(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050512
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、及び、液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20240403BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B41J2/16 503
B41J2/14 301
B41J2/16 301
B41J2/14 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168755
(22)【出願日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2022156593
(32)【優先日】2022-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023103945
(32)【優先日】2023-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】藤村 優輝
(72)【発明者】
【氏名】益田 俊顕
(72)【発明者】
【氏名】三輪 圭史
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AG29
2C057AG75
2C057AG81
2C057AP24
(57)【要約】
【課題】接合剤による液体吐出ヘッドの不具合を抑制する。
【解決手段】複数の基板50,65を基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッドであって、第一基板65と、前記第一基板上の接合領域B1に付与された接合剤67によって該第一基板に接合される薄板部材66と、前記第一基板との間に前記薄板部材を挟み込んだ状態で前記第一基板と接合される第二基板50とを有し、前記第二基板には、前記薄板部材を介して前記第一基板の前記接合領域と対向する領域に空隙Cが設けられている。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基板を基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッドであって、
第一基板と、
前記第一基板上の接合領域に付与された接合剤によって該第一基板に接合される薄板部材と、
前記第一基板との間に前記薄板部材を挟み込んだ状態で前記第一基板と接合される第二基板とを有し、
前記第二基板には、前記薄板部材を介して前記第一基板の前記接合領域と対向する領域に空隙が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第二基板は、圧力室内の液体をノズルから吐出するために駆動する電気機械変換素子を保持するアクチュエータ基板を含むことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記空隙は、基板面方向において、前記電気機械変換素子から外れた領域に設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記薄板部材は、ダンパであり、
前記第一基板は、ダンパ保持基板であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記空隙は、前記接合領域の全域に対向するように設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記空隙は、前記第二基板の所定方向全域にわたって設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第一基板上の接合領域は、前記第一基板の基板面から凹んだ凹部内に設けられ、
前記第二基板と第二接合剤によって接合される前記第一基板上の第二の接合領域は、前記第一基板の基板面に設けられることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記接合剤は、光硬化性樹脂であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記接合領域は、前記第一基板の端部領域に形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第二基板は、前記薄板部材と隣接する液体流路基板を含み、
前記空隙は、前記液体流路基板に形成される液体流路の深さと同じ深さで該液体流路基板に設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記第一基板及び前記第二基板は、前記薄板部材に形成される切り欠き又は貫通孔を介して、第二接合剤によって互いに接合されることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを含むことを特徴とする液体吐出ユニット。
【請求項13】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、及び、液体を吐出する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の基板を基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッドが知られている。
例えば、特許文献1には、ノズル板と、流路基板と、共通液室部材と、ダンパ部材と、ダンパ室形成部材とが、互いに基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッドが開示されている。流路基板には、ノズル板のノズルに通じる個別液室と、個別液室内の液体を加圧する圧力を発生する電気機械変換素子とが備わっている。ダンパ部材(薄板部材)は、ダンパ室形成部材(第一基板)と共通液室部材(第二基板)との間に挟み込むように設けられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の液体吐出ヘッドにおいて、共通液室部材にダンパ室形成部材を接合する前に、ダンパ室形成部材にダンパ部材を接合する場合がある。この場合、接合に用いられる接合剤が液体吐出ヘッドに不具合を生じさせることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の基板を基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッドであって、第一基板と、前記第一基板上の接合領域に付与された接合剤によって該第一基板に接合される薄板部材と、前記第一基板との間に前記薄板部材を挟み込んだ状態で前記第一基板と接合される第二基板とを有し、前記第二基板には、前記薄板部材を介して前記第一基板の前記接合領域と対向する領域に空隙が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、接合剤による液体吐出ヘッドの不具合を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図。
