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特開2024-50507低級オレフィン製造用ナフサ、低級オレフィン組成物の製造方法、低級オレフィン組成物、ポリオレフィン系重合体、及び、ナフサの判別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050507
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】低級オレフィン製造用ナフサ、低級オレフィン組成物の製造方法、低級オレフィン組成物、ポリオレフィン系重合体、及び、ナフサの判別方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20240403BHJP
   C07C 4/04 20060101ALI20240403BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20240403BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20240403BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20240403BHJP
   C10G 3/00 20060101ALI20240403BHJP
   C10G 9/36 20060101ALI20240403BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20240403BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240403BHJP
   B82Y 35/00 20110101ALI20240403BHJP
【FI】
C10L1/02
C07C4/04
C07C11/04
C07C11/06
C07C11/167
C10G3/00
C10G9/36
C08F10/00
G01N27/62 V
B82Y35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】35
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168445
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022156620
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊克
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 雄祐
【テーマコード(参考)】
2G041
4H006
4H013
4H129
4J100
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA03
2G041EA06
2G041FA07
2G041FA22
2G041FA23
2G041FA25
2G041JA02
2G041JA16
4H006AA02
4H006AC26
4H013BA02
4H129AA03
4H129BA20
4H129BB03
4H129BC12
4H129CA04
4H129CA30
4H129DA03
4H129FA02
4H129NA26
4H129NA27
4H129NA43
4J100AA02P
4J100AA03P
4J100AA04P
4J100AS02P
(57)【要約】
【課題】ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ない低級オレフィン製造用ナフサを提供する。低級オレフィン製造用ナフサの製造者を、容易かつ確実に判別する方法を提供する。
【解決手段】ナフサを構成する酸素の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下又は炭素の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上である、低級オレフィン製造用ナフサ。ナフサを構成する炭素の炭素安定同位体比δ13C又は酸素の酸素安定同位体比δ18Oを測定することにより、バイオ原料由来のナフサを含むナフサと、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別する、ナフサの判別方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項2】
前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-52.0‰(VSMOW)以上である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項3】
ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項4】
前記ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-24.5‰(VPDB)以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項5】
前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項6】
前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-52.0‰(VSMOW)以上である、請求項5に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項7】
前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項8】
前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-250.0‰(VSMOW)以上である、請求項7に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項9】
前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項10】
前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-250.0‰(VSMOW)以上である、請求項9に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項11】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項12】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項13】
比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項14】
硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である、請求項1に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項15】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項16】
前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項17】
比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項18】
硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である、請求項3に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項19】
前記低級オレフィン製造用ナフサが、ナフサを熱分解して低級オレフィンを製造する工程で用いられる、請求項1~18のいずれか一項に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項20】
前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項21】
前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサの単独物、又は、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物である、請求項20に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【請求項22】
請求項1~18のいずれか1項に記載の低級オレフィン製造用ナフサを分解して、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物を製造する、低級オレフィン組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項1~18のいずれか1項に記載の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物。
【請求項24】
請求項23に記載の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を重合してなる、ポリオレフィン系重合体。
【請求項25】
ナフサを構成する、炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13C及び/又は酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定することにより、バイオ原料由来のナフサを含むナフサと、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別する、ナフサの判別方法。
【請求項26】
少なくとも前記炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定する方法であって、前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)未満である場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、請求項25に記載のナフサの判別方法。
【請求項27】
少なくとも前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定する方法であって、前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、請求項25に記載のナフサの判別方法。
【請求項28】
更に、前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDを測定し、該水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、該水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、請求項25に記載のナフサの判別方法。
【請求項29】
前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-24.5‰(VPDB)以下-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項26に記載のナフサの判別方法。
【請求項30】
前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下-52.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項27に記載のナフサの判別方法。
【請求項31】
前記水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下-250.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項28に記載のナフサの判別方法。
【請求項32】
更に、前記ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素量を測定し、該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項26又は27に記載のナフサの判別方法。
【請求項33】
更に、前記ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量を測定し、該炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項26又は27に記載のナフサの判別方法。
【請求項34】
更に、前記ナフサに含まれる硫黄含有化合物の含有量を測定し、該硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項26又は27に記載のナフサの判別方法。
【請求項35】
更に、前記ナフサの比重を測定し、該ナフサの比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、請求項26又は27に記載のナフサの判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級オレフィンの製造に用いられる低級オレフィン製造用ナフサに関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン製造用ナフサから低級オレフィン組成物を製造する低級オレフィン組成物の製造方法に関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン製造用ナフサから得られる低級オレフィン組成物に関する。
さらに、本発明は、前記低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィンを重合してなるポリオレフィン系重合体に関する。
