(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049617
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】焼菓子用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240403BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240403BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20240403BHJP
A21D 2/32 20060101ALI20240403BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240403BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/16
A21D2/32
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155952
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原 隆
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DK01
4B026DK04
4B026DK05
4B026DK10
4B026DL02
4B026DL08
4B026DX05
4B032DB05
4B032DB21
4B032DG02
4B032DK10
4B032DK18
4B032DK26
4B032DK49
4B032DP23
(57)【要約】
【課題】クリーミング性、及び、抱水性が高く、また、焼き菓子、特にラングドシャなどの薄板状焼菓子において、生地流れと焼膨れが抑制され、均一な焼き上がりとすることのできる焼菓子用油脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記(1)~(4)のすべてを満たす焼菓子用油脂組成物である。
(1)リン脂質を含有する。
(2)HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。
(3)ランダムエステル交換油脂を含有する。
(4)油相のSFCが30℃の10~20、10℃で30~50である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(4)のすべてを満たす焼菓子用油脂組成物。
(1)リン脂質を含有する。
(2)HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。
(3)ランダムエステル交換油脂を含有する。
(4)油相のSFCが30℃で10~20、10℃で30~50である。
【請求項2】
上記リン脂質の一部又は全部が水分散型のリン脂質である、請求項1に記載の焼菓子用油脂組成物。
【請求項3】
上記水分散型のリン脂質が、乳由来リン脂質である、請求項2記載の焼菓子用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の焼菓子用油脂組成物を使用した焼菓子。
【請求項5】
上記焼菓子が薄板状焼菓子であることを特徴とする請求項4に記載の焼菓子。
【請求項6】
下記(1)~(4)のすべてを満たす焼菓子用油脂組成物を使用する焼菓子の製造方法。
(1)リン脂質を含有する。
(2)HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。
(3)ランダムエステル交換油脂を含有する。
(4)油相のSFCが30℃で10~20、10℃で30~50である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子、特に薄板状焼菓子の製造に適した焼菓子用油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキーやケーキで使用する焼菓子用油脂は、容易に空気を抱き込むことのできるクリーミング性、卵や牛乳、生クリームなどの水性原料をより多く乳化することのできる抱水性といった物性面に優れることが要求される。これらの特性が良好であることで、扱いやすく、油分分離や水分分離のない生地安定性が良好である焼菓子生地が得られ、更に、口溶けと食感が良好な焼菓子が得られる。
【0003】
ここで、焼菓子の中でもラングドシャに代表される薄板状焼菓子は、すり込み型を使用して薄く均質な生地を天板上に置いた状態で焼成するが、流動性の低い生地であったり焼成固化が早すぎると焼き膨れを起こし、反対に流動性の高い生地であったり焼成固化が遅いと焼成中に焼流れを起こしていわゆる「バリ」が生じるなど、極めて生地物性の調整が難しい。
【0004】
このような薄板状焼菓子製造において生地安定性の向上のために特定の水中油型乳化物を使用する方法(例えば特許文献1・2参照)が提案されている。しかし、これらの方法ではクリーミング性については改良効果がなく、また、生地安定性の向上のために糊化澱粉を使用しているため食感がやや重くなってしまう問題や生地の厚さによっては焼き膨れを起こしやすいという問題があった。
【0005】
一方、焼き菓子生地製造においてクリーミング性を高める方法として特定のエステル交換油を使用する方法(たとえば特許文献3参照)が提案されている。しかしこの方法は抱水性が十分ではなく、また、薄板状焼菓子生地のような水分含量の高い生地では生地中に気泡を保持するのが難しいためクリーミング時に腰抜けしやすく、生地の厚さによっては焼き膨れを起こしやすいという問題があった。
【0006】