【
図4】同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図。
【
図5】同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図。
【
図6】同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図。
【
図9】ダンパフレーム基板上における接着剤付着領域を示す平面図。
【
図10】従来の液体吐出ヘッドにおけるダンパ部材と共通流路部材との接合部分を
図9の符号A-A'に沿って切断したときの断面図。
【
図11】実施形態の液体吐出ヘッドにおけるダンパ部材と共通流路部材との接合部分を
図9の符号A-A'に沿って切断したときの断面図。
【
図12】実施形態における共通流路部材上の空隙を示す平面図。
【
図13】共通流路部材に設けられる空隙の他の例を示す断面図。
【
図14】変形例のダンパフレーム基板上における接着剤付着領域を示す平面図である。
【
図15】変形例の共通流路部材上の空隙を示す平面図である。
【
図16】変形例の液体吐出ヘッドにおけるダンパ部材と共通流路部材との接合部分を
図14の符号A-A'に沿って切断したときの断面図。
【
図17】実施形態のヘッドモジュールの分解斜視説明図。
【
図18】実施形態のヘッドモジュールのノズル面側から見た分解斜視説明図。
【
図20】印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図23】液体吐出ユニットの一例の要部平面説明図。
【
図25】2種類の接着剤を用いて接合する場合の一例を示す説明図。
【
図26】本発明の実施形態に係る電極の製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態における液体吐出ヘッドの外観斜視説明図である。
図2は、同液体吐出ヘッドの分解斜視説明図である。
図3は、同液体吐出ヘッドの断面斜視説明図である。
図4は、同液体吐出ヘッドのフレーム部材を除いた分解斜視説明図である。
図5は、同液体吐出ヘッドの流路部分の断面斜視説明図である。
図6は、同液体吐出ヘッドの流路部分の拡大断面斜視説明図である。
図7は、同液体吐出ヘッドの流路部分の平面説明図である。
【0008】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル板10、個別流路部材である流路板20、振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60、フレーム部材80、駆動回路102を実装したフレキシブル配線基板101を備えている。
【0009】
ノズル板10を構成するノズル基板、流路板20及び振動板部材30を構成する基板、共通流路部材50を構成するサブフレーム基板、及びダンパ部材60を構成するダンパ基板は、いずれも単結晶Siウェハを基板材料としている。これらの基板は、MEMSや半導体デバイスの微細加工技術によってSiウェハ上に複数のチップ(液体吐出ヘッド)を同時に作製し、チップ化後の各基板を接合して液体吐出ヘッド1となる。
【0010】
図4及び
図5に示すように、ノズル板10には、液体(液滴)を吐出する複数のノズル11が設けられている。複数のノズル11は二次元状にマトリクス配置されている。
【0011】
図5及び
図6に示すように、流路板20は、複数のノズル11にそれぞれ連通する複数の個別液室である圧力室21と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21にそれぞれ通じる複数の個別回収流路23とを有している。
図7に示すように、一つの圧力室21とこれに通じる個別供給流路22及び個別回収流路23とを併せて個別流路25という。
【0012】
振動板部材30は、アクチュエータ基板であり、圧力室21の変形可能な壁面である振動板31を形成し、振動板31には圧電素子40が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子40は、電気機械変換素子であり、振動板31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生手段である。
【0013】
なお、流路板20と振動板部材30とは、互いに別部材であることに限定されるものではない。例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板を使用して流路板20及び振動板部材30を同一部材で一体に形成することができる。つまり、シリコン基板上に、シリコン酸化膜、シリコン層、シリコン酸化膜の順に成膜されたSOI基板を使用し、シリコン基板を流路板20とし、シリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜とで振動板31を形成することができる。この構成では、SOI基板のシリコン酸化膜、シリコン層及びシリコン酸化膜の層構成が振動板部材30となる。このように、振動板部材30は流路板20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0014】
共通流路部材50は、液体流路基板であり、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを、ノズル11の第2方向Sに交互に隣接して形成している。共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔とが形成されている。
【0015】
また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1または複数の共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる1または複数の共通回収流路本流57とを形成している。
【0016】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63とを有している。
【0017】
共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を薄板部材であるダンパとしてのダンパ板66で封止することにより構成している。そして、共通供給流路支流52と対応するダンパ板66によって供給側ダンパ62が、共通回収流路支流53と対応するダンパ板66によって回収側ダンパ63がそれぞれ構成される。
【0018】
