(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024049963
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】蒸着方法および蒸着用容器
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240403BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022156503
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】望月 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】岩田 充
(72)【発明者】
【氏名】米久田 康智
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA01
4K029DB06
4K029DB10
4K029DB12
4K029DB18
(57)【要約】
【課題】 粉体材料を用いる真空蒸着において、堆積レートを一定に保つことができ、堆積レートを向上するために容器温度を不要に上げる必要がなく、熱分解しやすい粉体材料でも所望の堆積レートで蒸着を行える蒸着方法の提供を課題とする。
【解決手段】 粉体材料を収容する収容部、および、粉体材料蒸気を収容部から放出するための1以上の開口を有し、収容部の内表面積をS、開口の総面積をOとした際に、内表面積Sと開口総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である容器を用い、容器を加熱することで粉体材料の真空蒸着を行うことで、課題を解決する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体材料を真空蒸着するに際し、
前記粉体材料を収容して加熱するための容器として、
前記粉体材料を収容する収容部、および、前記粉体材料の蒸気を前記収容部から放出するための1以上の開口を有し、かつ、
前記収容部の内表面の面積をS、前記開口の総面積をOとした際に、前記内表面の面積Sと前記開口の総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である容器を用い、前記容器を加熱することで前記粉体材料の真空蒸着を行う、蒸着方法。
【請求項2】
前記容器が、前記開口を複数有する、請求項1に記載の蒸着方法。
【請求項3】
前記開口の面積が1mm2以下である、請求項2に記載の蒸着方法。
【請求項4】
前記開口同士が1mm以上離間している、請求項2または3に記載の蒸着方法。
【請求項5】
前記開口が円形である、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項6】
前記収容部の底面積をSbとした際に、前記容器は、前記内表面の面積Sと前記底面積Sbとの比率がSb/Sの百分率で20%以上である、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項7】
前記粉体材料の気化温度と分解温度との差が70℃以下である、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項8】
前記粉体材料が昇華性である、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項9】
前記容器が、前記収容部の少なくとも一部を構成する容器本体と、前記開口を有する前記容器本体と係合する蓋体とを有し、
前記容器本体および前記蓋体が、通電によって発熱する材料で形成される、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項10】
前記粉体材料の体積を前記収容部の容積の50~5%の範囲に保って、前記粉体材料の蒸着を行う、請求項1または2に記載の蒸着方法。
【請求項11】
真空蒸着を行う際に、蒸着を行う材料を収容して加熱する蒸着用容器であって、
前記材料を収容する収容部、および、前記材料の蒸気を前記収容部から放出するための1以上の開口を有し、
前記収容部の内表面の面積をS、前記開口の総面積をOとした際に、前記内表面の面積Sと前記開口の総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である、蒸着用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体材料を真空蒸着するための蒸着方法、および、この蒸着方法に用いられる蒸着用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、真空蒸着では材料を入れた容器を加熱し、その温度を適切に調節することにより材料を所望量気化させて基板に堆積させる。
ここで、真空蒸着において、適正な膜を成膜するためには、単位時間当たりの基板側への材料の堆積量いわゆる堆積レートを適正に制御して、安定して一定の堆積レートで蒸着を行う必要がある。
【0003】
例えば、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイの製造では、透明な基板に有機EL薄膜を形成することが行われる。