また、焼き菓子製造において抱水性を高める方法として特定の乳化剤を使用する方法(例えば特許文献4参照)が提案されている。しかしこの方法はラングドシャのような卵白を多く使用する生地では焼成中に焼き膨れを起こしやすく、均質な厚さと焼き色の薄板状焼菓子が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-198411号公報
【特許文献2】特開2004-073119号公報
【特許文献3】特開2007-135443号公報
【特許文献4】特開平01-63032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の目的は、クリーミング性、及び、抱水性が高く、また、焼き菓子、特にラングドシャなどの薄板状焼菓子において、生地流れと焼膨れが抑制され、均一な焼き上がりとすることのできる焼菓子用油脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、3種の特定の乳化剤及び特定の油脂を使用し、SFCを特定の範囲とした油脂組成物により、上記問題を解決可能であることを知見した。
【0010】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)~(4)のすべてを満たす焼菓子用油脂組成物を提供するものである。
(1)リン脂質を含有する。
(2)HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。
(3)ランダムエステル交換油脂を含有する。
(4)油相のSFCが30℃で10~20、10℃で30~50である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の焼菓子用油脂組成物は、クリーミング性、及び、抱水性が高く、また、焼き菓子、特にラングドシャなどの薄板状焼菓子に使用すると、生地流れと焼膨れが抑制され、均一な焼き上がりとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の焼菓子用油脂組成物について詳細に説明する。
【0013】
まず(1)のリン脂質について述べる。
本発明で使用するリン脂質は、特に限定されるものではなく、食品に使用できるリン脂質であればどのようなリン脂質でも構わない。上記リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸等のジアシルグリセロリン脂質を使用することができ、更に、これらのリン脂質に対し、ホスホリパーゼ等の酵素により酵素処理を行い、乳化力を向上させたリゾリン脂質や、リン脂質及び/又はリゾリン脂質を含有する食品素材を使用することもできる。本発明では、リン脂質としてこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
本発明では、HLB値の高い乳化剤と同様に機能し、乳化安定性を高める点で上記リン脂質の一部又は全部が、水分散型のリン脂質であることが好ましい。水分散型のリン脂質としては、水溶液中でカゼインナトリウム等の高分子蛋白質と複合体を形成させた後濃縮あるいは粉末化した人工の脂質蛋白質複合体や、天然の脂質蛋白質複合体である、生体に存在するリン脂質と蛋白質の複合体(脂質二重膜)等を挙げることができるが、本発明では、昨今の天然物志向に合致すること及び風味が良好であること、更には油脂組成物中での乳化安定性、及び、焼菓子生地の生地安定性が良好であることから、天然の脂質蛋白質複合体を使用することが好ましい。なお、水分散型でないリン脂質を使用することも可能であるが、その場合は、含有量を使用する全リン脂質中50質量%未満とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、使用しないことが最も好ましい。
【0015】
本発明の焼菓子用油脂組成物では、上述の理由から、リン脂質そのものよりも、リン脂質を含有する食品素材を用いることが好ましい。リン脂質を含有する食品素材としては、例えば、卵黄、大豆、及び牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳が挙げられる。本発明では、風味と食感の面から、乳由来のリン脂質を含有する食品素材を用いるのが好ましく、牛乳由来のリン脂質を含有する食品素材を用いるのが更に好ましい。
【0016】
上記乳由来のリン脂質を含有する食品素材を使用する場合は、固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは3質量%以上、最も好ましくは4~40質量%である。
【0017】
また、上記のリン脂質を含有する食品素材は、液体状でも、粉末状でも、濃縮物でも構わない。ただし、溶剤を用いて乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上となるように濃縮した食品素材は、風味上の問題から、本発明においては用いないのが好ましい。
【0018】
上記乳由来のリン脂質を含有する食品素材の固形分中のリン脂質の定量方法は、例えば以下のような方法にて測定することができる。ただし、抽出方法等については乳由来のリン脂質を含有する食品素材の形態等によって適正な方法が異なるため、この定量方法に限定されるものではない。
【0019】