なお、ダンパ板66としては、有機溶剤に強い金属薄膜または無機薄膜を用いることが好ましく、その厚みは10[μm]以下が好ましい。また、ダンパ板66は複数層からなる積層構造を有するのが好ましい。また、ダンパ板66は、ダンパとして必要な機能を満たすうえで、コンプライアンスが7×10-17[m/N]以上であり、ヤング率が3[GPa]以上200[GPa]以下であり、厚みが2[μm]以上10[μm]以下であるのが好ましい。
【0019】
本実施形態の液体吐出ヘッド1には、ノズル11からの液体吐出時に生じる液体流路(例えば個別供給流路22)の圧力変動が、他のノズル11からの液体吐出に与える影響(例えばクロストーク)を抑制するために、ダンパ部材60が設けられている。ダンパ部材60が適切にダンパ機能を発揮することで、液体吐出時の振動(圧力変動)が液体を介して伝播して、隣接するノズルの液体吐出に影響するというクロストークの発生を抑制でき、各ノズル11からの液体吐出精度を安定させることができる。
【0020】
図8は、本実施形態におけるダンパ部材60を示す斜視図である。
図8に示すように、ダンパ部材60は、矩形板状の部材からなるダンパ保持基板としてのダンパフレーム基板65から主に構成され、ダンパフレーム基板65には、その長辺に沿って、共通流路部材50の共通供給流路本流56と共通回収流路本流57とに連通する貫通孔61A,61Bが形成されている。ダンパフレーム基板65の貫通孔61A,61Bに挟まれた領域に供給側ダンパ62及び回収側ダンパ63が形成され、これによりダンパ部材60が構成されている。
【0021】
次に、従来の液体吐出ヘッドの不具合について説明する。
図9は、ダンパフレーム基板65上における接着剤付着領域を示す平面図である。
図10は、従来の液体吐出ヘッドにおけるダンパ部材60と共通流路部材50との接合部分を
図9の符号A-A'に沿って切断したときの断面図である。
【0022】
液体吐出ヘッドの吐出性能を悪化させる要因は種々存在するが、本発明者らの研究の結果、ダンパフレーム基板65とダンパ板66との接合に用いられる接合剤が、液体吐出ヘッドの吐出性能を悪化させる新たな要因になり得ることを見出した。
【0023】
詳しく説明すると、第一基板であるダンパフレーム基板65と第二基板である共通流路部材50とを接合するにあたり、事前に、これらの間に挟み込むダンパ板66をダンパフレーム基板65に接合する。この接合では、まず、ダンパフレーム基板65上の接合領域である第一接着剤付与領域B1上に接合剤としての光硬化性樹脂であるUV接着剤67を付与して、ダンパフレーム基板65にダンパ板66を接合する。このとき、第一接着剤付与領域B1上のUV接着剤67に紫外線を照射することでUV接着剤67が硬化され、ダンパフレーム基板65とダンパ板66とが接合される。この接合時にUV接着剤67が変形して硬化し、この変形して硬化した接合剤がダンパ板66を
図10に示すように凸状に局所変形させることが確認された。
【0024】
この接合後のダンパ部材60は、ダンパフレーム基板65上の第二接着剤付与領域B2上に第二接合剤としての光硬化性樹脂であるUV接着剤68が付与され、共通流路部材50と接合される。具体的には、ダンパフレーム基板65に接合されたダンパ板66において、ダンパフレーム基板65上の第二接着剤付与領域B2と対向する部分には切り欠き又は貫通孔が形成され、第二接着剤付与領域B2のUV接着剤68はダンパフレーム基板65と共通流路部材50とを直接的に接合する。
【0025】
このとき、共通流路部材50とダンパフレーム基板65との間に挟み込まれるダンパ板66が上述のように凸状に局所変形していると、共通流路部材50には、ダンパ板66の凸状部分66aにより局所的な外力が加わることになる。その結果、共通流路部材50が変形し、これにより圧電素子40やその周辺の構造を変形させてしまい、吐出性能に影響を及ぼすという不具合が生じる。
【0026】
ダンパ部材60のダンパ板66は、変形硬化したUV接着剤67の変形に倣って変形し得る程度に薄く柔らかい部材である。ただし、ダンパ板66は、硬化前のUV接着剤67に接触する段階では凸状に局所変形せず、UV接着剤67が硬化するにあたって変形(収縮等)することで、この変形に倣って凸状に局所変形するものと考えられる。また、UV接着剤67の塗布量が狙いの量よりも多くなった場合、あるいは、通常の量でも塗布位置がずれる等によりダンパフレーム基板65の表面にUV接着剤67が乗り上げた場合などにおいて、凸状に局所変形することも考えられる。なお、共通流路部材50は、ダンパ部材60のダンパフレーム基板65の第二接着剤付与領域B2との間をUV接着剤68によって接合される。この接合時にも、UV接着剤68が硬化するにあたって変形(収縮等)しようとするものと考えられるが、共通流路部材50が十分な剛性を備えていることから、吐出性能に影響を及ぼすほどの局所的な外力が共通流路部材50に加わることはない。
【0027】
図11は、本実施形態の液体吐出ヘッド1におけるダンパ部材60と共通流路部材50との接合部分を
図9の符号A-A'に沿って切断したときの断面図である。
図12は、本実施形態における共通流路部材50上の空隙Cを示す平面図である。
図11に示すように、本実施形態の共通流路部材50には、ダンパ板66を介してダンパフレーム基板65の第一接着剤付与領域B1と対向する領域に空隙Cが設けられている。これにより、UV接着剤67によってダンパ板66に凸状部分66aが生じても、その凸状部分66aは、
図11に示すように共通流路部材50の空隙C内に収まる。その結果、UV接着剤67によって生じる凸状部分66aによる共通流路部材50への局所的な外力を小さく抑えることができ、当該凸状部分66aによって共通流路部材50が変形することによって生じる吐出性能の悪化を抑制することができる。
【0028】
本実施形態における空隙Cは、基板面方向(基板厚み方向に対して直交する方向)において、圧電素子40から外れた領域に設けられている。具体的には、ダンパフレーム基板65の第一接着剤付与領域B1は、
図9に示すように、圧電素子40や流路などが配置される圧電素子・流路配置領域D(
図9参照)から外れた領域に設けられているので、この第一接着剤付与領域B1に対向するように設けられる空隙Cも圧電素子・流路配置領域Dから外れた領域に設けられる。そのため、本実施形態のような空隙Cを設けても、圧電素子40や流路などの配置に影響を与えることはない。
【0029】
ところで、ダンパフレーム基板65の第一接着剤付与領域B1を、圧電素子40や流路などの吐出性能に影響を与える構造部分(圧電素子・流路配置領域Dなど)から十分に離れた位置に配置すれば、凸状部分66aによる共通流路部材50への局所的な外力が加わっても、吐出性能の悪化が抑制される。しかしながら、この場合、液体吐出ヘッド1のサイズが大きくなってしまい、液体吐出ヘッド1を大型化させることになる。したがって、本実施形態は、液体吐出ヘッド1を大型化させることなく、UV接着剤67によって生じる凸状部分66aに起因した吐出性能の悪化を抑制することができるものである。
【0030】
