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特開2024-50925保護フィルム、それを用いたフィルム積層体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024050925
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】保護フィルム、それを用いたフィルム積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240403BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B9/00 A
B32B27/16 101
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021651
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2020055598の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2019068538
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天内 英隆
(72)【発明者】
【氏名】細井 康平
(72)【発明者】
【氏名】最川 亮
(57)【要約】
【課題】基材フィルムの片面側に無機物層を備えた保護フィルムに関し、より高いガスバリア性を得ることができる新たな保護フィルム及びその製造方法、さらには、該保護フィルムを用いたフィルム積層体を提供する。
【解決手段】基材フィルム(1)の片面側に、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた保護フィルムであって、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含む保護フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム(1)の片面側に、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた保護フィルムであって、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含む保護フィルム。
【請求項2】
温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過率(WvTR)が0.060g/m/day以下である、請求項1記載の保護フィルム。
【請求項3】
基材フィルム(1)がポリエステルフィルムである、請求項1又は2に記載の保護フィルム。
【請求項4】
架橋樹脂層の厚みが1μm~35μmである、請求項1~3の何れかに記載の保護フィルム。
【請求項5】
架橋樹脂層は、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオン、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂を含む架橋性樹脂組成物が架橋した架橋樹脂構造からなる層である、請求項1~4の何れかに記載の保護フィルム。
【請求項6】
前記アルカリ金属イオンがナトリウムイオンおよび/又はカリウムイオンであるか、又は、アルカリ土類金属イオンがマグネシウムイオンおよび/又はカルシウムイオンである、請求項1~5の何れかに記載の保護フィルム。
【請求項7】
前記アルカリ金属イオンが水溶性アルカリ金属化合物由来のイオンであるか、又は、前記アルカリ土類金属イオンが水溶性アルカリ土類金属化合物由来のイオンである請求項1~6の何れかに記載の保護フィルム。
【請求項8】
前記架橋性樹脂組成物は、バインダー樹脂100質量部に対して、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物を0.0001質量部~5.0質量部含有する、請求項5~7の何れかに記載の保護フィルム。
【請求項9】
前記水溶性アルカリ金属化合物が、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウム及び塩化カリウムのうちから選択される少なくとも1種類以上であるか、又は、前記水溶性アルカリ土類金属化合物が塩化マグネシウム及び水酸化カルシウムのうちから選択される少なくとも1種類以上である、請求項7又は8に記載の保護フィルム。
【請求項10】
基材フィルム(1)の片面側に無機物層及び架橋樹脂層を順次形成する保護フィルムの製造方法において、
水溶性又は水分散性のバインダー樹脂、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物を含む架橋性樹脂組成物を塗布及び架橋させて架橋樹脂層を形成することを特徴とする保護フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記架橋性樹脂組成物は、水および/又はアルコールを主溶媒として含有する請求項10に記載の保護フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記架橋性樹脂組成物は、バインダー樹脂100質量部に対して、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物を0.0001質量部~5.0質量部含有する、請求項10又は11に記載の保護フィルムの製造方法。
【請求項13】
プラズマアシスト蒸着法により、前記無機物層に酸素ガスを導入する請求項10~12の何れかに記載の保護フィルムの製造方法。
【請求項14】
請求項1~9の何れかに記載の保護フィルムの架橋樹脂層表面に、接着剤層を介して、基材フィルム(2)が貼り合わされてなる構成を備えたフィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性に優れた保護フィルム、それを用いたフィルム積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチックフィルムを基材とし、無機酸化物蒸着層などの無機物を主材とする層(「無機物層」と称する)を前記基材の表面に形成した構成のガスバリアフィルムは、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質防止用包装に広く利用されている。
また、このガスバリアフィルムについては、包装用途以外にも、近年、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL用基板、カラーフィルターなど、新しい用途も注目されている。
【0003】
このような無機物層を有するガスバリアフィルムに関しては、種々の改良検討がされている。
例えば、透明性及びガスバリア性と共に、デラミネーション等の発生がない耐ボイル性及び耐レトルト性を持たせる観点から、プラスチック基材の少なくとも片面に、官能基含有シランカップリング剤又はシランカップリング剤の加水分解物とポリオール及びイソシアネート化合物との複合物からなるプライマー層、及び厚さ5~300nmの無機酸化物薄膜層を順次積層してなる蒸着フィルムが開示されている(特許文献1)。
【0004】
また、優れたガスバリア性及び構成層間の密着強度の観点から、基材フィルム/無機薄膜層/アンカー層/無機薄膜層からなり、アンカー層の厚みが0.1~10nmである極薄いガスバリア性積層フィルムが開示されている(特許文献2)。
【0005】
さらに、プラスチック基材の片面又は両面に、酸化ケイ素膜(SiOx)をバリア層として積層してなるバリアフィルムにおいて、前記バリア層が少なくとも2層以上の酸化ケイ素膜で構成されており、前記酸化ケイ素膜1層あたりの膜厚が10nm以上50nm以下であり、前記2層以上の酸化ケイ素膜で構成されているバリア層の膜厚が20nm以上200nm以下であり、前記バリア層中の炭素原子の割合が10at.%以下である、ガスバリアフィルムが開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-238172号公報
【特許文献2】国際公開2007-034773号パンフレット
【特許文献3】特開2009-101548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、基材フィルムの片面側に無機物層を備えた保護フィルムに関し、より高いガスバリア性を得ることができる新たな保護フィルム及びその製造方法、さらには、該保護フィルムを用いたフィルム積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材フィルム(1)の片面側に、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた保護フィルムであって、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含む保護フィルムを提案する。
