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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024051418
(43)【公開日】2024-04-11
(54)【発明の名称】駆動機
(51)【国際特許分類】
   F16C 3/02 20060101AFI20240404BHJP
【FI】
F16C3/02
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022157576
(22)【出願日】2022-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】株式会社三井E&S
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 章弘
(72)【発明者】
【氏名】林 優
【テーマコード(参考)】
3J033
【Fターム(参考)】
3J033AA01
3J033BA12
3J033BA20
3J033BB03
3J033BC10
(57)【要約】
【課題】中空軸の内周面と負荷軸の外周面との錆付きを防止するためのグリスの交換をより簡便にする駆動機を提供する。
【解決手段】負荷軸3が挿入される中空軸11とこの中空軸11に動力源4からの動力を伝達する動力伝達機構12とを有する駆動機10において、中空軸11の内部に形成されていて、中空軸11および負荷軸3の間で軸周方向の全周に亘って延在する逃げ溝(隙間)15と外部とを連通する連通路16を備えて、逃げ溝15に外部から連通路16を介してグリスが充填された状態で、動力源4から動力伝達機構12を介して伝達された動力により中空軸11と負荷軸3とが回転する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷軸が挿入される中空軸とこの中空軸に動力源からの動力を伝達する動力伝達機構とを有する駆動機において、前記中空軸は、前記中空軸の内部に形成されていて、前記中空軸および前記負荷軸の間で軸周方向の全周に亘って延在する隙間と外部とを連通する連通路を備え、前記隙間に外部から前記連通路を介してグリスが充填された状態で、前記動力源から前記動力伝達機構を介して伝達された動力により前記中空軸と前記負荷軸とが回転することを特徴とする駆動機。
【請求項2】
複数の前記連通路を備えて、それぞれの前記連通路が互いに前記隙間を介して連通する請求項1に記載の駆動機。
【請求項3】
前記隙間は、前記中空軸の中空孔への前記負荷軸の挿入時の抵抗を低減させるための逃し溝で構成される請求項1または2に記載の駆動機。
【請求項4】
前記隙間は、前記中空軸の中空孔への前記負荷軸の挿入時の抵抗を低減させるための逃し溝と、その逃し溝よりも軸方向の外側に配置され、軸径方向に窪んだ周溝と、で構成される請求項1または2に記載の駆動機。
【請求項5】
前記隙間は、前記中空軸の中空孔の軸方向の端部に配置され、軸径方向に窪んだ周溝で構成される請求項1または2に記載の駆動機。
【請求項6】
前記隙間は、前記負荷軸および前記中空軸の各々に形成されたキー溝に連通する請求項1または2に記載の駆動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機に関し、より詳細には、負荷軸が挿入される中空軸とこの中空軸に動力源からの動力を伝達する動力伝達機構を有する駆動機に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者らは、回転体の挿通孔に挿通された状態でその挿通孔に対して固定される回転軸において、軸周方向に延在して、軸径方向内側に向って窪んでなる有端C環状又は無端O環状の複数の周溝と、軸内部に延在して前記周溝及び当該回転軸の外部を連通する連通路とを備えて、複数の前記周溝が、前記挿通孔により覆われて外部に対して遮蔽される遮蔽部の軸方向の両端部のそれぞれに少なくとも一つずつ配置され、前記両端部に配置された前記周溝の間の領域が外部から前記連通路を介して複数の前記周溝に充填されたグリスにより密閉された状態で、当該回転軸が前記回転体とともに回転する回転軸を考案している(特許文献1参照)。この回転軸は、挿通孔により遮蔽された部位の錆付きを防止して、挿通孔から回転軸を抜去する際の抵抗の増加を抑制するという優れた効果を奏する。
