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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051369
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】バッテリ端子
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/543 20210101AFI20240404BHJP
   H01M 50/567 20210101ALI20240404BHJP
   H01M 50/562 20210101ALI20240404BHJP
   H01M 50/552 20210101ALI20240404BHJP
   H01M 50/564 20210101ALI20240404BHJP
【FI】
H01M50/543
H01M50/567
H01M50/562
H01M50/552
H01M50/564
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157500
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健作
(72)【発明者】
【氏名】木原 泰
【テーマコード(参考)】
5H043
【Fターム(参考)】
5H043AA01
5H043AA13
5H043AA14
5H043AA19
5H043BA12
5H043CA05
5H043CA15
5H043DA04
5H043DA19
5H043HA07D
5H043JA01D
5H043JA26D
5H043KA32D
5H043LA11D
(57)【要約】
【課題】バッテリ端子の構造の複雑化とバッテリ端子の部品点数の増大を回避しつつ、バッテリポストに対してバッテリ端子のポスト締結部を強く締め付けなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストに対しても優れた締結性を有するバッテリ端子を提供する。
【解決手段】充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子であり、バッテリポストが締結されるポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されているバッテリ端子。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子であり、
バッテリポストが締結されるポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されているバッテリ端子。
【請求項2】
前記充電可能バッテリのバッテリポストが、鉛蓄電池バッテリのバッテリポストである請求項1に記載のバッテリ端子。
【請求項3】
前記ポスト締結部の内面に、溝部及び/または凹凸部が設けられている請求項1または2に記載のバッテリ端子。
【請求項4】
前記撥油性成分が、フッ素系の成分及び/または石油系炭化水素を含む請求項1または2に記載のバッテリ端子。
【請求項5】
前記バッテリ端子が、プレス成形品である請求項1または2に記載のバッテリ端子。
【請求項6】
前記バッテリ端子が、前記ポスト締結部を有する端子本体と、前記ポスト締結部を内方向へ変形させることで前記ポスト締結部の内面にてバッテリポストを締め付ける締め付け部と、を備え、
前記締め付け部が、ボルトとナットを有し、
前記バッテリポストの軸線に沿って前記ボルトまたは前記ナットが変位することで前記ポスト締結部を内方向へ変形させる請求項1または2に記載のバッテリ端子。
【請求項7】
前記ポスト締結部の内面全体のうち、30%以上の面積の領域に撥油性成分が塗布されている請求項1または2に記載のバッテリ端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリから突出しているバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子であり、特に、充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両に搭載される充電可能バッテリは、その上面から突出するバッテリポストが設けられていて、バッテリポストにバッテリ端子(バッテリポスト端子)が固定される。このバッテリ端子には、電力供給用のハーネス類が接続される。バッテリポストにバッテリポスト端子を固定する構造としては、突出するバッテリポストの側面をバッテリ端子によって挟み込み、ボルトを上下方向から挿通させてナットとボルトとにより締め付け固定するもの(特許文献1)、突出するバッテリポストの側面をバッテリ端子によって挟み込み、ボルトを斜め方向から挿通させてナットとボルトとにより締め付け固定するもの(特許文献2)が提案されている。
【0003】
ところで、バッテリポストに錆が発生することを防止するために、バッテリポストの外面に防錆油が塗布されたり、また、バッテリポストに耐食性を付与するために、バッテリポストの外面に、カーボングリース、シリコーングリース等のグリースが塗布されることがある。
【0004】
しかし、特許文献1、特許文献2のバッテリ端子では、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分を塗布すると、バッテリポストの外面が滑りやすくなり、バッテリポストからバッテリ端子が抜けてしまうおそれがある。そこで、バッテリポストからバッテリ端子が抜けてしまうことを防止するために、バッテリポストに対してバッテリ端子のポスト締結部を強く締め付ける必要がある。
【0005】
このように、バッテリポストに対してバッテリ端子のポスト締結部を強く締め付けてしまうと、バッテリ端子に大きな変形や破損が生じてしまうというおそれ、また、バッテリポストが変形してしまうというおそれがあった。また、別途、バッテリ端子に大きな変形や破損が生じてしまうことを防止する機構を設けると、バッテリ端子の構造が複雑化し、また、バッテリ端子の部品点数が増大するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-91654号公報