【0009】
本発明はまた、基材フィルム(1)の片面側に無機物層及び架橋樹脂層を順次形成する保護フィルムの製造方法において、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物を含む架橋性樹脂組成物を塗布及び架橋させて架橋樹脂層を形成することを特徴とする保護フィルムの製造方法を提案する。
【0010】
本発明はさらに、上記保護フィルムの架橋樹脂層表面に、接着剤層を介して、基材フィルム(2)が貼り合わされてなる構成を備えたフィルム積層体を提案する。
また、上記保護フィルムの架橋樹脂層表面に、接着剤層を介して、基材フィルム(2)及び架橋樹脂層を備えた保護フィルムの当該架橋樹脂層が貼り合わされてなる構成を備えたれたフィルム積層体を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明が提案する保護フィルムは、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むことにより、より高いガスバリア性を得ることができる。よって、本発明が提案する保護フィルム及びこれを用いたフィルム積層体は、例えば、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質防止用の包装材料として広く利用することができる。また、包装用途以外にも、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL用基板、カラーフィルターなど、各種部材に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<<本保護フィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る保護フィルム(「本保護フィルム」と称する)は、基材フィルム(1)(「本基材フィルム」と称する)の片面側に、アンカー層、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えており、前記架橋樹脂層が、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含む保護フィルムである。但し、前記アンカー層は省略することもできる。
【0014】
本保護フィルムは、前記架橋樹脂層が、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むことで、より高いガスバリア性を得ることができる。このメカニズムを推測すると、無機物層内の隙間、例えば無機物層を構成する無機物粒子間の隙間や、無機物結晶粒界、欠陥などにアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが侵入して存在することで、ガスバリア性が高まるものと推定することができる。
また、架橋樹脂層内にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが存在すると、該アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが隣接する無機物層内に拡散浸透して、上記のように無機物層内の隙間にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが侵入して存在するようになるため、ガスバリア性が高まるものと推定することができる。
よって、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むことで、より高いガスバリア性を得ることができる。
【0015】
<本基材フィルム>
本保護フィルムを構成する本基材フィルムは、透明性を有し、且つ、保護フィルムとして必要十分な剛性を備えたフィルムであれば、材質及び構成を限定するものではない。
【0016】
本基材フィルムは、単層構成であっても、多層構成であってもよい。
本基材フィルムが多層構成の場合、2層又は3層構成であってもよいし、4層又はそれ以上の多層であってもよい。
【0017】
本基材フィルムが単層構成であっても、多層構成であっても、各層の主成分樹脂がポリエステルであるのが好ましい。
この際、「主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂のうち最も含有割合の多い樹脂を意味し、例えば各層を構成する樹脂のうち50質量%以上、特に70質量%以上、中でも80質量%以上(100質量%を含む)を占める樹脂である。
本基材フィルムの各層は、ポリエステルを主成分樹脂として含有すれば、ポリエステル以外の樹脂或いは樹脂以外の成分を含有していてもよい。
【0018】
上記ポリエステルは、ホモポリエステルであっても、共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができる。前記脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等を例示することができる。
【0019】
他方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、セバシン酸などの1種又は2種以上を挙げることができ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0020】
本基材フィルムの主成分樹脂としてのポリエステルの具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアリレート類、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、ポリスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル系液晶ポリマー、トリアセチルセルロース、セルロース誘導体、ポリプロピレン、ポリアミド類、ポリイミド、ポリシクロオレフィン類等を例示することができる。この中でも、PET、PEN等を主成分樹脂とするフィルムは取扱い性の点で特に好ましい。
【0021】
本基材フィルムは、フィルム表面を粗面化して易滑性を付与する目的および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を含有してもよい。
当該粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではない。例えば、シリカ炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子、アクリル樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等の有機粒子等を挙げることができる。これらは1種単独で用いても、これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
上記粒子の形状は、特に限定されるわけではない。例えば球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれであってもよい。
また、上記粒子の硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上記粒子の平均粒径は、5μm以下であるのが好ましく、中でも0.01μm以上或いは3μm以下、その中でも0.5μm以上或いは2.5μm以下であるのがさらに好ましい。当該粒子の平均粒径が5μm以下であれば、本基材フィルムの表面粗度が粗くなり過ぎることがないから、その点で本基材フィルムの表面にアンカー層乃至無機物層を形成する際の不具合が減らすことができる。
【0023】
粒子含有量は、本基材フィルムの5質量%以下であるのが好ましく、中でも0.0003質量%以上或いは3質量%以下、その中でも0.01質量%以上或いは2質量%以下であるのがさらに好ましい。粒子含有量を前記範囲とすることで、フィルムの滑り性と透明性との両立が可能となるので好ましい。
【0024】
本基材フィルムに粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、ポリエステルを製造する任意の段階において添加することができる。好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0025】
本基材フィルムは、必要に応じて、従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料、紫外線吸収剤などを含有することもできる。
【0026】
本基材フィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではなく、9μm~100μmであるのが好ましく、中でも12μm以上或いは75μm以下、その中でも15μm以上或いは60μm以下であるのがさらに好ましい。
【0027】
