(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049852
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】マイクロニードル構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
A61M37/00 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156336
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】高麗 洋佑
(72)【発明者】
【氏名】金 範ジュン
(72)【発明者】
【氏名】朴 チョンホ
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA72
(57)【要約】
【課題】強度の高い針状部を有するマイクロニードル構造体を簡易に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】マイクロニードル構造体10は、その内部に孔部13が形成されている針状部12を備えるマイクロニードル構造体であって、そのマイクロニードル構造体10を製造する製造方法は、重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む微粒子と水溶性材料とを含む組成物を加熱し溶融せしめて混練し、凹部を有する型に充填する充填工程を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部に孔部が形成されている針状部を備えるマイクロニードル構造体を製造するマイクロニードル構造体の製造方法であって、
重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む微粒子と水溶性材料とを含む組成物を加熱し溶融せしめて混練し、凹部を有する型に充填する充填工程を有することを特徴とするマイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項2】
前記微粒子の粒径は、1~500μmであることを特徴とする請求項1記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードル構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロニードルに形成された貫通孔を通して、体内への薬剤の供給や、体内からの体液の採取を行うものが提案されている。例えば、マイクロニードル状の生体適合性マトリックスと、前記生体適合性マトリックスの表面上に、または内部の少なくとも一部に提供された多孔性粒子とを含むマイクロニードルが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、マイクロニードルを構成する生体適合性材料は、皮膚への刺入時に数秒から数時間内に膨潤されたり、生体組織内に吸収されるものであることから、マイクロニードルは体内で吸収されることを前提としている。しかし、安全性の観点からは、刺入したマイクロニードルをなるべく皮膚内に残さないように除去することが望ましい。ここで、例えば、特許文献1に示されたような多孔性粒子を含むマイクロニードルを刺入した後に皮膚から除去しようとすると、強度が足りずマイクロニードルが欠損してしまうという問題がある。また、マイクロニードルの針状部の強度が低いと、皮膚への穿刺の際に破損し、薬剤の供給等の効率が低下する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、強度の高い針状部を有するマイクロニードル構造体を簡易に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、その内部に孔部が形成されている針状部を備えるマイクロニードル構造体を製造するマイクロニードル構造体の製造方法であって、重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む微粒子と水溶性材料とを含む組成物を加熱し溶融せしめて混練し、凹部を有する型に充填する充填工程を有することを特徴とするマイクロニードル構造体の製造方法を提供する(発明1)。
【0007】
上記発明(発明1)においては、前記針状部は、重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂を含むことから、十分な強度を維持することができる。即ち、針状部がその側面に複数の孔部が開口する構造である場合は、針状部の頂部にのみ孔部が開口する構造に比べて針状部から流体を吸収又は放出する速度を高めることが可能である反面、針状部は脆質になり強度が十分ではない場合も考えられる。しかし、本発明では重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂を含むことから、強度を高めることができ、例えば針状部を皮膚に突き刺す際に針状部が破損してしまうことを抑制することが可能である。そして、このような重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂により針状部を形成する場合には、樹脂のハンドリング性が低いことが考えられるが、本実施形態では樹脂を微粒子状として、当該微粒子状の樹脂と水溶性材料とを含む組成物を加熱し溶融せしめて混練し、凹部を有する型に充填する充填工程によりマイクロニードル構造体を製造するので、ハンドリング性も高い。この結果、簡易に強度の高いマイクロニードル構造体を製造することが可能である。
【0008】
上記発明(発明1)において、前記微粒子の粒径は、1~500μmであることが好ましい(発明2)。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のマイクロニードル構造体の(1)模式的な断面図、(2)針状部の一部拡大図、である。
【
図2】本発明のマイクロニードル構造体を用いた検査パッチの模式的な一部断面図である。
【
図3】(a)~(c)実施形態にかかるマイクロニードル構造体の製造方法の手順を示す説明図である。
【
図4】(a)~(c)実施形態にかかるマイクロニードル構造体の製造方法の手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔マイクロニードル構造体〕
図1に、本発明の一実施形態に係るマイクロニードル構造体10を示す。マイクロニードル構造体10は、基材11の一方面側に所定の間隔で互いに離間した複数の針状部12を備えている。また、針状部12には、それぞれ複数の孔部13が形成されている。基材11には、貫通孔15が形成されている。マイクロニードル構造体10は、針状部12の孔部13を介して皮膚内から体液を吸収し、基材11を介して得られた体液を用いて検査を行う検査パッチや、基材11及び針状部12の孔部13を介して皮膚から体内に薬剤を投与する薬剤投与パッチとして利用することができるものである。なお、本発明において体液とは、血液やリンパ液、間質液等を含む。
【0011】
(1)針状部