ここで、有機EL薄膜の成膜では、沸点(昇華点)が異なる複数の材料を同時に蒸着する場合がある。この際には、1つの材料でも堆積レートが変動すると、成膜される有機EL薄膜の成分が変動してしまい、適正な有機EL薄膜を形成することができない。
【0004】
これに応じて、真空蒸着において堆積レートを一定に保つために、各種の提案がされている。
例えば、特許文献1には、蒸発材料または昇華材料が収容される容器と、容器の上部に配置され、容器内で蒸発または昇華した材料が該容器外に放出される量を制御する開口部と、開口部の下に配置され、容器内の蒸発材料または昇華材料が突沸した突沸物が容器外に放出されるのを遮蔽する突沸物遮蔽板と、突沸物遮蔽板を加熱するヒータと、を具備する蒸発源、および、この蒸発源を用いる蒸着装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載される蒸発源を用いることにより、材料が突沸した際にも、材料が蒸発源から放出されることを抑制できる。
材料の突沸による蒸発源外部への放出は、堆積レートの変動の一因となる。従って、特許文献1に記載される蒸発源を用いることにより、材料の突沸に起因する堆積レートの変動は好適に抑制できる。
【0007】
しかしながら、真空蒸着における堆積レートの変動要因は、突沸以外にも様々な要因があり、より堆積レートを一定に保てる真空蒸着方法の出現が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、粉体材料を蒸着する真空蒸着において、堆積レートを一定に保つことができ、しかも、堆積レートを向上するための容器温度の上昇も抑制でき、熱分解しやすい粉体材料でも所望の堆積レートで真空蒸着を行うことを可能にする蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 粉体材料を真空蒸着するに際し、
粉体材料を収容して加熱するための容器として、
粉体材料を収容する収容部、および、粉体材料の蒸気を収容部から放出するための1以上の開口を有し、かつ、
収容部の内表面の面積をS、開口の総面積をOとした際に、内表面の面積Sと開口の総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である容器を用い、容器を加熱することで粉体材料の真空蒸着を行う、蒸着方法。
[2] 容器が、開口を複数有する、[1]に記載の蒸着方法。
[3] 開口の面積が1mm2以下である、[1]または[2]に記載の蒸着方法。
[4] 開口同士が1mm以上離間している、[1]~[3]のいずれかに記載の蒸着方法。
[5] 開口が円形である、[1]~[4]のいずれかに記載の蒸着方法。
[6] 収容部の底面積をSbとした際に、容器は、内表面の面積Sと底面積Sbとの比率がSb/Sの百分率で20%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の蒸着方法。
[7] 粉体材料の気化温度と分解温度との差が70℃以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の蒸着方法。
[8] 粉体材料が昇華性である、[1]~[7]のいずれかに記載の蒸着方法。
[9] 容器が、収容部の少なくとも一部を構成する容器本体と、開口を有する容器本体と係合する蓋体とを有し、
容器本体および蓋体が、通電によって発熱する材料で形成される、[1]~[8]のいずれかに請求項1または2に記載の蒸着方法。
[10] 粉体材料の体積を収容部の容積の50~5%の範囲に保って、粉体材料の蒸着を行う、[1]~[9]のいずれかに記載の蒸着方法。
[11] 真空蒸着を行う際に、蒸着を行う材料を収容して加熱する蒸着用容器であって、
材料を収容する収容部、および、材料の蒸気を収容部から放出するための1以上の開口を有し、
収容部の内表面の面積をS、開口の総面積をOとした際に、内表面の面積Sと開口の総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である、蒸着用容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粉体材料を蒸着する真空蒸着において、堆積レートを一定に保つことができ、しかも、堆積レートを向上するための容器温度の上昇も抑制でき、熱分解しやすい粉体材料でも所望の堆積レートで真空蒸着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の蒸着方法の一例を概念的に示す図である。
【
図2】本発明の蒸着方法に用いる本発明の蒸着用容器の一例を概念的に示す図である。
【
図3】本発明の蒸着方法に用いる本発明の蒸着用容器の別の例を概念的に示す図である。
【
図4】本発明の蒸着方法を説明するための概念図である。
【
図5】本発明の蒸着方法に用いる容器の別の例を概念的に示す図である。
【
図6】本発明の蒸着方法に用いる容器の別の例を概念的に示す図である。
【
図7】本発明の蒸着方法に用いる容器の別の例を概念的に示す図である。
【
図8】本発明の蒸着方法に用いる容器の別の例を概念的に示す図である。
【
