(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050389
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】表面処理組成物、表面処理方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240403BHJP
C11D 1/66 20060101ALI20240403BHJP
C11D 3/28 20060101ALI20240403BHJP
C11D 3/37 20060101ALI20240403BHJP
C11D 3/26 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 644A
H01L21/304 622Q
C11D1/66
C11D3/28
C11D3/37
C11D3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052681
(22)【出願日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2022155743
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 努
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼島 栄至
【テーマコード(参考)】
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
4H003AB03
4H003AC01
4H003AC06
4H003DA15
4H003EB07
4H003EB20
4H003EB28
4H003EB36
4H003EB38
4H003EB42
4H003ED31
4H003FA04
4H003FA21
4H003FA28
5F057AA21
5F057DA39
5F057EC30
5F057FA37
5F157AA96
5F157BA08
5F157BC04
5F157BC07
5F157BC54
5F157BD02
5F157BD04
5F157BE33
5F157BE57
5F157BF36
5F157BF49
5F157BF52
5F157BF54
5F157BF55
5F157BF58
5F157BF59
5F157BF60
5F157BF72
5F157BF73
5F157DB03
(57)【要約】
【課題】研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去するとともに、研磨済研磨対象物の表面粗さを低減する手段を提供する。
【解決手段】下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物:(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物:
(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【請求項2】
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物に含まれる窒素原子の数が2以上4以下である、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項3】
前記ノニオン性高分子は、窒素原子を含む、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項4】
前記ノニオン性高分子は、ヒドロキシ基を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物は、第1級窒素原子の数と第2級窒素原子の数との合計が2以上である、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項5】
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、下記式(a)で表されるピペラジン系化合物である、請求項2に記載の表面処理組成物:
【化1】
上記式(a)中、
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基;または第1級~第3級アミノ基のいずれかで置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基である。
【請求項6】
前記ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項7】
前記ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドおよびポリN-ビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物である、請求項5に記載の表面処理組成物。
【請求項8】
前記ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物であり、
上記式(a)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または;第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基である、請求項5に記載の表面処理組成物。
【請求項9】
前記緩衝剤が、酢酸アンモニウムである、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項10】
pHが9.0を超える、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項11】
砥粒を実質的に含まない、請求項1に記載の表面処理組成物。
【請求項12】
下記(D)成分をさらに含む、請求項1に記載の表面処理組成物:
(D)成分:pH調整剤。
【請求項13】
前記pH調整剤が、アンモニアである、請求項12に記載の表面処理組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いてケイ素-ケイ素結合を有する研磨済研磨対象物を表面処理して、前記研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しながら、前記研磨済研磨対象物の表面の残渣を低減する、表面処理方法。
【請求項15】
リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、請求項14に記載の表面処理方法。
【請求項16】
研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
砥粒を含む研磨用組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
請求項1~13のいずれか1項に記載の表面処理組成物を用いて、前記研磨済半導体基板の表面粗さを低減しながら、前記研磨済半導体基板の表面における前記砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理組成物、表面処理方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカ、アルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化珪素、窒化珪素や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMP工程後の半導体基板表面には、不純物(異物または残渣とも称する)が多量に残留している。不純物には、CMPで使用された研磨用組成物由来の砥粒、金属、防食剤、界面活性剤等の有機物、研磨対象物であるシリコン含有材料、金属配線やプラグ等を研磨することによって生じたシリコン含有材料や金属、さらには各種パッド等から生じるパッド屑等の有機物などが含まれる。
【0004】
半導体基板表面がこれらの不純物により汚染されると、半導体の電気特性に悪影響を与え、デバイスの信頼性が低下する可能性がある。したがって、CMP工程後に洗浄工程を導入し、半導体基板表面からこれらの不純物を除去することが望ましい。
【0005】
かような洗浄用組成物として、例えば、特許文献1には、特定の原子を含み、分子量が100以上である有機化合物と、pH調整剤と、0~1質量%の砥粒と、を含む研磨用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された研磨用組成物によれば、CMP後の研磨対象物の表面に残留する不純物を十分に除去することができる。しかしながら、半導体基板の表面粗さについて要求される品質が高くなってきていることに伴い、半導体基板の表面において異物(残渣)を十分に除去できるだけでなく、表面粗さを低減することができる技術が求められている。
【0008】
したがって、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去するとともに、研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物、ノニオン性高分子、および緩衝剤として作用するモノカルボン酸アンモニウムを含むアルカリ性の表面処理組成物により上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、上記目的は、下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物によって達成される:
(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去するとともに、研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しうる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物を提供する:
(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤。
【0013】
上記構成を有する表面処理組成物を、以下、「本発明に係る表面処理組成物」または「本発明の一形態に係る表面処理組成物」とも称することがある。
【0014】
かような本発明に係る表面処理組成物によれば、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面に残留する残渣(例えば、砥粒残渣、有機物残渣)を十分に除去しうる。また、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面粗さを低減しうる。
【0015】
本発明者らは、かような構成によって、研磨済研磨対象物の表面における残渣が除去されうる、さらには研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しうるメカニズムを以下のように推測している。
【0016】
本発明に係る表面処理組成物は、特定の(A)~(C)成分を含む。このうち、(A)成分は、窒素原子を含む非芳香族複素環を有することから、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面に対して比較的吸着しやすいと考えられる。そして、(A)成分は、研磨済研磨対象物の表面に吸着し、研磨済研磨対象物を構成する各原子に対して求核攻撃し、当該原子が形成している結合(特に、ケイ素-ケイ素結合)を伸長させて切断しやすくする。その結果、研磨済研磨対象物表面のエッチングが促進され、エッチングによって研磨済研磨対象物の表面が剥ぎ取られると同時に残渣が除去される結果、残渣が低減できると推測される。
【0017】
ここで、本発明者らは、例えば、アンモニア等を用いて表面処理組成物のpHを高くすること(すなわち、アルカリ性条件とすること)によっても表面のエッチングを促進することができる一方で、研磨済研磨対象物の表面粗さが大きくなってしまうという問題点があることを見出した。
【0018】
かような問題点に対し、(A)成分は、上記の通り研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面に対して吸着し、所謂保護膜のように働くことで当該表面に対する均一なエッチングを促し(局所的なエッチングを抑制し)、表面粗さの低減に寄与していると考えられる。すなわち、(A)成分によって、研磨済研磨対象物の表面に対して一様にエッチングが促進されるため、表面粗さを低減させることができると推測される。
【0019】
また、(C)成分として含まれるモノカルボン酸アンモニウム(特に、(C)成分に含まれるモノカルボン酸アニオン)は、(A)成分としての含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物と相互作用することにより、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面に対して(A)成分が吸着することを促進すると推測される。したがって、表面処理組成物が(C)成分を含まない場合には、(A)成分が研磨済研磨対象物の表面に対して十分に吸着できないため、上記効果が得られず、残渣および表面粗さの低減が達成できない(後述の比較例10および11)。
【0020】
さらに、(B)成分は、上記(A)成分と同様に研磨済研磨対象物の表面に対して吸着して保護膜のように作用し、さらに均一なエッチングを促すと考えられる。ゆえに、本発明に係る表面処理組成物は、(A)成分のみならず、(B)成分を含むことにより、表面粗さの低減効果に優れる。加えて、(B)成分は、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性を向上させ、当該表面に水分子膜を形成しやすくする。ゆえに、研磨済研磨対象物の表面に対し、疎水性である有機物残渣が付着することが抑制されるだけでなく、有機物残渣の再付着もまた防止できる。このため、本発明に係る表面処理組成物によれば、残渣を効率よく除去することができる。
【0021】
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態のみには限定されず、特許請求の範囲内で種々改変することができる。また、本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。また、「Xおよび/またはY」は、X、Yの各々およびこれらの組み合わせを含むことを意味する。
【0023】
[残渣]
本明細書において、残渣とは、研磨済研磨対象物の表面に付着した異物を表す。残渣の例は、特に制限されないが、例えば、研磨対象物由来の残渣、後述する有機物残渣、研磨用組成物に含まれる砥粒由来のパーティクル残渣(砥粒残渣)、パーティクル残渣および有機物残渣以外の成分からなる残渣、パーティクル残渣および有機物残渣の混合物等のその他の残渣等が挙げられる。
【0024】
総残渣数とは、種類によらず、全ての残渣の総数を表す。総残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置を用いて測定することができる。また、残渣数とは、特定の残渣の総数を表す。残渣数の測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0025】
本明細書において、有機物残渣とは、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)表面に付着した異物のうち、有機低分子化合物や高分子化合物等の有機物や有機塩等からなる成分を表す。
【0026】
研磨済研磨対象物に付着する有機物残渣は、例えば、後述の研磨工程もしくはリンス研磨工程において使用したパッドから発生するパッド屑、または研磨工程において用いられる研磨用組成物もしくはリンス研磨工程において用いられる表面処理組成物に含まれる添加剤に由来する成分等が挙げられる。
【0027】
なお、有機物残渣とその他の異物とは色および形状が大きく異なることから、異物が有機物残渣であるか否かの判断は、SEM観察によって目視にて行うことができる。また、