針状部12の形状や大きさ、形成ピッチ、形成数は、その目的とするマイクロニードルの用途等によって適宜選択することができる。針状部12の形状としては、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状等が挙げられ、本実施形態では角錐状である。針状部12の最大直径又は断面の最大寸法は、例えば、25~1000μmであることが挙げられ、先端径又は先端の断面の寸法は1~100μmであることが挙げられ、針状部12の高さは、例えば、50~2000μmであることが挙げられる。さらに、針状部12は、基材11の一方向に複数列設けられるとともに、各列に複数形成されてマトリクス状に配されている。
【0012】
針状部12は、樹脂から構成される。針状部12を構成する樹脂は、重量平均分子量40,000以上である樹脂及び融点が130℃を超える樹脂である。以下、重量平均分子量40,000以上である場合、「高分子量」という。また、融点が130℃を超える樹脂を「高融点樹脂」といい、常温では固体であり、かつ、融点が130℃以下の樹脂を「低融点樹脂」という。本実施形態においては、針状部12を構成する樹脂として、低融点樹脂であり、かつその重量平均分子量が40,000以上の、即ち高分子量の低融点樹脂を用いている。低融点樹脂としては、特に融点が40~120℃の材料が好ましく、融点が45~100℃の材料であるものが最も好ましい。常温で固体であることで、常温で針状部12の形状を保持することができ、また、融点が130℃以下であると、高温で加熱する必要がなく、低コストで作業性がよいとともに、かつ、樹脂が溶融された状態で基材11に接着し、又は樹脂と基材が接着した状態で、樹脂を加熱するとしても、基材11が軟化や変形、燃焼することがなく、基材11の選択における自由度が高い。さらに、例えば、耐熱温度の低い合成繊維等を材料とする不織布又は樹脂フィルム等を基材11として用いた場合にも、合成繊維の軟化等による基材11の変質が防止されうる。
【0013】
また、高融点樹脂としては、好ましくはその融点が、135~240℃、より好ましくは140~220℃、最も好ましくは145~200℃であるものが挙げられる。高融点樹脂は、マイクロニードル構造体10が使用される常温付近の温度で軟質化しづらい。そのため、針状部12が、融点が130℃を超える高融点樹脂を含むことで、十分な強度を維持することができる。後述するように針状部12の側面に複数の孔部13が開口する構造の場合、針状部の頂部にのみ孔部が開口する構造と比べて針状部12から流体を吸収又は放出する速度を高めることが可能である反面、針状部12は脆質になり強度が低下しやすい。しかし、本実施形態では、融点が130℃を超える高融点樹脂を含む組成物で針状部12を形成していることから、強度を高めることができ、例えば針状部12を皮膚に突き刺す際に針状部12が破損してしまうことを抑制できる。
【0014】
また、高分子樹脂の重量平均分子量は、40,000以上であるが、40,000~200,000であることが好ましく、より好ましくは、60,000~150,000である。この範囲であることで、針状部12が必要な強度を保持することが可能である。
【0015】
このようにして、高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂、特に高分子量の低融点樹脂を含むことで得られる針状部12の先端強度は、通常、100mN以上、好ましくは150mN以上であり、より好ましくは200mN以上である。100mN以上であることで、皮膚に穿刺したとしても針状部12が欠けたりすることを高い確率で抑制でき、マイクロニードル構造体10は例えば検査パッチ等に用いることができる。針状部12の先端強度は、後述する実施例に記載の手順で測定される値である。
【0016】
後述するように針状部12の側面に複数の孔部13が開口する構造の場合、針状部の頂部にのみ孔部が開口する構造と比べて針状部12から流体を吸収又は放出する速度を高めることが可能である反面、針状部12は脆質になり強度が低下しやすい。しかし、本実施形態では、その重量平均分子量が40,000以上の低融点樹脂を用いて針状部12を構成していることで、針状部12の強度、特に針状部12の先端強度を高めることができ、例えば針状部12を皮膚に突き刺す際に針状部12が破損してしまうことを抑制できる。
【0017】
針状部12を構成する高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂、特に高分子量の低融点樹脂は、さらに水不溶性樹脂であってもよい。水不溶性であることで、生体に適用した際に、体液により溶解せず、所望の適用時間の間、マイクロニードル構造体10の形状を維持しておくことが可能であり、また、後述するように微小な孔部13を容易に形成することができる。水不溶性樹脂としては、ポリエチレン、α-オレフィン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等のオレフィン共重合体系樹脂、ポリウレタン系エラストマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体等のアクリル共重合体系樹脂等が挙げられる。
【0018】
また、針状部12を構成する高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂は、さらに生分解性樹脂であってもよい。ここで、生分解性樹脂とは、使用後は自然界に存在する微生物の働きで最終的にCO2と水にまで完全に分解されるプラスチックであり、生分解性樹脂であることで、生体への影響を低減することができる。このような生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステルおよびその誘導体が好ましく用いられる。
【0019】
高融点樹脂の生分解性樹脂としては、ポリグリコール酸(融点:218℃)、ポリ乳酸(融点:170℃)、ポリヒドロキシ酪酸(融点:175℃)等が挙げられる。また、グリコール酸、乳酸、及びカプロラクトンからなる群から選択される2種以上の単量体からなる共重合体を挙げることができ、このような共重合体としては、融点を130℃以上とする観点から、グリコール酸又は乳酸を単量体の主成分とするものが好ましい。高融点の生分解性樹脂としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、又はグリコール酸及び乳酸の共重合体であることが好ましく、ポリ乳酸であることが更に好ましい。さらに、低融点樹脂の生分解性樹脂としては、グリコール酸、乳酸及びカプロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種の単量体の単独共重合体、又は2種以上の単量体からなる共重合体が挙げられる。また、ポリブチレンサクシネート(融点:84~115℃)、脂肪族芳香族コポリエステル(融点:110~120℃)等も低融点の生分解性樹脂として用いることができ、具体的には、ポリブチレンサクシネートとしては、三菱ケミカル株式会社が提供するBiоPBS等、脂肪族芳香族コポリエステルとしては、BASF社が製造するエコフレックス等を用いることができる。