まず、乳由来のリン脂質を含有する食品素材の脂質を、Folch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から、以下の計算式を用いて、乳由来のリン脂質を含有する食品素材の固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳由来のリン脂質を含有する食品素材-乳由来のリン脂質を含有する食品素材の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0020】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材としては、例えば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられる。このクリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、通常のクリームからバターを製造する際に生じるいわゆるバターミルクとは組成が大きく異なり、リン脂質を多量に含有しているという特徴がある。バターミルクは、その製法の違いによって大きく異なるが、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、通常、0.5~1.5質量%程度であるのに対して、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分は、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が、おおよそ、2~15質量%であり、多量のリン脂質を含有している。
【0021】
また、上記水相成分としては、乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上であれば、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をそのまま用いてもよく、また噴霧乾燥、濃縮、冷凍等の処理を施したものを用いてもよい。
【0022】
ただし、乳由来のリン脂質は、高温加熱すると、その機能が低下するため、加温処理や濃縮処理中、あるいは殺菌等により加熱する際は、100℃未満であることが好ましく、60℃未満であることが更に好ましい。
【0023】
また、本発明では、上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材中のリン脂質をリゾ化したものを使用することが好ましい。なお、この場合、上記食品素材を直接リゾ化してもよく、また濃縮した後にリゾ化してもよい。また、得られたリゾ化物に、更に濃縮あるいは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0024】
上記の乳由来の固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置き換える作用を有する酵素である。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。ホスホリパーゼAは作用する部位の違いによってA1、A2に分けられるが、A2が好ましい。
【0025】
また、本発明の焼菓子用油脂組成物において、リン脂質の含有量は、組成物基準で好ましくは0.01~1質量%、より好ましくは0.01~0.1質量%である。リン脂質の含有量が0.01質量%未満では、焼菓子用油脂組成物の乳化安定性が低下しやすく、また、焼膨れが生じやすい。更には得られる焼菓子の口溶けが悪くなりやすい。また1質量%を超えると、抱水性が悪化し、焼き膨れが生じやすくなる。
【0026】
次に、上記(2)について述べる。
本発明の焼き菓子用油脂組成物は、上記(1)のリン脂質に加え、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。リン脂質に加え、この2種の乳化剤を併用することにより、クリーミング性が良好であり、且つ、得られる焼き菓子、特にラングドシャなどの薄板状焼菓子において、生地流れと焼膨れが抑制され、きれいな表面、且つ、バリのない、均一な焼き上がりの薄板状焼菓子とすることができる。
【0027】
上記の3種の乳化剤を併用することで、なぜ上記効果が得られるのかは定かではないが、おそらくは上記3種の乳化剤を併用することで、焼菓子生地の乳化状態が水中油型と油中水型の混在型を形成し、且つ、該乳化状態が生地製造時から焼成時まで安定な状態に保たれることによるものと考えられる。
【0028】
本発明で使用する、リン脂質以外のHLBが7未満の乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム及びポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の乳化剤のうち、HLBが7未満、好ましくはHLBが1~6、より好ましくは2~6のものを使用することができる。これらの乳化剤は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0029】
本発明ではこれらの乳化剤の中でも、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのなかの1種又は2種以上を使用することが好ましく、グリセリン脂肪酸エステル及びソルビタン脂肪酸エステルを併用することがより好ましい。
なお、結合脂肪酸についても特に制限されず、炭素数12~26までの飽和酸や不飽和脂肪酸の中から適宜選択可能であるが、炭素数16~18の不飽和脂肪酸を選択することが好ましい。
【0030】
すなわち、本発明ではHLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)として、結合脂肪酸が炭素数16~18の不飽和脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル及び結合脂肪酸が炭素数16~18の不飽和脂肪酸であるソルビタン脂肪酸エステルを併用することが特に好ましい。
【0031】
本発明の焼菓子用油脂組成物における上記HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質をを除く)の含有量は0.1~2質量部であることが好ましく、0.1~0.5質量部であることがより好ましい。