本基材フィルムは、例えば樹脂組成物を溶融製膜方法や溶液製膜方法によりフィルム形状にすることにより形成することができる。多層構造の場合は、共押出してもよい。
また、一軸延伸又は二軸延伸したものであってもよく、剛性の点から、二軸延伸フィルムであるのが好ましい。
【0028】
<本アンカー層>
本保護フィルムを構成するアンカー層(「本アンカー層」と称する)は、本基材フィルムと本無機物層との接着性を高めるための層であり、本基材フィルムと本無機物層との接着性を高めることができれば、その組成は任意である。
【0029】
本アンカー層は、例えばアンカーコート剤から形成することができる。
当該アンカーコート剤としては、溶剤性又は水性のポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート基含有樹脂、アルコキシル基含有樹脂、変性スチレン樹脂及び変性シリコーン樹脂等を挙げることができ、これらを単独或いは2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、密着性及び耐熱水性の点から、ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート含有樹脂及びこれらの共重合体から選ばれる少なくとも1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましく、その中でも、ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂の1種類以上と、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート基含有樹脂から選ばれる少なくとも1種を単独で又は2種以上と、を組み合わせて用いることが好ましい。
【0030】
本アンカー層の厚さが5μm以下であれば、滑り性が良好であり、アンカー層自体の内部応力による本基材フィルムからの剥離もほとんどなく、また、0.005μm以上の厚さであれば、均一な厚さを保持できるので好ましい。
かかる観点から、本アンカー層の厚さは0.005~5μmであるのが好ましく、中でも0.01μm以上或いは1μm以下、その中でも0.02μm以上或いは0.5μm以下であるのがより好ましい。
【0031】
<本無機物層>
本保護フィルムを構成する無機物層(「本無機物層」と称する)は、無機物、特に無機酸化物を主材として含有する層である。
該「主材」とは、本無機物層の50質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)を占める材料という意味である。
【0032】
本無機物層は、ガス透過を抑制する性質(「ガスバリア性」とも称する)、特に水蒸気バリア性を高めることができる層である。さらに本無機物層の場合は、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むことで、より高いガスバリア性を得ることができる。このメカニズムを推論すると、前述したように、無機物層内の隙間、例えば無機物層を構成する無機物粒子間の隙間や、無機物結晶粒界、欠陥、例えばシリカ蒸着膜においてはシリカ結晶構造中の空隙などにアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが侵入して該隙間を埋めることで、ガスの通り道を遮断することができ、ガスバリア性が高まるものと推定することができる。
【0033】
本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むようにするためには、隣接する架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むように該架橋樹脂層を形成することによっても、本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むようにすることができる。つまり、隣接する架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含んでいれば、最初から本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含んでいる必要はない。
なお、本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むようにする手法を、これらの方法に限定するものではない。
【0034】
前記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの何れか又はこれら両方を例示することができる。但し、これらに限定するものではない。
本無機酸化物中の前記アルカリ金属イオンは、イオンの状態で存在してもよいし、アルカリ金属化合物の状態で存在してもよい。
当該アルカリ金属化合物としては、水溶性アルカリ金属、例えば水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウム及び塩化カリウムのうちから選択される少なくとも1種類以上を挙げることができる。
【0035】
また、前記アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンのうちの何れか又はこれら両方を例示することができる。但し、これらに限定するものではない。
本無機酸化物中の前記アルカリ土類金属イオンは、イオンの状態で存在してもよいし、アルカリ土類金属化合物の状態で存在してもよい。
当該アルカリ土類金属化合物としては、水溶性アルカリ土類金属化合物、例えば塩化マグネシウム及び水酸化カルシウムのうちから選択される少なくとも1種類以上を挙げることができる。
ガスバリア性向上の観点から、アルカリ金属化合物を含むのがより好ましい。
【0036】
本無機物層を構成する主材としての無機物としては、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム及び酸化炭化アルミニウムからなる群から選択される1種又は2種以上の無機化合物を挙げることができる。
【0037】
本無機物層としては、例えば物理的気相蒸着(PVD)法により形成されたPVD無機物層、プラズマアシスト蒸着法により形成されたプラズマアシスト蒸着無機物層、化学蒸着(CVD)法により形成されたCVD無機物層、無機粒子を有機ポリマーに分散させて塗布する方法により形成されたコート無機物層などであるのが好ましい。
ここでは、本無機物層の代表例として、PVD無機物層、プラズマアシスト蒸着無機物層、及び、CVD無機物層について説明する。
【0038】
(PVD無機物層)
本無機物層が、物理的気相蒸着法(PVD)により形成されたPVD無機物層を少なくとも1層備えていれば、より高いガスバリア性を発揮させることができる点で好ましい。
【0039】
PVD無機物層の一例として、SiOx(1.0<x≦2.0)で表されるケイ素酸化物から構成された層を挙げることができる。この際、前記SiOxのxの値(下限値)が小さくなれば、ガス透過度が小さくなり、本無機物層のガスバリア性を高めることができる一方、ケイ素酸化物膜自体が黄色性を帯び、透明性が低くなる傾向がある。かかる観点から、前記SiOxにおけるxは、1.2≦x≦2.0であるのがより好ましく、その中でも1.4≦x≦2.0であるのがさらに好ましい。
上記組成であることはXPS分析などで確認することができる。
【0040】
PVD無機物層形成時の好ましい圧力は、ガスバリア性と真空排気能力と製膜するSiOx層の酸化度の観点から、1×10-7Pa~1Paであるのが好ましく、中でも1×10-6Pa以上或いは1×10-1Pa以下、その中でも1×10-4Pa以上或いは1×10-2Pa以下であるのがさらに好ましい。
酸素の導入時の分圧は、全圧に対して10~90%の範囲であるのが好ましく、中でも20%以上或いは80%以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
本無機物層は、前述のように、PVD無機物層を少なくとも1層備えているのが好ましい。この際、本無機物層は、PVD無機物層からなる単層構成でもよいし、また、より高いガスバリア性確保のために、当該PVD無機物層上に、後述するCVD無機物層や、組成が同一もしくは異なるPVD無機物層が積層してなる複層(二層以上)構成としてもよい。例えば、PVD無機物層とCVD無機物層とが交互に形成された構成(例えば、PVD無機物層とCVD無機物層とPVD無機物層との3層構成等)とすることもできる。また、PVD無機物層上にCVD無機物層を形成することにより、PVD無機物層に生じた欠陥等の目止めが行われ、ガスバリア性や層間の密着性が向上する傾向にある。
【0042】
(プラズマアシスト蒸着無機物層)
本無機物層が、プラズマアシスト蒸着無機物層から構成されていれば、ガスバリア性を低下させずに透明性を向上させることができる。
「プラズマアシスト蒸着法」とは、真空蒸着中に、プラズマにより蒸着材料をイオン化しながら蒸着する、或いは別に設けたイオン源から気体イオンを照射する方法をいう。
