(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051361
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】離型剤スラリーの散布方法
(51)【国際特許分類】
B22C 23/02 20060101AFI20240404BHJP
B22D 25/04 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B22C23/02 C
B22D25/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157492
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】山下 晃司
【テーマコード(参考)】
4E094
【Fターム(参考)】
4E094CC55
(57)【要約】
【課題】離型剤スラリーが配管系内で固液分離して詰まる問題を生じさせることなく均一に鋳型に散布する方法を提供する。
【解決手段】 先端部に離型剤スラリーの放出口を有する第1流路1aと、第1流路1aにその途中で合流する第2流路1bとを備えた離型剤スラリーの放出手段23を介してアノード鋳型12に離型剤スラリーを散布する方法であって、第1流路1aには離型剤スラリー及びその送液用気体を導入し、第2流路1bには散布時に該離型剤スラリーを分散させる分散用気体を導入する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に離型剤スラリーの放出口を有する第1流路と、該第1流路にその途中で合流する第2流路とを備えた離型剤スラリーの放出手段を介して鋳型に離型剤スラリーを散布する方法であって、前記第1流路には離型剤スラリー及びその送液用気体を導入し、前記第2流路には散布時に該離型剤スラリーを分散させる分散用気体を導入することを特徴とする離型剤スラリーの散布方法。
【請求項2】
前記分散用気体及び前記送液用気体が共通の気体供給源から供給されることを特徴とする、請求項1に記載の離型剤スラリーの散布方法。
【請求項3】
第1流路と第2流路との合流部において前記第2流路の内径が前記第1流路の内径より大きいことを特徴とする、請求項2に記載の散布方法。
【請求項4】
前記第1流路は、前記離型剤スラリー及びその送液用気体の導入口から前記放出口まで曲がりのない直線状の流路で構成されることを特徴とする、請求項3に記載の散布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用アノードの鋳造時において実施される離型剤スラリーの散布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄金属製錬プロセスにおいては、乾式処理により段階的に品位が高められた熔融状態の非鉄金属に対して、最終的に電解精製を行なうことで高純度の非鉄金属を製造することが行われている。例えば銅の電解精製では、前段の精製炉において粗銅を還元処理することで生成した純度約99.5%の熔融状態の精製粗銅を略矩形板状に鋳造し、得られた銅板からなる複数の陽極(以下「アノード」という)と、別途用意した略矩形板状の複数の陰極(以下「カソード」という)とを1枚ずつ交互に並ぶように吊り下げて電解槽内の電解液内に浸漬し、それらに電圧を印加することで電気銅を製造することが行われている。
【0003】
上記の銅の電解精製は、使用するカソードの種類によってパーマネントカソード法(Permanent Cathode法、以下「PC法」という)とコンベンショナル法(以下「種板法」という)とに分類される。前者のPC法の場合はカソードにステンレス製の薄板を使用し、該薄板上に電着した電気銅は後段の剥離工程で該薄板から剥ぎ取ることにより製品として出荷され、該薄板は再利用する。一方、後者の種板法の場合はカソードに高純度の銅からなる薄板状の種板を使用し、該種板上に電着した電気銅は該種板と共にそのまま製品として出荷される。
【0004】
