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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050417
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】樹脂用添加剤、組成物及び樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240403BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20240403BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/5399
C08L75/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023121473
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2022156479
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173762
【氏名又は名称】公益財団法人相模中央化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】相原 秀典
(72)【発明者】
【氏名】坂部 将仁
(72)【発明者】
【氏名】松本 周也
(72)【発明者】
【氏名】磯田 恭佑
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 佑平
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002EW156
4J002FD036
4J002GL00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することができる、樹脂用添加剤を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物を含む、樹脂用添加剤。

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物を含む、樹脂用添加剤。
【化1】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【請求項2】
前記環状ホスファゼン化合物が、下記式(4)で表される化合物である、請求項1に記載の樹脂用添加剤。
【化2】

[式(4)中、Rは、前記式(1)中のRと同義であり、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記環状ホスファゼン化合物が、前記Rとして、下記式(c-1)~(c-6)で表される基のうちの少なくとも一つの基を有する、請求項1又は2に記載の樹脂用添加剤。
【化3】

[式(c-1)~(c-6)中、*は、酸素原子との結合位置を示す。]
【請求項4】
前記環状ホスファゼン化合物が、前記Rとして、前記式(c-1)で表される基及び前記式(c-2)で表される基のうちの少なくとも一つの基を有する、請求項3に記載の樹脂用添加剤。
【請求項5】
樹脂又は樹脂の原料と、下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物と、を含む、組成物。
【化4】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【請求項6】
前記樹脂がポリウレタン樹脂であり、前記樹脂の原料がポリオール及びポリイソシアネートのうちの少なくとも一方である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
ポリウレタンフォーム形成用である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
樹脂と、下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物と、を含む、樹脂発泡体。
【化5】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【請求項9】
ポリウレタンフォームである、請求項8に記載の樹脂発泡体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂用添加剤、組成物及び樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
硬質ポリウレタンフォーム等の樹脂発泡体は、断熱性能、寸法安定性、施工性等に優れることから、冷蔵庫、冷凍倉庫、建築材料等の断熱材用途、スプレー用途などに広く使用されている。一方、樹脂発泡体においては、熱伝導率が継続的に上昇する(すなわち、断熱性能が経時的に低下する)という課題がある。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1には、硬質ポリウレタンフォームの発泡樹脂断熱材を作製するにあたり、発泡樹脂断熱材の表裏に加える圧力を調整制御することで、外層部分と中心層部分の発泡によるフォームの体積変化を抑えること等によりセル形状の縦/横比を調整し、断熱性能の経時的な低下を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-332203号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Z.Anorg.Allg.Chem.,425巻,127項,1976年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の手法は、作業工程の煩雑化やそれに伴う生産コストの増加の問題があり、現実的ではない。そのため、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することができるより現実的な手法の開発が望まれる。
【0007】
そこで、本開示の一側面は、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することができる、樹脂用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の発明者らは、特定の構造を有する環状ホスファゼン化合物が、樹脂の断熱性能の経時的な低下(特に樹脂発泡体の断熱性能の経時的な低下)の抑制に有効であることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。
