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特開2024-51417ワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051417
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】ワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   B66C 15/02 20060101AFI20240404BHJP
   B66C 13/16 20060101ALI20240404BHJP
【FI】
B66C15/02 Z
B66C13/16 G
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157575
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中塚 翔
(72)【発明者】
【氏名】桑原 達朗
(72)【発明者】
【氏名】中田 諭志
(57)【要約】
【課題】吊体の振れに起因するワイヤロープに作用する張力の変動を考慮してワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムを提供する。
【解決手段】シーブ21~25を経由するワイヤロープ20の交換時期を診断するワイヤロープの診断方法において、ワイヤロープ20には等間隔に区分された多数のワイヤ区間26が設定されており、第一周期tごとの吊体の位置(lt、ht)およびワイヤロープ20に作用した張力wtの各々が時系列に並んだ時系列データ31を演算装置4によりデータ処理することにより、通過区間27に生じた微細損傷度Djを算出し、算出した微細損傷度Djをワイヤ区間26ごとに累積した累積損傷度Dsに基づいてワイヤロープ20の交換時期を診断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断方法において、
前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、
前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとの前記吊体の位置および前記ワイヤロープに作用した張力の各々が時系列に並んだ時系列データを演算装置によりデータ処理することにより、前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出し、算出したその微細損傷度を前記ワイヤ区間ごとに累積した累積損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断することを特徴とするワイヤロープの診断方法。
【請求項2】
前記時系列データは前記短い周期よりも長い周期ごとにまとめられており、前記長い周期は、その期間中に前記通過中のワイヤ区間が次のワイヤ区間に切り替わる回数が少なくとも一回以上ある期間である請求項1に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項3】
前記ワイヤ区間ごとの前記累積損傷度の中から最も大きい最大累積損傷度を特定し、前記ワイヤロープの交換時期を診断する指標として前記最大累積損傷度を用いる請求項1に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項4】
所定の期間における所定の時刻ごとの前記最大累積損傷度を特定し、前記所定の時刻と前記最大累積損傷度との相関関係を把握し、把握したその相関関係に基づいて予定時刻の予測累積損傷度を予測し、前記ワイヤロープの交換時期を診断する指標として前記予測累積損傷度を用いる請求項3に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項5】
前記ワイヤ区間ごとに前記累積損傷度に基づいて前記吊体の移動サイクルにおける一回当たりのサイクル損傷度を算出し、前記ワイヤ区間ごとの前記サイクル損傷度の中から最も大きい最大サイクル損傷度を特定し、前記ワイヤロープの交換時期を診断する指標として前記最大サイクル損傷度の逆数である最小予測サイクル回数を用いる請求項1に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項6】
前記微細損傷度を、ニーマンの実験式に、予め把握している前記シーブの形状による係数、前記ワイヤロープの撚り方による係数、前記シーブのシーブ径、および、前記ワイヤロープのロープ径と、前記時系列データに基づいて特定した前記通過中のワイヤ区間に作用した引張応力と、を代入して得られた破断回数の逆数として算出する請求項1に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項7】
前記通過中のワイヤ区間のロープ径を取得して、前記微細損傷度を、前記ニーマンの実験式の予め把握している前記ロープ径の代わりに取得したそのロープ径を用いるとともに前記引張応力の代わりに取得したそのロープ径に応じた引張応力を用いて算出する請求項6に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項8】
前記ワイヤ区間ごとの前記シーブを通過した回数と前記ワイヤロープのロープ径の減少率との相関関係を予め取得しておき、前記演算装置により、診断対象のワイヤロープの前記ワイヤ区間ごとの前記シーブを通過した回数と予め把握している前記相関関係とを用いて、前記通過中のワイヤ区間の前記減少率を算出し、算出した前記減少率に基づいて前記通過中のワイヤ区間のロープ径を推定する請求項7に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項9】
複数の計測装置により前記短い周期ごとに前記ワイヤロープの複数箇所のロープ径を計測し、前記通過中のワイヤ区間のロープ径として計測したそれらの複数箇所のロープ径のいずれかを用いる請求項7に記載のワイヤロープの診断方法。
【請求項10】
少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断システムにおいて、
前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、
前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとに前記吊体の位置を取得する位置取得装置と、前記短い周期ごとに前記ワイヤロープに作用する張力を取得する張力取得装置と、前記短い周期ごとに前記位置および前記張力が時系列に並んで成る時系列データが記憶される演算装置と、を備え、
前記演算装置は、前記時系列データに基づいて前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出するデータ処理と、算出したその微細損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断するデータ処理と、を実行することを特徴とするワイヤロープの診断システム。
【請求項11】
少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を演算装置に診断させるワイヤロープの診断プログラムにおいて、
前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、
