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特開2024-50304発泡成形品、車両用部材及び車両用バックドア
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  • 特開-発泡成形品、車両用部材及び車両用バックドア 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050304
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】発泡成形品、車両用部材及び車両用バックドア
(51)【国際特許分類】
   B29C 44/00 20060101AFI20240403BHJP
   B60J 5/10 20060101ALI20240403BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240403BHJP
   B29C 45/56 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B29C44/00 D
B60J5/10 R
B29C45/00
B29C45/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157104
(22)【出願日】2022-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 重哉
【テーマコード(参考)】
4F206
4F214
【Fターム(参考)】
4F206AB02
4F206AG20
4F206AH18
4F206AR12
4F206JA04
4F206JL02
4F206JM05
4F206JN25
4F206JQ81
4F214AB02
4F214AG20
4F214AH18
4F214AR12
4F214UA08
4F214UB01
4F214UC24
4F214UC28
4F214UL25
(57)【要約】
【課題】軽量化と剛性の向上とを両立可能な発泡成形品の提供。
【解決手段】発泡成形品は、第1のスキン層と発泡層と第2のスキン層とがこの順で積層された発泡部位を有し、前記発泡部位における最大厚みをXとしたときに、前記発泡部位における最小厚みが0.625Xを超える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のスキン層と発泡層と第2のスキン層とがこの順で積層された発泡部位を有し、
前記発泡部位における最大厚みをXとしたときに、前記発泡部位における最小厚みが0.625Xを超える発泡成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の発泡成形品を含む車両用部材。
【請求項3】
アウターパネルと、前記アウターパネルの車両内側に設けられたインナーパネルと、を有し、前記アウターパネル及び前記インナーパネルの少なくとも一方が、請求項1に記載の発泡成形品を含む車両用バックドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発泡成形品、車両用部材及び車両用バックドアに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂構造体は、金属に比べて軽量であることから、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体等として幅広く用いられている。樹脂構造体の中でも特に樹脂成形品は軽量であり、自動車等の車両の部品に用いれば、燃費の向上が期待される。
樹脂成形品のさらなる軽量化には、樹脂成形品の薄肉化が有効である。一方、過剰な薄肉化は樹脂成形品の剛性の低下を招くことがある。また、剛性確保のためのリブ、ボス等といった形状が、樹脂成形品の表面外観を損ねる恐れがある。
【0003】
強度を保持したままで樹脂成形品を軽量化するための方法として、例えば、特許文献1に記載の発泡成形方法が知られている。特許文献1では、移動型と固定型により形成される成形用金型のキャビティ内に溶融樹脂を注入後、移動型をわずかに寸開移動(コアバック)させた状態で発泡処理を行うことで樹脂成形品を得ている。以下、発泡処理を行うことで得られた樹脂成形品を、発泡成形品と称することがある。
溶融樹脂をキャビティ内に注入した場合、成形用金型と接する部分が冷却固化されて膜状のスキン層が形成される。その状態で固定型に対して可動型をコアバックさせてキャビティ内の容積を拡張すると、スキン層で覆われた溶融樹脂が発泡して発泡層となり、発泡成形品が製造される。
発泡成形方法によれば、キャビティ内の容積を拡張することで重さを一定にしたまま発泡成形品を厚肉化できるため、発泡成形品の軽量化と剛性の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-238726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発泡前の発泡成形品(コアバック前のキャビティ)の厚みをどの部位も同じとした場合、発泡成形品の厚みは、成形用金型の開閉方向(コアバック方向)と発泡成形品の表面とがなす角度(型抜き角度)に応じて変化する。そのため、発泡成形品の断面形状が複雑化すると、型抜き角度によっては発泡成形品に十分な厚肉化を図ることのできない箇所が生じて当該箇所の強度が不足することがある。市場要求としては、デザイン性向上のために発泡成形品の断面形状は複雑さを増している。