異物が有機物残渣であるか否かの判断は、必要に応じて、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)による元素分析にて判断してもよい。有機物残渣数は、ウェーハ欠陥検査装置、およびSEMまたはEDX元素分析を用いて測定することができる。
【0028】
[研磨済研磨対象物]
本明細書において、研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0029】
本発明に係る研磨済研磨対象物に含まれる材料としては特に制限されないが、(A)成分が吸着することで十分なエッチングが促進され、本発明の効果が得られやすいという観点から、Si系材料が好ましい。Si系材料としては、例えば、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)、窒素-ケイ素結合を含む材料、酸素-ケイ素結合を含む材料等が挙げられる。なお、研磨済研磨対象物は、上記材料のうち、複数の材料により構成されていてもよい。
【0030】
これらの中でも、本発明の一形態に係る表面処理組成物の効果がより顕著に得られることから、研磨済研磨対象物に含まれる材料は、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)であることが好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)からなる表面を有する基板の表面処理に用いられることが好ましい。
【0031】
ここで、ケイ素-ケイ素結合を含む材料としては、ポリシリコン(多結晶シリコン)、アモルファスシリコン(非晶質シリコン)、単結晶シリコン等が挙げられる。これらの材料は、不純物がドープされていてもよい。この際、不純物は、n型、p型のいずれであってもよく、p型不純物の例としては、ボロン(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などの第13族元素が挙げられ、n型不純物の例としては、リン(P)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)などの第15族元素が挙げられる。
【0032】
ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)は、ポリシリコン、アモルファスシリコンおよび単結晶シリコンからなる群より選択される少なくとも1種の材料を含むことが好ましい。本発明の効果をより顕著に得ることができるとの観点から、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)は、ポリシリコン、アモルファスシリコンまたは単結晶シリコンであることがより好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、ポリシリコン、アモルファスシリコンまたは単結晶シリコンからなる表面を有する基板(研磨済研磨対象物)の表面処理に用いられることが特に好ましい。さらに、エッチングが促進されやすく、表面粗さの低減効果がより向上することから、本発明の一形態に係る表面処理組成物は、ポリシリコンまたはアモルファスシリコンからなる表面を有する基板(研磨済研磨対象物)の表面処理に用いられることが最も好ましい。
【0033】
[表面処理組成物]
本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減するために使用される。また、本発明に係る表面処理組成物は、研磨済研磨対象物の表面粗さを低減するために使用される。
【0034】
本明細書において、(A)成分としての含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物を、単に「本発明に係る環式アミン化合物」または「環式アミン化合物」とも称する。また、(B)成分としてのノニオン性高分子を、単に「本発明に係るノニオン性高分子」または「ノニオン性高分子」とも称する。(C)成分としての式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤を、単に「本発明に係る緩衝剤」または「本発明に係るモノカルボン酸アンモニウム」もしくは「モノカルボン酸アンモニウム」とも称する。
【0035】
<(A)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、(A)成分として、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物を含む。
【0036】
本明細書において、「含窒素非芳香族複素環」とは、環の構成元素として、少なくとも窒素原子および炭素原子を含む、非芳香族性の環状構造をいう。ここで、「非芳香族性」とは、「芳香族性」も「反芳香族性」も有しないことを表す。すなわち、「非芳香族複素環」とは、芳香族性も反芳香族性も有しない非芳香族性の複素環であることを表す。なお、「反芳香族性」とは、平面である環状構造を有し、環状構造を構成する原子の全てが共役π電子系を構成し、当該共役π電子系が4n個(ただし、nは1以上の整数)のπ電子を有することを表す。
【0037】
本発明の一形態に係る表面処理組成物の効果がより顕著に得られることから、環式アミン化合物に含まれる含窒素非芳香族複素環は、含窒素脂肪族複素環であると好ましく、単環性含窒素脂肪族複素環であるとより好ましい。
【0038】
「含窒素非芳香族複素環」について、その環形成原子数は特に制限されないが、5以上であると好ましく、6以上であるとより好ましい。その上限も特に制限されないが、10以下であると好ましく、8以下であるとより好ましい。ここで、「環形成原子数」とは、原子が環状に結合した構造(例えば、単環、縮合環、および環集合)の化合物(複素環化合物)の当該環自体を構成する原子の数を表す。環を構成しない原子(例えば、環を構成する原子の結合を終端する水素原子)や、当該環が置換基によって置換される場合の置換基に含まれる原子は環形成原子数には含まない。例えば、ピペラジン環は環形成原子数が6である。
【0039】
本発明に係る環式アミン化合物に含まれる窒素原子の数は特に制限されないが、2以上であると好ましく、3以上であるとより好ましい。複数の窒素原子を有することで、環式アミン化合物が研磨済研磨対象物の表面に吸着して均一なエッチングを促進しやすく、残渣および表面粗さを低減する効果がより向上する。また、その上限も特に制限されないが、5以下であると好ましく、4以下であるとより好ましい。このような上限とすることで、本発明に係る表面処理組成物を用いた後の後洗浄処理において(A)成分自体を除去しやすくすることができる。また、研磨済研磨対象物の表面に対し、環式アミン化合物の求核攻撃が適度に制限される結果、過度なエッチングが抑制され、研磨済研磨対象物の表面粗さがさらに低減できる。
【0040】
したがって、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物に含まれる窒素原子の数が2以上4以下であると好ましく、3であるとより好ましい。なお、「環式アミン化合物に含まれる窒素原子」とは、含窒素非芳香族複素環に含まれる窒素原子に加えて、含窒素非芳香族複素環上に置換した置換基に含まれる窒素原子も含む。ゆえに、含窒素非芳香族複素環中、および、当該環構造に置換した置換基中にそれぞれ存在する窒素原子の数を合計した数が、上記の範囲内にあると好ましい。
【0041】
本発明に係る環式アミン化合物に含まれる窒素原子の形態は、特に制限されず、第3級窒素原子、第2級窒素原子、第1級窒素原子のいずれであってもよく、また、炭素原子に結合していなくてもよい。すなわち、本発明に係る環式アミン化合物において、窒素原子が結合する炭素数は、0~3のいずれであってもよい。本明細書中、「第3級窒素原子」とは、炭素原子が3つ結合した窒素原子を意図する。同様に、「第2級窒素原子」とは、炭素原子が2つ結合した窒素原子を、「第1級窒素原子」とは、炭素原子が1つ結合した窒素原子を、それぞれ意図する。
【0042】
研磨済研磨対象物の表面粗さの低減効果と、当該表面における残渣の低減効果とをバランスよく向上できることから、一実施形態において、本発明に係る環式アミン化合物は、これに含まれる第1級窒素原子の数と、第2級窒素原子の数との合計が2以上であると好ましい。すなわち、本発明に係る環式アミン化合物は、2以上の第1級窒素原子を有する形態、2以上の第2級窒素原子を有する形態、または、1以上の第1級窒素原子および1以上の第2級窒素原子を有する形態のいずれかであると好ましく、2以上の第1級窒素原子を有する形態、または1以上の第1級窒素原子および1以上の第2級窒素原子を有する形態であるとより好ましく、1以上の第1級窒素原子および1以上の第2級窒素原子を有する形態であると特に好ましい。このように、環式アミン化合物が、第1級/第2級窒素原子を有すると、後述するように、特にヒドロキシ基(-OH)を有するノニオン性高分子を(B)成分として用いた際、残渣の低減効果がさらに向上する。なお、第1級窒素原子の数と、第2級窒素原子の数との合計の上限は特に制限されないが、一例として、5以下であると好ましく、4以下であるとより好ましく、3以下であると特に好ましい。
【0043】
他の実施形態において、本発明に係る環式アミン化合物は、第1級窒素原子、第2級窒素原子および第3級窒素原子をそれぞれ1つ以上有すると好ましい。なお、これらの窒素原子数の上限は特に制限されないが、一例として、第1級窒素原子数の上限、第2級窒素原子数の上限、および第3級窒素原子数の上限は、それぞれ、3つ以下であると好ましい。さらに同様の観点から、環式アミン化合物は、第1級窒素原子、第2級窒素原子および第3級窒素原子をそれぞれ1つずつ有するとより好ましい。このように、環式アミン化合物が、結合形態の異なる窒素原子を複数有することにより、研磨済研磨対象物の表面に対するエッチングがより促進され、残渣の低減効果がさらに向上すると推測される。
【0044】
研磨済研磨対象物の表面のエッチングを促進し、より残渣を低減するという観点から、環式アミン化合物において、含窒素非芳香族複素環中に存在する窒素原子の数は、1以上であると好ましく、2以上であるとより好ましい。一方、その上限は特に制限されないが、上記と同様に、(A)成分自体の除去性の観点から、含窒素非芳香族複素環中に存在する窒素原子の数は、3以下であると好ましい。
【0045】
したがって、(A)成分において、含窒素非芳香族複素環に含まれる窒素原子の数は、1以上3以下であると好ましく、2であるとより好ましい。
【0046】
このような環式アミン化合物の中でも、(A)成分としての環式アミン化合物は、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格、ピペラジン骨格およびジアゼパン骨格からなる群より選択される少なくとも1種を有すると好ましく、ピペラジン骨格を有するとより好ましい。
【0047】
ピペラジン骨格を有する環式アミン化合物としては、例えば、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-メチルピペラジン、2-メチルピペラジン、1-エチルピペラジン、2-エチルピペラジン、1-(n-プロピル)ピペラジン、2-(n-プロピル)ピペラジン、1-イソプロピルピペラジン、1-アリルピペラジン、1-(n-ブチル)ピペラジン、1-イソブチルピペラジン、1-ヒドロキシエトキシエチルピペラジン、1-フェニルピペラジン、1-アミノピペラジン、1-アミノ-4-メチルピペラジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、1-ピペラジンカルボン酸エチル、1-ホルミルピペラジン、1-アセチルピペラジン、1-シクロペンチルピペラジン、1-シクロヘキシルピペラジン、1-(2-メトキシエチル)ピペラジン、1-ピペロニルピペラジン、1-(ジフェニルメチル)ピペラジン、2-ピペラジノン、1-メチル-3-フェニルピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2-ジメチルアミノエチル)-4-メチルピペラジン、1-(2-アミノエチル)ピペラジン(アミノエチルピペラジン:AEP)、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,6-ジメチルピペラジン、1,4-ジエチルピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン-2-オン、1,4-ジエチルピペラジン-2-オン、1,4-ジホルミルピペラジン、1-(4-アミノフェニル)-4-メチルピペラジン、1,4-ジアセチル-2,5-ピペラジンジオン、1-メチル-4-(1,4’-ビピペラジン-4-イル)ピペラジン、1-(4-アミノフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)ピペラジン、1,4-ジメチルピペラジン-2,3-ジオン、2-ピペラジンカルボン酸等が挙げられる。これらピペラジン化合物は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0048】
さらに、研磨済研磨対象物の表面粗さの低減効果と、当該表面における残渣の低減効果とをバランスよく向上できることから、本発明に係る含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物は、下記式(a)で表されるピペラジン系化合物であると好ましい:
【0049】
【0050】
上記式(a)中、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基(-NH2);または第1級~第3級アミノ基のいずれかで置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基である。
【0051】
上記式(a)において、R1およびR2は、互いに同じであっても、または異なっていてもよい。また、R1およびR2としての炭素数1以上10以下のアルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよい。
【0052】
直鎖状アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基が挙げられる。
【0053】
分岐鎖状アルキル基の具体例としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、イソヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、1,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル基、イソデシル基等が挙げられる。
【0054】
環状(脂環式)アルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数3以上10以下のシクロアルキル基が挙げられる。
【0055】
なかでも、R1およびR2としてのアルキル基は、いずれも直鎖状または分岐鎖状であると好ましく、直鎖状であるとより好ましい。
【0056】
上記アルキル基について、炭素数の上限は、有機物残渣を低減するという観点から、8以下であると好ましく、6以下であるとより好ましく、5以下であるとさらに好ましく、3以下であると特に好ましい。一方、炭素数の下限は、2以上であると好ましい。ゆえに、一例として、R1およびR2としてのアルキル基の炭素数は、1以上8以下であると好ましく、1以上6以下であるとより好ましく、1以上5以下であるとさらに好ましく、1以上3以下であると特に好ましく、2であると最も好ましい。
【0057】
上記アルキル基は、第1級~第3級アミノ基のいずれかで置換されていてもよいし、非置換であってもよい。なお、本明細書において、「第1級アミノ基」とは、-NH2を意図する。同様に、「第2級アミノ基」とは、窒素原子上に水素原子および有機基をそれぞれ1つずつ有し、当該有機基を構成する炭素原子の1つと上記窒素原子との結合が単結合である構造の官能基(-NHRA;ただし、RAは有機基を表す)を意図する。また、同様に、「第3級アミノ基」とは、窒素原子上に同一または異なる有機基を2つ有し、各有機基を構成する炭素原子の1つと上記窒素原子との結合がいずれも単結合である構造の官能基(-N(RB)(RC);ただし、RBおよびRCは、それぞれ独立して有機基を表す)を意図する。なお、上記第2級アミノ基(-NHRA)を構成するRA、ならびに上記第3級アミノ基(-N(RB)(RC))を構成するRBおよびRCとしての有機基とは、炭素原子を含む基を意味する。