プラズマアシスト蒸着法により本無機物層を形成すれば、効率的に酸素を本無機物層に取り込むことができ、上述したように、ガスバリア性を低下させずに透明性を向上させることができる。
通常の真空蒸着による薄膜は、スパッタリングなどにおける薄膜と比べて、飛来する粒子のもつエネルギーが小さく、膜の強度や密度において有利ではない。一方、プラズマアシスト蒸着法によれば、蒸着物質がエネルギーを得るため、真空蒸着においても強度、密度の高い薄膜を形成することができる。また、プラズマ中の励起種は、反応性に富むため、酸素、窒素、アセチレンなどのガスを導入することで、蒸発源を任意に酸化、窒化、炭化させた薄膜形成が可能となる。該方法により本無機物層を設けることで、スパッタリングやプラズマCVD法よりも速く製膜できるという利点も有している。
【0043】
プラズマアシスト蒸着無機物層の一例として、SiOx(1.0<x≦2.0)で表されるケイ素酸化物から構成された層を挙げることができる。上述のように、プラズマアシスト蒸着法により本無機物層に酸素ガスを導入すれば、酸化ケイ素の酸素モル比を高めることができるから、前記SiOxにおけるxを1.2≦x≦2.0とすることができ、さらには1.4≦x≦2.0とすることができるから、より透明性を高めることができる。なお、酸素モル比(x)が大きくなれば、ガスバリア性は低下するのが通常であるが、本保護フィルムに関しては優れたガスバリア性を維持することができる。
【0044】
(CVD無機物層)
本無機物層が、CVD無機物層を少なくとも1層備えている場合、CVD無機物層は、金属、金属酸化物、金属窒化物及びケイ素化合物から選ばれる少なくとも一種を化学蒸着させてなる薄膜から構成されるのが好ましい。
前記金属酸化物又は金属窒化物としては、ガスバリア性、密着性の点から、前記金属の酸化物、窒化物及びこれらの混合物を用いるのが好ましい。また、有機化合物をプラズマ分解して得られる金属酸化物又は金属窒化物であってもよい。
また、ガスバリア性、密着性の点から、ケイ素、アルミニウム等の金属又は化合物を用いるのも好ましい。
【0045】
本無機物層の好ましい一例として、酸化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、窒化ケイ素などのケイ素化合物、及び酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも一種を化学蒸着させてなる薄膜からなる構成を挙げることができる。
上記ケイ素化合物としては、シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラn-ブトキシシラン、テトラt-ブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(3,3,3-トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルビニルシラン、ビス(エチルアミノ)ジメチルシラン、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノジメチルシラン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ヘプタメチルジシラザン、ノナメチルトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン、テトラキスジメチルアミノシラン、テトライソシアナートシラン、テトラメチルジシラザン、トリス(ジメチルアミノ)シラン、トリエトキシフルオロシラン、アリルジメチルシラン、アリルトリメチルシラン、ベンジルトリメチルシラン、ビス(トリメチルシリル)アセチレン、1,4-ビストリメチルシリル-1,3-ブタジイン、ジ-t-ブチルシラン、1,3-ジシラブタン、ビス(トリメチルシリル)メタン、シクロペンタジエニルトリメチルシラン、フェニルジメチルシラン、フェニルトリメチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、テトラメチルシラン、トリメチルシリルアセチレン、1-(トリメチルシリル)-1-プロピン、トリス(トリメチルシリル)メタン、トリス(トリメチルシリル)シラン、ビニルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロテトラシロキサン、Mシリケート51等を挙げることができる。
【0046】
CVD無機物層は、炭素を含有するのが好ましい。その際、CVD無機物層の炭素含有量は0.5at.%以上、好ましくは1at.%以上、より好ましくは2at.%以上であるのがよい。
CVD無機物層が炭素を微量含有することで、応力緩和が効率よくなされ、バリアフィルム自体のカールを低減することもできる。その一方、ガスバリア性の観点から、CVD無機物層における炭素含有量は20at.%未満であることが好ましく、中でも10at.%以下であるのがより好ましく、その中でも5at.%以下であるのが最も好ましい。
炭素含有量を上記範囲とすることで、無機物層の表面エネルギーが大きくなり、無機物層同士の間の密着性が良好となるため、バリアフィルムの耐折曲げ性、耐剥離性が向上する。
なお、「at.%」とは、原子組成百分率(atomic%)を示す。
また、組成に関してはXPS分析などで確認することが可能である。
【0047】
CVD無機物層の形成は、例えば特開2013-226829号公報記載の方法により実施することができる。
例えば化学蒸着(CVD)法により、ケイ素酸化物からなる層を形成する場合、そのための原料としては、ケイ素化合物であれば、常温常圧下で気体、液体、固体いずれの状態であっても使用することができる。気体の場合には、そのまま放電空間に導入できる。液体、固体の場合は、加熱、バブリング、減圧、超音波照射等の手段により気化させて使用するのが好ましい。また、溶媒希釈してから使用してもよい。該溶媒としては、メタノール、エタノール、n-ヘキサンなどの有機溶媒及びこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0048】
化学蒸着(CVD)法を実施する際、10Pa以下の減圧環境下において、本基材フィルム、特にアンカー層を設けた本基材フィルムを、100m/分以上の速度で搬送しながら化学蒸着(CVD)法を実施するのが好ましい。
化学的気相蒸着法(CVD)により薄膜を形成する際の圧力は、緻密な薄膜を形成するため減圧下で行うことが好ましく、成膜速度とバリア性の観点から、10Pa以下であるのが好ましく、中でも1×10-2Pa以上或いは10Pa以下、その中でも1×10-1Pa以上或いは1Pa以下がより好ましい。
【0049】
CVD無機物層には、耐水性、耐久性向上のため、必要に応じて、電子線照射による架橋処理を施してもよい。
【0050】
(本無機物層の層構成)
本無機物層は、単層構成であっても、2層以上の複層構成であってもよい。
例えば、2層以上の複層構成の一例として、そのうちの一層を無機物、例えば無機酸化物のみからなる無機物層とし、他の一層を、無機物例えば無機酸化物と有機物とからなる無機・有機混合層とする例を挙げることができる。
無機物に有機物を混合して本無機物層を形成することにより、本無機物層を比較的柔軟な層とすることができるため、このような柔軟な層を設けることにより、ガスバリア性を高めることができる場合がある。すなわち、基材フィルムの粗大突起部が起点となって、無機物層表面に、ピンホールと呼ばれる微小な欠陥が生じたり、加熱蒸着時に原料が塊となって飛来し付着して、無機物層表面に微小な欠陥が生じたりすることがあり、この欠陥による空隙をガスが通過することによってガスバリア性が低下することがある。そこで、前述のような柔軟な層を、前記表面に重ねて積層することで、前記欠陥を埋めることができ、ガスバリア性を高めることができる場合がある。
なお、ここで言う「柔軟な層」とは、例えばフレキシブル用途など、屈曲性が必要な用途に対応できるように、無機物層の応力を緩和する層の意味を包含するものである。
【0051】
前記のように、柔軟な層を形成するために、前記無機物に有機物を混合して層を形成すればよく、その際の有機物としては、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、PVAなどの有機物のほか、有機系フィラーを挙げることができる。
【0052】
(厚さ)
本無機物層の厚さ(無機物層が複層構成である場合はそれらの合計厚)は、0.1nm~500nmであるのが好ましく、中でも1nm以上或いは300nm以下、その中でも5nm以上或いは100nm以下であるのがさらに好ましい。
本無機物層の厚さが前記範囲であれば、所望するガスバリア性を確保することが可能となる。
【0053】
<本架橋樹脂層>
本保護フィルムを構成する架橋樹脂層(「本架橋樹脂層」と称する)は、樹脂が架橋してなる架橋樹脂を含む層であればよく、架橋樹脂を基本骨格とする層であるのが好ましい。
【0054】
