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  • 特開-貴金属の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051001
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】貴金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/02 20060101AFI20240403BHJP
   C22B 5/08 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C22B11/02
C22B5/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024024858
(22)【出願日】2024-02-21
(62)【分割の表示】P 2023034905の分割
【原出願日】2018-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】星 光政
(57)【要約】
【課題】リサイクル原料中の貴金属をより回収ロスを低減することが可能な貴金属の回収方法が提供できる。
【解決手段】リサイクル原料30を硫化物とともに溶融炉1内へ投入し、溶融炉1内においてマット層13とスラグ層14を形成させ、リサイクル原料30に含まれる貴金属を溶融炉1内で沈降させてマット層13に吸収させる貴金属の回収方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄鉄鉱を含む硫化物とともにリサイクル原料を溶融炉内へ投入し、前記溶融炉内においてマット層とスラグ層を形成させ、前記黄鉄鉱の熱分解によって生じた硫黄と前記リサイクル原料に含まれる銅とを反応させて銅硫化物を形成し、前記リサイクル原料に含まれる金、銀、白金及びパラジウムの少なくとも1つを含む貴金属を溶融させて前記マット層に吸収させることを特徴とする貴金属の回収方法。
【請求項2】
所定の厚みを備える前記マット層を形成させることを特徴とする請求項1に記載の貴金属の回収方法。
【請求項3】
前記厚みが、250mm以上である請求項2に記載の貴金属の回収方法。
【請求項4】
前記硫化物の最大直径が10mm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【請求項5】
前記リサイクル原料1kgに対し、前記硫化物を0.08kg以上、前記溶融炉内へ投入することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【請求項6】
前記リサイクル原料1kgに対し、前記硫化物を1kg以下、前記溶融炉内へ投入することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【請求項7】
前記リサイクル原料が、電子・電気機器部品屑であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【請求項8】
前記リサイクル原料が、基板屑を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の貴金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リサイクル原料には、一般的に銅や亜鉛の他に、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などの貴金属が含まれている。これら有価金属の回収は、資源のリサイクルによる省資源の観点からも重要である。
【0003】
リサイクル原料から有価金属を回収する方法としては、従来、種々の研究・開発がなされている。例えば、特開2017-120132号公報(特許文献1)には、溶融炉内に挿入された被処理物を加熱溶融することにより生成された溶融物を溶融炉の炉底部に設けられた湯溜まり部においてマットとスラグに分離し、得られたスラグを炉外に抜き出すためのスラグタップ方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-120132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された発明は、溶融炉からのスラグの抜き出しの際に未溶融物の流出を防止してスラグをスラグ樋から溢れさせることなくスラグを抜き出す手法としては所定の効果が得られている。しかしながら、特許文献1に記載された発明は、溶融炉の構成に関する発明であり、溶融炉を用いた処理方法の観点からは未だ検討の余地がある。
【0006】
溶融炉を用いてリサイクル原料を処理する場合、リサイクル原料に含まれる有価金属は、溶融炉内においてメタル状物又は酸化物となり、その後還元されてマット層(かわ)側へと吸収される。しかしながら、処理条件によっては貴金属がスラグ層(からみ)側へ吸収されてしまう場合があり、その結果、貴金属の回収ロスが生じる場合がある。
【0007】