さらに、本発明は、バイオ原料由来のナフサを含むナフサと、化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別する、ナフサの判別方法に関する。
【0002】
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
低級オレフィンの代表的な製造方法としては、化石燃料由来のナフサ(30~230℃程度の沸点範囲をもつ原油由来の炭化水素混合物)を水蒸気の存在下に熱分解(スチーム・クラッキング)する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
現在工業的に使用されているナフサは、そのほとんどが、石油、石炭、天然ガス等の化石燃料由来の化合物を出発原料として使用して製造された化石燃料由来のナフサである。
化石燃料は、長い年月の間、地中に固定されてきた炭素を含有する。従って、化石燃料由来のナフサを熱分解して、二酸化炭素を大気中に放出することは、地中深くに固定されて大気中には存在していなかった炭素を二酸化炭素として大気中に放出することになり、地球温暖化の要因となりうる。
【0005】
一方で、近年、持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく、化石燃料以外の再生可能な有機資源(植物など)を工業製品の原料に用いる取り組みが行われており、その一つの手段としてバイオマス由来原料の活用が提案されている。
バイオマス由来原料は、地球環境内において循環する二酸化炭素を吸収して、これを有機物に変化させた栄養源により育つ生物(植物、動物)から得られる材料である。従って、バイオマス原料由来のナフサを、原料ナフサとして使用すれば、それを熱分解処理して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素が循環しているので、その二酸化炭素を構成する炭素の総量には変化がない。
【0006】
特に植物は、地球環境内で循環する二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素と水とを原料とする光合成反応を行い、有機体として同化・固定化する生物であることから、炭素源として注目されている。例えば、サトウキビやトウモロコシ等の植物原料から抽出する糖の発酵物又はセルロース発酵物からアルコール成分、特にエチルアルコールを蒸留分離し、その熱分解によりバイオ原料由来のナフサを得ることができる。
そして、このバイオ原料由来のナフサを熱分解することにより低級オレフィンを製造すれば、このバイオ原料由来のナフサを熱分解して二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることはなく、地球温暖化の原因となる事はない。
【0007】
地球環境内で循環する二酸化炭素を構成する炭素は、安定な炭素12(質量数12の炭素)(以下、「12C」という。)、安定同位体(アイソトープ)である炭素13(質量数13の炭素)(以下、「13C」という。)、および同位体(アイソトープ)である放射性の炭素14(質量数14の炭素)(以下、「14C」という。)の混合物であり、その質量比率は、12Cが98.892質量%、13Cが1.108質量%、および14Cが1.2×10-12質量%~1.2×10-10質量%(痕跡量)であることが知られている。安定な炭素である12Cと、安定同位体である13Cとの比率は安定している。
【0008】
地球環境内で循環する二酸化炭素を構成する酸素は、安定な酸素16(質量数16の炭素)(以下、「16O」という。)、安定同位体(アイソトープ)である酸素18(質量数18の酸素)(以下、「18O」という。)、および同位体(アイソトープ)である放射性の酸素17(質量数17の酸素)(以下、「17O」という。)の混合物であり、その質量比率は、16Oが99.76質量%、18Oが0.20質量%、および14Cが0.04質量%であることが知られている。安定な酸素である16Oと、安定同位体である18Oとの比率は安定している。
【0009】
地球環境内で循環する二酸化炭素を絶えず吸収して育つ生物の体を構成する炭素及び/又は酸素は、その生存中、更新され続けるため、地球環境内で循環する二酸化炭素を構成する3種類の炭素同位体及び/又は酸素同位体の質量比率を引き継ぎ続ける。生物が死滅すれば、生物内部における3種類の炭素同位体及び/又は酸素同位体の質量比率は、死滅時点の比率で固定化される。
【0010】
したがって、バイオ原料由来のナフサを構成する炭素における13C及び/又は酸素における18Oの存在比率と、化石燃料由来のナフサを構成する炭素における13C及び/又は酸素における18Oの存在比率とは、優位に差があることが知られており、バイオ原料由来のナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13C及び/又は酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oは、化石燃料由来のナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13C及び/又は酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oよりも大きいことが知られている。即ち、入手したナフサに含有される炭素における炭素安定同位体比δ13C及び/又は酸素における酸素安定同位体比δ18Oを測定すれば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを区別すること、さらには、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別すること、が可能である。
【0011】
ところで、ナフサを熱分解して得られた低級オレフィンの用途としては、エチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)から選択される少なくとも1種に由来する構造単位を有する重合体、及び該重合体を用いて製造された成形品が挙げられ、近年需要が拡大し続けている。
このような低級オレフィン重合体の製造において、以下の問題がある。
即ち、ナフサには、含酸素化合物が含まれており、ナフサを熱分解して各種低級オレフィンを製造する際、含酸素化合物の熱分解物に由来してメタノールが生成する場合がある。
含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールは、プロピレン等の製品低級オレフィンに混入すると、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能を低下させる。
【0012】
一方で、スチーム・クラッキング法では、一度原料ナフサが選定されると、その原料ナフサの組成や性状、製品の要求に応じて、基本的に固有の熱分解条件と固有の熱分解装置が必要となる。このため、原料ナフサ及び製品の選択性が乏しく、融通性に欠けるという難点がある。
【0013】
すなわち、バイオ原料由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと、組成や性状が異なることから、既存の熱分解装置を用いてバイオマス由来のナフサの単独物、又はバイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物をスチーム・クラッキング法で熱分解する場合、エネルギー原単位を改善する等の観点から、低級オレフィンの製造収率を向上することが要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009-40913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
低級オレフィン製造用ナフサとして、バイオ原料由来のナフサを含むナフサを用いることで、低級オレフィンを高収率で製造することができれば、ナフサ分解プロセスにおいて、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることがないか、或いは、その増加量を抑えることができることから、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を図った上で、低級オレフィン製造効率を高めることができる。
【0016】
一方で、低級オレフィンの製造に使用されるナフサは、ナフサ分解メーカー(ナフサクラッカー)において熱分解され、低級オレフィン組成物、具体的には、低級オレフィンとして、エチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)を含む組成物が製造される。
ナフサの分解で得られた組成物中の低級オレフィンを重合して低級オレフィン重合体を製造する際、前述の通り、低級オレフィン組成物の品質に起因して、触媒性能の低下を生じる問題がある。
その場合、その問題の原因であるナフサが、自社で製造されたものであるか又は他社で製造されたものであるか、或いはそのナフサの原料や出所はどうであるか、を特定することが必要となる。しかしながら、従来公知の技術では、問題の発生した末端商品に用いられたナフサを分析することによって、そのナフサの製造者、或いはそのナフサの出所ないしはナフサ原料を特定することは非常に困難であった。そのため、市場において問題の発生した末端商品について、用いられたナフサの製造者や出所等を、容易かつ確実に判別する方法が求められていた。
【0017】
そこで、本発明は、第一に、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ない低級オレフィン製造用ナフサを提供することを目的とする。
また、本発明は、第二に、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別するとともに、低級オレフィン製造用ナフサの製造者や出所等を、容易かつ確実に判別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、低級オレフィン製造用ナフサの酸素安定同位体比δ18O又は炭素安定同位体比δ13Cを分析すること、若しくは、炭素安定同位体比δ13C及び/又は酸素安定同位体比δ18Oと、水素安定同位体比δDを分析することにより、この分析結果から、ナフサ分解プロセスで二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少なく、かつ低級オレフィンを高収率で製造することができる低級オレフィン製造用ナフサを提供することができること、また、この分析結果から、バイオ原料由来のナフサを含むナフサと、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別することができ、さらに、低級オレフィン製造用ナフサの製造者や出所等を、容易かつ確実に判別することができるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0019】
[1] ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【0020】
[2] 前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-52.0‰(VSMOW)以上である、[1]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0021】
[3] ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上である、低級オレフィン製造用ナフサ。
【0022】
[4] 前記ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-24.5‰(VPDB)以下である、[3]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0023】
[5] 前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である、[3]又は[4]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0024】
[6] 前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-52.0‰(VSMOW)以上である、[3]~[5]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0025】
[7] 前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0026】
[8] 前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-250.0‰(VSMOW)以上である、[7]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0027】
[9] 前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)以下である、[3]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0028】
[10] 前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDが-250.0‰(VSMOW)以上である、[9]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0029】
[11] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である、[1]又は[2]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0030】
[12] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である、[1]、[2]又は[11]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0031】