また、本実施形態では、
図11に示すように、共通流路部材50の空隙Cが、UV接着剤67の付与され得る領域である第一接着剤付与領域B1の全域に対向するように、第一接着剤付与領域B1と同じか又はこれよりも大きく形成されている。そのため、UV接着剤67によって生じる凸状部分66aの全体を空隙C内に収めることができ、凸状部分66aによる共通流路部材50への局所的な外力を最小限に抑えることができる。したがって、UV接着剤67によって生じる凸状部分66aに起因した吐出性能の悪化をより確実に抑制することができる。
【0031】
もちろん、本発明は、
図13に示すように、共通流路部材50の空隙C'が第一接着剤付与領域B1の一部だけに対向するように設けられる構成を排除するものではない。
図13に示す構成であっても、空隙C'が設けられていない従来と比較して、凸状部分66aによる共通流路部材50への局所的な外力を小さく抑えることができ、吐出性能の悪化を抑制することができる。
【0032】
また、本実施形態において、共通流路部材50に設けられる空隙Cは、この共通流路部材50に形成される液体流路である共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53の深さと同じ深さで形成されている。これにより、空隙Cは、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53と同じプロセスで形成することができ、製造工程を簡略化できる。
【0033】
また、本実施形態では、第一接着剤付与領域B1に付与される接合剤として光硬化性樹脂であるUV接着剤67を採用しているため、接合のためには、ダンパフレーム基板65とダンパ板66とを重ね合わせた状態で、ダンパフレーム基板65の第一接着剤付与領域B1上に付与したUV接着剤67に対して外部から光(紫外線)を照射する必要がある。そのため、本実施形態の第一接着剤付与領域B1は、
図9に示すように、ダンパフレーム基板65の端部領域に形成されている。より詳しくは、長尺なダンパフレーム基板65の短辺に隣接するように第一接着剤付与領域B1が形成されている。
【0034】
また、本実施形態では、平面視において、第一接着剤付与領域B1およびこれに対応する空隙Cの形状は矩形状あるいは四角形状であるが、例えば円形状や多角形状のような他の形状であってもよい。ただし、第一接着剤付与領域B1上のUV接着剤67に十分な光を外部から照射するため、第一接着剤付与領域B1の平面視形状は、ダンパフレーム基板65の端部(短辺)に向かって広がる形状であるのが好ましい。
【0035】
また、第一接着剤付与領域B1の平面視形状は、製造工程を簡易なものとする観点から、UV接着剤67を円形に塗布できる形状であることが好ましい。
【0036】
〔変形例〕
次に、本実施形態の液体吐出ヘッド1のダンパ部材60と共通流路部材50との接合部分についての変形例を説明する。
図14は、本変形例のダンパフレーム基板65上における接着剤付着領域を示す平面図である。
図15は、本変形例の共通流路部材50上の空隙Cを示す平面図である。
図16は、本変形例の液体吐出ヘッド1におけるダンパ部材60と共通流路部材50との接合部分を
図14の符号A-A'に沿って切断したときの断面図である。
【0037】
本変形例の共通流路部材50には、
図15及び
図16に示すように、ダンパ板66を介してダンパフレーム基板65の第一接着剤付与領域B1と対向する領域に、空隙Cが共通流路部材50の所定方向(例えば共通流路部材50の短手方向)の全域にわたって設けられている。これにより、UV接着剤67によってダンパ板66に凸状部分66aが生じても、その凸状部分66aは、
図16に示すように共通流路部材50の空隙C内に収まる。その結果、本変形例においても、UV接着剤67によって生じる凸状部分66aによる共通流路部材50への局所的な外力を小さく抑えることができ、当該凸状部分66aによって共通流路部材50が変形することによって生じる吐出性能の悪化を抑制することができる。
【0038】
また、本変形例では、空隙Cが共通流路部材50の短手方向(
図15中左右方向)の全域にわたって設けられているため、上述した実施形態の共通流路部材50に存在していた隔壁50a(
図11及び
図12参照)が存在しない。このような隔壁50aは構造的に脆い部分であるため、このような隔壁50aが存在する共通流路部材50は破損しやすい。本変形例によれば、このような隔壁50aが共通流路部材50に存在しないため、破損しにくい共通流路部材50を得ることができる。
【0039】
また、本変形例では、ダンパフレーム基板65上の接合領域である第一接着剤付与領域B1は、
図16に示すように、上述した実施形態と同じく、ダンパフレーム基板65の基板面から凹んだ凹部内に設けられているが、ダンパフレーム基板65上の第二の接合領域である第二接着剤付与領域B2は、凹部内ではなく、ダンパフレーム基板65の基板面に設けられている。
【0040】
第二接着剤付与領域B2もダンパフレーム基板65の凹部内に設けられていた上述の実施形態では、
図9及び
図11に示すように、ダンパフレーム基板65において第一接着剤付与領域B1が設けられる凹部と第二接着剤付与領域B2が設けられる凹部との間に隔壁65aが形成されることになる。このような隔壁65aは構造的に脆い部分であるため、このような隔壁65aが存在するダンパフレーム基板65は破損しやすい。本変形例によれば、
図14及び
図16に示すように、ダンパフレーム基板65に隔壁65aが存在させずに済むため、破損しにくいダンパフレーム基板65を得ることができる。
【0041】
次に、上述した各液体吐出ヘッド1を備えた液体吐出ユニットについて説明する。
図17、
図18に示すように液体吐出ユニット100は、液体吐出ヘッド1、複数の液体吐出ヘッド1を保持するベース部材103、液体吐出ヘッド1のノズルカバーとなるカバー部材113を備えている。さらに液体吐出ユニット100は、放熱部材104、複数の液体吐出ヘッド1に対して液体を供給する流路を形成しているマニホールド105、フレキシブル配線基板101に接続されるプリント基板(PCB)106、モジュールケース107を備えている。
【0042】
次に、上述した各液体吐出ヘッド1を備えた液体を吐出する装置について説明する。
図19、
図20に示すように、液体を吐出する装置である印刷装置500は、被記録媒体である連続体510を搬入する搬入手段501、搬入手段501によって搬入された連続体510を印刷手段505に向けて案内搬送する案内搬送手段503を備えている。また印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷動作を行う印刷手段505、液体が付着した連続体510を乾燥させる乾燥手段507、連続体510を搬出する搬出手段509等を備えている。
【0043】