複雑な断面形状を呈する発泡成形品の具体例としては、車両用バックドアを構成するアウターパネル及びインナーパネル、スポイラー、アーチモール、サッコモール等が挙げられる。これら発泡成形品の形成には多様な型抜き角度を有する金型が用いられるため、強度が不足する箇所が生じやすい傾向にある。
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、軽量化と剛性の向上とを両立可能な発泡成形品、並びに、この発泡成形品を用いた車両用部材及び車両用バックドアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 第1のスキン層と発泡層と第2のスキン層とがこの順で積層された発泡部位を有し、
前記発泡部位における最大厚みをXとしたときに、前記発泡部位における最小厚みが0.625Xを超える発泡成形品。
<2> <1>に記載の発泡成形品を含む車両用部材。
<3> アウターパネルと、前記アウターパネルの車両内側に設けられたインナーパネルと、を有し、前記アウターパネル及び前記インナーパネルの少なくとも一方が、<1>に記載の発泡成形品を含む車両用バックドア。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、軽量化と剛性の向上とを両立可能な発泡成形品、並びに、この発泡成形品を用いた車両用部材及び車両用バックドアを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発泡成形方法に用いられる成形装置10の概略断面図である。
図2】成形装置10において、樹脂材料Rをキャビティ14内に射出充填した状態を示す図である。
図3】成形装置10において、可動型16を固定型12に対して開放方向にコアバックした状態を示す図である。
図4】型抜き角度θが30°以上90°未満である領域Z’におけるキャビティ14の厚みPが、型抜き角度θが90°である領域Yにおけるキャビティ14の厚みQよりも厚い金型17を備える成形装置10の一例を示す概略断面図である。
図5】本開示の車両用バックドアを示す背面図である。
図6図5の車両用バックドアの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本開示において「層」又は「膜」との語には、当該層又は膜が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において、層又は膜の平均厚みは、対象となる層又は膜の5点の厚みを測定し、その算術平均値として与えられる値とする。
層又は膜の厚みは、実体顕微鏡、電子顕微鏡等による断面観察、X線CTスキャンによる発泡成形品の観察等により測定することができる。また、発泡成形品の厚みは、ノギス等の測定工具を用いて測定することができる。
【0011】
<発泡成形品及びその製造方法>
本開示の発泡成形品は、第1のスキン層と発泡層と第2のスキン層とがこの順で積層された発泡部位を有し、前記発泡部位における最大厚みをXとしたときに、前記発泡部位における最小厚みが0.625Xを超えるものである。
本開示の発泡成形品によれば、軽量化と剛性の向上とを両立可能な発泡成形品を得ることが可能となる。
本開示の発泡成形品は、特に、断面形状が複雑な発泡成形品であっても軽量化と剛性の向上とを両立可能な点で有効である。
断面形状が複雑な発泡成形品としては、例えば、任意の2箇所の領域についての後述の型抜き角度θを対比したときに、型抜き角度θの差が30°以上となる関係を示す領域が存在する発泡成形品が挙げられる。なお、任意の領域からは、リブ及びボスは除かれる。
【0012】
以下に、発泡成形方法による発泡成形品の製造方法の概略について、図面に基づき説明する。なお、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。また、同様の機能を有する部材又は部位には、全図面を通して同じ符合を付与し、その説明を省略することがある。
図1は、発泡成形方法に用いられる発泡成形装置の概略断面図である。
図1に示されるように、成形装置10は、固定型12と、固定型12に対して図1において矢印で示す開閉方向Aに移動可能とされ、固定型12との間に空隙であるキャビティ14を形成する可動型16と、を備えている。以降、固定型12及び可動型16を「金型17」と総称する場合がある。
【0013】
キャビティ14は、固定型12及び可動型16を型閉めした状態におけるキャビティ面12Aとコア面16Aとの間の空隙である。なお、図1では、キャビティ14の厚みは、どの部位も同じL0とされている。
キャビティ14は、発泡前の発泡成形品の形状に対応している。つまり、図1に示す開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度θは、開閉方向Aと発泡前の発泡成形品の表面とがなす型抜き角度θと一致する。
【0014】
キャビティ14では、開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度θは、キャビティ14の形状に応じて変化している。
