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特開2024-51228放電電源回路及び放電加工機の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051228
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】放電電源回路及び放電加工機の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 9/04 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
H02M9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157275
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 浩
(57)【要約】      (修正有)
【課題】放電パルスの間隔が変更でき、加工速度の調整が可能な放電電源回路及び、該放電電源回路を用いた放電加工機の制御方法を提供する。
【解決手段】充電によって蓄えた電荷により放電パルスを発生させるコンデンサCと、オン状態でコンデンサCに電荷を充電させ、オフ状態でコンデンサCへの充電を停止させるスイッチング素子TNと、放電パルスの発生時にコンデンサCから被加工物1及び放電電極5間に放電電流Ipが流れる経路に設けられ、両端の電圧変化に応じてスイッチング素子をオン状態ま又はオフ状態に設定するダイオードDと、ダイオードDに逆電圧方向のバイアス電圧を印加するとともに、スイッチング素子TNにバイアス電圧を印加するバイアス電源Eと、該バイアス電源Eに直列接続されたバイアス抵抗Rとを備え、バイアス抵抗Rの抵抗値及びバイアス電源Eの電圧の少なくともいずれか一方を変更可能とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物、及び該被加工物に対して間隙を保って配置した放電電極の間に放電パルスを発生せしめて、該被加工物の表面を加工する放電加工機の放電電源回路であって、
充電によって蓄えた電荷により前記放電パルスを発生させるコンデンサと、
オン状態で前記コンデンサに電荷を充電させ、オフ状態で前記コンデンサへの充電を停止させるスイッチング素子と、
前記放電パルスの発生時に前記コンデンサから前記被加工物及び前記放電電極間に電流が流れる経路に設けられ、両端の電圧変化に応じて前記スイッチング素子を前記オン状態または前記オフ状態に設定するダイオードと、
前記ダイオードに逆電圧方向のバイアス電圧を印加するとともに、前記スイッチング素子にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、
該バイアス電源に直列接続されたバイアス抵抗とを備え、
前記バイアス抵抗の抵抗値、及び、前記バイアス電源の電圧の少なくともいずれか一方が変更可能とされていることを特徴とする放電電源回路。
【請求項2】
前記バイアス抵抗の抵抗値を小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を高くすることにより、前記放電パルスの間隔が短くなるようにされたことを特徴とする請求項1に記載の放電電源回路。
【請求項3】
前記バイアス抵抗の抵抗値を大きくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を低くすることにより、前記放電パルスの間隔が長くなるようにされたことを特徴とする請求項1に記載の放電電源回路。
【請求項4】
前記コンデンサの容量値を小さくすると共に、前記バイアス抵抗の抵抗値を小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を高くすることにより、同じ加工時間で面品位を高めた加工ができるようにされたことを特徴とする請求項1に記載の放電電源回路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の放電電源回路を用いて、
加工工程で前記バイアス抵抗の抵抗値、及び、前記バイアス電源の電圧の少なくともいずれか一方を変更することを特徴とする放電加工機の制御方法。
【請求項6】
粗加工における前記バイアス抵抗の抵抗値を、中仕上加工及び仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値よりも小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を、中仕上加工及び仕上加工における前記バイアス電源の電圧よりも高くすることを特徴とする請求項5に記載の放電加工機の制御方法。
【請求項7】
仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値を、粗加工及び中仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値よりも大きくするか、又は、仕上加工における前記バイアス電源の電圧を、粗加工及び中仕上加工における前記バイアス電源の電圧よりも低くすることを特徴とする請求項5に記載の放電加工機の制御方法。