前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとの前記吊体の位置および前記ワイヤロープに作用した張力の各々が時系列に並んだ時系列データが記憶された前記演算装置に、前記時系列データに基づいて前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出させる手順と、算出したその微細損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断させる手順と、を実行させることを特徴とするワイヤロープの診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムに関し、より詳しくは、ワイヤロープに作用する張力の変動を考慮してワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンやエレベータなどのワイヤロープを診断する装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1に記載の発明は主ロープに発生する張力をかご速度から得られる加速度と積載質量より計算している。特許文献2に記載の発明はワイヤロープの寿命推定式としてニーマンの実験式を用いており、ワイヤロープに作用する引張応力を荷重から求めている。
【0003】
しかしながら、ワイヤロープが吊り上げる吊体の荷重や吊体を移動させたときの加速度が一定であっても、吊体の振れが発生すると、その振れによりワイヤロープに作用する張力が変動する。それ故、吊体の振れを起因とした張力の変動も考慮して高精度にワイヤロープの交換時期を診断するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-27888号公報
【特許文献2】特開2010-247996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、吊体の振れに起因するワイヤロープに作用する張力の変動を考慮してワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明のワイヤロープの診断方法は、少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断方法において、前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとの前記吊体の位置および前記ワイヤロープに作用した張力の各々が時系列に並んだ時系列データを演算装置によりデータ処理することにより、前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出し、算出したその微細損傷度を前記ワイヤ区間ごとに累積した累積損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断することを特徴とする。
【0007】
上記の目的を達成する本発明のワイヤロープの診断システムは、少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を診断するワイヤロープの診断システムにおいて、前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとに前記吊体の位置を取得する位置取得装置と、前記短い周期ごとに前記ワイヤロープに作用する張力を取得する張力取得装置と、前記短い周期ごとに前記位置および前記張力が時系列に並んで成る時系列データが記憶される演算装置と、を備え、前記演算装置は、前記時系列データに基づいて前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出するデータ処理と、算出したその微細損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断するデータ処理と、を実行することを特徴とする。
【0008】
上記の目的を達成する本発明のワイヤロープの診断プログラムは、少なくとも一つ以上のシーブを経由して、ドラムの巻き取りまたは繰り出しにより吊体を移動させるワイヤロープの交換時期を演算装置に診断させるワイヤロープの診断プログラムにおいて、前記ワイヤロープには、等間隔に区分された多数のワイヤ区間が設定されており、前記ワイヤ区間が前記シーブの通過に要する時間よりも短い周期ごとの前記吊体の位置および前記ワイヤロープに作用した張力の各々が時系列に並んだ時系列データが記憶された前記演算装置に、前記時系列データに基づいて前記シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度を算出させる手順と、算出したその微細損傷度に基づいて前記ワイヤロープの交換時期を診断させる手順と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シーブを通過中のワイヤ区間に生じた微細損傷度が、シーブの通過中に発生した吊体の振れを起因とした損傷を含んだものとなっている。そのため、この微細損傷度が累積した累積損傷度を用いることで、ワイヤロープに作用する張力の変動を考慮して高精度にワイヤロープの交換時期を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ワイヤロープの診断システムの実施形態を例示する構成図である。
図2】ワイヤロープの診断方法および診断プログラムの実施形態の手順を例示するフロー図である。
図3】時系列データを例示する説明図である。
図4】通過区間時系列データを例示する説明図である。
図5】累積損傷度データを例示する説明図である。
図6図2の通過区間および引張応力を特定する手順と微細損傷度を算出する手順の代わりに実行される各手順を例示するフロー図である。
図7】ワイヤロープがシーブを通過した回数とワイヤロープのロープ径の減少率との相関関係を例示するグラフ図である。
図8図3の開始から微細損傷度を算出する手順の代わりに実行される各手順を例示するフロー図である。
図9】時系列ロープ径データを例示する説明図である。
図10】ワイヤ区間ロープ径データを例示する説明図である。
図11】実施例で得られた診断結果を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のワイヤロープの診断方法および診断システム並びに診断プログラムを、図に示す実施形態に基づいて説明する。図1では、X方向をクレーン10の桁の延在方向でトロリが横行する方向とし、Y方向をクレーン10が走行する走行方向とし、Z方向を鉛直方向とする。また、矢印は信号の流れを示す。
【0012】
図1に例示する診断システム1は、クレーン10において五つのシーブ21~25を経由して、ドラム12による繰り出しおよび巻き取りにより吊体11を移動させるワイヤロープ20の交換時期を診断するシステムである。診断システム1は、張力取得装置2、位置取得装置3a、3b、および、演算装置4を備えている。演算装置4は公知の種々のコンピュータを用いることができる。演算装置4は、中央演算処理部(CPU)5、主記憶部(メモリ)6、補助記憶部(例えば、HDD)7、入力部(キーボード、マウス)8、および、出力部(ディスプレイ)9を有している。診断プログラム30は演算装置4の補助記憶部7にインストールされている。
【0013】
クレーン10は公知の種々のクレーンを用いることができる。クレーン10としては、ガントリークレーン(橋形クレーン)、トランスファークレーン(門型クレーン)、天井クレーン、および、ジブクレーン(タワークレーンを含む)が例示され、種類は特に限定されない。
【0014】
