IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソイテックの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051091
(43)【公開日】2024-04-10
(54)【発明の名称】弾性波デバイス用の変換器構造体
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20240403BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 Z
【審査請求】有
【請求項の数】35
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024027731
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2022510846の分割
【原出願日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】19306123.1
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】19306124.9
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】598054968
【氏名又は名称】ソイテック
【氏名又は名称原語表記】Soitec
【住所又は居所原語表記】Parc Technologique des fontaines chemin Des Franques 38190 Bernin, France
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100154656
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 英彦
(72)【発明者】
【氏名】バランドラス, シルヴァイン
(72)【発明者】
【氏名】クルジョン, エミリエ
(72)【発明者】
【氏名】バーナード, フローレント
(57)【要約】
【課題】新規な表面弾性デバイス用の変換器構造体を提供する。
【解決手段】本発明は、圧電層を備える複合基板と、ブラッグ条件を満たすピッチpを有する複数の電極手段を備える交差指状くし型電極の対と、を備える、表面弾性デバイス用の変換器構造体において、交差指状くし型電極が圧電層に埋め込まれており、このことによって、使用時には電極手段の体積内で波伝搬モードの励起が生じており、これが構造体の主たる伝搬モードとなる、変換器構造体、に関する。本発明はまた、上記したような少なくとも1つの変換器構造体を備える弾性波デバイスにも、及び前記変換器構造体を製造するための方法にも関する。本発明はまた、弾性波デバイスにおける前記変換器構造体の電極手段内を伝搬するバルク波の周波数を使用して、特に3GHzを超える高い周波数での寄与を生じさせることにも関する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層(104)と、
ピッチpを有する複数の電極手段(112_i、114_j、418、420)を備える、交差指状くし型電極(108、110、412、414)の対と、
を備える、弾性デバイス用の変換器構造体(100、200、300、408、410)において、
前記交差指状くし型電極(108、110、412、414)の前記電極手段が前記圧電層(104)に埋め込まれており、
前記電極手段の音響インピーダンスが前記圧電層の音響インピーダンス未満である、変換器構造体。
【請求項2】
前記ピッチpがp=λ/2によって与えられるブラッグ条件を満たし、λが前記変換器の動作弾性波波長である、請求項1に記載の変換器構造体。
【請求項3】
前記電極手段(112_i、114_j、418、420)の「a」が幅、「p」がピッチである、アスペクト比a/pが、0,3~0,75の間、特に0,4~0,65の間で構成されている、請求項1又は2に記載の変換器構造体。
【請求項4】
前記圧電層がベース基板(106)の上に設けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項5】
前記圧電層(604、704)と前記ベース基板(606、710)の間に取り付け層(608、706)、特に二酸化ケイ素(SiO)を更に備える、請求項4に記載の変換器構造体。
【請求項6】
前記圧電層(704)と前記ベース基板(710)の間に高速度層(718)を更に備え、前記高速度層が、前記圧電層(104)の材料及び結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする材料で製作されている、請求項4又は5に記載の変換器構造体。
【請求項7】
前記高速度層(718)が前記取り付け層(706)と前記ベース基板(710)の間に配置されている、請求項5及び6に記載の変換器構造体。
【請求項8】
前記圧電層(704)と前記ベース基板(710)の間にトラップリッチ層(708)、特にポリシリコントラップリッチ層を更に備える、請求項4~7のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項9】
前記トラップリッチ層(708)が前記高速度層(718)と前記ベース基板(710)の間に配置されている、請求項7及び8に記載の変換器構造体。
【請求項10】
前記埋め込まれた電極手段(112_i、114_j、418、420)及び前記圧電層(104)の上にカバー層(302)を更に備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項11】
前記カバー層(302)が、前記圧電層(104)の材料及び/又は結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする、材料で製作されている及び/又は結晶方位を有する、請求項10に記載の変換器構造体。
【請求項12】
前記圧電層(104)及び/又は前記電極手段の下にブラッグミラー(204)を更に備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項13】
前記埋め込まれた電極手段(112_i、114_j、418、420)の厚さは前記圧電層(104)の厚さ以下である、請求項4~12のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項14】
前記電極手段の前記厚さtがλ>t>0,1*λを満たす、請求項13に記載の変換器構造体。
【請求項15】
前記ベース基板(106)の音響インピーダンスが前記圧電層(104)の音響インピーダンスのオーダーであり、特に前記圧電層(104)の前記音響インピーダンスのプラス又はマイナス25%の範囲内、より特定的には前記圧電層(104)のプラス又はマイナス15%の範囲内である、請求項4~14のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項16】
前記埋め込まれた電極手段が前記圧電層(104、203)の溝の中に充填される、請求項1~15のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項17】
前記溝が、角錐形状若しくは台形形状(201a)又はV形状若しくはU形状(201c)を有する断面を有する、並びに/或いは、前記溝の側壁及び/又は底部が凸状(207b)又は凹状(207a)又はスカラップ状(207c)の形状を有する、請求項16に記載の変換器構造体。
【請求項18】
前記溝の前記底部(215)に誘電体層(211)が設けられている、請求項16又は17に記載の変換器構造体。
【請求項19】
前記溝(616、618)の前記側壁及び底壁が導電材料(620、622)で覆われており、前記溝(616、618)の残りの部分が誘電体材料(624、626)で充填されている、請求項17に記載の変換器構造体。
【請求項20】
前記溝(696、698)が前記圧電層(604)の中に延びており、前記溝(696、698)の前記側壁が導電材料(656、658)によって覆われており、前記溝(696、698)の残りの部分が誘電体材料(692、694)で充填されている、請求項17に記載の変換器構造体。
【請求項21】
前記圧電層(604)に向いた側壁だけが前記導電材料(656、658)によって覆われている、請求項20に記載の変換器構造体。
【請求項22】
前記誘電体材料が前記導電材料よりも高いせん断波位相速度を有する材料である、請求項18~21のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項23】
前記誘電体材料が、前記導電材料の温度係数周波数と符号が反対である温度係数周波数を有する、請求項18~22のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項24】
前記カバー層(672)の前記誘電体材料と前記溝(652、654)の中に充填されている前記誘電体材料(660、662)が同じである、請求項10又は11と組み合わせた請求項18~23のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項25】
前記電極手段がマンガンよりも軽い材料、特にアルミニウム、又はCu、Si、若しくはTiを含むアルミニウム合金で製作されている、請求項1~24のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項26】
前記圧電層がタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムである、請求項1~25のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項27】
前記ベース基板(106)がシリカ、石英、溶融石英、若しくはガラス、又はLiTaO、又はLiNbO、又はケイ素、特にSi(111)のうちの1つである、請求項6と組み合わせた請求項1~26のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項28】
前記高速度層(718)が、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つである、請求項6と組み合わせた請求項1~27のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項29】
前記カバー層(302、672)が、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つである、請求項10と組み合わせた請求項1~28のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項30】
前記誘電体材料が、炭素ベースのもの、特に特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンド、又はAlN、又はSiOである、請求項18~20のいずれか一項と組み合わせた請求項1~29のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項31】
交差指状くし型電極(202、204)の前記対が1つの領域(218)又はより多くの領域を備え、前記領域では、2つ以上の隣り合う電極手段(206、208)が同じくし型電極(202、204)に属しており、前記電極手段の互いまでの距離が、異なるくし型電極に属する前記隣り合う電極手段と同じである、請求項1~30のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項32】
同じくし型電極に属する前記2つ以上の隣り合う電極手段は、異なるくし型電極に属する前記隣り合う電極手段と同じ幾何形状を有する、請求項31に記載の変換器構造体。
【請求項33】
同じくし型電極(202、204)に属する2つ以上の隣り合う電極手段(206)を有する3つ以上の領域(218)を有する、請求項31又は32に記載の変換器構造体において、隣り合う領域の互いに対する距離が異なっている、特に、前記隣り合う領域が前記変換器構造体の広がりにわたってランダムに分散されていることを特徴とする、変換器構造体。
【請求項34】
同じくし型電極(202、204)に属する2つ以上の隣り合う電極手段(206、208)を有する複数の領域(218)が有する、同じくし型電極に属する隣り合う電極手段の数が異なる、請求項31~33のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項35】
前記電極手段がI線リソグラフィによって実現可能な寸法を有する、特に350nmよりも大きい幅を有する、請求項1~34のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項36】
請求項1~35のいずれか一項に記載の少なくとも1つの変換器構造体(100、200、300、408、410)を備える弾性波デバイス(400)であって、前記弾性波デバイス(400)が弾性波共振器、及び/又は弾性波フィルタ、及び/又は弾性波センサ、及び/又は周波数源である、弾性波デバイス(400)。
【請求項37】
3GHzを超えるRF信号で前記変換器構造体を駆動するように構成されている無線周波数(RF)供給手段を更に備える、請求項36に記載の弾性波デバイス。
【請求項38】
前記2つの交差指状電極に交番電位を印加して、前記圧電層と比較して前記電極手段においてより大きい振動振幅を有し、前記圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有するせん断モードを励起するステップを含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の変換器構造体を使用する方法。
【請求項39】
前記せん断モードは前記圧電層と比較して主として前記電極手段内で生じる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記2つの交差指状電極に交番電位を印加して、前記電極手段において、前記電極の内部でせん断運動を呈すること及び前記圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有することのない、一対の中性線を有するせん断モードを励起するステップを含む、請求項1~39のいずれか一項に記載の変換器構造体を使用する方法。
【請求項41】