【請求項8】
中仕上加工を省略することを特徴とする請求項6に記載の放電加工機の制御方法。
【請求項9】
加工途中で前記バイアス抵抗の抵抗値又は前記バイアス電源の電圧を変化させて、粗加工から仕上加工までをワンパスで行うことを特徴とする請求項5に記載の放電加工機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電電源回路及び放電加工機の制御方法に係り、特に、被加工物、及び該被加工物に対して間隙を保って配置した放電電極の間に放電パルスを発生せしめて、該被加工物の表面を加工する放電加工機に用いるのに好適な、加工速度の調整が可能な放電電源回路及び、該放電電源回路を用いた放電加工機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放電加工機の放電電源回路として、コンデンサCと抵抗Rを用いたCR発振による自励発振方式(CR発振方式と称する)のものと、クロック発振による他励発振方式(クロック発振方式と称する)のものが知られている。
【0003】
CR発振方式の放電パルスは、図1(A)に例示する如く、放電パルス数が少なく、周波数が不定であり、マイクロ放電加工機に使われている。
【0004】
一方、クロック発振方式の放電パルスは、図1(B)に例示する如く、パルス数が多めで周波数が一定であり、放電加工機に広く使われている。
【0005】
しかしながら、いずれの方式においても加工速度が遅いという問題があった。
【0006】
そこで、出願人は特許文献1において、自励発振による急速充電方式(急速充電発振方式と称する)のものを提案している。この急速充電発振方式の放電パルスは図1(C)に例示する如く、周波数は不定であるが、クロック方式より放電パルス数が多くでき、高速化が可能である。
【0007】
図2に、特許文献1で提案した放電電源回路の例を示す。この放電電源回路は、充電によって蓄えた電荷により、被加工物1及び放電電極5間に放電パルスを発生させるコンデンサCと、オン状態で前記コンデンサCに電荷を充電させ、オフ状態で前記コンデンサCへの充電を停止させるスイッチング素子であるトランジスタTNと、前記放電パルスの発生時に前記コンデンサCから被加工物1及び放電電極5に電流が流れる経路に設けられ、両端の電圧下においてトランジスタTNを前記オン状態又はオフ状態に設定するダイオードDと、該ダイオードDに逆方向のバイアス電圧を印可すると共に、トランジスタTNにバイアス電圧を印可するバイアス電源Eと、該バイアス電源Eに直列接続されたバイアス抵抗Rとを備えている。
【0008】
この放電電源回路で、放電パルスが発生していないときには、バイアス電源EによりダイオードDに逆電圧が印可されているため、トランジスタTNをオン状態にする。トランジスタTNがオン状態になると、ドレイン-ソース間に電流が流れる状態となり、放電電源から流れるチャージ電流IchによってコンデンサCが充電される。そして、コンデンサCが充電されると、ダイオードDに順電圧が印可され、被加工物1及び放電電極5の間にコンデンサCの電圧Vcが印可され、放電パルスが発生する。放電パルスが発生しているときには、ダイオードDに順電圧が印可されているため、トランジスタTNをオフ状態にする。トランジスタTNがオフ状態になると、ドレイン-ソース間に流れる電流が遮断される状態となり、放電電源によるコンデンサCの充電が中断される。又、放電パルスが発生した後には、バイアス電源EによりダイオードDに逆電圧が再度印可され、コンデンサCの充電が開始される。
【0009】
放電電源回路は以上の動作を繰り返すことで、被加工物1及び放電電極5間に繰り返し放電パルスを発生させることとなる。
【0010】
図3にタイムチャートを示す。
【0011】
まず、時刻t51において、例えば80ボルトの放電電源の電圧が、端子E+及び端子0Vから印加される。この時点では、コンデンサCには電荷が蓄えられておらず、コンデンサ電圧Vcはゼロである。バイアス電源Eの電圧(以下バイアス電圧Eとも称する)は約4ボルトとする。
【0012】
この時刻t51では、ダイオードDがオフ状態であるので、トランジスタTNのゲートには約4ボルトのバイアス電圧Eが印加され、該トランジスタTNがオン状態になり、この後は、放電電源から充電電流Ichが流れて、コンデンサCに電荷が蓄えられていく。又、該充電に伴って、コンデンサ電圧Vcが図3に示すように漸次上昇していく。なお、コンデンサ電圧Vcが上昇すると、被加工物1及び放電電極Sの間のギャップ電圧Vgapも上昇する。時刻t51→時刻t52の間が充電(チャージ)時間tchである。
【0013】
この後、ギャップ電圧Vgapが上昇することで、時刻t52において放電パルスが発生すると、放電電流Ipが流れ、放電加工がなされていく。
【0014】