図9】本発明の蒸着方法に用いる容器の別の例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の蒸着方法および蒸着用容器について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
なお、以下に示す各図は、本発明の説明するための概念図であり、各部材および開口などの形状、サイズ、および、位置関係等は、実際のものとは異なる。
また、本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
図1に、本発明の蒸着方法を実施する蒸着装置の一例を概念的に示す。
図1に示す蒸着装置10は、本発明の蒸着方法によって基板Zに粉体材料を蒸着する装置である。
図1に示すように、蒸着装置10は、真空チャンバ12と、基板ホルダ14と、容器16と、真空排気手段18と、加熱手段20と、温度測定手段24と、レートモニタ26とを有する。
【0014】
図示例の蒸着装置10において、容器16は、蒸着される粉体材料を収容して、加熱して気化(蒸発)させるものである。本発明の蒸着方法を実施する蒸着装置において、容器16は、本発明の蒸着用容器である。
図示例の蒸着装置10すなわち本発明の蒸着方法は、所定の容器すなわち本発明の蒸着用容器を用いて粉体材料の真空蒸着を行う以外は、基本的に、公知の真空蒸着装置および真空蒸着方法と同様である。
【0015】
従って、真空チャンバ12、基板ホルダ14、真空排気手段18、加熱手段20、温度測定手段24、および、レートモニタ26は、通常の蒸着装置で用いられている公知のものが、各種、利用可能である。
各部材は、公知の方法で、真空チャンバ12内に固定あるいは装着される。さらに、基板Zは、公知の方法で基板ホルダ14に着脱自在に装着される。
また、基板ホルダ14は、必要に応じて、基板Zの回転および/または往復動等、公知の蒸着装置が行っている膜厚分布を抑制するための操作を行ってもよい。また、必要に応じて、真空排気手段18を複数有してもよい。
【0016】
さらに、本発明の蒸着方法を行う蒸着装置は、図示した部材以外にも、基板Zの加熱手段、容器16から排出される蒸気を遮蔽するためのシャッタ、真空チャンバ12の内部を大気圧に戻すための給気管および給気管の開閉手段、不活性ガスの導入手段、および、真空チャンバ12の内部の圧力を測定するための圧力測定手段など、公知の蒸着装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0017】
図2に、容器16を概念的に示す。
図示例の容器16は、容器本体30と、蓋体34とを有する。
容器本体30は、粉体材料を収容する収容部32を主に構成するもので、長方形の板状物の中央に凹部を設けるように形成された直方体状の収容部32と、収容部32の上端から長方形の長手方向に突出するフランジ部30aとを有する。従って、容器本体30の平面形状は、長方形である。
蓋体34は、容器本体30と同じ平面形状を有する長方形の板状の部材で、面方向の外周を一致して、容器本体30に係合される。また、蓋体34の収容部32に対応する領域には、粉体材料の蒸気を収容部32から放出するための開口36が形成される。
従って、収容部32は、容器本体30の凹部と、蓋体34における容器本体30の凹部を閉塞する領域とで構成される。
容器16は、
図2に示すように、容器本体30と蓋体34との外周を一致して積層し、容器本体30のフランジ部30aと、蓋体34のフランジ部30aに対応する部分とを、例えばクランプで固定することで、構成される。
容器16に関しては、後に詳述する。
【0018】
なお、
図1に示す蒸着装置10では、容器本体30および蓋体34は、通電によって発熱する材料で形成されており、加熱手段20は、直流電源20aによって容器16に通電することで、容器16を発熱させて粉体材料を加熱している。
しかしながら、本発明の蒸着方法は、粉体材料すなわち容器16の加熱方法は、これに制限はされず、外部ヒーターで容器16を加熱する方法、輻射熱を利用する加熱方法など、真空蒸着において利用される各種の容器(蒸発源(蒸着源))の加熱方法が利用可能である。
ここで、本発明においては、粉体材料を収容する容器全体を加熱することで、容器との接触部のみならず、容器の粉体材料が接触しない領域の加熱による輻射熱によっても粉体材料を加熱するのが好ましい。この点を考慮すると、粉体材料の加熱手段は、図示例のように、通電によって発熱する容器を用いて、通電によって容器を発熱して粉体材料を加熱する方法が好適に利用される。
この点に関しては、後に詳述する。
【0019】
図1に示す例においては、容器16(蒸発源)および容器16の加熱手段20を1つしか有さないが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、本発明の蒸着方法では、複数の容器16および各容器16の加熱手段20を有し、複数の粉体材料を同時に基板Zに蒸着してもよい。
また、本発明においては、複数の材料の蒸着を同時に行う場合には、少なくとも1つの粉体材料を本発明の蒸着方法で蒸着すれば、他の材料を公知の方法で蒸着してもよい。
【0020】