本実施形態のクレーン10は、公知のガントリークレーンであり、複数本のワイヤロープ20と、吊体11と、ドラム12と、駆動装置13と、クレーン用制御装置14と、図示しない桁と、トロリと、脚構造物および走行装置と、を備える。クレーン10は桁に沿ったトロリのX方向の横行と走行装置によるY方向の走行とにより吊体11を所定の位置に移動させ、吊体11のZ方向の昇降によりコンテナの荷役作業を行う。吊体11とはワイヤロープ20により吊り上げられるものを示しており、本実施形態においては、吊具およびその吊具に連結されたコンテナ、または、コンテナに連結してない吊具を示すものとする。ドラム12、駆動装置13、および、クレーン用制御装置14は図示しない機械室に設置される。ドラム12は駆動装置13の回転動力により回転してワイヤロープ20を巻き取ったり、繰り出したりする。クレーン用制御装置14は、公知の種々のコンピュータを用いることができる。クレーン用制御装置14は、トロリをX方向に横行させる制御、走行装置によりクレーン10をY方向に走行させる制御、および、吊体11をZ方向に昇降させる制御を実行する。
【0015】
ワイヤロープ20は公知の種々のワイヤロープを用いることができる。ワイヤロープ20は、例えば、複数の素線を撚り合わせたストランドを心の周りに所定のピッチで撚り合わせて成る。ワイヤロープ20のロープ径d〔mm〕、断面積A〔mm〕、および、全長は特に限定されるものではない。一台のクレーン10には複数のワイヤロープ20が設けられているが、ワイヤロープ20の本数は特に限定されるものではない。ワイヤロープ20は、例えば、クレーン10に四本設けられており、図1中では、各々のワイヤロープ20が実線、点線、一点鎖線、二点鎖線で区別される。
【0016】
ワイヤロープ20の掛け方は公知の種々の掛け方を用いることができ、ワイヤロープ20は少なくとも一つのシーブを経由すればよい。例えば、ワイヤロープ20の掛け方は、一端が他のワイヤロープ20の他端に連結具15を介して連結され、他端がドラム12に連結され、中途位置が五つのシーブ21~25のそれぞれを経由する掛け方がある。この掛け方では、ワイヤロープ20が吊体11の吊具に設置されたシーブ23を介して吊体11を吊り上げている。
【0017】
ワイヤロープ20には、等間隔に区分された多数のワイヤ区間26が設定される。一本のワイヤロープ20におけるワイヤ区間26の総数の桁数は、ワイヤ区間26の区間長(延在長さ)ΔSに応じて異なる。国際単位系(SI)の長さの単位として〔m〕を用いたワイヤロープ20の全長が三桁の場合に、その桁数は三桁~四桁が目安となり、その全長が二桁の場合に、その桁数は二桁~三桁が目安となる。各々のワイヤ区間26は、ワイヤロープ20の一端側または末端側のどちらか一方から他方に向うに連れて数値が大きくなる区間番号M(=1、2、・・・、100、・・・)が付与される。ワイヤ区間26は区間番号Mとともに区間の始端位置および終端位置が特定されている。区間番号Mの始端位置は、始端位置は区間番号(M=1)の始点位置を「0」として、区間長ΔSに区間番号(M-1)を乗算した値になり、終端位置は区間長ΔSに区間番号Mを乗算した位置になる。
【0018】
多数のワイヤ区間26は、ワイヤロープ20の全長に亘って設定されてもよいが、ワイヤロープ20がシーブ21~25を通過する際に受ける損傷よりもより小さい損傷を受ける診断対象外の部位を除くとよい。診断対象外の部位としては、ワイヤロープ20の固定端を含む一端部および末端部が例示される。より具体的に、診断対象外の部位としては、吊体11が移動する際にワイヤロープ20の位置が変位しない部位、および、ドラム12に巻き取られた部位が例示される。ワイヤロープ20の位置が変位しない部位は、例えば、連結具15から桁のX方向の一端に固定された定滑車のシーブ21までの間の部位である。また、ドラム12に巻き取られた部位は、ワイヤロープ20がドラム12から最も繰り出された状態で、ドラム12に巻き取られた部位とドラム12からドラム12に最も近く、桁のX方向の他端に固定された定滑車のシーブ25までの間の部位である。
【0019】
ワイヤロープ20の一本当たりのワイヤ区間26の総数は多いほど、ワイヤロープ20の交換時期の診断精度が高くなる。一方、その総数が多いほど、演算装置4において診断結果を出力するまでの演算負荷が増えることに加えて補助記憶部7の記憶領域を専有する度合いも大きくなる。そこで、一台のクレーン10に設けられた複数本のワイヤロープ20における全てのワイヤ区間26の合計数が5000以下となるように、一本当たりのワイヤ区間26の総数(区間番号Mの最大値)を設定することが好ましい。
【0020】
ワイヤ区間26の区間長ΔSは長いほど、ワイヤロープ20の一本当たりのワイヤ区間26の総数が少なくなり、診断精度が低くなる。そこで、区間長ΔSは、吊体11を移動させた場合の単位時間あたりのワイヤロープ20の最小移動距離よりも短くすることが望ましい。区間長ΔSが最小移動距離よりも短くなることで、診断精度の向上には有利になる。なお、単位時間は、張力取得装置2や位置取得装置3a、3bのサンプリング周期とするとよい。
【0021】
また、区間長ΔSは、最小移動距離に加えて、ワイヤロープ20の弛みや伸縮、あるいは、ワイヤロープ20に作用する張力の過負荷を回避および吊体11の角度を変化させることを目的とした傾転装置の作動を考慮することがより望ましい。ワイヤロープ20に弛みや伸縮が生じるとワイヤロープ20が移動した状態になり、シーブを通過したときに損傷が生じる。同様に、傾転装置が作動するとワイヤロープ20が移動した状態になり、シーブを通過したときに損傷が生じる。弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によりワイヤロープ20の移動量は、予め多数の実験や試験データ、あるいは、コンピュータシミュレーション結果の蓄積により得られた知見に基づいて把握することが可能である。ただし、ワイヤロープ20の弛みや伸縮の微小な変化を考慮すると際限なく区間長ΔSが小さくなる。そこで、ワイヤロープ20の弛みは、駆動装置13が停止してワイヤロープ20に作用する張力が無くなったときの弛みによるワイヤロープ20の最小移動距離を採用するとよい。また、ドラムワイヤロープ20の伸縮は、ワイヤロープ20に作用する張力の最大張力時および最小張力時の伸びの差分と、クレーン10の設置場所の最高気温および最低気温の伸びの差分と、を採用するとよい。このように、ワイヤロープ20に生じる弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によるワイヤロープ20の移動を考慮して区間長ΔSを設定することで、ワイヤロープ20に生じる弛みや伸縮、あるいは、傾転装置の作動によるワイヤロープ20の損傷も考慮した診断になり、診断精度の向上には有利になる。
【0022】
シーブ21~25(以下、シーブ21~25を示す場合は符号を省略する。)は公知の種々のシーブを用いることができる。シーブはワイヤロープ20の一端から他端に向かって間隔を空けて順に配置される。各々のシーブのシーブ径D〔mm〕およびシーブ形状は特に限定されるものではない。各々のシーブのシーブ径Dおよびシーブ形状は、例えば、同一である。ただし、シーブ21はワイヤロープ20の位置が変位しない箇所に接触するシーブであり、このシーブ21のシーブ径は他のシーブよりも小さいことがある。各々のシーブには配置順に数値が大きくなるシーブ番号iが付与されている。例えば、シーブ21のシーブ番号をi=1として、シーブ21からドラム12に向かって順に配置されたそれぞれのシーブ22~25にシーブ番号i(=2、・・・、5)が付与されている。
【0023】
各々のシーブはワイヤロープ20の掛け方に応じて動滑車または定滑車のどちらかの種類が適宜、選択される。例えば、本実施形態では、シーブ21およびシーブ25がクレーン10の桁に設置された定滑車である。シーブ22およびシーブ24がクレーン10のトロリに設置されて、トロリの横行に伴ってX方向に移動する動滑車である。シーブ23が吊体11の吊具に設置されて、吊体11の昇降に伴ってZ方向に移動するとともにトロリの横行に伴ってX方向に移動する動滑車である。