【0058】
上記RA、RBまたはRCは、それぞれ独立して、炭化水素基であると好ましく、アルキル基またはアリール基であるとより好ましく、アルキル基であるとより好ましい。
【0059】
上記RA、RBおよびRCとしてのアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、(A)成分自体の除去性に優れるという観点から、1以上10以下であると好ましい。ここで、炭素数1以上10以下のアルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であっても、環状であってもよく、このようなアルキル基の各具体例は、上記R1およびR2としてのアルキル基について挙げた具体例と同様のものが挙げられる。
【0060】
上記アルキル基を有する第2級アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、n-ノニルアミノ基、n-デシルアミノ基などの炭素数1以上10以下のアルキルアミノ基が挙げられる。また、上記のようなアルキル基を有する第3級アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-プロピルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基などの炭素数2以上20以下のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0061】
上記式(a)において、R1およびR2としてのアルキル基が第1級~第3級アミノ基のいずれかで置換される場合、当該アルキル基は、第1級または第3級アミノ基で置換されていると好ましく、第1級アミノ基で置換されているとより好ましい。
【0062】
なかでも、上記式(a)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基(-NH2);または第1級もしくは第3級アミノ基で置換されていてもよい炭素数1以上5以下のアルキル基であると好ましい。また、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基(-NH2);または第1級アミノ基(-NH2)もしくはジアルキルアミノ基で置換されていてもよい炭素数1以上5以下のアルキル基であるとより好ましい。さらに、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基(-NH2);または第1級アミノ基で置換されていてもよい炭素数1以上5以下のアルキル基であるとさらに好ましい。さらにまた、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基(-NH2);または第1級アミノ基で置換されていてもよい炭素数1以上3以下のアルキル基であるとさらにより好ましい。さらにまた、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;または第1級アミノ基で置換されていてもよい炭素数1以上3以下のアルキル基であると特に好ましい。さらにまた、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;または第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基であると最も好ましい。
【0063】
本発明に係る環式アミン化合物の分子量は特に制限されないが、1,000未満であると好ましく、500以下であるとより好ましく、300以下であるとさらに好ましく、230以下であるとさらにより好ましく、180以下であると特に好ましく、150以下であると最も好ましい。一方、分子量の下限は特に制限されないが、50以上であると好ましく、60以上であるとより好ましく、80以上であると特に好ましく、100以上であると最も好ましい。一例として、環式アミン化合物の分子量は、50以上1,000未満であると好ましく、60以上500以下であるとより好ましく、80以上300以下であるとさらに好ましく、80以上230以下であるとさらにより好ましく、100以上180以下であると特に好ましく、100以上150以下であると最も好ましい。
【0064】
なお、環式アミン化合物(低分子量化合物)の分子量は、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC-MS)法等、公知の方法で測定できる。また、NMR等の方法により、その化合物の構造を特定し、当該構造に基づき計算を行うことにより分子量を特定することができる。
【0065】
(A)成分として用いられうる環式アミン化合物は、合成によって製造されても、または市販品であってもよい。(A)成分としての環式アミン化合物は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0066】
表面処理組成物中の(A)成分の含有量は、使用する(A)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、表面処理組成物中の(A)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。このような上限値とすることにより、(A)成分自体が残渣となることが抑制され、残渣を効率よく除去することができる。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上0.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.005質量%以上0.3質量%以下である。本発明の一実施形態では、(A)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%以上0.1質量%以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の(A)成分を含む場合、(A)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0067】
<(B)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、(B)成分として、ノニオン性高分子を含む。ここでいう「ノニオン性高分子」とは、分子内に、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基や、アミノ基、第四級アンモニウム基等のカチオン性基を有しない高分子をいう。
【0068】
表面処理組成物が、(B)成分の代わりにアニオン性高分子を含む場合、上記(A)成分とアニオン性高分子とが凝集してしまい、各成分が均一に分散した表面処理組成物を調製することが難しくなる。また、表面処理組成物が、(B)成分の代わりにポリエチレンイミンなどのカチオン性高分子を含む場合、アルカリ性条件下(すなわち、pHが7.0を超える条件下)において負に帯電した研磨済研磨対象物の表面と、カチオン性高分子とがイオン結合することにより、保護膜が形成されるため、十分なエッチングが進行せず、残渣および表面粗さの低減が難しい。
【0069】
これらの高分子に対し、ノニオン性高分子は、上記(A)成分による研磨済研磨対象物、砥粒残渣、有機物残渣等のゼータ電位の制御(正に帯電させること)を阻害することなく、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性を向上させることにより、研磨済研磨対象物の表面における残渣の除去を促進する(有機物残渣等の付着や再付着を抑制する)ことができる。
【0070】
ノニオン性高分子は、同一(単独重合体;ホモポリマー)または相異なる(共重合体;コポリマー)繰り返し構成単位を有する高分子であって、典型的には重量平均分子量(Mw)が1,000以上の化合物であり得る。ノニオン性高分子が共重合体である場合の共重合体の形態は、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体のいずれであってもよい。
【0071】
ノニオン性高分子の例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリアミン類、ポリビニルエーテル類(ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテルなど)、ポリグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性の多糖類、アルギン酸多価アルコールエステル、水溶性尿素樹脂、デキストリン誘導体、カゼイン等が挙げられる。また、このような主鎖構造を有するもののみならず、ノニオン性ポリマー構造を側鎖に有するグラフト共重合体も好適に用いることができる。さらに、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体のような共重合体も用いることができる。これらノニオン性高分子は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0072】
これらの中でも、残渣を除去する効果をさらに向上するという観点から、ノニオン性高分子としては、(1)窒素原子を含むノニオン性高分子、および/または(2)ヒドロキシ基を含むノニオン性高分子を含むことが好ましい。
【0073】
上記(1)および(2)のノニオン性高分子の好適な例としては、以下のものが挙げられる:ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ブテンジオール-ビニルアルコール共重合体等。ゆえに、一実施形態において、(B)成分としてのノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含むと好ましい。さらに他の実施形態において、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリN-ビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含むと好ましい。さらに他の実施形態において、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンを含むと好ましい。さらに他の一実施形態において、ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドンを含むと好ましい。これらのノニオン性高分子は、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を含む研磨済研磨対象物)の表面に吸着しやすいことから、水分子膜が形成されやすくなる。その結果、特に有機物残渣の付着・再付着が効果的に抑制され、残渣を除去する効果がさらに向上する。
【0074】
ノニオン性高分子として、上記(1)および(2)のノニオン性高分子が好ましい理由としては、以下のように考えられる。
【0075】
上記(1)のように、窒素原子を含むノニオン性高分子を用いる場合、当該ノニオン性高分子に含まれる窒素原子と、シリコン材料からなる表面を有する基板(研磨済研磨対象物)の表面に存在するヒドロキシ基(-OH)と、がそれぞれ正(δ+)、負(δ-)に分極しやすいことから、上記ノニオン性高分子はシリコン材料からなる表面を有する基板(研磨済研磨対象物)の表面に対して吸着しやすい。ゆえに、上述のような水分子膜の形成が容易となる結果、有機物残渣の付着や再付着を効果的に抑制することができると考えられる。したがって、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子が、窒素原子を含むと好ましい。また、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドおよびポリN-ビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物であるとより好ましい。さらに、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドンおよび/またはポリN-ビニルアセトアミドを含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物であるとより好ましい。さらに、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドンを含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物であるとより好ましい。さらに上記各実施形態において、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物の好ましい形態は、<(A)成分>の項に記載された形態が援用される。
【0076】
上記(2)のように、ヒドロキシ基(-OH)を含むノニオン性高分子を用いる場合もまた、当該ノニオン性高分子がシリコン材料からなる表面を有する基板(研磨済研磨対象物)の表面に対して比較的吸着しやすいことから、上述のような水分子膜の形成が容易となる結果、有機物残渣の付着や再付着を効果的に抑制することができると考えられる。ここで、本発明者らは、上記(2)の形態において、特定の(A)成分を用いた場合に、特に残渣の低減効果が向上することを見出した。具体的には、ヒドロキシ基(-OH)を含むノニオン性高分子を用いた場合、(A)成分として、第1級窒素原子の数と第2級窒素原子の数との合計が2以上である環式アミン化合物を用いることで、優れた残渣の低減効果が得られることを見出した。
【0077】
上記(2)の形態において、(A)成分が上記構造を有する環式アミン化合物であると好ましい理由については、以下のように考えられる:
(A)成分に第1級窒素原子/第2級窒素原子が含まれていると、これらの窒素原子は負(δ-)に、窒素原子に結合した水素原子は正(δ+)にそれぞれ分極しやすい。そして、このような分極は、第3級窒素原子と比較して第1級窒素原子/第2級窒素原子の方が大きいと考えられる。
【0078】
他方、(B)成分に含まれるヒドロキシ基(-OH)において、酸素原子は負(δ-)、水素原子は正(δ+)にそれぞれ分極していると考えられる。そうすると、(A)成分に含まれる第1級窒素原子/第2級窒素原子に対して、(B)成分のヒドロキシ基(特に、水素原子)が吸着しやすくなり、結果として、研磨済研磨対象物上に吸着した(A)成分によって、(B)成分もまた研磨済研磨対象物上に吸着しやすくなる。すなわち、第1級窒素原子/第2級窒素原子を合計2以上有する(A)成分によって、(B)成分が研磨済研磨対象物の表面において水分子膜(保護膜)を形成しやすくなる。ゆえに、研磨済研磨対象物の表面の濡れ性がより向上し、有機物残渣の付着や再付着を効果的に抑制することができると考えられる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0079】
したがって、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ヒドロキシ基を含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)は、第1級窒素原子の数と第2級窒素原子の数との合計が2以上であると好ましい。ここで、当該実施形態において、環式アミン化合物の好ましい形態は、<(A)成分>の項に記載された形態が援用される。一例として、ノニオン性高分子は、ヒドロキシ基を含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)は、2以上の第1級窒素原子を有する形態または1以上の第1級窒素原子および1以上の第2級窒素原子を有する形態であると好ましく、1以上の第1級窒素原子および1以上の第2級窒素原子を有する形態であるとより好ましい。さらに、上記各実施形態において、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含むと好ましい。
【0080】