本発明の蒸着方法において、真空チャンバ12内の真空度(圧力)、粉体材料を加熱する容器温度、容器16を所定温度に到達させるまでの投入電力勾配および時間、基板Zと容器16との距離、基板温度、ならびに、基板回転の回転速度等、真空蒸着における蒸着条件(成膜条件)には、制限はない。
すなわち、本発明の蒸着方法において、蒸着条件は、蒸着する粉体材料、基板Zの形成材料、目的とする堆積レート、ならびに、目的とする膜構造および膜組成等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0021】
本発明の蒸着方法において、粉体材料を蒸着される基板Zには、制限はなく、蒸着条件に応じた十分な耐熱性を有するものであれば、各種のものが利用可能である。
基板Zとしては、一例として、シリコン、ガラス、サファイア、窒化ガリウム、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、および、ポリエチレンナフタレート(PEN)等からなる基板が例示される。
なお、本発明の蒸着方法において、基板Zは、板状物(シート状物、フィルム)に制限はされず、各種の物品が、基板Zとして利用可能である。
【0022】
また、本発明の蒸着方法において、基板Zに蒸着する粉体材料にも、制限はなく、真空蒸着が可能であれば、公知の各種の材料からなる粉体が利用可能である。
後述するが、本発明の蒸着方法は、堆積レートを向上するための容器温度の上昇を抑制して、一定かつ良好な堆積レートで蒸着を行うことが可能である。すなわち、本発明の蒸着方法は、耐熱性が低い有機化合物からなる粉体材料の蒸着に好適に利用可能である。
【0023】
また、この点を考慮すると、本発明の蒸着方法は、熱分解しやすい粉体材料の蒸着に好適に利用可能である。すなわち、本発明の蒸着方法は、気化温度と分解温度との差が小さい粉体材料であっても、熱分解を好適に防止して蒸着を行うことができる。
具体的には、本発明の蒸着方法は、気化温度と分解温度との差が70℃以下、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは50℃以下の粉体材料の蒸着に好適に利用される。
【0024】
さらに、後述するが、本発明の蒸着方法は、堆積レートが安定しにくい昇華性の材料でも、堆積レートを一定に保つことが可能である。なお、周知のように、昇華性の材料とは、固体から液体を経ずに蒸発(昇華)して気体になる材料である。
この点を考慮すると、本発明は、昇華性の材料の蒸着に好適に利用される。
従って、本発明の蒸着方法は、昇華性の有機化合物の蒸着により好適に利用される。
【0025】
本発明において、基板Zに蒸着する粉体材料としては、具体的には、電子製品材料として用いられている一般の有機化合物が例示される。より具体的には、正孔輸送材として用いられる有機化合物、電子輸送材として用いられる有機化合物、有機電界発光素子材料として用いられる有機化合物、有機光電変換材料として用いられる有機化合物、有機太陽電池として用いられる有機化合物、有機薄膜トランジスタとして用いられる有機化合物、有機生体センサーとして用いられる有機化合物、有機メモリとして用いられる有機化合物、および、有機熱電変換材料として用いられる有機化合物等が例示される。
【0026】
なお、本発明において、粉体材料とは、一般的に粉末および粒状物等と称されているものを示す。
具体的には、本発明において、粉体材料とは、粒径0.1nm~1mmの範囲の粉末、粉粒体および粒状物等である。
【0027】
前述のように、
図1に示す蒸着装置は、本発明の蒸着方法を実施するものである。
従って、蒸着装置10は、蒸着する粉体材料を収容して、加熱して気化するための容器として、所定の容器16(本発明の蒸着用容器)を用いて、粉体材料を基板Zに真空蒸着する。
本発明の蒸着方法において、容器は、粉体材料を収容する収容部、および、粉体材料の蒸気を収容部から放出するための1以上の開口を有する。また、この容器は、収容部の内表面の面積をS、開口の面積の合計すなわち開口の総面積をOとした際に、内表面の面積Sと開口の総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である。
以下の説明では、便宜的に、収容部の内表面の面積Sを『内表面積S』、開口の総面積Oを『開口総面積O』ともいう。
【0028】
前述のように、図示例の蒸着装置10において、容器16は、主に収容部32を構成する凹部を有する容器本体30と、容器本体30と同じ長方形の平面形状を有する板状の蓋体34とを、外周を一致して積層した構成を有する。
また、図示例においては、蓋体34は、収容部32に対応する領域に、収容部32から粉体材料の蒸気を放出するための開口36を、6つ有する。
従って、収容部32となる空間を形成する容器本体30の凹部の内壁面(側面および底面)の面積と、同じく収容部32となる空間を形成する蓋体34の面積すなわち
図2に破線で示す領域の面積との合計が、容器16の収容部32の内表面積Sとなる。
また、蓋体34は、収容部32から粉体粒子の蒸気を放出するための開口36を6つ有する。従って、この6つの開口の面積の合計が、容器16の開口総面積Oとなる。
この容器16の収容部32の内表面積Sと、開口総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である。
【0029】