上記のPC法及び種板法のいずれにおいても、電着時にアノード及びカソードに供給する電気は、電解槽の外部に位置する電源から給電されるので、これらアノードやカソードには電解槽内に吊り下げる際の支持部としての役割と、給電用の電気的接点としての役割とを担う板状または棒状の水平延在部(以下、耳部または電極接置部ということがある)が上端部に設けられている。この電極接置部は、アノードやカソードを電解槽内に吊り下げて電解液内に浸漬させたときに電解液の液面よりは上方に位置するので、電着がすすんでも減肉することはない。そのため、この電極接置部は、アノードやカソードを電解槽内に安定的に吊り下げることができる程度の強度を有していればよく、例えばアノードの場合は電解液内に浸漬する部分に比べて肉厚が薄く作られている。
【0005】
上記のように、アノードは上端部に肉厚の異なる電極接置部を備えた特殊な形状を有しているので、その鋳造工程では、鋳造したアノードを変形させることなく鋳型から容易に剥ぎ取るため、及び熔湯から鋳型を保護するため、熔湯を鋳型に注湯する前に該鋳型に離型剤を散布している。離型剤の形態は、一般的には固体や液体のものがあり、使用する際は、適正な量の離型剤を鋳型に偏りなく広範囲に散布するため、水や空気などの分散媒と混合した状態で離型剤を散布するのが一般的である。例えば固体状の離型剤を水と均一に混合して鋳型に散布するため、所定の比率で配合された離型剤及び水を撹拌槽内で撹拌することで、粉末状の離型剤が水に懸濁した状態の離型剤スラリーを調製する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のように、鋳型に散布する離型剤スラリーを撹拌槽を用いて調製することで、離型剤の密度に関わらず均一に混合された離型剤スラリーを得ることができる。この離型剤には粘土粉、水ガラス、硫酸バリウム、フライアッシュ、珪石紛等を挙げることができるが、離型剤の種類によっては比重3程度を超えるような水に対して密度が著しく大きなものがある。このように、比較的大きな比重を有する離型剤を用いる場合は、該離型剤と水との均質な混合状態を維持することが難しく、撹拌槽を出た離型剤スラリーは、分散先の鋳型に向けて配管系により送液されている間に該配管系内で離型剤と水とが固液分離し、場合によっては該配管系を詰まらせることがあった。配管系内で離型剤の詰まりが生じた場合、鋳型1個当たりの離型剤スラリーの散布量が減少するので、鋳型への離型剤スラリーの散布が不均一になり、そこに鋳込んで鋳造したアノードが鋳型に局所的に焼き付く等の問題が生じやすくなる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、比較的大きな比重を有する離型剤を含んだ離型剤スラリーを用いる場合においても、離型剤スラリーが固液分離して配管系内を詰まらせる問題を生じさせることなく均一に鋳型に散布する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の離型剤スラリーの散布方法は、先端部に離型剤スラリーの放出口を有する第1流路と、該第1流路にその途中で合流する第2流路とを備えた離型剤スラリーの放出手段を介して鋳型に離型剤スラリーを散布する方法であって、前記第1流路には離型剤スラリー及びその送液用気体を導入し、前記第2流路には散布時に該離型剤スラリーを分散させる分散用気体を導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的大きな比重を有する離型剤を含んだ離型剤スラリーを用いる場合であっても該離型剤スラリーが固液分離して配管系内を詰まらせる問題を抑えることができるうえ、離型剤スラリーを均一に鋳型に散布することが可能になる。これにより、鋳型1個当たりの離型剤スラリーの散布量にばらつきが生じにくくなるので、鋳型の局所的な焼き付きを防ぐことができ、結果的に高品質のアノードを安定的に鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法が好適に適用される電解用アノード鋳造装置の模式的な平面図である。
【
図2】