【0020】
また、生分解性樹脂は、その単量体の酸解離定数が4以上である樹脂であってもよい。単量体の酸解離定数が4以上であることで、マイクロニードル構造体10を生体に適用した際の生体への影響を低減することができる。なお、ここでいう単量体の酸解離定数は、単量体が環状エステルである場合には、その環状エステルが開環したヒドロキシカルボン酸の酸解離定数である。単量体の酸解離定数は、好ましくは4.0以上であり、さらに好ましくは、4.5以上である。また、単量体の酸解離定数は、25以下であることが好ましく、さらに好ましくは15以下である。このような、生分解性樹脂を構成する単量体であって、酸解離定数が4以上であるものとしては、カプロラクトンが挙げられる。低融点の生分解性樹脂は、その由来する単量体の酸解離定数が4以上である構成単位が、全構成単位中70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0021】
針状部12中に含まれる樹脂成分の合計の質量に対する、高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂の割合、特に低融点樹脂の割合は、低温での樹脂の加工が可能であるという効果を効率的に得る観点から、50質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。本実施形態の針状部12は、低温での樹脂の加工が可能であるという効果を妨げない範囲で、融点が130℃以上である高融点樹脂をさらに含んでいてもよく、高融点樹脂としては、ポリグリコール酸(融点:218℃)、ポリ乳酸(融点:170℃)、ポリヒドロキシ酪酸(融点:175℃)等の生分解性樹脂が挙げられる。
【0022】
最も好ましくは、針状部12を構成する樹脂としては、水不溶性の高分子量の低融点樹脂であり、かつ生分解性樹脂であるとともに、単量体の酸解離定数が4以上である、ポリカプロラクトン又はカプロラクトンと他のポリマーの共重合体が挙げられる。
【0023】
針状部12は、その内部に液体が流通する流路としての孔部13が形成されている。孔部13は、一つの針状部12において1以上形成され、針状部12の表面に1以上開口している。孔部13はどのように形成されてもよく、例えば機械的に一本の連通孔を設けてもよいが、本実施形態のように針状部12に多孔構造が形成されていることが好ましい。針状部12を少なくともその一部が多孔構造となるように形成すれば、多孔構造の孔部13を体液又は薬液が通過することができるので、ナノオーダーの流路を機械的に形成する必要がなく好ましい。また、体液又は薬液は、針状部12中の多孔構造が形成されている部分のすべての流路を流通できるため、単純な一本の連通孔が形成されている場合よりもその流通量を増やすことが可能である。さらに、このように針状部12を少なくともその一部が多孔構造となるように形成する場合、針状部の側面の一部又は全部において、多孔構造が覆われていなければ、針状部12の側面にも孔部13が開口する。この場合、針状部12の先端部のみに開口する場合よりも液体の流通量を増加することができる。
【0024】
しかし、このような場合には針状部12は脆質となることが考えられるところ、高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂、特に本実施形態では重量平均分子量が40,000以上で、融点が低融点樹脂を用いて針状部12を形成していることから、脆質となることなく強度の高い針状部12を形成することができる。
【0025】
多孔構造の形成方法としては、詳しくは後述するが、針状部12の形成と同時に多孔構造とするか、又は、多孔構造が形成されていない突起部32(
図1中不図示。後述する)の形成後に、突起部32に多孔構造を形成する方法が、孔部13を連続的な構造とする観点から好ましい。後者の場合、例えば、2種以上の異なる材料を混合して突起部32を形成し、その後少なくとも1種の材料を除去して孔部13を形成することで多孔構造の針状部12を得ればよい。本実施形態では、針状部12は高分子量のポリカプロラクトンからなり、後述するように、水不溶性の樹脂であるポリカプロラクトンと水溶性材料とから突起部32を作製して、除去工程において水に可溶な水溶性材料が除去されて孔部13となるとともに、水に不溶である水不溶性の樹脂が残ることにより、多孔構造の針状部12とされている。
【0026】
このように孔部13は、水不溶性の高分子量の低融点樹脂と水溶性材料からなる突起部32から水溶性材料が除去されて形成された空隙であり、体液や薬液はこの孔部13を流路として通過する。針状部12の断面に示すように、水溶性材料の除去により複数の空隙が形成されて互いに連通したことで形成されるものである。孔部13によっては針状部12の表面から基材11の一方面に至るまで連通し流路を形成している。孔部13は、マイクロニードル構造体10を用いる検査パッチ等の用途によりその開口の大きさが規定されるが、液体を通過しやすくする等の観点から、その開口のサイズが0.1~50.0μmであることが好ましく、0.5~25.0μmであることがより好ましく、1.0~10.0μmであることがさらに好ましい。このような開口径となるように、製造工程において水溶性材料及びその含有量を適宜選択する。
【0027】
なお、本実施形態では、針状部12を水不溶性の高分子量の低融点樹脂と水溶性材料とからなる突起部32から水溶性材料を除去して形成したが、これに限定されず、多孔質である高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いて針状部12を形成することも可能である。また、発泡材料等を用いて、針状部12の形成と同時に多孔構造を形成したり、高融点樹脂を含む粒子状の組成物を焼結することにより多孔構造を形成したりしてもよい。
【0028】
また、針状部12は、基材11の一方面側との間に少なくとも針状部12が形成された領域にわたって設けられる基部14を有していてもよい。本実施形態では、基部14は、基材11の一方面全体にわたって層状に設けられている。基部14は、個々の針状部12の土台となるものであって、個々の針状部12と同様に孔部13を有する。基部14は、例えば厚さ0.1~500μmで形成される。この程度の厚さがあることで、基材11の強度を高めるとともに、針状部12と基部14と基材11との間で好ましい接着性を得る。
【0029】
基部14も、針状部12と同様に多孔構造であることが好ましく、針状部12と同じ多孔構造を構成するように、同一の樹脂を用いることがより好ましい。基部14に多孔構造を用いる場合には、その内部に液体が流通する流路が形成されているので機械的に孔部13を形成する必要がなく、針状部12からの液体が基部14の孔部13を通過して貫通孔15を満たすことができ好ましい。本実施形態では、この基部14が、針状部12と同一の高分子量の低融点樹脂からなり、また同一の工程により形成されるものであるので、簡易に作製できるだけでなく、針状部12と基材11とが基部14を介してより良好な接着性を得ることができ好ましい。さらには、本実施形態では、この基部14が基材11の一方面全体に亘って設けられていることで、基材11の針状部12が形成されていない部分にも基部14が基材11に付着した状態で存在しているので、マイクロニードル構造体10の強度が全体としてさらに向上する。