そこで、本開示は、リサイクル原料中の貴金属をより回収ロスを低減することが可能な貴金属の回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態に係る貴金属の回収方法は一側面において、リサイクル原料を硫化物とともに溶融炉内へ投入し、前記溶融炉内においてマット層とスラグ層を形成させ、前記リサイクル原料に含まれる貴金属を前記溶融炉内で沈降させて前記マット層に吸収させる貴金属の回収方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施の形態によれば、リサイクル原料中の貴金属をより回収ロスを低減することが可能な貴金属の回収方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る貴金属の回収方法に利用可能な溶融炉の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0012】
本発明の実施の形態に係る貴金属の回収方法について説明する前に、本発明の実施の形態に係る貴金属の回収方法に好適な溶融炉1について、図1の例を用いて説明する。なお、図1は単なる例示であり、本実施形態は、スラグ層14とマット層13とを形成させることが可能な炉であれば、図1に示す溶融炉1の構成に限定されないことは勿論である。
【0013】
例えば、直接粗銅(ブラックカッパー等)を精錬することができる傾転式反射炉、炉床付きシャフト炉、長円形炉、ドラム炉、上部吹き込み式転炉等の溶融炉も、本実施形態に係る溶融炉1として用いることができる。
【0014】
図1に示すように、溶融炉1は、横型炉の一つである反射炉を基にして形成されることができる。溶融炉1の内側は主として、マグネサイト、クロム・マグネサイト等の塩基性の耐熱性レンガ10で形成されている。
【0015】
溶融炉1の一端にはバーナ15が配置されている。バーナ15は、例えば、重油や廃油、天然ガス等の燃料を燃焼することによって炉内に向かって長い焔16を吹き出すようになっている。溶融炉1の上部には、原料30を溶融炉1内に装入するための複数の装入口11が並んで設けられている。
【0016】
各装入口11から装入された原料30は、装入口11の下部に位置する溶融炉1の炉床部へ向けて沈降する際に、焔16によって直接溶融するか、或いは天井や内壁に反射した熱によって溶融する。炉床部上においては、原料30が堆積物40として堆積され、加熱を経て溶融物41が形成される。
【0017】
溶融炉1の底部には、バーナ15から離れた位置に、堆積物40を堆積させて溶融物41を形成させるための炉床部と連続し、且つ炉床部よりも深さが深くなるように形成された湯溜り部18が形成されている。炉床部と湯溜り部18との間には傾斜面が形成されている。
【0018】
バーナ15の焔によって溶融された溶融物41は溶融状態のまま炉床部から傾斜面を流れて湯溜り部18に溜まるようになっている。湯溜り部18に溜まった溶融物は比重の大きいマット層13とその上層に形成されるマット層13よりの比重の小さいスラグ層14とに分離される。
【0019】
また、湯溜り部18の上部側に位置する溶融炉1の天井には投入口20が設けられており、投入口20の近傍には図示しない天井バーナが配設されていてもよい。天井バーナとしては酸素バーナを用いることができる。酸素バーナは燃料を燃焼させるための支燃性ガスが酸素であるため、空気のように燃焼に寄与しない窒素を含まないことから高温燃焼が可能となる。
【0020】
そして、この天井バーナに重油や廃油、天然ガス等の燃料を供給して燃焼することによって溶融炉1内に1500℃以上の高温部を局部的に形成させることができる。投入口20から投入された原料30は、直接、且つ、炉内壁を反射した熱によってスラグ層14中に溶融される。投入口20から原料30の代わりに後述する有価金属、特に貴金属の回収ロスを抑制するための硫化物を投入することもできる。或いは、硫化物を装入口11から原料と一緒に供給してもよい。
【0021】
溶融炉1内には、20~60質量%の硫化物を含むマット層13(かわ:硫化物融体)が形成され、このマット層13の上部にマット層13よりも比重の小さいスラグ層14(からみ)が形成される。
【0022】
本発明の実施の形態に係る貴金属の回収方法は、例えば図1に示すような溶融炉1を用いて、リサイクル原料を硫化物とともに溶融炉1内へ投入し、溶融炉1内においてマット層13とスラグ層14を形成させ、リサイクル原料に含まれる貴金属を溶融炉1内で沈降させてマット層に吸収させることを含む。
【0023】
リサイクル原料としては、一般家庭ごみの焼却灰、アスベスト、汚泥等の産業廃棄物、電子電気製品の部品屑、自動車等のシュレッダーダスト等のリサイクルを目的とした原料を用いることができる。
【0024】
中でも、廃家電製品・PCや携帯電話等の電子・電気機器を破砕した屑であり、回収された後、適当な大きさに破砕され、屑中の貴金属濃度を濃縮させるように所定の選別処理が施された電子・電気機器部品屑をリサイクル原料とした場合は、より少ない原料を用いて多くの貴金属の回収量を得られる点で有利である。
【0025】
以下に限定されるものではないが、電子・電気機器部品屑を、基板、ICやコネクタ等のパーツ、筐体などに使われる合成樹脂類(プラスチック)、線屑、メタル、フィルム状部品屑、破砕や粉砕によって生じる粉状物、その他、からなる部品屑に分別し、その中から合成樹脂類を取り除いた、メタル、パーツ、フィルム状の部品屑、粉状物、基板屑、パーツなどを原料として好適に用いることで、より少ない原料量で貴金属の回収効率を高めることができる。
【0026】
例えば、基板屑は、合成樹脂及び有価金属を含む材料であるが、基板屑を硫化物とともに溶融炉1で処理することによって、基板屑中の貴金属物を溶融させて酸化物にした後、硫化物の存在により還元し、マット層13へと吸収させることができる一方で、合成樹脂は溶融酸化してスラグ層14側へと分離できるため、粉砕などの処理を必要とせず、基板屑中の合成樹脂及び有価金属をより簡単に分離することができる点でより効果的である。