図1の電解用アノード鋳造装置で製造される電解用アノードの平面図である。
【
図3】
図1の電解用アノード鋳造装置のターンテーブル上に設けられているアノード鋳型の斜視図である。
【
図4】本発明の離型剤スラリーの放出方法で使用される離型剤スラリーの放出手段の一具体例の縦断面図である。
【
図5】本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法を実施することが可能な離型剤スラリー供給装置の一具体例の概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の離型剤スラリーの散布方法の実施形態について、銅製錬の電解精製で用いる銅電解用アノードを鋳造する電解用アノード鋳造装置のアノード鋳型を散布対象とする場合を例に挙げて説明する。先ず、離型剤スラリーが散布されるアノード鋳型を有する電解用アノード鋳造装置について説明する。
【0013】
1. 電解用アノード鋳造装置
図1に示すように、熔融粗銅から連続的に電解用アノードを製造する電解用アノード鋳造装置10は、白矢印方向に間欠的に回転する1対のターンテーブル11と、各ターンテーブル11上に周方向に等間隔に載置されている複数のアノード鋳型12と、これら複数のアノード鋳型12に前段の精製炉で精製された熔融粗銅を順次注湯する樋部13と、この樋部13により注湯された熔融粗銅を冷却する冷却装置14と、この冷却装置14での冷却により固化した電解用アノードをアノード鋳型12から剥ぎ取る剥取機15と、この剥ぎ取り時の剥離性を高めるためにアノード鋳型12内に離型剤スラリーを散布する離型剤スラリー散布装置16とから主に構成される。なお、
図1には各ターンテーブル11の上に18個のアノード鋳型12を設けた例が示されているが、アノード鋳型の個数はこれに限定されるものではない。
【0014】
上記の電解用アノード鋳造装置10で製造される電解用アノードは、後段の電解精製において、吊り下げた状態で電解槽内の電解液に浸漬されるため、
図2の正面図に示すような特徴的な形状を有している。具体的には、この
図2に示す電解用アノードAは、縦1000mm×横1000mm程度の略矩形板状のアノード本体部A
1と、アノード本体部A
1の上側両端部から紙面左右の方向に突出する1対の耳部A
2とから構成され、これら1対の耳部A
2を電解槽の対向する側壁上のブスバーとも称する導電板の上に載置することで、電解用アノードAは、そのアノード本体部A
1が電解槽内の電解液に浸漬された状態で吊り下げられると共に該ブスバーを介して電源から給電される。
【0015】
2. 電解用アノードの鋳造方法
次に、上記構造の電解用アノード鋳造装置10を用いた電解用アノードの鋳造方法について説明する。電解用アノード鋳造装置10においては、白矢印の方向に間欠的に回転する1対のターンテーブル11の上に載置された複数のアノード鋳型12に熔融粗銅を順次鋳込む鋳込み工程と、該アノード鋳型に鋳込まれた熔融粗銅を冷却する冷却工程と、該冷却工程における冷却により固化した電解用アノードAを該アノード鋳型12から剥ぎ取る剥ぎ取り工程と、電解用アノードAが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型12内に離型剤スラリーを散布する離型剤散布工程とを繰り返すことで、電解用アノードを連続的に鋳造することが可能になる。以下、上記の鋳込み工程、冷却工程、剥ぎ取り工程、及び離型剤散布工程の各々について具体的に説明する。
【0016】
2.1 鋳込み工程
鋳込み工程は、ターンテーブル11の間欠的な回転により樋部13の下方に次々に搬送されるアノード鋳型12に対して、前段の精製炉において純度約99.5%に高められた精製粗銅を該樋部13を介して順次鋳込む工程である。この樋部13は、該精製炉から排出される精製粗銅をターンテーブル11まで送液する流し樋13aと、この流し樋13aから供給される精製粗銅を左右に振り分ける溜樋13bと、この溜樋13bで振り分けられた精製粗銅を計量してアノード鋳型12に注湯する計量樋13cとから一般に構成され、これにより各アノード鋳型12の鋳型凹部内に一定量の精製粗銅を鋳込むことができ、ばらつきの少ない電解用アノードAを製造することができる。