【0024】
張力取得装置2は、サンプリング周期を第一周期tに設定可能であり、かつ、ワイヤロープ20に作用する張力Wt〔kgf〕を取得可能あれば、公知の種々のセンサを用いることができる。張力取得装置2としては連結具15に作用する張力を計測するロードセルが例示され、ワイヤロープ20の各々に作用する張力Wtはロードセルが計測した張力の半分の値となる。
【0025】
張力取得装置2は、ワイヤロープ20の位置が変位しない箇所でワイヤロープ20に作用する張力を取得することが望ましい。ワイヤロープ20の位置が変位しない箇所に張力取得装置2を設置することで、張力取得装置2の設置が簡便になる。張力取得装置2は、連結具15に設置されることがより望ましいが、複数の張力取得装置2がシーブ22~25の各々に設置されてもよい。張力取得装置2がシーブの各々に設置されることで通過区間27の各々に作用する張力を個別に取得可能となるが、張力取得装置2の設置数が増えることでデータの整理が煩雑になる。対して、張力取得装置2が連結具15ごとに設置されることで複数本のワイヤロープ20に作用する張力を取得する装置の数が少なくなり、データの整理には有利になる。
【0026】
位置取得装置3a、3bは、サンプリング周期を第一周期tに設定可能であり、吊体11の位置(lt、ht)を取得可能であれば、公知の種々のセンサあるいは幾つかのセンサの組み合わせを用いることができる。吊体11の位置(lt、ht)は相対座標であり、基点からの移動距離のX方向成分とZ方向成分とを示す。基点としては、吊体11が移動可能な範囲に存在する位置であることが好ましい。位置取得装置3aは吊体11のX方向の位置ltを取得する装置であり、トロリの駆動装置の回転数を計測する装置が例示される。位置取得装置3bは吊体11のZ方向の位置htを取得する装置であり、ドラム12におけるワイヤロープ20の巻き取り長さやドラム12の回転数を取得する装置、あるいは、吊体11およびトロリの間の距離を計測する装置が例示される。
【0027】
位置取得装置3a、3bは、吊体11の絶対位置座標を取得する装置でもよく、例えば、吊体11に直に設置された測位衛星システムのアンテナが例示される。吊体11の絶対位置座標を取得する場合には、クレーン10に絶対位置座標が特定された基点を設け、その基点の絶対位置座標と吊体11の絶対位置座標とから算出される吊体11の移動距離のX方向成分とZ方向成分を吊体11の位置(lt、ht)とすることが好ましい。また、岸壁に着岸した船舶に対してコンテナの荷役を行うクレーン10の場合には、吊体11の位置が地面より低い位置になることもあるため、Z方向の位置htを主巻海下揚程で補正することが好ましい。
【0028】
演算装置4は、クレーン10の図示しない運転室あるいはクレーン10から離間した遠隔地に設置された運転室や、コンテナの管理を行う管理システムが設置される管理室に設置される。演算装置4は、入力部8により診断プログラム30が起動されて実行されると、診断プログラム30により指示された各データ処理を実行する。そして、各データ処理を実行してワイヤロープ20の交換時期を予測して出力部9に出力する。
【0029】
演算装置4は、入力部8により、クレーン10の構造および仕様データ、ワイヤロープ掛図、ワイヤロープ20の全長、および、シーブ個数を含む基礎データが予め補助記憶部7に入力されている。演算装置4は、入力部8により、シーブ形状による係数a、ワイヤロープ20の撚り方による係数b、シーブ径D、ロープ径d、および、断面積Aが予め補助記憶部7に入力されている。
【0030】
--
診断プログラム30は、起動された後に、入力部8により各データ処理で用いる初期値の選択や予測結果の選択を含む初期設定が行われる。診断プログラム30は、初期設定が完了した後に、演算装置4の補助記憶部7に時系列データ31が記憶されると、演算装置4に初期設定に従った各データ処理を実行させる。
【0031】
図2に診断方法および診断プログラム30により実行される手順の一例を示す。まず、第一周期tごとに張力Wtおよび位置(lt、ht)を取得する(S110、S120)。ついで、演算装置4の補助記憶部7に時系列データ31が記憶されると(S130)、診断プログラム30は演算装置4に各手順(S140~S170)を実行させる。最終的に、ワイヤロープ20の交換時期の診断結果が出力部9に出力されると、再び、スタートに戻り各々の手順が実行される。この各々の手順の繰り返しは、クレーン10により吊体11を移動させている間で繰り返される。また、繰り返しで累積されたデータはワイヤロープ20の交換とともにリセットされ、ワイヤロープ20を交換してからクレーン10による吊体11の移動が開始されると累積される。(S110)~(S180)の各ステップの内容を以下に詳述する。
【0032】
張力Wtを取得するステップ(S110)では、第一周期tごとに張力取得装置2によりワイヤロープ20に作用する張力Wtを取得する。位置(lt、ht)を取得するステップ(120)では、第一周期tごとに位置取得装置3a、3bにより吊体11の位置(lt、ht)を取得する。
【0033】
第一周期tは予め設定された固定のサンプリング周期である。第一周期tは、通過区間27がシーブの通過に要する時間(あるワイヤ区間26がシーブの通過を開始してからその通過が終了するまでの間の時間)よりも短い期間に設定される。第一周期tは、吊体11の移動における定格速度、ワイヤ区間26の区間長ΔS、および、シーブ径Dの組み合わせにより設定される。また、第一周期tは吊体11の振れを単振り子と見做した場合にその振れの周期よりも短いことが望ましい。吊体11の振れの周期は吊体11とトロリとの間の距離で異なるため、第一周期tとしては、荷役サイクルの中で最も支配的な吊体11の振れの周期よりも短くしたり、あるいは、荷役サイクルの中で最も長い吊体11の振れの周期よりも短くしたりすることができる。第一周期tが吊体11の振れの周期よりも短くなることで、張力取得装置2により吊体11の振れに起因したワイヤロープ20に作用する張力をより正確に取得することが可能となる。張力取得装置2と位置取得装置3a、3bの各々はサンプリング周期を第一周期tで同期させることが望ましいが、張力取得装置2のサンプリング周期を第一周期tよりも短い周期としてもよい。
【0034】
図3に例示する時系列データ31を記憶するステップ(S130)では、第一周期tごとの張力Wtおよび位置(lt、ht)が時系列に並んで成る時系列データ31が演算装置4の補助記憶部7に記憶される。時系列データ31は、第一周期tごとに張力取得装置2および位置取得装置3a、3bから直に演算装置4に送られてもよく、クレーン用制御装置14を介して演算装置4に送られてもよい。
【0035】
時系列データ31は、前回の周期(t-1)までのデータに逐次、新たに取得した張力Wtおよび位置(lt、ht)が追加されて更新されるデータ構造でもよく、第一周期tよりも長い周期である第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造でもよい。また、時系列データ31は、第二周期Tごとにまとめられた一つの第二周期分データから成り、第二周期Tごとに更新されるデータ構造でもよい。時系列データ31が第一周期tごとに逐次、追加されて更新される場合に、時間の経過ともにデータ量が肥大化する。そこで、時系列データ31の肥大化を抑えるために、時系列データ31を第二周期T分でまとめることで、データ管理が容易となり、不要となった部分を補助記憶部7から削除して補助記憶部7の記憶領域の逼迫を回避するには有利になる。第二周期Tは予め設定された固定の周期であり、第一周期tが複数回繰り返される周期である。