前記変換器構造体が、フィルタ、特にラダー型フィルタ及び/若しくはインピーダンスフィルタ及び/若しくは結合フィルタ、又は共振器、又は遅延線、又はセンサの一部である、請求項38~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記フィルタが3GHzよりも高い周波数で使用される、請求項41に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性波デバイスに関し、特に弾性波デバイス用の変換器構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表面弾性波(SAW)デバイスが、フィルタ、センサ、及び遅延線などのますます多くの実際的用途で採用されている。特にSAWフィルタは携帯電話用途において興味深いものであるが、その理由は、複雑な電気回路を採用しなくても、これまでにないコンパクトさで低損失の高次バンドパスフィルタを形成できるからである。したがってSAWフィルタは、性能及びサイズの点で、他のフィルタ技術を上回る大きな利益をもたらす。
【0003】
典型的な表面弾性波デバイスには、表面伝搬基板上に1つ又は複数の交差指状変換器(inter-digitated transducer)(IDT)が形成されており、これを使用して、基板の圧電効果を利用することによって、弾性波から電気信号への、又はその逆の変換が行われる。交差指状変換器(IDT)は、圧電基板上に交差指状金属指が配設されている、対向する「電極くし(electrode comb)」を備える。これらの指を電気的に励起させることによって、基板上でレイリー表面弾性波が生じる。その他の波のタイプであるせん断波及び縦方向に偏波した波は体積中を進んで吸収されるので、フィルタ用途のためには最適化した金属グレーティング厚さを用いる必要がある。反対に、表面弾性波が変換器の下にある圧電基板材料中を伝搬することによって、それらの指を横断する方向に電気信号が誘起され得る。
【0004】
SAWデバイスは一般に、圧電材料として、石英、LiNbO、又はLiTaOのモノリシック結晶から製作されるウエハを使用する。しかしながら、圧電基板の使用は、使用される圧電材料に応じて、LiNbO若しくはLiTaOの場合の温度への感度の高さ、又は石英の場合の電気機械結合の弱さの、いずれかをもたらす。
【0005】
また更に、一般に弾性波速度は、ほとんどの場合3000~4000m/sに留まる位相速度を特に考慮すると、単結晶の材料特性によって制限される。実際には、石英の場合、レイリー表面弾性波が最もよく使用されるモードであり、それらの位相速度は3000~3500m.s-1の範囲にわたる。せん断波の使用によって、最大5100m.s-1の位相速度が可能になる。石英では結合は0,5%に留まる。タンタル酸リチウムの場合、レイリー波は3000~3500m.s-1の範囲の位相速度を示すが、モード結合は辛うじて2%に達し得る。ニオブ酸リチウム上でのレイリー波は最大3900m.s-1の位相速度に達し、5,6%の結合係数を有するが、IDTの上にSiOパッシベーション層を用いることで8%を達成し得る。
【0006】
LiTaO及びLiNbO上のせん断波は疑似モードとも呼ばれ、放射漏洩、いわゆる漏洩モードを示す。その場合、表面はこれらの波を部分的に誘導する。したがって、電極グレーティングは、表面付近のエネルギーを捕捉するのに大きな役割を果たす。位相速度はどちらの材料も4000~4500m.s-1の範囲である。
【0007】
最後に、LiTaO及びLiNbO基板上ではある結晶カットに沿って圧縮モードも励起され得るが、ここでもまた、モードは本質的に漏洩性であり、したがってバルク内への波放射に起因する漏洩効果を最小限にするために、周波数に対する特定の電極厚さを必要とする。
【0008】
漏洩効果を克服するための1つの手法では、複合基板の使用に至っている。複合基板はベース基板上に形成された圧電層を備える。複合基板によってベース基板用の材料の選択肢が多くなり、ダイヤモンド、サファイア、炭化ケイ素、又はケイ素などの高い弾性波伝搬速度を有するベース基板材料を選択することができる。光学系の場合と同様、そのようなベース基板の使用はモードの誘導をもたらす。
【0009】
複合基板は、強い電気機械結合、すなわち1%よりも大きい電気機械係数k と、温度安定性、すなわち20ppm/K未満の周波数温度係数(TCF)と、を組み合わせることができ、SAWデバイスの性能を改善し、設計の柔軟性をもたらすことができる。
【0010】
しかしながら、弾性波デバイスは約1~3GHzまでの動作周波数に留まる。その理由は、所与の位相速度に関して、くし型電極の電極ピッチ又は機械的周期pが弾性波の波長λを決定するからであり、これは関係式(変数間の関係を表す等式)p=λ/n(n≧2、一般には2である)によって与えられる。2GHzを超える周波数での動作には、100nmのオーダー以下の金属の寸法及び厚さが必要となるが、このことには構造体の安定性の問題がある。したがって実際には、より高い動作周波数が要求される場合に、くし型電極をそれ以上小型化するのは困難である。このことは、一方では、SAW産業において今日使用されているI線リソグラフィと比較してより高い分解能のリソグラフィ技術を使用する必要性に起因しており、他方では、構造において生じる電気損失に起因している。
【0011】
したがって、3GHzを超えるSAWデバイスを作り出すためには、大きな技術的努力が必要である。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的はしたがって、パラメータの改善された弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を提供することによって上に挙げた欠点を克服すること、及び、3GHzを超える周波数で機能できるが依然として標準的なI線リソグラフィを使用して製造可能な弾性波デバイスを提供することである。
【0013】
本発明の目的は、圧電層と、ピッチpを有する複数の電極手段を備える交差指状くし型電極の対と、を備える弾性波デバイス用の変換器構造体において、交差指状くし型電極の電極手段が圧電層に埋め込まれており、電極手段の音響インピーダンスが圧電層の音響インピーダンス未満である、変換器構造体、によって達成される。ある変形形態によれば、交差指状くし型電極の全体を埋め込むことができる。
【0014】
進歩性を有する装置では、電極手段が圧電層に埋め込まれており、且つ電極手段の音響インピーダンスが圧電層の音響インピーダンスよりも小さいので、本質的に電極手段の体積に制限された、せん断波に似た伝搬モード(電極モード)が励起され得る。実際には、境界条件は、電極手段内でのせん断モードの励起を可能にするようなものとなる。音響インピーダンスの違いに起因して、電極手段の側縁部における反射率は、エネルギーを本質的に電極内に閉じ込めるのに十分な大きさである。それでもなお、交差指状くし型電極によるグレーティング構成に起因して、交互の電気極性の存在下で、圧電層内である程度の振動が誘起され、このことが電極の振動間のコヒーレンスをもたらし、このことにより、ある電極から次の対向する隣り合う電極への位相振動を伴う共振現象がもたらされる。変換器の動作弾性波波長λは変換器構造体の共振周波数fとリンクしており、このときf=v/2p=v/λであり、vは弾性波伝搬基板における弾性波伝搬速度である。したがって、この所与の幾何形状において、例えば10.000m.s-1ものオーダーの、上述したものよりも遥かに高い等価位相速度が観察され得る。電極手段内部のバルク弾性波は、上記したような先行技術の配置構成の圧電層内を誘導された波と比較して、より高い周波数での共振を伴うので、このモードによって、変換器構造体が、I線リソグラフィの製造技術に制限されることなく、従来技術の変換器構造体と比較してより高い、3GHzを超える周波数で機能することが可能になる。
【0015】
特に、電極手段と圧電層の間の音響インピーダンスの比は、0.5未満であるのが好ましい。2%を超える、好ましくは3%を超える電気機械結合を生む材料の組合せが、電極内部でのモードの確立及び電極間のコヒーレントな結合にとって有利である。
【0016】
ある変形形態によれば、ピッチpはp=λ/2によって与えられるブラッグ条件を満たし、λは前記変換器の動作弾性波波長である。この状況では、電極モードはより効率的に励起される。
【0017】
本発明の変形形態によれば、電極手段の「a」が幅、「p」がピッチである、電極手段の金属化比a/pは、0,3~0,75の間、特に0,4~0,65の間で構成され得る。この範囲のa/p比を使用することは電極手段において励起されるバルク弾性波の形成にとって有利であり、圧電層の弾性表面モードの寄与を低減又は抑制する。
【0018】
本発明の変形形態によれば、圧電層をベース基板の上に設けることができる。ベース基板を使用することは、エネルギーを表面付近、特に電極手段内部に閉じ込めるのに有利である。
【0019】
ある変形形態によれば、変換器構造体は、圧電層とベース基板の間に、取り付け層、特に二酸化ケイ素(SiO)を更に備え得る。変換器構造体を最適化するために、取り付け層を介して、圧電層及び下にあるベース基板として様々な材料を使用することができる。周波数温度係数(TCF)を改善するために、二酸化ケイ素が使用され得る。
【0020】
ある変形形態によれば、変換器構造体は、圧電層とベース基板の間に高速度層を更に備えることができ、この高速度層は、圧電層の材料及び結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする材料で製作される。このことにより基本せん断モードを加速することが可能になるが、その位相速度は表面スキミングバルク波(SSBW)とも呼ばれるベース基板の低速せん断バルク波速度よりも大きくなり得、その場合、基本せん断モードは圧電層において誘導され得ず、ベース基板内で拡散することになる。
【0021】
ある変形形態によれば、高速度層は、取り付け層とベース基板の間に配置され得る。圧電層と高速度層の間に取り付け層を配置することによって加速特性を活用することができ、このとき下にある構造体への圧電層の取り付け工程を変更する必要はないので、高速度層の材料選択とは関係なく高品質の圧電層が得られるようになる。
【0022】
ある変形形態によれば、変換器構造体は、圧電層とベース基板の間にトラップリッチ層、特にポリシリコントラップリッチ層を更に備え得る。トラップリッチ層によって漏れ電流を抑制することができる。
【0023】
ある変形形態によれば、トラップリッチ層は、高速度層とベース基板の間に配置され得る。この順序であれば、全体的な構造において様々な層の個々の利点が維持され得る。
【0024】
ある変形形態によれば、変換器構造体は、埋め込まれた電極手段及び圧電層の上に、カバー層を更に備え得る。このことにより、電極におけるせん断モードの誘導が更に改善され、エレクトロマイグレーションの可能性が更に低減される。
【0025】
ある変形形態によれば、カバー層は、圧電層の材料及び/又は結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする、材料で製作され得る及び/又は結晶方位を有し得る。この結果、基本せん断モードの速度が圧電層におけるその速度と比較して加速されるように、カバー層の材料を選択することができる。このことによってベース基板の体積内への拡散が促進され、その結果、本質的に電極モードだけが圧電層の誘導ドメイン内に留まる。
【0026】
本発明の変形形態によれば、変換器構造体は、圧電層の下に及び/又は埋め込まれた電極手段の下に、ブラッグミラーを更に備え得る。ブラッグミラーはベース基板へのエネルギー損失を低減するもので、デバイス構造に機械的安定性を付与できる。
【0027】
本発明の変形形態によれば、埋め込まれた電極手段の厚さは、圧電層の厚さ以下とすることができる。この結果、従来の変換器構造体と比較してより厚い電極が使用され、以って、電極におけるせん断モードの確立が可能になると共に、電極の安定性を高めること、及び抵抗損失を低減することが可能になる。
【0028】
本発明の変形形態によれば、電極手段の厚さtは、λ>t>0,1*λ。この厚さ範囲内では、表面付近の電気機械場を、単結晶の場合は電極の厚さと同等の厚さの、又は複合ウエハの場合は圧電層と電極を足した厚さの領域内に、集中させることが可能になる。この結果電気機械結合及びスペクトル純度の改善がもたらされることになり、デバイス応答に対するモード寄与を単一に又は少なくとも制限された数にすることが可能になる。
【0029】
本発明の変形形態によれば、複合基板のベース基板の音響インピーダンスは圧電層の音響インピーダンスのオーダーであり、特に圧電層の音響インピーダンスのプラス又はマイナス25%の範囲内、より特定的には圧電層のプラス又はマイナス15%の範囲内である。特に、電極が圧電層と同じ厚さを有する場合、インピーダンス整合によって、せん断モードを電極内に閉じ込めることが可能になる。
【0030】
ある変形形態によれば、埋め込まれた電極は圧電層の溝の中に充填され得る。溝は、角錐形状若しくは台形形状又はV形状若しくはU形状を有する断面を有し得る、並びに/或いは、溝の側壁及び/又は底部は、凸状又は凹状又はスカラップ状の形状を有する。特に、角錐形状、又は平行な辺のうち短い方が変換器構造体の表面にある台形形状では、垂直壁を有する溝と比較して、品質係数の改善がもたらされる。
【0031】
本発明の変形形態によれば、溝の底部に誘電体層を設けることができる。本発明の変形形態によれば、溝の側壁及び底壁を導電材料で覆うことができ、溝の残りの部分は誘電体材料で充電することができる。本発明の変形形態によれば、溝は圧電層の中に延びることができ、溝の側壁を導電材料によって覆うことができ、溝の残りの部分は誘電体材料で充電することができる。本発明の変形形態によれば、圧電層に向いた側壁だけを導電材料によって覆うことができる。本発明の変形形態によれば、誘電体材料は、導電材料よりも高いせん断波位相速度を有する材料とすることができる。既に説明したように、このことによって基本せん断波の位相速度をSSBW速度を超えることができるように加速することが可能になり、その結果ベース基板内でのその拡散が可能になる。
【0032】
本発明の変形形態によれば、誘電体材料は、導電材料の温度係数周波数と符号が反対の温度係数周波数を有し得る。したがって、デバイスをより広い温度範囲にわたって使用することができる。
【0033】
本発明の変形形態によれば、カバー層の誘電体材料と溝に充填される誘電体材料は同じであり得る。したがって、1つのプロセスステップにおいて両方の有利な特徴を実現できる。
【0034】
ある変形形態によれば、電極手段の材料は、マンガンよりも軽い材料、特にアルミニウム、又はCu、Si、若しくはTiを含むアルミニウム合金で製作することができる。特に、アルミニウムとタンタル酸リチウムの組合せによって3%を超える結合係数が得られ、このとき圧電層内に基本せん断モードは存在しない。
【0035】
ある変形形態によれば、圧電層はタンタル酸リチウム(LiTaO)又はニオブ酸リチウム(LiNbO)とすることができる。いずれの材料でも、複合基板、特にいわゆるピエゾオンインシュレータ基板(POI)が、工業規模で得られる。