【特許文献2】特開2020-187886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明は、バッテリ端子の構造の複雑化とバッテリ端子の部品点数の増大を回避しつつ、バッテリポストに対してバッテリ端子のポスト締結部を強く締め付けなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストに対しても優れた締結性を有するバッテリ端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の構成の要旨は、以下の通りである。
[1]充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子であり、
バッテリポストが締結されるポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されているバッテリ端子。
[2]前記充電可能バッテリのバッテリポストが、鉛蓄電池バッテリのバッテリポストである[1]に記載のバッテリ端子。
[3]前記ポスト締結部の内面に、溝部及び/または凹凸部が設けられている[1]または[2]に記載のバッテリ端子。
[4]前記撥油性成分が、フッ素系の成分及び/または石油系炭化水素を含む[1]または[2]に記載のバッテリ端子。
[5]前記バッテリ端子が、プレス成形品である[1]または[2]に記載のバッテリ端子。
[6]前記バッテリ端子が、前記ポスト締結部を有する端子本体と、前記ポスト締結部を内方向へ変形させることで前記ポスト締結部の内面にてバッテリポストを締め付ける締め付け部と、を備え、
前記締め付け部が、ボルトとナットを有し、
前記バッテリポストの軸線に沿って前記ボルトまたは前記ナットが変位することで前記ポスト締結部を内方向へ変形させる[1]または[2]に記載のバッテリ端子。
[7]前記ポスト締結部の内面全体のうち、30%以上の面積の領域に撥油性成分が塗布されている[1]または[2]に記載のバッテリ端子。
【0009】
本発明のバッテリ端子の態様では、ポスト締結部の内面は、ポスト締結部に締結されるバッテリポストの外周面が接触する部位であり、ポスト締結部の、バッテリポストの外周面が接触する部位に、撥油性成分が塗布されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のバッテリ端子の態様によれば、ポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されていることにより、前記撥油性成分が、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分を弾くので、ポスト締結部の内面とバッテリポストの外周面との間の摩擦力が向上する。従って、本発明のバッテリ端子では、バッテリポストに対してポスト締結部を強く締め付けなくても、すなわち、ポスト締結部に既定トルクを超える締め付けを付与しなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面をポスト締結部が挟み込む締結力が向上して、外面に油成分が塗布されたバッテリポストに対しても優れた締結性を発揮する。また、本発明のバッテリ端子の態様によれば、ポスト締結部の内面に撥油性成分が塗布されている構造なので、バッテリ端子の構造の複雑化とバッテリ端子の部品点数の増大を回避することができる。
【0011】
本発明のバッテリ端子の態様によれば、前記ポスト締結部の内面に、溝部及び/または凹凸部が設けられていることにより、バッテリポストの外周面を挟み込むための締結力がさらに向上する。
【0012】
本発明のバッテリ端子の態様によれば、前記撥油性成分が、フッ素系の成分及び/または石油系炭化水素を含むことにより、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分をさらに円滑に弾くことができるので、ポスト締結部の内面とバッテリポストの外周面との間の摩擦力がさらに向上する。従って、本発明のバッテリ端子の態様によれば、ポスト締結部に既定トルクを超える締め付けを付与しなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面をポスト締結部が挟み込む締結力をさらに高めることができる。
【0013】
前記バッテリ端子がプレス成形品である場合、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていると、バッテリポストからバッテリ端子が抜けてしまう傾向が高まる。しかし、本発明のバッテリ端子の態様によれば、ポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されていることにより、バッテリ端子がプレス成形品であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0014】
バッテリポストの軸線に沿って締結部材であるボルトまたはナットが変位することで、ポスト締結部を内方向へ変形させてバッテリポストの外周面を挟み込むバッテリ端子(上締めのバッテリ端子)では、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていると、バッテリポストからバッテリ端子が抜けてしまう傾向が高まる。しかし、本発明のバッテリ端子の態様によれば、ポスト締結部の内面の少なくとも一部領域に、撥油性成分が塗布されていることにより、前記上締めのバッテリ端子であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0015】
本発明のバッテリ端子の態様によれば、前記ポスト締結部の内面全体のうち、30%以上の面積の領域に撥油性成分が塗布されていることにより、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分をさらに確実に弾くことができるので、ポスト締結部の内面とバッテリポストの外周面との間の摩擦力がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態例に係るバッテリ端子の分解斜視図である。
図2】第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体を組み付けた状態を説明する斜視図である。
図3】第1実施形態例に係るバッテリ端子を組み付けた状態を説明する斜視図である。
図4】締結腕部を締め付け方向へ変形させる前の状態を示す正面図である。
図5】第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体の平面図である。