[13] 比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である、[1]、[2]、[11]又は[12]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0032】
[14] 硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である、[1]、[2]、[11]、[12]又は[13]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0033】
[15] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である、[3]~[10]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0034】
[16] 前記低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である、[3]~[10]のいずれか又は[15]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0035】
[17] 比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である、[3]~[10]のいずれか、[15]又は[16]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0036】
[18] 硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である、[3]~[10]のいずれか又は[15]~[17]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0037】
[19] 前記低級オレフィン製造用ナフサが、ナフサを熱分解して低級オレフィンを製造する工程で用いられる、[1]~[18]のいずれか一項に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0038】
[20] 前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサを含む、[1]~[19]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0039】
[21] 前記低級オレフィン製造用ナフサが、バイオ原料由来のナフサの単独物、又は、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物である、[20]に記載の低級オレフィン製造用ナフサ。
【0040】
[22] [1]~[21]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサを分解して、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物を製造する、低級オレフィン組成物の製造方法。
【0041】
[23] [1]~[21]のいずれかに記載の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物。
【0042】
[24] [23]に記載の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を重合してなる、ポリオレフィン系重合体。
【0043】
[25] ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)及び/又は酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定することにより、バイオ原料由来のナフサを含むナフサと、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別する、ナフサの判別方法。
【0044】
[26] 少なくとも前記炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定する方法であって、前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)未満である場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、[25]に記載のナフサの判別方法。
【0045】
[27] 少なくとも前記ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定する方法であって、前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、[25]又は[26]に記載のナフサの判別方法。
【0046】
[28] 更に、前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDを測定し、該水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、該水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する、[25]~[27]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0047】
[29] 前記炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-24.5‰(VPDB)以下-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[28]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0048】
[30] 前記酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下-52.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[29]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0049】
[31] 前記水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下-250.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[28]~[30]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0050】
[32] 更に、前記ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素量を測定し、該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[31]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0051】
[33] 更に、前記ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量を測定し、該炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[32]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0052】
[34] 更に、前記ナフサに含まれる硫黄含有化合物の含有量を測定し、該硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[33]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【0053】
[35] 更に、前記ナフサの比重を測定し、該ナフサの比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する、[25]~[34]のいずれかに記載のナフサの判別方法。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、第一に、低級オレフィン製造のためのナフサ分解プロセスにおいて二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少なく、しかも低級オレフィンを高収率で製造することができる低級オレフィン製造用ナフサを提供することができる。
また、本発明によれば、第二に、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別するとともに、低級オレフィン製造用ナフサの製造者ないしはその原料や出所を、容易かつ確実に判別する方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、ナフサの熱分解による低級オレフィン製造時にメタノール生成量の少ない良質な低級オレフィン製造用ナフサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0056】
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0057】
[低級オレフィン]
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン及びイソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
【0058】
[バイオ原料由来のナフサ・化石燃料由来のナフサ]
本発明において、バイオ原料由来のナフサとは、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである。
本発明において、非可食性バイオマスとは、非可食性の草や樹木を原料とした資源のことをいう。具体的には、針葉樹や広葉樹などの木質系バイオマスから得られるセルロース、ヘミセルロース、リグニン等や、トウモロコシやサトウキビの茎、ダイズやナタネなどの草本系バイオマスから得られるバイオエタノールやバイオディーゼル、植物由来の廃油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、非化石燃料とは、例えば、水素、又は、化石燃料や非可食性バイオマスに由来しない動植物由来の有機物のことをいう。具体的には、薪、炭、乾燥した家畜糞等から得られる、メタン、糖エタノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明において、化石燃料由来のナフサとは、石油由来のナフサ、石炭由来のナフサ、天然ガス由来のナフサから選ばれる少なくとも1種のことをいう。
【0059】
[メカニズム]
バイオ(植物)原料由来の有機物質と化石燃料由来の有機物質との区別については、米国国立標準局(NIST)による、ASTMD6866が知られている。ASTMD6866は、放射性炭素年代測定法を利用した固体・液体・気体試料中の生物起源炭素濃度を決定するASTM(米国材料試験協会;AmericanSocietyforTestingandMaterials)の標準規格で、現在有効な標準規格のバージョンは、2020年2月に施行されたASTMD6866-20である。この方法により、バイオ原料由来のナフサと、バイオ原料由来のナフサを含まない化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとの判別が可能である。
【0060】
即ち、前述の通り、バイオ原料由来のナフサを構成する炭素における13Cの存在比率と、化石燃料由来のナフサを構成する炭素における13Cの存在比率とは、優位に差があり、バイオ原料由来のナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cは、化石燃料由来のナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cよりも大きいことが知られている。即ち、入手したナフサに含有される炭素における炭素安定同位体比δ13Cを測定すれば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを区別すること、さらには、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別すること、が可能である。
【0061】
同様に、地球環境内に存在する酸素には、安定な酸素16(質量数16の酸素)(以下、「16O」という。)と、安定同位体(アイソトープ)である酸素18(質量数18の酸素)(以下、「18O」という。)及び酸素17(質量数17の酸素)(以下、「17O」という。)、並びに、放射性同位体である酸素13(質量数13の酸素)及び酸素14(質量数14の酸素)等があるが、バイオ原料由来のナフサを構成する酸素における18Oの存在比率と、化石燃料由来のナフサを構成する酸素における18Oの存在比率とは、優位に差があり、バイオ原料由来のナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oは、化石燃料由来のナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oよりも小さい。即ち、入手したナフサに含有される酸素における酸素安定同位体比δ18Oを測定すれば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを区別すること、さらには、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別すること、が可能である。
【0062】