【0036】
ある変形形態によれば、ベース基板は、シリカ、二酸化ケイ素、若しくはガラス石英、若しくは溶融石英、若しくはガラス、又はLiTaO、又はLiNbO、又はケイ素、特にSi(111)とすることができる。これらの基板を使用すると、電極手段内部のせん断モードは残留するが、圧電層内の基本せん断モードは抑制され得る。Si(111)では、SSBW速度はSi(100)と比較して特に低い。同時に、例えばピエゾエレクトリックオンインシュレータ(POI)基板を使用することによって、ガラス又はSiO2基板上の圧電層が工業規模で得られる。
【0037】
ある変形形態によれば、高速度層は、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つである。ある変形形態によれば、カバー層は、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つであり得る。ある変形形態によれば、誘電体材料は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンド、又はAlN、又はSiOであり得る。これらの材料は基本せん断モード寄与の低減を可能にする。SiOの使用によってTCF特性を改善することができる。
【0038】
ある変形形態によれば、交差指状くし型電極の上記対が1つの領域又はより多くの領域を備え、上記領域では、2つ以上の隣り合う電極手段が同じくし型電極に属しており、上記電極手段の互いまでの距離が、異なるくし型電極に属する上記隣り合う電極手段と同じである。ここで、当該距離は、上記で定義された上記ピッチpに対応する縁部間距離である。ある変形形態によれば、同じくし型電極に属する2つ以上の隣り合う電極手段は、異なるくし型電極に属する隣り合う電極手段と同じ幾何形状を有する。隣り合う電極手段を同じ電位にリンクするが同じ機械的周期性を変わらず有することによって系から弾性波源が除去され、その結果電気機械結合が低下する。このことを使用して電気機械結合を調整すること、及び、以って、つまり帯域通過の幅を微調整することによって、フィルタの形成時にフィルタの伝達関数を調節することができる。
【0039】
ある変形形態によれば、2つ以上の、特に少なくとも3つの隣り合う電極手段を有する領域が、同じくし型電極に属すことができ、それらは周期的に分散されない、特に、ランダムに分散される。これらは特に、変換器構造体の広がりにわたって隣り合う領域の互いに対する距離が異なるという点で特徴付けられる。系の対称性を下げることによって、より高次の周期性のスプリアス寄与を低減すること、又は抑制することすらできる。
【0040】
ある変形形態によれば、同じくし型電極に属する2つ以上の隣り合う電極手段を有する領域が有する、同じくし型電極に属する隣り合う電極手段の数は、様々であり得る。様々な数の隣り合う電極手段を有する領域を同じ電位に接続することによって、スプリアス寄与を更に低減できる。
【0041】
ある変形形態によれば、変換器構造体の電極手段はI線リソグラフィによって実現可能な寸法を有し得る、特に、350nmよりも大きい幅を有し得る。したがって、248nm又は193nm又は更に短い波長を使用するリソグラフィツールと比較して、より安価なリソグラフィ手段を使用して、3GHzを超える周波数で使用可能なデバイスを製造することができる。
【0042】
本発明の目的は、少なくとも1つの既に記載したような変換器構造体、特に弾性波共振器、及び/又は弾性波フィルタ、及び/又は弾性波センサを備える弾性波デバイスによっても達成される。3GHzを超える周波数で動作可能なこの弾性波デバイスは、更に高度な、及びしたがってより高価なリソグラフィツールを使用することなく、I線リソグラフィ技術を使用して製造可能である。この結果、その周波数がせいぜい2GHzに留まるSAWデバイスを使用したレイリー表面波と比較して、電極せん断波モードの使用は、パターニング技術を変更する必要なく周波数範囲の拡張を可能にする。複合基板を使用すると、20ppm/Kよりも小さい低減された一次の周波数温度係数(TCF)を達成することができ、この結果デバイス性能が温度に対して安定する。本発明を使用すると、5%又は更には10%よりも大きく最大で15%である相対帯域幅を有する弾性波バンドパスフィルタが実現され得る。
【0043】
ある変形形態によれば、弾性デバイスは、3GHzを超えるRF信号で変換器構造体を駆動するように構成されている無線周波数(RF)供給手段を更に備え得る。このように、I線リソグラフィを使用して、3GHz超で機能するデバイスを実現できる。
【0044】
ある変形形態によれば、弾性波デバイスは、既に記載したような入力及び出力変換器構造体を備え得る。
【0045】
本発明の目的はまた、2つの交差指状電極に交番電位を印加して、圧電層と比較して主として又は専ら電極手段内で生じ、圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有するせん断モードを励起するステップを含む、上記したような変換器構造体を使用する方法によっても達成される。少なくとも、電極手段における振動振幅は、圧電層の場合よりも大きい。特にラダー型フィルタ及び/又はインピーダンスフィルタ及び/又は結合フィルタに対する、既に記載したような変換器構造体の電極手段内を伝搬するせん断波のより高い周波数の使用は、3GHz超で、より特定的には3,5GHz超で機能するデバイスをもたらす。同時に、デバイスを形成するために、I線リソグラフィを使用することができる。
【0046】
本発明の目的は、2つの交差指状電極に交番電位を印加して、電極手段において、電極の内部でせん断運動を呈すること及び圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有することのない、一対の中性線を有するせん断モードを励起するステップを含む、上記したような変換器構造体を使用する方法によっても達成される。このモードの利用によって、3GHz超、特に3,5GHz超で機能する、ラダー型フィルタ及び/又はインピーダンスフィルタ及び/又は結合フィルタなどのデバイスを実現できるように、より高い共振周波数を活用することが可能になり、一方このとき、デバイスのパターンを形成するためにはI線リソグラフィが使用される。
【0047】
本発明は、参照符号によって本発明の特徴が識別される添付の図と併せて解釈される、以下の説明を参照して理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の第1の実施形態に係る、弾性波デバイス用の複合基板上の交差指状変換器構造体を示す図である。
図2図1に示す変換器構造体を用いて得たモードを概略的に示す図である。
図3a】本発明の第1の実施形態の例に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す図である。
図3b】観察されたモードの振動を示すメッシュ図である。
図3c】位相が対立しているモードの振動を示すメッシュ図である。
図3d図3aに示すようなシミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスの拡大図である。
図3e】励起モードのコンダクタンス及び抵抗を示す図である。
図3f】励起モードの分散特性を示す図である。
図3g】第1の実施形態に係る別の例の内部の変形を示す図である。
図3h】第1の実施形態に係る別の例の内部の変形を示す図である。
図4】圧電層内の3つの異なる電極形状を示す図であり、(a)は第2の実施形態に係るもの、(b)は第1の実施形態に係るもの、(c)は第3の実施形態に係るものである。
図4d】3つの異なる電極幾何形状に対応する高調波サセプタンスを示す図である。
図4e】3つの異なる電極幾何形状に対応する高調コンダクタンスを示す図である。
図4f】凹状の側壁を有する電極形状の更なる変形形態を示す図である。
図4g】凸状の側壁を有する電極形状の更なる変形形態を示す図である。
図4h】スカラップ状の側壁を有する電極形状の更なる変形形態を示す図である。
図4i】溝の中に誘電体層がある、電極形状の更なる変形形態を示す図である。
図4j】溝の中に誘電体層がある、電極形状の更なる変形形態を示す図である。
図5】電極内に閉じ込められるせん断モードの発生に対する電極の厚さの効果を示す図である。
図6】本発明の第4の実施形態に係る、弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を示す図である。
図7a】本発明の第5の実施形態に係る、弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を示す図である。
図7b】本発明の第5の実施形態に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す図である。
図7c】本発明の第5の実施形態の変形形態に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す図である。
図7d】本発明の第5の実施形態の変形形態に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す図である。
図8】本発明の第1~第5の実施形態のうちのいずれか1つに係る変換器構造体の、第6の実施形態を示す図である。
図9a】本発明の第7の実施形態を示す図であり、5GHzのフィルタに関する。
図9b図9aに係るフィルタの伝達関数を示す図である。
図10a】本発明に係るより高次のモードを示す図である。
図10b】LiTaO基板及びSiO基板に関する、このモードの高調波コンダクタンス及び抵抗を示す図である。
図10c】Al基板及びSi基板に関する、このモードの高調波コンダクタンス及び抵抗を示す図である。
図11】抑制された弾性波源を有する本発明の第8の実施形態を示す図である。
図12a】本発明の第9の実施形態の変形形態の一つを示す。
図12b】本発明の第9の実施形態の変形形態の他の一つを示す。
図12c】本発明の第9の実施形態の変形形態のさらに他の一つを示す。
図13a図12aに示されているような電極の形状を得るためのプロセスの一部を示す図である。
図13b図12aに示されているような電極の形状を得るためのプロセスの一部を示す図である。
図13c図12aに示されているような電極の形状を得るためのプロセスの一部を示す図である。
図13d図12aに示されているような電極の形状を得るためのプロセスの一部を示す図である。
図14a】誘電体としてダイヤモンド状炭素を使用しているときの、第9の実施形態に係る変換器構造体のアドミッタンス及びインピーダンスを示す図である。
図14b】誘電体としてダイヤモンド状炭素を使用しているときの、第9の実施形態に係る変換器構造体のアドミッタンス及びインピーダンスを示す図である。
図14c】第9の実施形態に係る変換器構造体において観察されるモードの振動を示すメッシュ図である。
図15a】誘電体として窒化アルミニウムを使用しているときの、第9の実施形態に係る変換器構造体のアドミッタンス及びインピーダンスを示す図である。
図15b】誘電体として窒化アルミニウムを使用しているときの、第9の実施形態に係る変換器構造体のアドミッタンス及びインピーダンスを示す図である。
図16a】誘電体として二酸化ケイ素を使用しているときの、第9の実施形態に係る変換器構造体のコンダクタンスG及び抵抗Rを示す図である。
図16b】共振の拡大図である。
図16c】反共振の拡大図である。
図16d】第9の実施形態に係る変換器の第4の変形形態を示す図である。
図17a】第10の実施形態に係る変換器構造体の変形形態の一つを示す図である。
図17b】第10の実施形態に係る変換器構造体の変形形態の他の一つを示す図である。
図18a】本発明に係る変換器の実例を示す、電子顕微鏡で撮影した画像の一つである。
図18b】本発明に係る変換器の実例を示す、電子顕微鏡で撮影した画像の他の一つである。
図18c図18a及び図18bに示す挙動実例をシミュレーションするために使用される、有限要素メッシュを示す図である。
図19a】上記実例のサセプタンス及び抵抗の実験測定を示す図である。
図19b図18cに示すような構造体の数値シミュレーションによって得られた、サセプタンス及び抵抗の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
ここで本発明について、有利な実施形態を使用し、例示的なものとして、図面を参照してより詳細に記載する。記載した実施形態は単に本発明に従う可能な構成に過ぎず、上記したような個々の特徴は、本発明に係る更なる実施形態を実現すべく、互いに独立して又は組み合わせて提供され得ることに留意すべきである。
【0050】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を示す。
【0051】
変換器構造体100は、弾性波伝搬基板102を備える。弾性波伝搬基板は、ベース基板106の上に形成される圧電層104を備える、複合基板102とすることができる。複合基板は、いわゆるピエゾエレクトリックオンインシュレータ基板又はPOI基板とすることができる。他の実施形態では、圧電層はバルク材料を形成できるほどの厚さであり得る。
【0052】
本明細書において例として記載されている圧電層104は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)又はタンタル酸リチウム(LiTaO)であってもよい。圧電材料層104は、例えばスマートカット(SmartCut)(登録商標)層転移技術を使用した直接接合によって、ベース基板106に取り付けることができる。ベース基板106上に形成される圧電層104の厚さは1波長λ以下の、特に約2μm以下の、特に0,5λ未満の、更により特定的には0,4λ未満のオーダーであり得る。
【0053】
本明細書において例として記載されている圧電層は、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、特に、標準的なIEEE1949 Std-176に従って、36°<θ<52°若しくは60°<θ<68°若しくは120°<θ<140°である(YXl)/θとして、並びに85°<Ψ<95°である(YXt)/Ψとして、並びにΦ=90°、-30°<θ<+45°、及び0°<Ψ<45°である(YXwlt)/ΦθΨとして定義される結晶方位を有するLiNbO、又は、タンタル酸リチウム(LiTaO)、特に標準的なIEEE1949 Std-176に従って、36°<θ<52°である(YXl)/θとして定義される結晶方位を有する、LiTaO、より特定的には、標準的なIEEE1949 Std-176に従って(YXl)/42°切断として定義される、42°Y切断、X伝搬のLiTaOであってもよい。