図6】第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体の側面図である。
図7】第1実施形態例に係るバッテリ端子をバッテリポストに接続した状態を示す平面図である。
図8】第1実施形態例に係るバッテリ端子をバッテリポストに接続した状態を示す側面断面図である。
図9】締結腕部を締め付け方向へ変形させた状態を示す正面図である。
図10】第2実施形態例に係るバッテリ端子の分解斜視図である。
図11】第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結前の状態を示す斜視図である。
図12】第2実施形態例係るバッテリ端子の固定構造のナット締結後の状態を示す斜視図である。
図13】第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結前の状態を示す部分断面図である。
図14】第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結後の状態を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態例に係るバッテリ端子について説明する。なお、本発明の実施形態例に係るバッテリ端子の具体的な構造は、説明の便宜上の例示であり、本発明のバッテリ端子は、実施形態例の具体的構造に限定されない。先ず、本発明の第1実施形態例に係るバッテリ端子について説明する。なお、図1は、第1実施形態例に係るバッテリ端子の分解斜視図である。図2は、第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体を組み付けた状態を説明する斜視図である。図3は、第1実施形態例に係るバッテリ端子を組み付けた状態を説明する斜視図である。図4は、締結腕部を締め付け方向へ変形させる前の状態を示す正面図である。図5は、第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体の平面図である。図6は、第1実施形態例に係るバッテリ端子の端子本体の側面図である。図7は、第1実施形態例に係るバッテリ端子をバッテリポストに接続した状態を示す平面図である。図8は、第1実施形態例に係るバッテリ端子をバッテリポストに接続した状態を示す側面断面図である。図9は、締結腕部を締め付け方向へ変形させた状態を示す正面図である。
【0018】
図1、2に示すように、第1実施形態例に係るバッテリ端子1は、端子本体10と、締め付け部50と、を有している。バッテリ端子1は、後述するポスト締結部38を有する端子本体10と、ポスト締結部38を内方向へ変形させることでポスト締結部38の内面にてバッテリポストPを締め付ける締め付け部50と、を備えている。端子本体10は、下側の第1部材11と、上側の第2部材30と、を有している。締め付け部50は、スロープ部材51と、締結用のボルト58と、締結用のナット61と有している。バッテリ端子1は、導電性を有する金属材料で形成されている。
【0019】
図7、8に示すように、バッテリ端子1は、軸線を上下方向に向けたバッテリポストPに導通可能に接続される。バッテリポストPは、充電可能バッテリのバッテリポストである。従って、バッテリ端子1は、充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられる。充電可能バッテリのバッテリポストとしては、例えば、鉛蓄電池バッテリのバッテリポストが挙げられる。
【0020】
以下に、端子本体10について説明する。図1、2に示すように、端子本体10を構成する下側の第1部材11は、前後方向中央部の収容部12に、平面視略円形である孔部13が形成されている。孔部13の内径の寸法は、バッテリポストPの外径と略同じとなっている。収容部12の前方には、鉛直方向上方へ延びる左右一対の側壁部14が形成されている。側壁部14には、側壁部14の先端から幅方向に沿って内方向へ延出した一対の支持部15が形成されている。支持部15は、締付腕部36を支持するための支持部である。
【0021】
第1部材11は、前後方向前端部に、水平方向に延在した板状部である板状支持部18が設けられている。板状支持部18は、締付腕部36を支持するための支持部である。板状支持部18は、平面視略円形である孔部22が形成されている。
【0022】
第1部材11は、前後方向後端部に、収容部12の後端から鉛直方向上方へ延出した側壁部23と、側壁部23から後方へ向かって水平方向に延出した後方延出部24を有している。
【0023】
図1、2、5、6に示すように、第2部材30は、前後方向後端部が導体(図示せず)を接続するための接続部31となっている。接続部31に導体を接続するための接続手段(図示せず)を設け、前記接続手段に導体を接続することで、バッテリ端子1に導体が接続される。
【0024】
第2部材30は、接続部31の前方に位置し、接続部31から連設されている連結部34に爪部35が設けられている。爪部35は、鉛直方向下方へ延びている。また、爪部35は、連結部34の幅方向の両側に設けられている。第1部材11と第2部材30は、左右一対の爪部35によって結合されている。
【0025】
第2部材30は、前後方向中央部から前端部にわたって、左右一対の締結腕部36が設けられている。締結腕部36は、連結部34と連設されており、連結部34の前端部から前方へ延在している。また、締結腕部36は、連結部34の幅方向の両縁部から前方へ延在している。各締結腕部36は、前後方向中央部に設けられた、略半円状のポスト締結部38と、前後方向前端部に設けられた、ポスト締結部38と連設された受け部39と、を有している。
【0026】
締結腕部36が左右一対設けられていることに対応して、左右一対のポスト締結部38が、平面視略円形状となっている収容孔部40を形成している。収容孔部40は、バッテリポストPを収容するための孔部である。ポスト締結部38には、ポスト締結部38の縁部に沿って鉛直方向上方へ延在した周壁部41が設けられている。ポスト締結部38基部の内周面とポスト締結部38の周壁部41の内周面が、バッテリポストPの外周面を密着状態で挟み込むことで、バッテリポストPがポスト締結部38に締結される。
【0027】