更に、地球環境内に存在する水素には、安定な水素1(質量数1の水素)(以下、「H」という。)と安定同位体(アイソトープ)である水素2(質量数2の水素)即ち、重水素(以下、「D」又は「H」という。)と放射性同位体である水素3(質量数3の水素)(以下、「H」という。)があるが、バイオ原料由来のナフサを構成する水素におけるDの存在比率と、化石燃料由来のナフサを構成する水素におけるDの存在比率とは、優位に差があり、バイオ原料由来のナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDは、化石燃料由来のナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDよりも小さい。即ち、入手したナフサに含有される水素における水素安定同位体比δDを測定すれば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを区別すること、さらには、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサとを判別すること、が可能である。
【0063】
本発明では、このような原理を利用して炭素安定同位体比δ13C、及び/又は、酸素安定同位体比δ18O、更には水素安定同位体比δDから、バイオ原料由来のナフサを含む低級オレフィン製造用ナフサを選別し、或いはバイオ原料由来のナフサの含有の有無を分析して低級オレフィン製造用ナフサの製造者や低級オレフィン製造用ナフサの原料、出所を判別する。
なお、炭素安定同位体比δ13C、酸素安定同位体比δ18O、水素安定同位体比δDの測定方法の詳細は、後掲の実施例の項に記載の通りである。
【0064】
[低級オレフィン製造用ナフサ]
本発明の第1の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、低級オレフィンの製造に用いられる原料ナフサであって、ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oの上限が-30.0‰(VSMOW)以下であることを特徴とするものである。
このような低級オレフィン製造用ナフサは、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないため、低級オレフィンとして特にプロピレンの製造に好適である。
【0065】
本発明の第1の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサにおいて、酸素安定同位体比δ18Oの下限は、特に限定されるものではなく、-52.0‰(VSMOW)以上であることが好ましい。
【0066】
更に、本発明の第1の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、必要に応じて、以下の要件から選択される少なくとも1つを満たすことが好ましい。
・ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cの下限が-26.5‰(VPDB)以上で、上限が-24.5‰(VPDB)以下。
・ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDの上限が-145.0‰(VSMOW)以下で、下限が-250.0‰(VSMOW)以上。
・ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上で、上限が42.0質量%以下。
・ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量の下限が80.0g/mol以上で、上限が87.0g/mol以下。
・ナフサの比重の下限が0.6640g/cm以上で、上限が0.6695g/cm以下。
・ナフサの硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で、下限が3質量ppm以上で、上限が180質量ppm以下。
【0067】
本発明の第2の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、低級オレフィンの製造に用いられる原料ナフサであって、ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cの下限が-26.5‰(VPDB)以上であることを特徴とするものである。
このような低級オレフィン製造用ナフサは、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない、あるいは増加量が少ないため、低級オレフィンとして特にプロピレンの製造に好適である。
【0068】
本発明の第2の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサにおいて、炭素安定同位体比δ13Cの上限は、特に限定されるものではなく、-24.5‰(VPDB)以下であることが好ましい。
【0069】
更に、本発明の第2の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、必要に応じて、以下の要件から選択される少なくとも1つを満たすことが好ましい。
・ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oの上限が-30.0‰(VSMOW)以下で、下限が-52.0‰(VSMOW)以上。
・ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDの上限が-145.0‰(VSMOW)以下で、下限が-250.0‰(VSMOW)以上。
・ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上で、上限が42.0質量%以下。
・ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量の下限が80.0g/mol以上で、上限が87.0g/mol以下。
・ナフサの比重の下限が0.6640g/cm以上で、上限が0.6695g/cm以下。
・ナフサの硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で、下限が3質量ppm以上、上限が180質量ppm以下。
【0070】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサの好適物性については、後述する。
【0071】
[ナフサの判別方法]
本発明の第3の実施形態であるナフサの判別方法は、ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13C及び/又はナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定することにより、バイオ原料由来のナフサを含むナフサ、即ち、バイオ原料由来のナフサの単独物、又は、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であるか、或いは、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであるかを判別する方法である。
なお、本発明において、「実質的に化石燃料由来のナフサのみを含む」とは、意図的にバイオ原料由来のナフサを混合していないことを意味し、不純物等として不可逆的に微量のバイオ原料由来のナフサを含むものは許容される。「実質的にバイオ原料由来のナフサのみを含むナフサ」についても同様である。
【0072】
本発明の第3の実施形態であるナフサの判別方法において、具体的には、以下の(1)~(7)の方法でナフサの判別を行うことができる。
(1) ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定し、炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-26.5‰(VPDB)未満である場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。
また、炭素安定同位体比δ13Cの測定値が-24.5‰(VPDB)以下-26.5‰(VPDB)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(2) ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定し、酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。
また、酸素安定同位体比δ18Oの測定値が-30.0‰(VSMOW)以下-52.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(3) 前記ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDを測定し、水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含有するナフサであると判別し、水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)を超える場合に、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。
また、水素安定同位体比δDの測定値が-145.0‰(VSMOW)以下-250.0‰(VSMOW)以上である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(4) ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素量を測定し、該炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(5) ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量を測定し、炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上87.0g/mol以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(6) ナフサに含まれる硫黄含有化合物の含有量を測定し、硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
(7) ナフサの比重を測定し、ナフサの比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別する。
【0073】
なお、上記判別基準については後述する。
【0074】
ナフサ供給者又はナフサを入手して熱分解する者が、生産ラインごとに、使用するナフサの、バイオ原料由来のナフサ単独の種類、もしくは、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとの混合比率又は2種以上のバイオ原料由来のナフサの混合比率を変えれば、消費者市場で入手できるナフサを、本発明のナフサの判別方法に従って、分析することにより、当該ナフサの出所、即ち、どのナフサ供給者のどの生産ラインで生産されたものかを特定することが可能となる。
【0075】
[炭素安定同位体比δ13C・酸素安定同位体比δ18O・水素安定同位体比δDの測定方法]
炭素、酸素及び水素の安定同位体の測定に際しては、質量分析計を用いて13C/12C、18O/16OおよびD/H(H/H)が測定される。
13C/12Cの存在比は0.0112(=1.106%/98.894%)、18O/16Oの存在比は0.0020(=0.204%/99.762%)、D/Hの存在比は0.00016(=0.016%/99.984%)と小さい。また、天然中に存在する水の同位体比の差はさらに微小である。
このため、本発明において、炭素、酸素及び水素の安定同位体の同位体比は、同位体比そのものの値ではなく、標準物質に対する偏差(σ値)で表される。
【0076】
<炭素安定同位体比δ13C>
本発明における13Cの炭素安定同位体比δ13C(以下、「δ13C」ということがある。)とは、自然界に存在する炭素原子の3種類の同位体(存在比12C:13C:14C=98.9:1.11:1.2×10-12、単位;%)のうち、12Cに対する13Cの割合をいい、炭素安定同位体比は、標準物質に対する偏差で表され、以下の式で定義される値(δ値)をいう。
δ13C(‰)=([13C/12C](sample)/[13C/12C](VPDB)-1)×1,000
ここで、[13C/12C](sample)は、測定対象のサンプルの安定同位体比を表し、[13C/12C](VPDB)は標準物質の安定同位体比を表す。 PDBは、「PeeDeeBelemnite」の略称であり、炭酸カルシウムからなる矢石類の化石(標準物質としては南カロリナ州のPeeDee層から出土した矢石類の化石)を意味し、13C/12C比の標準物質(標準体)として用いられる。すなわち矢石類の化石の炭素安定同位体比δ13Cは、0‰となる。
また、「炭素安定同位体比δ13C」は加速器質量分析法によって測定される。
なお、上述した標準物質は希少なため、標準物質に対する安定同位体比が既知であり、該標準物質に換算可能である参照標準試料を利用することもできる。
【0077】
<酸素安定同位体比δ18O>
本発明における18Oの酸素安定同位体比δ18O(以下、「δ18O」ということがある。)とは、自然界に存在する酸素原子の3種類の同位体(存在比16O:17O:18O=99.76:0.04:0.20、単位;%)のうち、16Oに対する18Oの割合をいい、酸素安定同位体比は、標準物質に対する偏差で表され、以下の式で定義される値(δ値)をいう。
δ18O(‰)=([18O/16O](sample)/[18O/16O](VSMOW)-1)×1,000
ここで、[18O/16O](sample)は、測定対象のサンプルの安定同位体比を表し、[18O/16O](VSMOW)は標準物質の安定同位体比を表す。 SMOWは、「StandardMeanOceanWater」の略称であり、世界共通の標準海水であり、18O/16O比の標準物質(標準体)として用いられる。すなわち海水の酸素安定同位体比δ18Oは、0‰となる。
なお、上述した標準物質は希少なため、標準物質に対する安定同位体比が既知であり、該標準物質に換算可能である参照標準試料を利用することもできる。
【0078】
<水素安定同位体比δD>
本発明における重水素(D又はH)の水素安定同位体比δD(以下、「δD」ということがある。)とは、自然界に存在する水素原子の2種類の同位体(存在比H:D=99.985:0.015単位;%)のうち、Hに対するDの割合をいい、水素安定同位体比は、標準物質に対する偏差で表され、以下の式で定義される値(δ値)をいう。