【0009】
本開示のいくつかの側面は、下記[1]~[9]を提供する。
【0010】
[1]
下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物を含む、樹脂用添加剤。
【化1】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【0011】
[2]
前記環状ホスファゼン化合物が、下記式(4)で表される化合物である、[1]に記載の樹脂用添加剤。
【化2】

[式(4)中、Rは、前記式(1)中のRと同義であり、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0012】
[3]
前記環状ホスファゼン化合物が、前記Rとして、下記式(c-1)~(c-6)で表される基のうちの少なくとも一つの基を有する、[1]又は[2]に記載の樹脂用添加剤。
【化3】

[式(c-1)~(c-6)中、*は、酸素原子との結合位置を示す。]
【0013】
[4]
前記環状ホスファゼン化合物が、前記Rとして、前記式(c-1)で表される基及び前記式(c-2)で表される基のうちの少なくとも一つの基を有する、[3]に記載の樹脂用添加剤。
【0014】
[5]
樹脂又は樹脂の原料と、下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物と、を含む、組成物。
【化4】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【0015】
[6]
前記樹脂がポリウレタン樹脂であり、前記樹脂の原料がポリオール及びポリイソシアネートのうちの少なくとも一方である、[5]に記載の組成物。
【0016】
[7]
ポリウレタンフォーム形成用である、[6]に記載の組成物。
【0017】
[8]
樹脂と、下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物と、を含む、樹脂発泡体。
【化5】

[式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基又は炭素数6~18のアリーレン基を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。]
【0018】
[9]
ポリウレタンフォームである、[8]に記載の樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一側面によれば、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することができる、樹脂用添加剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、具体的に明示する場合を除き、「~」の前後に記載される数値の単位は同じである。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0021】
以下、本開示の好適な実施形態について説明する。ただし、本開示は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0022】
<樹脂用添加剤>
一実施形態の樹脂用添加剤は、環状ホスファゼン化合物を含む。ここで、環状ホスファゼン化合物とは、リン原子(P)と窒素原子(N)とが交互に結合することで形成される環構造を有する化合物である。換言すれば、環状ホスファゼン化合物は、[-P=N-]を含む構造単位が複数結合することで形成される[-P=N-]の繰り返しからなる環構造を有する化合物である。環状ホスファゼン化合物の環構造は、[-P=N-]xで表すことができる。すなわち、環状ホスファゼン化合物の環員数(環を形成するP及びNの合計数)は、2xである。xは、3以上の整数であり、例えば3~5である。
【0023】
樹脂用添加剤に含まれる環状ホスファゼン化合物は、下記式(1)で表される構造単位を含む。以下、下記式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物を「環状ホスファゼン化合物(A)」という。
【化6】
【0024】
式(1)中、Rは、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数2~8のアルキレン基(アルカンジイル基)又は炭素数6~18のアリーレン基(アレーンジイル基)を示し、*は、他の構造単位との結合位置を示す。式(1)で表される構造単位は、他の構造単位と結合することにより、環状ホスファゼン化合物(A)の環構造([-P=N-]の繰り返しからなる環構造)を形成している。なお、本明細書中、「アリーレン基」は、アレーンの炭素原子に結合する2個の水素原子を除去することにより誘導される基を意味し、環炭素原子(芳香環を構成する炭素原子)に結合する水素原子が除去されることにより誘導される基の他、芳香環に結合する側鎖を構成する炭素原子に結合する水素原子が除去されることにより誘導される基も「アリーレン基」に包含されるものとする。
【0025】
本実施形態の樹脂用添加剤は、環状ホスファゼン化合物(A)を含むことから、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制する機能を有する。すなわち、本実施形態の樹脂用添加剤によれば、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することができる。かかる効果は、樹脂用添加剤が樹脂発泡体に用いられる場合に顕著に奏される傾向がある。したがって、本実施形態の樹脂用添加剤は、樹脂発泡体用添加剤として好適に用いられる。
【0026】
のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキレン基の炭素数は2~8であり、好ましくは2~4である。アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,2-ジイル基、ブタン-1,3-ジイル基、ブタン-2,3-ジイル基等が挙げられる。
【0027】
のアリーレン基は、単環式であっても多環式であってもよい。アリーレン基の炭素数は6~18であり、好ましくは6~10である。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、ナフチレン基、アントラセニレン基等が挙げられる。