図1、2、5、6に示すように、バッテリ端子1では、バッテリポストPが締結されるポスト締結部38の内面である内周面37の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されている。すなわち、ポスト締結部38基部の内周面とポスト締結部38の周壁部41の内周面から形成される内周面37の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されている。ポスト締結部38の内面(内周面37)の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されていることにより、撥油性成分32が、バッテリポストPの外周面に塗布されている油成分を弾くので、ポスト締結部38の内面(内周面37)とバッテリポストPの外周面との間の摩擦力が向上する。従って、バッテリ端子1では、バッテリポストPに対してポスト締結部38を強く締め付けなくても、すなわち、ポスト締結部38に既定トルクを超える締め付けを付与しなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPの外周面をポスト締結部38が挟み込む締結力が向上して、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPに対しても優れた締結性を発揮する。
【0028】
撥油性成分32としては、例えば、バッテリポストPの外周面に塗布されている油成分をさらに円滑に弾くことができることで、ポスト締結部38の内周面37とバッテリポストPの外周面との間の摩擦力がさらに向上する点から、フッ素オイル等のフッ素系の成分、石油系炭化水素が好ましい。上記から、撥油性成分32として、フッ素系の成分、石油系炭化水素が使用されることで、ポスト締結部38に既定トルクを超える締め付けを付与しなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPの外周面をポスト締結部38が挟み込む締結力をさらに高めることができる。なお、撥油性成分32として、上記フッ素系の成分及び石油系炭化水素以外の成分、例えば、シリコンオイル等のシリコン系の成分等を、撥油性を損ねない範囲で含有していてもよい。
【0029】
ポスト締結部38の内周面37全体のうち、撥油性成分32が塗布されている領域の面積割合は、特に限定されないが、その下限値は、バッテリポストPの外周面に塗布されている油成分をさらに確実に弾くことで、ポスト締結部38の内周面37とバッテリポストPの外周面との間の摩擦力がさらに向上する点から、30%が好ましく、50%が特に好ましい。一方で、ポスト締結部38の内周面37全体のうち、撥油性成分32が塗布されている領域の面積割合の上限値は、ポスト締結部38の内周面37に撥油性を付与する点からは高いほど好ましい、すなわち、ポスト締結部38の内周面37の撥油性の点から100%が好ましいが、撥油性と導電性をバランスよく向上させる点からは80%が好ましい。
【0030】
図1、2、5、6に示すように、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)に、周方向に所定の間隔をあけて、複数の溝部33、33、33・・・が設けられている。バッテリ端子1では、複数の溝部33、33、33・・・は、ポスト締結部38の内周面37の高さ方向に沿って(すなわち、鉛直方向に沿って)設けられている。ポスト締結部38の内周面37に複数の溝部33、33、33・・・が設けられていることで、ポスト締結部38の内周面37に凹凸が形成されている。
【0031】
受け部39は、ポスト締結部38と連続して水平方向に前方へ延出した板状の板状部42と、板状部42の内側面に設けられた、略半円状の切り欠きである陥入部46と、を有している。陥入部46の平面視の形状は、後述する締結用のボルト58のネジ部60の外周の形状に対応した形状を有している。
【0032】
次に、第1部材11と第2部材30から端子本体10を組み上げる態様について説明する。
【0033】
図5、6に示すように、第1部材11の後方延出部24の上面に第2部材30の連結部34の下面を載置し、左右一対の爪部35を後方延出部24の下面に当接するように塑性変形させることで、第1部材11と第2部材30が相互に固定された端子本体10が形成される。第1部材11の後方延出部24が第2部材30の連結部34と左右一対の爪部35に狭持されていることで、第2部材30に対する第1部材11の変位が規制される。
【0034】
次に、締め付け部50について説明する。図1、3、4に示すように、締め付け部50を構成するスロープ部材51は、受け部39の上側から被せるように取り付けられる。スロープ部材51は、略四角形状の天面部52と、天面部52の両縁部のそれぞれから下方に延びる2つの脚部53と、天面部52の中央部に設けられている、平面視略円形の挿通孔55と、を有している。天面部52の辺の長さは、左右方向よりも前後方向の辺が短く形成されている。挿通孔55には、後述する締結用のボルト58のネジ部60が挿通される。また、天面部52の上面は、締結用のナット61が安定して締め付けられるように平面状に形成されている。
【0035】
2つの脚部53は、挿通孔55を中心にして左右に対称に配置されている。2つの脚部53は、左右の間隔が下方に向かうに従って拡がるように傾斜している傾斜部となっている。また、2つの脚部53の先端には鉛直方向下方に延在した鉛直部54が設けられている。
【0036】
締め付け部50を構成する締結用のボルト58は、平板状の頭部59と頭部上から鉛直方向上方へ伸延したネジ部60とを有している。平板状の頭部59は、多角形状であり、その平面視の面積は、ネジ部60の平面視の面積よりも大きい態様となっている。締結手段50を構成する締結用のナット61は、ネジ部60と螺合するようになっている。
【0037】
次に、バッテリ端子1の作用について説明する。まず、締結用のボルト58のネジ部60を、板状支持部18の下から孔部22に挿通し、頭部59を板状支持部18の下面に当て、板状支持部18の縁部から鉛直方向下方へ延在した回転規制部20に嵌合する。これにより、締結用のボルト58が第1部材11及び第2部材30に対して回転規制された状態で保持される。
【0038】
次に、スロープ部材51を、両受け部39の上面を覆うように組み付ける。スロープ部材51を両受け部39の上面に被せた状態は、図3、4に示すように、両受け部39の外側側面が鉛直部54の内面と接触して対向している。また、スロープ部材51の鉛直部54は、第1部材11の左右一対の側壁部14に狭持される。スロープ部材51の挿通孔55にネジ部60が挿入され、スロープ部材51の天面部52の上方にて、ネジ部60に締結用のナット61がねじ込まれる。締結用のナット61をスロープ部材51の天面部52に当接するまでねじ込むことで、端子本体10に締め付け部50が仮組みされる。