δD(‰)=([D/H](sample)/[D/H](VSMOW)-1)×1,000
ここで、[D/H](sample)は、測定対象のサンプルの安定同位体比を表し、[D/H](VSMOW)は標準物質の安定同位体比を表す。 SMOWは、「StandardMeanOceanWater」の略称であり、世界共通の標準海水であり、D/H比の標準物質(標準体)として用いられる。すなわち海水の水素安定同位体比δDは、0‰となる。
なお、上述した標準物質は希少なため、標準物質に対する安定同位体比が既知であり、該標準物質に換算可能である参照標準試料を利用することもできる。
【0079】
また、上述した「炭素安定同位体比δ13C」の算出に用いられる[13C/12C]、「酸素安定同位体比δ18O」の算出に用いられる[18O/16O]、及び「水素安定同位体比δD」の算出に用いられる[D/H]の測定は、公知の同位体比分析方法を用いることができ、常法に従い、質量分析法を用いて質量電荷比に応じた分離・検出を行い、各同位体の存在量を計測して行うことによって測定される。
質量分離の方法は、測定試料に応じて、磁場型、四重極型、飛行時間型、イオントラップ型等のいずれの方法か選択でき、イオン化の方法は、電子イオン化法、化学イオン化法、脱離電子イオン化法、脱離化学イオン化法、高速原子衝撃法、エレクトロスプレーイオン化法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法等の公知の方法を用いることができる。
ナフサ試料の、[13C/12C]、[18O/16O]及び[D/H]を測定する場合は、当該試料を公知の手段を用いて燃焼、熱分解し、ガス化して質量分析に供して測定できるが、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフ等の精製装置、燃焼炉や熱分解炉や還元炉等の処理装置を組み合せた質量分析装置を用いて行うこともできる。例えば、当該試料をガス化して測定する有機元素分析計を質量分析装置の前段に接続した装置を用いて測定でき、このような、装置は、例えばガスクロマトグラフ/同位体比質量分析計(GC/IRMS)、元素分析/同位体比質量分析計(EA/IRMS)として、オンラインで測定する分析システムとして入手できる。
【0080】
[低級オレフィン製造用ナフサの好適物性・判別基準]
<炭素安定同位体比δ13C>
本発明の第2の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、該ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cの下限が-26.5‰(VPDB)以上であり、δ13Cは、-26.0‰以上であることが好ましく、-25.5‰以上であることがより好ましい。一方、δ13Cの上限は、特に限定されないが、-24.5‰(VPDB)以下とすることができ、-24.7‰以下であることが好ましく、-25.0‰以下であることがより好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて炭素安定同位体比δ13Cが上記範囲であることは、低級オレフィン製造用ナフサに含まれるナフサとしてバイオ原料由来のナフサが使用されたことを示しており、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない観点から好ましい。
【0081】
バイオ原料由来のナフサのδ13Cは、一般的に約-27.0‰(VPDB)~約-20.0‰(VPDB)の範囲であり、これらのバイオ原料由来のナフサを低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして、必要により本発明の効果を妨げない範囲で化石燃料由来のナフサを混合して用いることができる。
【0082】
また、本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、δ13Cが上記範囲内にある限りにおいて、異なるδ13Cを有するナフサを混合して用いてもよい。
【0083】
例えば、ある出所のバイオ原料由来のナフサのみを用いて特定のδ13Cを示すナフサを得るだけでなく、異なるδ13Cを有するナフサを混合して所定のδ13Cを有するナフサ、即ち、ある出所のナフサ単独では達成し得ない、特定のδ13Cを有するナフサとすることで、本発明に従ってナフサの判別を行う際に、得られるナフサの判別精度をさらに高めることができる。即ち、異なるδ13Cのナフサを混合した混合ナフサの炭素安定同位体比δ13Cは、当該混合ナフサに固有の分析値を有するため、他のナフサと区別することができ、同定、追跡が容易となる。
【0084】
さらに、原料ナフサの炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することにより、当該原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサ、又は、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサのいずれであるかを判別することができる。より具体的には、炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上である場合に、原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別し、前記炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)未満である場合に、原料ナフサが実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。また、前述の通り、バイオ原料由来のナフサの炭素安定同位体比δ13Cは約-27.0‰(VPDB)~約-20.0‰(VPDB)であることから、δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上であって、-24.5‰(VPDB)以下のものは、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別することができる。従って、炭素安定同位体比δ13Cが-24.5‰(VPDB)を超えるものは、実質的にバイオ原料由来のナフサの単独物と判別できる。
このように原料ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cを測定することで、より高い精度で、ナフサの判別を行うことができる。
【0085】
<酸素安定同位体比δ18O>
本発明の第1の実施形態である低級オレフィン製造用ナフサは、該ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oの上限が、-30.0‰(VSMOW)以下であり、-32.0‰以下であることが好ましく、-35.0‰以下であることがより好ましい。一方、δ18Oの下限は、特に限定されるものではないが、-52.0‰(VSMOW)以上とすることができ、-50.0‰以上であることがより好ましく、-45.0‰以上であることが更に好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて酸素安定同位体比δ18Oが上記範囲であることは、低級オレフィン製造用ナフサに含まれるナフサとしてバイオ原料由来のナフサが使用されたことを示しており、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない観点から好ましい。
【0086】
バイオ原料由来のナフサのδ18Oは、一般的には約-60.0‰(VSMOW)~約-29.0‰(VSMOW)の範囲であり、これらのバイオ原料由来のナフサを低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして、必要により本発明の効果を妨げない範囲で化石燃料由来のナフサを混合して用いることができる。
【0087】
また、本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、δ18Oが上記範囲内にある限りにおいて、異なるδ18Oを有するナフサを混合して用いてもよい。
【0088】
例えば、ある出所のバイオ原料由来のナフサのみを用いて特定のδ18Oを示すナフサを得るだけでなく、異なるδ18Oを有するナフサを混合して所定のδ18Oを有するナフサ、即ち、ある出所のナフサ単独では達成し得ない、特定のδ18Oを有するナフサとすることで、本発明に従ってナフサの判別を行う際に、得られるナフサの判別精度をさらに高めることができる。即ち、異なるδ18Oのナフサを混合した混合ナフサの酸素安定同位体比δ18Oは、当該混合ナフサに固有の分析値を有するため、他のナフサと区別することができ、同定、追跡が容易となる。
【0089】
さらに、原料ナフサの酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定することにより、当該原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサ、又は、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサのいずれであるかを判別することができる。より具体的には、酸素18の(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である場合に、原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別し、前記酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)を超える場合に、原料ナフサが実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。また、前述の通り、バイオ原料由来のナフサの酸素安定同位体比δ18Oは約-60.0‰(VSMOW)~約-29.0‰(VSMOW)であることから、δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下であって、-52.0‰(VSMOW)以上のものは、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別することができる。従って、酸素安定同位体比δ18Oが-52.0‰(VSMOW)未満のものは、実質的にバイオ原料由来のナフサの単独物と判別できる。
このように、原料ナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oを測定することで、より高い精度で、ナフサの判別を行うことができる。
【0090】
<水素安定同位体比δD>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、該ナフサを構成する重水素(D)の水素安定同位体比δDは、特に限定されるものではないが、上限が-145.0‰(VSMOW)以下であることが好ましく、δDは、-150.0‰以下であることがより好ましく、-155.0‰以下であることが更に好ましい。一方、δDの下限は、特に限定されるものではないが、-250.0‰(VSMOW)以上とすることができ、-230.0‰以上であることがより好ましく、-200.0‰以上であることが更に好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて水素安定同位体比δDが上記範囲であることは、低級オレフィン製造用ナフサに含まれるナフサとしてバイオ原料由来のナフサが使用されたことを示しており、ナフサ分解プロセスに供した際に、低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させない観点から好ましい。
【0091】
バイオ原料由来のナフサのδDは、一般的に約-300.0‰(VSMOW)~約-145.0‰(VSMOW)の範囲であり、これらのバイオ原料由来のナフサを低級オレフィンの製造に用いる原料ナフサとして、必要により本発明の効果を妨げない範囲で化石燃料由来のナフサを混合して用いることができる。
【0092】
また、本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、δDが上記範囲内にある限りにおいて、異なるδDを有するナフサを混合して用いてもよい。
【0093】
例えば、ある出所のバイオ原料由来のナフサのみを用いて特定のδDを示すナフサを得るだけでなく、異なるδDを有するナフサを混合して所定のδDを有するナフサ、即ち、ある出所のナフサ単独では達成し得ない、特定のδDを有するナフサとすることで、本発明に従ってナフサの判別を行う際に、得られるナフサの判別精度をさらに高めることができる。即ち、異なるδDのナフサを混合した混合ナフサの炭素安定同位体比δDは、当該混合ナフサに固有の分析値を有するため、他のナフサと区別することができ、同定、追跡が容易となる。
【0094】
さらに、原料ナフサの重水素(D)の水素安定同位体比δDを測定することにより、当該原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサ、又は、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサのいずれであるかを判別することができる。より具体的には、重水素(D)の水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)以下である場合に、原料ナフサがバイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別し、前記水素安定同位体比δDが-145.0‰(VSMOW)を超える場合に、原料ナフサが実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別する。また、前述の通り、バイオ原料由来のナフサの水素安定同位体比δDは約-300.0‰(VSMOW)~約-145.0‰(VSMOW)であることから、δDが-145.0‰(VSMOW)以下であって、-250.0‰(VSMOW)以上のものは、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物であると判別することができる。従って、水素安定同位体比δDが-250.0‰(VSMOW)未満のものは、実質的にバイオ原料由来のナフサの単独物と判別できる。
