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特開2024-49835コンパウンドクリームおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049835
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】コンパウンドクリームおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 13/14 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A23C13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156311
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小杉 達也
(72)【発明者】
【氏名】池原 朋憲
(72)【発明者】
【氏名】三角 恭平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 誠治
【テーマコード(参考)】
4B001
【Fターム(参考)】
4B001AC06
4B001AC15
4B001AC40
4B001AC45
4B001AC99
4B001BC02
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC01
(57)【要約】
【課題】ミルク風味が増強され、すっきりとした乳風味を有するコンパウンドクリームを提供すること。
【解決手段】総脂肪が35.0重量%以上45.0重量%以下で、かつ総脂肪中の乳脂肪の割合が5.0重量%以上20.0重量%以下で、かつ無脂乳固形分が4.0重量%以上7.0重量%以下であり、前記無脂乳固形1.0gあたりのホエイタンパク質未変性指数が1.0mg以上である、コンパウンドクリーム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
総脂肪が35.0重量%以上45.0重量%以下で、かつ総脂肪中の乳脂肪の割合が5.0重量%以上20.0重量%以下で、かつ無脂乳固形分が4.0重量%以上7.0重量%以下であり、前記無脂乳固形1.0gあたりのホエイタンパク質未変性指数が1.0mg以上である、コンパウンドクリーム。
【請求項2】
生乳、脱脂乳の1種または2種を組み合わせた未殺菌乳原材料の無脂乳固形分の、コンパウンドクリームの無脂乳固形分あたりに占める割合が35%以上である、請求項1記載のコンパウンドクリーム。
【請求項3】
未殺菌乳原材料に水系原材料を混合・溶解する工程と、
植物油脂に油系原材料を混合・溶解する工程と、
上記調製した植物油脂と乳脂肪クリームを上記調製した生乳、脱脂乳の1種または2種に混合し、攪拌して乳化する工程と、
乳化された原ミックスを均質化する均質工程と、
均質された原ミックスを120℃以上で殺菌する殺菌工程と、
7℃以下まで冷却する冷却工程と、を備える、コンパウンドクリームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンドクリームおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームは、ケーキやパン等の製菓製パン分野において、ナッペ、サンド、トッピングなどの用途に使われている。ホイップクリームには、乳脂肪を用いたフレッシュクリームがあるが、乳脂肪は高価であり、また、ホイップ時に急激な硬度上昇を生じやすく、取扱いが困難である。そこで、植物油脂を主要原料とする植物性クリームや、植物油脂と乳脂肪を混合したコンパウンドタイプのクリームが開発されてきた。コンパウンドクリームは、植物油脂に乳脂肪を加えることで、乳脂肪由来の濃厚感やコクを付与し、乳脂肪クリームよりも安価であり、かつ美味しさを両立したクリームといえる。
【0003】
しかしながら、コンパウンドクリームにおいて、乳脂肪を加えることで、乳由来の濃厚感やコクを付与することができるものの、フレッシュクリームのようなすっきりとした乳の風味を付与することができない。
【0004】
これに対して、脱脂濃縮乳などを、乳化した植物油脂に添加する方法により、ミルク風味を増強する方法(特許文献1)や、油脂と乳化剤及び水を用いて調製した予備乳化液を親水性多孔質膜に通過させた乳化物に、乳化剤と乳蛋白質を含む水溶液を微粒化処理した水相を混合し、加熱冷却を行うことで、ミルク風味を増強する方法(特許文献2)が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1のように加熱・濃縮処理された原材料を用いても、ミルク風味を増強できるが、塩味も強調され、すっきりとした乳風味を付与することはできず、また特許文献2のようにコクとミルク風味を増強できても、製造工程が煩雑であり、フレッシュクリームのようなすっきりとした乳風味を付与することは、できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6612491号
【特許文献2】特開2016―32438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決し、ミルク風味が増強され、すっきりとした乳風味を有するコンパウンドクリームを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明には以下の構成が含まれる。
(1)総脂肪が35.0重量%以上45.0重量%以下で、かつ総脂肪中の乳脂肪の割合が5.0重量%以上20.0重量%以下、無脂乳固形分が4.0重量%以上7.0重量%以下、前記無脂乳固形1.0gあたりのホエイタンパク質未変性指数が1.0mg以上である、コンパウンドクリーム。