【0003】
一般的に、減速機や変速機などの駆動機の中空軸(上記の回転体に相当)と負荷軸(上記の回転軸に相当)との固定には、負荷軸の一端にエンドプレート、あるいは、スペーサや穴用止め輪をボルトにより固定する手法が用いられている。特許文献1に記載の発明は、連通路の一端が負荷軸の一端に開口する構造のため、内部のグリスを交換する際に、ボルトを緩めて、エンドプレート、あるいは、スペーサや穴用止め輪を取り外す必要があった。それ故、内部のグリスの交換に要する工程が手間となっていた。このように、内部のグリスの交換をより簡便にするには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7038465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、中空軸の内周面と負荷軸の外周面との錆付きを防止するためのグリスの交換をより簡便にする駆動機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の駆動機は、負荷軸が挿入される中空軸とこの中空軸に動力源からの動力を伝達する動力伝達機構とを有する駆動機において、前記中空軸の内部に形成されていて、前記中空軸および前記負荷軸の間で軸周方向の全周に亘って延在する隙間と外部とを連通する連通路を備えて、前記隙間に外部から前記連通路を介してグリスが充填された状態で、前記動力源から前記動力伝達機構を介して伝達された動力により前記中空軸と前記負荷軸とが回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中空軸が連通路を備えることで、負荷軸と中空軸との固定のためのエンドプレート、あるいは、スペーサや穴用止め輪に塞がれない箇所に連通路の開口端を配置することが可能になる。これにより、中空軸および負荷軸の間の隙間に連通路を介してグリスを充填可能になり、その隙間をグリスにより密閉することができる。これにより、中空軸の内周面と負荷軸の外周面の錆付きを防止して、中空軸から負荷軸を抜去する際の抵抗の増加を抑制する構成でありながら、錆付きを防止するために充填されるグリスの交換をより簡便にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】駆動機の第一実施形態を例示する説明図である。
図2図1の中空軸の斜視形状を例示する説明図である。
図3図1の中空軸の断面を例示する説明図である。
図4】駆動機の第二実施形態の中空軸の断面を例示する説明図である。
図5】駆動機の参考例の中空軸の断面を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の駆動機の実施形態を、図に基づいて説明する。図中では、X方向を中空軸11の軸方向とし、Z方向を鉛直方向とし、Y方向をX方向およびZ方向に直交する方向とする。また、図中では、X方向の左方を先端側とし、右方を末端側とする。また、以下では、内側と外側とは、中空軸11の軸径方向での内側と外側とを示す。
【0010】
図1に例示する駆動機10の第一実施形態は、クレーンの構造体の下端に配置された走行装置1の車輪2の負荷軸(駆動軸、車軸)3に、動力源4からの動力を伝達している。クレーンは、公知の種々のクレーンを用いることができ、コンテナターミナルでコンテナの荷役を行う岸壁クレーンや門型クレーン、鉄鉱石や石炭などのばら荷の荷役を行うアンローダが例示される。車輪2は、公知の種々の車輪を用いることができ、フランジを有してレール5を転動するものに限定されず、ラバータイヤを有して地面を転動するものでもよい。動力源4は、公知の内燃機関や電動機などの動力源を用いることができる。駆動機10は、クレーンの走行装置1に限定されるものではなく、クレーンのトロリにも適用可能である。
【0011】
駆動機10は、負荷軸3が挿入される中空軸11を有する公知の種々の直交軸型の減速機や変速機を用いることができる。駆動機10は、動力伝達機構12の動力伝達方式に応じて、平行軸歯車減速機、ヘリカル減速機、ウォーム減速機、ベベルギア減速機、ハイボイド減速機、遊星歯車減速機、サイクロイドドライブ減速機などの減速機や、平行軸歯車式変速機、遊星歯車式変速機、無段変速機などの変速機が例示される。