本発明は、このような構成を有することにより、粉体材料を用いる真空蒸着において、堆積レートを一定に保つことができ、しかも、堆積レートを向上するための容器温度の上昇を抑制し、熱分解しやすい粉体材料でも所望の堆積レートで真空蒸着を行うことを可能にしている。
【0030】
真空蒸着では、蒸着する材料を入れた容器(蒸発源)を加熱して、材料を気化することで、基板に気化した材料を堆積させて蒸着(成膜)を行う。ここで、真空蒸着では、容器への投入電力を調節することにより容器温度を適切に制御し、材料の気化量を調節して、堆積レートを一定に保つ。
此処で、通常の開放型の容器では、収容した材料を均等に加熱することが困難であり、突沸等を生じて堆積レートを一定に保つことが困難である。
特に、粉体(固体)の状態から液体の状態を経ずに気化する昇華性の材料は、加熱源となる容器と粉体材料との接触の状態が不均一であり、かつ、刻一刻と変化する。しかも、液化しないので、容器内で液体のように均一にレベリングされることもない。
そのため、昇華性の粉体材料を用いる真空蒸着では、粉体材料を均一に加熱することが難しく、堆積レートを一定に保つことが困難である。
【0031】
これに対して、材料を収容して加熱する容器の開放面を、複数の開口を有する蓋体で覆うことにより、材料の異常飛散を防ぐ蒸着用の容器も知られている。
しかしながら、この容器では、気化して開口に直接的に進行する蒸気は容器から放出されるものの、蓋体の開口ではない部分に当接した蒸気は冷却されて固体に戻ることを繰り返すなど、十分な制御性が得られない。そのため、この蓋体を有する容器では、特に有機化合物のように熱伝達効率が悪い粉体材料では、十分な堆積レートの安定化の効果を得ることができない。
【0032】
このような問題に対して、本発明者らは、鋭意検討を重ねた。
その結果、粉体材料の真空蒸着においては、粉体材料を収容して加熱する容器を半密閉状態にして、気体と固体とが平衡状態(気-固平衡状態)となる飽和蒸気圧として、容器を一定温度で加熱して蒸着を行うことで、堆積レートを好適に一定に保って蒸着を行えることを見出した。
図4に概念的に示すように、真空蒸着において、材料を収容して加熱する容器の蒸気放出口を小さくして半密閉状態とすることにより、破線で示す気化した蒸気が、直接的に容器から放出することが困難になる。
その結果、半密閉状態の容器内に蒸気と粉体材料(実線)とが混在した状態となり、容器内は、容器温度に応じて、これ以上、気化した蒸気が生成されない気-固平衡状態となった飽和蒸気圧となる。
【0033】
この状態では、容器の開口に到達した蒸気のみが、飽和蒸気圧に応じた一定量、放出される。また、容器温度に応じて、開口から放出された分の粉体材料のみが気化されて、気-固平衡状態を保つ。
このように飽和蒸気圧として蒸着を行うことで、開口からの一定量の蒸気の放出と、蒸気の放出に応じた一定量の粉体材料の気化とが、連続的に行われる結果となる。
すなわち、容器を半密閉状態として蒸気を容器内に滞留させて、気-固平衡状態となった飽和蒸気圧とし、容器を一定温度で加熱して蒸着を行うことで、時間当たりの材料の蒸発量を一定にして容器からの蒸気放出量を一定に保つことができ、その結果、堆積レートを好適に一定に保って蒸着を行うことが可能になる。
【0034】
半密閉状態の容器を一定温度で加熱して、気-固平衡状態となった飽和蒸気圧とするには、容器における蒸気の放出口を小さくして、密閉状態に近くする方が有利である。
しかしながら、その反面、蒸気の放出口を小さくすると、蒸気の放出量が少なくなり、堆積レートが低くなってしまう。
堆積レートを高くする方法としては、容器温度を高くして、飽和蒸気圧を高くする方法がある。しかしながら、この方法では、堆積レートは向上するが、粉体材料によっては容器内で熱分解してしまい、目的とする膜を蒸着できない場合がある。すなわち、容器を密閉状態に近くすると、例えば有機EL材料および有機光電変換材料のように、粉体材料が耐熱性の低い有機化合物等である場合には、十分な堆積レートで所望の膜を蒸着することができない。
【0035】
これに対して、本発明の蒸着方法および本発明の蒸着用容器では、真空蒸着において粉体材料を収容して加熱、気化する容器として、容器16の収容部32の内表面積Sと、開口総面積Oとの比率がO/Sの百分率で0.06~2%である容器を用いる。
以下の説明では、容器16の収容部32の内表面積Sと開口総面積Oとの比率O/Sの百分率を、便宜的に、『開口率O/S』ともいう。
【0036】
本発明の蒸着方法によれば、開口率O/Sを2%以下とすることで、容器16の加熱によって、収容部32内を好適に気-固平衡状態の飽和蒸気圧にできる。その結果、昇華性の粉体材料であっても、一定温度での容器16の加熱によって、堆積レートを好適に一定に保つことができる。また、開口率O/Sを0.06%以上とすることで、必要な堆積レートを得るのに十分な開口面積を確保でき、堆積レートを向上するために容器16の容器温度を高温にする必要もない。
従って、本発明の蒸着方法によれば、堆積レートを一定に保つことができ、しかも、堆積レートを向上するための容器温度の上昇を抑制でき、熱分解しやすい有機化合物等の粉体材料でも所望の堆積レートで真空蒸着を行うことができる。