【0039】
次に、端子本体10に締め付け部50が仮組みされた状態で、バッテリポストPの上方から収容部12の孔部13にバッテリポストPを挿入する。収容部12の孔部13にバッテリポストPが挿入されることで、端子本体10がバッテリポストPに対して位置決めされる。
【0040】
次に、スロープ部材51の天面部52に当接するまでねじ込まれていた締結用のナット61を、さらに締め込む。これにより、図9に示すように、バッテリポストPの軸線に沿って締結用のナット61が下方へ変位する。締結用のナット61が下方へ変位することに伴い、2つの脚部53の内面が一対の受け部39を内方向へ押圧して、一対の締付腕部36を内方向へ変形させる。一対の締付腕部36が内方向へ変形することで、一対のポスト締結部38が内方向へ変形して、一対のポスト締結部38の間隔が狭まり、一対のポスト締結部38から形成されている収容孔部40の内周面がバッテリポストPの外周面を締め付ける。収容孔部40の内周面がバッテリポストPの外周面を締め付けることで、バッテリ端子1がバッテリポストPに固定される。
【0041】
バッテリ端子1の端子本体10は、プレス成形したプレス成形品、鋳造により成形した鋳造品が挙げられる。バッテリ端子1では、端子本体10は、プレス成形したプレス成形品である。
【0042】
上記のように、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されていることにより、撥油性成分32が、バッテリポストPの外周面に塗布されている油成分を弾くので、ポスト締結部38の内面(内周面37)とバッテリポストPの外周面との間の摩擦力が向上する。従って、バッテリ端子1では、バッテリポストPに対してポスト締結部38を強く締め付けなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPの外周面をポスト締結部38が挟み込む締結力が向上して、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPに対しても優れた締結性を発揮する。また、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)に撥油性成分32が塗布されている構造なので、バッテリ端子1の構造の複雑化とバッテリ端子1の部品点数の増大を回避することができる。
【0043】
また、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)に、溝部33が設けられていることにより、バッテリポストPの外周面を挟み込むための締結力がさらに向上する。
【0044】
また、バッテリ端子が肉厚の薄いプレス成形品である場合、バッテリポストPの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていると、バッテリポストPからバッテリ端子が抜けてしまう傾向が高まる。しかし、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されているので、バッテリ端子1がプレス成形品であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0045】
また、バッテリ端子1のような、バッテリポストPの軸線に沿って締結用のナット61が変位することでポスト締結部38を内方向へ変形させてバッテリポストPの外周面を挟み込む、上締めのバッテリ端子では、バッテリポストPの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていると、バッテリポストPからバッテリ端子が抜けてしまう傾向が高まる。しかし、バッテリ端子1では、ポスト締結部38の内面(内周面37)の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されているので、上締めのバッテリ端子1であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストPの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0046】
次に、本発明の第2実施形態例に係る、鉛蓄電池バッテリ等の充電可能バッテリのバッテリポストに取り付けられるバッテリ端子について説明する。なお、図10は、第2実施形態例に係るバッテリ端子の分解斜視図である。図11は、第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結前の状態を示す斜視図である。図12は、第2実施形態例係るバッテリ端子の固定構造のナット締結後の状態を示す斜視図である。図13は、第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結前の状態を示す部分断面図である。図14は、第2実施形態例に係るバッテリ端子の固定構造のナット締結後の状態を示す部分断面図である。
【0047】
図10に示すように、バッテリ端子2は、端子本体110の前方に位置する、バッテリポスト(図示せず)が締結されるポスト締結部121と、端子本体110の後方に位置する、固定部131と、を有する。固定部131は、ポスト締結部121と一体で形成されていて、外側に傾斜面134を有し、内周面1321に空間を有する伸張部132と、ネジ部151が伸張部132の内周面1321の空間に挿通されているボルト150と、複数の脚部142、脚部142に支持される天面部141、脚部142のそれぞれに設けられ傾斜面134に沿った傾斜角度を有するスロープ1421、及び、天面部141に設けられていてネジ部151を挿通可能な挿通孔1411が形成されるスロープ部材140と、を備えている。
【0048】
説明の便宜上、図10におけるバッテリ端子2における端子本体10の側面に沿う方向、つまりバッテリ端子2が係合するバッテリポストの軸線z1の方向(以下、軸線方向ともいう。)と平行な方向をz軸方向とする。軸線z1方向は、上下方向ともいう。バッテリ端子2の軸線z1に直交する方向のうち一方(x軸方向)を左右方向とする。x軸方向は、バッテリ端子2における水平方向でもある。また、バッテリ端子2の軸線z1に直交する方向のうち他方(y軸方向)を前後方向とする。バッテリ端子2において、-y方向を手前側、+y方向を奥側ともいう。さらに、バッテリ端子2において、-y方向から+y方向に向かって見た方向を正面方向とする。以下の説明において、各構成要素の位置関係や方向を右側、左側、前側、後側、上側、下側として説明するときは、あくまで図面における位置関係や方向を示し、実際のバッテリ端子における位置関係や方向を限定するものではない。