本架橋樹脂層は、本無機物層に比べて柔軟であるから、本無機物層の表面凹凸を吸収することができ、それによってガスバリア性を向上させることができる。また、本無機物層に起因する黄色化抑制或いは黄褐色化抑制を図ることもできる。
本架橋樹脂層が上述のようにアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むことで、より高いガスバリア性を得ることができる。
本架橋樹脂層はさらに、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを本無機物層に供給する役割を有する場合もある。すなわち、本架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有していると、本架橋樹脂層と接する本無機物層中に拡散移動するため、本無機物層にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを供給することができる。
【0055】
本架橋樹脂層は、必要に応じて、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有するのが好ましい。すなわち、アルカリ土類金属イオンを生じるアルカリ土類金属化合物またはアルカリ金属イオンを生じるアルカリ金属化合物を含有するのが好ましい。
上記本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有しない場合、アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有するのが好ましい。但し、上記本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有する場合であっても、本架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有してもよい。
上述したように、本架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含んでいれば、本架橋樹脂層中のアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが本無機物層内に拡散浸透し、本無機物層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むようにすることができる。
【0056】
なお、前記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの何れか又はこれら両方を例示することができる。但し、これらに限定するものではない。
前記アルカリ金属イオンは、イオンの状態で存在してもよいし、アルカリ金属化合物の状態で存在してもよい。
当該アルカリ金属化合物としては、例えば水溶性アルカリ金属、例えば水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化カリウム及び塩化カリウムのうちから選択される少なくとも1種類以上を挙げることができる。
【0057】
また、前記アルカリ土類金属イオンとしては、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンのうちの何れか又はこれら両方を例示することができる。但し、これらに限定するものではない。
本無機酸化物中の前記アルカリ土類金属イオンは、イオンの状態で存在してもよいし、アルカリ土類金属化合物の状態で存在してもよい。
当該アルカリ土類金属化合物としては、水溶性アルカリ土類金属化合物、例えば塩化マグネシウム及び水酸化カルシウムのうちから選択される少なくとも1種類以上を挙げることができる。
ガスバリア性向上の観点から、アルカリ金属化合物を含むのがより好ましい。
【0058】
(本架橋樹脂層の組成)
本架橋樹脂層は、主成分樹脂としてのバインダー樹脂およびその他の成分、例えば硬化剤又は架橋開始剤などを含む架橋性樹脂組成物が架橋して硬化してなる架橋樹脂構造からなる層であるのが好ましい。
この際、「主成分樹脂」とは、本架橋樹脂層を構成する樹脂の中で最も含有量(質量%)に多い樹脂の意味である。本架橋樹脂層の含有割合としては、50質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上(100質量%を含む)を占める樹脂であるのが好ましい。
【0059】
本架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含むようにする場合は、主成分樹脂としてのバインダー樹脂として、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂を含み、さらにアルカリ土類金属イオンを生じる水溶性アルカリ土類金属化合物またはアルカリ金属イオンを生じる水溶性アルカリ金属化合物と、必要に応じて溶媒と、必要に応じて硬化剤又は架橋開始剤とを含む架橋性樹脂組成物が架橋してなる架橋樹脂構造からなる層であるのが好ましい。
本架橋樹脂層を形成する際は、例えば、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂と、水溶性アルカリ土類金属イオンまたは水溶性アルカリ金属化合物と、必要に応じて硬化剤又は架橋開始剤と、水性溶媒とを含む架橋性樹脂組成物を本無機物層上に塗布し、架橋させて本架橋樹脂層を形成するのが好ましい。この際、架橋方法としては、熱架橋、光架橋のいずれを採用することもできる。
【0060】
(バインダー樹脂)
水溶性又は水分散性バインダー樹脂としては、例えば、次に説明する、水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂、水分散型ウレタンアクリレートなどを挙げることができる。
【0061】
[水溶性エポキシ樹脂]
前記の水溶性エポキシ樹脂としては、末端にエポキシ基を有するプレポリマーである水溶性エポキシ樹脂を用いるのが好ましい。
中でも、プレポリマー鎖が芳香族系であるものが好ましい。具体例としては、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂、パラアミノフェノールから誘導されたグリシジルアミン部位および/又はグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールAから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、ビスフェノールFから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラックから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂、レゾルシノールから誘導されたグリシジルエーテル部位を有するエポキシ樹脂などの樹脂を挙げることができる。これらの中でも、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂が特に好ましい。
【0062】
[水分散性ポリウレタン樹脂]
前記の水分散性ポリウレタン樹脂としては、分子内にカルボキシル基を含まないポリオール化合物とポリイソシアネート化合物とを反応させたポリウレタン化合物に界面活性を使用して水の中に強制乳化させて水分散性としたポリウレタン樹脂を挙げることができる。但し、これに限定するものではない。
【0063】
[水分散型ウレタンアクリレート]
前記の水分散型ウレタンアクリレートは、ウレタンアクリレート原料と、乳化剤、例えばアニオン系および/又はノニオン系の反応性乳化剤と、油溶性重合開始剤とを混合して、乳化機、例えば、ホモミキサー、超音波分散機などで加熱処理をしながら、分散する要領にて乳化重合して得られる、水分散体のウレタンアクリレートを挙げることができる。但し、これに限定するものではない。
【0064】
前記ウレタンアクリレート原料としては、1分子中にアクリロイル基又はメタクリロイル基を2つ以上有するラジカル重合性オリゴマーを用いることができる。
ウレタンアクリレートの市販品として、ビームセット505A-6(荒川化学社製)、Ebecryl270(ダイセル工業(株)製)、UA-160TM、UA-7100、(新中村化学工業(株))などが例示される。
【0065】
前記乳化剤としては、乳化重合に使用できる乳化剤であれば特に限定されるわけではない。
前記アニオン系反応性乳化剤としては、市販品として、例えばアクアロンシリーズ:KH-05,KH-10、AR-10、AR-20(商品名:第一工業製薬製)、Antox-MS-60、Antox-MS-2N(日本乳化剤社製)、アデカリアソープシリーズ:SE-10N、SE―20N、SR-10(アデカ製)を挙げることができる。その中でも、スルホン酸塩からなるものが好ましい。
前記ノニオン系反応性乳化剤としては、市販品として、例えばアデカリアソープシリーズ:NE-10、NE-20、NE-30、ER-10、ER-20、ER-30、ER-40(アデカ製)、ラテムルシリーズ:PD-420、PD-430、PD-450(花王)などを挙げることができる。