この範囲とすることで、高いクリーミング性、及び高い抱水性が得られる。
【0032】
本発明で使用するHLBが7以上の乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、及び/又は、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤のうち、HLBが7以上、好ましくはHLBが7~10、より好ましくは7~9のものを使用することができる。これらの乳化剤は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
なお、結合脂肪酸についても特に制限されず、炭素数12~26までの飽和酸や不飽和脂肪酸の中から適宜選択可能であるが、炭素数16~18の不飽和脂肪酸を選択することが好ましい。
またショ糖脂肪酸エステル、及び/又は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の結合数、ポリグリセリン脂肪酸エステルのグリセリンの重合度についてもHLBが上記範囲において適宜選択可能である。
【0033】
すなわち本発明では上記HLBが7以上の乳化剤として、結合脂肪酸が炭素数16~18の不飽和脂肪酸であるショ糖脂肪酸エステル、及び/又は、結合脂肪酸が炭素数16~18の不飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することが特に好ましい。
【0034】
本発明の焼菓子用油脂組成物における上記HLBが7以上の乳化剤の含有量は0.01~0.3質量部であることが好ましく、0.05~0.2質量部であることがより好ましい。
この範囲とすることで、焼菓子生地の生地安定性が良好であり、更には薄板状焼菓子製造時の焼き膨れと焼流れの抑制効果を高くすることができる。
【0035】
本発明の焼菓子用油脂組成物では、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)の含有量100質量部に対し、HLBが7以上の乳化剤の含有量が、10~100質量部であることが好ましく、20~100質量部であることがより好ましい。
【0036】
次に、上記(3)について述べる。
本発明の焼菓子用油脂組成物は、エステル交換油脂を含有する。エステル交換油脂を含有することにより、SFCが横型になり、上記(4)のSFC範囲とすることが容易になることに加え、クリーミング性、特に腰抜けしにくくなるなどクリーミング性が高くなり、また、抱水性をも向上させることができる。
【0037】
上記のエステル交換油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、ハバス油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、ハイエルシン菜種油、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、並びにこれらの各種動植物油脂を必要に応じて水素添加及び/又は分別した後に得られる加工油脂、脂肪酸、及び脂肪酸低級アルコールエステルから選択される1種又は2種以上を用いて製造したエステル交換油脂を使用することができる。
【0038】
上記エステル交換の反応は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよく、また、非選択的(ランダム)エステル反応であっても、位置選択性のエステル交換反応であってもよいが、化学的触媒又は位置選択性のない酵素を用いた、非選択的エステル反応であることが好ましい。
【0039】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記位置選択性のない酵素としては、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂あるいはケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
なお、上記エステル交換反応後、エステル交換反応で生成する少量のトリ飽和トリグリセリドやトリ不飽和トリグリセリドを除去する目的で分別を行ってもよい。
【0040】
本発明の焼菓子用油脂組成物における、上記エステル交換油脂の含有量は、油相中の15~100質量%であることが好ましく、20~100質量%であることがより好ましい。
【0041】
本発明では、上記エステル交換油脂の一部又は全部に、トリグリセリド組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸と炭素数20以上の飽和脂肪酸の両方を含有するトリグリセリドを5質量%以上、より好ましくは10質量%以上含有するエステル交換油脂(a)を使用すると、クリーミング性が高く、特にクリーミング時に腰抜けしにくく、更には高い抱水性を得ることができる。また冷蔵保管温度のような低温から約25℃程度の室温まで一定の硬さと保形性を付与することが可能であるため、焼菓子生地製造時の作業性が良好となる。なお、上記エステル交換油脂(a)における、上記トリグリセリド量の上限については、口溶けに悪影響を及ぼさない観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは30質量%である。
【0042】