【0054】
既に述べたように、ある変形形態によれば、バルク圧電材料と等価な圧電層厚さも使用できるように、圧電層104の厚さを波長λよりも大きくすることができる。
【0055】
本発明の第1の実施形態において使用されるベース基板106は、シリカ基板、シリカ、石英、溶融石英、又はガラスである。この種の基板では低速せん断バルク波速度(SSBW)は圧電層における基本弾性バルクせん断モードのSSBWよりも劣り、このため圧電層のバルクせん断モードは表面からバルクへの放射及び拡散によって抑制される。
【0056】
4500m/s以上の高い弾性波伝搬速度を有する他の基板、例えばケイ素、ダイヤモンド、サファイア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、又は窒化アルミニウムを使用してもよいが、その場合、電極を圧電層の上に配置したときに励起されるモードに対応する基本誘導せん断モードが存在し得る。
【0057】
この実施形態では、ベース基板106の厚さは圧電層104の厚さよりも大きい。好ましい状況は、圧電層104の厚さよりも少なくとも10倍大きい、特に50~100倍大きいベース基板厚さに対応している。
【0058】
また更に、複合基板102のベース基板106の音響インピーダンスは圧電層の音響インピーダンスのオーダーであり、特にプラス/マイナス25%の範囲内、より特定的にはプラス/マイナス15%の範囲内である。ある変形形態によれば、これらは同じである。
【0059】
本発明の変形形態では、ベース基板106は圧電材料の最上層の近くに、トラップリッチ層を更に備えてもよい。そのようなトラップリッチ層は、ベース基板106の絶縁性能を改善することができ、多結晶、非晶質、又は多孔質材料のうちの少なくとも1つ、例えば多結晶ケイ素、非晶質ケイ素、又は多孔質ケイ素などによって形成されてもよい。用語「トラップリッチ」においては、電荷を吸収できるがただし導電層を形成しない層が理解される。
【0060】
複合基板は、圧電層がベース基板に転移される層転移法によって得ることができる。接合及び薄層化などの方法又はサブ波長層の転移を可能にするスマート-カット(登録商標)などの層転移法を使用することができる。そのような複合基板は、例えば接合若しくは取り付け層、特にSiO、又は他の機能層、例えばトラップリッチ、ブラッグミラー、低速度/高速度積層体などの、追加の層又は層の積層体を備えてもよい。
【0061】
ある変形形態では、ベース基板106はシリコンオンインシュレータ(SOI)基板であってもよい。シリコンオンインシュレータ基板(SOI)は、例えば中間SiO(接合)層を使用した分子接着、及び、前記のスマート-カット(登録商標)プロセスなどのケイ素層を転移するための手段によって得られる。
【0062】
変換器構造体100は、対向する交差指状くし型電極108及び110の対を更に備え、それらの各々が、それらの対応する導電性部分116及び118から延びて互いに交差指状を成している、複数の電極手段112_i及び114_j(ここでは1<=I、j<=4)をそれぞれ有する。くし型電極108及び110、並びに特に電極手段112_i、114_jは、音響インピーダンスが圧電層104の場合よりも低い限りは、任意の好適な導電性金属で、例えば純アルミニウム、又はCu、Si、若しくはTiをドープしたAlなどの合金で、形成される。一般に、マンガンよりも軽い、したがってクロムを始めとしてそれよりも軽い電極材料が適している。この実施形態によれば、電極手段112_i、114_jのaが幅、pがピッチであるアスペクト比a/pは、0,3~0,75の間、特に0,4~0,65の間で構成される。電極手段112_i、114_jの金属化又はアスペクト比a/p、及び厚さtは、デバイスにおける放射損失及び電気機械結合を制御するためのパラメータである。
【0063】
電気負荷120が、くし型電極108、110にまたがるように連結されているものとして示されている。ただし、変換器100が、基板102内に弾性波を励起するために、又は受け取った弾性波を電気信号に変換するために、又は両方のために利用されるかどうかに応じて、電極108、110にまたがるように電源電位120が連結されてもよいことが理解されよう。
【0064】
電極手段、例えば112_1~112_4及び114_1~114_4は交差指状であり、それらの対応するくし型電極108及び110を介して交番電位に接続される。交番電位は示されているような+V及び-V、又はマス(mass)及び負荷/電源電位とすることができる。
【0065】
この実施形態では、電極手段112_i、114_jは全て、同じ長さl、幅a、及び厚さtを有する。本発明の変形形態によれば、電極手段112_i、114_jはまた、異なる長さl、及び/又は幅a、及び/又は厚さtも有し得る。
【0066】
電極手段112_i及び114_j及びそれらの対応するくし型電極108及び110は、同じ平面内に設けられる。ある変形形態によれば、電極手段112_i及び114_jは圧電層104に埋め込まれており、電極手段間の電気接続を提供するくし型電極108、110を圧電層104の上に置いてもよい。
【0067】
また更に、変換器構造体100に対して、ブラッグ条件に対応して、λ/2で定義されλが弾性波の動作波長である電極ピッチpが使用される。電極ピッチpは、対向するくし型電極108及び110からの2つの隣り合う電極手段の間の、例えば112_3と114_3の間の距離に対応している。この場合、波長λは、同じくし型電極108又は110からの2つの隣り合う電極手段の間の、例えば112_3と112_4の間の距離に対応している。そのようなブラッグ条件では、変換器は、動作周波数fにおいて同調モードで動作していると言われ、その場合、変換器構造体内で励起される全ての弾性波はコヒーレントで同相である。したがって電極ピッチpは、変換器構造体の利用の周波数を定める。動作周波数fは、vが変換器構造体100内を伝搬する弾性波の実効位相速度、pが変換器構造体100の電極ピッチであるときのv/2pによって与えられる、位相一致の条件によって固定される。
【0068】
電極手段112_i、114_jは圧電層104に埋め込まれており、それらの厚さtが圧電層104の厚さt以下となるように、圧電層104に完全に埋め込まれているのが好ましい。
【0069】
電極手段112_i~114_jの厚さは、波長λに対して以下の関係を満たすものとする:0,1<t/λ<1。
【0070】
したがって、電極手段112_i~114_jは、圧電基板の上に交差指状電極が形成されている従来技術の交差指状変換器構造体の電極よりも厚い。これらはしたがって、より良好な安定性及び電気損失の低減をもたらす。また更に、埋め込まれた電極によって電力効果に起因するアコーストマイグレーション(acousto-migration)及びエレクトロマイグレーションの可能性が制限されるので、電力操作が改善される。金属は溝の中に配置され、このため表面拡散及び金属マイグレーションに起因する直接の金属接触が防止される。
【0071】
くし型電極108、110の導電性部分116、118は、圧電層104及び/又は埋め込まれた電極手段112_i、114_j上に設けることができる。
【0072】
変換器構造体100の電極108及び110における電荷分布によって、電極108、110の電極手段112_i、114_jの延伸方向zに対して垂直なことを意味する、図1において矢印Eで示すような電界方向に、弾性波が励起される。
【0073】
従来技術のSAWデバイスでは、レイリー表面弾性波、ラム波、又はせん断波など、様々なモードが存在する可能性がある。これに対し、この進歩性を有する変換器構造体100は、主として電極内部に集中されるせん断に似たモードをもたらす新しいモードを可能にする。このモードを以下では電極モードと呼ぶ。
【0074】
このことは、電極手段が圧電層に埋め込まれていること、及び、電極手段の音響インピーダンスが圧電層の音響インピーダンスよりも小さいことによる。実際には、境界条件は、電極手段内でのせん断モードの励起を可能にするようなものとなる。最大の振動は電極の中央で生じ、ある電極手段から次の隣り合う電極手段へと符号を変えていく。
【0075】
音響インピーダンスの違いに起因して、電極手段の側縁部における反射率は、エネルギーを本質的に電極内に閉じ込めるのに十分な大きさである。それでもなお、交差指状くし型電極によるグレーティング構成に起因して、交互の電気極性の存在下で、圧電層内である程度の振動が誘起され、このことが電極の振動間のコヒーレンスをもたらし、このことにより共振現象がもたらされるが、依然としてモードの誘導を得ることはできる。
【0076】
変換器の動作弾性波波長λは変換器構造体の共振周波数fとリンクしており、このときf=v/2p=v/λであり、vは弾性波伝搬基板における弾性波伝搬速度である。
【0077】
このモードは、変換器構造体100a及び2つの隣り合う電極手段112_3及び114_3の上面図である図2に概略的に示されている。S. Ballandras et al, Finite-element analysis of periodic piezoelectric transducers Journal of Applied Physics 93, 702 (2003); https://doi.org/10.1063/1.1524711を参照して数値シミュレーションを行い、せん断運動が電極手段内に集中するこのモードの励起を立証した。実際にはせん断運動は圧電層104内にも存在するが、圧電層104における振動の大きさと比較してより大きい大きさの振動が、電極においてある電極から他の電極へと交互の振動方向に生じる。
【0078】
図3aは、本発明の第1の実施形態の第1の例に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す。
【0079】
この実施形態では、変換器構造体は、シリカ基板上のLiTaO圧電層に埋め込まれたAl-Cu電極を備える。変換器構造体の波長λは2,8μmに等しく、したがってp=1.4μmであり、電極のアスペクト比a/pは0,43に等しい。この実施形態では、図1に示すように、電極112_i、114_jは圧電層104に埋め込まれており、幾何学的な視点において切れ目のない材料を表すが、結果的な層の物理特性は周期的に分散される。
【0080】
以下に示す結果から分かるように、このモードの固有の特徴は、等価位相速度約9850m.s-1で伝搬する漏洩SAWに類似しており、この場合、典型的には約3750m.s-1である、二酸化ケイ素における表面スキミングバルク波(SSBW)よりも高い。実際は、金属化比a/pが約0,43、共振周波数が3,45GHzである構造体の機械的周期が2.8μmであると考えると、約9850m.s-1の等価速度が達成される。モードの速度は、共振周波数3,45GHzに電気周期2,8μmを掛けた積によって得られる。モードの速度は、阻止帯域の始まりと終わりの周波数の和に機械的周期を掛けたものとして計算される。以下を更に参照されたい。
【0081】
図3aは、図2に既に示したような電極のせん断モードが励起される構成に関して得られたシミュレーションデータを示す。グラフは、G高調波及びB高調波の両方について、X軸上のMHzでの周波数範囲の関数として、左側のY軸上にS単位のコンダクタンスGを、右側のY軸上にS単位のサセプタンスBを表す。見て取れるように、広帯域高調波アドミッタンスが観察され、3,45GHzにせん断共振がある。3,45GHzのせん断共振は主たる励起モードである。また更に、約1,5GHz及び約7GHzにおいて、遥かに小さい2つの寄与が認められる。
【0082】
図3b及び図3cは、変換器の構造体の内部の変形を示す。動きは交差指状電極108、110のエリアだけに集中している。圧電層104における振動は、シミュレーションではほとんど確認できなかった。
【0083】
本発明によれば、上述したパラメータは、せん断バルク弾性モードが主として金属電極手段112_i、114_j内で励起され、y方向に偏波され、z方向に変位を生じるようなものであった。有用なE場はx方向に沿って延びる。この場合、振動は主として電極内に位置し、電極自体の基本せん断バルク波の近くで変形が生じる。圧電層104内でせん断運動も観察されるが、最大の大きさの振動は、電極112_i、114_jにおいて交互の振動方向で生じる。
【0084】
せん断変位方向は、+V/-V電気分極構造によって変換器100が励起されるときに、ある電極から別の電極へと交互に入れ替わる。この電極の位相の対立によって電極の縁部における電荷の蓄積が増加し、その結果、電極112_i、114_jにおけるバルクモードの励起が向上する。圧電層104は応力を電極縁部に限定しており、変換器構造体はブラッグ条件で動作するので、グレーティングに沿った境界条件を満たすときに振動のコヒーレンスが生じる。せん断運動は圧電層104内にも存在するが、最大の大きさの振動は、電極においてある電極から他の電極へと交互の振動方向に生じる。
【0085】
変換器構造体内を伝搬する主たる弾性波はこの場合、電極112_i、114_j内に本質的に閉じ込められるバルクせん断波である。変換器構造体100の共振周波数fはf=V/2p=V/λによって与えられ、vは弾性波伝搬基板における弾性波伝搬速度、λは変換器の動作弾性波波長である。
【0086】
電極手段におけるバルク弾性波は、圧電層内で基本せん断モードの誘導波よりも高い周波数での共振を有するので、この変換器構造体は、特に3GHzを超える、より高い周波数で機能し得る。したがって、先行技術のデバイスの場合よりも高い周波数を利用することができ、このとき、より小さい特徴へと移るために、SAW産業で現在使用されているツール、特にI線リソグラフィステッパよりも洗練されたリソグラフィツールを使用する必要はない。
【0087】
本発明の主たる態様はしたがって、このタイプの構造体が、上で説明したように、電極手段内に閉じ込められるせん断バルクモードに似た、主として電極内に位置するせん断モードの励起を可能にする、というものである。電極モードは疑似又は漏洩モードとしての条件を満たす、すなわち漏洩が低減されているものの完全には抑制されていない状態で閉じ込められる場合があり、このことが電極間の同調をもたらす。このモードは、圧電層内のせん断モードを利用する複合基板上の従来技術の交差指状変換器構造体を用いて達成可能な等価速度よりも、遥かに大きい等価速度を呈する。その他のモードは強度が遥かに低いか又は抑制されているが、その主たる原因は、低いSSBW速度を有ししたがって標準的なせん断モードの拡散を可能にする、シリカ基板を使用していることにある。
【0088】
この進歩性を有する構成は個々の共振器ネットワーク又はグレーティングとして理解することができるが、この場合共振器は圧電層を介して結合されており、したがって位相速度が基本せん断モードと比較してより高くても、基板内への拡散の少なくとも大部分が防止され、この結果漏洩モードと同等となる。