【0028】
に含まれる塩素原子の数(すなわちクロロ基の数)は、1以上である。塩素原子の数は、好ましくは1~3であり、より好ましくは1又は2であり、さらに好ましくは1である。
【0029】
は、好ましくは、下記式(a)で表される基又は下記式(b)で表される基である。
【化7】

【化8】
【0030】
式(a)中のRa1~Ra4及び式(b)中のRb1~Rb6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~2のアルキル基、又は、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換された、炭素数1~2のアルキル基を示し、式(a)及び式(b)中の*は、酸素原子との結合位置を示す。ただし、Ra1~Ra4の少なくとも一つ、及び、Rb1~Rb6の少なくとも一つは、少なくとも一つの水素原子(好ましくは一つの水素原子)が塩素原子で置換された、炭素数1~2のアルキル基である。Ra1~Ra4及びRb1~Rb6としては、例えばメチル基、エチル基、クロロメチル基及び2-クロロエチル基が挙げられる。
【0031】
環状ホスファゼン化合物(A)は、Rとして、下記式(c-1)~(c-6)で表される基のいずれかを有することが好ましく、下記式(c-1)で表される基(3-クロロプロパン-1,2-ジイル基)及び下記式(c-2)で表される基(1,4-ジクロロブタン-2,3-ジイル基)のうちの少なくとも一つの基を有することがより好ましく、下記式(c-1)で表される基を有することがさらに好ましい。中でも、式(1)中のRの全てが下記式(c-1)~(c-6)で表される基のいずれかであることが好ましく、式(1)中のRの全てが下記式(c-1)で表される基又は下記式(c-2)で表される基であることがより好ましく、式(1)中のRの全てが下記式(c-1)で表される基であることがさらに好ましい。
【化9】
【0032】
式(c-1)~(c-6)中、*は、酸素原子との結合位置を示す。
【0033】
環状ホスファゼン化合物(A)に含まれる式(1)で表される構造単位の数は、1~5であってよく、3~5であってもよい。式(1)で表される構造単位が複数存在する場合、複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
環状ホスファゼン化合物(A)は、式(1)で表される構造単位のみで構成されていてよく、式(1)で表される構造単位以外の構造単位として、下記式(2)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【化10】
【0035】
式(2)中のRは、2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基又はアリーレン基)を示す。式(2)中の*は、他の構造単位との結合位置を示す。
【0036】
のアルキレン基及びアリーレン基の例は、少なくとも一つの水素原子が塩素原子で置換されていない点を除き、上記Rのアルキレン基及びアリーレン基の例と同じである。
【0037】
式(2)で表される構造単位の数は、0~4であってよく、0~2であってもよい。
【0038】
環状ホスファゼン化合物(A)は、例えば、下記式(3)で表される化合物であってよい。
【化11】
【0039】
式(3)中、Rは式(1)中のRと同義であり、Rは式(2)中のRと同義である。Rが複数存在する場合、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。同様に、Rが複数存在する場合、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
mは、1~5の整数を示し、nは、0~4の整数を示す。mとnとの和(m+n)は例えば3~5である。m/(m+n)は、好ましくは0.5以上であり、より好ましくは1である。
【0041】
環状ホスファゼン化合物(A)は、例えば、下記式(4)で表される化合物であってよい。
【化12】
【0042】
式(4)中、Rは式(1)中のRと同義である。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。好ましくは、複数のRのうちの少なくとも一つが式(c-1)~(c-6)で表される基のいずれかであり、より好ましくは、複数のRの全てが式(c-1)~(c-6)で表される基のいずれかである。
【0043】
式(4)で表される化合物は、様々な可能な立体異性体の全てを包含する。例えば、式(4)における3つのRの全てが式(a)で表される基である場合、すなわち、環状ホスファゼン化合物(A)が下記式(5)で表される化合物である場合、式(a)で表される基と該基が結合する酸素原子及びリン原子とで構成される5員環が剛直な構造となり、ホスファゼン環に対して垂直なスピロ構造となるため、式(5)で表される化合物には、下記式(5-1)~(5-6)で表される立体異性体が存在し得る。本明細書では、便宜上、式(5)のように記載するが、式(5)で表される化合物には、下記式(5-1)~(5-6)で表される立体異性体の全てが包含される。式(5)で表される化合物は、式(5-1)~(5-6)で表される立体異性体の少なくとも一種を含むものであり、式(5-1)~(5-6)で表される立体異性体の全てを含んでいてもよい。
【化13】

【化14】
【0044】
式(5)及び式(5-1)~(5-6)中のRa1、Ra2、Ra3及びRa4は、式(a)中のRa1、Ra2、Ra3及びRa4と同義である。各式中、複数のRa1は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のRa2は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のRa3は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のRa4は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
環状ホスファゼン化合物(A)は、(PXN)q(Xは、それぞれ独立して、Cl、Br等のハロゲン原子を示し、qは、3以上(例えば3~5)の整数を示す。)で表される環状ホスファゼン化合物とアルコール化合物とを反応させる公知の手法(例えば非特許文献1に記載の手法)又は合成例に示した手法に従って合成可能である。具体的には、アルコール化合物として、R(OH)(Rは、式(1)中のRと同義である。)で表される化合物を用いることで、環状ホスファゼン化合物(A)が得られる。