【0017】
2.2 冷却工程
冷却工程は、前工程の鋳込み工程で鋳込まれた精製粗銅で満たされたアノード鋳型12をターンテーブル11の回転によりフード状の冷却装置14内に順次導入し、冷却水散布配管を介して好ましくは上下から冷却水を散布して精製粗銅を冷却する工程である。この冷却により、精製粗銅は鋳型凹部内で固化し、電解用アノードAが成型される。この冷却工程では、上記の精製粗銅の冷却と同時にアノード鋳型12も適切な温度まで冷却される。
【0018】
2.3 剥ぎ取り工程
剥ぎ取り工程は、前工程の冷却工程での冷却により成型された電解用アノードAをアノード鋳型12の鋳型凹部から剥ぎ取る工程である。この電解用アノードAの剥ぎ取りでは、
図3に示すように、アノード鋳型12の鋳型凹部12aの底部から出没する押上ピン12bによって電解用アノードAの耳部側が押し上げられ、この押し上げられた部分を剥取機15により引っ掛けたり掴持したりすることでアノード鋳型12から取り出す方法が一般的に採用される。なお、この剥取機15で電解用アノードAを剥ぎ取る前に、目視等により不良と判定された不良アノードを剥ぎ取る異形アノード剥取装置が設けられることがある。
【0019】
2.4 離型剤散布工程
離型剤散布工程は、前工程で電解用アノードAが剥ぎ取られた後のアノード鋳型12の鋳型凹部内に、本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法に沿って離型剤スラリーを散布する工程である。散布された離型剤スラリーに含まれる水分はアノード鋳型12が保有する蓄熱により蒸発し、これにより鋳型凹部の内表面に離型剤層が形成される。次サイクルの鋳込み工程において、この離型剤層の上に精製粗銅が鋳込まれるので、次サイクルの剥ぎ取り工程において、アノード鋳型12からの電解用アノードAの剥離性を高めることができる。
【0020】
3.本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法
次に、上記した離型剤散布工程で行われる本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法について説明する。この本発明の実施形態の離型剤スラリーの散布方法は、先端部に離型剤スラリーの放出口を有する第1流路と、この第1流路にその途中で合流する第2流路とを備えた離型剤スラリーの放出手段を介してアノード鋳型12に離型剤スラリーを散布するものである。そして、上記の第1流路には離型剤スラリー及びその送液用気体を導入し、上記第2流路には散布時に該離型剤スラリーを分散させる分散用気体を導入する。
【0021】
上記の散布方法を採用することにより、比較的大きな比重を有する離型剤を含んだ離型剤スラリーを用いる場合においても、該離型剤スラリーが配管系や放出手段等の流路内で固液分離して詰まらせる問題を防ぐことができる。すなわち、先端部に放出口を有する上記放出手段の第1流路に離型剤スラリーを送液用気体と共に導入することで、該放出手段内の第1流路のみならず、そこに至るまでの配管系において、離型剤スラリーが固液分離して該分離した離型剤によって詰まらせる問題を防ぐことができる。
【0022】
また、上記第2流路に分散用気体を導入することで、これら第1流路と第2流路との合流部において、送液用気体を伴う離型剤スラリーに更に該分散用気体を混ぜることができるので、離型剤スラリーが放出手段の放出口から放出される際により均質に分散させることが可能になる。これにより鋳型凹部の内表面に離型剤スラリーを均一に散布することができるので、離型剤スラリーに含まれる水分を確実に蒸発させることができる。また、離型剤を広げる働きを有する役割を水と同様に分散用気体に担わせることができるので、離型剤スラリーの水分量を少なくすることも可能になる。これにより、鋳型での焼き付きの問題を生じさせることなく高品質の電解用アノードAを安定的に鋳造することができる。
【0023】