該時刻t52において放電電流Ipが流れると、前述のように、ダイオードDがオン状態になり、このため、そのアノード及びカソード間の電圧は0.6ボルト程度の順方向電圧になる。するとトランジスタTNのゲートの電位は、0.6ボルト程度になり、該トランジスタTNはオフ状態になって充電電流Ichが遮断され、図3に示すように充電電流Ichがゼロになり、放電電源からコンデンサCへの充電が停止する。この際、トランジスタTNはオフ状態になっているので、放電電流Ipには、放電電源からの電流が重畳されることはない。
【0015】
このようにトランジスタTNがオフ状態になっているので、放電電流Ipやギャップ電圧Vgapは、すべてコンデンサCに蓄えられていた電荷によるものである。時刻t52の後、このように放電電流Ipが流れていくと、コンデンサCに蓄えられていた電荷が減少していき、該電荷減少に伴って放電電流Ipも減少していく。又、ギャップ電圧Vgapも低下する。
【0016】
コンデンサCの電荷が減少してギャップ電圧Vgapが低下すると、時刻t53において、被加工物1及び放電電極5の間における放電が停止する。時刻t52→時刻t53の間が放電(ディスチャージ)時間tdchである。
【0017】
時刻t53で放電が停止すると、放電電流Ipがゼロになり、前述のように、これによってダイオードDがオフ状態になり、その結果アノード及びカソード間の電圧は約4ボルトのバイアス電圧Eになる。するとトランジスタTNのゲートの電位は約4ボルトになり、該トランジスタTNは再びオン状態になって、図3に示すように充電電流Ichが流れるようになり、放電電源からコンデンサCへ電荷が充電されていく。又、該充電に伴って、コンデンサ電圧Vcが図3に示すように漸次上昇していく。又、ギャップ電圧Vgapも漸次上昇していく。
【0018】
この後、時刻t54においては、前述の時刻t52と同様に、放電パルスが発生し、放電電流Ipが流れ、放電加工がなされる。又、以後は、時刻t55や時刻t56など、以上に説明したような動作が繰り返されていく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004-276174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この特許文献1に記載したような放電電源回路によれば、従来のCR発振方式のものや、クロック発振方式のものに比べて、短い間隔で放電パルスを発生でき、加工速度を高めることが可能であるが、スイッチング素子であるトランジスタTNのバイアスに1次遅れ回路が隠れており、バイアス抵抗RとトランジスタTNのゲート-ソース間の容量により、更に1次遅れが増えて、放電パルスの間隔を短縮できないという問題があった。又、バイアス抵抗Rの抵抗値が1kΩ~10kΩの範囲内で固定されていたため、放電パルスの間隔が固定され、加工速度の調整が困難であった。
【0021】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、放電パルスの間隔を変更可能として、加工速度の調整を可能とすることを第1の課題とする。
【0022】
本発明は、又、迅速な放電加工が可能な放電加工機の放電制御方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、前記バイアス抵抗とスイッチング素子のゲート-ソース間の容量に着目したもので、バイアス抵抗の抵抗値(バイアス抵抗値とも称する)を下げることにより、遅れが短縮可能であることを発見するに至り、これを応用してなされたものである。
【0024】
本発明は、被加工物、及び該被加工物に対して間隙を保って配置した放電電極の間に放電パルスを発生せしめて、該被加工物の表面を加工する放電加工機の放電電源回路であって、充電によって蓄えた電荷により前記放電パルスを発生させるコンデンサと、オン状態で前記コンデンサに電荷を充電させ、オフ状態で前記コンデンサへの充電を停止させるスイッチング素子と、前記放電パルスの発生時に前記コンデンサから前記被加工物及び前記放電電極間に電流が流れる経路に設けられ、両端の電圧変化に応じて前記スイッチング素子を前記オン状態または前記オフ状態に設定するダイオードと、前記ダイオードに逆電圧方向のバイアス電圧を印加するとともに、前記スイッチング素子にバイアス電圧を印加するバイアス電源と、該バイアス電源に直列接続されたバイアス抵抗とを備え、前記バイアス抵抗の抵抗値、及び、前記バイアス電源の電圧の少なくともいずれか一方が変更可能とされていることを特徴とする放電電源回路により前記第1の課題を解決するものである。
【0025】
ここで、前記バイアス抵抗の抵抗値を小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を高くすることにより、前記放電パルスの間隔が短くなるようにすることができる。
【0026】
又、前記バイアス抵抗の抵抗値を大きくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を低くすることにより、前記放電パルスの間隔が長くなるようにすることができる。
【0027】