(2)生乳、脱脂乳の1種または2種を組み合わせた未殺菌乳原材料の無脂乳固形分の、コンパウンドクリームの無脂乳固形分あたりに占める割合が35%以上である、請求項1記載のコンパウンドクリーム。
(3)未殺菌乳原材料に水系原材料を混合・溶解する工程と、植物油脂に油系原材料を混合・溶解する工程と、上記調製した植物油脂と乳脂肪クリームを上記調製した生乳、脱脂乳の1種または2種に混合し、攪拌して乳化する工程と、乳化された原ミックスを均質化する均質工程と、均質された原ミックスを120℃以上で殺菌する殺菌工程と、殺菌後に均質化する均質工程と、7℃以下まで冷却する冷却工程と、を備える、コンパウンドクリームの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミルク風味を増強しながらも、すっきりとした乳風味を有し、ホイップした際に7分以内にオーバーランが110%以上になる含気能力を兼ね備えたコンパウンドクリームが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンパウンドクリームについて以下に詳細に説明する。
本発明者らは、生乳を主要原材料として用い、この生乳に植物油脂、乳脂肪、および乳化剤等の副原料と混合させ、殺菌後においても未変性のホエイタンパク質が存在することで、乳風味を有し、かつ含気能力を併せ持つことを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明における「生乳」とは、搾取したままの牛の乳をいう(乳等省令)。
【0011】
本発明のコンパウンドクリームの原材料について以下に説明する。
本発明の未殺菌乳原材料とは、生乳、脱脂乳の1種または2種から選択すればよく、これらの未殺菌乳原材料の無脂乳固形分の、コンパウンドクリームの無脂乳固形分あたりに占める割合が、35%以上になるように混合すればよい。コンパウンドクリームの無脂乳固形分あたりに占める割合が、35%未満ではすっきりとした乳風味は付与することができない。
【0012】
本発明のコンパウンドクリームの脂肪源は、植物油脂と乳脂肪を含むものであればよい。植物油脂としては、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、なたね油、またはこれらの水素添加処理やエステル交換処理などの加工油脂の1種または2種以上を用いることができる。乳脂肪としては、クリーム、バター、バターオイル等から選択される1種又はこれらを複数含むものを用いることができる。これらの原材料を用いて、コンパウンドクリームの総脂肪分が35重量%以上45重量%以下、そのうち、乳脂肪分が5%重量以上20%重量以下となるように調整すればよい。コンパウンドクリームの総脂肪分が35重量%未満ではホイップがしにくくなり、45重量%を超えると含気能力が低くなる。また、コンパウンドクリームの総脂肪分のうち、乳脂肪分が5%重量未満では乳由来の濃厚感やコクが少なくなる。
【0013】
本発明のコンパウンドクリームは、必要に応じて、乳化剤、安定剤、塩類、脱脂乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエイパウダー、乳タンパク質、乳糖やその分解物、でんぷん、デキストリン、液糖、増粘多糖類、リン酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、カリウム塩、呈味物質、香料などを含有してもよく、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明のコンパウンドクルームの製造方法について説明する。生乳に水系原材料を混合・溶解する工程と、植物油脂に油系原材料を混合・溶解する工程と、上記調製した植物油脂と乳脂肪クリームを上記調製した生乳に混合し、攪拌して乳化する工程と、乳化された原ミックスを均質化する均質工程と、均質された原ミックスを120℃以上で殺菌する殺菌工程と、7℃以下まで冷却する冷却工程により調製できる。また、必要に応じて、殺菌後に均質化する均質工程を用いてもよい。
【実施例0015】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0016】
[実施例1]
植物油脂30重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。生乳30.0重量%に水21.0重量%を混合し、65℃に加温して脱脂粉乳0.7重量%、メタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)18.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌して乳化し、原ミックスとした。その後、乳化された原ミックスを高圧ホモゲナイザーで、1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分40%(乳脂肪10%、植物油脂30%)、無脂乳固形分4.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0017】
[実施例2]
植物油脂30重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。生乳30.0重量%に水30.5重量%を混合し、65℃に加温して脱脂粉乳1.2重量%、メタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)8.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌し乳化した後、高圧ホモゲナイザーで、1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分35% (乳脂肪5%、植物油脂30%)、無脂乳固形分4.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0018】