さらに、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または;第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基である、ピペラジン系化合物であると好ましい。さらに、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコールおよび/またはポリエチレングリコールを含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または;第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基である、ピペラジン系化合物であると好ましい。さらに、本発明の一実施形態では、ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコールを含み、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または;第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基である、ピペラジン系化合物であると好ましい。
【0081】
ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)の下限は、1,000以上であることが好ましく、3,000以上であることがより好ましく、5,000を超えることがさらに好ましく、8,000以上であることが特に好ましく、10,000を超えることが最も好ましい。また、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)の上限は、1,000,000以下であることが好ましく、100,000以下であることがより好ましく、80,000以下であることがさらに好ましく、50,000以下であることが特に好ましく、50,000未満であることが最も好ましい。一例として、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上1,000,000以下であることが好ましく、3,000以上100,000以下であることがより好ましく、5,000超80,000以下であることがさらに好ましく、8,000以上50,000以下であることが特に好ましく、10,000超50,000未満であることが最も好ましい。
【0082】
なお、ノニオン性高分子の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリエチレングリコール換算の値として測定することができ、測定方法の詳細は、後述の実施例に記載する。
【0083】
(B)成分として用いられうるノニオン性高分子は、合成によって製造されても、または市販品であってもよい。市販品の例としては、JMR(登録商標)-10HH、JMR(登録商標)-3HH(いずれも日本酢ビ・ポバール株式会社)、ピッツコール(登録商標)K30A、K30L(いずれも第一工業製薬株式会社)、CMCダイセル(登録商標)1150、1170(いずれもダイセルミライズ株式会社)、GE191-104、107(いずれも昭和電工株式会社)などが挙げられる。
【0084】
(B)成分としてのノニオン性高分子は、1種単独でも、または2種以上組み合わせても用いることができる。
【0085】
表面処理組成物中の(B)成分の含有量は、使用する(B)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上がさらに好ましく、0.03質量%以上が特に好ましい。また、表面処理組成物中の(B)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.3質量%以下が特に好ましい。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.0001質量%以上1.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上1.0質量%以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%以上0.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.03質量%以上0.3質量%以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の(B)成分を含む場合、(B)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0086】
上記に代えてまたは上記に加えて、表面処理組成物中の(A)成分と(B)成分との混合比は、使用する(A)成分や(B)成分の種類ならびに所望の効果に応じて適宜設定される。(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.1以上であることがさらに好ましく、0.1を超えることが特に好ましい。(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、3未満であることが特に好ましい。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.01以上10以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.05以上5以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.1以上3以下である。本発明の一実施形態では、(B)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(B)成分含有比)(質量比)は、0.1超3未満である。
【0087】
<(C)成分>
本発明に係る表面処理組成物は、上記(A)および(B)成分に加えて、(C)成分を含む。(C)成分は、式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤(モノカルボン酸アンモニウム)を含む。本明細書において、「緩衝剤」とは、pHを一定に保つために表面処理組成物(溶液)に緩衝作用を付与する物質を意味する。
【0088】
(C)成分は、上記式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤以外の成分(例えば、公知の緩衝剤)を含んでもよいが、本発明による効果のさらなる向上などの観点から、(C)成分は、上記式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤から構成される((C)成分は上記式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤である)ことが好ましい。(C)成分の存在により、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を効率よく除去しうる。また、研磨済研磨対象物の表面粗さを低く抑えうる。すなわち、本発明の好ましい形態では、(C)成分が、上記式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤から構成される((C)成分は上記式:A-COO-NH4
+で示される緩衝剤である)。
【0089】
上記式:A-COO-NH4
+において、Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である。ここで、アルキル基としては、上記式(a)のR1およびR2としてのアルキル基について挙げた具体例と同様のアルキル基が例示される。これらのうち、本発明による効果のさらなる向上などの観点から、Aは、炭素数1以上8以下の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1以上3以下の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基であることがより好ましく、メチル基(酢酸アンモニウム)またはエチル基(プロピオン酸アンモニウム)であることがさらに好ましく、メチル基(酢酸アンモニウム)であることが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、緩衝剤は、Aが炭素数1以上8以下の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基である上記式:A-COO-NH4
+で示される。本発明のより好ましい形態では、緩衝剤は、Aが炭素数1以上3以下の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基である上記式:A-COO-NH4
+で示される。本発明のさらなる好ましい形態では、緩衝剤は、Aがメチル基またはエチル基である上記式:A-COO-NH4
+で示される(緩衝剤が酢酸アンモニウムまたはプロピオン酸アンモニウムである)。本発明の特に好ましい形態では、緩衝剤は酢酸アンモニウムである。
【0090】
表面処理組成物中の(C)成分の含有量は、使用する(C)成分の種類や所望の効果に応じて適宜設定される。(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、表面処理組成物中の(C)成分の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.001質量%以上0.5質量%以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.005質量%以上0.3質量%以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分の含有量は、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%以上0.1質量%以下である。なお、表面処理組成物が2種以上の(C)成分を含む場合、(C)成分の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0091】
上記に代えてまたは上記に加えて、表面処理組成物中の(A)成分と(C)成分との混合比は、使用する(A)成分や(C)成分の種類ならびに所望の効果に応じて適宜設定される。(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.01以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、0.5を超えることが特に好ましい。(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることがさらに好ましく、3未満であることが特に好ましい。
【0092】
本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.01以上10以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.1以上5以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.5以上3以下である。本発明の一実施形態では、(C)成分に対する(A)成分の混合比((A)成分/(C)成分含有比)(質量比)は、0.5超3未満である。
【0093】
<pH調整剤((D)成分)>
本発明に係る表面処理組成物は、上記(A)~(C)成分を必須に含むが、これらに加えて、さらにpH調整剤を含むことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、表面処理組成物は、(D)成分をさらに含む:
(D)成分:pH調整剤。
【0094】
pH調整剤は、特に制限されず、表面処理組成物の分野で用いられる公知のpH調整剤を用いることができ、公知の酸、塩基、またはこれらの塩等を用いることができる。pH調整剤の例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、アントラニル酸等のカルボン酸や、スルホン酸、有機ホスホン酸等の有機酸;硝酸、炭酸、塩酸、リン酸、次亜リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ホウ酸、フッ化水素酸、オルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸などの無機酸;水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)等のアルカリ金属の炭酸塩;第2族元素の水酸化物;アンモニア(水酸化アンモニウム);水酸化第四級アンモニウム化合物等の有機塩基等が挙げられる。pH調整剤は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。また、これらpH調整剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらのうち、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニアが好ましく、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアがより好ましく、アンモニアが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種である。本発明のより好ましい形態では、pH調整剤は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよびアンモニアからなる群より選択される少なくとも1種である。本発明の特に好ましい形態では、pH調整剤は、アンモニアである。
【0095】
表面処理組成物中のpH調整剤の含有量は、下記に詳述される所望の表面処理組成物のpH値となるような量を適宜選択すればよい。
【0096】
<表面処理組成物のpH>
本発明に係る表面処理組成物のpHは、7.0を超える。表面処理組成物のpHが7.0以下であると、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分除去できない。本発明による効果のさらなる向上(特に、残渣の除去)などの観点から、表面処理組成物のpHは、7.5以上であることが好ましく、7.5を超えることがより好ましく、8.5を超えることがさらに好ましく、9.0を超えることが特に好ましく、10.0を超えることが最も好ましい。表面処理組成物のpHは、12.5未満であることが好ましく、12.0未満であることがより好ましく、11.5未満であることがさらに好ましく、11.0未満であることが特に好ましい。すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、7.5以上12.5未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、7.5超12.0未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、8.5超11.5未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、9.0超11.0未満である。本発明の一実施形態では、表面処理組成物のpHは、10.0超11.0未満である。なお、表面処理組成物のpHは、実施例に記載の方法により測定した値を採用する。
【0097】
<溶媒>
本発明に係る表面処理組成物は、溶媒を含むことが好ましい。溶媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。溶媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、溶媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、例えば、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエタノールアミン等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0098】