【0089】
図3dは、本発明の第1の実施形態に係る、図3aに示すシミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスの拡大図を示す。
【0090】
図3dに示すグラフは、G高調波及びB高調波の両方について、X軸上の3400~3600MHzの間の周波数範囲に対して、左側のY軸上にS単位のコンダクタンスを、右側のY軸上にS単位のサセプタンスを表す。約3,475GHzでの共振及び約3,525GHzでの反共振を見て取れる。共振及び反共振は十分に分離されており、約3%の結合係数をもたらす。共振は阻止帯域の始まりにおいて生じる。
【0091】
この特定のケースでは、約9%の反射係数、約500の共振の品質係数Q、及び約1000の反共振の品質係数Qが達成される。
【0092】
変換器構造体の特徴、例えばアスペクト比a/p、電極の厚さ、及び使用される材料を修正することによって、結合係数が改善され得る。特に、電極のアスペクト比a/p及び厚さによって、速度、電気機械結合、品質係数又は放射損失、及び反射係数の制御が可能になる。
【0093】
図3eは、材料選択は同じであるがアスペクト比a/pが0,57である場合に得られた、第1の実施形態の変形形態に関する励起モードのコンダクタンス及び抵抗を示す。
【0094】
更にこの構成では、電極内部に集中されるせん断モードが励起される。グラフは、G高調波及びR高調波の両方について、X軸上の3450~3750MHzの間の周波数範囲に対して、左側のY軸上にS単位のコンダクタンスを、右側のY軸上にS単位のサセプタンスを表す。約3550GHzでの共振及び約3700GHzでの反共振が得られる。
【0095】
この場合、アスペクト比a/pの0,43から0,57への増大が、10km.s-1を超えるまでの伝搬モードの等価位相速度の上昇と、10%を超えるまでの結合係数の向上とをもたらす。しかしながら、反射係数はこの時点では5%未満である。共振ではQ係数は依然として500に等しいが、反共振ではQ係数はこの時点で350に等しい。
【0096】
図3fは、本発明の第1の実施形態に係る、図3aに示されているような励起モードの分散特性を示す。この場合、アドミッタンスは、ブラッグ条件としても認識される前記第1ブリルアン帯の縁部に対応する0,5の値の付近の、規格化した様々な波長について計算される。0,5よりも小さい規格化した波長については、曲線上で及びより低い周波数に見ることができるように、モードの励起の効率は低下する。このことを考慮し、周波数及び規格化した波長に対する最大アドミッタンスモジュール(admittance modules)の推移をプロットすることによって、従来の周期格子における任意の波伝搬の分散曲線を思わせる、投影された2D表現が得られる。見て取れるように、共振は阻止帯域の始まりにおいて生じる。
【0097】
基板の選択は、電極内に集中したせん断モード以外のモードを抑制しなければならないか又はそれらが少なくとも所望のモードと比較して単に弱い場合に重要である。上述したように、この条件は、基板におけるSSBW速度が圧電層における基本せん断モードの速度よりも低いときに得られる。この場合、基本せん断モードは基板に浸透することになり、そのエネルギーは分散される。
【0098】
また更に、そのモードにとって有利になるように、音響インピーダンスは圧電層の音響インピーダンスに近いべきである。
【0099】
4500m.s-1以上の高い弾性波伝搬速度を有する他の基板、例えばケイ素、ダイヤモンド、サファイア、炭化ケイ素、又は窒化アルミニウムを変わらず使用してもよいが、その場合、電極内に集中させた目的のモードに加えて、バルクせん断モードが存在し得る。
【0100】
これは複合基板の使用が必須でないことの理由でもある。タンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムのバルク圧電基板であっても、表面エリアに電極を埋め込んだ状態で使用され得る。この場合ですら、電極モードが観察できる。
【0101】
図3g及び図3hは、第1の実施形態に係る別の例の内部の変形を示す。ここではせん断運動は交差指状電極108、110のエリアにそれほど集中していないが、依然主要な唯一のものである。圧電層104における振動は、シミュレーションではほとんど確認できなかった。
【0102】
実施形態のこの例では、変換器構造体は、シリカ基板上のLiTaO(YXl)/42°圧電層に埋め込まれた、Al-Cu(2%Cu)電極を備える。変換器構造体の波長λは2,8μmに等しく、したがってp=1.4μmであり、電極のアスペクト比a/pは0,5に等しく、溝深さはt/λ=20%である。この実施形態では、図1に示す第1の例の場合のように、電極112_i、114_jは圧電層104に埋め込まれている。
【0103】
図3hは、電極モードが参照符号130で示すような上述した同調条件f=v/2pを満たすことを示す、xz平面におけるモードの図である。図3hは、各電極108、110に2つの中性振動点132によって特徴付けられる、電極108、110の内部のせん断運動を示す。また更に、各電極108、110の縁部134a、134b、136a、136bは、各々同調して動く。このことは、1つの電極108又は110内で、両方の境界面において同じ符号の電荷が存在することを示している。
【0104】
図4の(a)~(c)は、電極-共振モードの励起に関して考慮した3つの異なる電極形状を有するような具現化の、3つの変形形態を示す。これらの図は、1つの電極手段112-i又は114-iを通る、図1のx-y平面における切断図を示す。3つ全ての図において、1機械的周期が表されている。埋め込まれた電極は圧電層の溝の中に充填されている。シミュレーションの目的で(結果を図4d及び図4fに示す)、グレーティングは無限に長く、高調波+V/-V励起によって励起されるものと仮定されている。電極は、バルク基板とのそれらの底部境界面からバルク基板内にエネルギーを放射する。
【0105】
Al電極201a、201b、201cはそれぞれ水平方向のクロスハッチで表されており、圧電層203、ここではLiTaOは斜めのクロスハッチとなっており、底部層205は垂直方向のクロスハッチとなっており、これはSiO若しくは別の境界面材料のいずれか、又は圧電層203と同じ材料であり得る。
【0106】
図4の(a)は本発明の第2の実施形態を示す。この場合、圧電層の溝203は、角錐形又は台形の断面を有する。そこの溝の中に埋め込まれる電極201aは、本発明の第2の実施形態によれば、その断面において角錐形又は台形タイプの形状を有する。この実施形態では、台形の平行な辺のうち短い方の辺が圧電層203の上面と揃っている。
【0107】
図1に示すような第1の実施形態に係る電極201bは、図4の(b)に示す垂直タイプのものである。
【0108】
本発明の第3の実施形態に係る電極201cは台形形状を有する溝の中に充填されるが、第2の実施形態とは対照的に、平行な辺の短辺が、圧電層203の表面にではなくその内部に配置される。したがって、電極201cは切頭V形状タイプのものである。
【0109】
この場合、電極は圧電層203の内側の様々な形状の溝を充填するが、その厚さに応じてバルク材料のように振る舞う。
【0110】
図4d及び図4eはシミュレーションの結果を示しており、3つの電極形状についての電極-共振モードの励起効率の比較を提供する。
【0111】
図4dは高調波サセプタンスを示し、図4eは高調波コンダクタンスを示す。
【0112】
このシミュレーションによって、角錐形状は他の2つよりも興味深いが、結合効率は比較的低いことが明らかに示された。
【0113】
図4f~図4hには更なる設計オプションが示されている。これらの変形形態は図4の(b)に示されているような設計に基づいているが、その他の実施形態にも適合させることができる。
【0114】
図4fは、凹形状を有する側壁207aを有する圧電層203の溝の内部の電極201dを示す。図4gは、凸形状を有する側壁207bを有する圧電層203の溝の内部の電極201eを示す。図4hは、スカラップ形状を有する側壁207cを有する圧電層203の溝の内部の電極201fを示す。側壁の表面を大きくすることによって、境界面に同じ符号のより多くの電荷が存在でき、以ってモードの固有の特徴に寄与する電荷分布、及びしたがってモード励起の強度が改善される。モードのQ係数、例えば捕捉効率が電極の形状に依存することも留意され得る。したがって、電極モードの動作条件を改善するためには、作用表面及びアスペクト比の両方を最適化するのが好ましい。
【0115】
更に又は代替として、溝の底部もまた、凸状又は凹状又はスカラップ状の形状を有し得る。
【0116】
図4iは、図4の(b)に示されているような第1の実施形態に基づく更なる実施形態を示すが、これはその他の実施形態及び変形形態にも適合させることができる。圧電層203の溝の底部215に、誘電体層211、例えばSiが設けられる。次いで溝を充填するように電極の導電層213が設けられる。誘電体層211の存在に起因して、電極の底部には電荷が存在しない。導電材料よりも高いせん断速度を有する誘電体を使用して、基本せん断モードを、その位相速度が底部層のSSBW速度を超えるように加速することができ、この結果基本せん断モードは、底部層205により良好に吸収されるようになる。この現象については、更に後ほど図7及び図12に関連してより詳細に記載する。
【0117】
図4jは、先の変形形態に基づく更なる変形形態を示す。ここでは導電層217は底部層205と接合している。誘電体層211はここでも導電層217を圧電層203に対して仕切っており、その結果導電層215は圧電層と側壁219及び221だけを介して圧電層と接合している。
【0118】
電極の導電材料が図4i及び図4jに示すように上下の圧電材料と接触していない場合に、位相速度、共振Q係数、反射係数、及び結合係数kなどのパラメータを、そのような特徴のない同等の構造と比較して最適化できることが分かっている。
【0119】
図4図4hに関して上記で記載した全ての変形形態を、電極が底部層205と接合している図4jに示す変形形態に従って実現することができる。
【0120】
図5は、電極内のせん断モードに対する電極手段112_i及び114_jの厚さの効果を示す。ここでは、Si(100)上の325nm厚さの二酸化ケイ素層上の(YXl)/42°タンタル酸リチウム圧電層に埋め込まれたアルミニウム電極の高調波分析が1μmピッチに関して示されており、0,35に設定された金属/圧電a/p比が提示されている。図5は、5%~15%の相対的な金属層高さt/λに対するアドミッタンスを示す。0,1よりも大きいt/λ比から開始しさえすれば共振を観察できることが認識できる。
【0121】
上に示したその他の例と比較して、約5,15GHzのより高い周波数で共振が生じるが、これはピッチがより小さいためである。
【0122】
図6は、本発明の第4の実施形態に係る、弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を示す。
【0123】
変換器構造体300は、第1の実施形態の変換器構造体100の基板102と比較して異なる弾性波伝搬基板302を備えるが、これが第1の実施形態に対する唯一の違いである。他の全ての特徴は同じでありしたがって改めて詳細には記載しないが、それらの上記の記載を参照する。
【0124】
変換器構造体300は、複合基板102のようにベース基板306の上に形成される圧電層104を備える、複合基板302を備えるが、また更に、ベース基板306の上且つ圧電層104の下に形成される、ブラッグミラーとも呼ばれる音響ミラー304を備える。
【0125】
ブラッグミラー304は複数の積層された層306~309を備え、偶数の参照符号306、308を有する層は第1の材料のものであり、奇数の参照符号307、309を有する層は第2の材料のものである。第1の材料と第2の材料は異なる音響インピーダンスを有し、したがってブラッグミラー304は、高インピーダンス層と低インピーダンス層の交互の積層体を備えている。
【0126】
ブラッグミラー304は、反射を保証するために、高インピーダンス/低インピーダンスが交互になった、波長の約4分の1の厚さを有する層の対の、周期的な繰り返しを有する。
【0127】
第1及び第2の材料は、タングステン、モリブデン、LiTaO、A、AIN、LiNbO、Si、及びSiOとSiの任意の組合せ(オキシ窒化ケイ素として知られておりSiOと表記され、x及びyが化合物中の各元素の量を制御する)、及びZnO、アルミニウム、又はSiOの中から選択され得る。
【0128】
ある変形形態では、第1の材料が低インピーダンスを有し第2の材料が高インピーダンスを有するように、第1の材料と第2の材料を入れ替えることができる。
【0129】
この実施形態では、ブラッグミラー304は、高インピーダンス層と低インピーダンス層の交互の積層体を形成する、4つの層306~309を有するものとして表されている。しかしながら別の変形形態では、ブラッグミラー304は、高インピーダンと低インピーダンスが交互になった、積層体を形成する4つよりも多い又は4つよりも少ない層も有し得る。
【0130】
ブラッグミラー304中の対の数を増やすことによってミラーの反射率が向上し、ブラッグ対における材料同士の間のインピーダンス比を高めることによって、反射率及び帯域幅の両方が向上する。一般に選択される積層体の材料は例えば、二酸化チタン及びシリカである。
【0131】
本発明によれば、圧電層104及びブラッグミラー304は、構造体内に存在する追加のモードの寄与を低減して、変換器構造体100内で一意のモードを促進するように構成されており、その結果、そのような変換器構造体100に基づく弾性波デバイスのスペクトル純度が保証され、スペクトル汚染が防止される。
【0132】
1つの手法は、変換器構造体内で一意のモードが促進されるように、及びこのモードにとって効率的な反射係数が実現されるように、ブラッグミラー304の積層体の厚さを最適化することである。ブラッグミラー304はこの場合、電極手段112、114内で生成された振動をベース基板106から音響的に切り離す。
【0133】
図7aは、本発明の第5の実施形態に係る、弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体を示す。
【0134】
変換器構造体400は、第1の実施形態の変換器構造体100の上にカバー層402を備えるが、これが第1の実施形態に対する唯一の違いである。他の全ての特徴は同じでありしたがって改めて詳細には記載しないが、それらの上記の記載を参照する。
【0135】
変換器構造体400は、ベース基板106の上に形成される圧電層104を備える、複合基板102を備える。
【0136】