図1における領域Xでは、開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度θは、凡そ0°である。図1における領域Yでは、開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度θは、凡そ90°である。図1における領域Zでは、開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度θは、0°を超え90°未満の角度である。
【0015】
さらに、成形装置10は、キャビティ14まで固定型12を貫通するゲート18と、ゲート18を通じてキャビティ14に溶融状態の樹脂材料Rを射出充填する射出機20と、を備えている。射出機20は、図示しないホッパ(供給部)と図示しないシリンダとを備えている。この射出機20では、樹脂、発泡剤、添加剤等を含有する混合物がホッパ(供給部)からシリンダに供給され、シリンダ内にてスクリュー等で攪拌されて樹脂材料Rとして調製され、所定の圧力でゲート18を通じて樹脂材料Rをキャビティ14内に射出充填する。なお、射出機20は、ゲート18を通じてキャビティ14に溶融状態の樹脂材料Rを射出充填できれば、上記構成に限定されるものではない。
【0016】
発泡成形品は、例えば、金型17のキャビティ14内に発泡剤を含有する樹脂材料Rを射出し、キャビティ14内を樹脂材料で充填した後、金型17を構成する固定型12から可動型16を開閉方向Aにおける可動型16の開放方向に移動させてキャビティ14内の容積を拡張することで、製造することができる。
【0017】
図2に示されるように、射出機20からゲート18を通じて、発泡剤を含有する樹脂材料Rをキャビティ14内に射出充填する。樹脂材料Rが熱可塑性樹脂で構成される場合、樹脂材料Rは加熱して流動化させてキャビティ14内に供給される。
【0018】
射出機20のシリンダ温度は、250℃以下が好ましい。射出機20のシリンダ温度を250℃以下にすることによって、ホッパ出口側からの発泡ガス抜けを抑制でき、成形時の発泡性の改善、安定化等の効果が得られやすい。射出機20のシリンダ温度は、150℃以上であってもよい。
【0019】
本開示で使用される樹脂材料は、特に制限されない。例えば、射出発泡成形に使用される樹脂材料は、一般的に、樹脂と発泡剤とを含有する。樹脂材料Rに用いる樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂(PP)、複合ポリプロピレン系樹脂(PPC)、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アイオノマー系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合系樹脂(ABS)及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。この中でも、ポリプロピレン系樹脂(PP)、複合ポリプロピレン系樹脂(PPC)及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合系樹脂(ABS)からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
樹脂材料には、必要に応じて繊維成分が含まれていてもよい。繊維成分としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、セラミックス繊維等の無機繊維、アラミド繊維、セルロース繊維等の有機繊維などが挙げられる。
【0020】
また、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機系発泡剤、炭酸水素ナトリウム(別名、重炭酸ナトリウム、重曹)等の無機系発泡剤などが挙げられる。現在、自動車用内装部品の発泡成形では、発泡剤として無機系の炭酸水素ナトリウムが主に用いられているが、有機系発泡剤も用いられる。
【0021】
有機系発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N-ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、4,4-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)等が挙げられ、アゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。
【0022】
また、金型17は、通常、供給される樹脂材料Rよりも低い温度となっている。そのため、樹脂材料Rがキャビティ14内へ充填されることで、金型に接した部分から、樹脂材料Rの固化(スキン層の形成)が始まる。
【0023】
なお、キャビティ14内に樹脂材料Rを射出する前に、予めキャビティ14内に窒素ガスを充填しておいてもよい。この場合、窒素ガスは、加温されていてもよい。充填する窒素ガスを加温することで、キャビティ14内(金型17)の急激な温度低下が抑えられ、樹脂材料Rの発泡性が安定する傾向にある。また、充填する窒素ガスを加温することで、外気温に左右されることなく、樹脂材料Rの発泡力の外気温依存性が抑制され、樹脂材料Rの発泡性が安定する傾向にある。
【0024】
キャビティ14内に充填される窒素ガスの温度は、キャビティ14内(金型17)の急激な温度低下を抑えられる温度であれば特に限定されず、成形安定性の観点からは、30℃~50℃であってもよい。
【0025】