【0030】
(2)基材
針状部12は、その内部に液体が流通する流路としての孔部13が形成されているが、これにより、孔部13が設けられていない針状部よりも、針状部12の強度は低下してしまう。針状部12に多孔構造が形成されている場合には、さらに針状部12の強度は低下する傾向にある。そこで、本実施形態では、針状部12の根元側から針状部12を支持し、マイクロニードル構造体10の強度を向上させるため、マイクロニードル構造体10は、針状部12を一方面側に備える基材11を備える。
【0031】
基材11は、その厚さ方向において液体が通過可能であるように構成されていることが好ましい。基材11の厚さ方向において液体を通過させることができるとは、基材11自体が液体透過性を有する材料から構成されていてもよく、また、基材11が液体非透過性を有する材料から構成されつつ、基材11に形成された貫通孔15を介して基材11の厚さ方向において液体を通過させることができるように構成されていてもよい。
【0032】
液体透過性を有する材料から構成される基材11としては、複数の空隙が互いに連通することで、一方面(針状部12が設けられた面)からその背面(針状部12が設けられた面とは逆の面)側に貫通する微小な基材孔部が形成されている多孔性の基材が挙げられる。針状部12を形成する樹脂として低融点樹脂を用いる場合には、低融点樹脂を含む組成物の加工が低温で可能であることにより、基材11が高温に晒されることを避けることができる。そのため、用途に応じて様々な基材を基材11として選択することが可能である。このような液体透過性を有する材料から構成される基材11としては、板状でもよいが、好ましくは皮膚への追従性の高いシート状のものが好ましい。基材11としては、好ましくは、取り扱いが容易である繊維状物質からなる基材を用いることである。ここで、本発明における繊維状物質とは、天然繊維、化学繊維等の繊維を意味する。繊維状物質からなる基材としては、これらの繊維からなる不織布、織布、編物、紙などが挙げられる。
【0033】
基材11が液体非透過性を有する材料から構成されつつ、貫通孔15を介してその厚さ方向において液体を通過させることができる場合には、基材11の液体吸収を抑制することができるので、液体は、基材11においては貫通孔15内のみを通過できる。そのため、針状部12から得られた体液又は針状部12へ輸送される薬液が基材11内に染み出ることがなく、全量を貫通孔15を介して流通させることができる。これにより、当該マイクロニードル構造体10を検査パッチとして使用する場合には、基材11を体液がすぐに通過できるので迅速な分析を可能とすることができ、また、当該マイクロニードル構造体10を薬剤投与パッチとして利用する場合であっても、薬液が染み出ていくことがなく、薬液全量を迅速に皮膚へ供給することができる。
【0034】
このような液体非透過性を有する材料としては、樹脂フィルム、金属含有シート、ガラスフィルム等が挙げられる。金属含有シートとしては、金属箔が挙げられる。また、樹脂フィルムのうち、耐水性の低いものに金属層を蒸着等により形成し、耐水性を向上させたものを金属含有シートとして用いてもよい。また、液体非透過性を有しない材料、例えば不織布や紙などであっても、これらに水不溶性の樹脂を積層して全体として液体を透過しないように構成したラミネート樹脂フィルムであってもよい。
【0035】
本実施形態では、基材11は液体非透過性である樹脂フィルムからなる。このような樹脂フィルムに用いられる樹脂として、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリウレタン、及びポリ乳酸からなる群から選ばれる一種の、比較的耐熱性の低い樹脂や、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン等の耐熱性樹脂をも用いることができる。本実施形態では、針状部12を形成する樹脂として低融点樹脂を用い、低融点樹脂を含む組成物の加工が低温で可能であることにより、基材11が高温に晒されることを避けることができる。そのため、耐熱性の低い樹脂を用いた樹脂フィルムであっても、基材の変形等の問題が生じにくい。
【0036】
また、基材11は、単層であっても複数層が積層されている構成であってもよい。基材11は、不織布等の多孔性の基材11と、貫通孔が形成された液体非透過性の基材11とを積層したものであってもよい。また、樹脂フィルムが、不織布や布帛に樹脂を含浸させて得られる複合フィルムであってもよい。基材11の厚さは3~200μmであることが好ましく、より好ましくは10~140μmであり、更に好ましくは30~115μmである。3μm以上の厚さであると、基材11としての強度を保持しやすく、また、200μm以下の厚さであると皮膚への追従性が向上し、また、液体の輸送時間を短くすることが可能である。
【0037】
基材11には、針状部12が形成されている一方面側に接着剤層16が設けられている。これにより、針状部12及び基材14と、基材11との接着性を向上させることができる。このような接着剤層としては、感圧接着剤が好ましく、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が挙げられ、より好ましくは、アクリル系粘着剤を用いることができる。また、基材11に接着剤層16を設けることで、後述するマイクロニードル構造体の製造方法において、基材11に予めに固形状組成物31を接着させておき、基材11と固形状組成物31とを型に入れ、加熱加圧工程において加熱押圧することで、マイクロニードル構造体10を簡易に得ることが可能である。基材11に接着剤層16を設ける場合には、基材11と針状部12との間に空隙が生じて、液体が漏れ出したり、接着剤層により基材11と針状部12との間の液体の通過が妨げられたりする懸念がある。そのため、基材11において液体が通過すべき領域を囲むように接着剤層16を設けつつ、中央部には接着剤層16の非形成領域を設けることが好ましい。なお、このような効果は得られないが、針状部12と、基材11との接着性を向上させる目的で、接着剤層16に代えて、第一プライマー層(図示せず。)を設けてもよい。また、基材11が接着剤層16を有する場合であっても、基材11と接着剤層16の間に、中間層としての第一プライマー層を設けてもよい。プライマー層としては、アクリル系のプライマー層、ポリエステル系のプライマー層等が挙げられる。
【0038】
アクリル系粘着剤としては、アクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体を重合して得られるアクリル重合体を含むものを用いることができる。アクリル系重合体は、アクリル酸アルキルエステルと、その他の単量体との共重合体であってもよい。その他の単量体としては、水酸基を有するアクリル酸エステル、カルボキシル基を有するアクリル酸エステル、エーテル基を有するアクリル酸エステル等の、アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステルや、酢酸ビニル、スチレン等のアクリル酸エステル以外の単量体が挙げられる。