本発明のこの実施形態では、埋め込まれた電極108、110の上、及び圧電層104の上に、層402が存在する。層402は、ケイ素、サファイアAl、ガーネットすなわちイットリウム系材料、窒化アルミニウムAlN、炭化ケイ素SiC、窒化ケイ素Siなどの高速度低損失材料を含む、パッシベーション層又は誘導基板であり得る。
【0137】
更なる変形形態によれば、層402は炭素ベースの層、例えば、単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物層、ナノ粒子多結晶ダイヤモンド(NCD)、又は、圧縮波速度を15km.s-1よりも上に及びせん断波速度を7km-s-1よりも上に押し上げることのできる、あらゆるダイヤモンド状炭素層であってもよい。更に別の実施形態では、層402としてSiOの層が使用され得る。SiOは、構造全体のTCF値を改善するためのTCF補正器の役割を果たし得る。
【0138】
カバー層402は、例えばTCF補正器として、及び一般にケイ素ベースの基板として、ガラスで製作することもできる。
【0139】
高速度低損失材料の使用によって、基本せん断波モードの位相速度がベース基板のSSBW速度を超えて又は大きく超えて加速され、その結果、ベース基板106内への拡散によって、望まれないモードが抑制され得る。
【0140】
図7aに示す実施形態では、カバー層402は、複合基板102のベース基板106と同じ材料で製作されている。しかしながら、カバー層402は、複合基板のベース基板とは異なっていてもよい。
【0141】
更なる変形形態によれば、層402は電極手段108、110の上にだけ、又は圧電層104の上にだけ、存在し得る。
【0142】
図7b~図7dは、2,8μmの弾性波波長、アルミニウム電極及び圧電層104としての(YXl//42°)タンタル酸リチウムでの0,5のa/p比に対する、本発明の第5の実施形態に係る、シミュレーションした励起モードの広帯域高調波アドミッタンスを示す。
【0143】
図7bでは、カバー層402及びベース基板106は二酸化ケイ素である。励起モードは3,5GHzで生じる。図7cでは、カバー層402、ベース基板106、及び圧電層104は、(YXl//42°)タンタル酸リチウムである。励起モードはやはり約3,5GHzで生じる。約6,5GHzにおいて更なる寄与が明らかであるが、これは第3高調波に原因を求めることができる。しかしながらこれは本質的にコンダクタンスに存在し、対応するサセプタンスには符号変化がなく、低結合であることを示している。
【0144】
図7dでは、カバー層402及びベース基板106はケイ素基板である。励起モードは3,5GHzで生じるが、ここでは圧電層内の基本せん断モードも励起され、これをより低い周波数において、すなわち約1,8GHzにおいて見ることができる。
【0145】
本発明はまた、各々が本発明の第1~第5の実施形態のいずれか1つに係るものである、2つの変換器構造体を備える弾性波デバイスにも関する。
【0146】
代替形態では、2つの変換器構造体のうちの一方だけが本発明に係る表面弾性デバイスであり得、他方は従来技術に従うものであり得る。
【0147】
弾性波デバイスは、弾性波共振器、及び/又は弾性波フィルタ、及び/又は弾性波センサ、及び/又は高周波数源であり得る。弾性デバイスは、3GHzを超えるRF信号で変換器構造体を駆動するように構成されている無線周波数(RF)供給手段を更に備え得る。
【0148】
図8は、変換器構造体の第6の実施形態を示す。
【0149】
図8の変換器構造体500は、交差指状電極512、514が圧電領域504の溝510を部分的にしか充填しない点で、図1の変換器構造体とは異なる。
【0150】
製造工程に従って、金属層の厚さは、除去された領域510の全体にわたって一定ではない。表面エネルギー特性に起因して、側壁508における金属層の厚さは中央部の厚さを上回っている。
【0151】
変換器構造体500は、上記した変換器構造体と同じ様式で機能する。
【0152】
特にラダー型フィルタ及び/又はインピーダンスフィルタ及び/又は結合フィルタに対する、弾性波デバイスにおける上記したような変換器構造体の電極手段内を伝搬するバルク波の周波数の使用によって、高周波数での、特に3GHz超での、より特定的には3,5GHz超での寄与を生じさせることが可能になる。
【0153】
変換器構造体に対してそのような埋め込まれた電極手段を使用することで、弾性波デバイスの性能及びそれらの適用範囲をバルク圧電基板と比較して改善することができ、製造ツール、すなわちI線リソグラフィを変更する必要はない。
【0154】
図9a及び図9bは、第7の実施形態として、典型的な市場要求、例えば5G sub-6-GHz(C帯域)フィルタリングに従う、本発明の効果的な実装を示すフィルタの実例を示す。この実例はシリカ上のLiTaOに埋め込まれたAl電極に基づいており、以下のパラメータを有する:ピッチp=1μm、これが2μmの波長λを生み、その結果図5に示すような5GHz付近での共振をもたらす、及び、700nmの電極及び圧電層の厚さ、したがってt/λの比は0,35。SAWラダー型フィルタ設計の通常の手法によれば、直列のブランチの共振は並列のブランチの反共振において生じる。
【0155】
本発明に係るこの例は、標準的なSAW製造技術を使用して、例えばI線リソグラフィ及び単一金属層堆積を使用して、単一のバッチで製造可能である。グレーティングピッチp及び/又はアスペクト比a/p及び/又はt/λ比を使用した共振周波数の微調整が実現され得る。特性を改善するために、図7a及び図6に示すようなパッシベーション層又はブラッグミラーを使用してもよい。
【0156】
この実例のフィルタは、図1に示すような基本的な変換器構造体に基づいている。この手法に基づいて共振器が形成され、直列に及び並列に組み合わされて、当技術分野で知られているようなカスケードとして又はラダー型フィルタ構造として構成され得るセルが形成される。
【0157】
この実例では、それぞれの材料比a/p=0,6及び0,65である、35%の2つのグレーティングを使用した。いずれの場合も、高調波アドミッタンス及びインピーダンスを計算したが、それらが図9aに示されている。a/p=0,65のグレーティングの共振はa/p=0.6のグレーティングの反共振に近いが、このことは上述したようなラダー型フィルタの設計の前提条件である。
【0158】
これらの応答を組み合わせることによって当技術分野で知られているような4π-セルフィルタの伝達関数を計算することができ、その結果が図9bに示されている。この伝達関数は、本発明に従って電極が埋め込まれているとき、700nmの厚さの電極を有し5GHz超で動作する超小型フィルタによって、電力操作の改善が可能になることを示している。この構成では、物理的マイグレーションは存在しない。この進歩性を有するフィルタはLiTaOに10%を超える結合係数k をもたらす。このことは、2つの材料間のスケーリングを考慮してLiNbOを使用することによって改善され得る。
【0159】
提案されている設計は300MHzの帯域幅を示す。共振-反共振条件を調整することで、改善された整合によって、400MHzのオーダーの高い帯域幅をもたらすことができる。上述したように、調整はピッチ及び/又は比a/pを調節することで成立し得る。
【0160】
図10aは、電極の電極せん断モードのより高い高調波モードも励起され得ることを示す。図10aは実際には、3次高調波のせん断運動を示している。このモードでは、各電極において4つの中性振動点又は線が観察される。図10aに示すような電極せん断モードは、700nm厚さのAl垂直電極を有する変換器構造体について得られ、金属比a/pは0,5であり、ピッチは1,4μmであり、圧電層はLiTaO(YXl)/42°である。図7bとは対照的に、ここでは3次高調波が電極の縁部において大きな振動を生み、その結果、結合を特徴付けることのできるモードの固有の特徴が生じる。図10bでは、図4の(a)に示すような電極の角錐形状ではその他のタイプの電極よりも良好なQが得られることを考慮して、LTO、Si、SiO2及びサファイア基板について比較が行われている。その他のパラメータは図10aの場合と同じである。
【0161】
図10b及び図10cは、様々なベース基板、LiTaO、SiO、Si、及びサファイアに関する、対応する高調波コンダクタンスG及びサセプタンスBを示す。これらのモードは興味深いものであるが、その理由は、約8,75GHzの高い共振周波数に起因して、それらが高い等価速度を示すからである。本発明に係る変換器構造体の使用による対応するモードの励起は、高周波数源の開発に有利に使用できる。図10cはサセプタンスの符号変化を示しており、モードの結合が有効であることを示唆している。
【0162】
図11は、本発明の第8の実施形態を示す。図11は、本発明の第1の実施形態に係る表面弾性波デバイス用の交差指状変換器構造体200を示している。交差指状変換器構造体200は、圧電層212に埋め込まれている複数の電極手段1206及び208を各々備える、交差指状くし型電極202及び204の対を備える。
【0163】
第1の実施形態の場合と同様、電極手段206及び208は、指206、208の形状を有する。この実施形態のある変形形態では、電極手段は更に、同じくし型電極に属する2つ以上の直接隣り合う電極指から各々成る、分かれた指206、208を有してもよい。
【0164】
圧電層212は、ベース基板214を更に備える複合基板210の一部である。圧電層は同じ材料のものであり、厚さに関してはその他の実施形態で記載したものと同じ特性を有する。
【0165】
ベース基板214の厚さは、その熱膨張を圧電層212に適用するために、及び温度変化に対する変換器の感度を低下させるために、圧電層212の厚さよりも大きくすることができる。好ましい状況は、圧電層212の厚さよりも少なくとも10倍大きいベース基板厚さに対応するものである。
【0166】
ベース基板214は、第1の実施形態の場合と同じ材料のものである。
【0167】
ベース基板214に異なる材料を使用することによって、設計の柔軟性を高めることができる。
【0168】
交差指状くし型電極202及び204の対は、複数の電極指206及び208を備える。電極指、例えば206_1,208_1~206_4、208_4の及び対応する208_5、206_7~208_8、206_10は交差指状であり、それらのくし型電極202及び204を介して交番電位に接続され、圧電層212に埋め込まれている。交番電位は示されているような+V及び-V、又は変形形態ではマス及び負荷/電源電位とすることができる。電極指は金属製であり、全てが同じ長さl、幅w、及び厚さtを有する。また更に、ここでもまた、変換器構造体200に対して、λ/2として定義される電極ピッチpが使用される。電極指の数は固定されておらず、デバイスが備えるものは図11に示されているよりも多い場合も又は少ない場合もある。
【0169】
本発明の変形形態によれば、電極指206、208はまた、異なる長さl、幅w、及び厚さtも有し得る。
【0170】
第1の実施形態と同様に、厚さtは、圧電層212の厚さ以下である。
【0171】
第8の実施形態は、変換器構造体200が第2の領域とも呼ばれる領域218を更に備え、そこでは、直接隣り合う電極指という意味でもある2つの隣り合う電極指208_4及び208_5が、同じ電位、ここでは+Vに接続されており、対向する交差指状くし型電極202からのどの電極指206も間にはない、という点で、特異性を有する。2つの隣り合う電極指208_4及び208_5はまた、-Vにも、又はマス(mass)にも、又は負荷/電源電位VIN(図示せず)にも、接続され得る。この文脈では、1つの第1の領域又は複数の第1の領域は、変換器構造体のうち、直接隣り合う電極指が異なるくし型電極に属する部分である。
【0172】
電極手段206、208が同じ電位にある2つ以上の隣り合う指の分かれた指206、208によって表されるこの変形形態では、同じ電位に接続された2つの隣り合う電極手段206、208は、分かれた指208の同じ電位に接続されている、分かれた指206の全ての指を指し得る。しかしまた、分かれた指206の少なくとも1つの電極指が、分かれた指208の同じ電位に接続されている場合もある。
【0173】
図11では、領域又は第2のもの218は実際には変換器構造体200の中央に置かれており、このため領域218の左及び右の各側に、8つの電極指又は4つの電極指対が存在する。この実施形態のある変形形態では、領域218を変換器構造体の異なる位置に置くことができ、その結果、電極指対は領域218の両側に不均一に分散される。領域218は、変換器構造体200のいずれかの末端に置くこともできる。
【0174】
既に述べたように、電極指206_1、208_1~206_4、208_4及び対応する208_5、206_5~208_8、206_8は交差指状であり、交番電位を有する。領域218の存在に起因して、領域218の左側では、交差指状電極指206_1、208_1~206_4、208_4がそれぞれ交番電位-V/+Vにあり、一方、領域218の右側では、交差指状電極指208_5、206_5~208_8、206_8がそれぞれ交番電位+V/-Vにあることが、実際に見て取れる。
【0175】
交番電位で接続された隣り合う電極指の対によって、電気-弾性波源(electro-acoustic source)が画定される。例えば、ここで図11において、交番電位-V/+Vである隣り合う交差指状電極指206_1及び208_1は、電気-弾性波源220を画定する。一方、交番電位+V/-Vである隣り合う交差指状電極指208_1及び206_2は、電気-弾性波源222を画定する。このように、隣り合う交差指状電極指206_2、208_2~206_4、208_4の対もまた各々が電気-弾性波源220を画定し、これに対応して、隣り合う交差指状電極指208_2、206_3及び208_3、206_4の対もまた各々が電気-弾性波源220を画定する。特にこの場合、領域218の左側には、合計8つの交差指状電極指206_1、208_1~206_4、208_4によって、4つの有効な電気-弾性波源220及び3つの有効な電気-弾性波源222が存在する。
【0176】
領域218の右側では、交番電位+V/-Vで接続された隣り合う交差指状電極指の対、例えば208_5及び206_5も電気-弾性波源222を画定し、交番電位-V/+Vである隣り合う交差指状電極指206_5及び208_6の対も電気-弾性波源220を画定する。領域218の右側では、合計8つの交差指状電極指208_5、206_5~208_8、206_8によって、4つの有効な電気-弾性波源222及び3つの有効な電気-弾性波源220が存在する。しかしここでは、領域218の左側にある電気-弾性波源220、222は、領域218の右側の電気-弾性波源222、220と、特にπだけ位相が対立している。
【0177】
しかしながら、電極ピッチpはλ/2として定義されるので、このことは、変換器構造体200がブラッグ条件で同調モードで動作していることを意味する。したがって、領域218の左側の複数の電気-弾性波源220、222は全て同相で互いにコヒーレントであり、一方、領域218の右側の複数の電気-弾性波源222、220は全て同相で互いにコヒーレントである。