【0066】
前記油溶性重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(2-メチルプロパンニトリル)、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルペンタンニトリル)、2,2’-アゾビス-(2-メチルブタンニトリル)、1,1’-アゾビス-(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)ヒドロクロリド等のアゾ(アゾビスニトリル)タイプの開始剤、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過硫酸塩(例えば過硫酸アンモニウム)、過酸エステル(例えばt-ブチルペルオクテート、α-クミルペルオキシピバレート及びt-ブチルペルオクテート)等の過酸化物タイプの開始剤を例示することができる。
【0067】
(水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物)
水溶性アルカリ金属化合物は、アルカリ金属イオン、例えばナトリウムイオン(Na)やカリウムイオン(K)を供給することができる化合物であればよい。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩化カリウムなどを挙げることができる。
【0068】
水溶性アルカリ土類金属化合物は、アルカリ土類金属イオン、例えばマグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)を供給することができる化合物であればよい。具体的には、例えば、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウムなどを挙げることができる。
【0069】
水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物の添加量は、バインダー樹脂の全質量(100質量部)を基準として、0.0001質量部~5.0質量部であるのが好ましい。好ましくは0.001質量部~5.0質量部、その中でも0.01質量部~5.0質量部がよい。
【0070】
(硬化剤又は架橋開始剤)
硬化剤又は架橋開始剤は、熱架橋及び光架橋のいずれの架橋方法を選択するか、さらにはバインダー樹脂として何を使用するかによって適宜使用するのが好ましい。
例えば、バインダー樹脂として水溶性エポキシ樹脂を用いる場合は、硬化剤として、アミン系化合物を用いるのが好ましく、中でも、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミンが好ましい。
【0071】
架橋性樹脂組成物を光架橋させる場合には、光重合開始剤を配合するのが好ましい。
当該光重合開始剤としては、特に制限するものではなく、例えばケトン系光重合開始剤、アミン系光重合開始剤等を挙げることができる。
【0072】
(溶媒)
水性溶媒としては、水又はアルコール溶媒を主溶媒として用いることができる。
アルコール溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
本発明の主旨を損なわない範囲において、必要に応じて、酢酸エチル、トルエンなどの有機溶媒を用いてもよい。
【0073】
(その他成分)
本架橋樹脂層は、上述の材料以外に、他の成分乃至材料を含有していてもよい。
「他の成分乃至材料」としては、無機充填剤、酸素捕捉剤、カップリング剤、硬化促進剤などを挙げることができる。
【0074】
上記無機充填剤としては、架橋樹脂層のガスバリア性、耐衝撃性、耐熱性等の諸性能を向上させるために、シリカ、アルミナ、マイカ、タルク、アルミニウムフレーク、ガラスフレークなどの無機充填剤を含有していても良い。また、トップコート層の透明性を考慮した場合には、無機充填剤が平板状であることが好ましい。
【0075】
上記酸素捕捉剤としては、酸素捕捉機能を有する化合物であればよい。例えばヒンダードフェノー類、ビタミンC、ビタミンE、有機燐化合物、没食子酸、ピロガロール等の酸素と反応する低分子有機化合物や、コバルト、マンガン、ニッケル、鉄、銅等の遷移金属化合物等を挙げることができる。
【0076】
上記カップリング剤は、本架橋樹脂層と本無機物層との密着性向上あるいはガスバリア性向上の観点から、必要に応じて本架橋樹脂層に含有させることができる。
カップリング剤としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤などのカップリング剤を添加してもよい。
カップリング剤としては、市販品が使用できる。具体的には、チッソ(株)、東レ・ダウコーニング(株)、信越化学工業(株)等から入手可能な、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N、N’-ビス[3-トリメトキシシリル]プロピル]エチレンジアミン等のアミノ系シランカップリング剤、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のメタクリロキシ系シランカップリング剤、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート系シランカップリング剤、東レ・ダウコーニング(株)製のSH-6026、Z-6050などのアミノシラン系カップリング剤、信越化学工業(株)製のKP-390、KC-223などのアミノ基含有アルコキシシラン等を挙げることができる。
中でも、本架橋樹脂層のバインダー樹脂組成物と反応する有機官能基を有するものが望ましい。
カップリング剤の添加量は、バインダー樹脂組成物の全質量を基準として0.01質量%~5.0質量%の範囲が好ましい。
【0077】
上記硬化促進剤は、架橋性樹脂組成物を架橋させる際に、低温で架橋可能なように、N-エチルモルホリン、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸コバルト、塩化第一錫などの硬化促進触媒、ベンジルアルコールなどの有機溶剤、リン酸亜鉛、リン酸鉄、モリブデン酸カルシウム、酸化バナジウム、水分散シリカ、ヒュームドシリカなどの防錆添加剤、フタロシアニン系有機顔料、縮合多環系有機顔料などの有機顔料、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、カーボンブラックなどの無機顔料等の各成分を必要割合量添加することもできる。
【0078】
(各成分の量)
架橋性樹脂組成物中の全固形成分(100質量部)に対するバインダー樹脂の割合は、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましく、一方、90質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがさらに好ましい。なお、バインダー樹脂を2種以上併用する場合、それらの合計量の割合が上記の範囲内であることが好ましい。なお、バインダー樹脂を2種以上併用する場合、それらの合計量の割合が上記の範囲内であることが好ましい。
【0079】
架橋性樹脂組成物中の全固形成分(100質量部)に対する硬化剤又は架橋開始剤の割合は、5質量部以上であるのが好ましく、中でも10質量部以上、その中でも特に20質量部以上であるのがさらに好ましい。一方、上限は80質量部以下であるのが好ましく、70質量部以下であるのがさらに好ましく、その中でも60質量部以下であるのが特に好ましい。
【0080】
架橋性樹脂組成物中の全固形成分(100質量部)に対するバインダー樹脂及び硬化剤又は架橋開始剤以外の固形成分の割合は0.01質量部以上10質量部以下であるのが好ましく、中でも0.1質量部以上或いは10質量部以下、その中でも1質量部以上或いは10質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0081】
(本架橋樹脂層の厚み)
本架橋樹脂層の厚さは、本無機物層に対する密着力を確保する観点から、1μm以上であるのが好ましく、中でも2μm以上であるのが好ましく、中でも4μm以上であるのがさらに好ましく、6μm以上であるのが特に好ましい。一方、本架橋樹脂層の表面から水分や酸素が侵入するのを抑制する観点から、35μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましく、中でも10μm以下であるのが特に好ましい。
【0082】
(本架橋樹脂層の形成方法)
本架橋樹脂層の形成方法としては、前述した架橋性樹脂組成物を、本無機物層表面に塗布して架橋すればよい。
【0083】
この際、架橋性樹脂組成物の塗布方法としては、従来から公知のコーティング方法を採用することができる。例えば、リバースロールコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクタコーター、バーコーター、スプレイを用いたコーティング方法等のいずれの方法も採用可能である。これらの方法に限定するものではない。