【0039】
アクリル系重合体は、上記の水酸基を有するアクリル酸エステル、カルボキシル基を有するアクリル酸エステル等に由来する官能基と、架橋剤との反応により架橋されたものであってもよい。
【0040】
アクリル系粘着剤は、上記の成分以外に、粘着付与剤、可塑剤、帯電防止剤、充填材、硬化性成分等を含有していてもよい。
【0041】
アクリル系粘着剤を得るための塗工液としては、溶剤系、エマルション系のいずれも用いることができる。
【0042】
基材11に形成された貫通孔15の形状は、特に限定されないが、毛細管現象を生じさせつつ、十分な流通量を確保する観点から、径の細い貫通孔が複数設けられている構造が好ましい。貫通孔の径としては、例えば、直径が2mm以下であり、0.05~1mmであることが好ましく、0.1~0.8mmであることがより好ましい。貫通孔の形成方法は特に限定されず、例えば打ち抜きやレーザー穿孔により形成することができる。本実施形態においては、針状部12からの液体を輸送するにあたり、基材11が液体非透過性を有するため、液体が基材11内に染み出ることがなく、かつ、貫通孔15を介して基材11の厚さ方向に液体を流通させるので、輸送距離が短く、検出パッチとして構成された場合には高い分析速度で検出を行うことができ、薬剤投与パッチとして構成された場合には、薬液を早期に投与することが可能である。
【0043】
各貫通孔15の面積の総和(総面積)は、貫通孔15が設けられている基材11上の領域の面積に対し、合計して0.05~15%であることが好ましく、より好ましくは0.75~10%、さらに好ましくは1~5%である。貫通孔15の総面積が基材11の上記領域の面積に対し15%以下であると、基材11の剛性を担保しやすい。また、貫通孔15の総面積が基材11の上記領域の面積に対し0.05%以上であると、基材11を介して体液をより効率的に取得することができる。
【0044】
マイクロニードル構造体10に基部14が形成されている場合、基部14が基材11の一方面に直接接着し、基部14が針状部12と一体的に形成されていることで、針状部12が接着剤などを介さずに基材11に設けられており、孔部13の連通が良く、液体が通過しやすい。このような構成のマイクロニードル構造体10は、基材11に接着剤層16が設けられていなくても、後述するマイクロニードル構造体の製造方法における形成工程における加熱により、固形状組成物31を基材11に接着させることや、類似の加熱による接着方法で得ることができる。なお、本実施形態では、基部14が基材11の全面に亘って設けられているが、これに限定されない。少なくとも、針状部12が形成されている領域に基部12が形成されていることが好ましい。基部14が基材11の一方面に直接接着している場合であっても、上述のように基材11に、接着剤層16に代えて、第一プライマー層が設けられており、基部14が第一プライマー層を介して基材11に接着していてもよいし、接着剤層16及び第一プライマー層以外の他の層を介していてもよい。
【0045】
このようにして形成されたマイクロニードル構造体10は、検査パッチや薬剤投与パッチとして適用可能である。例えば、
図2に示すように検査パッチ2は、得られたマイクロニードル構造体10の基材11の貫通孔15が形成された領域位置に針状部12に対向するように分析シート17が配置され、この分析シート17を覆うようにテープ18が積層されている。薬剤投与パッチの場合、得られたマイクロニードル構造体10の基材11の貫通孔15が形成された領域を覆う位置に針状部12に対向するように分析シート17の代わりに薬剤投与部材が配置され、薬剤投与部材を覆うようにテープ18を積層して構成すればよい。このような検査パッチや薬剤投与パッチにおいても、針状部12の強度が高いため、針状部12を損なうことなく、皮膚に刺入することが可能であり、体内に針状部12の構成材料が残ることを抑制でき好ましい。なお、分析シート17又は薬剤投与部材を基材11上に固定するテープ18は、粘着剤層が設けられた粘着テープであってもよい。
【0046】
〔マイクロニードル構造体の製造方法〕
【0047】
図3、4に、本発明の実施形態に係るマイクロニードルパッチ1の製造方法を示す。本実施形態では、水不溶性の高分子量の低融点樹脂および孔部13を形成するための水溶性材料を溶融して型に充填し(充填工程)、充填された混合物を固化して得られた固形状組成物31を基材11に接着させ(接着工程)、その後固形状組成物31を加熱加圧することで突起部32を形成し(形成工程)、その後突起部32から水溶性材料を除去して(除去工程)、突起部32を針状部12とする。以下、詳細に説明する。
【0048】
(充填工程)
基材11及び固形状組成物31の作製についてまず説明する。上述のように針状部10を構成する樹脂としては高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるが、本実施形態では、水不溶性の高分子の低融点樹脂を、針状部10を構成する樹脂として用いる。初めに、水不溶性の高分子の低融点樹脂、水溶性材料および任意の成分を含む組成物を加熱して溶融せしめて混合して混合物33を調製する。
【0049】
本実施形態では、高分子量の低融点樹脂の形状は特に限定されないが、通常用いられる微粒子状のものを用いることができる。これは、針状部12の強度を高めるために高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いているが、これらは溶融粘度が高く、ペレット状(大きさが、通常、最大長において1~5mm)の樹脂は、溶融した後に製造時のハンドリング性が低い。特に、樹脂が疎水性で水溶性材料が水溶性である場合には、両者が混ざりにくく、ハンドリング性が低い。そのため、樹脂と水溶性材料とは混錬機等を使って混練する必要があった。これに対し、本実施形態では、高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂、特に高分子量の低融点樹脂を微粒子状とすることで、両者を混ざりやすくし、混練機等を用いなくても低融点樹脂と水溶性材料とを含む組成物の混練を容易としている。
【0050】
ここで、微粒子の粒径は1~500μmであることが好ましい。この範囲であることで、製造時のハンドリング性が高い。さらに、粒径は5~250μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。また、本発明における微粒子には、球状、柱状、多角形状、また細かいフレーク状のもの等も含まれる。どのような形態のものであっても、粒径(多角形状やフレーク状である場合には、その長手方向における長さ)が1~500μmに含まれるものであれば好ましい。
【0051】