さらに、本発明の蒸着方法によれば、収容部32内を飽和蒸気圧とすることで、開放系の容器を用いる蒸着に比して容器内における粉体材料の温度が一定化されるので、蒸着された膜の純度も向上する。
【0037】
なお、収容部32の内表面積Sは、開口36の面積を含む収容部32の内表面の面積である。図示例において、収容部32の内表面の面積は、蓋体34に開口36が無いと仮定した場合の収容部32の内表面の面積である。
すなわち、本発明の蒸着方法において、容器の収容部の内表面積Sとは、容器が粉体粒子を収容部から放出するための開口を有さないと見なした場合における、収容部の内表面の面積である。
【0038】
また、本発明の蒸着方法において、容器の蓋体は平板状に制限はされず、例えば、
図3に概念的に示す容器16Aのように、容器本体30とは逆側に突出する凸部を有し、この凸部に開口36を有する蓋体34Aも利用可能である。
この際には、蓋体34Aの凸部が形成する空間も、粉体材料を収容するための収容部32Aとなる。従って、この際には、収容部32Aとなる空間を構成する容器本体30の凹部の内壁面の面積と、収容部32Aとなる空間を構成する蓋体の凸部の内壁面の面積の合計が、容器16Aの収容部の内表面積Sとなる。
【0039】
本発明の蒸着方法において、開口率O/Sが2%を超えると、収容部32内を好適に飽和蒸気圧にできず堆積レートを一定に保つことができない、容器16内での突沸により発生した蒸気が開口36からそのまま放出されやすくなり堆積レート変動が大きくなる等の不都合が生じる。
また、開口率O/Sが0.06%未満では、十分な堆積レートが得られない、必要な堆積レートを得るために材料を加熱する容器温度の上昇が必要になり粉体材料の分解が生じる等の不都合が生じる。
本発明の蒸着方法において、開口率O/Sは、0.08~1.7%が好ましく、0.1~1.4%がより好ましくい。
【0040】
図示例の容器16は、収容部32を構成する蓋体34が6つの開口36を有する。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、開口36の数は、1つでもよく、5つ以下の複数でもよく、7つ以上でもよい。
ここで、本発明においては、収容部32から粉体材料の蒸気を放出するための開口36は、複数であるのが好ましい。
開口36が大きすぎると、収容部32に収容した粉体材料が突沸した際に、粉体材料が開口36から放出され易く、これに起因する堆積レートの変動が生じ易くなる。これに対して、開口36を複数有することにより、開口36を不要に大きくする必要なく、開口率O/Sを0.06~2%にすることができる。
なお、開口36の数は、複数が好ましいが、2~15がより好ましく、4~12がさらに好ましい。
【0041】
本発明の蒸着方法においては、開口36の数を複数とした上で、開口36の面積を1mm2以下とするのが好ましい。本発明においては、1以上の開口36の面積を1mm2以下とするのが好ましいが、面積が1mm2以下の開口36の数は多いほど好ましく、全ての開口36の面積を1mm2以下とするのが最も好ましい。
上述のように、開口36が大きすぎると、粉体材料が突沸した際に開口36から放出され、これに起因する堆積レートの変動が生じ易くなる。これに対して、開口36の面積を1mm2以下とすることにより、粉体材料が突沸した際に開口36から放出を防止して、これに起因する堆積レートの変動を抑制できる等の点で好ましい
開口36の面積は、0.9mm2以下がより好ましく、0.8mm2以下がさらに好ましい。
【0042】
なお、開口36の面積は、0.2mm2以上が好ましく、0.4mm2以上がさらに好ましい。
開口36が小さすぎると、蒸気が開口36の蓋体34に接触した際に析出され、材料が付着して閉塞してしまう可能性がある。これに対して、開口36の面積を0.2mm2以上とすることにより、材料による開口36の閉塞を、好適に防止できる。
【0043】
また、本発明の蒸着方法においては、開口36の数を複数とした上で、隣接する開口36同士が1mm以上離間しているのが好ましい。本発明においては、1組以上の開口36同士の距離を1mm以上とするのが好ましいが、1mm以上離間する開口36の組は多いほど好ましく、全ての開口36同士の距離を1mm以上とするのが最も好ましい。
開口36同士が近すぎると、複数の開口36が合わさって1つの開口のようになってしまい、開口36が大きすぎる場合と同様、粉体材料が突沸した際に開口36から放出され、これに起因する堆積レートの変動が生じ易くなる。これに対して、隣接する開口36同士の距離を1mm以上とすることにより、粉体材料が突沸した際に開口36からの放出を防止して、これに起因する堆積レートの変動を抑制できる等の点で好ましい。
隣接する開口36同士の距離は、1.2mm以上がより好ましく、1.5mm以上がさらに好ましい。
【0044】
なお、隣接する開口36同士の距離は、10mm以下が好ましく、6mm以下がさらに好ましい。
開口36同士が離れすぎていると、蒸着した膜の膜厚分布が生じる等の不都合が生じる可能性がある。これに対して、隣接する開口36同士の距離を10mm以下とすることにより、このような不都合が生じることを好適に防止できる。
なお、本発明において、隣接する開口36同士の距離とは、隣接する開口36の端部間の最短距離を示す。
【0045】