上記の分散用気体や送液用気体に用いる気体には特に制約がなく、圧縮空気、圧縮窒素、水蒸気などを利用することができる。これらの中では、取り扱いが容易で比較的安価な圧縮空気が好ましい。また、送液用気体及び分散用気体の供給圧は、上記の配管系や放出手段などで生じる圧力損失を考慮すると共に、放出手段において離型剤スラリーが良好に分散するように適宜圧力調整弁の開度で調整すればよく、一般的には100kPaG~1MPaG程度が好ましい。
【0024】
なお、離型剤スラリーのスラリー濃度については特に限定はないが、一般的には20~160g/Lの範囲内であるのが好ましく、80~120g/Lの範囲内であるのがより好ましい。また離型剤スラリーの散布量は、アノード鋳型12の鋳型凹部の内表面の全面に亘って離型剤スラリーが広がる程度の量であればよく、通常の鋳型温度であれば電解用アノードのアノード本体部の大きさ1平方メートル当たり500~3600mL程度が好ましく、900~1800mL程度がより好ましい。
【0025】
上記の離型剤スラリーの放出手段としては、例えば
図4に示す構造の放出装置を挙げることができる。この
図4に示す放出装置は、先端部に放出口を備えた第1流路1aを有する上下方向に延在する直管部1と、この直管部1に側方から接続することで第1流路1aにその途中で合流する第2流路2aを有する接続管部2とから構成される。この第1流路1aにはその放出口とは反対側に位置する紙面上方の導入口から黒矢印で示すように離型剤スラリー及び送液用気体を導入し、第2流路2aには紙面左側に位置する導入口から白矢印で示すように分散用気体を導入する。これにより、第1流路1aと第2流路2aとの合流部Mにおいて、送液用気体を伴う離型剤スラリーは、更に分散用気体と混合する。そして、離型剤スラリーは、まだら模様の矢印で示すように、両気体とほぼ均質に混合された状態で第1流路1a内の合流部Mよりも下流側を流れて放出口から放出される。この放出口は、効率よく離型剤スラリーが分散するように第1流路1aの断面積よりも狭い開口面積で例えばスリット状に開口しているのが好ましい。
【0026】
上記のように、送液用気体を伴う離型剤スラリーと分散用気体との混合は、第2流路2aの導入口側から覗き見ることができる第1流路1aと第2流路2aとの合流部Mで生じるので、より均質に混合するため、合流部Mにおいて第2流路の内径d2は第1流路1aの内径d1より大きいことが望ましい。また、上記のように両流路の内径を規定することで、第1流路1aを離型剤スラリーの混合用空間として有効に活用することができる。放出装置の直管部1及び接続管部2として利用可能な市販の継手類や配管は、一般的に外径が6mm、8mm、10mm、15mm等のように不連続に太くなり、これに伴って内径も不連続に太くなっていくので、内径d1よりも内径d2が大きければ上記の効果が得られるが、内径d2が内径d1の2倍以上であるのがより好ましい。
【0027】
前述したように、離型剤スラリーは特に離型剤の比重が3を超える場合は固液分離しやすく、配管系内の流速が遅くなると容易に固液分離して離型剤が配管系内の水平部分に堆積して該配管系を閉塞させることがある。これを避けるため、本発明の実施形態の散布方法では、放出手段の第1流路がその導入口から放出口まで曲がりのない直線状の流路で構成されるのが好ましい。かかる構造の放出手段を、水平方向に該第1流路が延在しないように、好ましくは鉛直方向に延在するように支持することで、離型剤による流路の詰まりを防ぐことができる。
【0028】
4. 離型剤スラリー散布装置
次に、上記の離型剤散布工程で使用する離型剤スラリー供給装置の一具体例について説明する。
図5に示すように、電解用アノードが剥ぎ取られた直後のアノード鋳型12に向けて離型剤スラリーを供給する離型剤スラリー供給装置は、離型剤スラリーを調製すると共に固液分離しないように撹拌機20aで撹拌しながら貯留する離型剤スラリー供給源としての撹拌槽20と、この撹拌槽20の底部から抜き出される離型剤スラリーを昇圧するポンプ21と、このポンプ21で昇圧された離型剤スラリーをその散布先のアノード鋳型12まで送液する供給配管系22と、該供給配管系22の先端部に設けられており、離型剤スラリーを分散用ガスに分散させた状態で散布する前述した放出装置等の放出手段23とから構成される。