混合物33の調製に当たっては、樹脂を溶融させた場合にその粘度を低下させられるように、40℃以上180℃以下で加熱をすることが好ましく、55~180℃で加熱することがより好ましく、70~170℃で加熱することがさらに好ましい。当該混合物33の調製においても、本実施形態では針状部12を構成する樹脂として水不溶性の高分子量の低融点樹脂を用いていることから、加熱温度を比較的低く設定することができる。このため、後の形成工程において、基材11が突起部32の形成のために固形状組成物31と共に加熱されるとしても低温で加熱されるので、低コストで作業性がよいとともに、基材11が軟化や変形、燃焼することがなく、基材11の選択の自由度が高い。ペレット状の高分子量の低融点樹脂を用いる場合には、混錬機を使って混錬することで、高分子量の低融点樹脂と水溶性材料とを十分に混錬することができる。なお、混合物33は溶融している状態とすることが好ましい。より低温で加熱することを重視する場合には、混合物33を基材11と接着する程度に軟化させてもよいが、製造時間の減縮等を考えれば、上記のように水不溶性材料の溶融が開始される低融点樹脂の融点以上で加熱することが好ましい。
【0052】
水溶性材料としては、少なくとも融点が常温よりも高い水溶性材料が好ましい。水溶性材料は有機物であってもよいし、無機物であってもよく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、芒硝、炭酸ナトリウム、硝酸カリウム、ミョウバン、砂糖、水溶性樹脂等が挙げられる。水溶性樹脂としては、水溶性の熱可塑性樹脂が好ましく、融点が常温よりも高いものが好ましい。水溶性の熱可塑性樹脂としては、後述する生分解性樹脂のほか、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。水溶性の熱可塑性樹脂は、さらに、人体への影響を考慮して、生分解性樹脂であることがより好ましい。このような生分解性樹脂としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、コラーゲンおよびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられ、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。ポリアルキレングリコールの分子量は、例えば200~4,000,000であることが好ましく、600~500,000であることがより好ましく、1,000~100,000であることが特に好ましい。ポリアルキレングリコールの中でも、ポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0053】
また、混合物33を調製する際に同一の加熱温度で高分子量の低融点樹脂と水溶性材料とのいずれも溶融させることが容易となるように、高分子量の低融点樹脂の融点と水溶性材料の融点の差が、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましい。
【0054】
水不溶性材料と水溶性材料とは、質量比で9:1~1:9で混合されることが好ましく、8.5:1.5~3:7で混合されることがより好ましく、8:2~5:5で混合されることが特に好ましい。この割合で混合物33が構成されていることで、所望の空隙率の針状部12を形成し、針状部12の液体透過性と強度を両立させやすくなる。
【0055】
当該混合物33を、
図3(a)に示すように、固形状組成物用モールド(型)41に形成された固形状組成物用凹部42に注入する。固形状組成物用凹部42は、所望の量の混合物33を貯留できる形状、容量で形成されていればよい。
【0056】
固形状組成物用モールド41の材質も特に限定されるものではないが、例えば、正確な型を作りやすく、固化して得た固形状組成物31を剥がしやすいシリコーン化合物等で形成されていることが好ましく、本実施形態ではポリジメチルシロキサンからなる。
【0057】
(接着工程)
固形状組成物用凹部42に混合物33が貯留された状態で、得られる固形状組成物31の表面の平坦化のため、固形状組成物用凹部42の上面に、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)からなる固形状組成物用シート43を蓋として載置する。固形状組成物用モールド41ごと-10~3℃で1~60分間保持することで、溶融していた混合物33が固化して固形状となるので、固形状組成物用モールド41から固形状組成物用シート43ごと剥離し、その後固形状組成物用シート43を剥離する。これにより、
図3(b)に示す固形状組成物31を得る。
【0058】
基材11を準備する。基材11は、本実施形態では接着剤層16を有するものであり、接着剤層16はコーティングや塗布により形成してもよいが、本実施形態では、所定の領域に接着剤層16を有する粘着テープを基材11として用いる。そして、基材11に貫通孔15を形成する。貫通孔15の形成方法は特に限定されず、例えば打ち抜きやレーザー穿孔により形成することができる。
そして、
図3(c)のように、基材11の接着剤層16に固形状組成物31を貼り付けて基材11と固形状組成物31とを一体とする。このように、第一接着剤層16を有することで、基材11に予めに固形状組成物31を接着させておき、基材11と固形状組成物31とを型に入れて後述の加熱加圧工程において加熱押圧することで、マイクロニードル構造体10を簡易に得ることができる。また、基材11と固形状組成物31とが一体となることで、搬送等の取扱いが容易になる。
【0059】
(形成工程)
次いで、
図4(a)に示すように、基材11を備えた固形状組成物31を、凹部51を有するモールド52の凹部51内に載置する。凹部51の底面中央には、突起部形成用凹部53も設けられている。固形状組成物31は、凹部51の底面上、即ち突起部形成用凹部53上に載置される。突起部形成用凹部53は、針状部12を形成するためのものであり、針状部12に対応した形状、大きさで形成されている。そして、基材11の他方面側(背面側)にモールド52の蓋54を設置する。この蓋54も、例えばポリジメチルシロキサンからなる。
【0060】
次いで、
図4(b)に示す加熱工程を行う。加熱工程は、所望の形状の突起部32等を形成するためのものであり、加熱加圧を一度に行ってもよいが、本実施形態のように、モールド52の凹部51に固形状組成物31を十分に充填させるために、基材11を備えた固形状組成物31の溶融を開始するための予備工程と、溶融した固形状組成物31を凹部51等に十分に充填するための本工程とからなることが好ましい。
【0061】
まず、予備工程および本工程においては、
図4(b)に示すように、固形状組成物31が凹部51に載置された状態で、モールド52と蓋54とで基材11及び固形状組成物31を挟持する。そして、その状態で、モールド52および蓋54を下部ステージ56上に載置するとともに、上部ステージ57をモールド52および蓋54の上に設置する。
【0062】
予備工程および本工程における加熱条件としては、40℃以上かつ基材11に与える影響が小さい180℃以下で加熱をすればよく、好ましくは、55~180℃で加熱することであり、70~170℃で加熱することがさらに好ましい。本実施形態では、固形状組成物31が溶融可能な温度で加熱している。なお、固形状組成物31の加熱のため、下部ステージ56及び上部ステージ57の少なくとも一方のみを加熱してもよいし、両方を加熱してもよいが、両方を加熱することが好ましい。凹部51等に、高分子量の低融点樹脂を含む固形状組成物31を速やかに充填するため、下部ステージ56を高温とすることが好ましく、例えば、下部ステージを120~180℃の範囲の温度としてもよい。上部ステージ57の温度は、後述するように、針状部12又は基部14と、基材11との間の接着性を向上させる効果を得つつ、熱による基材の変形等を抑制する観点から、70~110℃の範囲の温度とすることが好ましい。本工程では、予備工程の後、加熱を維持すればよく、適宜温度を変更してもよい。