水は、研磨済研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを防ぐという観点から、残渣をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる残渣イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0099】
<界面活性剤>
本発明に係る表面処理組成物は、界面活性剤をさらに含んでもよい。界面活性剤の種類は、特に制限はなく、ノニオン性、アニオン性、カチオン性、および両性の界面活性剤のいずれであってもよい。
【0100】
ノニオン性界面活性剤の例としては、上記(B)成分以外の化合物が挙げられ、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が挙げられる。その他、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、モノエタノールアミン、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、3級アセチレングリコール、アルカノールアミド等も、ノニオン性界面活性剤として用いることができる。なお、上記(B)成分は、ノニオン性界面活性剤としての機能を有しうるため、別途のノニオン性界面活性剤を添加しなくてもよい。
【0101】
アニオン性界面活性剤の例としては、例えば、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型等が挙げられる。
【0102】
カチオン性界面活性剤の例としては、例えば、ラウリルアミン塩酸塩等のアミン類等が挙げられる。
【0103】
両性界面活性剤の例としては、例えば、レシチン、アルキルアミンオキシド、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタインやスルホベタイン等が挙げられる。
【0104】
界面活性剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、界面活性剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0105】
表面処理組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、表面処理組成物中の界面活性剤の含有量の上限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。なお、表面処理組成物が2種以上の界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0106】
<キレート剤>
本発明に係る表面処理組成物は、キレート剤をさらに含んでもよい。キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート剤および有機ホスホン酸系キレート剤が挙げられる。アミノカルボン酸系キレート剤の例には、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸アンモニウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸およびトリエチレンテトラミン六酢酸ナトリウムが含まれる。有機ホスホン酸系キレート剤の例には、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エタン-1,1-ジホスホン酸、エタン-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ジホスホン酸、エタン-1-ヒドロキシ-1,1,2-トリホスホン酸、エタン-1,2-ジカルボキシ-1,2-ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2-ジカルボン酸、1-ホスホノブタン-2,3,4-トリカルボン酸およびα-メチルホスホノコハク酸が含まれる。これらのうち有機ホスホン酸系キレート剤がより好ましい。なかでも好ましいものとして、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミン五酢酸が挙げられる。特に好ましいキレート剤として、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)およびジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)が挙げられる。
【0107】
キレート剤は、1種単独でも、または2種以上を組み合わせても用いることができる。また、キレート剤は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0108】
表面処理組成物がキレート剤を含む場合、キレート剤の含有量の下限は、表面処理組成物の総質量を100質量%として、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.002質量%以上であることがさらに好ましい。キレート剤の含有量の上限は、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.15質量%以下であることが特に好ましい。なお、表面処理組成物が2種以上のキレート剤を含む場合、キレート剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0109】
<他の添加剤>
本発明の一形態に係る表面処理組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、本発明の一形態に係る表面処理組成物の必須成分以外の成分は、異物(残渣)の原因となりうることから、できる限り添加しないことが望ましい。ゆえに、他の添加剤の添加量はできる限り少ないことが好ましい。他の添加剤としては、例えば、防カビ剤(防腐剤)、溶存ガス、還元剤、酸化剤等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物は、ノニオン性高分子を含み、かつアルカリ性である。このため、これらのうち、本発明に係る表面処理組成物は、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。本発明に係る表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合に使用できる、防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されず、ノニオン性高分子((B)成分)の種類に応じて適切に選択できる。具体的には、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0110】
または、防カビ剤(防腐剤)は、下記化学式1で表される化合物でありうる。
【0111】
【0112】
前記化学式1中、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、または炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0113】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基、炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基、炭素数6以上30以下のアリール基、炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基、炭素数6以上30以下のアリールオキシカルボニル基、炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基、炭素数2以上20以下のアシル基、炭素数2以上20以下のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0114】
さらに具体的には、炭素数1以上20以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、t-アミル基、ネオペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-ジプロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状のアルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルネニル基等の環状のアルキル基等が挙げられる。
【0115】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシ-n-プロピル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、2-ヒドロキシ-n-ブチル基、3-ヒドロキシ-n-ブチル基、4-ヒドロキシ-n-ブチル基、2-ヒドロキシ-n-ペンチル基、3-ヒドロキシ-n-ペンチル基、4-ヒドロキシ-n-ペンチル基、5-ヒドロキシ-n-ペンチル基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0116】
炭素数1以上20以下のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等の直鎖状のアルコキシ基;イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、t-アミルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジエチルプロピルオキシ基、1,1-ジメチルブチルオキシ基、1-メチル-1-プロピルブチルオキシ基、1,1-ジプロピルブチルオキシ基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピルオキシ基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピルオキシ基等の分岐状のアルコキシ基;シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、ノルボルネニルオキシ基等の環状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0117】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基の例としては、ヒドロキシメトキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0118】
炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0119】
炭素数6以上30以下のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0120】
炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)の例としては、ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)等が挙げられ、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基(フェノキシ基)、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基、ピレニルオキシ基等が挙げられる。
【0121】
炭素数7以上31以下のアリールオキシカルボニル基の例としては、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基、ピレニルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0122】
炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0123】
炭素数1以上20以下のアシル基の例としては、メタノイル基(ホルミル基)、エタノイル基(アセチル基)、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0124】
炭素数1以上20以下のアシルオキシ基の例としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0125】
さらに、上記化学式1で表される防カビ剤は、下記化学式1-a~1-cで表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0126】
【0127】
前記化学式1-a~1-c中、R1~R3は、それぞれ独立して、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0128】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0129】
上記化学式1で表される化合物のより具体的な例としては、パラオキシ安息香酸メチル(パラヒドロキシ安息香酸メチル)、パラオキシ安息香酸エチル(パラヒドロキシ安息香酸エチル)、パラオキシ安息香酸ブチル(パラヒドロキシ安息香酸ブチル)、パラオキシ安息香酸ベンジル(パラヒドロキシ安息香酸ベンジル)等のパラオキシ安息香酸エステル(パラヒドロキシ安息香酸エステル);サリチル酸、サリチル酸メチル、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、イソプロピルフェノール、クレゾール、チモール、フェノキシエタノール、フェニルフェノール(2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール)、2-フェニルエチルアルコール(フェネチルアルコール)等が挙げられる。
【0130】
これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、上記化学式1で表される化合物としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、およびフェニルフェノールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パラオキシ安息香酸ブチルがより好ましい。
【0131】
または、防カビ剤(防腐剤)は、不飽和脂肪酸でありうる。不飽和脂肪酸の例としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等のモノ不飽和脂肪酸;ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸やアラキドン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等のペンタ不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸;等が挙げられる。
【0132】
これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸が好ましい。
【0133】
また、上記以外に、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等の1,2-アルカンジオール;2-エチルヘキシルグリセリルエーテル(エチルヘキシルグリセリン)等のアルキルグリセリルエーテル;カプリン酸、デヒドロ酢酸等の化合物を、防カビ剤(防腐剤)として用いてもよい。
【0134】
上記防カビ剤(防腐剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0135】