又、前記コンデンサの容量値を小さくすると共に、前記バイアス抵抗の抵抗値を小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を高くすることにより、同じ加工時間で面品位を高めた加工ができるようにすることができる。
【0028】
本発明は、又、前記放電電源回路を用いて、加工工程で前記バイアス抵抗の抵抗値、及び、前記バイアス電源の電圧の少なくともいずれか一方を変更することにより、前記第2の課題を解決したものである。
【0029】
ここで、粗加工における前記バイアス抵抗の抵抗値を、中仕上加工及び仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値よりも小さくするか、又は、前記バイアス電源の電圧を、中仕上加工及び仕上加工における前記バイアス電源の電圧よりも高くすることができる。
【0030】
又、仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値を、粗加工及び中仕上加工における前記バイアス抵抗の抵抗値よりも大きくするか、又は、仕上加工における前記バイアス電源の電圧を、粗加工及び中仕上加工における前記バイアス電源の電圧よりも低くすることができる。
【0031】
又、中仕上加工を省略することができる。
【0032】
又、加工途中で前記バイアス抵抗の抵抗値又は前記バイアス電源の電圧を変化させて、粗加工から仕上加工までをワンパス(一度の工程)で行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、バイアス抵抗の抵抗値やバイアス電源の電圧を変えることにより、放電パルスの間隔を変えることが可能となり、加工速度の調整が可能となる。
【0034】
又、粗加工の加工速度を早めたり、加工工程の一部を省略することで、迅速な放電加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】放電電源の違いによる放電パルスの例を比較して示すタイムチャート
図2】特許文献1で出願人が提案した従来の放電電源回路の一例を示す回路図
図3】同じく各部波形の例を示すタイムチャート
図4】本発明の第1実施形態を示す回路図
図5】本発明の第2実施形態の要部構成を示す回路図
図6】本発明の第3実施形態を示す回路図
図7】本発明の第4実施形態の要部構成を示す回路図
図8】本発明の第5実施形態の要部構成を示す回路図
図9】本発明の第6実施形態を示す回路図
図10】本発明の第7実施形態を示す回路図
図11】本発明の第8実施形態を示す回路図
図12】従来例と本発明の実施例による放電加工機の制御例を比較して示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0037】
本発明の第1実施形態は、図4に示す如く、図1に示した従来例と同様の放電電源回路において、バイアス抵抗Rの抵抗値を変更可能としたものである。
【0038】
スイッチング素子としては、NチャネルのMOS(Metal Oxide Semicondoctor)型FET(Field Effect Transistor、電界効果型トランジスタ)を用いている。
【0039】
図においてRsは電流検出用抵抗であり、この抵抗の両端の電圧を測定することで、電流値を測定できる。
【0040】
バイアス抵抗Rの抵抗値を下げた場合には、図3のチャージ時間tchが短くなり、放電パルスの間隔が短くなるので、加工時間を短縮することができる。
【0041】
バイアス抵抗Rの抵抗値を例えば従来の1kΩ~10kΩから51Ωに下げた場合には、加工速度を5倍程度に早めることが可能である。
【0042】
これに伴い、バイアス電源Eは1W以上の容量が必要になるため、従来のボタン電池ではなく絶縁型スイッチング電源を用いることが望ましい。
【0043】
一方、抵抗値を高めた場合には、チャージ時間tchが長くなるので、放電パルスの間隔が長くなり、加工速度を遅くした極微細加工が可能となる。例えば抵抗値を20kΩに高めた場合には、放電パルス間隔は約2倍となる。
【0044】
又、放電電源の電圧EあるいはコンデンサCの容量値を下げることにより、1パルス当たりの電荷を少なくする一方、バイアス抵抗Rの抵抗値を小さくしてパルス数を多くすることにより、同じ加工時間で面品位を上げた加工が可能となる。
【0045】
あるいは、バイアス抵抗Rの抵抗値を、例えば20kΩに高めることにより、従来では不可能であった直径数μmオーダーの微細軸の加工も可能となる。
【0046】
前記バイアス抵抗Rの抵抗値を変える方法としては、抵抗を差替える他、図4に示したように、バイアス抵抗Rとして可変抵抗器を用いたり、或いは図5に示す第2実施形態のように、抵抗値が異なる抵抗(図ではRB1、RB2、RB3の3台の抵抗)を例えば切換スイッチSrで切換えることも可能である。
【0047】
バイアス抵抗Rを抜き差ししたり、あるいは切換スイッチSrで切換えるようにした場合には、可変抵抗器を用いた場合に比べて、加工条件を揃えて加工の再現性を確保することが容易となる。
【0048】
本発明の第3実施形態を図6に示す。
【0049】