連続体510は、搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509がそれぞれ有するローラによって案内及び搬送され、搬出手段509の巻き取りローラ591に巻き取られる。連続体510は、印刷手段505において搬送ガイド部材559上を液体吐出ユニットであるヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0044】
印刷装置500は、ヘッドユニット550に上述した液体吐出ユニット100A,100Bを備えており、各液体吐出ユニット100A,100Bはそれぞれ共通ベース部材552上に設けられている。
各液体吐出ユニット100A,100Bは、連続体搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、液体吐出ユニット100Aのヘッド列1A1,1A2の組で同じ色の液体を吐出する。同様に、液体吐出ユニット100Aのヘッド列1B1,1B2の組、液体吐出ユニット100Bのヘッド列1C1,1C2の組、液体吐出ユニット100Bのヘッド列1D1,1D2の組で、それぞれ所望の色の液体を吐出する。
【0045】
次に、液体を吐出する装置である印刷装置の他の例を
図21及び
図22に基づいて説明する。
液体を吐出する装置としての印刷装置400はシリアル型印刷装置であり、主走査移動機構493によってキャリッジ403が主走査方向に向けて往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を有している。ガイド部材401は左右の側板491A,491Bに掛け渡されており、キャリッジ403を移動可能に保持している。キャリッジ403は、駆動プーリ406と従動プーリ407との間に掛け渡されたタイミングベルト408を介して、主走査モータ405の駆動力を伝達されて主走査方向に往復移動される。
【0046】
キャリッジ403には、液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体的に有する液体吐出ユニット440が搭載されている。ここで液体吐出ヘッド1は、例えばイエロ(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配列し、液体吐出方向を下方とした状態で装着されている。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されており、液体吐出ヘッド1には所望の色の液体が循環供給される。
【0047】
印刷装置400は、被記録媒体である用紙410を搬送する搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動する副走査モータ416を有している。無端状ベルトである搬送ベルト412は搬送ローラ413とテンションローラ414との間に掛け渡されており、用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。吸着は、静電吸着あるいはエア吸引等によって実施される。搬送ベルト412は、副走査モータ416の駆動力をタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して伝達されることにより、副走査方向に周回移動される。
【0048】
キャリッジ403の主走査方向の一方側であって搬送ベルト412の側方には、液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1ノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422等で構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0049】
上述した構成の印刷装置400では、用紙410が搬送ベルト412によって吸着され、搬送ベルト412の周回移動により用紙410が副走査方向に搬送される。このとき、キャリッジ403を主走査方向に移動させつつ画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0050】
次に、上述した液体吐出ユニット440を
図23に基づいて説明する。
液体吐出ユニット440は、液体を吐出する装置である印刷装置400を構成している各部材のうち、各側板491A,491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493、キャリッジ403、液体吐出ヘッド1等によって構成されている。
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、上述した維持回復機構420をさらに取り付けた液体吐出ユニットを構成することも可能である。
【0051】
次に、液体吐出ユニットの他の例を、
図24に基づいて説明する。
図24に示す液体吐出ユニット450は、流路部品444が取り付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456を有している。流路部品444はカバー442の内部に配置されており、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。なお、流路部品444に代えてヘッドタンク441を含む構成も可能である。
【0052】
上述した液体吐出ヘッド1を含む、液体吐出ユニット100,100A,100B,440,450、及び液体を吐出する装置である印刷装置400,500では、上述した液体吐出ヘッド1における作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0053】
本発明において、使用される液体はヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく特に限定されないが、常温・常圧下において、または加熱・冷却により粘度が30[mPa・s]以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やタンパク質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、これ等を含む溶液や懸濁液やエマルション等である。これ等は、例えばインクジェット用インク、表面処理液、三次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0054】
液体を吐出するエネルギ発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極とからなる静電アクチュエータ等を使用するものが含まれる。
【0055】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたもの等が含まれる。
ここで一体化とは、例えば液体吐出ヘッドと機能部品や機構が、締結、接着、係合等によって互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと機能部品や機構が互いに着脱可能であってもよい。