【0063】
この状態で上部ステージ57と下部ステージ56との間でモールド52を押圧(加圧)する。この予備工程での圧力は、0.1~5.0MPであることが好ましい。この範囲の圧力であることで、固形状組成物31を短い時間で溶融させ、溶融した固形状組成物31を凹部51等に速やかに充填することができる。そして、10秒~10分間保持することで、固形状組成物31が溶融された状態となる。なお、予備工程と本工程で、加圧条件を変更してもよい。例えば、本工程においては、予備工程よりも高圧又は長時間の条件で加圧を行うことができる。
【0064】
本実施形態のように予備工程と本工程とを行うことで、固形状組成物31が十分に溶融されるとともに、凹部51、突起部形成用凹部53に充填される。また、得られる針状部12又は基部14が多孔構造を有していると、針状部12又は基部14の基材11に対する接着面積が小さくなり、これらの間の接着性にとって不利になるが、基材11と固形状組成物31が接着した状態で形成工程における加熱を経ることで、針状部12又は基部14と、基材11との間の接着性を向上させることができる。
【0065】
その後、下部ステージ37からモールド52を外して溶融した固形状組成物31を-10~3℃で1~60分間保持する(冷蔵固化工程)ことで冷蔵固化する。これにより、突起部形成用凹部53に応じた形状の転写性の高い突起部32等が形成される。
【0066】
(除去工程)
接着工程の完了の後、そして、固化された突起部32と基材11とが接着されたものをモールド52から離間して液中に静置して水溶性材料を除去して針状部12を形成する除去工程を行う。
【0067】
この除去工程における洗浄液は水を含むものであり、除去工程は、
図4(c)に示すように、本実施形態では、突起部32等と基材11とが接着されたものを洗浄液58中に静置することで行う。水を含む洗浄液中に静置することで、突起部32等に含有されていた水溶性材料のうち、外部に露出するか、もしくは露出した部分と連通していた部分は溶解し、水中に流れ出て除去される。なお、洗浄液58は水を含んでいればよく、例えば水とアルコール等の混合溶媒であってもよい。この除去により、突起部32等に孔部13が形成され、残留した高分子量の低融点樹脂からなる針状部12が形成される。また、針状部12以外にも、凹部51に充填することで基材11の一方面に付着していた溶融した固形状組成物31においても水溶性材料が除去されることで、基部14も同じ多孔構造として形成される。これにより、本実施形態のマイクロニードル構造体10を得る。
【0068】
(検査パッチ等の製造方法)
図示しないが、得られたマイクロニードル構造体10の基材11の背面側の所定の位置に分析シート17を配置し、分析シート17を覆うようにテープ18を積層することで(設置工程)、検査パッチを製造することが可能である。積層方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば、基材11の背面側に分析シート17を載置したのちに、一般的に用いられる、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の接着剤層をテープ基材上に形成した粘着テープ18を積層することで検査パッチを製造できる。薬剤投与パッチも、同様の方法により製造することが可能である。
【0069】
(変形例)
また、本実施形態では、固形状組成物31として、水溶性材料と、水不溶性の高分子量の低融点樹脂とを含有するものを説明したが、固形状組成物31は少なくとも樹脂、特に高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有していれば特に限定されない。本実施形態のように固形状組成物31を用いる場合には、組成物が溶媒を含有しないので、基材11の変色や変形を抑制できるため好ましい。さらに、本実施形態において、接着工程と形成工程の順序を入れ替え、形成工程と並行して接着工程を行ってもよい。即ち、凹部42に混合物33を充填し、固化させる前に基材11を混合物33上に載置して接着工程を行い、基材付き固形状組成物31を得るようにしてもよい。
【0070】
本実施形態では、水溶性材料を除去することで孔部13を容易に形成するために水不溶性の高分子量の低融点樹脂を用いて針状部12を形成したが、前述した高分子樹脂及び高融点樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を用いるものであれば孔部13の作製方法は特に限定されない。例えば、形成工程において、モールド2に粒子状の高分子量の低融点樹脂等を充填し、低融点樹脂の融点以上の温度で焼結することにより、粒子間の多数の空隙により構成された多孔構造を有するマイクロニードル構造体を得てもよい。この場合にも、形成工程と接着工程を同時に行う場合には、基材11が耐熱性の樹脂からなる層を有することで、基材11の変形や変質を抑制することが可能である。いずれの場合であっても針状部12を形成するために高分子量の低融点樹脂を用いることで、高温で加熱をする必要がないために、低コストで作業性がよいとともに、基材11が変形・軟化することがなく、基材11の選択の自由度を高くすることができる。
【0071】
本実施形態では、水溶性材料を除去することで孔部13を容易に形成するために水不溶性材料を用いて針状部12を形成したが、針状部12の作製方法は特に限定されない。例えば、形成工程が、水溶性材料と水不溶性材料と溶媒とを含有する液体状組成物を形成し、前記溶媒を蒸発させて溶媒以外の組成物を突起部生成用凹部に充填し、乾燥させることで突起部を形成するという手法によるものであってもよい。また、例えば、形成工程が、基材11上に、水溶性材料及び水不溶性材料を含有させた状態で粘度が0.1~1000mP・sであるように調製してディスペンサー等で液状組成物を滴下し、これにより針状部12を形成するという手法によるものであってもよい。
【0072】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。
〔実施例〕
なお、実施例及び比較例において重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)した標準物質:ポリスチレン標準換算の重量平均分子量である。GPC測定用の試料の調製は以下の手順で行った。まず、スクリュー管に実施例及び比較例で用いたポリカプロラクトン(PCL)1gとテトラヒドロフラン(THF、富士フィルム和光純薬社製)9gを添加し、振とうさせ、完全に溶解させ、10%PCL溶液を作製する。さらに、得られた溶液1mlとTHF9mlを別途用意したスクリュー管に滴下し、1%PCL溶液を作製する。この1%PCL溶液をGD/Xシリンジフィルター(Whatman社製)でろ過し、GPC装置へ滴下した。
(測定条件)
・測定装置:東ソー社製,HLC-8320