【0036】
通過区間27と引張応力δt〔kgf/mm〕を特定するステップ(S140)では、時系列データ31に基づいて演算装置4により各々の通過区間27を特定した後に、通過区間27に作用した引張応力δtを特定するデータ処理が実行される。通過区間27は、吊体11が移動しているときにシーブ21~25のいずれかのシーブを通過中の区間番号Mのワイヤ区間26を示し、シーブ番号iごとにその区間番号Mが特定される。通過区間27は、区間内の少なくとも一部がシーブに接触して、そのシーブにより屈曲した状態となっている。このステップでは、具体的に、時系列データ31の位置(lt、ht)に基づいて演算装置4により、第一周期tごとにどの区間番号Mのワイヤ区間26が通過区間27となっているかを特定して、図4に例示する通過区間時系列データ32を作成するデータ処理が実行される。ついで、作成した通過区間時系列データ32に基づいて演算装置4により、通過区間27に作用した引張応力δtを通過区間27の区間番号Mの切り替わりを判断基準として特定するデータ処理が実行される。
【0037】
時系列データ31の位置(lt、ht)から通過区間27を特定する手法は、特に限定されるものではなく、シーブ番号iごとの通過区間27を特定可能であれば特に限定されない。その手法の一例を以下に示す。まず、吊体11の位置(lt、ht)が基点である場合のワイヤロープ20とシーブとの接触部位の所定の位置を予め取得しておく。所定の位置は接触部位の範囲内から任意に選択でき、例えば、接触部位の中点が例示される。この所定の位置が始端位置から終端位置までの範囲に存在する区間番号Mのワイヤ区間26は吊体11が基点に存在する場合の通過区間27になる。ついで、その所定の位置を初期値とし、吊体11の位置(lt、ht)のワイヤロープ20の掛け方により定められた関数に変数である位置(lt、ht)を代入する。ついで、得られた位置が始端位置から終端位置までの範囲に存在するワイヤ区間26を通過区間27として特定し、その区間番号Mを特定する。
【0038】
図4に例示する通過区間時系列データ32は、第一周期tごとに、シーブ番号iごとの通過区間27の区間番号Mと、第一周期tごとの張力Wtとが時系列に並んだデータセットである。通過区間時系列データ32としては、時系列データ31と同様に、前回の周期(t-1)までのデータに逐次、新たなデータが追加されて更新されるデータ構造、第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造、あるいは、第二周期Tごとにまとめられた一つの第二周期分データから成り、第二周期Tごとに更新されるデータ構造が例示される。本実施形態では、第二周期Tを第一周期tが三回繰り返される周期とし、通過区間時系列データ32を、第二周期Tごとにまとめられた複数の第二周期分データから成るデータ構造とした。
【0039】
第二周期Tは予め設定された固定の周期であり、第一周期tが複数回繰り返される周期である。第二周期Tはその期間中に通過区間27の区間番号(M-1)が次の区間番号Mに切り替わる回数が少なくとも一回以上ある期間であることが望ましい。切り替わる回数が一回以上であれば多くとも第二周期Tの二周期分のデータを演算装置4によりデータ処理することでワイヤロープ20の診断結果を出力することが可能となり、補助記憶部7の専有領域を低減できる。また、切り替わる回数が多いほどデータ量が多くなるため、切り替わる回数は五回以下が望ましい。
【0040】
通過区間27に作用した引張応力δtを特定する手法としては、通過区間27に作用した張力(本実施形態では、張力取得装置2が取得した張力の半分の値)を特定し、特定したその張力をワイヤロープ20の断面積Aで除算して得られた値を引張応力δtとして特定する手法が例示される。通過区間27に作用した張力を特定する手法としては、通過区間27のシーブの通過の開始から終了までの間の第一周期tごとの張力Wtの平均値または中央値を算出する手法、通過区間27の所定の位置(例えば、通過区間27の真ん中の位置)がシーブを通過したときの張力Wtを特定する手法、通過区間27の番号Mが次の番号(M+1)に切り替わったときの張力Wtを特定する手法が例示される。複数の張力Wtの平均値または中央値を採用することにより、演算装置4の演算負荷は増加するが、通過区間27に作用した引張応力δtをより正確に把握するには有利になる。一方、複数の張力Wtのいずれかを選択する手法を採用することにより、演算装置4の演算負荷は減少する。したがって、通過区間27に作用した張力を特定する手法は、診断プログラム30により選択可能とし、状況に応じて適宜、変更可能にするとよい。
【0041】
微細損傷度Djを算出するステップ(S150)では、特定した引張応力δtに基づいて演算装置4により、通過区間27に生じた微細損傷度Djを算出するデータ処理を実行する。具体的に、演算装置4により、特定した引張応力δtと予め把握している数値とを下記の数式(1)に代入して得られた値から下記の数式(2)を用いて微細損傷度Djを算出する。
【0042】
【数1】
【0043】
予め把握している数値は、入力部8により入力され、演算装置4の補助記憶部7に記憶されている。数値は、シーブ形状による係数a、ワイヤロープ20の撚り方による係数b、各々のシーブのシーブ径D、および、ワイヤロープ20のロープ径dである。ただし、シーブ径やシーブ形状が各々のシーブで異なる場合に、シーブごとに数式(1)に代入されるシーブ径Dおよびシーブ形状による係数aの値は異なるものとする。
【0044】
上記の数式(1)はニーマンの実験式である。したがって、数式(1)から得られる破断回数Njは、通過区間27に特定した引張応力δtが作用し続けた場合に、その通過区間27が破断に至るまでにシーブを通過可能な回数を示している。上記数式(2)は、微細損傷度Djが破断回数Njの逆数であることを示している。損傷度とは、公知の累積疲労損傷則において、S-N線図と応力波形とを用いて、各応力による影響(応力振幅が実際に生じた回数をその応力振幅により破断に至るまでの繰り返し数で除算した値)を足し合わせて算出された値を示す。つまり、微細損傷度Djは、引張応力δtが作用した状態の通過区間27がシーブを一回、通過したときにその通過区間27に生じた損傷の度合いを示すものである。
【0045】
累積損傷度Dsを算出するステップ(S160)では、算出した微細損傷度Djに基づいて演算装置4により、微細損傷度Djがワイヤロープ20の使用開始時から逐次、ワイヤ区間26ごとに累積された累積損傷度Ds(ΣDj)を算出するデータ処理が実行される。具体的に、演算装置4により図5に例示する累積損傷度データ33が作成される。ワイヤロープ20の使用開始時とはワイヤロープ20が交換された直後に吊体11を移動させた時を示す。
【0046】
累積損傷度データ33は、ワイヤ区間26の区間番号Mごとの時系列の微細損傷度Djとそれらの微細損傷度Djを逐次、累積した累積損傷度Dsとシーブの通過回数nとから構成される。累積損傷度データ33は補助記憶部7に記憶され、演算装置4により微細損傷度Djが算出されるごとに逐次、更新され、ワイヤロープ20の交換によりリセット(初期化)される。累積損傷度データ33は微細損傷度Djとともにその微細損傷度Djが発生したシーブ番号iが特定可能に構成されることが望ましい。シーブ番号iが特定可能になることで、シーブ番号iごとの微細損傷度Djの履歴を把握することが可能になる。通過回数nは区間番号Mのワイヤ区間26が通過区間27として特定された回数であり、微細損傷度Djが生じた回数を示す。通過回数nは、必須ではないが、後述する交換時期の診断において使用されることもある。累積損傷度データ33の時系列の微細損傷度Djは累積損傷度Dsを算出した後に削除してもよいが、削除せずに残しておくことでワイヤロープ20の損傷の解析に利用することができる。