【0056】
液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクとが一体化されているもの、両者がチューブ等で互いに接続されて一体化されているものがある。ここで、これ等の液体吐出ユニットの液体吐出ヘッドとヘッドタンクとの間に、フィルタを含むユニットを追加することも可能である。
【0057】
また液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジとが一体化されているもの、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構とが一体化されているものがある。また液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させ、液体吐出ヘッドと走査移動機構とが一体化されているものがある。
【0058】
液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構とが一体化されているものがある。また液体吐出ユニットとして、ヘッドタンクまたは流路部品が取り付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続され、液体吐出ヘッドと供給機構とが一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0059】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。供給機構は、チューブ単体及び装填部単体も含むものとする。
【0060】
本発明では、液体吐出ユニットについて液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、液体吐出ユニットには上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品や機構が一体化されたものも含まれる。
【0061】
液体を吐出する装置には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニット等を備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけではなく、液体を気体中や液体中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0062】
液体を吐出する装置は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に関わる手段、その他の前処理装置や後処理装置等にも含むことができる。例えば液体を吐出する装置としては、インクを吐出させて被記録媒体に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出する立体造形装置(三次元造形装置)が挙げられる。
【0063】
また液体を吐出する装置は、吐出された液体によって文字や図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体では意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0064】
上述した液体が付着可能なものとは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するものや付着して浸透するもの等を意味する。具体例としては、用紙、フィルム、布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セル等の媒体が挙げられ、特に限定しない限り液体が付着する全てのものが含まれる。液体が付着可能なものの材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等、液体が一時的でも付着可能であれば、どのような材質のものであってもよい。
【0065】
液体を吐出する装置には、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する構成を含むが、異動する対象は何れか一方には限定されない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置が共に含まれる。
【0066】
また、液体を吐出する装置としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で用紙の表面に処理液を塗布するために用紙表面に対して処理液を吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等が挙げられる。
【0067】
また、本発明に係る「液体を吐出する装置」には、電極及び電気化学素子の製造装置も含まれる。以下、電極の製造装置について説明する。
【0068】
図26は、本発明の実施形態に係る電極の製造装置の一例を示す模式図である。
電極の製造装置は、液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールを用いて液体組成物を吐出することにより電極材料を有する層を含む電極を製造する装置である。
【0069】
図26に示される電極の製造装置が備える吐出手段は、上述した実施形態(変形例を含む)に係る液体吐出ヘッド1を含むヘッドモジュールである。ヘッドモジュールが有する液体吐出ヘッド1から液体組成物が吐出されることにより、対象物上に液体組成物が付与され、液体組成物層が形成される。対象物(以下、「吐出対象物」と称することがある。)としては、電極材料を含む層が形成される対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、対象物として、電極基体(集電体)、活物質層、固体電極材料を含む層などが挙げられる。また、対象物は、電極基体(集電体)上に活物質を含む電極合材層であってもよい。また、吐出手段及び吐出工程は、吐出対象物に対して電極材料を有する層を形成することが可能であれば、液体組成物を直接的に吐出することにより電極材料を有する層を形成する手段及び工程であってもよい。また、吐出手段及び吐出工程は、液体組成物を間接的に吐出することにより電極材料を有する層を形成する手段及び工程であってもよい。
【0070】
電極合材層の製造装置に含まれるその他の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、電極合材層の製造方法に含まれるその他の工程も、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、電極合材層の製造装置及び製造方法に含まれる構成及び工程として、加熱手段及び加熱工程などが挙げられる。
【0071】