【0049】
図10に示すように、バッテリ端子2は、端子本体110と、締め付け部である、スロープ部材140、ボルト150及びナット160と、を備えている。バッテリ端子2は、端子本体110及びスロープ部材140を、ボルト150とナット160を用いて上下方向に締結して組み付けて構成されている。また、より具体的には、バッテリ端子2では、端子本体110は、後述するポスト締結部121を有し、締め付け部が、ポスト締結部121を内方向へ変形させることでポスト締結部121の内周面122にてバッテリポストを締め付ける。
【0050】
図11は、バッテリ端子2のナット160締結前の状態を示す斜視図である。また、図3は、バッテリ端子2のナット160締結後の状態を示す斜視図である。
【0051】
図10~12に示すように、端子本体110は、導電性を有する金属材料で形成されている。端子本体10は、奥側に位置する接続部111と、接続部111の手前側に位置するポスト締結部121と、ポスト締結部121よりもさらに手前側に位置する固定部131とが一体に構成されている。
【0052】
接続部111は、バッテリ状態検出装置(図示せず)の検知センサのケース内に組み込まれる。電装品用のハーネス(図示せず)は、検知センサを間に介在させる態様で取り付けられる。接続部111の形状は、この検知センサ内での取付構造に合わせて任意に形成されている。また、接続部111は、検知センサを支持する構造部材としても機能している。
【0053】
ポスト締結部121は、バッテリ端子2をバッテリポストに固定する。ポスト締結部121は、略錐台形状のバッテリポストの形状に合わせて内側に空間を有する略錐台形状に形成されている。ポスト締結部121は、その中央に、上記空間を上下に貫通する円形状の嵌合孔が形成されている。ポスト締結部121の内周面122は、バッテリポストの傾斜する外周面と面接触するように傾斜している。また、内周面122には、周方向に間隔を空けて複数の溝124、124、124・・・が設けられており、バッテリポストの外周面を挟み込むための締付力を高めている。ポスト締結部121は、バッテリポストの上側から内周面122を被せるようにして取り付けられる。
【0054】
また、ポスト締結部121は、奥側の部分で接続部111と一体に連続して形成されているが、手前側の部分では、内周面122を挟んで左右に分岐(分割)した形状になっている。固定部131は、左右に分岐したポスト締結部121の先端部のそれぞれから手前側に延びるように形成されている。
【0055】
ポスト締結部121の内周面122の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されている。撥油性成分32としては、バッテリ端子1と同じく、例えば、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分をさらに円滑に弾くことができることで、ポスト締結部121の内周面122とバッテリポストの外周面との間の摩擦力がさらに向上する点から、フッ素オイル等のフッ素系の成分、石油系炭化水素が好ましい。上記から、撥油性成分32として、フッ素系の成分、石油系炭化水素が使用されることで、ポスト締結部121に既定トルクを超える締め付けを付与しなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面をポスト締結部121が挟み込む締結力をさらに高めることができる。なお、撥油性成分32として、上記フッ素系の成分及び石油系炭化水素以外の成分、例えば、シリコンオイル等のシリコン系の成分等を、撥油性を損ねない範囲で含有していてもよい。
【0056】
ポスト締結部121の内周面122全体のうち、撥油性成分32が塗布されている領域の面積割合は、特に限定されないが、その下限値は、バッテリ端子1と同じく、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分をさらに確実に弾くことで、ポスト締結部121の内周面122とバッテリポストの外周面との間の摩擦力がさらに向上する点から、30%が好ましく、50%が特に好ましい。一方で、ポスト締結部121の内周面122全体のうち、撥油性成分32が塗布されている領域の面積割合の上限値は、ポスト締結部121の内周面122に撥油性を付与する点からは高いほど好ましい、すなわち、ポスト締結部121の内周面122の撥油性の点から100%が好ましいが、撥油性と導電性をバランスよく向上させる点からは80%が好ましい。
【0057】
固定部131は、ポスト締結部121の左側から手前側に延びる左側の伸張部132と、この左側の伸張部132とその内周面1321にボルト150の軸線z1を挟んで左右に空間を設けて配置され、右側の先端部123から手前側に延びる右側の伸張部132とで構成されている。なお、固定部131は、軸線z1を挟んで左右対称な形状であり、以下の説明では特に言及しない限り固定部131の左側の構造についてのみ説明し、右側の構造については省略する。
【0058】
図13、14に示すように、伸張部132は、手前側から見て、下側から上側に向かうに従い軸線z1に近づくように右上がりまたは左上がりに傾斜する傾斜面134が形成されている。また、傾斜面134の前後方向における中央上部には、図10に示すように、内側から外側に向けて略U字状に拡開されたボス部135が形成されている。ボス部135の位置は、図11、12に示すように、ボルト150が取り付けられた状態で、ネジ部151が挿通される位置と対応している。また、ボス部135は、固定部131にスロープ部材140が組み付けられた状態で、前後に隣り合う脚部142の間に向けて外方向へ突出するように形成されている。
【0059】
伸張部132は弾性を有しており、ポスト締結部121の奥側の部分を基端部として左右に弾性移動するようになっている。右側の伸張部132の手前側先端には、端部136が左方向に向けて略直角に折り曲げられた折り曲げ部133が形成されている。折り曲げ部133は、端部136が左側の伸張部132の手前側の傾斜面134の端部と近接する位置に延び出ている。折り曲げ部133は、左右方向の長さが、伸張部132の内側の内周面1321を正面側から覆うように折り曲げられている。
【0060】