【0178】
領域218においては、2つの隣り合う電極指208_4と208_5の間に電気-弾性波源220又は222が存在しないが、その理由は、それらがいずれも同じ電位に接続されているからである。
【0179】
ある変形形態によれば、電位の極性は、第1の交差指状くし型電極206と第2の交差指状くし型電極208の間で入れ替えてもよく、又は、一方のくし型電極のマス及び他方のくし型電極の負荷/電源電位VINに接続されてもよい。
【0180】
変換器構造体200に第2の領域218が存在することに起因して、領域218の左側の電気-弾性波源は領域218の右側の電気-弾性波源と反対の位相にあるので、変換器内での電気-弾性波源の位相はπだけ反転している。したがって、同じくし型電極に接続された2つの電極指の各側から変換器に向かって放射されるエネルギーを組み合わせることによって、変換器における電気-弾性波源同士の間で弱め合う干渉が生じ、一方で、変換器の外部に向かって放射されるエネルギーは、実際には出射されると、SAWデバイス内の変換器構造体の両側に配置されたミラーによって反射されることになる。
【0181】
したがって、変換器構造体200内に存在する、変換器構造体200におけるコヒーレントで同相の電気-弾性波源の量は、例えば図1に示すように全ての電極指が交番電位にある同じサイズの変換器構造体と比較して、少なくなっている。この結果、変換器構造体における電気機械結合係数k は小さくなっている。
【0182】
この場合、この特定の実施形態では、変換器構造体200における領域218の右側及び左側は、領域218が変換器構造体200の中央に配置されているので、全く同じ数の、すなわち8つの交差指状電極指206及び208を有し、その結果、7つの有効な電気-弾性波源が得られる。この場合、変換器構造体200における電気機械結合係数k は、2分の1ずつ小さくなる。ここでも、同じくし型電極に接続された2つの電極指の各側から変換器に向かって放射されるエネルギーを組み合わせることによって、変換器構造体における電気-弾性波源同士の間で弱め合う干渉が生じ、一方で、変換器の外部に向かって放射されるエネルギーは、実際には出射されるとミラーによって反射されることになる。この結果変換器の効率が2分の1ずつ低下する。
【0183】
また更に、先行技術の状況と比較して、複合基板212の境界面216で反射されるモードの位相コヒーレンスの実現性も修正される。変換器構造体内で位相がシフトする場合、位相整合条件に合致しない波を検出する見込みはない。したがって、境界面216で反射する弾性波の検出が低下し、そしてこのことが、変換器構造体200に基づくSAWデバイスのフィルタ動作において、これらの反射に起因する望まれない周波数での寄生共振の低減をもたらす。
【0184】
したがって、本発明に係る変換器構造体200における弾性波の生成及び/又は検出は、変換器構造体200内に存在する同相の電気-弾性波源の量によって制御される。2つの隣り合う電極指が同じ電位に接続される結果構造体内でπの位相変化が生じるが、このことは、変換器構造体の効率に対して寄生モードを排除するというプラスの効果を有する。変換器の寸法、例えば電極指の幅又は長さ又は電極間距離などを変更する必要はないが、このことはそのような構造の製造技術に影響を及ぼすと考えられ、上記した変換器構造体を採用する共振器の共振の品質を大きく低下させる可能性がある。
【0185】
第8の実施形態の変形形態によれば、変換器構造体にはただ1つよりも多くの領域218が存在してもよく、この結果変換器構造体内の抑制される電気-弾性波源の数が増え、以って電気機械結合係数k が更に小さくなり得る。これは、フィルタの帯域幅を制御して様々なフィルタ帯域に対処するためのより大きな自由度を得るための、効率的な方法である。
【0186】
別の変形形態によれば、ただ2つよりも多くの、例えば3つ以上の隣り合う電極手段208_4及び208_5を同じ電位にリンクさせてもよく、以って更なる発生源が抑制され得る。加えて、又は別の変形形態によれば、抑制された発生源を有する領域が2つ以上存在し得る。その場合、それらを変換器構造体の広がりにわたってランダムに分散させるのが有利であろう。より多くの領域が存在する場合、同じ電位にリンクされる隣り合う電極手段の数は異なる。
【0187】
図12a~図12cは、本発明の第9の実施形態の3つの変形形態を示す。例えば図1又は図4の(a)~(c)に示すような、圧電層内の溝が専ら導電材料で、特にAl又はAl合金などの金属で充填される上記したケースとは異なり、第9の実施形態の変換器構造体の変形形態は、圧電層の溝の中に誘電体材料も含む。この違いに加えて、第6の実施形態の変形形態は第1の実施形態と同じ構造的特徴及び特性を有し、その他の実施形態2~8のいずれか1つ又は組合せと組み合わせることができる。
【0188】
図12aは、2つの隣り合う電極手段612及び614が各々異なるくし型電極に属する、第9の実施形態の第1の変形形態の変換器構造体600の、部分切断図を示す。電極手段612及び614は、ベース基板606上に取り付け層608を介して設けられた圧電層604の、溝616及び618に埋め込まれている。この実施形態の溝616及び618の側壁及び底壁は、導電材料620及び622、例えば上記したようなAl又はAl合金によって覆われている。溝616及び618の残りの部分は、少なくとも部分的に誘電体材料624及び626、特にダイヤモンド炭素で充填される。
【0189】
図12bは、第9の実施形態の変形形態に係る変換器構造体650を示す。第1の変形形態600で使用したものと同じ参照符号を有する要素は改めて記載しないが、参照は行う。
【0190】
この変形形態では、溝652及び654は、圧電層全体を貫通して取り付け層608まで延びている。ここでも、溝652及び654の側壁、並びにここではベース層606の取り付け層608と接触している、溝の底部は、導電材料656及び658によって覆われている。溝652及び654の残りの部分は、少なくとも部分的に誘電体材料660及び662で充填される。第1の変形形態の場合と同じ材料を使用することができる。
【0191】
この実施形態の利点は、金属材料、特にAlベースの金属の位相速度よりも大きい位相速度を有する材料の使用が可能になることである。結果は、実施形態1と比較してこの実施形態がより高い周波数に達することができることとなった。
【0192】
図12cは、変換器構造体の第3の変形形態690を示す。第2の変形形態との唯一の違いは、誘電体材料692及び694が溝696及び698の全厚さを貫通して延びて取り付け層608に達しており、この結果、溝696及び698の側壁だけが導電材料656及び658によって覆われていることである。
【0193】
図13a~図13dは、第9の実施形態に係る第1の変形形態を得るための方法を示す。
【0194】
図13aに示すように、溝616、618は圧電層604にエッチングされる。次いで図13bに示すように金属堆積ステップが実行されて、圧電層604及び溝616、618の壁が金属層700で覆われる。続いて誘電体層702が金属層700上に堆積され、その結果溝616及び618は、少なくとも部分的に誘電体材料で充填される。このことは図13cに示されている。最後に、変換器構造体600を得るために、研磨ステップ、例えばCMP研磨ステップが実現される。
【0195】
変換器構造体650の第2の変形形態は、溝が圧電層604の中を通ってベース基板606まで達するようにエッチングステップを構成することによって得られる。
【0196】
図12bに示すような構造体について、図14aはコンダクタンスG及びサセプタンスBの数値シミュレーション結果を、図14bはコンダクタンスG及びサセプタンスB、並びに抵抗R及びリアクタンスXの数値シミュレーション結果を示す。このシミュレーションでは、誘電体材料としてダイヤモンド-炭素を、及び溝の中の金属としてアルミニウムを使用した。圧電層604はLiTaO(YXl)/42°である。ベース基板606もまた、シリカSiOの取り付け層608によって圧電層604に接着された、タンタル酸リチウム(同じ結晶カット)である。
【0197】
この構造はホモタイプ境界とも呼ばれ、これは基板として同じ材料が使用されること、及び圧電層がSiOを使用して接合されることを意味する。SiOは、圧電層厚さ及びしたがって励起層厚さを制御するための、エッチ停止層として使用され得る。SiOはTCFの低下をより一層促進し得る。シリカ取り付け層の下にある構造体の部分は放射ドメインとも呼ばれ、ここにおいて望まれないモードが拡散するが、一方で所望のモードは、取り付け層608の上の誘導ドメイン内に留まる。
【0198】
機械的周期又は電極ピッチpは1,4μmであり、埋め込まれた電極厚さは、100nm厚さの金属層656、658と、誘電体充填材料660、662としての400nm厚さのAlN/炭素ダイヤモンドとで、500nmである。このシミュレーションでは、a/p=0,5に近い圧電/電極のアスペクト比を使用した。観察されるモードは漏洩波に対応しているが、12km.s-1の位相速度で2,2%の結合係数に対して、共振の品質係数Q及び反共振のQはそれぞれ、400及び670に等しくなっている。
【0199】
図14cは数値シミュレーションによって得られた電極モードを示しており、振動などのせん断モードが電極、すなわち金属部分656及び誘電体部分660内に存在しているが、一方で圧電層604の運動はそれよりも少なかった。図14cは、圧電層604、埋め込まれた電極、及び取り付け層608の有限要素メッシュを示す。このシミュレーションでは境界条件において、取り付け層608の下の放射ドメインにおける波挙動を考慮した。窒化アルミニウムAlNを誘電体660、662とした図12bに示すような構造体における、図15aは高調波コンダクタンスG及びサセプタンスBの数値シミュレーション結果を、図15bは、高調波コンダクタンスG及びサセプタンスB、並びに高調波抵抗R及びリアクタンスXの数値シミュレーション結果を示す。誘電体材料以外にも、他の全ての構造パラメータが同じであった。AlNの位相速度は、ダイヤモンド状炭素と比較して11.3km.s-1に下がっている。この変形形態では、4,4%の結合係数、並びに品質係数Q=1850及びQ=990が観察できる。
【0200】
図16aは高調波コンダクタンスG及び抵抗Rの数値シミュレーション結果を、図16bは共振の拡大図を、図16cは反共振の拡大図を示す。この変形形態では、図12bに示すような構造体において、誘電体660、662は二酸化ケイ素SiOである。誘電体材料以外にも、他の全ての構造パラメータが、第9の実施形態の第1及び第2の変形形態と同じであった。
【0201】
SiOの使用によって、溝が専ら金属材料で充填される変換器構造体と比較して、観察されるモードのTCFが改善される。このことは、+80ppm.K-1に等しいSiOのTCF係数が、金属のTCF係数と反対(opposite)であるという事実に起因している。
【0202】
実際にはこの場合、SiOを誘電体660、662として使用すると、共振のTCF値-11ppm.K-1、及び反共振のTCF値-14,7ppm.K-1が観察される。結合係数は6,7%であり、共振Qの品質係数は5000よりも大きい。QArはそれよりも小さく約650であるが、設計の構造パラメータを最適化することによって改善可能である。
【0203】
観察されるTCFの数は、図16dに示すように変換器構造体650の上に追加のSiOの層を設ける場合により一層改善され得る。図16dは、第9の実施形態の第4の変形形態に係る変換器構造体670を示す。変換器構造体670は、SiOの追加の層672の存在を除いて、図12bの変換器構造体650と一致する。図12cに示すように、誘電体材料を、取り付け層608まで下に完全に延ばしてもよい。
【0204】
そのような層を設けることの別の態様は、観察される基本モードを拡散するために必要な場合に、基本せん断モードを基板606のSSBW速度を超えて加速するために、図7に関連して上で既に記載したように、モードの位相速度を加速することである。
【0205】
溝を充填するために及び追加の層672を設けるために同じ誘電体材料を使用する代わりに、2つの異なる材料を使用して、TCF及び位相速度を更に最適化することができる。
【0206】
図17a及び図17bは、本発明の第10の実施形態の2つの変形形態を示す。標準的な誘導せん断モード、例として例えば図7dに示すような基本誘導せん断モードと同時に、電極モードが観察できるような状況が生じ得る。
【0207】
そのような状況はまた、SiO上にLiTaO圧電層を有するPOI複合基板を使用するときにも生じ得る。そのようなPOI基板の典型的な例は、Si(100)のベース基板上に1μmトラップリッチポリSi層が、その上に500nm厚さのSiOが、その上に600nm厚さのLiTaOがあるものである。この構成では3800~4200m.s-1の間の位相速度において基本誘導せん断モードの持続性が観察され、この結果、電極モードよりも約2.5倍高い周波数の電極モードを使用して高周波数帯域に対処するときに、電位の問題が生じる。
【0208】
既に述べたように、図3a~図3fに関連する記載を参照すると、ベース基板106、205、306、406、506、606の選択が重要な役割を果たす。実際は、基板のSSBW速度が圧電層における基本弾性バルクせん断モードのSSBW速度よりも小さい場合、バルクせん断モードはベース基板に入ることになり、そこで分散される。
【0209】
基本誘導せん断モードの寄与はSi(111)ベース基板を使用することによって予め低減することができるが、このことには、Si(100)上でのSSBW速度よりも小さい、5650m.s-1に代わって典型的には4700m.s-1の、又は更に小さいSSBW速度を有するという利点がある。(YXw)/45°に対応するSi方位はこの目的において特に興味深い。しかしながらその場合、既に記載したようにいくつかのより高次のモードが抑制されるものの、依然観察できる基本せん断誘導モードの固有の特徴が変わらずある。
【0210】
基本誘導せん断モードの残りの寄与を更に低減するために、第10の実施形態に係る変換器構造体は、積層体中に少なくとも1つの追加の層を備える。追加の層は、基本誘導せん断波を加速してその速度を基板のSSBW速度よりもずっと上まで押し上げるように選択される。
【0211】
図17aに示すような変換器構造体700は、SiO層706上に、ここではアルミニウムで製作されている電極712、714、716が埋め込まれた、LiTaO圧電層704を備える。構造体は、Si(111)のベース基板710上に、トラップリッチポリSi層708を更に備える。
【0212】