このように、原料ナフサを構成する水素中の重水素(D)の水素安定同位体比δDを測定することで、より高い精度で、ナフサの判別を行うことができる。
【0095】
<炭素数7以上の炭化水素>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限は、特に限定されるものではないが、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上42.0質量%以下であることが好ましい。
炭素数7以上の炭化水素は、主としてバイオ原料由来のナフサに含まれるエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素類、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルデカン等の脂肪族炭化水素類、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のナフテン類等である。これらの炭化水素類の炭素数の上限は、通常は15以下である。
【0096】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、これらの炭素数7以上の炭化水素の1種のみを含有するものであってもよく、2種以上を含有するものであってもよい。
【0097】
これらの炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該低級オレフィン製造用ナフサの総質量100%に対して14.0質量%以上であれば、低級オレフィン組成物を高収率で製造することができる。
この観点から、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限は、好ましくは14.0質量%以上であり、16.0質量%がより好ましく、18.0質量%以上が更に好ましく、20.0質量%以上が特に好ましい。一方で、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下するという問題がある点から、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の上限は、42.0質量%以下が好ましく、38.0質量%以下がより好ましく、35.0質量%以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、14.0質量%以上42.0質量%以下が好ましく、16.0質量%以上38.0質量%以下がより好ましく、18.0質量%以上35.0質量%以下がさらに好ましく、20.0質量%以上35.0質量%以下が特に好ましい。
【0098】
低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0099】
前述の通り、低級オレフィン製造用ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素は、主としてバイオ原料由来のナフサに含まれるエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素類、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルデカン等の脂肪族炭化水素類、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のナフテン類等であることから、これらが多いことは、バイオ原料由来のナフサを多く含むナフサであると判定できる。
本発明のナフサの判定方法では、炭素数7以上の炭化水素の含有割合がナフサの総質量100%に対して14.0質量%以上である場合には、バイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別することができる。換言すれば、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が14.0質量%未満のナフサは、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサと判別することができる。
特に、炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、ナフサの総質量100%に対して42質量%を超える場合には、実質的にバイオ原料由来のナフサのみよりなるナフサであると判別することができる。
【0100】
<炭化水素の平均分子量>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含まれる炭化水素の平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、ナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合におけると同様の理由から、80.0g/mol以上87.0g/mol以下であることが好ましい。
【0101】
本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造する観点から、80.0g/mol以上が好ましく、81.5g/mol以上がより好ましく、83.0g/molがさらに好ましい。一方、前記平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下する傾向があることから、87.0g/mol以下が好ましく、86.5g/mol以下がより好ましく、86.0g/mol以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、特に限定されるものではないが、80.0g/mol以上87.0g/mol以下が好ましく、81.5g/mol以上86.5g/mol以下がより好ましく、83.0g/mol以上86.0g/mol以下がさらに好ましい。
【0102】
なお、低級オレフィン製造用ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0103】
前述の通り、炭素数が多く、分子量の大きい炭化水素は、主としてバイオ原料由来のナフサに含まれる炭化水素類であることから、ナフサ中の炭化水素の平均分子量が大きいことは、バイオ原料由来のナフサを多く含むナフサであると判定できる。
本発明のナフサの判定方法では、ナフサ中の炭化水素の平均分子量が80.0g/mol以上である場合には、バイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別することができる。換言すれば、ナフサ中の炭化水素の平均炭素数が80.0g/mol未満のものは、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサと判別することができる。
特にナフサ中の炭化水素の平均炭素数が87.0g/mol、特に88.0g/molを超えるものは、実質的にバイオ原料由来のナフサのみよりなるナフサであると判別することができる。
【0104】
<硫黄含有化合物>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサに含まれる硫黄含有化合物の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、硫黄原子換算で3質量ppm以上180質量ppm以下であることが好ましい。
ナフサには、通常、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、チオール化合物等の硫黄含有化合物が含有されている。本発明の低級オレフィン製造用ナフサにおいて、硫黄含有化合物の含有量の上限は、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できる観点から、硫黄原子換算で180質量ppm以下が好ましく、150質量ppm以下がより好ましい。硫黄含有化合物の含有量は少ない程好ましく、その下限には特に制限はないが、前記硫黄含有化合物を低減するための製造コストの観点から、通常は1質量ppm以上であり、好ましくは3質量ppm以上、より好ましくは5質量ppm以上である。
硫黄含有化合物の含有量が少ないほど、低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できる理由は、定かではないが、硫黄含有化合物が副反応を促進するためと推察される。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの硫黄含有化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、硫黄原子換算で1質量ppm以上180質量ppmが好ましく、3質量ppm以上180質量ppm以下がより好ましく、5質量ppm以上150質量ppm以下がさらに好ましい。
【0105】
上記ジスルフィド化合物としては、具体的にはジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド等が挙げられる。
また、スルフィド化合物としては、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド等が挙げられる。
また、チオール化合物としては、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール等の炭素数2~10のチオール化合物が挙げられる。
低級オレフィン製造用ナフサ中には、これらの硫黄含有化合物の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0106】
低級オレフィン製造用ナフサ中の硫黄含有化合物含有量は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0107】
ナフサ中の硫黄含有化合物は、主として化石燃料由来のナフサに由来するものが多いことから、本発明のナフサの判別方法においては、硫黄含有化合物含有量が少なく、硫黄原子換算で180質量ppm以下である場合に、バイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別することができる。換言すれば、ナフサ中の硫黄含有化合物の含有量が硫黄原子換算で180質量ppmを超えるものは、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサと判別することができる。
特にナフサ中の硫黄含有化合物の含有量が硫黄原子換算で1質量ppm以下のものは、実質的にバイオ原料由来のナフサのみよりなるナフサであると判別することができる。
【0108】
<比重>
本発明の低級オレフィン製造用ナフサの比重は、特に限定されるものではないが、ナフサ密度とナフサの組成には相関関係があることが知られており、低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できることから、0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下であることが好ましく、0.6650g/cm以上0.6695g/cm以下であることがより好ましい。
低級オレフィン製造用ナフサの比重が前記数値範囲内にあれば、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できる理由は、定かではないが、ナフサ密度が高いほど、ナフサ中に含まれる炭化水素の炭素数が増加する傾向にあり、その結果ナフサがオレフィンに効率的に分解されるためと推察される。
ナフサの比重は、JIS K2249-1:2011を用いて測定できる。
【0109】
一般に、バイオ原料由来のナフサの比重は、約0.6700g/cm以上0.8000g/cm以下であり、化石燃料由来のナフサの比重は、約0.6400g/cm以上0.6690g/cm以下であることから、本発明のナフサの判別方法において、ナフサの比重が0.6640g/cm以上である場合に、バイオ原料由来のナフサを含むナフサであると判別することができる。
換言すれば、ナフサの比重が0.6640g/cm未満である場合、実質的に化石燃料由来のナフサのみを含むナフサであると判別することができる。
特に、ナフサの比重が0.6700g/cm以上0.8000g/cm以下の場合、実質的にバイオ原料由来のナフサのみを含むナフサであると判別することができる。
また、ナフサの比重が0.6640g/cm以上0.6695g/cm以下の場合、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物と判別することができる。
【0110】
上述した、本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、ナフサを熱分解して低級オレフィンを製造する工程で好適に用いることができる。すなわち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを、ナフサ分解プロセスに供して熱分解した際に、二酸化炭素を発生させても、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることがないか、或いは、その増加量を抑えることができることから、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を図った上で、低級オレフィン製造効率を高めることができる。
【0111】
[低級オレフィン製造用ナフサの調製方法]
炭素安定同位体比δ13C、酸素安定同位体比δ18O、水素安定同位体比δD、炭素数7以上の炭化水素の含有割合、含有される炭化水素の平均分子量、硫黄含有化合物の含有量、及び比重が前述の好適範囲にある本発明の低級オレフィン製造用ナフサを調製する方法としては、以下のような方法が挙げられる。