図10に示すように、スロープ部材140は、バッテリ端子2の固定部131の上側から被せるように取り付けられる。スロープ部材140は、略四角形状の天面部141と、天面部141の4つの角部のそれぞれから下側に延びる4つの脚部142と、天面部141の中央部に設けられている挿通孔1411とを有している。天面部141の辺の長さは、左右方向よりも前後方向の辺が短く形成されている。挿通孔1411には、後述するボルト150のネジ部151が挿通される。4つの脚部142は、この挿通孔1411を中心にして前後および左右に対称に配置されており、脚部142の前後方向の間隔が、左右方向の脚部の間隔よりも狭くなっている。また、天面部141の上面は、ナット160が安定して締め付けられるように平面状に形成されている。
【0061】
図13、14に示すように、脚部142の左右の内側には、スロープ1421がそれぞれ形成されている。スロープ1421は、左右の伸張部132の傾斜面134と同じ傾斜角度で形成されており、スロープ部材140を固定部131に組み付けた状態で、傾斜面134とスロープ1421が面接触するようになる。
【0062】
脚部142の下端は、ナット160を完全に締め付けた状態で、ボルト150の頭部152の上面に突き当たるようにしている。すなわち、脚部142の長さは、ナット160を締め付けたときの締付トルクとの関係で決定されており、4つの脚部42が突き当たるまで締め込むようにすることで、過トルクを防止するようにしている。
【0063】
また、スロープ部材140の脚部142は、スロープ部材140が取り付けられた状態を垂直方向から見て、ボルト150のネジ部151を中心に、ネジ部151の外周に沿って間隔を空けて配置され、ネジ部151の外側を囲むようにほぼ均等にバランスよく配置されている。
【0064】
図10に示すように、ボルト150は、上下方向に延在するネジ部151と、このネジ部51の下側に位置する頭部152とで構成されている。ネジ部151は、上側を向いている先端部から基端までの範囲にネジ山が形成されている雄ネジ部1511を備えている。
【0065】
次に、第2実施形態例に係るバッテリ端子2の作用について説明する。図11、13に示すように、バッテリ端子2において、ナット160を締結する前の状態は、固定部131の上にスロープ部材140が置かれた状態である。スロープ部材140のスロープ1421は、固定部131の傾斜面134と面接触している。また、ボルト150が固定部131の下側から挿通され、ネジ部151が左右の伸張部132の内周面1321の空間(より詳細には、左右のボス部135の間)を通って、スロープ部材140の挿通孔1411に挿通され、ナット160で仮締めされている。
【0066】
スロープ部材140の左右方向の位置は、スロープ1421と傾斜面134がそれぞれ面接触することで規制される。また、前後方向の位置は、スロープ部材140の前後方向の内側面と固定部131のボス部135とがそれぞれ接することで規制される。また、スロープ部材140の前後方向の位置は、脚部142の前後方向の内側面とボス部135とによっても規制されている。ボルト150は、スロープ部材140の左右方向の外周面と頭部152の上側の面とが接することによってその位置が規制されている。
【0067】
図11、13に示した状態から、ナット160をスロープ部材140の上側から締め付けると、図12、14に示すように、スロープ部材140は、スロープ1421と傾斜面134との左右での面接触によって案内されながら軸線z1方向、具体的には下側-z方向(ボルト150の締付方向)に移動する。また、スロープ1421は、軸線z1方向に移動することにより左右の伸張部132の傾斜面134を内側+x方向または-x方向に押圧する。これにより、左右の伸張部132の内周面1321の左右方向の間隔が狭まるように内側へ弾性変形し、ポスト締結部121の内周面122内のバッテリポストが締め付け固定される。上記から、バッテリポストの軸線に沿ってナット160及びスロープ部材140が下側-z方向(ボルト150の締付方向)に移動(変位)することでポスト締結部121を内方向へ弾性変形させる。
【0068】
傾斜面134とスロープ1421とは、面同士で接触しながら伸張部132を押圧するため、ナット160の締結力が伸張部132に安定して伝わるようになり、伸張部132がバランス良く押圧される。
【0069】
脚部142は、バッテリ端子2を垂直方向から見て、ボルト150のネジ部151を中心に、ネジ部151の外周に沿って間隔を空けて配置され、ネジ部151の外側を囲むようにほぼ均等に配置されているため、左右の伸張部132をほぼ均等な力で内側へと押圧する。これにより、ボルト150とナット160の締結後のネジ部151に多方向から力が作用したとしても、どの方向に対しても均等な固定強度が確保できる。
【0070】
ボルト150は、ネジ部151の雄ネジ部1511によりスロープ部材140が軸線z1方向、具体的には下側の-z軸方向に移動する。具体的には、ボルト150において、ネジ部151の先端側から雄ネジ部1511に螺着されたナット160が雄ネジ部1511の締付方向、つまり-z1方向に移動することにより、ナット160に接するスロープ部材140の天面部141が押圧されてスロープ部材140が軸線z1方向に移動する。
【0071】
バッテリ端子2の端子本体110は、プレス成形したプレス成形品、鋳造により成形した鋳造品が挙げられる。バッテリ端子2では、端子本体110は、プレス成形したプレス成形品である。
【0072】
バッテリ端子2でも、ポスト締結部121の内周面122の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されていることにより、撥油性成分32が、バッテリポストの外周面に塗布されている油成分を弾くので、ポスト締結部121の内周面122とバッテリポストの外周面との間の摩擦力が向上する。従って、バッテリ端子2でも、バッテリポストに対してポスト締結部121を強く締め付けなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面をポスト締結部121が挟み込む締結力が向上して、外面に油成分が塗布されたバッテリポストに対しても優れた締結性を発揮する。また、バッテリ端子2でも、ポスト締結部121の内周面122に撥油性成分32が塗布されている構造なので、バッテリ端子2の構造の複雑化とバッテリ端子1の部品点数の増大を回避することができる。
【0073】
また、バッテリ端子2でも、ポスト締結部121の内周面122に、溝124が設けられていることにより、バッテリポストの外周面を挟み込むための締結力がさらに向上する。