また、上記エステル交換油脂(a)は、その構成脂肪酸組成において、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量は好ましくは10~40質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは10~20質量%、且つ、炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が好ましくは10~40質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは10~20質量%であると、上記のクリーミング性及び抱水性と、得られる焼菓子の口溶けが共に優れるという効果を奏することができる。
【0043】
また上記エステル交換油脂(a)は、ヨウ素価52~70のパーム軟部油40~80質量%、好ましくは50~70質量%、炭素数14以下の飽和脂肪酸を50質量%以上、好ましくは60~85質量%含有する油脂10~30質量%、好ましくは15~25質量%、炭素数20以上の飽和脂肪酸を50質量%以上、好ましくは50~70質量%含有する油脂10~30質量%、好ましくは15~25質量%からなる油脂配合物をエステル交換したエステル交換油脂であることが好ましい。
【0044】
上記パーム軟部油とは、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であって、ヨウ素価52~70、好ましくは53~65のものである。
【0045】
上記炭素数14以下の飽和脂肪酸を50質量%以上、好ましくは60~85質量%含有する油脂としては、具体的には、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができ、パーム核油、ヤシ油を好ましく使用することができる。
【0046】
上記炭素数20以上の飽和脂肪酸を50質量%以上、好ましくは50~70質量%含有する油脂としては、具体的には、ハイエルシン菜種油や魚油等の炭素数20以上の不飽和脂肪酸を多量に含有する油脂の極度硬化油を挙げることができ、ハイエルシン菜種油の極度硬化油を好ましく使用することができる。
なお、上記エステル交換の反応は、上述のエステル交換油脂と同様の方法で得ることができる。
【0047】
本発明の焼菓子用油脂組成物における上記エステル交換油脂(a)の含有量は、油相中の15~100質量%であることが好ましく、より好ましくは20~100質量%である。
【0048】
また、本発明の焼菓子用油脂組成物で使用するエステル交換油脂中における上記エステル交換油脂(a)の含有量は、20~100質量%であることが好ましく、より好ましくは50~100質量%である。
【0049】
本発明の焼菓子用油脂組成物はエステル交換油脂を含有するものであるが、上記(4)のSFCを満たす範囲において、その他の油脂を使用することができる。
【0050】
上記のその他の油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種動植物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。
また、本発明の焼菓子用油脂組成物における上記その他の油脂の含有量は、油相中に、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0051】
次に上記(4)について述べる。
本発明の焼菓子用油脂組成物は、油相のSFCが30℃で5~20%、好ましくは5~15%であり、且つ、10℃で30~50%、好ましくは30~45%である。この範囲内のSFCであることにより、クリーミングの初期から最後までクリーミングに適した硬さの油脂組成物とすることができる。
【0052】
油相のSFCが30℃で5%未満であると、クリーミング時に腰抜けしやすく、また、油分分離しやすい問題があり、油相のSFCが30℃で20%超であると、油脂が硬いため、クリーミング性が悪化することに加え、得られる焼菓子の口溶けが悪化してしまう。一方、油相のSFCが10℃で30%未満であるとクリーミング時に腰抜けしやすく、油相のSFCが10℃で50%を超えると油脂が硬いためクリーミング性が悪化してしまうことに加え、冷蔵温度帯において硬すぎて割れを生じるなど、作業性が悪くなってしまう。
【0053】
なお、上記SFCは、次のようにして測定する。まず、油相を60℃に30分保持して完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させる。次いで、25℃に30分保持し、テンパリングを行い、その後、0℃に30分保持する。これをSFCの各測定温度に順次30分保持後、SFCを測定する。
【0054】
本発明の焼菓子用油脂組成物は、その他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、水、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0055】
本発明の焼菓子用油脂組成物は、可塑性を有することが好ましい。焼菓子用油脂組成物の形態は、水相を含有するマーガリンタイプとすることができ、水相を含有しないショートニングタイプとすることもできる。本発明の焼菓子用油脂組成物が水相を含有する場合、その乳化形態は、水中油型、油中水型及び二重乳化型のいずれでも構わないが、油相が最外相である、油中水型や油中水型乳化油脂組成物であることが好ましい。
【0056】
次に本発明の焼菓子用油脂組成物の製造方法について述べる。
本発明の焼菓子用油脂組成物は、下記(3)及び(4)を満たす油相を溶解した後、必要に応じ、水相を添加して乳化し、冷却し、結晶化させる際に、下記(1)及び(2)成分を含有させることにより製造することができる。
(1)リン脂質を含有する。
(2)HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)、及び、HLBが7以上の乳化剤を含有する。
(3)ランダムエステル交換油脂を含有する。
(4)油相のSFCが30℃の10~20、10℃で30~50である。
【0057】