【0047】
交換時期を診断するステップ(S170)では、算出した微細損傷度Djに基づいて演算装置4によりワイヤロープ20の交換時期を診断するデータ処理が実行される。ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としては、ワイヤロープ20の寿命、その寿命に達するまでの期間、その寿命に達するまでにシーブを通過可能な回数(以下、予測残り回数)がある。ワイヤロープ20は、複数のワイヤ区間26のうちの一つでも破断したときに破断したことになる。そのため、ワイヤロープ20の交換時期として適切な時期は、複数のワイヤ区間26のうちの少なくとも一つの区間が破断するよりも前の時期である。公知の累積疲労損傷則に準ずると、ワイヤ区間26ごとの累積損傷度Dsのいずれかが「1」に達するとワイヤ区間26のいずれかが破断することになることから、累積損傷度Dsはワイヤロープ20の寿命に相当する。また、ワイヤ区間26ごとの累積損傷度Dsの推移により累積損傷度Dsが「1」に達するまで(寿命に達するまで)の予測期間が予測可能であり、その予測期間がワイヤロープ20の寿命に達するまでの期間に相当する。また、累積損傷度Dsの逆数はワイヤ区間26が破断するまでにシーブを通過可能と予測される回数と見做せることから、予測残り回数に相当する。したがって、ワイヤ区間26ごとの累積損傷度Dsに基づいてワイヤロープ20の交換時期を診断することが可能である。
【0048】
ワイヤロープ20の寿命によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、ワイヤ区間26ごとの累積損傷度Dsの中から最も大きい最大累積損傷度Dsmを特定し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としてその最大累積損傷度Dsmを用いる。最大累積損傷度Dsmが「1」に達した時(Dsm≧1)を、ワイヤロープ20の寿命が尽きた時としてワイヤロープ20の交換時期として診断してもよいが、ワイヤロープ20の交換時期としてはワイヤロープ20が破断するよりも前の時期であることが望ましい。そこで、最大累積損傷度Dsmが「1」よりも小さい値に設定した損傷度閾値Daに達した時(Dsm≧Da)をワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。損傷度閾値Daは診断プログラム30に対して入力部8により「1」よりも小さい値の範囲で任意に設定可能である。例えば、ワイヤロープ20の寿命の70%に達した時をワイヤロープ20の交換時期として診断する場合に、損傷度閾値Daは「0.7」に設定される。
【0049】
ワイヤロープ20の寿命に達するまでの期間によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、所定の期間における所定の時刻ごとの最大累積損傷度Dsmを特定し、所定の時刻と最大累積損傷度Dsmとの相関関係を把握し、把握したその相関関係に基づいて予定時刻の予測累積損傷度Dfを予測し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として予測累積損傷度Dfを用いる。具体的に、所定の作業期間におけるクレーン10の作業日時ごとにワイヤロープ20の最大累積損傷度Dsmを特定し、作業日時と最大累積損傷度Dsmとの相関関係を把握する。次いで、その相関関係を用いることで、予定作業日時の予測累積損傷度Dfを予測する。そして、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標としてその予測累積損傷度Dfを用いる。予測累積損傷度Dfが「1」あるいは損傷度閾値Daに達する予定作業日時までをワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。作業日時と最大累積損傷度Dsmとの相関関係は、ある作業期間における作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの推移を直線に近似した直線で表すことができる。また、ある作業期間における作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの増加量の平均値や中央値で表すこともできる。
【0050】
予測残り回数によりワイヤロープ20の交換時期を診断するには、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として累積損傷度Dsの逆数を用いてもよいが、予測後にワイヤロープ20に実際に作用する張力Wtが予測不能であることから予測精度が低い。そこで、累積損傷度Dsに基づいてワイヤ区間26ごとに吊体11の移動サイクルにおける一回当たりのサイクル損傷度Dcyを算出し、サイクル損傷度Dcyの中から最も大きい最大サイクル損傷度Dcymを特定し、ワイヤロープ20の交換時期を診断する指標として最大サイクル損傷度Dcymの逆数である最小予測サイクル回数Nsmを用いるとよい。
【0051】
吊体11の移動サイクルは、所定の場所から目的の場所まで吊体11を移動させ、再び所定の場所に吊体11を移動させて戻すという一連のサイクルを示す。コンテナを船舶に荷積みする場合の「1」サイクルとは、コンテナを所定の位置から船舶の目標位置まで移動させ、船舶にコンテナを積み込んだ後に、目標位置から所定の位置に吊具を移動させて戻すこと(その逆のサイクルも含む)を示す。一回当たりのサイクル損傷度Dcyは、累積損傷度Dsを、ワイヤロープ20の使用開始時からその累積損傷度Dsが算出された時までの間の吊体11の移動サイクルの総数である移動サイクル数Ncyで除算して算出される。
【0052】
最小予測サイクル回数Nsmが「0」に達した時(Nsm=0)、つまり、予測残り回数が無くなった時をワイヤロープ20の交換時期として診断してもよいが、交換時期としてはワイヤロープ20が破断するよりも前の時期であることが望ましい。そこで、最小予測サイクル回数Nsmに「1」よりも小さい値に設定されたサイクル係数kを乗算した値が「0」に達した時(kNsm=0)をワイヤロープ20の交換時期として診断するとよい。サイクル係数kは診断プログラム30に対して入力部8により「1」よりも小さい値の範囲で任意に設定可能である。例えば、最小予測サイクル回数Nsmが70%に達した時をワイヤロープ20の交換時期として診断する場合に、サイクル係数kは「0.7」に設定される。
【0053】
最小予測サイクル回数Nsmとコンテナの荷役予定に基づいた予定移動サイクル数Naとを比較し、最小予測サイクル回数Nsmが予定移動サイクル数Naよりも小さい場合にその荷役予定の前にクレーン10を停止した時をワイヤロープ20の交換時期として診断してもよい。予定移動サイクル数Naはコンテナの荷役予定に基づいて設定され、コンテナの荷役予定はコンテナの荷役を管理する管理システムから入手可能である。例えば、作業日ごとの予定移動サイクル数Nb、Nc・・・を管理システムから入手して、とある作業日の作業終了後の最小予測サイクル回数Nsmを「50」とし、その作業日以降の次回の予定移動サイクル数Nbを「30」とし、その作業日以降の次次回の予定移動サイクル数Ncを「100」とする。このように、予定移動サイクルと最小予測サイクル回数Nsmとを比較することで、次回の予定移動サイクル数Nbの作業終了後をワイヤロープ20の交換時期として診断することが可能となる。最小予測サイクル回数Nsmの代わりに、最小サイクル回数Nsmにサイクル係数kを乗算した値を用いてもよい。
【0054】