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK gel superH-H
TSK gel superHM-H
TSK gel superH2000
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0073】
(実施例1)
水溶性材料としての、ポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量4kDa)を3g、微粒子状(平均粒径35μm)のポリカプロラクトン(重量平均分子量80,000)7gを170℃で加熱しながらスターラーで加熱攪拌した。これにより、混合物33を調製した。ポリジメチルシロキサンからなる固形状組成物用モールド42を準備し、この固形状組成物用モールド41には、開口部が各辺15mm×15mmの正方形状で深さが1.5mmの凹部42が形成されていた。この固形状組成物用モールド41の凹部42を満たすように混合物33を注入した。
【0074】
固形状組成物用モールド蓋(ポリジメチルシロキサンからなるシート)43を固形状組成物用モールド41に載置し、固形状組成物31の表面を平坦化した。この状態で3℃で5分保持し、溶融されていた混合物33が固化して固形状となり、固形状組成物用モールド41から離間して固形状組成物31を得た。次いで、粘着テープ(PET基材(100μm厚)にアクリル系粘着剤層(25μm厚)が形成されたもの)である基材11の粘着剤層と固形状組成物31とを接着せしめた。これにより基材11を備えた固形状組成物31を得た。
【0075】
形成工程を行うために、突起部形成用凹部53を有するモールド52を準備した。モールド52は、ポリジメチルシロキサンからなり、凹部51を有するその表面に突起部形成用凹部53が下記の詳細のように形成されたものであった。
・突起部形成用凹部形状:断面正方形の四角錘形状
・突起部形成用凹部の最大断面の一辺の長さ:500μm
・突起部形成用凹部の高さ:900μm
・突起部形成用凹部のピッチ:1000μm
・突起部形成用凹部の数:縦列13本、13列の計169本
・突起部形成用凹部が形成された領域のサイズ:15mm四方
・突起部形成用凹部の配置:正方形格子状
【0076】
加熱プレス機(アズワン株式会社製、AH-1T)の下部ステージ56上にモールド52を載置して、凹部51に面するように、モールド52の上に基材11付き固形組成物31を載置し、その上から30mm四方の正方形状のポリジメチルシロキサン製のシート(蓋54)を重ね、加熱プレス機の下部ステージ設定加熱温度:170℃、上部ステージ設定加熱温度:140℃で加熱しながら、2MPaで3分間押圧して予備工程を行った。その後、加熱プレス機の温度を保持し加熱した状態で4MPaで30秒押圧して本工程を行った。さらに蓋54及びモールド52に収められた基材11及び溶融された組成物を3℃の冷蔵庫にて5分間保管し組成物を固化させ、突起部32等が形成された。その後、モールド52から基材11を剥離して基材11及び形成された突起部32等を23℃の精製水に24時間浸漬させて水溶性材料を溶解させ除去した。その後、乾燥オーブン(30℃)に基材11及び成型された固形状組成物31を5時間静置し、水分を蒸発させて乾燥し、マイクロニードル構造体10を得た。
【0077】
(比較例1)
針状部を構成する樹脂として、微粒子状(平均粒径35μm)のポリカプロラクトン(重量平均分子量10,000)7gを用い、加熱攪拌をスターラーにて110℃で行ったこと、および形成工程における加熱工程の温度をいずれも110℃とし、さらに予備工程の加圧時間を1分30秒としたこと以外は実施例1と同様にしてマイクロニードル構造体を得た。
【0078】
(比較例2)
針状部を構成する樹脂として、ペレット状のポリカプロラクトン(重量平均分子量10,000)7gを用い、加熱攪拌をスターラーにて110℃で行ったこと、および形成工程における加熱工程の温度をいずれも110℃とし、さらに予備工程の加圧時間を1分30秒としたこと以外は実施例1と同様にしてマイクロニードル構造体を得た。
【0079】
実施例1、2及び比較例1により得られたマイクロニードル構造体について、下記のマイクロニードルアレイ転写性評価及びマイクロニードル先端強度評価を行った。
【0080】
(マイクロニードルアレイ転写性評価)
各実施例及び比較例において、組成物の冷却により突起部を形成し、モールドからの剥離後、精製水に浸漬させる前に、突起部を光学顕微鏡(倍率:50倍および100倍)で観察し、突起部が基材上に残存していた数を数えた。この残存数の、設計上の突起部の全数に対する割合を算出して転写率とした。転写率が50%以上100%以下の場合“A”、0%以上50%未満の場合“B”として評価した。
【0081】
(マイクロニードル先端強度評価)
実施例及び比較例で得られたマイクロニードル構造体を、針状部側を上向きにしてステージに載置し、マイクロスコープで観察し、先端形状が鋭い針状体を一本選択し、その針状部の位置に合わせて、測定器(デジタルフォースゲージ((株)イマダ製))のアタッチメント(鉄製、2mmφ)を、隣接する針状部にアタッチメントが接触しないように注意しながら針状部に接近させた。針状部の先端部に接触するが、針状部に力が加えられない位置までアタッチメントの上下位置を移動させ、そこから0.1mm上昇させた後、降下速度5mm/minでアタッチメントを降下させてアタッチメントに加えられる力(測定範囲:1~5000mN)の測定を開始した。このとき、測定温度:23℃、相対湿度50%であった。測定された力がアウトプットされたグラフ上で、初めに力の降下が観察された時点で、力の降下前の位置で示される力の極大値を読み取り、その値を針状部の先端強度とした。この先端強度が200mNを超える場合“A”、先端強度が100~200mNの場合“B”、先端強度が100mN未満の場合“C”として評価した。なお、転写性評価において、転写率が100%未満である実施例又は比較例については、基材上から脱落せずに残存した針状部から1本を選択して評価を行った。
【0082】
評価結果を表1に示す。
(表1)
表1に示すように、実施例1及び比較例1、2においては、マイクロニードルアレイ転写性評価はAであった。他方で、表1に示すように、マイクロニードル先端強度評価は、比較例1、2では、マイクロニードル先端強度が100mN未満であり、その評価はCであった。これにより、高分子量(重量平均分子量が40,000以上)の低融点樹脂を用いることにより針状部12の強度が高められた。また、実施例1では、高分子量樹脂を微粒子の状態で用いることで、スターラーのような実験室レベルの攪拌装置でも、樹脂の混合を行うことが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のマイクロニードル構造体は、例えば、分析シートを背面側に配置してテープでラミネートすることにより検査パッチとして使用することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 マイクロニードル構造体
11 基材
12 針状部
13 孔部
14 基部
15 貫通孔
16 接着剤層
31 固形状組成物
32 突起部
33 混合物