表面処理組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合の、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の下限は、特に制限されないが、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の上限は、特に制限されないが、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、表面処理組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、好ましくは0.0001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上1質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以上0.5質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下である。このような範囲であれば、微生物を不活性化または破壊するのに十分な効果が得られる。なお、表面処理組成物が2種以上の防カビ剤(防腐剤)を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0136】
本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤、有機溶媒、界面活性剤およびキレート剤からなる群より選択される少なくとも一から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から実質的に構成される。本発明の一実施形態では、表面処理組成物は、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水から実質的に構成される。上記形態において、「表面処理組成物が、Xから実質的に構成される」とは、Xの合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味する。好ましくは、表面処理組成物は、Xから構成される(上記合計含有量=100質量%)。例えば、「表面処理組成物が、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から実質的に構成される」とは、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の合計含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意味し、表面処理組成物が、含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物((A)成分)、ノニオン性高分子((B)成分)、緩衝剤((C)成分)、pH調整剤((D)成分)および水、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方から構成される(上記合計含有量=100質量%)ことが好ましい。
【0137】
残渣(異物)除去効果のさらなる向上のため、本発明に係る表面処理組成物は、砥粒を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「砥粒を実質的に含有しない」とは、表面処理組成物全体に対する砥粒の含有量が0.01質量%未満である場合をいう。すなわち、本発明の一実施形態では、砥粒の含有量が、表面処理組成物の総質量を100質量%として(表面処理組成物に対して)、0.01質量%未満(下限:0質量%)である。
【0138】
<表面処理組成物の製造方法>
本発明に係る表面処理組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、(A)成分(含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、ならびに必要に応じて(D)成分(pH調整剤)、界面活性剤、キレート剤、水、有機溶媒、防カビ剤(防腐剤)および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一とを、攪拌混合することにより得ることができる。本発明の一実施形態では、(A)成分(含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水と、ならびに防カビ剤、有機溶媒、界面活性剤およびキレート剤からなる群より選択される少なくとも一とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。本発明の一実施形態では、(A)成分(含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水と、ならびに防カビ剤および有機溶媒の少なくとも一方とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。本発明の一実施形態では、(A)成分(含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物)と、(B)成分(ノニオン性高分子)と、(C)成分(緩衝剤)と、(D)成分(pH調整剤)と、水とを、攪拌混合することにより、本発明に係る表面処理組成物を製造する。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も特に制限されない。
【0139】
[表面処理方法]
本発明に係る表面処理組成物によると、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去できる。また、研磨済研磨対象物(特に、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済基板)の表面粗さを低減できる。したがって、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを含む、表面処理方法を提供する。ここで、研磨済研磨対象物は、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)を含みうる。すなわち、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨済研磨対象物を表面処理して、前記研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しながら、前記研磨済研磨対象物の表面の残渣を低減する、表面処理方法を提供する。なお、本明細書において、「表面処理方法」とは、研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法をいい、広義の洗浄を行う方法である。
【0140】
本発明に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面に残留する残渣を十分に除去することができる。すなわち、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法をも提供する。また、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)を含む研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する方法を提供する。
【0141】
また、本発明に係る表面処理方法によれば、研磨済研磨対象物の表面粗さを低減することができる。すなわち、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面粗さを低減する方法をも提供する。また、本発明は、本発明に係る表面処理組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)を含む研磨済研磨対象物を表面処理することを有する、前記研磨済研磨対象物の表面粗さを低減する方法を提供する。
【0142】
本発明に係る表面処理方法は、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させる方法により行われる。
【0143】
表面処理方法としては、主として、(I)リンス研磨処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、本発明の一実施形態では、表面処理方法は、リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である(上記表面処理は、リンス研磨処理または洗浄処理によって行われる)。リンス研磨処理および洗浄処理は、研磨済研磨対象物の表面上の異物(砥粒(パーティクル)残渣、高分子やパッド屑等の有機物残渣、金属汚染物など)を除去し、清浄な表面を得るために実施される。以下、上記(I)および(II)について説明する。
【0144】
(I)リンス研磨処理
本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨処理において好適に用いられる。すなわち、本発明に係る表面処理組成物は、リンス研磨用組成物として好ましく用いることができる。リンス研磨処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行い、研磨済研磨対象物を得た後、この研磨済研磨対象物の表面上の異物の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる。このとき、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させることにより、リンス研磨処理が行われる。その結果、研磨済研磨対象物表面の異物は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。異物のなかでも、特に砥粒(パーティクル)残渣や有機物残渣は、物理的な作用により除去されやすい。したがって、リンス研磨処理では、研磨定盤(プラテン)上で研磨パッドとの摩擦を利用することで、砥粒(パーティクル)残渣や有機物残渣を効果的に除去することができる。ここで、本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理では、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理組成物による化学的作用によって研磨済研磨対象物表面がエッチングされうる。そして、このエッチングと共に砥粒残渣や有機物残渣が除去されるため、これらの残渣の低減効率がさらに向上する。また、この際、研磨済研磨対象物の表面に対して均一にエッチングされることから、表面粗さもまた低減できる。
【0145】
すなわち、本明細書において、リンス研磨処理、リンス研磨方法およびリンス研磨工程とは、それぞれ、研磨パッドを用いて表面処理対象物の表面粗さおよび当該表面における残渣を低減する処理、方法および工程をいう。
【0146】
具体的には、リンス研磨処理は、研磨工程後の研磨済研磨対象物表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと研磨済半導体基板とを接触させてその接触部分に表面処理組成物を供給しながら、研磨済研磨対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0147】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0148】
リンス研磨処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、表面処理組成物の吐出ノズルを備えていることが好ましい。研磨装置のリンス研磨処理時の稼働条件は特に制限されず、当業者であれば適宜設定可能である。
【0149】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、表面処理組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0150】
リンス研磨条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが好ましく、研磨済研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下であることが好ましい。研磨パッドに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。リンス研磨時間も特に制限されないが、5秒以上180秒以下であることが好ましい。
【0151】
本発明に係る表面処理組成物によるリンス研磨処理の後、研磨済研磨対象物(表面処理対象物)は、本発明に係る表面処理組成物をかけながら引き上げられ、取り出されることが好ましい。
【0152】
(II)洗浄処理
本発明に係る表面処理組成物は、洗浄処理において用いられてもよい。すなわち、本発明に係る表面処理組成物は、洗浄用組成物として好ましく用いることができる。洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、上記リンス研磨処理を行った後、または本発明に係る表面処理組成物以外のリンス研磨用組成物を用いた他のリンス研磨処理を行い、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)を得た後、研磨済研磨対象物(洗浄対象物)の表面上の異物の除去を目的として行われることが好ましい。なお、洗浄処理と、上記リンス研磨処理とは、これらの処理を行う場所によって分類され、洗浄処理は、研磨定盤(プラテン)上ではない場所で行われる表面処理であり、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上から取り外した後に行われる表面処理であることが好ましい。洗浄処理においても、本発明に係る表面処理組成物を研磨済研磨対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上の異物を除去することができる。
【0153】
洗浄処理を行う方法の例として、(i)研磨済研磨対象物を保持した状態で、洗浄ブラシを研磨済研磨対象物の片面または両面と接触させて、その接触部分に表面処理組成物を供給しながら洗浄対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)研磨済研磨対象物を表面処理組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨済研磨対象物表面の異物は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。
【0154】
上記(i)の方法において、表面処理組成物の研磨済研磨対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから研磨済研磨対象物上に表面処理組成物を流しながら研磨済研磨対象物を高速回転させるスピン式、研磨済研磨対象物に表面処理組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0155】
短時間でより効率的な汚染除去ができる点からは、洗浄処理は、スピン式やスプレー式を採用することが好ましく、スピン式であることがさらに好ましい。
【0156】
このような洗浄処理を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の研磨済研磨対象物を同時に表面処理するバッチ式洗浄装置、1枚の研磨済研磨対象物をホルダーに装着して表面処理する枚葉式洗浄装置などがある。洗浄時間の短縮等の観点からは、枚葉式洗浄装置を用いる方法が好ましい。
【0157】
さらに、洗浄処理を行うための装置として、研磨定盤(プラテン)から研磨済研磨対象物を取り外した後、当該対象物を洗浄ブラシで擦る洗浄用設備を備えている研磨装置が挙げられる。このような研磨装置を用いることにより、研磨済研磨対象物の洗浄処理を、より効率よく行うことができる。
【0158】
かような研磨装置としては、研磨済研磨対象物を保持するホルダー、回転数を変更可能なモーター、洗浄ブラシ等を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。なお、CMP工程の後、リンス研磨工程を行う場合、当該洗浄処理は、リンス研磨工程にて用いた研磨装置と同様の装置を用いて行うことが、より効率的であり好ましい。
【0159】
洗浄ブラシは、特に制限されないが、好ましくは、樹脂製ブラシである。樹脂製ブラシの材質は、特に制限されないが、PVA(ポリビニルアルコール)が好ましい。洗浄ブラシは、PVA製スポンジであることがより好ましい。
【0160】