診断したワイヤロープ20の交換時期が近づいたときに、クレーン10の運転者や管理者にワイヤロープ20の交換を指示するとよい。ワイヤロープ20の交換の指示としては、演算装置4の出力部9の表示を変更したり、警告装置により警告ランプを点灯されたりあるいは警告音を鳴らしたりする方法が例示される。
【0055】
図6に例示する手順は、図2のステップ(S140)とステップ(S150)の代わりに実行される。この手順では、通過区間27のロープ径d’を推定し(S210~S240)、ロープ径d’に応じた引張応力δt’を算出した後に(S250)、ロープ径d’および引張応力δt’を用いて微細損傷度Djを算出する(S260)。(S210)~(S260)の各ステップの内容を以下に詳述する。
【0056】
通過区間27を特定するステップ(S210)では、図2のステップ(S140)における通過区間27を特定するデータ処理と同様のデータ処理が演算装置4により実行される。通過回数nを読み込むステップ(S220)では、特定した通過区間27の区間番号Mに基づいて演算装置4により累積損傷度データ33に示された通過回数nを読み込むデータ処理が実行される。
【0057】
減少率Rを算出するステップ(S230)では、診断対象のワイヤロープ20のワイヤ区間26ごとの通過回数nと予め把握している図7に例示する相関関係とを用いて、演算装置4により通過区間27の減少率Rを算出するデータ処理が実行される。減少率Rは、ワイヤロープ20の公称のロープ径dから減少した割合を示す。
【0058】
図7は同一のクレーン10において同一の掛け方(例えば、図1の実線)で使用されて交換されたワイヤロープ20や使用中のワイヤロープ20などの複数のワイヤロープ20の所定のワイヤ区間26を実測したデータに基づいて作成されたものである。具体的に、実施形態と同様の方法で得られた通過回数nと、定期点検のタイミングで公知の測定方法(ノギスによる計測方法)によって把握されるロープ径d’とに基づいて作成されたものである。図中の黒点は、それぞれのワイヤロープ20の公称のロープ径dおよびロープ径d’から求めた減少率Rと通過回数nの該当位置にプロットしたものである。このプロットした黒点群を直線に近似した直線が通過回数nと減少率Rとの相関関係を示す。この相関関係は、コンピュータシミュレーションにより求めてもよい。
【0059】
ロープ径d’を推定するステップ(S240)では、演算装置4により、予め把握されたロープ径dに算出した減少率Rを乗算して変位したロープ径d’を算出し、算出したロープ径d’を用いて断面積A’を算出するデータ処理が実行される。引張応力δt’を算出するステップ(S250)では、演算装置4により、通過区間27に作用した張力を特定し、特定したその張力をワイヤロープ20の算出した断面積A’で除算して得られた値を引張応力δt’として特定するデータ処理が実行される。
【0060】
微細損傷度Djを算出するステップ(S260)では、演算装置4により、上記の数式(1)のロープ径dおよび引張応力δtの代わりにロープ径d’および引張応力δt’を用いる下記の数式(3)を使用して微細損傷度Djを算出するデータ処理を実行する。ロープ径d’および引張応力δt’以外は予め把握している数値を用いる。
【数2】
【0061】
この手順では、通過回数nと減少率Rとの相関関係を用いて、変位したロープ径d’を推定したが、減少率Rの代わりに変位したロープ径d’を使用してもよい。また、通過回数nの代わりに、累積損傷度Dsを使用してもよい。
【0062】
図8に例示する手順は、図示しない複数の計測装置により第一周期tごとに複数のワイヤ区間26のロープ径を計測し、通過区間27のロープ径d’として計測したそのロープ径を用いる場合に実行される。この手順では、ロープ径を計測し(S310)、時系列データ31とロープ径データ34を補助記憶部7に記憶する(S320)。次いで、演算装置4により通過区間27と引張応力δt’とを特定する際に、その通過区間27のロープ径d’を特定し(S330)、微細損傷度Djを算出する。(S310)~(S330)の各ステップの内容を以下に詳述する。
【0063】
ロープ径を計測するステップ(S310)では、複数の計測装置により第一周期tごとの複数箇所のロープ径を計測する。複数の計測装置は、ワイヤロープ20の経路に沿って間隔を空けて配置されて、クレーン10に設置される。計測装置は、公知の種々の計測装置を用いることができる。計測装置としては、画像取得部(カメラ)と画像解析部(演算装置4の一機能)とから成り、取得した画像データをデータ処理することでロープ径を計測する装置が例示される。また、計測装置としては、レーザー外径測定器も例示される。複数の計測装置は、以降のステップで通過区間27のロープ径d’を特定可能に、少なくともシーブごとにそのシーブの近傍に配置されることが望ましい。
【0064】
時系列データ31と図9に例示するロープ径データ34を記憶するステップ(S320)では、時系列データ31と計測した複数箇所のロープ径が計測装置ごとに時系列に並んだロープ径データ34とが演算装置4の補助記憶部7に記憶される。ロープ径データ34は、第一周期tごとに複数の計測装置から直に演算装置4に送られてもよく、クレーン用制御装置14から演算装置4に送られてもよい。ロープ径データ34は時系列データ31と異なり、ワイヤ区間26の数と同等以上のデータ数(計測したロープ径)が必要になる。それ故、ロープ径データ34は、前回の周期(t-1)までのデータに逐次、新たに計測したロープ径が追加されて更新されるデータ構造が望ましい。
【0065】
ロープ径d’を特定するステップ(S330)では、演算装置4により、時系列データ31およびロープ径データ34に基づいて図10に例示する区間ロープ径データ35を作成し、作成したその区間ロープ径データ35に基づいて通過区間27のロープ径d’を特定するデータ処理が実行される。時系列データ31およびロープ径データ34に基づいて区間ロープ径データ35を作成する手法は、通過区間27を特定する手法における所定の位置の代わりに計測装置が測定した箇所を使用することで同様の手法を用いて、複数箇所が始端位置から終端位置までの範囲に存在するワイヤ区間26の区間番号Mを特定する。
【0066】
この手順では、クレーン10に設置した複数の計測装置により計測した複数箇所のロープ径を用いたが、クレーン10の点検時にワイヤロープ20のワイヤ区間26ごとのロープ径d’を計測する場合に、点検時に計測したワイヤ区間26ごとのロープ径d’を用いることもできる。ただし、クレーン10の点検時に全てのワイヤ区間26のロープ径d’を計測するには多大な労力が必要になるため、クレーン10に設置した複数の計測装置により計測した複数箇所のロープ径を用いることが望ましい。
【0067】
このように、上記の数式(3)で示すニーマンの実験式にシーブを通過することで変位するロープ径d’およびそのロープ径d’に応じた引張応力δt’を用いることで、ロープ径d’や引張応力δt’の変化に応じて変動する微細損傷度Djを算出することができる。つまり、ワイヤロープ20の経年劣化による外形の変化を考慮した交換時期を診断することで、その診断の精度をより向上することができる。
【0068】