【0012】
中空軸11は、先端側に配置された穴用止め輪6とスペーサ7とを介してボルト8が負荷軸3に締結されることで、負荷軸3と固定される。負荷軸3が段付きの場合には、穴用止め輪6とスペーサ7との代わりに、エンドプレートを用いてもよい。
【0013】
図2に例示する中空軸11は、X方向に軸方向が向いてYZ平面における断面形状が円環の環状体を成し、中空孔13に負荷軸3が挿入されている。中空軸11は、キー溝14、逃げ溝15、連通路16、および、止め輪溝17を有する。
【0014】
キー溝14は、公知の種々のキー溝を用いることができる。キー溝14は、負荷軸3に形成されたキー溝9に軸径方向に対向する位置に配置されている。キー溝14は、X方向に延在して、軸径方向内側か外側に向かって窪んでいる。負荷軸3のキー溝9は、X方向に延在して、軸径方向外側から内側に向かって窪んでいる。キー溝14と対向する負荷軸3のキー溝9には、キー20が嵌め込まれる。キー20が嵌め込まれることで、負荷軸3と中空軸11とが締結されて、負荷軸3と中空軸11との間で動力が効率的に伝達される。キー20は沈みキーに限定されるものではなく、半月キーやすべりキーも例示され、キー溝14および負荷軸3のキー溝9の溝形状は、キー20の形状に応じた形状であればよい。キー溝14は必須ではなく、キー20を用いない構造の場合に、キー溝14や負荷軸3のキー溝9は形成されない。また、キー溝14は、一本に限定されずに、複数本形成されていてもよい。
【0015】
逃げ溝15は、公知の種々の逃げ溝を用いることができる。逃げ溝15は、中空軸11の内周面のX方向の中央部分に配置されて、軸周方向の全周に亘って延在している。逃げ溝15は、軸径方向内側から外側に向かって窪んでいる。逃げ溝15は、中空軸11の中空孔13への負荷軸3の挿入時の抵抗を低減させるための溝である。逃げ溝15は、キー溝14が形成されている場合に、キー溝14に連通している。逃げ溝15が軸周方向の全周に亘って延在している状態は、逃げ溝15とキー溝14とが連通している場合も含むものとする。逃げ溝15は、中空軸11と負荷軸3との間で軸周方向の全周に亘って延在していることから、本発明の隙間に相当する。
【0016】
連通路16は、中空軸11の内部に形成されており、グリスが充填される通路である。中空軸11の内部とは、中空軸11の内側の部分である中空孔13を示すのではなく、環状体の内部の部分を示す。連通路16は、中空軸11および負荷軸3の間で軸周方向の全周に亘って延在する隙間である逃げ溝15と外部とを連通している。本開示における外部とは、中空軸11の外部を示すが、中空軸11の周囲の空間のみに限定されずに、負荷軸3を除く中空軸11と連結している装置も包含される。例えば、動力伝達機構12でもよい。また、ポンプにより加圧したグリスを連通路16に供給可能で、連通路16から排出されたグリスを回収可能なグリス供給装置でもよい。
【0017】
連通路16は、中空軸11に少なくとも一本形成されていればよいが、中空軸11に複数形成されていることが望ましい。複数の連通路16は、逃げ溝(隙間)15を介して互いに連通している。複数の連通路16は、キー溝14から軸周方向に離間して配置されることが望ましく、また、互いが軸周方向に離間して配置されることが望ましい。複数の連通路16は、キー溝14に対して軸周方向に90度以上の角度で離間することが望ましく、互いが軸周方向に90度以上の角度で離間することが望ましい。例えば、一本のキー溝14と二本の連通路16とが、軸周方向に等間隔に配置されてもよい。このように、複数の連通路16が、逃げ溝15を介して互いに連通することで、一方の連通路16をグリスの充填用として利用し、他方の連通路16をグリスの排出用として利用することが可能となる。これにより、グリスの交換の簡便さには有利になる。連通路16は、二本以上設けてもよい。
【0018】
連通路16は、先端開口部18から末端開口部19まで延在している。先端開口部18は、中空軸11の先端面に開口している。中空軸11の先端面は、その先端面に対向する機器が無い面であることが望ましい。本実施形態の中空軸11の先端面には対向する機器が無く、そのような機器による連通路16へのグリスの充填作業の妨げが生じない。また、先端開口部18は、X方向(中空軸11の軸方向)に向いて開口することが望ましい。先端開口部18が、X方向に交差する方向に向いて開口すると、中空軸11が回転したときの遠心力の作用により、連通路16に充填したグリスが先端開口部18から外部へと飛び散るおそれがある。それ故、先端開口部18がX方向に向いて開口することで、中空軸11が回転したときの遠心力の作用によるグリスの外部への飛び散りを防止するには有利になる。末端開口部19は、逃げ溝15の溝底面に開口している。末端開口部19は、逃げ溝15の溝底面であれば特に配置位置が限定されない。