詳細には、まず、上記(3)及び(4)を満たすように、各種の油脂を1種又は2種以上選択して、加熱溶解し、混合・攪拌を行い、油相を調製する。(1)のリン脂質については通常は油相に添加することが好ましいが、水分散型のリン脂質を使用する場合は油相または水相に添加する。(2)におけるHLBが7未満の乳化剤については油相に添加することが好ましい。HLBが7以上の乳化剤については油相または水相に添加する。また、油溶性のその他の成分については、必要により油相に含有させることができる。また、必要に応じて、水に水溶性のその他の成分を添加した水相を調製した後、該水相を油相に添加し、乳化する。
【0058】
次に、殺菌処理を行うことが好ましい。なお、殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0059】
次に、冷却し、必要により可塑化する。本発明において、冷却条件は、好ましくは-0.5℃/分以上、更に好ましくは-5℃/分以上とする。冷却に用いる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えばボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組合せ等が挙げられる。
【0060】
本発明の焼菓子用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、任意に、窒素又は空気等を含気させ、可塑性や作業性を向上させることができる。含気させる場合は、本発明の焼菓子用油脂組成物100gに対して、好ましくは10~50cc含入させる。
【0061】
次に、本発明の焼菓子について述べる。
本発明の焼菓子は、上記の焼菓子用油脂組成物を練込油脂として用いたものである。
上記焼菓子としては、例えば、パイやペストリー、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マドレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等のバターケーキ、アイスボックスクッキー、ワイヤーカットクッキー、サブレ、ラングドシャ等のクッキー、ビスケット等が挙げられるが、本発明の焼菓子用油脂組成物は、抱水性が良好であること、焼き膨れの防止効果が高いことから、水分含量が高い生地をすり込み成形して焼成するラングドシャ等の薄板状焼菓子であることが好ましい。
【0062】
これらの焼菓子の生地は、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法等、公知の方法によって製造することができるが、クリーミング工程を含む、シュガーバッター法、又はフラワーバッター法であることが好ましい。なお、得られた焼菓子生地は常法に従って焼成される。
【0063】
焼菓子生地を製造する際の本発明の焼菓子用油脂組成物の使用量は、選択した焼菓子の種類によって決定されるものであり、特に限定されないが、例えば、ラングドシャ生地中に10~40質量%含有される。
【実施例0064】
以下、実施例を基に本発明を更に詳述する。
【0065】
<焼菓子用油脂組成物に用いるエステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕エステル交換油脂(A-1)の製造
ヨウ素価55のパーム軟部油50質量部、ハイエルシン菜種油の極度硬化油25質量部及びパーム核油25質量部を溶解、混合した油脂配合物にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行い、常法により漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(a)に該当するエステル交換油脂(A-1)を得た。
【0066】
〔製造例2〕エステル交換油脂(B)の製造
ヨウ素価55のパーム軟部油85質量部及びハイエルシン菜種油の極度硬化油15質量部を溶解、混合した油脂配合物にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行い、常法により漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(B)を得た。
【0067】
〔製造例3〕エステル交換油脂(C)の製造
ヨウ素価55のパーム軟部油にナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行い、常法により漂白処理、脱臭処理を行い、精製し、エステル交換油脂(C)を得た。
【0068】
上記エステル交換油脂(A-1)、(B)、及び(C)の、トリグリセリド組成における、炭素数14以下の飽和脂肪酸と炭素数20以上の飽和脂肪酸の両方を含有するトリグリセリド含量、構成脂肪酸組成における、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量、炭素数20以上の飽和脂肪酸含量については表1に記載した。
【0069】
【0070】
〔実施例1〕
パーム油40質量部、菜種液状油30質量部、及び、上記エステル交換油脂(A-1)30質量部からなる混合油脂80質量部に、グリセリンモノオレイン酸エステル0.05質量部、ソルビタン脂肪酸エステル(モノオレエート)(HLB:4.9)(理研ビタミン製「ポエムO-80V」)0.25質量部、ジグリセリン脂肪酸エステル(モノオレイン酸)(HLB:7.4)(理研ビタミン製「ポエムDO-100V」)0.09質量部及びミックストコフェロール0.02質量部を添加し、70℃で均一に溶解した。
一方、水17.89質量部に、脱脂粉乳0.7質量部、及び、水分散型リン脂質である、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)1質量部を添加、混合し、水相を得た。