【0112】
炭素安定同位体比δ13Cについては、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、炭素安定同位体比δ13Cを、前述の好適範囲とすることができる。
【0113】
酸素安定同位体比δ18Oについては、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、酸素安定同位体比δ18Oを、前述の好適範囲とすることができる。
【0114】
水素安定同位体比δDについては、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、水素安定同位体比δDを、前述の好適範囲とすることができる。
【0115】
炭素数7以上の炭化水素の含有割合については、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、炭素数7以上の炭化水素の含有割合を、前述の好適範囲とすることができる。
【0116】
含有される炭化水素の平均分子量については、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、含有される炭化水素の平均分子量を、前述の好適範囲とすることができる。
【0117】
硫黄含有化合物の含有量については、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、硫黄含有化合物の含有量を、前述の好適範囲とすることができる。
【0118】
低級オレフィン製造用ナフサの比重を前述の好適範囲にするためには、バイオ原料由来のナフサの1種又は2種以上を使用し、必要に応じて化石燃料由来のナフサの1種又は2種以上と適宜混合することにより、比重を、前述の好適範囲とすることができる。
【0119】
このように、本発明の低級オレフィン製造用ナフサは、バイオ原料由来のナフサを含むもの、即ち、1種又は2種以上からなるバイオ原料由来のナフサの単独物、又は、1種又は2種以上からなるバイオ原料由来のナフサ及び1種又は2種以上からなる化石燃料由来のナフサを含むナフサ混合物として調製することができる。
【0120】
[低級オレフィン組成物]
本発明の低級オレフィン組成物は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する組成物である。
【0121】
前記「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を用いることができる。具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエンが挙げられる。中でも、エチレン、プロピレン、1-ブテン及び2-ブテンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0122】
前記「その誘導体」、すなわち「低級オレフィンの誘導体」とは、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを分解する際に生成する化合物であってもよいし、或いは又、本発明の低級オレフィン製造用ナフサの分解生成物である低級オレフィンを用いて得られた化合物であっても良い。
前記「低級オレフィンの誘導体」は、特に限定されるものではないが、例えば、下記のエチレンの誘導品、プロピレンの誘導品、及びブテンの誘導品が挙げられる。
【0123】
a)エチレンの誘導品:エチレンの酸化反応によるエチレンオキサイド、エチレングリコール、エタノールアミン、グリコールエーテル等、塩素化による塩化ビニルモノマー、1,1,1-トリクロロエタン、塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。また、エチレンの重合により得られた、α-オレフィン、更に、α-オレフィンを原料として、オキソ反応それに続く水素化反応により高級アルコ一ルが挙げられる。或いは又、エチレンの重合により得られた、低密度や高密度のポリエチレン等が挙げられる。また、エチレンと酢酸との反応により得られた酢酸ビ二ル等が挙げられる。また、エチレンのワッカー反応により得られたアセトアルデヒド及びその誘導体である酢酸エチル等が挙げられる。
【0124】
b)プロピレンの誘導品:プロピレンのアンモ酸化により得られたアクリロニトリル、プロピレンの選択酸化により得られたアクロレイン、アクリル酸及びアクリル酸エステル、プロピレンのオキソ反応により得られたノルマルブチルアルデヒド、2-エチルへキサノール等のオキソアルコール等が挙げられる。また、プロピレンの重合により得られたポリプロピレン等が挙げられる。また、プロピレンの選択酸化によるプロピレンオキサイド及びプロピレングリコール、プロピレンの水和によるイソプロピルアルコール等が挙げられる。また、プロピレンのワッカー反応により得られたアセトン、更に、アセトンより得られたメチルイソブチルケトンやアセトンシアンヒドリンや、アセトシアンヒドリンから得られたメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0125】
c)ブテンの誘導品:ブテンの酸化脱水素により得られたブタジエンが挙げられる。また、ブタジエンのアセトキシ化、水素化、加水分解を経て得られた、1,4-ブタンジオールや、これを原料として得られた、γ-ブチ口ラクトン、Ν-メチルピロリドン等のピロリドン類等が挙げられる。さらに、ピロリドン類の脱水反応により得られた、テトラヒドロフラン、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。また、ブタジエンを用いて得られた種々の合成ゴムが挙げられる。
【0126】
前記低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、特に限定されないが、前記低級オレフィン組成物の総質量100%に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95%質量%以上、とりわけ好ましくは98質量%以上である。前記低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、100質量%であってもよい。
【0127】
このような低級オレフィン組成物は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサのクラッキングを行うことにより、得ることができる。
【0128】
[低級オレフィン組成物の製造方法]
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを分解して、低級オレフィン及び/又はその誘導体を含有する低級オレフィン組成物を製造する方法であり、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを分解する工程を含む。低級オレフィン製造用ナフサを熱分解することで、低級オレフィンを含有する低級オレフィン組成物が製造されるが、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いることで、後掲の実施例に示される通り、低級オレフィンを効率的に製造することができる。
【0129】
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の低級オレフィン製造用ナフサを用いること以外は、常法に従って、低級オレフィン組成物を製造することができる。
即ち、本発明の低級オレフィン製造用ナフサ(以下、単に「ナフサ」と称す場合がある。)を、水蒸気の存在下、700~1000℃の温度において熱分解(スチーム・クラッキング)させることにより低級オレフィン組成物を得る。
【0130】
熱分解の条件のうち、ナフサと水蒸気との比率は、ナフサ100質量部に対して水蒸気20~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることが更に好ましく、35~60質量部であることが特に好ましい。水蒸気量が20質量部未満の場合には、熱分解炉内に設置された分解反応を行うための配管への炭素質物質の沈着が多くなる傾向にある。他方、水蒸気量が100質量部を超える場合には、水蒸気に与える熱量が増大し、装置にかかるエネルギー負荷が過大なものとなる。
【0131】
また、熱分解の反応温度は、通常700~1000℃であり、好ましくは750~950℃である。反応温度が700℃未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する。他方、反応温度が1000℃を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0132】
また、熱分解の反応時間は、好ましくは0.01~1秒、より好ましくは0.04~0.7秒である。反応時間が0.01秒未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。他方、反応時間が1秒を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0133】
また、熱分解の反応圧力は、好ましくは0.01~1.5MPa(ゲージ圧力)、より好ましくは0.05~0.5MPa(ゲージ圧力)、さらに好ましくは0.07~0.2MPa(ゲージ圧力)である。
【0134】
熱分解の反応域を出た反応生成物は、急冷することによって、過剰な分解の進行を抑制することができる。冷却温度は、特に限定されないが、例えば、工業的スケールで実施する場合は、好ましくは200~700℃、より好ましくは250~650℃とすることができ、パイロットや実験室等の小スケールで実施する場合は、好ましくは0~100℃、より好ましくは3~40℃とすることができる。
【0135】
このようにして得られる低級オレフィンを含む反応生成物については、常法に従って、精製、分画等の処理を行うことができる。これにより、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の低級オレフィン、芳香族炭化水素類、その他の炭化水素類がそれぞれ得られる。また、エタン、プロパン等の飽和炭化水素は、回収して再び熱分解に供することができる。なお、低級オレフィンのうちブテン及びブタジエンは、通常、ブタンとの混合物として得られる。そのため、別工程にてブタジエンを溶媒抽出により単離し、抽出残であるブテン及びブタンの混合物については別工程で重合、精留等により利用、分画することが好ましい。
【0136】
[ポリオレフィン系重合体]
本発明のポリオレフィン系重合体は、本発明の低級オレフィン組成物に含有される低級オレフィン及び/又はその誘導体を、公知の重合方法を用いて重合してなるポリオレフィン系重合体であり、オレフィンに由来する繰り返し単位(以下、「低級オレフィン単位」という。)又はその誘導体に由来する繰り返し単位(以下、「低級オレフィン誘導体単位」という。)を含む。
即ち、本発明のポリオレフィン系重合体は、低級オレフィン単位のみを含む重合体であっても良いし、低級オレフィン単位と低級オレフィン誘導体単位を含む重合体であっても良いし、低級オレフィン誘導体単位のみ含む重合体であっても良い。
なお、前記「繰り返し単位」とは、低級オレフィン及び/又はその誘導体の重合反応によって直接形成された単位を意味し、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換されたものであってもよい。
【実施例0137】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、これらは単に説明のためであって本発明を何ら制限するものではない。
【0138】
<評価方法>
(1) ナフサの炭素安定同位体比δ13Cの測定
実施例及び比較例で使用したナフサを、米国材料試験協会(AmericanSocietyofTestingandMaterials)で規定される前処理方法(ASTMD6866/MethodB)によりCO化させた後、鉄触媒を用いた完全還元処理によりC(グラファイト)化し、加速器質量分析(Accelerator Mass Spectrometry)法により、炭素同位体比(13C/12C比)を測定した。 そして、以下の式により炭素安定同位体比δ13C、酸素安定同位体比δ18O、水素安定同位体比δD、を算出した。
δ13C(‰)=([13C/12C](sample)/[13C/12C](VPDB)-1)×1,000
上記式中、[13C/12C](sample)は、測定対象であるナフサの炭素同位体比(13C/12C比)を表し、[13C/12C](VPDB)は標準物質であるPDBの炭素同位体比(13C/12C比)を表す。δ18O(‰)及びδD(‰)についても同様である。
なお、13C/12Cの標準物質としては、上述したPDB(「PeeDeeBelemnite」)を用いた。
【0139】
(2) ナフサの酸素安定同位体比δ18Oの測定
実施例及び比較例で使用したナフサを、密閉容器内に入れ、白金触媒存在下、COガスと常温で12時間反応させて、前記ナフサとCOガスとの間で同位体交換を行った。次いで、同位体比質量分析計を用いて、反応させたCOガスにおける酸素同位体比(18O/16O比)を測定した。
そして、以下の式により酸素安定同位体比δ18Oを算出した。 δ18O(‰)=([18O/16O](sample)/[18O/16O](VSMOW)-1)×1,000
上記式中、 [18O/16O](sample)は、測定対象であるナフサの酸素同位体比(18O/16O比)を表し、[18O/16O](VSMOW)は標準物質であるSMOWの酸素同位体比(18O/16O比)を表す。 なお、18O/16O比の標準物質としては、世界共通の標準海水としてSMOW(「StandardMeanOceanWater」)を用いた。
【0140】
(3) ナフサの水素安定同位体比δDの測定
実施例及び比較例で使用したナフサを、熱分解型元素分析計/同位体比質量分析計(TCEA/IRMS)の熱分解炉を用いて、高温で熱分解することにより、ナフサ中の水素分を水素(H2、HD及びD)ガスに変換した。次いで、熱分解炉で発生した水素ガスを、GCカラムを用いて分離した後、同位体比質量分析計を用いて、分離された水素ガスにおける水素同位体比(D/H比)を測定した。