次に、図3に示されるように、可動型16を固定型12に対して開放方向に所定量開き(コアバック)、固化していない樹脂材料Rを発泡させて発泡層22を形成し、発泡成形品を得る。図3に示すように、発泡層22を囲うように、キャビティ面12A及びコア面16Aに接してスキン層24(第1のスキン層及び第2のスキン層)が形成されている。
【0026】
ここで、発泡成形品の厚みLは、発泡前の発泡成形品の厚みL0とコアバック量LBと開閉方向Aと発泡前の発泡成形品の表面とがなす型抜き角度(つまり、開閉方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとがなす型抜き角度)θとを用いて、下記式Aで表される。
L=L0+LB・sinθ・・・式A
【0027】
発泡前の発泡成形品の厚みが均一である場合(つまり、式AにおけるL0が一様である場合)、型抜き角度θが90°に近い領域では、厚みLは厚みL0にコアバック量LBを加算した厚みとなる。一方、型抜き角度θが0°に近づくにつれて、厚みLにおける型抜き角度θに対応する分の厚みが減少することになる。
例えば、図3における発泡成形品の厚みLは、領域XではL0であり、領域YではL0+LBであり、領域ZではL0+LB・sinθとなる。
【0028】
以下に、L0とLBとθとを変化させたときのLの値の具体例を、表1~表18に示す。合わせて、LB×sinθの値、及び、型抜き角度θが30°のときのL(L30°)と型抜き角度θが90°のときのL(L90°)との比(L30°/L90°)を示す。なお、表18のL0’については後述する。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】
【0035】
【表7】
【0036】
【表8】
【0037】
【表9】
【0038】
【表10】
【0039】
【表11】
【0040】
【表12】
【0041】
【表13】
【0042】
【表14】
【0043】
【表15】
【0044】
【表16】
【0045】
【表17】
【0046】
【表18】
【0047】
物体の曲げ剛性は、物体の弾性率と板厚の3乗とに比例する。また、発泡前の発泡成形品の弾性率とコアバック後で発泡済みの発泡成形品の弾性率とを比較すると、発泡済みの発泡成形品の弾性率は、発泡前の発泡成形品の弾性率よりも低い。
そのため、コアバックにより増加する板厚による強度の増加分と発泡により減少する成形体の弾性率の減少分とを加味して、所定の曲げ剛性が得られるようにコアバック量と発泡前の発泡成形品の厚みとが設定されることが望ましい。
また、型抜き角度θが小さく、コアバックにより増加する厚みが少ない箇所では、予め、発泡前の発泡成形品の厚みを厚くすることにより、発泡成形品の強度を補うことができる。
例えば、発泡成形品における型抜き角度θが90°に近い領域での厚みと略同等の厚みを確保可能なように、型抜き角度θに応じて発泡前の発泡成形品の厚み(つまり、キャビティ14の厚み)を増加させてもよい。
L0が1.50mmでLBが1.60mmである場合を例にとると、表18に記載のように、型抜き角度θが90°の領域ではLは3.10mmとなる。そこで、型抜き角度θが90°未満の領域では、型抜き角度θが90°の領域と同じくLが3.10mmとなるように、L0を調整する。型抜き角度θが90°のときのLから型抜き角度θが90°未満の場合におけるLの差分だけ、予めL0の厚みを増加させてL0’とすることで、型抜き角度θが90°未満の領域でも、型抜き角度θが90°の領域と同じLとすることができる。
表18に、型抜き角度θが90°の領域でのL0が1.50mmでLBが1.60mmである場合における、型抜き角度θが90°未満の領域についての調整済みのL0(L0’)の具体例を併せて示す。例えば、型抜き角度θが30°の箇所では、型抜き角度θが90°のときのL(3.10mm)から型抜き角度θが30°のときのL(2.30mm)の差分(0.80mm)だけL0(1.50mm)を増加させてL0’を2.30mmにする。これにより、型抜き角度θが30°の箇所において、Lを3.10mmとすることができる。
型抜き角度θに応じて発泡前の発泡成形品の厚みL0’を変化させることで、発泡成形品の板厚の不足に起因する部分的な剛性の低下を抑制可能となる。
【0048】
一方、発泡成形品の軽量化のためには、発泡成形品の剛性を補うために増加させる発泡前の発泡成形品の厚みは、少ないことが好ましい。本発明者等は、鋭意検討の結果、型抜き角度が30°以上90°未満の領域におけるLが型抜き角度90°の領域におけるLに近づくように(より好ましくは、型抜き角度が30°以上90°未満の領域におけるLが型抜き角度90°の領域におけるLと同じになるように)、型抜き角度が30°以上90°未満の領域におけるL0を予め増加させるのが望ましいことを見出した。
例えば、表5に示すように、発泡前の発泡成形品の厚みL0を均一に1.00mmとしLBを3.00mmとした場合に、L(L30°)とL(L90°)との比(L30°/L90°)は、0.625である。この値に基づいて、本発明者等は、発泡部位における最大厚みをXとしたときに、発泡部位における最小厚みを0.625Xを超える範囲に設定した。