【0084】
架橋方法としては、熱架橋させる場合には加熱すればよいし、光架橋させる場合には紫外線などの光線を照射すればよい。また、耐水性及び耐久性を高めるために、必要に応じて、電子線照射など、活性エネルギー線照射による架橋を行うこともできる。
【0085】
<本保護フィルムの積層構成>
本保護フィルムは、基材フィルムの片面側(「表面側」と称する)に、無機物層及び架橋樹脂層をこの順に積層してなる構成を備えていればよいから、基材フィルムの裏面側や、基材フィルムと無機物層との間や、架橋樹脂層の表面側などに「他の層」を備えていてもよい。
例えば、上記実施形態例のように、基材フィルムと無機物層との間にアンカー層が介在してもよい。
【0086】
<本保護フィルムの厚み>
本保護フィルムの全体厚みを調整することで、光透過性を確保しつつシワの発生などを抑制することができる。かかる観点から、本保護フィルムの全体厚みは20μm以上であるのが好ましく、中でも23μm以上或いは500μm以下、その中でも23μm以上或いは250μm以下、その中でも特に23μm以上或いは125μm以下であるのが好ましい。
【0087】
<本保護フィルムの特性>
本保護フィルムは、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過率(WvTR)を0.060g/m/day以下とすることができ、好ましくは0.040g/m/day以下、その中でも特に好ましくは0.020g/m/day以下とすることもできる。
なお、上記水蒸気透過率(WvTR)の測定方法は、後述する実施例で行った測定方法を採用すればよい。
【0088】
本保護フィルムはさらに、表側の水蒸気透過率/裏側の水蒸気透過率の比率を0.5未満とすることができる。
なお、本保護フィルムにおいて前記「表側」とは、基材フィルム(1)の片面側に、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた保護フィルムにおいて、当該架橋樹脂層側を意味し、前記「裏側」とは、基材フィルム(1)側を意味する。
従来使われていた保護フィルムには、測定面を表側とするか裏側とするかによって、水蒸気透過率が2倍以上の差を有するものがあり、保護フィルムを貼り合せるフィルム面の方向が常に制限される場合があり、不便さがあった。
これに対し、上記のように、表側の水蒸気透過率/裏側の水蒸気透過率の比率が0.5未満であれば、本保護フィルムを貼り合せるフィルム面の方向を気にすることなく、つまり表裏の方向に関係なく、好適に使用することができる。
【0089】
<本保護フィルムの製造方法>
本保護フィルムの製造方法の一例として、基材フィルムの片面に必要に応じてアンカー層を形成し、該アンカー層の表面に本無機物層を形成した後、該本無機物層の表面に、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物、および、硬化剤又は架橋開始剤を含む架橋性樹脂組成物を塗布及び架橋させて架橋樹脂層を形成する方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0090】
本アンカー層の形成は、基材フィルムの片面に、上述したアンカーコート剤を塗布し、必要に応じて乾燥させて形成することができる。
本無機物層の形成は、上述したように、例えば物理的気相蒸着(PVD)法、プラズマアシスト蒸着法、化学蒸着(CVD)法、或いは、無機粒子を有機ポリマーに分散させて塗布する方法などにより、形成することができる。
【0091】
そして、形成した本無機物層の表面に、水溶性又は水分散性のバインダー樹脂、水溶性アルカリ土類金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物、硬化剤又は架橋開始剤及び溶媒を含む架橋性樹脂組成物を塗布し、架橋させて架橋樹脂層を形成すればよい。
このようにして本架橋樹脂層を形成すれば、本架橋樹脂層にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを存在させることができる。そして、本架橋樹脂層中のアルカリ金属イオンまたはアルカリ金属イオンは、隣接する本無機物層内に拡散浸透して、本無機物層内にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを存在させることができる。
【0092】
<<本フィルム積層体>>
次に、本保護フィルムを用いた実施形態の一例として、本保護フィルムを用いたフィルム積層体(「本フィルム積層体」と称する。)について説明する。
【0093】
本フィルム積層体の一例として、本保護フィルムすなわち基材フィルム(1)の少なくとも片面側に本無機物層及び本架橋樹脂層が順次積層してなる構成を備えた積層フィルムの本架橋樹脂層表面に、接着剤層を介して、基材フィルム(2)が貼り合わされてなる構成を備えたフィルム積層体を挙げることができる。
【0094】
また、本フィルム積層体の他例として、本保護フィルムの本架橋樹脂層表面に、接着剤層を介して積層フィルム(1)が貼り合わされてなる構成を備えたれたフィルム積層体を形成することができる。
【0095】
この際、積層フィルム(1)の一例として、基材フィルム(2)の片面側に架橋樹脂層を備えた積層フィルムを挙げることができる。
また、積層フィルム(1)の他例として、基材フィルム(2)の片面側に無機物層及び架橋樹種層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムを挙げることができる。
また、積層フィルム(1)のさらなる他例として、基材フィルム(2)の片面側にアンカー層、無機物層及び架橋樹種層がこの順に積層してなる構成を備えた積層フィルムを挙げることができる。
【0096】
前記積層フィルム(1)の基材フィルム(2)、アンカー層、無機物層及び架橋樹種層はいずれも、本保護フィルムの基材フィルム(1)、アンカー層、無機物層及び架橋樹種層と同様であるのが好ましい。
【0097】
また、本フィルム積層体の接着剤層は、公知の接着剤組成物を用いて形成することができる。接着性とバリア性との両立の観点からは、バインダー樹脂および硬化剤又は架橋開始剤を含む接着剤組成物を用いるのが好ましく、当該バインダー樹脂として、例えば水溶性エポキシ樹脂、水分散性ポリウレタン樹脂、水分散型ウレタンアクリレートオリゴマーなどを用いるのが好ましい。
【0098】
<本フィルム積層体の厚み>
本フィルム積層体の全体厚みを調整することで、光透過性を確保しつつシワの発生などを抑制することができる。かかる観点から、本フィルム積層体の全体厚みは40μm以上であるのが好ましく、中でも50μm以上或いは500μm以下、その中でも50μm以上或いは250μm以下、特に50μm以上或いは125μm以下が好ましい。
【0099】
<本フィルム積層体の特性>
本フォルム積層体は、温度40℃、相対湿度90%における水蒸気透過率(WvTR)を0.060g/m/day以下とすることができ、好ましくは0.040g/m/day以下、その中でも特に好ましくは0.0202g/m/day以下とすることもできる。
なお、上記水蒸気透過率(WvTR)の測定方法は、後述する実施例で行った測定方法を採用すればよい。
【0100】
<<本保護フィルムおよび本フィルム積層体の用途>>
本保護フィルムおよび本フィルム積層体は、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする用途、例えば各種ガスの遮断を必要とする包装材料、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質防止用包装材料として広く利用することができる。また、包装用途以外にも、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL用基板、カラーフィルターなど、各種部材に好適である。
【0101】
<<語句の説明>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
また、画像表示パネル、保護パネル等のように「パネル」と表現する場合、板体、シート及びフィルムを包含するものである。
【0102】
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0103】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
本発明で用いた測定法および評価方法は次のとおりである。
【0104】
(1)真空蒸着法(PVD)により形成した無機物層の膜厚
無機物層の膜厚の測定は、蛍光X線を用いて行った。この方法は、原子にX線を照射すると、その原子特有の蛍光X線を放射する現象を利用した方法で、放射される蛍光X線強度を測定することにより原子の数(量)を知ることができる。具体的には、フィルム上に既知の2種の厚みの薄膜を形成し、それぞれについて放射される特定の蛍光X線強度を測定し、この情報より検量線を作成した。そして、測定試料について同様に蛍光X線強度を測定し、前記検量線からその膜厚を測定した。