本実施形態は、バイアス抵抗Rの抵抗値を変える代わりに、バイアス電源Eの電圧(バイアス電圧とも称する)を変えるようにしたものである。
【0050】
バイアス電源Eの電圧を高めることにより、FETのオンオフ動作を速めて放電パルスの間隔を縮め、加工速度を速めることが出来る。逆にバイアス電源Eの電圧を下げることにより、FETのオンオフ動作を遅らせて放電パルスの間隔を広げ、加工速度を遅くすることができる。ここで、バイアス電源Eの電圧の上限はFETのゲート-ソース間電圧の許容範囲である。
【0051】
なお、第3実施形態ではバイアス電源Eの電圧が可変とされていたが、図7に要部構成を示す第4実施形態のように、異なる電圧のバイアス電源(図ではEB1、EB2、EB3の3台のバイアス電源)を例えば切換スイッチSbで切換えるようにしてもよい。或いは、同じバイアス電源から異なるバイアス電圧を切換えて出力可能としても良い。
【0052】
又、前記実施形態では、バイアス抵抗R又はバイアス電源Eのいずれか一方が変更可能とされていたが、両方とも、変更可能とすることもできる。
【0053】
更に、図8に示す要部構成を示す第5実施形態のように、バイアス電源EB1、EB2、EB3とバイアス抵抗RB1、RB2、RB3をセットで切換スイッチScにより切換えるようにしてもよい。又、バイアス電源(バイアス電圧)とバイアス抵抗を、互いに独立して変更可能とすることもできる。
【0054】
図9は、本願発明が適用された第6実施形態の放電電源回路の構成を示す回路図である。
【0055】
この第6実施形態は、基本的には前述した第1実施形態と同様の回路構成になっている。この第6実施形態は、第1実施形態のスイッチング素子のNチャネルMOS型FETが、PチャネルのMOS型FETに置換されており、該置換に整合させて他の回路部分が変更された構成になっている。従って、回路動作の作用も同様になっている。
【0056】
図10は本願発明が適用された第7実施形態の、図11は本願発明が適用された第8実施形態の、それぞれ放電電源回路の構成を示す回路図である。
【0057】
これら第7及び第8実施形態は、スイッチング素子として、いずれもバイポーラトランジスタを用いたものである。具体的には、第7実施形態は前述の第1実施形態のNチャネルMOS型FETに代えて、NPN型バイポーラトランジスタT1を用いている。第8実施形態は第7実施形態のNPN型バイポーラトランジスタに代えて、PNP型バイポーラトランジスタT2を用いている。又、これら第7実施形態や第8実施形態では、上述のような置換に整合させて、他の回路部分が変更された構成になっている。
【0058】
これら第6~第8実施形態についても、前述した第1実施形態と同様に本願発明を効果的に適用することができる。
【0059】
なお、以上に説明した第1乃至第6実施形態における、本願発明のスイッチング素子として用いられるFETにおいて、ある程度以上にソース-ドレイン電流を流す領域においては、ソース-ドレイン電流は、ゲートに加えられる電圧に応じた大きさになる(ゲート電圧に応じた定電流特性)。又、第7及び第8実施形態についても、本願発明のスイッチング素子として用いられるバイポーラトランジスタにおいて、ある程度以上にエミッタ-コレクタ電流を流す領域においては、エミッタ-コレクタ電流は、ベース電流に応じた大きさになる(ベース電流に応じた定電流特性)。このような定電流特性によれば、コンデンサCに対して安定した充電が可能であり、特に充電電流を大にした場合には有効である。
【0060】
なお、以上の説明から明らかであるが、本願発明のスイッチング素子は、以上のような電界効果型トランジスタFETやバイポーラトランジスタに限定されるものではない。例えばサイリスタなどであってもよい。
【0061】
従来は加工途中で加工速度が変えられなかったため、図12(A)に例示するように、例えば粗加工と、中仕上加工及び仕上加工を、同じバイアス抵抗値、例えば1kΩでそれぞれ独立して行っていたが、本発明によれば、図12(B)に例示するように、加工段階に応じて、バイアス抵抗値を、例えば粗加工51Ω→中仕上加工1kΩ→仕上加工20kΩと変えて、加工速度を変えることにより、迅速かつ綺麗な仕上げが可能となる。又、図12(C)に示すように、中仕上加工を省略して2段階で加工したり、図12(D)に示すように、加工途中でバイアス抵抗値を変えることにより、粗加工から仕上加工までを一段階で行うことも可能になる。なお図12はバイアス抵抗値を変える例を示したが、バイアス電圧を変えて同様の加工を行うこともできる。
【0062】
加工途中でバイアス抵抗値やバイアス電圧を変える際には、充電時間tchをモニタしながら、適切な放電パルスの間隔になるように調整することもできる。
【符号の説明】
【0063】
C…コンデンサ
D…ダイオード
、EB1、EB2、EB3…バイアス電源
FET…電界効果型トランジスタ(スイッチング素子)
、RB1、RB2、RB3…バイアス抵抗
Sb、Sc、Sr…切換スイッチ
T1、T2…トランジスタ(スイッチング素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12