[実施例3]
植物油脂25重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。生乳28.0重量%に水8.7重量%を混合し、65℃に加温してメタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)38.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌し乳化した後、高圧ホモゲナイザーで1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分45% (乳脂肪20%、植物油脂25%)、無脂乳固形分4.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0019】
[実施例4]
植物油脂30重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。生乳30.0重量%に水17.8重量%を混合し、65℃に加温して、脱脂粉乳3.9重量%、メタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)18.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌し乳化した後、高圧ホモゲナイザーで、1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分40% (乳脂肪10%、植物油脂30%)、無脂乳固形分7.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0020】
[比較例1]
植物油脂30重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。水46.4重量%を65℃に加温して、脱脂粉乳3.3重量%、メタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)20.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌し乳化した後、高圧ホモゲナイザーで、1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分40% (乳脂肪10%、植物油脂30%)、無脂乳固形分4.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0021】
[比較例2]
植物油脂30.0重量%を80℃に加温してレシチンDX(日清オイリオ株式会社)を0.2重量%溶解し、親油性乳化剤含有油脂とした。水43.2重量%を65℃に加温して、脱脂粉乳6.5重量%、メタリン酸ナトリウム0.1重量%を加えて溶かした後、親油性乳化剤含有油脂とクリーム(脂肪50重量%)20.0重量%を加えてホモミキサーで良く攪拌し乳化した後、高圧ホモゲナイザーで1段目4.5MPa、2段目2.0MPaの均質を行った。さらに熱交換プレートを用いて120℃、2秒間の殺菌処理の後、5℃まで冷却して、総脂肪分40% (乳脂肪10%、植物油脂30%)、無脂乳固形分7.0重量%のコンパウンドクリームを得た。
【0022】
[試験例1](ホエイタンパク質未変性指標の測定)
コンパウンドクリーム中のホエイタンパク質未変性指数は以下のように測定した。実施例1~4及び比較例1、2のコンパウンドクリーム8000gを、5℃、60分間の条件で遠心して、水相部を回収した。この操作を合計3回繰り返して水相部を得た。得られた水相部20gを35℃に加温し、塩化ナトリウム8gを添加した後、30分間温調した後、ろ紙で濾過したものを対象試料とした。対象資料1mlを、飽和塩化ナトリウム溶液10ml(A液)、フタル酸水素カリウム飽和塩化ナトリウム溶液10ml(B液、pH2.2)にそれぞれ添加して、波長420nmにおける吸光度を測定し、A液とB液の吸光度差を測定値とした。予めホエイタンパク質未変性指標が既知である試料(脱脂粉乳)の吸光度と、本測定値から、クリーム中の無脂乳固形分1gあたりホエイタンパク質未変性指標を算出し、結果を表1に示す。
【0023】
[試験例2](コンパウンドクリームの泡立て評価)
実施例1~4及び比較例1、2のコンパウンドクリーム(5℃)1000gに対して、砂糖80gを加え、25℃の部屋で、ケンミックスKMM760(ビーター回転速度約400rpmにて起泡した。ホイップしたコンパウンドクリームは、直径5cm、深さ5cmのカップに入れ、直系2cmのステンレス製の円柱を1mm/秒の速度で1cm貫入させた際の最大応力を測定し、最大応力の値が40gとなるまでに要した時間を評価し、7分以下を合格とした。さらに、ホイップ終了時のコンパウンドクリームを直径5cm、深さ5cmのカップに入れて重量を測定し、以下の式よりオーバーランを計算し、110%以上で良好、130%以上で優良とした。また、官能検査により風味評価を行った。官能検査では、専門パネル4名で評価し、すっきりとした乳風味を有している場合は〇、乳風味が弱い場合を×とした。これらの結果を表1に示す。

オーバーラン(%)=(A-B)/B × 100 (式)
A:単位体積あたりのホイップ前のコンパウンドクリームの重量
B:単位体積あたりのホイップ後のコンパウンドクリームの重量
【0024】
【表1】
【0025】
表1に示したように、実施例品1~4については、比較例品1及び比較例品2と比べて、クリーム中に含まれる未変性ホエイタンパク質量が多くなった。また、得られたコンパウンドクリームの風味は、すっきりとした乳風味を有しており、ホイップした際のオーバーランも高くなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来なかったフレッシュクリームのようなすっきりとした乳風味が付与されたコンパウンドクリームが提供されることにより、新たな需要が期待できる。