【0019】
止め輪溝17は、穴用止め輪6の外周部分が嵌め込まれる溝であり、公知の止め輪溝を用いることができる。止め輪溝17は、中空孔13の内側から外側に向かって窪んでいる。
【0020】
図3は、中空軸11と負荷軸3との断面において、連通路16によるグリスの充填および排出を示している。図中では、新たなグリスの充填を白抜き矢印で示し、古いグリスの排出を塗り潰し矢印で示す。グリスの入替作業では、複数の連通路16が互いに逃げ溝15を介して連通していることを利用して、逃げ溝15および複数の連通路16に充填されたグリスが入れ替えられている。まず、一方の連通路16の先端開口部18から新たなグリスが注入される。ついで、注入された新たなグリスは連通路16を経由して逃げ溝15へ供給される。新たなグリスが供給されると、古いグリスが逃げ溝15から押し出されて、他方の連通路16を経由して他方の連通路16の先端開口部18から外部へ排出される。排出されたその古いグリスが回収される。このように、一連のグリスの入替作業では、穴用止め輪6、スペーサ7、および、ボルト8を取り外す必要がない。
【0021】
負荷軸3を中空軸11から抜く抜去作業は、以下の工程を含む。まず、逃げ溝15、および、連通路16に充填されたグリスを洗浄除去する(第一工程)。ついで、連通路16の先端開口部18から浸透潤滑剤を注入する(第二工程)。ついで、注入した浸透潤滑剤がキー溝14、逃げ溝15、連通路16を介して中空孔13の全域に浸透した状態で、ボルト8の締結を解除して、穴用止め輪6およびスペーサ7を取り外す。ついで、負荷軸3を中空軸11から抜く(第三工程)。浸透潤滑剤とは、グリスに比して浸透性が高いものであり、金属表面に化学的皮膜を形成するものである。浸透潤滑剤としては、水置換性を持つオイルに浸透性のあるオイルや防錆剤を配合したものが例示される。また、浸透潤滑剤としては、エアゾール製品により噴霧されるものが例示される。なお、浸透潤滑剤を使用しなくても、負荷軸3を中空軸11から抜くことが可能であれば、第二工程を省略してもよい。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、連通路16により逃げ溝15と外部とを連通させることで、その逃げ溝15に外部からグリスを注入して、逃げ溝15をグリスで満たすことができる。それ故、外部から逃げ溝15への雨水や湿気などの水分の進入を防止するには有利になり、進入した水分による錆の発生を抑制することができる。これに伴って、中空軸11から負荷軸3を抜去する際の抵抗の増加を抑制することができる。
【0023】
また、本実施形態によれば、中空軸11が連通路16を備えることで、負荷軸3と中空軸11との固定のためのスペーサ7や穴用止め輪6に塞がれない箇所に連通路16の先端開口部18を配置することが可能になる。それ故、スペーサ7や穴用止め輪6を取り外すことなく、グリスの入替作業を行うことができる。これにより、負荷軸3に連通路が形成された構成に比して、グリスの入替作業に要する手間を大幅に省くことができる。結果、本実施形態は、中空軸11の内周面と負荷軸3の外周面との錆付きを防止して、中空軸11から負荷軸3を抜去する際の抵抗の増加を抑制する構成でありながら、錆付きを防止するために充填されるグリスの交換をより簡便にできる。
【0024】
本実施形態によれば、中空軸11が複数の連通路16を備えて、それぞれの連通路16が互いに逃げ溝15を介して連通することで、一方の連通路16を新たなグリスの供給路として利用し、他方の連通路16を古いグリスの排出路として利用することが可能になる。それ故、中空軸11から負荷軸3を抜去することなく、経時劣化するグリスを定期的に入れ替えることが可能になり、グリスの経時劣化による錆付き防止効果の低下を回避することができる。また、グリスの入替作業に要する時間を大幅に短縮することもできる。
【0025】