変換器構造体700は、SiO層706とトラップリッチ層708の間に挟まれた、高速度低損失層とも呼ばれる追加の層718を更に備える。高速度層718は、AlN、Al、Si、又はSiCの層のうちの1つである。これらの材料は全て、10km.s-1を超える圧縮バルク波速度値、及び5km.s-1を超えるせん断バルク波速度を示す。代替として、高速度層718は炭素ベース、すなわち、単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物層、ナノ粒子多結晶ダイヤモンド(NCD)、並びに、圧縮波速度を15km.s-1よりも上に及びせん断波速度を7km.s-1よりも上に押し上げることのできるあらゆるダイヤモンド状炭素層であり得る。
【0213】
図17bは、第10の実施形態の第2の変形形態を示す。これは第1の変形形態に基づいているが、高速度低損失層でもある第2の追加の層720を更に備え、これは第1の追加の層718と同じか又は異なる材料のものであり得る。いずれの層718、720も、基本誘導せん断モードの速度を加速するものである。図18aは、本発明に係る変換器の実例を示す、電子顕微鏡で撮影した画像を示す。この写真は、図1に示されているような第1の実施形態の構造体に対応する変換器構造体800の側方切断図を示しており、変換器構造体800は、LiTaO(YXl)/42°バルク基板804に埋め込まれたアルミニウム電極802を有する。電極802及びバルク基板804の表面の上の層806は変換器の特性の測定後に追加されており、画像化の目的のためのコントラスト強調層の役割を果たす。ピッチはp=3.4μmであり、電極802の高さはh=510nmであった。アスペクト比a/pは0,5であった。構造体は50対の電極手段を有していた。
【0214】
図18bは矩形808によって強調された領域の拡大図であり、その結果電極806の形状が示されている。バルク基板804の溝は台形形状を有し、その平行な辺のうちの長い方が、バルク基板804の表面810と揃っている。側壁812及び814は僅かに凹んだ形状であり、底表814は凸状である。
【0215】
図18cは、図18a及び図18bに示す実例の挙動をシミュレーションするために使用される、圧電基板804に埋め込まれた実例の電極802の形状をシミュレーションした、有限要素メッシュ820を示す。
【0216】
図19aは、この実例のコンダクタンス及び抵抗の実験測定を示す。図19bは、図18cに示すような構造体の数値シミュレーションによって得られた、コンダクタンス及び抵抗の結果を示す図である。
【0217】
図18a及び図18bに示すような製造されたデバイスは、10950m.s-1のモードの位相速度、1,85%の結合係数k 、及び品質係数Qar=350を示した。約1,6GHzの、したがって基本せん断モードの580MHzよりも遥かに高い周波数で、モードを観察した。測定されたコンダクタンス及び抵抗は図19aに示されている。
【0218】
図18cに示されているようなFEMメッシュを使用した無限長の変換器構造体を想定したシミュレーション結果は、上記した電極モードについて、実験結果と一致する結果をもたらした。10862m.s-1の速度、0,62%の結合係数k 、及び100のオーダーの品質係数Qarを観察できた。更に、このモードは約1,6GHzで生じ、コンダクタンス及び抵抗の依存性において類似の挙動を示す。
【0219】
本発明のいくつかの実施形態について記載した。しかしなお、続く特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な修正及び改良を行うことのできることが理解される。
【符号の説明】
【0220】
104…圧電層、108、110…交差指状くし型電極、112_i、114_j…電極手段、100…変換器構造体。

図1
図2
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h
図4
図4d
図4e
図4f
図4g
図4h
図4i
図4j
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図10c
図11
図12a
図12b
図12c
図13a
図13b
図13c
図13d
図14a
図14b
図14c
図15a
図15b
図16a
図16b
図16c
図16d
図17a
図17b
図18a
図18b
図18c
図19a
図19b
【手続補正書】
【提出日】2024-02-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層(104)と、
ピッチpを有する複数の電極手段(112_i、114_j、418、420)を備える、交差指状くし型電極(108、110、412、414)の対と、
を備える、弾性デバイス用の変換器構造体(100、200、300、408、410)であって
前記交差指状くし型電極(108、110、412、414)の前記電極手段が前記圧電層(104)に埋め込まれており、
前記電極手段の音響インピーダンスが前記圧電層の音響インピーダンス未満であ
前記圧電層がベース基板(106)の上に設けられており、
前記ベース基板(106)の音響インピーダンスが、前記圧電層(104)の前記音響インピーダンスのプラス又はマイナス25%の範囲内であり、
前記埋め込まれた電極手段が前記圧電層(104、203)の溝の中に充填され、
前記溝が、角錐形状若しくは台形形状(201a)又はV形状若しくはU形状(201c)を有する断面を有する、並びに/或いは、前記溝の側壁及び/又は底部が凸状(207b)又は凹状(207a)又はスカラップ状(207c)の形状を有し、
前記溝(696、698)が前記圧電層(604)の中に延びており、前記溝(696、698)の前記側壁が導電材料(656、658)によって覆われており、前記溝(696、698)の残りの部分が誘電体材料(692、694)で充填されている、変換器構造体。
【請求項2】
前記ピッチpがp=λ/2によって与えられるブラッグ条件を満たし、λが前記変換器構造体の動作弾性波波長である、請求項1に記載の変換器構造体。
【請求項3】
前記電極手段(112_i、114_j、418、420)の「a」が幅、「p」がピッチである、アスペクト比a/pが、0,3~0,75の間、特に0,4~0,65の間で構成されている、請求項1又は2に記載の変換器構造体。
【請求項4】
前記圧電層(604、704)と前記ベース基板(606、710)の間に取り付け層(608、706)、特に二酸化ケイ素(SiO)を更に備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項5】
前記圧電層(704)と前記ベース基板(710)の間に高速度層(718)を更に備え、前記高速度層が、前記圧電層(104)の材料及び結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする材料で製作されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項6】
前記高速度層(718)が前記取り付け層(706)と前記ベース基板(710)の間に配置されている、請求項4に従属する場合の請求項5に記載の変換器構造体。
【請求項7】
前記圧電層(704)と前記ベース基板(710)の間にトラップリッチ層(708)、特にポリシリコントラップリッチ層を更に備える、請求項のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項8】
前記トラップリッチ層(708)が前記高速度層(718)と前記ベース基板(710)の間に配置されている、請求項6に従属する場合の請求項7に記載の変換器構造体。
【請求項9】
前記埋め込まれた電極手段(112_i、114_j、418、420)及び前記圧電層(104)の上にカバー層(302)を更に備える、請求項1~のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項10】
前記カバー層(302)が、前記圧電層(104)の材料及び/又は結晶方位よりも高いせん断波の位相速度を可能にする、材料で製作されている及び/又は結晶方位を有する、請求項に記載の変換器構造体。
【請求項11】
前記圧電層(104)及び/又は前記電極手段の下にブラッグミラー(204)を更に備える、請求項1~のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項12】
前記埋め込まれた電極手段(112_i、114_j、418、420)の厚さは前記圧電層(104)の厚さ以下である、請求項11のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項13】
前記電極手段の前記厚さtがλ>t>0,1*λを満たす、請求項12に記載の変換器構造体。
【請求項14】
前記ベース基板(106)の音響インピーダンスが、前記圧電層(104)の音響インピーダンスのプラス又はマイナス15%の範囲内である、請求項13のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項15】
前記圧電層(604)に向いた側壁だけが前記導電材料(656、658)によって覆われている、請求項に記載の変換器構造体。
【請求項16】
前記誘電体材料が前記導電材料よりも高いせん断波位相速度を有する材料である、請求項に記載の変換器構造体。
【請求項17】
前記誘電体材料が、前記導電材料の温度係数周波数と符号が反対である温度係数周波数を有する、請求項に記載の変換器構造体。
【請求項18】
前記カバー層(672)の誘電体材料と前記溝(652、654)の中に充填されている前記誘電体材料(660、662)が同じである、請求項又は10に記載の変換器構造体。
【請求項19】
前記電極手段がマンガンよりも軽い材料、特にアルミニウム、又はCu、Si、若しくはTiを含むアルミニウム合金で製作されている、請求項1~18のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項20】
前記圧電層がタンタル酸リチウム又はニオブ酸リチウムである、請求項1~19のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項21】
前記ベース基板(106)がシリカ、石英、溶融石英、若しくはガラス、又はLiTaO、又はLiNbO、又はケイ素、特にSi(111)のうちの1つである、請求項1~20のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項22】
前記高速度層(718)が、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つである、請求項5に従属する場合の請求項1~21のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項23】
前記カバー層(302、672)が、AlN、Al、Si、SiC、又は炭素ベースのもの、特に単結晶ダイヤモンド、非晶質炭化物、ナノ粒子多結晶ダイヤモンドのうちの1つである、請求項9に従属する場合の請求項1~22のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項24】
交差指状くし型電極(202、204)の前記対が1つの領域(218)又はより多くの領域を備え、前記領域では、2つ以上の隣り合う電極手段(206、208)が同じくし型電極(202、204)に属しており、前記電極手段の互いまでの距離が、異なるくし型電極に属する前記隣り合う電極手段と同じである、請求項1~23のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項25】
同じくし型電極に属する前記2つ以上の隣り合う電極手段は、異なるくし型電極に属する前記隣り合う電極手段と同じ幾何形状を有する、請求項24に記載の変換器構造体。
【請求項26】
同じくし型電極(202、204)に属する2つ以上の隣り合う電極手段(206)を有する3つ以上の領域(218)を有する、請求項24又は25に記載の変換器構造体において、隣り合う領域の互いに対する距離が異なっている、特に、前記隣り合う領域が前記変換器構造体の広がりにわたってランダムに分散されていることを特徴とする、変換器構造体。
【請求項27】
同じくし型電極(202、204)に属する2つ以上の隣り合う電極手段(206、208)を有する複数の領域(218)が有する、同じくし型電極に属する隣り合う電極手段の数が異なる、請求項2426のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項28】
前記電極手段がI線リソグラフィによって実現可能な寸法を有する、特に350nmよりも大きい幅を有する、請求項1~27のいずれか一項に記載の変換器構造体。
【請求項29】
請求項1~28のいずれか一項に記載の少なくとも1つの変換器構造体(100、200、300、408、410)を備える弾性波デバイス(400)であって、前記弾性波デバイス(400)が弾性波共振器、及び/又は弾性波フィルタ、及び/又は弾性波センサ、及び/又は周波数源である、弾性波デバイス(400)。
【請求項30】
3GHzを超えるRF信号で前記変換器構造体を駆動するように構成されている無線周波数(RF)供給手段を更に備える、請求項29に記載の弾性波デバイス。
【請求項31】
差指状くし型電極の前記対に交番電位を印加して、前記圧電層と比較して前記電極手段においてより大きい振動振幅を有し、前記圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有するせん断モードを励起するステップを含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の変換器構造体を使用する方法。
【請求項32】
前記せん断モードは前記圧電層と比較して主として前記電極手段内で生じる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
差指状くし型電極の前記対に交番電位を印加して、前記電極手段において、前記電極手段の内部でせん断運動を呈すること及び前記圧電層の基本せん断波モードよりも高い等価速度を有することのない、一対の中性線を有するせん断モードを励起するステップを含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の変換器構造体を使用する方法。
【請求項34】
前記変換器構造体が、フィルタ、特にラダー型フィルタ及び/若しくはインピーダンスフィルタ及び/若しくは結合フィルタ、又は共振器、又は遅延線、又はセンサの一部である、請求項3133のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記フィルタが3GHzよりも高い周波数で使用される、請求項34に記載の方法。
【外国語明細書】