上記油相に上記水相を添加し、予備乳化液を製造した後、90℃にて1分間、蒸気を用いて殺菌処理し、次いでコンビネーターを用いて急冷可塑化を行い、可塑性油中水型乳化物である本発明の実施例1の焼菓子用油脂組成物Aを得た。
焼菓子用油脂組成物Aのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0071】
〔実施例2〕
実施例1における上記エステル交換油(A-1)30質量部を、エステル交換油(B)30質量部に置換した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である本発明の実施例2の焼菓子用油脂組成物Bを得た。
焼菓子用油脂組成物Bのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0072】
〔実施例3〕
実施例1における混合油脂を、ヨウ素価60のパーム軟部油15質量部、パームステアリン7質量部、上記エステル交換油(C)73質量部、及び、菜種液状油5質量部からなる混合油脂に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である本発明の実施例3の焼菓子用油脂組成物Cを得た。
焼菓子用油脂組成物Cのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1におけるクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物1質量部を無添加とし、水17.89質量部を18.89質量部に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である比較例の焼菓子用油脂組成物Dを得た。
焼菓子用油脂組成物Dのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0074】
〔比較例2〕
実施例1におけるジグリセリン脂肪酸エステル(モノオレイン酸)(HLB7.4)0.09質量部を無添加とし、混合油脂80質量部を80.09質量部質量部に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である比較例の焼菓子用油脂組成物Eを得た。
焼菓子用油脂組成物Eのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0075】
〔比較例3〕
実施例1におけるグリセリンモノオレイン酸エステル0.05質量部、及び、ソルビタン脂肪酸エステル(モノオレエート)(HLB:4.9)0.25質量部を無添加とし、混合油脂80質量部を80.3質量部に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である比較例の焼菓子用油脂組成物Fを得た。
焼菓子用油脂組成物Fのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0076】
〔比較例4〕
実施例1における混合油脂を、ヨウ素価55のパーム軟部油15質量部、パームステアリン7質量部、パーム油68質量部、及び、菜種液状油10質量部からなる混合油脂に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である比較例の焼菓子用油脂組成物Gを得た。
焼菓子用油脂組成物Gのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0077】
〔比較例5〕
実施例1における混合油脂を、パーム極度硬化油3.5質量部、パーム油58.5質量部、及び、菜種液状油40質量部からなる混合油脂に変更した以外は、実施例1の配合及び製法と同様にして、可塑性油中水型乳化物である比較例の焼菓子用油脂組成物Hを得た。
焼菓子用油脂組成物Hのリン脂質含量、HLBが7未満の乳化剤(ただし、リン脂質を除く)含量、HLBが7以上の乳化剤含量、ランダムエステル交換油脂含量、30℃及び10℃のSFCを表2に記載した。
【0078】
【0079】
<ラングドシャ生地の製造>(シュガーバッター法)
得られた焼菓子用油脂組成物A~Hを用いてラングドシャを製造した。
まず上記焼菓子用油脂組成物100部、及び砂糖80部をミキサーボウルに投入し、ビーターを用いて高速で比重0.7となるまでクリーミングした。ここに卵白80部を数回に分けて加え混ぜ合わせた。これに小麦粉70部を加えて滑らかになるまで混ぜ合わせ、焼菓子生地であるラングドシャ生地を得た。厚さ2mmの円形のすり込み型を用いて天板にラングドシャ生地を載せ、180℃のオーブンで焼成した。
得られたラングドシャ製造時の生地状態について、下記の評価基準に従って評価を行い、表3に結果を記載した。
<評価基準>
クリーミング性
◎:比重0.7になるまでの時間が3分以内で極めて良好
○:比重0.7になるまでの時間が3分超5分以内であり良好
△:比重0.7になるまでの5分超でやや不良
×:比重0.7になるまでに腰抜けを起こし、極めて不良
抱水性
◎:分離が見られず極めて良好
○:分離がほとんど見られず、良好
△:分離が目立ち、やや不良
×:分離が激しく、極めて不良
焼き膨れ
◎:均質な焼き上がりで極めて良好
○:若干の焼きむらが見られるが、良好
△:焼きむらが目立ち、やや不良
×:焼きむらが激しく、極めて不良
焼流れ
◎:焼流れが全く見られず極めて良好
○:焼流れがほとんど見られず、良好
△:焼流れが目立ち、やや不良
×:焼流れが激しく、極めて不良
【0080】
【0081】
以上の結果から、上記(1)~(4)のすべてを満たす本発明の焼菓子用油脂組成物は、クリーミング性、及び、抱水性が高く、また、生地流れと焼膨れが抑制され、均一な焼き上がりのラングドシャを製造できるものであることがわかる。