【0105】
(2)水蒸気透過率(WvTR)
厚さ50μmのPETフィルムの表面に、ウレタン系接着剤〔東洋モートン(株)製AD900とCAT-RT85を、D900:CAT-RT85=10:1.5(重量比)の割合で配合したもの〕を塗布し、次いで乾燥し、厚さ約3μmの接着剤層を形成した。
この接着剤層上に、保護フィルム(サンプル)の無機薄膜層側が該接着剤層と隣接するようにラミネートし、(表側)PETフィルム/接着剤層/架橋樹脂層/PVD無機物層/アンカーコート層/基材フィルム(裏側)の構成を有する、水蒸気透過率評価用の試料フィルムを得た。
該試料フィルムを10.0cm×10.0cm角にカットし、温度40℃、相対湿度90%の恒温恒湿装置に入れ、48時間以上間隔で、重量増加がほぼ一定になる目安として14日間まで質量を測定(0.1mg単位)し、表側及び裏側の水蒸気透過率を下記式からそれぞれ算出した。なお、表側とは、水蒸気透過率評価用の試料フィルムにおける前記PETフィルム側面を示し、裏側とは、前記基材フィルム側面を示す。
そして、測定された水蒸気透過率(WvTR)が0.060g/m/day以下であれば「○(good)」と評価し、0.060g/m/dayよりも高ければ「×(poor)」と評価した。
【0106】
水蒸気透過率[g/m/day]=(m/s)/t
m;試験期間最後2回の秤量間隔の増加質量(g)
s;透湿面積(m
t;試験期間最後2回の秤量間隔の時間(h)/24(h)
【0107】
<実施例1>
基材フィルムとしての二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムF1(三菱ケミカル(株)製「ダイアホイル T602Eタイプ」、厚さ23μm、「ポリエステルフィルムF1」と称する)上に、下記のように調製したアンカー層組成物を塗布量(乾燥後)が0.025g/mになるように塗布し、乾燥させてアンカー層を形成した。
【0108】
(アンカーコート剤組成物の調製)
イソシアネート化合物(日本ポリウレタン工業(株)製「コロネートL」)と飽和ポリエステル((株)東洋紡績製「バイロン300」数平均分子量23,000)とを1:1質量比で配合し、アンカーコート剤を調製した。
【0109】
(PVD無機物層形成)
次に、真空蒸着装置を使用して、SiO(純度99.9%以上)を加熱方式で蒸発させ、酸素を導入し、酸素分圧を3.5×10-3Paとし、5×10-3Paの真空下にて、前記アンカー層上に、厚さ40nmの酸化ケイ素からなるPVD無機物層(「無機物層」とも称する)を形成した。
この際、前記PVD無機物層を形成する過程において、プラズマアシスト法を併用することにより、無機物層内に酸素ガスを導入した。
【0110】
(架橋樹脂層1の形成)
次に、前記無機物層表面に、下記のように調製した架橋性樹脂組成物1をバーコート方式で塗布し、次いで、80℃の熱風で60秒間乾燥させ、厚さ(乾燥後)3g/mの架橋樹脂層1を形成して、ポリエステルフィルムF1/アンカー層/PVD無機物層/架橋樹脂層1からなる保護フィルム(サンプル)を得た。
【0111】
(架橋性樹脂組成物1の調製)
バインダー樹脂:変性ポリウレタン樹脂
(東洋モートン(株)製 LIS-7390) 15質量部
硬化剤:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂
(東洋モートン(株)製 LCR-1901) 1質量部
添加剤:塩化ナトリウム(水溶性アルカリ金属化合物)
溶媒:(3質量%濃度の塩化ナトリウム水溶液):イソプロピルアルコール
=3:97(質量%) 47.7質量部
上記配合により、13質量%の濃度に調整した。
【0112】
<実施例2>~<実施例11>
表に記載する通り、架橋性樹脂組成物1の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして製造し、保護フィルム(サンプル)を得た。
なお、架橋性樹脂組成物2、3、5、6は、添加剤(水溶性アルカリ金属化合物または水溶性アルカリ土類金属化合物)の種類を変えた以外、架橋性樹脂組成物1と同様にして調製したものである。添加剤(水溶性アルカリ金属化合物)の種類が同じであれば、添加剤の量が異なっていても同名の架橋性樹脂組成物とした。
架橋性樹脂組成物4は、添加剤を加えなかった以外、架橋性樹脂組成物1と同様にして調製したものである。
【0113】
<比較例1>
架橋性樹脂層1を設けない点、及び、PVD無機物層表面を塩化ナトリウム水溶液で前処理しない点以外は実施例1と同様にして製造し、ポリエステルフィルムF1/アンカー層/PVD無機物層からなる保護フィルム(サンプル)を作製した。
【0114】
<比較例2>
実施例1において、架橋性樹脂組成物1を架橋性樹脂組成物4に変更した以外、、実施例1と同様にして製造し、保護フィルム(サンプル)を得た。
なお、架橋性樹脂組成物4は、添加剤(水溶性アルカリ金属化合物)を加えなかった以外、架橋性樹脂組成物1と同様にして調製したものである。
【0115】
<評価結果>
上記実施例および比較例で得られた、各保護フィルムの特性を下記表1に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
表1において、PVA:ポリビニルアルコール、EMAA:エチレンメタクリル酸共重合体、AAPH:2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩をそれぞれ示す。
【0118】
【表2】
【0119】
<考察>
比較例1,2の保護フィルムは、ガスバリア性(水蒸気透過率)が所望するレベルに到達しないことが分かった。
また、比較例2のように、架橋樹脂層中に添加剤を含まない場合、高湿度下において水分を吸湿したままで存在するため、無機物層に該水分が浸透し、無機物層中に存在する結晶構造の空隙などに水分が侵入した結果、ガスバリア性能が低下したものと推定される。
さらに、酸素ガスを追加で導入して形成した無機物層が露出した(架橋樹脂層がない)状態の保護フィルム(比較例1)は、ガスバリア性(水蒸気透過率)が所望するレベルに到達しないことも分かった。
【0120】
これに対し、実施例1~11の保護フィルムは、ガスバリア性(水蒸気透過率)が所望するレベルに到達できることが分かった。これら実施例1~11の保護フィルムは、基材フィルムの片面側に無機物層及び架橋樹脂層を備えており、当該架橋樹脂層が三次元的に架橋ネットワーク構造を構築しており、水分の侵入を防ぐことができ、安定したガスバリア性を発現することができる。
【0121】
さらに実施例1~11の保護フィルムは、水溶性アルカリ金属化合物または水溶性アルカリ金属化合物を含有する架橋性樹脂組成物を架橋させて架橋樹脂層を形成しており、該架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有することにより、ガスバリア性をさらに高めることができることが分かった。
このような実施例の結果、並びに、本発明者がこれまで行ってきた試験結果などから、架橋樹脂層内にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが存在すると、ガスバリア性能が向上することが分かった。これは、架橋樹脂層内にアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが存在すると、該アルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンが隣接する無機物層内に拡散浸透し、無機物層中に存在する結晶構造の空隙や亀裂、欠陥などの隙間に侵入する結果、ガスバリア性が高まるものと推定することができる。よって、架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含有していれば、ガスバリア性を高めることができることが分かった。
特にガスバリア性の効果としては、アルカリ金属イオンの方がより良好な結果であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の保護フィルムおよびフィルム積層体は、水蒸気や酸素等の各種ガスの遮断を必要とする物品の包装、例えば、食品や工業用品及び医薬品等の変質防止用の包装材料として広く利用することができる。また、包装用途以外にも、液晶表示素子、太陽電池、電磁波シールド、タッチパネル、EL用基板、カラーフィルターなど、各種部材にも好適に利用することができる。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム(1)の片面側に、無機物層及び架橋樹脂層がこの順に積層してなる構成を備えた保護フィルムであって、前記架橋樹脂層がアルカリ土類金属イオンまたはアルカリ金属イオンを含む保護フィルム。