洗浄条件にも特に制限はなく、表面処理対象物(研磨済研磨対象物)の種類、ならびに除去対象とする残渣の種類および量に応じて、適宜設定することができる。例えば、洗浄ブラシの回転数は10rpm(0.17s-1)以上200rpm(3.33s-1)以下であることが、洗浄対象物の回転数は10rpm(0.17s-1)以上100rpm(1.67s-1)以下であることが、それぞれ好ましい。洗浄ブラシに表面処理組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、洗浄ブラシおよび洗浄対象物の表面が常に表面処理組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。洗浄時間も特に制限されないが、本発明の一形態に係る表面処理組成物を用いる工程については5秒以上180秒以下であることが好ましい。このような範囲であれば、異物をより効果的に除去することが可能である。
【0161】
洗浄の際の表面処理組成物の温度は、特に制限されず、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40℃以上70℃以下程度に加温してもよい。
【0162】
上記(ii)の方法において、浸漬による洗浄方法の条件については、特に制限されず、公知の手法を用いることができる。
【0163】
上記(I)または(II)の方法による表面処理を行う前に水による洗浄を行ってもよい。
【0164】
(後洗浄処理)
また、表面処理方法としては、本発明に係る表面処理組成物を用いた前記(I)または(II)の表面処理の後、研磨済研磨対象物をさらに洗浄処理することが好ましい。本明細書では、この洗浄処理を後洗浄処理と称する。後洗浄処理としては、特に制限されないが、例えば、単に表面処理対象物に水を掛け流す方法、単に表面処理対象物を水に浸漬する方法等が挙げられる。また、上記説明した(II)の方法による表面処理と同様に、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に水もしくは水溶液(例えば、NH3水溶液)を供給しながらまたは水および水溶液(例えば、NH3水溶液)をいずれかの順番で供給(水を供給した後水溶液を供給または水溶液を供給した後水を供給)しながら、表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法(ブラシ洗浄)、表面処理対象物を水中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。これらの中でも、表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと、表面処理対象物の片面または両面と、を接触させてその接触部分に水もしくは水溶液(例えば、NH3水溶液)を供給しながらまたは水および水溶液(例えば、NH3水溶液)をいずれかの順番で供給(水を供給した後水溶液を供給またはNH3水溶液を供給した後水を供給)しながら、表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法であることが好ましい。なお、後洗浄処理の装置および条件としては、前述の(II)の表面処理の説明を参照することができる。ここで、後洗浄処理に用いる水としては、特に脱イオン水を用いることが好ましい。
【0165】
本発明の一形態に係る表面処理組成物で表面処理を行うことによって、残渣が極めて除去されやすい状態となる。このため、本発明の一形態の表面処理に係る表面処理組成物で表面処理を行った後、水を用いてさらなる洗浄処理を行うことで、残渣が極めて良好に除去されることとなる。
【0166】
[半導体基板の製造方法]
本発明に係る表面処理方法は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合に、好適に適用される。すなわち、本発明は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、当該研磨済半導体基板を、上記表面処理方法によって研磨済半導体基板の表面における残渣を低減することを含む、半導体基板の製造方法をも提供する。
【0167】
この際、研磨済研磨対象物は、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)を含むと好ましい。すなわち、本発明は、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、砥粒を含む研磨用組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を含む材料(シリコン材料)を含む研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、本発明に係る表面処理組成物を用いて、前記研磨済半導体基板の表面粗さを低減しながら、前記研磨済半導体基板の表面における前記砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、を含む半導体基板の製造方法をも提供する。
【0168】
かかる製造方法が適用される半導体基板の詳細については、上記表面処理組成物によって表面処理される研磨済研磨対象物の説明の通りである。
【0169】
また、半導体基板の製造方法は、研磨済半導体基板の表面を、本発明に係る表面処理組成物を用いて表面処理する工程(表面処理工程)を含むものであれば、特に制限されない。かかる製造方法として、例えば、研磨済半導体基板を形成するための研磨工程および洗浄工程を有する方法が挙げられる。また、他の一例としては、研磨工程および洗浄工程に加え、研磨工程および洗浄工程の間に、リンス研磨工程を有する方法が挙げられる。以下、これらの各工程について説明する。
【0170】
<研磨工程>
半導体基板の製造方法に含まれうる研磨工程は、半導体基板を研磨して、研磨済半導体基板を形成する工程である。
【0171】
研磨工程は、半導体基板を研磨する工程であれば特に制限されないが、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)工程であることが好ましい。また、研磨工程は、単一の工程からなる研磨工程であっても複数の工程からなる研磨工程であってもよい。複数の工程からなる研磨工程としては、例えば、予備研磨工程(粗研磨工程)の後に仕上げ研磨工程を行う工程や、1次研磨工程の後に1回または2回以上の2次研磨工程を行い、その後に仕上げ研磨工程を行う工程等が挙げられる。本発明に係る表面処理組成物を用いた表面処理工程は、上記仕上げ研磨工程後に行われると好ましい。
【0172】
研磨用組成物としては、半導体基板の特性に応じて、公知の研磨用組成物を適宜使用することができる。研磨用組成物としては、特に制限されないが、例えば、砥粒、水溶性高分子、pH調整剤、および溶媒を含む研磨用組成物等が挙げられる。
【0173】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、片面研磨装置または両面研磨装置のいずれを用いてもよい。
【0174】
<表面処理工程>
表面処理工程とは、本発明に係る表面処理組成物を用いて研磨済研磨対象物の表面における残渣を低減する工程をいう。半導体基板の製造方法において、リンス研磨工程の後、表面処理工程としての洗浄工程が行われてもよいし、リンス研磨工程のみ、または洗浄工程のみが行われてもよい。
【0175】
(リンス研磨工程)
リンス研磨工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程および洗浄工程の間に設けられてもよい。リンス研磨工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(リンス研磨処理方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0176】
リンス研磨工程で用いられるリンス研磨方法の詳細は、上記リンス研磨処理に係る説明に記載の通りである。
【0177】
(洗浄工程)
洗浄工程は、半導体基板の製造方法において、研磨工程の後に設けられてもよいし、リンス研磨工程の後に設けられてもよい。洗浄工程は、本発明の一形態に係る表面処理方法(洗浄方法)によって、研磨済研磨対象物(研磨済半導体基板)の表面における異物を低減する工程である。
【0178】
洗浄工程で用いられる洗浄方法の詳細は、上記(後洗浄処理)におけるのと同様である。
【0179】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0180】
1.下記(A)~(C)成分を含み、pHが7.0を超える、表面処理組成物:
(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物
(B)成分:ノニオン性高分子
(C)成分:式:A-COO-NH4
+(Aは、炭素数1以上10以下のアルキル基またはフェニル基である)で示される緩衝剤;
2.前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物に含まれる窒素原子の数が2以上4以下である、上記1.に記載の表面処理組成物;
3.前記ノニオン性高分子は、窒素原子を含む、上記1.または2.に記載の表面処理組成物;
4.前記ノニオン性高分子は、ヒドロキシ基を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物は、第1級窒素原子の数と第2級窒素原子の数との合計が2以上である、上記1.または2.に記載の表面処理組成物;
5.前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物である、上記1.~4.のいずれかに記載の表面処理組成物:
上記式(a)中、
R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;第1級アミノ基;または第1級~第3級アミノ基のいずれかで置換されていてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基である;
6.前記ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、上記1.~5.のいずれかに記載の表面処理組成物;
7.前記ノニオン性高分子は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミドおよびポリN-ビニルアセトアミドからなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物である、上記5.に記載の表面処理組成物;
8.前記ノニオン性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロースおよびブテンジオール-ビニルアルコール共重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、
前記含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物が、上記式(a)で表されるピペラジン系化合物であり、
上記式(a)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子または;第1級アミノ基で置換された炭素数1以上3以下のアルキル基である、上記5.に記載の表面処理組成物;
9.前記緩衝剤が、酢酸アンモニウムである、上記1.~8.のいずれかに記載の表面処理組成物;
10.pHが9.0を超える、上記1.~9.のいずれかに記載の表面処理組成物;
11.砥粒を実質的に含まない、上記1.~10.のいずれかに記載の表面処理組成物;
12.下記(D)成分をさらに含む、上記1.~11.のいずれかに記載の表面処理組成物:
(D)成分:pH調整剤;
13.前記pH調整剤が、アンモニアである、上記12.に記載の表面処理組成物;
14.上記1.~13.のいずれかに記載の表面処理組成物を用いてケイ素-ケイ素結合を有する研磨済研磨対象物を表面処理して、前記研磨済研磨対象物の表面粗さを低減しながら、前記研磨済研磨対象物の表面の残渣を低減する、表面処理方法;
15.リンス研磨処理方法または洗浄処理方法である、上記14.に記載の表面処理方法;
16.研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板であり、
砥粒を含む研磨用組成物を用いて、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨前半導体基板を研磨することによって、研磨済半導体基板を得る研磨工程と、
上記1.~13.のいずれかに記載の表面処理組成物を用いて、前記研磨済半導体基板の表面粗さを低減しながら、前記研磨済半導体基板の表面における前記砥粒を含む残渣を低減する表面処理工程と、
を含む半導体基板の製造方法。
【実施例0181】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行った。
【0182】
[(A)~(D)成分の準備]
下記の(A)~(D)成分を準備した。
【0183】
<(A)成分:含窒素非芳香族複素環を有する環式アミン化合物>
・アミノエチルピペラジン(東京化成工業株式会社製 製品名N-(2-Aminoethyl)piperazine;分子量129)
・1-アミノ-4-メチルピペラジン(東京化成工業株式会社製 製品名1-Amino-4-methylpiperazine;分子量115)
・1-(2-ジメチルアミノエチル)-4-メチルピペラジン(東京化成工業株式会社社製 製品名1-(2-Dimethylaminoethyl)-4-methylpiperazine;分子量171)
・1-エチルピペラジン(東京化成工業株式会社製 製品名1-Ethylpiperazine;分子量114)
・1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン(東京化成工業株式会社製 製品名1,4-Bis(3-aminopropyl)piperazine;分子量200)
・無水ピペラジン(富士フイルム和光純薬株式会社製 製品名Piperazine Anhydrous;分子量86)。
【0184】
<(A’)成分:その他のアミン化合物>
・3-ジメチルアミノ-1-プロパノール(東京化成工業株式会社製 製品名3-(Dimethylamino)-1-propanol;分子量103)
・N-メチルベンジルアミン(東京化成工業株式会社製 製品名N-Methylbenzylamine;分子量121)
・ジグリコールアミン(2-(2-アミノエトキシ)エタノール)(富士フイルム和光純薬株式会社製 製品名DGA;分子量105)
・アンモニア(関東化学株式会社製 製品名ELアンモニア水;分子量17)。
【0185】
<(B)成分:ノニオン性高分子>
・ポリビニルピロリドン(PVP)(第一工業製薬株式会社製 製品名ピッツコール(登録商標)K30A;Mw=45,000)
・ポリビニルアルコール(PVA)(日本酢ビ・ポバール株式会社製 製品名JMR(登録商標)-10HH;Mw=10,000)
・ポリ-N-ビニルアセトアミド(PNVA)(昭和電工株式会社製 製品名GE191-107;Mw=50,000)。
【0186】
<(C)成分:pH緩衝剤>
・酢酸アンモニウム(関東化学株式会社製;分子量77)。
【0187】
<(C’)成分:その他のpH緩衝剤>
・リン酸水素二アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製;分子量132)
・硫酸アンモニウム(関東化学社製;分子量132)。
【0188】
<(D)成分:pH調整剤>
・アンモニア(関東化学株式会社製 製品名:ELアンモニア水;分子量17)。
【0189】
上記の(B)成分および(B’)成分の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定した。
【0190】
[重量平均分子量(Mw)の測定]
(B)成分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の値を用いた。重量平均分子量は、下記の装置および条件によって測定した:
GPC装置:株式会社島津製作所製
型式:Prominence + ELSD検出器(ELSD-LTII)
カラム:VP-ODS(株式会社島津製作所製)
移動相 A:MeOH
B:酢酸1%水溶液
流量:1mL/分