【0046】
アルコール化合物として、R(OH)(Rは、式(2)中のRと同義である。)で表される化合物を用いることもできる。これらの化合物を用いる場合、式(2)で表される構造単位をさらに含む環状ホスファゼン化合物(A)が得られる。
【0047】
本実施形態の樹脂用添加剤は、環状ホスファゼン化合物(A)以外の成分(例えば、環状ホスファゼン化合物(A)の製造過程で不可避的に混入し得る成分)を含んでいてもよく、環状ホスファゼン化合物(A)のみからなっていてもよい。
【0048】
以上説明した本実施形態の樹脂用添加剤は、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制する機能を有することから、樹脂用の熱伝導率改質剤(或いは樹脂の断熱性の経時低下抑制剤)といいかえることもできる。ただし、本実施形態の樹脂用添加剤は、樹脂の断熱性の経時低下の抑制以外の効能を有し得ることから、必ずしも樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制することを目的として使用されなくてもよい。
【0049】
<組成物>
一実施形態の組成物は、樹脂組成物又は樹脂形成用組成物であり、樹脂又は樹脂の原料と、環状ホスファゼン化合物(A)と、を含む。環状ホスファゼン化合物(A)は樹脂用添加剤(例えば熱伝導率改質剤)として組成物に含まれていてよい。
【0050】
組成物に含まれる樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。組成物に含まれる樹脂の原料としては、例えば、ポリオール、ポリイソシアネート等のポリウレタン樹脂の原料、フェノール、クレゾール等のフェノール樹脂の原料などが挙げられる。
【0051】
環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、例えば、組成物の全質量を基準として、0.5~20質量%であってよい。
【0052】
組成物は、好ましくはポリウレタン樹脂、又は、ポリオール及びポリイソシアネートのうちの少なくとも一方を含む。これらの組成物は、後述するポリウレタンフォームを構成する組成物、又は、ポリウレタンフォームを形成するための組成物(ポリウレタンフォーム形成用組成物)であることが好ましい。
【0053】
組成物がポリウレタン樹脂を含む組成物である場合、環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、例えば、ポリウレタン樹脂100質量部に対して0.5~15質量部であってよい。上記含有量が0.5質量部以上であると、樹脂の断熱性能の経時的な低下をより抑制できる傾向があり、15質量部以下であると、樹脂の機械特性を損なうことなく、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制できる傾向がある。同様の観点から、環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、ポリウレタン樹脂100質量部に対して1質量部以上又は3質量部以上であってもよく、10質量部以下又は7質量部以下であってもよい。
【0054】
組成物がポリオールを含む組成物である場合、環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、例えば、ポリオール100質量部に対して1~50質量部であってよい。上記含有量が1質量部以上であると、樹脂の断熱性能の経時的な低下をより抑制できる傾向があり、50質量部以下であると、樹脂の機械特性を損なうことなく、樹脂の断熱性能の経時的な低下を抑制できる傾向がある。同様の観点から、環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、ポリオール100質量部に対して3質量部以上又は10質量部以上であってもよく、30質量部以下又は20質量部以下であってもよい。
【0055】
組成物は、上記樹脂、樹脂の原料及び環状ホスファゼン化合物(A)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分は、樹脂発泡体、又は、樹脂発泡体形成用の材料に用いられる公知の成分であってよい。すなわち、組成物は、樹脂発泡体、又は、樹脂発泡体形成用の材料であってよい。他の成分の具体例としては、触媒、難燃剤、発泡剤、整泡剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。
【0056】
組成物は、断熱材、又は、断熱材形成用の材料として好適に用いられる。
【0057】
<樹脂発泡体>
一実施形態の樹脂発泡体は、環状ホスファゼン化合物(A)を含む。環状ホスファゼン化合物(A)は樹脂用添加剤(例えば熱伝導率改質剤)として樹脂発泡体に含まれていてよい。環状ホスファゼン化合物(A)の含有量は、例えば、樹脂発泡体の全質量を基準として、0.3~15質量%であってよい。
【0058】
樹脂発泡体は、上記実施形態の組成物で形成された発泡体であってもよい。すなわち、樹脂発泡体は、上記実施形態の組成物に含まれ得る成分(樹脂、触媒、難燃剤、発泡剤、整泡剤、可塑剤、着色剤等)を含むことができる。樹脂発泡体は、例えば、断熱材、又は、断熱材形成用の材料として好適に用いられる。
【0059】
樹脂発泡体に含まれる樹脂は、環状ホスファゼン化合物(A)による断熱性能の経時的な低下を抑制する効果がより顕著に得られる観点から、好ましくはポリウレタン樹脂である。以下では、構成樹脂としてポリウレタン樹脂を含む樹脂発泡体をポリウレタンフォームと称する。
【0060】
<ポリウレタンフォーム>
一実施形態のポリウレタンフォームは、ポリウレタン樹脂と環状ホスファゼン化合物(A)とを含む。ポリウレタンフォームは、例えば、硬質ポリウレタンフォームである。ポリウレタンフォームのフォーム密度は、例えば、25~60kg/mであってよい。ポリウレタンフォームがコアとスキン層と有する場合、ポリウレタンフォームのコア密度は、例えば、20~55kg/mであってよい。
【0061】
ポリウレタンフォームは、例えば、建築物の屋根、壁、地下構造物、橋梁の床板、水槽、タンク、冷蔵庫等の筐体内部などの断熱材として好適に用いられる。
【0062】