本実施形態によれば、逃げ溝15にグリスが充填されることで、逃げ溝15に発生する結露を防止することができる。これにより、逃げ溝15に生じる結露を起因とする錆付きを防止するには有利になる。また、中空軸11の内周面や負荷軸3の外周面でのかじりや焼き付きを低減することもできる。これにより、かじりや焼き付きによる中空軸11と負荷軸3との固着を回避するには有利になる。
【0026】
また、本実施形態によれば、キー溝14にもグリスが充填されることで、キー溝9、14およびキー20の間の錆付きも防止することができる。また、キー溝9、14およびキー20の間にグリスが充填されることで、フレッティング摩耗を抑制することもできる。
【0027】
図4に例示する駆動機10の第二実施形態は、第一実施形態に対して中空軸11が周溝21を備える点が異なっている。また、第二実施形態は、連通路16が逃げ溝15および周溝21と外部とを連通する分岐路で構成される点が異なっている。
【0028】
周溝21は、軸周方向に延在して、中空軸11の中空孔13の内周面から外側に向かって窪んでいる。周溝21は、中空孔13のX方向の端部に配置されることが望ましく、穴用止め輪6やスペーサ7が配置される先端部よりもそれらが配置されていない末端部に配置されることがより望ましい。周溝21は、中空孔13の先端部および末端部の両方に配置されることがさらに望ましい。周溝21が中空孔13の先端部および末端部の両方に配置される場合に、周溝21の各々は先端部または末端部にできるだけ近接させて、周溝21の互いのX方向の離間距離が中空孔13のX方向の長さに近づくことが望ましい。
【0029】
周溝21は、キー溝14に連通してもよいが、キー溝14のX方向の延在状況によりキー溝14に連通しない場合もある。周溝21は、キー溝14に連通した場合に有端C環状を成し、キー溝14に連通しない場合に無端O環状を成す。周溝21の深さ(軸径方向の深さ)は、キー溝14の深さよりも浅いことが好ましく、周溝21の溝幅も同様に、キー溝14の溝幅よりも狭いことが好ましい。周溝21の深さが中空軸11の中空孔13の直径の0.5%の深さよりも浅いと、グリスの供給時に注入抵抗が大きくなり十分に供給できなくなる。一方、周溝21の深さが中空孔13の直径の3.0%の深さよりも深いと、加工に要する時間が長期化する上、周溝21が切り欠き(ノッチ)として作用して中空軸11のトルク伝達能力と強度が低下する。そこで、周溝21の深さは、中空孔13の直径の0.5%~3.0%の範囲の深さが好ましい。なお、本開示において0.5%~3.0%の範囲は、0.5%及び3.0%を含む範囲とする。周溝21は、中空軸11と負荷軸3との間で、軸周方向の全周に亘って延在しており、本発明の隙間に相当する。
【0030】
連通路16は、逃げ溝15および周溝21の両方と外部とを連通させる分岐路で構成される。連通路16は、複数の末端開口部19を有していて、複数の末端開口部19の各々が逃げ溝15および周溝21の各々の底部に開口している。
【0031】
本実施形態の駆動機10は、連通路16により逃げ溝15に加えて周溝21に外部からグリスを注入可能になる。それ故、周溝21に充填されたグリスにより水分の進入を防止することができる。例えば、周溝21が中空孔13の末端部のみに配置された場合は、中空孔13の末端側からの雨水や湿気などの水分の進入を防止するには有利になる。中空孔13の先端部は、スペーサ7により先端側からの雨水や湿気などの水分の進入がある程度防止されている。このように、末端側に周溝21を設けることにより、中空軸11の内周面と負荷軸3の外周面の大部分で、進入した水分による錆の発生を抑制して、錆付きを防止することこができる。また、周溝21が中空孔13の両端部に配置された場合は、複数の周溝21に挟まれた部分への水分の進入をより防止することができる。これに伴って、中空軸11から負荷軸3を抜去する際の抵抗の増加を抑制することができる。
【0032】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示の駆動機は特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0033】
駆動機10は、動力源4と一体化したものでもよい。駆動機10と動力源4とが一体化したものとしては、公知の種々の減速機付きモータやギヤードモータを用いることができる。また、駆動機10は、クレーンの走行装置1の車輪2に動力を伝達するものに限定されるものではない。駆動機10は、特に、屋外に設置されて雨水などに晒される機器に用いられるとよい。