電極合材層の製造装置に含まれる加熱手段は、吐出手段により吐出された液体組成物を加熱する手段である。また、電極合材層の製造方法に含まれる加熱工程は、吐出工程において吐出された液体組成物を加熱する工程である。液体組成物を加熱することにより、液体組成物層を乾燥させることができる。
【0072】
ここで、電極の製造装置の一例として、電極基体(集電体)上に活物質を含む電極合材層を形成する電極の製造装置を説明する。
図26に示されるように、電極の製造装置は、吐出対象物を有する印刷基材704上に液体組成物を付与して液体組成物層を形成する工程を含む吐出工程部110と、液体組成物層を加熱して電極合材層を得る加熱工程を含む加熱工程部130とを備える。
【0073】
電極の製造装置は、印刷基材704を搬送する搬送部705を備える。搬送部705は、吐出工程部110、加熱工程部130の順に印刷基材704をあらかじめ設定された速度で搬送する。活物質層などの吐出対象物を有する印刷基材704の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。吐出工程部110は、印刷基材704上に液体組成物を付与する付与工程を実現する液体吐出ヘッド1と、液体組成物707を収容する収容容器111と、収容容器111に収容される液体組成物707を液体吐出ヘッド1に供給する供給チューブ112とを備える。
【0074】
吐出工程部110においては、液体吐出ヘッド1から液体組成物707が吐出され、印刷基材704上に液体組成物707が付与されて、液体組成物層が薄膜状に形成される。なお、収容容器111は、電極合材層の製造装置と一体化した構成であってもよいし、電極合材層の製造装置から取り外し可能な構成であってもよい。また、収容容器111は、電極合材層の製造装置と一体化した収容容器、又は、電極合材層の製造装置から取り外し可能な収容容器に添加するために用いられる容器であってもよい。
【0075】
収容容器111及び供給チューブ112は、液体組成物707を安定して収容及び供給できるものであれば任意に選択可能である。
【0076】
加熱工程部130においては、液体組成物層に残存する溶媒を加熱して除去する溶媒除去工程が行われる。詳しくは、液体組成物層に残存する溶媒が、加熱工程部130の加熱装置703によって加熱されて乾燥することにより、液体組成物層から溶媒が除去される。これにより、電極合材層が形成される。また、加熱工程部130における溶媒除去工程は、減圧下で行われてもよい。
【0077】
加熱装置703としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、加熱装置703として、基板加熱、IRヒータ、温風ヒータなどが挙げられる。また、加熱装置703は、基板加熱、IRヒータ、温風ヒータの少なくとも2つを組み合わせたものであってもよい。また、加熱温度及び加熱時間に関しては、液体組成物707に含まれる溶媒の沸点又は形成膜厚に応じて適宜選択可能である。
【0078】
本発明の実施形態に係る電極の製造装置を用いることにより、吐出対象物の狙ったところに液体組成物を吐出することができる。電極合材層は、例えば、電気化学素子の構成の一部として、好適に用いることができる。電気化学素子における電極合材層以外の構成としては、特に制限はなく、公知のものを適宜選択することができる。例えば、電極合材層以外の構成として、正極、負極、セパレータなどが挙げられる。
【0079】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を例示したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0080】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、複数の基板(例えば、ノズル板10、流路板20及び振動板部材30、共通流路部材50、ダンパ部材60のダンパフレーム基板65等)を基板厚み方向に重ねて接合された液体吐出ヘッド1であって、第一基板(例えばダンパフレーム基板65)と、前記第一基板上の接合領域(例えば第一接着剤付与領域B1)に付与された接合剤(例えばUV接着剤67)によって該第一基板に接合される薄板部材(例えばダンパ板66)と、前記第一基板との間に前記薄板部材を挟み込んだ状態で前記第一基板と接合される第二基板(例えば、振動板部材30、共通流路部材50など)とを有し、前記第二基板には、前記薄板部材を介して前記第一基板の前記接合領域と対向する領域に空隙C,C'が設けられていることを特徴とするものである。
液体吐出ヘッドの吐出性能を悪化させる要因は種々存在するが、本発明者らの研究の結果、接合に用いられる接合剤が液体吐出ヘッドの吐出性能を悪化させる新たな要因になり得ることを見出した。詳しくは、ダンパ室形成部材などの第一基板と共通液室部材などの第二基板とを接合する前に、第一基板上の接合領域に付与された接合剤によってダンパ部材などの薄板部材を第一基板に接合させることがある。この接合時において、第一基板と薄板部材との間の接合剤が変形して硬化し、薄い薄板部材を接合剤が凸状に局所変形させることが確認された。その結果、第一基板との間に薄板部材を挟み込んだ状態で接合される第二基板には、薄板部材の凸状部分により局所的な外力が加わり、これにより第二基板が変形して液体吐出ヘッドの吐出性能の悪化などの不具合が生じ得る。
本態様によれば、第二基板には、薄板部材を介して第一基板の前記接合領域と対向する領域に空隙が設けられている。これにより、接合剤によって薄板部材が凸状に変形しても、その凸状部分は第二基板の空隙内に収まり、第二基板に加わる局所的な外力を抑えることができる。その結果、接合剤による薄板部材の凸状部分によって第二基板が変形することによって生じていた不具合を抑制することができる。
【0081】
なお、基板同士を接合する際や基板と薄板部材とを接合する際には、2種以上の接合剤(接着剤)を使用してもよい。例えば、仮接合のためにUV接着剤を用い、本接合には熱硬化性のエポキシ系の接着剤を用いてもよい。この場合、例えば、
図25に例示するように、接合対象の一方である基板70の基板面の大部分に熱硬化性のエポキシ接着剤69bを塗布するとともに、UV接着剤69aを当該基板面の四隅に塗布する。その後、接合対象の他方である基板又は薄板部材を重ね合わせ、その状態でUV照射し、先に四隅のUV接着剤69aを硬化させて接合を行う。この接合を「仮接合」としても良い。その後、加圧した状態で加熱することでエポキシ接着剤69bを熱硬化させて、2つの接合対象を互いに完全に接合させる。この接合を「本接合」としても良い。この加圧した状態で加熱して熱硬化する際に、前記2つの接合対象間で位置ずれが生じるおそれがあるが、熱硬化前にUV接着剤を硬化させて仮接合しておくことで仮止めされ、位置ずれを回避することができる。