ポリウレタンフォームは、例えば、ポリウレタンフォーム形成用組成物を材料として得ることができる。ポリウレタンフォーム形成用組成物は、ポリオール及びポリイソシアネートのうちの少なくとも一方と、環状ホスファゼン化合物(A)と、を含む組成物である。ポリウレタンフォーム形成用組成物が、ポリオールとポリイソシアネートとを含む組成物である場合、ポリウレタンフォーム形成用組成物を反応(発泡及び硬化)させることによりポリウレタンフォームが形成される。ポリウレタンフォーム形成用組成物が、ポリオールを含み、ポリイソシアネートを含まない組成物(ポリオール組成物)である場合、ポリウレタンフォーム形成用組成物(ポリオール組成物)と、ポリイソシアネート又はポリイソシアネートを含む組成物(ポリイソシアネート組成物)とを混合して反応(発泡及び硬化)させることによりポリウレタンフォームが形成される。ポリウレタンフォーム形成用組成物が、ポリイソシアネートを含み、ポリオールを含まない組成物(ポリイソシアネート組成物)である場合、ポリウレタンフォーム形成用組成物(ポリイソシアネート組成物)と、ポリオール又はポリオールを含む組成物(ポリオール組成物)とを混合して反応(発泡及び硬化)させることによりポリウレタンフォームが形成される。
【0063】
ポリオールとポリイソシアネートとを含むポリウレタンフォーム形成用組成物は、1液組成物であっても2液以上で構成される多液組成物であってもよい。多液組成物は、例えば、ポリオールを含む第1液(例えばポリオール組成物)と、ポリイソシアネートを含む第2液(例えばポリイソシアネート組成物)とを独立して備える2液組成物であってよい。この場合、ポリオールを含む第1液とポリイソシアネートを含む第2液とを混合して反応(発泡及び硬化)させることによりポリウレタンフォームが形成される。環状ホスファゼン化合物(A)は、第1液及び第2液の少なくとも一方に含まれていてよく、第1液及び第2液とは異なる液に含まれていてもよい。すなわち、多液組成物は、上記第1液及び第2液とは別に、環状ホスファゼン化合物(A)を含む第3液を備えていてもよい。
【0064】
上記例の中でも、環状ホスファゼン化合物(A)がポリオール組成物中に含有される場合、すなわち、ポリウレタンフォーム形成用組成物が、ポリオール組成物であるか、又は、環状ホスファゼン化合物(A)を含有するポリオール組成物を備える2液組成物である場合、環状ホスファゼン化合物(A)がポリウレタンフォーム形成用組成物中に均一に分散し易い傾向がある。
【0065】
上記方法で反応させる混合液(ポリオールとポリイソシアネートと環状ホスファゼン化合物(A)とを含む混合液)は、例えば、イソシアネート指数が100~400となるように調製してよい。ここで、イソシアネート指数(NCOインデックス)とは、混合液中に含まれる、活性水素基含有化合物中の全活性水素基のモル数に対する、イソシアネート基含有化合物中の全イソシアネート基(NCO基)のモル数の百分率(NCO基/活性水素基×100)を意味する。活性水素基含有化合物には、ポリオールだけでなく、水も含まれる。イソシアネート指数(NCOインデックス)は、150~300又は180~250であってもよい。
【0066】
反応(発泡及び硬化)は従来公知の方法で行ってよく、例えば、金型内で加熱することにより行ってよい。
【0067】
次に、ポリウレタンフォーム形成用組成物に含まれ得る、環状ホスファゼン化合物(A)以外の成分について説明する。なお、以下で説明する成分は、ポリウレタンフォーム中に含まれていてもよい。
【0068】
[ポリオール]
ポリオールは2以上の水酸基を有する化合物である。ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリプカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。ポリオールは、一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
ポリオールとしては、より高い断熱性能(初期及び長期断熱性)が得られやすくなる観点から、芳香族ポリエステルポリオールが好ましく用いられる。ここで、芳香族ポリエステルポリオールとは、分子内に芳香環を有するポリエステルポリオールであり、例えば、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸並びにこれらの無水物からなる群より選択される少なくとも一種を含む酸成分と、多官能アルコールとの縮重合反応により得られるポリエステルポリオールである。
【0070】
多官能アルコールは、好ましくは分子量500以下の低分子量ポリオールである。多官能アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0071】
芳香族ポリエステルポリオールとしては、より高い断熱性能(初期及び長期断熱性)が得られやすくなる観点から、フタル酸、イソフタル酸若しくはテレフタル酸又はこれらの無水物のうちの少なくとも一種を含む酸成分と、エチレングリコール及びジエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも一種を含む多官能アルコールとの縮重合反応物が好ましく用いられる。
【0072】
ポリオールの数平均分子量は、より高い断熱性能(初期及び長期断熱性)が得られやすくなる観点から、300~1500であってよく、350~1000又は400~700であってもよい。上記ポリオールの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定されるポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0073】
ポリオールの水酸基価は、より高い断熱性能(初期及び長期断熱性)が得られやすくなる観点から、70~800mgKOH/gであってよく、100~650mgKOH/g又は150~450mgKOH/gであってもよい。なお、水酸基価は、JIS K1557-1に準じて測定される値である。
【0074】
[ポリイソシアネート]
ポリイソシアネートは、イソシアネート基を複数有する化合物であり、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート(P-MDI)、MDI又はP-MDIの各種変性体(ウレタン変性体、ウレア変性体、アロファネート変性体、ヌレート変性体、ビュウレット変性体等)などが挙げられる。ポリイソシアネートは一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
[他の成分]
上記ポリウレタンフォーム形成用組成物には、触媒、難燃剤、発泡剤、整泡剤、可塑剤、着色剤等がさらに含有されてよい。
【0076】
触媒としては、本技術分野において公知である各種のウレタン化触媒、イソシアヌレート化触媒等を使用できる。ウレタン化触媒と、イソシアヌレート化触媒とを併用してもよい。