【0034】
中空軸11と負荷軸3との固定にエンドプレートを用いる場合には、エンドプレートにより中空軸11の先端面の全域が塞がれないようにすることが望ましい。例えば、エンドプレートの連通路16の先端開口部18に対応する位置に先端開口部18に連通する穴を形成してもよい。
【0035】
連通路16は、周溝21が形成される場合に、周溝21のみに連通させてもよい。逃げ溝15よりも外側の周溝21へのグリスの充填により逃げ溝15への水分の進入が防がれるため、連通路16が逃げ溝15に連通しなくてもよい。
【0036】
逃げ溝15は、中空軸11または負荷軸3のどちらかに形成されていればよく、負荷軸3に形成されていてもよい。逃げ溝15が負荷軸3に形成される場合に、逃げ溝15は、軸周方向の全周に亘って延在し、負荷軸3の外周面から内側に向かって窪む。同様に、周溝21は、負荷軸3に形成されていてもよい。逃げ溝15や周溝21が負荷軸3に形成された場合に、連通路16の末端開口部19は、負荷軸3に形成された逃げ溝15や周溝21に対応する位置の中空孔13の内周面に開口する。
【0037】
逃げ溝15や連通路16にグリスが充填される場合に、連通路16は、先端開口部18が開口した状態でもよいが、栓などにより先端開口部18を密閉してもよい。栓は、公知の種々のグリスニップルを用いることができる。
【0038】
駆動機10は、中空軸11と負荷軸3との間の動力伝達方式がキー溝14とキー20と用いるキー方式に限定されずに、摩擦締結方式でもよい。摩擦締結方式としては、シュリンクディスクなどのくさび方式、クランピングスリーブ方式、ハイドロ方式が例示される。摩擦締結方式は、キー方式に比してフレッティング摩耗が生じ難い。それ故、摩擦締結方式は、フレッティング摩耗による摩耗粉を媒体する固着を回避するには有利になる。
【0039】
図5に例示する駆動機10の参考例は、第一実施形態に対してグリスが充填されない点が異なっている。従来技術の中空軸と負荷軸との間で軸周方向に延在する逃げ溝には、末端側から進入した雨水や湿気、あるいは、逃げ溝に生じた結露などを起因とする水分が溜まり続けることで、中空軸の内周面および負荷軸の外周面に錆付きが生じていた。本願発明の発明者らは、本願発明の過程において、逃げ溝の通気性を確保することで、逃げ溝に貯まった水分による錆付きを抑制できるという知見を得た。参考例は、その知見に基づくものである。
【0040】
参考例の駆動機10の逃げ溝15および連通路16は、グリスが充填されていないため、外部から雨水や湿気が逃げ溝15に進入したり、逃げ溝15に結露が生じたりする。逃げ溝15に存在するそれら水分は、連通路16により逃げ溝15と外部とが連通することにより、時間の経過とともに揮発して外部へと放出される。このように、逃げ溝15や連通路16にグリスが充填されなくとも、連通路16により逃げ溝15と外部とが連通することで、通気性が向上して、逃げ溝15に水分が溜まった状態が長時間続くことで生じる錆付きを防止するには有利になる。通気性の確保には、複数の連通路16を備えることが望ましい。また、逃げ溝15や連通路16には、グリスが充填されないため、連通路16の外部への出入口となる開口部は、中空軸11の末端面に配置されてもよく、中空軸11の外周面に配置されてもよい。
【0041】
フレッティング摩耗による摩耗粉は、粒子が小さく、酸化が高温で急激に進むことが判明している。それ故、参考例では、中空軸11および負荷軸3やキー溝14およびキー20のフレッティング摩耗による摩耗粉が媒体となり、中空軸11および負荷軸3が固着し易い。これに対して、既述した実施形態では、フレッティング摩耗による摩耗粉を起因とした固着が充填されたグリスにより回避されるため、より好適である。ただし、中空軸11と負荷軸3との間の動力伝達方式が摩擦締結方式の場合には、フレッティング摩耗による摩耗粉が生じ難く、参考例でも中空軸11および負荷軸3の固着を十分に防ぐことが可能な場合もある。
【符号の説明】
【0042】
3 負荷軸
4 動力源
10 駆動機
11 中空軸
12 動力伝達機構
13 中空孔
14 キー溝
15 逃げ溝
16 連通路
20 キー
21 周溝
図1
図2
図3
図4
図5