【0027】
上記のような種々の部品屑に分別するためには、選別前の原料に対して少なくとも2段階の風力選別と、メタルソータによる選別を行うことが好ましい。分別方法としては、上記に制限されるものではなく、原料組成及び選別目的に応じて例えば、磁力選別、篩分け、粉砕、渦電流選別、カラーソータによる選別手法を適宜組み合わせることができる。
【0028】
リサイクル原料は、溶融炉1内に硫化物とともに投入される。硫化物としては、リサイクル原料中の有価金属の酸化物を還元できるような物質であれば特に限定されないが、例えば黄鉄鉱(パーライト)、黄銅鉱(キャルコパイライト)、硫化銅鉱を用いることができる。中でも、黄鉄鉱(FeS2:パーライト)は、黄銅鉱や硫化銅鉱より単価が安く量が確保しやすい。また、黄銅鉱や硫化銅鉱に比べて黄鉄鉱は自身に銅分を含まないので、黄鉄鉱と混ぜて炉内に投入した他の原料の銅分をより多く吸収融解することができるため、硫化物として用いることで、貴金属のロスを少なくして回収効率を高めることが可能となる。
【0029】
硫化物として黄鉄鉱を投入する場合、黄鉄鉱は溶融炉1内において以下の式(1)に従って熱分解される。
FeS2 → FeS + 1/2S2 ・・・(1)
【0030】
リサイクル原料中に含まれる銅、鉛、亜鉛、ニッケル等の金属、或いは金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属を含む有価金属は、溶融炉1内において、(1)式に従う黄鉄鉱の熱分解によって生じた硫黄(S2)と反応して金属硫化物を形成する。黄鉄鉱の熱分解によって生じた硫化鉄は酸化されて酸化鉄(FeO)を形成する。
【0031】
FeOはスラグ層14へと吸収され、金属硫化物は沈降してマット層13へと吸収される。その際、リサイクル原料中の有価金属が黄鉄鉱の熱分解によって生じた硫黄(S2)と十分に反応しない場合、これら金属酸化物がスラグ層14側へ吸収されてしまい、金属のロスが生じる場合がある。特にAu、Ag、Pt、Pd等の貴金属は極力ロスを少なくして回収率を高めることが望まれている。
【0032】
本発明の実施の形態に係る貴金属の処理方法によれば、リサイクル原料とともに硫化物として例えば黄鉄鉱(パーライト)を投入することにより、リサイクル原料中に含まれる有価金属、特に、Au、Ag、Pt、Pd等の貴金属をより確実にマット層13側へと吸収させることができるので、貴金属のロスを少なくして回収効率を高めることが可能となる。
【0033】
溶融炉1へ投入する硫化物としては、例えば、最大直径が10mm以下の硫化物を用いることが好ましい。硫化物の投入量は原料の組成に応じて適宜変更することができるが、マット層13へ移行する有価金属の含有量よりも過剰に投入されることが好ましい。
【0034】
例えば、リサイクル原料として含銅汚泥等を投入する場合、リサイクル原料1kgに対し硫化物を0.08kg以上、より好ましくは0.09kg以上、更に好ましくは0.1kg以上投入することが好ましい。一方、硫化物の添加量が多すぎると回収されるマットの銅品位が下がる場合や、排ガス中の硫黄酸化物(SOx)濃度が高くなる場合がある。硫化物の溶融炉1への投入量は、リサイクル原料1kgに対して1kg以下、更には0.5kg以下とすることができる。これにより、リサイクル原料中に含まれる貴金属をより確実にマット層13へ吸収させることができる。
【0035】
硫化物の添加により、リサイクル原料に含まれる銅を硫化物にして、所定の厚みを備えるマット層13を形成させることが好ましい。マット層13の厚みを一定の厚み以上とすることで、貴金属がスラグ層14へ取り込まれることを抑制し、貴金属の回収効率を高めることができる。
【0036】
湯溜り部18に形成されたマット層13の厚み、即ち、溶融炉1の垂直方向に沿ったマット層13の厚みは、250mm以上であることが好ましく、より好ましくは300mm以上、更には400mm以上である。
【0037】
湯溜り部18に形成されたマット層13の厚みは、スラグ層14の厚みに対して1.5倍、更には3倍、より更には6倍以上となるように硫化物を添加することが好ましい。このように構成することにより、銅等の有価金属に加えてAu、Ag、Pt、Pd等の貴金属のロスを抑制することができる。
【0038】
マット層13は、溶融状態で溶融炉1の外部へ排出した後、冷却する。冷却して得られたマットは必要に応じて粉砕し、所定の処理を行うことにより、マットに含まれる貴金属を回収する。例えば、冷却により得られたマットが銅又は銅硫化物を多く含む場合には、このマットを銅製錬工程へ送る。銅製錬工程において、マットは自溶炉へ投入され、電解工程を経て銅が製造されるとともに、電解沈殿物として得られる貴金属が貴金属の回収工程に送られ、回収される。
【0039】
本実施形態によれば、リサイクル原料中に含まれる貴金属をより確実にマット層13へ吸収させることができるため、スラグ層14への貴金属の巻き込みを抑制しながら、マット層13に貴金属をより多く濃縮させることができる。
【0040】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。即ち、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…溶融炉
10…耐熱性レンガ
11…装入口
13…マット層
14…スラグ層
15…バーナ
16…焔
18…湯溜り部
20…投入口
30…リサイクル原料
40…堆積物
41…溶融物
図1