【0074】
また、バッテリ端子2でも、ポスト締結部121の内周面122の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されているので、バッテリ端子2がプレス成形品であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0075】
また、バッテリ端子2のような、バッテリポストの軸線に沿ってナット160及びスロープ部材140が変位することでポスト締結部121を内方向へ変形させてバッテリポストの外周面を挟み込む、上締めのバッテリ端子では、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていると、バッテリポストからバッテリ端子が抜けてしまう傾向が高まる。しかし、バッテリ端子2では、ポスト締結部121の内周面122の少なくとも一部領域に、撥油性成分32が塗布されているので、上締めのバッテリ端子2であっても、既定トルクを超える締め付けをしなくても、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面を挟み込むための締結力が向上する。
【0076】
上記のように、本発明のバッテリ端子は、バッテリポストが締結されるポスト締結部の内面に撥油性成分が塗布されている構成なので、ポスト締結部を有するバッテリ端子であれば、バッテリ端子の具体的な構造は、特に限定されない。本発明のバッテリ端子は、バッテリ端子の構造の相違にかかわらず、外面に油成分が塗布されたバッテリポストの外周面をポスト締結部が挟み込む締結力が向上して、外面に油成分が塗布されたバッテリポストに対しても優れた締結性を発揮できる。
【0077】
次に、本発明のバッテリ端子の他の実施形態例について、以下に説明する。上記実施形態例では、ポスト締結部の内面に溝が設けられていたが、溝に代えて、または溝とともに、ポスト締結部の内面に、複数の点状の凸部または複数の点状の凹部を設けて、ポスト締結部の内面に凹凸部を形成してもよい。
【実施例0078】
次に、本発明のバッテリ端子の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0079】
参考例1
ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布しなかった以外は、上記第1実施形態例のバッテリ端子と同様の構成を有するバッテリ端子を用いて、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていないバッテリポストを、バッテリ端子のポスト締結部に締め付けて固定した。ポスト締結部にバッテリポストを締め付ける際のトルクは、5N・mとした。
【0080】
参考例2
ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布しなかった以外は、上記第2実施形態例のバッテリ端子と同様の構成を有するバッテリ端子を用いて、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていないバッテリポストを、バッテリ端子のポスト締結部に締め付けて固定した。ポスト締結部にバッテリポストを締め付ける際のトルクは、5N・mとした。
【0081】
実施例1
上記第2実施形態例のバッテリ端子を用いて、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されているバッテリポストを、バッテリ端子のポスト締結部に締め付けて固定した。ポスト締結部にバッテリポストを締め付ける際のトルクは、5N・mとした。
【0082】
比較例1
ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布しなかった以外は、上記第1実施形態例のバッテリ端子を用いて、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されているバッテリポストを、バッテリ端子のポスト締結部に締め付けて固定した。ポスト締結部にバッテリポストを締め付ける際のトルクは、5N・mとした。
【0083】
バッテリポストが締結されたポスト締結部の保持力評価
バッテリ端子のポスト締結部にバッテリポストを締め付けて固定した、参考例1、2、実施例1、比較例1のバッテリ端子について、締め付け部を、デジタルフォースゲージ(今田製作所株式会社製「DPX-50TR」)にて、バッテリポストの軸線に交差する方向且つバッテリ端子の端子本体の前後方向に沿って押していき、バッテリポストの外周面に密着しているポスト締結部が、バッテリポストの外周面に沿って動いた時点の力を3回計測し、以下のようにポスト締結部の保持力を、3段階で評価した。
○:3回の計測とも、15kgfの力でもポスト締結部が動かない
△:3回の計測の平均値10kgf以上15kgf以下の力でポスト締結部が動く
×:3回の計測の平均値10kgf未満の力でポスト締結部が動く
【0084】
評価結果を下記表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1から、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布されていないバッテリポストを、ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布しなかったポスト締結部に締め付けて固定した参考例1、2では、ポスト締結部は優れた保持力を有していた。また、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布したバッテリポストを、ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布したポスト締結部に締め付けて固定した実施例1でも、参考例1、2と同様にポスト締結部は優れた保持力を有していた。一方で、バッテリポストの外面に防錆油やグリース類等の油成分が塗布したバッテリポストを、ポスト締結部の内周面に撥油性成分を塗布していないポスト締結部に締め付けて固定した比較例1では、ポスト締結部は優れた保持力を発揮できなかった。
【符号の説明】
【0087】
1、2 バッテリ端子
10、100 端子本体
32 撥油性成分
37、122 内周面
33、124 溝
38、121 ポスト締結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14