【0077】
ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、1,3,5-トリス(N,N-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,2-ジメチルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ビス(ジメチルアミノプロピル)アミン等のアミン化合物類、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール、N,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N,N-ジイソプロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-メチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノヘキサノール、5-ジメチルアミノ-3-メチル-1-ペンタノール等のアルカノールアミン類などが挙げられる。これらのウレタン化触媒は、一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
イソシアヌレート化触媒としては、例えば4級アンモニウム塩類、炭素数2~12のカルボン酸のアルカリ金属塩、アセチルアセトン、サリチルアルデヒド等のアルカリ金属塩、アミンのルイス酸錯体塩、金属触媒などが挙げられる。これらのイソシアヌレート化触媒は、一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
触媒の配合量(含有量)は、ポリオールとポリイソシアネートの合計量100質量部を基準として、0.1~20質量部であってよい。
【0080】
難燃剤としては、公知の難燃剤を使用できる。難燃剤の具体例としては、トリス(クロロプロピル)ホスフェート等のリン酸エステル類、メトキシフェノキシシクロホスファゼン等のオルガノホスファゼン類などが挙げられる。
【0081】
難燃剤の配合量(含有量)は、ポリオールとポリイソシアネートの合計量100質量部を基準として、0~100質量部であってよい。
【0082】
発泡剤は、例えば水である。水はイソシアネート基との反応で炭酸ガスを発生し、これにより発泡する。発泡剤として、化学発泡剤である水に加えて、物理発泡剤を使用することもできる。物理発泡剤は、炭化水素化合物、HFC類、HFO類、HCFO類等の、従来公知のものが使用できる。これらの物理発泡剤は、一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。発泡剤自体の地球温暖化係数が低くなりやすい観点、及び、高い断熱性能(初期及び長期断熱性)が得られやすくなる観点から、HFO類及びHCFO類からなる群より選択される少なくとも一種と水とを併用することが特に好ましい。
【0083】
化学発泡剤の配合量は、ポリオール及びポリイソシアネートの合計量100質量部を基準として、0.1~10質量部であってよい。物理発泡剤の配合量は、ポリオール及びポリイソシアネートの合計量100質量部を基準として、1~80質量部であってよい。
【0084】
整泡剤としては、本技術分野において公知である整泡剤(例えば硬質ポリウレタンフォーム形成用の整泡剤)を使用できる。整泡剤は、例えば、界面活性剤であり、有機シリコーン系界面活性剤等の非イオン系界面活性剤であってよい。整泡剤は、一種を単独で用いてよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
整泡剤として市販品を使用することもできる。市販品としては、例えば、モーメンティブ社製L5420、L5340、L6188、L6877、L6889、L6900、L6866、L6643、L6978、エボニック社製B8040、B8155、B8239、B8244、B8330、B8443、B8450、B8460、B8462、B8465、B8466、B8467、B8481、B8484、B8485、B8486、B8496、B8870、B8871、ダウ・東レ社製SZ-1328、SZ-1642、SZ-1677、SH-193、エアープロダクツ社製DC-193、DC5598等が挙げられる。
【0086】
整泡剤の配合量は、ポリオール及びポリイソシアネートの合計量100質量部を基準として、0.1~5.0質量部であってよい。
【実施例0087】
以下、本開示の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
H及び31P(H)-NMR測定]
H及び31P(H)-NMRの測定には、AVANCE III HD 400(400MHz;BRUKER製)及び AVANCE III 400(400MHz;BRUKER製)を用いた。H及び31P(H)-NMRは、重クロロホルム(CDCl)を測定溶媒とし、H-NMRは内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)、31P(H)-NMRは外部標準物質として85%リン酸を用いて測定した。また、試薬類は市販品を用いた。
【0089】
[TG/DTA測定]
熱分解温度の測定は、熱重量分析装置(日立ハイテクノロジーズ,TG/DTA-6200)を用いて、乾燥空気雰囲気下での熱重量分析を行った。試料は粉末状の化合物(約5mg)を用いて、30℃から1000℃の温度範囲、及び昇温速度=10℃min-1で測定を行った。
【0090】
<合成例1>
【化15】

ピリジン(500mL)に窒化塩化リン三量体(45.0g,0.13mol)を溶解させ、0℃に冷却した。同温にて、この溶液に3-クロロプロパン-1,2-ジオール(86.0g,0.78mol)を加えた。得られた溶液を室温で24時間攪拌した後、反応溶液中の低沸分を減圧留去し、得られた残渣に1Mの塩酸を加えた。この溶液からクロロホルムを用いて有機層を抽出した。有機層から溶媒を留去した後、ヘキサンを加え、生じた粘稠固体を真空乾燥することにより、無色固体として、上記式(I)で表される環状ホスファゼン化合物(I)を得た。収量は48.7gであり、収率は81%であった。H及び31P(H)-NMR、並びに、5%重量減少温度(Td5)を以下に示す。
H-NMR(CDCl):δ3.66(m,3H),3.77(m,3H),4.28(m,3H),4.50(m,3H),4.74(m,3H).
31P(H)-NMR(CDCl):δ36.1.