本開示では、発泡部位における最大厚みをXとしたときに、発泡部位における最小厚みは、0.643Xを超えるものであってもよく、0.667Xを超えるものであってもよく、0.688Xを超えるものであってもよく、0.700Xを超えるものであってもよく、0.714Xを超えるものであってもよく、0.722Xを超えるものであってもよく、0.740Xを超えるものであってもよく、0.742Xを超えるものであってもよく、0.750Xを超えるものであってもよく、0.767Xを超えるものであってもよく、0.786Xを超えるものであってもよく、0.800Xを超えるものであってもよく、0.803Xを超えるものであってもよく、0.833Xを超えるものであってもよく、0.848Xを超えるものであってもよく、0.850X以上であってもよく、0.900X以上であってもよく、0.950X以上であってもよい。本開示では、発泡部位における最大厚みをXとしたときに、発泡部位における最小厚みは、X以下であってもよい。
【0049】
本開示において、発泡部位における最大厚みと最小厚みとの関係を規定したのは、発泡部位が、剛性を保持したままで発泡成形品の軽量化が図られた箇所であることによる。
なお、発泡成形品では、型抜き角度θが小さいと、コアバック後に発泡層が生じない領域(例えば、図3における領域X)が生ずる場合がある。特に、型抜き角度θが30°未満の領域では発泡層が形成されにくい。本開示の発泡成形品では、発泡部位における最大厚みと最小厚みとの関係を規定するに際し、発泡層が生じない領域(つまり、発泡部位ではない領域)については、考慮しなくともよい。特に、発泡成形品におけるリブ、ボス等の箇所の型抜き角度θは0°に近く、発泡部位が形成されにくい傾向にある。
【0050】
本開示の発泡成形品は、発泡成形方法により製造されることが好ましいが、その製法に特に限定はない。
本開示の発泡成形品の製造方法は、例えば、固定型と、前記固定型に対して開閉方向に移動可能とされ、前記固定型との間に空隙であるキャビティを形成する可動型と、を備える一対の金型における前記キャビティ内に発泡剤を含有する樹脂材料を射出することと、前記キャビティ内を樹脂材料で充填した後、前記金型を構成する固定型から可動型を開放方向に移動させて前記キャビティ内の容積を拡張することと、を有し、前記開放方向と前記キャビティ表面とのなす型抜き角度θが30°以上90°未満である領域における前記キャビティの厚みが、前記開放方向と前記キャビティ表面とのなす型抜き角度θが90°である領域における前記キャビティの厚みよりも厚いものであってもよい。
【0051】
図4は、開放方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとのなす型抜き角度θが30°以上90°未満である領域Z’におけるキャビティ14の厚みPが、開放方向Aとキャビティ面12A又はコア面16Aとのなす型抜き角度θが90°である領域Yにおけるキャビティ14の厚みQよりも厚い金型17を備える成形装置10の一例を示す概略断面図である。
キャビティ14の厚みPがキャビティ14の厚みQよりも厚いと、発泡成形品におけるコアバックにより増加する厚みが少ない箇所での強度不足を、補うことが可能になる。
なお、発泡成形品の重量増加を抑制するため、キャビティ内の容積を拡張後(即ち、コアバック後)における、型抜き角度θが30°以上90°未満である領域Z’についての発泡成形品の厚みが、型抜き角度θが90°である領域Yについての発泡成形品の厚みよりも厚くならないように、キャビティ14の厚みPを調整するのが望ましい。
具体的には、キャビティの厚みPは、以下の範囲であることが好ましい。
Q<P<Q+LB・(1-sinθ)・・・式B
式Bにおいて、LBはコアバック量を示す。
【0052】
<車両用部材及び車両用バックドア>
本開示の発泡成形品は、例えば、自動車、鉄道等の車両に用いられる車両用部材として有用である。本開示の発泡成形品は、特に、アウターパネルと、アウターパネルの車両内側に設けられたインナーパネルとを有する車両用バックドアにおける、アウターパネル及びインナーパネルの少なくとも一方として好適に用いることができる。車両用バックドアを構成するアウターパネル及びインナーパネル、スポイラー、アーチモール、サッコモール等の車両用部材を発泡成形により得ようとすると、その型抜き角度の多様性から、十分な厚肉化を図ることのできない箇所が生じて当該箇所の強度が不足することがある。本開示の発泡成形品を車両用部材に適用することで、強度が不足する箇所の発生が抑制される傾向にある。
【0053】
図5は、二点鎖線で示す車体30のバックドア開口部(図示省略)を閉じた状態のバックドア40が示されている。バックドア40は、車体30に取り付けられて、車体30のバックドア開口部を開閉する機能を有する。
バックドア40は、インナーパネル42(図6参照)と、アウターパネル44(図6参照)と、不図示の補強部材とを備えている。
インナーパネル42は、図6に示されるように、バックドア40の車両内側部を構成する樹脂製のパネル材である。
アウターパネル44は、図6に示されるように、バックドア40の車両外側部を構成する樹脂製のパネル材である。このアウターパネル44は、インナーパネル42に取り付けられる。一例としてアウターパネル44は、接着剤を用いてインナーパネル42に取り付けられるが、本開示はこれに限定されない。
また、バックドア40には、ドアガラスとしてのリアウインドガラス46が取り付けられている。
【符号の説明】
【0054】
10 成形装置
12 固定型
14 キャビティ
16 可動型
17 金型
22 発泡層
24 スキン層
30 車体
40 バックドア
42 インナーパネル
44 アウターパネル
46 リアウインドガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6