本発明の蒸着方法において、開口36の形状は、図示例の円形に制限はされず、三角形、四角形および五角形等の多角形、楕円形、ならびに、不定形等の各種の形状が利用可能である。
しかしながら、例えば、開口の形状が四角形などの多角形等である場合には、開口からの蒸気の放出方向に異方性が生じてしまい、蒸着した膜の膜厚分布が生じる、収容部32の側面への材料付着の増加等が生じ易くなる可能性がある。
この点を考慮すると、開口の形状は、図示例のような円形が好ましい。
【0046】
後述するが、本発明の蒸着方法において、粉体材料を収容して加熱する容器(収容部)の形状は、図示例のような直方体に制限はされず、各種の形状が利用可能である。
ここで、収容部の形状が図示例の直方体のような底面を有する形状である場合には、収容部32の底面積をSbとした際に、容器16は、前述の内表面積Sと底面積Sbとの比率がSb/Sの百分率で20%以上であるのが好ましい。
以下の説明では、内表面積Sと底面積SbとのSb/Sの比率の百分率を、便宜的に、『底面積率Sb/S』ともいう。
【0047】
容器16の収容部32において、収容した粉体材料との接触面積が最も大きいのは、底面である。従って、収容部32における底面積を相対的に大きくすることで、粉体材料と容器16との接触面積を増やすことができ、その結果、粉体材料の気化量を増やすことができる。
そのため、底面積率Sb/Sを20%以上とすることにより,上記の利点をより好適に発現して、容器16の加熱を低温にしても、収容部32内を好適に飽和蒸気圧に保つことができる。
底面積率Sb/Sは、22%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。
【0048】
なお、底面積率Sb/Sが大きすぎると、収容部32の底面と粉体材料の蒸気を放出するための開口36との距離が近すぎて、突沸した際に粉体材料が容易に収容部32から放出されてしまう等が生じ易くなる。
この点を考慮すると、底面積率Sb/Sは、40%以下が好ましく、35%以下がより好ましい。
【0049】
本発明の蒸着方法において、収容部32への粉体材料の収容量には制限はなく、基板Zに蒸着する膜の膜厚等に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、上述のように、本発明の蒸着方法は、収容部32内を気-固平衡状態の飽和蒸気圧に保って、蒸着を行う。このような本発明の蒸着方法では、収容部32内に、ある程度の空間が存在するのが好ましい(後述する
図5参照)。
すなわち、収容部32内に、ある程度の空間を有することにより、この空間に粉体材料の気体蒸気を蓄えることができる。その結果、空間に蓄えた気体蒸気によって、より好適に収容部32内を飽和蒸気圧に保つことができ、より好適に堆積レートを安定させることができる。
【0050】
一方、蒸着が進行すると、収容部32内の粉体材料は漸減し、上記収容部32内における空間は広くなる。
蒸着が進行して、収容部32内の粉体材料が少なくなって、例えば、収容部32の底面に粉体材料で覆われずに露出されたような部分が生じると、気化される粉体材料の蒸気量が少なくなる。その結果、開口36から放出される蒸気とのバランスが取れなくなり、収容部32内を飽和蒸気圧に保つことができなくなる可能性がある。
【0051】
以上の点を考慮すると、本発明の蒸着方法では、収容部32内における粉体材料の体積を、収容部32の容積すなわち収容部32の空間体積の50~5%([vol%])に保つように、蒸着を行うのが好ましい。
これにより、収容部32において粉体材料の蒸気が存在するための空間を十分に確保した上で、蒸着が進行しても収容部32内を好適に飽和蒸気圧に保つことができ、より安定した堆積レートで粉体材料の蒸着を行うことができる。
収容部32内における粉体材料の体積は、収容部32の容積の48~7%に保つのがより好ましく、45~10%に保つのがさらに好ましい。
【0052】
上述のように、図示例の蒸着装置10において、容器16は、好ましい態様として、通電によって発熱する材料で形成された容器本体30および蓋体34を積層してクランプ等で固定することで構成される。より好ましくは、容器本体30および蓋体34は、通電によって発熱する同じ材料で形成される。
また、蒸着装置10においては、直流電源20aによって、容器16すなわち容器本体30および蓋体34に通電することで、容器16を発熱させて、粉体材料を加熱する。
本発明の蒸着方法では、このような構成を有することにより、容器16に通電することで、容器の全体が同じ温度で発熱し、均一な温度で収容部32を加熱できる。そのため、この構成によれば、収容部32内において、容器と粉体材料との接触部のみならず、容器の粉体材料と接触しない領域の加熱による輻射熱によっても、粉体材料を加熱できる。その結果、収容部32内を好適に飽和蒸気圧に保つことができ、より安定した堆積レートで粉体材料の蒸着を行うことができる。
【0053】
本発明の蒸着方法において、容器16の形成材料には、制限はなく、真空蒸着で用いられている公知の容器(蒸発源、ボート)の形成材料が、各種、利用可能である。
ここで、上述した理由によって、容器16の形成材料は、通電によって発熱する材料であるのが好ましい。具体的には、容器16の形成材料としては、タンタル、モリブデン、および、タングステン等が例示される。
【0054】