Td5=280℃
【0091】
<合成例2>
【化16】

窒化塩化リン三量体の使用量を60.0g(0.17mol)に変更し、ピリジンの使用量を400mLに変更したこと、及び、3-クロロプロパン-1,2-ジオールに代えて1,2-プロパンジオール(59.0g,0.77mol)を使用したこと以外は合成例1と同様の操作を行い、結晶質の固体として、上記式(II)で表される環状ホスファゼン化合物(II)を得た。収量は56.6gであり、収率は92%であった。H及び31P(H)-NMR、並びに、5%重量減少温度(Td5)を以下に示す。
H-NMR(CDCl):δ1.43(brd,J=6.2Hz,9H),3.95(m,3H),4.38(m,3H),4.76(m,3H)
31P-NMR(CDCl):δ35.2.
Td5=240℃
【0092】
<合成例3>
【化17】

窒化塩化リン三量体の使用量を32.0g(0.092mol)に変更し、ピリジンの使用量を400mlに変更したこと、3-クロロプロパン-1,2-ジオールに代えてDL-1,4-ジクロロ-2,3-ブタンジオール(51g,0.32mol)を使用したこと、及び撹拌時間を72時間に変更したこと以外は合成例1と同様の操作を行い、非晶質な無色固体として、上記式(III)で表される環状ホスファゼン化合物(III)を得た。収量は49gであり、収率は87%であった。H及び31P(H)-NMR、並びに、5%重量減少温度(Td5)を以下に示す。
H-NMR(CDCl):δ3.77(m,12H),4.63(m,6H).
31P(H)-NMR(CDCl):δ34.9.
Td5=260℃
【0093】
<合成例4>
【化18】

窒化塩化リン三量体の使用量を50g(0.14mol)に変更し、ピリジンの使用量を400mlに変更したこと、3-クロロプロパン-1,2-ジオールに代えて1,2-ヘキサンジオール(76g,0.65mol)を使用したこと、及び撹拌時間を16時間に変更したこと以外は合成例1と同様の操作を行い、無色粘性液体として、上記式(IV)で表される環状ホスファゼン化合物(IV)を得た。収量は62gであり、収率は89%であった。H及び31P(H)-NMR、並びに、5%重量減少温度(Td5)を以下に示す。
H-NMR(CDCl):δ0.90(brd,9H),1.25-1.49(m,12H),1.59(brd,3H),1.81(brd,3H),3.96(m,3H),4.36(m,3H),4.59(m,3H).
31P(H)-NMR(CDCl):δ35.3.
Td5=140℃
【0094】
<合成例5>
【化19】

窒化塩化リン三量体の使用量を0.7g(2.0mmol)に変更し、ピリジンの使用量を5mlに変更したこと、3-クロロプロパン-1,2-ジオールに代えて2-クロロエタノール(1.1g,14.1mmol)を使用したこと、及び撹拌時間を16時間に変更したこと以外は合成例1と同様の操作を行い、無色粘性液体として、上記式(V)で表される環状ホスファゼン化合物(V)を得た。収量は1.1gであり、収率は90%であった。H及び31P(H)-NMRを以下に示す。
H-NMR(CDCl):δ3.74(m,12H),4.23(m,6H),4.37(m,6H).
31P(H)-NMR(CDCl):δ17.3.
【0095】
<調製例1>
300mLセパラブルフラスコに、ポリオールaとポリオールbとを投入した後、上記合成例1で合成した環状ホスファゼン化合物(I)を投入し、系内の温度を70℃に調整しながら300rpmで30分間撹拌した。これにより、環状ホスファゼン化合物(I)がポリオール(ポリオールaとポリオールbとの混合液)に溶解してなる混合液を得た。次いで、得られた混合液の液温を30℃以下に冷却した後、該混合液に、整泡剤、ウレタン化触媒、三量化触媒、及び、水を加え、15℃~30℃の液温を維持しながら300rpmで5分間撹拌した。これにより、ポリオール組成物(1)を得た。各成分の配合量は表1に記載のとおりであり、使用したポリオールa、ポリオールb、整泡剤及び触媒の詳細は以下のとおりである。なお、表1に示す配合量の単位は質量部である。
・ポリオールa:マキシモールRFK-505(エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル社製、フタル酸系ポリエステルポリオール、水酸基価250mgKOH/g)
・ポリオールb:マキシモールRFK-556(エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル社製、フタル酸系ポリエステルポリオール、水酸基価250mgKOH/g)
・整泡剤:VORASURF SH-193fluid(ダウ・東レ株式会社製)
・ウレタン化触媒:DM70(東ソー株式会社製、イミダゾール系触媒)
・三量化触媒:TOYOCAT TRX (東ソー株式会社製、四級アンモニウム塩)
【0096】
<調製例2>
各成分の配合量を表1に示すように変更したこと以外は、調製例1と同様にしてポリオール組成物(2)を得た。