検出器:ELSD temp.40℃、Gain 8、N2GAS 350kPa
オーブン温度:40℃
注入量:40μL。
【0191】
[表面処理組成物のpHの測定]
表面処理組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))によって確認した。なお、以下で説明する研磨用組成物のpHも、同様の方法により測定した。
【0192】
[表面処理組成物の調製]
(実施例1)
(A)成分としてのアミノエチルピペラジンと、(B)成分としてのポリビニルピロリドン(Mw=45,000)と、(C)成分としての酢酸アンモニウムと、(D)成分としてのアンモニアと、溶媒としての蒸留水とを、25℃で5分間攪拌混合することにより、表面処理組成物1を調製した。
【0193】
ここで、各成分の含有量は、以下の通りとした:表面処理組成物1の総量に対して、(A)成分の含有量は、0.03質量%(0.3g/L)とし、(B)成分の含有量は、0.06質量%(0.6g/L)とし、(C)成分の含有量は、0.03質量%(0.3g/L)とし、(D)成分(pH調整剤)の含有量は、表面処理組成物1のpHが10.5となる量とした。
【0194】
(実施例2~20、比較例1~11)
(A)/(A’)成分、(B)成分、(C)/(C’)成分、(D)成分およびpHを表1の記載のようにそれぞれ変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表面処理組成物2~31を調製した。なお、表1において、「-」は、該当する成分を添加しなかったことを示す。
【0195】
(比較例12)
後述するように、表面処理組成物を用いたリンス研磨処理を行わずに各基板表面を評価したものを比較例12とした。
【0196】
なお、上記にて調製した表面処理組成物1~31は、砥粒を含まない(砥粒の含有量=0質量%)。また、以下の表1において、「N原子種類」の項目では、(A)成分または(A’)成分に含まれる窒素原子が第1級窒素原子、第2級窒素原子、第3級窒素原子のいずれであるかをそれぞれ数字で示す。なお、炭素原子と結合していない窒素原子については、便宜上、「0」と記載する。
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
[研磨済研磨対象物の準備]
下記の化学的機械的研磨(CMP)工程によって研磨された後の研磨済研磨対象物(研磨済ポリシリコン基板、研磨済アモルファスシリコン基板、および研磨済単結晶シリコン基板)を準備した。
【0201】
(CMP工程)
研磨対象物として、表面に厚さ5000Åの多結晶シリコン膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(ポリシリコン基板)(300mm ウェーハ、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)、表面に厚さ2000Åのアモルファスシリコン膜をCVDで形成したシリコンウェーハ(アモルファスシリコン基板)(300mm ウェーハ、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)、およびシリコンウェーハ(単結晶シリコン基板)(300mm ウェーハ、p型、結晶方位<100>、COPフリー)を準備した。ここで、COP(Crystal Originated Particle)とは、シリコンウェーハ表面に形成されている凹状欠陥のことであり、シリコンウェーハを形成する単結晶シリコンの結晶欠陥や研磨材(砥粒)による一定の幅および深さを超える引掻き傷(スクラッチ)に起因している。
【0202】
上記で準備したポリシリコン基板、アモルファスシリコン基板および単結晶シリコン基板について、下記組成の研磨用組成物を使用し、下記の条件にて研磨を行い、研磨済研磨対象物(研磨済ポリシリコン基板、研磨済アモルファスシリコン基板および研磨済単結晶シリコン基板)を得た。
【0203】
<研磨用組成物>
まず、以下の組成のシリカスラリーを準備した:
・コロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:70nm) 10質量%
・ポリビニルピロリドン(第一工業製薬株式会社製 製品名ピッツコール(登録商標) K30A;Mw=45,000) 0.25質量%
・アンモニア(関東化学株式会社製 製品名ELアンモニア水(NH3濃度:28.0%~30.0%)) 0.33質量%(NH3として)
・溶媒:蒸留水。
【0204】
ついで、上記シリカスラリーを蒸留水で5倍希釈することによって、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは、10.0であった。
【0205】
<研磨装置および研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド
H800-Type1
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:2.0psi(1psi=6894.76Pa、以下同じ)
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200mL/分
研磨時間:30秒間。
【0206】
[リンス研磨処理]
上記CMP工程にて研磨対象物(ポリシリコン基板、アモルファスシリコン基板および単結晶シリコン基板)表面をそれぞれ研磨した後、研磨済研磨対象物(研磨済ポリシリコン基板、研磨済アモルファスシリコン基板および研磨済単結晶シリコン基板)を研磨定盤(プラテン)上から取り外した。続いて、同じ研磨装置内で、研磨済研磨対象物を別の研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記実施例および比較例で調製した各表面処理組成物1~20を用いて、研磨済研磨対象物表面に対してリンス研磨処理を行った。
【0207】
<リンス研磨装置およびリンス研磨条件>
研磨装置:株式会社荏原製作所製 FREX300E
研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド
H800-Type1
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:1.0psi
定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
表面処理組成物の供給:掛け流し
表面処理組成物供給量:300mL/分
研磨時間:60秒間。
【0208】
[後洗浄処理]
リンス研磨処理後、0.3%NH3水溶液を用いて20秒間、基板表面のブラシ洗浄を行い、その後脱イオン水による洗浄を40秒間行うことで、リンス研磨済研磨対象物(実施例および比較例の表面処理組成物1~31を用いたリンス研磨済ポリシリコン基板1~31、実施例および比較例の表面処理組成物1~31を用いたリンス研磨済アモルファスシリコン基板1~31、ならびに実施例および比較例の表面処理組成物1~31を用いたリンス研磨済単結晶シリコン基板1~31)を得た。なお、比較例12として、各基板についてCMP工程を行った後、リンス研磨処理(表面処理組成物による処理)は行わず、上記後洗浄処理を行うことで、ポリシリコン基板32、アモルファスシリコン基板32、および単結晶シリコン基板32をそれぞれ得た。
【0209】
[評価]
(濡れ性(接触角)評価)
上記[研磨済研磨対象物の準備]の項に記載の方法と同様にして、研磨済研磨対象物(研磨済ポリシリコン基板、研磨済アモルファスシリコン基板および研磨済単結晶シリコン基板)を準備した。続いて、下記研磨装置内で、研磨済研磨対象物を研磨定盤(プラテン)上に取り付け、下記の条件にて、上記実施例および比較例で調製した各表面処理組成物1~10、21~31を用いて、研磨済研磨対象物表面に対してリンス研磨処理を行った。
【0210】
<リンス研磨装置およびリンス研磨条件(濡れ性評価用)>
研磨装置:日本エンギス株式会社製 ラッピングマシーン EJ-380IN-CH 研磨パッド:富士紡ホールディングス株式会社製 発泡ポリウレタンパッド
H800-Type1
コンディショナー(ドレッサー):ナイロンブラシ(3M社製)
研磨圧力:1.0psi
研磨定盤回転数:80rpm
ヘッド回転数:80rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:60秒間。
【0211】
上記の通りリンス研磨処理を行った後、後洗浄処理は行わずに、リンス研磨済研磨対象物(リンス研磨済ポリシリコン基板1’~10’、21’~31’、リンス研磨済アモルファスシリコン基板1’~10’、21’~31’、およびリンス研磨済単結晶シリコン基板1’~10’、21’~31’)ならびに比較例12としてのポリシリコン基板32’、アモルファスシリコン基板32’、および単結晶シリコン基板32’を得た。これらのリンス研磨済研磨対象物ならびに比較例12としての各基板32’について、エアシャワーにより表面の水分を除去し、その後、θ/2法を用いて水接触角の測定を行った。なお、測定には、協和界面科学株式会社製のウェーハ洗浄処理評価装置CA-X200を用いた。
【0212】
上述のように、本発明に係る表面処理組成物を用いると、(A)成分(および(B)成分)が基板表面に吸着することにより、基板表面のエッチングが促進されるとともに、(A)成分が基板表面において保護膜のように働き、局所的なエッチングを抑制して表面粗さが低減できると推測される。ここで、基板表面の水接触角が小さいことは、その表面の濡れ性が高いことを示し、これは、(A)成分の窒素原子部分が基板表面に吸着して親水性が向上していることに起因すると考えられる。したがって、基板表面が高い濡れ性を示すことは、上記メカニズムのように(A)成分が働いていることを支持していると考えられる。
【0213】
(表面粗さ(Ra、算術平均粗さ)の測定)
原子間力顕微鏡(ブルカージャパン株式会社製、全自動原子間力プロファイラー InSight CAP)を用いて、リンス研磨済研磨対象物(リンス研磨済ポリシリコン基板1~31、リンス研磨済アモルファスシリコン基板1~31、およびリンス研磨済単結晶シリコン基板1~31)ならびに比較例12としてのポリシリコン基板32、アモルファスシリコン基板32、および単結晶シリコン基板32の表面粗さ(Ra)をそれぞれ評価した。具体的には、基板上の5mm四方の範囲を原子間力顕微鏡で走査し、表面粗さ(Ra)を測定した。この測定を基板上の5点で行い、その平均値を確認した。
【0214】
表面粗さ(Ra)は、なるべく小さな値であることが好ましい。一例として、表面粗さ(Ra)は、ポリシリコン基板では、0.27nm未満であれば許容でき、0.25nm以下であることが好ましく、0.25nm未満であることがより好ましい。アモルファスシリコン基板では、0.23nm未満であれば許容でき、0.20nm以下であることが好ましく、0.18nm以下であることがより好ましい。単結晶シリコン基板では、0.24nm未満であれば許容でき、0.23nm以下であることが好ましく、0.21nm以下であることがより好ましい。
【0215】
(残渣評価)
ケーエルエー・テンコール株式会社製、光学検査機Surfscan(登録商標)SP5を用いて、リンス研磨済研磨対象物(リンス研磨済ポリシリコン基板1~31、リンス研磨済アモルファスシリコン基板1~31、およびリンス研磨済単結晶シリコン基板1~31)ならびに比較例12としてのポリシリコン基板32、アモルファスシリコン基板32、および単結晶シリコン基板32について、表面上の残渣数を評価した。
【0216】
具体的には、(リンス研磨済)ポリシリコン基板の片面の外周端部から幅5mmの部分(外周端部を0mmとしたときに、0mmから5mmまでの領域)を除外した残りの部分について、直径70nmを超える残渣の数をカウントした。その後、上記(リンス研磨済)ポリシリコン基板に関して、砥粒残渣数および有機物残渣数を、株式会社日立ハイテク製Review SEM RS6000を使用し、SEM観察によって測定した。まず、SEM観察にて、(リンス研磨済)ポリシリコン基板の片面の外周端部から幅5mmの部分を除外した残りの部分に存在する残渣を100個サンプリングした。次いで、サンプリングした100個の残渣の中から、目視によるSEM観察にて残渣の種類(砥粒または有機物残渣)を判別し、砥粒残渣(SiO2残渣)および有機物残渣(パッド屑や高分子など)のそれぞれについて、その個数を測定した。
【0217】
上記と同様にして、(リンス研磨済)アモルファスシリコン基板および(リンス研磨済)単結晶シリコン基板についても、その表面上の残渣数を評価した。なお、(リンス研磨済)アモルファスシリコン基板については、直径70nmを超える残渣の数を、(リンス研磨済)単結晶シリコン基板については、直径50nmを超える残渣の数をそれぞれカウントした。
【0218】
砥粒残渣(SiO2残渣)数は、なるべく少ない方が好ましい。一例として、砥粒残渣(SiO2残渣)数は、ポリシリコン基板では、20以下であれば許容でき、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。アモルファスシリコン基板では、15以下であれば許容でき、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。単結晶シリコン基板では、100以下であれば許容でき、80以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。
【0219】
また、有機物残渣(パッド屑や高分子など)数も、なるべく少ない方が好ましい。一例として、有機物残渣(パッド屑や高分子など)数は、ポリシリコン基板では、30以下であれば許容でき、25以下であることが好ましく、25未満であることがより好ましい。アモルファスシリコン基板では、50以下であれば許容でき、45以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましい。単結晶シリコン基板では、70未満であれば許容でき、60以下であることが好ましく、55以下であることがより好ましい。
【0220】
(QCM法による吸着量測定)
水晶振動子マイクロバランス法(Quartz crystal microbalance法:QCM法)を用いて、金(Au)表面に対する、表面処理組成物中に含まれる成分の吸着量を測定した。なお、測定には、QCM-D測定装置Q-Sense-Pro(アルテック株式会社製)を用いた。また、電極としては、ポリシリコン等と同様に疎水性表面を有することから、Au電極を用いた。
【0221】
測定手順は以下の通りである:まず、180μLの純水を測定装置にセットし、25℃で安定させた。その後、各表面処理組成物を20μL/minの流量で5分間流し、Au電極表面に対する、表面処理組成物に含まれる成分の吸着量((A)成分および(B)成分の吸着量の合計)を測定した。
【0222】
上述のように、本発明に係る表面処理組成物を用いると、(A)成分および(B)成分が基板表面に吸着することにより、表面粗さの低減効果および残渣の低減効果が得られると推測される。ここで、疎水性表面のモデルとしてのAu表面に対する、表面処理組成物の含有成分の吸着量が大きいことは、その基板表面に対して(A)成分や(B)成分が吸着しやすいことを示す。したがって、上記吸着量測定において大きな数値を示すことは、上記メカニズムのように(A)成分および(B)成分が働いていることを支持していると考えられる。
【0223】
上記各評価の結果を下記表2に示す。なお、接触角について評価を行わなかった基板については、表2中、「-」として記載する。
【0224】
【0225】
【0226】
【0227】
上記表2から明らかなように、実施例の表面処理組成物によれば、比較例の表面処理組成物と比べて、ポリシリコン基板、アモルファスシリコン基板、および単結晶シリコン基板の表面粗さを低減できる。また、実施例の表面処理組成物によれば、ポリシリコン基板、アモルファスシリコン基板、および単結晶シリコン基板上の残渣を十分に除去できることが分かる。
【0228】
上記は、表面処理組成物製造直後に評価した結果であるが、長期間保存または貯蔵する場合には、防カビ剤(防腐剤)を含むことが好ましい。なお、防カビ剤(防腐剤)は上記結果に影響をほとんど及ぼさないまたは及ぼさないので、防カビ剤(防腐剤)を含む表面処理組成物も上記と同様の結果となると考察される。