以上の例では、収容部32の形状は直方体状であったが、本発明は、これに制限はされず、各種の形状であってもよい。
一例として、
図5に概念的に示すような立方体状あるいは高さが高い直方体状の収容部(容器)が例示される。この形状によれば、上述した収容部内の空間を確保し易い。
また、
図6に概念的に示すような、側面(側壁)が高さ方向に向かって広がり、中央から上で狭くなる形状の収容部(容器)も利用可能である。
さらに、
図7に概念的に示すような錐形状(錐台状)および
図8に概念的に示す逆錐形状、ならびに、
図9に概念的に示す球形状等の収容部(容器)も、利用可能である。
なお、以上の図において、ハッチングは収容した粉体材料を示す。
【0055】
以上、本発明の蒸着方法および蒸着用容器について説明したが、本発明は、これに制限はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および偏光を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例0056】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。
ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定はされない。従って、本発明の範囲は、以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
[実施例1]
図1に示すような蒸着装置を用いて、真空蒸着によって基板に成膜を行った。
基板は4インチのシリコンウエハを用いた。
粉体材料は、平均粒径が1μmの粉末状の8-ヒドロキシキノリンアルミニウム用いた。この粉体材料は、昇華性の材料である。
【0058】
容器は、
図2に示すような平面形状が長方形である容器本体と蓋体とからなる容器を用いた。この容器は、厚さが0.15mmのタンタル製である。収容部は、底面が30×30mm、高さが20mmの直方体とした。
開口は、直径が1mmの円形の開口を8つ設けた。なお、開口の形状は、以下の例においてもすべて円形である。開口は、千鳥格子状に設け、間隔は全て1.5mmとした。
容器は、
図2に示すように容器本体と蓋体とを係合して両者をクランプで固定した。
【0059】
このような蒸着装置を用いて、基板に蒸着を行った。
容器への粉体材料の投入量は1gとし、膜厚が1000Åとなるまで蒸着を行った。
蒸着圧は、3×10-5Paとした。
容器の加熱は、容器に直流電流を通電することで、容器を発熱することで行った。
容器の下面に温度測定手段として熱電対を当接した。蒸着中は、熱電対によって温度を測定し、容器の下面温度が300℃で一定となるように投入電流量を調節した。
【0060】
成膜中は、真空チャンバ内に設けたレートモニタによって、堆積レートを測定した。堆積レートの測定は、基板上の膜厚がわかるようにレートモニタ係数を調節して行った。なお、堆積レートは、容器の加熱開始後、容器の下面温度が300℃に安定した後、10秒経過してから測定を開始した。
また、堆積レートの測定結果から、堆積レートの振れ幅(レート振れ)を検出した。堆積レートの振れ幅は、堆積レートの最大値と最小値との差である。
堆積レートおよびレート振れ幅の測定結果を、下記の表1に示す。
【0061】
[実施例2~実施例7、比較例1および比較例2]
粉体材料を収容して加熱する容器において、収容部の底面の面積、収容部の高さ、開口の直径(開口径)、開口の数、および、開口の間隔の1以上を、適宜、変更した以外は、実施例1と同様に基板に蒸着を行い、堆積レートおよびレート振れ幅を測定した。
なお、実施例5の容器は、底面が40×40mmで、天井面が15×15mmである、四角錐台状の収容部を有するものである。
結果を下記の表1に併記する。
【0062】
【0063】
表1に示すように、容器の収容部における開口率O/S(開口総面積O/内表面積S)が0.06~2%である本発明の蒸着方法によれば、1Å/s(秒)の堆積レートを確保できると共に、蒸着のレート振れも小さい。
特に、実施例1および実施例2に示されるように、開口の面積を1mm2以下とすることにより、突沸した粉体材料が容器外に突出することを防止して、堆積レートを安定することができる。また、実施例1および実施例3に示されるように開口の間隔を1mm以上とすることにより、同じく、突沸した粉体材料が容器外に突出することを防止して、堆積レートを安定することができる。
また、実施例1、実施例4および実施例5に示されるように、収容部の底面積率Sb/S(底面積Sb/内表面積S)を20%以上とすることで、少ない投入電流でも安定した蒸着が可能になり、また、底面積率を大きくすることで、投入電流を低減できる。
さらに、実施例1、実施例6および実施例7に示されるように、収容部の内表面積Sを大きくすることで、投入電流を低減できる。
【0064】
これに対して、容器の収容部における開口率O/Sが2%を超える比較例1は、収容部内を飽和蒸気圧にできずに、堆積レートの変動が大きい。また、容器の収容部における開口率O/Sが0.06%未満の比較例2は、堆積レートが0.2Å/sと低い。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。