以上のように、本実施形態によれば、通過区間27がシーブを通過するごとに生じた微細損傷度Djを累積して、ワイヤロープ20の交換時期を診断する。それ故、ワイヤロープ20に作用する引張応力δtが細やかに変動してもその変動に応じた損傷を考慮してワイヤロープ20の交換時期を診断することが可能となる。これにより、ワイヤロープ20の交換時期の診断の精度を高めるには有利になり、ワイヤロープ20が破断する前に確実に交換することによる安全性の確保とワイヤロープ20の不必要な交換の頻度の低下によるコストダウンとを図ることができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、分解能を通過区間27がシーブを通過するまでの間の期間よりも短い第一周期tとすることで、ワイヤロープ20に作用する細かな引張応力の変動によるワイヤロープ20の損傷を累積することができる。このように、通過区間27がシーブを通過するごとの微細損傷度Djを累積した累積損傷度Dsに基づいてワイヤロープ20の交換時期を診断することで、従来技術のように所定の期間のワイヤロープのシーブ通過回数を基準とする方法に比して高精度の診断を行うことができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明のワイヤロープの診断方法および診断システム1並びに診断プログラム30は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0071】
診断システム1の診断対象のワイヤロープ20は公知の種々のクレーンに用いられるものに限定されない。診断対象のワイヤロープ20は、例えば、公知の種々のエレベータに用いられるワイヤロープでもよい。診断対象がエレベータのワイヤロープの場合に、エレベータのかごが本発明の吊体に相当する。
【0072】
診断プログラム30は、各々の手順が一つのパッケージとしてまとめられたものでもよく、各々の手順が幾つかのパッケージにまとめられたものでもよい。また、演算装置4は、各々の手順を実行する複数の電気回路やプログラマブルロジックコントローラ(PLC)の集合体としてもよい。
【0073】
上記の数式(1)や数式(3)に示すニーマンの実験式で得られた破断回数Njは吊体11が低荷重の場合に実際の値に対して乖離が生じる場合がある。そこで、ワイヤロープ20に作用する張力Wtが予め把握している張力閾値Waよりも小さい場合に、上記の数式(1)や数式(3)で示すニーマンの実験式で得られた破断回数Njの代わりに、その破断回数Njに補正係数cを乗算した値を用いるとよい。補正係数cは下記の数式(4)を用いて算出される。ここで、変数fおよびシーブ曲げ応力ΔB〔kgf/mm〕は演算装置4が予め把握している数値である。変数fはワイヤロープ20の掛け方などクレーン10の仕様に応じた数値である。シーブ曲げ応力ΔBは、ワイヤロープ20を構成する外層素線の材料のヤング率E〔kgf/mm2〕にワイヤロープ20の外層素線径Φ〔mm〕をシーブ径D〔mm〕で除算した値を乗算して算出される数値である。
【0074】
【数3】
【0075】
補正係数cを用いて破断回数Njを補正することで、吊体11が低荷重の場合に生じる破断回数Njの乖離を抑制するには有利になる。張力閾値Waとしては、少なくとも吊具がコンテナを吊っていない状態やコンテナの中身が空の状態を低荷重と判断できればよく、クレーン10の仕様やコンテナの荷役状況に応じて適宜選択可能である。上記の数式(4)は補正係数cを算出する一例を示すものであり、吊体11が低荷重の場合に生じる破断回数Njの乖離を補正可能であれば、補正係数cの算出方法は上記の数式(4)を用いた方法に限定されるものではない。
【実施例0076】
診断対象のワイヤロープ20として、公知のガントリークレーンで使用される四本のワイヤロープを用いた。診断対象のワイヤロープ20を使用したガントリークレーンにより、数日間、コンテナの荷役を行った。
【0077】
図11に例示する説明図は、出力部9に表示された診断プログラム30の診断結果40を示している。診断結果40は、累積損傷度グラフ41と交換予測グラフ42とで表されている。図11では図1と同様に各々の診断対象のワイヤロープ20の診断結果40が実線、点線、一点鎖線、二点鎖線で区別されている。
【0078】
累積損傷度グラフ41は、各々の診断対象のワイヤロープ20のワイヤ区間26ごとの累積損傷度Dsに基づいて作成されたものである。累積損傷度グラフ41を確認することで、各々の診断対象のワイヤロープ20のどのワイヤ区間26が損傷しているかを一目で把握することができる。累積損傷度グラフ41では、入力部8の操作によりカーソルが任意のワイヤ区間26を示す領域に重ね合わせられるとそのワイヤ区間26における各々の診断対象のワイヤロープ20の累積損傷度Dsやシーブ22~25の通過回数が数字で表記されたウインドウが累積損傷度グラフ41の上にポップアップされる。これにより、より詳細なデータを確認することができる。
【0079】
交換予測グラフ42は、クレーン10の作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmに基づいて作成されたものである。交換予測グラフ42では、実測値である最大累積損傷度Dsmがクレーン10の実際の作業日時(Today)よりも前の作業日時(グラフ左側)に表示され、予測値である予測損傷度Dfがクレーン10の実際の作業日時から後の作業日時(グラフ右側)に表示される。予測損傷度Dfは、作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの推移を直線に近似した直線が示す相関関係により求めた。交換予測グラフ42の予測損傷度Dfを確認することで、クレーン10の作業日程と診断対象のワイヤロープ20の交換時期とを見比べて、診断対象のワイヤロープ20の交換日程を作業に支障がでない日程に設定することができる。交換予定日は、予測損傷度Dfが損傷度閾値Naに達する作業日時の三日前に設定した。交換予測グラフ42の交換予定日を確認することで、交換予定日を交換予定日までの期間を一目で把握することができる。交換予測グラフ42では、実際の作業日時よりも前の期間のうちで最大累積損傷度Dsmが算出されていない期間がある場合に、最大累積損傷度Dsmが算出された全期間あるいは指定の期間の作業日時ごとの最大累積損傷度Dsmの増加量の平均値や中央値を用いて補完することができる。
【0080】
診断結果40には、ワイヤロープ掛図表示ボタン43、計算方法設定ボタン44、および、交換日設定ボタン45を表示した。ワイヤロープ掛図表示ボタン43は、入力部8の操作によりカーソルが重ね合わせられてクリックされることで、累積損傷度グラフ41や交換予測グラフ42の上に各々のワイヤロープ20やシーブ21~25が視覚的に区別可能なワイヤロープ掛図を表示できる。ワイヤロープ掛図としては図1に例示するような図が例示される。計算方法設定ボタン44は、入力部8の操作によりカーソルが重ね合わせられてクリックされることで、交換予測グラフ42の補完方法や予測損傷度Dfの予測方法を設定可能なウインドウがポップアップされる。交換日設定ボタン45は、診断対象のワイヤロープ20が交換されたときに、入力部8の操作によりカーソルが重ね合わせられてクリックされることで、交換された新たな診断対象のワイヤロープ20の交換日(使用開始日)を入力可能なウインドウがポップアップされる。
【0081】
以上の実施例は一例であり、診断プログラム30の診断結果40は適宜設定可能である。例えば、診断結果40として交換予測グラフ42のみを表示させてもよい。また、診断結果として、最小予測サイクル回数Nsmに基づいて予測した交換予定日のみを表示させてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 診断システム
2 張力取得装置
3a、3b 位置取得装置
4 演算装置
10 クレーン
11 吊体
12 ドラム
20 ワイヤロープ
21~25 シーブ
26 ワイヤ区間
27 通過区間
30 診断プログラム
t 第一周期
T 第二周期
M 区間番号
Wt 張力
(lt、ht) 位置
Dj 微細損傷度
Ds 累積損傷度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11