そして、以下の式により水素安定同位体比δDを算出した。
δD(‰)=([D/H](sample)/[D/H](VSMOW)-1)×1,000
上記式中、[D/H](sample)は、測定対象であるナフサの水素同位体比(D/H比)を表し、[D/H](VSMOW)は標準物質であるSMOWの水素同位体比(D/H比)を表す。
なお、D/H比の標準物質としては、世界共通の標準海水としてSMOW(「StandardMeanOceanWater」)を用いた。
【0141】
(4) ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の測定
ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、ガスクロマトグラフ測定装置(GC装置)を用いて、以下の条件で測定した。
<GC測定条件>
GC装置:GC-2010Plus(装置名、島津製作所社製)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
キャリアガス:窒素(流量0.8ml/分)
カラム:キャピラリーカラム CBP1-M50-025(島津製作所社製、サイズ:0.22mmφ×50m、膜厚:0.25μm)
カラム温度:0℃(保持時間5分)→3℃/分で昇温→200℃(保持時間なし)→10℃/分で昇温→250℃(保持時間10分)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
サンプル量:0.5μL(スプリット比:1/60)
定量方法:絶対検量線法
【0142】
なお、GC測定用試料としては、ナフサを前処理せずそのまま使用した。
また、ガスクロマトグラムのピーク面積から、炭化水素の含有割合を算出するための検量線は、ガスクロマトグラムから同定された炭素数1~15の炭化水素の各成分として、予めナフサから分取・精製した化合物、市販品の化合物、及び予め合成した化合物を、正確に秤量、希釈したものを標準溶液に用いて作成した。
【0143】
ナフサのガスクロマトグラムの一例として、実施例2で使用した石油由来ナフサとバイオ原料由来ナフサの混合物について、ガスクロマトグラムから同定された、当該ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分のリテンションタイム(分)と種類、炭素数を、表Aに示した。
表Aに示されるように、炭化水素の各成分は全て、リテンションタイム3.570~39.021分の間に観察され、当該炭化水素の炭素数は3~10の範囲内であった。なお、ここでは実施例2のナフサ混合物を例にして説明しているため、表Aに示される結果となっているが、ナフサの由来や産地、若しくは製造条件等によって、ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分の種類や炭素数が異なることは言うまでもない。
【0144】
【表A】
【0145】
以下の手順に従って、ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
まず、上記のGC測定条件を用いて得られたガスクロマトグラムにおいて、リテンションタイム1分~100分の間に観察されたピークから、炭素数1~15の炭化水素の各成分について、ピーク面積を読み取り、絶対検量線法により、前記各成分の含有割合(単位:質量%)を算出した。
次いで、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をB1、及び、炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をA1として、下記式からナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
【0146】
炭素数7以上の炭化水素の含有割合(質量%)=A1/B1×100
A1:炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0147】
(5) ナフサ中の炭化水素の平均分子量の算出
上述した「(1)ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合」の測定方法を用いて算出した、B1、並びに、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合Sn及び相対分子質量Mnを用いて、ナフサ中の炭化水素の平均分子量を、下記式から算出した。
【0148】
ナフサ中の炭化水素の平均分子量=(S1×M1+S2×M2+・・・・・S15×M15)/B1
Sn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の含有割合(質量%)
Mn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の相対分子質量
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0149】
なお、相対分子質量とは、物質1分子の質量の統一原子質量単位に対する比であり、分子中に含まれる原子量の総和のことをいう。
また、ある炭素数を有する炭化水素は、相対分子質量が異なる複数の炭化水素成分から構成されることもある。例えば、炭素数5の炭化水素は、イソペンタン、2-メチル-1-ブテン、ノルマルペンタン、2-ペンテン、2-メチル-2-ブテン、及びシクロペンタンの6種類の炭化水素から構成される。
【0150】
(6) ナフサ中の硫黄含有化合物の含有量の分析
ナフサ中の硫黄含有化合物の硫黄含有量として、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)を用いて、硫黄原子に換算した硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算の含有量)を測定した。
まず、ICP-OES測定用試料を、以下の手順に従って作成した。
テフロン製容器中で、前記ナフサ1mlと硝酸8mlを混合した後、マイクロ波分解装置(装置名:MultiwavePRO、アントンパール社製)を用いて、下記の条件で加熱分解処理した後、超純水で25mlに定容し、これをICP-OES測定用試料とした。
マイクロ波分解条件:Ramp(500W/10分)→Hold(500W/10分)→Ramp(1300W/10分)→Hold(1300W/30分)
前記測定用試料について、ICP-OES(装置名:iCAP6500型、サーモフィッシャー社製、波長:S=180.731nm)を用いて、ナフサ中の硫黄原子の含有濃度(単位:質量ppm)を測定し、これを硫黄原子換算の硫黄含有化合物の含有量とした。なお、検量線の作成は、Sulfur Stndard for ICP(製品名、アルドリッチ製)を用いて絶対検量線法で行った。
【0151】
(7) 低級オレフィン収率の測定
原料ナフサを熱分解したときの低級オレフィン収率を、SUS310S製反応管を備えたナフサ流通評価装置を用いて、以下の方法で測定した。
なお「低級オレフィン」とは、上述したようにエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン及びイソブテン)、ブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
前記反応管(内径4mm×外径6mm)に、後述する実施例及び比較例のナフサ及びスチームを、前記反応管の下部から供給し、反応温度810℃、反応圧力0.1MPaG、滞留時間0.6秒、スチーム/ナフサの質量比率(S/O比率)を0.4の条件で、ナフサを熱分解させ、前記反応管の上部から生成物を抜き出した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPaG下、5℃の条件で気液分離して、分離ガスと分離液を得た。
【0152】
得られた分離ガスについて、ナフサの熱分解生成物である水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素、並びに炭化水素として、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、プロパジエン、イソブタン、ノルマルブタン、アレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、メチルアセチレン、イソペンタン、ノルマルペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンタン、2-メチルー1―ブテン、2-メチル-2-ブテン、シクロペンテン、イソプレン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、エチルベンゼン、スチレン、ノルマルヘプタン及びノルマルオクタン(以下、「炭化水素類」という。)のそれぞれを個別のガスクロマトグラフ測定装置を用いて定量した。
具体的には、水素の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-8A、島津製作所社製)を用いた。また、一酸化炭素、二酸化炭素、及び前記炭化水素類の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いた。このように測定した水素、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素類、及び低級オレフィンの定量値を、それぞれX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(炭化水素類)、X(低級オレフィン)(単位:g)とした。
【0153】
また、油水分離で油分として分離された分離液について、ガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いて、油分側の分離液中に含まれる、ナフサの熱分解生成物として、低級オレフィンを定量し、その定量値をY(低級オレフィン)(単位:g)とした。また、前記炭化水素類及び沸点150℃以上280℃以下の炭化水素を定量し、これらの定量値を合わせてY(炭化水素化合物)(単位:g)とした。
【0154】
低級オレフィン収率(単位:質量%)は、ナフサの熱分解開始後60~420分の間に上述した方法で測定したX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(低級オレフィン)、X(炭化水素類)、Y(低級オレフィン)及びY(炭化水素化合物)を用いて、下記式により算出した。
【0155】
【数1】
【0156】
[比較例1]
原料として使用する石油由来のナフサ(サウジアラビア産オープンスペックナフサ、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:13.1質量%、炭化水素の平均分子量:79.20g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):190質量ppm、比重:0.6636g/cm、δ13C、δ18O、δDは表1に示す通り。)を使用し、水蒸気の存在下に熱分解炉を用いて下記熱分解条件で熱分解した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPa(ゲージ圧力)下、5℃の条件で気液分離して、ガス成分と分離液を得た。さらに前記分離液を、分液ロートを用いて大気圧下、室温の条件で油分と凝縮水とに油水分離した。
油水分離で分離された前記油分及び気液分離で得られた前記ガス成分について測定した低級オレフィンの含有量から低級オレフィン収率を算出し、結果を表1に示した。
【0157】
<熱分解条件>
ナフサ流量:83.1g/hr
水蒸気/ナフサ質量比:0.4
滞留時間:0.6秒
熱分解温度:810℃
熱分解圧力:0.1MPa(ゲージ圧力)
【0158】
[実施例1]
比較例1における石油由来のナフサのかわりにバイオ原料由来ナフサ(AltAirParamount社製、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:43.9質量%、炭化水素の平均分子量:88.28g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):1質量ppm、比重:0.6700g/cm、δ13C、δ18O、δDは表1に示す通り。)を用いた以外は、比較例1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0159】
[実施例2]
比較例1における石油由来ナフサのかわりに、該石油由来ナフサと前記バイオ原料由来ナフサの混合物(質量比1:1)(炭素数7以上の炭化水素の含有割合:30.6質量%、炭化水素の平均分子量:84.14g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):100質量ppm、比重:0.6667g/cm13C、δ18O、δDは表1に示す通り。)を用いた以外は、比較例1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0160】
【表1】
【0161】
表1から、ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上又はナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下である、バイオ原料由来ナフサを含有するナフサを熱分解することにより、熱分解して得られた低級オレフィン組成物において、低級オレフィンの収率が高くなることが分かる。
従って、原料ナフサとして、ナフサを構成する炭素中の炭素13(13C)の炭素安定同位体比δ13Cが-26.5‰(VPDB)以上又はナフサを構成する酸素中の酸素18(18O)の酸素安定同位体比δ18Oが-30.0‰(VSMOW)以下であるナフサを用いれば、バイオ由来ナフサを有意な量で含有するので、地球環境内に存在する二酸化炭素を増加させることなく、製品価値の高い低級オレフィンを高い収率で製造することができ、且つ、地球温暖化の抑止に大いに貢献できることが分かる。