【0082】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記第二基板は、圧力室21内の液体をノズル11から吐出するために駆動する電気機械変換素子(例えば圧電素子40)を保持するアクチュエータ基板(例えば振動板部材30)を含むことを特徴とするものである。
本態様では、接合剤による薄板部材の凸状部分によって第二基板が局所的な外力が加わったとき、第二基板に含まれるアクチュエータ基板が変形して、電気機械変換素子やその周辺の構造が変形してしまい、液体吐出ヘッドの吐出性能の悪化が生じやすい。本態様によれば、このように接合剤による薄板部材の凸状部分によって液体吐出ヘッドの吐出性能が悪化しやすい液体吐出ヘッドにおいて、吐出性能の悪化を抑制することができる。
【0083】
[第3態様]
第3態様は、第2態様において、前記空隙は、基板面方向において、前記電気機械変換素子から外れた領域に設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、アクチュエータ基板を含む第二基板に空隙を設けても、電気機械変換素子の配置などに影響を与えることはない。
【0084】
[第4態様]
第4態様は、第2又は第3態様において、前記薄板部材は、ダンパ(例えばダンパ板66)であり、前記第一基板は、ダンパ保持基板(例えばダンパフレーム基板65)であることを特徴とするものである。
これによれば、ダンパ保持基板にダンパを接合する際の接合剤によってダンパに凸状部分が生じても、当該凸状部分による第二基板の変形を抑制し、上述した不具合の発生を抑制することができる。
【0085】
[第5態様]
第5態様は、第1乃至第4態様のいずれかにおいて、前記空隙は、前記接合領域の全域に対向するように設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、接合剤によって生じる薄板部材の凸状部分の全体が空隙内に収まることができるので、当該凸状部分による第二基板への局所的な外力を最小限に抑えることができ、当該凸状部分に起因した不具合をより確実に抑制することができる。
【0086】
[第6態様]
第6態様は、第1乃至第5態様のいずれかにおいて、前記空隙は、前記第二基板の所定方向(例えば第二基板の短手方向)全域にわたって設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、構造的に脆い部分となる隔壁50aを第二基板に設けることを回避しやすく、第二基板が破損しにくい液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0087】
[第7態様]
第7態様は、第1乃至第6態様のいずれかにおいて、前記第一基板上の接合領域(例えば第一接着剤付与領域B1)は、前記第一基板の基板面から凹んだ凹部内に設けられ、前記第二基板と第二接合剤(例えばUV接着剤68)によって接合される前記第一基板上の第二の接合領域(例えば第二接着剤付与領域B2)は、前記第一基板の基板面に設けられることを特徴とするものである。
これによれば、構造的に脆い部分となる隔壁65aを第一基板に設けることを回避しやすく、第一基板が破損しにくい液体吐出ヘッドを得ることができる。
【0088】
[第8態様]
第8態様は、第1乃至第7態様のいずれかにおいて、前記接合剤は、光硬化性樹脂であることを特徴とするものである。
光硬化性樹脂は、その硬化時の収縮などによって凸状に変形し、薄板部材に凸状部分を生じさせ得る。本態様によれば、光硬化性樹脂によって薄板部材に生じる凸状部分に起因した不具合を抑制することができる。
【0089】
[第9態様]
第9態様は、第8態様において、前記接合領域は、前記第一基板の端部領域に形成されていることを特徴とするものである。
これによれば、接合領域に付与された光硬化性樹脂に対し、第一基板の当該端部側から外部からの光を照射して接合を行うことができる。
【0090】
[第10態様]
第10態様は、第1乃至第9態様のいずれかにおいて、前記第二基板は、前記薄板部材と隣接する液体流路基板(例えば共通流路部材50)を含み、前記空隙は、前記液体流路基板に形成される液体流路(例えば共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53)の深さと同じ深さで該液体流路基板に設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、空隙を第二基板に形成するにあたり、この第二基板に形成される液体流路と同じプロセスで空隙を形成することができ、製造工程を簡略化できる。
【0091】
[第11態様]
第11態様は、第1乃至第10態様のいずれかにおいて、前記第一基板及び前記第二基板は、前記薄板部材に形成される切り欠き又は貫通孔を介して、第二接合剤によって互いに接合されることを特徴とするものである。
これによれば、薄板部材を介さずに第一基板と第二基板とを第二接合剤によって互いに接合することができる。
【0092】
[第12態様]
第12態様は、液体吐出ユニットであって、第1乃至第11態様のいずれかの液体吐出ヘッドを含むことを特徴とするものである。
これによれば、接合剤による液体吐出ヘッドの不具合が抑制された液体吐出ユニットを提供することができる。
【0093】
[第13態様]
第13態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第11態様のいずれかの液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするものである。
これによれば、接合剤による液体吐出ヘッドの不具合が抑制された液体を吐出する装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0094】
1 :液体吐出ヘッド
10 :ノズル板
11 :ノズル
20 :流路板
21 :圧力室
22 :個別供給流路
23 :個別回収流路
25 :個別流路
30 :振動板部材
31 :振動板
32 :供給側開口
33 :回収側開口
40 :圧電素子
50 :共通流路部材
52 :共通供給流路支流
53 :共通回収流路支流
54 :供給口
55 :回収口
56 :共通供給流路本流
57 :共通回収流路本流
60 :ダンパ部材
61A,61B:貫通孔
62 :供給側ダンパ
63 :回収側ダンパ
65 :ダンパフレーム基板
66 :ダンパ板
66a :凸状部分
67,68,69a:UV接着剤
69b :エポキシ接着剤
70 :接合対象基板
80 :フレーム部材
100 :液体吐出ユニット
110 :吐出工程部
111 :収容容器
112 :供給チューブ
130 :加熱工程部
400 :印刷装置
440,450:液体吐出ユニット
500 :印刷装置
703 :加熱装置
704 :印刷基材
705 :搬送部
707 :液体組成物
B1 :第一接着剤付与領域
B2 :第二接着剤付与領域
C,C' :空隙
D :流路配置領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0095】