【0097】
<調製例3>
300mLセパラブルフラスコに、ポリオールa、ポリオールb、整泡剤、ウレタン化触媒、三量化触媒、及び、水を加え、15℃~30℃の液温を維持しながら300rpmで5分間撹拌した。これにより、ポリオール組成物(3)を得た。各成分の配合量は表1に記載のとおりであり、使用したポリオールa、ポリオールb、整泡剤及び触媒の詳細は調製例1と同じである。
【0098】
<調製例4>
環状ホスファゼン化合物(I)に代えて環状ホスファゼン化合物(II)を使用したこと以外は調製例1と同様にしてポリオール組成物(4)を得た。環状ホスファゼン化合物(II)はポリオールに溶解せず、ポリオール組成物(4)は環状ホスファゼン化合物(II)が分散した懸濁液として得られた。
【0099】
<調製例5~7>
環状ホスファゼン化合物(I)に代えて環状ホスファゼン化合物(III)、(IV)又は(V)を使用したこと以外は調製例1と同様にしてポリオール組成物(5)、(6)、及び(7)をそれぞれ得た。
【0100】
【表1】
【0101】
<実施例1>
(硬質ポリウレタンフォームの形成)
まず、蓋を備えたアルミ製モールド(モールド内寸:高さ250mm、幅250mm、厚み50mm)を60℃恒温槽内で温調した。次いで、調製例1で得たポリオール組成物(1)と物理発泡剤であるHFO-1233zd(Solstice LBA、ハネウェル社製)とを、表2に示す質量比率で混合した。次いで、得られた混合液を20℃に温調して500mLのポリプロピレン製のカップに投入し、ここに、別途20℃に温調したポリイソシアネート(ミリオネートMR-200、東ソー株式会社製のポリメリックMDI、NCO含量31質量%)を投入してラボミキサーを用いて6000rpmで3秒間混合した。この際、ポリイソシアネートの投入量は、イソシアネート指数が200となるように調整し、配合成分の全量を基準とする環状ホスファゼン化合物(I)の含有量は5.0質量%とした。次いで、得られた混合液約133g(133±2g)を上記モールド内に投入し、直ちに蓋をして60℃恒温槽内で20分間加熱することで反応させ、発泡及び硬化させた。これにより、直方体状の硬質ポリウレタンフォームを得た。得られた硬質ポリウレタンフォームは、反応終了後直ちに型から取り出し、密度及びコア密度の測定、並びに、熱伝導率評価に使用した。
【0102】
脱型直後の硬質ポリウレタンフォームの質量と寸法を測定し、JIS A9521に従って、硬質ポリウレタンフォームのフォーム密度を算出した。次いで、直ちに6面全てのスキン層を切り落とすことにより、硬質ポリウレタンフォームの中心部からコアパネルを切り出し、コアパネルの質量及び寸法を測定してコア密度を算出した。結果を表2に示す。なお、コアパネルの寸法は、200mm×200mm×14mmであった。
【0103】
<実施例2~3及び比較例1~4>
ポリオール組成物(1)に代えてポリオール組成物(2)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)を用いたことを除き、実施例1と同様にして、実施例2~3及び比較例1~4のポリウレタンフォームをそれぞれ得た。なお、実施例2における配合成分の全量を基準とする環状ホスファゼン化合物(I)の含有量は3.0質量%であり、実施例3及び比較例2~4における配合成分の全量を基準とする環状ホスファゼン化合物(II)~(V)の含有量は5.0質量%であった。
【0104】
<評価>
実施例1~3及び比較例1~4で得られたポリウレタンフォームの熱伝導率の経時測定により、断熱性能の経時変化量を評価した。具体的には、JIS A1412に示される熱流計法により、英弘精機社製オートλHC-074/314を用いて平均温度23℃で、切り出し直後の上記コアパネルの熱伝導率λ(初期値)、及び、保管試験後の上記コアパネルの熱伝導率λを測定した。保管試験は、初期値測定後のコアパネルを23℃/50%R.H.の恒温恒湿室に60日間保管することにより行った。ただし、比較例2で得られたポリウレタンフォームは、保管試験後すぐに熱伝導率が著しく上昇したことから、保管試験開始から12日後に試験を終了した。
【0105】
本試験は、JISA1486に示されるスケーリング係数の考えに基づく促進試験であり、上記14mm厚のコアパネルの60日間経時は、50mm厚のコアパネルの約2年間経時に相当する。結果を表2に示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2中の含有量Cは、硬質ポリウレタンフォームにおける環状ホスファゼン化合物(A)(式(1)で表される構造単位を含む環状ホスファゼン化合物)のポリウレタン樹脂100質量部に対する含有量である。なお、硬質ポリウレタンフォーム中のポリウレタン樹脂の量は、「ポリオール(ポリオールa及びポリオールb)と、ポリイソシアネートと、水の配合質量の合計」から、「水とポリイソシアネートとの反応時に発生する炭酸ガスの質量」を差し引くことにより求めた。