた。15分後、攪拌を止め、90分間静置分離を行った。次いで、上澄み液を2mL採取し、蒸発乾固させた後、アセトニトリルを2mL加え溶解させた。口径0.45μmのフィルターで濾過した後、島津製作所製液体クロマトグラフィー「Prominence」を用い、移動相をアセトニトリル/水(容量比=4/6)とし、カラムは大阪ソーダ社製「CAPCELL PAK C-18 TYPE MGII」を用いてCDを定量しペレットに対する質量ppmで表した。
【0077】
環状二量体の定量には、環状二量体純粋品を用いた絶対検量線法を採用した。環状二量体純粋品は下記のようにして得られた。すなわち、コハク酸と1,4-ブタンジオールを重合して得られたポリマーペレットをアセトン中50℃で12時間撹拌して、オリゴマー成分を抽出した。抽出終了後、ペレットを濾別し、オリゴマー成分を抽出したアセトン溶液から、アセトンを揮発させて固形物を得た。この固形物をアセトン中50℃で飽和溶液となるように溶解した後、徐冷し、上澄みを捨て、針状の析出物を取り出し、更に数回この再結晶操作を繰り返して精製した。この針状析出物は、H-NMR分析及び高速液体クロマトグラフ分析にて環状二量体であることが確認された。
【0078】
(実施例1)
脂肪族ジカルボン酸としてコハク酸、脂肪族ジオールとして1,4-ブタンジオール、
多官能化合物としてリンゴ酸を原料とするポリエステルペレットを、生分解性樹脂として用いて接触処理を行った。用いたペレットの固有粘度は1.80±0.05dL/g、環状二量体量は9000ppmであり、品質の安定したポリエステルペレットであった。
【0079】
[ポリエステルペレットの接触処理]
図1に示す樹脂供給工程、接触処理工程、液抜出工程、及び樹脂抜出工程により、ポリエステルペレットの接触処理を行った。接触処理液として用いるエタノールと水との混合液は、循環タンク(I)からポンプ(IX)により熱交換器(II)を経由して70℃に制御され、供給ライン(101)より処理槽(III)へ供給した。接触処理液のエタノール(以下、EtOHと略記することがある)と水の割合は、接触処理液全体に対して水を60質量%とした。処理槽内における接触処理液とペレットの質量比は5とした(処理液/ペレット比)。
【0080】
接触処理液は、処理槽内でペレットと向流接触させた後、処理槽側面に取り付けた結合部から0.5m離れた箇所に角度θ=45°の屈曲部を有する抜出ライン(102)より抜き出し、微粉除去機(IV)を経由して循環タンク(I)へ回収した。接触処理に供するペレットは、処理槽(III)内の処理液の水面から0.75m浸漬させた供給ライン(103)より連続的に処理液内に供給され、4時間接触処理液と接触させた後、ロータリーバルブ(V)で抜出ライン(104)より連続的に抜き出した。ペレットに同伴して抜き出された接触処理液は、予備固液分離機(VI)で分離され、回収タンク(VII)を経由後、ポンプ(X)により供給ライン(105)を通じて、回収ライン(106)へ戻した。循環タンク(I)からは抜出ライン(107)より、接触処理液の抜き出しを連続的に行い、その量は接触処理液全循環流量の1/20(流量比)とした。供給ライン(108)からは抜き出された接触処理液に相当する量のエタノールと水を循環タンク(I)へ供給した。連続的に抜き出されたペレットは予備固液分離機(IV)で同伴された接触処理液と分離された後、固液分離機(VIII)より抜出ライン(109)を経由し、乾燥工程へ連続的に供給された。
【0081】
[ポリエステルペレットの乾燥]
乾燥は図2に示す乾燥工程により行った。第一乾燥塔の乾燥窒素ガスは純度99%以上(露点マイナス40℃)、ガス温度80℃、ガス(空塔)速度0.125m/秒、ペレット滞留時間15時間、第二乾燥塔の乾燥空気(露点マイナス40℃)温度50℃、ガス(空塔速度)0.125m/秒、ペレット滞留時間24時間で行った。
【0082】
乾燥後のサンプルについて測定した固有粘度の接触処理前の固有粘度に対する比(IV保持率%表示)、及び乾燥後のサンプルの環状二量体含有量、微粉除去機(IV)へのペレット流出量を表1に示す。
【0083】
(実施例2)
脂肪族カルボン酸としてコハク酸とアジピン酸、脂肪族ジオールとして1,4-ブタンジオール、多官能化合物としてリンゴ酸を原料とするポリエステルペレットを生分解性樹脂として用い、処理槽(III)にペレットを供給する供給ライン(103)の出口を該槽に貯留される処理液の水面よりも上方に設置した以外は、実施例1と同様に接触処理を行った。
(比較例1)
比較例1において、処理槽(III)にペレットを供給する供給ライン(103)の出口を、該槽に貯留される処理液の水面よりも上方に設置し、接触処理液全体に対して水を100質量%とした以外は、実施例1と同様に接触処理を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示したように、生分解性樹脂と接触処理液との比重差が0.29未満である場合(比較例1)、微粉除去機(IV)へのペレット流出量が多量となり、運転継続が困難となった。
これに対し、実施例1~2のように比重差が0.29以上であり、かつ特徴1~特徴3のうち少なくとも1つの特徴を備える場合、微粉除去機(IV)へのペレット流出を防止することができ、生産性を落とすことなく、ポリエステルの環状二量体の低減を連続的に行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の製造方法では、生分解性樹脂と接触処理液との比重差を特定の範囲とし、更に接触処理中の生分解性樹脂の流出による装置の閉塞を防止する機構を持つ接触処理装置を使用することで、環状オリゴマー含有量の少ない生分解性樹脂を連続的に製造できる。
【符号の説明】
【0087】
I:循環タンク
II:熱交換器
III:接触処理槽
IV:微粉除去機
V:ロータリーバルブ
VI:予備固液分離機
VII:回収タンク
VIII:固液分離機
IX:ポンプ
X:ポンプ
101:接触処理液供給ライン
102:抜出ライン
103:ペレット供給ライン
104:抜出ライン
105:供給ライン
106:回収ライン
107:抜出ライン
108:供給ライン
109:抜出ライン
I:第一乾燥塔
J:冷却塔
K:第二乾燥塔
L:コンデンサー
M:熱交換器
N:熱交換器
O:ロータリーバルブ
P:ロータリーバルブ
Q:ロータリーバルブ
R:ブロア
S:熱交換器
201:ペレット供給ライン
202:ペレット抜出ライン
203:ペレット供給ライン
204:ペレット抜出ライン
205:ペレット供給ライン
206:ペレット抜出ライン
207:乾燥ガス回収ライン
208:乾燥ガス供給ライン
209:新乾燥ガス供給ライン
210:凝縮液抜出ライン
211:冷却ガス抜出ライン
212:冷却ガス供給ライン
213:乾燥ガス抜出ライン
214:乾燥ガス供給ライン
図1
図2