【0029】
上記のポンプ21の吐出側は、撹拌槽20の頂部に戻る循環配管系24が接続されており、これにより離型剤スラリーをより均一に混合することができる。上記の供給配管系22を、この循環配管系24から分岐することで、放出手段23からの離型剤スラリーの放出が一時的に中断しても配管系内で該離型剤スラリーが固液分離するのを防ぐことができる。なお、放出手段23は、例えば揺動自在に支持すると共にシリンダー等で往復動させることによって、アノード鋳型12の鋳型凹部の底面に沿って一方的に走査させるのが好ましい。
【0030】
上記の供給配管系22には、前述した循環配管系24の分岐点Sにできるだけ近い位置に送液用気体供給配管25の一端部が接続している。この送液用気体供給配管25の他端部はコンプレッサーや圧力ボンベなどの送液用気体供給源26に接続しており、これにより、供給配管系22内を放出手段23に向って流れる離型剤スラリーが水平配管等で固液分離して閉塞させるのを防ぐことができる。
【0031】
一方、上記の放出手段23には、上記第2流路に導入する分散用気体供給配管27の一端部が接続している。この分散用気体供給配管27の他端部はコンプレッサーや圧力ボンベなどの分散用気体供給源28に接続しており、これにより、前述したように離型剤スラリーの放出手段23からの分散状態を促進することができる。なお、
図5では分散用気体供給源28と送液用気体供給源26とが別々に設けられている例が示されているが、1台の共通の気体供給源から供給してもよい。また、上記の供給配管系22への離型剤スラリーの供給及び停止、送液用気体の導入及び停止、及び分散用気体の導入及び停止をそれぞれ所定のタイミングで実施できるように、供給配管系22、送液用気体供給配管25、及び分散用気体供給配管27には、それぞれ自動弁22a、25a、27aが設けられており、それらの開閉はCPU等の制御手段29で制御されている。以上説明したように、本発明の離型剤スラリーの散布方法によれば、離型剤スラリーが固液分離して配管系内で詰まる問題を抑えることができるうえ、離型剤スラリーを鋳型に均一に散布することができるので、その工業的価値は非常に大きい。
【実施例0032】
(実施例1)
図1に示すようなアノード鋳造設備を用い、鋳込み工程、冷却工程、剥ぎ取り工程、及び離型剤散布工程を繰り返すことで銅電解用アノードを製造した。上記工程のうち、離型剤散布工程では
図5に示すような離型剤スラリー散布装置を用いた。すなわち、撹拌槽20において離型剤として粉末状の硫酸バリウムと水とを混合することで離型剤スラリーを調整した後、その送液用気体としてコンプレッサーで生成した圧縮空気と共に
図4に示すようなT字形状の放出装置の第1流路1aに導入した。この放出装置の第2流路2aには、上記の送液用気体との共用の同じコンプレッサーで生成した圧縮空気を分散用気体として導入して離型剤スラリーと混合した。
【0033】
上記の散布装置を用いて1ヶ月続けて操業することで4万枚のアノードを鋳造した。その際、離型剤スラリーの鋳型へ散布状況を目視にて確認したところ、均一に離型剤が定着しているのが確認された。但し、操業中に放出装置の合流部Mに離型剤の堆積による離型剤スラリーの不安定な分散が生じ、これを解消するため離型剤を取り除く掃除が16回必要であった。
【0034】
比較のため放出装置の第1流路1aに導入する気体と第2流路2aに導入する気体を上記とは逆にした以外は上記実施例と同様にして1ヶ月続けて4万枚のアノードを鋳造した。その結果、操業中に放出装置の合流部Mに離型剤の堆積による離型剤スラリーの不安定な分散が生じ、これを解消するため、離型剤を取り除く掃除が45回必要であった。
【0035】
上記の結果より、実施例では比較例とは異なり放出装置において導入口から放出口まで曲がりのない直線的な構造の流路に離型剤スラリーを導入したので、比重3を超える離型剤を用いたにもかかわらず固液分離による離型剤の堆積を抑えて合流部Mでの詰まり頻度を減少できたと考えられる。